第1 指定研修の制度上の位置付け
1 弁護士法5条による資格認定の一要件
弁護士となる資格は,司法試験に合格し,司法修習を終えた者に認められるのが原則である(弁護士法4条)。その特例として,弁護士法5条は,所定の職務経験を有する者が,法務大臣の指定する研修の課程を修了し,法務大臣の認定を受けたときに,弁護士となる資格を認めている。
指定研修は,司法修習を経由しない職務経験者について,弁護士として活動するために必要な実務的能力・技能を補完する制度である。研修の実施法人は,弁護士となる資格に係る認定の手続等に関する規則1条により日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)とされ,日弁連からの申請に基づいて法務大臣が年度ごとの研修を指定する。
令和8年度研修は,令和8年8月12日から10月2日まで実施される予定であり,集合研修60時間と実務研修19日・152時間で構成される。平成30年度の実務研修は18日・144時間であったため,旧年度のカリキュラムを現行の内容として読むことはできない。
2 対象となる主な職務経験
弁護士法5条の対象は裁判所又は検察庁で勤務した者に限られない。同条が定める主な類型は,次のとおりであるが,個々の職務が経験要件を満たすかは,職名ではなく実際の職務内容と提出資料に基づいて審査される。
- ① 司法試験合格後,簡易裁判所判事,検察官,裁判所調査官,司法研修所等の教官その他の同条1号所定の職に通算5年以上在った者
- ② 司法試験合格後,企業その他の事業者における契約書作成,訴訟準備その他の法律関係事務又は国・地方公共団体における法令立案等の事務に通算7年以上従事した者
- ③ 検察官特別考試に合格し,検察官として通算5年以上在職した者
- ④ 同条所定の複数の職務経験を法定の方法で通算する者
企業法務等の7年要件は,単に法務部門に在籍した期間だけで判断されるものではない。法務省の認定申請の手引は,処理した法律関係事務の内容,件数,頻度,責任の程度等を示す資料を求めており,個別の該当性は認定申請前の予備審査を利用して確認できる。
3 資格認定と弁護士名簿登録の違い
指定研修の修了だけで弁護士として業務を開始できるわけではない。日弁連の履修状況報告を受けた法務大臣が,経験要件その他の全要件を満たすと判断して認定し,認定者の氏名を官報で公告することにより,弁護士となる資格が付与される。
法務大臣の認定は,弁護士名簿への登録そのものでもない。認定後,入会しようとする弁護士会を経由して日弁連に登録請求をする必要があり,この段階は弁護士登録請求の手続で別に取り扱われる。
第2 認定申請から弁護士登録までの流れ
1 予備審査と認定申請
申請予定者は,必要に応じて法務省の予備審査を受けた上で,経験要件を証する書類その他の添付書類とともに認定申請書を法務大臣へ提出する。予備審査は認定処分ではなく,規則9条に基づいて申請前に経験要件等への該当性を審査する手続である。
法務省の手引によれば,認定申請の受領から受けるべき研修の通知までの標準処理期間は,特段の事情がない限りおおむね2か月である。ただし,資料の補充又は追加提出が必要になる場合があり,標準処理期間は個別の通知時期を保証するものではない。
2 受けるべき研修の通知と受講
法務大臣が試験等要件及び経験要件を満たすと判断したときは,申請者に対し,受けるべき研修を書面で通知する。受講できるのはこの通知を受けた者であり,研修を先に任意受講してから経験要件を整える手順ではない。
通知を受けた申請者は,日弁連へ受講を申し込み,指定された集合研修及び実務研修を履修する。指定研修には起案提出,講評,実務研修日誌及び指導担当弁護士による評価が含まれ,単に所定時間に出席すれば当然に修了する仕組みではない。
3 履修状況の報告,法務大臣の認定及び登録
日弁連の研修修了審査会議は,各研修生の出席,課題,起案,実務研修日誌及び成績評価書等に基づいて履修状況を評価し,法務大臣へ書面で報告する。法務大臣はこの報告を含む全資料を審査して,認定処分又は却下処分を行う。
法務省の手引が示す,日弁連の履修状況報告から認定処分までの標準処理期間は,特段の事情がない限りおおむね1か月である。認定を受けた後は,弁護士会を経由した日弁連への弁護士名簿登録請求を経て,登録が完了した時点で弁護士となる。
第3 令和8年度指定研修の日程と場所
1 申請期限と研修場所
令和8年度については,法務省への予備審査申出期限が令和8年4月13日,認定申請期限が同年5月8日,日弁連への研修受講申請期限が同年6月19日であった。各期限は年度ごとに変わるため,申請時には法務省の弁護士資格認定制度の案内で対象年度の期限と必要書類を確認する必要がある。
集合研修は東京都千代田区霞が関の弁護士会館で実施され,実務研修は東京又は大阪の法律事務所で実施される。実務研修地は受講申請時に選択するが,配属先の法律事務所は研修初日に通知され,事務所ごとに執務の開始・終了時刻が異なる。
2 研修日程
令和8年度指定研修実施要領が定める日程は,次のとおりである。令和8年度研修は同年8月12日に開始され,実務研修を挟んで同年10月2日に終了する予定である。
| 区分 | 日程 | 時間数等 |
|---|---|---|
| 集合研修Ⅰ | 令和8年8月12日・13日 | 10時間 |
| 集合研修Ⅱ | 令和8年8月17日~20日 | 20時間 |
| 実務研修 | 令和8年8月24日~9月17日(土日祝日を除く。) | 19日・152時間 |
| 集合研修Ⅲ | 令和8年9月28日~10月2日 | 30時間 |
| 合計 | - | 集合研修60時間,実務研修152時間 |
第4 令和8年度指定研修の内容
1 集合研修60時間
令和8年度研修カリキュラムによれば,集合研修Ⅰではガイダンス,民事裁判手続及び刑事弁護概論を扱い,集合研修Ⅱでは民事弁護概論,要件事実,立証活動,事実認定,刑事弁護及び訴状起案の講評を扱う。集合研修Ⅲでは,訴状,弁論要旨等,準備書面,契約書・和解条項等の起案を講評し,最後に集合研修の確認と弁護士倫理を扱う。
| 区分 | 主な科目 | 時間数 |
|---|---|---|
| 集合研修Ⅰ | ガイダンス・民事裁判手続,刑事弁護概論 | 10時間 |
| 集合研修Ⅱ | 民事弁護概論,要件事実,立証活動,事実認定,刑事弁護,訴状(1)講評 | 20時間 |
| 集合研修Ⅲ | 訴状(2),弁論要旨等,準備書面,契約書・和解条項等の講評,集合研修の確認,弁護士倫理 | 30時間 |
研修開始前後には複数の起案課題が配付され,指定された期限までに提出しなければならない。令和8年度は,訴状2通,弁論要旨等,準備書面及び契約書の各起案が予定され,後日の集合研修で個別又は全体の講評を受ける。
2 法律事務所における実務研修152時間
実務研修は,研修生を法律事務所へ配属し,民事・刑事の双方にわたる弁護士業務をできるだけ広く体験させるものである。実施計画書は,法律相談への同席,事件記録の検討,法律文書の作成,裁判の傍聴,弁護士会活動への参加等を想定しており,報酬の考え方を含む法律事務所実務も研修対象としている。
現実の事件を題材とするため,研修の具体的内容は配属先及び当該時期の取扱事件に左右される。研修生は毎日の実務研修日誌を作成し,実務研修担当弁護士は研修終了後に成績評価書を日弁連総合研修センターへ提出する。
第5 出席,課題,修了審査及び秘密保持
1 原則として全日程への出席が必要である
令和8年度実施要領は,全ての研修の受講を求め,病気その他の日弁連がやむを得ないと認める事情がない限り欠席を認めていない。欠席には原則として事前承認が必要であり,急病等の場合にも事後承認を要する一方,自己の業務に関する会議,学会,授業又は講演会等は,やむを得ない事情として扱われない。
2 課題提出と履修評価
法務省は,研修課程を全て受講し,起案等の課題を全て終えていることを,修了要件を満たすための原則としている。出席と課題提出を形式的に満たしても,研修への取組又は成果からみて,弁護士として必要な実務的能力・技能の修得程度が著しく低い場合には,研修修了要件を満たしたと認められないことがある。
研修中は起案等の評価・講評が随時行われ,実務研修についても日誌及び担当弁護士の評価が作成される。日弁連が法務大臣へ報告するのは個々の研修生の履修状況であり,最終的な資格認定は法務大臣が行う。
3 秘密保持
研修生は,研修を誠実に履修する義務と,研修で知り得た秘密を漏らさない義務を負い,受講前に誓約書を提出する。実務研修では現実の事件及び法律事務所の業務に接するため,秘密保持は付随的な注意事項ではなく,受講要件として明示されている。
第6 令和8年度指定研修の費用
1 公表資料で確認できる固定費
法務大臣への認定申請手数料は1万9800円であり,令和8年度の日弁連研修受講料は20万9500円,日弁連発行分の指定書籍代は9424円である。この3項目の合計は23万8724円であるが,ほかに日弁連発行分以外の指定書籍代,交通費,宿泊費,食費,郵送費及び弁護士名簿登録関係費用等が生じ得る。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 法務大臣への認定申請手数料 | 1万9800円 |
| 日弁連の研修受講料 | 20万9500円 |
| 日弁連発行分の指定書籍代 | 9424円 |
| 上記3項目の合計 | 23万8724円 |
研修受講料及び日弁連発行書籍代の合計21万8924円は,受付通知書到達後7日以内に納付する。実施要領は,弁護士となる資格を取得できなかった場合又は研修を途中で中断した場合でも,研修費用を返還しないとしている。
2 研修原価の概算と受講料は異なる
令和8年度実施計画書は,研修生15人を仮定した研修費用を総額462万8600円,1人当たり30万8573円と見積もっている。これは研修運営上の概算であり,受講者が日弁連へ支払う研修受講料20万9500円とは異なる。

上掲画像は令和4年度研修の費用概算書であり,15人の受講を仮定した当時の見積りである。年度,仮定人数及び支出項目によって1人当たり概算費用は変わるため,令和8年度の受講料又は実費を示す資料として用いることはできない。
第7 受講,修了報告及び認定の実績
1 日弁連実施計画書に記載された年度別実績
令和8年度実施計画書に記載された平成29年度以降の実績は,次のとおりである。この表は同計画書の「実績」欄を転記したものであり,各年度の法務大臣認定者数をそのまま示すものではない。
| 年度 | 人数 |
|---|---|
| 平成29年度 | 9人 |
| 平成30年度 | 8人 |
| 令和元年度 | 14人 |
| 令和2年度 | 7人 |
| 令和3年度 | 18人 |
| 令和4年度 | 10人 |
| 令和5年度 | 13人 |
| 令和6年度 | 20人 |
| 令和7年度 | 21人 |
日弁連の令和7年度会務報告書は,令和7年8月12日から9月27日まで指定研修を実施し,研修生21人について研修課程を修了したと認められる旨を法務大臣へ報告したとしている。これに対し,平成30年度実施計画書等が8人を実績として掲げる一方,同年度の会務報告書は7人について修了報告をしたとしており,受講段階の人数と修了報告段階の人数を区別する必要がある。
2 令和6年度研修に係る法務大臣認定実績
法務省『令和6年法務年鑑』によれば,令和6年度研修に係る認定申請者は22人であり,認定者は20人,取下げは2人であった。認定者20人の内訳は,裁判所職員等4人,企業法務8人,公務員5人,企業法務と公務員の通算1人,検察官特別考試経由1人及び大学教授1人である。
企業法務を含む類型は9人であり,認定者20人の45%を占めた。この数値は,指定研修が裁判所又は検察庁での勤務経験者だけを対象とする制度ではないことを示す一方,単年度の構成比であるため,他の年度にも同じ割合が続くことを意味しない。年度別の認定者数は,弁護士資格認定制度に基づく認定者数の推移で取り扱っている。
第8 平成30年度研修との比較
1 旧記事の数値は平成30年度資料と整合する
平成30年度の実施計画書には,集合研修60時間,実務研修18日・144時間と記載されており,旧記事の時間数及び科目構成は同資料と整合する。したがって,旧記事の数値自体が誤りなのではなく,現行年度の内容であるかのように読める状態を改める必要がある。
| 比較項目 | 平成30年度 | 令和8年度 |
|---|---|---|
| 集合研修 | 60時間 | 60時間 |
| 実務研修 | 18日・144時間 | 19日・152時間 |
| 集合研修の表示 | 集合研修Ⅰ~Ⅳ | 集合研修Ⅰ~Ⅲ |
| 実務研修地 | 東京・大阪の法律事務所 | 東京・大阪の法律事務所 |
| 研修受講料 | 20万5700円 | 20万9500円 |
2 共通する研修の中核
年度ごとに日程,時間配分及び区分表示は変わっているが,民事裁判手続,刑事弁護,要件事実,事実認定,立証活動,法律文書起案,弁護士倫理及び法律事務所での実務を一体として学ぶ構成は維持されている。平成30年度実施計画書は,現行情報ではなく,研修内容の変化を確認する沿革資料として位置付けられる。
第9 制度の成立経緯と研修の目的
1 平成15年改正
司法制度改革の一環として,平成15年法律第128号により,企業法務,公務員及び検察官特別考試経由等の職務経験を基礎とする弁護士資格認定制度が導入された。政府提出案には一部類型について指定研修を要しない構成が含まれていたが,衆議院で修正され,認定を受ける各類型に共通して指定研修の修了を求める制度となった。
第156回国会衆議院法務委員会第17号及び同国会参議院法務委員会第21号では,多様な職務経験を法曹に取り込む一方,経験類型ごとに不足しやすい分野を指定研修で補う考え方が説明された。具体的には,企業法務経験者には刑事実務,検察官経験者には民事実務というように,それまでの職務だけでは経験しにくい分野を補完することが想定されていた。
2 平成16年改正と現行カリキュラムへの接続
平成16年法律第9号は,大学の法律学教授等を対象とする経過的な類型を含め,現在の制度体系を整えた。第159回国会衆議院法務委員会第3号では,要件事実,事実認定,立証,裁判実務,弁護士倫理及び法律文書起案等により,司法修習を経ていない者の実務能力を補完する研修設計が説明されている。
現在の研修が,民事と刑事の双方,複数の起案課題,法律事務所での実務及び弁護士倫理を組み合わせているのは,この制度目的に対応するものである。なお,第193回国会参議院法務委員会第7号の政府答弁では,弁護士法5条による認定者と司法修習を終えた者との間で,取得する弁護士資格の効力に差はないと説明されている。
第10 関連資料と関連記事
年度ごとの日弁連実施計画書,申請文書及び研修資料は,弁護士となる資格付与のための指定研修に関する文書にまとめている。制度全体の改正経緯は平成16年4月1日創設の,弁護士資格認定制度,認定手続を定める省令は弁護士となる資格に係る認定の手続等に関する規則でそれぞれ取り扱っている。
第11 出典・参考資料
1 法令
- ① e-Gov法令検索「弁護士法」4条,5条及び5条の2~5条の6
- ② e-Gov法令検索「弁護士となる資格に係る認定の手続等に関する規則」1条,2条,8条及び9条
2 法務省資料
- ① 法務省「弁護士資格認定制度」(令和8年8月3日掲載内容を確認)
- ② 法務省大臣官房司法法制部「弁護士資格認定制度 認定申請の手引」(2023年3月改訂,PDF実頁3頁~10頁)
- ③ 日本弁護士連合会「令和8年度弁護士となる資格付与のための指定研修実施要領」(PDF実頁1頁~2頁)
- ④ 日本弁護士連合会「令和8年度研修カリキュラム」(PDF実頁1頁)
- ⑤ 法務省『令和6年法務年鑑』(冊子92頁~93頁,PDF実頁112頁~113頁)
3 日弁連資料
- ① 日本弁護士連合会「令和8年度『弁護士となる資格付与のための指定研修』実施計画書」(令和8年3月9日付け指定申請書添付,PDF実頁2頁~11頁。収録先は指定研修に関する文書)
- ② 日本弁護士連合会『令和7年度の日弁連の会務報告書』(PDF実頁154頁)
- ③ 日本弁護士連合会『平成30年度の日弁連の会務報告書』(PDF実頁170頁)
- ④ 日本弁護士連合会「平成30年度『弁護士となる資格付与のための指定研修』実施計画書」(PDF実頁2頁~10頁)