陳述書の機能及び裁判官の心証形成

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目次
1 陳述書の機能
2 裁判官の心証形成
3 陳述書への批判的意見
4 書籍の記載の抜粋
5 関連記事その他

1 陳述書の機能
① 証拠開示機能
   本人の供述内容なり,証人の証言内容なりを事前に開示する機能です。
   これにより,反対尋問の準備が促進され,効果的な反対尋問が可能となり,集中証拠調べが充実・活性化されます。
② 主尋問代用補完機能
   主尋問に代用し,これを補完する機能です。
   詳細な数値など性質上口頭の陳述に適さない事項や,身上・経歴関係などわざわざ口頭で時間をかけて尋問するまでもない事項は陳述書に譲り,提出された書証等によって確定されず証拠調べの実施によって初めて確定できる争点に絞って主尋問を行うことが可能となります。
③ 情報収集機能
   早い段階での事案の正確な把握のため,情報及び証拠収集作業を代理人が前倒しするようになる機能です。
④ 参加意識向上機能
   陳述書の作成過程及び自己名義の陳述書が裁判所に提出されることを通じて,当事者の訴訟への参加意識を高める機能です。
⑤ 主張固定機能
   事後に主張を変更したり,誤解があったなどと弁解したりすることを困難にし,事実についての当事者の主張を固定する機能です。
⑥ 調書作成補助機能
   書記官が正確な要領調書を作成する助けとなる機能です。


2 裁判官の心証形成
(1)   周辺的な事情,例えば,①過失や因果関係が争点になっている事案における被害感情等が書かれている場合,②実質的に争いがない事実が書かれてある場合,③提出者にとって不利なことが書かれている場合,人証調べを行わないで陳述書により裁判所の心証が形成されることが多いです。
(2)ア  反対尋問を経ていない陳述書の証明力は極めて弱いと考えられています。
   そのため,争いがある重要な事実については,原則として,人証調べを行った上で裁判所の心証が形成されますから,反対尋問を経ていない陳述書だけで重要な事実が認定されることは原則としてありません。
イ やむを得ない理由で反対尋問ができなかった本人尋問の結果は証拠資料となることがあります(最高裁昭和32年2月8日判決参照)。
    また,民事訴訟においては,伝聞証言の証拠能力は当然に制限されるものではなく,その採否は,裁判官の自由な心証による判断に委ねられています(最高裁昭和32年3月26日判決。先例として,最高裁昭和27年12月5日判決参照)。
   そのため,反対尋問を経ていないというだけの理由で陳述書の証拠能力が否定されるわけではありません。
ウ 外部ブログの「反対尋問を経ない陳述書の証明力について」によれば,簡易裁判所の場合,反対尋問を申請しなかった相手方当事者の陳述書が過大評価されることがあるみたいです。
(3) 訴訟の心得139頁には以下の記載があります。
     裁判官の心証は,動かしがたい事実をもとに考え始めていって,ストーリーの整合性で確信に至る。ストーリーの整合性で確信に至るのであるから,原告が勝ちなら原告のストーリー,被告が勝ちなら被告のストーリーが基本になる。もちろん細々とした点は別である(まれに第3のストーリーということもある。)。
     したがって,個々の要件事実ごとに,こちらは原告のいうとおり,こちらは被告のいうとおりなどという,ばらばらな認定にはならず,全体として首尾一貫した認定になる。
     当事者から見ると,ギリギリの51:49の事案でも,結論が出たときには,一方的に片方が勝ったように見えることになる。当事者が腹を立てる原因である。
(4) 裁判官の心証形成一般については,外部HPの「事実認定と裁判官の心証形成」が参考になります。


3 陳述書への批判的意見
・ 16期の佐藤歳二 元裁判官の「勝つべき者が勝つ民事裁判を目指してー事実認定における法曹の心構えー」(「要件事実・事実認定論と基礎法学の新たな展開-伊藤滋夫先生喜寿記念」(平成21年2月1日出版)116頁)には以下の記載があります。
    最近の民事訴訟では,証人又は本人尋問に代えてそれらの陳述書を提出させる扱いが多いようであるが,私としては,この点が大変気にかかる。もちろん,旧民訴法時代にも,人事訴訟や労働関係訴訟において,争点に至るまでの経緯等について関係者の陳述書を提出させて,証人等の尋問時間を短縮する手法として用いられたことはあるが,現行の民事訴訟法施行後の実務では,通常の訴訟事件においても,かなり多用されていることが目立っている。証人等の尋問時間を短縮するためでなく,これをもって人証に代えてしまう扱いが少なくないと感じている。言うまでもなく,口頭弁論主義,直接主義の要請により,裁判所は,証人又は本人に対し直接尋問をして心証を得るのが原則であり,このような書面重視の審理では本当に真実の認定ができるのか,ひいては「勝つべき者を勝たせる裁判になっていないのではないか」と心配している。
    こうした陳述書変更の傾向は,裁判の迅速化重視の副作用だと思うが,到底,当事者の納得を得られるものではないと考える。


4 書籍の記載の抜粋
(1) 「書きたい誘惑と書かない勇気」(弁護士任官の窓第154回。筆者は54期の廣瀬一平 福岡高裁5民判事)には主張書面に関するものですが,以下の記載があります(自由と正義2021年3月号40頁)。
    長い文書は、集中力が続きません。
    事件類型によっても異なると思いますし、今の私に精進不足があることは否定できませんが、おおむね7~8枚を超えた辺りから、自分の集中が切れ始めるのが分かります。15枚を超えてしまうと、一息入れようと考えます。
    内容も大切です。たとえば、以前の書面で書かれていた内容と同旨の言い換えに過ぎなかったり、別の原稿の貼り付けだったりとの疑惑を一旦抱いてしまうと、ついつい、全体を端折って読む誘惑に負けそうになります。
(2) 「コートマネージャーとしての裁判所書記官-協働の中の裁判実務-」5頁には,平成元年前後の状況として以下の記載があります。
    当時の民事訴訟審理の考え方は,古典的な弁論主義伝統的な裁判官論の立場に立っていた。主張・立証は当事者(代理人)の為すに任せ,争点の整理もせず,立証趣旨も不明確なまま申請された証人を次々と調べ,最後に判決を出すという姿が多い実情だった。また,裁判官の初任時研修の講話では,顔に表情を出さず(心証非開示) 「裁判官はスフィンクスたれ」と指導されたともいう。
(3) 50期の武藤貴明裁判官が執筆した「争点整理の考え方と実務」(令和3年9月20日出版)350頁及び351頁には以下の記載があります。
    このような場合(山中注:必要性に乏しいと思われる人証が申請された場合)、なぜその人証が必要なのか当事者の考えを聴いた上で、採否を決める必要があります。必要な人証である限り、尋問の時間を確保して採用することは当然ですが、不必要な人証についても、当事者の反発を恐れて申請されるまま採用することは、望ましいことではありません。当事者の納得(いわゆる「ガス抜き」)のために採用することもありますが、そのような特段の事情のない限りは、争点との関係で必要性に乏しい人証を採用することは適当ではないでしょう。
    もっとも、人証の必要性については、当事者が一番よく認識しているはずですので、裁判所としては、まず当事者の考えを聴くのが相当であり、最初から不必要と決めつけて期日に臨むことは控えるべきでしょう。

5 関連記事その他

(1) 北村・松谷・きさらぎ法律事務所HPの「裁判官の心証形成について――司法委員の経験から」には以下の記載があります。
司法委員は、裁判官を補佐します。ときとして、証人尋問等の証拠調に立会い、意見を述べることがあります。その経験から申しますと、裁判官には、『心証のなだれ現象』があるということです。
『心証のなだれ現象』という言葉は、先輩弁護士らの受け売りですが、ある事実,ある証拠を岐点に、一挙に裁判官の心証が、一定方向に決まってしまうことを意味します。まさに、なだれを打つかのように。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 証人尋問及び当事者尋問
・ 陳述書作成の注意点
・ 新様式判決
 処分証書及び報告文書
・ 二段の推定
・ 文書鑑定
・ 裁判所が考えるところの,人証に基づく心証形成
・ 尋問の必要性等に関する東京高裁部総括の講演での発言
 通常は信用性を有する私文書と陳述書との違い

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