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訴訟活動における名誉毀損・侮辱と弁護士会の懲戒(AI作成)

この記事は,弁護士が訴訟活動やSNS等で相手方・相手方代理人・他の弁護士の名誉を毀損し,又は侮辱したことを理由とする弁護士会の懲戒事例を,弁護士職務基本規程70条・71条の解説とあわせて整理したものです(2026年7月時点の会規・懲戒公告に基づきます。)。

訴訟活動の中でされた表現が,相手方等に対する不法行為(民法709条)や国家賠償として違法になるかどうかの判断枠組みは,別記事「陳述書の作成が違法となる場合に関する裁判例」で扱っています。本記事は,これとは別のレイヤーである弁護士会による懲戒処分に焦点を当てます。

目次

第1 弁護士職務基本規程70条・71条(名誉の尊重・不利益行為の禁止)

弁護士が他の弁護士を攻撃した場合の懲戒の根拠として,弁護士職務基本規程70条及び71条がよく引かれます。これらの条文に形式的に触れる行為のすべてが直ちに懲戒事由となるのではなく,「品位を失うべき非行」(弁護士法56条1項)と同等の評価を受けるかという実質的な視点から判断されます。

1 70条(名誉の尊重)

70条の条文は次のとおりです。

弁護士は他の弁護士、弁護士法人及び外国法事務弁護士(以下弁護士等という)との関係において、相互に名誉と信義を重んじる。

その趣旨について,解説弁護士職務基本規程(第3版)200頁は,弁護士等は「法の支配」の担い手として法律事務の独占(弁護士法72条)を認められているところ,法律事務は国民の信頼に支えられて初めて適正に取り扱うことができるのであって,依頼者や市民の信頼を得るためには弁護士等が名誉と信義を重んじる品格ある職業集団でなければならない,という点にあると説明しています。

2 71条(弁護士に対する不利益行為)

71条の条文は次のとおりです。

弁護士は、信義に反して他の弁護士等を不利益に陥れてはならない。

ここでいう「信義」は,不利益を受けた弁護士が抱く主観的な信義ではなく,自由・独立・品位を重んじ誠実かつ公正に職務を行うべき弁護士職として要求される客観的な信義を指すとされています(解説弁護士職務基本規程(第3版)202頁)。

また,令和2年3月16日発効の大分県弁護士会懲戒委員会議決書(自由と正義2020年8月号56頁,2020年弁護士懲戒事件議決例集(第23集)70頁・71頁)は,71条について,積極的に不利益を与える意思を有していたことまでは要せず,客観的に不利益を与える行為を行うこと自体が禁止されると述べ,相手方代理人の同意なく相手方本人に会って解任通知書を作成・交付した行為が客観的に相手方代理人に不利益を与える行為である以上,同条に反すると判断しました。

3 参考──73条(弁護士間の紛議)

あわせて,弁護士は,他の弁護士等との間の紛議については,協議又は弁護士会の紛議調停による円満な解決に努めるものとされています(弁護士職務基本規程73条)。

第2 懲戒事例

以下は,相手方,相手方訴訟代理人又は他の弁護士の名誉・名誉感情を毀損し,若しくは侮辱したことを理由とする主な懲戒事例です。出典は,特記しない限り日本弁護士連合会の機関誌『自由と正義』の懲戒公告で,掲載号と頁を示します。

1 準備書面・訴訟で提出する書面での相手方本人への攻撃的表現

  • 2007年3月7日発効・東京弁護士会の戒告(自由と正義2007年6月号138頁)。準備書面で相手方を「人非人」と呼び,確たる証拠なく覚醒剤使用・不貞を断定的に主張した。
  • 2008年8月5日発効・仙台弁護士会の戒告(自由と正義2008年11月号116頁)。答弁書・準備書面で相手方を「詐欺犯」「常軌を逸した虚言癖」等と記載した。
  • 2009年2月23日発効・第二東京弁護士会の戒告(自由と正義2009年6月号207頁)。準備書面・控訴理由書で相手方を「美人局による恐喝」の実行者と断定し,異性関係を摘示して名誉感情を毀損した。
  • 2010年3月30日発効・兵庫県弁護士会の戒告(自由と正義2010年8月号135頁)。抗告事件の主張書面で,相手方提出の陳述書の作成者である相手方の名誉・プライバシーを侵害する記載をした。
  • 2010年10月14日発効・大阪弁護士会の業務停止2月(自由と正義2011年1月号154頁)。準備書面で相手方を「最低で筋の悪い依頼者」等と記載した。
  • 2010年11月12日発効・横浜弁護士会の戒告(自由と正義2011年2月号123頁)。準備書面で相手方を「金を騙し取った兇徒」等と記載し,人格を誹謗中傷した。
  • 2014年7月8日発効・大阪弁護士会の戒告(自由と正義2014年11月号89頁)。慰謝料等請求訴訟で,被害立証と無関係かつ不必要に相手方の名誉感情を著しく毀損する準備書面を提出した。
  • 2016年7月25日発効・第一東京弁護士会の戒告(自由と正義2016年12月号96頁)。準備書面等で,正当な範囲を逸脱して相手方を犯罪者と非難し,名誉感情を著しく毀損した。
  • 2019年2月5日発効・第二東京弁護士会の戒告(自由と正義2019年6月号80頁)。複数の準備書面で,関連性・必要性なく相手方を刑事事件の関与者・共犯者と断定し,名誉を毀損した。
  • 2019年12月10日発効・大阪弁護士会の戒告(自由と正義2020年4月号59頁,月刊大阪弁護士会2019年12月号77頁)。横領を主張する訴訟の準備書面で,相手方を「臆面もなく平然と嘘をつく性癖を有する」「嘘で固めた人生に速やかに終止符を打ち,潔く正直に真実を述べられたい」等と記載して弁論準備期日で陳述した(訴訟自体は被懲戒者の敗訴として確定)。
  • 2022年8月8日発効・第一東京弁護士会の戒告(自由と正義2022年12月号73頁)。準備書面で相手方の逮捕歴等を記載し,社会的評価を低下させ又は名誉感情を侵害した。あわせて,名義使用を包括的に許諾していた代表社員弁護士が担当弁護士の訴訟追行に関する監督上の努力義務を怠ったとして,監督責任の戒告も公告された(同号69頁)。
  • 2023年4月13日発効・兵庫県弁護士会の戒告(自由と正義2023年9月号59頁)。遺言無効確認等請求訴訟の準備書面で,相手方及び相手方の弁護士を「三流警察捜査の手口」等と非難・揶揄し,中傷した。

2 相手方代理人・他の弁護士への攻撃的表現(準備書面・訴訟提出書面)

  • 2008年10月6日発効・大阪弁護士会の戒告(自由と正義2009年2月号136頁)。破産の否認請求事件で提出した反論書等において,破産管財人を「破産者の操り人形に成り下がり」「逃げ回る管財人」,別の弁護士を「非弁整理屋が噛んでいるのであろう。明らかに犯罪行為である」等と,防御権行使としての相当性を超えて20か所以上の誹謗中傷を重ねた(弁護士職務基本規程70条違反)。
  • 2014年9月13日発効・日弁連の戒告(自由と正義2014年11月号100頁)。争点と何ら関係がないにもかかわらず,弁護士たる懲戒請求者の名誉を毀損する部分を残したまま書面を殊更提出した(弁護士職務基本規程70条違反)。
  • 2015年1月14日発効・第二東京弁護士会の戒告(自由と正義2015年4月号123頁)。準備書面で,関連性・必要性が高くない事項について的確な証拠なく,相手方訴訟代理人等の名誉毀損の程度の高い表現を用いた。
  • 2015年5月11日発効・横浜弁護士会の戒告(自由と正義2015年8月号109頁)。準備書面・反訴状で,相手方本人及びその代理人に対する恫喝・威圧・誹謗中傷の表現を用いた。
  • 2015年9月9日発効・千葉県弁護士会の戒告(自由と正義2015年12月号95頁)。上告審で,相手方訴訟代理人の名誉・信用・名誉感情を毀損する内容の報告書を証拠として提出した(共同代理人2名がそれぞれ懲戒。弁護士職務基本規程70条違反)。
  • 2016年2月10日発効・第二東京弁護士会の戒告(自由と正義2016年6月号133頁)。控訴理由書・訴状で,争点との関連性が薄いにもかかわらず相手方A弁護士を「フィクサーとして関与した」等と裏付けなく摘示し,人格を攻撃する表現を執拗に繰り返して陳述した(弁護士職務基本規程70条・71条違反)。
  • 2020年3月26日発効・第一東京弁護士会の業務停止2月(後に審査請求により業務停止1月に変更。自由と正義2020年11月号63頁)。訴状訂正申立書で,相当の根拠なく相手方訴訟代理人を「内通しており,馴れ合い的な関係にあった」と記載し,名誉を毀損した。
  • 2020年8月4日発効・東京弁護士会の戒告(自由と正義2021年3月号81頁)。準備書面で相手方の名誉を毀損し,その代理人が証人に偽証教唆をしたと断言する表現を用いた。
  • 2020年9月15日発効・富山県弁護士会の戒告(自由と正義2021年2月号62頁)。争点と関連性がなく提出の必要性・相当性を欠くにもかかわらず,相手方代理人に関する綱紀委員会議決書の一部を抜粋して証拠として提出し,翌日撤回した(弁護士職務基本規程70条・71条違反)。
  • 2022年8月17日発効・仙台弁護士会の業務停止15日(自由と正義2023年1月号94頁)。遺留分減殺請求訴訟の準備書面で,相手方の弁護士を「汚職の打診である」等と侮辱・中傷した。
  • 2024年5月17日発効・大阪弁護士会の戒告(自由と正義2024年11月号70頁)。訴状・準備書面で,相当の根拠なく相手方訴訟代理人が「裁判官を欺罔した」等と,その名誉を著しく毀損する記載を繰り返した。
  • 2025年5月30日発効・大阪弁護士会の戒告(自由と正義2025年10月号60頁)。前項と同一事件の共同代理人として,同旨の記載のある訴状・準備書面を陳述した。

3 メーリングリスト・手紙・メールでの誹謗中傷や威圧

  • 2008年9月17日発効・京都弁護士会の戒告(自由と正義2009年1月号151頁)。日弁連の委員会のメーリングリストに,懲戒請求者について「被害者の代理人であるかのように装い…弁護士はおろか人間としての風上にもおけません」等の記事を投稿した(弁護士職務基本規程70条違反)。
  • 2017年1月14日発効・新潟県弁護士会の戒告(自由と正義2017年5月号83頁)。管理組合法人の訴訟の係属中,組合員である区分所有者約60名に対し,相手方(原告)訴訟代理人C弁護士について「弁護士の発言とは思えない」「人権感覚がないのではないか」等と記載した手紙を順次送付し,客観的な経緯の説明や批判の域を逸脱して誹謗中傷した(弁護士職務基本規程70条違反)。
  • 2017年9月16日発効・第二東京弁護士会の戒告(自由と正義2018年1月号92頁)。退所した元勤務弁護士に対する着手金の一部返還請求に当たり,金額が客観的に確定しているかのような前提で「破産宣告の申立をする」「弁護士生命が断たれるに等しい」旨の恐怖心を抱かせる可能性が高い言葉を用いたメールを送信した(弁護士職務基本規程70条・71条違反)。

4 SNS・インターネット上での表現

  • 2016年8月23日発効・新潟県弁護士会の戒告(自由と正義2017年1月号105頁)。SNSで相手方A弁護士に「お前は馬鹿だ」「あなたを殴ることです」等の攻撃的・威圧的で侮辱する書込みをし,また懲戒事由の裏付けの調査・検討をした形跡もないまま懲戒請求書案を示して相当程度の業務停止処分が相当である旨を書き込んだ(弁護士職務基本規程70条・71条違反)。
  • 2018年3月30日発効・新潟県弁護士会の戒告。ツイッター上で相手方A弁護士について,所属弁護士会で懲戒委員会の審理が開始した旨の懲戒手続に関する具体的情報を書き込んで事実上公表した(弁護士職務基本規程70条・71条違反)。
  • 2021年3月31日発効・新潟県弁護士会の戒告(自由と正義2021年8月号63頁)。死亡したA弁護士について,ツイッター上に「好訴妄想の弁護士さんを知っている」等と記載し,A弁護士が精神的疾患を抱えていたかのような印象を与えて不当に中傷した(弁護士職務基本規程70条違反)。
  • 2021年4月27日発効・神奈川県弁護士会の戒告(自由と正義2021年11月号59頁)。懲戒請求者その他の弁護士の業務活動に関し,ツイッター上で「誘拐」「連れ去り」「児童虐待」という言葉を用いて誹謗中傷し,人格を攻撃する投稿をした(弁護士職務基本規程70条・71条違反)。

5 懲戒請求制度の濫用・懲戒請求書での名誉毀損

  • 2019年3月25日発効・第一東京弁護士会の業務停止2月(自由と正義2019年7月号123頁・124頁)。離婚調停・離婚訴訟で,相手方代理人C弁護士がした発言の基本的部分が事実に基づくと知りながら,懲戒制度を濫用する意図をもってC弁護士に懲戒請求をした(弁護士職務基本規程70条・71条違反)。懲戒委員会議決書は,圧力をかけるよう指示するメールの存在から「懲戒請求制度を濫用する意図が明瞭である」とした(2020年弁護士懲戒事件議決例集(第23集)21頁)。
  • 2019年3月25日発効・第一東京弁護士会の戒告(自由と正義2019年7月号124頁・125頁)。上記事案の代理人弁護士。依頼者の弁解を軽信してしかるべき調査を尽くさず,訴訟係属中に相手方代理人C弁護士に懲戒請求をした(弁護士職務基本規程70条違反)。反省の情や高額の示談成立等を考慮して戒告とされた(同議決例集21頁)。

第3 単位弁護士会と日弁連で判断が分かれた例

懲戒請求書に相手方(弁護士)を誹謗中傷する表現を記載した行為について,単位会が戒告としたものの,日弁連懲戒委員会がこれを取り消した事例があります(戒告につき自由と正義2012年1月号114頁,取消しにつき自由と正義2012年12月号111頁)。

問題となった懲戒請求書の記載は,「悪代官が難癖をつけて農民から過酷な年貢を取り立てるのにも似た愚行」,破産管財人弁護士として必要な注意すら怠り不当に裁判を申し立てて名誉毀損にわたる事実を主張した,破産法解釈学の未熟にもかかわらず研鑽を怠った,等というものでした。

日弁連懲戒委員会は,一般論として,懲戒請求書であっても,対象弁護士を侮辱する表現やその人格に対する誹謗中傷は品位を失うべき非行に当たる場合があるとしつつ,本件の各記載については,例えとして適切ではなく軽率のそしりを免れないものの,懲戒請求者の行った査定申立ての問題を指摘するために記載したのであって人格を攻撃するためではないから,侮辱的表現・誹謗中傷とまではいえないと評価しました。

第4 関連論点・関連記事

出典

会規・文献

  • 弁護士職務基本規程70条・71条・73条
  • 解説弁護士職務基本規程(第3版)

懲戒公告等

  • 日本弁護士連合会『自由と正義』(本文に掲げた各号・各頁の懲戒公告)
  • 月刊大阪弁護士会2019年12月号
  • 2020年弁護士懲戒事件議決例集(第23集)