第1 異所性骨化だけで後遺障害等級が決まるわけではない
異所性骨化(heterotopic ossification。以下「HO」という。)は,骨格外の軟部組織に成熟した骨が形成される病態である。交通事故では,筋肉の挫滅,骨折又は脱臼に対する手術,重い頭部外傷又は脊髄損傷の後に問題となり得る。
もっとも,現行の自賠責後遺障害等級表に「異所性骨化」という独立の等級はない。実際の認定では,①事故又は事故後の治療とHOとの因果関係,②HOが生じた位置と関節可動域制限との対応,③疼痛又は末梢神経圧迫等の神経症状,④骨折後の変形,瘢痕その他の併存障害を分けて評価し,同じ障害の二重評価を避ける必要がある。
したがって,「画像にHOが写っているから12級になる」とも,「骨化が小さいから非該当になる」とも一律にはいえない。本記事では,自賠責の等級表,公開されている労災の関節機能障害認定基準,医学文献及び原文を確認できた裁判例を組み合わせ,交通事故後のHOをどのように評価し,どの資料で立証するかを説明する。
第2 事故との因果関係は画像の時系列と発生部位から検討する
1 交通事故後に生じる異所性骨化の類型
後天性HOには,局所の外傷,骨折,関節脱臼又は手術後に生じる外傷性HOと,脳損傷又は脊髄損傷後に生じる神経原性HOがある。交通事故では,直接の筋挫滅と手術侵襲が重なることもあり,一般的な医学知見だけから一つの原因へ寄与率を割り振ることはできない。
HOは,骨折部の仮骨,軟部組織の石灰化,腱付着部の変化,感染,骨・軟部腫瘍等と区別する必要がある。また,遺伝性疾患である進行性骨化性線維異形成症(FOP)は,通常の外傷後HOとは別の病態であるため,診断名又は画像上の「骨化」という表現だけで同一視してはならない。
2 早期の画像が陰性でも直ちに否定できない
HOは受傷直後から完成した骨として写るとは限らず,典型的には数週後から疼痛,腫脹,熱感,発赤及び進行する可動域低下が現れる。単純X線とCTは石灰化後の骨化を捉え,CTは骨性架橋と関節又は神経血管との三次元的位置関係の評価に優れるが,早期には陰性となり得る。
MRIは早期の軟部組織変化を示すことがある反面,未成熟期には腫瘍様に見える場合がある。骨シンチグラフィ又は超音波も補助となり得るが,単独で事故との因果関係又は後遺障害等級を決める検査ではなく,血清アルカリホスファターゼの値だけで診断又は成熟時期を確定することもできない。
3 画像が直接示す事実と医学的評価を分ける
画像から直接確認できるのは,骨化の有無,部位,形態,大きさ,関節面又は神経血管との位置関係及び時間的変化である。これに対し,骨化の発生原因,現在の可動域制限への寄与,活動性,切除術の適応及び予後は,診察所見,手術記録,治療経過等を加えた医学的評価を要する。
股関節周囲では,単純X線像によるBrooker分類が用いられることがある。同分類は,軟部組織内の骨島から股関節強直までを4段階に分ける画像分類であるが,関節可動域を測る自賠責又は労災の等級基準ではなく,CTと単純X線で分類が一致しない例も報告されている。そのため,「Brooker Class IIIなら10級」などと機械的に対応させることはできない。
第3 後遺障害等級は残った機能と症状から評価する
1 関節機能障害として評価する場合
HOが上肢又は下肢の三大関節の動きを物理的に妨げる場合,中心となるのは関節機能障害の評価である。現行の自動車損害賠償保障法施行令別表第二における代表的な等級は,次のとおりである。
| 障害の程度 | 上肢の一関節 | 下肢の一関節 |
|---|---|---|
| 関節の用を廃したもの | 8級6号 | 8級7号 |
| 関節の機能に著しい障害を残すもの | 10級10号 | 10級11号 |
| 関節の機能に障害を残すもの | 12級6号 | 12級7号 |
公開されている厚生労働省の関節機能障害認定基準では,主要運動の可動域が,原則として健側の10%程度以下又は10度以下で「用廃」,2分の1以下で「著しい機能障害」,4分の3以下で「機能障害」と評価される。肩関節及び股関節では主要運動が複数あるため,用廃は両方が全く動かないかこれに近い状態であることを要するが,10級又は12級相当の判断では,いずれか一方の主要運動が基準以下であれば足りる。
主要運動が基準をわずかに上回るときは,参考運動が同じ基準以下であれば認定対象となる場合がある。「わずかに」は原則5度であり,肩関節の屈曲・外転,手関節の屈曲・伸展,股関節の屈曲・伸展等について著しい機能障害を判断する場合は10度とされている。ただし,この公開基準は労災の認定基準であり,非公表部分を含む自賠責の運用と全面的に同一であると断定することはできない。
2 可動域は原因を明らかにしてから測定する
可動域の数値だけを取り出しても,HOによる機械的制限を示したことにはならない。骨性ブロックのほか,関節包拘縮,筋・腱の短縮,疼痛,末梢神経麻痺及び代償動作が測定値に混在し得るため,画像と診察所見により制限原因を先に明らかにする必要がある。
測定は,日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会の表示・測定法に従い,原則として他動値を用い,患側と健側を同じ肢位で比較する。末梢神経損傷のため他動では動くが自動では動かない場合又は耐え難い疼痛のため他動値の採用が適切でない場合等は,自動値も記録し,採用理由を診断書に明記することが重要である。
関節別の主要運動,参考運動,代償動作及び診断書上の記載方法は,肩関節,肘関節,股関節,膝関節及び足関節の記事で説明している。HOによる骨性制限と軟部組織の短縮を整理する際は,拘縮と可動域制限の違いも参照されたい。
3 神経症状として評価する場合
HOが尺骨神経,坐骨神経その他の末梢神経を圧迫すると,疼痛,しびれ,感覚低下,筋萎縮又は筋力低下を残すことがある。自賠責等級表では,局部に頑固な神経症状を残すものが12級13号,局部に神経症状を残すものが14級9号である。
ただし,画像上のHOだけで12級13号になるわけではない。骨化と神経走行との位置関係,症状の分布,知覚・筋力・腱反射等の神経学的所見,筋萎縮,筋電図・神経伝導検査及び手術所見等を組み合わせ,症状が医学的に説明できることを示す必要がある。
4 変形,瘢痕及び複数障害の扱い
自賠責等級表には,長管骨に変形を残すものとして12級8号がある。しかし,筋肉又は関節周囲の軟部組織に形成されたHOが,当然に上腕骨,大腿骨等の長管骨自体の変形になるわけではなく,骨折後の変形癒合と軟部組織内の異所性骨を画像上区別しなければならない。
複数の関節機能障害,神経障害,瘢痕又は短縮がそれぞれ独立して残るときは,施行令2条の併合規則が問題となる。他方,同じHOが同じ関節の可動域制限と疼痛を生じさせた場合に,機能障害と神経症状を機械的に併合すると,同一障害の二重評価となり得る。障害ごとに,原因,部位及び失われた機能が独立しているかを先に分解する必要がある。
第4 症状固定は骨化の経過と治療可能性を踏まえて判断する
1 骨化の活動性と画像の成熟
症状固定は,画像上の骨化が見つかった日又は一定期間の経過だけで決めるものではない。事故直後,骨化の初出,増大又は成熟,症状固定前後の画像を時系列に並べ,疼痛,熱感,可動域及び炎症所見の推移と対応させる必要がある。
古い文献には切除術まで一定期間待機する考え方もあるが,一律の待機期間は現在の全症例に妥当する絶対基準ではない。神経・血管圧迫,皮膚障害,座位又は歩行機能への影響,骨化の位置,手術による改善見込み,再発,感染及び創傷合併症のリスクを比較し,個別に判断する必要がある。
2 治療が残っている場合の確認事項
切除術は,著しい機能障害,神経血管圧迫,皮膚障害又は日常生活上の重大な支障がある場合に検討されるが,手術をすれば必ず改善するわけではない。治療医に対し,①現在の骨化は活動期か成熟期か,②手術その他の治療でどの運動がどの程度改善する見込みか,③再発又は合併症の危険は何か,④治療を行わない医学的理由は何かを確認することが,症状固定の時期と将来治療費を分けて考える手掛かりとなる。
薬物療法又は放射線予防の知見も,対象となる外傷又は手術の種類によって異なる。例えば,エチドロン酸二ナトリウム製剤の電子添文に記載されたHOの適応は,脊髄損傷後及び股関節形成術後の初期又は進行期に限られており,一般の交通外傷後HOへ当然に当てはめることはできない。強いマッサージ又は粗暴な他動運動を避けるべきとする医学的知見もあるが,時間的な前後関係だけでリハビリテーションがHOの原因であると断定することはできない。
第5 等級申請では低負担の資料から争点を絞る
1 最初にそろえる資料
被害者側では,まず,①救急搬送記録と事故直後の診療録,②事故前又は事故直後から症状固定までの画像検査報告書,③手術記録,④後遺障害診断書,⑤患側・健側及び他動・自動を区別した可動域表,⑥神経学的所見,⑦職務又は日常生活上の具体的支障をそろえる。これらは通常,医療機関に診療録等の開示を申し込み,既に作成された記録の写しを取得する方法から始めるのが現実的である。
次に,画像報告書だけではHOの初出時期又は骨性ブロックの位置が分からない場合に,単純X線,CT又はMRIのDICOMデータを取得し,日付順に比較する。画像は医療機関が保有しており,保存状況,交付方法及び費用は医療機関ごとに異なるため,早い段階で確認するのが望ましい。
2 治療医への照会で結論が変わる点を確認する
治療医への照会事項は,抽象的に「事故との因果関係がありますか」と尋ねるのではなく,①骨化がどの組織内にあり,どの運動を妨げるか,②事故前又は事故直後の画像と比べていつ形成されたか,③可動域制限のうち骨性ブロック,軟部組織拘縮,疼痛及び神経麻痺の寄与はどうか,④治療による改善可能性と症状固定の医学的理由は何か,という形で具体化する。
保険会社側からは,事故前からの骨化又は関節症,事故との時間的・解剖学的不整合,画像部位と症状の不一致,可動域測定時の代償動作,治療による改善可能性及び機能障害と神経症状の重複評価が指摘され得る。被害者側は,相手方の資料を当然に取得できることを前提とせず,自ら取得できる診療録,画像及び就労資料によって,これらの反論に先回りして答える構成が適切である。
3 専門家意見へ進む条件と停止基準
放射線科医又は整形外科医による原画像の再評価は,①事故前からの病変か事故後に形成された病変かで結論が変わる場合,②骨性架橋と関節運動との対応が争われる場合,③神経圧迫の有無が12級又は14級の判断を左右する場合等に検討する。単に資料を増やすためではなく,何が判明すれば因果関係又は等級の結論が変わるかを先に定める必要がある。
他方,経時画像にHOが確認できず,主張する症状又は運動制限と解剖学的に対応する器質的所見もなく,適正に再測定した可動域も等級基準に達しない場合は,高額な私的鑑定へ直ちに進む合理性は乏しい。まず診療録の不足,測定方法又は別の傷病による障害の可能性を確認し,追加調査によって結論が変わる具体的見込みがないときは,HOを中心とする異議申立て又は訴訟を勧めない判断も必要となる。
第6 確認できた裁判例とその射程
1 大阪地裁平成23年4月13日判決
大阪地裁平成23年4月13日判決(平成22年(ワ)第8898号,交通事故民事裁判例集44巻2号535頁,判例秘書L06650855)は,自動二輪車の運転者が大型貨物車との事故により左大腿部の広範な挫滅,腓骨神経麻痺,左大腿異所性骨化及び骨化性筋炎等を負った事案である。自賠責では,左股関節機能障害12級7号,左膝関節機能障害12級7号及び瘢痕等を踏まえ,併合10級と認定されていた。
裁判所は,就職後に現実の減収が生じていないことだけで労働能力喪失を否定せず,走れない,階段で手すりを要する,低い位置までしゃがみにくい,長時間立位の調理が困難である等の職務上の支障,本人の努力及び勤務先の配慮を考慮した。その上で,労働能力喪失率27%,67歳まで45年間の喪失を認め,逸失利益を3140万8364円と算定した。
もっとも,同判決はHOだけの寄与を分離して等級を判断したものではなく,挫滅損傷,腓骨神経麻痺及び瘢痕を含む複合障害事例である。同判決から直接導けるのは,HOを含む下肢外傷で複数関節の機能障害が問題となり得ることと,実収入が減っていなくても,具体的な職務上の支障,努力及び職場の配慮が逸失利益の判断資料となり得ることまでである。なお,同判決は裁判所HP未掲載であり,判例秘書の全文で確認した。
第7 個別事案で確認すべき事項
後遺障害等級の見通しは,HOという診断名ではなく,事故前後の画像,骨化の解剖学的位置,規格化した可動域,神経学的所見,治療可能性及び障害の独立性を一つずつ対応させて判断する必要がある。特に,画像上の重症度分類と等級,骨化と長管骨変形,機能障害と神経症状をそれぞれ同一視しないことが,過大評価と過小評価の双方を避けるために重要である。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり,特定の事故について等級認定又は損害賠償請求の結果を保証するものではない。受傷部位,手術内容,既往歴,画像経過及び症状固定時期によって評価が変わるため,個別事案では診療録と原画像を確認する必要がある。
第8 出典・参考資料
1 法令・行政資料
①自動車損害賠償保障法施行令2条・別表第二。
③厚生労働省「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日基発第0604003号)。
④厚生労働省「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」専門検討会報告書。
⑤労災保険情報センター『労災保険後遺障害診断書作成手引(整形外科領域)』20頁,33頁,37頁,72頁~76頁(PDF実頁)。
2 裁判例
①大阪地裁平成23年4月13日判決・平成22年(ワ)第8898号・交通事故民事裁判例集44巻2号535頁・判例秘書L06650855(判例秘書全文確認済,裁判所HP未掲載)。
②AIN法律事務所編『給与所得者以外の逸失利益算定事例集―事業所得者・自由業・会社役員等―』新日本法規出版,2019年,318頁(弁護士ドットコムLIBRARY電子版340頁)。
3 医学・薬学文献
①井樋栄二・津村弘監修『標準整形外科学 第15版』医学書院,2023年,電子版306頁~307頁,389頁,500頁,680頁~681頁,839頁~841頁。
②上月正博ほか編『標準リハビリテーション医学 第4版』医学書院,2023年,電子版277頁。
③Meyers C et al., Heterotopic Ossification: A Comprehensive Review, JBMR Plus, 2019;3(4):e10172(PMC全文)。
④Mujtaba B et al., Heterotopic ossification: radiological and pathological review, Radiology and Oncology, 2019;53(3):275-284(PMC全文)。
⑤Dey D et al., The traumatic bone: trauma-induced heterotopic ossification, Translational Research, 2017;186:95-111(PMC全文)。
⑥Brooker AF et al., Ectopic ossification following total hip replacement. Incidence and a method of classification, Journal of Bone and Joint Surgery American Volume, 1973;55(8):1629-1632, PMID 4217797(PubMed)。
⑦Jiayi TM et al., Potential discrepancy between plain films and CT scans in Brooker classification of heterotopic ossification, British Journal of Radiology, 2017;90(1080):20170263(PMC全文)。
⑧Forsberg JA et al., What Risk Factors Predict Recurrence of Heterotopic Ossification After Excision in Combat-related Amputations?, Clinical Orthopaedics and Related Research, 2015;473(9):2814-2824(PMC全文)。
⑨PMDA「ダイドロネル錠200」電子添文,2026年4月改訂。