メインコンテンツへスキップ
       

現物出資の価額証明と弁護士・税理士の責任―設立,増資,DESと評価資料(AI作成)

第1 価額証明を依頼する前に決めること

現物出資を用いて株式会社を設立し,又は成立後の会社が募集株式を発行するときは,出資財産とその価額を明確にし,検査役による調査が必要かを確認する。
弁護士や税理士等による価額の証明は,法定の条件の下で検査役調査を不要とする方法の一つである。
証明書があれば価額不足の責任まで消える制度ではなく,設立と増資では根拠条項も責任を判断する時点も異なる。

本記事は,令和8年10月17日現在の会社法に基づき,企業の担当者と証明業務を検討する専門家が,受任前から証明書交付までに確認する事項を説明する。
以下の資料整理や担当分担は,条文の条件を実務に落とし込むための提案であり,資料をそろえるだけで無過失が認められるとするものではない。

1 最初に区別する四つの事項

最初に,①設立時の出資か成立後の募集株式の発行か,②出資財産は何か,③検査役調査を不要とするどの規定を使うか,④誰がどの資料に基づいて価額を判断するかを決める。
会社設立時の財産引受けも検査役調査等の対象となるが,以下では現物出資を中心に扱う。

第2 設立と増資では検査役調査の例外が異なる

1 会社設立では会社法33条を確認する

設立時の現物出資では,出資者,財産,その価額及び割り当てる設立時発行株式の数等を定款で定める(会社法28条1号)。
検査役の選任申立ては同法33条1項が定め,価額に関する例外は同条10項に置かれている。

主な例外は,①現物出資財産と財産引受けの財産について定款に記載・記録された価額の総額が500万円を超えない場合,②市場価格のある有価証券について定めた価額が法務省令による市場価格を超えない場合,③弁護士・公認会計士・税理士等の証明を受けた場合である。
500万円の判定は,個々の財産を別々に500万円以下とすればよいというものではない。

2 増資では会社法207条を確認する

成立後の会社が募集株式を発行する際の現物出資では,財産の内容と価額を募集事項として定め,原則としてその決定後遅滞なく検査役の選任を申し立てる(会社法199条1項3号,207条1項)。
調査を不要とする場面は207条9項各号に定められている。

例外の根拠増資時に確認する条件
207条9項1号現物出資をする引受人に割り当てる株式の総数が,発行済株式総数の10分の1を超えないこと
同項2号募集事項として定めた現物出資財産の価額の総額が500万円を超えないこと
同項3号市場価格のある有価証券について定めた価額が,法務省令による市場価格を超えないこと
同項4号法定の資格を有する者の価額証明を受けること。不動産では鑑定評価も必要であること
同項5号会社に対する弁済期到来済みの金銭債権であり,定めた価額が対応する負債の帳簿価額を超えないこと

各号は別の例外である。
1号の株式数の条件や5号の金銭債権の条件を,設立時の33条10項にもそのまま当てはめることはできない。
市場価格の算定方法は,設立では会社法施行規則6条,増資では同規則43条を確認する。

3 専門家に証明を依頼できるか

会社法33条10項3号及び207条9項4号は,弁護士,弁護士法人,弁護士・外国法事務弁護士共同法人,公認会計士,監査法人,税理士又は税理士法人等による証明を定める。
不動産についてこの証明の例外を使う場合は,専門家の証明と不動産鑑定士の鑑定評価の双方が必要である。
ほかの調査免除要件に該当する場合まで,すべての不動産出資に一律にこの二つを要求するという意味ではない。

会社や出資者との関係も確認する。
設立では33条11項,増資では207条10項が証明できない者を定めており,資格の有無だけでは受任の可否を決められない。

第3 DESで会社への貸付金を出資する場合

DESは,債権を株式へ転換する取引を指す用語として使われる。
会社への金銭債権を募集株式の現物出資財産とする構成では,債権の発生原因,残高,債権者,弁済期及び会社側の負債の帳簿価額を確定する。

会社法207条9項5号を使うには,弁済期が到来していることと,定めた出資価額が対応する負債の帳簿価額を超えないことが必要である。
会社への貸付金であるというだけで,この例外を使えるわけではない。
同号の要件を満たす場合に,重ねて4号の専門家証明を要するという条文でもない。

調査を不要とする要件と,出資財産の価額不足に関する責任は別に確認する。
会社の債務超過,債権の回収可能性,債権額と採用価額の相違があるときは,会社法上の評価と税務上の処理をそれぞれ検討し,前提を共有する必要がある。
本記事は,DESの法人税上の債務消滅益や出資者側の損益について個別の計算方法を説明するものではない。

第4 価額不足が生じたときの責任

1 設立では会社成立時の価額を比較する

会社法52条1項は,会社成立時の現物出資財産等の価額が,定款に記載・記録された価額に著しく不足する場合の発起人・設立時取締役の責任を定める。
同条2項の免責には対象者の除外があるため,現物出資者自身と他の発起人を同じ条件で扱ってはならない。
証明者も同条3項により不足額の連帯支払義務を負い得るが,証明について注意を怠らなかったことを証明した場合には免責される。

2 増資では株主となった時の価額を比較する

会社法212条1項2号は,209条1項により株主となった時の現物出資財産の価額が,199条1項3号で定めた価額に著しく不足する場合に,引受人の不足額支払義務を定める。
比較するのは,給付された現物出資財産の価額と,その財産について募集事項として定めた価額である。
この条文を単に「募集株式の払込金額に不足した場合」と言い換えると,比較対象を取り違えるおそれがある。

関与した取締役等の責任は213条1項・2項,専門家の証明者責任は同条3項で確認する。
証明者は,証明について注意を怠らなかったことを証明したときに免責される。
価額を定めた日,証明書交付日,財産給付日及び株主となる日が異なる場合には,日付ごとの資料と変動要因を整理する。

3 検査役調査の免除と無責任を混同しない

検査役調査の例外に該当することは,出資財産の価額が常に適正であるとの保証ではない。
専門家証明による免除と,裁判所が選任した検査役の調査を経た場合とは,責任に関する条文上の扱いも区別する必要がある。
契約上の業務範囲を明確にすることと,法定の責任が生じるかは別の問題である。

第5 証明前に確認・保存する資料

1 財産,権利帰属,評価条件をそろえる

企業側は,定款又は募集事項案,出資契約案,割当株式数と発行済株式数,出資者との関係,給付予定日及び評価資料を専門家へ渡す。
不動産では登記・権利負担・鑑定評価,金銭債権では契約書・送金履歴・返済履歴・残高・弁済期を確認する資料を準備する。
財産の所在だけでなく,出資者が処分でき,会社へ給付できるかも確認する。

証明者は,受領資料の名称と日付,作成者,対象財産,評価時点,採用した手法・数値,採用しなかった資料と理由,追加照会及び回答を記録する。
これは調査の過程を後から説明できるようにする提案であり,法令で一律に定められた添付書類一覧ではない。
重要な資料が得られず,価額の相当性を判断できない場合には,証明書の交付を先行させず,追加調査又は取引条件の見直しを検討する。

2 税務上の評価目的を確認する

相続税・贈与税の株式評価,資産の税務上の帳簿価額,取引の売買価額及び会社法上の現物出資価額は,目的と条件を確認して使い分ける。
同じ金額を採用する場合でも,なぜ今回の財産・評価時点・取引条件に適合するかを説明する必要がある。
相続税等の評価明細書については,取引相場のない株式(出資)の評価明細書の書き方も参照されたい。

税理士が税務処理と価額証明の両方に関わる場合も,それぞれの依頼内容,判断した事項及び判断していない事項を明確にする。
評価対象や基準時が異なる資料を,説明なく一つの価額へまとめないことが重要である。

第6 出典と関連記事

本記事の法制度の説明は,次の現行法令と法務省の手続案内に基づく。
個別の証明者責任に関する裁判例の網羅調査や,本記事の資料整理方法による免責の保証は行っていない。

① e-Gov法令検索「会社法」28条,33条,52条,199条,207条,209条,212条,213条。
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086

② e-Gov法令検索「会社法施行規則」6条,43条。
https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000010012

③ 法務省「株式会社の設立手続(発起設立)について」の現物出資・検査役調査に関する案内。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00134.html

会社法の制定・改正の経緯は,会社法(平成17年法律第86号)の改正経緯で扱っている。