目次第1 本記事の対象と基準日第2 改正の全体像1 改正法の構成,施行日及び法定刑2 法務省が挙げる改正の理由第3 飲酒類型(2条1号)の数値基準1 改正後の2条1号2 数値基準を満たせば一律に対象となる3 数値基準に満たない場合4 「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」の判断枠組み5 3条1項(アルコール等影響運転致死傷)への波及第4 高速度類型の新設(2条4号)1 改正後の2条4号と数値基準2 数値基準に「準ずる」速度3 従前の「進行を制御することが困難な高速度」との関係第5 殊更滑走等類型の新設(2条6号)第6 2条の号の繰下げと引用条文の変更1 旧号と新号の対応2 6条1項及び施行令2条の引用号の変更第7 道路交通法の酒酔い運転・酒気帯び運転の改正1 酒酔い運転(117条の2第1項1号)への数値基準の導入2 酒気帯び運転(117条の2の2第1項3号)の範囲の限定3 呼気中アルコール濃度による区分第8 施行日前の行為と経過措置第9 被害者側・被疑者側それぞれの確認事項1 被害者及び遺族の立場から2 被疑者・被告人及びその家族の立場から第10 関連記事第11 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説・資料
第1 本記事の対象と基準日
本記事は,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律及び道路交通法の一部を改正する法律(令和8年法律第52号。以下「改正法」という。)による改正の内容を,改正後の条文に沿って説明するものである。
以下,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律を「自動車運転死傷処罰法」といい,法令名を付さずに条番号だけを示すときは同法の条文を指す。
条文は,令和8年9月12日現在のe-Gov法令検索に掲載された現行条文と,同年7月20日時点の改正前の条文とを照合して確認した。
法務省は,改正の内容を「危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法)の法改正 Q&A」(以下「法務省Q&A」という。)で説明している。
もっとも,法務省Q&Aは危険運転致死傷罪の新しい類型を中心とする15問で構成されており,同じ改正法による道路交通法の酒酔い運転・酒気帯び運転の改正や,2条の号の繰下げには触れていない。
本記事は,これらの点を改正法の本文と法務省が公表する新旧対照条文によって補う。
危険運転致死傷罪の量刑の分布は,通常第一審における危険運転致死罪の量刑分布(地裁)及び通常第一審における危険運転致傷罪の量刑分布(地裁)で扱っており,本記事では扱わない。
運転免許の行政処分(違反点数及び欠格期間)も,本記事の対象外とする。
第2 改正の全体像
1 改正法の構成,施行日及び法定刑
改正法は,第1条で自動車運転死傷処罰法を,第2条で道路交通法を改正するものである。
法務省Q&Aによれば,改正法は令和8年6月25日に成立した。
e-Gov法令検索の改正履歴によれば,改正法の公布日は令和8年7月1日,施行日は同月21日である。
この施行日は,改正法附則1項の「この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。」との規定によるものである。
2条の柱書は改正されておらず,危険運転致死傷罪の法定刑は,人を負傷させた場合が「十五年以下の拘禁刑」,人を死亡させた場合が「一年以上の有期拘禁刑」のままである。
有期拘禁刑の上限は,刑法12条1項により20年である。
改正は法定刑を引き上げるものではなく,処罰の対象となる行為の範囲と要件を変えるものである。
2 法務省が挙げる改正の理由
法務省Q&A(A3)は,改正前の危険運転致死傷罪について,次の指摘がされていたと説明している。
①飲酒類型について,「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」との要件の認定が困難で,判断にばらつきが生じている
②高速度類型について,常識的に見て極めて危険性の高い高速度運転であっても,実際に進路を逸脱していない事案では適用が否定される場合がある
③車体を横滑りさせながらカーブを曲がったり,二輪車の前輪を浮かせて後輪だけで走行したりする危険・悪質な運転行為を直接捉える類型がなく,処罰できない場合がある
法務省Q&Aは,こうした状況を踏まえ,「危険・悪質な自動車運転による死傷事犯について、事案の実態に即したより厳正な対処を可能とするため」に改正が行われたとしている。
法務省は,これに先立ち,令和6年2月21日から同年11月27日まで11回にわたって自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会を開催し,その取りまとめ報告書を公表している。
第3 飲酒類型(2条1号)の数値基準
1 改正後の2条1号
改正後の2条1号は,次のとおりである。
「アルコール影響正常運転困難状態(身体に血液一ミリリットルにつき一・〇ミリグラム以上又は呼気一リットルにつき〇・五ミリグラム以上のアルコールを保有する状態その他アルコールの影響により正常な運転が困難な状態をいう。次条第一項において同じ。)で自動車を走行させる行為」
(続きを読む...)危険運転致死傷罪の令和8年改正――飲酒・高速度の数値基準,殊更滑走等類型,号の繰下げ及び酒酔い運転の変更(AI作成)