この記事は,弁護士が訴訟活動やSNS等で相手方,相手方訴訟代理人又は他の弁護士の名誉を毀損し,若しくは侮辱したことを理由に弁護士会から受けた懲戒処分の実例を,弁護士職務基本規程70条・71条の内容とあわせて場面別に整理したものです。
対象は,日本弁護士連合会の機関誌『自由と正義』の懲戒処分公告で確認できる事例(令和7年〔2025年〕分まで)で,各事例には掲載号・頁と処分の効力発生日を付し,公告に記載された問題の表現をできる限りそのまま示します。
訴訟活動の中でされた表現が,相手方等に対する不法行為(民法709条)や国家賠償として違法になるかどうかは,これとは別の判断枠組みの問題であり,本記事では扱いません。その点は,関連記事「陳述書の作成が違法となる場合に関する裁判例」で整理しています。本記事は,これとは別のレイヤーである弁護士会による懲戒処分に焦点を当てます。
第1 弁護士職務基本規程70条・71条・73条──名誉の尊重と不利益行為の禁止
弁護士が他の弁護士を攻撃した場合の懲戒の根拠として,弁護士職務基本規程70条及び71条がしばしば引かれます。
もっとも,これらの条文に形式的に触れる行為がすべて直ちに懲戒事由となるわけではなく,弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」と同等の評価を受けるかという実質的な観点から判断されます。
1 70条(名誉の尊重)の内容と趣旨
職務基本規程70条は,次のとおり定めます。
「弁護士は,他の弁護士,弁護士法人,外国法事務弁護士及び外国法事務弁護士法人(以下「他の弁護士等」という。)との関係において相互に名誉と信義を重んじる。」
その趣旨は,弁護士等が「法の支配」の担い手として法律事務の独占(弁護士法72条)を認められているところ,法律事務は国民の信頼に支えられて初めて適正に取り扱うことができるのであって,依頼者や市民の信頼を得るためには弁護士等が名誉と信義を重んじる品格ある職業集団でなければならない,という点にあると説明されています(解説弁護士職務基本規程〔第3版〕200頁)。
ただし,これは弁護士が依頼者や市民より一段上にあるという意味ではありません。法廷での発言や準備書面の記載のほか,ブログやSNS等で相手方代理人の言動を取り上げて非難する行為も,場合によってはその弁護士の名誉・信用を害するものとして違法性を帯びることがあります。
2 71条(信義に反する不利益行為の禁止)
職務基本規程71条は,次のとおり定めます。
「弁護士は,信義に反して他の弁護士等を不利益に陥れてはならない。」
ここでいう「信義」は,不利益を受けた弁護士が抱く主観的な信義ではなく,自由・独立・品位を重んじ誠実かつ公正に職務を行うべき弁護士職として要求される客観的な信義を指すとされています(解説弁護士職務基本規程〔第3版〕202頁)。
懲戒委員会の議決例でも,71条は積極的に不利益を与える意思までを要するものではなく,客観的に不利益を与える行為を行うこと自体が禁止されると理解されています。相手方代理人の同意なく相手方本人に会って解任通知書を作成・交付した行為について,客観的に相手方代理人へ不利益を与える以上71条に反すると判断した例があります(大分県弁護士会懲戒委員会・令和2年3月16日効力発生の議決。自由と正義2020年8月号56頁,2020年弁護士懲戒事件議決例集〔第23集〕70頁・71頁)。
3 73条(他の弁護士等との紛議は協議・紛議調停で)
あわせて,弁護士は,他の弁護士等との間の紛議については,協議又は弁護士会の紛議調停による円満な解決に努めるものとされています(職務基本規程73条)。
相手方代理人への攻撃や懲戒請求に先立ち,まず自主的な協議や弁護士会の紛議調停による解決を図るべきことを示す規定です。
4 「品位を失うべき非行」との実質判断(弁護士法56条1項)
70条・71条に形式的に触れても,直ちに懲戒されるわけではありません。
懲戒の根拠規定は弁護士法56条1項であり,同項は,会則違反や所属弁護士会の秩序・信用を害する行為のほか,「その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたとき」に懲戒を受けると定めます。
公告で問題とされた表現の多くは,訴訟の争点との関連性や訴訟遂行上の必要性を欠き,訴訟代理人としての攻撃・防御の範囲を超えて相手方等の名誉・名誉感情を害した点で,この「品位を失うべき非行」に当たると評価されています。
懲戒の種別は,戒告,2年以内の業務の停止,退会命令及び除名の4種です(弁護士法57条1項)。以下では,各事例の処分の種別も併記します。
第2 懲戒事例──場面別に見た問題の表現
以下は,相手方,相手方訴訟代理人又は他の弁護士の名誉・名誉感情を毀損し,若しくは侮辱したことを理由とする懲戒事例です。
出典は,特記しない限り『自由と正義』の懲戒処分公告で,掲載号・頁と処分の効力発生日を示します。「 」で括った部分は,公告に記載された表現をそのまま引用したものです。公告が具体的な文言を引用せず行為を要約している場合は,鉤括弧を用いずに記載しています。
1 準備書面等で相手方本人を攻撃した例
1-14 大阪弁護士会・戒告(自由と正義2025年3月号79頁,令和6年10月16日効力発生)。遺産分割の代償金請求訴訟の準備書面で,必要がないのに相手方を「非常識かつ自己中心的な事実を自ら告白している」と,別の準備書面で「代償金を使い込んでいたと言うことになるとこれは犯罪である」と,移送申立書で相手方らが「遺産分割代償金を横領した事件」などと,相手方の社会的評価を低下させ名誉感情を害する記載をした。
1-13 兵庫県弁護士会・戒告(自由と正義2023年9月号59頁,令和5年4月13日効力発生)。遺言無効確認等請求訴訟の準備書面で,相手方が他者への思いやりを欠きがさつで攻撃的な性格であるとし,相手方が「死人に口なしとなるのをじっと待っていた」などと非難したうえ,相手方代理人の弁護士に対しても,たちの悪い三流警察捜査の手口を今更法律家が民事裁判で真似してどうするのかなどと中傷した。別の準備書面では相手方の主張を噴飯ものと評し,幼稚園児なのかなどと揶揄した。
1-12 第一東京弁護士会・戒告(自由と正義2022年12月号73頁,令和4年8月8日効力発生)。損害賠償請求訴訟の準備書面に,相手方が氏名や生年月日を偽った旨や逮捕歴がある旨など,社会的評価を低下させ又は名誉感情を侵害する記述を記載して陳述したほか,外国人であることを理由とする差別的な記述のある新聞記事を証拠として提出した。
1-11 大阪弁護士会・戒告(自由と正義2020年4月号59頁,令和元年12月10日効力発生)。元従業員に横領を主張する訴訟の準備書面に,相手方について「臆面もなく平然と嘘をつく性癖を有することが明らかであり,その度しがたい精神構造に鋭いメスが入れられるべきである。」「嘘で固めた人生に速やかに終止符を打ち,潔く正直に真実を述べられたい。」と記載し,弁論準備期日で陳述した。
1-10 第二東京弁護士会・戒告(自由と正義2019年6月号80頁,平成31年2月5日効力発生)。貸金返還請求訴訟の複数の準備書面で,争点との関連性や訴訟遂行上の必要性等を欠くのに,相手方が複数の刑事事件への関与が疑われる人物であるなどと名誉を毀損し,相手方でも実質的当事者でもない者を刑事事件の共犯者である旨断定するに等しい主張をした。
1-9 第一東京弁護士会・戒告(自由と正義2016年12月号96頁,平成28年7月25日効力発生)。成年後見人として申し立てた遺産分割調停の準備書面で,調停における正当な活動として許容される範囲を逸脱して,相手方を「情状悪質な犯罪者」であると強く非難するなど,名誉感情を著しく損なう記載をした。
1-8 東京弁護士会・戒告(自由と正義2015年4月号122頁,平成26年12月26日効力発生)。公開の法廷で,相手方本人に対する尋問が終了して代理人席に着席した際,証言台にいた相手方本人に向かって出自を侮辱する内容の発言をした(公告は具体的な文言を引用せず,行為を要約している)。
1-7 大阪弁護士会・戒告(自由と正義2014年11月号89頁,平成26年7月8日効力発生)。慰謝料等請求訴訟で,被害立証とは無関係かつ不必要に相手方の名誉感情を著しく毀損する内容の主張を記載した準備書面を提出し,口頭弁論期日で陳述した。
1-6 横浜弁護士会・戒告(自由と正義2011年2月号123頁,平成22年11月12日効力発生)。極めて薄弱な根拠しかないのに,準備書面で「ありもしない『薬』あるいは違法薬物を点滴して,亡Cを『命の恩人』とまで言わしめ死の間際に金を騙し取った兇徒。それがAとBである。」などと主張し,口頭弁論期日でも相手方代理人の質問に対し「違法薬物は覚せい剤である」と答えるなどした。
1-5 大阪弁護士会・業務停止2月(自由と正義2011年1月号154頁,平成22年10月14日効力発生)。離婚請求事件等の控訴審の準備書面に「最低で筋の悪い依頼者」などと,相手方の人格及び名誉を毀損する記載をした。
1-4 兵庫県弁護士会・戒告(自由と正義2010年8月号135頁,平成22年3月30日効力発生)。子の監護に関する処分等の抗告事件で,訴訟遂行上の必要性・相当性がないのに,相手方(父側)が提出した陳述書の作成者である懲戒請求者夫婦の名誉・プライバシーを侵害する記載を主張書面に行った。
1-3 第二東京弁護士会・戒告(自由と正義2009年6月号207頁,平成21年2月23日効力発生)。第一審の準備書面や控訴審の控訴理由書で,裏付けとなる事実がないのに相手方(原告)を「美人局による恐喝行為」の実行者と断定し,訴訟上の必要性が認められない異性関係についてプライバシーの機微に触れる事実を詳細かつ具体的に摘示したうえ,親族・知人のプライバシーも取り上げ,名誉感情を損なう事項を述べ立てた。
1-2 仙台弁護士会・戒告(自由と正義2008年11月号116頁,平成20年8月5日効力発生)。複数の民事訴訟の答弁書・準備書面で,相手方について「その半生は奇行と犯罪に埋め尽くされてきた」「詐欺犯」「常軌を逸した虚言癖と極悪非道を地でいく暴虐に翻弄され」と記載した。
1-1 東京弁護士会・戒告(自由と正義2007年6月号138頁,平成19年3月7日効力発生)。損害賠償請求事件の準備書面で,相手方に対し「まさに人非人というほかない」と主張し,確たる証拠がないのに相手方が「覚せい剤を使用している」「他人の配偶者と不倫関係にある」などと断定的に主張し,代理人の抗議を受けても撤回せず,かえって一層強硬に主張した。
2 相手方代理人・他の弁護士を攻撃した例
2-18 大阪弁護士会・戒告(自由と正義2025年10月号60頁,令和7年5月30日効力発生)。整理番号2-17と同一の事件の共同代理人として,同旨(相手方代理人が「裁判所に虚偽の事実を報告した」「裁判官を欺罔した」「預金差押中止命令を騙取した」等)の記載がある訴状・準備書面を陳述するなどの訴訟活動を行った。
2-17 大阪弁護士会・戒告(自由と正義2024年11月号70頁,令和6年5月17日効力発生)。損害賠償請求訴訟の訴状・準備書面で,相応の根拠もないのに,相手方代理人の弁護士が「裁判所に虚偽の事実を報告した」「裁判官を欺罔した」「預金差押中止命令を騙取した」などと,その名誉を著しく害する記載を繰り返した。
2-16 仙台弁護士会・業務停止15日(自由と正義2023年1月号94頁,令和4年8月17日効力発生)。遺留分減殺請求訴訟の準備書面で,相手方代理人の弁護士を「汚職の打診である」などと侮蔑・中傷し,あわせてその弁護士に対し懲戒請求を行う旨を記載して,受訴裁判所及び相手方代理人に送付した。
2-15 愛知県弁護士会・業務停止1月(自由と正義2021年9月号57頁,令和3年3月30日効力発生)。主たる非行は虚偽の証拠の提出だが,あわせて主張書面・即時抗告理由書で相手方代理人を侮辱し,裁判官を「熱意がないことで有名」,家庭裁判所調査官を「レベルの低い調査官」などと記載して名誉を侵害した(6条・70条)。
2-14 富山県弁護士会・戒告(自由と正義2021年2月号62頁,令和2年9月15日効力発生)。訴訟の争点と関連性がなく,提出の必要性・相当性を欠くのに,相手方代理人に関する所属弁護士会綱紀委員会の議決書の一部を抜粋して書証として裁判所等に提出し,翌日撤回した。
2-13 大阪弁護士会・戒告(自由と正義2021年1月号82頁,令和2年8月12日効力発生)。相手方代理人の弁護士との文書のやり取りの中で「極めて短絡的な発想」「明らかに可笑しな主張」「貴職は本当に資格ある弁護士か」などと,相手方代理人の弁護士としての能力・人格を繰り返し誹謗中傷した(70条。あわせて代理人の承諾なく相手方本人へ内容証明郵便を送付したことが52条違反とされた)。
2-12 東京弁護士会・戒告(自由と正義2021年3月号81頁,令和2年8月4日効力発生)。準備書面等で,訴訟上の関連性・必要性がないのに相手方の名誉を著しく毀損する表現を用い,その代理人の弁護士が「証人に偽証教唆を行った」と断言する表現を用い,根拠を示さずに相手方代理人の人格をおとしめる表現を用いた。
2-11 第一東京弁護士会・業務停止2月(自由と正義2020年11月号63頁,令和2年3月26日効力発生。後に審査請求により業務停止1月に変更)。請求異議の訴えの訴状訂正申立書に,相応の根拠がないのに,和解成立当時の相手方代理人らが「内通しており,馴れ合い的な関係にあった」などと記載し,相手方代理人の名誉を著しく毀損した。
2-10 東京弁護士会・戒告(自由と正義2020年3月号82頁,令和元年11月21日効力発生)。婚姻費用請求・離婚調停で,相手方代理人の弁護士について,準備書面等に「弁護士として不適当,向いていない」「ヤクザ以下の行為である。人倫にもとる」「弁護士として存在すること自体,許されない」などと記載・陳述した。
2-9 第二東京弁護士会・戒告(自由と正義2016年6月号133頁,平成28年2月10日効力発生)。控訴理由書で,争点と直接関係がなく関連性が薄いのに,相手方の弁護士を「フィクサーとして関与した」「良心の呵責なく『不正行為の助長をしている』」「何とか金銭を巻き上げようとする魂胆」などと裏付けなく摘示し,人格を攻撃する表現を複数回にわたり執拗に繰り返して陳述した。訴状でも同様に人格を攻撃する表現を繰り返した。
2-8 千葉県弁護士会・戒告(自由と正義2015年12月号95頁,平成27年9月9日効力発生)。不当利得返還請求事件の上告審で,被上告人代理人として,上告人代理人である弁護士の名誉・信用及び名誉感情を毀損する内容が記載された報告書を証拠として最高裁判所及び上告人代理人事務所へ送付した(共同代理人2名がそれぞれ戒告)。
2-7 金沢弁護士会・戒告(自由と正義2016年1月号104頁,平成27年8月26日効力発生)。複数の準備書面や文書提出命令申立書で,担当裁判官を「権力側に媚びる」「悪鬼の姿」などと,相手方代理人を「徹底的にずるいやつ」「根性が悪い」などと記載し,弁論準備期日でも相手方代理人に「耳が悪いなら弁護士やめなさい」などと発言した。
2-6 横浜弁護士会・戒告(自由と正義2015年8月号109頁,平成27年5月11日効力発生)。離婚訴訟の準備書面・反訴状で,相手方本人及びその代理人弁護士に対する「恫喝又は威圧と受け取られてもやむを得ない表現」やその人格を「誹謗中傷する表現」その他の不適切・不穏当な表現をした。
2-5 第二東京弁護士会・戒告(自由と正義2015年4月号123頁,平成27年1月21日効力発生)。建物明渡等請求訴訟等の併合審理中,準備書面2通で,要証事実との関連性や主張の必要性が高くない事項について,的確な証拠もなく推測も交えて,相手方訴訟代理人等の名誉毀損の程度の高い表現を用いた主張をした。
2-4 日本弁護士連合会・戒告(自由と正義2014年11月号100頁,平成26年9月13日効力発生)。上告審で最高裁判所に送付し訴訟記録に編綴された報告書に,弁護士である懲戒請求者の実名を挙げて「弁護士としての倫理観が欠如している」「ヒステリー気味な言動が見られる」などと記載し,何人でも閲覧できる状態に置いて社会的評価・信用を低下させた。争点と何ら関係がないのに名誉を毀損する部分を残したまま,これを含む書面を殊更提出したもので,共同代理人であった複数名がそれぞれ戒告を受けた(単位会が「懲戒しない」とした決定を日弁連が異議申出により取り消した事案)。
2-3 仙台弁護士会・戒告(自由と正義2014年7月号108頁,平成26年3月29日効力発生)。人身保護請求事件の申立書に,裏付け調査をしないまま,弁護士である相手方が介護施設で「怒鳴り散らし,強引な手法を用いて無理やり退所手続を執らせた」旨の,事実に反する侮辱的な記載をした(70条)。
2-2 東京弁護士会・戒告(自由と正義2012年11月号87頁,平成24年8月8日効力発生)。弁護士である相手方に損害賠償請求訴訟を提起し,その訴状・準備書面で相手方を「被害者を食い物にした卑劣極まる弁護士の犯罪である」「ペテン師や事件屋の手口そのものである」などと誹謗中傷した。
2-1 大阪弁護士会・戒告(自由と正義2009年2月号135頁,平成20年10月6日効力発生)。破産の否認請求事件で提出した反論書11通等で,破産管財人に対し「破産者の操り人形に成り下がり」「逃げ回る管財人」等20か所以上,別の弁護士に対し「非弁整理屋が噛んでいるのであろう。明らかに犯罪行為である」等,申立代理人に対し「申立代理人としてはほとんど何も仕事をしていない」等,防御権の行使としての相当性を超えた誹謗中傷を重ねた。
3 メーリングリスト・手紙・文書・メールでの誹謗中傷や威圧
3-10 福岡県弁護士会・戒告(自由と正義2024年4月号62頁,令和5年11月20日効力発生)。不貞行為の損害賠償請求の内容証明郵便で,相手方を犯罪者扱いし,異常性を殊更に強調して,損害賠償に必ずしも必要とはいえない表現方法で人格を誹謗中傷し,勤務先等への照会を求める場合がある旨を記載した。
3-9 第一東京弁護士会・戒告(自由と正義2021年3月号84頁,令和2年10月6日効力発生)。労働紛争事件の通知書で,元従業員らの権利主張と関連性がなく確実な裏付けもないのに,相手方が犯罪を犯している旨を断定的に記載し,無関係な脱税の疑いに言及して警察署・税務署への通告を引き合いに出した(6条)。
3-8 東京弁護士会・戒告(自由と正義2021年1月号81頁,令和2年8月3日効力発生)。不貞行為の損害賠償請求で懲戒請求を予告された弁護士が,「これ以上懲戒請求を話題にするのであれば懲戒請求者の勤務先の人事部に告発する」旨のメールを相手方に送付した。
3-7 岡山弁護士会・業務停止3月(自由と正義2020年12月号50頁,令和2年7月9日効力発生)。相手方代理人の弁護士が代表社員を務める弁護士法人のウェブサイトを「サギ広告」と決めつけ,「弁護士でありながら,サギ師同然の行為を行って恥じることのない輩」等と記載した懲戒請求書・告発状の写しを添えた書面を,市内の複数の法律事務所や当該弁護士法人の顧問先多数に送付した(52条)。
3-6 第二東京弁護士会・戒告(自由と正義2018年1月号92頁,平成29年9月16日効力発生)。退所した元勤務弁護士に対する着手金の一部返還請求で,返還額が客観的に確定していない事件についても確定しているかのような前提で,請求に応じないときは「破産宣告の申立をする」「就職先の事務所に請求する」「弁護士生命が断たれるに等しい」旨の,恐怖心を抱かせる可能性が高い言葉を用いたメールを送信した。
3-5 新潟県弁護士会・戒告(自由と正義2017年5月号83頁,平成29年1月14日効力発生)。管理組合法人の訴訟の係属中,組合員である区分所有者約60名に対し,相手方(原告)訴訟代理人の弁護士について,「弁護士の発言とは思えない」「人権感覚がないのではないかと疑いたくなる」「証拠上,間違いが明らかになった後も,組合員の皆様に嘘を言い続けているのは,信じられません」「『嘘も百篇つけばホントになる』とでも思っているのでしょうか」などと記載した手紙を順次送付し,客観的な経緯の説明や批判の域を逸脱して誹謗中傷した。
3-4 京都弁護士会・戒告(自由と正義2016年3月号109頁,平成27年11月19日効力発生)。相続・会社経営をめぐる紛争で,相手方(会社の元従業員ら)について「罪の意識が微塵もなく,遵法心が完全に欠如してをり,規範意識が全く鈍麻してゐる恐ろしい犯罪者集団であると言っても過言ではない」などと非難する文書を作成し,会社宛てにファックス送信し,第三者にも郵送した。
3-3 大阪弁護士会・戒告(2名)(自由と正義2013年10月号127頁,平成25年6月26日効力発生)。確たる根拠がないのに相手方が詐欺行為を行ったと決めつけ,判決で認容された債務を期限内に支払わなければ「詐欺罪で刑事告訴する」旨を記載した書面を送付し,長男への代位弁済も求めて相手方を不当に威圧した(弁護士2名がそれぞれ戒告)。
3-2 横浜弁護士会・戒告(自由と正義2013年5月号111頁,平成25年2月7日効力発生)。区分所有者約100名に対し,相手方代理人の弁護士2名について「勝訴見込みのない訴訟を提起して訴訟詐欺を行った,民法の基礎理論も分かっていない」等の内容を記載した文書を送付した(70条・71条)。
3-1 京都弁護士会・戒告(自由と正義2009年1月号151頁,平成20年9月17日効力発生)。日弁連の委員会のメーリングリストに,懲戒請求者について「被害者の代理人であるかのように装い,被害者のための情報を引き出そうとするなど弁護士はおろか人間としての風上にもおけません」等の記事を投稿した。
4 SNS・インターネット・記者会見での表現
4-9 東京弁護士会・戒告(共同代理人)(自由と正義2025年8月号64頁,令和7年3月18日効力発生)。共同受任した損害賠償請求訴訟について,相手方の社会的評価が低下することを認識したうえで記者会見を開いて相手方の名誉を毀損する発言をし,団体のウェブサイトにも名誉毀損的な記事を掲載した(あわせて,陳述書への署名をためらう証人に利益供与を示唆した)。共同代表を務めた弁護士も同旨の行為で懲戒を受けた。
4-8 神奈川県弁護士会・戒告(自由と正義2021年11月号59頁,令和3年4月27日効力発生)。懲戒請求者その他の弁護士個人の業務活動に関し,ツイッター上で「誘拐」「連れ去り」「児童虐待」という言葉を用いて誹謗中傷し,弁護士が自ら貧困を作り出しているという趣旨の表現で人格を攻撃する投稿をした。
4-7 東京弁護士会・戒告(自由と正義2021年9月号58頁,令和3年4月14日効力発生)。団体交渉の相手方代理人であった弁護士が,自身のブログで,相手方の労働組合を「事件屋のような交渉を行う団体」であり,構成員に「あぶく銭で生計を立てているように思える者」がいるなどと認識させる,社会的信用を低下させる記事を掲載した。
4-6 新潟県弁護士会・業務停止1月(自由と正義2021年9月号58頁,令和3年3月31日効力発生)。自らがツイッターに公開した画像に批判的なツイートをした相手方に対し,侮辱的な人身攻撃というべき言辞を用いてツイートした。
4-5 新潟県弁護士会・戒告(自由と正義2021年8月号63頁,令和3年3月31日効力発生)。死亡した弁護士について,ツイッター上に「好訴妄想の弁護士さんを知っている。」と記載し,続けて好訴妄想の語義を記して,あたかも国際的に認められた医学的疾患であるかのような印象を与え,その弁護士が精神的疾患を抱えていたかのような印象を与える投稿をして不当に中傷した。
4-4 新潟県弁護士会・業務停止6月(自由と正義2021年8月号54頁,令和3年2月18日効力発生)。ツイッターの複数の投稿の全体として,相手方が組織的・集団的な暴行事件に加害者として関与しており,弁護士である自分が客観的な証拠を有している旨の事実を摘示し,相手方の社会的評価を低下させた。
4-3 新潟県弁護士会・戒告(自由と正義2018年7月号96頁,平成30年3月30日効力発生)。ツイッター上で,相手方の弁護士について,所属弁護士会の綱紀委員会の議を経て懲戒委員会における審理が開始した旨の,懲戒手続に関する具体的情報を書き込んで事実上公表した。
4-2 新潟県弁護士会・戒告(自由と正義2017年1月号105頁,平成28年8月23日効力発生)。多数の者が閲覧できるSNSで,相手方の弁護士に対し「お前は馬鹿だ」「あなたが弁護士をやめろ」「あなたと顔を合わせた際,第一にやるべきことはあなたを殴ることです」などの攻撃的・威圧的で侮辱する書き込みをした。あわせて,懲戒事由の裏付けを調査・検討した形跡もないまま,懲戒請求書案として非行事実の骨子を示し,相当程度の業務停止処分が相当である旨を書き込んだ。
4-1 東京弁護士会・業務停止1月(自由と正義2014年11月号96頁,平成26年8月10日効力発生)。相手方(行政書士)について,自身のブログに相手方の事務所名をもじった架空の害虫キャラクターを登場させ,「ストーカーのよう」「善良な市民に害悪を及ぼす」「うさん臭い」などと名誉感情を害する記載をした(あわせて,凍結された預金口座について預金保険機構の公表と異なる事実に反する記事も掲載した)。
5 懲戒請求制度の濫用・懲戒請求書での名誉毀損
5-3 第一東京弁護士会・戒告(自由と正義2021年11月号59頁,令和3年4月30日効力発生)。相手方である弁護士が自分の受任事件に不当に介入したとして懲戒請求をするに当たり,不当介入を事実上・法律上裏付ける相当な根拠について調査・検討すべき義務を果たさず,通常の注意を払えば根拠を欠くことを知り得たのに懲戒請求をした(70条)。
5-1 第一東京弁護士会・業務停止2月(自由と正義2019年7月号123頁,平成31年3月25日効力発生)。離婚調停で相手方代理人の弁護士が調停委員に対してしたとする発言が虚偽で名誉毀損に当たるなどとして,その発言の基本的な部分が事実に基づくことを知りながら,懲戒制度を濫用する意図をもって,訴訟係属中に当該相手方代理人に対する懲戒請求をした。懲戒委員会は,圧力をかけるよう指示するメールの存在などから懲戒請求制度を濫用する意図が明瞭であるとし,弁護士としての知識・経験を利用して行われたもので違法性が大きいとして,業務停止2月を選択した。
5-2 第一東京弁護士会・戒告(自由と正義2019年7月号124頁,平成31年3月25日効力発生)。整理番号5-1の事案で代理人を務めた弁護士。依頼者が発言の基本的部分は事実に基づくと知っていたのに,その弁解を軽信してしかるべき調査を尽くさず,訴訟係属中に相手方代理人に対する懲戒請求をした。
第3 単位弁護士会と日弁連で判断が分かれた例
訴訟活動や懲戒請求の中でされた表現について,単位会が戒告としたものを,日弁連懲戒委員会が取り消して「懲戒しない」とした例があります。
表現の不適切さと弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」との間には評価の幅があり,表現が不適切でも直ちに懲戒に値するとは限らないことを示すものです。
1 懲戒請求書の記載を取り消した例
懲戒請求書に相手方(弁護士)を誹謗中傷する表現を記載した行為について,単位会が戒告としたものの,日弁連懲戒委員会がこれを取り消した例があります(戒告につき自由と正義2012年1月号114頁,取消しにつき同2012年12月号111頁,取消しの裁決効力発生・平成24年10月16日)。
原処分(戒告)の公告自体は「懲戒請求書に懲戒請求者の人格を誹謗中傷する表現を記載した」と述べるにとどまりますが,取消しの裁決の公告には,問題とされた記載が列挙されています。破産管財人である弁護士(懲戒請求者)が代表者に対し役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判を申し立てたのに対し,その代表者の代理人が,懲戒請求書に,①「悪代官が難癖をつけて農民から過酷な年貢を取り立てるのにも似た愚行」,②虚偽と知りながら(又は容易に知り得たのに)破産管財人弁護士として必要な注意はおろか法律家としての最低限の注意すら怠り不当に裁判を申し立て,かつその裁判で個人の名誉毀損にわたる事実を主張した旨,③「破産管財人弁護士たる使命に背き,誠実に弁護士の職責を果たさなかった」旨,④「社会正義に名を借りて根拠なく個人を誹謗中傷する」旨,⑤「破産法解釈学の未熟にもかかわらずその研鑽を怠った」旨を記載した,というものです。
日弁連懲戒委員会は,一般論として,懲戒請求書であっても対象弁護士を侮辱する表現やその人格に対する誹謗中傷は品位を失うべき非行に当たる場合があるとしつつ,本件の各記載については,①は例えとして適切でなく,このような卑俗な例えを用いる必要もなく軽率の誹りを免れないものの,査定申立ての問題を指摘するために記載したのであって懲戒請求者の人格を攻撃するためではないから,侮辱的表現・誹謗中傷とまではいえず,②から⑤も同様であるとして,戒告を取り消し,懲戒しないこととしました。なお,本件記載は人格に対する誹謗中傷であって非行に当たるとする反対意見もありました。
2 準備書面の記載を取り消した例
準備書面中の不適切な表現についても,取消しの例があります。
神奈川県弁護士会の戒告を日弁連が取り消した例(自由と正義2024年11月号77頁,裁決効力発生・令和6年9月17日)では,慰謝料請求訴訟の準備書面に客観的な証拠なく相手方が「放火行為を行っ」た旨を記載した点について,原告の主張のまとめとして結論だけを記載したもので殊更に誹謗中傷し執拗に人格を攻撃するものとまでは言えないこと,処分の効力発生後ではあるが懲戒処分を求めない旨の条項を含む示談が成立し慰謝料50万円が支払われたこと等を考慮して,戒告を取り消しました。
また,愛知県弁護士会の戒告を日弁連が取り消した例(自由と正義2011年11月号106頁,裁決効力発生・平成23年9月16日)では,相手方の性格を「虚言癖,誇張癖,事実歪曲癖」を有する趣旨で記載した点について,約3年の審理で多数の書面を提出する中で当該表現を記載したのはこの準備書面1通だけであり,14頁の書面の一部にとどまること,人格を誹謗中傷して精神的に傷つける目的ではなく主張の信用性を争う趣旨と認められること,本人も不適切であったと認めて反省していることを理由に,戒告を取り消しました。
第4 関連論点・関連記事
訴訟活動の中でされた表現が,相手方等に対する不法行為や国家賠償として違法になるかどうかの判断枠組みは,「陳述書の作成が違法となる場合に関する裁判例」で扱っています。
SNS・ネット上の表現をめぐる懲戒については,「弁護士のSNS・ネット表現と懲戒」で扱っています。
懲戒事由・手続の全体像は,「弁護士の懲戒事由」を参照してください。
出典
1 法令
- 弁護士法56条1項・57条1項・72条(e-Gov法令検索で現行条文を確認)
- 民法709条(e-Gov法令検索で現行条文を確認)
2 会規
- 弁護士職務基本規程6条・52条・70条・71条・72条・73条
3 懲戒処分公告・議決例
- 日本弁護士連合会『自由と正義』懲戒処分公告(本文に各事例の掲載号・頁及び処分の効力発生日を明記)
- 2020年弁護士懲戒事件議決例集(第23集)
- 月刊大阪弁護士会2019年12月号
4 文献
- 日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編『解説弁護士職務基本規程』(第3版,2017年)