司法修習生の罷免等に対する不服申立方法


目次
第1 公務員に対する懲戒処分が違法となる場合等

第2 司法修習生の罷免に対する不服申立方法等に関する答弁
1 5期の大西勝也最高裁判所事務総局人事局長の,昭和56年12月21日の衆議院法務委員会における答弁
2 34期の林道晴司法研修所事務局長の,平成18年1月24日の司法修習委員会(第10回)における答弁
第3 最高裁判所行政不服審査委員会
1 平成28年4月1日の,最高裁判所行政不服審査委員会の設置
2 最高裁判所に対する審査請求によって最高裁判所の判断が是正される可能性は極めて小さい気がすること
第4 司法修習生の罷免処分については,取消訴訟を提起できること等
第5 二回試験の不合格処分自体を争うことは無理と思われること
第6 最高裁判所の罷免処分を争う実益はない気がすること

第7 行政訴訟に関する事件報告
第8 関連記事その他

第1 公務員に対する懲戒処分が違法となる場合等
1(1)ア   公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となります最高裁平成24年1月16日判決。なお,先例として,最高裁昭和52年12月20日判決最高裁平成2年1月18日判決参照)。
イ 最高裁令和4年6月14日判決も同趣旨の判断をしています。
(2) 最高裁昭和32年5月10日判決は,公務員に対する懲戒処分は,特別権力関係に基づく行政監督権の作用であると判示していました。
2 公務員に対する懲戒処分を争う方法については,あなたの弁護士HP「懲戒処分に対する取消訴訟の方法|懲戒処分が取消可能な条件と理由」が参考になります。
   
第2 司法修習生の罷免に対する不服申立方法等に関する答弁
1 5期の大西勝也最高裁判所事務総局人事局長の,昭和56年12月21日の衆議院法務委員会における答弁
① 司法修習生が罷免されました場合の不服申し立て方法といたしましては、まず問題がないと思われますのは、行政事件訴訟法に言っておりますいわゆる抗告訴訟の対象になるということで、訴訟の道があるというふうに解釈できるであろうというふうに思います。
   もう一つの、いま稲葉委員御指摘になりました行政不服審査法による不服の申し立ての関係につきましては、あるいはこれも法律解釈の問題でございまして、違う意見もあるいはあるかもしれませんけれども、一応行政不服審査法のたしか四条にできない場合のことが列挙してございまして、その中には研修所の研修生というようなものも入っておるわけでございます。それはそれといたしましても、修習生はそもそも国家公務員ではないというふうに考えられておりますことからいいましても、ちょっと行政不服審査法による不服の手続に乗っけることはできないのではないかというふうに私どもは考えております。要するに、行政事件訴訟法による訴訟によって救済ができるというふうに考えております。
② 修習生の罷免の問題について、確かにそういう問題(注:最高裁判所は、自分で処分していて、罷免していて、それが上がってくれば、罷免せずという判決をするわけないでしょうという問題)がございますが、これは単に修習生だけの問題ではございませんで、裁判所職員全体につきましての、最高裁判所が任命権を持っております職員に対する懲戒処分の問題でございますとか、その他いろいろ最高裁判所自体が行政上判定をいたしますものに対して訴訟が起こってくる、それの最終審がやはり最高裁判所であるという意味では、同じようなことがほかにもあるわけでございますが、最高裁判所としては、その行政権の主体として一定の行政目的を達成するために処分をいたします場合、それと訴訟が起こってきまして両方の当事者の言い分を聞きまして判決を下す、決定を下すという場合は、つまり別の次元に立って一応考えるということをやっておるつもりでございますし、憲法もそれを予想して両方を最高裁判所に与えておるというふうになるのではないかというふうに考えておる次第でございます。
2 34期の林道晴司法研修所事務局長の,平成18年1月24日の司法修習委員会(第10回)における答弁
① 罷免事由の規定については,司法修習生の身分の得喪にかかわる事項であり,従前から,その適用に当たっては十分に調査をした上で,必要があれば当該司法修習生と面談するなどしてきたし,今後もこの規定の適用に当たっては,同じように事前調査,当該司法修習生からの事情及び意見の聴取等の手続をとって慎重に行っていく。
   罷免された司法修習生に罷免事由の有無等について不服があっても,不服申立手続を規定したものは存在しない。ただし,司法修習生の身分の得喪にかかわる事由であり,修習を続けることができなくなるという効果がある関係上,罷免の決定後に,例えば公務員法上の公平審理のような不服審査ないし再審査手続のようなものを設けるのか,あるいは罷免に処分性があることを前提とした行政訴訟の手続にゆだねるのかどうかが考えられる。司法修習生に対する罷免自体が最高裁の決定によっていることもあり,司法修習生の身分の特殊性ということもあるので,このような特質や性質を勘案しながら,不服申立手続につき検討を続けていきたいと考えている。現段階では,その検討の方向性を具体的に申し上げることはできないが,結論が出た段階で何らかの形で委員会に報告したい。
② 過去の先例については,記録の保存期間の関係があり全ては把握しきれなかった。ただし,過去には,例えば病気によって罷免された者については,その病気が治り修習に耐えられるということになれば,再度修習を開始することについては何ら問題がないため,再採用をした例は結構あるようだ。また,いわゆる非違行為を起こした司法修習生を罷免した後,社会的にも許される期間が経過したというようなことだと思うが,再採用して修習を終了したというケースもあるようだ。このように,従前は,罷免されても,再採用という形で対処してきた面がある。このようなことから,行政訴訟等が真剣に議論された形跡というのは,調査した限りでは確認できなかった。
   
今後,司法修習生が増えると,残念ながら罷免が問題になる者も増えることも考えられる。一方,行政事件訴訟法等も改正され,その不服申立に関する規定が整備されつつあるという状況もある。司法修習生の身分の特殊性を踏まえつつ,不服申立手続の要否,そして必要とされる場合いかなる手続が妥当かといった点を検討し,早急にその結論を出していきたいと考えているところである。
③ 指摘のとおり,司法修習生についても非違行為の内容や程度に応じて厳重注意,注意,さらに事実上の注意というような形で非違行為に対処している。
   それらの措置をする前には,司法研修所で修習中の場合には同研修所において,実務修習中の場合には配属庁会において,事実関係等を調査し,その過程で司法修習生本人の言い分もしっかり聞いている。非違行為の内容や程度に応じて,まずそのような注意処分で対処できないかどうかを考えることになる。事案として特に多いのは交通違反である。また,残念ながら,酒を飲みながら暴言を吐いたとか,人に嫌な思いをさせたというような非違行為もある。
   
たとえば,交通事故であれば,物損であるか人損であるのか,あるいは相手方と損害について話し合いがついているのかどうかといったことも勘案しながら,事案に応じて注意処分をしている。この注意処分によって対処している例が大多数だと思う。罷免規定を改正した後においても,まずは注意処分によって対処できる事案かどうかを検討することになるだろう。


 第3 最高裁判所行政不服審査委員会
1 平成28年4月1日の,最高裁判所行政不服審査委員会の設置
(1) 平成28年4月1日,最高裁判所行政不服審査委員会が設置されました(裁判所HPの
「最高裁判所行政不服審査委員会」参照)。
   そのため,司法修習生が最高裁判所の罷免処分に対して不服がある場合,最高裁判所に対する審査請求ができるかもしれません最高裁判所行政不服審査委員会規則1条参照)。
(2)ア 行政不服審査法に基づく審査請求をした場合の取扱いは,「行政不服審査法に基づく審査請求書の受付等に関する事務処理要領」(平成28年7月20日付)に書いてあります。
    ただし,平成29年3月21日付の司法行政文書不開示通知書によれば,司法修習生の兼職不許可及び罷免が,行政不服審査法の対象となるかどうかが分かる文書は存在しません。
イ 国家公務員の場合,人事院に対する審査請求ができるのは著しく不利益な処分を受けたときに限られる(国家公務員法89条1項及び90条1項)こととの均衡からすれば,兼職不許可に対して審査請求をすることはできないかもしれません。
(3) 行政処分に対して不服申立てができるのは,当該処分について不服申立てをする法律上の利益がある者,つまり,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者です(最高裁昭和53年3月14日判決参照)。
(4) 「裁判所若しくは裁判官の裁判により、又は裁判の執行としてされる処分」については,行政不服審査法2条(処分についての審査請求)及び3条(不作為についての審査請求)は適用されません(行政不服審査法7条1項2号)。
2 最高裁判所に対する審査請求によって最高裁判所の判断が是正される可能性は極めて小さい気がすること
(1) 最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会の場合,不開示等に関する最高裁判所事務総長の判断を是正すべきとしたのは,司法大観は司法行政文書に該当すると判断した
平成28年度(最情)答申第40号(平成28年12月21日答申)を含めてほとんどありません。
   そのため,最高裁判所に対する審査請求によって最高裁判所の判断が是正される可能性は極めて小さい気がします。
(2) 最高裁判所に対する審査請求によって罷免処分を争ったものの,結果として最高裁判所の判断が是正されなかった場合,その後の再採用において不利益に斟酌されるかも知れません。
   
第4 司法修習生の罷免処分については,取消訴訟を提起できること等
1 司法修習生の罷免処分の場合
(1) 法務省大臣官房訟務企画課が作成した「逐条解説 法務大臣権限法」(平成19年3月発行の第2版)116頁ないし118頁には以下の記載があります(注釈部分は削っています。なお,取消訴訟は抗告訴訟の一種です(行政事件訴訟法3条2項))。
   そのため,司法修習生の罷免処分については取消訴訟を提起できることとなります。
○裁判所の機関の権限に属する事項の処分に係る抗告訴訟
   裁判所には,裁判所法80条により職員の任免等の司法行政事務を所掌する権限が与えられているので,例えば,裁判所のした裁判官以外の裁判所職員に対する懲戒処分を不服として裁判所の長を処分行政庁とし国を被告とする抗告訴訟が提起された場合に,当該訴訟は,5条1項に規定する行政庁の処分に係る国を被告とする訴訟に該当するから,当該訴訟について,裁判所の長は,行政庁として所部の職員を代理人に指定し,又は弁護士を訴訟代理人に選任して追行させることができる。
   これらの訴訟についても,三権分立制度の趣旨から,本条の適用を消極に解する考え方がある。しかし,裁判官以外の裁判所職員に対する懲戒処分等は,その本来的権限である司法権の行使に係るものではないから,これに被告国を代表する法務大臣が関与することが直ちに三権分立の趣旨に反するとは言い難い。むしろ裁判所職員に対する懲戒処分等については,国公法の規定が準用され(裁判所職員臨時措置法),一般の国家公務員に対する懲戒処分等と共通の問題を有することを考慮すると,基本的には本条の適用を肯定した上で,実際上,法務大臣の関与の必要性,相当正当を個別具体的に検討するのが相当であると考えられる。
   この点に関する従前の訟務実務の取扱いとしては,例えば,裁判官以外の裁判所職員の懲戒処分等に係る訴訟について,訟務部局として実質的に関与したものは見あたらず,裁判所自らが弁護士を訴訟代理人に選任して追行しているのが通例と思われる(大阪高裁昭和40年3月22日判決・判時408号27ページ,東京高裁昭和55年10月29日判決・行裁集31巻10号2140ページ等)。この取扱いは,国会の機関を当事者とする訴訟についての訟務実務の取扱いをも考慮すると,司法行政事務を処理する裁判所自体が争訟ないし法律の専門組織であって,その機関を当事者とする訴訟の追行については,裁判所の自主的判断にゆだね,法務大臣の関与は差し控えるのが適当であるとする考え方によるものと思われる。
   なお,国有財産法や会計法,債権管理法等においては,財務大臣の総轄の下に,最高裁判所長官又はその委任を受けた者が,部局長等としてその所掌事務を処理するとされており,これらの者がその処理に係る処分についての国を被告とする抗告訴訟の処分行政庁となり得ることが想定される場合には,当該事務は司法権の行使とは関係がなく,また,被告国を代表する法務大臣として訴訟の統一的処理を確保する必要性が認められるから,当然に法務大臣権限法6条の適用があると解するのが相当である。
(2)ア 国家公務員に対する懲戒処分の場合,審査請求に対する人事院の裁決を経た後でなければ,取消訴訟を提起することはできません(審査請求前置主義。国家公務員法92条の2)し,このことは裁判所職員についても同様です(裁判所職員臨時措置法1項は国家公務員法92条の2の準用を除外していません。)
    ただし,司法修習生は「裁判官以外の裁判所職員」ではありませんから,司法修習生に対する懲戒処分の場合,審査請求前置主義は適用されないと思います。
イ 罷免された70期司法修習生に対する平成29年1月18日付の最高裁判所人事局長の通知には以下の記載があります。
    この処分については,行政事件訴訟法の規定により, この通知を受けた日の翌日から起算して6か月以内に国を被告として(訴訟において国を代表する者は法務大臣となります。) ,処分の取消しの訴えを提起することができます(なお,この通知を受けた日の翌日から起算して6か月以内であっても,この処分の日の翌日から起算して1年を経過すると処分の取消しの訴えを提起することができなくなります。)。
2 司法修習生の戒告又は修習の停止の場合
・ 業務停止処分を受けた弁護士は,業務停止の期間を経過した後においても,右処分を受けたことにより日本弁護士連合会会長の被選挙権を有しない場合には,右処分にかかる裁決の取消しを求める訴えの利益を有します(最高裁昭和58年4月5日判決)。
   しかし,司法修習生の場合,戒告の場合はもちろん,修習の停止についても,停止期間を経過した後の法的不利益は想定されていない(事実上の不利益は当然にあります。)ことから,戒告又は修習の停止については訴えの利益がないということで取消訴訟を提起できない気がします。


第5 二回試験の不合格処分自体を争うことは無理と思われること
1 国家試験における合格,不合格の判定は学問又は技術上の知識,能力,意見等の優劣,当否の判断を内容とする行為であるから,その試験実施機関の最終判断に委せられるべきものであって,その判断の当否を審査し具体的に法令を適用して,その争いを解決調整できるものとはいえません(最高裁昭和41年2月8日判決参照)。
2 東京地裁平成29年1月17日判決の裁判要旨は以下のとおりです。
① 社会保険労務士試験不合格処分の取消訴訟は,国家試験の合否に係る処分の効力に関するものであって当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関するものであり,合格基準の策定過程に違法がある旨,社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力の有無とは関係のない事柄が考慮された旨が主張されている本件においては,学問又は技術上の知識,能力,意見等の優劣,当否を本質的な争点とし,その争点に係る判断がその帰趨を左右する必要不可欠のものであるとはいえず,法律上の争訟に当たる。
② 社会保険労務士試験不合格処分の取消請求が,社会保険労務士試験において,いかなる手続によりいかなる合格基準を決定するかは,処分行政庁の広範で専門的かつ技術的な裁量に委ねられているものと解されるところ,当該社会保険労務士試験の合格基準につき特段不合理な点はうかがわれず,合格基準の策定について,処分行政庁が裁量権を濫用,逸脱したものとはいえないとして,棄却された事例
3 二回試験の合格基準の策定過程に違法があるとか,法曹三者となるのに必要な知識及び能力の有無とは関係のない事柄が考慮されたといった事情が二回試験にあると認めてもらうことは無理と思います。
   そのため,二回試験の不合格処分自体を争うことは無理と思います。

第6 最高裁判所の罷免処分を争う実益はない気がすること
・ 
仮に最高裁判所の罷免処分が取り消されたとしても,翌年の二回試験が開始するまでの間,司法修習生として兼業禁止等の義務が残るため許可がない限りアルバイト等ができない反面,修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間(裁判所法67条の2第1項)を経過している点で修習資金すら貸与してもらえません。
   そのため, 最高裁判所の罷免処分を争う実益はない気がします。

第7 行政訴訟に関する事件報告
1 平成27年3月26日付の最高裁判所事務総局行政局第一課長の書簡によれば,行政訴訟を提起したり,上訴したりした場合,その時点で,最高裁判所事務総局行政局第一課事件係に対して受理報告がされます。
   また,第一審の弁論終結時に原告に訴訟代理人が選任されている場合,第一審事件又は上訴事件が判決により全部終局した時点で,最高裁判所事務総局行政局第一課事件係に対して終局報告がされます。
2 平成26年3月25日付の最高裁判所事務総局行政局第一課長の書簡に基づき,行政事件,労働事件及び知財事件に関する事件報告が大幅に簡素化されました。
   
第8 関連記事その他
1(1) 公立大学学生の行為に対し,懲戒処分を発動するかどうか,懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶかを決定することは,この点の判断が社会観念上著しく妥当を欠くものと認められる場合を除き,原則として,懲戒権者としての学長の裁量に任されるが,懲戒処分が全く事実の基礎を欠くものであるかどうかの点は,裁判所の判断に服します(最高裁昭和29年7月30日判決)。
(2) 国公立大学における専攻科修了認定行為は,司法審査の対象となります(最高裁昭和52年3月15日判決)。
2 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の罷免
・ 裁判所関係国賠事件
・ 司法修習生の罷免事由別の人数
・ 司法修習生の罷免理由等は不開示情報であること
・ 「品位を辱める行状」があったことを理由とする司法修習生の罷免事例及び再採
・ 司法修習生の逮捕及び実名報道


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