業務の再開に関するQ&A(令和2年5月1日付の最高裁判所総務局参事官の事務連絡添付の文書)

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新型コロナウイルス感染症への対応について(令和元年5月1日付の最高裁判所総務局参事官の事務連絡)添付の,業務の再開に関するQ&Aは以下のとおりです。

業務の再開に関するQ&A

   5月7日以降の情勢は現時点では明らかではないが,緊急事態宣言が延長される可能性もあるところ,緊急事態宣言の対象地域に存する裁判所は,国の一機関として,国民の命と健康を守るため,人の接触の機会を可能な限り減らし,感染拡大防止に最大限協力することを基本的な姿勢とするべきであり,裁判所利用者に一定の不便をおかけすることにはなるが,裁判官,裁判所職員としては,緊急事態宣言の趣旨に即した行動をとることが現時点における最大の責務といえる状況にあることに変わりはない。
   したがって,緊急事態宣言の対象地域にある裁判所は,新型インフルエンザ等対応業務継続計画(BCP)に基づいて,引き続き,継続業務だけを行う縮小態勢として,その業務に必要な人員が在庁して職務を行うことが原則となるが,事態が長期化してきている中での迅速な裁判の要請や早期の権利実現の必要性等を踏まえ,事件や手続の性質,早期に判断を示す必要性等を考慮した上,現状においては実施を見送っている裁判手続のうち一定程度を再開することが考えられるところ,現在の縮小態勢を維持しつつも,一部業務の再開を検討していく上で考慮すべき基本的な事項について, Q&Aを作成したので,参考にされたい(以下は,主として民事通常部を念頭においたものであるが,その他の部署についても,各担当事件の性質及び早期実施の必要性の異同を踏まえつつ, これらを参考にして,業務の再開について検討することが考えられる。)。
   
(総論)
問1 引き続き緊急事態宣言の対象地域にある裁判所において,現在の縮小態勢を維持したうえで,一部業務の再開を検討する場合に, どのような検討が必要となるのか。
答 緊急事態宣言及び外出自粛要請が現在のレベルで継続するような場合には,現在の執務態勢を維持することが基本となるが,その場合であっても,裁判官を含む庁全体の現在の登庁人数(多くの庁では8割ないし6割減少している。)を原則としては増加させないことを前提に,可能な範囲で,縮小していた事件を一部再開することが考えられる。
   まず,庁全体でどのような種類の事件を再開すべきかを検討すべきことになるが,執行事件や破産事件,新型コロナウイルスの影響に関連して緊急性が増している事件等の再開を検討し, そのうえで,BCP上第2順位である民事訴訟事件の一部再開を検討することになる。民事訴訟事件については,次回期日に判決言渡し,和解成立,弁論終結が予定あるいは見込まれる事件などのうち,緊急性の高い事件が考えられるが(被告への意思表示を含む訴状の送達なども緊急性の高い場合があろう。) ,裁判官を含む庁全体の現在の登庁人数を原則としては増加させないことを前提に, どのような形で民事訴訟事件の一部再開を行っていくかについては,庁規模等の実情により異なるところであり,様々な方法が想定される。例えば一つの例を挙げれば,単独事件については担当裁判官の週の登庁日を1日に固定したり,隔週で週に2日登庁することとしたりするなどし(担当書記官はその日に登庁し),各庁・各部内において各裁判官の登庁する曜日等を調整した上で,登庁日にのみ再開業務を行うとすることなどが考えられる。各裁判官は,複数事件の当事者が重なることのないよう,期日の枠を30分程度以上の刻みとなるよう期日を指定することなどが考えられるが,登庁日においては,期日を開くのみならず,今後実施する予定の期日における審理・協議等のために必要となる事前準備や釈明等の当事者に対する連絡等も完了できるよう計画的に業務を処理する必要がある。また,担当書記官の登庁頻度の増加を避ける観点から,期日指定した事件の処理に係る調書作成等の書記官事務を勤務時間内に処理できるようにしなければならず,期日の終了時間等に配慮することが必要であるし, 当該登庁日に期日を実施できる件数はかなり限定する必要があると考えられるが,その範囲の中で,登庁日に緊急性の高い事件の期日を指定ができるよう調整し,期日を開くことになる。
   合議事件については,受命裁判官を活用し,必要な裁判官(例えば,裁判長と左陪席)のみが登庁して期日を行うにとどめ,期日前合議には電話会議を活用するなどして,登庁する裁判官数を減らすための工夫を最大限行うことが必要である。また,複数の合議体がある部や合議事件の比率の高い専門部・集中部において, 口頭弁論期日を開く場合など合議体の全員が登庁する日を設ける場合には,同一日に,合議の弁論準備や和解の期日,合議や単独事件の相談又は部の運営等についての意見交換を行うなどして,裁判官全員が登庁する機会を有効に活用し,トータルで登庁する裁判官の数を最少とするよう工夫することが考えられる。
   各庁・各部・各裁判体において, これらの点を十分議論したうえで,再開する具体的な事件を検討し,具体的な執務態勢を検討することが必要である。
   簡裁民事訴訟及び民事調停事件についても概ね同様の考え方によることになるが,庁によって,事件数の規模も異なり,緊急性の高い事件の状況も様々であり,人的態勢も様々であるから,庁の実情に沿った検討が必要である。緊急事態宣言や外出自粛要請の趣旨を踏まえて,単独調停の積極的な活用が考えられ,調停委員の登庁頻度等にも配慮しつつ業務の再開を検討することが考えられる。
   


問2 引き続き緊急事態宣言の対象地域であるが,仮に平日の外出自粛要請が緩和される場合には, どのような検討が必要となるのか。
答 緊急事態宣言は継続するが,平日日中の外出自粛要請が緩和されるような場合には,部署ごとに少なくとも2班に分けて交替で登庁する執務態勢をとって,問1に記載した業務を再開していくことが考えられる(なお,司法行政事務についても,再開する裁判事務を継続するために必要な範囲の事務については再開することになる。)。この場合であっても,登庁日に期日を実施できる件数はかなり限定する必要があると考えられるのは,問1に記載したとおりであり,民事訴訟事件の期日指定は,その範囲の中で検討していくことになる。
   
問3 緊急事態宣言が解除されても,都道府県の知事が独自に平日日中の外出自粛要請を続けている場合には, どのような検討が必要となるのか。
答 緊急事態宣言が解除されても,都道府県独自の外出自粛要請が継続されている場合には, その趣旨に鑑みて,裁判所における業務再開も一定の範囲に抑えるのが相当であると考えられ, この場合には,問2を参考にして,再開を検討していくことになると考えられる。
   
問4 民事通常事件等において,再開する事件の期日指定数が限られているとすると,手持事件の中で優先順位を付けることになるが, どのようにして優先順位を付けるのか。
答 どの事件を優先的に再開するかについては,各裁判体において適切に判断されるべきものであるが, まずは,次回期日に判決言渡し,和解成立,弁論終結が予定あるいは見込まれる事件などのうち,長期化することを避けなければならない緊急性の高い事件が考えられる。その他の事件については,各裁判体において,前提となる人的態勢を十分に踏まえ, 当事者の意向(要望) も聞きながら,再開可能な事件数の範囲内で,事案の性質,手続段階等の種々の考慮要素を勘案して適切に判断し,順次期日を指定していくこととなると考えられる。
   
問5 期日指定ができない事件について当事者から理由を問われることが想定されるが, どのような説明をするのか。
答 再開する事件の選定についていかなる考え方を採るにせよ,早期の再開を望む当事者や代理人弁護士から,その理由を問われる可能性がある。人の接触の機会を可能な限り減らし,感染拡大防止に最大限協力する観点から,事件を順次再開していく必要があり,担当裁判官が慎重に緊急性の度合いを判断した結果であり,早期に期日指定ができない事件の当事者等においても理解をお願いしたい旨を丁寧に説明することとなると考えられるが,裁判官と書記官の間で再開する事件の選定方針について十分に相談しておくことが必要である。
   

問6 再開された事件の期日を開く際には, どのような点に留意すべきか。
答 特に,いわゆる3密を避けるための留意点として,これまで示したもののほか, 以下のようなことを積極的に行っていくのが相当と考えられる。
◯ 電話会議(ウェブ会議)を積極的に活用し(特に,他の都道府県からの移動を伴う場合), そのために必要があれば弁論準備手続や書面による準備手続に付することも検討する。
◯ 非公開手続においても,和解室,弁論準備室のような狭い閉ざされた部屋を用いるのではなく,ラウンドテーブル法廷等可能な限り大きな部屋の活用を積極的に検討する。
◯ 口頭弁論期日においては,同一時刻に期日を指定することは原則として避け,やむを得ず複数の事件の期日を同一時刻に指定することがあるとしても,極力その数を減らすことや,傍聴席で順番を待つ機会を減らせるよう臨時の待合スペースの設営も検討する(会議室の開放等が考えられる。)。
◯ 簡裁民事訴訟については,多数の当事者が一斉に来庁したり,集中したりすることを避けるため,簡裁の特則(陳述擬制や司法委員の積極的活用,和解に代わる決定等)を活用することが考えられる。
   
(裁判官)
問7 問1の場合の裁判官の執務態勢はどうなるのか。
答 問1の場合には,基本的には現在の縮小態勢を維持することになるので, トータルとして今より登庁回数が増えないよう工夫する必要がある。問1記載のとおり,裁判官は週1日に登庁日を固定したり,隔週で週2日登庁したりすることも考えられるし,合議事件については原則として必要となる最小限の人数の登庁を求めて処理すべきであり,在宅勤務中の裁判官との間では電話会議等を活用して合議を行ったり,受命裁判官を活用して期日を進めることが考えられる。それに加えて,複数の裁判官が登庁する場合には,同一裁判体の様々な期日を入れたり,合議や単独事件の相談の時間を入れたりなど,その機会を有効に活用することで,登庁回数を抑えるのに役立てることが可能になると思われる。
   
問8 問1の場合,再開した事件の記録や提出書面の検討のため登庁が必要なので,その分,裁判官の登庁は増えても差し支えないか。
答 問1の場合には,基本的には現在の縮小態勢を維持することになるので,期日を開かない日に登庁することは厳に慎むべきことに変わりはない。登庁日を限定していることから,前の登庁日までに提出されない書面等については,裁判官は目を通すことが出来ないことを当事者に明確にして協力を求めることが必要である。
   
問9 書記官に判決起案の点検等を求めてもいいのか。
答 判決言渡期日を指定した事件について,書記官に判決起案の点検等を求めることは差し支えないが,その場合には,書記官が記録を持ち帰れないことや担当書記官の登庁日においても残業を避けるべきことにも配意し,十分な時間的余裕を持って作業を依頼することが必要である。
   
問10 再開した事件の期日を指定する場合の留意点
答 各庁において,庁としての一部再開すべき業務とその処理態勢を検討したうえで,各裁判官が,共通認識の下に,再開する事件の選択,その期日の調整や指定を行っていくことになるが,各裁判官において,十分に緊急性の度合いを検討し,前提となる人的態勢も踏まえて,期日の指定を行っていく必要がある。問1の場合はもちろん, 問2,問3の場合であっても,5月7日以降,各部における事務処理態勢の検討に相応の時間がかかることも想定されるし,再開した期日の指定や調整は,検討された事務処理態勢に応じて行われる必要があるので,いつからどのように期日の調整・指定を行うかは,庁全体で検討されるべきものと考えられる。
   庁としての方針が定まれば, ホームページ上に,必要な説明を掲載して,広く裁判所利用者に理解を求めることが相当と考えられる。
   
(書記官等)
問11 問1の場合の書記官等の執務態勢はどうなるのか。
答 問1の場合には,基本的には現在の縮小態勢を維持することになるが,期日のある日には,担当書記官が登庁することになり,現在の縮小態勢次第では,書記官の登庁する日数が増える場合もあろう.庁全体の現在の登庁人数を原則としては増加させないよう,庁全体をみて,実情に応じた態勢の構築を検討する必要がある。
   
問12 裁判官が事件処理をすれば,担当書記官が登庁しなければならないし,主任書記官に加重な負担がかかったりして,登庁人数が増えることにならないか。
答 1名の裁判官の単独事件を担当する書記官が2名いる場合には,両書記官の間で連携し, それぞれの登庁日を減らす工夫が求められる。主任書記官等のチェックが必要な和解調書等の作成については,それぞれがもともと予定している登庁日に無理なく作業を行い引継ぎができるようにしておくことが必要である。いずれにせよ,主任書記官や一部の書記官に負担が偏らないよう,公平なローテーションを構築する必要がある。
   
問13 来庁者が増えるので,書記官室での面前の対応が増え,感染リスクが増えるのではないか。
答 来庁者及び職員双方への感染拡大防止の観点から, これまで講じている感染防止措置の徹底を図るほか,特に事件受付や書記官室など近い距離で対応を行う部署においては,民間や地方公共団体で講じている感染防止のための様々な工夫について積極的に導入することなどを検討し,感染リスクの低減に努めてもらいたい。
以 上


最高裁判所の新型インフルエンザ等対応業務継続計画(平成28年6月1日付)別紙2


*1 大阪高裁平成27年1月22日判決(裁判長は30期の森宏司裁判官)は,
   平成19年「5月24日」,兵庫県龍野高校のテニス部の練習中に発生した高校2年生の女子の熱中症事故(当日の最高気温は27度)について,
   兵庫県に対し,「元金だけで」約2億3000万円の支払を命じ,平成27年12月15日に兵庫県の上告が棄却されました(CHRISTIAN TODAY HP「龍野高校・部活で熱中症,当時高2が寝たきりに 兵庫県に2億3千万円賠償命令確定」参照)。
   その結果,兵庫県は,平成27年12月24日,3億3985万5520円を被害者代理人と思われる弁護士の預金口座に支払いました(兵庫県の情報公開文書を見れば分かります。)。
*2   大阪高裁平成27年1月22日判決を読む限り,高校側に何らかの法令違反があったわけではないにもかかわらず,過失相殺すら認められていません。
   また,厚生労働省HPの「職場での熱中症による死亡災害及び労働災害の発生状況(平成24年)」によれば,熱中症による死亡災害の月別発生状況(平成22~平成24年)は,6月が7件,7月が41件,8月が35件,9月が3件であり,5月は1件も発生していないにもかかわらず,兵庫県龍野高校のテニス部事故では,5月に発生した熱中症について予見可能性があると認定されました。
   そして,30期の森宏司裁判官(平成29年4月19日定年退官発令)は平成28年3月7日頃,大阪高裁民事上席裁判官に就任したことからすれば,安全配慮義務について厳格に考える裁判例は今後も継続すると思われます。
*3 裁判所職員の病気休職も参照してください。

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