目次
1 裁判官の記録紛失に基づく分限裁判の実例
2 伊藤達也名古屋地裁判事補の記録紛失に基づく分限裁判は未だに実施されていないと思われること等
3 関連記事その他
1 裁判官の記録紛失に基づく分限裁判の実例
・ 高輪1期以降の裁判官の記録紛失に基づく分限裁判は以下のとおりです。
① 大阪高裁昭和55年7月17日決定(戒告)が取り扱った事例
昭和55年5月23日午後5時ころ,担当の単独事件である民事第一審訴訟事件記録2冊を,自宅において判決起案のため黒色手提げ鞄に入れて退庁し,同じ民事部所属の裁判官2名とともに飲酒をしたのち,帰宅のため午後8時過ぎころ阪神電鉄梅田駅から乗車し,途中,同僚と分れて一人で甲子園駅で下車し,休憩の後,甲子園球場に立ち寄り,再び阪神電鉄で西宮駅に至り下車し,徒歩で翌5月24日午前2時ころ西宮市の宿舎に帰宅したが,その間,右事件記録2冊を黒色手提げ鞄とともに紛失したものであって,その後,関係各方面に照会する等鋭意調査したが,発見されなかった事例
② 大阪高裁昭和58年3月11日決定(戒告)が取り扱った事例
昭和58年1月27日,大阪地裁の配属部係属中の事件である民事第一審訴訟事件記録3冊を自宅において調査,判決起案するため,ビニール製手提鞄及び同ショルダーバッグに入れて自家用普通乗用自動車に積み,これを運転して池田市の自宅への帰途,同日午後5時少し前ころ,ゴルフ練習のため豊中市所在のゴルフセンターに立ち寄ったが,助手席に右手提鞄とシヨルダーバッグを重ねて置き,その上に折りたたんだ上衣を置いたままの状態で右自動車を同ゴルフセンターの無人無料の青空駐車場に駐車させたまま,午後5時ころから午後6時半ころまで同ゴルフセンターの練習場でゴルフの練習をしていたため,その間に何人かに右手提鞄及びショルダーバッグ等を窃取されて,在中の前記記録3冊を紛失したものであって,その後大阪府豊中警察署の派出所に盗難被害を届け出て鋭意捜索に努めたが,右の記録が発見されなかった事例
③ 東京高裁昭和58年12月6日決定(戒告)が取り扱った事例
昭和58年9月30日午後8時ごろ,東京地方裁判所民事第11部に係属中で自分が担当している地位保全等仮処分申請事件の事件記録2冊を,自宅において決定書起案のため通勤用の茶色手提げかばんに入れて退庁したが,帰宅途中国電有楽町駅付近の居酒屋に立ち寄って飲酒し,その後の行動についての記憶がつまびらかでないほどに深酔いした結果,同夜右事件記録2冊を手提げかばんとともに紛失し,その後関係各方面の協力を得て調査を尽くしたが,発見されなかった事例
④ 東京高裁平成5年3月5日決定(戒告)が取り扱った事例
平成5年1月14日夜,東京地方裁判所に係属中で自分が担当している事件の記録合計4冊を自宅で判決書起案をするために所持して帰宅する途中,電車内で眠り込んだ結果,右記録4冊を紛失した事例
⑤ 東京高裁平成12年12月7日決定(戒告)が取り扱った事例
平成12年8月22日午後9時ころ,前橋家庭裁判所に係属している少年保護事件の決定書を起案するために,同事件の記録1冊を革製手提げ鞄に入れて退庁し,午後9時27分前橋駅発上野駅行きの普通電車に乗り込んだが,車内で眠り込んだ結果,右鞄とともに右記録1冊を紛失し,関係各方面においても調査を尽くしたが,右記録一冊が発見されなかった事例
事件情報の流出について(令和3年7月27日付の宇都宮地方・家庭裁判所の文書)を添付しています。 pic.twitter.com/C4nzkC4RhG
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) April 29, 2022
2 伊藤達也名古屋地裁判事補の記録紛失に基づく分限裁判は未だに実施されていないと思われること等
(1) 過去の実例では,裁判官の記録紛失に基づく分限裁判は,裁判官が記録を紛失してから5ヶ月以内に行われています。
(2)ア 66期の伊藤達也名古屋地裁判事補は,平成30年9月29日,名古屋市内で友人の裁判官らと飲酒した帰りにタクシーに乗り,記録の入ったキャリーバッグをトランクに置き忘れました(日経新聞HPの「裁判記録、タクシーに置き忘れ紛失 名古屋地裁の裁判官 」参照)。
イ 平成31年4月20日現在,伊藤達也名古屋地裁判事補の記録紛失に基づく分限裁判は未だに実施されていないと思われます。
(3) 平成31年3月8日付の名古屋地裁の司法行政文書不開示通知書によれば,「伊藤達也判事補が平成30年9月29日又は同月30日にタクシーに乗車した結果,民事事件の記録等を紛失したことに関して作成し,又は取得した文書」は,全体として不開示情報に該当するそうです。
(4) 寺西判事補事件に関する最高裁大法廷平成10年12月1日決定は,「裁判官の場合には、強い身分保障の下、懲戒は裁判によってのみ行われることとされているから、懲戒権者のし意的な解釈により表現の自由が事実上制約されるという事態は予想し難い」と判示しています。
3 関連記事その他
(1) 46期の岡口基一東京高裁判事は,平成30年5月17日頃,勤務時間外に,訴訟において犬の所有権が認められた当事者(もとの飼い主)の感情を傷つけるツイートをした結果,最高裁大法廷平成30年10月17日決定により,戒告されました(「岡口基一裁判官に対する分限裁判」参照)。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判官の記録紛失に関して作成し,又は取得した文書は全部が不開示情報であること
・ 分限裁判及び罷免判決の実例
・ 柳本つとむ裁判官に関する情報,及び過去の分限裁判における最高裁判所大法廷決定の判示内容
過料1万円という金額については昭和22年に決められた金額が物価や裁判官の給与の変動に対応して無いだけだから、そこに意味を見出すのはおかしい気がする。
後付で意味や運用が発生したというのはわかるけど、関係者の不作為でそのままになってる不当に安価な裁判官への過料に意味を与えたくないな。 https://t.co/oR1Ik43dth— sorekaradoushit (@sorekaradoushit) August 16, 2022