目次第1 刑訴法328条の位置付け1 伝聞例外ではなく証明力を争うための規定2 要証事実を先に固定する第2 自己矛盾供述に限られるという最高裁判例1 最高裁平成18年11月7日判決2 第三者の供述で他人の供述を弾劾できない3 厳格な証明が必要である4 一致供述による証明力の回復と単なる増強第3 公判前整理手続終了後の証拠請求1 刑事訴訟法316条の322 弾劾対象となる公判供述が出た後に必要性が生じる場合3 公判供述を予測できた場合の反対方向の検討第4 両条文を組み合わせた検討手順1 刑事訴訟法328条の要件2 刑事訴訟法316条の32の要件第5 弁護実務での準備1 公判前整理手続中2 公判で供述が現れた後第6 証拠等関係カードの読み方第7 関連する山中弁護士ブログの記事第8 出典
第1 刑訴法328条の位置付け
1 伝聞例外ではなく証明力を争うための規定
刑事訴訟法328条は、同法321条から324条までにより証拠とすることができない書面又は供述でも、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには証拠とすることができると定める。
弾劾証拠は、その内容が真実であることを主要事実の証明に用いるものではなく、公判供述の信用性を争う限度で用いる。
2 要証事実を先に固定する
同じ書面でも、記載内容どおりの事実があったことを証明するために用いるのか、供述者が以前は異なる供述をしていたことを示すために用いるのかで、証拠能力の検討が変わる。
証拠請求書、立証趣旨、証拠等関係カード及び尋問内容を照合し、実質的に内容の真実性を証明しようとしていないかを確認する。
第2 自己矛盾供述に限られるという最高裁判例
1 最高裁平成18年11月7日判決
最高裁平成18年11月7日第三小法廷判決(平成17年(あ)第378号、刑集60巻9号561頁)は、刑事訴訟法328条により許容される証拠を、信用性を争われている供述者自身の矛盾供述、すなわち自己矛盾供述を内容とするものに限るとした。
その証明方法も、法が定める要件を満たす供述書、供述録取書、以前の供述を聞いた者の公判供述又はこれらと同視できる証拠による必要がある。
2 第三者の供述で他人の供述を弾劾できない
A証人の公判供述とBの供述が食い違うというだけでは、Bの供述を刑事訴訟法328条によってA証人の弾劾に用いることはできない。
それを許すと、伝聞法則の要件を満たさない第三者供述を内容の真実性に近い形で利用することになり、伝聞法則を潜脱するおそれがある。
3 厳格な証明が必要である
以前の自己矛盾供述が存在したことは証拠によって認定すべき事実であり、自由な証明で足りるという扱いではない。
最高裁平成18年判決の事案では、弁護人が、証人の証言を弾劾するため、消防司令補がその証人から火災発見時の状況を聴き取って記載した「聞込み状況書」の取調べを請求した。
この書面は、聴き取りの相手に読み聞かせて署名押印を求める形式ではなく、実際にも署名押印がなかった。
最高裁は、この書面は供述を録取した書面に当たらず、これと同視し得る事情もないとして、刑事訴訟法328条が許容する証拠に当たらないとした。
弁護人が請求する場合にも、同じ限定がかかることに注意を要する。
4 一致供述による証明力の回復と単なる増強
弾劾された公判供述と一致する以前の供述を、刑事訴訟法328条の「証明力を争う」ための証拠として、証明力の回復に用いることができるかについて、最高裁判所の判例はない(法務省「平成29年司法試験論文式試験出題の趣旨」刑事系科目第2問)。
公判供述が弾劾される前に、一致供述を示して信用性を高めるだけの使い方(いわゆる増強)は、同条の「争う」という文言から離れる。
弾劾された後の回復についても、一致供述が一つ増えれば当然に証明力が回復するわけではない。
矛盾供述の方が例外であり、基本的には一致した供述をしていたことが明らかになるのであれば、証明力の回復を認める方向の理由になり得る。
反対に、公判外の供述の間でも食い違いがあり、その時々で供述を変える者であることがかえって明らかになるのであれば、証明力は回復しないという評価もあり得る。
平成29年司法試験の採点実感も、回復証拠と増強証拠を区別した上で、文言解釈にとどまらず、証明力を回復する証拠となり得るか否かの実質的な理由を示すことを求めている。
一致供述の調書が回復のための証拠として請求された場合、弁護人は、①どの弾劾に対応する証拠か、②その弾劾の理由を具体的に弱めるものか、③作成の時期と経緯、④内容の真実性を証明する証拠として実質的に使われるおそれがないかを確認して、意見を述べることになる。
下級審の裁判例では、東京高裁昭和54年2月7日判決(昭和53年(う)第1322号・判例時報940号138頁、判例タイムズ391号144頁)が、刑事訴訟法328条の弾劾証拠には、弾劾証拠により減殺された供述証拠の証明力を回復するためのものも含まれるとした。