目次第1 結論の見取り図第2 検討の出発点1 集会・表現の自由2 公の施設と地方自治法244条3 表現内容と表現方法を分ける第3 最高裁平成7年3月7日判決(泉佐野市民会館事件)1 判例の基準2 事実認定が決定的である第4 最高裁平成8年3月15日判決(上尾市福祉会館事件)1 敵対的聴衆の問題2 警察による警備可能性第5 最高裁令和5年2月21日判決(金沢市庁舎前広場事件)1 多数意見2 宇賀克也裁判官の反対意見3 公園への適用で注意する点第6 管理上の支障を理由とする不許可1 誰のどの行為から生じる危険か2 具体的危険と抽象的危険3 条件付き許可・警備で回避できるか第7 夜間利用の例外と政治的中立性1 夜間閉鎖の原則2 特別な理由の審査3 見解差別と比較対象第8 時間・場所・方法の重要性第9 令和8年度司法試験の設例に即した当てはめ1 管理上の支障2 夜間利用の特別な理由3 反対説への応答第10 答案・実務のチェックリスト第11 出典と確認範囲
地方公共団体の公園,市民会館又は広場で政治的な集会を開くため使用許可を申請したとき,行政は「管理上の支障」「反対派との衝突」「政治的中立性」等を理由に不許可にできるのか。本稿は,泉佐野市民会館事件,上尾市福祉会館事件及び金沢市庁舎前広場事件を使い分け,都市公園の夜間独占使用,敵対的聴衆,条件付き許可及び見解差別を検討する。令和8年度司法試験公法系第1問の問題文は参照したが,同年度の出題の趣旨・採点実感又は市販の解答は参照していない。
第1 結論の見取り図
公の施設で行う政治的集会を不許可にできるかは,施設の性格と危険の具体性を固定して判断する。市民会館,福祉会館及び都市公園のように一般公衆の利用に供する施設では,集会の自由の重要性に照らし,抽象的な危険,主催者と別団体との過去の対立又は行政の中立性への漠然とした不信だけで不許可にすることは難しい。管理可能な危険は,人数,時間,音量,警備,避難経路等の条件を付して回避できないかを先に検討する。
これに対し,市庁舎のように主として公務の用に供する施設では,最高裁令和5年判決が,庁舎の外見上の政治的中立性と公務の円滑な遂行を守る規制を認めた。ただし,同判決は道路や公園等との性格の違いを明示しているため,都市公園にその結論をそのまま移すことはできない。
第2 検討の出発点
1 集会・表現の自由
憲法21条1項は,集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由を保障する。集会は,多数人が一定の場所に集まり,共通の意見や意思を形成し,又は外部に伝達する表現活動である。公園内でパネルを掲げ,寝袋や段ボールで一夜を過ごす行為も,その態様が社会的・政治的メッセージを伝えるものであれば,言葉だけでなく表現行為としての性格を有する。
もっとも,表現活動であることから施設を無条件に独占使用できるわけではない。施設の設置目的,一般利用との調整,安全,静穏,設備保全等のため,必要かつ合理的な時間・場所・方法の規制を受ける。
2 公の施設と地方自治法244条
地方自治法244条1項は,住民の福祉を増進する目的で住民の利用に供するため地方公共団体が設ける施設を「公の施設」とする。同条2項は,正当な理由がない限り,住民が公の施設を利用することを拒んではならないと定め,3項は不当な差別的取扱いを禁ずる。
3項の規律は,住民でなくても区域内に家屋敷等を有して地方税を納付する者など「住民に準ずる地位にある者」にも及ぶ(最高裁平成18年7月14日第二小法廷判決)。施設の料金を住民と住民以外で分けることと同項の関係は,観光施設の「市民料金」と「外国人料金」は許されるか―姫路城の縦覧料改定,京都市バスの市民優先価格,地方自治法244条3項と高根町簡易水道事件で整理している。
都市公園は,休息,観賞,散歩,遊戯,運動等のため一般市民が利用する典型的な公共用物である。ただし,一般の随時利用と,一部又は全部を排他的に使用する集会は同一ではない。独占使用が許可制である場合,管理者は一般利用との調整を行えるが,条例上の不許可事由又は例外許可要件の解釈適用において,憲法21条と地方自治法244条の趣旨を踏まえる必要がある。
3 表現内容と表現方法を分ける
音量,参加人数,火気,設備,通路確保,利用時間等の表現方法に着目した規制と,政府支持・反対,思想,政策,主張内容に着目した規制は分けて考える。前者は中立的な施設管理として正当化される余地があるが,後者は特定の見解を不利益に扱う危険が高く,厳格な説明を要する。
条例の文言が「管理上の支障」「特別な理由」と抽象的でも,行政に無限定な裁量が与えられるわけではない。許可実績,申請内容,代替手段,条件付与の可否を含め,判断過程が表現内容に対して中立であったかを検証する。
第3 最高裁平成7年3月7日判決(泉佐野市民会館事件)
1 判例の基準
最高裁平成7年3月7日第三小法廷判決は,市民会館条例の「公の秩序をみだすおそれがある場合」を限定して解釈した。すなわち,会館で集会を開くことにより人の生命,身体又は財産が侵害され,公共の安全が損なわれる危険を回避・防止する必要性が,集会の自由を保障する重要性に優越する場合をいう。
危険の程度は,単に危険な事態が生じる蓋然性があるというだけでは足りず,「明らかな差し迫った危険」の発生が具体的に予見されることを要する。この限定解釈を前提に,条例と不許可処分を憲法21条及び地方自治法244条に反しないとした。
同判決は,集会の目的や集会を主催する団体の性格そのものを理由として,使用を許可せず,又は不当に差別的に取り扱うことは許されないとした。その上で,同事件で不許可が是認されたのは,実質上の主催者と目される団体が爆破事件を起こすなど違法な実力行使を繰り返し,対立する他のグループと暴力による抗争を続けていたという客観的事実があり,警察に依頼するなどしてあらかじめ防止することは不可能に近かったと認定されたからである。なお,同判決は,「公の秩序をみだすおそれがある場合」に該当する事由があるときは,当然に「その他会館の管理上支障があると認められる場合」にも該当するとしている。
2 事実認定が決定的である
泉佐野事件は,どの集会にも抽象的に適用できる言葉だけの基準ではない。対立関係,過去の衝突,動員規模,参加者の行動傾向,施設の構造,周辺への影響,警備態勢等の具体的事実を積み上げて,危険が切迫し,管理可能な範囲を超えるかを判断する。
したがって,団体の幹部の一人が別の活動で逮捕されたこと,SNSで集会を告知したこと,又は政治的対立が存在することだけで基準を満たすとはいえない。申請団体と別団体の同一性,問題の集会との関連,対立者が実際に来場する情報,暴力を防止する条件・警備の可能性が必要となる。
第4 最高裁平成8年3月15日判決(上尾市福祉会館事件)
1 敵対的聴衆の問題
最高裁平成8年3月15日第二小法廷判決(平成5年(オ)第1285号・民集50巻3号549頁)は,福祉会館の使用許可申請について,主催団体と対立する者による妨害等を懸念して不許可とした事案で,その不許可処分を違法とした。同判決は,条例の「会館の管理上支障があると認められるとき」について,会館の管理上支障が生ずるとの事態が,許可権者の主観により予測されるだけでなく,客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合に初めて,使用を許可しないことができることを定めたものと解すべきであるとした。
表現内容に反対する者が妨害するかもしれないという理由で,平穏に集会を行おうとする側を排除すると,妨害を示唆する者が公的施設の利用を左右できることになる。これは「敵対的聴衆」又は「聴衆の拒否反応」の問題であり,行政はまず違法な妨害を抑止し,適法な表現活動を保護できないかを検討すべきである。
2 警察による警備可能性
同判決は,主催者が集会を平穏に行おうとしているのに,その集会の目的や主催者の思想,信条等に反対する者らが,これを実力で阻止し,妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは,「警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られる」とした。また,警察の警備等によりその他の施設の利用客に多少の不安が生ずることは,会館の管理上支障が生ずるとの事態に当たらないとした。
(続きを読む...)公園・広場で政治的集会を不許可にできるか―泉佐野市民会館・上尾市福祉会館・金沢市庁舎前広場事件(AI作成)