検察事務官

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   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)84頁ないし90頁には,「第3節 検察事務官」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。なお,別の場所の脚注に言及している部分は削りました。)。

1 検察庁には検察事務官が置かれる(庁法第27条第1項)。検察事務官の制度は,庁法の制定によって創設されたものである。庁法施行前,すなわち,裁判所構成法の時代において同法が定めていた検事の補助機関は,検事局に補職された裁判所書記(検事局書記)であった(裁判所構成法第8,85条)。検事局書記は,検察行政事務に関しては検事局の長等の命令に服して検察行政上の文書の往復,諸表の作成等の職務に従い,検察事務に関しては検事の命令に服して検事の聴取書・訊問調書の作成(旧刑事訴訟法第56,136,139条)等の聯務に従い,それらの事務の補助を任務としていたが,原則として,捜査の権限はなかった。捜査に関しては, 旧刑事訴訟法第251条,大正12年勅令第528号「司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等二関スル件」第2条により,検事正が特に指名した地方裁判所検事局及び区裁判所検事局の書記が司法警察官の職務を, 同じく指名にかかる雇員が司法警察吏の職務を行うことができるにすぎなかった。検事局に検事直属の捜査権限を持つ職員を置く制度は, 昭和21年12月11日勅令第600号「検察補佐官の設置に関する件」によって,検察補佐官が設けられたのに始まる。
   庁法を制定し,現行検察制度を樹立するに際して,従来の実績に鑑みても,検察官の補助機関として,従前の検事局書記の機能を営むものと検察補佐官の機能を営むものを必要とされたのは,当然である。そこで,両者を別個の機関として設けることも考えられたが,両者の権限をそれぞれ拡大して,従来の検事局書記と検察補佐官の両者の行う事務をあわせ行う機関を創設することは,その地位の向上をもたらすものであり,率務能率の向上にも資するものと考えられて,検察事務官の制度が誕生したものである。こうして,庁法施行の際「現に書記長若しくは裁判所書記の職に在って検事局に属する者又は検察補佐官の職に在る者は,別に辞令を発せられないときは,現に受ける号俸を以て検察事務官に任ぜられ」(庁法附則第41条)たのである。


2 検察事務官の職務
(1) 検察事務官は,上官の命を受けて検察庁の事務を掌る(庁法第27条第3項前段)。
   「上官」とは,検察官たる上司のほか検察事務官又は検察技官たる上司をも含む。
   「命を受けて」とは,その者の行う職務に関する権限が, その者の固有の権限ではなく, その者に対して職務執行上の命令をすることができる上司の権限に由来しており,その上司の補助機関たる地位において職務を行うものであることを意味している。したがって,検察事務官は,上司の個々の命令に服従すべきことはもちろんであるが,そのような個々の命令を待つまでもなく,一般的に上司の補助機関として,与えられた事務を処理すべき職責を有するのである。
   「検察庁の事務」とは,庁法第27条第3項後段において検察事務官の捜査に関する職務を別に規定しているから,捜査は含まないし, また,検察事務官の職務からは検察官が自ら行うべき検察事務(例えば,公判立会など)が除かれることは事柄の性質上当然であるから, これらを除いたところの検察事務及び検察行政事務である。すなわち,検察官の行う事務の円滑な処理のために必要とされる各般の事務である。
   これを要するに,検察事務官は, まず,職務命令をなし得る上司の補助機関として,検察官の行う事務の円滑な処理のために必要とされる各般の総務,文書,会計事務等(検察行政事務),公判立会検察官の補助事務等(本来の検察事務)並びに事件の受理・処理等の記帳・整理,裁判の執行,罰金等の徴収,記録の保存,犯歴票の作成・保管,証拠品の受理・保管・処分,恩赦等事務(検務事務)を処理するものということができる。
(2) 検察事務官は,検察官を補佐し,又はその指揮を受けて,捜査を行う(庁法第27条第3項後段)。
   検察事務官は検察官の行う捜査について,個々の指揮を待つまでもなく一般的に検察官を補佐するとともに,検察官の指揮によって自ら捜査を行うのである(刑訴法第191条第2項,第195条参照)。このことは,検察事務官が検察庁のいずれの部局・課に所属しているかによって変わることはない(章程第10条第9項参照,ただし,個々の検察官の指揮は,その事務の分担に応じ,その分担する事務を補佐・補助する検察事務官以下の職員を指揮する(章程第8条)ものとされており,組織上のルートを無視した指揮はできない。)。
   したがって,検察事務官が捜査を行うには,全て検察官の指揮を受けてしなければならないのであって,独立して事件を取り扱うことはできない(注1)。そのため,検察事務官には, 司法瞥察職員に対する指示・指揮の権限(刑訴法第193条),逮捕状謂求の権限(刑訴法第199条) ,勾留請求の権限(刑訴法第204,205,211,216条) ,証人尋問請求の権限(刑訴法第226,227条) ,告訴・告発を受理する権限(刑訴法第241条) ,事件の送致を受ける権限(刑訴法第246条)等は認められておらず, この点司法警察員よりもやや弱いが, 司法巡査よりはやや強く,例えば,差押,捜索,及び検証等の令状請求の権限(刑訴法第218条),押収物に関する処分の権限(刑訴法第222条第1項ただし書) ,鑑定留置及び鑑定処分許可の請求の権限(刑訴法第224,225条)等を有している。
   検察事務官の職務の執行は,直接国民の権利義務に影響を及ぼすことが多い。したがって,検察事務官が庁外で職務を執行する場合には,検察事務官の証票を携帯し,関係者の請求があったときは, これを示してその官氏名を明らかにしなければならないものとされる(章程第25条第1項)。この証票の様式は,平成10年6月8日法務省訓令第3号「検察事務官証票規程」によって定められている(同条第2項)。


3 検察官事務取扱検察事務官
   「法務大臣は, 当分の間,検察官が足りないため,必要と認めるときは,区検察庁の検察事務官にその庁の検察官の事務を取り扱わせることができる」(庁法附則第36条)。いうまでもなく,区検察庁においても,検察官の事務は,本来の検察官が取り扱うことが原則であるが,事務量の累増に見合う検察官の増員が困難な実情に鑑みて,比較的軽微な事件のみを取り扱うものとされている区検察庁に限り,暫定的(注2)に検察事務官が検察官の事務を取り扱うことができるものとされているのである。
   「検察官の事務」には,検察事務と検察行政事務とを含む。したがって,区検察庁の検察事務官がその庁の検察官事務取扱を命ぜられたときは,捜査,公訴の提起,維持その他庁法第4条及び第6条に規定された事務を検察官と同一の権限をもって処理し得るのみならず(注3,4,5,6) , その区検察庁に検察官が配置されていない場合における庁務の掌理,職員の監督その他の行政事務をも取り扱うことができるのである。
   検察官事務取扱検察事務官は, 「その庁」,すなわち,所属区検察庁の検察官の事務のみを取り扱い得るのであるから,庁法第12条の事務引取移転権をもってしても,地方検察庁以上の検察庁の検察官の事務を取り扱わせることはできないし,所属区検察庁以外の区検察庁の検察官の事務を取り扱わせることもできない。
   もっとも,検察官は,捜査に関して事物管轄の制限を受けないから,検察官事務取扱検察事務官が,区検察庁で, 区検察庁検察官事務取扱検察事務官の資格において,いわゆる地方事件について弁解録取書を作成したり,告訴を受理したりすることは許される。例えば,殺人などいわゆる地方事件であっても,区検察庁で逮捕並びに勾留の手続を行うことができ, その場合には,その手続の一環として区検察庁の検察官事務取扱検察事務官が弁解録取書を作成できる。しかし,地方検察庁で受理した事件については,区検察庁の職員がその資格において地方検察庁の事務を取り扱うことができないのは, もちろんである。


(注1) 検察事務官による被疑者等の取調べと調書の作成について
   判例「地方検察庁の検察事務官は,検察官の指揮下において捜査する限り,たとい補助者であっても,地方裁判所の合議事件につき,被疑者その他の者を取調べ,その聴取書を作成する権限を有するものと解するを相当とする。」(最判昭和28年3月13日最高刑集7巻3号529頁)
(注2) 庁法第36条の「検察官の事務」の範囲と「当分の間」について
   判例「所謂検察官の事務に関し,検察庁法及び刑訴法その他関係法令において,刑訴法第247条所定の公訴の提起手続を除外すべき何等の規定がないから, これを包含するものと解すべく,従って,所謂検察庁法第36条に定められた,検察官の事務についても同様に解するを相当とし, また同法条に所謂, 「当分の間」というのは同法その他関係法令によって, これが改廃変更せられるまでの間の趣旨と解すべきであるから,所論のように,単に検察庁法施行後既に3年を経過したとの事由によって,失効したものと解するは妥当ではない。」(束京高判昭和25年8月14日最高裁刑事判例要旨集5巻6号407頁)
(注3) 検察官事務取扱検察事務官の権限について
   判例「改正前の検察庁法第36条によれば,法務総裁は当分の間検察官が足りないため必要と認めるときは区検察庁の検察事務官にその庁の検察官の事務を取り扱わせることができたのであって,本件の起訴は右の法律により検察官の事務を取り扱うことのできた区検察庁の検祭事務宮によってなされたものと認められるから刑訴247条等に違反する無効のものではない。」(最決昭和28年7月14日最高刑集7巻7号1529頁)
(注4) 検察官事務取扱検察事務官作成の供述調書の表示について
   判例「…所輪は,第一審判決が証拠として採用した検察官作成の供述調書について違法がありとし, これを理由として憲法第31条違反及び東京高等裁判所判例違反を主張する。しかし検察庁法第36条により検察官の事務取扱を命ぜられた検察事務官は,検察官としての権能を有するものであるから,検察官事務取扱検察事務官の作成した供述調書は,結局検察官作成の供述調書にほかならない。従って本件において第一審判決が,所論指摘のように証拠の挙示において,単に『検察官作成の……供述調書』と表示したことは不正確たるを免れないが, このことをもって直ちに違法ということはできない。結局所論違憲の主張は前提を欠くことに帰し採用のかぎりでない。」(最判昭和31年6月19日最高刑集10巻6号853頁)
(注5) 検察官事務取扱検察事務官の告訴の受理について
   判例「検察庁法第36条によれば,法務総裁は当分の間検察官が足りないため必要と認めるときは,区検察庁の検察事務官にその庁の検察官の事務を取り扱わせることができると規定しているので,大津区検察庁検察事務官○○○○(以下「甲」とする。)が大津区検察庁検察事務官の地位において大津区検察庁検察官の事務を取り扱った場合ならば, それは大津区検察官の資格において行動したのであるから甲の告訴受理は検察官による告訴の受理となる。従って本件供述調書による告訴の受理は適法と言わねばならない。しかるに同供述調書をみるに冒頭に大津地方検察庁において左の通り陳述したと記載し末尾に大津地方検察庁検察事務官甲と署名捺印されているのである。これによれば本件については甲は大津地方検察庁の検察事務官として検察庁法第27条第2項の本来の検察事務官の職務を行なったものといわねばならない。すなわち検事の補助者として捜査をしたにすぎないこととなるのである。従って本件供述調書は検察官事務取扱甲の作成せるものでなく,検察事務官甲が作成したものとみるべきである。」(大阪高判昭和26年2月5日高裁刑集4巻2号100頁)
(注6) 検察官事務取扱検察事務官が簡易裁判所に公訴を提起し,同裁判所の公判に立会することについて
   判例「法務大臣によって区検察庁の検察官の事務を取り扱うことができるものとされた検察事務官は,区検察庁の検察官の事務に関する限りに於ては, これに対応する簡易栽判所に公訴を提起することができるし,同裁判所の公判廷に出席することもできるといわなければならない。本件で横須賀区検察庁検察官事務取扱検察事務官○○○○が横須賀簡易裁判所に公訴を提起し,その公判廷に出席しているのは,右検察庁法第36条に由来する正当な手続であり,所論のように同法第32条及び検察庁事務章程に基くものではなく,従って右手続が検察庁内部の規則に基いて刑事訴訟法及び刑事訴訟規則を無視した違法のものであるとはいえないこと明らかであるし,原審判決書に検察官の官氏名を記載するに代えて検察官事務取扱検察事務官○○○○と記載してあることも違法なものではない。」(東京高判昭和31年7月7日東京高等裁判所判決時報7巻7号279頁)


*1 検察事務官の職場としては,①捜査・公判部門,②検務部門及び③事務局部門があります(法務省HPの「検察事務官の幅広い職場と仕事」参照)。
*2 外部HPに「検察庁法36条の問題点について-副検事制に関連して-」が載っています。
*3 以下の記事も参照してください。
① 法務省の定員に関する訓令及び通達
② 副検事制度が創設された経緯

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