この記事は,弁護士の弁護活動に関する発言(テレビでの懲戒請求の呼びかけなど)が名誉毀損として違法になるかの判断枠組みと,名誉毀損が成立しない場合でも弁護士会の懲戒対象となり得ることを,最高裁判例に即して整理したものです(2026年7月時点の法令・裁判例に基づきます。)。
目次
- 第1 名誉毀損の違法性が阻却される場合(最高裁平成17年6月16日判決)
- 第2 名誉毀損が成立しなくても弁護士会の懲戒対象となり得る(最高裁平成23年7月15日判決)
- 第3 弁護士・弁護士会に求められる説明責任(須藤正彦裁判官の補足意見)
- 第4 関連論点・関連記事
- 出典
第1 名誉毀損の違法性が阻却される場合(最高裁平成17年6月16日判決)
名誉毀損が成立するかどうかは,表現が「事実の摘示」か「意見・論評の表明」かで枠組みが分かれます。最高裁平成17年6月16日判決は,一般論として次のとおり判示しています。
① 事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,違法性がなく,証明がないときにも,行為者において重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,故意又は過失は否定される。
② ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,違法性を欠き,証明がないときにも,重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば,故意又は過失は否定される。
同じ日付で出された別事件の上告棄却決定(最高裁平成17年6月16日決定)には,名誉毀損の成立を否定すべきとする裁判官島田仁郎の詳細な反対意見が付されています。
第2 名誉毀損が成立しなくても弁護士会の懲戒対象となり得る(最高裁平成23年7月15日判決)
大阪弁護士会に所属しタレント活動もしていた橋下徹弁護士が,平成19年5月27日放送のテレビのトーク番組において,光市母子殺害事件の弁護団を構成する弁護人に対する懲戒請求を呼びかけた行為について,大阪弁護士会は,平成22年9月17日,意見・論評の域を逸脱すること等を理由に2か月間の業務停止処分としました。
しかし,最高裁平成23年7月15日判決は,原審である広島高裁平成21年7月2日判決(最高裁平成18年6月20日判決による差戻し後の第2次控訴審判決)を破棄した上で,橋下徹弁護士の発言は不法行為法上違法とはいえないと判断しました(第1審被告である橋下徹弁護士が最高裁で逆転勝訴しました。)。
このように,弁護士会の懲戒処分の判断と,最高裁判所の不法行為の成否の判断とが一致しない事例があります。名誉毀損(不法行為)が成立しないと評価される表現であっても,弁護士会は,別途,品位を失うべき非行に当たるかを判断します。
最高裁平成23年7月15日判決は,一般論として,刑事事件における弁護人の弁護活動は被告人の言い分を無視して行うことができないことをその本質とするものであって,被告人の言い分や弁護人との接見内容等を知ることができない場合には,憶測等により当該弁護活動を論難することには十分に慎重でなければならない,と判示しています。
なお,前提となった光市母子殺害事件については,最高裁平成24年2月20日決定が,死刑判決を下した広島高裁平成20年4月22日判決を支持しました。
第3 弁護士・弁護士会に求められる説明責任(須藤正彦裁判官の補足意見)
上記の最高裁平成23年7月15日判決の裁判官須藤正彦の補足意見は,弁護士・弁護士会が批判に対して説明を尽くすべき立場にあることを述べています(改行は引用者が付しています。)。
弁護士は裁判手続に関わって司法作用についての業務を行うなど,その職務の多くが公共性を帯有し,また,弁護士会も社会公共的役割を担うことが求められている公的団体であるところ,主権者たる国民が弁護士・弁護士会を信認して弁護士自治を負託し,その業務の独占を認め,自律的懲戒権限を付与している以上,弁護士・弁護士会は,その活動について不断に批判を受け,それに対し説明をし続けなければならない立場にあるともいえよう。
懲戒制度の運用に関連していえば,広く何人にも懲戒請求が認められ,それにより国民の監視を受けるのだから,弁護士・弁護士会は,時に感情的あるいは無理解と思われる弁護活動批判やその延長としての懲戒請求ないしはその勧奨行為があった場合でも,一つ一つ丹念に説得し,予断や偏見を解きほぐすように努めることが求められる。著名事件であるほどその説明負担が大きくなることはやむを得ない。
第4 関連論点・関連記事
- 訴訟活動(準備書面・陳述書等)の中でされた表現が不法行為・国家賠償として違法になるかの判断枠組みは,「陳述書の作成が違法となる場合に関する裁判例」で扱っています。
- 弁護士に対する名誉毀損・侮辱の懲戒事例と弁護士職務基本規程70条・71条は,「訴訟活動における名誉毀損・侮辱と弁護士会の懲戒」で扱っています。
- 懲戒制度の総論は,「弁護士の懲戒事由」を参照してください。
出典
法令
- 民法709条・723条(e-Gov法令検索により現行条文を確認)
裁判例
- 最高裁平成17年6月16日判決・同日決定(島田仁郎裁判官反対意見)
- 最高裁平成23年7月15日判決(須藤正彦裁判官補足意見。橋下徹弁護士の事案)
- 最高裁平成24年2月20日決定(光市母子殺害事件),広島高裁平成21年7月2日判決,広島高裁平成20年4月22日判決
〔いずれも公開前に裁判所HPの裁判例検索で実在・内容を確認し,最高裁判例で掲載があるものは詳細ページのURLを挿入すること。〕