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裁判所

売掛金の振込先口座がある銀行支店の所在地で訴えを提起できるか―民事訴訟法5条1号の義務履行地と振込払いの裁判例(AI作成)

目次第1 本記事の結論と対象1 結論2 本記事の対象と基準日第2 義務履行地の裁判籍の仕組み1 民事訴訟法4条及び5条1号2 売買代金債務の履行場所3 持参債務の原則と義務履行地の裁判籍第3 振込みによる支払と義務履行地に関する裁判例1 東京高裁昭和53年4月21日決定(売掛代金)2 大阪高裁平成10年4月30日決定(賃金の口座振込)3 松山地裁宇和島支部昭和60年8月8日決定(送金債務)4 金融機関の支店の所在地が義務履行地とされた例第4 振込先の支店の所在地を義務履行地と主張できる場合1 弁済場所についての明示の合意がある場合2 「振り込んで支払う」とだけ定める条項3 約款で支払場所を定める条項の限界第5 実務上の対応1 売主が訴えを提起する場合2 買主が訴えられた場合3 契約書を作成する段階第6 出典1 法令2 裁判例3 文献
第1 本記事の結論と対象
1 結論

売買代金を売主の指定する預金口座へ振り込んで支払う約束があるだけでは,その口座を管理する金融機関の支店の所在地は,民事訴訟法5条1号の義務履行地にはならないと考えられる。
大阪高裁平成10年4月30日決定は,銀行振込を義務履行のための一つの方法にすぎないとし,東京高裁昭和53年4月21日決定は,売掛代金が売主本店の口座への振込みで支払われていたことから支払場所を本店とする暗黙の合意の成立を推認することは困難であるとしており,いずれもこの考え方に沿うものである。

売買代金債務の履行場所は,弁済場所についての別段の意思表示がない限り,民法484条1項により債権者の現在の住所となり,商行為によって生じた債務であれば商法516条により債権者の現在の営業所となる。
したがって,売主は,自らの住所又は営業所の所在地を義務履行地として民事訴訟法5条1号の管轄を主張するのが通常であり,これとは別に振込先の支店の所在地を管轄の根拠とする意味は乏しい。

振込先の支店の所在地が義務履行地となり得るのは,その支店を弁済場所とする明示の合意がある場合など,当事者の意思表示によって弁済場所が特定されている場合に限られると考えられる。
もっとも,売買代金の事案で振込先の支店の所在地を義務履行地と認めた裁判例は,本記事で確認した範囲では見当たらなかった。

2 本記事の対象と基準日

本記事は,令和8年9月18日現在の法令並びに本記事で確認した裁判例及び文献に基づき,国内の売買代金(売掛金)請求訴訟の土地管轄を対象とする。
国際裁判管轄,手形又は小切手による金銭の支払の請求(民事訴訟法5条2号),消費者契約に特有の問題及び個別の契約条項の有効性の判断は,本記事の対象外とする。

本記事で取り上げる裁判例には,賃金,保険金,銀行取引等,売買代金以外の債務に関するものが含まれる。
これらは義務履行地の考え方を示すものとして参照するものであり,売買代金の事案にそのまま当てはまるとは限らない。

第2 義務履行地の裁判籍の仕組み
1 民事訴訟法4条及び5条1号

民事訴訟法4条1項は,訴えは被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属すると定め,同条4項は,法人の普通裁判籍は主たる事務所又は営業所により定まるとしている。
これに対し,同法5条柱書き及び1号は,財産権上の訴えについて,義務履行地を管轄する裁判所にも訴えを提起することができると定めている。

売買代金の支払を求める訴えは財産権上の訴えであるから,買主の普通裁判籍の所在地のほか,代金支払債務の義務履行地にも管轄が生じる。
そのため,代金支払債務の義務履行地がどこかが,売主がどこの裁判所に訴えを提起できるかを左右する。

2 売買代金債務の履行場所
(1) 民法484条1項

民法484条1項は,「弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。」と定めている。
金銭債務である売買代金債務は「その他の弁済」に当たるから,別段の意思表示がなければ,売主の現在の住所が履行場所となり,これを持参債務の原則という(我妻榮ほか『我妻・有泉コンメンタール民法―総則・物権・債権―〔第6版〕』(日本評論社,2019年)968頁)。

同書は,別段の意思表示がない場合にも,債権発生行為の性質上弁済地が特定される場合には,民法484条の適用はないと説明している(同書969頁)。

(2) 商法516条

商法516条は,商行為によって生じた債務の履行をすべき場所がその行為の性質又は当事者の意思表示によって定まらないときは,特定物の引渡し以外の債務の履行は「債権者の現在の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)」においてしなければならないと定めている。
事業者間の売掛金は通常これに当たるから,売主の現在の営業所が履行場所となる。

(3) 民法574条

民法574条は,売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは,その引渡しの場所において支払わなければならないと定めている。

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民事訴訟で相手方・第三者の資料を集める方法―弁護士会照会・調査嘱託・文書送付嘱託・文書提出命令の使い分け(AI作成)

目次第1 証拠収集手段を選ぶ前に整理する事項1 本記事の対象2 立証命題から逆算する3 事実の回答と既存資料の送付を区別する第2 本人による取得と任意の開示請求1 取得できることと取得してよいことを分ける2 本人取得と任意請求を具体化する第3 弁護士会照会1 制度の仕組み2 回答が保証される制度ではない第4 提訴前照会と提訴前の証拠収集処分1 提訴前照会2 提訴前の証拠収集処分第5 当事者照会第6 調査嘱託第7 文書送付嘱託第8 文書提出命令1 申立てに必要な事項2 提出義務と除外文書3 命令に従わない場合第9 各制度の比較第10 電磁的記録,個人情報及び秘密への対応1 電磁的記録2 個人情報を含むことだけで取得できなくなるわけではない3 法律相談通信と既存資料を混同しない第11 よくある失敗と申立て前の確認事項1 よくある失敗2 申立て前の確認事項第12 証拠収集法制の見直しとの関係第13 一次資料と裁判例の確認範囲第14 出典1 法令・裁判例2 法改正関係資料
第1 証拠収集手段を選ぶ前に整理する事項
1 本記事の対象

民事事件で必要な資料が相手方や第三者の手元にある場合,利用できる制度は一つではない。
弁護士会照会,提訴前照会,提訴前の証拠収集処分,当事者照会,調査嘱託,文書送付嘱託及び文書提出命令は,対象,利用できる時期,求める内容,強制力及び不回答時の効果が異なる。

本記事は,これらの制度を現行の民事訴訟法及び弁護士法に沿って比較し,制度を選ぶ前に整理すべき事項をまとめるものである。
条文は令和8年9月17日時点のe-Gov法令検索で確認した。
申立てさえすれば裁判所や弁護士会が必要な証拠を網羅的に探してくれる制度はないから,最初に「何を証明するため,誰が,どの資料又は情報を持っているか」を具体化し,本人による取得や任意交渉で足りるかを確認した上で,目的に合う制度を選ぶ必要がある。

2 立証命題から逆算する

最初に決めるべきなのは制度名ではなく,証明したい事実である。
例えば「取引の経過」を証明する場合でも,契約書,注文履歴,入出金記録,電子メール,アクセスログ等では,保有者,保存期間及び適切な取得手段が異なる。

資料候補ごとに,少なくとも次の事項を整理する。
① 証明すべき事実
② 資料又は情報の名称,内容及び対象期間
③ 作成者,保有者,担当部署及び保存システム
④ 契約番号,口座,端末,日時等の識別情報
⑤ 本人が取得できるか,既に取得を試みたか
⑥ 保存期間,上書き又は消去の可能性
⑦ 第三者の個人情報,営業秘密その他の秘密を含むか

3 事実の回答と既存資料の送付を区別する

「特定日の登録住所を回答してほしい」という要求と,「特定期間の取引明細を送ってほしい」という要求は性質が違う。
前者は一定事項の報告を求める照会又は調査嘱託に適し,後者は既存文書の送付嘱託又は提出命令が問題になりやすい。
新しい意見書や調査報告書を作らせることと,既に存在する資料を送らせることも分けて検討する。

第2 本人による取得と任意の開示請求
1 取得できることと取得してよいことを分ける

資料を物理的・技術的に開けることと,その資料を取得・閲覧・複製してよい権限があることは別である。本人取得を選ぶ前に,端末・アカウント・媒体の名義及び管理者,ロック又はパスワードの有無,同意の有無と範囲,業務用か私用か,第三者の秘密を含むかを確認する。

対象を期間・相手・ファイル名等で絞り,取得前の状態,日時,取得者及び取得方法を記録する。電子データは原本を上書きせず,必要に応じて複製のハッシュ値を保存する。第三者の医療・家族・営業情報を含む場合や,退職者の会社端末,死亡者のロック端末,共有アカウント等は,裁判上の必要性だけで正当化できるとは限らないため,任意開示,照会,嘱託又は提出命令という代替手段も比較する。

取得方法に問題がある資料については,証拠能力・証明力の問題と,取得者の民事・刑事・懲戒上の責任を分けて検討する。日本の民事訴訟で違法収集証拠が常に一律排除されるとの明文規定はないが,具体的な許容限界は事案依存である。判例秘書を含む関連裁判例の網羅検索は本記事の今回の追記では実施していないため,個別事件では取得前に追加調査を行う。

2 本人取得と任意請求を具体化する

本人が法令,契約又は事業者の開示手続によって取得できる資料については,まずその方法を検討する。

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少年事件で弁護士が取材を受けるときの確認事項―少年法61条・特定少年・被害者情報(AI作成)

目次
第1 結論
第2 参照資料とその位置付け
第3 少年事件の報道対応で検討される六つの要素
第4 少年法61条と特定少年
第5 弁護士が報道対応前に確認する事項
第6 被害者及び家族の情報への配慮
第7 一次資料及び関連記事

第1 結論
1 本記事が扱うのは,少年本人,保護者,被害者その他の関係者から依頼を受けた弁護士が報道機関の取材に対応する場面です。裁判所職員側の取材対応は,「裁判所の取材対応」及び「裁判所の報道対応の基礎」で扱います。
2 少年審判は非公開であり,弁護士は,依頼者の意思,守秘義務,少年本人の推知可能性,被害者その他の関係者のプライバシー及び手続への影響を分けて確認する必要があります。報道やSNSですでに流通している情報であっても,弁護士が確認又は提供してよい情報であるとは限りません。
3 少年法61条は,少年本人を推知できる記事又は写真の掲載を原則として禁止しています。ただし,18歳又は19歳の「特定少年」がその時に犯した罪について逆送後に起訴された場合は,略式手続を除き,その段階から同条の適用除外となります。
4 この適用除外は,少年審判の記録やそれまでの非公開手続が公開に変わることを意味せず,被害者,家族その他の第三者のプライバシーまで失わせるものでもありません。

第2 参照資料とその位置付け
1 広報ハンドブック(少年事件編)(令和2年3月版)は,最高裁判所事務総局広報課が,家庭裁判所の広報担当者向けに報道対応の考慮要素を整理した司法行政実務上の参考資料です。法令ではなく,個々の取材に対する回答義務や情報提供請求権を定めるものではありません。
2 同ハンドブックは,令和4年4月1日に施行された特定少年の制度より前の資料です。そのため,現在の報道対応では,同ハンドブックに加えて,改正後の少年法及び公式Q&Aを確認する必要があります。
3 本文でいう「ハンドブックの説明」は資料の記載内容であり,「現行法」はe-Gov法令検索等で確認した条文です。両者を区別します。

第3 少年事件の報道対応で検討される六つの要素
・ 広報ハンドブック(少年事件編)は,裁判所側が回答するか,どこまで回答するか,いつ回答するかを決める際の主な考慮要素として,次の六つを挙げています。弁護士に直接適用される規則ではありませんが,取材対応のリスクを点検するための逆向きのチェック項目として参照できます。
1 正確な報道のために回答する必要性
2 少年及びその家族等に与える影響
3 被害者その他の関係者に与える影響
4 事件の調査及び審判に与える影響
5 護送,鑑別その他の関係機関に与える影響
6 模倣性による非行の伝搬,周辺住民の安全確保等の事件固有の事情
・ これは機械的な点数表ではありません。同ハンドブックも,事件,周囲の状況及び取材事項が毎回異なるため,個別に総合考量すべきであるとしています。

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ウェブ会議による民事裁判期日を録音・録画・撮影できるか―民事訴訟規則77条と弁護士の確認事項(AI作成)

目次
第1 結論
第2 令和8年5月21日施行の民事訴訟規則77条
第3 ウェブ会議にも許可が必要となる理由
第4 裁判所が作成する録音・録画との違い
第5 刑事事件及び庁舎内撮影との区別
第6 弁護士の実務チェックリスト
第7 一次資料及び関連記事

第1 結論
1 本記事が扱うのは,当事者又は代理人が,ウェブ会議その他の民事裁判期日を私物端末等で録音,録画又は画面撮影する場面です。報道機関による法廷内カメラ取材は,「法廷内写真撮影」及び「最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領」で扱います。
2 現行の民事訴訟規則77条は,民事訴訟に関する手続の期日における写真撮影,速記,録音,録画又は放送について,裁判長,受命裁判官又は受託裁判官の許可を必要としています。
3 規制対象は従前の「法廷」に限られません。ウェブ会議で参加する弁論準備手続その他の期日でも,無断の録音,録画又はスクリーンショットをしてよいことにはなりません。
4 当事者双方が同意していること,端末に録画機能があること又は自分の発言だけを記録する目的であることは,裁判長等の許可に代わるものではありません。必要がある場合は,目的,方法,保存期間及び利用範囲を示して事前に許可を求めるべきです。

第2 令和8年5月21日施行の民事訴訟規則77条
1 裁判所が公表する現行民事訴訟規則77条は,対象を「民事訴訟に関する手続の期日」と定め,写真撮影,速記,録音,録画又は放送について許可を要求しています。
2 同条後段は,期日外の審尋及び民事訴訟法176条2項に基づく書面による準備手続の協議についても同じ扱いとしています。
3 令和8年5月21日より前の条文は「法廷における」撮影等を対象としていました。古い条文を現在のウェブ会議にそのまま当てはめると,適用範囲を誤るおそれがあります。

第3 ウェブ会議にも許可が必要となる理由
1 民事規則制定諮問委員会資料は,ウェブ会議等の利用場面が拡大する一方で,旧条文では裁判所が行う弁論準備手続期日や書面による準備手続の協議に一律の規律が及ばないという問題を説明しています。
2 画面撮影又は録画には,裁判官,裁判所職員,当事者,代理人,証人,通訳人,資料及び画面通知などが記録される可能性があります。情報漏えいだけでなく,発言萎縮,手続運営及び証人隔離への影響も生じ得ます。
3 規則77条は許可制であり,条文上「常に不許可」とされているわけではありません。ただし,許可の有無及び条件は個別の手続で確認する必要があります。

第4 裁判所が作成する録音・録画との違い
1 民事訴訟規則76条は,裁判所が必要と認めるときに,申立て又は職権で口頭弁論の陳述を録音装置により録取できることを定めています。
2 簡易裁判所では,所定の場合に裁判所書記官が証人等の陳述又は検証結果を録音・録画した電磁的記録を作成する制度もあります。
3 これらは裁判所が訴訟記録又は当事者の裁判上の利用のために作成する公式記録の制度です。当事者又は代理人が私物端末で記録することとは,根拠,管理主体,利用目的及び開示範囲が異なります。

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仮差押えの担保金はいくらか―目的物の価格を基準とする算定方法,担保基準表及び立て方(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 担保の趣旨と法的根拠1 担保は債務者の損害を担保するためのもの2 担保の要否と額は裁判所が裁量で決める3 担保を立てる時期は2通りある第3 担保額の算定基準―目的物の価格1 目的物の価格を基準とする理由2 目的物の価格(時価)の出し方3 被保全債権額との関係4 動産の仮差押えは請求債権額が基準第4 担保基準表(一応の目安)1 基準表の性格2 代表的な数値3 計算例4 預金・給料の仮差押えの比率第5 担保額を左右する要素1 疎明の程度2 疎明不足を担保で補うことはできない3 債務者の損害の大きさ第6 担保の立て方1 担保を立てる方法2 供託する供託所3 担保提供期間4 供託金の納付方法5 証明書の提出と発令6 第三者による担保の提供第7 担保金以外にかかる費用第8 担保の行方1 本案で勝訴した場合等は担保を取り戻す2 和解で解決する場合は担保取消しの同意を条項に入れる3 仮差押えが不当であった場合は損害賠償の引当てになる第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,金銭債権を保全するための仮差押命令を申し立てる債権者が,裁判所から立てるよう命じられる担保(いわゆる担保金・保証金)について,その趣旨,額の決まり方,一応の目安及び立て方を説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載の条文で確認した。
担保額の算定基準及び基準表は,司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行)24頁~33頁の頁画像で確認した記載に基づいている。
同書は平成25年時点の教材であり,担保基準を公表した裁判所はないとされているから,個別の事件で命じられる担保額は,担当裁判官の判断によって以下の目安と異なることがある。

仮差押え全体の要件,手続の流れ及び効力は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で整理している。

2 結論

仮差押えの担保金についての結論は,次のとおりである。
① 仮差押命令は,通常,担保を立てさせて発令される(民事保全法14条1項)。
担保は,不当な仮差押えによって債務者が被るおそれのある損害を担保するためのものであり,要否及び額は裁判所の裁量で決まる。
② 担保額は,仮差押えの目的物の価格(時価)を基準とし,これに被保全債権の種類,目的物の種類及び疎明の程度に応じた比率を乗じる形で定められるのが一般的である(前記教材26頁~27頁)。
③ 被保全債権額が目的物の価格より高くても,基準は目的物の価格であり,請求額を減らして内金請求にする必要はない(同26頁)。
④ 一応の目安として,貸金・賃料・売買代金等を被保全債権とする場合,不動産は目的物の価格の10~25%,預金・給料は10~30%,交通事故の損害賠償請求権を被保全債権とする不動産の仮差押えは5~15%とされている(同28頁)。
もっとも,給料の仮差押えは被保全権利を問わず30%以上,預金の仮差押えは20%以上(交通事故の場合は15%程度)とすべきとする実務書の見解もあり,預金・給料の仮差押えでは表の下限より高い比率を想定しておくのが無難である。
⑤ 担保は,法務局(供託所)への金銭又は有価証券の供託のほか,裁判所の許可を得て銀行等と支払保証委託契約を締結する方法でも立てられる(民事保全法4条1項,民事保全規則2条)。
保険会社の支払保証委託契約(いわゆるボンド)には保証料率が公表されている例があるが,保証料は掛け捨てであり,供託金と異なり戻ってこない。
⑥ 大阪地方裁判所及び東京地方裁判所の案内では,担保提供期間は原則又は一般に7日であり,その期間内に供託書正本等の証明書を提出しないと,申立ては却下される。
⑦ 立てた担保は,本案勝訴や債務者の同意等により担保取消決定を得て取り戻すのが原則であり,仮差押えが不当であった場合は債務者の損害賠償請求権の引当てになる。

第2 担保の趣旨と法的根拠
1 担保は債務者の損害を担保するためのもの

民事保全法14条1項は,「保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。」と定めている。
仮差押命令は,債務者の言い分を聴かないまま,債権者の疎明だけで発令されることが多い手続であるから,後に被保全債権が存在しなかったことが判明するなどして仮差押えが不当であったときに備え,債務者の損害をあらかじめ担保しておく必要がある。

前記教材24頁は,担保は民事保全により債務者の被る可能性のある損害を担保する性質を有すると説明している。
債務者は,供託された金銭又は有価証券について,他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有する(民事保全法4条2項が準用する民事訴訟法77条)。
もっとも,同頁によれば,債務者がこの権利を行使するには,債権者に対する損害賠償請求権の存在を認める確定判決又はこれと同一の効力を有する和解調書等を添付して還付請求をする必要があり,実際に行使されることは比較的少ないとされている。

2 担保の要否と額は裁判所が裁量で決める

民事保全法14条1項は,担保を立てさせるかどうか,立てさせる場合の額について,具体的な基準を定めていない。
前記教材25頁は,担保額は裁判所の自由な裁量によって決定されると説明した上で,どのように疎明が完全であっても,債権者の生活が窮迫して直ちに生活保持に不可欠な金員の仮払を命じなければならないような特殊な場合を除き,全く担保を立てないで民事保全が許されることはほとんどないとしている。

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仮差押えの担保(供託金)を取り戻す方法―担保取消しの3類型,簡易の取戻し及び所要期間(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 担保を取り戻す手続の全体像1 担保は債務者の損害賠償請求権を担保するもの2 担保取消しと簡易の取戻しの違い3 手続を選ぶときの考え方第3 担保の事由の消滅による担保取消し(民事訴訟法79条1項)1 「担保の事由が消滅したこと」の意味2 勝訴的和解に頼らず同意条項を入れる3 必要書類と所要期間第4 担保権利者の同意による担保取消し(民事訴訟法79条2項)1 同意の意味と証明方法2 和解条項に同意と抗告権放棄を入れる3 同意書による場合の書類と所要期間4 債務者が破産した場合第5 権利行使催告による担保取消し(民事訴訟法79条3項)1 「訴訟の完結後」の意味2 保全事件では保全命令の申立ての取下げも必要3 本案訴訟の係属中は使えない4 催告期間と権利が行使された場合5 必要書類と所要期間第6 担保の簡易の取戻し(民事保全規則17条)1 要件2 運用基準3 申立書と添付書類4 債務者が債権者の権利を承継した場合第7 担保取消決定確定後の供託金の払渡し1 供託原因消滅証明書の交付を受ける2 法務局への供託物払渡請求3 受取方法4 簡易の取戻しの場合第8 支払保証委託契約(ボンド)と担保の変換1 ボンドで担保を立てた場合の解放手続2 保証料は返ってこないことがある3 供託した担保を支払保証委託契約に変換する方法第9 所要期間の目安と注意点1 東京地方裁判所の目安2 大阪地方裁判所3 資金計画上の注意点第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,仮差押命令を得るために債権者が立てた担保(法務局に供託した金銭等)を,後日,債権者が取り戻す方法を扱う。
調査基準日は令和8年9月17日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載の規則本文で確認した。
仮差押えの全体像は仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像を,担保の金額の決まり方は仮差押えの担保金はいくらか―目的物の価格を基準とする算定方法,担保基準表及び立て方を参照されたい。

債務者が仮差押えの執行を免れるために供託する仮差押解放金の取戻しは,本記事の対象外である(仮差押解放金とは―金額の決まり方,供託による執行の取消し及び債権者の回収方法を参照)。
控訴に伴う強制執行停止の担保など,民事保全以外の担保も対象外である。

2 結論

仮差押えの担保を取り戻す方法は,次の4つである。
① 担保の事由が消滅したことを証明して担保取消しを受ける方法(民事保全法4条2項,民事訴訟法79条1項)
② 担保権利者(債務者)の同意を得たことを証明して担保取消しを受ける方法(同条2項)
③ 訴訟の完結後に権利行使催告をし,債務者が権利を行使しないことで同意があったものとみなして担保取消しを受ける方法(同条3項)
④ 保全執行が空振りに終わった場合等に,裁判所の許可を得て担保を取り戻す方法(民事保全規則17条1項。担保の簡易の取戻し)

どれを選ぶかは,概ね次の順で判断する。
① 登記・送達ができなかった,執行に着手する前に取り下げた等,債務者に損害が生じないことが明らかであれば,簡易の取戻しを検討する。
② 債務者の同意が得られるなら,同意による担保取消しが最も早い。
③ 本案で債権者が全部勝訴して確定し,又は請求の認諾があったときは,事由消滅による担保取消しを使う。
④ それ以外(一部敗訴,本案未提起,本案の取下げ等)は,保全命令の申立てを取り下げた上で,権利行使催告による担保取消しを使う。

東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)では,担保取消しの申立てから供託原因消滅証明書の交付までの目安は,同意が約1週間,事由消滅が約1か月,権利行使催告が約2か月とされている。
大阪地方裁判所第1民事部(保全部)の案内には,所要日数の記載はない。
担保取消決定が確定した後(簡易の取戻しでは許可を得た後),法務局に供託物払渡請求をして,初めて供託金が戻ってくる。

権利行使催告の催告期間は,東京地方裁判所の取扱いでは,催告書の送達を受けた日から14日とされ,さらに権利行使の証明書の提出期間として5日が加えられている(岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年)377頁)。
本案訴訟の係属中で債務者の同意も得られないときは,担保を支払保証委託契約に変換する手続(民事保全法4条2項,民事訴訟法80条)もあるが,それで資金が手元に戻るかどうかは,保証を引き受ける銀行等の条件による。

第2 担保を取り戻す手続の全体像
1 担保は債務者の損害賠償請求権を担保するもの

保全命令は,担保を立てさせて発することができる(民事保全法14条1項)。
この担保には民事訴訟法77条,79条及び80条が準用され(民事保全法4条2項),債務者は,保全命令の執行によって損害を被ったときは,担保について他の債権者に先立って弁済を受けることができる(司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』107頁)。

そのため,債権者が担保を取り戻すには,債務者の損害賠償請求権を担保しておく必要がなくなったことを,法定の手続で裁判所に確認してもらわなければならない。
同教材107頁も,債権者が担保の取戻しを受けるには,担保の取消決定又は担保取戻許可決定を得なければならないとしている。

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仮差押えと差押えの違い―処分禁止の効力,時効の完成猶予及び破産手続開始による失効(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 仮差押えと差押えの比較表第3 仮差押えの効力―処分禁止1 不動産の仮差押え2 債権の仮差押え第4 仮差押えではできないこと1 換価・取立て・転付による満足はできない2 優先弁済権はない第5 本執行への移行1 移行の要件と手続2 最高裁平成28年12月1日判決(法定地上権)第6 時効への効果1 現行民法では完成猶予にとどまる2 「その事由が終了した時」はいつか3 令和2年4月1日より前の仮差押え4 仮差押えの対象となった債権自体の時効第7 破産手続開始による失効と再生・更生手続での中止1 破産法42条1項・2項2 債権者から見た意味3 民事再生・会社更生との比較第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,金銭債権の強制執行を保全するための仮差押え(民事保全法20条1項)と,債務名義に基づく強制執行としての差押え(本執行)との違いを,効力の面から整理するものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により確認した。

仮差押えの要件,申立ての流れ,担保の額,解放金,債務者の対抗手段等の各論は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像及び同記事からリンクする各記事で扱う。
係争物に関する仮処分,仮の地位を定める仮処分,国税滞納処分,個人再生及び特別清算の各手続における扱いは,本記事の対象外である。
民事再生と会社更生は,破産との違いが分かる範囲で条文の骨格だけを紹介する。

2 結論

①仮差押えも差押えも,債務者による目的財産の処分を制限する点では共通するが,仮差押えは将来の強制執行に備えて財産を確保する手続にすぎず,それだけで債権を回収することはできない。
②仮差押えは債務名義なしに,被保全権利と保全の必要性を疎明して発令を受けるものであり(民事保全法13条2項),通常は担保を立てる必要がある(同法14条1項)。
これに対し,差押えは,確定判決等の債務名義に基づいて行う(民事執行法22条)。

③仮差押えの処分禁止の効力は,処分を絶対的に無効とするものではなく,処分をしても仮差押債権者に対抗できないという相対的なものである(最高裁判所第三小法廷令和3年1月12日判決の理由中の判示参照)。
④仮差押債権者は,取立て,転付命令,換価による満足を得ることができず,担保権者のような優先弁済権もない。
配当等に加わる場合も,仮差押債権者に対する配当等の額は供託される(民事執行法91条1項2号)。
回収するには,本案訴訟等で債務名義を得た上で,改めて本執行を申し立てる必要がある。

⑤時効について,現行民法では,仮差押えは時効の完成猶予事由にとどまり,その事由が終了した時から6か月を経過するまで時効が完成しないだけである(民法149条1号)。
時効の更新を得るには,本案訴訟を提起して確定判決等により権利を確定させる等の手続が別に必要である(民法147条)。
令和2年4月1日より前に仮差押えがされた場合は,改正前の「時効の中断」の規定による(平成29年法律第44号附則10条2項)。
「その事由が終了した時」がいつかについて,改正後の民法の下で判断した最高裁判例は見当たらない。
完成猶予の効力が及ぶのは被保全債権とされた範囲であり,仮差押えの対象となった債権(被仮差押債権)自体の時効を止めるものではない。

⑥債務者について破産手続開始の決定があると,破産財団に属する財産に対して既にされている破産債権に基づく仮差押えは,破産財団に対してその効力を失う(破産法42条2項)。
強制執行(差押え)も同様に失効するが,破産管財人が強制執行の手続を続行することは妨げられないのに対し,仮差押えにはこの続行の定めがない。
これに対し,再生手続開始の決定や更生手続開始の決定があった場合,既にされている仮差押えは直ちに失効するのではなく中止し,再生計画認可の決定の確定又は更生計画認可の決定があったときに効力を失う(民事再生法39条1項・184条,会社更生法50条1項・208条)。

第2 仮差押えと差押えの比較表

次の表は,本記事で確認した条文と教材の記載に基づき,両者の違いを要約したものである。

項目仮差押え差押え(本執行)目的将来の金銭債権の強制執行の保全金銭債権の強制的な実現債務名義不要(被保全権利と保全の必要性を疎明する)必要(執行文の付された債務名義の正本等に基づく)担保通常は立てる必要がある保全命令の担保のような担保はない(仮執行宣言が担保を条件とする場合はある)処分の制限あり(手続相対効)あり債権の場合の効力発生仮差押命令が第三債務者に送達された時差押命令が第三債務者に送達された時換価・取立て・転付できないできる優先弁済なし(配当等の額は供託される)担保権者のような優先弁済権はないが,取立て・配当等により満足を得られる時効完成猶予(事由終了から6か月)完成猶予,手続終了時に更新(取下げ等による終了を除く)破産手続開始破産財団に対して失効破産財団に対して失効(破産管財人は続行できる)再生手続・更生手続開始中止(計画認可で失効)中止(計画認可で失効)主な条文民事保全法13条・14条・20条・47条・50条,民法149条,破産法42条,民事再生法39条,会社更生法50条民事執行法22条・25条・45条・145条・155条・159条,民法148条,破産法42条

表の「差押え(本執行)」欄は,不動産の強制競売と債権執行を念頭に置いたものである。
担保の欄の仮執行宣言については,民事訴訟法259条1項が,裁判所は「担保を立てて、又は立てないで仮執行をすることができることを宣言することができる」と定めている。

第3 仮差押えの効力―処分禁止

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仮差押解放金とは―金額の決まり方,供託による執行の取消し及び債権者の回収方法(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 仮差押解放金の意味と根拠1 民事保全法22条2 供託できるもの,供託所及び供託する者3 担保との違い第3 解放金の額の決まり方1 基本的な考え方2 目的物の種類ごとの基準3 解放金の額に不服がある債務者第4 債務者が解放金を供託した場合の効果1 仮差押えの執行の取消し(民事保全法51条)2 目的物ごとの執行の解放3 供託後も仮差押えの効力が残ること第5 債権者の回収方法1 本案で勝訴してから供託金取戻請求権を差し押さえる2 差押えが競合しない場合3 差押えが競合した場合4 債権者の立場からみた解放金の意味第6 みなし解放金(民事保全法50条3項)1 第三債務者が供託した場合2 債務者がみなし解放金を取り戻す手続第7 債務者が解放金を取り戻す方法1 取戻事由2 手続の流れ3 取戻事由を作る方法第8 解放金の供託と他の対抗手段の使い分け1 解放金の供託と保全異議・保全取消し2 担保の取戻しとの区別3 仮処分解放金は別の制度第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,仮差押命令に定められる仮差押解放金(民事保全法22条)について,金額の決まり方,債務者が供託したときの効果,債権者が最終的に回収する方法及び債務者が供託金を取り戻す方法を説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文(民事保全法は令和8年5月21日施行の改正を反映したもの)で確認し,裁判例は裁判所HPで確認したものを挙げ,裁判所HPで確認できなかったものは文献が引用するものとして示している。

主な文献は,岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年。以下「岡口マニュアル」という。)86頁~89頁と,司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行。以下「教材」という。)である。
いずれもその後の法改正(民法(債権関係)改正(令和2年4月1日施行),令和元年の民事執行法改正等)との時点差があるので,条番号は現行条文で書いている。
仮差押えの全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。

仮処分命令で定められる仮処分解放金(民事保全法25条)は,要件も還付の仕組みも異なるので,本記事の対象外とする。

2 結論

①仮差押解放金とは,債務者が仮差押えの執行の停止又は既にした執行の取消しを得るために供託すべき金銭の額であり,仮差押命令で必ず定められる(民事保全法22条1項)。
②供託できるのは金銭に限られ,有価証券や支払保証委託契約(いわゆるボンド)によることはできず,管外供託も認められない(教材36頁,岡口マニュアル88頁)。
第三者による供託も,東京地方裁判所民事第9部の案内では認められていない。
③金額は,解放金が目的物に代わるものであることから,原則として目的物の価額を基準とし,目的物の価額が被保全債権の額を上回るときは被保全権利の額を基準とする(岡口マニュアル86頁~87頁,教材36頁)。
債権の仮差押えは仮差押債権額,目的物を特定しない動産の仮差押えは被保全債権の額,不動産の仮差押えは目的物の価額(基本的に固定資産評価額)と被保全権利の額のいずれか低い方が基準とされる(岡口マニュアル87頁)。
④債務者は,供託書正本及びその写しを添付して保全執行裁判所に執行取消しを申し立て,保全執行裁判所は仮差押えの執行を取り消さなければならない(民事保全法51条1項)。
取消決定は即時に効力を生じ,取り消されるのは執行であって仮差押命令そのものは残る。
⑤執行が取り消されても,仮差押えの執行保全の効力は債務者の供託金取戻請求権の上に存続する(最高裁判所第三小法廷平成6年6月21日判決)。
債権者は,本案で勝訴した後,この取戻請求権を差し押さえ,取立て又は転付命令により供託所から払渡しを受け,他の差押えと競合したときは配当等を受ける。
⑥債権の仮差押えで第三債務者が債権額相当額を供託したときは,解放金の額の限度で,債務者が解放金を供託したものとみなされる(民事保全法50条3項。みなし解放金)。
⑦債務者が供託した解放金を取り戻すには,仮差押命令の申立ての取下げ又は仮差押命令を取り消す決定が必要であり,東京地方裁判所民事第9部の案内では,発令裁判所に取戻許可申立書を出す手続とされている。

第2 仮差押解放金の意味と根拠
1 民事保全法22条

民事保全法22条1項は,「仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、又は既にした仮差押えの執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならない。」と定めている。
「定めなければならない」とされているから,解放金の額は仮差押命令の必要的記載事項であり,裁判所は職権で定める(岡口マニュアル86頁)。
教材35頁~36頁によれば主文中に記載される。

仮差押えは,本案で勝訴したときの強制執行に備えて,債務者の特定の財産の処分を暫定的に禁止する制度である。
債務者からみると,不動産の売却や預金の払戻しが止まることの不利益が大きい場合がある。
解放金は,債務者が目的物に代わる金銭を供託することで,目的物を仮差押えから解放する仕組みである。

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大阪地裁で仮差押命令を得るまでの流れ―申立て,債権者面接,担保提供及び午後4時の発令(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 申立ての準備1 管轄2 申立書,疎明資料及び目録3 申立ての費用4 電子申立てはできるか第3 申立てから担保決定まで1 申立ての受付2 債権者面接3 担保決定第4 担保の提供と発令1 担保の提供方法2 証明書の提出3 午後4時までの提出と発令第5 発令後の仮差押えの執行1 執行の申立ては原則として不要2 不動産の仮差押え3 債権の仮差押え4 保全執行期間は2週間第6 発令に至らなかった場合と担保の取戻し1 却下と即時抗告2 申立ての取下げ3 担保の取戻し第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,金銭債権を保全するために大阪地方裁判所に仮差押命令を申し立て,仮差押命令の発令を受け,不動産の仮差押えの登記又は第三債務者への送達によって仮差押えの執行がされるまでの流れを説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。

大阪地方裁判所の運用として書く事項は,同日に確認した大阪地方裁判所第1民事部(保全部)の裁判所ウェブサイト上の案内に記載があるものに限っている。
案内に記載のない面接の時間帯や,申立てから発令までの日数の目安は,本記事では取り上げない。
運用は変更されることがあるから,実際に申し立てる際は,最新の案内を確認し,不明な点は担当書記官に問い合わせる必要がある。

仮差押えの要件,効力及び債務者側の手続を含む全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。

2 結論

大阪地方裁判所で仮差押命令(不動産又は債権の仮差押え)を得るまでの流れは,おおむね次のとおりである。

段階内容根拠①管轄の確認本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てる民事保全法12条②申立て申立書に疎明資料及び添付資料を添えて第1民事部の受付窓口(本館3階)へ持参する民事保全法13条,大阪地裁の案内③債権者面接原則として全件で実施され,申立ての翌日に行われることが多い(代理人弁護士の申立事件はウェブ会議も可)大阪地裁の案内④担保決定担保提供の期間は原則として7日民事保全法14条1項,大阪地裁の案内⑤担保の提供法務局への現金供託又は許可を得た上での支払保証委託契約の締結民事保全法4条1項,民事保全規則2条,大阪地裁の案内⑥証明書の提出午後4時までに提出すれば原則として同日中に発令大阪地裁の案内⑦保全執行不動産は裁判所書記官が仮差押えの登記を嘱託し,債権は第三債務者に仮差押命令を送達する民事保全法47条3項,50条1項⑧執行期間債権者に保全命令が送達された日から2週間民事保全法43条2項

実務上特に注意すべき点は,次のとおりである。
①債権者面接は申立ての翌日に行われることが多く,差支え日時は受付の場で聞かれるから,申立日後2,3日分の予定を把握しておく必要がある。
②担保提供期間内に担保提供の証明書を提出しないと,申立ては却下される。
③証明書の提出が午後4時を過ぎると,発令は翌日以降になる。
④供託金を電子納付する場合は,供託所で入金が確認されてから供託書正本が交付されるので,その時間を見込んでおく必要がある。
⑤東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)では,保全事件の申立ては令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外とされており,大阪地方裁判所第1民事部の案内も申立書を受付窓口に持参するよう求めている。

第2 申立ての準備
1 管轄
(1) 民事保全法の定め

民事保全法12条1項は,「保全命令事件は、本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。」と定める。
本案の管轄裁判所は第一審裁判所であり,本案が控訴審に係属するときは控訴裁判所である(同条3項)。
仮に差し押さえるべき物が債権であるときは,その債権は第三債務者の普通裁判籍の所在地にあるものとされる(同条4項)。

(2) 大阪地方裁判所の管轄チェックチャート

大阪地方裁判所第1民事部の案内は,大阪地方裁判所に管轄がないのに申立てをする例が比較的多く見られるとして,管轄の有無を十分に検討してから申し立てるよう求めている。
同部が公表している「管轄チェックチャート(仮差押え)」は,大阪市,豊中市,吹田市,高槻市,枚方市,東大阪市等の地域を大阪地方裁判所本庁の管轄区域とし,堺市等は堺支部,岸和田市等は岸和田支部に申し立てるべき事件としている。
同チャートでは,すべての対象不動産等の所在地又は第三債務者の住所地が本庁の管轄区域内にあれば,本庁に管轄があるとされている。
これに対し,債務者の住所地や義務履行地等の本案の管轄を根拠とする場合は,請求債権額が140万円を超えていなければ,管轄する簡易裁判所へ申し立てる流れになっている。
売掛金を被保全権利とする場合に,振込先口座がある銀行支店の所在地が義務履行地として本案の管轄の根拠となるかについては,売掛金の振込先口座がある銀行支店の所在地で訴えを提起できるか―民事訴訟法5条1号の義務履行地と振込払いの裁判例で整理している。

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仮差押えを受けた債務者の対抗手段―保全異議,起訴命令,事情変更による保全取消し及び保全抗告(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 仮差押えを知る時点と最初に確認すること1 債務者の審尋なしに発令され,送達で知ること2 事件記録の閲覧3 最初に確認する事項第3 債務者の対抗手段の全体像1 選択肢の一覧2 特別事情による保全取消しは仮差押えに使えないこと3 手段の選び方第4 保全異議1 申立て2 異議の理由3 審理4 決定5 保全執行の停止の裁判(民事保全法27条)6 取下げと判事補の権限第5 起訴命令による保全取消し(民事保全法37条)1 起訴命令2 本案の訴えとみなされる手続3 期間内に書面が出ない場合の取消し4 起訴命令を使う場面第6 事情変更による保全取消し(民事保全法38条)1 要件と申立先2 事情の変更の例3 弁済しただけでは仮差押えの執行は止まらないこと4 決定第7 保全異議と保全取消しの関係1 主張できる事由の違い2 同一手続での主張と申立ての競合第8 保全抗告(民事保全法41条)1 期間と対象2 手続の特徴3 取消決定の効力の停止(民事保全法42条)4 保全抗告についての決定に対する特別抗告・許可抗告第9 期限の早見表1 民事保全の主な期間2 民事訴訟の即時抗告・執行抗告との違い第10 その他の対抗手段1 仮差押解放金の供託2 本案で争う3 不当な仮差押えによる損害賠償4 保全執行の手続上の違法を争う場合第11 関連記事第12 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,仮差押命令を受けた債務者が取り得る対抗手段について,保全異議(民事保全法26条),起訴命令による保全取消し(同法37条),事情変更による保全取消し(同法38条)及び保全抗告(同法41条)を中心に,申立先,期間,審理の方法及び決定の効力を説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文(民事保全法は令和8年5月21日施行の改正を反映したもの)で,民事保全規則は裁判所HPに掲載された規則のPDFで確認した。

司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行。以下「教材」という。)は平成25年時点の資料である。
その後の法改正で条番号や名称が変わった箇所は,現行条文に合わせて記載する。
仮差押えの全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。

本案の判決等に基づく強制執行(本執行)に対する対抗手段は,強制執行に対する債務者の対抗手段―執行抗告,請求異議の訴え,執行停止,差押禁止債権の範囲変更で説明しており,本記事の対象外とする。

2 結論

①仮差押命令は,通常,債務者の審尋を経ずに発令され,債務者は保全命令の送達(民事保全法17条)によって初めて仮差押えを知ることが多い。
送達を受けた後は,事件の記録を閲覧して,債権者の主張と疎明資料を確認できる(同法5条ただし書)。
②仮差押命令に不服がある債務者は,発令裁判所に保全異議を申し立てることができる(同法26条)。
被保全権利や保全の必要性が発令時から無かったこと,担保の額が低すぎること,解放金の額が高すぎること等を主張でき,申立てに期間の制限は無い(教材89頁,96頁)。
③債権者がまだ本案の訴えを起こしていないときは,起訴命令を申し立てることができる。
裁判所は2週間以上の期間を定めて本案の訴えの提起等を命じ,債権者が期間内に証する書面を出さなければ,債務者の申立てにより仮差押命令は取り消される(同法37条1項~3項)。
④発令後に弁済等で被保全債権が消滅した場合や,保全の必要性が無くなった場合は,事情変更による保全取消しを申し立てることができる(同法38条)。
⑤特別の事情による保全取消し(同法39条)は,条文上「仮処分命令」に限られており,仮差押えには使えない。
⑥保全異議や保全取消しの申立てについての決定に不服がある当事者は,その送達を受けた日から2週間の不変期間内に保全抗告をすることができ,保全抗告についての裁判に対しては更に抗告をすることができない(同法41条1項・3項)。
もっとも,高等裁判所がした保全抗告についての決定は許可抗告の対象となり(最高裁判所第一小法廷平成11年3月12日決定),憲法違反を理由とする特別抗告もでき,いずれも告知を受けた日から5日の不変期間内にしなければならない(民事訴訟法336条2項,337条6項)。
⑦保全異議を申し立てても仮差押えの執行は当然には止まらない。
保全執行の停止の裁判(同法27条)は要件が厳格なので,目的物を早く解放したいときは仮差押解放金の供託(同法22条・51条)を併せて検討することになる。
⑧保全抗告の2週間は,民事訴訟法の即時抗告の1週間(同法332条)とは異なる。
起算点も,即時抗告は「告知を受けた日」,保全抗告は「送達を受けた日」である。

第2 仮差押えを知る時点と最初に確認すること
1 債務者の審尋なしに発令され,送達で知ること

仮差押命令は,口頭弁論を経ないで発することができる(民事保全法3条)。
仮の地位を定める仮処分については,原則として口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければならないとされているが(同法23条4項),仮差押えにはこのような規定はない。
教材14頁は,債権者の立場では,密行性の観点から,任意的口頭弁論及び債務者審尋を避け,書面審理又は債権者(代理人)審尋のみで保全命令を得ることが望ましいと説明している。

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不当な仮差押えによる損害賠償―過失の推認と担保(供託金)からの回収(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 責任の根拠と過失の推認1 民法709条による不法行為責任2 最高裁昭和43年12月24日判決の過失の推認3 推認が覆るその他の場合4 違法とされる場面(被保全権利又は保全の必要性の欠如)第3 損害の範囲と因果関係1 民法416条の類推適用(最高裁昭和48年6月7日判決)2 信用毀損・取引停止による損害3 平成26年~27年の下級審裁判例(消費者庁資料)4 令和元年以降の下級審裁判例(判例秘書登載)5 損害項目ごとの整理6 過失相殺と消滅時効7 損害賠償請求の方法第4 担保(供託金)からの回収1 担保の性質と債務者の優先弁済権2 供託金の還付請求3 支払保証委託契約で担保が立てられている場合4 権利行使催告を受けたときの対応5 担保取消しに同意する前の注意第5 債権者側の注意点1 被保全権利の疎明と調査2 債務者の取違え3 過大な仮差押えと保全の必要性4 取引先・勤務先への影響への配慮第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,仮差押えや仮処分(以下,併せて「保全処分」ということがある。)が後に取り消され,又は本案訴訟で債権者が敗訴した場合に,保全処分を受けた債務者が債権者に損害賠償を請求できるか,どのような損害が認められやすいか,債権者が立てた担保(供託金等)からどのように回収するかを説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文で確認し,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載のPDFで確認した。
最高裁判所の裁判例は,裁判所HPの裁判例検索で書誌事項と全文を確認したものを挙げている。

司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行。以下「教材」という。)は平成25年時点の資料である。
岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年。以下「岡口マニュアル」という。)は,担保からの回収,過失相殺及び消滅時効の説明に用いる。
平成26年~27年の下級審裁判例は,消費者庁の検討会資料「不当な仮差押命令に関する損害賠償請求についての近時の裁判例」(平成28年4月22日・参考資料1。国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)の保存版)に基づいて紹介する。
令和元年以降の下級審裁判例は,判例秘書で内容を確認したもの(いずれも裁判所ウェブサイト未掲載)を紹介する。
仮差押えの全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。

2 結論

①不当な保全処分による損害賠償責任の根拠は,民法709条の不法行為であり,債権者に故意又は過失がなければ責任は生じない。
保全処分が取り消されたこと自体から当然に責任が生ずるわけではない。
②もっとも,保全命令が異議若しくは上訴手続で取り消され,又は本案訴訟で債権者敗訴の判決が確定した場合には,特段の事情のない限り,債権者に過失があったものと推認される(最高裁判所第三小法廷昭和43年12月24日判決)。
③この推認は覆ることがある。
債務者を会社とすべきか代表者個人とすべきかが極めてまぎらわしかった事案や,遺言の解釈が分かれうる事案では,取消しや本案敗訴の一事で過失があるとはいえないとされている(同判決,最高裁判所第二小法廷平成2年1月22日判決)。
④損害の範囲については,民法416条が類推適用され,特別の事情による損害は予見可能性がある場合に限られる(最高裁判所第一小法廷昭和48年6月7日判決)。
債権の仮差押え後に第三債務者との新たな取引がなくなったことによる逸失利益について,相当因果関係が否定された最高裁判決がある(最高裁判所第一小法廷平成31年3月7日判決)。
⑤消費者庁資料が紹介する平成26年~27年の東京地裁判決7件では,保全異議の弁護士費用,仮差押解放金の調達費用・利息,自己資金の法定利率相当額等が認められる一方,不動産の売却機会の喪失,信用毀損の慰謝料,上場廃止による損害等は否定されている。
令和元年以降の東京地裁判決でも,保全異議等の弁護士費用5,303万円余りが全額認められた例や,給料の仮差押えについて慰謝料50万円が認められた例がある一方,取引の途絶による逸失利益は否定され,本案の第一審で請求債権の存在が認められた事案等では過失が否定されている。
⑥過失相殺(民法722条2項)は,債務者が通常とり得た損害拡大防止措置をとらなかった場合に問題となりうるが,保全異議を申し立てなかっただけでは過失相殺事由にならないとした裁判例がある(岡口マニュアル397頁)。
消滅時効は損害及び加害者を知った時から3年であり(民法724条1号),本案判決の確定日を起算点とした例がある(同頁)。
⑦債務者は,債権者が供託した担保について他の債権者に先立って弁済を受ける権利を有する(民事保全法4条2項,民事訴訟法77条)。
回収するには,債権者の同意書と印鑑証明書を添付するか,損害賠償請求権の存在を認める確定判決(存在確認の判決でもよく,執行文は不要)又はこれと同一の効力を有する和解調書等を得て,供託所に還付請求をする(教材107頁,岡口マニュアル397頁~398頁)。
担保が支払保証委託契約で立てられているときは,債務名義又は損害賠償請求権の存在を確認する確定判決等に表示された額を,裁判所が定めた金額を限度として銀行等から支払を受ける(民事保全規則2条1号)。
⑧債権者から権利行使催告(民事訴訟法79条3項)を受けたのに期間内に権利を行使しないと,担保取消しに同意したものとみなされ,担保から優先的に回収する機会を失う。
東京地裁では催告期間を催告書の送達を受けた日から14日としており(岡口マニュアル377頁),同書380頁が紹介する東京地裁の催告書の書式によれば,権利を行使したときは期間の満了日から5日以内に,訴状等の写しを添付した証明書を添えて申し出る必要がある。

第2 責任の根拠と過失の推認

(続きを読む...)不当な仮差押えによる損害賠償―過失の推認と担保(供託金)からの回収(AI作成)

仮差押えの取下げ―債務者の同意の要否,書面での取下げ,執行の解放及び担保の取戻し(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 取下げが問題になる場面1 目的を達した場合2 仮差押えが空振りに終わった場合3 本案で敗訴した場合又は本案を断念した場合第3 取下げに債務者の同意は要らない1 民事保全法18条2 同意が不要とされる理由3 保全異議等の申立て後の取下げ第4 取下げの方式1 書面でする2 債務者への通知3 保全執行の申立ての取下げ4 取下書と添付書類5 取下げの証明6 一部の取下げ第5 取下げと執行の解放1 執行機関によって手続が異なる2 不動産の仮差押え3 債権の仮差押え4 動産など執行官による執行5 債権者が取り下げない場合第6 取下げと担保の取戻し1 取下げだけでは担保は戻らない2 簡易の取戻し3 送達・登記の後に取り下げた場合第7 和解で取り下げる場合の条項1 和解だけでは足りない2 入れておくべき条項3 債務者側からみた条項第8 取下げ後の再申立て1 既判力が生じないこと2 再申立ての注意点第9 時効との関係1 現行民法2 令和2年4月1日より前の仮差押え第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,債権者が仮差押命令の申立てを取り下げる場合について,債務者の同意の要否,取下げの方式,取下げによる仮差押えの執行の解放(登記の抹消や第三債務者への通知),担保の取戻し,和解条項,再申立て及び時効との関係を扱う。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法律の条文はe-Gov法令検索の現行条文,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載の規則本文で確認した。
東京地方裁判所民事第9部(保全部)と大阪地方裁判所第1民事部(保全部)の運用は,いずれも令和8年9月17日に確認した各部の案内による。

仮差押えの全体像は仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像を参照されたい。
仮処分の取下げ,債務者側が申し立てる保全異議の取下げ及び本案訴訟の訴えの取下げは,本記事の対象外である。

2 結論

① 仮差押命令の申立ての取下げに,債務者の同意は要らない(民事保全法18条)。
保全異議や保全取消しの申立てがされた後でも同じである。
保全命令の申立てに対する裁判には既判力が生じず,取下げによって債務者が特段の不利益を受けないからである(司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』23頁)。

② 取下げは,口頭弁論又は審尋の期日でする場合を除き,書面でしなければならない(民事保全規則4条1項)。
審尋期日の呼出し又は保全命令の送達を受けた債務者には,裁判所書記官が取下げを通知する(同条2項)。
東京地方裁判所民事第9部の案内によれば,保全事件の取下げは令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外であり,書面を提出する。

③ 不動産や債権の仮差押えは発令裁判所が執行機関となるため,保全命令の申立ての取下書を出せば,保全執行の申立ても同時に取り下げたものとして扱われる(東京地方裁判所民事第9部の案内)。
不動産は裁判所書記官が仮差押登記の抹消を嘱託し,債権は裁判所が第三債務者に取下げを通知する。
抹消登記には,東京・大阪の案内とも,物件1個(大阪の案内では1筆)につき1,000円の登録免許税(収入印紙)と郵便切手が必要とされている(登録免許税法別表第一の一(十五))。

④ 取下げをしただけでは担保(供託金)は戻らない。
登記の嘱託前や第三債務者への送達の着手前に取り下げた場合等は,民事保全規則17条1項の簡易の取戻しで担保を取り戻せる。
第三債務者に送達された後の取下げでは,陳述書で預金等が無いと回答されていても簡易の取戻しは認められない運用であり(同教材114頁),担保取消し(民事訴訟法79条)によることになる。

⑤ 和解で取り下げるときは,仮差押命令の申立ての取下げ,担保取消しへの同意及び担保取消決定に対する抗告権の放棄を条項に入れておくと,担保を早く取り戻せる。

⑥ 取下げによって仮差押えが終了すると,時効の完成猶予はその時から6か月で終わる(民法149条1号)。
終了の時点を登記の抹消時等とみる余地もあるが,改正後に取下げの場面を判断した裁判例は確認した範囲で見当たらないので,取下書の提出時から6か月で管理するのが安全である。
令和2年4月1日より前にした仮差押えは改正前の民法により,取下げによって時効中断の効力が生じなかったことになる可能性もある(改正前の民法154条)。
いずれにしても,取下げの前に,本案訴訟の提起など時効の完成を防ぐ手当てが済んでいるかを確認する必要がある。

第2 取下げが問題になる場面
1 目的を達した場合

債務者と和解が成立した場合や,債務者が被保全債権を弁済した場合には,仮差押えを続ける理由がなくなる。
この場合,債務者からは,不動産の仮差押登記の抹消や預金口座の凍結の解除を早く求められることが多い。

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債務名義があっても仮差押えはできるか―保全の必要性と東京高裁平成24年11月29日決定(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 債務名義があるだけでは強制執行を始められない1 債務名義の種類2 強制執行を始めるための手順3 仮差押えの執行との違い第3 仮差押えの要件と「権利保護の必要性」1 保全の必要性2 債務名義がある場合の問題第4 東京高裁平成24年11月29日決定1 書誌と事案2 判旨―原則と例外3 当てはめ4 結論は差戻しである5 本決定の位置付け第5 無剰余取消しに関する高裁の裁判例1 紹介する裁判例と確認の範囲2 無剰余取消しの「おそれ」では足りないとした東京高裁平成20年4月25日決定3 無剰余取消し後は保全の必要性を認めた名古屋高裁平成20年10月14日決定4 二つの高裁決定の関係5 仮差押命令の後に債務名義を得た場合(事情変更による保全取消し)第6 特別の事情が問題になり得る場面1 承継執行文の付与に時間がかかる場合2 条件成就執行文が必要な場合3 送達により強制執行の準備が知られる場合4 差し押さえるべき債権の弁済期が迫っている場合5 被保全債権の期限が到来していない場合6 仮執行宣言付判決に対して控訴があった場合7 強制競売が無剰余で取り消された場合第7 仮差押えが認められにくい場面1 直ちに差押えができる場合2 財産の所在が分からないだけの場合3 財産の隠匿・処分のおそれが具体的でない場合第8 申立書に書くべき事情1 記載の原則2 債務名義がある場合に記載すべき事項3 担保と発令後の手続4 却下されたとき第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,確定判決,執行証書(公正証書)等の債務名義を既に持っている債権者が,重ねて仮差押命令を申し立てることができるかを扱うものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により確認した。

仮差押えの要件,手続の流れ,担保,効力等の全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で扱う。
係争物に関する仮処分,仮の地位を定める仮処分及び国税滞納処分は,本記事の対象外である。

2 結論

①債務名義を持っている債権者は,遅滞なく強制執行の手続をとれば,特別の事情がない限り速やかに強制執行に着手できるのが通常であるから,原則として,仮差押えという民事保全制度を利用する権利保護の必要性は認められない(東京高裁平成24年11月29日決定)。
②もっとも,債権者が強制執行を望んでも速やかに行うことができない特別の事情があり,強制執行までの間に債務者が財産を隠匿又は処分するなどして強制執行が不能又は困難となるおそれがあるときは,権利保護の必要性が認められ,仮差押えが許される(同決定)。

③同決定は,破産管財人が承継執行文の付与を受け,承継執行文付きの公正証書を相手方に送達しなければ債権執行を申し立てられず,その送達によって強制執行の準備が相手方に知られる上,差し押さえるべき債権の弁済期限が迫っていた事案で,特別の事情を認めた。
ただし,同決定の結論は原決定の取消しと東京地方裁判所への差戻しであり,高裁自身が仮差押命令を発したものではない。

④本記事の整理としては,承継執行文や条件成就執行文の付与に時間がかかる場合,強制執行の前提となる送達によって債務者に準備が知られる場合,差し押さえるべき債権の弁済期が迫っている場合等に,特別の事情が問題となり得る。
これに対し,執行文の付与も送達も済んでいて直ちに差押えができる場合には,仮差押えの必要性は認められにくいと考えられる。

⑤不動産の強制競売が無剰余を理由に取り消される「おそれ」があるだけでは保全の必要性がないとした東京高裁平成20年4月25日決定と,強制競売が無剰余を理由に実際に取り消された後は保全の必要性があるとした名古屋高裁平成20年10月14日決定があり,高裁の結論の方向は分かれている(事案の段階は異なる)。
また,仮差押命令の後に債務名義を得て本執行をしたが無剰余で取り消された場合に,事情変更による仮差押命令の取消しができるかについても,これを否定した大阪高裁平成11年7月15日決定と,旧法下でこれを肯定した名古屋高裁金沢支部平成3年5月27日判決がある。

⑥申立書では,債務名義があることを隠さず,強制執行に直ちに着手できない具体的な理由と,その間に財産が隠匿・処分されるおそれを,証拠とともに具体的に記載する必要がある(民事保全規則13条2項)。

第2 債務名義があるだけでは強制執行を始められない
1 債務名義の種類

強制執行は,民事執行法22条各号に掲げる債務名義により行う。
主なものは,確定判決(1号),仮執行の宣言を付した判決(2号),仮執行の宣言を付した支払督促(4号),執行証書(5号),確定判決と同一の効力を有するもの(7号。和解調書・調停調書等)である。

執行証書とは,金銭の一定の額の支払等を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で,債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載され,又は記録されているものである(民事執行法22条5号)。
仮執行の宣言が付されていない確定前の判決は債務名義に当たらないので,その段階の債権者が仮差押えを申し立てる場面は,本記事の問題とは異なる通常の仮差押えである。

電子化された判決・和解調書等を債務名義とする場合の事件特定情報,記録事項証明書及び執行文については,電子化された債務名義と強制執行―事件特定情報・執行文・自動車登録・特許権等登録で扱う。

2 強制執行を始めるための手順
(1) 執行文の付与

強制執行は,原則として,執行文の付された債務名義の正本(電子化されたものは記録事項証明書等)に基づいて実施する(民事執行法25条本文)。
少額訴訟の確定判決,仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決又は支払督促により,これに表示された当事者に対し,又はその者のためにする強制執行は,執行文を要しない(同条ただし書)。

執行文は,執行証書以外の債務名義については事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官が,執行証書については原本を保存する公証人が付与する(民事執行法26条1項)。

(2) 条件成就執行文と承継執行文

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預金・給料の仮差押え―取扱店舗の特定,差押禁止の範囲及び陳述催告(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 債権仮差押えの基本1 管轄2 申立書の記載3 執行の方法と効力の発生4 保全執行期間と送達の順序第3 預金債権の仮差押え1 取扱店舗の特定2 複数の金融機関・複数の口座3 預金の種類による順位付け4 どの時点の預金が対象になるか5 銀行による相殺第4 給料債権の仮差押え1 差押禁止の範囲2 継続的給付への効力と期間の限定3 仮差押債権目録の記載例4 差押禁止債権の範囲の変更5 勤務先への影響第5 第三債務者に対する陳述催告1 申立てと催告2 陳述の意味と不陳述の責任3 「預金なし」の陳述と担保の取戻し4 仮差押えを受けた債権自体の消滅時効第6 第三債務者の供託とみなし解放金1 権利供託と義務供託2 みなし解放金第7 預金・給料の仮差押えの担保の額第8 債務者側への影響第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,金銭債権の強制執行を保全するための仮差押え(民事保全法20条1項)のうち,債務者の預金債権と給料債権を対象とする場合の注意点を整理するものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により,民事保全規則及び民事執行規則は裁判所ウェブサイト掲載のPDFにより確認した。

仮差押えの要件,手続全体の流れ,担保,解放金,債務者の対抗手段等の総論は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で扱う。
債務名義を得た後の債権差押え(本執行)は,債権差押命令の申立てと取立て・配当の実務で扱う。
家事事件の審判前の保全処分,国税の滞納処分,倒産手続における扱いは,本記事の対象外である。

2 結論

①債権の仮差押命令事件は,本案の管轄裁判所のほか,仮に差し押さえるべき債権の所在地を管轄する地方裁判所が管轄し,債権は第三債務者の普通裁判籍の所在地にあるものとされる(民事保全法12条1項・4項)。
申立書には第三債務者を記載し,仮差押債権は「債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項」を明らかにして特定しなければならない(民事保全規則18条1項,19条2項1号)。

②預金債権は,取扱店舗を示して特定するのが裁判所の書式である。
東京地方裁判所民事第9部及び大阪地方裁判所第1民事部の書式は,「○○支店扱い」と店舗を示した上で,先行の差押え・仮差押えの有無,円貨建て・外貨建ての別,預金の種類(定期預金から当座預金まで)及び口座番号の順に順位を付けている。
最高裁判所第三小法廷平成23年9月20日決定は,差押えの事案で,大規模な金融機関の全ての店舗を対象として順位付けをする方式は差押債権の特定を欠き不適法であるとした。
最高裁判所第三小法廷平成24年7月24日決定も,差押えの事案で,普通預金債権のうち送達後1年間の入金によって生ずる部分(将来預金)を対象とする申立ては特定を欠き不適法であるとした。
ゆうちょ銀行の貯金は,店舗ではなく貯金事務センターを示して特定する記載例である。
なお,第三債務者である銀行が債務者に貸付金を有する場合,仮差押えを受けた預金と相殺されて仮差押えの実益がなくなることがある(民法511条)。

③給料債権の仮差押えには,民事執行法152条の差押禁止の規定が準用される(民事保全法50条5項)。
原則として手取額の4分の3(支払期が毎月の場合,その額が33万円を超えるときは33万円)は仮差押えの対象とならず,扶養義務等に係る金銭債権を請求する場合は「四分の三」が「二分の一」となる(民事執行法152条3項,民事執行法施行令2条)。
民事保全法50条5項は民事執行法146条から153条までを一括して準用しているので,151条の2(扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特例)も準用範囲に含まれる。
給料のような継続的給付に係る債権に対する効力は後に受けるべき給付に及ぶが(民事執行法151条の準用),仮差押えの実務では期間を1年程度に限定する扱いが多いとされる。

④第三債務者に対する陳述の催告は,債権者の申立てがあるときに行われ,第三債務者は送達の日から2週間以内に,債権の存否・種類・額,弁済の意思,優先権者,他の差押え・仮差押え,滞納処分による差押えの有無等を書面で陳述する(民事保全法50条5項,民事執行法147条1項,民事保全規則41条2項,民事執行規則135条)。
故意又は過失による不陳述・不実陳述には損害賠償責任がある(民事執行法147条2項)。
もっとも,陳述書に「預金なし」と記載されても,そのことだけでは担保の簡易の取戻しは認められない運用である(司法研修所の教材114頁)。

⑤第三債務者は仮差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を供託することができ,その供託は仮差押解放金の供託とみなされる(民事保全法50条3項・5項,民事執行法156条1項)。

⑥保全執行は債権者に保全命令が送達された日から2週間を経過したときはすることができないため(民事保全法43条2項),第三債務者への送達が不能になったときは速やかに対応する必要がある。

⑦担保の額は目的物の価格を基準とし,司法研修所の教材が紹介する基準では,貸金・賃料・売買代金その他を被保全債権とする預金・給料の仮差押えで10~30%とされている(同教材28頁)。

第2 債権仮差押えの基本
1 管轄

保全命令事件は,本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄し(民事保全法12条1項),この管轄は専属である(同法6条)。

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刑事控訴の記録完全性チェックリスト―控訴申立書・公判調書・証拠等関係カード・身柄・記録媒体(AI作成)

刑事控訴では、控訴趣意の検討に入る前に、控訴申立て自体の有効性と、第一審記録の完全性を確認する必要があります。本記事は、控訴申立書、公判調書、証拠等関係カード、身柄関係書類、判決及び記録媒体を、弁護人側で相互照合するための実務チェックリストです。

基準日:令和8年9月16日。現行法令、裁判所の公式資料及び確認済み判例を優先し、大阪高裁刑事部の内部実務資料は「不備を発見するための補助資料」として用いています。

目次

控訴記録の完全性を確認する意味
控訴申立ての入口確認
期限・送達台帳
身柄台帳
証拠・証拠能力台帳
記録・判決整合台帳
控訴申立後の実行順序
資料の位置付けと一次資料の裏付け
関連記事
出典

第1 控訴記録の完全性を確認する意味

刑事記録の誤記や欠落は、単なる事務上の問題ではありません。控訴申立ての有効性、期間の起算、身柄拘束の終期、証拠能力、重要主張の存否、判決の根拠及び被害者情報の秘匿に影響し得ます。

点検は、個々の書類を孤立して読むのではなく、出来事→通知・決定→公判調書・証拠等関係カード→記録位置→判決・控訴という連鎖で行います。記録が存在することと、記載が正確で相互に一致することを区別します。

第2 控訴申立ての入口確認
1 確認項目

対象裁判、事件番号、被告人、罪名及び提出先
申立人と申立権、弁護人選任・主任弁護人指定の状態
判決宣告日、送達日、期間起算日及び最終日

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証拠等関係カードの読み方―同意・不同意・採否・撤回・取調べの結審前確認(AI作成)

目次第1 証拠等関係カードの役割第2 最初に確認する基本欄第3 立証趣旨と要証事実第4 同意・不同意・一部同意の読み方1 一部同意は同意部分を特定する2 意見変更の履歴を残す3 証拠能力・必要性に関する意見第5 刑訴法328条の弾劾証拠1 採用の意味を立証趣旨とともに読む2 同一供述者の自己矛盾供述か3 公判前整理手続終了後の請求第6 採用・却下・撤回・取消し第7 取調べの有無・方法・順序第8 公判調書・判決との照合第9 結審前の未処理ゼロ確認第10 資料の位置付けと一次資料第11 関連記事第12 出典
第1 証拠等関係カードの役割

証拠等関係カードは、証拠請求の一覧表にとどまらない。
誰が何をどの立証趣旨で請求し、相手方がどの範囲で同意又は不同意とし、裁判所がどのように判断し、実際に何をどの方法で取り調べたかをつなぐ証拠手続の地図である。
カードに載っていることは、採用され、適法に取り調べられ、判決の基礎にできることと同じではない。

弁護人は、カードを証拠意見書、期日調書、証拠決定書、実際の書証・証拠物・供述調書及び判決書と照合する。
カードの誤記が、一部同意の範囲や判決が引用できる証拠範囲の誤認につながることがある。

第2 最初に確認する基本欄

事件・被告人欄では、併合・分離、複数被告人及び追起訴との対応を確認する。
請求者・証拠番号欄では、検察官請求、弁護人請求又は職権の別と欠番理由を確認する。
標目欄では、書類、証人、被告人供述又は証拠物の特定、作成者及び作成日を確認する。
原本等の別では、原本、謄本、抄本又は写しのどれが請求・提出されたかを確認する。
期日欄では、公判回数、期日外手続及び公判前整理手続を区別する。

同じ表題の書証が複数ある場合は、作成者、作成日、頁及び対象者等で一意に特定する。
証拠番号だけで同一性を推測してはならない。

第3 立証趣旨と要証事実

立証趣旨は、原則としてカード自体から対象が分かるように確認する。
単に「意見書のとおり」又は「同上」とする記載では、後に証拠が何のために取り調べられたか確認できないことがある。
立証趣旨が変更又は拡張された場合は、請求、相手方の意見及び裁判所の判断まで追う。

公訴事実が複数ある事件では、各証拠がどの事実に関するものかを確認する。
示談書等も、特定の公訴事実に関する情状証拠であれば対象事実との対応が問題になる。
判決の認定事実とカード上の対象事実を突き合わせる。

第4 同意・不同意・一部同意の読み方
1 一部同意は同意部分を特定する

一部同意では、不同意部分だけでなく、採用決定の対象となる同意部分を特定する。
抄本が提出されたときは、同意範囲と抄本の内容が一致するか、不同意部分が過不足なく除かれているかを実物で確認する。

2 意見変更の履歴を残す

期日を異にして不同意から同意へ変更したときは、最終結果だけでなく、不同意撤回・同意という経過が分かる必要がある。
期日外で証拠意見を伝えた場合は、証拠意見書又は電話聴取書等が記録に編てつされているかも確認する。

3 証拠能力・必要性に関する意見

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刑事公判調書の確認と異議申立て―整理時期・記載漏れ・控訴記録送付(AI作成)

目次

公判調書の意味
整理時期と閲覧のタイミング
異議申立てができる者と期間
確認すべき記載事項
異議申立書の作り方
異議期間と控訴記録送付
令和9年までの電子化改正との区別
資料の位置付けと未確認裁判例
関連記事
出典

公判調書は、公判期日に行われた訴訟手続を証明する中心的な記録です。重要な主張、異議、証拠決定、訴因変更又は最終陳述が実際に行われていても、調書に正確に残っていなければ、控訴審でその手続を主張・立証する際に重大な支障が生じます。本記事は、公判調書の整理時期、閲覧、異議申立て及び控訴記録送付との関係を整理します。

基準日:令和8年9月16日。令和9年3月31日までの間に政令で定める日に施行される電子化関係の改正後条文とは区別して、現在施行されている刑事訴訟法及び刑事訴訟規則に基づいて説明します。

第1 公判調書の意味

刑事訴訟法52条は、公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは、公判調書のみによって証明できると定めています。そのため、公判調書の正確性は、控訴理由として訴訟手続の法令違反を主張する場合の前提になります。

供述内容そのものだけでなく、誰が出頭し、誰がどの訴訟行為をし、裁判所がどの決定をし、証拠をどのように取り調べたかも重要です。弁護人は期日メモ、提出書面、証拠意見書及び証拠等関係カードを、公判調書と相互照合します。

第2 整理時期と閲覧のタイミング

刑事訴訟法48条3項は、公判調書を各公判期日後速やかに、遅くとも判決宣告までに整理することを原則とし、判決宣告期日の調書等について例外的な整理期限を設けています。刑事訴訟規則52条は、この例外により整理された調書について、異議申立期間との関係では、法定の最終日に整理されたものとみなします。

実務上は、重要な期日の後に調書の整理状況を確認し、整理済みになったら早期に閲覧します。特に、判決宣告期日の調書が後日整理される場合は、整理日と閲覧日を記録し、異議期間を独立して管理します。裁判所からの口頭説明だけでなく、いつ整理されたかを後に確認できる証跡を残すのが安全です。

第3 異議申立てができる者と期間
1 申立権者

刑事訴訟法51条1項により、検察官、被告人又は弁護人は、公判調書の記載の正確性について異議を申し立てることができます。異議が申し立てられたときは、その旨を調書に記載しなければなりません。

(続きを読む...)刑事公判調書の確認と異議申立て―整理時期・記載漏れ・控訴記録送付(AI作成)

控訴権の濫用―民訴法303条の金銭納付命令と代理人弁護士の懲戒(AI作成)

目次

第1 民訴法303条の目的

1 濫用的控訴への手続的対応
2 敗訴見込みだけでは足りない

第2 金銭納付命令

1 命令の内容
2 不納付の効果

第3 濫用判断の資料

1 控訴理由と訴訟経過
2 正当な権利行使との区別

第4 代理人弁護士の懲戒との区別

1 当事者の控訴と弁護士の職務行為
2 懲戒判断

第5 根拠資料及び注意

(続きを読む...)控訴権の濫用―民訴法303条の金銭納付命令と代理人弁護士の懲戒(AI作成)

民事控訴における必要的共同訴訟と共同訴訟的補助参加―当事者の地位,控訴期間及び取下げ(AI作成)

目次第1 必要的共同訴訟の控訴1 一部の者による控訴の効力2 形式的な当事者表示だけで決めない第2 主要な最高裁判例1 全員が控訴人となる例2 被控訴人となる例3 いずれにもならない例第3 共同訴訟的補助参加1 通常の補助参加との違い2 控訴の取下げと期間第4 実務上の確認事項1 当事者目録2 控訴期間と取下げ第5 根拠資料及び注意
第1 必要的共同訴訟の控訴
1 一部の者による控訴の効力

必要的共同訴訟では,共同訴訟人の一人の訴訟行為が他の者にも影響し得る。ただし,一部の者が控訴した場合に全員が控訴人となるか,被控訴人となるか,又はいずれにもならないかは,訴訟の類型と紛争構造により異なる。

2 形式的な当事者表示だけで決めない

固有必要的共同訴訟か類似必要的共同訴訟か,誰の権利関係を合一に確定すべきかを確認し,当事者の地位を決める。

第2 主要な最高裁判例
1 全員が控訴人となる例

最高裁昭和38年3月12日判決は,事案の必要的共同訴訟性を踏まえ,一人の被告の控訴により他の被告も控訴人の地位を取得するとした。

2 被控訴人となる例

最高裁平成11年11月9日判決は,境界確定訴訟の当事者関係を踏まえ,共有者の一部が被控訴人の地位に立つとした。

3 いずれにもならない例

最高裁平成9年4月2日大法廷判決は,住民訴訟で自ら上訴しなかった共同訴訟人をその意思に反して上訴人にする効力までは生じないとした。

第3 通常の補助参加と共同訴訟的補助参加
1 まず参加の根拠を三層に分ける

通常の補助参加は,民事訴訟法42条が定める「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」に認められる。ここでいう法律上の利害関係は,判決主文が直接及ぶ場合だけに限られないが,単なる事実上・経済上の影響とも区別される。参加人の法的地位にどのような影響が及ぶかを具体化する。

これとは別に,確定判決の効力が第三者にも及ぶため,共同訴訟人に準じた地位を与えるべき共同訴訟的補助参加が問題となる。①判決効が及ぶか,②通常の補助参加に必要な法律上の利害関係があるか,③後の別訴でどの事項が争われるかを分け,名称だけで参加類型を決めない。訴訟告知を受けた第三者が参加しなかった場合の効力(民事訴訟法53条4項)は,訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備えで整理している。

2 控訴行為と被参加人との抵触

通常の補助参加人は,民事訴訟法43条2項により上訴審でも参加でき,同法45条1項により上訴その他の訴訟行為をすることができる。ただし,同条2項により,参加人の訴訟行為が被参加人の訴訟行為と抵触するときは効力を有しない。

共同訴訟的補助参加では,判決効の拡張を根拠に,参加人の独立性を通常の補助参加より強く認めるべきかが問題となる。最高裁昭和40年6月24日判決などを踏まえ,誰が控訴したか,被参加人が控訴又は取下げをしたか,両者の行為がどの点で抵触するか,判決効が参加人へ及ぶ根拠は何かを個別に確認する。

第4 実務上の確認事項
1 当事者・参加人と判決効の一覧

第一審の当事者,参加人,控訴をした者,控訴の効力が及ぶ者及び送達先を一覧化する。その際,①判決効,②参加の法律上の利害関係,③後の別訴への影響を別欄にし,補助参加決定があるというだけで共同訴訟的補助参加と扱わない。

2 行為者・時点・効果・救済

各人の判決送達日,控訴状提出日,独立した控訴期間の有無,控訴又は取下げをした者,必要な授権及び他の当事者・参加人への効力を時系列で確認する。期間徒過や取下げが問題になるときは,誰のどの行為がいつ効力を生じ,その後に残る救済が何かまで分ける。

第5 根拠資料及び注意

民事訴訟法(e-Gov法令検索)及び上記最高裁判例を確認した。
必要的共同訴訟の分類と当事者関係により結論が変わるため,事件記録に即した確認が必要である。

民事控訴の利益とは―全部勝訴判決でも控訴できる場合と上訴の適法性(AI作成)

目次第1 控訴の利益の基本1 第一審主文と申立てを比較する2 理由中の判断だけを争うことはできない3 相殺判断に既判力が生じる場合第2 最高裁令和5年3月24日判決1 事案の特殊性2 一般化には注意が必要である第3 控訴の利益を確認する手順1 申立てと主文を対照する2 不利益の法的性質を特定する第4 不適法控訴のリスク1 期間内でも利益がなければ却下される2 相手方の附帯控訴第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴の利益の基本
1 第一審主文と申立てを比較する

控訴の利益は,原則として第一審で求めた裁判と実際の主文を比較して判断する。請求が全部認容された原告は,理由に不満があっても通常は控訴できない。

2 理由中の判断だけを争うことはできない

判決理由に不利な認定があっても,主文で全部勝訴していれば,その理由だけの変更を求める控訴は原則として許されない。既判力その他の効果が問題となる場合は,別途検討する。

3 相殺判断に既判力が生じる場合

民事訴訟法114条1項により,判決理由中の判断には原則として既判力が生じない。しかし,同条2項は,相殺のため主張した請求の成立又は不成立の判断について,相殺をもって対抗した額の範囲で既判力を認める。

そのため,第一審と控訴審で給付額が同じでも,相殺に供した債権の存否判断に既判力が生じるかが変わる場合,判決の法的効果は同じではない。控訴審は,第一審判決を取り消して改めて請求認容判決をすべき場合があり,給付主文の見た目だけで控訴棄却と決めることはできない。

控訴の利益,控訴審の審判範囲,判決主文及び既判力の範囲は別々に確認する。相殺の既判力については,相殺の抗弁に関するメモ書き―既判力・再訴・相殺の抗弁相互の関係も参照されたい。

第2 最高裁令和5年3月24日判決
1 事案の特殊性

最高裁令和5年3月24日判決は,事件を審理した裁判官が判決書の原本に基づかずに判決を言い渡したという重大な手続問題がある事案で,全部勝訴した原告の控訴の利益を認めた。

2 一般化には注意が必要である

この判決は,全部勝訴者が理由に不満を持つだけで控訴できるとしたものではない。判決としての適法性に関わる特殊な事情を踏まえて理解する必要がある。

第3 控訴の利益を確認する手順
1 申立てと主文を対照する

第一審の最終的な請求の趣旨,訴えの変更,請求の放棄・認諾及び主文を対照する。予備的請求がある場合は,主位的請求との関係も確認する。

2 不利益の法的性質を特定する

経済的不満ではなく,主文又は判決の法的効力による不利益を特定する。控訴以外の手段で解決すべき問題かも検討する。

第4 不適法控訴のリスク
1 期間内でも利益がなければ却下される

控訴期間内の申立てであっても,控訴の利益を欠けば不適法となる。控訴状では,どの主文部分についてどのような変更を求めるかを明示する。

2 相手方の附帯控訴

自分の控訴により,相手方が附帯控訴をして第一審判決より有利な変更を求める可能性がある。控訴の利益と訴訟戦略は分けて検討する。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法(e-Gov法令検索)114条・304条,最高裁令和5年3月24日判決,令和5年司法試験論文式試験出題の趣旨及び同年度の民事系採点実感を確認した。
不利益変更禁止は,民事控訴審の不利益変更禁止を参照されたい。

最高裁判例に下級審裁判官は反する判断をできるか―判例の拘束力と下級審判決の位置付け(AI作成)

目次第1 最高裁判例の実務上の位置付け1 同種事件の法解釈を統一する機能2 すべての判示が同じ重みではない第2 法的な拘束力が明文で生じる場面1 差戻し・移送後の拘束力2 刑事事件第3 最高裁判例と異なる判断1 理論上の可能性と実務上の例外性2 検討すべき事情第4 下級審判決を引用する方法1 法源としてではなく説得資料として扱う2 事案比較を行う第5 根拠資料及び注意
第1 最高裁判例の実務上の位置付け
1 同種事件の法解釈を統一する機能

最高裁判例は,同種事件における法解釈の統一に大きな役割を持つ。下級審は通常,最高裁が示した法解釈を踏まえて判断する。

2 すべての判示が同じ重みではない

結論に必要な判示か,傍論か,大法廷か小法廷か,その後に同趣旨の判例が反復されたかを区別する。事案の差異を無視して一文だけを一般化してはならない。

第2 法的な拘束力が明文で生じる場面
1 差戻し・移送後の拘束力

民事訴訟法325条3項等により,差戻し又は移送を受けた裁判所は,その事件について上級審が示した判断に拘束される。これは一般的な先例性とは別の,個別事件における拘束力である。

2 刑事事件

刑事訴訟法413条等にも破棄差戻し後の拘束に関する規律がある。どの判断が拘束力を持つかは,破棄理由と不可分な判断の範囲を個別に検討する。

第3 最高裁判例と異なる判断
1 理論上の可能性と実務上の例外性

社会状況又は法制度の変化により判例変更が問題となることはある。しかし,下級審が単に最高裁判例に納得できないというだけで異なる判断をするのは相当でない。

2 検討すべき事情

判例の時期,大法廷・小法廷の別,少数意見,その後の立法,関連判例との整合性及び学説・下級審裁判例の展開を検討する。

第4 下級審判決を引用する方法
1 法源としてではなく説得資料として扱う

下級審判決は,事案と理由付けが近いときに重要な説得資料となるが,同順位の裁判所を一般に拘束するものではない。

2 事案比較を行う

裁判所名,裁判年月日,事件番号,掲載誌又は公開URLを示し,事実関係・争点・規範・当てはめのどこが自分の事件と共通するかを書く。

第5 根拠資料及び注意

裁判所法(e-Gov法令検索),民事訴訟法(e-Gov法令検索)及び刑事訴訟法(e-Gov法令検索)を確認した。
本記事は「最高裁判例に反する判断が常に許される」ことを意味しない。個別事件の拘束力と一般的な先例性を区別する必要がある。

民事控訴審の審理の流れ―原審口頭弁論の結果陳述,一回結審及び和解(AI作成)

目次第1 控訴提起から第一回期日まで1 控訴状と記録送付2 控訴理由書と答弁書第2 第一審口頭弁論の結果陳述1 控訴審へ第一審の訴訟資料を引き継ぐ2 陳述範囲を曖昧にしない第3 一回結審と続行1 第一回期日で終結することがある2 続行が必要な場合第4 和解1 控訴審でも和解は可能である2 仮執行・担保・関連紛争も確認する第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴提起から第一回期日まで
1 控訴状と記録送付

控訴状は第一審裁判所に提出され,適法な控訴として整理された後,記録が控訴裁判所へ送られる。電子事件ではmintsによる提出・送達等の現行運用を確認する。

2 控訴理由書と答弁書

控訴人は定められた期間内に控訴理由書を提出し,被控訴人はこれに対する答弁を準備する。新証拠,訴えの変更又は附帯控訴がある場合は,第一回期日前に手続を明確にする。

第2 第一審口頭弁論の結果陳述
1 控訴審へ第一審の訴訟資料を引き継ぐ

民事訴訟法296条2項により,当事者は第一審の口頭弁論の結果を陳述する。これは第一審で提出した主張・証拠を控訴審の判断資料として引き継ぐための手続である。

2 陳述範囲を曖昧にしない

最高裁昭和41年11月10日判決は,「第一審判決事実摘示のとおり」との陳述では,判決の事実摘示に記載されていない主張が控訴審で陳述されたことにならないとした。判決に現れていない重要主張は,控訴審書面で明示するのが安全である。

第3 一回結審と続行
1 第一回期日で終結することがある

控訴審は提出書面と原審記録を事前に検討し,第一回期日で弁論を終結することがある。重要な主張・証拠を「期日後に出す」前提で準備してはならない。

2 続行が必要な場合

新たな争点,証拠調べ,訴えの変更又は和解協議が必要なときは続行され得る。続行を求める場合は,必要な審理事項と予定期間を具体的に示す。

第4 和解
1 控訴審でも和解は可能である

控訴審では第一審判決を踏まえて法的・経済的リスクが具体化しているため,和解が試みられることがある。

2 仮執行・担保・関連紛争も確認する

和解条項では,支払方法,遅延時の取扱い,仮執行による既払金,強制執行の停止・取下げ,訴訟費用及び関連事件を漏れなく確認する。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法296条以下(e-Gov法令検索)を確認した。
手続の現行化は,大阪高裁民事部主任決議集を令和8年の民事訴訟で使う方法及びmintsで控訴・上告・上告受理申立てをする方法を参照されたい。

民事控訴審の不利益変更禁止―不服申立ての範囲と附帯控訴の注意点(AI作成)

目次第1 不利益変更禁止の基本1 変更は不服申立ての限度に限られる2 主文上の不利益を基準に考える第2 控訴人だけが控訴した場合1 控訴人をより不利にできない2 請求の一部控訴第3 被控訴人が変更を求める方法1 附帯控訴2 訴えの変更との関係第4 相殺の抗弁と不利益変更禁止1 相殺判断には特別の既判力がある2 最高裁昭和61年9月4日判決第5 提出前の確認1 対照表を作る2 例外的問題第6 根拠資料及び関連記事
第1 不利益変更禁止の基本
1 変更は不服申立ての限度に限られる

民事訴訟法304条は,第一審判決の取消し及び変更を不服申立ての限度に限る。控訴審は,当事者が争っていない部分まで自由に変更するものではない。

2 主文上の不利益を基準に考える

一般に,判決理由の評価ではなく,主文で認められた権利義務と控訴の範囲を基準にする。理由中の判断に不満があるだけでは,通常は独立した控訴の利益がない。

もっとも,相殺の抗弁については,民事訴訟法114条2項により,理由中の判断にも例外的に既判力が生ずる。このため,同じ請求棄却の主文でも,請求債権を否定した棄却と,相殺で消滅したとする棄却とでは,判決の法的効果が異なり得る。

第2 控訴人だけが控訴した場合
1 控訴人をより不利にできない

相手方が控訴又は附帯控訴をしていない場合,控訴人の不服申立てを契機として第一審判決より控訴人に不利な主文又は法的効果へ変更することはできない。

2 請求の一部控訴

一部だけ控訴した場合,控訴審の審判対象も原則としてその範囲に限られる。控訴状の「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す」といった表現と,具体的な請求額・対象を整合させる。

第3 被控訴人が変更を求める方法
1 附帯控訴

被控訴人が第一審判決より自己に有利な主文又は法的効果を求めるには,附帯控訴が必要である。単に控訴棄却を求める答弁だけでは,自己の敗訴部分の変更を求めたことにならない。

2 訴えの変更との関係

被控訴人が請求又は訴訟物を追加・変更する場合も,附帯控訴の要否を検討する。名称ではなく,実質として第一審判決より有利な裁判を求めるかで判断する。

第4 相殺の抗弁と不利益変更禁止
1 相殺判断には特別の既判力がある

民事訴訟法114条2項は,相殺のため主張した請求の成立又は不成立の判断について,相殺をもって対抗した額に限り既判力が生ずると定める。したがって,請求債権が存在しないとして請求を棄却する判決と,請求債権は存在するが相殺によって消滅したとして請求を棄却する判決は,主文が同じでも,将来に残る既判力の範囲が異なる。

控訴審では,第一審の主文だけでなく,①請求債権の存否,②相殺に供された反対債権の存否,③民事訴訟法114条2項の既判力及び④誰が控訴・附帯控訴をしたかを一つの表にして確認する必要がある。

2 最高裁昭和61年9月4日判決

最高裁昭和61年9月4日第一小法廷判決は,第一審が請求債権の成立を認めた上で相殺により消滅したとして請求を棄却し,原告だけが控訴した事案について,控訴審が請求債権自体の成立を否定すると,原告に不利益となるとして許されないとした。

第一審判決には,相殺に供された被告の反対債権が相殺額の限度で不存在となるという原告に有利な既判力が含まれる。原告だけの控訴によってその利益を失わせることは,不利益変更禁止に反するからである。控訴審が請求債権の成立を否定すべきだと考えても,結論として控訴を棄却し,第一審判決を維持する。

逆に,第一審が請求債権の不存在だけを理由に請求を棄却したのに,控訴審が請求債権の成立と相殺を認める場合には,相殺判断の既判力が新たに生ずる。主文が請求棄却のままでも法的効果が変わるため,原判決を取り消した上で請求を棄却するという処理を検討する。

第5 提出前の確認
1 対照表を作る

第一審主文,理由中の相殺判断,控訴人の控訴の趣旨,被控訴人の答弁・附帯控訴及び控訴審で求める主文・法的効果を並べると,不服申立ての範囲が見えやすい。

2 例外的問題

訴訟要件の欠缺,必要的共同訴訟,請求の変更又は職権調査事項がある場合は,単純な不利益変更禁止だけでは処理できないことがある。

(続きを読む...)民事控訴審の不利益変更禁止―不服申立ての範囲と附帯控訴の注意点(AI作成)

仮執行後に第一審判決が変更された場合の原状回復―民事訴訟法260条2項の申立て(AI作成)

目次第1 260条2項の目的1 仮執行後の清算を同じ判決で行う2 職権ではなく申立てが必要である第2 対象となる給付と損害1 返還の対象2 損害賠償の対象第3 申立ての作り方1 申立ての趣旨2 申立ての原因3 証拠第4 他の請求との区別1 本案請求との関係2 別訴との関係第5 根拠資料及び関連記事
第1 260条2項の目的
1 仮執行後の清算を同じ判決で行う

第一審の仮執行宣言に基づき被告が給付し,又は執行を受けた後に本案判決が変更されると,給付の法律上の基礎が失われる。民事訴訟法260条2項は,被告の申立てにより,返還及び一定の損害賠償を変更判決の中で命じる制度である。

2 職権ではなく申立てが必要である

控訴審が第一審判決を変更する見込みがあっても,申立てがなければ同項の裁判はされない。控訴答弁又は準備書面の中に埋めず,申立ての趣旨と原因を明確にするのが安全である。

第2 対象となる給付と損害
1 返還の対象

仮執行宣言に基づいて給付した金銭又は物が中心である。任意の支払であっても,仮執行宣言を背景としてされたか,別個の確定的弁済かを事実関係に即して検討する。

2 損害賠償の対象

仮執行により,又は仮執行を免れるために被告が受けた損害が対象となる。執行費用,資金調達費用その他の項目ごとに因果関係と金額を立証する必要がある。

第3 申立ての作り方
1 申立ての趣旨

返還を求める給付の内容,金額,利息又は遅延損害金の起算点を特定する。複数回の支払又は一部執行がある場合は一覧表を付ける。

2 申立ての原因

①仮執行宣言付判決,②給付又は執行の日時・内容,③控訴審で求める本案判決の変更,④返還額,⑤損害の発生及び因果関係を順に記載する。

3 証拠

振込記録,領収書,執行調書,供託書,金融機関との契約書及び費用明細など,支出と仮執行との結び付きを示す資料を提出する。

第4 他の請求との区別
1 本案請求との関係

260条2項の申立ては,本案判決の変更を前提とする付随的な裁判である。本案でどの範囲の変更を求めるかと,原状回復を求める範囲を対応させる。

2 別訴との関係

同項の申立てをしなかった場合又は控訴審で判断されなかった場合の別訴の可否は,既判力及び請求の法的構成を含めて個別に検討する必要がある。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法260条(e-Gov法令検索)を確認した。
仮執行後の実務例として,残業代請求訴訟の仮執行による仮払いも参照されたい。

民事控訴審における反訴―相手方の同意,異議,移送・却下及び手数料(AI作成)

目次第1 控訴審の反訴に追加される要件1 原則として相手方の同意が必要である2 異議なく本案弁論をすると同意とみなされる第2 同意を要しない場合1 第一審の審判を受ける利益を失わせない場合2 人事訴訟の特則第3 相手方が同意しない場合1 移送説と却下説がある2 書面で明確にする事項第4 手数料1 第一審が本訴を判断した場合2 第一審が本訴を判断していない場合第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴審の反訴に追加される要件
1 原則として相手方の同意が必要である

控訴審でも反訴は提起できるが,第一審の反訴要件に加え,相手方の同意を要する(民事訴訟法300条1項)。これは反訴について第一審の審判を受ける利益を保護するためである。

2 異議なく本案弁論をすると同意とみなされる

相手方が異議を述べず反訴の本案について弁論したときは,同意したものとみなされる(同条2項)。反訴を受けた側は,本案に入る前に同意の有無と異議を明確にする必要がある。

第2 同意を要しない場合
1 第一審の審判を受ける利益を失わせない場合

最高裁昭和38年2月21日判決は,相手方から第一審の審判を受ける利益を実質上奪うおそれがない場合には,同意を要しないとした。
反訴と本訴の争点・証拠の重なりや,第一審での審理状況を具体的に示す必要がある。

2 人事訴訟の特則

人事訴訟の控訴審における反訴については,人事訴訟法18条の特則があり,相手方の同意を要しない。一般民事訴訟と混同してはならない。

第3 相手方が同意しない場合
1 移送説と却下説がある

過去の下級審裁判例には,管轄権を有する第一審裁判所へ移送した例と,不適法として却下した例がある。反訴状送達前の段階から,担当裁判官と進行を確認することが重要である。

2 書面で明確にする事項

反訴状には,請求の趣旨・原因だけでなく,控訴審で反訴を許すべき理由,相手方の同意の有無,同意不要と主張する根拠及び本訴との関連性を記載する。

第4 手数料
1 第一審が本訴を判断した場合

原則として控訴提起手数料を基準に算定し,本訴と目的を同じくする反訴では一定の控除が問題となる。

2 第一審が本訴を判断していない場合

訴え提起手数料を基準とする取扱いが問題となる。訴額と本訴との目的同一性を示し,提出前に裁判所へ確認するのが安全である。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法(e-Gov法令検索),人事訴訟法(e-Gov法令検索)及び民事訴訟費用等に関する法律(e-Gov法令検索)を確認した。
電子提出の一般的な扱いは,mintsで反訴・訴えの変更をする方法を参照されたい。

民事控訴審で請求を追加・変更する方法―訴えの変更,附帯控訴及び送達(AI作成)

目次第1 控訴審でも請求の追加・変更は問題となる1 請求の趣旨と訴訟物を区別する2 独立した表題を付ける第2 控訴人と被控訴人で手続が異なる1 控訴人による変更2 被控訴人による変更と附帯控訴第3 許否を左右する事情1 著しい訴訟遅延2 第一審が本案判断をしていない場合3 新訴に対する裁判第4 手数料と提出前確認1 手数料2 チェック項目第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴審でも請求の追加・変更は問題となる
1 請求の趣旨と訴訟物を区別する

請求額又は請求内容を変える場合だけでなく,請求の趣旨が同じでも新たな請求原因を加えて訴訟物が変わる場合は,訴えの変更として扱う必要がある。
控訴理由書又は準備書面の中に変更部分を埋め込むと,裁判所と相手方が送達及び手数料を判断しにくい。

2 独立した表題を付ける

控訴人が変更する場合は「訴え変更申立書」又は「控訴理由書兼訴え変更申立書」など,変更が一見して分かる表題と独立項目を設けるのが実務上安全である。

第2 控訴人と被控訴人で手続が異なる
1 控訴人による変更

控訴人の請求追加・変更は,民事訴訟法143条が控訴審に準用されることを前提に,同一性,審理遅延及び二審制の利益への影響が検討される。変更書面は相手方への送達が必要となる。

2 被控訴人による変更と附帯控訴

被控訴人が第一審判決より自己に有利な裁判を求める場合は,附帯控訴を要する。請求の趣旨を変えない場合でも,訴訟物を追加又は変更して自己に有利な変更を求めるときは,附帯控訴の要否を検討する。

第3 許否を左右する事情
1 著しい訴訟遅延

相手方の陳述した事実に基づく変更であっても,著しく訴訟手続を遅滞させる場合は許されない(最高裁昭和42年10月12日判決)。

2 第一審が本案判断をしていない場合

訴え却下判決に対する控訴審で追加的新訴を持ち込むと,第一審の審判を受ける利益との関係が問題となる。知財高裁平成31年2月19日判決及び同年3月4日判決は,それぞれの事案で追加的変更を許さなかった。

3 新訴に対する裁判

控訴審で訴えの変更により新訴が係属した場合,控訴裁判所は新訴について事実上第一審として裁判すべきであり,単なる控訴棄却では処理できない(最高裁昭和31年12月20日判決)。

第4 手数料と提出前確認
1 手数料

第一審が変更前の請求を判断したか否かにより,控訴手数料基準と訴え提起手数料基準のどちらを用いるかが変わり得る。実額は変更前後の訴額を示して裁判所書記官に確認するのが安全である。

2 チェック項目

①変更前後の請求の趣旨,②請求原因,③附帯控訴の要否,④相手方への送達,⑤手数料,⑥審理遅延,⑦第一審の審判を受ける利益を確認する。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法(e-Gov法令検索)及び民事訴訟費用等に関する法律(e-Gov法令検索)を確認した。
電子提出を含む現行実務については,mintsで反訴・訴えの変更をする方法も参照されたい。

民事控訴審の控訴理由書の書き方―原判決の誤り,証拠評価及び主張の組み立て(AI作成)

目次第1 控訴理由書で最初に示す事項1 結論を変える判断点を特定する2 不服の範囲を主文と対応させる第2 事実認定の誤りの書き方1 証拠と認定事実を一対一で対応させる2 新証拠の役割を説明する第3 法令適用の誤りと文章構成1 規範・要件・事実・結論を分ける2 推奨する並び順第4 提出前チェック1 形式面2 内容面第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴理由書で最初に示す事項
1 結論を変える判断点を特定する

民事控訴審は続審であるが,控訴理由書では第一審の主張を単に再掲するのでは足りない。原判決の主文を支える主要な判断を分解し,どの判断が変われば結論が変わるのかを先に示す必要がある。
原判決の認定事実,証拠評価,法令解釈及び当てはめを区別し,各項目について原判決の該当頁を特定すると,裁判体が争点を追いやすい。

2 不服の範囲を主文と対応させる

控訴の趣旨,控訴状及び控訴理由書の結論は一致させる。請求の一部だけを争う場合は,第一審判決のどの部分について変更を求めるかを明示する。
被控訴人が自己に不利益な変更を求める場合は,単なる答弁ではなく附帯控訴が必要となることがある。

第2 事実認定の誤りの書き方
1 証拠と認定事実を一対一で対応させる

「証拠の評価が不当である」とだけ書くのではなく,①原判決が認定した事実,②根拠とした証拠,③見落とした反対証拠,④経験則又は論理則上の問題,⑤正しく認定すべき事実,⑥結論への影響を順に記載する。
供述証拠については,変遷,客観証拠との整合性,利害関係及び知覚・記憶の条件を具体的に示す。

2 新証拠の役割を説明する

新証拠を提出する場合は,証拠の内容だけでなく,どの争点のどの認定を動かすのか,第一審で提出できなかった事情及び立証趣旨を説明する。
控訴審の期日が短期間で終結する場合もあるため,提出予定の証拠は理由書と同時又はできる限り早期に整理する。

第3 法令適用の誤りと文章構成
1 規範・要件・事実・結論を分ける

法令適用の誤りは,適用条文,解釈上の規範,要件事実,原判決の認定及び正しい当てはめを分けて書く。判例を引用する場合は,結論だけでなく事案との共通点と相違点を示す。

2 推奨する並び順

実務上は,①控訴の趣旨,②結論を左右する要点,③原判決の判断構造,④争点ごとの誤り,⑤新証拠,⑥求める結論の順で構成すると読みやすい。
提出期限の考え方は,控訴理由書・上告理由書の提出期限を参照されたい。

第4 提出前チェック
1 形式面

①事件番号,当事者及び提出先が正しいか,②控訴の趣旨と理由が対応しているか,③引用した原判決の頁が正しいか,④証拠番号と立証趣旨が一致するか,⑤訴えの変更又は附帯控訴を含んでいないかを確認する。

2 内容面

各控訴理由について,「その誤りがなければ主文が変わる」ことまで説明できているかを確認する。周辺的な誤記の指摘だけでは,原判決変更の理由にならない。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法(e-Gov法令検索)及び民事訴訟規則(e-Gov法令検索)を確認した。
民事控訴審全体の案内は,控訴審の手続と主要論点を参照されたい。
本記事は一般的な整理であり,個別事件では控訴の範囲,記録及び提出先裁判所の運用を確認する必要がある。

(続きを読む...)民事控訴審の控訴理由書の書き方―原判決の誤り,証拠評価及び主張の組み立て(AI作成)

大阪高裁民事部主任決議集を令和8年の民事訴訟で使う方法―mints後も残る実務と旧紙運用(AI作成)

目次第1 結論及び資料の位置付け1 結論2 対象資料第2 令和8年5月21日前後で取扱いを分ける必要1 新事件2 旧事件3 民事執行等第3 旧紙運用を現在の実務へ読み替える方法1 提出方法,手数料及び郵便費用2 送達及び通知3 副本及び記録送付4 閲覧制限,秘密保持及び記録保存第4 電子化後も有用な主任決議集の学び1 書面の表題より内容を見ること2 当事者及び参加人ごとに期限を管理すること3 上訴理由書を自己完結させること4 記録の所在と緊急性を引き継ぐこと5 証明書等は目的から逆算すること第5 法律事務所の確認チェックリスト1 事件及び適用法令2 提出及び送達3 記録及び証拠第6 一次資料による裏付けの状況1 確認できた事項2 資料に記載されているが,現在の運用とは限らない事項3 本記事の推論4 未確認事項第7 関連記事及び出典1 関連記事2 出典
第1 結論及び資料の位置付け
1 結論

大阪高裁民事部の主任決議集からは,書類の題名ではなく内容に応じて処理すること,当事者及び参加人ごとに送達・提出期限を管理すること,記録の所在を確かめて緊急処理を引き継ぐことなど,電子化後も有用な実務上の視点を学ぶことができる。

他方,同決議集には,紙の事件記録,郵便切手,ファクシミリ,書類の編てつ及び紙の副本を前提とする記載が多い。令和8年5月21日に施行された改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則の下では,これらを現在の取扱いとしてそのまま用いることはできない。

したがって,同決議集は,現在の法令又は大阪高裁の現行運用を証明する資料ではなく,令和3年3月15日時点の内部事務資料として読み,現行法令及び裁判所の公式案内と照合して利用すべきである。

2 対象資料

本記事の対象は,大阪高裁民事部の主任決議集(令和3年3月15日改訂)である。

このPDFは,大阪高裁民事部における主任書記官の決議又は申合せを集約したものと読める。しかし,裁判所ウェブサイトで公開された法令・通達又は裁判例ではなく,大阪高裁の現行版原本との同一性も確認できていない。

そのため,個別事件で裁判所の取扱いを予測する資料としては有用であるものの,法的根拠を示す場合は,民事訴訟法,民事訴訟規則,裁判所の公式案内及び必要に応じて判例を別途確認する必要がある。

第2 令和8年5月21日前後で取扱いを分ける必要
1 新事件

裁判所の「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」によれば,令和8年5月21日に改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則が施行された。

改正後の新事件では,弁護士等の訴訟代理人は原則としてオンラインで申立てその他の提出をし,手数料及び裁判所が定める費用も電子納付する。裁判所のシステムを利用した送達,電子訴訟記録の閲覧及び事件管理が制度の中心となる。

したがって,新事件について,主任決議集の郵便切手,紙の正本・副本,ファクシミリ提出,紙記録の編てつ順序等の記載を現在の通常運用として引用するのは適切でない。

2 旧事件

令和8年5月21日より前に提起された事件には経過措置がある。旧事件の上訴であっても,手続の各場面について新旧いずれの規定が適用されるかを,施行日だけで一律に判断することはできない。

とりわけ,上告,上告受理申立て,抗告並びに費用の予納については,改正後の民事訴訟規則及び附則に個別の経過措置がある。そのため,事件の第一審提起日,現在の審級及び対象手続を組み合わせて確認する必要がある。

3 民事執行等

裁判所の公式案内によれば,民事訴訟のデジタル化が全面施行された後も,民事執行,民事保全,倒産及び家事事件等のデジタル化は別の施行日程に従う。

主任決議集の内容を検討するときは,「民事訴訟がデジタル化されたから,全ての関連手続が同じ取扱いになった」と考えず,対象となる手続類型を先に確定する必要がある。

第3 旧紙運用を現在の実務へ読み替える方法
1 提出方法,手数料及び郵便費用

主任決議集では,窓口又は郵送による提出,収入印紙,郵便切手及びファクシミリを前提とする記載が多い。

現在は,まず事件が新事件か旧事件か,提出者がオンライン提出義務者か,対象書面がシステム提出の対象かを確認する。その上で,手数料及び費用の電子納付の要否,紙提出が許される例外並びに旧事件の取扱いを確認する。

上訴の具体的な提出先,提出時期及びmints上の操作は,mintsで控訴・上告・上告受理申立てをする方法で整理している。

2 送達及び通知

主任決議集の郵便送達及びファクシミリ送信に関する記載は,現在のシステム送達へ機械的に置き換えることはできない。

現行の民事訴訟規則189条は,上告提起通知書について,原則として裁判所の使用に係る電子計算機から送達すべき電子書類を当事者のファイルへ記録する方法を定める。もっとも,システム送達の通知メールは送達そのものではなく,送達の効力発生時点は法令に従って別に判定する必要がある。

期限管理では,メール受信日時だけでなく,事件管理画面の送達記録及び対象書類を確認する。詳しくは,mintsのシステム送達と期限管理で説明している。

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大阪高裁民事部「執務上の留意事項(集約版)」から学ぶ民事訴訟の事故防止(AI作成)

目次第1 資料の位置付けと限界第2 事件・当事者・代理権第3 提出・申出・採否・取調べ第4 期日後の調書・目録第5 送達・期限第6 判決・和解調書を債務名義として点検する第7 秘匿情報・個人番号第8 家事事件の別事件資料第9 紙手続からmintsへの読み替え第10 弁護士向けチェックリスト第11 根拠・資料レベル第12 関連記事

大阪高等裁判所民事部の「執務上の留意事項(集約版)」には,事件表示,送達,証拠目録,調書,判決書及び家事事件の記録などについて,裁判所内部で経験された事務上の事故と確認事項がまとめられています。本記事は,その記載を弁護士側の事故防止策へ読み替えます。ただし,同文書は法令,最高裁判所規則又は裁判例ではなく,掲載PDFの取得経路・真正も本記事作成時点では独立に確認していません。したがって,文書の記載,法的根拠及び本記事の実務提案を区別します。2026年9月16日現在の内容です。

第1 資料の位置付けと限界

対象資料は,平成30年度から令和4年度までの「執務上の留意事項」を集約した,令和6年3月の大阪高等裁判所民事部の文書と表示されています。各項目は,裁判所の内部事務における留意点を示したものであり,当事者又は代理人の手続上の権利義務を直接定めるものではありません。

本記事では,情報の性質を次のように分けます。

法令で確認できる事項―民事訴訟法,民事訴訟規則等に根拠があるもの。
資料の記載―対象資料が過去の事故又は留意事項として述べるもの。
本記事の実務提案―資料の記載から弁護士側の確認工程を導いたもの。
未確認事項―個別の裁判例,現在の全国統一運用又は掲載PDFの来歴について一次資料の確認が終わっていないもの。

第2 事件・当事者・代理権

訴状,答弁書,委任状,登記事項証明書及び裁判所から届いた書面を横断して,次の事項を照合します。

裁判所,部係,事件番号及び事件名
当事者の氏名・名称,住所,本店所在地及び法人番号
代表者の資格,役職及び変更の有無
代理人の委任範囲,復代理及び特別授権の要否
送達場所及び送達受取人

同姓同名,法人の商号変更,合併,代表者変更又は関連事件がある場合には,「名称が似ている」ことを照合の根拠にせず,事件番号と登記事項等の客観的識別子を用います。

第3 提出・申出・採否・取調べ

証拠ファイル又は写しを提出したことと,期日で証拠申出がされ,裁判所が採否を判断し,実際に証拠調べが行われたことは別です。代理人側の管理表には,少なくとも次の欄を分けて設けるのが安全です。

提出日,提出先及び提出方法
相手方への直送又は閲覧可能性

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上告審から逆算する民事上訴の提出前チェックリスト―当事者・代理権・送達・理由書・記録・秘匿(AI作成)

目次第1 本記事の目的及び資料の位置付け第2 最初に確認する当事者・代表者及び代理権1 当事者の同一性と上訴の主体2 法人等の代表者3 代理権及び特別授権第3 送達と期限を確定する1 上訴期間と理由書提出期間を分ける2 送達日と送達先を記録する第4 理由書で区別すべき三つの場面1 期限内に法定理由が存在しない場合2 法定理由はあるが記載方式が不備の場合3 理由の当否及び受理の重要性を判断する場合第5 理由書を自足的にする1 上告と上告受理申立てを区別する2 他の書面又は他人の理由へ丸投げしない第6 不服の範囲と記録の完全性1 主文と不服申立ての範囲2 裁判体,期日及び調書第7 閲覧制限・秘匿及びマスキング第8 代理人用の提出前チェックリスト第9 関連記事第10 出典
第1 本記事の目的及び資料の位置付け

本記事は,最高裁判所へ送付された上告事件及び上告受理申立て事件の記録について指摘された事項を,代理人側の提出前チェックに置き換えて整理するものである。
中心資料は,上告審から見た書記官事務の留意事項(令和6年分)である。

同資料は,当事者・代表者・代理権,送達,理由書,記録編成,閲覧制限及び秘匿等について,実際に生じやすい不備を広く挙げている。
もっとも,同資料には作成部署,決裁主体及び配布範囲を示す表紙又は発出文書が収録されていないため,裁判所の公式通達又は一般的な法解釈そのものとして扱うことはできない。

そこで,法令及び裁判例に関する結論は,現行の民事訴訟法,裁判所が公表する民事訴訟規則及び確認できた裁判例で裏付ける。
同資料だけで確認した事項は,「同資料は」と主語を明示して紹介する。

第2 最初に確認する当事者・代表者及び代理権
1 当事者の同一性と上訴の主体

上訴状を作成する前に,原判決の当事者欄,主文,訴訟承継,参加,脱退及び選定当事者に関する記録を突き合わせる必要がある。
名称が似ている者,途中で地位を承継した者又は複数の選定者がいる事件では,原審の表示を機械的に転記するだけでは足りない。

選定当事者については,選定書,選定者全員,自己選定の有無,選定の取消し及び資格喪失の有無を確認する。
必要的共同訴訟である可能性があるときは,上訴しなかった共同訴訟人を含めて通知及び記録送付の対象に漏れがないかを検討する。

2 法人等の代表者

法人,医療法人,社会福祉法人,事業協同組合及び地方公共団体等については,名称や通常の代表者だけから訴訟上の代表者を決めない。
請求の相手方及び内容によって代表権者が変わることがあるため,根拠法令,登記,定款又は規約を確認する。

特に,会社と取締役又は退任取締役との間の訴えでは,監査役設置会社か,監査役の監査範囲を会計に限定する定款の定めがあるか等によって検討が分かれる。
上訴段階では,第一審開始時だけでなく,上訴時点の代表資格も確認する必要がある。

3 代理権及び特別授権

委任状が提出されていることだけでなく,当該訴訟代理権が上訴提起,取下げ又は和解等の対象行為まで及ぶかを確認する。
訴訟代理権の消滅又は終了の通知が相手方に到達しているかによって,その効力及び送達先の判断が変わり得る。

上告提起通知書等が本人と代理人のいずれに送達されるべきかは,代理権の存否と一体で確認する。
当事者表示,代理権証明及び送達先を別々のチェック項目にせず,一つの連鎖として点検することが重要である。

第3 送達と期限を確定する
1 上訴期間と理由書提出期間を分ける

判決書の送達を受けた日から2週間の上告期間と,上告提起通知書の送達を受けた日から50日の上告理由書提出期間は,起算点も期間の性質も異なる。
上告期間は不変期間である一方,理由書提出期間は不変期間ではない。

現行の民事訴訟規則194条は,電子上告提起通知書の送達を受けた日から50日を上告理由書の提出期間と定めている。
上告受理申立てについても,同規則199条2項により,同規則194条等が準用される。

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東京高裁の民事控訴-原判決の取消・変更率,和解率及び審理期間(令和7年度)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料の読み方1 対象となる資料2 統計を「控訴成功率」と読まないこと第2 民事控訴事件の終局内訳1 令和6年の通年値2 令和7年1月から9月まで第3 第一審判決の取消し・変更率1 令和6年及び令和7年の数値2 個別事件の見通しに使う場合の限界3 全国の民事控訴審との比較第4 民事控訴事件の審理期間1 令和6年に終局した事件2 令和6年末の未済事件第5 家事抗告事件と多数冊事件1 家事抗告事件の増加2 多数冊事件の基準変更第6 弁護士実務への示唆1 依頼者への説明2 受任時及び控訴理由作成時の確認事項第7 出典及び関連記事1 一次資料2 関連記事
第1 この記事の対象と資料の読み方
1 対象となる資料

1 この記事は,東京高裁民事部が作成した「令和7年度民事事件概況説明資料」(令和7年12月19日付け。以下「本資料」といいます。)のうち,民事控訴事件の終局区分,第一審判決の取消し・変更,審理期間,家事抗告事件及び多数冊事件に関する部分を整理したものです。
2 本資料の令和7年の数値は,原則として同年9月30日までの実績又はその時点の事件を対象としています。令和6年の通年値と令和7年1月から9月までの値を比較するときは,対象期間が異なることに注意する必要があります。
3 以下で「資料記載」とした部分は本資料の記載又は表から直接確認できる事項,「計算値」とした部分は本資料の数値から私が計算した事項です。

2 統計を「控訴成功率」と読まないこと

1 本資料の「取消・変更率」は,当審判決のうち,第一審判決が取り消され,又は変更されたものの割合です。控訴審で終局した全事件を分母にした割合ではありません。
2 また,取消し・変更には,請求の全部が認められた場合だけでなく,一部変更その他の類型が含まれ得ます。そのため,この率を,控訴人が全面的に勝った割合又は個別事件の見通しと読み替えることはできません。
3 和解,取下げその他によって終局した事件も相当数あるため,判決だけを見ても控訴審全体の解決像は分かりません。

第2 民事控訴事件の終局内訳
1 令和6年の通年値

1 本資料16頁の第11表の1によれば,令和6年に東京高裁で終局した民事控訴事件は5995件でした。
2 内訳は,判決3826件(63.8%),和解1566件(26.1%),取下げその他603件(10.1%)です。判決以外による終局が合計36.2%を占めています。
3 したがって,控訴審の説明では,判決結果だけでなく,和解による解決可能性及び取下げ等による終局も別に検討する必要があります。

2 令和7年1月から9月まで

1 本資料16頁によれば,令和7年1月から9月までに終局した民事控訴事件は4468件でした。
2 内訳は,判決2754件(61.6%),和解1239件(27.7%),取下げその他475件(10.6%)です。各割合の合計が100%にならないのは,表示上の端数処理によります。
3 これは9か月分の途中集計であり,令和7年の通年値ではありません。

第3 第一審判決の取消し・変更率
1 令和6年及び令和7年の数値

1 本資料13頁の第9表の1及び14頁の第9表の2によれば,令和6年は,当審判決3826件のうち755件で第一審判決が取り消され,又は変更され,その割合は19.7%でした。
2 令和7年1月から9月までは,当審判決2754件のうち537件で第一審判決が取り消され,又は変更され,その割合は19.5%でした。
3 いずれも分母は「当審判決」であり,和解,取下げその他を含む全既済事件ではありません。

2 個別事件の見通しに使う場合の限界

1 取消し・変更率は,事件類型,争点,証拠関係,控訴理由の内容及び原判決の認定判断によって大きく意味が変わります。
2 したがって,19.5%又は19.7%という全体値だけから,特定事件の控訴結果を予測することはできません。
3 実務上は,原判決のどの認定又は法的評価を問題とするのか,新たな主張又は証拠を提出できるのか,変更を求める範囲をどのように特定するのかを,記録に即して検討する必要があります。
4 本記事は統計資料の読み方を整理するものであり,民事控訴の法的要件又は個別判例の射程を論じるものではありません。そのため,本記事の統計値について判例秘書は使用していません。

3 全国の民事控訴審との比較

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民事訴訟の証拠収集法制見直し―早期開示・文書提出命令・秘密保護の現在地(AI作成)

目次第1 法制審議会への諮問後の現在地第2 見直しが検討された背景第3 提訴前の証拠収集手続1 現行法の入口2 被告の特定・送達先情報第4 提訴後の当事者間情報取得1 三つの案2 交通事故等で想定される利用場面第5 文書提出命令の見直し1 現行法の構造2 自己利用文書等の見直し3 文書を特定する手続4 法律相談通信と訴訟準備資料の扱い第6 専門家その他の第三者の知見第7 秘密保持命令と第三者の秘密保護1 検討案の内容2 現行実務での対応第8 弁護士実務で今から準備できること第9 一次資料と裁判例の確認状態第10 出典
第1 法制審議会への諮問後の現在地

公益社団法人商事法務研究会の「証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会」は,令和8年2月に報告書を取りまとめ,同年4月28日に誤植訂正版を公表した。
同報告書は,民事訴訟における情報・証拠収集を,①準備としての収集,②立証としての収集,③専門家等の知見の収集,④秘密の保護という段階に分けて検討している。

令和7年度実務協議会(冬季)資料も,同研究会で文書等の早期開示制度や文書提出命令の見直し等が検討されていることを紹介している(PDF実頁14頁)。
もっとも,研究会報告書は立法上の検討資料であり,同報告書の案がそのまま成立法又は施行済み制度になったわけではない。

その後,令和8年9月14日に開催された法制審議会第206回会議において,法務大臣から発せられた「民事訴訟制度の見直しに関する諮問第131号」を,新設の「民事訴訟法(証拠収集等関係)部会」に付託して審議することとされた。
同会議の配布資料は,主な検討事項として,訴えの提起前における証拠等の収集手続,訴状の送達前における被告に関する情報の収集手続,訴え提起後における当事者間での情報の収集手続,文書提出命令,専門的知見の収集手続及び秘密の保護を挙げている。
現在の段階は,研究会報告書を踏まえて法制審議会の部会で審議が始まる段階であり,部会での審議,要綱案,答申,法案の提出,成立,公布及び施行は区別して追う必要がある。

したがって,以下では,現行民事訴訟法に基づく制度と研究会の検討案を分けて説明する。
「早期開示を請求すれば相手方に提出義務がある」などと,検討案を現在の権利として主張することはできない。

第2 見直しが検討された背景

報告書は,平成8年改正による文書提出義務の一般義務化と当事者照会の新設,平成13年・15年の改正後も,真実解明のための手段を充実させる必要性が指摘されてきたと説明する。
また,情報・証拠収集制度の強化,既存制度の実効性及び秘密保護を一体として検討する必要性を挙げる(報告書PDF実頁2頁~3頁)。

証拠収集を広げれば,当事者が事案を早期に把握し,争点を絞りやすくなる。
一方,広すぎる開示義務は,探索的な要求,営業秘密・私生活上の秘密の流出,第三者の負担及び審理の遅延を生じさせ得る。
このため,開示の必要性,対象の特定,負担,除外事由及び秘密保護を組み合わせて制度設計することが課題となる。

第3 提訴前の証拠収集手続

1 現行法の入口

現行民事訴訟法132条の2以下は,訴え提起前の照会及び証拠収集の処分を定めている。
報告書は,これらの手続が実務上あまり利用されていないという認識を示し,提訴予告通知,申立期間,必要性及び当事者自身による収集困難性等の要件や効果を見直すかを引き続き検討するとした(報告書PDF実頁3頁~5頁)。

報告書は,提訴予告通知を不要とする案について制度趣旨や他制度との均衡に問題があり,具体的方向を見いだすまでに至らなかったことも明記している。
したがって,「提訴前手続が廃止される」「通知なしで相手方に開示を強制できるようになる」と確定的に説明することはできない。

2 被告の特定・送達先情報

報告書は,訴状送達前に,裁判所が官公署等へ被告の氏名・住所等を調査嘱託する新制度や,執行官が送達場所を調査する制度を提案している(報告書PDF実頁5頁~19頁)。
インターネット取引や詐欺被害で相手方の氏名・住所を把握しにくい事案を背景とする。

これも検討案である。
現時点の受任事件では,把握している相手方情報,弁護士会照会,住民票等の職務上請求,既存の調査嘱託,送達方法等を現行法に基づいて検討し,将来制度の利用を前提に提訴期限や保全を遅らせてはならない。

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簡易裁判所の民事訴訟―地方裁判所との違いと交通事故事件の争点整理(AI作成)

目次第1 簡易裁判所で扱う民事事件第2 通常訴訟,少額訴訟及び民事調停を選び分ける第3 簡易裁判所の通常訴訟にある特則1 口頭による訴え等2 司法委員の関与第4 交通事故事件の争点整理1 四つの欄を先に作る2 事故態様は時系列と図面を一致させる3 過失と損害を混ぜない第5 地裁の書式を参考にする場合の注意第6 資料の限界と裁判例の確認状態第7 出典
第1 簡易裁判所で扱う民事事件

簡易裁判所は,原則として訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求事件について第一審の裁判権を有する。
もっとも,簡易裁判所で利用できる手続には通常訴訟,少額訴訟,民事調停及び支払督促があり,目的と進め方が異なる。

令和8年2月の令和7年度実務協議会(冬季)資料は,本人訴訟の難化と,弁護士保険の普及を背景とした交通損害賠償訴訟等の弁護士関与事件の増加を簡裁の課題として挙げる。
その上で,地裁の審理・判決に慣れた弁護士にも,簡裁の簡易迅速な役割と手続上の特則を理解してもらう必要があるとしている(PDF実頁6頁)。

法務省が法曹養成制度改革連絡協議会第26回(令和8年3月3日)に提出した司法統計の資料によれば,令和6年の簡裁の民事第一審訴訟の既済事件417,083件のうち,当事者の双方に弁護士が付いていない事件は343,612件(82.4%)であった。
この数には司法書士が代理した事件も含まれる。
地裁との比較や推移は,民事訴訟で弁護士が付く割合と本人訴訟の割合―地裁・簡裁・人事訴訟・遺産分割・婚姻関係事件の推移(平成元年~令和6年)で扱っている。

この資料は司法行政上の課題認識を示すものであり,個別事件の証明度,過失割合又は損害額を定めるものではない。
簡易迅速という目的から,必要な主要事実や証拠を省略してよいという結論も導かれない。

第2 通常訴訟,少額訴訟及び民事調停を選び分ける

手続主な対象・特徴選択時に確認する事項通常訴訟判決による権利判断を求める。簡裁には簡易な手続の特則がある事実・法律上の争点,証拠調べ,控訴の可能性少額訴訟60万円以下の金銭請求について原則1回の審理で解決を図る最初の期日までの全主張・証拠,即時に調べられる証拠,通常手続への移行可能性民事調停非公開の話合いにより,実情に即した合意を目指す金額以外の条件,履行可能性,関係維持,合意できない場合の次の手続支払督促書類審査から金銭等の支払を求める相手方の異議見込み,送達先,訴訟移行時の対応

少額訴訟は,60万円以下の金銭請求について原則1回の審理で紛争解決を図る制度である。
最初の期日までに全ての言い分と証拠を提出し,証拠はその場ですぐに調べられるものに限られるため,単に金額が少ないという理由だけで選ぶべきではない。

交通事故事件で事故態様,因果関係,休業損害,後遺障害等に多くの争いがあり,追加の証拠調べを要する場合には,通常訴訟又は他の手続が適することがある。
少額訴訟の判決に異議が申し立てられた場合は同じ簡易裁判所で通常手続による審理が行われ,その異議後の判決に対する控訴は認められていない。

第3 簡易裁判所の通常訴訟にある特則

1 口頭による訴え等

民事訴訟法は,簡易裁判所の訴訟手続について,口頭による訴えの提起,請求原因に代えて紛争の要点を明らかにする方法,準備書面を提出しない場合の口頭弁論前の準備等の特則を置いている。
これらは本人にも利用しやすい手続を整える趣旨である。

弁護士が関与する事件では,特則があることを踏まえつつ,相手方と裁判所が短時間で争点を把握できる書面を提出することが望ましい。
特則の存在は,請求原因や抗弁の要件を曖昧にしてよいという意味ではない。

2 司法委員の関与

簡易裁判所は,必要があると認めるとき,司法委員を審理に立ち会わせて和解を試みる補助をさせ,事件について意見を聴くことができる。
司法委員の役割,選任,忌避及び裁判例は,既存記事「簡易裁判所の司法委員―役割,選任,忌避及び関連裁判例(AI作成)」で説明している。

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民事訴訟の争点整理―主要事実・証拠・判決の道筋を期日前に整理する方法(AI作成)

目次第1 争点整理は判決に必要な判断対象を明らかにする作業である第2 主要事実,間接事実及び証拠を分ける1 請求原因・抗弁等から主要事実を取り出す2 認否と理由を事実ごとに対応させる3 証拠から事実までの推認過程を書く第3 期日前に確認する事項第4 検討結果を準備書面と期日の説明へ反映する1 一つの節で一つの判断対象を扱う2 期日で確認する事項を絞る3 期日間の投稿と書面の提出期限4 争点整理後の新主張・証拠を処理する第5 証拠説明書及び新様式判決との関係第6 法的根拠と資料の限界第7 出典
第1 争点整理は判決に必要な判断対象を明らかにする作業である

争点整理では,当事者の主張を短くすること自体ではなく,裁判所が判決をするために判断しなければならない事実と法律問題を明らかにする。
令和8年2月5日・6日の令和7年度実務協議会(冬季)資料「民事・行政事件の現状と課題」は,審理の序盤に主要事実レベルの争点と今後の主張立証の見通しを口頭で協議し,中盤には判決の結論・理由の道筋を意識して判断対象を共有するという審理運営を示している(PDF実頁5頁)。

同資料は裁判所内部の実務協議会資料の公開写しであり,法令又は判決ではない。
本記事は,この問題意識を代理人の準備へ応用した確認方法を説明するものであり,裁判所が指定する証拠説明書その他の書式とは区別している。

第2 主要事実,間接事実及び証拠を分ける

1 請求原因・抗弁等から主要事実を取り出す

主要事実とは,請求原因,抗弁,再抗弁等の法律効果の発生に直接必要となる具体的事実である。
まず,請求,抗弁等の法的構成を選び,その要件ごとに主要事実を一文で記載する。

契約書があるという事実や供述が信用できるという評価は,それだけでは請求原因ではない。
法的要件,主要事実,主要事実を推認させる間接事実及び証拠を別欄に置くと,書面の不足を発見しやすくなる。

2 認否と理由を事実ごとに対応させる

相手方の主張については,認める,否認する,不知のいずれかだけで終わらせず,否認する主要事実には可能な範囲で理由を対応させる。
複数の事実をまとめて「争う」とだけ記載すると,どの事実が証拠調べの対象になるのかが見えにくい。

認否を整理すると,当事者間で一致している事実,証拠が必要な事実及び法律評価だけが争われている部分を区別できる。
期日では,この区別を前提に,次に何を主張・立証すれば判断可能になるかを確認する。

3 証拠から事実までの推認過程を書く

証拠欄には証拠番号だけでなく,引用する頁,段落,日付,メール件名又は画像上の位置まで記載する。
次に,その記載又は映像から,どの事実を,どのような経験則で推認するのかを書く。

同じ証拠でも,契約締結そのものを直接示す場合と,当事者の行動から契約締結を間接的に推認させる場合とがある。
証拠が直接示す内容と,そこから導く評価を分ければ,推論の飛躍や反証の必要性を点検できる。

第3 期日前に確認する事項

期日前には,①請求・抗弁等の法的構成,②主要事実,③相手方の認否と理由,④証拠の該当箇所,⑤証拠から事実への推認過程,⑥不利な事情・反証,⑦未解決点,⑧次回までの作業という順序で確認する。
この順序で検討すると,証拠を先に大量に並べた後で立証対象が分からなくなる事態を避けやすい。

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資産額と「実際に払える額」は違う-和解・財産分与・代償分割の支払能力チェック(AI作成)

第1 資産額と支払能力は同じではない1 この記事が扱う場面2 六つの確認軸第2 資産別に「実際に使える額」を確認する1 預貯金2 上場株式・投資信託その他の金融資産3 不動産4 保険、退職金、事業及び法人関係財産第3 収入と一括払いの原資を分ける1 高収入でも一括払いできるとは限らない2 分割払いは各月の資金繰りを確認する第4 手続ごとの確認事項1 民事訴訟上の和解2 離婚に伴う財産分与3 遺産分割における代償分割第5 支払能力を裏付ける資料1 支払う側が準備する資料2 受け取る側が確認する事項第6 合意・条項で不履行に備える1 担保と保証2 免除・清算・保全処分の時期3 不履行時の効果第7 開示は目的・相手・時期・範囲を設計する第8 支払能力の最終チェックリスト第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判所・法務省の資料3 裁判例
第1 資産額と支払能力は同じではない
1 この記事が扱う場面

訴訟上の和解、離婚に伴う財産分与及び遺産分割における代償分割では、「相手には資産があるから支払える」「年収が高いから一括払いできる」と考えてしまうことがある。
しかし、保有資産の名目額と、合意した期限までに現実に支払へ充てられる額は一致しない。

本記事は、令和8年9月15日現在の法令及び公的資料を基準に、支払能力を、①名目額、②時価、③換価可能性、④所有・処分権限、⑤負担控除後の正味額、⑥支払期限までの資金化という六つの観点から確認する方法を整理する。
個別事件の相当な支払額又は分与額を示すものではない。

2 六つの確認軸

第1は、資料に記載された名目額である。
預貯金残高、証券口座の評価額、固定資産評価額、保険の解約返戻金見込額などは、同じ「金額」でも基準日と意味が異なる。

第2は、現在の時価である。
不動産の固定資産評価額や取得価格は、現在の売却価格と同じではない。
上場株式等も日々価格が変動する。

第3は、必要な時期までに換価できるかである。
資産価値があっても、売却、解約、融資又は名義変更に時間がかかれば、直近の支払期限には使えない。

第4は、誰が所有し、誰が処分を決められるかである。
法人の預金は代表者個人の預金ではなく、共有財産は一人の判断だけで処分できないことがある。

第5は、担保債務、税金、売却費用その他の負担を控除した正味額である。
総資産が大きくても、これらを控除すると支払原資が小さくなることがある。

第6は、支払う意思と手続を具体化できるかである。
支払口座、換価手続、融資申込み、社内決裁等が決まっていなければ、「支払える」という説明だけで期限どおりの履行を見込むことはできない。

第2 資産別に「実際に使える額」を確認する
1 預貯金

預貯金は流動性が高いが、残高証明書又は通帳の一時点の残高だけでは足りないことがある。
既に支払が予定されている税金、給与、買掛金、生活費、借入返済等を確認し、口座名義、基準日、差押え又は担保の有無も確認する。

事業用口座と生活用口座が混在している場合は、残高全額を自由に使える個人資産として扱わず、入出金の性質を分ける必要がある。

2 上場株式・投資信託その他の金融資産

金融資産については、評価額だけでなく、取得価額、含み損益、売却手数料、税金、受渡日、担保設定及び出金制限を確認する。
NISA口座であることは非課税投資枠の取扱いに関係するが、売却後の資金をいつ出金できるかは金融機関の手続にも左右される。

証券口座の残高増加を検討するときは、値上がり益だけでなく、入金、移管、配当再投資及び為替変動を分ける必要がある。

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名古屋地裁の令状事務処理の手引(七訂版)-令状の点検項目,記載例及び現行法への読み替え(AI作成)

目次第1 手引の概要と本記事の範囲1 作成主体と版の沿革2 本記事の基準日と頁の示し方第2 令状事務の流れと書記官による点検1 受付から交付までの流れ2 書記官による点検の範囲3 撤回,却下及び令状の更新第3 令状の種類ごとの主な記載と取扱い1 通常逮捕状と逮捕状に代わるもの2 緊急逮捕状3 捜索差押許可状,捜索許可状,差押許可状及び検証許可状4 身体検査令状,鑑定処分許可状及び身体からの採取5 電磁的記録に関する令状6 行政手続の令状,引致状及び保護許可状第4 現行法への読み替え1 読み替えが必要な主な箇所2 公訴時効の一覧表の注意点3 今後の改正予定第5 黒塗り箇所と旧版との比較1 黒塗り又は空白となっている主な箇所2 四訂版からの主な変更点第6 関連資料と関連記事1 同じ手引の旧版と抜粋2 他の裁判所の令状事務資料3 関連記事第7 出典
第1 手引の概要と本記事の範囲
1 作成主体と版の沿革
(1) 手引の構成

「令状事務処理の手引」は,名古屋地方裁判所刑事書記官室及び名古屋簡易裁判所刑事書記官室が,当直員を含む令状事務の担当職員のために作成した執務資料である。
名古屋地裁の令状事務処理の手引(七訂版,令和6年2月補訂)はPDFで全125頁であり,総論,令状の種類ごとの各論,当直用チェック票,記載例及び資料(公訴時効,令状の有効期間一覧表,少年触法事件の参考書式)から成る。

(2) 各版の改訂内容

各版のはしがきによれば,改訂の経過は次のとおりである。
① 平成20年3月に,名古屋簡裁刑事書記官室が改訂版を作成した。
② 平成27年3月の三訂版で,平成23年の刑事訴訟法改正による新たな令状(平成24年6月22日施行)を盛り込んだ。
③ 平成28年9月の四訂版で,名古屋の高裁・地裁・家裁の当直令状事務の見直しを反映し,平成30年4月及び同年9月に補訂した。
④ 令和3年12月の五訂版で,特別法違反の令状等に罪名に係る条文を記載しない取扱い(同年3月1日から)等を反映した。
⑤ 令和5年7月の六訂版で,通常逮捕状,緊急逮捕状及び引致状を除く令状について,請求時に請求書謄本の添付を求めない取扱い(同月3日から)を反映した。
⑥ 令和6年2月の七訂版で,同月15日施行の刑事訴訟法改正に伴い,被害者等の個人特定事項を秘匿するための「逮捕状に代わるもの」の手続を追加した。

(3) 資料としての位置付け

手引は裁判所の内部の執務資料であり,法令の解釈を公式に示す資料ではない。
三訂版のはしがきも,踏み込んだ法解釈や理論的な部分については,裁判所職員総合研修所の研修教材である『令状事務(再訂補訂版)』等の専門書を参照するよう求めている。
記載されている取扱いは,令和6年2月時点の名古屋地裁・名古屋簡裁のものであり,他の裁判所の取扱いが同じであるとは限らない。

2 本記事の基準日と頁の示し方

本記事は,令和8年9月14日現在の法令に基づき,手引の内容を紹介した上で,その後の法改正により読み替えが必要な箇所を示すものである。
手引の頁は本文下部に印字された頁で示し,PDFの頁を併記する。
本文の印字頁は,PDFの頁から9を引いた数に当たる。

掲載されているPDFには,黒塗り又は空白となっている箇所がある。
主な箇所は,第5で整理する。

第2 令状事務の流れと書記官による点検
1 受付から交付までの流れ
(1) 事前準備と立件

警察署等から令状請求の事前連絡を受けたときは,請求官署名,令状の種類,通数,緊急性の有無及び到着予定時刻を聞き,緊急逮捕の場合は被疑罪名,逮捕時刻及び引致時刻も聞いた上で,定型用紙を準備しておくとよいとされている(手引4頁,PDF13頁)。
令状請求書には受付日付印を押し,受付時刻を24時間表示で記入して立件する(手引6頁~7頁,PDF15頁~16頁)。
当直で立件する一般令状事件の符号は,地裁の裁判官が担当する場合は「令む」,簡裁の裁判官が担当する場合は「令る」とされている(手引7頁,PDF16頁)。

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司法研修所弁護教官及び弁護教官室所付の謝金,及び日弁連の経済的支援

1(1) 「弁護教官等の謝金について」を以下のとおり掲載しています。
(令和時代)
令和2年度,令和3年度,令和4年度,令和5年度,
令和6年度,
令和7年度,
(平成時代)
平成29年度,平成30年度,平成31年度
* 「令和4年度の弁護教官等の謝金について(令和4年4月1日付の司法研修所の文書)」といったファイル名です。
(2) 司法研修所弁護教官謝金の支給調書も参照してください。

2 日弁連は,司法研修所の弁護教官に対して月額6万円,司法研修所弁護教官室所付に対して月額4万円を支払っています(司法研修所弁護教官及び弁護教官室所付に対する経済的支援に関する規則(平成28年1月22日規則第173号))。

3 最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)644頁には,「弁護教官謝金」として以下の記載があります。
<要求要旨>
(ア) 司法修習のうち,中央(司法研修所)における修習は,導入修習及び集合修習をそれぞれクラスに分けて実施する。各クラスに民事裁判,刑事裁判,検察,民事弁護及び刑事弁護の5科目の教官を1人ずつ配置する。民事弁護及び刑事弁護を担当する弁護教官は,最高裁判所から司法研修所教官の事務を委嘱された弁護士であり,いずれも本業である弁護士の業務にも従事しているが,単に司法研修所において講義,起案講評等を行うのみならず,司法修習生に起案させた訴状,準備書面,弁論要旨等の法律文書の添削,講義・講評の事前の打合せ(合議),修習記録として使用する事件記録等の収集・編集,テキスト等の教材の作成等にも従事し,また,クラスの裁判教官・検察教官とともに,司法修習生の全人格的な指導に当たり,さらに,教官会議や各種委員会に出席して,司法研修所の運営にも関与している。このように,弁護教官の事務は,その内容も専門職の養成指導という高度の知的作業を含む多岐にわたるもので,これによる拘束時間も必然的に長時間に及ぶものであって,弁護教官は,本来の弁護士業務を相当程度犠牲にして弁護教官事務に従事しているのが実情である。
   なお,このような弁護教官の負担を軽減するため,教官を補助して下調べ的な事務を行う弁護所付を配置しているが,弁護所付も最高裁判所から教官の事務の補助を委嘱された弁護士であり,弁護教官と同様,本来の弁護士業務を相当程度犠牲にしている。
(イ) 令和4年度には,司法研修所において,2年次生1,523人及び1年次生1,492人に対する修習を行うことになる。
   そこで,同年度における弁護教官の講義・講評・起案添削等に対する謝金として,必要な予算措置を要求する。

R070623 最高裁の不開示通知書(司法研修所教官室内で共有されているマニュアル)を添付しています。 pic.twitter.com/LseTRc9KHp

— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) June 26, 2025

令和7年度実務協議会(冬季)

目次

1 令和8年2月5日及び6日に開催された実務協議会の資料
2 「家庭裁判所の現状と課題」から分かること
3 資料を利用する際の基準日と法的性格
4 関連記事その他

1 令和8年2月5日及び6日に開催された実務協議会の資料

① 日程表
② 出席者名簿
③ 民事・行政事件の現状と課題
④ 刑事裁判官の支援
⑤ 家庭裁判所の現状と課題
⑥ 裁判所職員総合研修所(総研)の概要
* 令和7年度実務協議会(冬季)に関する文書として一本化した資料も掲載している。

2 「家庭裁判所の現状と課題」から分かること

① 令和6年の家事事件及び人事訴訟事件の新受件数は合計121万7392件であり、内訳は家事審判事件104万2229件、家事調停事件12万8472件等である。
② 夫婦関係調整調停の令和6年平均審理期間は6.8か月、平均期日間隔は1.9か月であり、平成20年の4.3か月、1.4か月から長期化している。
③ 令和6年に終局した人事訴訟事件の平均審理期間は14.8か月である。離婚事件では、財産分与の申立てがある事件が19.2か月、ない事件が12.9か月である。
④ 同資料は、家族法改正への対応、家事調停の合理的な運営、家庭裁判所調査官の専門性、成年後見事件の適正処理、デジタル化等を家庭裁判所の課題として挙げている。
⑤ これらの数値は既済事件等の全国集計であり、個別事件の処理期間又は結果を予測する基準ではない。

3 資料を利用する際の基準日と法的性格

① 「家庭裁判所の現状と課題」は最高裁判所事務総局家庭局作成の司法行政資料であり、裁判所自身の統計及び課題認識を知る一次的資料である。ただし、法令又は判例ではない。
② 資料作成後、令和6年法律第33号による家族法改正は令和8年4月1日に施行された。資料中の「施行に向けた準備」との記述は、令和8年9月現在、そのまま現状を示すものではない。
③ 令和8年法律第45号及び第46号による成年後見制度の見直しは令和8年6月24日に公布されたが、成年後見関係の主要部分は令和8年9月現在未施行である。現行の後見・保佐・補助制度と将来制度を区別する必要がある。
④ 本記事は特定の判例命題を根拠としていないため、判例秘書による判例本文の確認は行っていない。

4 関連記事その他

① 実務協議会は、新たに地方裁判所長、家庭裁判所長又は高等裁判所事務局長を命ぜられた者を対象に、年2回開催される研修である(裁判官研修実施計画参照)。

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裁判所の定員が減ると,現場の人も減るのか―定員・現在員・欠員・振替・再任用の読み方(AI作成)

目次第1 定員の減少と現場の人数は分けて確認する1 令和9年度概算要求で分かること2 資料の時点と確認範囲第2 六つの数字を区別する1 法定員,予算定員及び配置定員2 級別定数,現在員及び勤務に充てられる人員第3 20人,101人及び71人の関係1 下級裁判所192人減と裁判所全体121人減は両立する2 71人の具体的な内訳3 101人の職種別内訳は別に確認する第4 欠員があれば定員削減の影響はないのか1 判事補の842人,660人及び182人2 直ちに20人の退職を意味しないことと,影響がないことは異なる第5 再任用短時間勤務職員の別表を落とさない1 121人減とは別に示された73人増2 頭数の差と常勤換算を混同しない第6 現場への影響を調べる資料の組合せ1 同じ対象と時点をそろえる2 同時に起きたことだけで原因を決めない第7 今後さらに確認すべき事項1 101人の配分と71人の実施内容2 要求,成立後の措置及び実施後の実態第8 出典・参考資料1 一次資料2 関連するブログ記事
第1 定員の減少と現場の人数は分けて確認する
1 令和9年度概算要求で分かること

裁判所の「定員が減る」という情報だけでは,翌年度に窓口,法廷又は調査業務を担当する職員が何人減るかは分からない。
定員は制度上又は予算上の人数の枠であり,実際に在職する現在員や,勤務時間・休業・応援体制を考慮した業務を担える人数とは区別する必要がある。
他方,現時点で欠員があるからといって,定員の削減が採用や将来の配置に影響しないとも断定できない。

令和9年度一般会計歳出概算要求書等の資料上73頁(PDF77頁)の予算定員表では,裁判所全体が121人減,下級裁判所が192人減,最高裁判所が71人増となっている。
この71人は,下級裁判所から最高裁判所への予算定員の振替である。資料に示された理由は,営繕組織の見直し,共済組合の組織統合・給与等事務の集約及び執務機構整備であり,裁判の現場から71人が実際に転勤することまで示した数字ではない。

2 資料の時点と確認範囲

本記事は,令和8年9月14日時点で確認した法令,最高裁判所の概算要求書及び国会会議録に基づき,数字の読み方を説明するものである。
令和9年度の数字は概算要求段階のものであり,成立予算,改正後の法定員,実施後の配置又は実際の現在員を示すものではない。

予算要求の内容は,最高裁判所作成の原資料で確認する。国会答弁は,答弁された人数や最高裁判所の説明を確認する一次資料であるが,答弁だけで個々の裁判所の勤務実態まで確認できるわけではない。
本記事の数値及び因果関係の説明に判例秘書掲載判例は用いていない。判例秘書の検索・収録本文照合も行っておらず,関係判例が存在しないとの判断を示すものではない。

第2 六つの数字を区別する
1 法定員,予算定員及び配置定員

裁判所職員定員法1条は,下級裁判所の裁判官の員数を,高等裁判所長官,判事,判事補及び簡易裁判所判事に分けて定めている。
同法2条は裁判官以外の裁判所職員の員数を定めるが,執行官,非常勤職員,2か月以内の期間を定めて雇用される者及び休職者を対象から除いている。法定員を,雇用形態等を問わない全職員の総人数と読むことはできない。

数字主に確認できることその数字だけでは分からないこと法定員法律が定める員数と対象範囲各庁の実際の配置,欠員及び勤務状況予算定員予算資料に計上された年度別・組織別の人数の枠実際の在職者数,個人の異動及び稼働時間配置定員通達等による各庁への人数の配分基準日現在の在職者,担当部・係及び応援の実績

法定員は全国の区分に関する数字であり,各庁の人数を確認するには配置定員資料が必要となる。予算定員表についても,対象年度,年度末か年度当初か,裁判官を含むか,再任用職員を含むかを表題と注記で確認する。
裁判官の配置定員と基礎定員・付加定員の具体例は,下級裁判所の裁判官の配置定員(令和7年4月)―平成28年との比較と現在員との違い(AIリライト)で扱っている。

2 級別定数,現在員及び勤務に充てられる人員
数字主に確認できること読み違えやすい点級別定数組織,俸給表,職名及び職務の級ごとの枠実際の在職者数や昇格率とは異なる。職名が複数の官職をまとめる場合もある現在員ある基準日に在職する人数休業・休暇,短時間勤務,兼務等の取扱いは資料ごとに確認が必要である勤務に充てられる人員・時間現在員に勤務時間,休業,応援及び担当業務を対応させた業務遂行能力頭数だけでは計算できず,集計方法を明示する必要がある

級別定数の推移は,裁判官以外の裁判所職員の級別定数に関する最高裁判所事務総局の本音の説明(AI作成)で扱っている。
例えば,ある級の定数が減っていても,その級に在職する職員が同じ人数だけ退職したとはいえない。昇格の難しさを論じる場合も,定数だけでなく候補者数,発令数及び選考条件が必要である。

第3 20人,101人及び71人の関係
1 下級裁判所192人減と裁判所全体121人減は両立する

令和9年度概算要求書の資料上73頁の予算定員表を,令和8年度末と令和9年度末の要求で比較すると,次のようになる。
「判事補20人減」は「下級裁判所全体で20人減」という意味ではない。

組織令和8年度末の予算定員令和9年度末の要求定員増減最高裁判所1183人1254人+71人下級裁判所2万4183人2万3991人-192人裁判所全体2万5366人2万5245人-121人

下級裁判所の192人減は,定員合理化101人,判事補減員20人及び最高裁判所への振替71人の合計である。

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令和9年度概算要求-裁判所職員101人の定員合理化と家裁調査官の増員の有無(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象,基準日及び資料の範囲2 結論第2 令和9年度概算要求の定員1 予算定員表では裁判所全体で121人減の要求である2 101人は俸給表及び級別にしか示されていない3 再任用短時間勤務職員は別表で73人増となっている第3 予算額は要求と要望を分けて読む必要がある1 概算要求本体は前年度予算を下回る2 家裁関係経費とデジタル関係経費は増額要求である第4 令和9年度概算要求書で家裁調査官の増員を確認できない背景として考えられる事情1 直前2年間に合計15人を増員している2 既存人員の事務分担を見直している3 改正家族法施行後の事件動向を見極める段階であった第5 事件統計から増員不要とは断定できない1 家事事件は件数だけでも増加要因がある2 少年事件は長期減少と直近増加の双方を見る必要がある3 203支部のうち調査官配置支部は113支部である第6 公表資料から導ける説明とその限界1 最も説明力のある三つの事情2 定員合理化の官職別理由はなお分からない第7 今後の検証に必要な資料1 令和9年度の最終定員を確認する資料2 家裁調査官の必要人数を検証する資料第8 出典・参考資料1 公文書・国会会議録2 統計・データ
第1 この記事の対象と結論
1 対象,基準日及び資料の範囲

この記事は,最高裁判所が公表した令和9年度概算要求について,裁判所職員101人の定員合理化と公表資料上における家庭裁判所調査官の増員の有無を,令和8年度までの定員措置,国会答弁及び事件統計と照合するものである。
調査の基準日は令和8年9月14日であり,令和9年度予算は概算要求の段階にあるため,政府予算案,成立予算又は令和9年度末の確定定員を扱うものではない。

本記事は生成AIを用いて公表資料を照合し,確認できた事実と資料からの推測を区別して整理したものである。
裁判所書記官の減員人数並びに家庭裁判所調査官の職種別定員の増減及びその理由を直接説明する最高裁判所の公表文書は確認できなかったため,公表資料で確認できる範囲を超えて理由を断定しない。

2 結論

令和9年度概算要求書の資料上73頁の予算定員表から直接確認できるのは,①同表の新規増員は0人,②下級裁判所の定員合理化は101人,③判事補の減員は20人,④下級裁判所から最高裁判所への振替は71人,⑤同表の裁判所全体の差引きは121人減という内容である。
同75頁には再任用短時間勤務職員の73人増が別に示されているため,これらをすべての任用形態における採用者数又は実働人員の増減と読むことはできない。
101人について示されているのは俸給表及び級別の内訳であり,裁判所書記官,家庭裁判所調査官又は裁判所事務官という官職別の内訳ではない。

令和8年度概算要求書には「速記官から家裁調査官へ振替 10人」と明記されている一方,令和9年度概算要求書には同様の職種間振替の記載がない。したがって,公表された令和9年度概算要求書からは家裁調査官の増員を確認できない。
もっとも,この記載の違いだけで,最高裁判所が家裁調査官の追加増員を「見送った」とする政策判断又はその理由まで確定することはできない。

第2 令和9年度概算要求の定員
1 予算定員表では裁判所全体で121人減の要求である

令和9年度一般会計歳出概算要求書等の資料上73頁(PDF77頁)によれば,令和8年度末の予算定員2万5366人に対し,新規増員0人,定員合理化101人減,判事補20人減及び組織間振替を反映した令和9年度末の要求定員は2万5245人である。
最高裁判所は71人増の1254人となる一方,下級裁判所は定員合理化,判事補減員及び最高裁判所への振替によって192人減の2万3991人となる。

71人の振替は,営繕組織の見直し,裁判所共済組合の組織統合及び給与等事務の集約並びに共済組合の執務機構整備に伴うものである。
これは裁判所全体の予算定員を増減させる措置ではなく,組織間で定員枠を移す措置である。
実際に71人が転勤するか,執務場所が変わるか,裁判を担当する部門から移るかは,予算定員表だけでは確認できない。

同頁の71人の内訳は,次のとおりである。
資料に記載された振替の事由と,実施後の人事異動・勤務実態を区別する必要がある。

振替の事由人数内訳上の留意点営繕組織の見直し1人営繕関係の組織見直しに伴うもの共済組合の組織統合及び給与等事務の集約68人専門職6級1人,同5級1人,係長4級6人,主任3級60人共済組合の執務機構整備2人下級裁判所側は課長6級2人,最高裁判所側は専門職6級2人

下級裁判所の192人減は101人+20人+71人であり,最高裁判所の71人増と相殺すると裁判所全体では121人減となる。
「判事補20人減」を下級裁判所全体の減少数と読んだり,裁判所全体の121人減に71人をさらに加えたりしてはならない。

2 101人は俸給表及び級別にしか示されていない

同概算要求書の資料上42頁(PDF46頁)は,101人の内訳を,行政職俸給表(一)4級5人,同2級30人,同1級48人及び行政職俸給表(二)2級18人と記載している。
しかし,同頁には官職名が書かれていないため,行政職俸給表(一)2級の30人をそのまま裁判所書記官30人と読み替えることはできない。

したがって,令和9年度概算要求が「裁判所書記官を何人減らす要求」であるかは,公開された概算要求書だけでは確認できない。
本記事では,裁判所書記官の減員を含むという情報の当否と人数を確定せず,公式資料で確認できる「裁判所職員101人の定員合理化」を起点に検討する。

(続きを読む...)令和9年度概算要求-裁判所職員101人の定員合理化と家裁調査官の増員の有無(AI作成)

社会調査・アンケートを法律実務で使うときの読み方―分母・抽出法・複数回答・比較可能性と因果関係(AI作成)

第1 結論とこの記事の対象第2 数字を見る前に確認する六つの事項第3 第17回出生動向基本調査の具体例1 「ネット20.2%」の分母と範囲2 結婚意思に関する数字3 理想・予定・完結を混同しない4 費用と就業継続の数字第4 異なる調査の数字を単純比較しない第5 法律実務での使い方第6 因果関係・属性差・複数回答の注意第7 一次資料への戻り方第8 関連記事第9 出典・参考資料

第1 結論とこの記事の対象

社会調査又はアンケートの数字を法律相談,主張書面又はブログ記事で使うときは,数字の大きさより先に,①誰を対象としたか,②誰が回答したか,③質問文は何か,④分母は何人か,⑤単一回答か複数回答か,⑥比較する調査と条件がそろっているかを確認する必要がある。
回答者全体の割合は,個別当事者の意思,信用性,稼働能力,過失又は因果関係を直接証明するものではない。

この記事は,令和8年9月13日現在の公表資料を基準とし,国立社会保障・人口問題研究所の第17回出生動向基本調査及びこども家庭庁の「若者1万人の意識調査(中間報告)」を具体例として,法律実務での読み方を整理するものである。
報道は論点を知る入口にはなるが,数値及び定義は調査主体が公表した報告書本文で確認する。

第2 数字を見る前に確認する六つの事項

第一に,資料が最終報告か中間報告かを確認する。
中間報告では,後の精査,集計方法の変更又は追加分析によって説明が補われることがある。

第二に,質問文と回答選択肢を確認する。
「結婚する意思があるか」,「いずれ結婚するつもりか」,「現時点で結婚したいか」は似ていても同じ質問ではない。

第三に,割合の分母を確認する。
全回答者,未婚者,最近5年間に結婚した夫婦,理想の子ども数を実現できないと答えた夫婦又は妊娠判明時に就業していた妻では,示している母集団が全く異なる。

第四に,対象者の抽出方法を確認する。
無作為に抽出した地区又は世帯を対象とする調査と,民間調査会社に登録したモニターへのインターネット調査では,回答者が集まる仕組みが異なる。

第五に,回答率,無回答,標本誤差,ウェイト付け及び属性構成を確認する。
総務省統計局は,標本調査には標本誤差があり,非回答,調査範囲,測定及び集計等に由来する非標本誤差もあり得ると説明している。
回答者数が多いという一事だけで,母集団を偏りなく代表するとまではいえない。

第六に,過去又は別機関の数字と比較可能かを確認する。
対象年齢,調査時点,抽出枠,質問文,回答形式又は分母のいずれかが違えば,差が社会の変化なのか調査設計の差なのかを切り分けにくい。

第3 第17回出生動向基本調査の具体例
1 「ネット20.2%」の分母と範囲

第17回出生動向基本調査の概要は,過去5年間に結婚した夫婦が知り合ったきっかけについて,「ネット(SNS・ウェブサイト・アプリ等)」が20.2%であったと報告している。
これはマッチングアプリだけの割合ではなく,SNS及びウェブサイト等を含む集計区分であり,当該集計の標本数は570組である。

同じ表には婚姻年次が令和2年から令和6年までの夫婦について18.6%という別の集計もある。
「過去5年間」と「令和2年から令和6年」を取り違えず,本文で採用した分母と集計範囲を示す必要がある。

この20.2%は,オンラインでの出会いが珍しい例外ではないことを示す背景資料にはなる。
しかし,特定の夫婦の婚姻意思,交際実態又は相手方の本人性を証明する数字ではない。

2 結婚意思に関する数字

同調査では,18歳から34歳までの未婚者のうち,「いずれ結婚するつもり」と答えた割合が男性75.1%,女性77.8%であり,「一生結婚するつもりはない」と答えた割合が男性24.0%,女性21.5%であった。
これは調査時点における対象集団の回答分布であり,将来の婚姻を確定的に予測するものではない。

報告書自身も,「一生結婚するつもりはない」と答えた者について,今後考えが変わる可能性を尋ねている。
したがって,調査回答を個人の固定的な意思又は契約上の約束と同視してはならない。

3 理想・予定・完結を混同しない

第17回調査は,夫婦の理想子ども数を2.18人,予定子ども数を1.95人,結婚持続期間15年から19年の夫婦の完結出生児数を1.86人と報告している。
理想は希望,予定は現在の見通し,完結出生児数は婚姻期間で区切った別の集団の実績であり,同じ意味の三つの測定値ではない。

理想と予定の差をそのまま「希望したのに実現できなかった人数」と扱い,完結出生児数との差を特定要因の効果とみなすことはできない。
各指標の対象,時点及び質問の意味を確認した上で,その範囲だけを述べる必要がある。

4 費用と就業継続の数字

予定子ども数が理想子ども数を下回る夫婦に理由を尋ねた設問では,「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が52.9%であった。
これは特定の条件に該当する夫婦への複数回答の結果であり,全夫婦の52.9%が費用だけを原因として子どもを持たなかったことを意味しない。

第1子の妊娠判明時に就業していた妻について,令和2年から令和6年に出産した者の就業継続率は80.5%と報告され,従業上の地位別では正規職員88.0%,非正規職員56.0%であった。
この数字は雇用上の地位による集団差を示すが,個別の離婚事件で一方当事者が就業を継続できるか,将来いくら稼げるかを直接示すものではない。

第4 異なる調査の数字を単純比較しない

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SNS・マッチングアプリで知り合った相手との紛争と証拠保全―メッセージ・プロフィール・決済履歴を消す前に(AI作成)

第1 結論とこの記事の対象第2 消える前に保存する資料1 アカウントとプロフィール2 メッセージの前後関係3 送金・決済と現実の行動第3 削除・ブロック・機種変更より先にすること1 LINEで先に保存するもの2 Tinderで先に保存するもの3 事業者の保有と開示を同一視しない第4 スクリーンショットの証拠評価1 証拠として出せるかと信用できるかは別である2 表示・書出し・受信ファイルを区別する3 ハッシュ値が証明する範囲4 改変可能性と具体的な改変を区別する5 アカウントと投稿者の同一性第5 交際中の金銭移動を法的に分類する1 貸金か贈与か2 投資詐欺と不当利得3 独身表示と貞操権侵害4 被害事実の公開は別の紛争を生み得る第6 適法な取得と安全の確保第7 弁護士相談に持参する資料第8 裁判所へ提出するときの整理第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所資料2 サービス提供者の公式資料3 判例・文献の確認範囲

第1 結論とこの記事の対象

SNS,マッチングアプリ又はメッセージアプリを介した交際で,貸金,贈与,立替金,投資勧誘,不貞又は婚姻意思をめぐる紛争が生じた場合,最初にすることは,相手を論破することではなく,自分が適法に閲覧できる資料を消える前の状態で保存することである。
プロフィールの一画面又は問題発言だけではなく,アカウントの特定資料,やり取りの前後関係,送金・決済履歴及び現実の行動を同じ時系列に置く必要がある。

この記事は,令和8年9月14日現在の法令及び公表資料を基準として,民事紛争に備える最小限の証拠保全を扱う。
サービスの保存・書出し機能は変更され得るため,実行時には各サービスの最新の公式ヘルプを確認する必要がある。

後記第10のとおり,裁判所ウェブサイトの有界検索に加え,判例秘書の認証済み環境で判決本文を確認した。
スクリーンショットの真正,アカウントと投稿者の同一性,マッチングアプリを介した貸金・贈与,不当利得,投資詐欺及び貞操権侵害について参考となる下級審裁判例があるため,本記事では各裁判例の具体的事情と射程を区別して紹介する。

第2 消える前に保存する資料
1 アカウントとプロフィール

まず,①サービス名,②表示名,③ユーザーID,④プロフィールURL,⑤登録電話番号又はメールアドレスのうち自分に表示されるもの,⑥プロフィール全文,⑦写真,⑧認証済み表示その他のバッジ,⑨表示した日時を保存する。
表示名と写真だけでは,同名の別人,名称変更又はなりすましとの区別が難しいためである。

プロフィールは,一部分だけを切り取らず,サービス名,画面遷移又はURLが分かる画面から問題部分まで連続して撮影する。
長い画面は複数枚に分け,重複部分を残して順序が分かるようにする。

2 メッセージの前後関係

メッセージは,問題となる一文だけでなく,①当事者名又はアカウント,②日付と時刻,③直前と直後の発言,④引用・返信関係,⑤編集又は削除の表示,⑥既読表示の有無が分かる範囲を保存する。
「返す」「あげる」「預かる」といった短い表現の意味は,その前後にある目的,期限,条件及び相手の応答によって変わり得る。

可能であれば,画面のスクリーンショットに加え,サービスの公式機能によるテキスト又はデータの書出しも行う。
ただし,書出しデータにプロフィール写真,削除表示,返信関係又は添付ファイルが含まれないことがあるため,書出しだけで十分とは限らない。

写真,動画,音声又は文書を受信した場合は,アプリ上の表示画面と,取得できる受信ファイルを分けて保存する。
ファイル名を整理するために上書き保存又は再圧縮を繰り返す前に,最初に取得したファイルを読み取り専用の保全用複製として残すのが安全である。

3 送金・決済と現実の行動

金銭紛争では,メッセージだけでなく,①銀行振込明細,②クレジットカード又は決済アプリの利用明細,③商品・航空券・宿泊等の注文番号と領収書,④暗号資産を用いた場合の取引所記録及びトランザクション情報,⑤返済又は返金の履歴を保存する。
カード番号,認証コード及び秘密鍵等,立証に不要な秘密情報は他人へ送付してはならない。

対面で会った事実又は婚姻・交際の実態が問題となる場合は,交通,宿泊,カレンダー,写真の撮影日時,家族・知人との交流及び関係者との連絡を時系列に対応させる。
一つの資料だけで結論を出すのではなく,独立した資料が同じ出来事を指すかを確認する。

第3 削除・ブロック・機種変更より先にすること
1 LINEで先に保存するもの

LINEの標準バックアップは,同じOS間の引継ぎに用いる機能であり,保存対象はテキストメッセージだけである。
LYPプレミアムのプレミアムバックアップは,写真,動画,ファイル及びボイスメッセージを含むリアルタイム保存と異なるOS間の引継ぎに対応するが,会員資格を解約すると保存データが削除されると案内されている。

PINコード又はQRコードを用いる引継ぎで復元できるのは,現行の公式ヘルプ上,直近14日間のトーク履歴である。
また,トーク履歴のテキスト書出しは復元用バックアップではなく,PC版では画面に表示されているトーク履歴だけが保存対象となるため,スクリーンショット,テキスト書出し,画像・動画等の受信ファイル及びバックアップを相互に代用できるものと考えてはならない。

送信取消しと削除は異なり,削除は原則として自分の端末側だけに影響するが,公式ヘルプは,いずれの操作後も元に戻せないと案内している。
LINEアカウントを削除すると全データが削除されて復元できず,アプリのアンインストールだけでもバックアップしていない端末内のトーク履歴を失う可能性があるため,これらの操作より先に必要資料を保存する必要がある。

2 Tinderで先に保存するもの

Tinderでは,個々のメッセージだけを削除することはできず,マッチを解除すると双方のマッチリストから相手と会話が消え,元に戻すことはできない。
マッチが突然消えた画面は,相手がマッチを解除した場合とアカウントを削除した場合のいずれでも生じ得るため,その画面だけから原因を断定してはならない。

個人データのダウンロード機能は,そのアカウントで利用した範囲のメールアドレス,電話番号,プロフィール写真,メッセージ及び設定等を対象とし,申請後に送られるダウンロードリンクは24時間で無効となる。
アカウント削除後はダウンロードできないため,プロフィール及び会話の画面保存と公式データの申請を先に行うべきである。

ID認証又は写真認証のバッジは,対象機能の範囲で身分証明書,プロフィール写真及び実在人物の対応を示す一事情にはなるが,公式ヘルプも身分証明書の真正又は利用者の安全を完全に保証するものではないと注意している。
バッジだけで法律上の氏名,独身であること,説明内容の真実性又は取引の安全性まで立証できるものではない。

3 事業者の保有と開示を同一視しない

令和8年3月31日適用のTinderプライバシーポリシーは,アカウント閉鎖後の安全保持期間とデータの種類に応じた個別の保持期間に加え,法的に有効な保全要請又は手続に対応するため保持期間を延長する場合に言及している。
もっとも,事業者内にデータが保持されていることと,一般利用者又は民事事件の当事者が実際に開示を受けられることは別問題である。

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最高裁判所調査官在職中の配置転換-民事・行政間の実例(AI作成)

目次第1 対象と結論1 検討の対象2 確認できた三つの実例第2 「配置転換」の意味1 裁判所調査官の法的根拠2 民事・刑事・行政の区分3 本記事で用いる「配置転換」第3 民事・行政間の配置変更の実例1 清水知恵子裁判官-行政から民事へ2 池原桃子裁判官-民事から行政へ3 福井章代裁判官-行政上席から民事上席へ第4 資料から分かることと分からないこと1 配置表が示す事実2 配置表だけでは分からない事項3 三例は網羅的な件数ではないこと第5 関連記事1 制度と職務2 年度別の配置表第6 出典・参考資料1 法令2 最高裁判所の事務取扱要領3 最高裁判所各調査官室の配置表4 当ブログの経歴記事
第1 対象と結論
1 検討の対象

本記事は,最高裁判所の裁判所調査官として在職したまま,民事調査官室と行政調査官室との間で担当が変わった実例を扱うものである。
平成27年9月10日,平成28年4月1日,平成29年4月1日,令和2年4月1日及び令和3年4月8日の各配置表並びに当ブログの裁判官経歴記事を,令和8年9月13日に確認した。
最高裁判所調査官への任命及び退任,民事・行政以外の調査官室内の変更並びに上席補佐への指名だけが変わった例は,本記事の対象外である。

2 確認できた三つの実例

確認できたのは,清水知恵子裁判官の行政調査官から民事調査官室上席補佐への変更,池原桃子裁判官の民事調査官から行政調査官への変更及び福井章代裁判官の行政上席調査官から民事上席調査官への変更である。
清水知恵子裁判官及び池原桃子裁判官については,変更の前後に作成された配置表が担当分野の変更を直接示している。
福井章代裁判官については,令和2年4月1日と令和3年4月8日の配置表から前後の担当分野を確認でき,変更日である令和2年6月24日は当ブログの経歴記事で確認できる。

第2 「配置転換」の意味
1 裁判所調査官の法的根拠

裁判所法57条は,最高裁判所,高等裁判所及び地方裁判所に裁判所調査官を置き,裁判官の命を受けて事件の審理及び裁判に関して必要な調査その他の法律で定める事務を担当すると定めている。
本記事でいう最高裁判所調査官は,この裁判所調査官として最高裁判所の事件の調査を担当する者である。

2 民事・刑事・行政の区分

最高裁判所調査官事務取扱要領1項及び2項によれば,調査官及び上席調査官の事務は首席調査官が指定し,担当する事務に応じて民事調査官,刑事調査官又は行政調査官と呼ばれる。
民事調査官は行政事件等を除く民事事件,刑事調査官は刑事事件,行政調査官は行政事件,労働事件,行政処分の違法を理由とする国家賠償請求事件及び裁判官分限事件等の調査に係る事務を担当する。

3 本記事で用いる「配置転換」

本記事の「配置転換」は,最高裁判所調査官という身分を離れずに,配置表上の調査官室又は担当分野が変わることを整理するための表現である。
確認した配置表の表題は「配置の変更」,事務取扱要領の文言は事務の「指定」であり,「配置転換」がこれらの資料上の正式名称であると確認できたわけではない。
したがって,本記事では,人事発令による官職の異動と区別し,担当替え又は調査官室の配置変更という意味で用いる。

第3 民事・行政間の配置変更の実例
1 清水知恵子裁判官-行政から民事へ

平成27年9月10日実施の配置表は,清水知恵子裁判官を行政調査官室に配置している。
これに対し,平成28年4月1日実施の配置表は,同裁判官を民事第三調査官室の上席補佐に配置している。

経歴記事によれば,同裁判官は平成24年4月1日から平成28年3月31日まで最高裁行政調査官,平成28年4月1日から平成29年3月31日まで最高裁民事調査官室上席補佐であった。
したがって,平成28年4月1日に,最高裁判所調査官として在職を続けながら行政分野から民事分野へ担当が変わったことを確認できる。

2 池原桃子裁判官-民事から行政へ

平成28年4月1日実施の配置表は,池原桃子裁判官を民事第二調査官室に配置している。
これに対し,平成29年4月1日実施の配置表は,同裁判官を行政調査官室に配置している。

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訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)―控訴期間を過ぎた場合の救済,送達日の誤認,通知メールの見落とし及び事務所内の事務処理(AI作成)

目次第1 本記事の対象1 扱う問い2 結論の要旨第2 不変期間と追完の規定1 不変期間とは何か2 民事訴訟法97条の文言3 追完の仕方第3 最高裁判所の判例に見る追完の成否1 公示送達で訴訟を知らなかった場合2 送達受取人の受領記録の誤りで送達日を取り違えた場合3 訴訟代理人や法律事務所の事務員の過失4 郵便の遅れ第4 システム送達と追完1 システム送達の効力が生じる時2 閲覧等ができない期間の不算入3 通知メールの見落としと追完第5 事務所内の事務処理と自動化の誤り1 判例から読み取れること2 知的財産高等裁判所平成31年3月18日判決(特許法の「正当な理由」)3 事務所で決めておくこと第6 追完の期間も過ぎた場合第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象
1 扱う問い

本記事は,控訴期間のような不変期間を過ぎてしまった場合の救済である訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)を扱う。
追完が認められるのはどのような場合か,送達された日を取り違えた場合やシステム送達の通知メールを見落とした場合はどうなるか,法律事務所内の受付処理や自動化した仕組みの誤りは救済されるかを,条文と最高裁判所の判例に即して整理する。
法令の内容は,令和8年9月13日時点で確認したものである。

2 結論の要旨

追完ができるのは,当事者の責めに帰することができない事由によって不変期間を守れなかった場合に限られ,その事由が消滅した後1週間以内にしなければならない。
最高裁判所は,公示送達のために訴訟が起きたこと自体を知らなかった場合や,所属弁護士会が送達受取人として送達日を実際と違う日で記録していたために訴訟代理人が送達日を取り違えた場合について,責めに帰することができない事由に当たることを認める方向の判断をしている。
他方で,訴訟を起こされたことを知りながら判決の有無を調べなかった場合や,訴訟代理人の過失,同じ法律事務所に常勤する弁護士や書生・事務員による受領・取次ぎの誤りによって期間を守れなかった場合には,追完を認めていない。
したがって,法律事務所が自ら設計し運用する受付処理や自動化の仕組みの誤りは,追完では救われない前提で運用を組むのが安全だと考えられる。

第2 不変期間と追完の規定
1 不変期間とは何か

裁判所は,法定の期間又は裁判所が定めた期間を伸長し又は短縮することができるが,不変期間については伸縮できない(民事訴訟法96条1項)。
不変期間については,遠隔の地に住所又は居所を有する者のために付加期間を定めることができるにとどまる(同条2項)。
代表的な不変期間は,控訴期間(判決書等の送達を受けた日から2週間,同法285条),上告期間(同法313条による準用),即時抗告期間(裁判の告知を受けた日から1週間,同法332条)及び再審期間(再審の事由を知った日から30日,同法342条1項)である。

2 民事訴訟法97条の文言
(1) 現行の条文

民事訴訟法97条1項は,「当事者が裁判所の使用に係る電子計算機の故障その他その責めに帰することができない事由により不変期間を遵守することができなかった場合には、その事由が消滅した後一週間以内に限り、不変期間内にすべき訴訟行為の追完をすることができる。ただし、外国に在る当事者については、この期間は、二月とする。」と定める。
同条2項は,「前項の期間については、前条第一項本文の規定は、適用しない。」と定めており,追完のための1週間も裁判所が伸縮することはできない。

(2) 令和8年5月21日の改正で加わった例示

e-Gov法令検索の時点指定で比べると,令和8年5月20日時点の97条1項には「裁判所の使用に係る電子計算機の故障」という文言がなく,令和8年5月21日時点の条文から加わっている。
これは民事裁判手続のIT化に伴う改正であり,同じ言い回しは,訴訟代理人のオンライン提出義務を解除する同法132条の11第3項にも使われている。
もっとも,この文言は例示であり,裁判所側のシステム故障以外の事由でも,当事者の責めに帰することができないものであれば追完の対象になる。

3 追完の仕方

追完は,期間内にすべきであった訴訟行為そのもの(控訴であれば控訴の提起)をすることで行う。
後記第3の2の最高裁判所昭和46年4月20日判決は,原審が「訴訟行為追完の申立もない」として控訴を却下したのに対し,追完事由があることが原判決の認定事実からうかがえる以上,追完事由を主張するかどうかについて釈明を求めるべきであったとして,原判決を破棄している。
実務上は,期間経過後に提出する控訴状等に,責めに帰することができない事由の内容と,その事由が消滅した日(通常は判決を知った日)を具体的に記載し,裏付け資料を添えておくことが考えられる。

第3 最高裁判所の判例に見る追完の成否

以下の判例の多くは,平成8年の民事訴訟法全面改正前の159条(現行97条に当たる規定)の下のものである。

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医療記録の文書送付嘱託―申立ての対象指定、カルテ・画像の回収確認、患者同意と提出拒否(AI作成)

目次第1 医療記録の文書送付嘱託で最初に決めること1 何を証明するための記録かを先に決める2 送付嘱託・調査嘱託・提出命令を区別する第2 申立ての対象を具体的に指定する1 患者・医療機関・診療範囲・種類・期間を組み合わせる2 診療録等と画像を分け,他院作成資料の扱いも明らかにする3 対象期間と全診療科の必要性を説明する4 対象文書の表示を作る際の整理例第3 患者同意と医師の黙秘義務1 個人情報保護法上の第三者提供の例外2 同意の内容と提出を拒む理由を確認する3 名古屋高裁平成25年5月27日決定の射程第4 送付に応じてもらえない場合1 未回答・不保有・一部送付・提出拒否を分ける2 提出命令を検討する際の整理第5 カルテ・画像の回収確認1 送付されたことと必要な資料が揃ったことを分ける2 CD-Rを受け取った後の確認3 費用を三つに分ける4 返還対象を区別する第6 令和8年改正とmintsによる証拠提出1 新旧法と紙・電磁的記録を区別する2 所定形式に変換できないデータと証拠説明書第7 取得後の秘密保護と実務上の確認順序第8 出典
第1 医療記録の文書送付嘱託で最初に決めること

医療記録の文書送付嘱託では,必要な記録を裁判所に取り寄せる対象指定と,届いた資料の不足確認を一続きで考える必要がある。
本記事では,民事訴訟における医療記録の収集について,カルテ・看護記録・画像の指定,患者同意,送付に応じてもらえない場合及び証拠提出までを説明する。
法令・裁判所資料の確認基準日は令和8年9月10日であり,対象の指定例と回収管理表は実務上の提案である。

1 何を証明するための記録かを先に決める

収集の出発点は,傷病名,症状の推移,治療内容,事故との因果関係,既往症との区別など,争点となる具体的な事実である。
まず手元の診断書,診療記録,通院一覧等から不足を整理し,どの医療機関の,いつの,どの種類の記録を追加すればその不足を埋められるかを検討する。
病院にある全資料の取得自体を目的にすると,無関係な病歴まで対象とする問題と,必要な画像等が抽出されない問題の双方が生じ得る。

患者側で既に必要な資料を持っている場合は,取得済み資料の利用や,本人による追加開示の手続を先に検討することが考えられる。
私立病院等の個人情報取扱事業者に対する本人開示については,個人情報保護法33条が保有個人データの開示請求を定め,同法39条はその請求に係る訴えを予定している。

もっとも,民事訴訟法226条ただし書が送付嘱託の対象から除くのは,当事者が法令により文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合である。
個人情報保護法33条の対象は保有個人データであり,開示方法の変更や一部不開示があり得るため,病院が本人開示に応じるというだけで同ただし書が当然に適用されるとは考えにくい。

電磁的記録について,民事訴訟法231条の3第1項は,同ただし書の「正本又は謄本の交付」を,情報の内容の全部を証明した書面の交付又は電磁的記録の提供と読み替えている。
本人開示で得られるものが,対象記録の全内容を証明したものか,閲覧又は一部をマスキングした複製にとどまるかを確認する必要がある。
この関係を直接判断した公刊裁判例は確認できず,以上は条文構造に基づく整理である。

なお,国立大学法人や地方独立行政法人等が開設する病院では,個人情報保護法の公的部門の規律が適用される場合がある。
開設主体を確認し,適用条文と交付方法を個別に確認する必要がある。

2 送付嘱託・調査嘱託・提出命令を区別する

民事訴訟法226条は,文書の所持者に送付を嘱託することを申し立てる方法を定めている。
同条ただし書は,当事者が法令により文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合を除いている。
既存の診療録等を取り寄せる場面では,まず対象文書とその所持者を特定することになる。

これに対し,同法186条の調査嘱託は,裁判所が官公署その他の団体等に必要な調査を嘱託する制度である。
既存資料の送付を求めたいのか,記録中の不明点について回答を得たいのかを整理して申出の内容を決めるべきであり,送付嘱託の名目で新しい医学意見書の作成まで当然に求められるものとは扱わない。

文書提出命令は,同法220条の提出義務等を前提に,同法223条により裁判所が提出を命ずる手続である。
第三者が文書提出命令に従わない場合の20万円以下の過料は同法225条に規定されているが,この制裁を,送付嘱託に応じなかったというだけの段階へそのまま当てはめることはできない。

第2 申立ての対象を具体的に指定する
1 患者・医療機関・診療範囲・種類・期間を組み合わせる

対象文書の表示は,病院が患者と記録を特定でき,裁判所と相手方が必要性を検討できる内容にする。
次の表は,申立て前に情報を整理するための例であり,全国共通の必須様式を示すものではない。

確認する項目
記載・確認の内容
避けたい不明確さ

患者
氏名・ふりがな・生年月日,必要に応じ住所・患者番号
「本件原告」だけで病院に特定を委ねること

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最高裁判所裁判官会議議事録の不開示範囲-令和8年度(最情)答申第14号(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 答申の結論3 答申の制度上の位置付け第2 裁判所の情報公開制度との関係1 行政機関情報公開法の直接適用ではないこと2 本件がたどった手続第3 不開示が維持された情報とその根拠1 全40文書の署名及び印影2 栄典事務に関する事項3 裁判官に関する人事関係事項4 裁判官の昇給に関する事項5 特定事件に関する事項6 簡易裁判所判事候補者選考に関する事項7 簡易裁判所判事任命名簿の現職欄8 採用,再採用及び候補者の指名に関する事項9 司法修習生考試に関する事項10 司法修習生採用候補者の総数第4 実務上の含意1 公表慣行の有無は職名ごとに検討されること2 人数だけでも不開示となり得ること3 苦情申出の審査対象は原判断の当否であること第5 本答申から確認できないこと第6 関連記事第7 出典・参考資料1 答申2 制度・法令

最高裁判所の裁判官会議の議事録は,開示の申出があっても全部が開示されるわけではない。
令和8年度(最情)答申第14号は,令和5年度の議事録40文書について,情報の種類ごとに不開示の当否を検討している。

第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会の令和8年度(最情)答申第14号(令和8年7月13日答申)を対象とし,その判断の枠組みを整理するものである。
答申の原文と,本記事が引用する各リンク先は,令和8年9月9日を基準に確認した。

2 答申の結論

同答申の件名は「特定年度の最高裁判所の裁判官会議の議事録の一部不開示の判断に関する件」である。
令和5年度の最高裁判所裁判官会議議事録について,最高裁判所事務総長が別紙記載の40文書を対象文書として特定し,その一部を不開示とした判断を,委員会は妥当とした。

同答申は,議事録の全体を不開示としたものではない。
不開示部分を情報の種類ごとに区分し,行政機関情報公開法5条1号,2号イ,6号柱書き又は同号ニに規定する不開示情報に相当するかを,それぞれ検討している。

3 答申の制度上の位置付け

本答申は,最高裁判所の判決又は決定ではなく,最高裁判所に置かれた情報公開・個人情報保護審査委員会の答申である。
苦情が申し出られた場合に最高裁判所が同委員会に諮問し,その答申を尊重して対応する仕組みであるから,裁判例と同じ意味で先例として引用することはできない。

諮問日は令和7年12月4日(令和7年度(最情)諮問第43号),答申日は令和8年7月13日である。
原判断は令和7年7月22日付けでされ,委員会は令和8年3月23日に対象文書を見分した上,同年4月17日,5月22日及び6月19日に審議している。

第2 裁判所の情報公開制度との関係
1 行政機関情報公開法の直接適用ではないこと

裁判所は行政機関情報公開法の対象機関ではなく,司法行政文書の開示は,最高裁判所が定めた裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱に基づいて行われる。
そのため答申も,不開示部分が行政機関情報公開法5条各号の不開示情報に「相当する」かという形で判断しており,同法を直接適用したものではない。

2 本件がたどった手続

本件の開示の申出は取扱要綱記第2に定めるものである。
原判断に対する苦情の申出は同記第11の1に,委員会への諮問は同記第11の3に基づく(司法行政文書開示手続参照)。

第3 不開示が維持された情報とその根拠
1 全40文書の署名及び印影

別紙記載1から40までの各文書について,最高裁判所長官及び秘書課長の署名及び印影が,法5条1号に規定する個人識別情報に相当するとされた。
同じく裁判官会議議事録の署名及び印影を法5条1号に該当するとした先例として,平成30年度(最情)答申第32号(平成30年9月21日答申)がある。

2 栄典事務に関する事項

別紙記載3,4,22及び24の各文書について,春秋の藍綬褒章及び勲章の受章内定者名簿に登載された者の所属庁,功労業務,氏名,勲等及び主要経歴のほか,内定者数の不開示が維持された。

(続きを読む...)最高裁判所裁判官会議議事録の不開示範囲-令和8年度(最情)答申第14号(AI作成)

民事訴訟の和解案・和解条項案の作り方-確認・給付・清算・執行のチェックリスト(AI作成)

第1 和解案と和解条項案は分けて作る1 和解案は「何を交換して事件を終わらせるか」を決めるもの2 和解条項案は「合意を実現できる文言」にするもの3 依頼者の承認と代理権を最後に確認する4 条項を作る前に支払原資を確認する第2 条項は七つの層に分けて点検する1 当事者及び対象を特定する2 確認条項又は形成条項を置く3 給付条項は主語,相手方,目的物及び給付文言を明確にする4 期限,方法,費用及び履行順序を決める5 不履行時の効果を独立して書く6 請求放棄,清算及び費用を分ける7 関連する手続及び資料の処理を残さない第3 金銭支払条項の作り方1 一括払いの基本形2 分割払いは合計額と各回を照合する3 和解成立前までの利息及び遅延損害金を忘れない第4 非金銭給付条項の作り方1 明渡し,収去及び撤去2 登記手続3 不作為,秘密保持及び廃棄第5 清算条項は最も慎重に作る1 「誰と誰の間」を明記する2 「何に関する債権債務か」を定義する3 履行と清算の効力発生時期をそろえる第6 裁判所を介した成立方法を選ぶ1 ウェブ会議等を利用する和解2 和解条項案の書面による受諾3 裁判所が定める和解条項第7 最終チェックリスト1 合意内容2 給付及び不履行3 紛争の終了範囲4 事件終了後の実行第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 裁判所公表実務資料
第1 和解案と和解条項案は分けて作る

本記事は,民事訴訟の係属中に解決条件を検討し,裁判所へ提出する和解条項案を作成する場面を扱う。
調査の基準日は令和8年9月15日であり,同日に施行されている民事訴訟法,民法及び民事執行法並びに同日までに確認できた裁判所公表資料を基礎とする。

1 和解案は「何を交換して事件を終わらせるか」を決めるもの

和解は,当事者が互いに譲歩して争いをやめることを約することによって効力を生ずる(民法695条)。
裁判所は訴訟のどの段階でも和解を試みることができる(民事訴訟法89条)。

和解案は,金額だけを示す書面ではない。
誰が,誰に対し,何を,いつまでに行うか,その代わりに何を免除し,どこまで紛争を終了させるかという解決条件の組合せである。
最初に,①対象となる請求及び反対請求,②支払額その他の給付,③履行時期及び方法,④同時履行又は先履行の関係,⑤不履行時の処理,⑥放棄又は清算の範囲,⑦別訴,保全,担保及び供託等の処理を一枚の条件表に整理するとよい。

2 和解条項案は「合意を実現できる文言」にするもの

訴訟上の和解が電子調書に記録されると,その記載は確定判決と同一の効力を有する(民事訴訟法267条)。
しかし,抽象的な約束が書かれていれば,どのような内容でもそのまま強制執行できるわけではない。

和解条項案では,合意内容を,①確認条項又は形成条項,②給付条項,③期限・条件等の付款,④違反時の条項,⑤請求放棄・清算・費用,⑥関連手続の処理という順序で,特定可能な文言へ変換する。
司法研修所民事弁護教官室の「民事弁護実務の基礎~はじめての和解条項~」は,まず和解対象の権利関係を定め,給付請求権の存在を明らかにする確認条項又は形成条項を置いた後に,給付条項を置くという論理的順序を示している(6頁~7頁)。

3 依頼者の承認と代理権を最後に確認する

訴訟代理人が和解をするには特別の委任が必要である(民事訴訟法55条2項2号)。
実務上は,委任状に和解の特別授権があることだけでなく,金額,支払時期,非金銭条項,清算範囲及び不履行時の効果について,依頼者が最終案を理解して承認したことを確認する。
法人その他の団体では必要な内部決裁の有無を確認し,訴訟当事者でない保証人,共同債務者その他の者にも義務又は利益を及ぼすのであれば,その者を合意の当事者又は利害関係人として参加させる必要があるかを検討する。

4 条項を作る前に支払原資を確認する

金銭条項では,請求額又は合意額を決める前に,義務者が期限までに何を原資として支払うのかを確認する。
資産の名目額だけでなく,①現在の時価,②換価可能性,③所有・処分権限,④担保債務・税金・売却費用控除後の正味額,⑤資金化に要する期間,⑥支払期限との関係を分けて点検する。

債務者側は,残高証明,証券資料,不動産査定,ローン残高,融資審査資料及び月次収支など,支払計画を裏付ける資料を準備する。
債権者側は,表示された資産額だけでなく,名義,基準日,担保,直近の異動及び任意履行がなかった場合の執行対象を確認する。

資産別の確認方法,財産分与及び代償分割との違いは,資産額と「実際に払える額」は違うを参照されたい。

第2 条項は七つの層に分けて点検する
1 当事者及び対象を特定する

最初の層は,誰と誰の間の,どの権利関係を解決するかの特定である。
事件番号及び訴訟物だけで足りるか,契約日,事故日,物件目録,対象製品,対象行為又は債権発生原因まで書く必要があるかを検討する。
当事者が複数いる場合は,全員の関係を一括して書かず,原告と各被告,被告相互,当事者と利害関係人のどの関係を処理するのかを分ける。

2 確認条項又は形成条項を置く

既に存在する権利義務を明らかにする場合は「支払義務があることを認める」等の確認条項を用いる。
和解によって契約を終了させ,所有権を移転し,債務を免除するなど法律関係を変動させる場合は,その変動を端的に示す形成条項を用いる。

賃貸借契約を和解時に終了させるなら「合意解約したことを確認する」ではなく,原則として「合意解約する」と現在形で書く。
終了日は,賃料と賃料相当損害金の境界にもなるため明示することが多い(前記司法研修所教材18頁~21頁)。

3 給付条項は主語,相手方,目的物及び給付文言を明確にする

金銭なら金額,物なら物件,行為なら行為内容を特定し,義務者と権利者を明示する。
給付文言は「支払う」「明け渡す」「登記手続をする」のように端的に書く。
前記司法研修所教材は,金銭給付について「支払う」と明記し,「支払うこととする」「支払うものとする」「支払わなければならない」という表現は,給付意思が不明確となって強制執行できない可能性があるとしている(7頁~8頁)。

4 期限,方法,費用及び履行順序を決める

支払期限は年月日又は各回の期日で特定し,振込口座及び振込手数料の負担も決める。
物の引渡し,建物の明渡し,登記書類の交付その他の反対給付がある場合は,一方が先に履行するのか,同時に履行するのか,条件成就後に履行するのかを明記する。

条件を付けるときは,誰が,どの資料により,いつ条件成就を確認するのかまで決める。
「協議の上」「誠実に対応する」とだけ書くと,合意はできても履行内容及び強制執行の対象が定まらないことがある。

5 不履行時の効果を独立して書く

金銭債務の遅延損害金を債務名義に含めたい場合は,元本,利率,始期及び終期を条項に書く。
分割払いでは,どの程度の遅滞で期限の利益を失うかと,当然に失うのか債権者の請求によって失うのかを分けて決める。

「2回以上怠ったとき」は,連続2回か通算2回かが明確でない。
各回の額が異なる場合の「2回分」も曖昧になり得るため,「支払を怠り,その額が金○円に達したとき」のように金額で特定する方法がある(前記司法研修所教材11頁~13頁)。

6 請求放棄,清算及び費用を分ける

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最高裁判所の「不存在」答申の読み方-未作成・非保有・一部開示の区別(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 対象と調査の基準日2 最初に確認すべき結論3 答申の制度上の位置付け第2 「不存在」に含まれる四つの経過1 対象文書を作成又は取得していない場合2 探索しても申出時に保有していない場合3 作成後に廃棄され,申出時には保有していない場合4 一部の文書を特定し,残部だけ保有していない場合第3 原答申を読む順序1 申出文書の範囲を確定する2 原判断の説明と委員会の判断を分ける3 探索の対象,方法及び時点を確認する4 件名索引は入口として使う第4 代表例の対照表第5 文書作成義務との関係1 現行の管理通達2 個別答申との対応第6 関連する資料第7 出典・参考資料1 現行制度・管理資料2 情報公開答申

最高裁判所の情報公開答申で用いられる「不存在」は,申出対象の文書が一度も作成されなかったことだけを意味する表示ではない。
原答申を読むと,未作成・未取得,申出時の非保有,作成後の廃棄,一部の文書を特定した上での残部非保有という異なる経過が含まれている。

第1 この記事の対象と結論
1 対象と調査の基準日

本記事は,最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会が公表した,最高裁判所の司法行政文書の開示に関する答申の読み方を説明するものである。
原答申の代表例は平成27年度から平成30年度までの答申から選び,現行制度とリンク先は令和8年9月9日を基準に確認した。

2 最初に確認すべき結論

答申の件名に「不存在」又は「不存在等」とあっても,その表示だけから,対象情報が一度も文書化されなかったとは判断できない。
申出文書の定義,原判断の理由,探索の対象と方法,作成後の廃棄の有無,別の文書を特定又は開示しているかを原答申本文で確認する必要がある。

3 答申の制度上の位置付け

最高裁判所の司法行政文書開示手続は,行政機関情報公開法ではなく,最高裁判所の取扱要綱に基づく制度である。
開示申出を受けた裁判所は文書を探索し,全部開示,全部不開示又は一部不開示の判断を通知する。

最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会は,平成27年7月1日に設置された外部有識者3人による諮問機関である。
不開示等の判断に対する苦情が申し出られた場合,最高裁判所は同委員会に諮問し,答申を尊重して苦情申出への判断を行うため,答申は判決又は決定とは異なる。

第2 「不存在」に含まれる四つの経過
1 対象文書を作成又は取得していない場合

第1は,申出で特定された種類の文書を作成又は取得していないと説明された場合である。
平成27年度(最情)答申第7号は,視察基本日程案の作成に用いる事務処理要領等について,視察ごとに個別に検討しており,そのような文書を作成又は取得していないとした原判断を妥当とした。

2 探索しても申出時に保有していない場合

第2は,申出を受けて関係するファイルや部署を探索したものの,対象文書が見当たらず,申出時に保有していないと判断された場合である。
平成29年度(最情)答申第47号では,昭和46年4月の司法修習生罷免に係る裁判官会議議事録について,関係ファイルと部署の探索に加え,委員会も昭和44年から昭和48年までのファイルを見分したが,該当議事録は確認されなかった。

この類型で答申が直接示すのは,確認された探索の範囲で申出時の保有が認められないということである。
それだけで,過去の全時点における文書の不存在まで証明されたことにはならない。

3 作成後に廃棄され,申出時には保有していない場合

第3は,関係する文書が過去に作成されたことはうかがえるが,申出時までに廃棄されていた場合である。
平成30年度(最情)答申第40号は,記録謄写業務に公募制を採用した経緯が分かる文書について,平成22年より前の通達改正記録は廃棄され,保有する記録等を探索しても対象文書が見当たらなかったとの説明を踏まえた。

この場合の「不存在」は,当初から文書が作成されなかったことではなく,開示申出の時点で対象文書を保有していないことを示す。
作成の有無と現在の保有の有無は,時間軸を分けて読む必要がある。

4 一部の文書を特定し,残部だけ保有していない場合

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民事訴訟の鑑定事項書の作り方-鑑定人が答えやすく裁判所が評価できる質問設計(AI作成)

目次

第1 鑑定事項書の位置付け1 当事者が案を出し、裁判所が鑑定事項を定めること2 鑑定申出書、私的鑑定書及び専門委員との違い第2 鑑定事項書を作る前の三つの整理1 専門的判断がなければ決められない事実を特定すること2 前提事実を三つに分けること3 必要な専門分野と人数を先に確かめること第3 鑑定事項書の基本構成1 事件表示、鑑定の目的及び資料2 前提事実と資料の対応を示すこと3 鑑定事項を階層化すること第4 答えやすく検証可能な質問文の作り方1 対象、時点及び判断基準を明記すること2 観察、原因、評価及び代替仮説を分けること3 法的結論を丸ごと委ねないこと4 方法、根拠資料、不確実性及び回答限界を求めること第5 鑑定事項書の汎用書式例1 冒頭部分のひな形2 鑑定事項のひな形3 質問文の書換え例第6 鑑定人候補者との協議と資料の渡し方1 鑑定事項を確定する前に実行可能性を確認すること2 記録全体ではなく、質問に対応する資料地図を渡すこと第7 鑑定書提出後の補充と質問1 補充意見を求める場合2 口頭で質問する場合第8 裁判例から分かる鑑定事項と鑑定書の関係1 甲府地方裁判所平成17年9月16日判決の鑑定事項2 裁判所が鑑定結果を採用しなかった理由第9 提出前のチェックリスト1 質問と資料の点検2 提出を急がず協議すべき場合第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令及び最高裁判所規則2 裁判例3 裁判所の答申、報告書及び運用資料

第1 鑑定事項書の位置付け

1 当事者が案を出し、裁判所が鑑定事項を定めること

鑑定事項書は、民事訴訟で鑑定人に何を判断してもらうかについて、当事者が具体的な案を示す書面である。
民事訴訟規則129条1項は、鑑定の申出をするときは、やむを得ない事由がある場合を除き、同時に鑑定を求める事項を記載した書面を提出しなければならないと定めている。
もっとも、最終的に鑑定事項を定めるのは裁判所であり、同条4項は、裁判所が相手方の意見を考慮して鑑定事項を定め、その内容を鑑定人に送付するとしている。

民事訴訟法213条によれば、鑑定人を指定するのも裁判所である。
したがって、鑑定事項書は、当事者が選んだ専門家に一方的な結論を求める依頼書ではなく、裁判所と相手方の検討を経て中立な鑑定人に渡される質問案として作る必要がある。

2 鑑定申出書、私的鑑定書及び専門委員との違い

鑑定の申出では、鑑定の必要性や立証趣旨を説明する部分と、鑑定人への質問を具体化する部分を分けると理解しやすい。
鑑定事項書が主として後者を担うのに対し、鑑定書は、確定した鑑定事項に対して鑑定人が意見と根拠を示す書面である。

当事者が依頼した専門家の意見書である私的鑑定書と、裁判所が指定した鑑定人による鑑定も区別される。
この区別については、文書鑑定(AIリライト)で説明している。

専門委員は、専門的知見に基づく説明によって手続を補助する者であるが、その説明自体は証拠資料ではない。
これに対し、鑑定人は裁判所が定めた鑑定事項について意見を述べ、その意見は証拠資料となると知的財産高等裁判所の専門委員制度と鑑定人制度の説明に明記されている。
専門委員制度については、裁判所の専門委員制度-専門的知見による手続補助と鑑定との違い(AI作成)も参照されたい。

第2 鑑定事項書を作る前の三つの整理

1 専門的判断がなければ決められない事実を特定すること

最初に、要件事実や争点をそのまま鑑定事項へ移すのではなく、裁判所の法的判断と専門家の専門的判断との境界を引く必要がある。

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裁判所の令和6年度予算-概算要求,当初予算,補正予算及び決算の突合(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 対象,基準日及び資料の対象期間2 結論3 この記事が扱わない範囲第2 4つの数字を並べる1 総額2 項別に見ると像が変わる3 決算による検算第3 補正予算で積んだ金は,その年度には使われていない1 「裁判手続等のデジタル化等」169億円2 目レベルで見た繰越3 繰越の可否を分けるのは繰越明許費の指定である4 3つの金額を混同しない第4 満額で計上されたことと,使われたことは別である1 (項)裁判費の目別執行率2 満額の目は令和7年度から崩れる3 低執行は「どの目」を決めるが「いつ」を決めていない第5 流用の理由は決算報告書に書かれている第6 歳入は予算の1.85倍である第7 定員1 総数と事務官の増員2 定員法の説明と予算の説明第8 同じ表を自分で作る手順第9 未確認事項第10 出典・参考資料1 法令2 予算書,決算書及び概算要求書3 国会会議録4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象,基準日及び資料の対象期間

本記事は,裁判所所管の令和6年度予算について,概算要求額,当初予算額,補正後予算額及び決算額という4つの数字を同じ表に並べ,金額がどこで動いたかを確認するものである。
調査の基準日は令和8年9月6日であり,資料の対象期間は令和2年度から令和8年度までである。
中心に置くのは令和6年度であり,前後の年度は比較のために用いる。
金額は,特記しない限り千円単位である。
本記事の数値は,裁判所ウェブサイトに掲載された公式PDFと,財務省「予算書・決算書データベース」のCSVから取得したものであり,条文はe-Gov法令検索の本文によっている。
記事の作成にはAIを用いている。

2 結論

令和6年度の概算要求等額は340,893,828千円であり,当初予算額は330,979,009千円である。
要求等額に対する当初予算額の割合は97.09%となる。
しかし,この2つだけを比べて「約3%削られた」と書くと,二重に不正確になる。

第1に,その年度の予算は当初予算では終わらない。
令和6年度は補正予算第1号で23,470,369千円が追加され,補正後予算額は354,449,378千円になった。
これに前年度からの繰越13,238,876千円が加わり,予算現額は367,688,254千円である。

第2に,実際に支出された額は332,296,053千円である。
概算要求等額と比べれば97.48%,補正後予算と比べれば93.75%,予算現額と比べれば90.37%になる。
分母をどこに置くかで数字の印象は逆転する。

そして,本記事が最も強調したいのは次の点である。
要求どおり満額で計上された経費が,そのまま使われているとは限らない。
(項)裁判費のうち保証金は,令和6年度も1円も支出されていない。

3 この記事が扱わない範囲

裁判所の予算がどのような手続で決まるか,財政法19条の附記(二重予算)が令和2年度から令和8年度まで0件であること,及び8月末という送付期限の根拠については,裁判所の予算は誰が決めているのか――二重予算制度と,令和2年度から令和8年度まで附記が0件だったことで扱っている。
本記事は,その手続を前提として,令和6年度の金額が実際にどう動いたかだけを追う。

したがって,要求額と予算額の差についても,本記事では「内閣が減額した」とは書かない。
財政法19条の附記が0件である以上,公表資料から減額の事実を確認することはできず,他方で最高裁判所が納得していたことも確認できないからである。
本記事では,この差を単に「差」と呼ぶ。

第2 4つの数字を並べる
1 総額

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