保釈保証金の没取


目次
1 総論
2 保釈保証金の没取金額の推移
3 全国弁護士協同組合連合会が保釈保証書を発行した事案における没取の状況(令和5年3月17日追加)
4 保釈中の逃亡事件に関する国会答弁
5 保釈保証金の没取に関する下級審判例
6 関連記事その他

1 総論
(1) 被告人が逃亡したり,罪証隠滅を図ったり,保釈条件に違反したりした場合,裁判所は保釈を取り消すことができます(刑訴法96条1項)。
(2)ア 裁判所が保釈を取り消す場合,保釈保証金の全部又は一部を没取できます(刑訴法96条2項)。
イ 刑訴法96条2項に基づく保釈保証金没取決定は,保釈保証金若しくはこれに代わる有価証券を納付し又は保証書を差し出した者に対し,その者の国に対する保釈保証金等の還付請求権を消滅させ,また,その者に対して保証書に記載された金額を国庫に納付することを命ずることを内容とする裁判です(最高裁昭和52年4月4日決定)。
ウ 保釈保証金没取決定は,これに対し事後に不服申立の途が認められれば,あらかじめ告知,弁解,防御の機会が与えられていないからといって,憲法31条及び29条に違反しません(最高裁大法廷昭和43年6月12日決定)。
(3) 「没取」は「没収」と同じ意味です。
(4) 市民的及び政治的権利に関する国際規約9条3項は以下のとおりです。
 刑事上の罪に問われて逮捕され又は抑留された者は、裁判官又は司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の面前に速やかに連れて行かれるものとし、妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される権利を有する。裁判に付される者を抑留することが原則であってはならず、釈放に当たっては、裁判その他の司法上の手続のすべての段階における出頭及び必要な場合における判決の執行のための出頭が保証されることを条件とすることができる。


2 保釈保証金の没取金額の推移
(1)ア 保釈保証金の没取金額の推移は以下のとおりです。
令和 4年: 1億8235万円
令和 3年: 1億5770万円
令和 2年: 2億9640万円
2019年:18億5860万円
平成30年: 1億6760万円
平成29年: 1億9120万円
平成28年: 1億1370万円
平成27年: 1億2055万円
平成26年:   8120万円
平成25年:   7580万円
イ 令和元年12月31日,カルロス・ゴーン(日産自動車の元会長)が「私はレバノンにいる」という内容の声明を発表したため,同日の晩,東京地裁は同人の保釈を取り消す決定をして,同人の保釈保証金15億円を没取しました(Wikipediaの「カルロス・ゴーン事件」参照)。
(2) 以下の文書を掲載しています。
・ 各庁ごとの保釈保証金の没取金(令和4年度分)
・ 各庁ごとの保釈保証金の没取金(令和3年度分)
→ 86枚の文書からの抜粋です。
・ 各庁ごとの保釈保証金の没取金(令和2年度分)
・ 各庁ごとの保釈保証金の没取金(2019年度分)
・ 各庁ごとの保釈保証金の没取金(平成30年度分)
・ 令和元年6月14日付の開示文書
→ 平成25年度から平成29年度までの金額が載っています。
(3) 日本保釈支援協会HP「保釈に関する数値データ」が載っています。
(4) 衆議院議員鈴木強君提出保釈保証金返還債権の帰属及び保管金規則第三条の解釈に関する質問に対する答弁書(昭和59年9月14日付)には以下の記載があります。
    没取決定があつた場合には、弁護人は、保証書記載の保証金相当額を国庫に納付する債務を負担する。弁護人が任意に納付しないときは、検察官の命令により、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従つて没取の裁判の執行をすることになる(刑事訴訟法第四百九十条)。


3 全国弁護士協同組合連合会が保釈保証書を発行した事案における没取の状況
(1) 全国弁護士協同組合連合会HP「保釈保証書発行事業」には以下の記載があります。
保釈保証書発行事業とは、貧富の差による不平等をなくし、被告人の人権を守るための事業です。逃亡や証拠隠滅の可能性が低く保釈可能な被告人でも、保証金が用意できなければ、身体を拘束され続けるしかありません。全弁協の提唱する保釈保証書発行事業では、担当弁護人の申込みに基づき全弁協が保証書の発行を行い、万一の際の保証金の支払いは全弁協が行います。組合がリスクを負うことで弁護人個人へのリスクをなくし、「保証書による保釈」を機能させ、資金の乏しい被告人にも平等に保釈の機会を与えるのがこの事業の狙いです。
(2) 自由と正義2023年3月号50頁ないし52頁に「全国弁護士協同組合連合会における保釈保証書発行事業と保釈保証金の没取得状況について」が載っていますところ,そこには以下の記載があります。
Ⅱ 自己負担金と保証料等の変更(一般事案は自己負担金ゼロに)
    この状況(山中注:制度変更前の没取状況)から、薬物事案以外の事案においては、保釈保証書のみによっても逃亡等保釈条件違反について相当の抑止力があると考えられる反面、覚醒剤取締法違反事件における被告人に対する抑止力は、被告人によっては抑止力が働かない場合もあり得ると考えられた。
   そこで、全弁協は、保証料と自己負担金等について以下のとおり変更した。
    覚醒剤取締法違反など薬物事案については、2021年5月1日申込受付分から、保証料を2%から3%に、また自己負担金も10%から20%にそれぞれ増額した。審査項目に同種前科の有無を設け、審査もより厳しくし、発行上限額も200万円に減額した。
    他方、薬物事案以外の事案(以下「一般事案」という。)については、それまで自己負担金として10%の納付を求めていたが、これを求めないように変更した(保証料、発行上限額は従前とおり)。
(中略)
Ⅴ 自己負担金なしの一般事案における没取の状況
    2021年5月1日の自己負担金変更後の一般事案の保釈保証書の発行件数は281件であり、うち保釈が終了した案件は225件である。そして、没取となった件数は1件である(没取率0.4%)。この225件のうち、裁判所が現金の納付を求めていた件数(保釈保証金の金額が300万円を超えるか、300万円以下の場合にはその全額について保釈保証書の代納を認めていないもの)は151件である。なお、没取の対象となった上記案件は、裁判所から別途現金の納付を求められていた事案である。
Ⅵ 自己負担金10%の納付を求めていた事案の没取の状況
    2018年4月1日から2021年4月末日までに申込みがなされた一般事案の保釈保証書の発行件数は907件であり、うち保釈が終了した案件は903件である。そして没取となった件数は11件である(没取率1.2%)。この11件のうち、裁判所が現金を求めていた件数は5件、現金の納付を求めていなかった件数は6件であり、ほぼ同数である。没取とはならなかった892件のうち、裁判所が現金の納付を求めていた件数は418件、現金の納付を求めていなかった件数は489件である。
Ⅶ まとめ
    一般事案において,自己負担金変更後の没取率は、それ以前の没取率を大きく下回っている。裁判所が別途現金の納付を求めていない事案においても、相当件数が没取されることなく保釈が終了している。没取後は、分割払であれ、保証委託者が全弁協に支払を行う案件がほとんどである。全弁協による保釈保証書も抑止力は十分にあると言える。なお、全弁協は、事前申込事案のうち、保証承諾の可否を慎重に判断すべき事案(申込総数の50%程度)については、審査担当弁護士が弁護人に個別に事実確認した上で判断している。
本稿で紹介した数値は、個々の事案を踏まえたものではないため、最終的には個々の事案によるという面があることは否定できないが、事案によっては保釈保証書のみでも保釈条件を遵守させるには十分である。
    裁判官、検察官には、是非全弁協の保釈保証書の抑止力を正当に評価していただき、それを踏まえて個々の事案において適切な判断がなされることを期待したい。


4 保釈中の逃亡事件に関する国会答弁
43期の安東章最高裁判所刑事局長は,令和2年2月25日の衆議院予算委員会第三分科会において以下の答弁をしています。
 まず、委員御指摘ありましたカルロス・ゴーン被告人の保釈中の逃亡事件についてでございますけれども、個別裁判の当否についての言及は差し控えますが、保釈中の被告人が不正に出国して刑事裁判が開けなくなるというのは本来あってはならない事態と事務当局としても考えておりまして、今回の件については重く受けとめておるところでございます。
 それから、裁判所での取組でございます。
 先ほど委員からも御指摘ありました、昨年夏ごろから保釈中の被告人の逃走事案が相次いで発生しておりまして、一部の地方裁判所におきましては、保釈が取り消された実例を素材として、保釈の運用に関する議論がされていたところです。
 これを受けまして、昨年秋に開催された司法研修所の刑事事件を担当する裁判官の研究会におきまして、事務当局の方からその地裁の議論状況を紹介したところでございます。その後、その内容は各庁に還元され、各庁で議論が行われたものと承知しております。
 また、こうした各庁での議論を踏まえまして、先月から高裁単位で刑事事件担当の裁判官の協議会を開いておりまして、そちらでも、保釈保証金を含む保釈条件のあり方、それからその設定に必要な情報を当事者から把握するための審査手続のあり方などについて、更に議論がなされたところでございます。
 このように裁判官の間での議論を積み重ねていくことによりまして、個々の事案に応じた適切な保釈の運用が行われていく、そのように考えているところでございます。


5 保釈保証金の没取に関する下級審判例
・ 東京高裁令和4年1月24日決定(判例時報2543号・2544号)は,実刑判決確定後に約3か月間逃亡した事案の保釈保証金没取請求について,保釈保証金の実質的納付者の事情や刑の執行が開始されたことなどを指摘して保釈保証金の一部を没取した原決定について,本件の没取事由によれば,特に事情がない限り保釈保証金は全額没取すべきであり,原決定が考慮した事情は,没取額を減額する方向の事情ではないか,一部没取が相当な理由が示されていないとして,これを取り消し,保釈保証金の全額を没取した事例です。

6 関連記事その他
(1) 一般社団法人日本保釈支援協会HP「保釈保証金立替システム」が載っています。
(2) 債権者が会社に金銭を貸し付けるに際し,社債の発行に仮託して,不当に高利を得る目的で当該会社に働きかけて社債を発行させるなど,社債の発行の目的,会社法676条各号に掲げる事項の内容,その決定の経緯等に照らし,当該社債の発行が利息制限法の規制を潜脱することを企図して行われたものと認められるなどの特段の事情がある場合を除き,社債には同法1条の規定は適用されません(最高裁令和3年1月26日判決)。
(3) 国際法学会HPの「エキスパート・コメント」「カルロス・ゴーン氏逃亡問題(改訂版)」が載っています。
(4) 以下の記事も参照して下さい。
・ 被告人の保釈
 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(被害者側)
 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧


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