最高裁判所の裁判官会議の議事録は,開示の申出があっても全部が開示されるわけではない。
令和8年度(最情)答申第14号は,令和5年度の議事録40文書について,情報の種類ごとに不開示の当否を検討している。
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会の令和8年度(最情)答申第14号(令和8年7月13日答申)を対象とし,その判断の枠組みを整理するものである。
答申の原文と,本記事が引用する各リンク先は,令和8年9月9日を基準に確認した。
2 答申の結論
同答申の件名は「特定年度の最高裁判所の裁判官会議の議事録の一部不開示の判断に関する件」である。
令和5年度の最高裁判所裁判官会議議事録について,最高裁判所事務総長が別紙記載の40文書を対象文書として特定し,その一部を不開示とした判断を,委員会は妥当とした。
同答申は,議事録の全体を不開示としたものではない。
不開示部分を情報の種類ごとに区分し,行政機関情報公開法5条1号,2号イ,6号柱書き又は同号ニに規定する不開示情報に相当するかを,それぞれ検討している。
3 答申の制度上の位置付け
本答申は,最高裁判所の判決又は決定ではなく,最高裁判所に置かれた情報公開・個人情報保護審査委員会の答申である。
苦情が申し出られた場合に最高裁判所が同委員会に諮問し,その答申を尊重して対応する仕組みであるから,裁判例と同じ意味で先例として引用することはできない。
諮問日は令和7年12月4日(令和7年度(最情)諮問第43号),答申日は令和8年7月13日である。
原判断は令和7年7月22日付けでされ,委員会は令和8年3月23日に対象文書を見分した上,同年4月17日,5月22日及び6月19日に審議している。
第2 裁判所の情報公開制度との関係
1 行政機関情報公開法の直接適用ではないこと
裁判所は行政機関情報公開法の対象機関ではなく,司法行政文書の開示は,最高裁判所が定めた裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱に基づいて行われる。
そのため答申も,不開示部分が行政機関情報公開法5条各号の不開示情報に「相当する」かという形で判断しており,同法を直接適用したものではない。
2 本件がたどった手続
本件の開示の申出は取扱要綱記第2に定めるものである。
原判断に対する苦情の申出は同記第11の1に,委員会への諮問は同記第11の3に基づく(司法行政文書開示手続参照)。
第3 不開示が維持された情報とその根拠
1 全40文書の署名及び印影
別紙記載1から40までの各文書について,最高裁判所長官及び秘書課長の署名及び印影が,法5条1号に規定する個人識別情報に相当するとされた。
同じく裁判官会議議事録の署名及び印影を法5条1号に該当するとした先例として,平成30年度(最情)答申第32号(平成30年9月21日答申)がある。
2 栄典事務に関する事項
別紙記載3,4,22及び24の各文書について,春秋の藍綬褒章及び勲章の受章内定者名簿に登載された者の所属庁,功労業務,氏名,勲等及び主要経歴のほか,内定者数の不開示が維持された。
各内定者数を除く部分は法5条1号に相当し,内定者数を含む部分は同条6号柱書きに相当するとされた。
内定者数についての理由は,実際の受章者数が内定者の辞退や推薦取消し等により内定者数から減少する場合があることにある。
官職及び内定者数を公にすると,受章に至らなかった者の有無及び人数が明らかになると推測され,その具体的理由を第三者から追及されたり,様々な憶測や誤解を招いたりするおそれがあるとされた。
3 裁判官に関する人事関係事項
別紙記載2から4まで,6から10まで,13,15,17,19,22から24まで,28,30,32から34まで,36及び39の各文書について,裁判官に関する人事関係事項に係る氏名等が不開示とされた。
別紙記載3及び6の議事録本文には人事関係についての協議内容等が,「極秘」との表示がされ表題等を含む全部が不開示とされた資料部分には一定の役職の人事事項の議事の資料となる情報が,それぞれ記載されていると認定されている。
これらは法5条1号に相当することに加え,人事事務に関する担当者等の一部の関係職員以外には知られることのない機微な性質のものであるとして,同条6号ニにも相当するとされた。
4 裁判官の昇給に関する事項
別紙記載12,21及び30の各文書について,昇給号報,官職名,氏名及び備考(別紙記載21については期別を含む。)の不開示が維持された。
公にすると裁判官の職務遂行に無用の影響を与え,情報を知った者から働き掛けがされるなどして人事事務担当者が適正で率直な判断をすることが困難となるとして,法5条1号のほか同条6号ニにも相当するとされた。
5 特定事件に関する事項
別紙記載7の文書について,特定事件に関する当事者名等を含む情報のうち,個人に関する部分は法5条1号に相当するとされた。
法人に関する部分は,公にすることにより法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとして,同条2号イに相当するとされた。
6 簡易裁判所判事候補者選考に関する事項
別紙記載12の文書のうち,簡易裁判所判事候補者選考における候補者の現職の官職名,氏名及び理由が不開示とされた。
法5条1号に相当することに加え,候補者に係る情報を知った者に無用な憶測を生じさせ,その後の最高裁判所による簡易裁判所判事の指名に係る事務における公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすとして,同条6号ニにも相当するとされた。
7 簡易裁判所判事任命名簿の現職欄
別紙記載12の文書には,簡易裁判所判事任命名簿の一部の任補者の現職が記載されていた。
名簿に記載された者は開示申出の時点で既に現職欄記載の職を退職していたため,現職欄の記載はその者の経歴に当たり,法5条1号の個人識別情報に相当するとされた。
もっとも,同名簿に記載された者は開示申出時点で簡易裁判所判事に任命されており,裁判所において略歴の公表慣行のある者(国の行政機関の本府省課長相当職以上の者)に当たる。
そこで委員会は,その職歴のうち,裁判所において略歴として公表慣行のある職名(裁判所における,国の行政機関の本府省企画官相当職以降の職名)は法5条1号ただし書イに該当するが,公表慣行のある職名に当たらないものは該当しないとした。
本件で不開示とされた職名は,いずれも公表慣行のある職名に当たらないとされた。
公務員の経歴であることから直ちに開示又は不開示が決まるのではなく,職名ごとに公表慣行の有無が検討されている点が,本答申の特徴である。
8 採用,再採用及び候補者の指名に関する事項
別紙記載15,20及び24の各文書における再採用となる司法修習生の氏名,別紙記載16,30,32及び38の各文書における下級裁判所裁判官指名諮問委員会の答申に関する情報,並びに別紙記載17及び32の各文書における裁判官の採用・不採用及び調停官候補者に関する情報は,いずれも法5条1号に相当するとされた。
指名諮問委員会に関する不開示部分には,任命予定日,任命予定官名,諮問時の官職又は所属弁護士会,氏名,期及び生年月日のほか,指名することが適当でないとされた者についてはその理由や実務修習地も含まれている。
9 司法修習生考試に関する事項
別紙記載31の文書について,司法修習生考試合格者の旧姓等と,司法修習生考試不合格者の氏名及び旧姓等が,法5条1号に相当するとされた。
合格者については氏名ではなく旧姓等が不開示部分として挙げられており,不合格者とは記載のされ方が異なる。
10 司法修習生採用候補者の総数
別紙記載39の文書について,司法修習生採用候補者名簿に登載された者の番号及び氏名が法5条1号に相当するとされたほか,候補者の総数についても不開示が維持された。
総数についての根拠は法5条6号柱書きであり,実際の採用者数が公表されているところ,候補者数を明らかにすると採用に至らなかった者の人数が明らかになり,その具体的理由を第三者から詮索されたり,様々な憶測や誤解を招くことにより,適正な司法修習生の採用事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとされた。
これは,不採用者数を修習期ごとに直接集計した文書が作成されていることを認定したものではない。
公表済みの採用者数と候補者総数との差から不採用者数が導かれるという判断である。
第4 実務上の含意
1 公表慣行の有無は職名ごとに検討されること
本答申は,公務員の経歴であれば当然に公にされるという前提を採っていない。
簡易裁判所判事任命名簿の現職欄について,公表慣行のある職名とない職名を区分し,前者だけが法5条1号ただし書イに該当するとした。
したがって,経歴の開示を求める場合は,誰について,どの職名が,どの範囲で公にされているかを個別に示す必要がある。
公務員の職務に関する情報であるという一般論だけでは足りない。
2 人数だけでも不開示となり得ること
氏名を除いた集計値であれば当然に開示されるわけではない。
本答申は,栄典の内定者数と司法修習生採用候補者の総数について,いずれも既に公表されている数値との差から,受章に至らなかった者の人数や採用に至らなかった者の人数が明らかになることを理由として,不開示を維持した。
もっとも,人数であれば常に不開示となるという判断ではない。
どの公表情報と組み合わせると何が分かるのか,その推知がどの事務にどのような支障を生じさせるのかが,それぞれ検討されている。
3 苦情申出の審査対象は原判断の当否であること
苦情申出人は,通知期限及びその延長に係る基準が曖昧であることから期待される時期を過ぎて通知がされた旨,及び自らの個人情報が漏洩している疑いがある旨も主張した。
委員会は,前者については原判断を不相当とする事情には当たらないとし,後者についてはそのような事実は認められないとした。
処理期間や情報管理に関する主張は,不開示部分ごとの不開示情報該当性の主張とは別に整理する必要がある。
第5 本答申から確認できないこと
本答申は,40文書の不開示部分を情報の種類ごとに検討したものであり,実際に交付された一部開示文書の黒塗りの位置や周辺の記載までは,答申本文から確認することができない。
また,答申を受けた後に最高裁判所が苦情申出人に対して行った対応の結果も,答申本文には記載されていない。
第6 関連記事
最高裁判所の裁判官会議の議事録そのものは,最高裁判所裁判官会議の議事録に年月別のPDFを掲載している。
司法修習生の採用に関する部分の本文は,司法修習生の採用に関する最高裁判所の裁判官会議議事録の本文で扱っている。
平成27年度から平成31年度までの不開示等の答申は,最高裁判所の司法行政文書に関する不開示等の答申42件に一覧で整理している。
答申の件名にある「不存在」の読み分けは,最高裁判所の「不存在」答申の読み方で扱っている。
開示手続と不開示情報の全体像は,裁判所の情報公開――通達・司法行政文書の開示手続と判決情報の公開を参照されたい。
司法修習生の採用選考における不合格者数に関する文書の状況は,司法修習生の採用選考で不合格となった人が出た修習期等で整理している。
第7 出典・参考資料
1 答申
①最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会・令和8年度(最情)答申第14号(令和8年7月13日答申,PDF1頁~13頁)
②同・平成30年度(最情)答申第32号(平成30年9月21日答申,PDF1頁~3頁)
③最高裁判所「令和8年度の情報公開に関する答申」(令和8年9月9日確認)
2 制度・法令
①最高裁判所「司法行政文書開示手続」(令和8年9月9日確認)
②最高裁判所「裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱」(令和8年9月9日確認)
③最高裁判所「情報公開・個人情報保護審査委員会」(令和8年9月9日確認)
④e-Gov法令検索「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(令和8年9月9日確認)