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平成21年度旧司法試験論文式試験の模範答案―憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法の全12問と出題趣旨を踏まえた解説(AI作成)

第1 対象資料と答案の前提

1 対象年度と公式資料

本記事は,平成21年度旧司法試験第二次試験論文式試験の6科目各2問,計12問を扱う。
問題文は法務省の問題PDF,出題趣旨は法務省の問題・出題趣旨PDFに基づく。
以下の頁はPDFファイルの先頭から数えた頁であり,各資料の問題番号は第1問・第2問である。
年度別の公表ページは,法務省「論文式試験問題・出題趣旨」(旧司法試験の年度別一覧)である。

関連する資料案内:法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在

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平成14年度旧司法試験論文式試験の模範答案・解説
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平成19年度旧司法試験論文式試験の模範答案・解説
平成22年度旧司法試験論文式試験の模範答案・解説

2 模範答案と解説の読み方

模範答案は,公式の出題趣旨を参照した上でAIが作成した学習用の答案例であり,一つの見解を採用したもので,公式の模範解答ではない。
特に,親権喪失の宣告後にされた親権者の代理行為と表見代理,遺産でない財産を含む遺産分割協議の錯誤と共同相続人間の担保責任,死因が不明な場合に途中から暴行に加わった者の責任,信販会社と購入者に対する詐欺の構成及び罪数,住居内にいる者の撮影の性質,自白に由来する証拠物及び反復自白の証拠能力については,見解が分かれ得るため,答案と異なる結論を採る余地がある。
答案の法的基準時は平成21年の出題当時とし,現行法と出題後の裁判例は,各問の末尾に分けて説明する。
「現行法と出題後の裁判例」の欄は令和8年11月3日を基準日とし,出題後の裁判例は各問の検討に関係する主要なものに限って取り上げる。
出題趣旨に記載された検討事項と,答案として採用した解釈・当てはめは,解説で区別する。

3 12問の論点一覧

科目問題主な検討事項掲載箇所
憲法第1問取材資料の押収と報道・取材の自由本文
憲法第2問国会議員の免責特権の範囲(地方公聴会の発言とホームページ掲載),国家賠償及び弁護士懲戒本文
民法第1問代理権の撤回・取消し,利益相反と親権者の権限濫用本文
民法第2問相続債務の承継,遺産分割の錯誤と担保責任本文
刑法第1問正当防衛・過剰防衛と共同正犯,承継的共同正犯と死因不明の結果帰属本文
刑法第2問文書の作成名義と,信販会社・購入者に対する詐欺本文
商法第1問吸収分割と,現物出資による募集株式の発行等(有利発行)の比較本文
商法第2問商人間売買の検査・通知と手形の人的抗弁本文
民事訴訟法第1問過失相殺の訴訟資料と明示的一部請求の減額方法本文
民事訴訟法第2問同時審判申出共同訴訟,擬制自白と控訴の範囲本文
刑事訴訟法第1問住居内と公開店舗内の秘密撮影,強制処分と任意捜査本文
刑事訴訟法第2問黙秘権不告知・偽計,自白に由来する物的証拠と反復自白本文

第2 憲法

1 第1問

(1) 問題文(原文)

出典:法務省・問題PDF 1頁。

自動車の多重衝突により多数の死傷者が出た交通事故の発生前後の状況を,たまたまその付近でドラマを収録していたテレビ局のカメラマンがデジタルビデオカメラで撮影しており,テレビ局がこれを編集の上ニュース番組で放映した後,撮影時の生データが記録されたディスクを保管していたところ,同事故を自動車運転過失致死傷事件として捜査中の司法警察員が,令状に基づき同ディスクを差し押さえた。この事例に含まれる憲法上の問題点について,その交通事故を取材していたテレビ局が,一般人が撮影したデジタルデータの記録されたディスクを入手し,それを編集の上ニュース番組で放映したところ,同事故に関する自動車運転過失致死傷被告事件の係属する裁判所が,テレビ局に対し,同ディスクの提出命令を発した場合と比較しつつ,論ぜよ。

(2) 法務省の出題趣旨(原文)

出典:法務省・問題と出題趣旨PDF 1頁。

本問は,報道の自由・取材の自由の憲法上の位置づけを明らかにし,これらに対する刑事事件捜査・公平な裁判の必要性による制約が許されるか否かにつき,報道の内容,取材経緯,警察による押収と裁判所の提出命令の違い等に留意して,関連判例も踏まえつつ,事案に応じて分析検討することを求めるものである。

(3) 模範答案

1 報道機関による報道は,国民が国政について判断するために必要な情報を提供し,民主政治を支える。
したがって,報道の自由は憲法21条1項によって保障される。
また,報道のための取材は報道を可能にする不可欠な活動であり,その自由も同条の精神に照らして十分尊重されなければならない。
テレビ局が法人であることは,これらの保障を否定する理由とならない。

 本件ではニュースとして編集・放映する活動が報道に当たり,未編集の映像を保管し,今後の編集等に利用する利益も問題となる。
撮影済みのディスクの押収は,取材の開始を直接禁止するものではない。
しかし,取材資料が捜査等に利用されることによって取材協力が得にくくなるおそれや,資料を失って報道活動に支障を来すおそれがあるため,撮影が既に終わり,一部が放映済みであることだけで憲法上の問題が消えるわけではない。

2 他方,刑事司法による真実の解明と適正な裁判の実現も,憲法上尊重される利益である。
報道機関の保管資料に一般的,絶対的な押収拒絶権を認めることはできない。
もっとも,令状があるという形式だけで報道・取材の自由への配慮が尽くされたともいえない。

 そこで,犯罪の性質・重大性,資料の証拠としての価値,真実発見のための必要性,代替資料の有無等と,資料提出によって報道・取材に及ぶ支障,その内容・程度,将来の取材への影響等を具体的に比較衡量するべきである。
提出を必要とする場合にも,対象と期間を必要な範囲に限定し,報道機関の不利益をできる限り小さくする配慮を要する。

 これは重大事件であれば必ず取材資料を利用できるという趣旨ではない。
事件の重大性は必要性を判断する一事情であり,どの資料のどの部分が必要か,より制約の小さい方法で目的を達成できないかを併せて検討しなければならない。

3 最初の事例では,多数の死傷者を生じた多重衝突について,各車両の動き,衝突の順序等を客観的に解明する必要性が高い。
発生前後の生データは編集済みの放送映像より広い情報を含み,事故原因の判断に相応の証拠価値がある。

 ただし,司法警察員の押収は捜査機関が自ら行う証拠収集である。
判例は,公正な刑事裁判の実現には適正迅速な捜査が不可欠の前提であるとして,捜査機関による取材資料の差押えについても,裁判所の提出命令と同様の比較衡量によって許否を判断している。
もっとも,係属事件を裁判する裁判所による資料提出とは主体・段階が異なり,報道機関が捜査の補助機関と見られることによる将来の取材への影響は,この比較衡量において考慮すべき事情となる。
令状発付時の裁判官の審査があることも,この影響を考慮しなくてよい理由にはならない。

 本件映像は,事故を取材する目的で現場に入った記者が取材相手から得た秘密情報ではなく,付近でドラマを収録中のカメラマンが偶然撮影したものである。
したがって,秘密保持を信頼した情報提供者との関係を損なう危険は,そのような取材の場合と比較して小さい。
他方,未放映部分を含む生データ全部の長期留置等があれば,将来の報道のための使用は妨げられる。

 そこで,事故に関する必要な範囲を特定し,複製の利用や速やかな返還等によって支障を軽減できるかを検討すべきである。
このような配慮の下で,他の証拠では代替しにくい重要な映像を確保するための押収であれば,制約は許容される。
問題文から代替証拠の有無や留置期間まで確定することはできず,それらを審査せずに押収全体を当然に合憲とはできない。

4 比較事例では,裁判所が既に係属する被告事件の審理のために提出を命じている。
公正な裁判の実現との結び付きは,捜査一般の便宜とは区別して評価できる。
また,映像の撮影者は一般人であって,局自身の取材活動への直接的な介入という性格は弱い。

 もっとも,局が一般人から資料を入手して放映する行為も報道活動であり,将来の情報提供を萎縮させる可能性は残る。
一般人による撮影だから保障が一切及ばないとの処理は相当でない。
提供経緯や秘密保持の約束は問題文にないため,これらをあるものともないものとも決め付けられない。

 以上から,後者は前者に比べ提出を許容しやすい事情があるが,いずれも具体的比較衡量と不利益軽減を要する。
同じ事故・映像であることのみをもって,捜査機関の差押えと裁判所の提出命令を同一のものとして処理すべきではない。

(4) 出題趣旨を踏まえた解説

出題趣旨が求めるのは,報道・取材の自由と刑事司法の要請を示した上で,二つの事例の相違を比較することである。
警察官の差押えと裁判所の提出命令,局のカメラマンによる偶然の撮影と一般人の撮影資料の取得は,それぞれ別の比較軸となる。

この比較の前提となる関連判例として,最高裁昭和44年11月26日大法廷決定(昭和44年(し)第68号,刑集23巻11号1490頁)がある。
同決定は,報道の自由は表現の自由を規定した憲法21条の保障の下にあり,報道のための取材の自由も同条の精神に照らし十分尊重に値するとした上で,付審判請求事件の審理のために裁判所が発した取材フィルムの提出命令について,犯罪の性質・態様・軽重,取材したものの証拠としての価値,公正な刑事裁判の実現にとっての必要性と,報道機関の取材の自由が妨げられる程度,報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情とを比較衡量して許否を決すべきであり,証拠としての使用がやむを得ない場合にも,報道機関の受ける不利益が必要な限度を超えないよう配慮しなければならないとした。
また,最高裁平成元年1月30日第二小法廷決定(昭和63年(し)第116号,刑集43巻1号19頁)は,裁判官の差押許可状に基づいて検察事務官が行った取材ビデオテープの差押えについて,公正な刑事裁判を実現するためには適正迅速な捜査が不可欠の前提であり,報道・取材の自由に対する制約の許否に関しては裁判所の提出命令と本質的な差異がないとして,同じ比較衡量により差押えをやむを得ないものとした。
したがって,本問の処分主体・段階の違いは,判断枠組みを分ける理由ではなく,比較衡量の中で評価する事情として扱うことになる。

答案では,映像が事故原因を客観的に示す価値と,取材への信頼・将来の情報提供・資料利用に与える不利益を対応させた。
放映済みであることから未編集資料の保護を全て否定したり,取材資料であることから押収拒絶権を絶対化したりする構成は採っていない。
偶然撮影では情報源の秘匿との結び付きが相対的に弱いという部分は,本問の事実から導く評価である。

処分主体の違いだけで結論を自動的に決めることも避けるべきである。
裁判所の提出命令でも報道への支障は生じるし,警察官の差押えでも司法審査と対象の限定が問題となる。
公式出題趣旨は具体的比較を要求しているのであり,本答案の条件付き結論そのものを公式の正解として掲げるものではない。

(5) 現行法と出題後の裁判例

現行の憲法21条を参照する際にも,表現活動の保護と,個々の捜査・裁判手続の適法性を分ける必要がある。
本問の物理的なディスクの差押えから,クラウド上の資料,通信履歴又は情報源の特定を伴う現代の資料取得へ,検討をそのまま広げることはできない。
取得対象と手段が変われば,刑訴法上の根拠と侵害の内容を改めて確認する必要がある。

2 第2問

(1) 問題文(原文)

出典:法務省・問題PDF 1頁。

国会議員であるとともに弁護士でもあるAは,派遣労働者の権利利益を拡充する内容の法律案に関して開催された地方公聴会において,この法律案の必要性を訴える中で,「この法律案に反対している経営者団体の幹部Bは,労働者を搾取することしか考えておらず,自分が担当している訴訟においてもBが違法に労働者を働かせていることを立証済みである。」旨の発言をしたほか,この発言を自己が開設したホームページに掲載した。Bは,Aの発言やホームページへの掲載により名誉を毀損されたとして,国とAを相手取り損害賠償を求めて提訴するとともに,Aが所属する弁護士会に対してその懲戒の請求をした。この事例に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

(2) 法務省の出題趣旨(原文)

出典:法務省・問題と出題趣旨PDF 1頁。

本問は,憲法第51条が定める国会議員の免責特権について,その趣旨を踏まえつつ,免責の対象となる行為の範囲や免責の効果,国家賠償請求の形での救済の可否等について検討し,当該事案への適用を論理的に記述することができるかどうかを問うものである。

(3) 模範答案

1 憲法51条は,国会議員が議院で行った演説,討論又は表決について院外で責任を問われないと定める。
その趣旨は,国民の代表者が自由に発言して国会の意思形成に参加できるよう,他の国家機関等による責任追及を通じた圧迫を防ぐことにある。
議員個人の私益を一般的に保護する制度ではないが,保護対象の発言については,その内容が違法であるとの理由だけで免責を否定すれば制度の目的を達しない。

 本問では,地方公聴会での発言と,その発言を自己のホームページへ掲載する行為とを区別し,さらにA個人の賠償責任,国の賠償責任及び弁護士としての懲戒を別々に検討する必要がある。

2 51条の「議院で行った」とは,国会議事堂の内部という物理的な場所だけによって決まるものではない。
議院の正規の活動として行われる委員会等における発言も,国会の意思形成に資する限り保護される。
地方公聴会についても,正規の議院活動として開催されたものであれば,開催場所が地方であることだけで免責の対象外とはならない。

 Aは派遣労働者の権利利益を拡充する法案について,その必要性を訴える中で,反対団体の幹部Bの労働者に対する取扱いを述べている。
法案の審議との関連があり,私人としての場外の発言と直ちに同視することはできない。
担当訴訟に言及した部分も,それだけで一律に議員活動から切り離されるわけではない。

 したがって,正規の地方公聴会における審議上の発言として51条の対象となる限り,Bは,その発言を理由にA個人へ院外の民事賠償責任を追及できない。
議院自身の自律的な懲罰の問題は,院外責任からの免除とは別である。

3 他方,発言内容を自己のホームページに掲載する行為は,既に行った院内発言を一般公衆へ改めて伝達する独立の行為である。
原発言が免責対象だからといって,その後の発信を無制限に免責すれば,保障の範囲が国会活動に必要な限度を超える。
自己開設のホームページへの掲載を,議院の正規の報告・公表と当然に同一視することもできない。

 よって,この掲載には51条の免責は及ばず,Aの民法709条上の責任を検討する。
Bの違法な労働実態を立証済みと断定する記載は,Bの社会的評価を低下させ得る。
もっとも,労働政策についての批判には政治的表現としての重要性があるため,公共性・公益目的,摘示事実の真実性又は真実と信じた相当な理由等を検討しなければならない。
「立証済み」というAの発言自体を,その事実が真実であることの証明として扱ってはならない。
これらの事情は与件だけでは確定できず,免責の不適用から直ちに損害賠償の認容まで導くことはできない。

4 51条による議員個人の免責は,国家賠償法による国の責任を当然に排除するものではない。
議員が公権力の行使として職務を行うについて,故意又は過失により違法に国民へ損害を加えたときは,国の賠償責任が問題となる。

 ただし,国会審議では多元的な意見・利益を自由な討論で調整する必要があるから,発言が私人の名誉を害したというだけで,直ちに国賠法上違法とはいえない。
職務とかかわりのない違法・不当な目的で事実を摘示した場合や,虚偽と知りながらあえて摘示した場合など,付与された権限の趣旨に明らかに背く特別の事情を要すると解する。

 本件発言は法案の必要性を説明する場面にある。
AがBを嫌っていたとか,虚偽を認識していたという事実は示されていないため,名誉を害する強い言葉を用いたことだけで,この特別の事情があると断定すべきでない。
他方,担当訴訟を口実に虚偽を承知で攻撃したこと等が立証されれば,国の責任を肯定し得る。
ホームページ掲載については,それ自体が国の職務として行われたかを別に判断し,私的な政治活動である限り国へその責任を転嫁できない。

5 弁護士会による懲戒も,議院以外の機関から法的責任を追及するものである。
そのため,51条によって保護される発言を,弁護士として品位を損なったという評価に言い換えて懲戒することは,免責の潜脱となり許されない。
弁護士資格を有する議員だけが自由な討論を妨げられることも相当でない。

 これに対し,免責の及ばないホームページ掲載については,弁護士法56条の懲戒事由に当たるかを独立に審査できる。
Bが請求をしたことのみで懲戒すべき義務が生ずるわけではなく,事実の真偽,表現の態様,Aの認識,弁護士としての信用への影響等を調査して判断すべきである。

(4) 出題趣旨を踏まえた解説

公式出題趣旨は,憲法51条の対象行為と効果だけでなく,名誉を害された者の救済として国家賠償を検討することを求めている。
地方公聴会という場所の問題,ホームページ掲載という別個の発信,議員本人・国・弁護士会という責任追及の相手と制度を,順に分ける構成が適する。

最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決(平成6年(オ)第1287号,民集51巻8号3850頁)は,衆議院社会労働委員会における法律案の質疑の中で病院長を名指しした国会議員の発言について,院長の妻が議員個人と国に損害賠償を求めた事件である。
同判決は,国会議員が国会で行った質疑等において個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても,当然に国家賠償法1条1項の違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく,責任が肯定されるためには,その議員が職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し,あるいは虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど,付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情を要するとし,その事件では国の責任を否定した原審の判断を是認した。
他方,議員個人に対する請求については,発言が国会議員としての職務を行うにつきされたものである以上,国が賠償責任を負うことがあるのは格別,公務員である議員個人は責任を負わないとして,発言が憲法51条の「演説、討論又は表決」に該当するかどうかを論ずるまでもなく理由がないとした。
したがって,同判決が議員個人の民事責任を否定したのは公務員個人の責任についての従来の判例によるものであり,51条の免責の対象や効果を最高裁が直接判断したものではない。

本問の地方公聴会や弁護士懲戒への51条の射程は,この判決の事案そのものとは異なる解釈の問題である。
答案の説明は,制度趣旨からの推論として読む必要がある。
ホームページ掲載に免責が及ばないとの判断も,名誉毀損の成立や懲戒相当性を直ちに確定するものではなく,真実性,公益目的,認識等の個別の判断が残る。

(5) 現行法と出題後の裁判例

現行法でも,憲法51条と国家賠償法1条は制定時の文言のまま改正されておらず,議員個人の免責と国の賠償責任は区別して検討することになる。
ホームページの議論をSNSへ応用する際は,発信主体,公的な公表か個人の発信か,原発言の引用範囲を特定することが先決である。
また,憲法51条が定めるのは「両議院の議員」の免責であり,地方議会議員の発言に同条の免責がそのまま及ぶわけではない。

第3 民法

1 第1問

(1) 問題文(原文)

出典:法務省・問題PDF 2頁。

18歳のAは,唯一の親権者で画家である父Bに対し,真実はバイクを買うためのお金が欲しかったのに,知人からの借金を返済するためにお金が必要であるとうそをついて,金策の相談をした。この事案について,以下の問いに答えよ。なお,各問いは,独立した問いである。

1 Bは,Aに対し,Aの借金を返済する金銭を得るために,Bが描いた甲絵画を,これまで何度か絵画を買ってもらったことのある旧知の画商Cに売却することを認め,売却についての委任状を作成し,Aに交付した。しかし,その翌日,Bは,気が変わり,Aに対して,「甲絵画を売るのはやめた。委任状は破棄しておくように。」と言った。ところが,その後,Aは,Bに無断で,委任状を提示して,甲絵画をCに50万円で売却した。この場合,Bは,Cから,甲絵画を取り戻すことができるか。

2 Bは,かねてからAがその所有する乙自動車を売却したいと言っていたのを幸いとして,その売却代金を自己の株式購入の資金とするため,Aの代理人として,Dに対し,乙自動車を60万円で売却した。この場合,Aは,Dから乙自動車を取り戻すことができるか。また,Bが,以前A名義の不動産を勝手に売却したことがあったことなどから,Aの伯母の申立てにより,家庭裁判所において,乙自動車の売却の1か月前に,親権の喪失の宣告がされ,確定していたのに上記のような売却をしたときはどうか。

(2) 法務省の出題趣旨(原文)

出典:法務省・問題と出題趣旨PDF 2頁。

小問1は,代理人になろうとする未成年者の詐欺により代理権が授与された後に本人から代理権授与が撤回された場合,代理権授与の撤回(解除)と詐欺による代理権授与の取消のそれぞれの場合における表見代理の成否等取引の相手方の保護について検討させ,代理に関する基礎的な理解力と論理的思考力等を問うものである。小問2は,親権者が子に対する法定代理権を濫用した場合の利益相反行為該当性と権限濫用の法理,行為当時法定代理権が消滅していた場合における表見代理の成否等子の保護と取引の相手方の保護とのバランスについて検討させ,代理に関する基礎的な理解力とその応用力等を問うものである。

(3) 模範答案

第1 小問1

1 Bが甲絵画の所有権に基づいてCに返還を求めるのに対し,CはAとの売買による所有権取得を主張する。
Aは2009年当時18歳の未成年者であるが,代理人は行為能力者であることを要しない(102条)。
本人Bのためにする意思を示し,権限内で売買すれば,その効果はBに帰属する(99条)。
Aが未成年者であること自体を理由にBC間の売買を取り消すことはできない。

 もっとも,Bは委任状を交付した翌日,Aに売却の中止と委任状の破棄を指示しており,代理権の授与を撤回したと解される。
委任状がAの手元に残っていても,代理権そのものが存続するわけではない。
したがって,Aの売買は原則として無権代理であり,追認のない限りBに効力を生じない。

2 しかし,112条は,代理権消滅後の取引の相手方を一定の範囲で保護する。
Cが代理権の消滅を知らず,知らなかったことについて過失もなければ,Bは消滅をCに対抗できない。
Aの売却は従前授与された代理権の範囲内であるから,問題はこの善意・無過失である。

 B自身が作成した委任状が提示され,Cは従前にもBの絵画を買った旧知の画商である。
このことは代理権の存在を信頼する事情となる。
ただし,委任状を所持することのみで無過失が確定するわけではない。
取引経緯,委任状の内容,売却条件等から権限消滅を疑う事情があれば照会を要し得る。
価格50万円が不相当であったという事実はないので,価格だけを理由にCの過失を認めることもできない。
Cが善意無過失ならBは返還を求められず,そうでなければ返還を求められる。

3 さらに,BはAの詐欺を理由に,代理権授与の意思表示を取り消す構成も考えられる(96条1項)。
借金返済の必要があるとの虚偽が授権の判断を左右したのであれば,単なる内心の目的不一致にとどまらない。
取消しによれば授権は遡及的に効力を失うが,撤回と取消しでは権限を失わせる原因と効力の時点が異なる。

 取消し前に利害関係を取得した第三者の保護と,取消し後に旧代理人と取引した相手方の保護とは区別する必要がある。
本件は既に売買前に授権撤回があり,Cはその後に取引しているので,まず112条の問題として処理すべきである。
詐欺取消しを併せて主張する場合にも,取消しによる遡及的な権限欠缺だけでCの保護が消えるとせず,代理権の外観をBが作出したことを踏まえ,112条の類推による善意無過失の相手方の保護を認めるのが相当である。

第2 小問2

1 唯一の親権者BはAの財産を管理し,その財産に関する法律行為を代理する権限を有する(824条)。
しかし,親子間の利益相反行為なら,特別代理人の選任を要する(826条)。
利益相反行為に当たるかは,親権者が子を代理してした行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきであり,当該代理行為をするについての親権者の動機,意図をもって判定すべきではない(最高裁昭和42年4月18日第三小法廷判決,昭和40年(オ)第1499号,民集21巻3号671頁)。

 本件売買は,A所有の自動車をDに売却する行為であり,その外形上,代金をBに贈与したり,Bの債務を弁済したりする行為ではない。
Bが代金を自己の株式購入に流用する目的を持っていても,それは代理行為をするについての動機・意図にすぎないから,本件売買は826条の利益相反行為に当たらない。

2 それでも,Bは子の利益のための代理権を自己の利益のために用いており,代理権濫用が問題となる。
親権者が子を代理してする法律行為は,利益相反行為に当たらない限り,子をめぐる諸般の事情を考慮してする親権者の広範な裁量にゆだねられているから,子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど,親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情がある場合に,代理権の濫用に当たると解する(子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供した事案について,最高裁平成4年12月10日第一小法廷判決,平成元年(オ)第759号,民集46巻9号2727頁)。
本件では,Bは売却代金を自己の株式購入の資金とする目的で売却しており,代金をAのために用いる事情はうかがわれないから,この特段の事情があり,代理権の濫用に当たる。
当時の法の下では,93条ただし書の類推により,DがBの濫用目的を知り,又は知り得た場合には,売買の効果はAに帰属しないと解する。
Aが以前から自動車を売りたいと述べていたことは,売却自体の希望を示すにすぎず,Bのために代金を流用することへの同意ではない。

 よって,Dが濫用について悪意又は過失を有すればAは返還を求められる。
Dが善意無過失なら,取引の安全のため売買はAに効力を生じ,Aは返還を求められず,Bへの責任追及によって保護を図る。

3 親権喪失宣告が売却1か月前に確定していた場合,Bの法定代理権は既に消滅し,売買は権限内の濫用ではなく無権代理である。
当時の112条は,代理権の消滅を善意の第三者に対抗することができないと定めるだけで,文言上任意代理に限っていないから,法定代理権の消滅にも同条を適用し,Dが善意無過失であればAへの効果帰属を認める見解も考えられる。
しかし,親権はAの授権によって生じた権限ではなく,喪失宣告はまさに子の保護のために行われる。
本件でAがBに権限があるとの外観を作った事情もない。
Dの信頼だけで喪失宣告による保護を覆すことは相当でなく,表見代理によるAへの効果帰属は否定すべきである。

 Aの追認がない限り,Aは返還を求められる。
無権代理によって本人に効力を生じないことは,売主の所有権だけが欠ける場合とは異なり,Dの即時取得によって当然に補えるものでもない。

(4) 出題趣旨を踏まえた解説

出題趣旨は,小問1で授権の撤回と詐欺取消しを,小問2で利益相反行為,代理権濫用,法定代理権の消滅を検討対象としている。
同じ返還請求でも,代理権が存在したか,権限内の行為が本人の利益に反して行われたかを分ける必要がある。

小問1は,Aが未成年でも代理人になれることと,A自身の法律行為を未成年者として取り消せるかを混同しないことが出発点となる。
委任状の所持は代理権の存続そのものではなく,相手方の信頼を評価する事情である。
詐欺取消しと撤回では効果の時点が違うため,第三者保護の条文を挙げるだけでなく,売買・取消し等の先後を示す必要がある。

小問2は,最高裁昭和42年4月18日第三小法廷判決(昭和40年(オ)第1499号,民集21巻3号671頁)が,利益相反行為に当たるかは親権者が子を代理してした行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきであり,親権者の動機,意図をもって判定すべきでないとした原判決の判断を正当としたことに従い,代金流用の目的があっても売却行為自体は利益相反行為に当たらないとした。
他方,利益相反行為に当たらなくても,売買が無条件にAへ効果を生ずるわけではない。
最高裁平成4年12月10日第一小法廷判決(平成元年(オ)第759号,民集46巻9号2727頁)は,子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供した事案で,親権者が子を代理してする法律行為は利益相反行為に当たらない限り親権者の広範な裁量にゆだねられているとし,子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど,親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り,代理権の濫用に当たらないとした。
同判決は,親権者が代理権を濫用した場合に,相手方が濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは,民法93条ただし書の類推適用により,その行為の効果は子に及ばないとしており,本答案はBの売却をこの特段の事情がある場合とみている。
親権喪失後の表見代理については,任意代理と法定代理の違いを理由付きで論じる場面であり,本答案は本人保護を重視する一つの立場を採る。

(5) 現行法と出題後の裁判例

現行民法4条・96条・102条・107条・112条・834条では,成年年齢は18歳であり,詐欺による意思表示の取消しは善意でかつ過失がない第三者に対抗することができず,代理権濫用は107条に規定されている。
したがって,現在の事件では18歳のAは成年者であり,本問の答案のようにAを未成年者として扱うことはできない。
現行102条は,制限行為能力者が代理人としてした行為は行為能力の制限によっては取り消すことができないと定める。
現行107条は,相手方が代理人の目的を知り,又は知ることができたときは,その行為を代理権を有しない者がした行為とみなすから,改正前93条ただし書の類推を用いる答案と,現行事件への適用は分けなければならない。
現行112条1項は「他人に代理権を与えた者は」と書き出し,代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対して責任を負うと定めており,当時の112条の「代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。」という文言から改められている。
親権喪失のような法定代理権の消滅に同項を適用し,又は類推できるかは,この文言を踏まえて論じる必要がある。
同条2項は代理権の消滅後に代理権の範囲外の行為をした場合の規定であり,従前の代理権の範囲内で売却した本問の各場面は1項の問題である。
親権の喪失の宣告は,民法等の一部を改正する法律(平成23年法律第61号)により親権喪失の審判に改められ,現行834条は,父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときを要件としている。

2 第2問

(1) 問題文(原文)

出典:法務省・問題PDF 2頁。

被相続人Aは,A名義の財産として,甲土地建物(時価9000万円),乙マンション(時価6000万円)及び銀行預金(3000万円)があり,負債として,Bから借り受けた3000万円の債務があった。Aが死亡し,Aの相続人は嫡出子であるC,D及びEだけであった。C,D及びEの間で遺産分割の協議をした結果,甲土地建物及びBに対する負債全部はCが,乙マンションはDが,銀行預金全部はEが,それぞれ相続するということになり,甲土地建物はC名義,乙マンションはD名義の各登記がされ,Eが預金全額の払戻しを受け,Bに遺産分割協議書の写しが郵送された。ところが,Cは,Bに対する債務のうち1000万円のみを返済し,相続した甲土地建物をFに売却した。この事案について,特別受益と寄与分はないものとして,以下の問いに答えよ。なお,各問いは,独立した問いである。

1 Bに対する債務に関するB,C,D及びE間の法律関係について論ぜよ。

2 乙マンションは,Aが,死亡する前にGに対して売却して代金も受領していたものの,登記はA名義のままになっていた。この場合,Dは,だれに対し,どのような請求をすることができるか。

(2) 法務省の出題趣旨(原文)

出典:法務省・問題と出題趣旨PDF 3頁。

小問1は,遺産分割協議の際に金銭債務を共同相続人の一人に負担させる合意がされた場合について,金銭債務が共同相続人にどのように相続されるかを前提として,上記の合意の法的性質と債権者に対する効力等を論じさせ,債務の相続,引受等についての基礎的理解とともに論理的思考力を問うものである。小問2は,遺産でない財産を含めて行われた遺産分割協議について,相続開始前の買主と共同相続人との関係,遺産分割協議の錯誤,共同相続人間の担保責任等を検討させ,遺産分割協議に瑕疵があった際の法的処理に関する論理的思考力及び判断能力を問うものである。

(3) 模範答案

第1 小問1

1 相続人CDEは,Aの権利義務を承継する(896条)。
相続分はいずれも3分の1であり,金銭債務は性質上可分であるから,AのBに対する3000万円の借入債務も,相続開始により各1000万円ずつに分割して承継される。
遺産分割によって積極財産を誰が取得するかと,債権者が誰に履行を求められるかとは別の問題である。

 したがって,Cに負債全部を負担させる共同相続人間の合意だけでは,DEはBに対する債務を免れない。
債務者を変更して他の相続人を免責するには,債権者Bの承諾を要する。
協議書の写しをBへ郵送したことは通知であり,それだけでBがDEの免責を承諾したと認めることはできない。
Bが異議を述べなかったという事実すら与えられていない。

2 共同相続人間では,CがDEの承継債務についても実際に弁済する義務を負う履行引受の合意と解することができる。
DEはCに対し,Bへの支払によって自己の債務を消滅させるよう請求でき,Bから請求を受けて自ら弁済した場合には,内部合意に基づいてCに償還を求め得る。

 もっとも,これを第三者Bのためにも直接の債権を発生させる合意と認定でき,Bが受益の意思を表示した場合には,併存的債務引受としてBからCへの請求を認める余地がある。
その場合でも,当然にDEが免責されるわけではない。
本件では,協議書送付だけからBの直接請求権取得及び他の相続人の免責まで一括して認めるべきでない。

 Cが支払った1000万円は,特段の充当指定等がなければC自身の承継債務の弁済と扱い,BはなおDEに各1000万円を請求できる。
Cについて残る内部の履行引受債務を,そのままBのCに対する2000万円の直接債権と混同してはならない。

3 Cが約束どおり全額を弁済しないことを理由に,DEはCに履行を求め,自己が支払った額の償還等を求めることができる。
しかし,共同相続人間の遺産分割協議は財産帰属を確定するものであり,その履行義務違反だけから債務不履行解除により遺産分割全体を当然に覆すことは相当でない。
Cによる甲土地建物のFへの売却も,そのことだけで無効にはならない。
Bに対する責任を甲土地建物の所有者であることに結び付け,Fへ借入債務が移ったと解することもできない。

第2 小問2

1 AG間で乙マンションの売買が成立し,所有権移転を妨げる特約等がなければ,所有権は生前にGへ移転している(176条)。
CDEはAの包括承継人であって,Gとの関係では単に登記を先に取得した独立の第三取得者ではない。
したがって,Dは自己名義の登記があることだけを理由に177条を援用してGの所有権を否定できず,乙マンションを遺産として確保することはできない。

 Aが代金を受領している以上,Gへの売買代金請求でその損失を補うこともできない。
Dが検討すべき相手方は,原則として他の共同相続人CEである。

2 第一に,遺産でない乙マンションを遺産と誤信して配分したことが,協議の重要な基礎をなしているなら,改正前95条の要素の錯誤による無効が問題となる。
動機の錯誤であっても,乙マンションが遺産であるとの前提が当事者間で表示され,協議内容の基礎となっていたかを検討する。

 Dは6000万円相当の乙マンションを取得することを内容とする協議をしており,これを全く取得できないなら協議の基礎は大きく失われる。
Dに重大な過失がある等の事情がない限り,錯誤無効を主張して遺産分割のやり直しを求める構成が考えられる。
CEが同じ錯誤に陥っていたか,乙の配分だけを切り離して残部を維持できるかも,協議の解釈として吟味すべきである。

 無効となる範囲では,Eの預金取得等について返還・清算を求め,正しい遺産の範囲を前提に再分割を行う。
ただし,Fとの関係は別に検討を要する。
遺産分割が有効であれば,Fは,分割により甲土地建物を単独で取得したCから買い受けたことになる。
しかし,909条ただし書の第三者は相続開始後遺産分割前に生じた第三者を指し(最高裁昭和46年1月26日第三小法廷判決,昭和45年(オ)第398号,民集25巻1号90頁),分割後に買い受けたFの保護を同条ただし書によって説明することはできないから,錯誤による無効の場合にもFが当然に全部の所有権を得るとはいえない。
他方,無効を認めたことだけでFの権利を一律に消滅させることもできず,C自身の持分の承継及び権利外観による保護の成否を区別しなければならない。

3 第二に,協議の効力を維持しながら,911条の共同相続人間の担保責任を追及する構成がある。
遺産分割で取得したはずの権利が存在しない場合にも,相続人間の配分の公平を保つ必要があるからである。
売買の担保責任に関する規律に従い,権利取得不能による損害の補填等を求めることができる。

 CEは各自の相続分に応じて担保責任を負う。
乙の取得不能による担保対象の損失を時価6000万円と評価する場合,相続分が各3分の1であるから,CEの負担は各2000万円となり,D自身の負担部分まで他の相続人に転嫁できない。
もっとも,具体的な損害額及び他の取得財産との清算は担保責任の要件に従って判断し,錯誤無効による原状回復と重複して填補を受けることはできない。

(4) 出題趣旨を踏まえた解説

小問1は,共同相続人間で債務負担者を決めたことと,債権者が他の相続人に請求できなくなることを分ける問題である。
協議書の郵送を債権者の承諾と同一視せず,履行引受,免責的引受,併存的引受のどの効果を主張するのかを明確にする。
Cが支払った1000万円の位置付けも,残債務の相手方を確定する上で必要となる。

小問2は,登記がDにあることだけでは,生前の買主Gに対する所有権の主張を基礎付けられないことから出発する。
その上で,遺産であるとの前提を誤った協議の効力と,有効な分割を前提とする共同相続人間の担保責任を検討する。
錯誤による協議の無効と,担保責任による損害の填補は,同じ説明の中で当然に累積できるものではない。

担保額については,6000万円という目的物評価だけで終わらず,相続分による各人の負担と,実際に填補される損失の範囲を示す必要がある。
本答案は,乙の時価6000万円を損失とみる場合,911条の「その相続分に応じて」の文言どおり,D自身を含む3人が3分の1ずつ負担し,CとEがDに各2000万円を填補するとしている。
また,Cから買い受けたFの保護は,協議の効力が維持される場合と無効となる場合とで基礎が異なる。
協議の効力が維持されるなら,Fは分割によって甲土地建物を単独で取得したCから買い受けたことになる。
最高裁昭和46年1月26日第三小法廷判決(昭和45年(オ)第398号,民集25巻1号90頁)は,909条ただし書にいう第三者は相続開始後遺産分割前に生じた第三者を指し,遺産分割後に生じた第三者については177条が適用されるとしているから,分割後に買い受けたFの保護を同条ただし書で説明することはできない。
協議が錯誤により無効となる場合には,FがCから確実に取得できるのはCが相続によって取得した法定相続分の共有持分であり,D・Eの持分についてFが保護されるかは,C名義の登記という外観を信頼した第三者の保護(94条2項の類推適用等)の問題となる。

(5) 現行法と出題後の裁判例

現行民法95条・899条の2・902条の2・911条を用いる事件では,錯誤取消しの第三者保護,相続による権利承継の対抗要件,相続分指定がある場合の債権者保護を区別する。
902条の2は相続分の指定を対象とする条文であり,本問の遺産分割協議と同じ場面だと説明してはならない。
現行911条は「売主と同じく」担保の責任を負うとする文言を維持しているが,売主の責任は平成29年改正で改められ,現行561条は,他人の権利を売買の目的としたときは,売主がその権利を取得して買主に移転する義務を負うと定めている。
現行565条が追完・代金減額等の規定を準用するのは,移転した権利が契約の内容に適合しない場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)であり,乙マンションのように権利の全部を移転できない場面は,561条の義務の不履行として債務不履行の一般規定(415条・541条・542条)の問題となる。
小問1の合意については,現行470条・472条が併存的債務引受と免責的債務引受を定め,債務者と引受人となる者との契約によるときは,いずれも債権者が引受人となる者に対して承諾をすることを要する(470条3項・472条3項)。
出題後の最高裁平成28年12月19日大法廷決定(平成27年(許)第11号,民集70巻8号2121頁)は,従前の判例を変更し,共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるとした。
本問のEが取得した銀行預金についても,現在の事件では,同決定を踏まえて遺産分割の対象となる財産かを判断することになる。

第4 刑法

1 第1問

(1) 問題文(原文)

出典:法務省・問題PDF 4頁。

甲及び乙は,路上を歩いていた際,日ごろから仲の悪いAと出会い,口論となったところ,立腹したAは甲及び乙に対し殴りかかった。甲は,この機会を利用してAに怪我を負わせてやろうと考えたが,その旨を秘し,乙に対し,「一緒に反撃しよう。」と言ったところ,乙は甲の真意を知らずに甲と共に反撃することを了承した。そして,甲は,Aの頭部を右拳で殴り付け,乙は,そばに落ちていた木の棒を拾い上げ,Aの頭部を殴り付けた結果,Aは路上に倒れ込んだ。この時,現場をたまたま通りかかった丙は,既にAが路上に倒れていることを認識しながら,仲間の乙に加勢するため,自ら別の木の棒を拾い上げ,乙と共にAの頭部を多数回殴打したところ,Aは脳損傷により死亡した。なお,Aの死亡の結果がだれの行為によって生じたかは,明らかではない。甲,乙及び丙の罪責を論ぜよ(ただし,特別法違反の点は除く。)。

(2) 法務省の出題趣旨(原文)

出典:法務省・問題と出題趣旨PDF 6頁。

本問は,相手方による急迫不正の侵害に対して,共同で反撃行為としての暴行を加え,更に他の者がこれに加担して暴行を加え続けたところ,相手方が死亡したが,死因がいずれの暴行によるかは不明であったという事例を素材として,これを的確に把握し,分析する能力を問うとともに,正当防衛,共同正犯と過剰防衛,承継的共同正犯等に関する理解及びその事例への当てはめの適切さを問うものである。

(3) 模範答案

1 甲乙による最初の暴行と,Aが倒れた後の乙丙による暴行を区別し,その上で共同関係,防衛状況及び死亡結果の帰属を検討する。
甲乙は共に反撃する旨を合意し,甲は拳,乙は木棒でAの頭部を殴っている。
相互の意思連絡に基づいてAの頭部を殴打しているので,まず傷害罪の共同正犯が問題となる(60条,204条)。
死亡の結果がその共同暴行によって生じたと認められれば,殺意が認められなくても傷害致死罪の共同正犯となる(205条)。

 しかし,Aは自ら甲乙に殴りかかっているため,防衛の成立を先に判断しなければならない。
共同して暴行したことから,全員について同じ違法性阻却又は刑の減免が生ずると処理することはできない。

2 正当防衛は,急迫不正の侵害に対し,自己又は他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為について成立する(36条1項)。
Aが殴りかかる行為は急迫不正の侵害に当たり得る。
甲乙が以前からAと不仲であったことだけで,不正な侵害を自ら招いたとか,防衛の機会が失われると決め付けることはできない。

 甲はこの機会にAに怪我を負わせようとし,その意図を乙に秘して反撃を提案している。
単なる憤激や反撃の意思は防衛意思と両立し得るが,専ら加害の機会として侵害を利用する積極的加害意思まで,当然に防衛意思に含まれるものではない。
本件では甲の提案と秘匿した目的に照らし,甲の行為は防衛のためのものとは評価し難い。
甲について正当防衛及び防衛行為を前提とする過剰防衛の減免を認めるべきではない。

3 これに対し,乙は甲の真意を知らず,一緒に反撃するとの提案を了承した。
乙の防衛意思は甲の隠れた目的によって当然に否定されない。
ただし,徒手で殴りかかるAに対して木棒で頭部を殴り,倒れた後にも木棒で頭部を多数回殴打する行為は,重大な生命身体の危険を生む。

 乙丙の後続暴行時にAが倒れているからといって,倒れただけで反撃能力を完全に失ったという事実を補うべきではない。
しかし,既に倒れたAの頭部を繰り返し殴る態様からすれば,少なくとも防衛に必要な限度を超える。
最初の反撃からの時間的・場所的連続性,防衛の継続という乙の認識及び侵害の実際の状態を踏まえ,一連の過剰な防衛行為と評価できる限り,乙について36条2項による刑の減軽又は免除を認め得る。

 反対に,防衛状況の終了を認識して報復に移ったと認められる場合には,その後の暴行を防衛行為として減免することはできない。
過剰防衛が問題となることと,犯罪自体が成立しないこととは異なる。

4 丙は,Aが既に倒れていることを認識し,仲間の乙に加勢するため木棒を持って殴打している。
その意思連絡は乙の後続暴行との共同正犯を基礎付けるが,甲乙の最初の合意に遡って参加したことにはならない。
また,加勢する意思だけでは他人防衛の成立を基礎付けられず,Aの状態,侵害の継続及び丙の認識を個別に判断する必要がある。

 本件の認識と多数回の頭部殴打という態様からは,丙が防衛に必要な行為をしたとはいえず,乙に過剰防衛の減免を認める場合でも,その利益を当然に丙へ及ぼすべきではない。
丙については後続暴行による傷害罪の共同正犯が成立する。

5 問題は死亡の原因が誰の暴行によるか不明な点である。
共同正犯では,共同実行の範囲内の結果について全員が責任を負うのであり,各人の打撃と結果との個別の対応までは要しない。
他方,丙が参加前に既に生じた傷害・死亡原因について,後から加勢したことだけで責任を遡及させることはできない。
参加前の侵害を利用する意思と,その結果への因果的寄与とは区別すべきである。

 甲乙の共同関係が後続する乙の暴行まで含む一連の反撃として継続していると認められる場合,乙については,後続部分で丙とも共同しているから,いずれの段階の暴行が死因であっても共同実行の範囲に入る。
甲については,甲乙の暴行が死因であれば共同実行の範囲に入るが,甲は丙と意思を通じていないから,丙の打撃が死因である可能性まで甲乙の合意だけで甲に帰責することはできない。
他方,丙は後続部分のみに参加しており,その部分が死因であったかは不明である。

 ここで,同一機会の複数の暴行から傷害が生じたものの,その傷害を生じさせた者を確定できない場合には,207条による同時傷害の特例を検討する。
同条の趣旨を傷害致死にも及ぼし,各暴行が死亡を生じさせた傷害を惹起し得ること等の要件が満たされるなら,共謀のない前後の暴行についても共犯の例による結果帰属を認め得る。

 したがって,本件では,乙には共同実行及び一連の暴行による傷害致死,甲には甲乙の共同実行に加え,丙の打撃が死因である可能性について207条の要件を満たすことによる傷害致死,丙には後続暴行の共同実行に加え207条の要件を満たすことによる傷害致死の責任を認める構成を採る。
その際も,甲乙の合意の範囲,丙の参加前後の因果関係を省略して,単に死因不明だから三者全員を共同正犯とすることはできない。
乙の過剰防衛による減免は個別に判断する。
207条の前提が証明されない場合は,不明な死亡結果を推測で帰責せず,各人について証明された傷害の範囲に責任を限定しなければならない。

(4) 出題趣旨を踏まえた解説

公式出題趣旨は,正当防衛の要件,共同正犯と過剰防衛の関係,承継的共同正犯を検討対象とする。
まず,甲乙の反撃,Aの転倒,丙の参加,乙丙の後続暴行という時間順序を整理する。
甲の隠れた加害目的を乙へそのまま帰属させず,各人の防衛意思や侵害の認識を個別に判断することが必要である。

一連の暴行として見るか,防衛状況の終了後の別の攻撃と見るかは,乙の減免だけでなく,甲乙の共謀の及ぶ範囲にも関わる。
時間・場所が連続することだけでは,防衛行為の継続も共謀の継続も当然には決まらない。
甲が後続暴行に参加していない点を無視して,三人の行為を初めから同じ共同実行として扱うべきではない。

また,死亡原因が誰の打撃か分からないことと,丙の参加以前に死亡原因となる傷害が完成していたか分からないことは,同じ立証問題ではない。
答案の207条を用いる構成は,公式出題趣旨が指定した結論ではなく,因果関係不明への対応として置いた解釈の一案である。
その適用条件と,途中参加の共同正犯として負う責任の範囲を別々に示す必要がある。

(5) 現行法と出題後の裁判例

出題後の最高裁平成24年11月6日第二小法廷決定(平成24年(あ)第23号,刑集66巻11号1281頁)は,傷害罪の事案で,共謀加担前に他の者が既に生じさせていた傷害結果は,後行者の共謀及びそれに基づく行為と因果関係を有しないから,後行者は傷害罪の共同正犯としての責任を負わず,共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によって傷害の発生に寄与したことについてのみ責任を負うとした。
被害者が負傷して逃亡や抵抗が困難になっている状態を利用して更に暴行に及んだとしても,それは共謀加担後に暴行を行った動機ないし契機にすぎず,加担前の傷害結果について責任を問い得る理由とはならないとする。
同決定は出題後のものであり,上記の答案は同決定を根拠としていない。
同決定は,共謀加担後の暴行が傷害を相当程度重篤化させたと認められた事案についての判断であり,傷害を生じさせた暴行を特定できない場合の207条の適用は,次の二つの決定が扱っている。

出題後の最高裁平成28年3月24日第三小法廷決定(平成27年(あ)第703号,刑集70巻3号1頁)は,207条の適用の前提として,検察官が,各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が同一の機会に行われたものであることを証明する必要があるとした。
共犯関係にない二人以上の暴行による傷害致死の事案でその証明がされた場合には,各行為者は,自己の関与した暴行が死因となった傷害を生じさせていないことを立証しない限り,当該傷害について責任を負い,更に死亡の結果についても責任を負うとし,いずれかの暴行と死亡との間の因果関係が肯定される場合でも同条の適用は妨げられないとする。
さらに,最高裁令和2年9月30日第二小法廷決定(令和元年(あ)第1751号,刑集74巻6号669頁)は,他の者が先行して暴行を加え,これと同一の機会に後行者が途中から共謀加担したが,傷害が共謀成立後の暴行により生じたものとまでは認められない場合でも,その傷害を生じさせた者を知ることができないときは,後行者は207条の適用により当該傷害についての責任を免れないとした。
ただし,後行者の加えた暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであるときに限られるとする。
現在の判例の下で本問を検討する場合には,丙の暴行がAの死因となった傷害を生じさせ得る危険性を有するか,甲乙の暴行と乙丙の暴行が同一の機会に行われたものかが,丙に死亡の結果まで帰責できるかを左右する。

現行の204条・205条では,令和4年法律第67号(令和7年6月1日施行)により,法定刑の懲役が拘禁刑に改められている(205条は3年以上の有期拘禁刑)。

2 第2問

(1) 問題文(原文)

出典:法務省・問題PDF 4頁。

甲は,国際旅行協会(AIT)という団体を設立し,AITには有効な国際運転免許証を発行する権限がないにもかかわらず,AITの名前で,正規の国際運転免許証に酷似した文書を作成して,顧客に販売することにした。ある日,甲は,国際運転免許証を欲しがっている乙に対して,日本で運転免許を持っていなくともAITが発行する有効な国際運転免許証を20万円で買うことができると告げたところ,これを信じた乙は,甲がAITの名前で発行する国際運転免許証様の文書を20万円で購入することにした。しかし,乙は,手持ちの金がなかったので,甲にそのことを告げたところ,甲は,自己の経営する宝石店で乙が宝石を購入したように仮装して,その購入代金につき,乙が信販会社とクレジット契約を締結し,これに基づいて信販会社に立替払をさせる方法により,国際運転免許証の代金を支払うように勧めた。これを承諾した乙は,甲の宝石店で20万円の宝石を購入したように仮装して,A信販会社とクレジット契約を締結し,甲は,乙にAIT名義で発行した国際運転免許証様の文書を渡した。なお,商品の購入を仮装したクレジット契約は,A信販会社の約款において禁止されており,甲及び乙はこれを知っていた。その後,A信販会社は,クレジット契約に基づき,甲の管理する預金口座に20万円を振り込んだ。その翌月,乙は,A信販会社からの請求に対し,20万円を支払った。甲及び乙の罪責を論ぜよ。

(2) 法務省の出題趣旨(原文)

出典:法務省・問題と出題趣旨PDF 7頁。

本問は,国際運転免許証に酷似した文書を偽造し,その購入を持ち掛けた上,真実は宝石の売買がないのに,売買があったと仮装し,信販会社とクレジット契約を締結して信販会社に立替払をさせるという方法により金銭を騙し取ったという事例を素材として,これを的確に把握し,分析する能力を問うとともに,私文書偽造罪及び詐欺罪の成立要件に関する理解と事例への当てはめの適切さを問うものである。

(3) 模範答案

第1 甲の文書作成・交付

1 甲は行使の目的で,AIT名義の国際運転免許証様の文書を作成している。
運転資格を証明する文書は事実証明に関する文書であり,私人の団体が作成名義人であれば,私文書偽造罪が問題となる(159条)。
外国の公的機関名義の公文書であることを,正規の免許証に似ているとの事実だけから補うべきではない。

 偽造とは,文書が表示する作成名義人と実際の作成者との人格的同一性を偽ることである。
真正な名義人が自分の名で虚偽内容を書く場合とは区別される。
甲がAITを実際に設立したことから,直ちに全て真正な文書であり内容虚偽にすぎないと結論付けることもできない。

2 作成名義人は,名義欄の文字だけでなく,文書全体の外観,用途,社会的な機能・信用を踏まえて判断する。
本件文書は正規の国際運転免許証に酷似し,有効な運転資格を証明する文書として販売される。
したがって,その表示する名義は単に甲が設立した私的団体ではなく,有効な国際運転免許証を発給する権限を備えた団体としてのAITであると評価できる。

 現実のAITにはその権限がないため,社会的信用を基礎付ける作成主体の同一性に齟齬があり,甲には私文書偽造罪が成立する。
これは無権限という内容だけを偽造へ言い換えるのではなく,資格証明文書として誰が発給したと表示されているかを踏まえた判断である。
与件では文書がAITの名前で作成されたとされているから,その名称の表示が159条1項の「署名」に当たれば有印私文書偽造罪となり,印章や署名の使用を与件から確定できないとしても,少なくとも同条3項の私文書偽造罪が成立する。

 甲が真正な有効免許証であると信じる乙へ文書を交付してその信用に供した行為には,偽造私文書行使罪が成立する(161条)。
乙自身が偽造を知らずに受領したことは,甲の行使を妨げない。

第2 A信販会社に対する詐欺

1 甲乙は,現実には存在しない宝石売買を存在するように装い,A信販会社に立替払をさせた。
同社の約款は禁止する取引を明示しており,両名はそれを知っている。
実在する商品取引を前提に信用を供与するかを決める同社にとって,宝石売買の有無は支払判断の重要事項である。
その売買があると偽る行為は欺罔に当たる。

 会社側の担当者がその虚偽を信じて立替払を決定し,甲の口座へ20万円を振り込んだのであれば,錯誤,財産的処分及び財物の移転が認められる。
振込による金銭の交付も財産的処分であり,甲乙には同社に対する1項詐欺の共同正犯が成立する(60条,246条1項)。
単に二人が同じ場にいたのではなく,甲が方法を提案し,乙が承諾して契約を締結し,甲が立替金を取得しており,共同実行への重要な寄与がある。

2 乙が翌月に20万円を支払ったことは,詐欺既遂後の事情であり,既に生じた犯罪を当然に消滅させない。
乙に返済の意思・能力があったとしても,禁止された仮装取引を偽って申し込み,同社に本来なら行わない立替払をさせることの意味は失われない。
ただし,約款の形式的な違反であれば全て詐欺となるのではなく,実在する商品の売買という支払の重要な前提を偽った点を重視する。

 また,乙は有効な国際運転免許証を買えると誤信しているが,宝石売買が仮装であり,信販会社にその事実を知らせず立替払を受けることは認識している。
免許証について騙されていたことを理由に,別の被害者である信販会社に対する詐欺の故意まで否定することはできない。

第3 乙に対する詐欺と各人の罪責

1 甲は,有効な国際運転免許証を取得できると乙を欺き,乙はその旨誤信して購入を決め,代金の支払方法としてA信販会社とクレジット契約を締結した。
有効な運転資格を取得できるかは取引の重要事項であり,欺罔と錯誤が認められる。

 もっとも,甲の口座に振り込まれた20万円は,A信販会社が自ら欺かれて立替払として交付した同社の金銭であり,乙が占有していた財物ではない。
この20万円の移転は第2で検討した同社に対する1項詐欺の対象であり,これを乙の財物交付とも評価して,乙に対する1項詐欺を重ねて認めることはできない。
乙の財産的処分は,誤信に基づいてクレジット契約を締結し,同社に対する20万円の支払債務を負担して,その立替払により甲への代金支払を実現させたことにある。
これにより,甲は乙の負担において代金20万円の支払を受けるという財産上の利益を得たのであるから,甲には乙に対する2項詐欺が成立する(246条2項)。

 その既遂時点は,遅くとも信販会社から甲への振込時であり,乙が翌月に信販会社へ支払った時ではない。
信販会社自身も欺かれていることは,その別の財産的判断を侵害した罪を成立させるのであって,乙の誤信と処分の連鎖を消滅させるものではない。

2 甲の免許証の偽造,乙への行使及び乙への2項詐欺は,偽造文書を真正な免許証として示し代金の支払を受けるという手段・結果の関係にあり,牽連犯として処理する(54条1項後段)。
甲乙が信販会社に宝石売買を仮装した欺罔は,乙への免許証の有効性に関する欺罔とは別個の行為であるから,信販会社に対する1項詐欺と上記の牽連犯とは併合罪と解する(45条)。
同じ20万円の資金移転にかかわるというだけで,異なる被害者の財産的判断を侵害した二つの詐欺を一罪へ吸収すべきではない。

 乙には信販会社に対する1項詐欺の共同正犯が成立する。
他方,乙は有効な免許証と信じて受領しており,偽造・行使の故意は認められず,その共犯とはならない。
乙の将来の免許証使用や運転の事実もないため,これらを別の既遂犯罪として付加しない。

(4) 出題趣旨を踏まえた解説

出題前の最高裁平成15年10月6日第二小法廷決定(平成14年(あ)第1164号,刑集57巻9号987頁)は,正規の国際運転免許証に酷似する文書について,その記載内容,性質などに照らすと,ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有する団体により作成されていることが文書の社会的信用性を基礎付けるとして,名義人を「ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有する団体である国際旅行連盟」と解し,有印私文書偽造罪の成立を認めた原判決を正当とした。
実在する団体の委託があっても,正規の発給権限を持つ団体という表示との同一性が問題となる。
本問でも,団体の実在又は甲が設立したことだけで,内容虚偽にすぎないと終えるべきではない。
ただし,判例の文書にあった印章を,本問にもあると補ってはならない。

詐欺については,信販会社の担当者を商品取引の存在について誤信させた場面と,乙を免許証の有効性について誤信させた場面とを分ける。
乙は後者では被害者となる一方,前者の架空取引は認識している。
この立場の違いを無視して,乙の故意を全部認めたり全部否定したりする説明は適切でない。

乙が現金を直接甲に渡さなかったことだけで,乙に対する詐欺の成立を否定することはできない。
もっとも,甲の口座に振り込まれた20万円はA信販会社の金銭であり,乙が占有していた財物ではないから,同じ振込みを信販会社に対する1項詐欺の対象とする以上,これを乙の財物交付とも評価することはできない。
答案は,乙がクレジット契約により20万円の支払債務を負担し,その立替払によって甲が代金の支払を受けた点を捉えて乙に対する2項詐欺とし,遅くとも信販会社の振込み時に既遂となり,乙の翌月の支払はその後の事情と位置付ける。
二つの被害者,二つの欺罔と一回の資金移転との関係は,詐欺の成立だけでなく罪数の判断でも明示する必要がある。

(5) 現行法と出題後の裁判例

現行刑法159条・161条・246条では,令和7年法律第39号(令和7年6月12日施行)により159条・161条に電磁的記録文書等の偽造・変造・行使に関する規定が加わり,令和4年法律第67号(令和7年6月1日施行)により法定刑の懲役が拘禁刑に改められている(159条1項は3月以上5年以下の拘禁刑,246条は10年以下の拘禁刑)。
上記の答案は,紙の文書の偽造・行使と詐欺を対象とする出題当時の各条(法定刑は懲役)を前提としている。
平成15年決定の名義人判断を電子的な証明書に当てはめる場合には,記録の性質,表示される作成主体及び適用条項を別に検討する必要がある。

第5 商法

1 第1問

(1) 問題文(原文)

出典:法務省・問題PDF 3頁。

製パン事業を営むX株式会社は,資本関係のない食品大手のY株式会社が保有する製パン工場の一つであるA工場をのれんも含めて取得し,これを直営したいと考えている。A工場(のれんも含む。以下同じ。)の評価額は,複数の証券アナリストに評価させたところ,5億円であった。X社の経営陣は,今後Y社と資本関係を持つことで,Y社からノウハウの提供等を受けることを期待することができると考え,A工場を現金ではなくX社株式50万株で取得することを希望してY社の経営陣と交渉を行ったが,最終的に,両社の経営陣は,X社がY社からA工場をX社株式60万株で取得すること(以下「本件取得」という。)に合意した。なお,X社は,発行可能株式総数が300万株,発行済株式総数が200万株,純資産額が20億円であり,X社株式の価値は1株当たり1000円であったものとする。また,X社は,公開会社であるが,委員会設置会社でも種類株式発行会社でもないものとする。本件取得を実行するには,X社の側では,どのような手続をとればよいか。次の二つの方法について,検討せよ。

1 本件取得に反対するX社の株主が,X社に対して,その有するX社株式の買取請求をすることを認める方法

2 本件取得に反対するX社の株主が,X社に対して,その有するX社株式の買取請求をすることを認めない方法

(2) 法務省の出題趣旨(原文)

出典:法務省・問題と出題趣旨PDF 4頁。

本問は,株式会社が他の株式会社の事業の一部を自社の株式を対価として取得する場合に取得する株式会社においていかなる手続が必要となるかを問うものである。解答に際しては,取得に反対する株主に株式買取請求を認める手法としては吸収分割が,同請求を認めない手法としては現物出資による募集に係る株式の発行・自己株式の処分が考えられることを示した上で,後者の手法においてはいわゆる有利発行に該当することも考慮しつつ,それぞれ必要となる手続について整合的な論述をすることが求められる。

(3) 模範答案

第1 株式買取請求を認める方法

1 Y社の事業の一部であるA工場に係る権利義務を,X社を承継会社とする吸収分割によって移転し,X社株式60万株をY社に交付する方法が考えられる。
吸収分割は,事業に関する権利義務の全部又は一部を他社へ承継させる組織法上の行為である。
これに対し,株式交換は原則として他社を完全子会社化する制度であり,A工場だけの取得という本件目的にそのまま適合しない。

 XY両社は吸収分割契約を締結し,承継するA工場に係る資産・債務等,X社が交付する株式の数・割当て,効力発生日その他の法定事項を定める(757条,758条)。
X社では,重要な業務執行として取締役会で分割契約及びその承認議案等を決定し,契約に関する事前開示書類を備え置く。

2 承継会社X社は,原則として株主総会の特別決議による契約承認を受ける必要がある(795条,309条2項)。
両社間に資本関係はないから,特別支配関係を理由とする略式手続は利用できない。
また,株式対価の算定では,交付株式数に1株当たり純資産額を乗じる。
本件の1株当たり純資産額は20億円÷200万株=1000円であり,60万株に乗じると6億円となる。
これはX社純資産20億円の5分の1である4億円を超える。
したがって,本件では規模を理由とする簡易手続によって株主総会承認を省略することもできない。

 A工場の評価額5億円そのものを交付対価の価額と取り違えてはならない。
いずれにせよ本件では4億円を超えるが,簡易手続の要件を判定する対象は,承継財産の評価ではなく,交付する株式の数に1株当たり純資産額を乗じた額その他の対価の額である(796条3項1号)。

3 承認を要する分割に反対するX社株主には,法定の要件の下で公正な価格による株式買取請求が認められる(797条)。
総会で議決権を行使できる株主は,原則として事前に反対を通知し,総会でも反対することを要する。
当該総会で議決権を行使することができない株主は,事前の反対の通知等をしなくても,反対株主として買取請求をすることができる(797条2項1号ロ)。
X社は効力発生日の20日前までに法定事項を株主へ通知し,公開会社であるから公告によることもできる。
買取請求は効力発生日の20日前の日から前日までに,対象株式数等を明らかにして行う。

 さらに,X社側でも債権者異議手続を行い,法定の公告・各別催告等をし,異議申述のため1か月以上の期間を設ける。
異議を述べた債権者には,害するおそれがない場合等を除き,弁済・担保提供等の保護を行う。
契約・株主・債権者の手続を終え,効力発生日に対象権利義務を承継し,事後開示及び変更登記等を行う。

 組織行為の対価としての株式交付を,そのまま通常の募集株式発行と同一視して有利発行手続を重ねるべきではなく,分割契約の承認・反対株主保護等の枠組みによって審査する。

第2 株式買取請求を認めない方法

1 Y社がA工場を現物出資し,その対価としてX社の募集株式60万株を引き受ける方法を用いる。
自己株式を保有していればその処分によることもできるが,保有の事実が示されていないので,新株発行による方法を中心にする。
発行後の株式総数は260万株となり,発行可能株式総数300万株の範囲内である。

 A工場はY社の事業の一部である。
X社が他社の事業の全部を譲り受ける場面ではないため,全部譲受けに関する467条の株主総会承認・買取請求を当然に適用することはできない。
現物出資の方法を採っただけで,分割の場合と同じ反対株主の買取請求権が生じるものではない。

2 募集事項として株式数,払込金額又は算定方法,現物出資財産の内容・価額,給付期日等を定める(199条)。
公開会社では取締役会決議が基本となるが,特に有利な払込金額での発行には株主総会の特別決議を要する。

 本件は5億円の工場と引換えに,価値が合計6億円の株式を交付する取引である。
1株当たりの負担は約833円となり,1株1000円の価値に比べY社に有利である。
Y社から将来ノウハウの提供を期待できるというだけで,その未確定の利益を直ちに出資価額へ上乗せし,有利発行を否定することはできない。
特に有利な発行として,取締役はその必要性を説明し,特別決議による募集事項の決定等を受けるべきである。
第三者割当てに関する引受申込み・割当て,通知等の手続も行う。

3 現物出資財産の過大評価から会社・株主・債権者を保護するため,原則として裁判所選任の検査役による調査を要する(207条)。
本件は5億円の財産であり,株式数も発行済株式200万株の10分の1を超えるため,少額又は少数株式の例外を利用できない。
工場は市場価格のある有価証券でもない。

 法定の資格を備える専門家の証明等による例外を利用する余地はあるが,複数の証券アナリストの評価だけで,その資格・証明要件を満たしたとはいえない。
A工場に不動産が含まれるときは,専門家の証明に加えて不動産鑑定士の鑑定評価も要する(207条9項4号)。
調査・価額調整及び現物出資の給付等を終え,株主となる時点を確定し,資本金等の増加・変更登記を行う。

(4) 出題趣旨を踏まえた解説

本問は,A工場を取得してX社株式をY社へ交付するという同じ経済目的について,反対株主に買取請求権を認める方法と認めない方法を比較する。
公式出題趣旨は,吸収分割と,現物出資を用いる募集株式発行又は自己株式処分を挙げ,有利発行にも言及することを求めている。
Y社側の手続を羅列するよりも,指定されたX社側の意思決定,開示,株主・債権者保護を,各方法の流れに沿って示すことが重要となる。

吸収分割の簡易手続の算定では,市場での株価と1株当たり純資産額を区別する。
本問では純資産20億円を発行済株式200万株で除した額も1000円となるため計算結果は同じだが,株価1000円であることだけを法的な算定根拠としてはならない。
また,現物出資では工場評価5億円と交付株式の価値6億円との差を評価する。
将来のノウハウ提供への期待が,そのまま現物出資財産の価額になるものでもない。

以下の条項は,会社法の制定時本文から平成26年改正の直前まで同じ文言である。
当時の会社法では,簡易手続の基準は796条3項に定められていた。
承継会社は,効力発生日の20日前までに株主へ吸収分割をする旨等を通知しなければならず(797条3項),公開会社であるときは公告で代えることができた(同条4項1号)。
株式買取請求は,効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に,株式の数を明らかにしてしなければならない(同条5項)。
債権者が異議を述べることができる期間は1か月を下ることができず(799条2項ただし書),期間内に異議を述べた債権者には,害するおそれがないときを除き,弁済,相当の担保の提供又は信託をしなければならない(同条5項)。
これらは別々の期間であり,債権者異議の手続が終了していなければ,効力発生日が到来しても権利義務の承継の効力は生じない(759条6項)。

(5) 現行法と出題後の裁判例

現行の会社法199条・207条・795条以下を参照する場合も,募集株式の発行と組織再編の手続を分ける。
会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号。平成27年5月1日施行)により,簡易手続の規定は796条2項へ移り,簡易手続によって株主総会の承認を要しない場合には,反対株主の株式買取請求は原則として認められなくなった(797条1項ただし書)。
改正前は,簡易手続による場合でも,全ての株主が反対株主として買取請求をすることができた(当時の797条2項2号)。
本問の対価は簡易手続の基準を超えるから,現行法でも,株主総会の特別決議による承認と反対株主の株式買取請求の手続が必要となる点は変わらない。
同改正では,吸収合併等が法令又は定款に違反する場合等に存続株式会社等の株主が不利益を受けるおそれがあるときは,吸収合併等をやめることを請求できるとされた(796条の2。簡易手続による場合は原則として除かれる。)。
また,公開会社が募集株式を発行し,引受人(その子会社等を含む。)の議決権が発行後の総株主の議決権の2分の1を超えることとなる場合の株主への通知等の規律も設けられた(206条の2)。
本問でY社が引き受けた後の議決権の割合は,60万株÷260万株で約23%であり,この規律の対象とはならない。
問題文の「委員会設置会社」は,同改正により「指名委員会等設置会社」と改められている(2条12号)。
出題後の最高裁平成23年4月19日第三小法廷決定は,吸収分割をする会社の反対株主がした株式買取請求について,吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合の「公正な価格」は,原則として,株式買取請求がされた日における,吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有したであろう価格をいうとした。
同決定は吸収分割をする会社(785条1項)の株主に関するものであるが,承継会社の反対株主の買取請求(797条1項)も,同じく「公正な価格」による買取りを求めるものである。
本問に資本関係がないこと,発行可能株式総数に余裕があることは,別々の手続要件に関わる事情である。

2 第2問

(1) 問題文(原文)

出典:法務省・問題PDF 3頁。

衣料品の販売を営むA株式会社は,平成21年4月30日,衣料品の製造を営むB株式会社から,衣料品(以下「本件衣料品」という。)を購入し,同日,B社から,本件衣料品の納入を受けた。A社は,同日,その代金の支払のために,満期を同年6月30日,受取人をB社とする約束手形(以下「本件手形」という。)を振り出した。以上の事実を前提に,次の問いに答えよ。なお,各問いは独立した問いである。

1 A社は,平成21年6月下旬ころ,本件衣料品を購入した消費者からの苦情により,本件衣料品が染色ムラや裁縫不良により販売に適さない商品であることを知った。A社は,直ちに,B社にその旨を通知するとともに,本件衣料品の販売を中止して,購入者から本件衣料品を回収した。A社は,B社との本件衣料品の売買契約を解除することができるか。

2 A社とB社とは,本件衣料品の売買契約を合意解除した。B社は,A社に本件手形の返還を約束したにもかかわらず,Cに本件手形の割引を依頼して,本件手形を裏書譲渡した。なお,(1)と(2)は独立した問いである。(1)Cが割引代金を支払って本件手形の裏書譲渡を受けた場合,Cから満期に本件手形の支払請求を受けたA社は,その支払を拒むことができるか。(2)Cが本件手形の裏書譲渡の翌日に割引代金を支払うことを約して本件手形の裏書譲渡を受けたが,割引代金を支払わなかったため,B社は,Cとの本件手形の割引契約を解除して,Cに本件手形の返還を請求した。本件手形の返還を拒んだCから満期に本件手形の支払請求を受けたA社は,その支払を拒むことができるか。

(2) 法務省の出題趣旨(原文)

出典:法務省・問題と出題趣旨PDF 5頁。

小問1は,商法526条に定める商人間の売買における買主の検査・通知義務の趣旨,要件等についての理解を問うものであり,解答に際しては,本問の瑕疵が直ちに発見することのできない瑕疵に当たるかどうか,売主が瑕疵について悪意であった場合の扱いについても論述する必要がある。小問2は,手形法17条に定める人的抗弁の切断についての基本的な理解を問うとともに,更に振出しと裏書の原因関係がいずれも消滅した場合と人的抗弁との関係についての理解を問うものである。

(3) 模範答案

第1 小問1

1 AB両社はそれぞれ営業のために衣料品を売買した会社であり,商人間の売買として商法526条が適用される。
染色ムラ・裁縫不良によって通常の商品として販売できないなら瑕疵に当たり,契約の目的を達成できない場合には改正前民法570条・566条に基づく解除が考えられる。
しかし,商人間の取引では,買主が検査・通知義務を履行したかを先に確認しなければならない。

 526条の趣旨は,買主に目的物を速やかに検査させ,売主に早期の調査・証拠保全・代替品の手当て等を可能にすることで,商取引を迅速に確定することにある。
一般の瑕疵担保責任について期間内であればよいという処理はできない。

2 買主は目的物を受領したとき遅滞なく検査し,検査により瑕疵を発見したときは直ちに売主へ通知を発しなければ,解除等をすることができない。
4月30日に納入を受けたA社は,その時点で衣料品を検査すべきであった。
衣料品販売業者が通常の検査をすれば分かる染色ムラ・裁縫不良であれば,6月下旬に消費者から苦情を受けて初めて通知しても遅い。
A社が現実に知らなかったことと,直ちに発見することができなかったこととは異なる。

 他方,外見からは分からず,通常の検査では直ちに発見できない瑕疵であれば,6か月以内に発見したときに直ちに通知を発することにより権利を保全できる。
本件の発見は受領から約2か月後であり,A社は直ちにB社へ通知しているから,この類型なら期間・通知の要件を満たし得る。
ただし,洗濯後に初めて現れた不良等の事実は与えられておらず,瑕疵の種類を具体的に確認せず隠れた瑕疵と決め付けることはできない。

3 また,B社が瑕疵を知っていたときは,526条による失権の保護を受けない。
瑕疵を知る売主に早期の通知による保護を与える必要はないためである。
B社は製造業者であるが,製造業者であるというだけで本件瑕疵について悪意と認定することもできない。

 以上より,通常の検査で発見できる不良で,B社の悪意も認められなければ,A社は解除できない。
直ちに発見できない瑕疵について適時の通知をした場合又はB社が悪意の場合には,一般の担保責任の要件を満たす限り解除できる。
販売中止と回収は目的不達成をうかがわせるが,検査・通知義務違反をそれ自体で治癒しない。

第2 小問2(1)

1 約束手形は原因関係と区別される手形上の権利を生じさせる。
AB間の売買が合意解除されても,既に振り出された手形が当然に無効となるものではない。
しかし,Aは受取人Bに対しては,原因関係の消滅及び返還約束に基づく人的抗弁を主張して支払を拒める。

 Cが裏書譲渡を受けた場合には,手形法77条1項によって準用される17条が問題となる。
同条は,裏書による流通を保護するため,手形債務者が裏書人等との人的関係に基づく抗弁を所持人へ対抗することを原則として妨げる。

2 したがって,Cが割引代金を支払って手形を取得した場合,Aは原則としてBとの合意解除をCに対抗できず,満期の支払を拒めない。
ただし,Cが取得時にAを害することを知っていたときは例外となる。
単に原因契約の存在を知っていたというだけでなく,AがBに対して抗弁を持ち,Cの取得によってその抗弁を失わせる事情についての認識を要する。

 本件ではCの認識が示されていないから,Cの悪意を推定して当然に支払拒絶を認めることはできない。
取得後に解除の事実を知ったことだけで,取得時に生じた抗弁切断の効果が失われるわけでもない。

第3 小問2(2)

1 Cが割引代金を支払わなかったとしても,そのことだけで裏書による手形取得が当然に無効となるとはいえない。
手形行為の無因性と,BC間の割引契約に基づく代金支払義務とはまず区別すべきである。

 しかし,本件ではBが割引契約を解除して手形返還を請求している。
CはBとの関係で手形を保持し,最終的に手形利益を取得する原因を失っている。
AB間でも既に原因契約が解除され,B自身もAに支払を請求できない。
この二つの原因関係の消滅を併せて検討する必要がある。

2 他人の人的抗弁を手形債務者が一般的に援用できるとすれば,流通保護が不安定となる。
他方,Cは自己の取得原因を失い,Bに手形を返還すべき立場にあり,戻されたBもAに対する人的抗弁を受ける。
この場合に,抗弁切断だけを理由としてCに最終的な利得を与えることは,手形流通を保護する必要から説明できない。

 そこで,両原因関係が消滅し,CがBに返還すべき本件では,Aはその事情を主張してCの支払請求を拒むことができると解する。
これは割引代金未払というBの抗弁を無条件に借用するのではなく,Cに保護すべき取得利益がなく,A自身も原因関係を失っているという限定された場面の処理である。
単なる代金未払のみの事例や,Cが正当な取得原因を維持している(1)へ,この結論を広げてはならない。

(4) 出題趣旨を踏まえた解説

小問1は,目的を達成できない瑕疵があるかという民法上の問題に先立ち,商法526条の検査・通知を検討する問題である。
通常の検査で発見できる不良,直ちに発見できない不良,売主が不良を知っていた場合を分ける。
受領から6か月以内という事情だけでは全ての瑕疵について解除が可能とはならず,発見困難性と発見後の通知を対応させる必要がある。

小問2(1)は,AB間の合意解除による人的抗弁と,裏書によって手形を取得したCとの関係を区別する。
原因関係が消滅すれば手形自体も当然に無効になるという説明では,手形法17条の検討を欠く。
Cが害意を有して取得したかは取得時を基準として検討し,原因関係を知っていたことだけから直ちに害意を認めない。

小問2(2)では,割引代金未払という事実だけでなく,Bによる割引契約の解除と返還請求まで示されている点が重要である。
AB間とBC間の双方で原因関係が消滅し,CがBへ返還すべき手形についてなお抗弁切断の利益を受けるかを論じる。
本答案は,Cに最終的な経済的利益がない場面としてAの支払拒絶を認める立場を採る。
最高裁昭和45年7月16日第一小法廷判決も,振出しと裏書の各原因関係がいずれも合意解除によって消滅し,所持人が裏書人に手形を返還しなければならなくなっていた事案で,手形の支払を求める何らの経済的利益も有しない所持人は人的抗弁の切断の利益を受ける地位にないとして,振出人が振出しの原因関係消滅の抗弁を所持人に対抗できるとした。
小問2(2)は,BC間の原因関係の消滅が割引代金の不払による割引契約の解除によって生じた点で同判決の事案と異なるが,CがBに手形を返還すべき立場にある点は共通する。
他人の人的抗弁を常に援用できるとの一般論へ拡張するものではない。

(5) 現行法と出題後の裁判例

現行商法526条は,種類・品質・数量に関する契約内容への不適合を対象とし,追完,代金減額,損害賠償及び解除について検査・通知との関係を定める。
同条は,民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成29年法律第45号)により改正され,令和2年4月1日から現在の規定となった。
直ちに発見することができない不適合について6か月以内に発見した場合の扱いは,現行法では種類又は品質に関する不適合に限られ,数量に関する不適合は含まれない。
現在の契約不適合責任を,2009年当時の瑕疵担保責任の条文として説明することはできない。
また,手形法17条・77条の問題では,売買上の救済の変更と,手形流通による抗弁の制限とを分けて検討する。

第6 民事訴訟法

1 第1問

(1) 問題文(原文)

出典:法務省・問題PDF 5頁。

Ⅹは,自転車に乗って道路を横断中,Yが運転する乗用車と接触して転倒し負傷したために,3000万円の損害を被ったと主張して,Yに対し,3000万円のうちの2000万円の損害賠償を求める訴えを提起した。この訴訟において,Yは,請求棄却を求め,事故の原因は急いでいたために赤信号を無視したⅩにあると主張した。裁判所は,事故はYの過失によって発生したものであり,Ⅹの被った全損害の損害額は2500万円であるが,整備不良のためにブレーキがきかないまま自転車を運転し赤信号の道路に飛び出したⅩにも5割の過失があると認めた。裁判所は,どのような判決をすべきか。

(2) 法務省の出題趣旨(原文)

出典:法務省・問題と出題趣旨PDF 8頁。

過失相殺の訴訟上の取扱いを問う問題である。弁論主義の意義・機能及び弁論主義が適用される事実を明らかにした上で,裁判所が判決において過失相殺をするためには当事者がどのような主張をすることが必要かを論ずべきである。また,一部請求の訴訟物が何かを踏まえつつ,見解の対立をも踏まえて一部請求における過失相殺の方法を論ずべきである。

(3) 模範答案

1 裁判所は,Yに1250万円の支払を命じ,Xのその余の請求を棄却すべきである。
過失相殺に関する資料の扱いと,明示的一部請求における減額の計算順序を分けて検討する。

 Xは,3000万円の損害賠償債権のうち2000万円を請求すると明示している。
処分権主義の下では,審判の対象と限度は当事者が定め,裁判所は申し立てられていない事項について判決できない(246条)。
したがって,2000万円を超える支払を命じることはできないが,このことは,請求された2000万円に機械的に過失割合を乗じるべきことまで意味しない。

2 弁論主義は,判決の基礎となる訴訟資料の提出を当事者の責任に委ねる原則である。
裁判所は,主要事実について当事者の主張しない事実を基礎とせず,自白に拘束され,争いある事実の証拠調べも原則として当事者の申出による。
他方,間接事実・補助事実は主要事実と同じ主張の拘束を受けず,証拠評価と法律の適用も裁判所が行う。

 Yの不法行為に基づく損害賠償請求では,Yの過失,権利侵害,因果関係及び損害などが問題となる。
本件で裁判所は事故がYの過失により発生したと認めており,Xにも事故原因があるというだけで,Yの責任を全面的に否定すべきことにはならない。

3 民法722条2項の過失相殺は,被害者の過失も考慮して損害を公平に分担させる制度であり,相殺の意思表示によって効果が生ずる通常の相殺とは異なる。
したがって,賠償義務者による「過失相殺する」という明示の意思表示や,特定割合の減額の申立てを不可欠とするべきではない。
Yが請求棄却を求めるだけで,減額を予備的に求めていないことも妨げにならない。

 当事者の主張のない被害者側の事情を一切考慮できないとする立場では,過失の評価根拠となる事実にも弁論主義を及ぼし,主張された赤信号無視と,主張されていない整備不良とを区別することになる。

 しかし,過失相殺が損害額の公平な確定のための制度であることから,訴訟に現れた資料によって被害者の過失が認められるときは,明示の過失相殺の主張がなくても裁判所が職権で斟酌できると解する。
この取扱いは,裁判所が資料に現れない過失を独自に想像したり,無制限に職権で事実を探索したりすることを認めるものではない。

 本件では,Y自身がXの赤信号無視を事故原因として主張しており,過失相殺を問題とする契機も明らかである。
裁判所は訴訟資料に基づいて認めたブレーキの整備不良も併せて考慮できる。
ただし,当事者が争点と認識し得なかった事情によって不意打ちとなるなら,釈明等により意見・反証の機会を与えるべきである。
本問で裁判所が認めたXの過失割合5割を前提として計算する。

4 明示的一部請求については,請求された債権の一部のみを訴訟物と捉え,既判力も原則としてその部分に及ぶと解する。
もっとも,その部分が実体法上どれだけ存在するかを判断するため,債権全体の発生・損害・減額事由を審理することはできる。
全体を計算の基礎にすることと,残部についても主文で裁判することは異なる。

 過失相殺の計算方法として,請求部分にまず過失割合を適用する内側の処理を採れば,2000万円に5割を乗じた1000万円となる。
この見解は一部だけを訴訟物とした点を計算にも直接反映させるが,残部の存在と,原告が全債権の一部として支払を求めた趣旨を十分に捉えない。

 これに対し,実体法上認められる損害の総額から過失相殺による減額をした後,残額と一部請求額を比較する方法が相当である。
原告の趣旨は,債権全体から一部の支払を得ることであり,損害のどの部分に対する過失相殺かを原告の請求順序で左右させるべきではない。
真に残る債権の範囲内で,請求上限までを認容すれば足りる。

5 本件の認定損害額は,Xの主張した3000万円ではなく2500万円である。
これから5割を控除すると,実体法上の損害賠償額は1250万円となる。
その額は請求額2000万円より少ないので,認容額は1250万円,棄却する部分は750万円となる。

 3000万円に5割を乗じた1500万円を認容するのは,主張額と認定額を取り違えた計算である。
また,訴訟物が一部であることだけを理由に,2000万円の半額である1000万円を採るべきでもない。
裁判所は以上の損害認定と計算を理由で示しつつ,主文では本件の請求部分について1250万円の支払命令及び残部棄却を行う。

(4) 出題趣旨を踏まえた解説

公式出題趣旨は,弁論主義,過失相殺のための当事者の主張,一部請求の訴訟物及び計算方法を順に検討することを求める。
過失相殺の意思表示又は法的主張が不要であることと,減額の基礎となる事実を裁判所がどの資料から認定できるかは区別すべきである。
答案は,最高裁昭和41年6月21日第三小法廷判決が,裁判所は訴訟にあらわれた資料に基づき被害者に過失があると認めるべき場合には職権で過失相殺をすることができ,賠償義務者から過失相殺の主張があることを要しないとしたことを踏まえ,ブレーキ整備不良も考慮する。
資料に現れない事実の職権探知まで認めるものではない。

次に,主張損害3000万円,認定損害2500万円,請求額2000万円を別の数値として扱う。
主張額から5割を引く計算も,請求額から機械的に5割を引く計算も,本答案が採る方法とは違う。
認定した総損害に減額を適用して残額1250万円を求め,それと請求上限を比較する。
棄却するのは,2000万円との差額750万円である。

一部請求の訴訟物と既判力を説明する際も,全債権を計算の基礎とすることと,全債権を主文で裁判することを混同しない。
一部請求における過失相殺の方法について,最高裁昭和48年4月5日第一小法廷判決は,一個の損害賠償請求権のうちの一部が訴訟上請求されている場合には,損害の全額から過失割合による減額をし,その残額が請求額を超えないときは残額を認容し,残額が請求額を超えるときは請求の全額を認容することができるとした。
同判決は,このように解することが一部請求をする当事者の通常の意思にも沿うとし,請求額を基礎として過失割合による減額をした残額のみを認容する方法を相当でないとしており,答案の計算はこの判例の方法と同じである。

(5) 現行法と出題後の裁判例

現行民事訴訟法246条は,申立てのない事項について判決することを禁じる。
一部請求を現在の事件で用いる際も,請求上限,審理のために認定する総債権額,減額後の額を分けて記載することが有用である。
過失相殺と通常の相殺では成立要件も訴訟上の扱いも異なるため,いずれも金額を差し引くという共通点だけで同じ抗弁として扱うべきではない。

2 第2問

(1) 問題文(原文)

出典:法務省・問題PDF 5頁。

Ⅹは,Yとの間で動産の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結したとして,Yに対し債務の履行を求めたが,Yは,本件売買契約はYの代理人と称するZがYに無断で締結したものだと主張し,Ⅹの請求に応じようとしない。そこで,Ⅹは,YとZを共同被告とする訴えを提起し,Yに対しては本件売買契約の当事者としての債務の履行を求め,Zに対しては無権代理人としての債務の履行を求めた。第1回口頭弁論期日において,Ⅹは,同時審判の申出をし,Yに対しては本件売買契約当時のZの代理権の存在を主張し,Zに対してはZの代理権の不存在を主張した。Yは,Zの代理権の存在を争う旨の主張をし,証拠の申出をしたが,Zは,答弁書を提出しないまま第1回口頭弁論期日に欠席した。

1 裁判所は,第1回口頭弁論期日においてZについて弁論を分離してX勝訴の判決をすることができるか。

2 裁判所は弁論を分離しなかったが,Zはその後の期日もすべて欠席した。証拠調べの結果,裁判所は,本件売買契約当時,Zは代理権を有していたとの心証を得た。この場合,裁判所はどのような判決をすべきか。

3 2とは逆に,裁判所は,本件売買契約当時,Zは代理権を有していなかったとの心証を得たため,ⅩのYに対する請求を棄却し,Zに対する請求を認容する判決をした。この第1審判決に対してXがYを被控訴人として控訴した場合,控訴裁判所は,YとZを共同被控訴人として判決をすることができるか。

(2) 法務省の出題趣旨(原文)

出典:法務省・問題と出題趣旨PDF 9頁。

同時審判申出共同訴訟についての理解を問う問題である。1では,同時審判申出共同訴訟の趣旨及び要件に言及しつつ,弁論の分離が禁止されることを指摘すべきである。2では,弁論及び裁判の分離が禁じられることを除き共同訴訟人独立の原則が適用されること,X主張の請求原因についてZの擬制自白が成立し,かつ,Zが抗弁を主張していないことに留意しつつ,YZそれぞれに対する判決の内容を論ずべきである。3では,XのYに対する控訴によりZに対する請求が控訴審に移審するかどうかを論ずべきである。

(3) 模範答案

第1 小問1

1 本件は,民事訴訟法41条の同時審判申出共同訴訟である。
同制度は,実体法上両立しない複数の請求について,別々の審理の結果,原告がいずれの被告に対しても敗訴する事態を防ぐため,同じ手続で判断する機会を保障するものである。

 Zに有効な代理権があれば本件売買の効果はYに帰属し,代理権も追認もなければ原則としてYには帰属せず,Zの無権代理人責任が問題となる。
XがYに求める本人としての履行責任と,Zに求める無権代理人としての履行責任とは,同じ法律行為について実体法上両立しない関係にある。
共同訴訟の要件を満たし,Xも第1回期日に同時審判を申し出ているため,41条の適用がある。

2 この場合,裁判所は弁論及び裁判を分離してはならない。
Zが答弁書を提出せず第1回期日を欠席したとしても,そのことは分離禁止を解除する理由とならない。
したがって,裁判所がZについてだけ弁論を分離し,直ちにX勝訴の判決をすることはできない。

 ただし,分離禁止の意味は,各被告に対する請求について必ず同じ事実認定や同じ結論をすることではない。
通常共同訴訟を基礎にしつつ審理・裁判を同時に行う制度であり,合一確定を必要とする必要的共同訴訟へ転化するものではない。

第2 小問2

1 同時審判申出共同訴訟にも,分離禁止等の特則を除き,共同訴訟人独立の原則が適用される(39条)。
各共同訴訟人の訴訟行為,相手方の行為及び一人について生じた事項は,原則として他の共同訴訟人に影響しない。
したがって,YがZの代理権を争って証拠を申し出たことと,Zが欠席して主張しなかったこととは別に扱う。

 Yとの関係では,Xは契約締結時にZが代理権を有したことを主張し,証拠調べの結果,裁判所もその心証を得ている。
したがって,その他の請求原因が満たされている限り,Yに対する契約上の履行請求を認容する。

2 Zとの関係では,Zは答弁書を提出せず第1回期日以降も全て欠席している。
Xの主張する無権代理人責任の請求原因事実については,159条による擬制自白が問題となり,Zが明らかに争ったものと扱うべき事情は示されていない。

 YがZの代理権を争ったことも,XがYとの関係で代理権の存在を主張したことも,Z自身の主張には当たらない(39条)。
また,代理権が実際にはあったとの心証が生じても,Zが代理権の存在を自分の免責事由として主張していない以上,Zとの関係で必要な主張を裁判所が補ってはならない。
民法117条の責任について,代理権の証明又は追認,相手方の悪意・過失等の免責に関わる抗弁を,欠席者のため職権で提出する制度ではないからである。

 共同訴訟では一人の提出した証拠を他の請求の認定にも利用し得るという証拠共通の問題がある。
しかし,証拠を利用できることは,各訴訟関係に必要な主張や自白の拘束を無くすことではない。
証拠共通と主張共通を混同すべきではない。

3 したがって,XのZに対する請求原因について擬制自白が成立し,抗弁も提出されていない本件では,Zに対する履行請求も認容する。
Y及びZの双方への認容は実体法上の前提が食い違うように見えるが,同時審判制度が共同訴訟人独立の原則を全面的に排除していないことによる。
両立しない請求を同時に審判する制度の目的だけから,一方の請求を職権で棄却することはできない。

 裁判所は分離せず,Y及びZの両請求について一つの手続で判決する。
なお,判決の形式上両方が認容されることと,実体上同じ給付を二重に取得してよいこととは別であり,後者の清算等を,本問の主張・自白の規律を省略する理由にしてはならない。

第3 小問3

1 XのYに対する請求が棄却され,Zに対する請求が認容された第一審判決について,Xは敗訴したYとの関係だけを控訴している。
通常共同訴訟では,控訴の提起による確定遮断・移審の効力も各請求について独立し,必要的共同訴訟のように当然に他の共同訴訟人へ及ぶものではない。

 同時審判の申出は合一確定を生じさせないから,XのYに対する控訴によって,Zに対する請求も当然に移審するとは解せない。
Z自身の適法な控訴等がなければ,その部分は独立して確定する。
XがZに勝訴していることを無視し,制度目的だけでZへの請求全体を控訴審に持ち込むことはできない。

2 41条が,控訴審で複数の共同訴訟人に係る事件を同じ口頭弁論で審理することを求めるとしても,それは各事件が適法に控訴審に係属することを前提とする。
既に確定した別の請求を,新たに移審させる根拠ではない。

 したがって,設問の控訴だけでは,控訴裁判所はYとZを共同被控訴人として両請求について判決をすることはできず,Yに対する請求についてのみ審判するべきである。

(4) 出題趣旨を踏まえた解説

小問1は,同時審判の申出による分離禁止が,Zの欠席によって失われるかを問う。
欠席者だけについて先に判決すれば,実体法上両立しない二つの請求を同じ手続で扱う制度の機能を損なう。
弁論と裁判を分離しないという効果を明示すべきである。

小問2は,同時に審判することと,必要的共同訴訟のように合一確定することとを区別する問題である。
Yとの関係で代理権ありとの心証を得ても,Zとの関係の主張・擬制自白・免責抗弁を全て置き換えることにはならない。
証拠共通は,必要な主張の提出や自白の拘束を取り払う制度ではない。
双方認容という結論の説明では,実体的に両立しない請求が手続上どのように扱われるかを,独立の原則から論じる必要がある。

小問3では,小問2とは異なる第一審の結論が指定されている。
その前提に従い,誰が,どの敗訴部分を控訴したかを先に確定する。
41条3項の併合義務は,各事件が控訴審に係属する場合の規定であり,片方への控訴から他方も当然に移審する根拠とは別である。
制度目的だけから,勝訴しているZとの関係まで移審すると処理しないことが要点となる。

(5) 現行法と出題後の裁判例

現行民事訴訟法39条・41条・159条にも,独立の原則,同時審判の分離禁止・控訴事件の併合,擬制自白がそれぞれ規定される。
他方,無権代理人の責任を定める民法117条は,平成29年法律第44号による改正(令和2年4月1日施行)で改められた。
現行民法117条1項は,代理人が自己の代理権を証明したとき又は本人の追認を得たときを除いて責任を負うと定め,同条2項2号は,相手方が過失によって代理権の不存在を知らなかったときを免責事由としつつ,代理人が自己に代理権がないことを知っていたときはこの限りでないとする。
改正前の同条2項は,相手方が代理権の不存在を知っていたとき若しくは過失によって知らなかったとき,又は代理人が行為能力を有しなかったときを免責事由としており,代理人が自己に代理権がないことを知っていた場合の例外を置いていなかった。
答案は,出題当時の改正前の規定を前提とする。
訴訟手続の結論と,実体法上二重の給付を取得できるかという問題も分けて検討する。

第7 刑事訴訟法

1 第1問

(1) 問題文(原文)

出典:法務省・問題PDF 6頁。

警察官Aは,振り込め詐欺事件に関与した疑いの濃厚な被疑者甲について,銀行の現金自動預払機から現金を引き出す際に防犯ビデオカメラに写っていた犯人との同一性を判断するため,甲宅前路上から,同宅2階の居室を監視し,その窓のカーテンを開けて甲が窓越しに顔を見せた際,所携のビデオカメラで,甲の容ぼうを撮影した。また,警察官Bは,防犯ビデオカメラに写っていた犯人の右手首のあざが甲にあるかを確認するため,甲が入ったレストランに客を装って入店し,かばん内に装備した小型ビデオカメラで,飲食している甲の様子を撮影した。警察官A及びBの撮影行為は適法か。

(2) 法務省の出題趣旨(原文)

出典:法務省・問題と出題趣旨PDF 10頁。

本問は,振り込め詐欺事件の犯人特定のために警察官が行ったビデオ撮影の適法性を問うことにより,強制処分法定主義の意義,強制処分と任意処分の区別,ビデオ撮影の法的性質と適法性の判断基準などについて,基本的な知識の有無と具体的な事案に対する応用力を試すものである。

(3) 模範答案

1 警察官による容ぼう等のビデオ撮影も捜査処分であり,憲法13条が保障する私生活上の自由,みだりに容ぼう等を撮影されない利益を制約する。
Aの自宅居室に対する撮影と,Bのレストランでの撮影を,目的が同一性確認であることだけで一括して扱うべきではない。
各処分の強制処分該当性を先に判断し,任意処分である場合にもその必要性・相当性を検討する。

2 刑訴法197条1項ただし書は,強制処分について法律上の特別の根拠を必要とする。
強制処分か否かは,物理的な有形力の有無だけでなく,個人の意思を制圧し,身体,住居,財産等の重要な権利利益を実質的に侵害する処分かによって判断すべきである。
知られずに行う撮影でも,重要な私生活領域への侵入があれば,本人が抵抗していないという理由で任意処分とはできない。

 他方,同意のない撮影が全て強制処分に当たるともいえない。
一般に人の目に触れる容ぼうを,限定した方法で記録する程度の処分なら,捜査に必要な範囲の任意処分として行い得る。
秘密性と強制処分性を同義にせず,撮影対象,場所,方法,範囲及び期間から,侵害される利益の程度を判断する必要がある。

3 Aは甲宅前の路上から,2階の居室を監視し,カーテンが開いて甲が顔を見せた機会に撮影している。
住居内部は,外を通行する者の視線から私生活を守ることが強く期待される領域であり,公道で活動する姿の記録とは異なる。
Aが路上に立ち,敷地へ物理的に侵入していないことだけで,住居内部に関する利益の侵害を否定することはできない。

 もっとも,甲自身がカーテンを開け,窓越しに顔を見せたため,通常の通行人にも見える範囲の容ぼうを一時的に記録しただけで,居室の私生活に立ち入っていないとの評価も考えられる。
甲がカーテンを開けたという事実は,この点の重要な比較事情である。

 しかし,カーテンを一時的に開けることを,警察が居室を監視し映像として固定することへの同意又は包括的な私生活公開と捉えるべきではない。
本件のように住居内部を対象に待機・監視して撮影する処分は,単なる公道上の容ぼうの記録を超え,住居内の重要な私生活利益に及ぶものとして,強制処分と解する構成を採る。
必要な令状等の手続を経た事情は示されておらず,捜査上の必要性が高いことだけでは手続の欠缺を補えないから,Aの撮影は違法となる。

 なお,望遠機器によって通常見えない内部まで撮影したとか,長時間の生活状況を記録したという事実は与えられていない。
それらを本問に付け加えて違法性を基礎付けてはならない。

4 Bは,甲が客として入ったレストランへ客を装って入り,飲食中の姿を撮影している。
レストランも私生活の場ではあるが,通常は他の客や店員から容ぼう・露出した身体部分を見られることが予定される。
自宅居室とは私生活保護の期待の程度が異なる。
かばんに小型カメラを隠した点も,それだけで重要な権利利益を強制的に侵害したことにはならない。

 Bは,右手首のあざの有無を確認するため,レストランで飲食中の甲の姿を撮影している。
与件から衣服への働き掛けや立入り制限の有無まで確定することはできないが,示された撮影態様を,通常他人から観察される容ぼう等を記録するものと評価する限り,強制処分には当たらないと解する。
ただし,秘密撮影である以上,その態様による継続的な監視・記録の程度も相当性の判断に含める。

5 任意処分でも,捜査目的達成の必要性と,対象者の不利益との比較により,具体的状況の下で相当な限度を超えてはならない。
本件では,甲が振り込め詐欺に関与した疑いは濃厚であり,防犯映像の犯人との同一性は捜査上重要である。
犯人の右手首のあざという身体的特徴を甲にも確認できれば,単なる一般的な人相以上の識別資料となる。

 甲に正面から撮影を求めれば,確認を拒まれたり,あざを隠されたりするおそれがあり,通常の客として観察できる機会を利用する必要性が認められる。
一般客がいるレストランで,同一性確認に必要な姿を限定して撮影する方法であれば,目的に比べて過大な利益侵害ではなく,Bの行為は適法と評価できる。

 現に犯罪が行われている瞬間でなければ撮影できないとの基準を一律に課すことは,既に生じた犯罪の犯人特定を不可能にする。
逆に,被疑者の疑いが濃厚ならどの場所でも撮影できるという基準も採れない。
AとBの違いは,目的の正当性よりも,撮影の対象領域と侵害の程度に即して判断すべきである。

(4) 出題趣旨を踏まえた解説

公式出題趣旨は,強制処分法定主義の意義,強制処分と任意処分の区別,ビデオ撮影の法的性質と適法性の判断基準などについて,基本的な知識の有無と具体的な事案に対する応用力を試すものとしている。
AとBは同じ捜査目的で行動しているが,Aは窓越しの居室,Bはレストランの飲食中の姿を撮影している。
秘密撮影という形式又は重大事件という目的だけで結論を共通化してはならない。

最高裁平成20年4月15日第二小法廷決定(平成19年(あ)第839号,刑集62巻5号1398頁)は,犯人と疑う合理的理由,同一性判断のための資料取得,必要な範囲・相当な方法,通常他人から観察されることを受忍する場所という事情を組み合わせて,公道上とパチンコ店内の撮影を適法とした。
同決定は,上告趣意が引用した従前の最高裁判例が,警察官による容ぼう等の撮影を,現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合のほかは許されないという趣旨まで判示したものではないとも述べている。
Bとの比較に有用だが,自宅居室内の撮影まで直接許容したものではない。

Aについては,カーテンが開いた瞬間の顔が外から見えることを重視する評価と,居室を監視して記録する性質を重視する評価があり得る。
本答案は後者から強制処分とする立場を採るが,家の中が少しでも写れば常に強制処分となるとの一般化はしていない。
望遠機器や撮影時間等を与件に付加せず,見える範囲の一時的記録との違いを説明する必要がある。

(5) 現行法と出題後の裁判例

出題後の最高裁平成29年3月15日大法廷判決(平成28年(あ)第442号,刑集71巻3号13頁)は,GPS捜査による継続的・網羅的な行動把握と,機器の秘密装着による私的領域への侵入を問題とし,強制処分と判断した。
2009年答案の当時の判例として用いてはならない。
また,同判決自身が公道上の肉眼観察やカメラ撮影との相違を述べているため,その結論だけを本問の全ての撮影に移すことも適切でない。
現在の撮影捜査では,刑訴法197条1項と併せ,場所,範囲,期間,機器の設置態様を具体的に検討する。

2 第2問

(1) 問題文(原文)

出典:法務省・問題PDF 6頁。

警察官Aは,強盗殺人の被疑事実で勾留中の甲を取り調べたが,その際,黙秘権の告知をしなかった。甲は,当初,アリバイを主張して犯行を否認したが,Aが「犯行現場の防犯カメラにあなたの顔が写っていた。」旨の虚偽の事実を告げたところ,甲は犯行を自白し,被害品を友人宅に隠匿していることも供述したので,その内容を録取した供述調書①が作成された。そこで,Aは,供述調書①を疎明資料として捜索差押許可状の発付を受けて甲の友人宅を捜索したところ,被害品が発見されたので,これを差し押さえた。その後,別の警察官Bが,黙秘権を告知して取り調べたところ,甲が犯行を再度自白したので,その内容を録取した供述調書②が作成された。裁判所は,供述調書①,甲の友人宅で差し押さえられた被害品及び供述調書②を証拠として採用することができるか。

(2) 法務省の出題趣旨(原文)

出典:法務省・問題と出題趣旨PDF 10頁。

本問は,強盗殺人事件の捜査段階においてなされた警察官に対する自白を題材として,当該自白,これに基づき発見された二次的証拠及び反復された自白の証拠能力を問うことにより,自白法則についての基本的な知識の有無と具体的な事案に対する応用力を試すものである。

(3) 模範答案

第1 供述調書①

1 憲法38条2項及び刑訴法319条1項は,強制,拷問,脅迫等による自白その他任意性に疑いのある自白を証拠とすることを禁止する。
虚偽自白の危険を排除することに加え,供述の自由を保障し,不当な取調べを抑止する趣旨がある。
自白の内容が後に他の証拠によって裏付けられたことだけで,取調べ時の任意性が当然に回復するものではない。

 Aは刑訴法198条2項による黙秘権告知をしなかった。
これは法定の手続に反するが,不告知だけで全ての自白の任意性が当然に否定されるかは,供述の自由との具体的な関係を踏まえて検討する必要がある。
被疑者が黙秘権を知らなかったとか,Aが長時間威迫したという事実を,告知がないことから補ってはならない。

2 さらにAは,防犯カメラに甲の顔が写っていたとの虚偽の事実を告げている。
捜査上の働き掛けに虚偽が含まれるというだけで,全て同じ強度の強制になるとはいえない。
しかし,存在しない決定的な客観証拠をあると信じさせ,否認やアリバイ主張が通用しないと思わせる方法は,被疑者を心理的に圧迫し,虚偽の自白を誘発する危険がある。

 本件では,強盗殺人という重大事件で勾留中の甲が,アリバイを述べて否認していたのに,その虚偽告知を契機として犯行を自白している。
黙秘権告知の欠如と併せると,自由な判断に基づく供述かについて具体的な疑いがある。
本件ではその疑いを解消する事情は示されていないから,調書①は319条1項によって証拠能力を否定する構成を採る。

 被告人の供述を録取した書面として322条1項の形式・不利益事実の承認等の要件を満たすとしても,任意性を欠く自白を採用することはできない。
また,証明力が低いという理由にとどめて採用し,後の証拠評価だけで処理すべきでもない。

第2 被害品

1 被害品は甲の自白を記録した供述証拠ではなく,実物それ自体から犯罪との関係を認定する物的証拠である。
したがって,自白①に証拠能力がないからといって,その供述によって発見した被害品も319条により当然に排除されるものではない。
物の同一性・信用性と,発見・収集方法の違法性を別に検討する必要がある。

 他方,違法な取調べをすれば自白以外の成果を常に利用できるとすると,供述の自由の保障を潜脱するおそれがある。
そこで,先行手続の違法の性質・程度,後続証拠との因果関係,手続の介在等を踏まえ,違法収集証拠排除の観点から証拠能力を判断すべきである。

2 Aは自白①を疎明資料として捜索差押許可状を得て,甲の友人宅を捜索して被害品を差し押さえている。
自白との因果的な結び付きは直接であり,令状を形式的に取得したことだけで,その前の違法性との関係が全て断たれるわけではない。
令状裁判官へ虚偽の疎明をしたなどの事情は与件に記載されていないが,不当な自白獲得を利用して捜索に進んだ点も評価する必要がある。

 違法収集証拠は,令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,将来の違法捜査抑制の観点からも排除が相当な場合に排除する。
本件の先行違法は主に供述獲得の過程にあり,実物の被害品には自白内容の真偽とは別の証拠価値がある。
暴行・拷問や令状審査を欺いたとの事情までは示されず,裁判官が発付した令状に基づいて被害品が発見されたことを併せて考えると,自白の排除に加えて被害品まで排除すべき重大性・相当性があるとまではいえず,その証拠能力を認める構成が考えられる。

 ただし,自白の獲得手段を単なる不適切さに弱めてよいわけではない。
取調べの重大な違法を利用した証拠収集と評価される場合には,実物が信用できることだけで採用を正当化できない。

第3 供述調書②

1 反復された自白については,先行自白と同内容であるというだけで当然に任意性が否定されるわけではない。
他方,黙秘権を告知し,担当者を交代させたことだけで,先行取調べの影響が当然に消えるともいえない。
先行する心理的強制が後の取調べ時まで継続し,同じ虚偽自白を維持させていないかを検討すべきである。

 判断では,取調官の交代,時間的間隔,場所・身体拘束の継続,虚偽告知の訂正,黙秘権を現実に行使できる状況,弁護人との接触,後の供述の経緯等が重要となる。
これらは一般的な判断要素であり,本問で全て存在するとの事実認定ではない。

2 本件ではBが黙秘権を告知した点は自由な判断を回復する方向に働く。
しかし,Aの述べた防犯映像が虚偽であったことを説明したとか,十分な時間が経過したとの事情は示されていない。
甲が決定的な証拠を突き付けられたとの誤信や,一度自白した以上撤回できないとの心理から再び自白した疑いは,担当者交代だけでは解消したといえない。

 したがって,その影響が除去され自由な意思で供述したことが確認できない本件では,調書②についても任意性に疑いが残るとして採用できないと解する。
逆に,先行影響の遮断が具体的に認められるなら採用の余地はあり,反復という形式だけによる一律排除ではない。
①,被害品,②を同じ結論へ機械的に連動させず,それぞれの証拠の性質と排除根拠によって判断すべきである。

(4) 出題趣旨を踏まえた解説

公式出題趣旨は,警察官に対する自白,これに基づき発見された二次的証拠及び反復された自白の証拠能力を問い,自白法則についての基本的な知識の有無と具体的な事案に対する応用力を試すものとしている。
本問では,供述調書①,友人宅で差し押さえられた被害品及び供述調書②がこれに当たり,三つを分けて検討することになる。
①の任意性に疑いがあるとの判断から,後の全証拠を同じ条文で一律に排除する構成も,令状や担当者交代が介在したため全て適法となる構成も避ける必要がある。

①では,黙秘権不告知という手続違反と,存在しない防犯映像をあると告げた心理的な作用を別々に示し,その累積した影響を評価する。
偽計があれば常に自白が排除されるとの一般論にせず,否認していた甲が告知を契機に自白した経緯を用いる。
事実の裏付けが後から得られたことは,自白時の供述の自由の問題とは別である。

被害品は物的証拠であるから,自白法則の直接の対象か,違法な取調べに由来する証拠として排除すべきかを分ける。
令状取得という形式だけで因果関係が消えるとせず,先行違法の重大性と排除相当性を評価する。
出題前の最高裁平成15年2月14日第二小法廷判決(平成13年(あ)第1678号,刑集57巻2号121頁)は,違法な逮捕と密接に関連する尿の鑑定書の証拠能力を否定する一方,その鑑定書を疎明資料として発付された捜索差押許可状により差し押さえられた覚せい剤については,司法審査を経て発付された令状によること,逮捕前に適法に発付されていた窃盗事件の捜索差押許可状の執行と併せて行われたこと等から,鑑定書との関連性は密接なものではないとして,証拠能力を否定しなかった。
同判決は違法な逮捕に由来する事案であるうえ,本問には別件の令状の執行に当たる事情が示されていないから,その結論をそのまま本問の被害品に当てはめることはできない。
②では,告知と取調官交代という改善事情に加え,虚偽告知の影響が継続したかを見る。
時間の経過,弁護人との接触,虚偽の訂正は判断要素となるが,本問に書かれていない具体的事実を存在するものとして補ってはならない。

(5) 現行法と出題後の裁判例

現行刑事訴訟法198条2項・319条・322条にも,黙秘権告知,自白の任意性及び被告人供述書面の証拠能力の規定がある。
出題後の平成28年法律第54号により設けられた刑訴法301条の2(令和元年6月1日施行)は,強盗殺人のように死刑又は無期拘禁刑に当たる罪に係る事件について,逮捕・勾留中の被疑者を取り調べる司法警察職員等に,同条4項各号の例外に当たる場合を除き,被疑者の供述及びその状況の録音・録画を義務付けている(同条4項)。
このような事件で,検察官が逮捕・勾留中の取調べの際に作成された被告人の不利益事実の承認を内容とする書面の取調べを請求し,被告人側が任意性に疑いがあるとして異議を述べたときは,検察官は,原則として,その取調べの開始から終了までを記録した記録媒体の取調べを請求しなければならない(同条1項)。
実務で検討する際は,調書の文章だけでなく実際の取調べ経過を特定し,最初の自白獲得,物の発見,後の供述という時間順序を整理する。
任意性,伝聞法則上の要件及び違法収集証拠の排除を,信用できるかという一つの証明力判断へまとめないことが重要である。

第8 出典

1 法令

日本国憲法(令和8年11月3日時点の現行版)
民法(明治29年法律第89号。令和8年11月3日時点の現行版)
会社法(平成17年法律第86号。令和8年11月3日時点の現行版)
商法(明治32年法律第48号。令和8年11月3日時点の現行版)
手形法(昭和7年法律第20号。令和8年11月3日時点の現行版)
刑法(明治40年法律第45号。令和8年11月3日時点の現行版)
民事訴訟法(平成8年法律第109号。令和8年11月3日時点の現行版)
刑事訴訟法(昭和23年法律第131号。令和8年11月3日時点の現行版)
国家賠償法(昭和22年法律第125号。令和8年11月3日時点の現行版)
弁護士法(昭和24年法律第205号。令和8年11月3日時点の現行版)
会社法(平成17年法律第86号)の制定時の原文(衆議院)
現行法は令和8年11月3日時点の版であり,平成21年当時の条文とは条番号や文言が異なる場合がある。
衆議院の制定法律情報に掲載された法律は公布時の原文であり,その後の改正は反映されていない。

2 裁判所ウェブサイト掲載の裁判例

最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決(平成6年(オ)第1287号,民集51巻8号3850頁)
最高裁平成15年10月6日第二小法廷決定(平成14年(あ)第1164号,刑集57巻9号987頁)
最高裁平成20年4月15日第二小法廷決定(平成19年(あ)第839号,刑集62巻5号1398頁)
最高裁平成24年11月6日第二小法廷決定(平成24年(あ)第23号,刑集66巻11号1281頁)
最高裁平成29年3月15日大法廷判決(平成28年(あ)第442号,刑集71巻3号13頁)
最高裁昭和44年11月26日大法廷決定(昭和44年(し)第68号,刑集23巻11号1490頁)
最高裁平成元年1月30日第二小法廷決定(昭和63年(し)第116号,刑集43巻1号19頁)
最高裁昭和42年4月18日第三小法廷判決(昭和40年(オ)第1499号,民集21巻3号671頁)
最高裁平成4年12月10日第一小法廷判決(平成元年(オ)第759号,民集46巻9号2727頁)
最高裁昭和46年1月26日第三小法廷判決(昭和45年(オ)第398号,民集25巻1号90頁)
最高裁平成28年12月19日大法廷決定(平成27年(許)第11号,民集70巻8号2121頁)
最高裁平成28年3月24日第三小法廷決定(平成27年(あ)第703号,刑集70巻3号1頁)
最高裁令和2年9月30日第二小法廷決定(令和元年(あ)第1751号,刑集74巻6号669頁)
最高裁昭和45年7月16日第一小法廷判決(昭和45年(オ)第16号,民集24巻7号1077頁)
最高裁平成23年4月19日第三小法廷決定(平成22年(許)第30号,民集65巻3号1311頁)
最高裁昭和41年6月21日第三小法廷判決(昭和39年(オ)第437号,民集20巻5号1078頁)
最高裁昭和48年4月5日第一小法廷判決(昭和43年(オ)第943号,民集27巻3号419頁)
最高裁平成15年2月14日第二小法廷判決(平成13年(あ)第1678号,刑集57巻2号121頁)
平成23年4月19日決定,平成24年11月6日決定,平成28年3月24日決定,平成28年12月19日決定,平成29年3月15日判決及び令和2年9月30日決定は出題後の裁判例であり,答案の根拠とはせず,各問の「現行法と出題後の裁判例」で参照した。

3 裁判所ウェブサイト未掲載の裁判例

本記事で言及した裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトに掲載されたものであり,この区分に掲げる裁判例はない。

4 公的資料

法務省「論文式試験問題・出題趣旨」(旧司法試験第二次試験の平成14年度~平成22年度)。
法務省・平成21年度旧司法試験第二次試験論文式試験問題(全6頁)。
法務省・平成21年度旧司法試験第二次試験論文式試験問題と出題趣旨(全10頁)。