第1 49条は金品受領と私選への働きかけを別に規律する
1 名目を変えても弁護活動の対価は受領できない
弁護士職務基本規程49条1項は,国選弁護人に選任された事件について,被告人その他の関係者から報酬その他の対価を受領することを,名目を問わず禁止する。
2項は,その事件の私選弁護人に選任するよう,被告人その他の関係者に働きかけることを原則として禁止する。
金銭の受領と私選への働きかけは異なる行為である。無料の私選弁護を申し出る場合も,対価を受け取らないという理由だけで2項の問題がなくなるわけではない。
本記事は,令和8年10月4日に確認した日弁連公表の現行規程と『解説「弁護士職務基本規程」第4版』163頁~167頁に基づく。
同解説書は日弁連の公式見解を記載したものではない。所属弁護士会の現行例外規定を全て取得したものではなく,個別地域の切替手続の許否を断定する記事でもない。
規程全体は現行条文・条文別索引,法テラスによる支払いは国選弁護人の報酬・費用を参照されたい。
2 49条の現行条文
49条1項は,次のとおりである。
「弁護士は、国選弁護人に選任された事件について、名目のいかんを問わず、被告人その他の関係者から報酬その他の対価を受領してはならない。」
2項は,次のとおりである。
「弁護士は、前項の事件について、被告人その他の関係者に対し、その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはならない。ただし、本会又は所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある場合は、この限りでない。」
条文は「被告人」と表記するが,『解説』第4版164頁は,被疑者国選についても適用されると説明している。
同書163頁~164頁は,国選弁護制度の公正を維持し,報酬面での利益のために私選への切替を誘導する等の弊害を防止する趣旨を説明する。
第2 誰から,何のために,どの期間に受け取るか
1 家族からの謝礼や物品も検討対象となる
「その他の関係者」を本人に限ったり,領収書の名目だけで判断したりしてはならない。
『解説』第4版165頁は,家族等からの金品や物品・サービスも,弁護活動の対価として受け取る場合には問題となることを説明する。
少額の「お礼」なら一律に許される,贈り物なら報酬ではない,という結論にはならない。
2 受領前に確認する事項
| 確認項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 支払者と目的 | 本人・家族等の誰が,どの活動に対して支払うのか |
| 金銭等の性質 | 弁護報酬,実費,示談金の預り,独立した別事件の報酬のいずれか |
| 選任・解任の状況 | 対象事件と審級,国選弁護人としての地位,私選選任や国選解任の手続 |
| 重複と根拠 | 法テラスから同じ費用を受け取っていないか,別事件の業務と報酬に実体があるか |
| 私選への経緯 | 弁護士からの働きかけか,本人等の自発的な希望か。例外規定の現行本文は確認できたか |
この表は事実を整理するための確認方法である。契約書に別の名目を書いたり,支払いの時期を後にしたりするだけで,弁護活動の対価が別の金銭になるわけではない。
第3 実費,示談金の預り及び別事件の報酬
1 「実費なら受領できる」と一括しない
『解説』第4版165頁~166頁は,実費の扱いについて見解の違いを紹介する。報酬・対価には実費も含まれるとする見解と,対価性のない妥当な実費について受領の余地を認める考え方がある。
同書は,国費から補償されない当事者鑑定等について妥当な実費額を受領しても対価には当たらないと解する余地を述べるが,これを現行の法テラス約款や全所属会の運用による包括的な許可と扱うことはできない。
とりわけ,同じ交通費等を法テラスと本人等の双方から重複して受領することを,単に「実費」という名目で正当化してはならない。
具体的な費用を受け取る前に,費目,支払先,実際の支出額,現行の支払基準と重複の有無を確認し,所属会・法テラスに扱いを確認する必要がある。
本記事では,未確認の現行約款の条項を根拠に,特定の実費の直接受領を許容する結論は示さない。
2 示談交渉の追加報酬と,示談金そのものは区別する
『解説』第4版166頁は,国選弁護事件における被害者との示談交渉を別の民事事件として扱い,その交渉の報酬を別に受領することは許されないと説明する。
「示談がまとまれば家族から成功報酬を受け取る」という設定は,契約を別にしても弁護活動の対価の問題を残す。
他方,被害者に支払うため本人等から預かる示談金と,弁護士自身が受領する報酬は性質が異なる。ただし,預り金の名目で実際には報酬に充当する場合は,名目だけで49条の検討を免れない。
実務上は,預りの目的,送金先,精算と残金返還の方法を明確にし,依頼者の金銭の適切な管理を定める38条と,委任終了時の清算を定める45条等も確認する。
この整理は金銭の性質を区別するためのものであり,個々の送金・預り方法を全て許容する意味ではない。
3 独立した民事事件には実体と相当性が必要である
同書166頁は,示談金を捻出するための家屋売却や過払金返還請求訴訟等,刑事事件とは別個の民事事件として相当の時間・費用・労力を要する場合について,適切な額の報酬を受け取ることは49条によって禁止されるものではないと説明する。
ただし,国選弁護の報酬受領禁止を潜脱するものとみられないよう,その業務に見合う額とする等の慎重な対応を求める。
名称の異なる契約書があることよりも,別事件の実体,活動内容,報酬の相当性及び依頼者の資力を確認する。民事法律扶助の利用も検討事項となる。
第4 本人の希望と私選への働きかけを区別する
1 働きかけの目的や無料の提案だけでは例外にならない
49条2項の対象は,その事件について自分を私選弁護人に選任するように働きかける行為である。
『解説』第4版167頁は,働きかけの目的のいかんを問わず,無償で私選を引き受ける旨の働きかけも禁止に含まれると説明する。
費用や制度についての説明と,自分を私選弁護人に選任させるための誘導を区別し,説明の内容・経緯を確認する。
2 本人の自発的な希望でも,手続と他の義務を確認する
同書167頁は,弁護士からの働きかけがなく,本人等が私選としての受任を依頼し,国選弁護人を解任された上で私選弁護人として活動すること自体は,2項の禁止に当たらないと説明する。
これは,本人の「希望」があればそれ以前の誘導や国選事件の対価受領も正当化される,という説明ではない。国選弁護人として十分な活動をしないことで,私選への切替を促すような経緯がなかったかも確認する。
切替の際は,私選選任と国選解任の手続・効力を確認し,弁護活動の空白,接見や期日の予定,記録の引継ぎ及び金銭の清算を整理する必要がある。
具体的な提出書類・提出先・解任時点は,事件の段階と現行の法令・裁判所の手続に即して確認すべきであり,本記事だけで確定しない。
第5 所属会の例外は,現行本文を確認してから適用する
1 ただし書は各地域の一律の許可を意味しない
49条2項ただし書は,日弁連又は所属弁護士会の会則に別段の定めがある場合を例外とする。
『解説』第4版167頁は,ここでの会則の範囲を実質的に説明しているが,例外の内容は,実際の会則・会規等と,規則への授権関係によって確認する必要がある。
例外の有無,対象事件,届出や承認の要否,適用条件,施行時点が確認できない限り,その所属会で働きかけが認められると断定してはならない。
2 解説書の記述が削除されたことと,会則の廃止は別である
第3版に記載されていた各会の説明が第4版では削除されたとしても,それだけで各会の規定が廃止されたとはいえない。
逆に,旧版に説明があるだけで,その規定が現在も同じ内容で有効であるともいえない。第3版と第4版の比較記事も,この区別を前提として読む必要がある。
本記事では各所属会の現行例外規定の原文を網羅的に確認していない。各会の例外と,国選から私選への切替を扱う原議決に基づく事例研究は,別途確認すべき事項として残る。
第6 関連記事と出典
1 関連する記事
① 国選弁護人の報酬・費用と請求期限。法テラスへの請求と本人等からの受領を区別する。
② 弁護士職務基本規程の現行条文・条文別索引。49条のほか,依頼者の金銭・報酬・委任終了時の清算等の規定を確認できる。
③ 解説第3版と第4版の比較。条文の改正と解説の加除を区別する。
2 出典と確認の限界
① 日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程(会規第70号)」。38条,45条,49条。令和8年10月4日取得・照合。
② 日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,2026年)。163頁~167頁。金品受領,実費の見解の違い,示談交渉,別事件の報酬及び私選選任への働きかけを参照した。
③ 法テラス「国選 業務概要」。国選契約,候補の指名及び報酬・費用の支払いの制度上の位置付けを確認するための案内。
本記事は,現行規程と解説の射程を整理するものである。原議決本文を確認していない懲戒例について,認定事実や処分理由を推測して掲載していない。