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衆議院の解散―憲法上の根拠,手続及び先例(AIリライト)

第1 衆議院解散の意味と法的効果

1 この記事が扱う対象

衆議院の解散とは,衆議院議員全員について,4年の任期が満了する前に議員の身分を失わせる行為である(日本国憲法45条)。本記事は,衆議院解散の憲法上の根拠,解散権の限界,司法審査,実際の手続及び令和8年1月23日の解散までの先例を取り扱う。

解散には,内閣と衆議院との対立を総選挙によって解決すること,新たな重大争点について国民の判断を求めること及び議会の多数派を形成して内閣を安定させることなどの機能がある。他方で,国民から選挙された議員全員の地位を任期途中に他の国家機関の判断で失わせる側面があるため,誰がどのような場合に解散を決定できるかが憲法上の問題となる。

2 解散によって生じる効果

衆議院が解散されると,衆議院議員全員が失職し,国会の会期が終了して参議院も同時に閉会となる(日本国憲法54条2項)。衆議院に係属していた案件は,国会法68条の会期不継続の原則により,原則として後会へ継続しない。

解散の日から40日以内に衆議院議員総選挙を行い,総選挙の日から30日以内に国会を召集しなければならない(日本国憲法54条1項)。総選挙後に初めて国会が召集されたときは,内閣は総辞職する(憲法70条)。

衆議院の解散中に国に緊急の必要があるときは,内閣は参議院の緊急集会を求めることができる。緊急集会で採られた措置は臨時のものであり,次の国会開会後10日以内に衆議院の同意がなければ効力を失う(憲法54条2項・3項)。

第2 憲法7条と69条の関係

1 政府実務における7条解散

日本国憲法7条3号は,天皇が内閣の助言と承認により行う国事行為として「衆議院を解散すること」を掲げる。憲法69条は,衆議院で内閣不信任決議案が可決され,又は内閣信任決議案が否決されたとき,内閣が10日以内に衆議院を解散しない限り総辞職しなければならないと定める。

日本国憲法下で最初に行われた昭和23年12月23日の解散では,不信任決議案の可決後に解散が行われ,解散詔書に7条及び69条が掲げられた。その後の解散詔書は7条だけを掲げており,政府は,69条所定の場合に限らず,国政上の重大事項について国民の意思を問う必要がある場合に内閣が政治的責任で解散を決定できるとの立場を採っている。

2 解散権の根拠に関する三つの見解

解散の実質的決定権が内閣にあることについて,主要学説と政府見解は一致している。しかし,その憲法上の根拠については,①7条3号に対する内閣の助言と承認から実質的決定権を導く7条説,②議院内閣制又は権力分立の制度構造から導く制度説,③69条所定の場合だけ内閣が解散を決定できるとする69条説が対立している。

昭和27年8月28日の解散以後,不信任決議案が可決されていない場合にも解散が繰り返されてきた。このため,69条所定の場合に限定しない立場が政府実務及び通説となっているが,7条が天皇の形式的・儀礼的な国事行為を定めた規定であることから,7条だけで内閣の実質的決定権を説明できるかについては議論が残る。

3 69条非限定説と解散権の限界

69条所定の場合以外にも解散できるという見解から,内閣が目的や時期を問わず自由に解散できるとの結論が当然に導かれるわけではない。政府は,解散の時期は内閣が政治的責任で決すべき事項であり,憲法上これを制約する規定はないとの立場である。これに対し,学説上は,内閣と衆議院との衝突,政界再編による内閣の基本的性格の変化,総選挙で問われていない重大政策への対処,選挙法の大改正又は任期満了時期の接近などに解散を限定する見解がある。

令和7年6月10日には,原則として解散予定日及び理由を10日前までに衆議院へ通知することなどを内容とする「衆議院の解散に係る手続等に関する法律案」が提出された。同法案は,第220回国会で令和8年1月23日に議院運営委員会へ付託されたものの,同日の解散により審査未了となった。解散権の根拠を変更せず,行使過程を法律で統制しようとした近時の具体例である。

第3 衆議院解散と司法審査

1 苫米地事件

昭和27年8月28日のいわゆる抜き打ち解散について,衆議院議員であった苫米地義三は,解散が憲法69条所定の場合でなく,解散詔書に内閣総理大臣の副署もなかったなどとして,議員資格及び歳費を請求した。

最大判昭和35年6月8日(昭和30年(オ)第96号,衆議院議員資格並びに歳費請求事件,民集14巻7号1206頁)は,衆議院解散のような高度に政治性のある国家統治の基本行為については,法律上の有効又は無効を判断することが法律上可能であっても,裁判所の審査権の外にあり,その判断は主権者である国民の政治的判断に委ねられるとした。解散の有効性が別の訴訟の前提問題となる場合についても,裁判所はこれを審査できないとした。

2 苫米地判決が判断しなかった事項

苫米地判決は,昭和27年の解散が憲法7条により適法であったと積極的に判断したものではない。解散の有効性に関する実体判断をしなかったため,7条解散の根拠及び解散権の憲法上の限界は,判例によって直接確定したとはいえない。

名古屋高判昭和62年3月25日(昭和61年(行ケ)第1号,選挙無効請求事件)も,昭和61年の衆参同日選挙をめぐる訴訟において,解散自体は苫米地判決により司法審査の対象外であるとした。他方で,総選挙の期日の決定まで一律に司法審査の対象外であるとはせず,具体的な違法主張を検討した上で請求を棄却している。

第4 衆議院解散の手続

1 閣議決定から解散詔書の伝達まで

衆議院の解散は,内閣の閣議決定に基づき,天皇の国事行為として解散詔書をもって行われる。閣議では,内閣総理大臣が解散を決意した旨を述べ,解散に関する閣議書について説明した後,各国務大臣が閣議書に署名する。閣議の構成員である国務大臣の任免権は内閣総理大臣にあるため,解散に反対する大臣がいる場合でも,その大臣を罷免して閣議決定を成立させることができる。平成17年の郵政解散では,解散に反対した島村宜伸農林水産大臣が罷免された。

閣議決定後,解散詔書に天皇の御名御璽がなされ,内閣総理大臣が副署する。詔書は衆議院議長に伝達され,衆議院の会議中であれば,議長が議事を中止して詔書を朗読する。解散は衆議院公報及び官報でも公示され,参議院議長には詔書の写しを添えて通知される。

2 本会議が開かれていない場合と閉会中解散

本会議が開かれていない日に解散詔書が伝達された場合には,衆議院議長が議長応接室に各会派の代表者を集めて詔書を朗読した先例がある。昭和27年,昭和55年及び昭和61年の3回がこれに当たる。

日本国憲法下では,国会閉会中に衆議院が解散された先例はない。ただし,先例がないことと法的に不可能であることは同じではない。学説の多数は閉会中の解散も可能とする一方,衆議院の意思が国民の意思と異なるかを総選挙で問うのであれば,国会開会中の解散を原則とすべきであるとの見解もある。

第5 日本国憲法下の解散事例

1 令和8年までの件数

日本国憲法施行後,昭和23年12月23日から令和8年1月23日までに,衆議院は27回解散された。この間に行われた総選挙は28回であり,昭和51年の第34回総選挙だけが任期満了によるもので,他の27回は解散に伴う総選挙である。

令和6年10月9日の第26回解散では,石破内閣不信任決議案が議事日程に掲げられたものの,採決に至らないまま解散詔書が朗読された。令和8年1月23日の第27回解散は第220回通常国会の召集日に行われ,本会議は午後1時2分に開会し,議席を指定した後に解散詔書が朗読され,午後1時4分に散会した。同年2月8日に第51回総選挙が行われ,同月18日に特別国会が召集された。

2 召集日当日の解散

召集日当日の解散は,次の5回である。①昭和41年12月27日(第1次佐藤内閣),②昭和61年6月2日(第2次中曽根内閣),③平成8年9月27日(第1次橋本内閣),④平成29年9月28日(第3次安倍内閣),⑤令和8年1月23日(第1次高市内閣)。いずれも解散によって会期が1日で終了している。

平成29年9月28日の召集日解散は,次のニュース映像で確認できる。

3 本会議を開いていない時点での解散

本会議を開いていない時点で解散詔書が伝達され,議長応接室で各会派の代表者に詔書が朗読された例は,①昭和27年8月28日(第3次吉田内閣),②昭和55年5月19日(第2次大平内閣),③昭和61年6月2日(第2次中曽根内閣)の3回である。

昭和55年及び昭和61年の解散は,次のニュース映像に収録されている。


4 内閣不信任決議案の可決後に行われた解散

内閣不信任決議案の可決後に行われた解散は,①昭和23年12月23日(第2次吉田内閣),②昭和28年3月14日(第4次吉田内閣),③昭和55年5月19日(第2次大平内閣),④平成5年6月18日(宮澤内閣)の4回である。この件数は令和8年まで変わっていない。

第6 解散後の総選挙と特別国会

1 総選挙及び特別国会の期限

解散による総選挙は解散の日から40日以内に行い,その期日は少なくとも12日前に公示する(日本国憲法54条1項,公職選挙法31条3項・4項)。選挙の日から30日以内に特別国会が召集され,内閣はその召集時に総辞職するため,総選挙は衆議院議員を選び直すだけでなく,新たな内閣総理大臣の指名につながる。

2 総選挙期間中の政治活動の制限

公職選挙法上,選挙運動と政治活動は区別される。同法201条の5は,衆議院議員総選挙の公示日から投票日まで,政党その他の政治活動を行う団体による政治活動のうち,政治演説会,街頭政談演説,ポスター・立札・看板,ビラ,広告車・船舶及び拡声機等を用いるものを制限している。ただし,同条所定の確認団体等には一定範囲の例外が認められるため,すべての者によるあらゆる政治活動が禁止されるわけではない。

第7 災害が発生した場合の繰延投票

1 憲法上の期限と政府解釈

日本国憲法54条1項には,災害を理由として解散後40日以内という総選挙の期限を延長する明文の例外がない。公職選挙法57条1項は,天災その他避けることのできない事故により投票所で投票を行えないとき,又は更に投票を行う必要があるとき,選挙管理委員会が別の期日を定める繰延投票を認めている。

横畠裕介内閣法制局長官は,平成30年2月6日の衆議院予算委員会で,解散後は40日以内の日を総選挙の施行期日として公示し,一部地域の繰延投票が解散から40日を超えて行われても,総選挙自体は最初に公示した施行期日に行われたものと解することができるとの政府解釈を示した。

2 国政選挙における先例と制度上の限界

国政選挙で繰延投票が行われた公表例は,昭和40年及び昭和49年の参議院議員通常選挙における各1週間の繰延べである。広い地域で長期間にわたり投票が困難となる災害について,繰延投票だけで選挙権の実質的保障と全国的な選挙の一体性を確保できるかは,これらの先例から確認することができない。

したがって,平成30年答弁は現行法の政府解釈として紹介し,大規模・長期災害の場合まで制度上の問題が解消していると断定すべきではない。災害により自由で公正な総選挙を実施できないことが明らかな時期に解散することの是非は,解散権の限界とも関係する。

第8 解散に関する公文書及び映像

1 閣議書,議員会館及び議員宿舎の資料

本ブログには,平成29年9月28日付の衆議院解散の閣議書及び令和3年10月14日付の衆議院解散の閣議書を掲載している。閣議書には各国務大臣の署名があり,解散が内閣の閣議決定によって行われることを公文書から確認できる。

解散後の議員会館及び議員宿舎の使用に関する平成26年,平成29年,令和3年,令和6年及び令和8年の資料は,「衆議院の議員宿舎及び議員会館に関する文書」にまとめている。

2 解散時の映像

召集日当日の解散又は本会議を開いていない時点での解散の様子は,上記3本のニュース映像で確認できる。これらの映像からは,解散詔書朗読の進行及び本会議場又は議長応接室の状況を具体的に把握できる。

3 関連記事

各解散の日付,国会回次,内閣及び備考は,「日本国憲法下の衆議院の解散一覧」にまとめている。政府見解の変遷は「衆議院の解散に関する内閣答弁書」を,閉会中解散の可否に関する国会答弁は「閉会中解散は可能であることに関する内閣法制局長官の答弁」を参照されたい。

第9 出典・参考資料

1 法令

e-Gov法令検索「日本国憲法」4条,7条,45条,54条,69条及び70条

e-Gov法令検索「国会法」68条

e-Gov法令検索「公職選挙法」31条,57条及び201条の5

2 裁判例

最高裁判所大法廷昭和35年6月8日判決(昭和30年(オ)第96号,衆議院議員資格並びに歳費請求事件,民集14巻7号1206頁,裁判所ウェブサイト)

名古屋高等裁判所昭和62年3月25日判決(昭和61年(行ケ)第1号,選挙無効請求事件,裁判所ウェブサイト)

3 国会・政府資料

①衆議院憲法審査会事務局衆憲資第104号「衆議院の解散」に関する資料18頁~23頁・25頁~37頁(PDF22頁~27頁・29頁~41頁,2025年5月)

②衆議院法制局・衆議院憲法審査会事務局「衆議院の解散」に関する資料1頁・4頁~13頁(PDF3頁・6頁~15頁,2025年5月8日)

③衆議院「衆議院議員総選挙一覧表」及び「国会会期一覧」

④衆議院第220回国会令和8年1月23日衆議院本会議録及び同日の議事経過

⑤衆議院令和6年10月9日衆議院本会議議事経過

⑥衆議院令和6年11月22日付質問主意書答弁

⑦衆議院第217回国会衆法第51号「衆議院の解散に係る手続等に関する法律案」及び同法案の審査経過

⑧衆議院第196回国会予算委員会議録第6号(平成30年2月6日)

⑨衆議院第213回国会憲法審査会会議録第7号(令和6年5月23日)及び参議院第217回国会憲法審査会会議録第3号(令和7年5月7日)

4 文献

①辻村みよ子『憲法〔第8版〕』(日本評論社,2025年)426頁~429頁

②加藤一彦『憲法〔第4版〕』(法律文化社,2023年)228頁~231頁

③山本龍彦・横大道聡編著『憲法学の現在地―判例・学説から探究する現代的論点』(日本評論社,2020年)395頁~397頁

5 映像資料

①ANNnewsCH「衆議院解散 総選挙へ 総理は『野党再編』を牽制(17/09/28)」

②TBS NEWS DIG「衆議院解散の瞬間 大平総理『増税解散』『ハプニング解散』(1979・80年)」

③TBS NEWS DIG「衆議院解散の瞬間 中曽根総理『田中判決解散』『死んだふり解散』(1983・86年)」