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陳述書の機能及び裁判官の心証形成(AIリライト)

陳述書は,証人尋問や当事者尋問に先立って提出される書面で,民事訴訟の事実認定に大きな役割を果たします。もっとも,反対尋問を経ていない陳述書がどこまで信用されるのか,裁判官はどのように心証を形成するのか,という点は,条文だけを読んでも分かりにくいところです。この記事では,陳述書の機能,反対尋問を経ていない陳述書の証明力,裁判官の心証形成の仕組み,陳述書中心の審理への批判と実務の受け止め方,そして陳述書を作成・活用するときの留意点を,最高裁判例と実務文献に即して整理します。

第1 陳述書の意義と機能

1 陳述書とは何か

陳述書とは,訴訟の当事者本人や証人となる予定の者などの供述を記載し,書証(報告文書)の形式で裁判所に提出する書面です。証人尋問・当事者尋問(人証)を補うために作成され,多くは争点整理が一段落した段階で,尋問に先立って提出されます。

作成の仕方には,供述者本人が自分で書く方法,代理人が本人の話を聞いて原案を作り本人が確認・修正する方法などがあります。本人が自分で書くと,読みにくく,必要な事項が漏れたり,争点と関係のない意見や感情が長々と書かれたりして,かえって尋問で使いにくくなりがちです。そのため,実務では代理人が積極的に関与して作成し,重要な争点については本人と綿密に打ち合わせるのが一般的です。

2 主要な機能——主尋問の代用・補完と証拠開示

陳述書の機能として実務で中心に挙げられるのは,次の2つです。

  • 主尋問の代用・補完機能 主尋問で述べる予定の事項をあらかじめ書面化し,争いのない経過や形式的な事項は陳述書に譲ることで,尋問を争点に絞って効率的に行うことができます。
  • 証拠開示機能 供述内容を相手方に事前に開示することで,相手方が反対尋問を準備でき,充実した集中証拠調べ(民事訴訟法182条)が可能になります。

この2つは,陳述書という制度が定着した歴史的な経緯とも対応しています。陳述書は,当初は尋問時間を短縮するための主尋問代用・補完機能から用いられ始めましたが,それだけでは口頭主義・直接主義に反するとの批判があり,次第に,供述内容を事前に開示して反対尋問の準備を可能にする証拠開示機能が重視されるようになりました。

3 その他の機能

上記2つを幹として,副次的に次のような機能も指摘されます。

  • 事案解明・情報収集機能 早い段階で事実経過や紛争の全体像を書面化することで,代理人による事実・証拠の収集が前倒しされ,事案の解明が進みます。
  • 争点整理機能 背景事情まで記載されることで,争点の把握・整理に役立ちます。
  • 参加意識向上機能 自己名義の陳述書を作成し裁判所に提出する過程を通じて,当事者の訴訟への参加意識が高まります。
  • 主張固定機能 いったん陳述書で述べたことは後から変更しにくくなり,当事者の主張が固定されます。
  • 調書作成の補助機能 尋問の要領調書を正確に作成する助けになります。

もっとも,これらはあくまで主尋問の代用・補完機能と証拠開示機能に付随するものと理解されており,陳述書の中心的な役割はこの2つにあります。

第2 反対尋問を経ていない陳述書の証明力

1 証拠能力は当然には否定されない

陳述書は,訴訟提起後に作成された書面であり,作成の時点では反対尋問を経ていません。そこで,そもそも証拠として使えるのかが問題となります。しかし,判例・実務は,反対尋問を経ていないことを証拠能力(証拠として取り調べる資格)の問題ではなく,証明力(信用性)の問題として自由心証で判断すべきものと整理しています。

伝聞供述の証拠能力について,最高裁昭和27年12月5日判決(民集6巻11号1117頁)は,民事訴訟法が交互尋問制を採ることから伝聞証言の証拠能力が当然に制限されると解すべきではなく,その採否は裁判官の自由な心証による判断に委ねられているとしました。最高裁昭和32年3月26日判決(民集11巻3号543頁)も同じ立場を確認しています。刑事訴訟では伝聞証拠の証拠能力が原則として否定されますが(刑事訴訟法320条1項),民事訴訟法にはそのような規定がなく,伝聞であることは信用性の判断で考慮すれば足ります。

反対尋問の機会がないまま行われた本人尋問についても,最高裁昭和32年2月8日判決(民集11巻2号258頁)は,当事者本人に対する臨床尋問が本人の病状というやむを得ない事由で途中で打ち切られ反対尋問ができなかった事案について,その結果を事実認定の資料としても違法ではなく,合理的な自由心証によってその証拠力を決すればよいとしました。

これらの判例からすると,反対尋問を経ていないという一事だけで陳述書の証拠能力が否定されるわけではありません。証拠として取り調べたうえで,どこまで信用するかを自由な心証で判断することになります(自由心証主義。民事訴訟法247条)。

2 証明力は準備書面と同程度にとどまる

証拠能力が否定されないことと,証明力が高いこととは別の問題です。陳述書は,訴訟を前提に作成されるため作成者に有利な内容になりやすく,宣誓や偽証罪による真実性の担保もなく,代理人が関与して作成されることが多い書面です。そのため,特段の事情がない限り,反対尋問を経る前の陳述書の証明力は,当事者の言い分を記した準備書面と同程度にとどまり,事実認定においては弁論の全趣旨と同程度の重みしか持たない,というのが実務の一般的な受け止めです。

したがって,争いのある重要な事実については,原則として尋問を経てから認定されることになり,反対尋問を経ていない陳述書だけで重要な事実が認定されることは,原則としてありません。陳述書だけを読むと理路整然として矛盾がないように見えても,尋問に入ると内容の曖昧さが露呈し,反対尋問で信用性が一気に崩れることも少なくありません。

3 作成者による違い

もっとも,反対尋問を経ない陳述書がおよそ認定に使えないわけではありません。実務では,作成者によって扱いが分かれます。

  • 当事者本人の陳述書 証明力はほとんどなく,準備書面と同程度と評価されることが多いといえます。
  • 中立的な第三者の陳述書(相手方が反対尋問を求めなかった場合) 相手方があえて反対尋問を求めなかったのであれば,弁論の全趣旨として事実認定に用いられることがあります。
  • 作成者が死亡したなどで反対尋問ができない第三者の陳述書 同じ第三者でも,反対尋問の機会をおよそ与えられない場合には,認定に用いることに慎重になるのが通常です。

また,他の客観的な証拠や間接事実と符合している場合や,争点整理の中で「陳述書の記載で足り,尋問の必要はない」と確認され,相手方が積極的に争わない形式的な事項については,尋問を経ない陳述書でも事実認定の資料とされることがあります。

第3 裁判官の心証形成の仕組み

1 動かし難い事実とストーリーの整合性

裁判官は,まず「動かし難い事実」を核として事実関係を組み立てます。動かし難い事実とは,契約書のように成立の真正が認められ信用性の高い書証に記載された事実,双方の供述が一致する事実,争いのない事実,自分に不利なのに認めている事実などをいいます。裁判官は,これらの点を有機的につないで事実関係を一つのストーリー(仮説)として構成し,証拠でこれを検証していきます。仮説では説明できない証拠が出てくれば,仮説を作り直します。

訴訟実務家の文献でも,「裁判官の心証は,動かしがたい事実をもとに考え始めていって,ストーリーの整合性で確信に至る」と説明されています(中村直人『訴訟の心得』139頁)。この見方によれば,個々の要件事実ごとにばらばらに認定されるのではなく,全体として首尾一貫したストーリーに沿った認定になります。そのため,当事者から見ればぎりぎりの事案であっても,結論が出たときには一方が全面的に勝ったように見え,それが当事者の不満の一因になるとも指摘されています。

2 心証は数値で表せない

「民事の心証は8割程度で足りる」といった言い方がされることがありますが,実際に心証の程度を数値で示せることはほとんどなく,数値はおおよその目安にすぎません。また,直接証拠があれば高い心証が得られるとは限りません。同じ直接証拠でも,契約書のような処分証書と陳述書とでは証拠価値が大きく異なるからです。直接証拠の有無だけを重視するのは適切ではありません。

3 心証形成の時点と「心証のなだれ」

心証形成は,判決の直前に一度に行われるのではなく,訴状や準備書面,陳述書を読む段階から少しずつ進みます。尋問に入る前に,裁判官の心証の相当部分が固まっているといわれることも多いといえます。もっとも,尋問で心証が動くことも珍しくなく,尋問前の見込みが正しかったかどうかは,尋問を経て初めて確かめられます。実務家の中には,ある事実や証拠を境に心証が一気に一方向へ傾く現象を「心証のなだれ」と表現する向きもあります。

いずれにせよ,動かし難い事実と整合しない供述は,いかに具体的で自然に見えても信用されにくいという点が,心証形成の基本にあります。

第4 陳述書中心の審理への批判と実務の受け止め

1 陳述書で人証に代える運用への懸念

陳述書が普及する一方で,本来は尋問で確かめるべき争点まで陳述書で済ませ,事実上,人証に代えてしまう運用への懸念も示されてきました。裁判官経験のある論者からは,証人尋問・本人尋問に代えて陳述書を提出させる扱いが増えていることを憂慮し,口頭弁論主義・直接主義の要請からは,裁判所が証人や本人に直接尋問して心証を得るのが原則であって,書面重視の審理で「勝つべき者を勝たせる裁判」が実現できるのかを問う指摘があります(佐藤歳二「勝つべき者が勝つ民事裁判を目指して——事実認定における法曹の心構え——」)。

2 直接主義・口頭主義との緊張と反論

もっとも,陳述書の利用そのものが直接主義・口頭主義に反するわけではありません。実質的な争点については主尋問・反対尋問を実施するのが前提であり,むしろ主尋問の内容を具体的な根拠とともに事前に開示することは,相手方に反対尋問の手掛かりを与え,効果的な反対尋問を可能にする面があります。反対尋問権や口頭主義は,必要なときに反対尋問ができるよう保障されていれば足りるという意味での制度的保障と理解され,あらゆる場面で常に尋問が必要とされるわけではありません。陳述書の作成過程で作為が入り得るという批判に対しても,尋問での答え方にも作為は入り得るのであって,陳述書に固有の欠点とはいえない,との反論があります。

3 審理のあり方の変化——書記官の視点

審理のあり方は,時代とともに変化してきました。平成の初め頃までは,争点の整理を十分にせず,立証趣旨も不明確なまま申請された証人を次々に調べるという運用が多く,裁判官は初任時の研修で,心証を表に出さないよう「裁判官はスフィンクスたれ」と指導されたとも語られています(山本正名『コートマネージャーとしての裁判所書記官——協働の中の裁判実務——』)。

その後,集中証拠調べが定着し,審理のとらえ方も変わりました。かつては「審理は書証中心,人証はその説明・補充」と受け止める裁判官が多かったのが,集中証拠調べで初めて事件の全貌が明らかになることも多いと認識され,人証も,書証で認められる各事実を結ぶ「線」として,あるいは事件の背景となるストーリーとして重要な役割を持つと理解されるようになっています。

第5 尋問の必要性の判断

1 不必要な人証を採用すべきか

争点整理を担当した裁判官の実務書は,必要性に乏しい人証について,当事者の反発を恐れて申請されるまま採用することは望ましくないとしつつ,人証の必要性は当事者が最もよく分かっているのだから,最初から不要と決めつけて期日に臨むことは控え,まず当事者の考えを聴いたうえで採否を決めるべきだとしています(武藤貴明『争点整理の考え方と実務』350頁以下)。当事者の納得(いわゆる「ガス抜き」)のために採用することもあり得ますが,そうした特段の事情がない限り,争点との関係で必要性に乏しい人証を申請どおり採用するのは適当ではないという整理です。

2 尋問で心証が変わることもある

他方で,「陳述書で心証がとれたから尋問は不要だ」と安易に判断するのは危険です。尋問には,尋問前の見込みが正しかったことを確認する機能や,当事者に法廷で言い分を述べさせることで結果への納得を得やすくする機能があります。約100名の裁判官を対象とした調査でも,尋問の前後で事件の見通しが変わることは決して稀ではないと報告されています。心証の程度だけで尋問の要否を割り切るのではなく,事件の内容・性質・証拠関係・当事者の対応も踏まえて慎重に判断すべきだといえます。

第6 陳述書を作成・活用するときの留意点

1 核心を突き,分量を抑える

陳述書は,供述者が体験した事実を,裁判官が理解しやすいように,供述者の視点で分かりやすく書く必要があります。不要なことや自分に不利なこと,相手を感情的に非難する記載は,かえって心証を害します。

また,長すぎる書面は読み手の集中を妨げます。ある裁判官は,主張書面について,7〜8枚を超えたあたりから集中が切れ始め,15枚を超えると一息入れたくなると率直に述べています(廣瀬一平「書きたい誘惑と書かない勇気」)。陳述書についても同じことがいえ,あれもこれも書き込むより,核心を突いて簡潔にまとめる方が,かえって説得力が高まります。

2 客観証拠との整合と「陳述書汚染」

陳述書は,動かし難い事実(客観的な書証など)と整合していることが決定的に重要です。客観証拠と食い違うことを本人が述べてしまうと,その一点から本人全体の信用性が損なわれかねません。代理人としては,客観証拠を丁寧に確認し,供述と客観証拠が食い違わないよう先回りしておく必要があります。

他方で,打合せで「そうだったと思う」を繰り返すうちに,本人の記憶自体が書面の内容に引きずられてしまう(いわゆる「陳述書汚染」)危険もあります。記憶に反する内容を書かせることは許されません。曖昧な記憶を断定的に書くと,尋問での供述とずれて,かえって信用性を失うことになります。

第7 関連記事

第8 出典

本記事が根拠とした主な法令・裁判例・文献は次のとおりです(法令の条文は電子政府(e-Gov)法令検索で確認しています。裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索に掲載されているものについて,各裁判例へのリンクを付けています。)。

1 法令

2 裁判例

3 文献

  • 門口正人編集代表『民事証拠法大系 第3巻』(青林書院,2003年)182頁ほか(陳述書の機能)
  • 中村直人『訴訟の心得——円滑な進行のために』(中央経済社,2015年)139頁
  • 加藤新太郎編著『新版 民事尋問技術』(ぎょうせい)(陳述書の限界とその批判・反論)
  • 加藤新太郎ほか『民事事実認定と立証活動 第1巻・第2巻』(判例タイムズ社)(陳述書の証明力,人証調べの機能)
  • 『ステップアップ民事事実認定〔第2版〕』(有斐閣)(動かし難い事実とストーリー,書証と人証)
  • 岡口基一・中村真『裁判官! 当職そこが知りたかったのです。——民事訴訟がはかどる本——』(学陽書房,2017年)(反対尋問を経ない陳述書の証拠価値,心証形成)
  • 京野哲也編著『民事反対尋問のスキル——いつ,何を,どう聞くか?——』(ぎょうせい,2018年)(動かし難い事実)
  • 武藤貴明『争点整理の考え方と実務』(民事法研究会,2021年)350頁以下(人証の採否)
  • 山本正名『コートマネージャーとしての裁判所書記官——協働の中の裁判実務——』(新日本法規出版,2019年)(審理のあり方の変化)
  • 佐藤歳二「勝つべき者が勝つ民事裁判を目指して——事実認定における法曹の心構え——」(伊藤滋夫先生喜寿記念『要件事実・事実認定論と基礎法学の新たな展開』(青林書院,2009年)116頁所収)
  • 廣瀬一平「書きたい誘惑と書かない勇気」(弁護士任官の窓・自由と正義2021年3月号40頁)