目次第1 本記事の範囲第2 身体に関する令状の基本1 身体検査令状2 鑑定処分許可状3 捜索差押許可状と身体の捜索第3 強制採尿1 強制採尿が許される要件2 令状の種類と条件3 採尿場所への連行4 令状の発付が違法とされた例5 採尿の実施と有形力の行使第4 強制採血1 令状の組合せと目的2 条件と鑑定人の記載第5 毛髪の強制採取1 令状の組合せと目的2 条件の記載と採取する本数第6 飲み込んだ物の押収1 令状の組合せの理由2 条件の記載と連行3 CT検査による所在確認と異物の取出しの区別4 本人が承諾した場合5 最終的手段としての許容性6 体腔内の異物の採取が違法とされた例第7 令状の記載を確認するときの着眼点第8 関連記事第9 出典
第1 本記事の範囲
本記事は,捜査機関が被疑者の身体から尿,血液,毛髪又は飲み込んだ物を強制的に採取する場合に,どの令状が必要となり,令状にどのような条件が記載されるかを整理するものである。
令和8年9月14日現在の刑事訴訟法の条文,最高裁判所の判例及び名古屋地方裁判所・名古屋簡易裁判所の刑事書記官室が作成した「令状事務処理の手引(七訂版)」(令和6年2月補訂)の記載例を基にしている。
手引は裁判所の内部の執務資料であり,法令の解釈を公式に示すものではない。
本記事で手引の記載例を紹介するのは,令状に実際にどのような文言が記載されるかを示すためであり,他の裁判所の運用が同じであるとは限らない。
手引の頁は本文下部に印字された頁で示し,PDFの頁を併記する。
これに対し,本人が捨てたごみ,管理者が回収したごみ又は使用済み紙コップから捜査機関がDNA型資料を取得する場面では,身体への直接的な侵襲ではなく,遺留物の領置,所持者の任意提出,錯誤を利用した占有取得及び個人識別情報を取得する強制処分性が問題となる。
両者は必要な令状と適法性の判断構造が異なるため,別記事で整理する。
第2 身体に関する令状の基本
1 身体検査令状
(1) 身体検査令状が必要な場合
捜査機関は,犯罪の捜査をするについて必要があるときは,裁判官の発する令状により,差押え,捜索,電磁的記録提供命令又は検証をすることができる(刑事訴訟法218条1項前段)。
同項後段は,「この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。」と定めている。
身体検査は,人の身体を対象とする検証であり,入れ墨,ほくろ,注射痕,傷等の身体の特徴や状態を調べる場合に用いられる(手引57頁,PDF66頁)。
(2) 条件と立会い
裁判官は,身体の検査に関し,適当と認める条件を付することができる(刑事訴訟法218条9項)。
身体の検査については,これを受ける者の性別,健康状態その他の事情を考慮し,特にその方法に注意し,その者の名誉を害しないように注意しなければならない(同法222条1項・131条1項)。
女子の身体を検査する場合には,医師又は成年の女子を立ち会わせなければならない(同法131条2項)。
(3) 拒否に対する制裁と直接強制
正当な理由がなく身体の検査を拒んだときは,10万円以下の過料に処せられ(刑事訴訟法137条1項),又は10万円以下の罰金若しくは拘留に処せられることがある(同法138条1項)。
これらの規定は,捜査機関がする検証としての身体検査にも準用され(同法222条1項),過料の処分は裁判所に請求して行う(同条7項)。
また,同法222条1項は,身体の検査を拒む者を過料に処し,又は刑を科しても,その効果がないと認めるときは,そのまま身体の検査を行うことができるとする同法139条も,捜査機関の検証に準用している。
2 鑑定処分許可状
(1) 鑑定受託者の処分
捜査機関から鑑定の嘱託を受けた者は,裁判官の許可を受けて,身体を検査し,死体を解剖し,墳墓を発掘し,又は物を破壊すること等ができる(刑事訴訟法225条1項・168条1項)。
許可状の請求は検察官,検察事務官又は司法警察員が行い(同法225条2項),裁判官は身体の検査に関し適当と認める条件を付することができる(同条4項・168条3項)。
(2) 鑑定処分としての身体検査の限界
鑑定処分としての身体検査には,身体検査の拒否に対する過料・罰金の規定(刑事訴訟法137条・138条)等は準用されているが(同法168条6項),そのまま身体の検査を行うことを定めた同法139条は準用されていない。
手引は,鑑定処分としての身体検査で直接強制が許されるかについて,身体検査令状と鑑定処分許可状の併用で可とするのが多数説であるとしている(手引64頁,PDF73頁)。