第1 結論
1 令和6年度末の財政状態
本記事の基準日は令和8年8月29日であり,日本弁護士国民年金基金について公表を確認できた令和5年度及び令和6年度の貸借対照表,損益計算書及び業務報告書を対象とする。
令和6年度末(令和7年3月31日)の責任準備金は1536億3731万4000円であり,純資産額は1610億4642万1250円であるため,純資産額は責任準備金を74億910万7250円上回っている。
もっとも,同年度には当年度不足金5億1461万1715円が計上されている。
これは,純資産額と責任準備金の単純な差額とは異なり,既に積み立てた別途積立金,危険準備金及び給付改善準備金を考慮した年度決算上の不足金である。
2 区別すべき三つの数字
基金の財政状態を読む際には,少なくとも次の三つを区別する必要がある。
① 責任準備金と純資産額を比較した実質過不足及び積立度合
② その年度の収益・費用及び数理的評価を反映した当年度剰余金又は当年度不足金
③ 前年度までの処理を反映した繰越不足金,別途積立金及び危険準備金
令和6年度末は,実質過不足が約74億円のプラスであり,繰越不足金が0円である一方,当年度不足金が約5億円生じている。
したがって,「当年度不足金があるから直ちに積立不足である」とも,「繰越不足金が0円だから財政上の問題がない」ともいえない。
第2 令和5・6年度決算の主要数値
1 貸借対照表の比較
日本弁護士国民年金基金の年金経理に関する主要数値は,次のとおりである。
| 項目 | 令和5年度末 | 令和6年度末 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 総資産額 | 1662億116万353円 | 1633億2230万2286円 | 28億7885万8067円減 |
| 純資産額 | 1574億6125万9965円 | 1610億4642万1250円 | 35億8516万1285円増 |
| 給付確保資産 | 364億1097万5000円 | 373億8686万7000円 | 9億7589万2000円増 |
| 共同運用資産 | 1210億5028万4965円 | 1236億5955万4250円 | 26億926万9285円増 |
| 責任準備金 | 1495億3754万1000円 | 1536億3731万4000円 | 40億9977万3000円増 |
| 繰越不足金 | 70億9903万3691円 | 0円 | 70億9903万3691円減 |
| 当年度剰余金 | 148億3605万218円 | 0円 | 148億3605万218円減 |
| 当年度不足金 | 0円 | 5億1461万1715円 | 5億1461万1715円増 |
| 危険準備金 | 1億6321万1529円 | 9億3691万3182円 | 7億7370万1653円増 |
| 別途積立金 | 0円 | 69億6331万4874円 | 69億6331万4874円増 |
総資産額は約28億8000万円減少したが,純資産額は約35億9000万円増加し,責任準備金は約41億円増加した。
総資産額には貸借を一致させるため資産勘定に表示される不足金が含まれるので,総資産額の増減だけで積立状況を判断することはできない。
2 純資産額と責任準備金の関係
令和5年度末の純資産額は1574億6125万9965円であり,責任準備金1495億3754万1000円を79億2371万8965円上回っていた。
令和6年度末の純資産額は1610億4642万1250円であり,責任準備金1536億3731万4000円を74億910万7250円上回っていた。
この比較による積立度合は,令和5年度末が105.30%,令和6年度末が104.82%である。
令和6年度は純資産額が増加したものの,責任準備金の増加率が純資産額の増加率を上回ったため,積立度合は0.48ポイント低下した。
3 繰越不足金が0円でも当年度不足金が生じる理由
令和5年度末には,繰越不足金70億9903万3691円と当年度剰余金148億3605万218円が同時に表示されていた。
令和6年度末には,繰越不足金及び当年度剰余金がいずれも0円となる一方,別途積立金69億6331万4874円及び危険準備金9億3691万3182円が表示されている。
貸借対照表の対前年度増減からは,令和5年度の剰余金で従前の繰越不足金を解消し,残額を別途積立金及び危険準備金へ振り替えたことが分かる。
その上で令和6年度の決算を行った結果,当年度不足金5億1461万1715円が生じている。
令和6年度末の純資産額と責任準備金との差額74億910万7250円から,別途積立金69億6331万4874円,危険準備金9億3691万3182円及び給付改善準備金2349万909円を控除すると,マイナス5億1461万1715円となる。
このため,当年度不足金の存在と,純資産額が責任準備金を上回っていることは矛盾しない。
第3 責任準備金及び積立状況の読み方
1 責任準備金
国民年金基金令29条3項は,責任準備金について,年金及び一時金に要する費用の予想額の現価から掛金収入の予想額の現価を控除した額を基準として計算するものとしている。
したがって,責任準備金は将来の給付総額そのものでも,現在の現預金残高でもなく,将来の給付及び掛金収入を年金数理により現在価値へ換算した積立必要額である。
責任準備金が増えたという事実だけから,財政が悪化したとはいえない。
加入員及び受給者の構成,予定利率,給付見込みその他の計算基礎の変化によっても責任準備金は変動するため,純資産額との対比が必要である。
2 実質過不足及び積立度合
本記事では,実質過不足及び積立度合を次の算式で整理する。
① 実質過不足=純資産額-責任準備金
② 積立度合=純資産額÷責任準備金×100
実質過不足がマイナスであればその絶対額が不足額となり,積立度合は100%を下回る。
実質過不足がプラスであれば純資産額が責任準備金を上回り,積立度合は100%を上回る。
3 令和4年度末から令和6年度末までの推移
同じ算式による直近3年度の推移は,次のとおりである。
| 年度末 | 純資産額 | 責任準備金 | 実質過不足 | 積立度合 |
|---|---|---|---|---|
| 令和4年度末 | 1363億1256万8747円 | 1432億2490万円 | 69億1233万1253円の不足 | 95.17% |
| 令和5年度末 | 1574億6125万9965円 | 1495億3754万1000円 | 79億2371万8965円の剰余 | 105.30% |
| 令和6年度末 | 1610億4642万1250円 | 1536億3731万4000円 | 74億910万7250円の剰余 | 104.82% |
令和4年度末には純資産額が責任準備金を約69億円下回っていたが,令和5年度末には約79億円上回る状態へ転じた。
令和6年度末も100%を超える積立度合を維持したが,前年度末より剰余幅は5億1461万1715円縮小した。
第4 国民年金基金連合会の運用実績
1 日本弁護士国民年金基金単独の利回りではないこと
国民年金基金連合会は,各基金の委託を受け,1口目の掛金に係る給付確保事業及び2口目以降の掛金の多くに係る共同運用事業を行っている。
日本弁護士国民年金基金の貸借対照表でも,令和6年度末に給付確保資産373億8686万7000円及び共同運用資産1236億5955万4250円が計上されている。
国民年金基金連合会が公表する運用利回りは,連合会が合同運用する積立金全体の実績であり,日本弁護士国民年金基金単独の運用利回りではない。
したがって,連合会の利回りと日本弁護士国民年金基金の当年度剰余金又は当年度不足金を直接同一視することはできない。
2 令和5・6年度の運用実績
国民年金基金連合会の令和5年度の修正総合利回りはプラス20.24%であり,令和6年3月末の積立金残高は5兆3283億円であった。
同報告書によれば,運用規制が撤廃された平成9年度以降の累積実績は年率4.69%である。
令和6年度の修正総合利回りはプラス3.17%であり,基本ポートフォリオの期待リターン4.59%を1.42ポイント下回った。
もっとも,5年間の累積収益率は年率10.34%,10年間は年率5.72%,15年間は年率7.14%であり,各期間に対応する期待リターンを上回った。
令和7年3月末の積立金残高は5兆2987億円であり,前年度末より296億円減少した。
連合会は,運用収益がプラスであっても,給付等による資金流出の影響により積立金残高が減少したと説明している。
3 令和6年4月以降の基本ポートフォリオ
国民年金基金連合会は,令和6年4月から基本ポートフォリオを変更した。
現在の資産構成割合は,グローバル債券(円ヘッジ)39%,グローバル債券(ヘッジなし)6%及びグローバル株式55%である。
基本ポートフォリオ全体の期待リターンは4.59%,リスクは10.06%とされている。
期待リターンは毎年度保証される利回りではなく,令和5年度の20.24%及び令和6年度の3.17%のように,単年度の実績は市場環境により大きく変動する。
第5 財政状態を判断する際の注意点
1 一つの数字だけで判断しないこと
基金の財政状態は,責任準備金,純資産額,実質過不足,積立度合,当年度剰余金・当年度不足金,繰越不足金・別途積立金及び中長期の運用実績を併せて確認する必要がある。
単年度の運用利回りが高くても将来の給付債務が同時に増えることがあり,反対に当年度不足金が生じても既存の積立金を含む実質過不足がプラスであることがある。
また,令和5年度末から令和6年度末にかけて,日本弁護士国民年金基金の加入員数は9160人から8894人へ266人減少した。
加入員数,掛金収入,受給者数及び給付費の推移は将来の財政に関係するが,1年度の加入員減少だけから将来の支払能力を断定することはできない。
2 旧記事の「実質赤字の割合」を更新しない理由
旧記事は,実質赤字を責任準備金と純資産額の差額として算出する一方,その割合については2口目以降分責任準備金を分母としていた。
差額と割合で分母の範囲が異なるため,本記事では,純資産額を責任準備金全体で除する積立度合に統一した。
また,今回確認した令和5・6年度の貸借対照表等には,旧記事が用いた2口目以降分責任準備金が独立項目として掲載されていない。
比較可能性を保つため,旧算式による令和5・6年度の割合は推計せず,確認できる純資産額及び責任準備金全体によって積立状況を示した。
3 関連記事
制度全体及び加入条件については,日本弁護士国民年金基金(AIリライト)を参照されたい。
弁護士法人への所属,企業内弁護士への転職,海外転居等に伴う資格喪失及び再加入については,弁護士国民年金基金の資格喪失と再加入を参照されたい。
老齢年金,未支給年金及び遺族一時金の請求については,弁護士国民年金基金の給付請求を参照されたい。
第6 出典
1 法令
2 日本弁護士国民年金基金の決算資料
① 日本弁護士国民年金基金「貸借対照表,損益計算書及び業務報告書(令和5年度分)」1頁,3頁及び6頁~7頁
② 日本弁護士国民年金基金「貸借対照表,損益計算書及び業務報告書(令和6年度分)」1頁,3頁及び6頁~7頁
3 国民年金基金連合会の資料
② 国民年金基金連合会「2023年度運用報告書」1頁,3頁及び6頁~7頁
③ 国民年金基金連合会「2024年度資産運用概況報告書」1頁~4頁及び18頁