第1 本記事の対象と結論
捜索差押えの現場でUSBメモリ,外付けディスクその他の記録媒体が見つかった場合,捜査機関がその場で全ファイルを開いてからでなければ差し押さえられないわけではない。
被疑事実と関連する情報が記録されている蓋然性があり,現場での選別が困難で,確認中に情報が消去・変更・毀損されるおそれがあるなどの事情があれば,媒体の内容を個別に確認せず持ち帰ることが許される場合がある。
他方,令状の対象物に形式上含まれるというだけで,周囲にある全ての記録媒体を無条件に差し押さえられるわけではない。外観上未開封の新品であるなど,被疑事実との関連性が明らかにない媒体まで一括して持ち帰れば違法となり得る。
本記事は,令和8年9月24日現在の刑事訴訟法と裁判所ウェブサイトに掲載された裁判例に基づき,物理的なUSBメモリの差押え,電磁的記録の複写,リモートアクセス及び電磁的記録提供命令を区別して整理する。
第2 四つの処分を区別する
| 処分 | 対象 | 主な確認事項 |
|---|---|---|
| 媒体自体の差押え | USBメモリ,パソコン,外付けディスク等の物 | 令状の記載,被疑事実との関連性,持帰りの必要性 |
| 媒体内記録の複写等 | 媒体に記録された電磁的記録 | 刑事訴訟法110条の2の代替処分,対象範囲 |
| リモートアクセスによる複写 | 差押対象のコンピュータから接続する別の記録媒体 | 令状記載の接続先・範囲,国外所在,承諾 |
| 電磁的記録提供命令 | 保管者等が保管・利用する必要な電磁的記録 | 命令の名宛人,提供対象・方法,秘密保持命令 |
現行の刑事訴訟法は,令和7年法律第39号による改正のうち電磁的記録提供命令等の規定が令和8年5月21日に施行された後の条文である。
平成10年,平成30年及び令和3年の裁判例は当時の条文を前提とするため,現在の手続に用いるときは,処分の性質と現行条文を改めて対応させる必要がある。
第3 物理的なUSBメモリを差し押さえる要件
捜査機関が令状により差押えを行う場合,刑事訴訟法218条及び219条に従い,差し押さえるべき物と被疑事実との関連性及び差押えの必要性が求められる。令状の「差し押さえるべき物」の記載にUSBメモリ等が含まれているかを最初に確認する。
関連性は,解析後に実際に有罪証拠が見つかったかではなく,執行時に捜査機関が認識できた事情を基礎に判断する。具体的には,媒体の発見場所,使用者,ラベル,接続状況,同種媒体との位置関係,被疑者・関係者の説明,ファイルの保存先として使用された形跡,被疑事実の性質などが問題となる。
後の解析で空であったことだけから,差押えが遡って当然に違法となるわけではない。逆に,後に証拠が見つかったからといって,執行時に関連性がなかった差押えが当然に適法となるわけでもない。執行時に合理的に知り得た事情と,解析後に判明した事情を分けて記録する必要がある。
第4 内容確認を現場で省略できる場合
1 最高裁平成10年5月1日決定
最高裁平成10年5月1日第二小法廷決定(平成10年(し)第45号)は,差押対象となったフロッピーディスクについて,被疑事実と関連する情報が記録されている蓋然性が認められ,その場で内容を確認することが困難で,確認中に記録内容を消去・改変されるおそれ等があった事案で,内容を確認せず差し押さえた処分を適法とした。
同決定は,あらゆる記録媒体について無確認差押えを一般的に認めたものではない。関連情報がある蓋然性,現場確認の困難性及び情報保全の必要性という事案の事情を確認する必要がある。
2 大阪高裁平成30年9月11日判決
大阪高裁平成30年9月11日判決は,電磁的記録媒体の差押えでは媒体自体が対象物となり,その中に無関係な情報が含まれていることだけで媒体と被疑事実との関連性が直ちに否定されるわけではないとした。
同判決は,対象となるデータ量が多く現場での選別が困難であったこと,情報の消去・変更・毀損のおそれがあったこと等を踏まえ,当時の刑事訴訟法110条の2による複写等の代替処分を選ばず媒体自体を差し押さえたことについて裁量の逸脱はないと判断した。
代替処分が条文上可能であることと,常に代替処分を選択しなければ媒体自体の差押えが違法になることとは同じではない。
3 岐阜地裁判決の使用中媒体と未開封新品の区別
岐阜地裁の国家賠償請求事件判決は,使用中とみられるフロッピーディスク17枚について,現場で内容を確認せず差し押さえたことを適法とする一方,メーカー包装が未開封の新品3枚については,関連性が明らかにないとして差押えを違法とした。
これは下級審の国家賠償事件であり,最高裁判例ではない。ただし,媒体の外観と使用状況から関連性の有無が執行時に明らかであったかを区別する実務上の参考になる。USBメモリについても,単に同じ引出しにあったというだけでなく,未開封,未使用表示,接続痕跡その他の外形を記録しておく意味がある。
4 最高裁令和3年2月1日決定の射程
最高裁令和3年2月1日第二小法廷決定(平成30年(あ)第1381号・刑集75巻2号123頁)は,令状に基づくリモートアクセスによる電磁的記録の複写と,国外にある可能性を否定できないサーバへのアクセス等を扱った裁判例である。
同決定は,対象記録に被疑事実関連情報がある蓋然性,現場での個別確認の困難性及び確認中の情報毀損等のおそれを踏まえ,個々の記録内容を確認せず複写したことを許容した。
もっとも,物理的なUSBメモリ自体を差し押さえた事案ではない。同決定の考慮事情は参考になるが,「USBを無確認で持ち帰れる」という直接の先例として扱うべきではない。
第5 執行時に確認する六つの事情
電子媒体の差押えを監査するときは,次の六段階で事実を固定する。
① 令状文言への包含:USBメモリの種類,場所,使用者及び対象期間がどこまで特定されているか。
② 関連性の蓋然性:発見場所,使用者,供述,接続状況等から被疑事実関連情報があると考えられたか。
③ 現場選別可能性:データ量,暗号化,パスワード,機器,時間及び立会状況から安全に確認できたか。
④ 消去・毀損・変更の危険:遠隔消去,自動消去,誤操作,マルウェア又は関係者による操作のおそれがあったか。
⑤ より制限的でない代替手段:現場複写,対象ファイルの抽出,封印,刑事訴訟法110条の2の処分等で目的を達成できたか。
⑥ 持帰り後の選別と迅速な還付:解析開始時期,無関係データへのアクセス制限,不要媒体の還付時期及び業務への支障軽減がどうであったか。
現場で所有者がパスワードの入力又は内容確認を申し出た場合,その申出は現場選別可能性を支える事情になり得る。しかし,正しいパスワードか,確認中の消去・変更を防げるか,データ量が現場確認に適するかを含めて評価するため,申出があったことだけで持帰りが当然に違法となるわけではない。
第6 持ち帰った後の選別,複写及び還付
差押えが執行時に適法でも,必要性がなくなった後まで媒体を留置し続けてよいわけではない。捜査機関による押収には刑事訴訟法222条1項を通じて同法123条が準用され,留置の必要がない押収物は事件終結前でも還付すべきものとされ,所有者等の請求による仮還付の制度もある。
事実上の申入れでは,①事件・押収品番号,②所有・業務利用関係,③複写等によって留置目的を達成できる理由,④業務・生活上の具体的支障,⑤代替媒体又は必要データの複写希望,⑥連絡先を整理する。無関係であることが判明した媒体については,判明時期と還付時期を記録する。
検察官,検察事務官又は司法警察職員がした押収・押収物の還付に関する処分等に不服がある場合,刑事訴訟法430条の準抗告により取消し又は変更を求めることが問題となる。申立先,対象となる処分及び申立人適格は,処分主体と求める内容に応じて個別に確認する必要がある。
第7 捜索を受ける側の対応
① 令状の罪名,対象物,捜索場所,有効期間及び発付裁判官を確認する。
② 各媒体の発見場所,外観,開封・未開封,接続状況及び使用者を記録する。
③ 任意提出への同意を求められているのか,令状を執行しているのかを区別する。
④ 現場確認又は対象ファイルの複写を提案する場合は,安全に実施できる具体的方法と所要時間を示す。
⑤ 業務上不可欠な媒体は,業務への支障,代替不能性及び必要データの複写希望を直ちに伝える。
⑥ データの削除,遠隔消去,暗証番号変更,媒体の破壊その他の妨害行為をしない。
⑦ 押収品目録を受け取り,早期還付の申入れ又は準抗告の要否を弁護人と検討する。
第8 令和3年司法試験問題から得られる実務上の学び
法務省の令和3年司法試験・論文式試験問題(刑事系科目)には,複数のUSBメモリ等が捜索場所で発見され,現場での内容確認の申出,パスワードに関する説明,持帰り後の確認及び翌日の還付が問題となる場面が含まれている。
この問題から実務に移せる学びは,媒体が後に空であったかだけで適法性を判断しないことである。令状文言,関連性の蓋然性,現場選別可能性,消去・毀損リスク,代替手段,持帰り後の選別・還付を,執行時と事後に分けて記録する必要がある。
なお,本記事の作成に当たり,同年度の法務省「出題の趣旨」及び「採点実感」は,検索結果のスニペットや転載を含めて参照していない。本記事は,問題文と下記一次資料から独立に再構成した実務整理であり,公式の解説又は正解を示すものではない。
第9 出典・確認範囲
① e-Gov法令検索「刑事訴訟法」99条,107条,110条の2,111条,111条の2,123条,218条,219条,222条及び430条(令和8年9月24日現在)。
② 最高裁平成10年5月1日第二小法廷決定(平成10年(し)第45号)。
③ 大阪高裁平成30年9月11日判決。
④ 最高裁令和3年2月1日第二小法廷決定(平成30年(あ)第1381号・刑集75巻2号123頁)。
⑤ 岐阜地裁の国家賠償請求事件判決(使用中及び未開封のフロッピーディスクに関する部分)。
⑥ 法務省「令和3年司法試験・論文式試験問題(刑事系科目)」全9頁。
裁判所ウェブサイトは全裁判例を掲載するデータベースではない。判例秘書は,本記事作成時にはログアウト状態で検索できず,検索件数・追加裁判例とも未確認である。したがって,物理的USBメモリの同型事案に関する最高裁・高裁裁判例がほかに存在しないとはしていない。岐阜地裁判決は下級審・国家賠償事件の判断として位置付けている。