第1 17条と弁護士法28条
17条は係争の目的物を譲り受けることを禁止し,弁護士法28条は係争権利を譲り受けることができないと定める。
現行規程及び弁護士法は令和8年10月4日に確認した。
第4版44頁~45頁は,他人の紛争を弁護士自身の利益のために利用することを防ぎ,職務の公正と品位を維持する趣旨を説明する。
代理人として依頼者の権利を実現することと,自らが紛争中の権利・物を取得して利益を得ることは,立場が異なる。
第2 係争の範囲には解釈上の問題がある
第4版45頁は,弁護士法28条の係争権利について,裁判所等に係属する事件の権利に限る説と,広く紛争中の権利を含める説を紹介し,判例の主流は前者であると説明する。
同書は17条についても同様の問題を認め,非係属の紛争中の権利の取得でも慎重な対応が必要であるとする。
したがって,まだ訴訟になっていないという一点だけで,倫理上の問題がないと断定することはできない。
なお,後述する最高裁平成21年8月12日決定の補足意見は,17条について広く争いがある場合の目的物の譲受けを禁じるとの説明をしている。
弁護士法28条の適用範囲と,17条の倫理上の評価を同一視してはならない。
第3 譲受けと弁護士自身の計算
1 契約の名称に限られない
第4版45頁は,有償・無償を問わず権利を移転する行為を対象にし,売買・贈与等の形式よりも,経済的効果が弁護士に帰属するかを重視する。
家族等の名義を介しても,実質が弁護士自身のための取得であれば,名義だけで問題を免れることはできない。
2 代理や信託的な取得との区別
同書45頁~46頁は,他人の計算による実質的な代理としての譲受けや,倒産処理で円滑な清算のために行う信託的な譲受けについて,弁護士自身の計算による取得とは区別して説明する。
単に契約書に「信託」「代理」と書くだけで足りるわけではなく,取得の目的,権利の帰属,清算の仕組みを確認する必要がある。
| 場面 | 確認すべき点 |
|---|---|
| 紛争不動産を取得する | 係争の有無,取得する権利,弁護士自身の経済的利益を確認する。 |
| 報酬に代えて権利・物を取得する | 報酬という名目だけで17条の検討を省かない。 |
| 債権を譲り受けて回収する | 自己の利益のための譲受けか,清算等のための信託的な取扱いかを確認する。 |
| 他人の名義を使う | 実質的な帰属と計算を確認する。 |
第4 報酬・担保・債権回収
第4版46頁は,不動産等を報酬として受領すること一般を禁止するのではないが,係争目的物であれば問題となると説明する。
依頼者が納得していることと,17条の禁止に当たらないことは別の問題である。
同書は担保や債権譲受けによる取立てについても解説するが,個々の担保設定等がどの規定に抵触するかは,形式だけでなく実態を確認する必要がある。
依頼者との金銭上の特別な利害関係が生じる場合には,25条等の検討も必要となる。
弁護士法73条による権利譲受業と,弁護士自身に適用される17条・弁護士法28条とは区別すべきである。
非弁行為・非弁提携の枠組みは,非弁護士との提携の禁止を参照されたい。
第5 倫理上の禁止と契約の効力
規程又は弁護士法による禁止の問題と,譲渡契約の私法上の効力は区別する必要がある。
最高裁第一小法廷平成21年8月12日決定(平成20年(許)第49号,民集63巻6号1406頁)は,回収手段としての債権譲受けについて,仮に弁護士法28条違反でも,公序良俗に反する事情がなければ直ちに私法上の効力は否定されないとした。
一方,補足意見は,私法上の効力と弁護士倫理上の評価を区別する。
法廷意見と補足意見を混同せず,原決定そのものに基づく詳しい事例研究は別に行う必要がある。
個別の取引では,①対象とする権利・物,②紛争と係属の状況,③弁護士の関与,④取得の目的と計算,⑤依頼者・第三者への影響を整理することが有用である。
契約が有効であることから倫理上許されると結論付けたり,禁止に当たることから必ず契約無効と断定したりすることは適切でない。
第6 出典・関連記事
①日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」(令和8年10月4日確認)。
②日弁連弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,令和8年9月)44頁~46頁。本記事は同書の解説を参照したものであり,同書の記述を日弁連の公式見解又は個別事件の原議決そのものとして扱うものではない。
③弁護士職務基本規程の現行条文・条文別索引。
④e-Gov法令検索「弁護士法」(令和8年10月4日確認)。
⑤最高裁第一小法廷平成21年8月12日決定(平成20年(許)第49号,民集63巻6号1406頁)。法廷意見1頁~3頁と補足意見3頁~4頁を区別して確認した。