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不当な依頼を受けた弁護士の対応―弁護士職務基本規程14条・31条と受任後の辞任(AI作成)

第1 14条と31条の対象の違い

1 違法・不正な行為の助長又は利用を禁じる14条

弁護士職務基本規程14条は,次のとおり定める。
「弁護士は、詐欺的取引、暴力その他の違法若しくは不正な行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。」
事件の相談を受ける場合だけでなく,受任後の助言や処理方法でも問題になる規定である。依頼者の希望というだけで,違法・不正な方法に弁護士が手を貸せるものではない。

『解説「弁護士職務基本規程」第4版』40頁~41頁は,「助長」について,違法・不正であることを知りながら第三者に推奨し,又はその実現や存続を支援すること,「利用」について,違法・不正な行為によって事件処理を有利にし,又は利益を得ることと説明する。
この説明は解説書によるものであり,個々の行為の違法性や懲戒の成否を,一律に決めるものではない。

2 明らかに不当な事件の受任を禁じる31条

31条は,次のとおり定める。
「弁護士は、依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに不当な事件を受任してはならない。」
目的と方法のいずれかに明らかな不当性がある場合を対象とする。14条と同じ行為に関係することもあるが,両条は対象と判断する場面が同一ではない。

条文の確認先は,日本弁護士連合会の公式PDFである。弁護士職務基本規程の条文別索引・主要論点には,関連条文の全体像を掲載している。
なお,14条及び31条は,82条2項が行動指針又は努力目標として列挙する条文に含まれていない。

第2 依頼の目的と事件処理方法を確認する

1 何を実現したい依頼なのか

同書130頁~131頁は,単に相手方を困らせ,傷つけ,又は理不尽な圧迫・不利益を加えることのみを意図する事件等を,31条の趣旨に即して説明する。
弁護士が確認すべきなのは,依頼者の感情が強いかどうかだけではなく,実現しようとする権利・利益と,求める処理の目的である。紛争の当事者が怒りを表していること自体は,明らかな不当性の証明ではない。

仮定例として,金銭の支払請求について相談を受ける場合には,債権の根拠,支払の経過,希望する解決を確認する。依頼者が「回収は望まないが,相手を疲弊させるため根拠のない訴訟を繰り返してほしい」と明言する場合には,それと同じ相談として扱えない。
この例は確認すべき事情を示すものであり,特定事件の違反認定を紹介するものではない。

2 どの方法を使うことを求めているのか

正当な請求権がありうる場合でも,事件処理の方法に問題があれば,別途検討が必要である。弁護士は,請求内容だけでなく,証拠の作成・収集,送達,財産の移転,交渉の手段等についても依頼内容を確認する。
同書41頁及び131頁は,違法な自力救済,仮装の処理,不当な執行免脱,虚偽の事情による手続利用等を説明している。

たとえば,家賃を滞納する賃借人に対する請求を検討することと,違法な自力救済となる鍵の付替えを指示することは分けて考える必要がある。相手の債務不履行があるというだけで,弁護士が違法な方法に関与できるものではない。
このような場合には,請求権の検討と,適法な手続・方法への変更を分けて説明することが重要である。

第3 不当性が明らかな場合と,事実確認が必要な場合

1 敗訴の見込みや証拠不足だけで決めない

同書130頁~133頁は,受任時に弁護士が得られる情報には限界があること,後に不当な事件だったと分かることだけで受任を直ちに非難できないこと,敗訴の見込みが高い事件も一律に不当な事件ではないことを説明する。
事実の把握が訴訟の進行で変わりうること,従来の判例と異なる法的主張を検討する役割,和解を通じて守られる利益等を考慮する必要がある。
勝訴の見込みが乏しい事件を受任できるかという問題と,見込みがあるように装って受任する問題も異なる。依頼者への見通しの説明を欠いてよいという意味ではない。

2 確認事項を具体化して判断を更新する

依頼者の説明が不十分な場合には,目的,処理方法,根拠資料及び相手方の事情について,何が未確認なのかを整理する。37条の調査に関する規律も踏まえ,確認できない事情を確定したものとして取り扱わない。
実務上は,問題のある方法への関与を止めて確認し,適法な代替方法を説明することが考えられる。期限が迫っていることだけで,虚偽や違法な方法を許容することはできない。

なお,同書41頁は,依頼者が違法に収集した証拠について,収集方法が違法であるというだけで,提出が直ちに許されないとするものではないと説明する。行為の態様,被侵害利益,提出の必要性,他の証拠,弁護士の関与・認識等の検討を要する問題である。
証拠能力の問題,弁護士自身の14条上の行動,秘密・プライバシーの取扱いを一つの結論で済ませない必要がある。

3 無断録音を2種類に分けた東京高裁平成28年5月19日判決

東京高裁平成28年5月19日判決(平成28年(ネ)第399号,判例秘書L07120857)の判決本文は,大学のハラスメント防止委員会の非公開の審議を録音した資料と,申立人自身が出席した結果伝達の面談を録音した資料を区別している。本件は職員から大学に対する損害賠償請求であり,弁護士の懲戒責任を判断した事件ではない。
判決は,民事訴訟では違法収集証拠というだけで直ちに証拠能力が否定されるわけではないとしつつ,収集方法・態様,侵害される権利利益の保護の必要性,訴訟上の証拠としての重要性等を総合し,採用が訴訟上の信義則に反する場合には例外的に証拠能力を否定するとした。

非公開の審議の録音については,ハラスメント関係者のセンシティブな情報を扱い,委員の自由な討議と当事者等のプライバシーを守るため,審議の秘密を保護する必要性が特に高いと評価した。他方,録音が当該審議のものと認める的確な証拠がなく,その証拠価値も乏しいとし,無断録音の違法性の程度の高さ等と合わせ,証拠から排除した。
申立人は匿名の第三者から一方的に送られたと説明したが,裁判所は取得経緯を不自然としてその説明を直ちには採用できないとした。さらに,取得に申立人が関与していなかったとしても,本件の審議録音の提出は信義則に反すると判断している。収集に自分が関与していないという主張だけで,証拠として利用できるとした判決ではない。

これに対し,申立人と委員長等との面談の無断録音については,同判決は違法収集証拠に当たるとしながらも,内容が審議結果の伝達であり秘密性が高くないこと,保護すべき秘密が主に申立人自身の事項であること等から,証拠能力を否定するほどの信義則違反はないとした。
同じ紛争で同じ無断録音という形式でも,録音対象の秘密性,誰の権利が侵害されるか,証明しようとする事実との関係によって結論が分かれた点が重要である。この判決だけから,無断録音一般の適法性,弁護士の14条違反の有無,又はすべての大学の委員会の審議録音の取扱いまで決めることはできない。

4 依頼者のGPS情報の収集・利用を止めなかった弁護士の戒告事例

『2024年弁護士懲戒事件議決例集(第27集)』3頁~11頁には,妻に対するGPS監視によって得た位置情報を離婚訴訟に提出した弁護士について,原弁護士会の懲戒委員会が戒告を相当とし,日弁連懲戒委員会が審査請求を棄却して処分を維持した事例が掲載されている。収録本文では弁護士会名,年,事件番号等が匿名化されており,正確な処分日や実名を補って記載することはしない。
依頼者である夫は,妻の使用車だけでなく実家の車にもGPS機器を取り付け,別居後も含めて長期間,妻の行動を監視した。一部の機器はリアルタイムの位置情報を得られるものであった。原議決は,弁護士が取付けを認識した時期,妻側代理人による位置情報の提出・削除要求,その後も続いた監視と証拠提出を,具体的に認定している。

原議決によれば,弁護士は当初の取付けを同年5月22日以前に,6月の取付けについても設置後間もなく認識し,依頼者が探偵を使わず妻の不貞を突き止めようとすることを制止しなかった。妻側代理人から同年4月23日付けで位置情報の提出・削除を求められたのに,同年5月22日付けでデータの保全を理由に応じず,その後の1月31日,11月までの位置情報を離婚訴訟に提出した。
原議決は,別居後も約6か月に及んだ監視のプライバシー侵害と,不貞を裏付ける資料としての必要性の乏しさ等を検討し,違法又は不法な取得行為を利用したものとして14条違反を認めた。閲覧制限の申立てや和解に向けた努力等も検討されているが,それによって提出行為の問題が解消したとはしていない。

日弁連懲戒委員会は,旧「弁護士倫理」14条の「これに類する」という限定が現行規程で削除された経緯にも触れ,詐欺的取引や暴力と同程度に重大な違法・不正行為であれば,その類似性だけで規程の対象を限定しないとした。相手方のプライバシーを著しく侵害する取得行為につき,その違法性や提出の必要性を十分検討せずに訴訟で利用したことを問題とし,審査請求を棄却した。
請求者側の異議申出も棄却されており,日弁連は他の懲戒請求事由も審査している。したがって,請求されたすべての行為が非行と認定されたという紹介も正確ではない。

この事例で注意すべきなのは,弁護士が自らGPSを取り付けたと認定されたから処分されたわけではない点である。既にある資料を依頼者から受け取った場合でも,取得方法を認識した後の助言,監視の継続を止める対応,抗議への応答,提出の必要性の検討及び訴訟での利用が評価の対象となっている。
一方,すべてのGPS利用や位置情報の提出が同じ結論になるという一般則でもない。また,議決本文には別件の損害賠償判決の存在が記載されているが,本記事はその判決全文を確認したものではなく,その裁判例の一般的な射程をここで説明してはいない。

5 証拠能力と,収集への助長・利用を別々に点検する

上記判決と議決は,異なる判断対象を扱っている。民事訴訟で証拠を採用できるかという裁判所の判断と,弁護士が14条に反して違法・不正な行為を助長又は利用したかという職務上の評価を,一方の結論だけで済ませることはできない。
収集に直接関与していない場合にも,権利侵害と証拠価値によって証拠能力が否定されることがあり,収集を指示していなくても,認識後の継続への対応と利用が懲戒上問題となる場合がある。逆に,提出の可否や職務上の評価を検討することなく,無断録音等の名称だけで一律に禁止するのも,上記資料の示す判断方法ではない。

具体的には,誰がどの権限で収集したか,侵害が現在も続いているか,抗議や同意撤回をいつ認識したか,何を証明できるか,適法な別の資料で代替できるか,提出によってどの情報が誰に開示されるかを確認する。これは本記事の運用提案であり,判決が弁護士の確認工程を一律に定めたものではない。
依頼者への説明,必要な事実確認,問題のある収集方法の停止と,既存資料をどう取り扱うかの検討を記録することが重要である。内容自体の虚偽も判明した場合には,提出後の訂正・撤回と秘密保持の事例研究も併せて参照されたい。

第3の3・4の原判決・原議決は,判断する対象が異なる。証拠として採用されるかという問題と,弁護士の助長・利用が許されるかという問題を,次のように区別できる。

資料・事例原典の結論と主要事情判断の範囲
非公開委員会の審議録音(東京高裁平成28年5月19日判決)審議の秘密の保護の必要性が高く,証拠価値が乏しいこと等を総合し,証拠能力を否定。取得に関与していないとの仮定でも提出は信義則に反するとした。民事訴訟の証拠能力の判断。弁護士の懲戒事件ではない。
本人が出席した結果伝達面談の録音(同判決)違法収集証拠に当たるとしつつ,秘密性が高くなく,主に本人の事項であること等から,証拠能力を否定するほどの信義則違反はないとした。無断録音一般が適法という判断ではない。
妻のGPS位置情報(第27集3頁~11頁)弁護士が取得方法を認識しながら長期の監視を制止せず,抗議後も必要性等の検討が不十分なまま情報を利用した点を14条違反と評価。戒告を維持。弁護士自身が機器を取り付けたという認定を前提としない。GPS利用全般の禁止や,別件損害賠償判決の一般的射程を示すものではない。

6 事務所の帳簿等の違法収集が争われた懲戒手続

(1) 違法取得の主張と認定事実を区別する

平成24年2月13日の日弁連懲戒委員会議決(平成23年懲(審)第6号,第15集18頁~25頁)に収録された原綱紀・原懲戒の議決は,事務所職員が提出した資料について,対象弁護士が不法侵入・盗取による違法収集証拠であると主張した点を扱っている。
職員はその主張を争っており,原綱紀委員会は取得経緯が必ずしも明らかでないとした。その上で,証拠排除の明文規定の有無や,当該懲戒調査に限った内部告発という評価を述べ,資料を排除しなかった。「職員による窃盗が確定し,それが適法とされた」という事例ではない。

(2) 原綱紀と原懲戒の理由付けも同じではない

原懲戒委員会は,綱紀委員会への内部告発に限るという評価には疑問の余地があるとした。その評価を前提としなくても,懲戒手続で証拠を排除すべきほど強度の違法収集とは認められないとして排除をしなかった。日弁連は原会の業務停止3か月を維持したが,この処分は預り金等の複数の非行を対象としたものである。
この例は懲戒手続内での資料の取扱いであり,民事訴訟や刑事訴訟の証拠能力を直接判断したものではない。また,弁護士が職員や依頼者へ不法侵入・盗取を指示してよいという判断でもない。取得の事実,手続の種類,排除の判断,取得への助長・利用の倫理上の問題を分けて確認する必要がある。

上記事例の出典は,日本弁護士連合会『弁護士懲戒事件議決例集』第15集18頁~25頁である。頁数は印字頁による。収録本文には匿名化及び証拠記載等の省略があり,事件記録の全てを示す資料ではない。原会の判断と日弁連の判断,議決後の処分の付記を区別して参照した。

第4 受任後に判明した場合の説明・方法変更・辞任

1 31条から,すべての辞任義務を導かない

31条は事件を「受任してはならない」と定める規定である。受任後に問題が判明したときにどう対応するかは,14条その他の行為規範,依頼者との関係及び当該手続を確認する必要がある。
20条は自由かつ独立の立場,21条は依頼者の権利及び正当な利益,22条は委任の趣旨に関する依頼者の意思の尊重を定める。依頼者の意思を尊重することは,不正な指示を実行することと同じではない。

問題のある依頼については,何が許されないかを説明し,目的又は方法の変更によって適切な処理ができるかを検討する。書類に記載する事実や証拠の問題がある場合には,虚偽と知る証拠を提出できないという75条の規律も別途確認する必要がある。
証拠に関する確認は,5条・75条と陳述書・証人準備の記事を参照されたい。
説明と検討の経過を残すことを,本記事では運用上の提案として勧める。

2 信頼関係,複数依頼者及び他の受任弁護士との関係

43条は,依頼者との信頼関係が失われ,かつその回復が困難なときに,その旨を説明し,辞任その他の事案に応じた適切な措置を採ることを定める。単に意見が異なることと,同条の要件を満たすことを混同しない。
42条は複数依頼者間に現実の利害対立が生じた場合,41条は同一事件を受任する他の弁護士等との意見不一致により依頼者に不利益を及ぼすおそれがある場合を扱う。それぞれ,対象と要件が異なる。
31条だけを引用して,これらの問題を一括して「直ちに辞任しなければならない」と説明するのは適切でない。
辞任の根拠と手続は,受任事件を途中で辞任するときのルールに,受任を断る場合の通知は,依頼を断るときの通知義務に整理している。

第5 期限,記録及び依頼者の不利益への配慮

1 辞任の検討と,引継ぎの準備を分けて行う

辞任その他の対応を検討する場合には,進行中の手続,次の期日,不服申立てや提出の期限,既にした説明,後任への引継ぎに必要な記録を確認することが重要である。
これは,不当な方法を継続することを勧める趣旨ではない。関与してはならない行為を止める判断と,依頼者に対する終了時の説明・引継ぎを,それぞれ具体化する必要がある。
辞任の効力,裁判所への届出及び各手続に特有の要件は,当該手続に即して確認する。特に刑事事件や国選弁護を,民事事件の委任終了と同じ手順だけで扱わない。

2 終了時の説明,清算及び返還

44条は,委任終了時に,事件処理の状況又は結果について必要に応じ法的助言を付して説明することを定める。45条は,委任契約に従って金銭を清算した上,預り金及び預り品を遅滞なく返還することを定める。
辞任を検討する事情があるというだけで,説明や清算を省略できることにはならない。返還する原本,保管する記録,後任へ渡す資料及び送付先も確認する必要がある。
記録の扱いは,弁護士の事件記録の返還・保管・廃棄を参照されたい。委任の範囲と終了時の条件は,30条・委任契約書の記事も関係する。

第6 懲戒判断との区別,関連記事及び出典

1 規程上の問題と,他の責任・効力を区別する

本記事は,受任と事件処理に関する規程上の確認事項を扱う。個別事件での懲戒の成否,相手方に対する損害賠償責任又は訴訟行為の効力は,それぞれの根拠と事実に即して検討すべき問題である。
解説書の例を読んだことだけで,事情の異なる事件について同じ結論になるとはいえない。本記事に示した確認手順は,一律の違反認定基準ではない。
依頼の見通しが変わった場合の説明は,29条・36条と見通し変更・和解提案への対応を参照されたい。

2 確認資料

① 日本弁護士連合会弁護士職務基本規程(会規第70号)。14条・20条~23条・29条・31条・37条・41条~45条・75条・82条を参照した。令和8年10月4日取得の公式PDFによる。
② 日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,令和8年9月),40頁~42頁,130頁~133頁。条文の趣旨と解説書の説明,本記事の運用提案を区別して参照した。
第2等の仮定例と,第3の原典に基づく事例研究を区別して記載した。個別事例の当てはめでは,原資料を確認して,依頼者と弁護士がそれぞれ何を認識し,何を行ったかを確かめる必要がある。
③ 東京高裁平成28年5月19日判決(平成28年(ネ)第399号,損害賠償請求控訴事件)。判例秘書の提供元の判例番号L07120857で掲載判決本文を確認した。参照箇所は「第3 当裁判所の判断」の「3 事実認定の補足説明」(1)及び(3)である。リンク先はサービスの案内ページであり,判決本文の無料公開リンクではない。
④ 日本弁護士連合会『2024年弁護士懲戒事件議決例集(第27集)』3頁~11頁。GPS位置情報に関する原弁護士会懲戒委員会と日弁連懲戒委員会の収録議決本文を確認した。固有名詞・日時等の匿名化及び証拠掲示等の省略を伴う資料であり,別件損害賠償判決の全文確認とは区別している。
令和8年10月4日確認。以上の事例から,すべての違法収集証拠の提出可否や弁護士の懲戒責任を一律に決めることはできない。