メインコンテンツへスキップ
       

裁判所の予算は誰が決めているのか――二重予算制度と,令和2年度から令和8年度まで附記が0件だったこと(AIリライト)

第1 この記事が扱う範囲と結論

1 対象,基準日及び資料の対象期間

裁判所の概算要求額と,成立した予算額には差がある。
この差を「最高裁判所の要求が削られた」と書きたくなるが,裁判所の予算には各省庁とは異なる手続が用意されており,その手続を前提にすると,誰がどの段階でその差を作ったのかは公表資料からは分からない。
本記事は,裁判所法,財政法及び予算決算及び会計令の条文を確認した上で,令和2年度から令和8年度までの一般会計予算書を実際に数えた結果を整理するものである。

本記事の調査の基準日は令和8年9月6日であり,法令の適用時点も同日である。
条文はいずれも同日にe-Gov法令検索で確認した本文による。
予算書の計数の対象期間は令和2年度から令和8年度までの一般会計予算(当初及び補正)であり,決算については令和6年度分を用いた。
国会答弁は,令和4年4月14日及び令和6年4月4日の各参議院法務委員会の会議録による。

2 令和8年度の概算要求額と予算額

裁判所所管の令和8年度歳出概算要求書の総表によれば,概算要求額は359,169,102千円であり,前年度予算額335,192,439千円に対して23,976,663千円の増である。
これに「重要政策推進枠」としての要望額を加えた金額は,財務省が令和7年9月3日に公表した令和8年度一般会計概算要求・要望額の表では,裁判所所管につき概算要求額3,592億円・要望額58億円・計3,650億円と示されている。
他方,成立した令和8年度予算額は349,473,805千円である。
概算要求額との差は9,695,297千円であり,要望額を含めた要求・要望額との差は約155億円である。

「概算要求額」と「要求・要望額」は別の数字であるから,差を論じるときはどちらを指しているのかを先に決めておく必要がある。
以下では,条文上の手続を追う場面では概算要求額を,最高裁判所が公表する概算要求の概要の記載に即して述べる場面では要求・要望額を用いる。

なお,令和9年度概算要求の概要は本記事の基準日の時点で既に公表されており,要求・要望額は3,776億円(377,633百万円),令和8年度予算額349,474百万円に対して28,160百万円(8.1%)の増である。
この要求・要望額には,要望5,696百万円及び「強く豊かな日本」投資枠23,188百万円が含まれている。
令和9年度予算は基準日の時点で成立していないから,後述する附記の有無を数えることはできない。

3 公表資料から書けること

令和8年度の概算要求額359,169,102千円に対し,成立した予算額は349,473,805千円であり,その差は9,695,297千円である。

財政法19条の附記は,令和2年度から令和8年度までの一般会計予算書に1件もない。
裁判所所管が計上されている当初7本・補正7本の計14本・12,733頁を数えた結果である(補正のうち3本は裁判所所管を計上していないので判定に用いない)。
すなわち,この7年度に,附記を伴う事態,つまり二重予算は生じていない。

ただし,附記が0件であることが「最高裁判所長官が予定経費増額要求明細書を出さなかった」ことを意味するのか,「内閣が減額しなかった」ことを意味するのかは,条文の文言だけでは決まらない(第4の7)。

4 公表資料からは書けないこと

「内閣が削減した」「最高裁判所の要求が削られた」とは書けない。
誰がどの段階で差を作ったのかは,公表資料からは分からないからである。

「減額はなかった」とも書けない。
財政法19条にいう減額は,予算決算及び会計令9条2項により閣議決定の通知の中でも明示されるが,この通知が公表される仕組みは条文にないからである。

「最高裁判所が納得していた」「異議がなかった」とも書けない。
附記に至るかどうかは最高裁判所自身の判断に係るから,附記が無いことから満足を推定することはできないからである。

5 両側とも書けない理由

附記は,内閣が減らせば自動的に付くものではない。
減額の通知を受けた最高裁判所長官が「増額の必要を認めたとき」に予定経費増額要求明細書を作成し,これを受けて財務大臣が作成するものだからである(予算決算及び会計令11条の2・11条の3)。
引き金は最高裁判所の側にある。

第2 裁判所の予算だけが通る手続

1 裁判所法83条

裁判所法83条は,次のとおり定めている。

第八十三条(裁判所の経費) 裁判所の経費は、独立して、国の予算にこれを計上しなければならない。
2 前項の経費中には、予備金を設けることを要する。

1項が,一般会計の中で「03 裁判所所管」という独立した所管が立っている根拠である。

2項は,(項)裁判所予備経費の根拠である。
裁判所所管には毎年8,000千円の予備経費が同額で計上されているが,これは法律が予備金を置くことを求めているからである。

2 財政法17条から21条まで

財政法は,予算の見積りから作成までの手続を次のとおり定めている。

内容
17条1項最高裁判所長官(衆議院議長・参議院議長・会計検査院長も同じ)は,歳入歳出等の見積に関する書類を作り,「内閣における予算の統合調整に供するため」内閣に送付する
17条2項内閣総理大臣及び各省大臣は,同じ書類を財務大臣に送付する
18条1項財務大臣が前条の見積を検討して必要な調整を行い,概算を作って閣議の決定を経る
18条2項内閣は,その決定をしようとするとき,裁判所に係る歳出の概算については,あらかじめ最高裁判所長官の意見を求めなければならない
19条内閣が裁判所の歳出見積を減額した場合は,その詳細を歳入歳出予算に附記し,国会が修正する場合に必要な財源も明記しなければならない
20条2項各省各庁の長(最高裁判所長官を含む。)は,18条の閣議決定のあった概算の範囲内で予定経費要求書を作り,財務大臣に送付する
21条財務大臣は,予定経費要求書等に基づいて予算を作成し,閣議の決定を経る

裁判所は「各省各庁」に含まれる。
20条2項は「衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官、会計検査院長並びに内閣総理大臣及び各省大臣(以下各省各庁の長という。)」と定義し,21条も「衆議院、参議院、裁判所、会計検査院並びに内閣(内閣府及びデジタル庁を除く。)、内閣府、デジタル庁及び各省(以下「各省各庁」という。)」と定義している。
いずれも括弧書きが列挙全体を受けているから,「裁判所は各省各庁に入っていない」と書くのは誤りである。

3 予算決算及び会計令が定める期限と経路

予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)8条は,次のとおり定めている。

第八条(歳入歳出等の見積書類の作製及び送付) 財政法第十七条第一項の規定により、内閣に送付すべき書類は、財務大臣の定めるところにより作製し、前年度の八月三十一日までに、これを内閣に送付しなければならない。
2 内閣は、前項の書類の送付を受けたときは、これを遅滞なく財務大臣に回付しなければならない。
3 財政法第十七条第二項の規定により、財務大臣に送付すべき書類は、財務大臣の定めるところにより作製し、前年度の八月三十一日までに、これを財務大臣に送付しなければならない。

毎年8月末に概算要求が出るのは,8条が定める法令上の期限によるものである。
裁判所ルートは1項,各省庁ルートは3項であり,条も期限も同じで,送付先が違うだけである。

「裁判所は内閣に出すから財務省の査定を受けない」とは書けない。
8条2項により,内閣は受け取った書類を遅滞なく財務大臣に回付するからである。
各省庁と違うのは,①形式上の宛先,②財政法18条2項の意見聴取,③同19条の附記,④予算決算及び会計令9条2項の減額明示の4点であって,財務大臣が書類を受け取ること自体は同じである。

「概算要求」「概算要求書」は法令上の用語ではない。
財政法及び予算決算及び会計令の条文にこの語は現れず,条文上の語は「見積に関する書類」(財政法17条1項),「概算」(同18条1項),「予定経費要求書」(同20条2項)である。
最高裁判所が公表している資料の名称も「歳出概算要求書」であるが,これは法令上の名称ではなく資料の題名である。

4 8月末という期限は内閣が政令で動かせる

毎年夏に閣議了解される,いわゆる概算要求基準(シーリング)は,各省庁に対する要求の枠を定めるものである。
令和8年度予算の概算要求について(令和7年8月8日閣議了解)は,1頁・空白を除いて1,222字の文書であり,「裁判所」「最高裁」「国会」「会計検査院」のいずれの語も現れない。
期限については「2.要求期限 ○要求・要望に当たっては,8月末日の期限を厳守。」と定めている。

もっとも,この閣議了解が各省庁の期限を作っているわけではない。
各省庁の期限も予算決算及び会計令8条3項が「前年度の八月三十一日まで」と定めており,裁判所ルート(1項)と各省庁ルート(3項)は,同じ政令の同じ条が同じ日を定めているという関係にある。
閣議了解は,政令が定める期限を要求基準の中で確認しているものと読める。

そして,この期限は内閣が動かすことができ,実際に動かした例がある。
令和三年度予算に係る歳入歳出等の見積書類の送付期限の特例を定める政令(令和2年政令第230号。令和2年7月28日公布・官報号外第155号19頁)は,次のとおり定めた。

内閣は、財政法(昭和二十二年法律第三十四号)第四十七条の規定に基づき、この政令を制定する。
令和三年度予算に係る財政法第十七条各項に規定する歳入、歳出、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の見積に関する書類の送付期限は、予算決算及び会計令(昭和二十二年勅令第百六十五号)第八条第一項及び第三項の規定にかかわらず、令和二年九月三十日とする。

対象は「財政法第十七条各項」であり,「第八条第一項及び第三項」である。
すなわち,最高裁判所長官が内閣に送付する期限も,この政令によって1か月延びた。
裁判所だけが除かれてはいない。

したがって,「各省庁の8月末日は閣議了解が課しているが,裁判所の八月三十一日は政令が直接課しているので根拠が別である」とは書けないし,「裁判所の送付期限は内閣の都合では動かない」とも書けない。
書けるのは,裁判所の見積書類の送付期限も各省庁のそれも予算決算及び会計令8条が定めており,この政令の制定主体は内閣であって(財政法47条),令和3年度予算では内閣が令和2年政令第230号により両方の期限を令和2年9月30日に変更した,という形である。

令和8年度予算については,同種の特例政令は確認できなかった。
令和7年5月から同年9月までのインターネット版官報342号の目次を「送付期限」「見積書類」「見積に関する書類」「概算要求」の4語で走査したところ,該当は0件であり,取得に失敗した号はなかった。
陽性対照として令和2年7月の80号を同じ方法で走査すると,7月28日号外第155号を「送付期限」「見積書類」の2語で拾う。
したがって,令和8年度予算については,最高裁判所長官が内閣に送付する期限も,各省大臣が財務大臣に送付する期限も,予算決算及び会計令8条(1項・3項)のとおり令和7年8月31日であったと考えられる。

もっとも,この0件は上の4語で引いた範囲での0件であり,題名の言い回しが違う特例政令を捕まえることはできない。
e-Gov法令検索の題名検索で「送付期限の特例」を引くと令和2年政令第230号の1件だけであるが,題名検索の0件は不在の証明にならない。
条文の見出しそのもの(予算決算及び会計令8条であれば「歳入歳出等の見積書類の作製及び送付」)を入れても,本文の語(「見積に関する書類」)を入れても0件になるからである。
題名検索は,在ることの発見には使えても,無いことの確認には使えない。

5 8月31日が休日に当たる年の取扱い

令和7年8月31日は日曜日であった。
令和2年度分の令和元年8月31日と令和7年度分の令和6年8月31日も土曜日であり,本記事が扱う7年度のうち3年度で期限が休日に当たる。

期限の繰下げの根拠となりうる規定は3つ考えられるが,条文の文言上は,いずれも予算決算及び会計令8条1項には及ばないと読める。

第1に,行政機関の休日に関する法律(昭和63年法律第91号)2条は,次のとおり定めている。

第二条(期限の特例) 国の行政庁(各行政機関、各行政機関に置かれる部局若しくは機関又は各行政機関の長その他の職員であるものに限る。)に対する申請、届出その他の行為の期限で法律又は法律に基づく命令で規定する期間(時をもつて定める期間を除く。)をもつて定めるものが行政機関の休日に当たるときは、行政機関の休日の翌日をもつてその期限とみなす。ただし、法律又は法律に基づく命令に別段の定めがある場合は、この限りでない。

この規定は要件を2つ置いているが,いずれも満たさないと読める。
送付先は「内閣」であるところ,同法1条2項は「行政機関」を「法律の規定に基づき内閣に置かれる各機関、内閣の統轄の下に行政事務をつかさどる機関として置かれる各機関及び内閣の所轄の下に置かれる機関並びに会計検査院」と定義しており,列挙されているのは内閣の下に置かれる機関と会計検査院であって,内閣そのものは挙げられていない。
また,同法2条が対象とするのは「期間……をもつて定めるもの」であるところ,「前年度の八月三十一日まで」は確定した日付であって期間ではない。

第2に,裁判所の休日に関する法律(昭和63年法律第93号)2条は,「裁判所職員の給与、保障及び服務その他の司法行政に関する事項についての裁判所に対する申立て、届出その他の行為の期限」で法律又は最高裁判所規則が期間をもって定めるものについて繰下げを定めている。
法律番号が1つ違いであるため行政機関の休日に関する法律と混同しやすいが,こちらは裁判所に対して行う行為の期限に関する規定であり,最高裁判所長官が内閣に対して行う送付の期限には及ばない。

第3に,民法142条は,期間の末日が日曜日その他の休日に当たるときは,その日に取引をしない慣習がある場合に限り,期間はその翌日に満了すると定めている。
これも期間の末日に関する規定であり,同法138条は期間の計算方法について法令に特別の定めがある場合を除きこの章の規定に従うとしているが,そもそも予算決算及び会計令8条1項は期間を定めていない。

以上は条文の文言だけによる整理であり,逐条解説や実務上の取扱いまでは確認していない。
また,令和7年8月31日(日)に現に送付されたのか,翌9月1日(月)であったのかを示す資料も取得できていない。
なお,裁判所が概算要求基準の枠計算そのものに拘束されるかどうかは別の問題であり,これを明言した一次資料は確認できていない。
確認できたのは,令和8年度版の閣議了解に「裁判所」「最高裁」「国会」「会計検査院」の4語がないことと,送付期限については裁判所も同じ政令に服していることまでである。

第3 二重予算――附記に至る道筋

1 減額は閣議決定の通知の段階で明示される

予算決算及び会計令9条は,次のとおり定めている。

第九条(歳入歳出等の概算決定の通知) 財務大臣は、財政法第十八条第一項の規定により歳入、歳出、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の概算について閣議の決定を経たときは、これを各省各庁の長に通知しなければならない。
2 前項の場合において、同項の通知が閣議の決定により減額された国会、裁判所又は会計検査院の歳出見積に係るものであるときは、財務大臣は、当該通知において、その減額された旨を明らかにしなければならない。

この通知が公表される仕組みは,条文にはない。

2 附記は最高裁判所が動いて初めて作られる

予算決算及び会計令11条の2及び11条の3は,次のとおり定めている。

第十一条の二(予定経費増額要求明細書の作製及び送付) 衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官又は会計検査院長は、第九条の規定による歳出見積を減額した旨の通知を受けた場合において、増額の必要を認めたときは、その減額された歳出見積に係る予定経費増額要求明細書を作製し、予定経費要求書とともに財務大臣に送付しなければならない。

第十一条の三(予定経費増額要求明細書の附記事項の作成) 財務大臣は、前条の規定により、衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官又は会計検査院長から予定経費増額要求明細書の送付を受けたときは、財政法第十九条の規定に基く附記事項を作成しなければならない。
2 前項の規定による附記事項のうち、経費の区分は、歳出予算の区分に準ずるものとする。

3 附記に至る4段階

以上を並べると,附記に至る道筋は次の4段階になる。

①減額通知(予算決算及び会計令9条2項。公表されない)
②最高裁判所長官が「増額の必要を認めたとき」に予定経費増額要求明細書を提出(同11条の2)
③財務大臣が財政法19条の附記事項を作成(同11条の3)
④歳入歳出予算に附記(財政法19条)

②は最高裁判所の判断に係る。
①があっても最高裁判所が明細書を出さなければ,④は0のままになる。

第4 令和2年度から令和8年度まで,附記は0件

1 どこを数えたか

財政法19条は「歳入歳出予算に附記する」と定めているから,数えるべきは一般会計歳入歳出予算の本体である。
各目明細書や「予算の概要」を数えても意味がない。

本体は,財務省の予算書・決算書データベースから取得できる。
当初予算は「/server/西暦/dlpdf/DL西暦11001.pdf」,補正予算は「/server/西暦/dlpdf/DL西暦2100号数.pdf」という形であり,令和8年度当初であれば https://www.bb.mof.go.jp/server/2026/dlpdf/DL202611001.pdf である。

縦組みの官庁PDFはテキスト抽出時に文字の間へ空白が入り,2字の熟語が検索に掛からないことがあるため,以下の計数はいずれも頁ごとに空白を除去した上で行っている。

2 当初予算7本の結果

年度予算書本体の頁数「附記」「付記」「二重予算」
令和2年度1,117頁
令和3年度1,110頁
令和4年度1,082頁
令和5年度1,118頁
令和6年度1,139頁
令和7年度1,146頁
令和8年度1,174頁

語の欄は「附記」「付記」「二重予算」の三語をそれぞれ数えた結果であって,いずれも0件である。
「予定経費増額要求明細書」も,7本すべてで0件である。

3 補正予算も数える必要がある

財政法29条は「内閣は、次に掲げる場合に限り、予算作成の手続に準じ、補正予算を作成し、これを国会に提出することができる。」と定めている。
「予算作成の手続に準じ」とあるから,18条2項の意見聴取も19条の附記も補正予算に準用される。
予算決算及び会計令には補正に固有の規定が置かれていないので,8条から11条の3までがそのまま「準じ」で回ることになる。

したがって,当初予算だけを数えるのでは足りない。
そこで,令和2年度から令和8年度までの補正予算10本も数えた。

補正予算頁数「裁判所所管」が現れる頁「附記」「付記」「二重予算」
令和2年度第1号281頁掲載なし
令和2年度第2号216頁5頁
令和2年度第3号693頁6頁
令和3年度第1号699頁7頁
令和4年度第1号84頁掲載なし
令和4年度第2号746頁8頁
令和5年度第1号785頁8頁
令和6年度第1号830頁10頁
令和7年度第1号878頁12頁
令和8年度第1号77頁掲載なし

4 裁判所所管を計上していない3冊は判定に用いない

補正予算は,全ての所管を載せるとは限らない。
その年の補正で歳出を追加しない所管は,そもそも冊子に出てこない。

令和2年度第1号・令和4年度第1号・令和8年度第1号の3冊には,裁判所所管が計上されていない。
令和2年度第1号(281頁)の目録の歳出は,内閣・内閣府・総務省・法務省・外務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省・防衛省の13所管であり,本文中に「裁判所」の語が1度も現れない。
令和4年度第1号(84頁)の目録の歳出は財務省・経済産業省・国土交通省の3所管だけで,「裁判所」は81頁に1回だけ現れるが,これは巻末の所管コード一覧(「03裁判所」)である。
令和8年度第1号(77頁)も同じで,「裁判所」は巻末のコード一覧の1回だけである。

この3冊で附記が0件でも,それは「裁判所への減額がなかった」ことを意味しない。
裁判所が載っていない冊子だからである。

頁数の大小では判定できない。
令和2年度第1号は281頁あって裁判所所管が0頁であるのに対し,令和4年度第2号は746頁で8頁に現れる。
「薄い冊子だから特定の所管限り」という見当は付かないので,目録を見るほかない。

5 対照の置き方

縦組みのPDFから「0件」を主張するときは,対照を置く必要がある。
本記事では,対照を2段構えにした。

何を確かめるか手段結果
第1段抽出の健全性。縦組みPDFから語を拾えているか必ず現れる語を数える「歳入歳出予算」は各冊5頁から64頁,「財務省」は14頁から65頁で検出
第2段観測対象がその冊に在るか。裁判所所管が計上されているか目録と「裁判所所管」の語当初7本は全冊(各14頁から15頁)。補正は10本中7本

第1段だけでは足りない。
「抽出は正常だが,そもそも裁判所が載っていない」という失敗を,第1段は検出できないからである。
前記の3冊は,第1段を通過して第2段で落ちたものである。

さらに,抽出時の読み順の並べ替えの有無を変えても,「附記」「付記」「二重予算」「予定経費増額要求明細書」の4語はいずれも17冊すべてで0件であった。
「裁判所」のような正の件数は方法によって数件ずれるが,0件という結論は抽出方法に依存しない。

6 数え直した結果

区分冊数頁数附記
当初予算7本7,886頁
補正予算(裁判所所管が計上されている冊)7本4,847頁
合計14本12,733頁
(参考)裁判所所管が計上されていない補正3本442頁判定に用いない

令和2年度から令和8年度までの,裁判所所管が計上されている予算書14本・12,733頁に,財政法19条の附記は1件もない。
「附記」「付記」「二重予算」「予定経費増額要求明細書」のいずれも0件である。

暫定予算については条文の建て付けが異なる。
財政法30条には,29条のような「予算作成の手続に準じ」という文言がないから,19条が暫定予算に及ぶかは条文上明らかではない。
もっとも,令和8年度の暫定予算(331頁)を数えても附記は0件であった。

7 この0から読めること

どの読み方をしても言えるのは,財政法19条の附記が令和2年度から令和8年度までの一般会計予算書のうち裁判所所管が計上されている14本に1件もないこと,したがってこの7年度に附記を伴う事態,つまり二重予算は生じていないことである。

もっとも,この0を何の不存在と読むかについては,条文の建て付けから2つの読み方が立つ。
財政法19条と予算決算及び会計令11条の3とでは,附記の引き金が違うからである。

根拠主体引き金効果
財政法19条(法律)内閣内閣が減額した場合(明細書は要件になっていない)附記と財源明記
予算決算及び会計令11条の3(政令)財務大臣明細書の送付を受けたとき19条に基づく附記事項の作成

19条は「減額した場合においては」と定めるだけで,明細書を要件にしていない。
附記の対象も「送付に係る歳出見積」,すなわち17条1項で内閣に送付された見積である。

そこで,第1に,政令が19条を具体化しており附記は明細書が出たときに限られる,という読み方がある。
これは予算決算及び会計令11条の2・11条の3の構造には合う読み方であり,この読みでは,附記0件は「最高裁判所長官が予定経費増額要求明細書を出さなかった」ことを意味する。
この読みを支える材料としては,「附記」という語が予算決算及び会計令の本則201か条を通じて11条の3にしか現れないこと(財政法側も19条に1回だけである),明細書が出なかった場合に誰が19条の附記を作るのかを定めた規定が政令に存在しないことが挙げられる。
政令は明細書のルートしか用意していない設計だ,と読むことができる。

第2に,19条の義務は減額があれば発生し,11条の3は作成事務を割り振ったにすぎない,という読み方がある。
この読みでは,附記0件は「内閣が減額しなかった」ことを含意しかねない。
これを支える材料としては,19条の主語が「内閣」であるのに対し11条の3の主語は「財務大臣」であり,11条の3は内閣の義務を果たすための内部的な事務分担と読むのが自然であること,事務分担を定めた政令が法律上の義務の発生要件を狭めることはできないことが挙げられる。
この読みでは,前記の政令の欠落は単なる欠缺にすぎないことになる。

条文の文言だけでは,どちらとも決まらない。
この点を述べた一次資料は確認できていない。

もっとも,どちらの読みを採っても,実務上の見え方は変わらない。
後述するとおり,令和4年度の事務官65人から39人への変更は,8月末から12月中旬までの意見調整の中で起きており,閣議決定はその後である。
減らす前に要求側が自ら下げているのであるから,内閣が「減額」する場面がそもそも生じない。

8 この0から読めないこと

前記のいずれの読み方をしても,「最高裁判所が納得していた」とは書けない。
第1の読みでは,予算決算及び会計令11条の2が「増額の必要を認めたとき」という要件を置いている以上,明細書を出さなかったことから満足を推定することはできないからである。
第2の読みでも,減額がなかったこと自体は,8月末から12月中旬までの意見調整の中で最高裁判所が要求を改めた可能性を排除しない。
同じ理由で,「対立がなかった」とも書けない。

第1の読みを採る場合,最高裁判所が明細書を出さなかった理由としては,①そもそも減額がなかった,②減額はあったが増額の必要を認めなかった,③増額の必要は認めたが出さないことを選んだ,の少なくとも3つがありうる。
外部からこの3つを区別することはできない。
①の材料である予算決算及び会計令9条2項の通知が公表されないからである。

第5 差はどこで生まれているのか――国会答弁

令和4年4月14日の参議院法務委員会(第208回国会・第6号)では,裁判所職員定員法改正案の審議の中で,この点が正面から取り上げられている。
以下の発言番号は,国会会議録検索システムの会議録における発言の通し番号である。

1 時期は答弁で特定できる

財務省主計局次長は,回数の把握はないとしつつ,次のとおり述べている(発言番号107)。

九月、八月の末の御要望をいただいてから十二月中旬にかけまして密接に意見交換をさせていただいて意見調整をさせていただいた

8月末の要求から12月中旬までの意見調整の中で差が生じていることは,答弁で確認できる。

2 財務省の説明

同次長は,二重予算について次のとおり述べている(発言番号115)。

御指摘のとおり、裁判所の予算につきましては、裁判所の意に反して、例えば行政府において歳出の見積りを減額して予算に国会を、提出するというふうなことになる場合には、財政法十九条の規定により、裁判所の歳出見積りの詳細を記載するとともに、国会が裁判所の歳出額を修正する場合に必要な財源を明記するという、いわゆる二重予算制度ということになっていると、これ御指摘のとおり、三権分立というふうな趣旨を踏まえたものと承知してございます。
その上で、いずれにしましても、現在の予算制度におきましては、裁判所の予算について、その独立性を十分に尊重しながら、合意の下に意見調整を図るというふうなこととしてございます。

同次長は,発言番号105で「独立機関でございます裁判所の予算につきましては、その独立性を十分に尊重しつつ、意見調整を図り、合意を得る必要がある」と述べ,発言番号109で「政府全体の定員合理化の動きというふうなものを御紹介しながら、最終的には、最高裁判所におきまして意見調整の結果、自主的に最終的に御判断をいただいた」とも述べている。

3 「三十九人」という数字の出どころ

発言番号108から113までを続けて読むと,「自主的に判断した」の内実が分かる。

発言番号発言者内容
108山添拓議員「その密接な意見交換の中で、最高裁に対して、政府の定員合理化方針にもっと従うようにと、もっと協力するようにと、こういうことも求められたのですか。」
109財務省主計局次長「政府全体の定員合理化の動きというふうなものを御紹介しながら、最終的には、最高裁判所におきまして意見調整の結果、自主的に最終的に御判断をいただいた」
110山添拓議員「定員合理化方針を紹介して、更にもっと頑張るべきだと、こういうふうに伝えられたということですかね。」
111財務省主計局次長「事件動向を見ますと、成年後見人関係の事件など一部の事件を除きましては増加に歯止めが掛かっているというふうな状況の中、事務官三十九名の増員を図ることで事務処理の支援のための体制強化等を図ることができるのではないかといったような議論をさせていただいた」
112山添拓議員「最高裁は、今財務省が述べたようなことを検討せずに概算要求を上げていたのですか。」
113最高裁判所事務総局総務局長「概算要求の際には六十五人の増員が必要というふうに考えたところでありますが……事務官三十九人の増員を図ることで……自主的に判断したものであります。」

最終的な数字である「三十九名」そのものが財務省側から議論に出ていたことを,財務省自身が述べている。
しかも根拠として事件動向(成年後見関係の事件を除き増加に歯止めが掛かっていること)まで挙げ,その直後の発言番号113で最高裁判所が同じ39人を「自主的に判断した」と述べている。

これは,要求を改めたのが最高裁判所であること自体を否定するものではない。
形式上,財政法19条の減額は行われていない。
もっとも,「自主的」の内実は,財務省が数字と理由を示した議論の結果としての判断だ,ということになる。

4 最高裁判所の説明

最高裁判所事務総局総務局長は,令和4年度の概算要求の中身を次のとおり述べている(発言番号103)。

令和四年度の概算要求におきましては、判事補の減員のほかに、一般職につきましては、国家公務員のワーク・ライフ・バランス推進を図るため家裁調査官二人、事件処理支援の体制強化を図るため事務官六十五人の増員要求をしております。速記官の振替減及び定員合理化減との差引き合計でプラス・マイナス・ゼロの要求をしたところでございます。

その上で,発言番号113で次のとおり述べている。

裁判所事務官につきましては、事件処理の支援のための体制強化のために、概算要求の際には六十五人の増員が必要というふうに考えたところでありますが、概算要求後、財務省と意見交換を行った上で、政府が国家公務員の定員について厳しい姿勢で合理化に取り組んでいることや、他の行政機関が定員の再配置により業務の増大に対処し増員を抑制しているというようなことも踏まえまして、裁判所におきましても、国家機関として現有人員の有効活用を更に図れるかを精査し、改めて増員の必要性について検討したところ、事務官三十九人の増員を図ることで事件処理の支援のための体制強化等を図ることができるものと自主的に判断したものであります。

事務官65人が39人になり,裁判官以外の職員は差引プラス・マイナス・ゼロの要求が△26人になった。
各年度の予算定員そのものの推移は,「裁判所職員の予算定員の推移」で俸給表別に整理している。

なお,同じ委員会で法務大臣は,発言番号121で「裁判所の経費は独立して国の予算に計上するものとされておりまして、裁判所の予算の原案は独立の機関たる最高裁判所が独自の判断に基づいて内閣に提出することとされております。したがいまして、予算編成過程における財務当局との協議も最高裁判所の事務当局が当たるものでございまして、法務省はこれに介入すべき立場にはないと考えております。もっとも、裁判所の予算につきましても、最終的に予算案を作成するのは内閣の責務であります。」と述べている。

5 同じ委員会にある正反対の評価

山添拓議員は,最高裁判所の答弁の直後に次のとおり述べている(発言番号114)。

いや、そんなこと自主的に判断されないでいただきたいと思うんですよね。元々最高裁として必要だと提起した人数ですから。
財務省に伺いますけど、三権分立の下で最高裁の予算や定員というのは独自に定められる、決められるべきものだと思います。財務省は、最高裁の概算要求から更に減らせと、こういうふうに求める権限はないですよね。

財務省の二重予算に関する発言番号115の答弁は,この問いに対する答えである。

同議員は,発言番号118で「自主的、自律的に判断した上で提出されたものがこの概算要求であったはずです。ところが、そうして最高裁が必要に基づいて示した概算要求を財務省との意見交換を通じてすぐに引っ込めてしまうと。これでは三権分立などあったものではないと思うんです。」と述べ,発言番号122で「概算要求から更に削れということを財務当局との意見調整の名の下に行っているというのが現実なんですね。」とも述べている。

高良鉄美議員も,発言番号133で「行政機関でない裁判所は、政府の定員合理化計画に拘束されるものではないとしつつ、政府からの協力依頼を受け、まあ自主的にと言っていますけれども、最高裁は定員を削減しています。」と述べている。

6 令和6年度の同じ構図

令和6年4月4日の参議院法務委員会(第213回国会・第4号)で,最高裁判所事務総局総務局長は次のとおり述べている(発言番号121)。

令和六年度の概算要求につきましては、最高裁におきまして、裁判手続等のデジタル化の検討、準備、記録の管理の適切な運用の確保、裁判手続に関する各種法制の検討への関与といった事務に対応するために裁判所事務官五十一人の増員を要求したところでございます。

仁比聡平議員は,発言番号120で「今回の法案、三十一人、裁判所職員の員数を減少すると。これは、昨年夏の概算要求の時点ではプラス・マイナス・ゼロでした。……最高裁の事務官を概算要求では五十一人プラスという要求をしていたのが、二十人という今回の法案になっている」と述べ,発言番号154の反対討論でも「概算要求では最高裁事務官の五十一人増員要求をしていたものが、本予算では二十人の増員要求にとどまりました。」と述べている。

年度概算要求(裁判官以外)成立事務官
令和4年度プラス・マイナス・ゼロ△26人要求65人→39人
令和6年度プラス・マイナス・ゼロ△31人要求51人→20人

2年度で同じ構図が確認でき,要求人数はいずれも最高裁判所自身の答弁による。
ただし,「自主的に判断した」という経緯についての答弁があるのは令和4年度の1件だけであり,令和6年度の質疑では,この問いの後,答弁は職員の長期病休の話に移る。
各年度の定員法改正の審議資料そのものは,「裁判所職員定員法の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等」に掲載している。

7 両論を併記する理由

政府側は,財務省・最高裁判所の双方とも「最高裁判所の自主的判断」と説明している。
他方,複数の会派の議員が,その「自主的」を疑っている。
そして,財務省自身が発言番号111で,最終的な39人という数字が財務省側から議論に出ていたことを認めている。

どちらが実態かは,公表資料からは決められない。
記事や意見書で扱うときは,両方を並べるのが事実に忠実である。
なお,予算と定員をめぐる最高裁判所事務総局の姿勢については,「全司法労働組合の全国統一要求書に対する最高裁判所事務総局の本音」でも別の角度から検討している。

第6 予算書の金額欄の読み方

1 「要求額」欄は概算要求額ではない

予算書本体の裁判所所管の頁は,表題が「令和8年度裁判所所管 甲号 予定経費要求書」である(刷り299頁。PDFでは309頁)。
そこに印刷された「令和8年度要求額」欄は349,473,805千円,すなわち成立した予算額であって,8月末の概算要求額359,169,102千円ではない。

理由は条文にある。
財政法20条2項は,予定経費要求書を「18条の閣議決定のあった概算の範囲内で」作ると定めており,閣議決定の後に作る書類であるから,概算要求額ではありえない。
そして財政法28条は「国会に提出する予算には、参考のために左の書類を添附しなければならない。」とし,その2号に「各省各庁の予定経費要求書等」を挙げている。
予算書本体に予定経費要求書が綴じられているのは,この28条2号によるものである。

2 「前年度予算額」欄は前年度の当初予算額ではない

同じ頁には「前年度予算額」欄があり,令和8年度予算書では361,392,211千円と印刷されている。
ところが,令和7年度予算書の「要求額」欄が示す令和7年度の成立予算額は335,192,439千円であって,一致しない。

差の26,199,772千円は,令和7年度補正予算(第1号)による増減で説明できる。
同補正の裁判所所管の甲号予定経費補正要求書は,成立予算額335,192,439千円に追加額26,770,066千円と修正減少額△570,294千円を加減し,差引額26,199,772千円,改令和7年度予算額361,392,211千円としている。
すなわち,令和8年度予算書の「前年度予算額」欄は,前年度の当初予算額ではなく,補正後の予算額である。

この欄については,令和7年度予算書の裁判所所管の頁に「(前年度予算額は、本年度要求額との比較対照のため組替え掲記したので、成立予算額とは符合しない。)」という注記が印刷されている。
年度によってこの注記の有無が異なるので,注記が見当たらないことを根拠に「前年度の成立予算額と一致するはずだ」と読んではならない。

なお,この補正では(項)裁判所予備経費8,000千円が増減なしのまま据え置かれている。

3 「要求額」という見出しは三か所にある

「要求額」という見出しは,①8月に公表される歳出概算要求書,②歳出予算各目明細書,③予算書本体の甲号予定経費要求書,の三か所に現れ,三つとも意味が違う。
予算書本体の「要求額」欄を概算要求額と読むと,充足率が常に100%に見えることになる。

第7 条文と予算資料の対応

1 対応表

条文と,公表資料に現れる形とを対応させると,次のとおりである。

内容資料に現れる形
裁判所法83条1項裁判所の経費は独立して国の予算に計上「03 裁判所所管」という独立した所管
裁判所法83条2項前項の経費中には予備金を設けることを要する(項)裁判所予備経費8,000千円が毎年同額
財政法17条1項最高裁判所長官は見積書類を内閣に送付歳出概算要求書。送付の期限は八月三十一日で,各省各庁の概算要求額の公表(例年9月上旬)とは別の日である
財政法17条2項内閣総理大臣・各省大臣は見積書類を財務大臣に送付裁判所ルートとの違いは宛先であって期限ではない
予算決算及び会計令8条1項・2項前年度の八月三十一日まで/内閣は遅滞なく財務大臣に回付8月末という時期。財務大臣も受け取ること
予算決算及び会計令8条3項各省庁ルートも前年度の八月三十一日まで期限は裁判所と各省庁で同じ
財政法47条施行に必要な事項は政令で定める令和2年政令第230号で,令和3年度予算の送付期限を裁判所・各省庁とも令和2年9月30日に変更
財政法18条2項あらかじめ最高裁判所長官の意見を求めなければならない資料には現れない(8月末から12月中旬までの意見調整)
予算決算及び会計令9条2項減額された歳出見積に係る通知ではその減額された旨を明らかにする公表されない
予算決算及び会計令11条の2・11条の3最高裁判所が増額の必要を認めたときに増額要求明細書,財務大臣が附記事項を作成二重予算の引き金
財政法19条減額した場合は歳入歳出予算に附記令和2年度から令和8年度まで0件
財政法20条2項・28条2号概算の範囲内で予定経費要求書/参考のために添附予算書本体の「甲号 予定経費要求書」
財政法27条予算は前年度の一月中に国会に提出するのを常例とする予算書の提出時期
財政法29条補正は特に緊要となった経費の支出等(1号)と追加以外の変更(2号)に限る補正予算の「追加額」欄と「修正減少額」欄
財政法31条予算成立後,内閣が各省各庁の長に配賦し,項を目に区分する各目明細書の「目」
財政法32条・33条項の目的外使用の禁止/項の間の移用は原則不可/目の間の流用は財務大臣の承認/移用・流用は決算報告書に理由を記載決算の「流用等増△減額」

裁判所の会計事務そのものの取扱いについては,「裁判所の会計執務資料の三部作の解説」で最高裁判所事務総局経理局の執務資料を紹介している。

2 決算に現れる財政法33条

令和6年度決算の裁判所所管で「流用等増△減額」が0でない目は5つあり,合計は±0である。

(項)(目)流用
最高裁判所庁費△82,634,000円
最高裁判所修習資金貸与金+78,700,000円
最高裁判所裁判官等法服費+3,934,000円
下級裁判所法廷等器具整備費△46,761,000円
下級裁判所国有財産管理処分庁費+46,761,000円

流用は(項)の内部で閉じている。
最高裁判所は82,634=78,700+3,934,下級裁判所は46,761=46,761である。
これは,財政法33条1項が項の間の移用を原則として禁じ,同条2項が目の間の流用だけを財務大臣の承認を条件に認めていることの,そのままの現れである。

なお,(項)別の決算書の「流用等増△減額」欄は,どの年度でも構造上0になる。
流用は同じ項の中で起きるので,項の合計では相殺されるからである。
流用の有無を数えるときは,目のレベル(決算参照)で数える必要がある。

3 決算に現れる裁判所法83条2項の予備金

裁判所法83条2項の予備金が使われた年は,決算に使途が現れる。
令和6年度決算の(項)裁判所予備経費には目が2つ立っており,(目)検察審査員旅費が予算額7,055,000円・支出済4,671,733円,(目)裁判所予備経費が945,000円・支出済0円である。
財政法31条2項が「配賦する場合においては、項を目に区分しなければならない。」と定めているためである。

第8 「減額」と「差」の使い分け

「減額」という語は,財政法19条及び予算決算及び会計令9条2項の法令上の用語であって,内閣が裁判所の歳出見積を減らす行為を指す。
概算要求額と予算額の差を指してこの語を使うと,法的に別の事態を指してしまうから,「差」と書くのが正確である。

以上を,公表資料に即して書ける形に直すと,次のとおりである。

事項書ける形
金額「概算要求額と予算額に差がある」「要求○○に対し予算○○(充足率○%)」
附記「財政法19条の附記は,令和2年度から令和8年度までの予算書に1件もない」
二重予算「最高裁判所長官が予定経費増額要求明細書を提出して二重予算に至った事例は,この7年度に存在しない」

概算要求書そのものの読み方については,「最高裁判所の概算要求書(説明資料)」で,資料の入手先と構成を整理している。

第9 出典・参考資料

1 法令

裁判所法(昭和22年法律第59号)83条
財政法(昭和22年法律第34号)17条から21条まで,27条から33条まで,47条
予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)8条,9条,11条の2,11条の3
行政機関の休日に関する法律(昭和63年法律第91号)1条,2条
裁判所の休日に関する法律(昭和63年法律第93号)2条
民法(明治29年法律第89号)138条,142条
令和三年度予算に係る歳入歳出等の見積書類の送付期限の特例を定める政令(令和2年政令第230号。令和2年7月28日付け官報号外第155号19頁)

条文はいずれもe-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/ )で取得した本文による。
令和2年政令第230号は,インターネット版官報の当該頁のPDF原文と,e-Gov法令検索の法令ID 502CO0000000230 の本文との両方で確認した。

2 予算書・決算書及び概算要求書

財務省「予算書・決算書データベース」(https://www.bb.mof.go.jp/hdocs/bxsselect.html )に掲載された,令和2年度から令和8年度までの一般会計予算(当初7本・補正10本),令和8年度一般会計暫定予算並びに令和6年度歳入歳出決算及び決算参照
財務省「令和8年度一般会計概算要求・要望額」(令和7年9月3日)
裁判所ウェブサイト「裁判所の予算・決算・財務書類」の「予算」(https://www.courts.go.jp/about/yosan_kessan/yosan/index.html )に掲載された,令和8年度歳出概算要求書等,令和8年度予算の概要,令和8年度一般会計歳出予算各目明細書,令和8年度概算要求の概要及び令和9年度概算要求の概要

3 国会会議録

第208回国会 参議院法務委員会 第6号(令和4年4月14日)
第213回国会 参議院法務委員会 第4号(令和6年4月4日)

いずれも国会会議録検索システム(https://kokkai.ndl.go.jp/ )で全文を取得し,発言番号を特定して確認した。

4 閣議了解

令和8年度予算の概算要求について(令和7年8月8日閣議了解。財務省ウェブサイト掲載)

5 関連記事

裁判所職員の予算定員の推移
最高裁判所の概算要求書(説明資料)
裁判所職員定員法の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等
裁判所の会計執務資料の三部作の解説
全司法労働組合の全国統一要求書に対する最高裁判所事務総局の本音