第1 検務事務の意味と本記事の資料
1 検務事務とは
検務事務とは,事件の受理から捜査,公判,刑の執行に至るまでの刑事手続に関連して生ずる様々な事務の総称である(法務総合研究所『六訂 検務事務入門』(令和6年3月)本文1頁(PDF9頁))。
同書は,検察庁の事務を検察事務と検察行政事務に大別し,検察事務を,その中核をなす捜査及び公判に関する事務と,検務事務とに分けている。
起訴・不起訴を決めるのは検察官であるが,事件の受理から刑の執行,罰金の徴収,前科の把握及び記録の保管までの手続を事務の面で支えるのが検務事務である。
同書は,検務事務を次の10種類に分けている(本文1頁~2頁(PDF9頁~10頁))。
① 事件事務(事件の受理及び処理に関する事務)
② 令状事務(令状の請求及び執行に関する事務)
③ 証拠品事務(証拠品の受入れ,保管及び処分に関する事務)
④ 執行事務(死刑及び自由刑の執行に関する事務)
⑤ 徴収事務(罰金,科料等の徴収金の徴収に関する事務)
⑥ 犯歴事務(犯歴の把握及び調査に関する事務)
⑦ 記録事務(刑事確定訴訟記録,裁判書原本等の管理に関する事務)
⑧ 恩赦事務
⑨ 統計事務
⑩ 報告事務(事件報告,統計報告等の法務大臣等に対する報告)
2 事務の準則と担当部門
検務事務の取扱手続は,法務大臣訓令で大綱が定められ,各庁の訓令・通達で詳細が定められている(本文3頁(PDF10頁))。
同書は,大臣訓令として,事件事務規程,証拠品事務規程,執行事務規程,徴収事務規程,犯歴事務規程,記録事務規程,恩赦上申事務規程等の12の規程を挙げている。
地方検察庁及び区検察庁の検務部門には,平成13年4月の組織改編により,検務監理官を始めとする統括検務官,検務専門官等の専門官制が導入された(本文2頁(PDF10頁))。
検務事務を担当する部門の構成は,部の置かれた庁(部制庁)か否か等,庁の規模によって異なる。
検察事務官の職務全体については,検察事務官とはを参照されたい。
同書は,被疑者の身柄を法定の期間又は時間を超えて拘束したり,押収した証拠品を紛失したりする過誤は絶対に許されないとして,検務事務に従事する職員に,刑事訴訟法を中心とする刑事関係法規と各種の訓令・通達の習得を求めている(本文4頁(PDF11頁))。
3 資料の性質と基準日
『六訂 検務事務入門』は,法務総合研究所が検察事務官初等科研修の教材として作成した資料である。
昭和60年2月の初版から,平成2年3月の改訂版,平成7年3月の三訂版,平成14年3月の四訂版及び平成26年3月の五訂版を経て,令和6年3月に六訂版が発行された(奥付)。
六訂版のはしがきは,五訂版を基に,その後の検務関係事務規程の改正に伴って関連部分を書き改めたものと説明している。
本記事は,同書の記載を基本とし,法令の条文は令和8年10月17日時点のe-Gov法令検索の現行条文で確認した。
同書は令和6年3月の資料であるため,その後の次の変更に注意する必要がある。
① 懲役及び禁錮を廃止して拘禁刑を設けた改正刑法は,令和7年6月1日に施行された。同書の執行事務の章は,施行前の時点で懲役・禁錮を前提に説明している(本文55頁(PDF36頁))。
② 捜査のための記録命令付差押えは,令和8年5月21日施行の改正により,現行の刑事訴訟法218条1項では電磁的記録提供命令に改められている。
③ 同書は,道路交通法違反等の罰金以下の裁判(道交裁判)の犯歴を令和7年1月1日から電算化する予定と記載していた(本文96頁(PDF57頁))。現行の犯歴事務規程2条は,電算処理の対象から除く道交裁判を,令和7年1月1日前に確定したもの等に限っている。
④ 刑事訴訟法には,令和9年3月31日までの間において政令で定める日に施行される改正(情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律)が控えており,本記事で引用する46条,53条,98条等の文言も改められる。
第2 事件事務
1 事件の受理と事件番号
検察庁は,司法警察員からの送致・送付,他の検察庁からの送致,家庭裁判所からの逆送,告訴・告発等の受理,検察官の認知,不起訴・中止事件の再起等の事由が生じたときに,事件の受理手続をする(事件事務規程3条,本文6頁~7頁(PDF12頁))。
逮捕された被疑者は,司法警察員が,身体を拘束された時から48時間以内に書類及び証拠物とともに検察官に送致する手続をしなければならない(刑事訴訟法203条1項)。
事件を受理すると,事件記録の表紙等に事件番号が記入される(本文12頁~13頁(PDF15頁))。
事件番号は,被疑者1名につき1番号を付し,暦年ごとに改められ,「○年検第○○号」と呼ばれる。
実務上は「検番」と略称され,検務事務だけでなく捜査・公判を通じて事件を特定する番号である。
受理された事件は,庁の長等から主任検察官の指定を受けて配点される。
交通事故事件の検番の調べ方は,交通事故の検番・送致番号の入手方法を参照されたい。
2 事件処理の種類
事件処理には,起訴,不起訴及び家庭裁判所送致の終局処分と,中止及び移送の中間処分がある(本文14頁~18頁(PDF16頁~18頁))。
① 起訴には,公判請求のほか,公訴提起と同時に略式命令を請求する場合と即決裁判手続による場合がある。
② 不起訴の裁定主文は,起訴猶予,嫌疑なし等の20種類があり,事件事務規程75条2項に定められている。
③ 中止は,被疑者の所在不明等で捜査を続けられないときに一時捜査を中止する処分であり,中止事由が解消すれば事件を再起して捜査を再開する。
④ 移送は,終局処分の前に事件を他の検察庁の検察官に送致する処分である。管轄違いの場合の送致は刑事訴訟法258条によるが,管轄権があっても,捜査の便宜等のために移送することがある。
⑤ 少年の被疑事件は,犯罪の嫌疑があると思料するときは,家庭裁判所から送致された事件を除き,家庭裁判所に送致する(少年法42条1項)。
検察官は,告訴,告発又は請求のあった事件について公訴を提起し,又は提起しない処分をしたときは,速やかにその旨を告訴人等に通知しなければならない(刑事訴訟法260条)。
不起訴の理由の告知(同法261条)と,不起訴の種類の違いは,不起訴理由の違いと確認方法を参照されたい。
第3 令状事務と勾留期間の計算
1 被疑者の勾留期間
検察官は,司法警察員から送致された被疑者を受け取った時から24時間以内に勾留を請求しなければならず,この時間の制限は,被疑者が身体を拘束された時から72時間を超えることができない(刑事訴訟法205条1項・2項)。
検察官が自ら逮捕した場合等は,身体を拘束された時から48時間以内である(同法204条1項)。
被疑者の勾留期間は,勾留の請求をした日から10日である(刑事訴訟法208条1項)。
同書は,勾留請求の翌日に勾留状が発せられた場合でも勾留請求をした日から10日間であり,日曜日,土曜日,祝日等の休日もこの10日間に算入されると説明している(本文22頁(PDF20頁))。
やむを得ない事由があるときは,検察官の請求により,通じて10日を超えない範囲で延長され(同条2項),内乱,外患,国交に関する罪及び騒乱の罪に当たる事件では,更に通じて5日を超えない範囲で延長できる(同法208条の2)。
同書は,勾留期間内に公訴を提起しないで期間を超えて拘束すれば不当勾留になるとして,勾留期間満了日の把握と満了日までの釈放の確認を求めている(本文30頁~31頁(PDF24頁))。
2 被告人の勾留期間と起算日
被告人の勾留期間は,公訴の提起があった日から2か月であり,特に継続の必要がある場合には,具体的な理由を付した決定で1か月ごとに更新される(刑事訴訟法60条2項)。
更新は,同法89条1号,3号,4号又は6号に当たる場合を除いて1回に限られる。
同書は,2か月の起算日を次のように説明している(本文24頁(PDF21頁))。
① 勾留中の被疑者に対し,勾留の基礎となった犯罪事実と同一の事実で公訴が提起された場合は,公訴提起の日
② 逮捕中の被疑者に対し,逮捕の基礎となった犯罪事実と同一の事実で公訴が提起された場合は,公訴提起の日(公訴提起の日の翌日に勾留状が発せられても同じ)
③ 不拘束の被告人に勾留状が発せられた場合は,勾留状指定の刑事施設に引致された日
勾留期間の満了日は,起算日から暦に従って計算し(刑事訴訟法55条2項),例えば10月3日に勾留中のまま起訴されれば,満了日は12月2日である。
現実に勾留されていない期間は勾留期間に算入されないが,勾留された日と釈放された日は,拘束された時間が1日に満たなくても1日として算入される(本文24頁(PDF21頁))。
3 保釈取消し後の残勾留期間の計算
(1) 基本の計算方法
保釈中の被告人が保釈取消しにより再び収容されたときは,釈放された日の翌日から当初の勾留期間満了日までの残勾留日数を暦に従って算出し,収容された日から,その残勾留日数を暦に従って数えた日が収容後の満了日となる(本文24頁~26頁(PDF21頁~22頁))。
同書の設例では,10月3日に勾留中の公判請求,10月20日に保釈で釈放,11月10日に保釈取消決定で収容とされている。
当初の満了日は12月2日であり,釈放日の10月20日は勾留日数に入るから,残勾留期間は10月21日から12月2日までの「1か月12日」となる。
11月10日から数えると,1か月目が12月9日,12月10日から12日目が12月21日であり,収容後の満了日は12月21日となる。
同書は,釈放されていた10月21日から11月9日までの20日間を当初の満了日の翌日から付け加える計算をしてはならないと注意している。
(2) 更新決定を執行した後に保釈された場合
同書の別の設例は,5月3日に勾留中の公判請求,6月27日に7月3日からの1か月分の勾留期間更新決定を執行,6月28日に保釈で釈放,8月27日に実刑判決の宣告で収容というものである(本文27頁~28頁(PDF22頁~23頁))。
当初の勾留の残りは6月29日から7月2日までの4日であり,これと別に更新決定による1か月が残っている。
収容された8月27日から4日目が8月30日,その翌日の8月31日から1か月が9月30日であり,これが収容後の満了日となる。
同書は,当初の勾留と更新決定による勾留は別個の裁判で,先の裁判から順に執行するため,「1か月4日」として計算しないと説明している。
4 釈放と収容
被告人の釈放は,被疑者の釈放と異なり,保釈許可決定等の裁判の執行として検察官が指揮するものである(本文31頁(PDF24頁))。
保釈を許す決定は,保証金の納付があった後でなければ執行できない(刑事訴訟法94条1項)。
勾留期間更新決定がされずに勾留期間が満了したときは,刑事施設の長が釈放し,検察官の釈放指揮は要しない(本文32頁(PDF25頁))。
無罪,刑の全部の執行猶予,罰金等の裁判の告知があったときは勾留状が効力を失い(刑事訴訟法345条),この場合も検察官の釈放指揮は要しない。
拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があったときは,保釈又は勾留の執行停止は効力を失い(刑事訴訟法343条1項),検察官の指揮で被告人を刑事施設に収容する(同条2項・98条)。
保釈取消決定等の謄本を所持せず,急速を要するときは,取り消された旨等を告げて収容することができ,実務上「緊急収容」と呼ばれる(同法98条2項,本文33頁~34頁(PDF25頁~26頁))。
勾留の要件と準抗告等は,被疑者及び被告人の勾留を参照されたい。
5 被害者の個人特定事項の秘匿
性犯罪等の事件では,検察官は,勾留の請求と同時に,被害者等の個人特定事項を明らかにしない方法で被疑事件を告げることと,個人特定事項の記載がない勾留状の抄本その他の勾留状に代わるものの交付を請求することができる(刑事訴訟法207条の2)。
同書は,この秘匿措置の制度が令和6年2月15日から施行され,事件事務規程,執行事務規程及び徴収事務規程も改正されたと説明している(本文35頁~36頁(PDF26頁~27頁))。
弁護人が取れる手段は,逮捕状に代わるもの・勾留状に代わるものを参照されたい。
第4 証拠品事務
1 証拠品と押収
証拠品とは,刑事事件について押収された物及びその換価代金をいう(本文37頁(PDF27頁))。
押収は,差押えと領置の総称であり,差押えは占有を強制的に取得する処分,領置は遺留物又は任意に提出された物の占有を取得する処分である(刑事訴訟法218条,220条,221条)。
換価代金は,没収することができる押収物で滅失・破損のおそれがあるもの又は保管に不便なものを売却した代価である(同法222条1項・122条)。
2 領置番号,符号及び領置票
証拠品を受け入れると,証拠品担当事務官は,事件記録の証拠金品総目録,差押調書,任意提出書,領置調書等と照合して品名,形状及び数量を点検し,領置票を作成する(本文39頁~42頁(PDF28頁~30頁))。
領置票は,証拠品の受入れから処分までの取扱いを明らかにする基本台帳である。
同書は,品名欄には証拠金品総目録の品名を書き写すのではなく,日本刀なら刃渡りやさやの特徴,腕時計なら製造会社名と裏側の打刻番号のように,押収時の物と同一であることを確認できる特徴を記載するよう求めている。
領置番号は,事件記録ごとに1番号を付し,暦年ごとに改められ,「令和○年領第○○号」と呼ばれる(実務上「領番」)。
同じ領置番号で受け入れた証拠品が複数あるときは,証拠品ごとに「符第○号」という符号が付される(本文42頁(PDF30頁))。
没収の判決主文でも,「押収してある○○(令和○年領第○号)」のように領置番号で物が特定される(本文50頁(PDF34頁))。
3 立会封金と保管
賄賂の現金や選挙違反の買収資金のように,通貨自体が証拠となる「押収物たる通貨」は,符号ごとに専用の封筒に入れ,所属課長等の立会いで金額,種類及び数量を確認した上で封をし,双方が押印する(本文44頁(PDF31頁))。
これを「立会封金」といい,他の通貨との混同を避けて証拠を保全し,事故を防止するための取扱いである。
換価代金は,特定の物の代価として金額で特定されているにすぎないため,立会封金の取扱いはせず,歳入歳出外現金出納官吏が保管する。
証拠品は,倉庫等の施錠設備のある場所で保管し,通貨,貴金属,劇毒物,拳銃,覚醒剤等の特殊証拠品は,金庫等の堅ろうな容器で保管する(本文45頁(PDF31頁))。
運搬又は保管に不便な押収物は,所有者その他の者に,その承諾を得て保管させることができ(刑事訴訟法222条1項・121条1項),同書はこれを証拠品の保管委託と呼んでいる(本文46頁(PDF32頁))。
4 還付と還付公告
還付は押収を解いて押収前の状態に戻すことであるから,原則として被押収者(差出人)に還付する(本文47頁(PDF32頁))。
差出人が還付を希望しないときは,差出人が所有者でなければ所有者に還付し,差出人が所有者であれば所有権放棄書を徴する。
押収した贓物で留置の必要がないものは,被害者に還付すべき理由が明らかなときに限り,被害者に還付する(刑事訴訟法222条1項・124条1項)。
同書は,被害者還付は「被害者に還付すべき理由が明らかなとき」に当たるかが問題となるため,特に慎重に行うとしている(本文48頁(PDF33頁))。
還付の際は,身分証明書や運転免許証等で受還付人本人又は代理人であることを確認し,還付請書を徴する。
郵便等で送付して還付する方法もある。
還付を受けるべき者の所在が分からない等の理由で還付できないときは公告をし,公告をした日から6か月以内に還付の請求がなければ,その物は国庫に帰属する(刑事訴訟法499条1項・3項)。
USBメモリ等の記録媒体については,被差押者に交付する処分や,電磁的記録を複写する手続もある(本文49頁(PDF33頁))。
還付の申入れや不服申立ては,押収物の還付・仮還付を拒まれたとき,押収された盗難品を早く取り戻すには及び任意提出書・所有権放棄書に署名する前にを参照されたい。
5 国庫に帰属した証拠品の処分
没収の裁判の確定,所有権放棄又は還付公告期間の満了により国庫に帰属した証拠品は,次のように処分される(本文50頁~54頁(PDF34頁~36頁))。
① 有価物は売却し,代金は歳入金として国庫に入る。ただし,爆薬やわいせつ物のように危険物等であれば廃棄する。
② 無価物は,焼却,破壊,溶解等の方法で原形が失われるように廃棄する。
③ 現在国内で流通している通貨と換価代金は,歳入に編入する。国内で流通していない外国通貨は,原則として有価物として売却する。
④ 特定の証拠品は,有価物か無価物かを問わず,証拠品事務規程の別表第2に従って引継ぎ等の処分をする。
⑤ 組織的犯罪処罰法13条3項による没収で国庫に帰属した犯罪被害財産は,被害回復給付金の給付資金として,犯罪被害財産支給手続を行う検察官に引き継ぐ。
⑥ 没収された電磁的記録に係る記録媒体を返還又は交付する場合は,電磁的記録の消去等をする(刑事訴訟法498条の2第1項)。
再審の請求や再審開始決定があった場合,又は被告人や弁護人の言動等から再審の請求が予測される場合は,検察官の指示により,国庫に帰属した証拠品を廃棄等せずに相当の期間保管する(証拠品事務規程88条~90条,本文54頁(PDF36頁))。
被害回復給付金は被害回復給付金とは,再審請求前の保存の申入れは再審請求前に刑事記録・証拠品の保存を求めるにはを参照されたい。
第5 執行事務
1 裁判結果の把握
終局裁判の宣告があると,公判立会検察官が裁判要旨等を記入した裁判結果票を公判担当事務官に送り,公判担当事務官が検察システムで裁判結果を管理して執行担当事務官に通知する(本文55頁~56頁(PDF36頁~37頁))。
執行担当事務官は,その内容に誤りがないかを裁判所に照会して確認した上で執行情報とする。
同書は,人権に直接影響する執行事務は裁判結果の情報を基に行われるため,その内容が特に正確でなければならないと説明している。
2 判決確定日の数え方
裁判は,刑事訴訟法に特別の定めがある場合を除き,確定した後に執行する(刑事訴訟法471条)。
地方裁判所又は簡易裁判所の第一審判決に対する控訴の提起期間は14日であり(同法373条),上訴の提起期間は裁判が告知された日から進行するが(同法358条),期間の計算では初日を算入しない(同法55条1項)。
したがって,控訴の申立て又は上訴の放棄がないまま控訴期間が経過したときは,判決宣告の日の翌日から起算して14日を経過した15日目が判決確定の日となり,実務上「自然確定」と呼ばれる(本文57頁(PDF37頁))。
期間の末日が日曜日,土曜日,祝日,1月2日,1月3日又は12月29日から12月31日までの日に当たるときは,その日は期間に算入されない(刑事訴訟法55条3項)。
例えば,令和8年10月1日(木)に宣告された判決は,14日目の10月15日(木)で控訴期間が満了し,10月16日(金)に確定する。
令和8年10月20日(火)に宣告された判決は,14日目が文化の日の11月3日(火)に当たるため,満了日は11月4日(水)となり,11月5日(木)に確定する。
令和8年12月15日(火)に宣告された判決は,14日目が12月29日(火)に当たり,12月29日から翌年1月3日までが期間に算入されないため,満了日は令和9年1月4日(月)となり,1月5日(火)に確定する。
検察官と被告人の双方が上訴を放棄したときは,後の放棄の日が確定の日となる(本文58頁(PDF38頁))。
上訴の放棄又は取下げをした者は更に上訴することができないため(刑事訴訟法361条),上訴提起期間内に被告人だけが控訴を取り下げた場合は,検察官が上訴権を放棄しない限り,上訴提起期間の満了によって確定する。
上訴提起期間の経過後に上訴が取り下げられた場合は,取下げの日が確定の日となる。
控訴・上告の期間と手続は,刑事事件の上訴及び不服申立てを参照されたい。
3 執行指揮をする検察官
裁判の執行は,その裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官が指揮し,上訴の裁判又は上訴の取下げにより下級の裁判所の裁判を執行する場合は,原則として上訴裁判所に対応する検察庁の検察官が指揮する(刑事訴訟法472条)。
ただし,訴訟記録が下級の裁判所又はその裁判所に対応する検察庁にあるときは,その裁判所に対応する検察庁の検察官が指揮する(同条2項ただし書)。
同書は,東京簡易裁判所の判決に被告人が控訴し,訴訟記録が東京高等裁判所に到達した後に控訴を取り下げたときは東京高等検察庁の検察官が,記録が東京簡易裁判所にあるうちに取り下げたときは東京区検察庁の検察官が執行を指揮する例を挙げている(本文59頁(PDF38頁))。
執行の指揮は書面で行い,裁判書又は裁判を記載した調書の謄本又は抄本を添えなければならない(刑事訴訟法473条)。
4 刑の起算日と未決勾留日数の通算
刑期は裁判が確定した日から起算し,拘禁されていない日数は,裁判の確定後であっても刑期に算入しない(刑法23条)。
同書は,執行指揮書に記載する刑の起算日が被告人の拘禁状況によって次のように異なるとしている(本文62頁(PDF40頁))。
① 執行指揮する刑の事件で勾留されている場合は,裁判確定の日
② 他の事件で勾留中の者は,執行指揮の日
③ 不拘禁の場合は,実際に刑事施設に収容した日
④ 収容状を執行した上で刑事施設に収容した場合は,収容状を執行した日
別件で服役中の者については,刑の起算日欄を空欄とし,備考欄に「服役中の刑に引き続き執行」すべき旨を記載する。
未決勾留日数の本刑への通算には,判決で算入する裁定算入(刑法21条)と,法律上当然に通算される法定通算(刑事訴訟法495条)がある。
上訴の提起期間中の未決勾留日数は,上訴申立後の日数を除き,全部本刑に通算される(同条1項)。
同書は,自然確定の場合の法定通算日数を,判決言渡しの日から確定日の前日までの日数と説明し,通算された日数だけ刑の執行を受け終わったものとみなされると説明している(本文62頁~63頁(PDF40頁))。
控訴審での算入は刑事控訴審の未決勾留日数の算入,受刑中の別件勾留は受刑中に別件で逮捕・勾留された場合の刑期を参照されたい。
5 呼出し,収容状及び執行停止
拘禁刑又は拘留の言渡しを受けた者が拘禁されていないときは,検察官は執行のために呼び出し,呼出しに応じないときは収容状を発しなければならない(刑事訴訟法484条)。
逃亡したとき又は逃亡のおそれがあるときは直ちに収容状を発することができ(同法485条),現在地が分からないときは検事長に収容を請求することができる(同法486条)。
同書は,出頭した者は本人であることを確認した上で刑事施設の長に引き渡し,実務上は検察事務官が刑事施設に護送していると説明している(本文65頁(PDF41頁))。
拘禁刑又は拘留の言渡しを受けた者が心神喪失の状態にあるときは,その状態が回復するまで執行を停止しなければならず(刑事訴訟法480条),刑の執行で著しく健康を害するとき等の同法482条各号の事由があるときは,執行を停止することができる。
刑の執行を停止した期間は,刑の時効が進行しない(刑法33条1項)。
二以上の主刑は,罰金及び科料を除き,重いものから執行するが,検察官は重い刑の執行を停止して他の刑を執行させることができる(刑事訴訟法474条)。
同書は,この執行順序の変更を行うのは主として受刑者に仮釈放の資格を早く取得させるためであり,刑期の3分の1を経過すると仮釈放が許される(刑法28条)ことから,重い刑の3分の1を経過した時点で軽い刑の執行に移れば,両刑について仮釈放の要件を満たすことになると説明している(本文69頁~70頁(PDF43頁~44頁))。
執行停止の申出は刑の執行停止と執行延期,執行全般は刑事事件の裁判の執行を参照されたい。
第6 徴収事務
1 徴収金の種類
徴収事務は,徴収金に係る裁判の執行に関する事務であり,他の検務事務と異なり,4月1日から翌年3月31日までの会計年度で処理される(本文72頁~73頁(PDF45頁))。
同書は,徴収金として,罰金,科料,追徴,過料,没取,訴訟費用,費用賠償,仮納付金,犯罪被害者等保護法17条1項の費用及び民事訴訟法303条1項の納付金(民事納付金)の10種類を挙げている。
実務上,刑罰の「科料」は「とがりょう」,行政罰の「過料」は「あやまちりょう」と呼んで区別し,保釈保証金の「没取」は刑法の「没収」と区別するために「ぼっとり」と呼んでいる(本文75頁(PDF46頁))。
保釈保証金の没取は保釈保証金の没取を参照されたい。
2 労役場留置の日数
罰金を完納できない者は1日以上2年以下,科料を完納できない者は1日以上30日以下の期間,労役場に留置される(刑法18条1項・2項)。
判決は,罰金又は科料の言渡しとともに留置の期間を定めて言い渡し(同条4項),同書の例では,罰金を完納できないときは金5,000円を1日に換算した期間労役場に留置する旨の主文の場合,罰金10万円なら留置日数は20日である(本文73頁(PDF45頁))。
執行すべき留置日数は,徴収すべき金額を1日の換算額で除して得た数であり(本文86頁(PDF52頁)),一部を納付した者は,残額を1日の割合に相当する金額で除した日数(1日未満の端数は1日)となる(刑法18条6項)。
罰金は裁判確定後30日以内,科料は確定後10日以内は,本人の承諾がなければ留置の執行をすることができない(同条5項)。
同書は,労役場留置の執行中に残額の全部が納付されたときは直ちに釈放すると説明している(本文86頁(PDF52頁))。
3 納付告知から強制執行まで
徴収金に係る裁判が確定すると,徴収担当事務官が徴収金指揮印票を作成して検察官の指揮印を受け,納付義務者に納付告知書と納付書を送って,原則として日本銀行に納付させる(本文79頁~80頁(PDF48頁~49頁))。
訴訟費用は,裁判確定後20日以内に執行免除の申立てができるため(刑事訴訟法500条2項),その期間が経過した後に指揮印票が作成され,没取は確定を待たずに執行できるため,裁判があったときに作成される(本文80頁(PDF49頁))。
納付期限までに納付がなければ督促し,所在不明や督促に応じないときは関係機関に所在や資産を照会し,裁判官の令状による差押え等もできる(刑事訴訟法509条,本文84頁(PDF51頁))。
財産があるのに任意に納付しないときは,検察官が法務局長又は地方法務局長に強制執行の手続を依頼し,完納できないときは労役場留置を執行する(本文84頁~86頁(PDF51頁~52頁))。
徴収事務は国の歳入に関係する事務であるため,徴収担当事務官は絶対に現金に手を触れないことが原則とされ,徴収事務と現金を扱う会計事務を同じ職員が兼務しない「相互けん制」が取られている(本文77頁~78頁(PDF47頁~48頁))。
検察庁の窓口で現金を納める場合も,現金は徴収担当事務官ではなく収入官吏が受領し,領収証書を交付する(本文81頁~82頁(PDF49頁~50頁))。
第7 犯歴事務
1 犯歴の把握方法
犯歴事務は,有罪の確定裁判を受けた者の犯歴の把握及び調査に関する事務である(本文87頁(PDF52頁))。
犯歴は,起訴・不起訴の判断や求刑,裁判所の量刑及び常習性の判断等の資料となる。
犯歴の把握は,電子計算機に記憶させる方法(電算化犯歴)と,本籍地を管轄する地方検察庁の本庁で犯歴票等を作成して保管する方法(非電算化犯歴)で行われている(本文88頁(PDF53頁))。
現行の犯歴事務規程2条は,本邦に本籍がある明治以前の出生者及び本邦に本籍がない大正以前の出生者,本籍が明らかでない者並びに法人又は団体に対する裁判と,令和7年1月1日前に確定した道交裁判を,電算処理の対象から除いている。
犯歴票は,氏名の読みを換数表で数字にした順に整理して保管され,同書は,氏名等が似ているだけで別人に前科を追記しないよう注意を求めている(本文92頁~95頁(PDF55頁~56頁))。
2 刑の執行状況と市区町村長への通知
刑の執行を終わった日等も把握するのは,例えば拘禁刑以上の刑の執行を終わった者が罰金以上の刑に処せられないで10年を経過すると刑の言渡しが効力を失い(刑法34条の2第1項),その判断に刑の執行終了日が必要だからである(本文96頁~97頁(PDF57頁))。
罰金以上の刑に処する裁判(道交裁判等を除く。)が確定したときは,選挙人名簿の調製や身分証明の事務に必要な犯罪人名簿を作る市区町村長に協力するため,本籍市区町村長に既決犯罪通知書で通知される(犯歴事務規程3条3項,本文97頁(PDF57頁))。
刑の消滅は刑法第34条の2による刑の消滅を参照されたい。
3 前科照会と前科調書
検察官又は検察事務官は,刑事事件について特定の者の犯歴を調べる必要があるときは,電子計算機又は前科照会書で照会する(犯歴事務規程13条1項)。
犯歴担当事務官は,犯歴がなければ「前科不見当」と回答し,犯歴があれば前科調書を作成して回答する(本文99頁(PDF58頁))。
同書は,前科調書は起訴・不起訴の判断資料になるほか証拠として裁判所に提出されるため,照会に係る本籍,氏名,生年月日と犯歴票等の記載が違う場合は同一人かを慎重に検討するよう求めている。
同書によれば,令和6年2月以降は,検察システムで前科を照会し,回答することが可能となっている(本文99頁(PDF58頁))。
前科調書の様式と証拠能力は,前科調書とはを参照されたい。
自由刑又は財産刑の執行を免れるために逃亡している者(とん刑者)等については,氏名等を電子計算機に入力し,犯歴照会があったときにとん刑者等であるかも調査して関係庁に通知する手続がある(本文100頁(PDF59頁))。
第8 記録事務
1 保管・保存される記録の種類
刑事被告事件の訴訟記録は,訴訟終結後,第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官(保管検察官)が保管する(刑事確定訴訟記録法2条1項)。
同書は,保管・保存される主な記録として次のものを挙げている(本文102頁~103頁(PDF60頁))。
① 保管記録(裁判書と裁判書以外の保管記録に区分される。)
② 再審保存記録(再審の手続のために保管期間満了後も保存する記録。同法3条)
③ 刑事参考記録(調査研究の重要な参考資料として法務大臣が指定した記録。同法9条)
④ 裁判所不提出記録(起訴した事件の記録のうち,検察官が証拠として提出しなかった残余の記録)
⑤ 不起訴記録(不起訴処分に付した事件の記録)
上訴審で確定した記録は,上訴審の裁判所から第一審の裁判所に送られ,そこから対応する検察庁に送付される(本文110頁(PDF64頁))。
裁判書は保管記録から抜き取って保管番号順に編てつし,裁判書以外の保管記録は倉庫等に格納するが,これは両者の保管期間が違うため,誤って廃棄しないように別々に保管するものである。
2 保管期間
保管記録の保管期間は,刑事確定訴訟記録法2条2項・別表が定めており,主なものは次のとおりである。
保管期間は訴訟終結の日の翌日から起算する(本文103頁(PDF60頁))。
| 区分 | 裁判書 | 裁判書以外の保管記録 |
|---|---|---|
| 死刑又は無期拘禁刑 | 100年 | 50年 |
| 20年を超える有期拘禁刑 | 50年 | 30年 |
| 10年以上20年以下の拘禁刑 | 50年 | 20年 |
| 5年以上10年未満の拘禁刑 | 50年 | 10年 |
| 刑の一部の執行猶予 | 50年 | 8年 |
| 5年未満の拘禁刑 | 50年 | 5年 |
| 罰金,拘留又は科料 | 20年 | 3年 |
無罪,免訴,公訴棄却又は管轄違いの確定裁判の裁判書と,刑の免除等により終結した事件の裁判書以外の保管記録は,死刑又は無期拘禁刑に当たる罪で15年,有期拘禁刑に当たる罪で5年,罰金,拘留又は科料に当たる罪で3年である。
罰金,拘留若しくは科料に処する裁判の裁判書及び裁判書以外の保管記録には,法務省令で別の期間を定めるものがある。
保管検察官は必要があると認めるときは保管期間を延長することができる(同法2条3項)。
裁判所不提出記録は,その事件の裁判書以外の確定記録と同じ期間保管され,実務上は確定記録と共に保管されている(本文105頁(PDF61頁))。
不起訴記録の保存期間は,記録事務規程25条が,不起訴の裁定主文の種類と罪の法定刑等に応じて定めており,不起訴裁定の日から起算する(本文103頁~109頁(PDF60頁~63頁))。
同書によれば,被害者が犯罪行為の終わった時に18歳未満であった一定の性犯罪等の事件の不起訴記録は,被害者が18歳に達する日までの期間に相当する期間が加算され,人を死亡させた罪であって死刑に当たるものの不起訴記録は,被疑者が満100歳に達する日まで保存される(本文109頁(PDF63頁))。
3 閲覧,謄本及び廃棄
何人も,被告事件の終結後,訴訟記録を閲覧することができるが,訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは,この限りでない(刑事訴訟法53条1項)。
保管検察官は,弁論の公開を禁止した事件の記録や,被告事件の終結後3年を経過したとき(終局裁判の裁判書を除く。)等には,訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者からの請求でなければ,保管記録を閲覧させないものとされている(刑事確定訴訟記録法4条2項)。
閲覧手数料は,記録1件につき1回150円であり(同法7条,刑事確定訴訟記録閲覧手数料令),同書は,閲覧が2日以上にわたる場合は2日目以降もその都度手数料を徴収すると説明している(本文111頁~112頁(PDF64頁~65頁))。
被告人その他の訴訟関係人は,自己の費用で裁判書等の謄本又は抄本の交付を請求でき(刑事訴訟法46条),費用は当分の間,用紙1枚につき60円である(刑事訴訟法施行法10条1項)。
保管期間又は保存期間が満了すると,記録担当事務官が廃棄目録を作成して保管検察官等の命令を受け,焼却又は溶解の方法で廃棄する(本文113頁(PDF65頁))。
記録の閲覧・謄写の申請手順は判決確定後の刑事記録(刑事確定訴訟記録)の入手方法,不起訴記録は不起訴事件記録の入手方法を参照されたい。
第9 弁護人・関係者が確認したい事項
検務事務の仕組みを踏まえると,弁護人や事件関係者が確認しておくべき事項は次のとおりである。
① 検察庁へ事件や証拠品について問い合わせるときは,事件は検番(○年検第○○号),証拠品は領置番号と符号で特定する。
② 保釈取消しや実刑判決で再び収容された被告人の勾留満了日は,当初の満了日に釈放期間を足すのではなく,残勾留日数を収容日から暦で数え直して確認する。
③ 判決確定日は宣告日の翌日から数えた15日目が基本であり,期間の末日が祝日や年末年始に当たれば後ろへずれる。
④ 刑の起算日と未決勾留日数の通算は,判決確定時の拘禁状況と執行指揮書の記載で決まるため,執行指揮の内容を確認する。
⑤ 還付を受けるべき者の所在が分からないと,公告から6か月で押収物が国庫に帰属するため,住所が変わったときは検察庁に連絡する。
⑥ 罰金は確定後30日以内であれば本人の承諾なく労役場留置を執行されず,一部を納付すれば留置日数は残額に応じて減る。
⑦ 罰金事件の裁判書以外の保管記録の保管期間は原則3年と短いため,必要な記録は早めに閲覧・謄写し,必要に応じて保管期間の延長を求める。
第10 関連記事
① 検察事務官とは―仕事内容,検察官との違い,権限・採用・給料
② 検察庁の機構―組織図・部門・役職と事務分担
③ 前科調書とは-現行の5様式,刑事裁判での証拠能力及び取扱い
④ 刑事事件の裁判の執行―拘禁刑・財産刑・労役場留置・執行異議
⑤ 判決確定後の刑事記録(刑事確定訴訟記録)の入手方法
⑥ 法務総合研究所の組織,業務,沿革及び公開資料
第11 出典
1 資料
① 法務総合研究所『六訂 検務事務入門』(研修教材,令和6年3月)本文1頁~113頁
② 法務省「犯歴事務規程」(昭和59年4月26日法務省刑総訓第329号。最終改正は令和7年5月29日法務省刑総訓第10号)2条,3条及び13条
2 法令(令和8年10月17日時点のe-Gov法令検索の現行条文)
① 刑事訴訟法46条,53条,55条,60条,94条,98条,121条,122条,124条,203条~205条,207条の2,208条,208条の2,218条,220条~222条,258条,260条,261条,343条,345条,358条,361条,373条,471条~474条,480条,482条,484条~486条,495条,498条の2,499条,500条及び509条
② 刑法18条,21条,23条,28条,33条及び34条の2
③ 刑事確定訴訟記録法2条~4条,7条,9条及び別表
④ 刑事確定訴訟記録閲覧手数料令
⑤ 刑事訴訟法施行法10条
⑥ 少年法42条