目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 事案の概要と手続経過1 三つの懲戒事由2 手続の時系列第3 兵庫県弁護士会懲戒委員会の判断1 消費税の無申告2 免責意見の記載3 任務終了後の元破産者の代理第4 日弁連の異議申出棄却1 異議申出で問題にされたこと2 日弁連懲戒委員会の理由3 議決,決定及び裁決の区別4 全員一致であったかは分からないこと第5 現在の法制度とその後の資料を踏まえた検討1 破産管財人と消費税申告2 免責意見の作成3 破産管財人の任務終了後の受任第6 日弁連議決書の理由の評価1 法的には参照型の理由が示されていること2 説明の十分性は別問題であること3 この事案から一般化できないこと第7 実務上の確認事項1 破産管財人の側2 懲戒請求者・異議申出人の側第8 関連資料1 法令及び制度2 本件の公表文書3 現在の実務を確認する資料第9 関連記事1 懲戒手続2 破産管財人の任務終了後の受任
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,兵庫県弁護士会の副会長経験者である弁護士に対する懲戒請求について,兵庫県弁護士会が懲戒しない旨の決定をし,日本弁護士連合会がその決定に対する異議申出を棄却した事案を扱うものである。
対象会員,懲戒請求者,破産者その他の個人を特定する氏名等は記載しない。
他方,公表済みの決定書,議決書及び異議申出書から確認できる事案固有の経過と判断は,懲戒制度の理解に必要な範囲で記載する。
法令,国税庁の質疑応答事例及びその後の裁判例・解説については,令和8年9月27日を基準日として確認した。
2 結論
この事案で争われたのは,①破産管財人が破産財団所属不動産の売却に関する消費税の確定申告をしなかったこと,②個人破産事件で免責不許可事由がない旨の意見を提出したこと,③破産管財人の任務終了後,元破産者の訴訟代理人となったことの三点である。
兵庫県弁護士会懲戒委員会は,三点のいずれも弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」には当たらないと議決し,兵庫県弁護士会は平成31年3月28日,対象会員を懲戒しない旨を決定した。
日弁連懲戒委員会は令和元年9月9日,新たに提出された証拠を検討しても原議決に誤りはなく,原決定は相当であるとして異議申出を棄却する旨を議決し,日弁連は同月12日に異議申出棄却の決定をした。
日弁連議決書の理由は,兵庫県弁護士会懲戒委員会の議決書を参照して是認する方式であり,理由が全くないものではない。
しかし,異議申出で具体的に示された反論や追加証拠に対する個別の応答は記載されておらず,判断過程の説明として十分であったかは別に検討する余地がある。
また,この一件の不処分決定から,破産管財人の無申告,簡略な免責意見又は任務終了後の後続受任が一般に許されると理解すべきではない。
第2 事案の概要と手続経過
1 三つの懲戒事由
(1) 破産管財人による消費税の無申告
対象会員は,法人の破産管財人として,平成25年5月及び同年7月に破産財団所属の不動産を売却した。
兵庫県弁護士会懲戒委員会の議決書によれば,対象会員は,管財業務が終了するまでにその売却に関する消費税の確定申告をしなかった。
懲戒請求者は,この無申告が破産管財人としての善管注意義務等に反し,弁護士の品位を失うべき非行に当たると主張した。
(2) 免責不許可事由に関する意見
対象会員は,別の個人破産事件の破産管財人でもあった。
破産債権者は,親族への偏頗弁済の可能性,帳簿類の廃棄,貸金債権の債権者一覧表からの脱落及び銀行借入金の使途不明という四点を指摘し,免責について反対意見を述べた。
対象会員が平成27年5月7日に提出した意見書の記載は,「免責不許可事由はない」という趣旨の簡潔なものであった。
もっとも,その後の債権者集会では,債権者一覧表から脱落した貸金について,金銭の移動は認められるものの返還合意が明確でないため債権として掲げなかった旨が口頭で説明された。
破産裁判所及び抗告審は免責許可の判断を維持し,抗告審は返還合意が明確でないと判断した。
(3) 元破産者の訴訟代理人への就任
懲戒請求者側は平成28年1月28日,元破産者に対し,前記の金銭移動に関係する貸金返還等を求める訴訟を提起した。
対象会員は同年3月9日,元破産者の訴訟代理人となり,第一審及び控訴審で代理した。
第一審は平成29年4月21日,返還合意の存在を認定し,控訴審は同年10月26日に元破産者の控訴を棄却し,平成30年4月10日の上告不受理決定により確定した。