第1 46条・47条・48条の関係
46条は被疑者・被告人の権利及び利益を擁護するため最善の弁護活動に努めること,47条は必要な接見の機会の確保と身体拘束からの解放,48条は防御権の説明・助言と違法又は不当な制限への必要な対抗措置を定める。
第4版156頁は,47条と48条を,46条の弁護活動を具体的な場面に即して示す規定として説明する。
| 条文 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 46条 | 本人の権利・利益のため,必要な活動を時宜に応じ適切かつ十分に行っているか。 |
| 47条 | 必要な接見を確保し,身体拘束からの解放について具体的な検討・活動をしているか。 |
| 48条 | 防御権を理解できるように説明・助言し,その制限への対応を検討しているか。 |
第2 「最善」は弁護人の主観だけでは決まらない
1 合理的な活動の内容と時期
第4版155頁~156頁は,弁護人が主観的に最善と考えればよいというものではなく,刑事弁護を行う平均的水準の弁護士が一般的・合理的に最善と考える活動に努めるという説明をしている。
必要な活動をしたかだけでなく,その活動をする時期と説明の内容も問題となる。
実務上は,身柄の状況,取調べの進行,本人の理解,証拠の内容,手続の期限を踏まえて活動を組み立てることが考えられる。
無罪や釈放といった結果が得られなかったというだけで,直ちに義務違反が決まるわけではない。
2 本人の意思と弁護人の判断
本人の意思を尊重することと,求められた行為をすべて実行することは同じではない。
第4版155頁は弁護人の役割に複数の見解があることを紹介しつつ,被疑者・被告人の権利擁護と誠実義務を重視する。
本人に選択肢と法的な意味を説明し,理解と意思を確かめながら活動することが必要となる。
偽証・虚偽陳述をそそのかしたり,虚偽と知りながら証拠を提出したりする行為は75条の禁止に当たる。
権利擁護のための適法な主張・立証と,証拠を作り変えることを混同してはならない。
第3 必要な接見と身体拘束からの解放
1 回数だけで評価しない
47条は「必要な接見の機会」の確保を求めており,全事件共通の接見回数を定めているわけではない。
第4版158頁~161頁の解説を踏まえると,事件の進行と本人の状況に応じ,必要な時点で意思疎通を確保できているかを検討することになる。
取調べ前後の助言,供述や証拠に関する確認,公判への準備,重要な手続上の判断についての説明など,接見の目的に応じた内容が必要である。
言語や疾病その他の事情がある場合は,本人が理解できる方法を検討する必要もある。
2 身体拘束への対応
身柄に関する処分の理由,手続の段階,利用できる不服申立て等を確認し,身体拘束からの解放のための活動を検討することになる。
保釈を含め,利用できる手続は被疑者か被告人かによって異なるため,すべての段階で同じ申立てができるという説明は適切でない。
弁護人の選任と接見交通権の制度は,弁護人の選任,国選弁護人及び接見交通権を参照されたい。
第4 防御権の説明と不当な制限への対応
48条の説明・助言は,黙秘権等の名称を伝えるだけでは足りず,本人がその意味を理解し,自らの防御について判断できるようにすることが重要である。
第4版161頁~163頁を参照すると,手続の進行に応じた説明と,権利の制限に対する必要な対応を具体的に検討することになる。
説明した事項,本人の理解・意向,確認した制限の内容,採った措置及びその理由を記録しておくことが有用である。
これは本記事の実務上の整理であって,条文が一律の記録様式を要求しているという趣旨ではない。
第5 複数被告人の弁護と原議決に基づく事例研究
共犯者の弁護では,一人に有利な主張が他の者に不利となるなど,利害の対立が活動を制約することがある。
第4版157頁は,受任段階で認識されなかった利益相反が後に判明する場合も含め,慎重な対応を求める解説をしている。
国選・私選の違い,受任後の対立と辞任は,共犯者を同じ弁護士が弁護する場合の利益相反を参照されたい。
以下では,接見・証拠説明と上訴対応について,議決例集に収録された原議決と日弁連の議決を比較する。
1 公判直前の証拠説明と本人の理解
(1) 原会と日弁連で説明の評価が分かれた
平成19年3月12日の日弁連懲戒委員会議決(平成17年懲(審)第16号,第10集18頁~24頁)は,否認事件で公判直前の約16分間に証拠を説明した弁護人の事案である。東京弁護士会は,本人の承諾・納得が十分得られていないとして戒告とした。
日弁連は,それ以前に5回の接見をしていたこと,事件と証拠の内容が比較的単純であったこと,主要な証拠を読み上げて説明し承諾を得たと認められること,弁護方針の合理性等を検討し,戒告を取り消して不懲戒とした。15名中4名の反対意見があり,事前に写しを示す機会があったことや説明の十分性への異論も掲載されている。
(2) 「16分なら足りる」という基準ではない
この議決は,全事件共通の説明時間を定めたものではない。以前の打合せ,証拠の量・難しさ,本人の理解,証拠意見の意味を含めた個別の評価である。当時の行為に対する旧弁護士倫理による判断を,現在の46条等にそのまま適用した議決とは扱わない。
実務上は,証拠の写しを確認できる時期,説明に必要な時間,本人の疑問と回答,証拠意見を決めた理由を整理しておくことが有用である。本人の希望に盲従しないことと,十分な説明・協議を省くことは異なる。
2 本人作成の控訴趣意書と期限直前の接見
(1) 提出後の対応だけでは不足を補えなかった
平成28年9月12日の日弁連懲戒委員会議決(平成27年懲(異)第32号,第19集52頁~56頁)は,控訴趣意書の期限前に本人が草稿への助言や期間延長の申立てを求めていたのに,初回接見が期限前日となった事案である。本人はその前に自ら控訴趣意書を提出し,弁護人は期限当日に量刑不当を内容とする書面を提出した。
日弁連は,香川県弁護士会の戒告を維持し,更に重い処分を求める異議を棄却した。提出された本人の書面を追完したことだけで,期限までに必要な意思疎通・助言を行わなかった問題が解消したとは判断していない。
(2) 第一審で認めていたことから控訴理由を決めつけない
第一審で犯行を認めていたとしても,控訴審で事実誤認を主張する意思がないと一方的に判断できない。本人の訴えを早期に聴き,法律上の控訴理由としてどう整理できるかを説明し,必要な調査や期間延長の申立てを検討することが重要となる。
期間延長が当然に認められるという意味ではない。申立ての要否と理由,裁判所の判断,確定した提出期限を分けて確認する必要がある。
3 訴訟能力を争う方針と控訴趣意書の不提出
(1) 方針の真摯さと審級の利益の喪失を別に評価した
平成22年3月8日の日弁連懲戒委員会議決(平成20年懲(審)第18号等,第13集3頁~19頁)は,死刑判決に対する控訴審で,訴訟能力を争う弁護方針の下,控訴趣意書を提出せず,控訴棄却により第一審判決が確定した事案である。
原会の議決は,意思疎通が困難であった事情,裁判長の発言,その後の補足説明・提出勧告,提出期限を延長した事実の有無を検討した。日弁連は,主観的に最善と考えたことだけでは足りず,客観的な合理性が必要として非行の判断を維持した。主任の戒告は維持され,他の弁護人の業務停止1か月は,実際の分担に軽重の差がないことなどから戒告に変更された。
(2) 手続への異議と期限遵守の対応を両立させる
原議決は,期限内の提出が訴訟能力を争うことと矛盾せず,その争いに特段の不利益を生じるとも認められない点を指摘している。多数回の接見や鑑定に向けた活動があったことは考慮されたが,実質審理を受ける機会を失わせた問題が消えるとはされなかった。
実務上は,裁判所の口頭発言への期待と,正式に定められた期限の変更を区別し,主張を維持しながら権利喪失を防ぐ手段を検討することが有用である。処分の軽減も,期限徒過の非行を否定した判断とは異なる。
4 接見時の機器持込み・撮影と外部交通
(1) 原会の理由すべてが維持されたわけではない
平成26年12月8日の日弁連懲戒委員会議決(平成25年懲(審)第23号,第17集78頁~93頁)は,拘置所でのカメラ等の持込み・撮影,携帯電話による被告人と妻との直接通話の試み,撮影映像をコピーしたDVDの妻への郵送を区別して判断した。
岐阜県弁護士会は戒告とした。日弁連は,機器の持込みとカメラによる撮影についての原会の非行評価を是認せず,秘密接見交通権の行使の範囲として懲戒不相当とした。一方,携帯電話による外部者との直接通話とDVDの郵送は正当な弁護活動を逸脱するとし,結論として戒告を維持した。
(2) 記録化と外部への伝達は判断対象が異なる
日弁連は,弁護人が管理できる接見の記録化と,弁護人による確認が十分働かない可能性のある直接通話,弁護人の管理を離れる映像の郵送を分けた。逃亡・罪証隠滅のおそれ,戒護への支障等が検討され,携帯電話の使用やDVDの郵送を非行としない少数意見も掲載されている。
この歴史的議決を,あらゆる施設・目的・利用方法で撮影が許される根拠として用いることはできない。他方,「施設が禁止していたから,機器の持込み・撮影も含めて日弁連が非行とした」と紹介するのも不正確である。接見の記録を作る行為と,誰にどの方法で渡す行為かを具体的に分ける必要がある。
上記事例の出典は,日本弁護士連合会『弁護士懲戒事件議決例集』第10集18頁~24頁,第13集3頁~19頁,第17集78頁~93頁,第19集52頁~56頁である。頁数は印字頁による。収録本文には匿名化及び証拠記載等の省略があり,事件記録の全てを示す資料ではない。原会の判断と日弁連の判断,議決後の処分の付記を区別して参照した。
第6 出典・関連記事
①日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」(令和8年10月4日確認)。
②日弁連弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,令和8年9月)154頁~163頁。本記事は同書の解説を参照したものであり,同書の記述を日弁連の公式見解又は個別事件の原議決そのものとして扱うものではない。
③弁護士職務基本規程の現行条文・条文別索引。