弁護士の懲戒事由

Pocket

目次
1 総論
2 懲戒請求が取り下げられたとしても,弁護士会は対象弁護士を懲戒できること
3 弁護士及び弁護士会には,懲戒請求者の予断や偏見を解きほぐすように努めることが求められていること
4 名誉毀損の違法性が阻却される場合等
5 名誉毀損の成立が否定される場合であっても,弁護士会の懲戒対象となる場合があること(最高裁平成23年7月15日判決)
6 「品位を失うべき非行」という概念は不明確であるとする,弁護士法人ベリーベスト法律事務所等の意見
7 その他

1 総論

(1)ア 弁護士の懲戒事由は以下のとおりです(弁護士法56条1項)。
① 弁護士法に違反したとき
② 所属弁護士会又は日弁連の会則に違反したとき
③ 所属弁護士会の秩序又は信用を害したとき
④ その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったとき
イ 弁護士は,所属弁護士会及び日弁連の会則,会規及び規則を守らなければなりません(日弁連会則29条1項)。
(2) 「この規程〔注:弁護士職務基本規程のこと。〕は,弁護士の職務の多様性と個別性にかんがみ,その自由と独立を不当に侵すことのないよう,実質的に解釈し適用しなければならない。」(弁護士職務基本規程82条1項前段)とされています。
   そのため,弁護士職務基本規程の条項に形式的に違反する行為のすべてが直ちに懲戒の事由と判断されるのではなく,「品位を失うべき非行」(弁護士法56条1項)と同等の評価を受けるなどの視点から,事案に即した実質的な判断がなされることとなります。
(3) 「自由と独立」には,①権力からの自由と独立,②依頼者からの自由と独立,及び③他の弁護士との関係における自由と独立の三つの要素を含みます(弁護士職務基本規程2条参照)。
(4)ア 弁護士職務基本規程には,倫理規定・努力義務の規定と,行為規範・義務規定とが混在しており,その区別が必ずしも判然としません。
   そのため,弁護士職務基本規程82条2項で,倫理規定・努力義務の規定に当たる条文が個別に列挙されています(「弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めた弁護士職務基本規程の条文」参照)。
イ 弁護士は、常に、深い教養の保持と高い品性の陶やに努め、法令及び法律事務に精通しなければなりません(弁護士法2条)し,弁護士は,教養を深め,法令及び法律事務に精通するため,研鑽に努めます(弁護士職務基本規程7条)。
   そして,「弁護士は、事件の処理に当たり、必要な法令の調査を怠ってはならない。」と定める弁護士法37条1項は義務規定です(弁護士職務基本規程82条2項参照)から,必要な法令の調査を怠った場合,直ちに懲戒事由となります。
(5) 日弁連HPの「弁護士に対する懲戒」には,懲戒事由の例として以下のものが書いてあります。
① 依頼者からの預り金を横領するなどの犯罪行為がなされた場合
② 自分の事務所で資格のない者に法律事務を取り扱わせた場合
③ 依頼者の利益となるように内容が虚偽の書類を裁判所に提出した場合
④ 弁護士会の会費を正当な理由なく長期にわたって滞納した場合
(6)ア 弁護士は,法令により官公署から委嘱された事項について,職務の公正を保ち得ない事由があるときは,その委嘱を受けてはなりません(弁護士職務基本規程81条)。
イ   破産管財人の場合,個別の破産債権者との間で何らかの利害関係がある場合は就任を辞退することがありますし,成年後見人の場合,推定相続人との間で何らかの利害関係がある場合は就任を辞退することがあります。
   例えば,特定の破産債権者が自分の顧問先であるような場合,破産管財人には就任しませんし,推定相続人間で深刻な対立が発生している事案で特定の推定相続人と親しい関係にある場合,成年後見人には就任しません。


2 懲戒請求が取り下げられたとしても,弁護士会は対象弁護士を懲戒できること
(1)   懲戒請求の取り下げがあっても,懲戒処分される例は認められ,懲戒請求の取り下げがあったにもかかわらず懲戒処分をしたことが異例であるとか違法であるとかいうことはできません。
(2) 別の事例が被懲戒者の事案より非行の程度が重いとしても,それだけでは,他事例との比較において,懲戒処分が不当であるとまでいうことはできません。
(3) 弁護士の懲戒は,単に懲戒請求者のためにするのではなく,弁護士会は,懲戒制度の趣旨に従って,懲戒事由がある場合に当該弁護士を懲戒することになります。
   そして,懲戒を相当とする事由がある場合には,懲戒請求者の取り下げにかかわらず,懲戒するのが弁護士の懲戒制度の趣旨に合致しています。
(4)   以上の記載は,東京高裁平成24年10月31日判決(最高裁平成23年10月11日決定の本案事件です。)に基づくものです。

3 弁護士及び弁護士会には,懲戒請求者の予断や偏見を解きほぐすように努めることが求められていること
   橋下徹弁護士が第1審被告となった最高裁平成23年7月15日判決の裁判官須藤正彦の補足意見には以下の記載があります(改行を追加しました。)。
   弁護士は裁判手続に関わって司法作用についての業務を行うなど,その職務の多くが公共性を帯有し,また,弁護士会も社会公共的役割を担うことが求められている公的団体であるところ,主権者たる国民が,弁護士,弁護士会を信認して弁護士自治を負託し,その業務の独占を認め(弁護士法72条),自律的懲戒権限を付与しているものである以上,弁護士,弁護士会は,その活動について不断に批判を受け,それに対し説明をし続けなければならない立場にあるともいえよう。
   懲戒制度の運用に関連していえば,前記のとおり,弁護士会による懲戒権限の適正な行使のために広く何人にも懲戒請求が認められ,そのことでそれは国民の監視を受けるのだから,弁護士,弁護士会は,時に感情的,あるいは,無理解と思われる弁護活動批判ないしはその延長としての懲戒請求ないしはその勧奨行為があった場合でも,それに対して,一つ一つ丹念に説得し,予断や偏見を解きほぐすように努めることが求められているといえよう。
   あるいは,著名事件であるほどにその説明負担が大きくなることはやむを得ないところもあろう。

4 名誉毀損の違法性が阻却される場合等
(1)ア   薬害エイズ関係の報道による名誉毀損事件に関する最高裁平成17年6月16日判決によれば,以下のとおりです。
① 事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁昭和41年6月23日判決最高裁昭和58年10月20日判決参照)。
② ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁平成元年12月21日判決最高裁平成9年9月9日判決参照)。
イ 同じ日付で出された上告棄却決定としての最高裁平成17年6月16日決定(原判決は別です。)には,名誉毀損の成立を否定すべきとする裁判官島田仁郎の詳細な反対意見が付されています。
(2) 個人的には,客観的事実の摘示よりも,意見ないし論評の表明の方が懲戒原因になる気がしています。
(3) 立命館大学HPに「謝罪広告請求の内容とその実現」が載っています。

5 名誉毀損の成立が否定される場合であっても,弁護士会の懲戒対象となる場合があること(最高裁平成23年7月15日判決)
(1)ア 大阪弁護士会に所属し,タレント活動もしていた橋下徹弁護士が,平成19年5月27日に放送された読売テレビ放送株式会社制作に係る「たかじんのそこまで言って委員会」(平成27年4月以降は「そこまで言って委員会NP」)と題する娯楽性の高いテレビのトーク番組において,光市母子殺害事件の弁護団を構成する弁護人に対する懲戒請求を呼びかけた行為について,
   大阪弁護士会は,平成22年9月17日,意見論評の域を逸脱すること,刑事事件及び弁護士会の懲戒請求について誤った認識を与えたこと等を理由に,2ヶ月間の業務停止処分としました。
   しかし,最高裁平成23年7月15日判決は,原審である広島高裁平成21年7月2日判決(最高裁平成18年6月20日判決により差戻しされた後の第2次控訴審判決)を破棄した上で,橋下徹弁護士の発言は不法行為法上違法とはいえないと判断しました(第1審被告である橋下徹弁護士が最高裁で逆転勝訴しました。)。
   このように弁護士会の判断と最高裁判所の判断が一致しない事例は存在します。
イ 平成11年4月14日に山口県光市で発生した光市母子殺害事件については,最高裁平成24年2月20日決定が,死刑判決を下した広島高裁平成20年4月22日判決を支持しました。
(2) 最高裁平成23年7月15日判決は,一般論として以下のとおり判示しています。
   刑事事件における弁護人の弁護活動は,被告人の言い分を無視して行うことができないことをその本質とするものであって,被告人の言い分や弁護人との接見内容等を知ることができない場合には,憶測等により当該弁護活動を論難することには十分に慎重でなければならない。


6 「品位を失うべき非行」という概念は不明確であるとする,弁護士法人ベリーベスト法律事務所等の意見
(1) 審査請求書(令和2年6月11日公表)9頁及び10頁には以下の記載があります(書証番号及びURLは省略しました。)。
① 曖昧な文言(山中注:文脈からすれば,「品位」、「非行」及び「非弁提携」という文言)の下に広い裁量をそのまま弁護士の懲戒処分という重大な不利益処分の要件(さらには刑事処分)として適用すると、その場その場の恣意的判断に陥り、重大な過ちがおきやすい。そして、行政手続法12条は不利益処分の基準(「処分基準」)を設定することを求めている(努力義務として構成されているが、処分逃れの恐れなどがなければ設定すべきである。実際、国民の予測可能性を確保し恣意的な判断を抑制するため多くの行政庁が具体的な処分基準を定めている)のであるから、弁護士の懲戒処分にも、不利益処分である以上はこの考え方を適用すべきである。特に模範となるものは、丁寧な点数制をおいている交通違反者に対する反則金制度(道交法施行令別表第二、第三)、一級建築士の処分基準である。
   弁護士法(43条の15、49条の2)は行政手続法の定めのうち行政指導以外を適用除外としているが、それは普通の行政処分よりも手続保障がなくてもよいという趣旨ではなく、法律家の団体であるからにははるかに充実した権利防御手続を自主的に用意することが期待されているからである(そうでないというなら、弁護士会は「自由と正義」とか「法の支配」という看板を下ろすべきであろう。)。
② 弁護士会では、まっとうな権利防御手続を作ることはないどころか、取り調べ=糾問手続を置き、行政手続き(予定される処分の通知、弁明・聴聞の機会の付与という権利防御手続)に著しく劣る手続しか用意していないうえに,処分基準を設定することなく、「品位」とは何か、「非弁提携」とは何かをきちんと検討していないので、場当たり的に判断しているというしかない。そうすると、恣意的になりやすいので、その具体的な適用についても、誤りであるとの異論が時々出されている。
(2) 弁護士法人ベリーベスト法律事務所,弁護士酒井将及び弁護士浅野健太郎に対する懲戒処分(業務停止6月)の審査請求事件に関して開設された,「非弁提携を理由とする懲戒請求について」と題するHPには例えば,以下の文書が載っています。
① 東京弁護士会懲戒委員会の議決書(令和2年2月28日付)
→ 令和2年3月12日に公表されたものですが,PDF55頁に文書の日付が載っています。
② 審査請求書(令和2年6月11日公表)
③ 日本弁護士連合会への審査請求について(令和2年6月11日付)
(3) 令和元年の場合,審査請求の件数は30件であり,原処分取消は3件であり,原処分変更は1件です(「弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)」参照)。


7 その他
(1) 刑裁サイ太のゴ3ネタブログ「平成26年中に公表された弁護士懲戒事例の分析」が載っています。
(2)   外部HPの「交通事故の悪徳弁護士事務所リスト一覧【2017最新ランキング】」に,交通事故事件に関する弁護士の懲戒事例が載っています。
(3) 弁護士懲戒処分検索センターHPの「弁護士懲戒情報」には以下の記載があります。
   弁護士に懲戒処分がある場合でも必ずしもすべてが悪徳とは限りません、懲戒内容にもよります。
   懲戒請求者の方が無茶をいった場合や弁護士会のお気入りでない弁護士に対する意図的な懲戒もあります。また、依頼者のために懸命に仕事をした結果、懲戒になってしまった場合、争いの相手方にとっては悪徳弁護士かも知れませんが、味方として考えれば心強い弁護士と考えることができるかもしれません。内容をよく確かめてからご自身で判断してください。
(4) ビジネスジャーナルの「「目立ちすぎた」大渕愛子、不当報酬受領で「重すぎる処分」の怪…弁護士会を逆なでか」には以下の記載があります
   実は、懲戒委員会が懲戒処分を判断する前には、とある方から「こうしたほうがいいよ」というアドバイスがなされることがあります。通称、「天の声」というようですが、弁護士会としては、身内の恥を公表することになる懲戒処分はなるべく下したがらない傾向にありますので、「天の声」によってすでに改悛したということになれば、「業務停止→戒告」や「戒告→懲戒しない」という軽減もあり得るわけです。
(5) 浦部孝法の法廷日記ブログ「弁護士が教える避けた方がいい法律事務所4選」には,①委任契約書を作らない法律事務所,②還暦オーバーの一人事務所,③やたらと広告を打っている事務所及び④懲戒歴がある弁護士は避けた方がいいと書いてあります。
(6) 行為当時の最高裁判所の判例の示す法解釈に従えば無罪となるべき行為であっても,これを処罰することは憲法39条に違反しません(最高裁平成8年11月18日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和25年4月26日判決最高裁大法廷昭和33年5月28日判決最高裁大法廷昭和49年5月29日判決参照)。
(7) 弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会に問題があったとしても,その責任は,その行為を行った弁護士会にあり,その申出をした弁護士には,故意に虚偽の事実を記載するなど弁護士会の判断を誤らせたというような事実が認められない限り,その照会申出行為は懲戒の対象とはならないと解されています(平成23年2月1日付の日弁連の懲戒処分の公告(ただし,日弁連懲戒委員会委員15名中7名の反対意見あり)参照)。
(8) 「弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」の具体例」も参照してください。

スポンサーリンク