第1 在日外国人に適用される社会保障制度1 国籍だけでは適用の有無は決まらない2 制度ごとの基本的な適用基準3 協定・国籍要件撤廃・覚書の沿革を分ける第2 公的年金と健康保険1 国民年金2 厚生年金及び健康保険3 国民健康保険4 社会保障協定5 保険料免除及び脱退一時金第3 昭和56年の国籍要件撤廃1 難民条約加入との関係2 昭和56年法律第86号3 経過措置と未救済問題第4 塩見訴訟と無年金問題1 国民年金制度の発足時期2 最高裁平成元年3月2日判決3 地方公共団体の外国人高齢者給付金第5 国民健康保険と外国人1 現行制度2 最高裁平成16年1月15日判決の射程第6 外国人労働者と労働・社会保険1 適用される法令2 事業主が確認すべき事項第7 外国人と生活保護1 生活保護法の適用と行政措置の区別2 最高裁令和8年9月9日決定3 行政措置の対象4 申請と不服申立て5 統計を読む際の注意第8 成立済みで未施行の制度変更1 脱退一時金の見直し2 在留審査と保険料納付状況第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説・運用資料4 公文書・国会会議録5 文献6 関連記事
この記事では,在日外国人に対する年金,医療保険,労働保険及び生活保護の適用を,令和8年9月14日現在の制度と沿革に分けて整理する。
結論を先にいえば,社会保障法令の適用は国籍だけで一律に決まるものではなく,国内居住,就労関係,在留資格,加入中の他制度及び社会保障協定など,制度ごとの要件によって決まる。
第1 在日外国人に適用される社会保障制度
1 国籍だけでは適用の有無は決まらない
現在の公的年金,公的医療保険及び労働保険では,外国籍であることだけを理由として適用対象から外す仕組みは採られていない。
もっとも,日本に住所があるか,適用事業所で働いているか,他の公的医療保険に加入しているかなど,制度ごとに要件と除外事由がある。
短期滞在者や一定の在留資格の人まで,すべて同じ扱いになるわけではない。
2 制度ごとの基本的な適用基準
①国民年金は,原則として日本国内に住所がある20歳以上60歳未満の人を被保険者とする。
②厚生年金及び健康保険は,原則として適用事業所との使用関係や労働時間などの加入要件によって適用される。
③国民健康保険は,原則として都道府県の区域内に住所があり,他の被用者保険の被保険者などに当たらない人を被保険者とする。
④労災保険及び雇用保険は,就労の実態と各法令の要件に基づいて適用される。
⑤生活保護については,法律上の権利としての適用と,外国人に対する行政措置とを区別する必要がある。
3 協定・国籍要件撤廃・覚書の沿革を分ける
在日韓国・朝鮮人等の社会保障の沿革では,次の文書と制度を区別する必要がある。現在の給付の可否は,さらに各法令・通知の対象者と給付要件によって判断する。
時期文書・制度社会保障との関係昭和29年(1954年)厚生省社会局長通知一定の外国人への生活保護を行政措置として実施する取扱い。昭和40年署名・翌年発効日韓法的地位協定・合意された議事録教育・生活保護・国民健康保険への配慮等を扱う。国民年金は協定4条の列挙事項ではない。昭和56年制定・翌年施行難民条約等への加入に伴う昭和56年法律第86号国民年金・国民健康保険等の国籍要件を撤廃。生活保護法の適用と行政措置の区別は残る。平成3年(1991年)日韓外相間覚書入管・外国人登録・教育・教員採用・地方公務員採用を扱う。掲載本文に生活保護・年金・国保の条項はない。
1965年協定の説明は,日韓法的地位協定の全6条の解説を参照されたい。1991年覚書の内容と現在の制度との対応は,1991年の日韓覚書の合意内容・国内実施・現在の法的効果で説明している。本項と第7の4の補足は,令和8年10月12日現在の原資料に基づく。
第2 公的年金と健康保険
1 国民年金
国民年金法は,原則として日本国内に住所がある20歳以上60歳未満の人を第1号被保険者とする。
日本年金機構も,日本に住む20歳以上60歳未満の人は国籍を問わず国民年金に加入し,保険料を納付する必要があると案内している。
ただし,厚生年金の被保険者やその被扶養配偶者は別の被保険者区分となり,医療滞在や長期観光を目的とする一定の「特定活動」の人などには除外がある。
2 厚生年金及び健康保険
適用事業所に使用される人は,国籍にかかわらず,厚生年金保険及び健康保険の加入要件を満たせば被保険者となる。
事業主は,外国人労働者についても,資格取得届など必要な届出を行う必要がある。
社会保障協定により,一時的に日本で働く人について相手国制度への加入が継続し,日本の制度への加入が免除される場合がある。
3 国民健康保険
国民健康保険法5条は,都道府県の区域内に住所がある人を原則として被保険者とし(平成30年3月までは市町村の区域内に住所がある人とされていた),同法6条は健康保険の被保険者や生活保護受給者などの除外事由を定めている。
外国人については,住民基本台帳上の住所の有無や在留資格,在留期間などを踏まえて加入資格が判断される。
厚生労働省は,外国人向けに国民健康保険の加入,保険料及び受診方法を多言語で案内している。
4 社会保障協定
社会保障協定は,日本と相手国の制度への二重加入を防ぎ,国によっては両国の加入期間を通算して年金受給資格を判定するための仕組みである。
令和7年12月1日にオーストリアとの協定が発効した後,日本の社会保障協定の発効国は24か国となっている。
英国,韓国,中国及びイタリアとの協定には加入期間の通算措置がなく,二重加入の防止だけが定められているため,協定ごとの内容を確認する必要がある。
5 保険料免除及び脱退一時金
国民年金保険料を納付することが困難な場合には,外国人も,所得などの要件を満たせば免除又は納付猶予を申請できる。
具体的な制度は「国民年金保険料の免除・納付猶予制度」で整理している。
また,日本国籍を有しない人が日本を出国し,公的年金の被保険者資格を喪失した場合には,一定の要件の下で脱退一時金を請求できる。
脱退一時金を受けた期間は,その後に年金額や加入期間を計算する際には被保険者期間でなかったものと扱われるため,社会保障協定による通算の可能性も含めて判断する必要がある。
第3 昭和56年の国籍要件撤廃
1 難民条約加入との関係
日本は,難民の地位に関する条約及び同議定書への加入に伴い,社会保障関係法令の国籍要件を整理した。
その中心となったのが,昭和56年6月12日公布の「難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律」(昭和56年法律第86号)である。
2 昭和56年法律第86号
昭和56年法律第86号2条は,国民年金法の被保険者資格に置かれていた日本国民であることという要件を削除した。
同法は,児童扶養手当法,特別児童扶養手当等の支給に関する法律及び児童手当法の国籍要件も削除した。
施行日は,条約又は議定書が日本について効力を生ずる日とされ,国民年金関係の改正は昭和57年1月1日に施行された。
3 経過措置と未救済問題
同法附則4項は,施行時に国民年金法7条の要件を満たす外国人が施行日に被保険者資格を取得することを定めた。
同法附則5項は,旧国民年金法に基づいて既に生じていた福祉年金の不支給や受給権消滅の効力を維持した。
したがって,国籍要件の撤廃には経過措置があったが,撤廃前の期間を一律に加入期間へ算入する遡及的な救済までは行われなかった。
昭和56年5月27日の衆議院法務委員会でも,外国人を日本人と同様に国民年金へ加入させる一方,高齢の外国人だけを対象とする特別な年金措置は設けないという政府の考え方が説明されている。
第4 塩見訴訟と無年金問題
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