第1 弁護士登録請求の法的な仕組み
1 弁護士資格と弁護士名簿への登録
弁護士となる資格を有することと,現に弁護士となることは同じではない。弁護士となるには,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)に備えられた弁護士名簿に登録されなければならない(弁護士法8条)。
登録請求は,日弁連に直接提出するのではなく,入会しようとする弁護士会を経由して行う(同法9条)。弁護士名簿への登録によって,登録請求者は当該弁護士会及び日弁連の会員となるため,所属弁護士会への入会手続と日弁連への登録請求は一体として進む。
2 申請から登録までの流れ
通常の流れは,①入会希望の弁護士会への書類提出及び入会申込み,②当該弁護士会による審査及び日弁連への進達,③日弁連による登録,④所属弁護士会への通知及び官報公告である。
提出期限,必要部数,登録予定日及び追加書類は弁護士会ごとに異なる。例えば,大阪弁護士会は,同会の受付から登録又は登録換えの完了まで通常1か月半から2か月程度を要し,それ以上かかる場合もあると案内しているので,入会希望会の最新案内を早めに確認する必要がある。
第2 登録請求に必要な書類
1 日弁連会則上の基本書類
日弁連会則19条及び登録取扱規則によれば,通常の登録請求の基本書類は次のとおりである。実際の提出では,所属予定弁護士会が求める部数,発行期限及び追加書類にも従う必要がある。
①弁護士名簿登録請求書
②履歴書及び写真
③戸籍謄本,戸籍抄本又は氏名,本籍及び生年月日の記載を証明する戸籍記載事項証明書のいずれか
④弁護士となる資格を証明する書面
⑤弁護士法7条各号の欠格事由に該当しない旨の証明書
⑥同法12条1項各号及び2項の進達拒絶事由に関する書面
再登録者,判事補・検事の弁護士職務経験制度による登録請求者又は職務上の氏名の使用を希望する者には,別の書類が必要となる。
2 第78期司法修習終了者の一斉登録
日弁連の第78期向け案内では,弁護士名簿登録請求書,履歴書,戸籍謄本等,誓約書・承諾書,本籍地市区町村発行の身分証明書及び連絡先回答書が必須とされ,カード型身分証明書発行申請書及び職務上の氏名の届出書・使用許可申請書は希望者のみとされている(同案内PDF実頁1頁)。
令和8年3月26日から同年4月13日までに登録予定の第78期司法修習終了者については,弁護士となる資格を証明する書面を最高裁判所の一括証明書で代える取扱いが示されている。これは第78期の一斉登録に関する特則であり,一般の登録請求者は自分に適用される最新の案内を確認すべきである。
3 外国籍の申請者及び市区町村の身分証明書
外国籍の申請者は,戸籍謄本等に代えて,国籍が記載された外国人住民に係る住民票の写しを提出する。旧制度の「外国人登録原票記載事項証明書」は現行の提出書類ではない(日弁連第78期記入要領PDF実頁5頁)。
日本国籍を有する申請者が提出する市区町村発行の身分証明書は,本籍地の市区町村が発行する「破産者でないことの証明書」である。外国籍の申請者は,弁護士法7条4号に該当しない旨の誓約書をもってこれに代える(日弁連第78期記入要領PDF実頁6頁)。成年被後見人又は被保佐人でないことを証明するための「登記されていないことの証明書」は,現行の通常書類に含まれていない。
4 書類作成上の注意点
戸籍謄本等及び身分証明書の有効期間は,登録日や一斉登録の取扱いにより異なる。第78期案内では,令和8年3月26日から同年4月13日までの登録予定者は登録請求日前4か月以内,それ以後の登録予定者は3か月以内に交付された書類を求めている。
また,日弁連の第78期記入要領は,マイナンバーが記載されていない書類を提出すること,提出前に控えを保存すること,収入印紙には消印をしないことなどを求めている。書式や締切は毎期更新され得るので,過年度の様式を流用せず,日弁連及び入会希望会の最新ページから取得すべきである。
第3 進達拒絶,登録拒絶及び資格審査会
1 所属弁護士会による進達拒絶
弁護士会は,弁護士会の秩序若しくは信用を害するおそれがある者,又は弁護士法12条1項各号若しくは2項に該当し,弁護士の職務を行わせることがその適正を欠くおそれがある者について,資格審査会の議決に基づき,登録請求の進達を拒絶することができる。
同条1項各号は,①心身に故障がある場合,②除名,業務禁止,登録抹消又は免職等による欠格期間3年を経過した後も,弁護士の職務を行わせることがその適正を欠くおそれがある場合を定める。同条2項は,登録請求前1年以内に当該弁護士会の地域内で常時勤務を要する公務員であった者について,その地域内で弁護士の職務を行わせることが特にその適正を欠くおそれがある場合を定める。
進達を拒絶するときは,請求者に対し,その旨及び理由を書面で通知しなければならない。弁護士会が進達を求められてから3か月を経ても日弁連へ進達しないときは,請求者は進達を拒絶されたものとみなして審査請求をすることができる(同条3項・4項)。
2 日弁連の審査と登録拒絶
進達拒絶に対する審査請求について,日弁連は資格審査会の議決に基づいて裁決する。審査請求に理由があると認めるときは,当該弁護士会に進達を命じなければならない(弁護士法12条の2)。
他方,弁護士会から進達を受けた場合でも,日弁連は,同法12条1項又は2項の事由があり,登録を拒絶することが相当であると認めるときは,資格審査会の議決に基づいて登録を拒絶できる(同法15条)。
審査請求の却下・棄却又は日弁連による登録拒絶を受けた者は,東京高等裁判所に取消しの訴えを提起できる。日弁連が審査請求又は進達を受けた後3か月を経ても裁決又は登録をしない場合の出訴についても,弁護士法16条が定めている。
3 資格審査会における手続保障
資格審査会は,各弁護士会及び日弁連に置かれ,弁護士,裁判官,検察官及び学識経験者で構成される(弁護士法51条・52条)。必要があるときは,当事者,関係人及び官公署等に陳述,説明又は資料の提出を求めることができる。
資格審査会が登録請求又はその進達を拒絶することを可とする議決をする場合,あらかじめ当事者へその旨を通知し,陳述及び資料提出の機会を与えなければならない(同法55条2項)。登録拒絶は,過去の事実だけで機械的に決める制度ではなく,登録時の具体的事情,現在の職務遂行可能性,更生状況及び将来の信用侵害のおそれを審査する制度である。
第4 登録に必要な費用
1 全国共通の登録免許税及び日弁連登録料
弁護士名簿への登録には,登録免許税6万円が課される(登録免許税法別表第一32(三))。第78期の登録請求では,日弁連提出用の登録請求書に6万円分の収入印紙を貼付し,消印をしない取扱いである。
日弁連会則23条1項1号の登録料は原則3万円であり,司法修習を終えて引き続き登録する者は1万円である。第78期の案内も,所属希望弁護士会を通じて日弁連登録料1万円を納付するよう求めている(日弁連第78期記入要領PDF実頁3頁)。
2 大阪弁護士会に入会する第78期司法修習終了者の例
大阪弁護士会の「第78期入会案内」PDF実頁6頁によれば,通常納付の場合の入会金等は次のとおりである。登録免許税6万円を加えた初期負担の合計は50万円である。
| 区分 | 金額 | 納付先・方法 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 6万円 | 登録請求書に収入印紙を貼付 |
| 日弁連登録料 | 1万円 | 大阪弁護士会を通じて納付 |
| 大阪弁護士会入会金 | 3万円 | 大阪弁護士会へ納付 |
| 会館負担金会費 | 40万円 | 大阪弁護士会へ納付 |
| 合計 | 50万円 | - |
これは第78期司法修習終了者が大阪弁護士会に新規入会する場合の令和8年の例である。再登録,登録換え,法テラスのスタッフ弁護士,弁護士職務経験制度による登録その他の類型では,金額又は猶予・免除の取扱いが異なる。
3 会館負担金会費の分納及び毎月の会費
第78期案内では,会館負担金会費を分納する場合の入会時納付額は24万円であり,半年後までに残額20万円を納付する。分納の延納を申請する場合の入会時納付額は,入会金3万円と日弁連登録料1万円の合計4万円であり,その後,会館負担金会費を年10万円ずつ4回納付する。いずれも登録免許税6万円は別に必要である。
同案内PDF実頁7頁によれば,通常の月額会費の合計は,修習終了後2年を経過する前月まで2万200円,その後5年を経過する前月まで2万5300円,5年を経過する月から3万2300円である。会館特別会費には納入開始を延期する制度もあるが,免除ではなく納入時期の繰下げである。
第5 判事補又は検事の弁護士職務経験制度による登録
判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律に基づき弁護士として職務経験を行う者には,通常の資格証明書に代わる書面と,日弁連登録料の納付猶予・免除に関する特則がある。
登録請求時に,判事補については最高裁判所事務総局人事局長,検事については法務省大臣官房人事課長が発行する,弁護士職務経験を行う予定の者である旨の書面を提出すると,登録まで登録料の納付が猶予される。登録時に,判事補については最高裁判所事務総長,検事については法務省事務次官が発行する,弁護士職務経験を行う者である旨の書面が提出されたときは,登録料の納付が免除される(「弁護士名簿等の登録料納付等に関する免除等の基準」3条)。
大阪弁護士会の入会金,会館負担金会費等についても別の免除・猶予制度があるため,この類型では一般の新規登録者向け金額をそのまま用いることはできない。
第6 登録の公告及び登録日の確認
日弁連は,弁護士名簿の登録,登録換え及び登録取消しをしたときは,所属弁護士会へ通知し,官報で公告しなければならない(弁護士法19条,日弁連会則25条)。氏名の変更又は職務上の氏名の使用・変更も,日弁連会則上の公告対象である。
官報公告は登録後の公示であり,公告日が当然に登録日になるわけではない。個別の登録日及び登録番号は,日弁連又は所属弁護士会からの通知その他の正式資料で確認すべきである。
第7 登録費用の所得税上の取扱い
1 登録時の支出を一括して開業費とは扱えないこと
弁護士登録時に支出する費用の所得税上の処理は一様ではない。登録免許税,日弁連登録料,所属弁護士会の入会金,会館負担金会費及び登録後の月例会費は法的性質が異なるため,すべてを一括して「開業費」とすることはできない。
所得税法施行令7条1項1号の開業費は,事業所得等を生ずべき事業を開始するまでの間に,開業準備のため特別に支出する費用である。したがって,独立開業前の支出であるか,勤務弁護士として給与所得のみを得る時期の支出であるか,支出が個人事業の開始とどのように結び付くかを分けて検討する必要がある。
2 加入金及び会館負担金会費
所得税基本通達2-29の4は,譲渡可能な地位に係るもの及び出資の性質を有するものを除き,同業者団体等への加入金を所得税法施行令7条1項3号ホの繰延資産として扱う。日弁連登録料又は弁護士会入会金にこの取扱いを適用できるかは,各支出の制度上の性質を確認して判断すべきである。
会館負担金会費については,名称だけで税務処理を決めることはできない。会館の建設又は改良のための負担金であれば,同令7条1項3号イ及び所得税基本通達2-25の「共同的施設」の負担金に当たる可能性があるため,使途,返還の有無,退会時の取扱いその他の規程を確認する必要がある。
なお,同令7条1項3号の繰延資産となる費用で支出額が20万円未満のものには,同令139条の2の少額繰延資産の規定がある。しかし,複数の支出をどの単位で判定するかを含め,具体的な申告処理は事実関係に応じて税理士等へ確認するのが安全である。
3 必要経費判例との関係
東京高裁平成24年9月19日判決は,事業所得の必要経費について,業務との直接関連性を独立の要件として加えるのではなく,業務遂行上の必要性を個別具体的な事情に即して客観的に判断すべきであるとした。同判決は弁護士会の会務活動費の一部を必要経費と認めたが,弁護士登録時の全費用を開業費とした判決ではない。
また,国税庁のタックスアンサーNo.5382「同業者団体等の加入金と会費の取扱い」は法人税に関する説明であり,個人弁護士の所得税処理の直接の根拠として用いるべきではない。
第8 弁護士登録に関する主要裁判例
1 登録制度の合憲性
最高裁判所第一小法廷平成4年7月9日判決(平成元年(行ツ)第89号,裁決取消事件,集民165号143頁)は,弁護士法8条,9条及び36条2項が憲法22条1項に違反しないとした。
最高裁判所第二小法廷昭和43年11月15日判決(昭和39年(行ツ)第102号,弁護士名簿登録請求事件,民集22巻12号2578頁)は,弁護士職務が裁判制度と不可分で公的性格を有することを踏まえて弁護士資格制度を論じた。ただし,同判決は旧弁護士法下の大学法律学教授に関する資格制度を背景とするため,現行の司法修習終了者の通常手続にそのまま当てはめるべきではない。
2 進達拒絶及び登録拒絶の判断枠組み
東京高等裁判所昭和53年2月21日判決(昭和48年(行ケ)第170号,裁決取消請求事件)は,過去の犯罪歴及び疾病後の障害を理由とする進達拒絶について,時間の経過,更生状況,現在の判断力,回復状況及び補助を受けた職務遂行可能性を具体的に検討し,日弁連の棄却裁決を取り消した。
東京高等裁判所昭和50年1月30日判決(昭和48年(行ケ)第9号,裁決取消請求事件)は,登録換えの進達拒絶を過去の非行に対する懲戒の代替として用いることはできず,登録換えによって新たに弁護士会の秩序又は信用を害するおそれがあるかを判断すべきであるとして,裁決を取り消した。
東京高等裁判所平成3年9月4日判決(平成2年(行ケ)第175号,裁決取消請求事件)は,登録を拒む権限は弁護士となることを不当に拒否しないよう慎重に行使すべきであるとしつつ,過去の行為,経過年数,赦免,社会的影響,反省及び現在の言動を総合して,審査請求棄却裁決を適法とした。
これらの裁判例からは,弁護士法12条の判断が,単なる前歴の有無ではなく,登録又は登録換えの時点における具体的な信用侵害のおそれ及び職務遂行の適否を対象とすることが分かる。
第9 令和7年度の登録及び資格審査会の実績
日弁連の令和7年度会務報告書によれば,同年度の弁護士名簿への登録は1755人であり,内訳は司法修習生1510人,裁判官58人,検察官37人及びその他150人である。登録換えは543人,登録取消しは592人であった(同報告書PDF実頁6頁)。
同年度に資格審査会へ付議されたものは,審査請求1件及び登録請求7件の合計8件であり,9回の会議で10件が議決された。議決の内訳は審査請求の棄却1件及び登録請求の認容9件で,同年度欄に登録拒絶は記録されていない(同報告書PDF実頁43頁~44頁)。付議件数と議決件数が一致しないのは,前年度から継続した案件等があるためと考えられる。
第10 関連記事
①弁護士の登録及び登録換えの請求の進達拒絶事由,及び資格審査会
第11 出典・参考資料
1 法令・日弁連規程
①e-Gov法令検索・弁護士法(昭和24年法律第205号)7条~9条,12条,12条の2,15条,16条,19条,51条,52条及び55条
②e-Gov法令検索・登録免許税法(昭和42年法律第35号)別表第一32(三)
③e-Gov法令検索・所得税法施行令(昭和40年政令第96号)7条,137条及び139条の2
④e-Gov法令検索・判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律(平成16年法律第121号)
⑤日本弁護士連合会会則19条及び23条~25条(PDF実頁5頁~7頁)
⑦弁護士名簿の登録料納付の免除等に関する規程及び弁護士名簿等の登録料納付等に関する免除等の基準
2 手続・統計・税務資料
①日本弁護士連合会「第78期司法修習生弁護士名簿登録請求者の方へ(一斉登録)」,別紙1「弁護士名簿登録手続について(御案内)」PDF実頁1頁及び別紙2「弁護士名簿登録請求書等記入要領」PDF実頁1頁~11頁
②大阪弁護士会「入会・退会案内」及び「第78期入会案内」PDF実頁1頁~8頁
③日本弁護士連合会『令和7年度会務報告書』PDF実頁6頁,34頁~35頁及び43頁~44頁
④国税庁「所得税基本通達2-24~2-29の5」
⑤横田寛『弁護士・事務職員のための法律事務所の確定申告入門』(日本加除出版,平成28年)310頁
3 裁判例
①最高裁判所第一小法廷平成4年7月9日判決(平成元年(行ツ)第89号,裁決取消事件,集民165号143頁)
②最高裁判所第二小法廷昭和43年11月15日判決(昭和39年(行ツ)第102号,弁護士名簿登録請求事件,民集22巻12号2578頁)
③東京高等裁判所昭和53年2月21日判決(昭和48年(行ケ)第170号,裁決取消請求事件)
④東京高等裁判所昭和50年1月30日判決(昭和48年(行ケ)第9号,裁決取消請求事件)
⑤東京高等裁判所平成3年9月4日判決(平成2年(行ケ)第175号,裁決取消請求事件)
⑥東京高等裁判所平成24年9月19日判決(平成23年(行コ)第298号,判例時報2170号20頁,判例タイムズ1387号190頁)