刑法第34条の2の規定による刑の消滅


   犯歴事務解説(法務総合研究所の,平成30年3月5日発行の五訂版)

119頁ないし128頁には,「第9章 刑法第34条の2の規定による刑の消滅」として以下の記載があります。

第1 刑の消滅
1 刑の言渡しの効力を失わしめる事由としては,刑の全部の執行猶予の期間の経過(刑法第27条),同法第34条の2の規定による法定期間の経過及び恩赦法による大赦・特赦(恩赦法第3条・第5条)があるが,刑法第34条の2の規定による刑の消滅に関しては,本籍市区町村から本籍地方検察庁に対し,身分証明上,あるいは犯罪人名簿整理上の必要から,非常に多くの照会がなされている実情にあるので,刑法第34条の2の規定による刑の消滅の時期について述べることとする。
2 刑の消滅の対象となるのは. 「刑の言渡し」と「刑の免除の言渡し」である。
3 消滅期間の起算点は, 自由刑の執行を終了した者及び労役場留置の執行により財産刑の執行が終了した者については刑の執行終了の日の翌日(注),現金等の納付により財産刑の執行が終了した者については刑の執行終了日 (現金等を納付した日),刑の執行の免除を得た者については刑の執行の免除を得た日 (刑の時効が完成した場合には,刑の時効満了日の翌日,すなわち時効完成の日)である。
(注)昭58検務実務家会同犯歴事務関係1問答
4 刑の消滅の時期は,禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者については,罰金以上の刑に処せられることなく10年を経過したときであり,罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者については,罰金以上の刑に処せられることなく5年を経過したときである。
   また,刑の免除の言渡しを受けた者については,その裁判確定後罰金以上の刑に処せられることなく2年を経過したときである。
   「罰金以上の刑に処せられることなく」とは,罰金以上の刑が確定することなくということである。したがって,前刑の消滅に要求される期間(以下「消滅期間」という。)内に罰金以上の刑に処する裁判があっても,消滅期間内に確定しない場合には,前刑は消滅することになる。
   前刑の消滅期間内に罰金以上の刑(後刑)に処せられたときは,前刑の消滅期間は中断するが,後刑の執行終了の日又は執行の免除を得た日から.前・後刑ともにその消滅期間は進行を始める。
   前刑の消滅期間内に罰金以上の刑(後刑)に処せられても,前刑の消滅期間内に後刑の執行猶予期間の経過や大赦又は特赦等によって刑の言渡しの効力が消滅すれば,罰金以上の刑に処せられなかったことになるので、前刑は, 当初の消滅期間の経過により消滅することになる。
   また,後刑の消滅の時点で,前刑の消滅期間を経過しているときは,後刑の消滅と同時に前刑も消滅する(注)。
(注)1  昭43.12.27刑事(総)908号刑事局長通達「刑法第34条ノ2に規定する刑の消滅時期について」
2 昭34検務事務家会同犯罪票事務関係7問答

第2 刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者についての刑の消滅に関する照会に対する回答に当たっての留意点
   刑の言渡しがその効力を失った事実の有無に関し,本籍市区町村長から,本籍地を管轄する地方検察庁の検察官に対して照会がなされた場合において, これに回答するときは,刑法第27条の7の規定に留意する必要がある。
   すなわち, 同条によれば.刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者は,その猶予の期間中は, 当該刑の執行を終わったものとはならず,刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過するか,刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消され,猶予部分を含めた刑の執行を終わったときに初めて刑の執行を終わったものとなる。
   したがって,一部執行猶予刑の猶予期間中の者は,刑の消滅(刑法第34条の2)の規定において, 「刑の執行を終わ」つた者には該当しないこととなる。
   例えば,刑の一部の執行猶予を言い渡され,取り消されることなくその猶予の期間を経過した場合は,刑法第27条の7により,実刑部分の期間の執行を終わった日等に刑の執行を受け終わったものとされるため,回答時において,実刑部分の期間の執行を終わった日等から10年が経過しているときには,刑の言渡しが効力を失った旨回答することとなる。
   他方,刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消された場合には,猶予部分を含む言い渡された刑期全部の執行を受けることとなるから,回答時において,その刑の執行を終わった日等から10年が経過しているときには,刑の言渡しが効力を失った旨回答することとなる。

第3 刑の消滅時期の具体例
   刑の消滅の時期については,種々の事例が考えられるが.主な事例を図示すると,次のとおりである。なお,図示中の・・・線は,刑の消滅期間を示す。




*1 「前科調書」も参照してください。
*2 大阪市の犯歴事務に関するマニュアル(令和元年11月に情報提供された文書)を掲載しています。


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