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刑法第34条の2による刑の消滅-10年・5年・2年の期間と起算日(AIリライト)

第1 この記事が扱う刑の消滅

この記事は,刑法34条の2により,刑の言渡し又は刑の免除の言渡しが効力を失う時期を整理するものである。
令和8年9月6日現在の法令を基準とし,令和7年6月1日に拘禁刑が導入された後の条文に基づいて説明する。

刑法34条の2は,実刑の執行を終えた場合等について,その後の一定期間を問題とする規定である。
刑の全部の執行猶予を取り消されることなく猶予期間を経過した場合は,刑法27条によって刑の言渡しが効力を失うため,同条とは区別する必要がある。

「刑の消滅」は,有罪判決を受けたという過去の事実や,その事実に関する記録がすべて消去されることを意味しない。
刑の消滅後の前科情報,犯罪人名簿,犯罪経歴証明書,資格制限,就職及びインターネット上の記事の取扱いについては,前科抹消があった場合の取扱い(AIリライト)で説明している。

第2 刑法34条の2の要件

1 10年,5年及び2年の区分

刑法34条の2が定める期間は,対象となる刑によって次のように異なる。
いずれも,期間中に罰金以上の刑に処せられないことが必要である。

刑の言渡し等が効力を失うまでの期間
対象起算の基礎必要な期間
拘禁刑以上の刑刑の執行を終わり,又は執行の免除を得た時10年
罰金以下の刑刑の執行を終わり,又は執行の免除を得た時5年
刑の免除の言渡しその裁判が確定した時2年

「罰金以下の刑」には,刑法9条の刑種の順序により,罰金,拘留及び科料が含まれる。
没収は付加刑であり,独立して「罰金以下の刑」に当たるものではない。

「罰金以上の刑に処せられないで」とは,期間内に罰金以上の刑の裁判が確定しないことをいう。
期間内に有罪判決が言い渡されても,その判決が確定する前に必要期間が経過すれば,その前の刑の言渡しは効力を失う。

2 旧懲役,旧禁錮及び旧拘留への適用

懲役及び禁錮は令和7年6月1日に廃止され,拘禁刑に一本化された。
この改正の概要及び施行日は,法務省「拘禁刑について」で確認できる。

令和4年法律第68号450条は,現行刑法34条の2第1項を,改正前に言い渡された懲役,禁錮及び旧拘留に係る刑の消滅にも適用すると定めている。
したがって,古い判決に懲役又は禁錮と記載されていても,経過措置を確認せずに刑法34条の2の対象外と判断することはできない。

第3 消滅期間の起算日

1 拘禁刑及び労役場留置

拘禁刑の執行を終えた場合は,執行終了日の翌日が消滅期間の起算点となる。
仮釈放された日を直ちに執行終了日とするのではなく,残刑期間の満了等によって刑の執行を終えた日を確認する必要がある。

罰金又は科料を完納できないため労役場に留置された場合は,労役場留置による執行終了日の翌日から計算する。
刑の種類だけでなく,罰金等が現金納付で執行されたのか,労役場留置によって執行されたのかを確認する必要がある。

2 罰金の納付

罰金を現金等で完納した場合は,完納した日が5年の期間の起算点となる。
最高裁昭和52年3月25日第一小法廷決定の事案でも,罰金を納付した昭和44年9月24日から5年後の昭和49年9月24日に,その罰金刑の言渡しが効力を失ったものと扱われている。

3 執行の免除と刑の免除の言渡し

刑の執行の免除を得た場合は,執行の免除を得た日から10年又は5年を計算する。
刑の時効が完成した場合は,刑の時効が完成した日がこれに当たる。

これに対し,刑の免除の言渡しを受けた場合は,その裁判の確定日から2年を計算する。
「刑の執行の免除」と「刑の免除の言渡し」は,起算点も条文上の位置付けも異なる。

第4 期間中に別の刑が確定した場合

1 後の刑が効力を有している場合

前の刑の消滅期間中に,後の罰金以上の刑が確定した場合は,「罰金以上の刑に処せられないで」という要件を満たさない。
実務資料では前の刑の消滅期間が「中断する」と説明されるが,これは計算を説明するための表現であり,刑法34条の2の条文に「中断」という文言があるわけではない。

後の刑が引き続き効力を有する場合は,後の刑の執行終了日又は執行免除日を基礎として,前の刑及び後の刑についてそれぞれ必要な期間を計算する。
前の刑が罰金で後の刑が拘禁刑であれば,後の刑の執行終了を基礎に,前の罰金刑について5年,後の拘禁刑について10年が問題となり得る。

2 後の刑の言渡し自体が効力を失った場合

後の刑が全部執行猶予期間の経過等によって効力を失った場合は,刑法34条の2との関係では,後の刑に処せられなかったものとして前の刑の期間を判定する。
後の刑が効力を失った時点で,前の刑について当初の必要期間が既に経過していれば,前の刑もその時点で効力を失う。

最高裁昭和52年3月25日第一小法廷決定は,懲役刑の執行終了後10年以内に罰金刑が確定した場合でも,その罰金刑の言渡しが5年の経過によって先に効力を失ったときは,懲役刑の言渡しが当初の執行終了後10年を経過した時点で効力を失うとした。
後の刑があったという事実だけから,常に前の刑の期間を後の刑の終了時から数え直すことはできない。

期間中に別の刑がある場合の判定
場面前の刑についての扱い
必要期間内に後の罰金以上の刑が確定しない当初の必要期間の経過によって効力を失う
後の罰金以上の刑が確定し,その刑が効力を有する後の刑の執行終了日等を基礎に再計算する
後の刑が前の刑の当初の期限前に効力を失う後の刑に処せられなかったものとして当初の期限を判定する
後の刑の失効時に前の刑の当初の期間も経過済みである後の刑の失効と同時に前の刑も効力を失う

第5 執行猶予と刑の消滅

1 刑の全部の執行猶予

刑法27条1項によれば,刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予期間を経過したときは,刑の言渡しが効力を失う。
この場合は刑法34条の2による10年又は5年の経過を待つものではない。

猶予期間中に犯した罪について公訴が提起されている場合には,同条2項による効力継続が問題となる。
ただし,同条3項は,刑法34条の2第1項及び人の資格に関する法令の適用については,効力継続中も刑の言渡しが失効したものとみなしている。

2 刑の一部の執行猶予

刑法27条の7第1項によれば,一部執行猶予を取り消されることなく猶予期間を経過したときは,言い渡された拘禁刑は実刑部分を刑期とする刑に減軽され,実刑部分の執行終了日等に刑の執行を受け終わったものとされる。
そのため,刑法34条の2の10年は,原則として実刑部分の執行終了日等を基礎として判定する。

猶予期間中の罪について公訴が提起されている場合には,同条2項により減軽の時期が延びることがある。
ただし,同条3項は,刑法34条の2第1項及び資格制限法令の適用について,減軽及び執行終了をみなす特則を置いている。

一部執行猶予が取り消された場合は,猶予部分を含む刑期について執行を受けることになる。
この場合は,刑全体の執行を終えた日等を基礎として10年を計算する。

第6 刑の言渡しが効力を失うことの意味

1 法的効果と過去の事実の区別

最高裁昭和29年3月11日第一小法廷判決は,刑の言渡しに基づく法的効果は将来に向かって消滅するが,刑の言渡しを受けたという過去の事実までなくなるものではないとした。
同判決は,既に効力を失った罰金刑の事実を,後の刑事裁判における量刑資料として考慮することも否定していない。

したがって,刑の言渡しが効力を失った後は,あらゆる場面で過去の有罪判決に触れることが禁止される,という結論にはならない。
他方,過去の事実が残ることだけを理由として,個別法令が刑の消滅に結び付けた資格回復その他の法的効果を否定することもできない。

2 犯歴記録等との区別

犯歴事務規程は,検察庁における犯歴の把握及び管理を定める行政内部の規程である。
同規程18条が定める死亡判明時の犯歴の消除・廃棄と,刑法34条の2による刑の言渡しの効力消滅は,別の制度である。

市区町村の犯罪人名簿,警察が保有する情報,犯罪経歴証明書及びインターネット上の報道等についても,刑法34条の2だけで一律の削除時期が決まるわけではない。
それぞれの制度の根拠,利用目的及び対象期間を個別に確認する必要がある。

第7 旧研修教材の計算例

1 教材の位置付け

法務総合研究所『研修教材 五訂版 犯歴事務解説』は,平成30年3月5日に発行された検察事務官向け研修教材である。
同教材119頁~128頁には,刑法34条の2の要件,一部執行猶予及び次の計算例が掲載されている。

同教材は拘禁刑導入前の旧法用語を使用しているため,現在利用するときは現行刑法及び経過措置との照合が必要である。
原図の最後に続く129頁は「犯歴事務電算化の経緯」であり,刑の消滅時期の計算例には含まれない。

2 計算例が扱う場面

犯歴事務解説に掲載された計算例の場面
教材の番号教材が扱う場面現行法で確認する要点
禁錮以上の全部実刑現在は拘禁刑以上と読み替え,旧刑には経過措置を適用する
罰金以下の実刑現金納付と労役場留置とで起算点が異なる
全部執行猶予が取り消された場合猶予部分を含む刑全体の執行終了日を確認する
前の自由刑後に後の全部実刑が確定した場合後の刑の執行終了後に前後の刑を判定する
前の罰金刑後に後の罰金刑が確定した場合後の罰金刑の執行終了を基礎に5年を判定する
自由刑後の罰金刑が前の10年内に先に失効する場合最高裁昭和52年3月25日決定の考え方を適用する
自由刑後に2回の罰金刑が確定した場合各後刑の確定,執行終了及び失効を時系列で確認する
罰金刑後に自由刑が確定した場合後の刑の執行終了後,前刑は5年,後刑は10年を判定する
一部執行猶予の場合実刑部分の終了,猶予期間の経過,取消し及び他刑の有無を分ける

これらの図は,複数の刑があるときに,判決確定日だけでなく,各刑の執行終了日,執行猶予期間及び刑の言渡し自体が失効した日を並べる必要があることを示している。
実際の消滅日は,対象者に関するすべての罰金以上の刑を時系列に並べた上で判定する必要がある。

第8 関連記事

刑の消滅後の前科情報,資格制限,犯罪経歴証明書,就職及び海外渡航については,前科抹消があった場合の取扱い(AIリライト)を参照されたい。
検察庁の前科調書の内容については,前科調書で説明している。

刑の消滅と恩赦は別の制度である。
大赦,特赦及び復権の効果については,恩赦の効果を参照されたい。

第9 出典・参考資料

1 法令

刑法,9条,27条,27条の7及び34条の2。
刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律,450条。

2 裁判例

最高裁昭和29年3月11日第一小法廷判決,昭和27年(あ)第3419号,刑集8巻3号270頁。
最高裁昭和52年3月25日第一小法廷決定,昭和51年(あ)第2041号,刑集31巻2号120頁。

3 行政資料

法務省「拘禁刑について」
法務省刑事局「犯歴事務規程」,最終改正令和7年5月29日法務省刑総訓第10号。
③ 法務総合研究所『研修教材 五訂版 犯歴事務解説』平成30年3月5日,119頁~128頁。

4 文献

① 大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法 第3版 第1巻〔序論・第1条~第34条の2〕』青林書院,平成27年,758頁~767頁。
② 武内謙治・本庄武『刑事政策学〔第2版〕』日本評論社,令和8年,146頁~149頁。