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交通事故による眼外傷と外傷性視神経症―後遺障害立証の検査と記録

第1 本記事の対象

交通事故後に視力低下,視野障害,複視その他の眼症状が生じた場合,眼球そのものの損傷だけでなく,視神経,眼球運動を担う神経及び中枢神経の損傷を検討する必要がある。
本記事は,眼科診断を代替するものではなく,外傷性視神経症を含む眼外傷について,診療録と検査結果を後遺障害の立証資料としてどのように確認するかを整理するものである。
医学的診断,事故との法的因果関係及び自賠責の障害等級は別の判断であり,一つの検査結果だけで他の判断が自動的に決まるものではない。

第2 交通事故後に確認する眼症状

1 視力障害

片眼又は両眼の見えにくさがある場合,裸眼視力だけでなく,矯正視力,屈折状態,事故前の視力及び検査時の条件を確認する。
自賠責の視力障害は原則として矯正視力を基礎とするため,診療録上の数値が裸眼か矯正後かを区別する必要がある。

2 視野障害

見える範囲の欠損又は狭窄については,静的又は動的視野検査の種類,測定条件及び再現性を確認する。
視野検査は被検者の応答を要するため,複数回の結果と他覚的所見との整合性が重要である。

3 眼球運動障害及び複視

複視は,眼球運動筋,それを支配する脳神経,眼窩壁骨折又は中枢神経の障害によって生じ得る。
どの注視方向で複視が生じるか,正面視又は日常生活で支障があるか,画像上の骨折・筋損傷と対応するかを確認する。

4 瞳孔反応

瞳孔所見は視神経障害の評価に重要である。
相対的瞳孔求心路障害(RAPD)は,左右の眼に交互に光を当てた際の瞳孔反応の差から,一側性又は左右差のある視神経機能障害を示唆する他覚的所見である。

第3 外傷性視神経症

1 典型的な臨床像

外傷性視神経症では,眉毛外側部等への頭部外傷後,片眼性の視力・視野障害が直ちに又は早期に現れ,RAPDが認められることがある。
受傷直後の眼底が正常でも視神経障害を否定できず,数週間後に視神経乳頭の蒼白化が現れることがある。

2 視神経管骨折の有無

CTで視神経管骨折が認められれば重要な所見となるが,骨折が写っていないことだけで外傷性視神経症を否定することはできない。
画像は骨折,眼窩内病変,出血及び脳損傷を確認する資料であり,視力,視野,瞳孔反応及び眼底所見と併せて評価する。

3 OCTその他の検査

光干渉断層計(OCT)は,網膜神経線維層及び黄斑部神経節細胞複合体等の厚さを測定し,視神経障害に伴う構造変化を追跡する資料となる。
受傷直後には異常が明瞭でなくても,時間の経過により菲薄化が現れることがあるため,検査日と受傷日との間隔を確認する。
視覚誘発電位その他の検査を行った場合も,検査の限界と臨床所見との整合性を確認する。

第4 機能性又は非器質性視覚障害との区別

1 主観的検査と他覚的所見

視力検査及び視野検査には被検者の応答が関与する一方,瞳孔反応,眼底所見,OCT及び画像検査は異なる角度から視覚系を評価する。
検査結果に不一致がある場合,直ちに虚偽申告と評価せず,検査理解,疲労,心理的要因,器質的障害の検出限界及び再現性を順に検討する。

2 経時的評価

事故直後,症状固定前及び症状固定時の検査を並べ,変化が医学的に説明できるかを確認する。
外傷性視神経症では後から構造変化が明瞭になることがあり,逆に機能性視覚障害と診断された後に器質的所見が判明した報告もあるため,一時点の所見だけで結論を固定しない。

第5 事故との因果関係を検討する資料

1 受傷機転

衝突方向,頭部・顔面の打撲部位,シートベルト及びエアバッグの作動,眼鏡の破損,顔面骨折並びに救急搬送時の記録を確認する。
事故現場写真,車両写真及び救急活動記録は,診療録の受傷機転を補強することがある。

2 症状出現時期

受傷直後から視覚異常を訴えていたか,初診時にどの眼症状が記録されたか,眼科受診までに空白期間がある場合はその理由を確認する。
意識障害,重篤な他部位外傷又は入院管理のため,眼症状の申告又は精査が遅れた可能性も検討する。

3 事故前資料と他原因

運転免許更新時の視力,眼鏡・コンタクトレンズの処方歴,学校・勤務先の健康診断,既往眼疾患,糖尿病その他の全身疾患及び事故前の眼科診療録を確認する。
事故前後の比較によって,事故前から存在した障害と今回事故後に新たに生じた障害を分ける。

第6 後遺障害等級との関係

1 医学的診断と等級認定

病名が付いたことと,後遺障害等級に該当する機能障害が残ったことは別問題である。
視力,視野,眼球運動及びまぶたの各障害について,自賠責保険の後遺障害等級表と測定方法を確認する。

2 労災認定基準の参照

厚生労働省の眼の障害等級認定基準は,検査方法及び障害評価を理解する参考となる。
ただし,労災保険と自賠責保険は制度目的及び認定手続が同一ではないため,労災基準の記載を自賠責認定へ無条件に置き換えない。

3 症状固定時の記録

後遺障害診断書には,左右別の矯正視力,視野検査結果,複視の範囲,瞳孔所見,眼底所見,OCT及び画像所見,治療経過並びに症状固定日を漏れなく記載することが望ましい。
検査票及び画像データ自体も取得し,診断書の数値と一致するかを確認する。

第7 記録収集のチェックリスト

1 医療記録

①救急搬送記録及び初診時診療録
②眼科,脳神経外科,耳鼻咽喉科及び形成外科の診療録
③視力・視野・眼球運動・瞳孔反応の検査票
④眼底写真,OCT,CT及びMRIの画像データ
⑤事故前の眼科記録及び眼鏡等の処方記録
⑥後遺障害診断書及び等級認定理由

2 生活及び就労記録

運転,読書,パソコン作業,階段歩行,距離感,夜間活動及び複視による支障を,発生時期と頻度を含めて具体的に記録する。
勤務先には,事故前後の担当業務,作業速度,誤り,配置転換,勤務時間及び収入の変化を確認する。

第8 参考資料及び確認範囲

本記事は,日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2024年版』下巻133頁以下の眼外傷に関する講演録,厚生労働省の障害等級認定基準並びに眼科・神経眼科の学術資料を中心に整理したものである。
外傷性視神経症については,神経眼科の症例報告,機能性視覚障害との鑑別に関する症例報告及び日本外傷学会雑誌掲載論文を参照した。
これらは医学的知見の裏付けであり,個別事件の法的因果関係又は等級を直接証明するものではない。
治療法の選択は本記事の対象外であり,眼科又は神経眼科の専門医が個別に判断する必要がある。

等級表と号数の対照については,交通事故の後遺障害等級・号数対照表も参照されたい。