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裁判所

平成13年度最高裁民事破棄判決等の実情―70件から学ぶ原判決の誤りと上告・抗告実務(AI作成)

目次第1 本記事の結論と資料状態第2 平成13年度の件数をどう読むか1 新受・既済・破棄件数2 「上告成功率」と読んではならない理由3 自判と差戻し第3 原判決に反復して現れる十の誤り第4 公式全文を確認した代表8判決第5 上告・抗告実務への落とし込み1 入口から確認する2 主張・証拠・推論を対応させる3 自判か差戻しかを先に設計する第6 旧法判例を現行事件に使う翻訳手順第7 関連記事第8 出典・確認範囲・限界
第1 本記事の結論と資料状態

平成13年度の最高裁民事破棄判決等は,破棄判決60件,破棄決定10件である。重要なのは件数自体より,原判決の誤りを,①手続入口,②法的根拠,③判断枠組み,④主要事実,⑤証拠評価,⑥理由・主文,⑦自判・差戻しという順序で監査できる点にある。

本記事の年度全体の整理は,矢尾渉「最高裁民事破棄判決等の実情―平成13年度」(判例時報1783号・1784号・1786号・1787号・1789号,5回連載,合計109頁)に基づく。これは最高裁判決そのものではなく,事件を発見し分類するための二次資料である。解説部分には筆者の見解が含まれるため,判旨と区別する。

代表8事件については,裁判所ウェブサイトの公式全文PDFを通読した。これらは【裁判所公式全文確認済み】である。他方,平成12年(受)第1956号事件等,年次論文本文で把握したが裁判所公式全文を確認できていない事件は【判例時報論文本文確認済み/一次資料未確認】として扱う。判例秘書は照会しておらず,照会0件,ヒット不明,本文確認0件である。

第2 平成13年度の件数をどう読むか
1 新受・既済・破棄件数

新受事件は,上告事件2293件,上告受理事件2314件の合計4607件であり,並行申立てを調整した年次論文上の新受件数は3327件である。既済事件は,旧法上告82件,新法上告2183件,上告受理2089件の合計4354件であり,並行申立てを一件として調整すると3028件である。

判決又は決定による終局処理の調整後件数は2945件で,破棄判決は60件,その割合は約2・04%である。破棄決定は10件であり,許可抗告既済53件に対する割合は約18・9%である。

破棄判決60件の結果は,差戻し24件,自判39件で,双方に該当する事件が3件ある。旧法事件24件,新法事件36件であり,新法事件は上告8件,上告受理28件である。職権破棄9件,論旨に基づく破棄53件で,重複が2件ある。民集登載18件,集民のみ14件,いずれにも登載されないものが28件である。

2 「上告成功率」と読んではならない理由

約2・04%は,平成13年度に判決又は決定で終局処理された事件を分母とし,破棄判決だけを分子とした年度集計比率である。依頼者の事件が破棄される確率を示すものではない。分母には棄却・却下・不受理等が含まれ,上告と上告受理申立ての並行事件も調整されている。

破棄決定10件の約18・9%は,許可抗告既済53件を分母とする別の比率である。破棄判決60件と破棄決定10件を足し,2945件で割って一つの「成功率」にすることは,手続と分母を混同する。

3 自判と差戻し

法律判断を訂正した後,原審が適法に確定した事実だけで結論を出せるときは自判が可能である。正しい判断枠組みによる事実認定,抗弁・再抗弁の審理又は損害額の算定が残るときは差戻しとなる。破棄を求める書面では,違法の指摘だけでなく,訂正後に残る争点を示す必要がある。

第3 原判決に反復して現れる十の誤り

①手続入口を本案より後に回す誤り:訴えの利益,当事者適格,既判力,不服申立ての利益及び抗告権者を,本案の正誤とは別に確認する。

②当事者が主張していない合意を判決の基礎にする誤り:請求原因,抗弁及び再抗弁の主要事実を準備書面の引用箇所まで対応させる。平成12年(受)第1956号事件はこの論点の探索材料であるが,今回の資料状態は【一次資料未確認】である。

③推論の鎖を示さず経験則を用いる誤り:認定事実,当時可能だった検査・行為,予見可能性,実際の措置及び結果を時系列でつなぐ。典型所見が一つ欠けることだけで結論を出さない。

④信義則を自由な割合調整に使う誤り:周知,情報格差,管理可能性,異常利用の検知時点,回収可能性及び最終負担者を先例と比較する。

⑤対称的な類推を当然視する誤り:不足の場合の法定責任があることから,超過の場合にも反対方向の請求権があるとは限らない。制度目的と不利益を受ける者を確認する。

⑥特別の期間と一般の消滅時効を二者択一にする誤り:通知・除斥期間,請求権の時効,形成権の行使期間,起算点,完成猶予・更新及び経過措置を別々に検討する。

⑦担保取引の四層を一つに潰す誤り:契約・担保権の成立と範囲,目的債権の特定,第三者対抗要件,取立て・実行・倒産時の処遇を分ける。

⑧未確立の選択肢を説明対象から外す誤り:患者の強い関心,相当数の実施例,適応可能性,医師の知識及び紹介可能性を具体的に確認する。

⑨事実・アイデアと創作的表現を混同する誤り:共通部分を,事実・アイデア,ありふれた表現,創作的表現に分解し,依拠性と本質的特徴の直接感得可能性を別に論証する。

⑩法定の方式を実質的合意で代替する誤り:合意の存在,契約上の効力及び法定の規範的効力を区別し,書面・署名又は記名押印・当事者権限を証拠化する。

第4 公式全文を確認した代表8判決
判決主題実務上の学び
最三小判平成13年3月13日
平成12年(受)第192号労働協約の方式実質的合意と労働組合法14条の規範的効力を分ける。
最三小判平成13年3月27日
平成7年(オ)第1659号ダイヤルQ2無断利用信義則上の請求制限は,情報格差,管理可能性及び異常利用の検知時点等の事実に結び付ける。

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平成16年度最高裁民事破棄判決等の実情―88件の破棄判決・9件の破棄決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応(AI作成)

第1 本記事の対象と資料上の限界
第2 平成16年の破棄件数と数字の読み方
第3 原判決を監査する五つの順序
第4 破棄判決から得られる実務上の学び
第5 四つの具体例
第6 破棄差戻し後に直ちに行うこと
第7 事件記録へ適用する確認項目
第8 関連記事
第9 出典・資料確認状況

第1 本記事の対象と資料上の限界

本記事は,松並重雄・阪本勝「最高裁民事破棄判決等の実情―平成一六年度」全5回を通読し,平成16年中に最高裁判所でされた民事事件(行政事件及び労働事件を含む。)の破棄判決・破棄決定から,原判決の監査及び破棄差戻し後の訴訟活動に使える視点を整理するものである。
表題の「平成一六年度」は論文名に従ったものであり,対象は会計年度ではなく平成16年1月から12月までである。

同論文は,最高裁判所調査官が破棄事件を分野別・破棄理由別に説明した有用な二次資料である。しかし,論文の要約は個々の判決・決定本文そのものではない。事件番号,主文,判断の前提事実,原審の認定,破棄理由及び差戻し後の残存争点は,裁判所公表の全文又は判例集等の一次資料で確認する必要がある。

本記事では,最高裁判所ウェブサイトで本文を確認できた事件と,判例時報の年次論文だけを確認した事件を区別して記載する。判例秘書については,本調査時点で照会0件・本文確認0件であり,判例秘書による裏付けがあるという扱いはしていない。

第2 平成16年の破棄件数と数字の読み方

年次論文によれば,平成16年の破棄判決は,並行申立て事件及び複数当事者からの上訴を併合した事件を1件と換算すると88件である。複数当事者の上訴を上訴ごとに数えると98件となり,上告事件と上告受理申立て事件を調整した既済3598件に対する割合は2.7%である。

88件という数字と98件という数字は,分母や計数単位が異なる矛盾ではなく,同一事件の数え方を変えたものである。2.7%は個々の上告代理人の成功率でも,上告・上告受理申立て全体の一般的認容率でもない。どの事件を併合し,どの申立てを1件に換算したかを確認せずに,単に「上告が通る確率」と表示すべきではない。

破棄判決88件の結果には,差戻し(一部差戻しを含む。)49件,自判(一部自判を含む。)44件及び訴訟終了宣言2件が含まれる。1件の判決に差戻し部分と自判部分が併存し得るため,単純合計は88件と一致しない。

破棄決定は9件である。許可抗告事件の既済44件のうち破棄決定は8件(18.2%)であり,これとは別に特別抗告事件の破棄決定が2件あるが,そのうち1件は許可抗告と一通の決定書で処理されている。18.2%も,許可抗告申立て全体の認容率ではなく,年次論文の計数方法による既済事件の内訳である。

第3 原判決を監査する五つの順序

破棄理由を個別分野の知識だけで読むと,別事件への転用が難しい。実務では,次の五段階で原判決と記録を監査すると,再利用しやすい。

①手続の入口
管轄,当事者適格,訴えの利益,請求の特定,既判力,重複起訴,必要的併合,送達及び不服申立ての適法性を先に確認する。実体判断が精緻でも,入口の手続要件を誤れば判決全体が維持されないことがある。

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平成21年度最高裁民事破棄判決等の実情―68件・4決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料
第2 平成21年の件数と統計の読み方
第3 原判決を監査する5つの視点

1 本案前の入口を独立して点検する
2 理由の食違いを判決書内部の論理として示す
3 原審の誤りを三層に分ける
4 制度目的と援用主体を分ける
5 事実認定の不満を法令違反へ組み替える

第4 破棄自判と破棄差戻しの違い
第5 分野別に残った実務上の学び
第6 破棄決定4件から学ぶこと
第7 受任直後・控訴審・上告検討時のチェックリスト
第8 一次資料,二次資料及び判例秘書の確認状態
第9 現行法への接続と関連記事

第1 本記事の対象と資料

本記事は,平成21年中に最高裁判所で言い渡された民事事件(行政事件・労働事件を含む。)の破棄判決68件と破棄決定4件を,原判決の監査と破棄後の事件処理に使える形で整理するものである。判例時報の記事名は「平成21年度」であるが,対象は会計年度ではなく平成21年1月から12月までの暦年である。

入口とした資料は,田中一彦・鎌野真敬「最高裁民事破棄判決等の実情(上)(下)―平成二一年度」判例時報2082号・2083号である。同論文は,最高裁判所調査官が当該年の破棄事件を全件整理した二次資料であり,事件の所在,原審判断及び破棄理由を横断して把握するのに有用である。

もっとも,年次報告は個々の判決・決定そのものではない。主文,事実関係,判示,補足意見・反対意見及び射程を訴訟書面で用いるときは,裁判所が公表する判決・決定本文又は判例秘書等に収録された本文を確認する必要がある。

第2 平成21年の件数と統計の読み方

上告事件の新受は2364件,上告受理申立ての新受は2792件で,合計5156件であった。両方を並行して申し立てた事件を1件に換算すると,新受は3280件である。

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外国国家を被告とする民事訴訟―国家免除,送達,欠席判決及び強制執行(AI作成)

目次

第1 外国国家免除の基本第2 平成14年判決と平成18年判決第3 外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律第4 行為の目的より性質を見る第5 送達と欠席判決の特則第6 仮差押え・仮処分・強制執行第7 在日米軍関係の請求との接続第8 受任時の確認事項第9 対象とする判例と個別事件の確認事項第10 出典・関連記事

本記事は,国際公法のうち国家免除と日本の民事訴訟手続との接点を解説する。国際法全体の位置付けは,国際公法とは―国際法・国際私法との違いと基本事項を参照。外交官個人の免除との比較は,外交官の民事裁判権免除を参照。過去問を論点から探す場合は,司法試験の国際公法―過去問・答案と論点別ガイドにまとめている。

外国国家を被告とする民事訴訟では,日本の裁判所に国際裁判管轄があるかという問題に加えて,外国国家が裁判権免除を受けるか,どの方法で送達するか,欠席判決を言い渡せるか,勝訴判決をどの財産に執行できるかを別々に検討する必要がある。

第1 外国国家免除の基本

国家免除とは,一国の裁判所が外国国家に対して裁判権を行使することを一定の場合に差し控える国際法上・国内法上の制度である。現在の日本法は,外国国家のすべての行為を免除する絶対免除主義ではなく,主権的行為と私法的・商業的行為を区別する制限免除主義を採用する。

裁判権免除と執行免除は別である。訴えを審理できても,外国国家の財産に当然に仮差押え又は強制執行ができるわけではない。

外国国家に対する請求と外交官個人に対する請求,さらに公館財産への強制措置は,次のように分けて確認する。
同じ「大使館に関係する紛争」でも,請求の相手方と財産の用途を特定しなければならない。

場面先に特定するもの主な根拠注意点国家に対する訴訟被告の資格,行為・取引の性質外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律等同法3条が維持する条約等の特権・免除にも注意する。外交官個人に対する訴訟身分,行為・提訴の時点,活動の実態外交関係条約31・32・38・39条等国家の商業的取引の基準をそのまま転用しない。公館財産への捜索・差押え等公館該当性,対象財産・輸送手段外交関係条約22条3項等裁判権の有無と具体的な強制措置の可否は別である。

条約全体の制度は外交関係に関するウィーン条約の総合解説で,公館の不可侵と保護義務は同条約22条の解説で説明している。

第2 平成14年判決と平成18年判決

最高裁平成14年4月12日第二小法廷判決は,米国の主権的行為について,慣習国際法上,日本の民事裁判権から免除されるとした。この判決は,在日米軍の行為が問題となった事案で,日米地位協定18条自体が米国の裁判権免除を定めたものではないことも示した。

最高裁平成18年7月21日第二小法廷判決は,従来の絶対免除主義を採用しないことを明確にし,外国国家の私法的又は業務管理的行為について,裁判権を行使することが外国国家の主権を侵害するおそれがあるなどの特段の事情がない限り,免除を認めないとした。

同判決は,外国国家が書面を日本の裁判所に提出して裁判権に服する意思を明確に表明した場合の扱いも示す。訴訟行為の内容と権限を確認し,単なる抗議又は免除主張と,明示の同意を混同しないことが必要である。

第3 外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律

平成21年法律第24号「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」は,平成22年4月1日に施行された。同法は,外国等が原則として日本の民事裁判権から免除されることを出発点としつつ,明示の同意,商業的取引,労働契約,人の死傷・有体物の滅失損傷,不動産,知的財産権等について免除されない場合を定める。

平成18年判決は制限免除主義への転換を示す重要判例であるが,同法施行後の事件では,同法の要件,定義及び経過措置を先に確認する。判例の文言だけで現行事件を処理してはならない。

ただし,同法3条は,条約又は確立された国際法規に基づき外国等が有する特権・免除に影響を及ぼさないと定める。4条の原則と10条の人の死傷・有体物の滅失損傷,11条の不動産等の例外を読む際にも,3条との関係を確認する。国内で損害が発生したことや基地に不動産があることだけから,外国軍隊の主権的活動を理由とする免除が当然に否定されるとはいえない。条文はe-Gov法令検索を参照。

第4 行為の目的より性質を見る

外国国家が公共目的のために契約したというだけで,直ちに主権的行為になるわけではない。売買,請負,賃貸借,資金調達その他の取引について,私人も行い得る性質の行為か,国家に固有の権限行使かを検討する。

契約書では,当事者表示,署名権限,準拠法,裁判管轄,仲裁,免除放棄及び執行対象財産に関する条項を確認する。ただし,裁判権免除への同意があることから,執行免除まで当然に放棄されたと推論してはならない。

第5 送達と欠席判決の特則

外国国家に対する訴状等の送達は,通常の国外送達と同じ感覚で進めることができない。条約,外交上の経路,外国国家が指定した方法及び同法の特則を確認し,受領権限のない機関又は国内事務所への交付だけで有効な送達と扱わない。

外国国家が期日に出頭しない場合も,直ちに通常の欠席判決を求めるのではなく,送達方法,送達完了の証明,法定の経過期間,裁判権免除がないこと及び請求原因の立証を確認する。手続の瑕疵は,判決承認・執行の段階でも問題となり得る。

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平成18年度最高裁民事破棄判決等の実情―110件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の読み方第2 破棄判決・破棄決定の件数第3 平成18年の破棄理由から学べる7つの型1 請求・抗弁・判断対象の落ち2 証明責任の分配を誤る型3 経験則・採証法則に反する型4 審理・釈明が足りない型5 法的評価の前提を誤る型6 破棄差戻しで未確定事項が残る型7 旧法事件を現行実務に直結させない第4 一次資料で確認した代表例第5 代理人が作る4つの対応表第6 差戻しと自判を読み分ける第7 上告受理申立理由の組み立て第8 一次資料・二次資料・判例秘書の確認状態第9 出典・関連記事

平成18年中に最高裁判所が言い渡した民事事件(行政事件及び労働事件を含む。)の破棄判決107件と破棄決定3件を,原審が破棄された理由と代理人実務の観点から整理する。個別判決の結論を並べるのではなく,主張整理,証拠評価,審理運営及び差戻審準備に再利用できる形にすることを目的とする。

第1 本記事の対象と資料の読み方

入口とした資料は,宮坂昌利・谷口豊「最高裁民事破棄判決等の実情―平成18年度―」判例時報1966号,1967号,1969号及び1970号の全4回,合計89頁である。論文名は「年度」であるが,対象は会計年度ではなく,平成18年1月から12月までに言い渡された事件である。

この論文は,事件の所在,原審の判断,破棄理由及び差戻後の審理事項を一覧的に把握するための有力な二次資料である。しかし,論文自体は判決・決定ではない。個別事件の正確な判示,事実関係,射程及び裁判官意見を引用する場合は,裁判所公表の判決・決定本文その他の一次資料で確認する必要がある。

第2 破棄判決・破棄決定の件数

上記論文が扱うのは,破棄判決107件と破棄決定3件の合計110件である。破棄判決には,同一論点について同日に言い渡された多数の関連事件が含まれる。したがって,107という数字を独立した法的論点の数又は一般的な「最高裁で勝てる確率」と読むことはできない。

また,破棄差戻しと破棄自判では,最高裁判決後に残る作業が異なる。件数だけでなく,①最高裁が確定した法理,②原審判断のどこが違法とされたか,③差戻審でなお確定すべき事実・抗弁・損害を区分して読む必要がある。

第3 平成18年の破棄理由から学べる7つの型
1 請求・抗弁・判断対象の落ち

当事者が提出した請求原因,予備的請求,抗弁又は再抗弁の一部について,原審が判断しないまま結論を出した事件がある。準備書面ごとの記載を追うだけでなく,法律要件ごとに「主張の所在・相手方の認否・証拠・判断の有無」を一表にすることが,判断遺脱と審理漏れの発見に有効である。

2 証明責任の分配を誤る型

車両保険の水没・損傷事故では,約款上の「偶然な事故」に該当することを主張する保険金請求者に,事故が被保険者の意思に基づかないことまで立証させた原審判断が破棄された。他方,保険金請求者は,約款所定の保険事故の外形的事実及び損害の発生を立証する必要がある。立証責任の所在と,現実に提出すべき証拠の範囲を混同してはならない。

3 経験則・採証法則に反する型

医療訴訟では,専門家の意見書又は鑑定が存在することだけで結論を決めることはできない。最高裁平成18年1月27日判決はMRSA感染に対する抗菌薬投与の時機について,最高裁平成18年11月14日判決は出血量,ショック徴候及び死因について,原審が専門意見と客観的診療経過の関係を十分に検討しなかった点を問題とした。

攻撃又は反論では,専門家の肩書や結論ではなく,その意見が依拠する前提事実,検査値,バイタルサイン,診療録の時系列,他の意見との相違点及び医学文献との適合性を示す必要がある。

4 審理・釈明が足りない型

争点について必要な釈明をせず,専門家の相反する意見を比較する機会も十分に与えないまま口頭弁論を終結すると,単なる証拠評価の相違ではなく,審理不尽を伴う違法の問題になり得る。とりわけ専門訴訟では,意見書提出後の反論期間,反対尋問,追加鑑定及び争点整理の要否を明示的に求め,手続経過を記録に残すことが重要である。

5 法的評価の前提を誤る型

最高裁平成18年7月21日判決は,外国国家の行為について一律に民事裁判権を免除する絶対免除主義を改め,私法的・業務管理的行為には,主権を侵害する特段の事情がない限り裁判権免除を認めない制限免除主義を採用した。行為の目的だけでなく,行為の性質を見て分類する必要がある。

このように,事実を確定した後の規範選択又は法的分類が誤っていれば,証拠を追加しなくても原判決が維持できない場合がある。主張書面では,事実認定と法的評価を段階に分けるべきである。

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医療訴訟における経験則・採証法則違反―平成18年最高裁判決から見る専門意見の評価方法(AI作成)

目次

第1 本記事の問題意識第2 最高裁平成18年1月27日判決第3 最高裁平成18年11月14日判決第4 平成18年4月18日事件の確認範囲第5 説明義務判決との区別第6 専門意見を比較する7項目第7 証拠収集と尋問の設計第8 上告受理申立理由への落とし込み第9 資料の確認状態第10 出典・関連記事

医療訴訟では,複数の医師又は鑑定人の意見が対立することが多い。最高裁平成18年1月27日判決及び同年11月14日判決は,「どの専門家を信じるか」だけでなく,意見の前提となる客観的診療経過と推論過程を比較しなければならないことを示す。

第1 本記事の問題意識

事実審の証拠評価は原則として裁判所の自由心証に委ねられる。しかし,重要な専門意見を理由なく退け,客観的資料と整合しない中間評価から結論を導き,又は相反する意見を比較する審理を尽くさなかった場合,経験則・採証法則違反として破棄されることがある。

そこで,意見書の結論を引用するだけでなく,①何を証明する意見か,②どの事実を前提にするか,③どの資料を使用したか,④推論に飛躍がないかを分解する必要がある。

第2 最高裁平成18年1月27日判決

最高裁平成18年1月27日第二小法廷判決は,MRSA感染症を発症した患者に対するバンコマイシン投与の時機が問題となった医療訴訟である。

原審は,早期投与をしても救命できなかった可能性が高いとして医療側の責任を否定した。しかし,最高裁は,早期投与により救命できた可能性に関する医師の意見を十分に吟味せず,診療経過との関係も明らかにしないまま結論を出した原審判断に,経験則又は採証法則違反があるとした。

実務上は,抗菌薬の一般的有効性だけでなく,培養結果判明前後の症状,感染徴候,検査値,腎機能,用量,投与開始可能時点及び患者固有の予後を時系列で対応させる必要がある。一般論と当該患者についての因果関係を分けることが重要である。

第3 最高裁平成18年11月14日判決

最高裁平成18年11月14日第三小法廷判決は,手術後の出血とショック,その後の死亡との関係が争われた事案である。

原審は一方の専門意見に依拠したが,最高裁は,出血量,血圧,脈拍その他のショック徴候と意見の前提が整合するかを十分に検討せず,相反する二つの専門意見を比較しないまま,第1回口頭弁論期日に弁論を終結した審理経過も踏まえて,原審判断を維持できないとした。

重要なのは,「控訴審が独自鑑定を採用した」という形式ではない。各意見がどの数値・症状・時点を根拠にし,どの医学的機序を通じて死因又は過失を説明するのかを比較する機会が確保されたかである。

第4 平成18年4月18日事件の確認範囲

判例時報「最高裁民事破棄判決等の実情―平成18年度―」は,冠動脈バイパス手術後の腸管壊死等を扱った最高裁平成18年4月18日判決を紹介し,原審の専門的判断に対する検討不足を指摘している。

もっとも,本記事作成時点では,裁判所ウェブサイト上の対象判決本文を事件番号とともに確実に特定できていない。このため,本節は二次資料から把握できる問題構造の紹介にとどめ,正確な事実経過・判示を引用する際は,判例秘書その他の判例データベース又は掲載誌で判決全文を確認する必要がある。

第5 説明義務判決との区別

最高裁平成18年10月27日第二小法廷判決は,未破裂脳動脈瘤について,開頭術,血管内治療及び経過観察という複数の選択肢がある場合の説明義務を扱う。この判決は,専門意見の証拠評価を理由として破棄した判決ではない。

同判決が示したのは,複数の確立した治療法が存在し,いずれにも相応の危険があるとき,医師は各選択肢の内容と危険を説明し,患者が再度熟慮する機会を与えるべきであるという規範である。説明義務,過失,死亡等との因果関係,自己決定権侵害による損害を段階別に検討する。

第6 専門意見を比較する7項目

立証命題:過失,因果関係,後遺障害,余命又は損害のどれに関する意見か。
基礎資料:診療録,画像,検査値,病理,ガイドライン及び文献のどれを見たか。

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電子公正証書を債務名義として強制執行する方法―公正証書正本情報,執行文,送達及び紙申立て(AI作成)

目次

第1 結論
第2 電子公正証書が執行証書となる要件
第3 原本・記録事項記載書面・公正証書正本情報の違い
第4 執行文
第5 送達と送達証明
第6 現在の債権執行申立て
第7 申立て前チェックリスト
第8 民事執行デジタル化との関係
第9 根拠資料

第1 結論

1 令和7年10月1日以後,公正証書は原則として電磁的記録で作成・保存されます。しかし,電子公正証書を取得したことと,強制執行をオンラインで申し立てられることは別問題です。

2 令和8年9月29日現在,電子公正証書に基づいて債権差押え等を申し立てる場合,裁判所の現行案内は,公証役場から公証人法44条1項2号の書面(記録事項記載書面),執行文及び送達証明書を取得して提出する取扱いを示しています。

3 裁判所が作成した電子判決書・電子調書等では「事件特定情報」を申立書に記載して債務名義正本等の提出を省略できる場合がありますが,公証人が作成した電子公正証書について同じ仕組みをそのまま用いるものではありません。

4 以下は金銭債権について強制執行認諾文言を備えた公正証書を主な対象とする一般的な整理です。条件成就,承継,複数債務者,期限の利益喪失条項等が問題となる事件では,執行文の種類及び必要資料を公証役場・申立先裁判所に個別確認する必要があります。

第2 電子公正証書が執行証書となる要件

1 民事執行法22条5号は,金銭の一定額の支払又は代替物・有価証券の一定数量の給付を目的とする請求について作成された公正証書で,債務者が直ちに強制執行に服する旨を陳述したものを債務名義(執行証書)としています。

2 したがって,公正証書であれば常に強制執行できるわけではありません。少なくとも,対象となる給付請求が特定され,債務者の強制執行認諾の陳述が記載又は記録されていることが必要です。

3 電子化によって変わったのは主に作成・保存・提供の媒体です。執行証書となるための実体的要件や,執行文及び送達を要する原則までなくなったわけではありません。

第3 原本・記録事項記載書面・公正証書正本情報の違い

1 原本である電磁的記録
公証人が電磁的記録で作成し,公証役場側で保存する公正証書そのものです。依頼者が受け取るデータ又は紙は,この保存原本と同一ではありません。

2 公証人法44条1項2号の書面(記録事項記載書面)
公正証書である電磁的記録に記録された事項を記載し,その内容が当該電磁的記録と同一であることを公証人が証明した書面です。裁判所の債権執行案内は,電子公正証書に基づく申立てについて,この書面を準備するよう案内しています。単なる印刷物・写しでは足りません。

3 公証人法44条1項3号の電磁的記録(公正証書正本情報)
公正証書の記録事項を記録し,原本との同一性を確認するために必要な措置が講じられた電磁的記録です。電子データとして提供を受けることができますが,令和8年9月29日現在の民事執行申立てが全面オンライン化されているわけではないため,受領したデータだけで直ちにオンライン申立てが完結するとは限りません。

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取引先・下請先が持つ設計図面等の文書提出命令―技術の秘密,保護に値する秘密の比較衡量,第三者の審尋・一部提出・インカメラ手続(AI作成)

目次第1 この記事の対象と要点1 想定する場面2 要点第2 第三者に対する文書提出命令の仕組み1 提出義務の根拠2 申立ての方式3 第三者の審尋と不服申立て第3 「技術の秘密」に当たるか1 定義2 具体的な主張が必要であること第4 保護に値する秘密かの比較衡量1 最高裁平成18年10月3日決定2 最高裁平成20年11月25日決定3 技術の秘密への当てはめ4 最高裁平成19年12月11日決定第5 所持者(取引先・下請先)の側が主張すべき事情第6 申立人の側が主張すべき事情第7 秘密を守るための手続1 一部を除いた提出命令2 インカメラ手続3 閲覧等の制限の限界第8 弁護士が写しを持っている場合第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例3 確認状態
第1 この記事の対象と要点
1 想定する場面

本記事は,製品の欠陥や工事の不具合をめぐる民事訴訟で,一方の当事者が,訴訟の当事者ではない取引先・下請先(第三者)が持つ設計図面,作業工程表,製造記録等の提出を求めて,文書提出命令を申し立てる場面を扱う。
申立てを受けた第三者の側は,自社の製造技術が相手方や同業者に知られることを避けるため,「技術の秘密」に当たるとして提出を拒むことを考える。
申立人の側は,欠陥の原因を明らかにするためにその文書が必要だと主張する。

本記事は,令和8年9月29日時点の民事訴訟法と,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した最高裁判例に基づいて,第三者が提出を拒めるのはどのような場合か,双方が何を主張すべきか,秘密を守るためにどのような手続があるかを整理する。

2 要点
問題結論主な根拠第三者に提出を命じられるか民事訴訟法220条4号の除外事由に当たらなければ命じられる。命じる前に第三者を審尋する民事訴訟法220条4号・223条2項「技術の秘密」とは何か公開されると技術の社会的価値が下落し,これによる活動が困難になるもの最高裁平成12年3月10日決定技術の秘密に当たれば必ず拒めるか拒めるのは保護に値する秘密に限られ,秘密の側の不利益と裁判の側の必要性を比較衡量して判断する最高裁平成18年10月3日決定,最高裁平成20年11月25日決定所持者は何を主張すべきか情報の種類,性質及び開示による不利益の具体的内容最高裁平成12年3月10日決定秘密を守る手続一部を除く提出命令,裁判所だけが文書を見る手続(インカメラ手続)民事訴訟法223条1項後段・6項第三者が命令に従わないとき20万円以下の過料民事訴訟法225条1項
第2 第三者に対する文書提出命令の仕組み
1 提出義務の根拠

民事訴訟法220条は,文書の所持者が提出を拒むことができない場合を定める。
同条1号~3号は,当事者が訴訟で引用した文書,挙証者が引渡し又は閲覧を求めることができる文書,挙証者の利益のために作成され又は挙証者と所持者との間の法律関係について作成された文書を挙げる。
同条4号は,それら以外の文書についても,イ~ホに掲げる文書のいずれにも該当しないときは,所持者は提出を拒むことができないとする(一般的な提出義務)。

設計図面や作業工程表のように,所持者が自社の業務のために作った文書は,1号~3号に当たらないことが多く,4号が提出義務の根拠になる。
その場合,4号ハの「第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で,黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」に当たるかが争点になる。
民事訴訟法197条1項3号は,証人が「技術又は職業の秘密に関する事項」について尋問を受ける場合に証言を拒めると定めており,文書提出命令でもこの基準が使われる。

2 申立ての方式

文書提出命令の申立ては,文書の表示,文書の趣旨,文書の所持者,証明すべき事実及び文書の提出義務の原因を明らかにしてしなければならない(民事訴訟法221条1項)。
4号を根拠とする申立ては,書証の申出を文書提出命令の申立てによってする必要がある場合でなければすることができない(同条2項)。
文書の表示や趣旨を明らかにすることが著しく困難なときは,所持者がその文書を識別できる事項を明らかにすれば足り,裁判所に対し,所持者にそれらの事項を明らかにするよう求めることを申し出ることができる(民事訴訟法222条1項)。

3 第三者の審尋と不服申立て

裁判所は,第三者に対して文書の提出を命じようとする場合には,その第三者を審尋しなければならない(民事訴訟法223条2項)。
取引先・下請先は,この審尋で,提出を拒む理由を具体的に述べる機会を与えられる。

文書提出命令の申立てについての決定に対しては,即時抗告をすることができる(民事訴訟法223条7項)。
第三者が文書提出命令に従わないときは,裁判所は,決定で,20万円以下の過料に処する(民事訴訟法225条1項)。
当事者が命令に従わないときに,文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができるとする規定(民事訴訟法224条)は,当事者に関するものであり,第三者には適用されない。

第3 「技術の秘密」に当たるか
1 定義

最高裁判所第一小法廷平成12年3月10日決定(平成11年(許)第20号,民集54巻3号1073頁)は,民事訴訟法197条1項3号の「技術又は職業の秘密」とは,その事項が公開されると,当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうとした。

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連帯保証人だけが先に敗訴したとき―主たる債務者の勝訴判決・相殺と請求異議の訴え(最高裁昭和51年10月21日判決・昭和40年4月2日判決,民法457条3項)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と要点1 想定する場面2 要点第2 請求異議の訴えと既判力の基準時1 請求異議の訴え2 既判力とその基準時第3 主たる債務者の勝訴判決を援用できるか1 最高裁昭和51年10月21日判決2 判決の理由3 実務上の意味第4 基準時後の形成権の行使と請求異議第5 主たる債務者が相殺した場合1 民法457条3項の履行拒絶2 保証人の敗訴確定後に主たる債務者が相殺したとき第6 保証人が訴えられたときにすべきこと1 期日に出頭して主張する2 主張しておくべき事項3 主たる債務者の「任せておいて」を信用しない第7 支払った後の求償第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 確認状態
第1 この記事の対象と要点
1 想定する場面

本記事は,債権者が主たる債務者と連帯保証人を訴え,連帯保証人に対する請求を認める判決が先に確定した後に,主たる債務者に対する請求が退けられた場面を扱う。
例えば,連帯保証人が答弁書を出さずに欠席し,裁判所が連帯保証人の事件だけを分離して判決をした後,主たる債務者の事件では,主たる債務が成立していない,又は主たる債務者の相殺によって消滅したとして,請求が棄却される場合である。

このとき,連帯保証人は,自分に対する確定判決に基づく強制執行を止めるために,請求異議の訴え(民事執行法35条)を起こすことが考えられる。
本記事は,令和8年9月29日時点の法令と,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した最高裁判例に基づいて,この請求異議が認められるか,保証人が訴えられた段階で何をしておくべきかを整理する。

2 要点
問題結論主な根拠保証人は主たる債務者の勝訴判決を理由に請求異議を起こせるかその勝訴判決が保証人に対する判決の基準時までに生じた事実を理由とする以上,できない最高裁昭和51年10月21日判決基準時後に相殺をした債務者は,その相殺を請求異議の事由にできるかできる最高裁昭和40年4月2日判決基準時後に詐欺を理由に取り消すことはできるかできない(遮断される)最高裁昭和55年10月23日判決基準時後の建物買取請求権の行使は請求異議の事由になるかなる最高裁平成7年12月15日判決主たる債務者が相殺した場合,保証人は請求異議を起こせるか直接判断した最高裁判例は確認できず,見解が分かれ得る民法457条3項,民事執行法35条2項保証人が訴えられたときにすべきこと期日に出頭し,主たる債務者の抗弁と民法457条3項の履行拒絶を自ら主張する民法457条2項・3項,民事訴訟法39条・159条
第2 請求異議の訴えと既判力の基準時
1 請求異議の訴え

民事執行法35条1項は,債務名義に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は,その債務名義による強制執行の不許を求めるために,請求異議の訴えを提起することができると定める。
もっとも,確定判決についての異議の事由は,「口頭弁論の終結後に生じたもの」に限られる(同条2項)。

請求異議の訴えを起こしただけでは強制執行は止まらない。
異議のため主張した事情が法律上理由があるとみえ,かつ,事実上の点について疎明があったときは,受訴裁判所は,申立てにより,担保を立てさせ,又は立てさせないで強制執行の停止を命じることができる(民事執行法36条1項)。
請求異議の訴えと執行停止の申立ての一般的な手続は,強制執行に対する債務者の対抗手段で整理している。

2 既判力とその基準時

確定判決は,主文に包含するものに限り既判力を有する(民事訴訟法114条1項)。
既判力は,事実審の口頭弁論終結時(基準時)における権利関係の存否について生じ,当事者は,基準時前に存在した事由を持ち出して確定判決の判断を争うことができない。

このような遮断が必要とされるのは,基準時前の事由による蒸し返しを許すと,確定判決による紛争の解決が実効性を失い,勝訴した当事者の地位が不安定になるからである。
また,遮断が正当化されるのは,当事者が前の訴訟で攻撃防御を尽くす機会を与えられていた以上,提出しなかった事由を持ち出せなくなっても,自分の責任として受け入れるべきだからである。

第3 主たる債務者の勝訴判決を援用できるか
1 最高裁昭和51年10月21日判決

最高裁判所第一小法廷昭和51年10月21日判決(昭和49年(オ)第937号,民集30巻9号903頁)は,連帯保証人に対する保証債務履行請求を認容する判決が確定した後,主たる債務者の相続人らに対する請求について,主たる債務が無権代理のため成立していなかったとして棄却する判決が確定した事案である。
連帯保証人は,主たる債務の不存在が確定したとして,保証債務の付従性を理由に請求異議の訴えを起こした。

最高裁は,一般に保証人が,保証債務履行請求訴訟において主債務者勝訴の確定判決を援用することにより保証人勝訴の判決を導き得ると解せられるにしても,保証人がすでに保証人敗訴の確定判決を受けているときは,主債務者勝訴の判決が保証人敗訴の確定判決の基礎となった事実審口頭弁論終結の時までに生じた事実を理由としてされている以上,保証人はこれを請求異議の事由にする余地はないとした。

2 判決の理由

最高裁は,その理由として,次の2点を挙げている。
①保証人が主債務者勝訴の確定判決を援用することが許されるにしても,それは,その確定判決の既判力が保証人に拡張されることに基づくものではない。
②保証人は,保証人敗訴の確定判決の効力として,その判決の基礎となった事実審口頭弁論終結の時までに提出できたのに提出しなかった事実に基づいては,もはや債権者の権利を争うことは許されない。そうであるのに,主債務者勝訴判決を援用して請求異議の事由とすることを認めるのは,実質的には,保証人が主張することのできない事実に基づいて再び債権者の権利を争うことを容認するのと異ならない。

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通常共同訴訟で他の被告の主張・証拠は自分にも効くか―共同訴訟人独立の原則(民事訴訟法39条),主張共通の否定と証拠共通(最高裁昭和43年9月12日判決・昭和45年1月23日判決)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と要点1 想定する場面2 要点第2 通常共同訴訟と共同訴訟人独立の原則1 通常共同訴訟とは2 民事訴訟法39条の内容3 同時審判の申出がされた共同訴訟との違い第3 他の共同被告の主張は自分にも効くか(主張共通)1 最高裁昭和43年9月12日判決2 最高裁昭和45年1月23日判決3 主張共通を認めるべきだとする考え方第4 他の共同被告が出した証拠は自分にも効くか(証拠共通)第5 共同被告の一人が欠席したとき1 擬制自白2 弁論の分離と先行する判決第6 他の共同被告の主張を自分のものにする方法1 期日に出頭して援用する2 補助参加の申出3 訴訟告知第7 主たる債務者と保証人が共同被告になったときの注意1 保証人の側2 債権者の側第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 確認状態
第1 この記事の対象と要点
1 想定する場面

本記事は,債権者が主たる債務者と保証人を一緒に訴えた場合や,交通事故の被害者が運転者と使用者を一緒に訴えた場合のように,一つの訴訟に複数の被告(又は原告)がいるものの,判決の内容を全員について一致させることまでは求められていない訴訟を扱う。
このような訴訟は「通常共同訴訟」と呼ばれ,民事訴訟法38条が要件を定めている。

実務では,共同被告の一人が詳しい反論をしている一方で,他の共同被告が答弁書を出さず欠席していることがある。
このとき,欠席した共同被告も,他の共同被告の反論や証拠の恩恵を当然に受けられるのかが問題になる。
本記事は,令和8年9月29日時点の民事訴訟法と,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した最高裁判例に基づいて,この問題を整理する。

2 要点
問題結論主な根拠共同訴訟人の一人の訴訟行為は他の者に及ぶか及ばないのが原則である(共同訴訟人独立の原則)民事訴訟法39条他の共同被告の主張は自分の主張になるか自分で援用しない限りならない(主張共通の否定)最高裁昭和43年9月12日判決,最高裁昭和45年1月23日判決他の共同被告が出した証拠は自分の事件でも使われるか使われる(証拠共通)最高裁昭和45年1月23日判決共同被告の一人が欠席したらどうなるかその者は相手方の主張した事実を自白したものとみなされ得る民事訴訟法159条3項・1項他の共同被告の主張を自分のものにするには期日に出頭して援用するか,補助参加の申出をする民事訴訟法42条・45条,最高裁昭和43年9月12日判決
第2 通常共同訴訟と共同訴訟人独立の原則
1 通常共同訴訟とは

民事訴訟法38条は,訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき,同一の事実上及び法律上の原因に基づくとき,又は同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときは,その数人が共同訴訟人として訴え,又は訴えられることができると定める。
債権者が主たる債務者に対する請求と保証人に対する請求を一つの訴えで行う場合は,この規定によって一つの訴訟にまとめられる。

これに対し,民事訴訟法40条は,訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合(必要的共同訴訟)について,一人の訴訟行為は全員の利益においてのみ効力を生ずる(1項),相手方の訴訟行為は全員に対して効力を生ずる(2項)などの特則を置いている。
主たる債務者に対する請求と保証人に対する請求は,別々に訴えることもでき,判決の結論が食い違っても法律上は許されるから,40条の対象にはならない。

2 民事訴訟法39条の内容

民事訴訟法39条は,「共同訴訟人の一人の訴訟行為,共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為及び共同訴訟人の一人について生じた事項は,他の共同訴訟人に影響を及ぼさない」と定める(共同訴訟人独立の原則)。
通常共同訴訟は,本来別々に起こすことができた複数の訴えを,審理の便宜のために一つにまとめたものにすぎない。
そのため,各共同訴訟人は,他の共同訴訟人の訴訟追行に縛られず,自分の判断と責任で訴訟を追行し,その結果を受けることになる。

この原則から,例えば,共同被告の一人が請求を認諾したり,相手方の主張する事実を認めたりしても,他の共同被告についてその効果は生じない。
他方,後で見るとおり,他の共同被告が有利な主張をしてくれても,自分がそれを援用しない限り,自分の事件の判断資料にはならない。

3 同時審判の申出がされた共同訴訟との違い

民事訴訟法41条は,共同被告の一方に対する権利と他方に対する権利とが「法律上併存し得ない関係にある場合」に,原告の申出があれば,弁論及び裁判を分離しないでしなければならないと定める(同時審判申出共同訴訟)。
典型は,代理人と称する者が契約をした場合の,本人に対する契約上の請求と,代理人に対する無権代理人の責任の追及である。
主たる債務者に対する請求と保証人に対する請求は,両方とも成り立ち得るから,この規定の対象ではなく,裁判所は弁論を分離することができる(民事訴訟法152条1項)。

第3 他の共同被告の主張は自分にも効くか(主張共通)
1 最高裁昭和43年9月12日判決

最高裁判所第一小法廷昭和43年9月12日判決(昭和42年(オ)第890号,民集22巻9号1896頁)は,土地の不法占有を理由とする損害賠償請求について,原審が,共同被告のうち二人がした賃料弁済の主張の効力を,その主張をしていない他の共同被告にも及ぼし,「共同訴訟人間の補助参加関係」があるとして請求を退けた事案である。

最高裁は,「通常の共同訴訟においては,共同訴訟人の一人のする訴訟行為は他の共同訴訟人のため効力を生じないのであつて,たとえ共同訴訟人間に共通の利害関係が存するときでも同様である」とした。

(続きを読む...)通常共同訴訟で他の被告の主張・証拠は自分にも効くか―共同訴訟人独立の原則(民事訴訟法39条),主張共通の否定と証拠共通(最高裁昭和43年9月12日判決・昭和45年1月23日判決)(AI作成)

不動産競売の手続の流れと期間―申立て,差押え,現況調査・評価,期間入札,売却許可,代金納付,引渡命令及び配当(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 不動産競売の種類と申立て1 強制競売と担保不動産競売2 申立先3 申立書の添付書類と費用第3 開始決定,差押え及び配当要求の終期1 開始決定と差押えの登記2 差押えの効力3 配当要求の終期第4 現況調査,評価及び売却基準価額1 執行官による現況調査2 評価人による評価3 売却基準価額と買受可能価額第5 物件明細書,三点セット及びBIT1 物件明細書と売却による権利の消滅2 三点セットの公開3 内覧第6 無剰余による取消し第7 売却の実施―期間入札と開札1 売却実施処分と公告2 入札期間と開札期日3 保証と暴力団員等に該当しない旨の陳述4 入札がなかった場合第8 売却決定期日と執行抗告1 売却許可決定と売却不許可事由2 執行抗告と確定第9 代金納付,所有権移転及び引渡命令1 代金納付期限2 所有権の取得と登記3 代金を納付しなかった場合4 引渡命令第10 配当1 配当期日と計算書2 配当を受けるべき債権者と順位3 配当異議4 競売開始後の仮差押えと配当要求第11 期間の目安1 法令・規則が定める期間2 売却日程の一例3 統計から見た審理期間4 期間が延びる典型的な場面第12 関連記事第13 出典1 法令・規則2 裁判所の資料3 統計資料4 裁判例・文献
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,地方裁判所が行う不動産競売(強制競売及び担保不動産競売)について,申立てから配当までの手続の流れと,各段階にかかる期間の目安を整理するものである。
法令は令和8年9月28日現在の民事執行法をe-Gov法令検索で確認し,民事執行規則は裁判所ウェブサイトの規則集に掲載されたPDF(同日取得)で確認した。
期間の目安は,裁判所データブック2026,令和7年司法統計年報(民事・行政編)及び不動産競売物件情報サイト(BIT)に公表された売却スケジュールによる。

2 結論

①不動産競売は,申立て,開始決定・差押え,現況調査・評価,売却基準価額の決定と物件明細書の作成,売却の実施(通常は期間入札),売却決定期日,代金納付,配当の順に進む。

②法令・規則が期間を具体的に定めているのは,主に売却の公告以降の段階である。
入札期間は1週間以上1月以内,開札期日は入札期間の満了後1週間以内,売却決定期日は原則として開札期日から3週間以内,代金納付期限は売却許可決定の確定から1月以内,配当期日等は原則として代金納付から1月以内とされている(民事執行規則46条・56条・59条)。

③他方,開始決定から売却の実施までの現況調査・評価等の期間には一律の定めがなく,事件ごとの差が大きい。

④全国の地方裁判所の不動産執行事件の平均審理期間は,令和7年で9.1月である。
担保不動産競売等の既済事件でみると,6月を超え1年以内に終わったものが58.4%,1年を超え2年以内に終わったものが24.8%を占める。

⑤強制競売等の既済事件では取下げが半数を超え,担保不動産競売等でも約2割が取下げで終わっている。
競売の申立てが,最後まで売却・配当に進むとは限らない。

第2 不動産競売の種類と申立て
1 強制競売と担保不動産競売

不動産競売には,判決等の債務名義に基づく強制競売と,抵当権等の担保権に基づく担保不動産競売がある。
強制競売は,確定判決,仮執行の宣言を付した判決,執行証書,確定判決と同一の効力を有するもの(和解調書等)などの債務名義により行われ(民事執行法22条),原則として執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施される(同法25条)。
担保不動産競売は,担保権の登記(仮登記を除く。)がされた不動産についての申立てがあったとき,又は担保権の存在を証する確定判決等の文書の提出があったときに限り,開始する(同法181条1項)。

担保不動産競売には,強制競売の規定の多くが準用される(民事執行法188条)。
そのため,以下では両者を区別せずに述べ,違いがある主な箇所を注記する。

2 申立先

不動産執行は,その所在地を管轄する地方裁判所が執行裁判所として管轄し(民事執行法44条1項),この規定は担保不動産競売にも準用される(同法188条)。
もっとも,地方裁判所の支部の区域にある不動産であっても,不動産競売事件を本庁又は拠点となる支部で取り扱う地域がある。
実際の提出先は,対象不動産の所在地を管轄する地方裁判所のウェブサイトの管轄区域表や集約の告知で確かめる必要がある(執行事件の地裁本庁・拠点支部への集約-不動産執行,債権執行等の状況と理由)。

事件の取扱庁が変わる時期には,手続全体について一つの提出先を覚えておくだけでは足りない。
次の工程ごとに,担当部署,提出又は照会の方法,期限及び記録の保管場所を事件の管理表に残しておくと,窓口の変更に対応しやすい。

①申立てでは,対象不動産の所在地,事件の種類,取扱庁の変更の適用開始日及び新件の受付先を確認する。
②補正では,担当の裁判所書記官,指示された期限,提出先及び受領の確認方法を記録する。

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電子契約で保証人に署名してもらうときの注意点―メール認証の電子署名で連帯保証人について契約書の成立が否定された東京地裁令和7年7月28日判決(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 保証契約と電子契約1 書面要件と電磁的記録2 個人根保証の極度額3 保証意思宣明公正証書が必要な場合4 保証の委託をする主たる債務者の情報提供義務第3 電子署名と契約書の成立の真正1 電子署名法3条の推定2 民事訴訟法228条4項との関係3 メールアドレスによる認証と政府のQ&A第4 東京地方裁判所令和7年7月28日判決1 書誌2 事案3 主たる債務者側について成立の真正を認めた判断4 連帯保証人について成立の真正を否定した判断5 本判決から読み取れること第5 電子署名をした契約書が争われたその他の裁判例1 内容を確認した上での電子署名と契約の成立2 処分証書としての電子契約書3 裁判例の探し方と限界第6 保証人に電子署名をしてもらうときの実務1 送信先のメールアドレス2 保証人本人への意思確認3 認証の方法と本人確認4 記録の保存5 公正証書と情報提供の確認第7 相手方から電子契約の契約書を証拠として出されたとき第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,クラウド型の電子契約サービスを使って,主たる債務者と保証人の双方に電子署名をしてもらう場面を対象とする。
後になって保証人から「自分は署名していない」と争われたときに何が問題になり,契約の時点で何をしておけばよいかを,裁判例と政府の公表資料をもとに整理する。
法令は令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
本記事で紹介する東京地方裁判所の判決3件は,いずれも裁判所ウェブサイトの裁判例検索では見当たらず,判例秘書(LLI/DB)で判決本文を確認した。

電子署名法3条の推定が働く要件と,いわゆる立会人型の電子契約サービスに関する政府のQ&Aは,電子署名法3条の推定とはで詳しく扱っている。
本記事では,保証の場面と,電子署名をした契約書の成立が争われた裁判例に絞る。

2 結論

①保証契約は書面でしなければ効力を生じないが,その内容を記録した電磁的記録によってされた保証契約は,書面によってされたものとみなされる(民法446条2項・3項)。
したがって,電子契約で保証契約を結ぶこと自体はできる。

②東京地方裁判所令和7年7月28日判決は,メールアドレス認証による電子署名がされた債務承認弁済契約書について,内容を確認した上で署名した主たる債務者側については成立の真正を認め,連帯保証人については成立の真正を否定して,保証人に対する請求を棄却した。
保証人の名義の電子署名に使われたメールアドレスは,主たる債務者が業務に使っていたものであり,債権者は保証人本人に保証の意思を直接確認していなかった。

③同判決は,電子署名法3条の推定を適用して結論を出したのではなく,誰がそのメールアドレスを使って署名したか,署名した者が内容を確認していたかという事実を認定して判断している。

④他方,内容を画面で確認した上で電子署名をした当事者が,その書面はサービスの内容を確認するために取り交わしたものにすぎないと争っても,契約の成立は否定されにくい(東京地方裁判所令和5年2月1日判決)。
電子署名をした契約書の成立の真正が争いのない事案では,処分証書として,特段の事情がない限り記載どおりの行為がされたものと認めるべきであるとした判決もある(東京地方裁判所令和3年6月23日判決)。

⑤保証人に電子署名をしてもらうときは,保証人本人だけが使うメールアドレスに送ること,保証人本人に保証の意思を直接確認して記録を残すこと,2要素認証など本人確認の水準の高い方法を選ぶことが,後の紛争を防ぐ基本になる。

⑥事業のために負担した貸金等債務を個人が保証する場合は,原則として保証意思宣明公正証書が必要であり(民法465条の6第1項),電子契約をしただけでは保証契約の効力は生じない。

第2 保証契約と電子契約
1 書面要件と電磁的記録

民法446条2項は,「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。」と定めている。
同条3項は,「保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。」と定めている。
電子契約サービスで作成した契約書のデータは,この「電磁的記録」に当たり得るので,紙の契約書に署名押印する方法でなくても,保証契約の書面要件を満たすことができる。

もっとも,書面要件を満たすことと,保証人本人がその契約を結んだと証明できることとは別の問題である。
電子契約で後に争いになるのは,多くの場合,後者である。

2 個人根保証の極度額

一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(根保証契約)で,保証人が法人でないものは,極度額を定めなければ効力を生じない(民法465条の2第2項)。
同条3項は,極度額の定めについて446条2項・3項を準用しているので,極度額も電子契約の中で定めることができる。

3 保証意思宣明公正証書が必要な場合

(続きを読む...)電子契約で保証人に署名してもらうときの注意点―メール認証の電子署名で連帯保証人について契約書の成立が否定された東京地裁令和7年7月28日判決(AI作成)

カルテ改ざんの法的効果―記載の信用性の否定,別個の不法行為としての慰謝料,改ざんが認められなかった例及び患者側の記録(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 カルテの記載義務と訂正第3 信用性が否定された例(東京地方裁判所平成24年10月25日判決)1 事案2 判決が挙げた不自然な点3 判断第4 改ざんを認定し,別個の不法行為とした例(東京地方裁判所令和3年4月30日判決)1 事案2 改ざんと認めた記載と認めなかった記載3 別個の不法行為と慰謝料第5 改ざんが認められなかった例と患者側の記録(東京地方裁判所平成21年3月18日判決)1 事案2 改ざんを認めなかった理由3 遺族側のメモの評価第6 記録の不提出・廃棄・改ざんと民事訴訟法224条1 条文と「証明妨害」2 カルテを提示しなかった歯科医師について,患者の供述を真実と認めた例3 真実擬制は否定しつつ,改ざんされた記録の証拠能力を否定し,慰謝料を認めた例4 類推適用をしなかった例5 紛失・所在不明の場合6 整理第7 記録の紛失と遺族の法的利益(東京地方裁判所平成22年1月28日判決)第8 刑事責任と行政処分1 刑法の条文2 医療事故の記録をめぐる刑事事件の例3 医師法の行政処分4 保険医の登録の取消し第9 裁判例から見える判断の手掛かり第10 訴訟での扱いと予防1 事実認定への影響2 損害賠償の対象3 真実擬制と記録の紛失4 患者側の準備5 医療側の予防第11 関連記事第12 出典1 裁判例2 法令3 行政機関の資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,医療事故の後に診療録(カルテ)が書き加えられ,又は書き換えられたと疑われる場合に,民事の損害賠償請求訴訟でどのような効果が生じるかを,裁判例に即して扱う。
取り上げる裁判例は,裁判所ウェブサイトの判決全文で確認したものと,裁判所ウェブサイトに掲載されていないため判例データベース(判例秘書)の判決全文で確認したものであり,いずれも令和8年9月28日に確認した。
法令は令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。

カルテの記載を読むときの一般的な型(SOAP,時刻の区別,追記・訂正とログの確認)は,弁護士のためのカルテの読み方―SOAP・時系列・追記訂正・退院時要約の証拠評価で扱っている。
本記事は,そのうち改ざんが争われた場面に絞って,裁判所が何を手掛かりにしたか,改ざんが認められたときに何が起きるかを整理するものである。
記録の不提出・廃棄・紛失と民事訴訟法224条(第6・第7),刑事責任と医師の行政処分(第8)も扱う。

2 結論

①改ざんが疑われる記載は,意図的な改ざんと断定されなくても,信用性が極めて乏しいとして事実認定で重きを置かれなくなることがある。
東京地方裁判所平成24年10月25日判決は,新生児が大動脈弁狭窄症で死亡した事案で,カルテの該当部分の信用性を否定した上で,診療所側の注意義務違反を認めた。

②改ざんが認められると,それ自体が,本来の過失や説明義務違反とは別個の不法行為となり得る。
東京地方裁判所令和3年4月30日判決は,カルテの改ざんを説明義務違反とは別個の不法行為とし,慰謝料100万円と弁護士費用10万円を認めた。

③裁判所は,手術記録,看護記録,診療報酬明細書,母子手帳等の同時期の記録との整合・食い違い,挿入やはみ出しといった体裁,同じ医師の他の記載との書きぶりの違い,訂正前の記載が読めなくなる訂正の方法等を手掛かりにしている。

④他方,記載が途中から詳しくなったことや,診療報酬の請求との食い違いがあることだけでは,改ざんとは認められないことがある。
東京地方裁判所平成21年3月18日判決は,医師が家族の対応に不信感を持って記載を詳しくすることは後日の紛争に備えた対応として考えられるとして,改ざんを認めず,逆に,遺族が作成したメモについて,事後に書き替えが可能であり,書き替えが疑われる箇所もあること等から,遺族の供述の信用性を支えるものとはいえないとした。

⑤カルテの不提出・廃棄・改ざんから民事訴訟法224条等によって直ちに患者側の主張が真実と認められることは多くない。
裁判所が検証期日で存在を確認したカルテを歯科医師が提示しなかった事案で,当時の同条に当たる規定の趣旨に従い患者の供述を真実と認めた例(東京地方裁判所平成6年3月30日判決)がある一方,多くの判決は,改ざんされた記録の証拠能力や信用性を否定し,医療側に不利な事情として考慮するにとどめている。
それでも,改ざんと偽証工作を遺族に対する説明義務違反の不法行為として慰謝料1500万円を認めた例(甲府地方裁判所平成16年1月20日判決)や,開示を拒んで法的措置を促しながら,その後診療記録を紛失して訴訟に提出できなかった病院に慰謝料50万円を認めた例(東京地方裁判所平成22年1月28日判決)がある。

⑥刑事では,証拠隠滅罪(刑法104条)は「他人の刑事事件」の証拠を対象とし,医療事故の後に公立病院の院長が主治医と共謀して内容虚偽の死亡診断書等を作成・行使したとして,虚偽有印公文書作成・同行使等で有罪とされた例がある。
医師法の行政処分について,医道審議会医道分科会の「行政処分の考え方」は「診療録に真実を記載する義務」を医師の当然の義務に挙げている。
また,健康保険法上の保険医の登録取消しでは,カルテの事後の追記が処分理由とされ,その処分が適法とされた例がある。

⑦医療側は,訂正するなら元の記載が分かる方法で行い,事故の後に記載を変えない。
患者側は,改ざんの疑いを主張するなら,カルテ以外の同時期の客観的な記録を先に集め,記録の原本の状態を早期に確保する。

第2 カルテの記載義務と訂正

医師法24条1項は,医師は,診療をしたときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならないと定める。
同条2項は,病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関する診療録はその病院又は診療所の管理者が,その他の診療録はその医師が,5年間保存しなければならないとする。
医師法施行規則23条は,診療録の記載事項として,診療を受けた者の住所・氏名・性別・年齢,病名及び主要症状,治療方法(処方及び処置)並びに診療の年月日を定めている。

カルテは,医療訴訟で診療経過を認定するための中心的な証拠になる。

(続きを読む...)カルテ改ざんの法的効果―記載の信用性の否定,別個の不法行為としての慰謝料,改ざんが認められなかった例及び患者側の記録(AI作成)

平成19年度最高裁民事破棄判決等の実情―57件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の読み方第2 件数と「破棄率」の限界第3 原審が破棄された7つの型1 手続の入口に問題がある型2 請求・抗弁・判断対象を取り違える型3 評価語から要件事実へ飛躍する型4 契約文言と締結・履行経過がずれる型5 証明責任と立証対象の配分を誤る型6 制度の保護目的を抽象論で狭める型7 破棄差戻しで未確定事実が残る型第4 破棄差戻しと破棄自判の対照第5 代理人が作る3つの作業表第6 分野別の実務上の着眼点第7 一次資料,二次資料及び判例秘書の状態第8 現行法へ接続する際の注意第9 出典・関連記事

第1 本記事の対象と資料の読み方

本記事は,平成19年中に最高裁判所で言い渡された民事事件(行政事件・労働事件を含む。)の破棄判決50件と破棄決定7件を,山中弁護士の訴訟実務に使える「破棄の型」として整理するものである。判例時報の論文名は「平成十九年度」であるが,対象は会計年度ではなく暦年の平成19年中の裁判である。

入口とした資料は,森英明・絹川泰毅「最高裁民事破棄判決等の実情(上)(下)―平成十九年度」判例時報2009号3頁以下・2010号9頁以下である。この論文は最高裁調査官による体系的な二次資料であり,事件の所在,原審判断及び破棄理由を把握するのに有用である。他方,個別事件の正確な判示,射程,反対意見・補足意見は,裁判所が公表する判決・決定本文で確認する必要がある。

第2 件数と「破棄率」の限界

上告及び上告受理申立てを並行した事件を1件に換算すると,新受は3004件,既済は3111件であった。破棄判決は判決書単位で50件であり,換算後の既済件数に対して1.6%であった。その内訳は,差戻し(一部差戻しを含む。)26件,自判(一部自判を含む。)25件で,両方を含むものが1件ある。

破棄決定は7件で,特別抗告1件,許可抗告6件であった。許可抗告の既済44件に対する破棄決定6件は13.6%である。

もっとも,これらの数字は,不受理・棄却事件の内容,事件の難易,申立て理由の構成などを統制したものではない。「最高裁で勝てる確率」や個々の代理人の成功率として用いることはできない。

第3 原審が破棄された7つの型
1 手続の入口に問題がある型

口頭弁論に関与していない裁判官が判決裁判所を構成した事件,当事者・代表権・中断が問題となった光華寮訴訟,死亡当事者の受継命令,最高裁への上告受理申立てを原裁判所が内容判断で却下した事件などがある。受任直後に,裁判体,当事者表示,代表権,死亡・組織変更,受継,送達及び上訴権限を点検する必要がある。

2 請求・抗弁・判断対象を取り違える型

不法行為構成だけを判断して債務不履行主張を落とした事件や,予備的相殺抗弁の趣旨を取り違えた事件がある。請求原因,認否・抗弁,再抗弁,裁判所の判断を対応させ,選択的請求や予備的抗弁の順位も明示する。

3 評価語から要件事実へ飛躍する型

精神科入院患者の誤嚥死事件では,「ショック状態」という評価を先に置き,意識レベル,全身状態,頻脈,血圧,出血量,感染性ショックの可能性を必要十分に確定しない事実認定が経験則違反とされた。結果から過去の義務違反を逆算せず,義務発生時点ごとに客観的な事実を並べる必要がある。

4 契約文言と締結・履行経過がずれる型

コンビニ・フランチャイズ契約の「売上商品原価」は,契約条項だけでなく,付属資料,契約締結前の説明及び従前の運用を総合して解釈された。土地賃貸借でも,後年の低額支払又は不払だけで無償使用と決めず,長期の定期支払と当時の領収証を見る必要がある。

5 証明責任と立証対象の配分を誤る型

自動車盗難保険では,保険金請求者が立証すべき外形的事実と,被保険者の意思に基づかないことが分けられた。「盗難と矛盾しない」だけでは足りない。主張書面では,誰が何を証明するか,直接事実と間接事実,反証可能性を分ける。

6 制度の保護目的を抽象論で狭める型

建物の設計・施工・工事監理者について,契約関係のない居住者,隣人及び通行人にも,建物の基本的な安全性が欠けることがないよう配慮すべき注意義務が認められた。「強度の違法性」を要求した原審基準は狭すぎるとされた。

弁護士懲戒請求でも,不懲戒という結果だけで不法行為となるのではない。事実上・法律上の根拠を欠き,請求者が知っていたか通常の注意で知り得たのにあえて行い,制度の趣旨目的に照らして相当性を欠くかを判断する。

7 破棄差戻しで未確定事実が残る型

破棄差戻しは,最高裁が当事者の実体法上の勝敗を最終確定したことを必ずしも意味しない。「最高裁が確定した法理」「原審判断の誤り」「差戻審で未確定の事実」を三分する必要がある。

第4 破棄差戻しと破棄自判の対照

最高裁第三小法廷平成19年4月3日判決は,精神科入院患者の誤嚥死について,原審の事実認定が経験則に反するとし,患者が当該時点で自ら気道を確保することが困難な状態にあったか否かなどを追加審理させるため差し戻した。

これに対し,最高裁第二小法廷平成19年7月6日判決は,競売前に先順位抵当権が消滅した事案における法定地上権の成立を認め,原審が確定した事実だけで結論を出せるとして,土地買受人の建物収去土地明渡請求を棄却する自判をした。

両判決の比較は,正しい法的枠組みを示した後に追加の事実審理が必要かどうかが,差戻しと自判の分水嶺となることを示す。

第5 代理人が作る3つの作業表

(続きを読む...)平成19年度最高裁民事破棄判決等の実情―57件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)

医療訴訟における経験則違反―最高裁平成19年4月3日判決から見る事実認定の攻撃方法(AI作成)

目次

第1 結論と実務上の意義第2 事案と原審の判断第3 最高裁が指摘した事実の空白第4 「単なる事実認定の不服」との違い第5 診療経過を立体的に読む方法第6 破棄差戻しの射程第7 出典及び確認範囲

第1 結論と実務上の意義

医療訴訟で診断名や「ショック状態」という評価を置くには,その時点の意識レベル,全身状態,脈拍,血圧,出血量,代替原因などの基礎事実を確定する必要がある。結果が重大であったことから,過去の時点で医療従事者が重篤化を認識できたと逆算してはならない。

最高裁第三小法廷平成19年4月3日判決(平成18年(受)第1547号)は,全身状態等を審理判断せずに患者がショックに陥り,自ら気道を確保できない状態にあったとした原審の事実認定を,経験則に反するとして破棄差戻しとした。

第2 事案と原審の判断

本件は,精神科病院に入院していた患者が,消化管出血により多量に吐血・嘔吐し,吐物を誤嚥して死亡したことについて,両親が病院に債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案である。

原審は,午後3時30分頃の発熱,脈微弱,酸素飽和度低下,唇色不良などから,患者がショックに陥っていたと認定した。そして,消化管出血に関連する原因でショックに陥ったと認識できたとし,転送義務又は気道確保義務の違反を認めた。

第3 最高裁が指摘した事実の空白

最高裁は,原審が「ショック」という評価に進む前に確定すべき事実を具体的に指摘した。

① 心拍数は78であり,頻脈とはいえなかった。
② 酸素吸入等の後の午後4時30分には,口唇・爪のチアノーゼや四肢冷感がなく,体動も見られた。
③ 午後3時30分頃の収縮期血圧は96であり,急激な低下の形跡はなかった。
④ 多量の消化管出血を疑わせる嘔吐,吐血,下血又は激しい腹痛はうかがわれなかった。
⑤ 病理解剖で空腸の穿孔は見られたが,腹膜炎などの所見はなかった。
⑥ 患者の意識レベルを含む全身状態について,原審は必要な審理判断をしていなかった。

これらの事実に照らすと,発熱等の症状があったことだけで,自ら気道を確保できないショック状態にあったとすることはできない。最高裁は,その事実認定を前提とする転送義務・気道確保義務違反の判断も維持できないとした。

第4 「単なる事実認定の不服」との違い

上告審は事実審ではないから,証拠の信用性や重みについて異なる評価を述べるだけでは足りない。平成19年判決は,原審の評価に対する抽象的な異論ではなく,原審が採用した因果連鎖の前提が,客観的なバイタルサインや病理所見と整合しないことを示した。

したがって,経験則違反を主張するときは,①原審が結論の前提とした中間事実,②その中間事実と両立し難い客観的事実,③検討されなかった代替原因,④未確定の事実が法的結論に与えた影響を対応させる必要がある。

第5 診療経過を立体的に読む方法

診療録は,時刻順に転記するだけでは足りない。各時点について,次の項目を横断的に整理する。

① 意識レベル・応答・体動
② 体温,脈拍,血圧,酸素飽和度その他のバイタルサイン
③ 吐血,嘔吐,下血,疼痛,出血量などの症状
④ 医師・看護師が得た情報とその時点での判断
⑤ 投薬,酸素吸入,点滴,転送手配などの措置
⑥ 措置後の変化及び結果
⑦ 当時想定できた複数の原因と,それぞれと整合する事実・整合しない事実

医学鑑定に依存する前に,診療録,看護記録,救急搬送記録,画像・検査データ,病理解剖報告などを,同じ時間軸で照合することが重要である。

第6 破棄差戻しの射程

最高裁は,病院側に過失がないと最終確定したのではない。患者が午後3時30分の時点で自ら気道を確保することが困難な状態にあったか否かなどについて,更に審理させるため事件を原審に差し戻した。

この判決を原告側の全面敗訴や病院側の最終勝訴として引用するのは正確でない。最高裁が確定したのは,原審の事実認定方法に経験則違反があり,その違法が判決に影響するという点である。

第7 出典及び確認範囲

① 最高裁第三小法廷平成19年4月3日判決(平成18年(受)第1547号)
② 森英明・絹川泰毅「最高裁民事破棄判決等の実情(上)―平成十九年度」判例時報2009号3頁以下(二次資料)
③ 民事訴訟法(e-Gov法令検索)

最高裁判決全文は裁判所ウェブサイトで確認済みである。判例秘書は照会0件/ヒット不明/本文確認0件であり,差戻審の結果及び下級審の同種判例の収録状況は本記事では確認していない。

外国欠席判決の承認と手続的公序―判決書不送達・控訴機会・ウェブ公開(AI作成)

目次第1 外国判決の承認要件第2 訴状送達と判決送達は別問題第3 最高裁平成31年判決第4 ウェブ公開と現実の防御機会第5 立証資料と出典

外国の裁判所が欠席判決をした後,判決書が被告に届かないまま上訴期間が経過した場合,その判決を日本で承認・執行できるか。本記事は,訴状の送達と判決書の送達を分け,民事訴訟法118条3号の手続的公序を中心に,令和8年9月28日現在の日本法を整理する。

第1 外国判決の承認要件

民事訴訟法118条は,外国裁判所の確定判決について,①外国裁判所の裁判権,②敗訴被告への訴訟開始文書等の送達又は応訴,③判決内容及び訴訟手続が日本の公序良俗に反しないこと,④相互の保証,を要求する。外国判決に基づいて日本で強制執行するには,別に民事執行法24条の執行判決が必要である。

①の外国裁判所の裁判権は,外国判決を日本で承認する場面における「間接管轄」の問題であり,日本の裁判所へ新たに訴えを提起できるかという「直接管轄」と区別する必要がある。間接管轄の判断方法,侵害発生地,差止請求及び予見可能性については,外国判決の承認における間接管轄―侵害発生地・予見可能性と最高裁平成26年4月24日判決(AI作成)で説明する。本記事は,主として②の送達及び③の手続的公序を扱う。

同条3号のうち,本記事が扱うのは,判決を知り上訴する現実の機会が与えられたかという手続的公序である。
これに対し,外国判決の内容自体が日本の法秩序の基本原則と相いれないかという実体的公序も別に問題となる。外国判決の懲罰的損害賠償部分を扱った最高裁平成9年7月11日判決及び既払金の充当を扱った最高裁令和3年5月25日判決は,加害者が得た利益を被害者は請求できるか―利益吐出し型損害賠償・懲罰的損害賠償と日本法で整理している。

第2 訴状送達と判決送達は別問題

訴状・呼出状の送達は118条2号の問題であり,被告が訴訟の開始を知って防御できたかに関わる。判決書の送達又は告知は,同号が直接列挙する文書ではない。しかし,判決を知らないまま上訴期間を失い,実質的な防御機会を奪われた場合は,同条3号の「訴訟手続」が公序に反するかが問題になる。

したがって,「訴状が適法に送達されたから必ず承認される」とも,「判決書が送達されなかったから必ず承認されない」ともいえない。

第3 最高裁平成31年判決

最高裁判所第二小法廷平成31年1月18日判決は,外国法上,判決書の送達が制度上予定されていないことだけで,直ちに118条3号違反になるものではないとした。他方,判決の内容を当事者に知らせることが可能であったのに実際には知らされず,又は実質的に上訴の機会が与えられないまま上訴期間が経過した等の事情により,手続保障の観点から日本の法秩序の基本原則に反すると認められる場合には,3号違反となり得るとの判断枠組みを示した。

判断の中心は,外国法に日本と同じ送達制度があるかではなく,当事者が判決内容を知り,上訴その他の防御手段を現実に利用できたかである。

第4 ウェブ公開と現実の防御機会

判決が裁判所ウェブサイトに掲載され,世界中から技術的に閲覧できたとしても,それだけで当事者に判決内容が実際に告知されたとは限らない。掲載の有無,掲載日,検索方法,当事者への掲載通知,通常の事件管理方法,代理人の選任状況,判決の写しが誤った住所へ送られた経緯,上訴期間の起算点及び期間回復制度を総合して判断する必要がある。

反対に,被告又は代理人がウェブ掲載を現実に知り,判決内容を取得して上訴できたのに放置した場合は,手続的公序違反を基礎付けにくい。単なる「アクセス可能性」と「現実の認識・実質的な上訴機会」を区別することが重要である。

第5 立証資料と出典

承認・執行事件では,外国判決の確定証明,訴状等の送達記録,判決書の発送記録,発送先住所,ウェブ掲載日時と通知方法,上訴期間・起算点・期間回復に関する外国法資料,当事者と代理人の連絡記録を確保する必要がある。外国法の内容は条文だけでなく,実務運用を示す専門家意見書も検討する。

一次資料は,e-Gov法令検索「民事訴訟法」118条,「民事執行法」24条,最高裁判所第二小法廷平成31年1月18日判決(平成29年(受)第2177号,民集73巻1号1頁),最高裁判所第二小法廷平成9年7月11日判決(平成5年(オ)第1762号,民集51巻6号2573頁)及び最高裁判所第三小法廷令和3年5月25日判決(令和2年(受)第170号,同年(オ)第135号,民集75巻6号2935頁)である。

船荷証券の国際裁判管轄条項―運送人の選択権・選択時期・専属性(AI作成)

目次第1 管轄条項を読む順序第2 民事訴訟法3条の7第3 選択権付き条項第4 選択時期と専属性第5 出典

船荷証券には,運送人の本店所在地,船積港又は陸揚港の裁判所から運送人が一つを選ぶ旨の条項が置かれることがある。この条項を理由に日本の訴えを却下できるかは,合意の方式,有効性,専属性,選択の時期及び指定裁判所の管轄を順に検討する必要がある。本記事は令和8年9月28日現在の日本法を前提とする。

第1 管轄条項を読む順序

最初に,①対象となる一定の法律関係,②候補となる国・裁判所,③選択権者,④専属管轄か付加的管轄か,⑤選択の方法と期限,⑥指定裁判所が実際に裁判権を行使できるかを条項の文言から確認する。「訴えることができる」というだけでは専属性が明らかでない場合がある。他方,他の裁判所を排除する趣旨が文言と契約全体から明白なら,専属的合意と解され得る。

第2 民事訴訟法3条の7

民事訴訟法3条の7第1項は,当事者が合意により,いずれの国の裁判所に訴えを提起できるかを定められるとする。同条2項により,合意は一定の法律関係に基づく訴えについて,書面でしなければ効力を生じない。電磁的記録も書面とみなされる(同条3項)。指定された外国裁判所が法律上又は事実上裁判権を行使できないときは,外国裁判所を専属管轄とする合意を援用できない(同条4項)。日本の専属管轄に属する事件を外国裁判所に委ねることもできない(同法3条の10)。

なお,船荷証券のような事業者間の契約と異なり,消費者契約や労働契約について将来生ずる紛争を対象とする管轄合意は,同条5項・6項により,効力を有する場合が限られている。例えば,雇用契約の締結時に外国の裁判所だけを指定した条項は,労働契約の終了の時にされた合意である場合,労働者が合意された国の裁判所に訴えを提起した場合又は事業主から訴えられた労働者が合意を援用した場合でなければ,効力を有しない(同条6項)。労働契約の管轄条項と準拠法については,外国企業に雇われて日本で働く人の労働紛争―管轄条項の効力(民訴法3条の7第6項),準拠法と日本の強行規定(通則法12条),国外払い給与の確定申告で整理している。

最高裁判所第三小法廷昭和50年11月28日判決は,船荷証券の管轄約款について,当事者の一方が作成した書面に特定国の裁判所が明示され,合意の存在と内容が明白であれば方式上足りるとした。また,外国裁判所だけを第一審の管轄裁判所とする合意は,日本の専属管轄事件でなく,指定裁判所がその外国法上管轄を有し,合意がはなはだしく不合理で公序法に違反するとき等の場合は格別,原則として有効であるとした。現在は3条の7の明文も踏まえて判断する。

第3 選択権付き条項

複数の候補地から運送人だけが選べる条項であっても,候補が客観的に特定され,いずれも運送契約と合理的関連を有し,運送人が恣意的に全く無関係の裁判所を指定できないなら,直ちに無効になるとは限らない。

東京地方裁判所平成20年9月24日判決(平成19年(ワ)第30011号)は,運送人が船荷証券所定の候補から台湾の裁判所を訴え提起後に選択し,本案前の抗弁として日本の訴えの却下を求めた事案で,その選択を是認して訴えを却下したと紹介されている。ただし,この判決は裁判所ウェブサイトに掲載されておらず,本記事では公刊資料・専門誌索引による確認である。

第4 選択時期と専属性

訴え提起後の選択を許すと,原告は提訴時にどの国で審理されるかを確定できず,除斥期間又は時効の経過後に外国での再提訴を強いられるおそれがある。そのため,条項の文言に期限がなくても,信義則,権利濫用,予測可能性及び実効的な裁判を受ける機会の観点から,選択時期に限界があるとの議論が成り立つ。

もっとも,前記東京地裁判決は訴え提起後の選択を認めたとされる。個別事件では,候補地の合理性,原告が条項を認識できたか,運送人がいつ選択を通知したか,外国で再提訴できるか,証拠と関係者がどこにあるかを具体的に主張する必要がある。選択権付き条項を一律に有効又は無効と扱うのは適切でない。

第5 出典

①e-Gov法令検索「民事訴訟法」3条の7,3条の9,3条の10。
②最高裁判所第三小法廷昭和50年11月28日判決(昭和45年(オ)第297号,民集29巻10号1554頁)。
③東京地方裁判所平成20年9月24日判決(平成19年(ワ)第30011号。裁判所ウェブサイト未掲載)。判決の概要は,流通経済大学リポジトリ掲載「物流問題研究58号」及び増田史子「選択権付国際裁判管轄条項」ジュリスト1442号120頁以下で確認した。
④経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」の国際裁判管轄合意の整理。

公海上の船舶衝突における国際裁判管轄・準拠法と責任保険の直接請求(AI作成)

目次第1 問題の所在第2 日本の国際裁判管轄第3 公海衝突の準拠法第4 責任保険者への直接請求第5 実務上の確認順序第6 出典と未確定部分

公海上で外国船同士が衝突したときは,「どの国で訴えるか」と「どの国の法を適用するか」を分けて検討する必要がある。さらに,船主の責任保険者に被害者が直接請求できるかは,直接請求権の法性決定を経なければ結論が出ない。本記事は,令和8年10月1日現在の日本法を前提に整理したものである。

第1 問題の所在

公海には領域主権を有する国がない。そのため,陸上の交通事故のように「事故地法」を直ちに選ぶことができない。船舶の旗国,損害船舶が最初に到達した地,船主の本店所在地,当事者の共通常居所地等のうち,どの事実を国際裁判管轄又は準拠法の連結点とするかを区別して考える必要がある。

第2 日本の国際裁判管轄

民事訴訟法3条の3第9号は,船舶の衝突その他海上の事故に基づく損害賠償請求について,「損害を受けた船舶が最初に到達した地が日本国内にあるとき」に日本の裁判所の管轄権を認める。予定された最初の寄港か,事故後の救難・応急修理のための緊急入港かを問わず,条文上は実際に最初に到達した地が基準になると解するのが自然である。ただし,単なる一時的接触しかなく,日本で審理することが当事者間の衡平又は適正・迅速な審理を著しく害する場合には,同法3条の9の「特別の事情」が別に問題になる。

同じ衝突でも,どの船舶が損害を受けた船舶であるか,誰が誰に請求するかにより,同号の適用関係は変わり得る。被告の主たる事務所等が日本にあるときは同法3条の2による管轄も検討する。

第3 公海衝突の準拠法

不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,原則として加害行為の結果が発生した地の法による(法の適用に関する通則法17条本文)。しかし,公海上の衝突には領域的な結果発生地法がない。この場合の処理について,通則法には海事不法行為専用の明文規定がない。

学説上は,①各船舶を旗国の領域に準じて扱う,②被害船の旗国法による,③双方の船舶が同一旗国ならその法による,④法廷地法による,⑤通則法20条の「明らかにより密接な関係がある地」の法を探す,といった構成が論じられてきた。双方が同一旗国であれば共通旗国法を基礎にする見解が有力である。他方,異なる旗国の船舶が公海上で衝突した事案について,東京高裁平成29年6月30日決定(平成29年(ラ)第310号,判例タイムズ1446号)は,損害賠償請求権の準拠法を双方の旗国法の累積適用とした。
同決定は保険金請求権への先取特権に基づく差押えをめぐる執行抗告事件で,損害賠償請求権の準拠法は先取特権の成立を判断する前提として論じられたものである。
公海衝突一般について最高裁の統一判断が示されたとまではいえないが,異国籍船の事件で日本の裁判所が審理するというだけで日本法を単独適用する説明は,同決定と整合しない。

準拠法が外国法であるときは,通則法22条による二重の制限も確認する。外国法上は不法でも日本法上不法でない行為について請求はできず,日本法が認める処分を超える請求もできない。

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民事訴訟法248条による損害額の認定―損害発生の立証と相当額認定の実務(AI作成)

目次

第1 民事訴訟法248条の役割
第2 最高裁平成20年6月10日判決

1 採石権侵害と損害額の区分困難
2 最高裁の判断

第3 適用のために分けて立証する事項
第4 原告側の主張立証
第5 被告側の対応
第6 判決・控訴審での確認事項
第7 一次資料

損害が発生したことは認められるのに、侵害行為と適法行為の混在等によって、損害の性質上、金額の厳密な証明が極めて困難な事件があります。この場合に、裁判所が「計算できない」という理由だけで請求を棄却することを避けるための規定が、民事訴訟法248条です。ただし、単に資料をなくしたという事情だけで、当然に本条を適用できるわけではありません。

第1 民事訴訟法248条の役割

民事訴訟法248条は、損害が生じたことが認められる場合に、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき、裁判所が口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて相当な損害額を認定できると定めています。

この規定は、損害発生の立証を不要にするものでも、裁判所が根拠なく自由な金額を決めることを認めるものでもありません。「損害の発生」と「損害額」を分け、前者を立証した上で、後者について利用可能な資料を可能な限り提出することが出発点です。

加害者が違法行為によって売上げ又は利益を得ている場合、その資料は相当額認定の基礎になり得ますが、民事訴訟法248条が独立の利益吐出し請求権を創設するわけではありません。加害者利益を損害額の推定に用いる特別法上の規定、通常の損害賠償、不当利得及び懲罰的損害賠償の違いは、加害者が得た利益を被害者は請求できるか―利益吐出し型損害賠償・懲罰的損害賠償と日本法で整理しています。

第2 最高裁平成20年6月10日判決
1 採石権侵害と損害額の区分困難

最高裁第三小法廷平成20年6月10日判決・平成18年(受)第265号は、採石業者が、他社による採石行為で採石権を侵害されたとして損害賠償を求めた事案です。

問題となった土地では、和解前には原告が採石権を有していましたが、和解後には被告会社が採石権を取得して採石していました。そのため、和解前の違法な採石量と和解後の適法な採石量とを明確に区別できないという事情がありました。原審は、違法な採石による損害額を算定できないとして、この部分の請求を棄却しました。

2 最高裁の判断

最高裁は、和解前の採石行為により損害が発生したことは明らかであり、違法採石量と適法採石量を明確に区別できず損害額の立証が極めて困難であっても、民事訴訟法248条により相当な損害額を認定しなければならないとしました。損害額を算定できないという理由で請求を棄却した原判決を破棄し、更なる審理のため差し戻しています。

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裁判官が転勤(転補)した後の判決は有効か―判決原本の署名時期,職務代行の発令及び転補の効力発生に関する最高裁判例(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 前提―補職,転補及び判決をする裁判官1 補職と転補2 判決をする裁判官第3 転補後に判決原本に署名した場合1 最高裁判所昭和48年4月26日判決の事案2 判断第4 判決原本はいつ作成されたと扱われるか1 転補の辞令の受領日までに作成されたとの推認2 訴訟手続の停止中に転補された場合3 書記官への判決原本の交付が遅れた場合第5 職務代行の発令がある場合1 職務代行の根拠2 東京高等裁判所昭和54年5月14日判決第6 職務代行の発令がない裁判官が加わった場合第7 転補の発令はいつ効力を生ずるか第8 実務上の注意1 判決書の付記2 異動の時期の判決を確認するときの着眼点3 不服申立ての根拠4 電子判決書の下での規律第9 関連記事第10 出典・参考資料1 裁判例2 法令3 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,口頭弁論を終結した裁判官が判決の言渡し前に他の裁判所へ異動(転補)した場合に,その判決が適法に成立するかを,最高裁判所の判例を中心に整理する。
法令は,令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
最高裁判所の判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で書誌を確認し,判例秘書で本文を読んだものに限って紹介している(範囲は第10の3のとおり)。
高等裁判所及び地方裁判所の判決は,判例秘書で確認したものである。
紹介する最高裁判所の民事の判例は,いずれも旧民事訴訟法の下で紙の判決原本を前提に判断されたものである。
令和8年5月21日以後に提起された訴えの判決は電子判決書によるので,その規律は第8の4で扱う。

2 結論

①下級裁判所の裁判官は,特定の裁判所の裁判官の職に補されて初めてその裁判所の裁判官として職務を行うことができ,転補された後は,従前の裁判所の裁判官としての行為はすることができない(最高裁判所昭和48年4月26日判決)。
②そのため,単独の裁判官が審理した事件で,判決原本への署名捺印がその裁判官の転補後にされたときは,その判決手続は違法となる(同判決)。
③他方,最終口頭弁論に関与した裁判官が言渡し前に転補された場合でも,判決原本にその裁判官の署名捺印があるときは,反証がない限り,転補の辞令を受領した日までに作成されたものと認められる(最高裁判所昭和25年12月1日判決の裁判要旨。最高裁判所昭和48年4月26日判決も同旨を述べる。)。
④転補された裁判官について従前の裁判所の職務代行が発令されていれば,その期間内はその裁判所の裁判官として職務を行うことができる(東京高等裁判所昭和54年5月14日判決)。
⑤転補の発令は,電話で発令の通知がされたときは,辞令書の交付前でも効力を生ずる(最高裁判所昭和42年7月5日決定)。
⑥職務代行の発令を受けていない判事補が高等裁判所の判決裁判所の構成に加わった刑事事件では,原判決が破棄されている(最高裁判所平成19年7月10日判決)。
⑦令和8年5月21日以後に提起された訴えの判決では,判決をした裁判官が電子判決書にその作成に係ることを示す措置を講じ,合議体の裁判官に支障があるときは他の裁判官がその事由を記録する(民事訴訟規則155条)。
これは紙の判決書への署名押印及び支障の付記と同じ構造であるから,転補後に措置を講じた場合には,昭和48年4月26日判決と同じ問題が生じると考えられる。

第2 前提―補職,転補及び判決をする裁判官
1 補職と転補

裁判所法40条1項は,判事,判事補等は最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命すると定め,同法47条は,「下級裁判所の裁判官の職は、最高裁判所がこれを補する。」と定める。
判事等の官に任命されることと,特定の裁判所の裁判官の職に補されることは,別の行為である。
裁判官が別の裁判所の職に補し直されることは「転補」と呼ばれる。
発令文言の違いは,「補する」「充てる」「命ずる」「指名する」の違いで扱っている。

2 判決をする裁判官

民事訴訟法249条1項は,「判決は、その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がする。」と定める。
同条2項は,裁判官が代わった場合には,当事者は従前の口頭弁論の結果を陳述しなければならないと定める。
同条3項は,単独の裁判官が代わった場合又は合議体の裁判官の過半数が代わった場合に,その前に尋問をした証人について当事者が更に尋問の申出をしたときは,裁判所はその尋問をしなければならないと定める。
口頭弁論の終結後,判決の言渡しの前に裁判官が転補されたときに問題になるのは,転補された裁判官がその判決をしたといえるかである。

第3 転補後に判決原本に署名した場合

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最高裁民事破棄判決から作る原判決監査チェックリスト(AI作成)

目次

第1 本記事の目的と結論
第2 破棄判決から原判決を監査する意味
第3 原判決監査チェックリスト
第4 七つの監査ゲート

1 入口―当事者・訴訟要件・手続
2 法的根拠―条文・権限・請求権
3 判断枠組み―要件・考慮要素・裁量密度
4 主要事実―時点・主体・対象・効果
5 証拠評価―経験則・採証法則
6 理由と主文―判断遺脱・理由の食違い
7 救済―破棄自判か破棄差戻しか

第5 代表判例による使い方
第6 上訴方針と証拠計画への落とし込み
第7 このチェックリストの限界
第8 出典及び確認範囲

第1 本記事の目的と結論

本記事は,原判決を受領した後に,入口,法的根拠,判断枠組み,主要事実,証拠評価,理由・主文及び救済という七つの監査ゲートで点検する記事である。その前提となる訴訟追行の失敗を22事例から四段階に整理したものは,最高裁破棄判決とは―22の失敗事例から学ぶ主張・立証・事実認定の実務である。

本記事は,民事事件の判決を受領した弁護士が,控訴・上告等の方針を決める前に,原判決の構造を監査するためのチェックリストである。単に「結論がおかしい」「証拠の評価が納得できない」と考えるだけでなく,最高裁判所が実際に原判決を破棄した理由の型に照らして,誤りの位置を特定することを目的とする。

本記事が扱うのは,原判決の適用法,判断枠組み,主要事実,証拠評価,理由及び主文の誤りを点検する「原判決の実体監査」である。上訴権者・代理権,送達日・期限,理由書の方式,記録編成及び秘匿処理を点検する「上訴手続の提出前監査」は,上告・上告受理申立ての提出前チェックリストで扱う。

監査の順序は,入口 → 法的根拠 → 判断枠組み → 主要事実 → 証拠評価 → 理由・主文 → 救済である。この順序で確認すると,事実評価への不満に先立ち,当事者適格,訴えの利益,適用条文,法的要件,判断の欠落及び主文との整合性を点検できる。

ただし,このチェックリストに該当する項目があるだけで上訴理由又は破棄が認められるわけではない。上告理由,上告受理申立て理由及び控訴理由では審査対象が異なるため,最終的には民事訴訟法312条・318条その他の根拠に対応させる必要がある。

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弁護士のためのカルテの読み方―SOAP・時系列・追記訂正・退院時要約の証拠評価(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と資料の位置付け
第2 診療録の記載義務と証拠評価は別の問題である
第3 SOAPは情報源・所見・評価・計画を分ける道具である
第4 時系列は出来事・認識・入力・追記を分ける
第5 計画・指示・実施・反応・再評価をつなぐ
第6 当時記録と退院時要約等を区別して照合する
第7 追記・訂正・複製記載・ログの確認
第8 記載がないことと実施されなかったことは同じではない
第9 弁護士が作る診療経過表と確認表
第10 出典・調査範囲・限界

カルテ(診療録)は,医療事件の時系列を組み立てる中心資料であるが,記載をそのまま事実認定表へ転記するだけでは足りない。

誰が得た情報か,患者の申告か医療者の観察か,診療当時の評価か後日の要約か,計画された処置か実施済みの処置かを分け,他の記録と照合する必要がある。

この記事は,弁護士が診療録,看護記録,指示記録,投薬記録,検査結果,画像,紹介状及び退院時要約を読む際の実務的な型を整理するものである。個別の診断又は治療の医学的妥当性は,診療時点の医学的知見と専門家の意見を別に確認する必要がある。
第1 この記事の対象と資料の位置付け
この記事の出発点とした佐藤健太『「型」が身につくカルテの書き方』(医学書院,2015年)は,研修医等が診療情報を整理して記載するための臨床実務書である。SOAP,時系列及び診療計画の整理には有用であるが,法令,裁判例又は法的な証拠評価基準そのものではない。

そこで,本記事では,書籍から得られる記録読解の型を,医師法,医師法施行規則,厚生労働省の指針及び裁判所ウェブサイト掲載判決(令和8年9月28日に追加した1件は判例秘書で本文を確認した判決)で照合した。下級審判決は具体的事案に即した判断であり,診療録一般について例外のない証拠法則を示したものとして扱わない。
第2 診療録の記載義務と証拠評価は別の問題である
医師法24条1項は,医師が診察をしたときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならないと定める。

医師法施行規則23条は,診療を受けた者の住所・氏名・性別・年齢,病名及び主要症状,治療方法,診療年月日を記載事項とする。医師法24条2項による保存期間は5年であり,病院又は診療所に勤務する医師の診療録はその管理者が,それ以外の診療録は医師が保存する。

もっとも,記載義務があることと,個々の記載内容が常に真実であることは別の問題である。また,記載がないことから,直ちに症状又は診療行為が存在しなかったと断定できるわけでもない。

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民事の破棄差戻審―拘束力,残存争点及び主張立証(AI作成)

目次

第1 結論と本記事の資料範囲
第2 破棄差戻しと破棄自判の違い

1 破棄差戻し
2 破棄自判

第3 差戻審を拘束する判断

1 民事訴訟法325条3項
2 拘束部分と残存争点を分ける方法
3 新たな口頭弁論の意味

第4 差戻し作業表の作り方
第5 最高裁判例から見る差戻しと自判

1 妊娠中の軽易業務転換を契機とする降格事件
2 民事再生手続と相殺の事件
3 平成19年の差戻しと自判の対照
4 平成8年の後縦靱帯骨化症事件と誤振込事件
5 令和7年判決の三つの差戻し類型

第6 差戻審の主張立証計画
第7 依頼者への説明
第8 出典及び確認範囲

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医薬品の副作用と因果関係の立証―添付文書・処方歴・薬物動態・PMDA救済制度(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論

1 対象
2 結論

第2 最初に分けるべき三つの問題

1 薬が使用されたか
2 その薬が症状を生じさせたか
3 誰がどの義務又は制度上の要件を満たすか

第3 薬理学からみた因果関係の検討順序

1 薬剤を特定する
2 用量だけでなく曝露量を考える
3 薬物動態と患者側の条件を確認する
4 薬力学と具体的機能を結び付ける
5 併用薬・相互作用・代替原因を検討する
6 中止・減量後の変化を慎重に評価する

第4 証拠収集と時系列表

1 受任直後に確保する資料
2 添付文書は当時版と現在版を分ける

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許可抗告理由書の書き方―5日・14日の期限と「法令の解釈に関する重要な事項」(AI作成)

◯以下の記事も参照してください。
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 即時抗告・執行抗告・再抗告・特別抗告・許可抗告の期限,理由書期限及び執行停止(AIリライト)
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情

目次

第1 結論――5日と14日を分け,重要な法令解釈事項を示す
第2 許可抗告の仕組み

1 高等裁判所の許可が必要であること
2 特別抗告及び上告受理申立てとの違い

第3 期限管理――申立ては5日,理由書は通知書送達後14日

1 5日の不変期間
2 理由書の14日
3 受任直後の実務

第4 申立て前の4段階フィルター
第5 許可抗告理由書の組立て
第6 許可に結び付きにくい主張
第7 令和6年度の3決定から学ぶこと

1 取調べ録音・録画記録媒体
2 文化功労者年金
3 医療法人の社員総会招集

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韓国の検察庁は2026年10月2日に廃止される-公訴庁・重大犯罪捜査庁への分割(AI作成)

目次第1 検察庁廃止の意味とこの記事の基準日第2 検察庁の機能は二つの官庁へ分けられる1 公訴庁は起訴と公判を担当する2 重大犯罪捜査庁は重大犯罪の捜査を担当する3 捜査と起訴の担当関係第3 刑事手続は2026年10月2日にどう変わるか1 検事の直接捜査権はなくなる2 告訴・告発の提出先は司法警察官になる3 検事には補充捜査要求と事実関係確認が残る第4 なぜ検察庁を廃止するのか1 制度上の目的は捜査と起訴の分離である2 検察改革は以前から段階的に進められてきた3 機関分離には反対方向の懸念もある第5 検察官と令状請求の仕組みは残る1 憲法が令状請求に検事を組み込んでいる2 組織名の変更と憲法上の用語は一致しない第6 施行直前の準備状況第7 日本の検察制度と比較するときの注意第8 出典・参考資料1 韓国の法令2 韓国政府の説明・準備資料3 日本語の調査資料
第1 検察庁廃止の意味とこの記事の基準日

韓国では,2026年10月2日に検察庁が廃止され,起訴を担当する公訴庁と重大犯罪の捜査を担当する重大犯罪捜査庁が発足する。
もっとも,廃止されるのは「検察庁」という組織であって,検事という官職や公訴を提起・維持する機能までなくなるわけではない。

本記事は,韓国の公訴庁法,重大犯罪捜査庁の組織及び運営に関する法律並びに改正刑事訴訟法を中心に,制度改編の内容と施行直前の準備状況を整理するものである。
調査の基準日は2026年9月27日であり,同日現在,これらの主要部分は公布済みであるが,まだ施行されていない。
外国法の条文名及び制度名は,本記事による日本語表記である。

第2 検察庁の機能は二つの官庁へ分けられる
1 公訴庁は起訴と公判を担当する

公訴庁法2条及び3条は,検事の事務を担当する公訴庁,広域公訴庁及び地方公訴庁を置き,それぞれ大法院,高等法院並びに地方法院・家庭法院に対応させる。
現行の検察庁を単に別名へ変更するのではなく,公訴を担う機関として裁判所に対応した組織を新設する仕組みである。

同法4条による検事の主な職務は,①公訴提起の可否の決定及び公訴維持,②令状請求,③犯罪捜査に関する司法警察職員との協議・支援,④裁判所に対する法令の適正な適用の請求,⑤裁判の執行の指揮・監督,⑥国を当事者又は参加人とする訴訟及び行政訴訟への対応である。
ここには,現行刑事訴訟法196条が認める検事自身の犯罪捜査は含まれていない。

2 重大犯罪捜査庁は重大犯罪の捜査を担当する

重大犯罪捜査庁は行政安全部の外局として設けられ,重大犯罪等の捜査を担当する。
同庁法17条は,庁長及び7級以上の捜査官を司法警察官,8級以下の捜査官を司法警察吏として位置付けるため,捜査をする主体は検事ではなく捜査官である。

政府が2026年8月4日に示した組織案では,本庁と6地方庁を置き,総定員を2874人としている。
捜査部門は,腐敗,経済,防衛事業,麻薬,国家保護,サイバー犯罪及び法歪曲罪という7類型を専門的に扱う構成である。

3 捜査と起訴の担当関係

制度改編後の基本構造は,次のとおりである。
重大犯罪捜査庁がすべての刑事事件を捜査するわけではなく,一般事件は警察,法律で定められた重大犯罪等は重大犯罪捜査庁,高位公職者犯罪の一部は高位公職者犯罪捜査処が担当する。

機関主な役割所属検事の直接捜査公訴庁起訴の可否の決定,公訴維持,令状請求,補充捜査・再捜査の要求等法務部行わない重大犯罪捜査庁法律で定める重大犯罪等の直接捜査,検事の要求を受けた補充捜査行政安全部検事ではなく捜査官が担当警察一般の刑事事件の捜査行政安全部の外局である警察庁等検事ではなく司法警察職員が担当高位公職者犯罪捜査処法律で定める高位公職者犯罪の捜査等独立した捜査機関同処の検事が法律上の権限を担当
第3 刑事手続は2026年10月2日にどう変わるか
1 検事の直接捜査権はなくなる

2026年8月4日公布の改正刑事訴訟法は,検事の捜査を定める196条を削除する。
検事が被疑者を取り調べて証拠を収集する従来の直接捜査は,2026年10月2日以後の制度では予定されていない。

もっとも,検事が捜査結果を受け取って機械的に起訴するだけになるわけではない。
同法195条2項は,検事が人権擁護のため,令状請求,補充捜査要求,及び再捜査要求等の職務を行うと定めている。

2 告訴・告発の提出先は司法警察官になる

改正刑事訴訟法237条は,告訴又は告発を書面又は口頭で司法警察官に行うものとする。

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人身傷害保険金請求訴訟の訴状作成チェックリスト―管轄,当事者,請求原因,保険金計算,既払金及び保険代位(AI作成)

目次第1 最初に作る三つの表1 契約・当事者表2 支払時系列表3 損害・保険金計算表第2 管轄と当事者1 管轄は保険契約上の金銭請求として確認する2 原告となる者を確定する3 被告の表示を確認する第3 請求原因の骨格1 保険契約2 保険事故と被保険者該当性3 損害と保険金額4 保険金請求と支払期限第4 人身傷害保険金と賠償金の順序1 人傷先行2 賠償先行3 死亡事故と素因減額第5 提出証拠チェックリスト1 契約関係2 事故・損害関係3 既払・代位関係第6 訴状の最終点検1 請求の趣旨と計算が一致しているか2 二重控除と控除漏れがないか3 電子提出用データを分けておく第7 関連する記事1 人身傷害保険の請求順序2 訴状提出の操作第8 出典と確認範囲1 法令・裁判例等2 実務資料と限界

人身傷害保険金の請求では、交通事故の損害額を計算するだけでは足りない。誰のどの契約に基づく請求か、事故時に適用される約款はどれか、被保険者及び保険金請求権者は誰か、加害者側の賠償金等がいつ、誰に、どの費目について支払われたかを整理する必要がある。

訴状作成では、①保険契約、②被保険者、③保険事故、④損害額、⑤約款上の保険金計算、⑥既払金、⑦支払期限、⑧保険代位を別々の欄で確認すると、請求原因の抜けと計算の二重控除を見つけやすい。本記事は、その確認順序と提出資料を説明する。

第1 最初に作る三つの表
1 契約・当事者表

保険証券だけでなく、契約申込書、更新案内、変更届、普通保険約款及び特約を揃える。契約者、記名被保険者、被保険自動車、運転者、事故時の搭乗者、保険金請求権者及び原告候補を一つの表にする。

死亡事故では、被保険者本人の保険金請求権を誰が相続したか、約款上の死亡保険金請求権者が別に定められていないかを確認する。未成年者、成年被後見人、法人名義車両又は家族所有車両では、契約者と被保険者を混同しない。

2 支払時系列表

事故日から提訴日までについて、治療費の一括対応、自賠責保険金、任意対人賠償金、人身傷害保険金、労災給付その他の給付を、支払日、支払者、受領者、名目、対象期間及び対象費目ごとに並べる。

医療機関へ直接支払われた治療費も含める。単に「既払金合計」とせず、元本と遅延損害金のどこへ充当されるか、保険代位の対象となるかを分けて検討する。

3 損害・保険金計算表

次の三段階を混ぜないことが重要である。

段階計算対象主な確認資料①民法上の損害治療費、休業損害、慰謝料、後遺障害逸失利益等診療録、診断書、収入資料、裁判基準の計算書②加害者への賠償請求過失相殺、素因減額、既払金等を反映した額過失資料、医学資料、支払一覧③人身傷害保険金約款所定の損害額基準、限度額、控除条項等を反映した額事故時約款、特約、保険会社の計算書

人身傷害保険金は、裁判所が認定する損害額と常に一致するわけではない。事故時の約款が「裁判上の請求」又は判決・和解等について特別の計算条項を置くかも確認する。

第2 管轄と当事者
1 管轄は保険契約上の金銭請求として確認する

人身傷害保険金請求は、通常、保険会社に対する保険契約上の金銭請求である。被告保険会社の普通裁判籍、義務履行地、約款の合意管轄条項及び請求額による事物管轄を確認する。

事故現場があるという理由だけで、その土地の裁判所に保険金請求の管轄が当然に生じるとは限らない。加害者に対する不法行為損害賠償請求を併合する場合は、各請求の管轄と併合の可否を別に検討する。

2 原告となる者を確定する

原告欄には、約款上の保険金請求権者を記載する。保険契約者であることだけで当然に請求権者になるとは限らない。被保険者本人、相続人、法定代理人、破産管財人等のうち誰が権利を行使するかを、戸籍、登記事項証明書、審判書その他の資格資料で裏付ける。

相続人が複数いる場合は、請求権の帰属、相続分、遺産分割又は共同訴訟の要否を検討する。死亡保険金請求権の性質は約款文言により異なるため、一般論だけで相続財産と決めない。

3 被告の表示を確認する

保険証券の会社名が現在の商号と一致するか、合併又は商号変更がないかを法人番号公表サイト及び登記事項証明書等で確認する。代理店又は事故受付窓口を被告としない。

第3 請求原因の骨格
1 保険契約

契約日、保険期間、保険種類、証券番号、記名被保険者、被保険自動車、保険金額及び人身傷害条項・特約の組込みを特定する。訴状の別紙として、適用約款と特約の版、条項名及び必要な定義を整理すると分かりやすい。

「現在の約款」ではなく、事故日に適用されていた約款を提出する。更新前後、車両入替え、運転者範囲又は記名被保険者の変更があれば、その効力発生日も確認する。

2 保険事故と被保険者該当性

事故日時、場所、事故態様、運転・搭乗・歩行中等の別、受傷又は死亡結果を記載する。被保険者の範囲を、契約車両搭乗中、他車搭乗中、歩行中等の約款区分に当てはめる。

警察資料、交通事故証明書、実況見分調書、車両写真、ドライブレコーダー、診療録等により、事故と傷害との因果関係を示す。対象外事故又は免責事由が争われる可能性があるときは、否認を予想して関連事実と証拠を準備する。

(続きを読む...)人身傷害保険金請求訴訟の訴状作成チェックリスト―管轄,当事者,請求原因,保険金計算,既払金及び保険代位(AI作成)

交通事故の債務不存在確認訴訟―症状固定前の提訴と被害者側の対応(AI作成)

目次第1 結論の要旨第2 債務不存在確認訴訟とは1 加害者側から提起する訴訟2 確認の利益第3 確認の利益に関する裁判例1 東京高裁平成4年7月29日判決2 東京地裁平成9年7月24日中間判決3 東京高裁平成23年8月4日判決4 東京高裁平成28年11月2日判決第4 症状固定前に提訴された場合第5 被害者側の対応1 原告と訴訟物を確認する2 症状経過と医療資料を整理する3 反訴その他の手続選択第6 加害者側が提訴前に確認すること第7 出典
第1 結論の要旨

交通事故の加害者又は保険会社から被害者に対して、損害賠償債務が存在しないこと又は一定額を超えて存在しないことの確認を求める訴訟が提起されることがある。これを債務不存在確認訴訟という。
責任の有無又は損害額について現実の争いがあり、訴訟外の交渉では解決していない場合には、加害者側にも法律関係の不安定を解消する利益があるため、原則として確認の利益が認められる。もっとも、損害が流動的・未確定の段階での提訴、加害者側の著しく不誠実な交渉態度又は専ら被害者を困惑させる目的による提訴等では、確認の利益が否定される余地がある。

症状固定前の提訴であるという一事だけで、直ちに訴えが却下されるわけではない。東京高裁平成4年7月29日判決は、症状が固定していない場合には確認の必要性が問題となり得る一方、加害者側が被害者の言い分を正確に把握できず、訴訟で損害を確定する必要がある場合もあるとした。東京高裁平成28年11月2日判決は、症状固定の有無について原告に主張立証の機会を与えないまま訴えを却下した原判決を、審理不尽として取り消した。
被害者側では、誰が、どの債務の不存在確認を求めているかを最初に確認し、症状経過、通院、検査予定及び事故との因果関係を医療資料に基づいて整理する必要がある。

第2 債務不存在確認訴訟とは
1 加害者側から提起する訴訟

通常の交通事故訴訟では、被害者が原告となり、加害者等に損害賠償を請求する。債務不存在確認訴訟では、立場が逆になり、加害者側が原告となって、被害者に対する損害賠償債務が存在しないこと又は一定額を超えて存在しないことの確認を求める。
被害者が訴訟を提起しないまま多額の請求を維持している場合等に、加害者側が法律関係を確定させるために利用するものである。

2 確認の利益

確認の訴えが適法であるためには、判決によって現在の権利又は法律関係の不安定を除去する必要性・実効性がなければならない。交通事故の債務不存在確認訴訟では、被害者が当該債権を主張しているか、責任又は損害額に現実の争いがあるか、判決によって紛争を抜本的に解決できるかが問題となる。
確認の利益は、提訴時だけでなく、口頭弁論終結時の状態で判断される。被害者が反訴として損害賠償を請求した場合、債務不存在確認請求がどの範囲でなお必要かも整理される。

第3 確認の利益に関する裁判例
裁判例事案判断の要点東京高裁平成4年7月29日人身事故。被害者欠席の第1回口頭弁論で原審が訴えを却下責任・損害額に争いがあれば原則として確認の利益を肯定。必要な釈明・審理をせず却下した原判決を取消し東京地裁平成9年7月24日物損事故。休車損害額の交渉が1年以上続いたが合意できず原則肯定。ただし損害未確定、不誠実な交渉、困惑目的等で権利濫用となる場合は不適法となり得る東京高裁平成23年8月4日自賠責保険会社が被害者に直接請求権に基づく債務の不存在確認を請求被害者が保険会社に対する当該債権を主張していないため確認の利益を否定東京高裁平成28年11月2日被害者が脳脊髄液減少症の検査予定を主張。原審が送付嘱託を却下して訴えを却下症状固定等を主張立証する機会を原告に与えず却下したのは審理不尽として原判決を取消し、差戻し
1 東京高裁平成4年7月29日判決

東京高裁平成4年7月29日判決(平成4年(ネ)第1316号、判例タイムズ809号215頁、判例秘書L04720249)は、交通事故による責任の有無、損害額及び過失割合等に争いがあり、訴訟外で解決の見込みがない場合には、被害者が訴訟を提起しないことによる法律関係の不安定を除去するため、加害者側から債務不存在確認を求めることが許されるとした。
他方、症状が未固定で損害が拡大する余地がある場合、被害者から何ら請求されていない場合又は誠意ある協議が続いている場合には、確認の必要性・利益が問題となり得るとも述べた。ただし、それらの事情があれば直ちに確認の利益を否定するのではなく、当事者に主張立証の機会を与えて審理する必要があるとした。

2 東京地裁平成9年7月24日中間判決

東京地裁平成9年7月24日中間判決(平成8年(ワ)第643号、判例タイムズ958号241頁、判例秘書L05230238)は、物損事故の休車損害額について1年以上交渉しても双方の主張に隔たりが残った事案で、確認の利益を肯定した。
同判決は、責任又は損害額に争いがあれば特段の事情がない限り確認の訴えを許す一方、①被害が流動的・未確定の時期の提訴、②加害者側の著しく不誠実な交渉態度により訴訟外解決ができなかった場合、③専ら被害者を困惑させる動機による提訴等で権利濫用となる場合には、確認の利益を否定し得ると整理した。

3 東京高裁平成23年8月4日判決

東京高裁平成23年8月4日判決(平成23年(ネ)第3128号・第4581号、交通民集44巻4号851頁、判例秘書L06620757)は、自賠責保険会社が被害者に対し、自賠法16条1項の直接請求権に基づく支払債務が存在しないことの確認を求めた事案である。
同判決は、債務不存在確認訴訟には、被告が当該債権の存在を主張していることが必要であり、債権の要件事実の一つに争いがあるだけでは足りないとした。被害者は保険会社に対する当該直接請求権があるとは主張していなかったため、確認の利益がないとされた。
加害者本人の損害賠償債務と、自賠責保険会社に対する直接請求権は別の権利関係であるから、「誰が原告で、どの債務の不存在確認を求めているか」を区別する必要がある。

4 東京高裁平成28年11月2日判決

東京高裁平成28年11月2日判決(平成28年(ネ)第3199号、自保ジャーナル1990号62頁、判例秘書L07120895)は、被害者が脳脊髄液減少症の可能性を指摘され、専門医の検査を予定していると主張した事案である。
原審は、加害者側が申し立てた診療記録の送付嘱託を却下し、2回の口頭弁論で審理を終結して、確認の利益を欠くとして訴えを却下した。東京高裁は、既に治癒又は症状固定を一応推認させる証拠が提出されており、加害者側には、医療記録等に基づき、事故による脳脊髄液減少症の発症可能性がないことを主張立証する余地があったとして、主張立証の機会を与えないまま却下したのは審理不尽であると判断した。

第4 症状固定前に提訴された場合

症状固定は、治療を続けても症状の改善が見込みにくく、損害を算定する基礎となる状態が定まった時点をいう。症状固定前には、治療費、休業損害、通院慰謝料及び後遺障害の有無・程度が確定していないため、一度の判決で紛争を解決できるかが問題になる。

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1筆の土地の一部を保全する処分禁止仮処分-土地全部を対象とできる場合(最高裁令和5年10月6日決定)

◯本記事はAIを利用して作成し,裁判所が公表する決定全文,現行の民事保全法及び裁判所の手続案内を確認して手直ししたものです。
◯以下の記事も参照してください。
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情
・ 令和5年度最高裁民事破棄判決等の実情-19判決・8決定の一覧と代表判例(AI作成)

目次

第1 問題の所在
第2 最高裁令和5年10月6日決定

1 事案と原審判断
2 最高裁の原則
3 特段の事情がある場合

第3 申立て・審理で確認すべき事項
第4 決定の射程と注意点
第5 まとめ
第6 出典と確認範囲

第1 問題の所在

本記事は,土地の一部を対象とする登記請求権の保全に関する個別の最高裁決定を解説するものです。処分禁止の仮処分の目的,仮差押えとの違い,登記の効力と申立て前の確認事項は,処分禁止の仮処分とはで説明しています。

1筆の土地の一部分について所有権移転登記請求権を有する者が,その権利を保全するために処分禁止の仮処分を申し立てる場合,仮処分の対象は原則としてその一部分です。

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双方連続不出頭による訴え取下げ擬制-民訴法263条後段と期日の延期(最高裁令和5年9月27日決定)

◯本記事はAIを利用して作成し,裁判所が公表する決定全文及び現行の民事訴訟法を確認して手直ししたものです。
◯以下の記事も参照してください。
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情
・ 令和5年度最高裁民事破棄判決等の実情-19判決・8決定の一覧と代表判例(AI作成)

目次

第1 問題の所在
第2 民訴法263条の仕組み
第3 最高裁令和5年9月27日決定

1 事案の経過
2 原審の判断
3 最高裁の判断

第4 決定の射程
第5 訴訟代理人の提出前・期日前チェック
第6 まとめ
第7 出典と確認範囲

第1 問題の所在
当事者双方が口頭弁論又は弁論準備手続の期日に連続して出頭しなかった場合,民事訴訟法263条後段により,訴えの取下げがあったものとみなされることがあります。

では,2回目の期日に裁判所が審理継続の必要があるとして期日を延期し,新たな期日を指定した場合はどうなるのでしょうか。最高裁判所令和5年9月27日第三小法廷決定(令和4年(許)第21号)は,期日の延期・続行措置がとられたというだけで同条後段の適用が当然に排除されるわけではないことを示しました。

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平賀書簡事件とは―長沼ナイキ訴訟への札幌地裁所長の書簡,札幌地裁の厳重注意,最高裁の注意処分及び訴追委員会の判断(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 時系列第3 長沼ナイキ訴訟と執行停止決定1 事件の係属2 昭和44年8月22日の執行停止決定3 執行停止決定のその後第4 平賀書簡と平田メモ1 決定告知日の延期をめぐる協議2 8月14日の書簡3 8月4日の平田メモ4 福島裁判長による書簡の開示第5 札幌地裁の臨時裁判官会議と厳重注意1 9月13日の臨時裁判官会議2 テレビ放映・新聞掲載と決議内容の発表第6 最高裁判所の注意処分と所信1 注意処分と東京高裁への異動2 最高裁の所信3 注意処分の根拠と「干渉」についての説明4 石田長官の記者会見についての書籍の記述第7 国会と法曹界の受け止め1 昭和44年10月9日の衆議院法務委員会2 飯守重任鹿児島地裁所長の寄稿3 大津事件との対比をめぐる議論第8 裁判官訴追委員会の判断1 訴追請求2 昭和45年10月19日の決定第9 福島裁判官に対する注意処分とその後1 国による忌避の申立て2 札幌高裁の注意処分3 辞意の表明と撤回4 札幌地裁の注意処分5 法律時報への寄稿第10 日弁連の決議と「司法の危機」1 日弁連臨時総会の決議2 札幌弁護士会の裁判官アンケート3 青年法律家協会をめぐる問題への広がり第11 長沼ナイキ訴訟の結末1 札幌地裁昭和48年9月7日判決2 札幌高裁昭和51年8月5日判決3 最高裁昭和57年9月9日判決第12 関連記事第13 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 国会会議録4 公的資料5 文献6 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,昭和44年に札幌地裁の平賀健太所長が長沼ナイキ訴訟の担当裁判長に書簡を届けた,いわゆる平賀書簡事件の経過と,その後の処分及び影響を時系列で整理する。
事実関係は,国会会議録,裁判所ウェブサイトに掲載された決定・判決,裁判官訴追委員会の公表資料及び日本弁護士連合会の決議で確認できる範囲で記載した。
書籍の記述は,出典を示して補足的に紹介した。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。

2 結論

①昭和44年8月14日,平賀健太札幌地裁所長は,長沼ナイキ訴訟の執行停止申立事件を担当していた福島重雄裁判長の官舎に,事件についての自らの見解を記した書簡を届けた(平賀書簡)。
②これに先立つ8月4日には,事件の合議体に加わっていない平田浩判事にも,平賀所長からメモが渡されていた(平田メモ)。
③札幌地裁は8月22日に保安林解除処分の効力を停止する決定をし,9月13日の臨時裁判官会議で平賀所長に対する厳重注意を決定した。
④最高裁は,9月20日の臨時裁判官会議の決定に基づいて平賀所長を注意し,同日東京高裁判事に異動させ,書簡の交付は「節度を越えるもの」であるとする所信を公表した。
⑤もっとも,最高裁の事務当局は,国会で,平賀書簡は裁判に干渉したものとは考えないと説明した。
⑥裁判官訴追委員会は,昭和45年10月19日,平賀裁判官を不訴追とし,書簡の写しを東京の裁判官らに送るなどした福島裁判官を訴追猶予とした。
⑦札幌高裁は同月28日に福島裁判官を注意し,札幌地裁の裁判官会議も同年11月7日に福島裁判官を注意した。
⑧日弁連は,同年12月19日の臨時総会で,訴追委員会の決定と,札幌高裁の注意処分及びこれを支持する最高裁の態度を批判する決議をした。
⑨本案の長沼ナイキ訴訟は,札幌地裁昭和48年9月7日判決で保安林の指定解除処分が取り消されたが,札幌高裁昭和51年8月5日判決で訴えが却下され,最高裁昭和57年9月9日判決で上告が棄却された。

第2 時系列
年月日出来事昭和44年7月7日農林大臣が長沼町の国有保安林の指定解除を告示し,同日,住民らの取消訴訟及び執行停止申立事件が札幌地裁に係属昭和44年8月4日平賀所長が平田判事にメモを渡す(平田メモ)昭和44年8月10日所長官舎での協議で,8月10日から16日までの週には執行停止事件の決定を告知しないことで話がまとまる昭和44年8月14日平賀所長が書簡を福島裁判長の官舎に届ける(平賀書簡)昭和44年8月22日札幌地裁が保安林解除処分の効力を停止する決定昭和44年8月27日札幌地裁本庁の裁判官9名が臨時裁判官会議の招集を求める方向で相談昭和44年9月13日札幌地裁の臨時裁判官会議が平賀所長に対する厳重注意を決定昭和44年9月14日・15日書簡がテレビで放映され,翌朝の新聞に全文が掲載され,札幌地裁が決議内容を発表昭和44年9月20日最高裁が平賀所長を注意し,東京高裁判事に補する昭和44年10月9日衆議院法務委員会で最高裁が経過を説明昭和44年10月23日福島裁判官に対する訴追請求(新聞報道による)昭和45年1月23日札幌高裁が執行停止決定を取り消し,申立てを却下昭和45年5月7日札幌地裁が国による福島裁判長の忌避申立てを却下(同年7月10日に札幌高裁が抗告を棄却)昭和45年10月19日訴追委員会が平賀裁判官を不訴追,福島裁判官を訴追猶予とする昭和45年10月28日札幌高裁が裁判官会議の議決に基づき福島裁判官を注意昭和45年11月7日札幌地裁の裁判官会議が福島裁判官を注意昭和45年12月19日日弁連臨時総会が訴追委員会の決定等を批判する決議昭和48年9月7日札幌地裁が本案で保安林の指定解除処分を取り消す判決昭和51年8月5日札幌高裁が本案の一審判決を取り消し,訴えを却下昭和57年9月9日最高裁が上告を棄却
第3 長沼ナイキ訴訟と執行停止決定
1 事件の係属

昭和44年10月9日の衆議院法務委員会で,矢口洪一最高裁判所長官代理者は,事件の経過を次のように説明した。
農林大臣は,昭和44年7月7日,北海道夕張郡長沼町の馬追山付近にある約35ヘクタールの国有保安林について,高射教育訓練施設とするために保安林の指定を解除する告示をした。
これに対し,長沼町の住民173名が,農林大臣を被告として解除処分の取消しを求める本案訴訟を起こすとともに,処分の執行停止を申し立て,これらの事件は同日札幌地裁に係属した。
事件は札幌地裁の民事第一部に係属し,担当の裁判官は福島重雄裁判長,木谷明裁判官及び石川善則裁判官であった。
国は7月22日に意見書を提出し,住民側は8月1日に反論書を提出した。
矢口洪一最高裁判所長官代理者は,担当の裁判部で執行停止事件の決定をする段取りになったのは8月10日前後であったと説明した。

2 昭和44年8月22日の執行停止決定

札幌地方裁判所昭和44年8月22日決定(昭和44年(行ク)第11号)は,主文で,農林省告示第1023号による保安林解除処分の「効力を停止する。」とした。
同決定は,自衛隊の憲法適合性について,「少なくとも、自衛のために必要かつ相当な限度内にとどまるものであれば、いかなる軍事力も憲法の右条項にいう『戦力』にあたらないとすることには疑問があり」とした。

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ロッキード事件の嘱託証人尋問と最高裁判所の「不起訴宣明」―昭和51年の裁判官会議から最大判平成7年2月22日まで(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 嘱託証人尋問に至る経緯1 刑事訴訟法226条に基づく証人尋問の請求2 検事総長と東京地方検察庁検事正の宣明3 ファーガソン判事の命令第3 最高裁判所の対応1 昭和51年7月14日の裁判官会議と職員の派遣2 検事総長の第二次宣明3 昭和51年7月24日の裁判官会議と宣明書4 米国の裁判所による解除と調書の送付第4 宣明書の法的性格1 最高裁判所刑事局長の答弁2 国会での疑問と法務省の答弁3 控訴審判決の判断第5 最高裁判所大法廷平成7年2月22日判決1 判決の概要2 宣明の経緯についての判示3 証拠能力を否定した理由4 大野正男裁判官の補足意見5 判決後の国会の質疑第6 平成28年改正による刑事免責制度1 刑事訴訟法157条の2・157条の32 昭和51年の措置との対比第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 国会会議録4 文献5 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,ロッキード事件の捜査で行われた米国在住の証人に対する嘱託証人尋問について,昭和51年に最高裁判所が裁判官会議の決議に基づいて「最高裁判所宣明書」を出した経緯と,最高裁判所大法廷平成7年2月22日判決がその嘱託証人尋問調書の証拠能力を否定するまでを整理する。
経緯は,国会会議録の答弁,同判決及びその控訴審である東京高等裁判所昭和62年7月29日判決の判文,並びに東京高等裁判所平成17年2月9日判決の別紙に掲載された最高裁判所裁判官会議の議事録(開示部分)によって確認した。
山本祐司『最高裁物語(下巻)』の記述は,帰属を明示して補足に用いた。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。

2 結論

①東京地方検察庁の検察官は,昭和51年5月22日,刑事訴訟法226条に基づく証人尋問を東京地方裁判所の裁判官に請求し,その裁判官が米国の裁判所に証人尋問を嘱託した。
②検事総長と東京地方検察庁検事正は,証人らを刑事訴訟法248条により起訴猶予とする旨の宣明書を発したが,米国の連邦地方裁判所の判事は,日本国の最高裁判所のオーダー又はルールが提出されるまで証言調書を伝達してはならないと命じた。
③最高裁判所は,昭和51年7月14日の裁判官会議でこの命令の真意を調査することとし,事務総局刑事局第二課長と刑事局付の2名を米国に出張させた。
④最高裁判所は,同月24日の裁判官会議で,検事総長の確約が将来にわたり検察官によって遵守され,証人らが公訴を提起されることはないことを宣明する書面を米国の連邦地方裁判所に送付することを決定した。
⑤当時の最高裁判所刑事局長は,国会で,この宣明書を裁判所法12条に基づく司法行政上の措置と説明し,受訴裁判所の裁判を拘束するものではないと答弁した。
⑥控訴審の東京高等裁判所昭和62年7月29日判決は,最高裁判所の宣明は事実認識を明らかにしたにすぎないもので,裁判所法12条による司法行政権の行使として許容される範疇の行為であるとした。
⑦最高裁判所大法廷平成7年2月22日判決は,検事総長らの宣明によっていわゆる刑事免責が付与されたものと解した上で,刑事訴訟法は刑事免責の制度を採用していないとして嘱託証人尋問調書の証拠能力を否定したが,これを除いても犯罪事実を認定できるとして被告人2名の上告を棄却した。
⑧その後,平成28年法律第54号による刑事訴訟法の改正で,裁判所の決定により証言等を証人に不利益な証拠とすることができないこととする刑事免責の制度(157条の2・157条の3)が設けられた。

第2 嘱託証人尋問に至る経緯
1 刑事訴訟法226条に基づく証人尋問の請求

昭和51年10月15日に衆議院ロッキード問題に関する調査特別委員会で行われた法務大臣の中間報告によれば,同年3月24日に法務省と米国司法省との間で,関係資料を捜査,調査及び裁判のみに使用し,秘密保持を厳守すること,相互に司法共助の実現に最善の努力をすること等を内容とする司法取り決めが締結された。
同報告によれば,東京地方検察庁は,米国在住の関係人の任意の取調べを試みたが,関係人がこれを拒否したため,「五月二十二日刑事訴訟法二百二十六条に基づく起訴前の証人尋問を東京地方裁判所裁判官に請求し、同裁判官の嘱託決定を得て、検事二名を米国に派遣するなど右嘱託尋問の実現に鋭意努力をしました。」とされている。
刑事訴訟法226条は,「犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる者が、第二百二十三条第一項の規定による取調に対して、出頭又は供述を拒んだ場合には、第一回の公判期日前に限り、検察官は、裁判官にその者の証人尋問を請求することができる。」と定める。
同法228条1項は,この請求を受けた裁判官は,証人の尋問に関し,「裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。」と定めている。

最高裁判所大法廷平成7年2月22日判決によれば,この請求は,被告人B外2名に対する贈賄及び氏名不詳者数名に対する収賄等を被疑事実とし,当時米国に在住していた証人らに対する証人尋問を,国際司法共助として同国の管轄司法機関に嘱託するよう求めるものであった。
嘱託先は,同判決では「カリフォルニア州中央地区連邦地方裁判所」,最高裁判所の裁判官会議の議事録では「中部カリフォルニア合衆国連邦地方裁判所」と表記されている。
国会の質疑では,証人はコーチャン,クラッター及びエリオットの3名とされている。

2 検事総長と東京地方検察庁検事正の宣明

東京高等裁判所昭和62年7月29日判決によれば,証人らが嘱託証人尋問の際も自己負罪拒否特権を行使して証言を拒否することが予想されたため,検事総長は昭和51年5月20日に,東京地方検察庁検事正は同月22日に,それぞれ宣明書を発した。
検事総長の宣明書は,「右各証人の証言内容及びこれに基づき将来入手する資料中に、仮に、日本国の法規に抵触するものがあるとしても、証言した事項については、右証人三名を日本国刑事訴訟法二四八条によって起訴を猶予するよう東京地方検察庁検事正に指示している。この意思決定は、当職の後継者を拘束するものである。」という趣旨のものであった。
東京地方検察庁検事正の宣明書も,同じ証人3名を同条によって起訴猶予とし,「この意思決定は、当職の後継者を拘束するものである。」という趣旨のものであった。
同判決によれば,東京地方裁判所の裁判官は,嘱託書に,検察官が起訴を猶予する意思がある旨を証人に告げた上で尋問されたいと希望しているので,「貴国国内法において許容される範囲内で右希望に添う措置をとるよう要請する。」旨を付記した。

(続きを読む...)ロッキード事件の嘱託証人尋問と最高裁判所の「不起訴宣明」―昭和51年の裁判官会議から最大判平成7年2月22日まで(AI作成)

裁判所ウェブサイトの裁判例のURL―令和7年9月のリニューアル,旧形式リンクの読み替え方及び判決書原本との記載の違い(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 令和7年9月のリニューアル1 裁判所の告知2 リニューアルから1年後の状況第3 新しいURLの形式1 詳細画面2 全文PDF3 旧形式との対応第4 検索画面の使い方1 六つのカテゴリー2 事件番号と裁判年月日3 全文検索4 掲載された判決等の加工第5 判決書原本との記載の違いに関する報告書1 報告書の概要2 調査の結果3 利用上の注意第6 関連記事第7 出典・参考資料1 裁判所の公表資料2 裁判例3 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索に掲載された判決・決定について,令和7年9月24日のウェブサイトのリニューアル後のURLの形式,リニューアル前の形式のリンクを新しい形式に読み替える方法,検索画面の使い方及び掲載された判決等の記載に関する注意点を整理するものである。
URLの応答は,令和8年9月27日に,ログインしない状態の通常のアクセスで確認した。
裁判所の公表資料は,同日に裁判所ウェブサイトで確認した。

2 結論

①裁判所ウェブサイトは令和7年9月24日にリニューアルされ,裁判所は,トップページ以外の一部のURLが変更になり,一定期間は主なページについて旧URLから新URLへ自動的に転送されると告知した。
②令和8年9月27日現在,裁判例の詳細画面は https://www.courts.go.jp/hanrei/(番号)/detail2/index.html,全文PDFは https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-(番号).pdf の形式である。
③リニューアル前の形式の詳細画面(/app/hanrei_jp/detail2?id=(番号))と全文PDF(/app/files/hanrei_jp/(下3桁)/(6桁の番号)_hanrei.pdf)は,同日に確認したところ,いずれも表示されなかった(HTTPステータス404)。
④旧形式の全文PDFのリンクは,6桁の番号から先頭の0を除いた番号を新形式に当てはめることで,同じ裁判例の全文PDFに読み替えることができた。
⑤ただし,読み替える前に,その番号がリンクを張った文章で紹介している裁判例と一致しているかを,新形式の詳細画面の裁判年月日・法廷名・事件番号で確かめる必要がある。
⑥最高裁判所事務総局は,令和7年7月,裁判所ウェブサイト及び最高裁判所民事・刑事判例集に掲載された判決等と判決書原本との記載の違いに関する報告書を公表しており,古い年代の判決等を一字一句引用するときは,この点にも注意を要する。

第2 令和7年9月のリニューアル
1 裁判所の告知

令和7年9月24日に裁判所ウェブサイトのお知らせ一覧に掲載された「裁判所ウェブサイトをリニューアルしました」のページは,ウェブサイトをリニューアルしたと告知している。
同ページによれば,今回のリニューアルでは,「裁判所ウェブサイト」,「知的財産高等裁判所ウェブサイト」及び「裁判員制度ウェブサイト」の三つのサイトが統合され,トップページのURLに変更はないものの,知的財産高等裁判所ウェブサイト及び裁判員制度ウェブサイトのURLが変更になったほか,裁判所ウェブサイトについてもトップページ以外の一部URLが変更になった。
同ページは,リニューアル後一定期間は,主なページについては,旧URLにアクセスした場合にも自動的に新URLのページに転送されるため閲覧は可能であるが,ブラウザの「お気に入り」等に登録されている場合には新URLへの登録変更をお願いするとしている。

2 リニューアルから1年後の状況

令和8年9月27日に確認したところ,旧形式の検索画面のURL(/app/hanrei_jp/search1)は,新形式の検索画面(/hanrei/search1/index.html)へ転送された。
これに対し,旧形式の詳細画面及び全文PDFのURLは転送されず,404となった。
知的財産高等裁判所の旧サイトのドメイン(www.ip.courts.go.jp)上の旧形式の全文PDFは,www.courts.go.jp/ip/ 以下の同じ形式のURLに転送されたが,転送先は404であった。
ブログや書面等に旧形式のリンクを残している場合は,リンク切れになっていることになる。

第3 新しいURLの形式
1 詳細画面

裁判例の詳細画面は,https://www.courts.go.jp/hanrei/(番号)/detail2/index.html の形式で表示される。
本記事の確認範囲では,同じ番号について,検索結果の種類に応じて detail2 から detail8 までの詳細画面が用意されており,例えば,最高裁判例として表示されるものは detail2,下級裁裁判例は detail4,行政事件裁判例は detail5,労働事件裁判例は detail6,知的財産裁判例は detail7,知財高裁裁判例は detail8 のリンクになっていた。
また,detail3 は,高等裁判所判例集の形式の詳細画面であった。
令和8年9月28日に,最高裁判所2件,高等裁判所,知的財産高等裁判所及び地方裁判所2件の計6件の番号について detail1 から detail9 までを開いたところ,いずれの番号でも detail2 から detail8 までが表示され,detail1 と detail9 は表示されなかった(HTTPステータス404)。
detail2 から detail8 までの違いは検索結果の種類に応じた表示形式の違いとみられ,確認した6件では,裁判所の種類を問わず detail2 で詳細画面を開くことができた。

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民事訴訟の当事者が死亡したとき―訴訟手続の中断・受継,訴訟代理人がいる場合,中断中の判決と控訴期間(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 当事者の死亡と訴訟手続の中断1 中断と受継の条文2 中断は法律上当然に生じる3 相続の対象にならない権利と人事訴訟第3 訴訟代理人がいる場合1 中断しない2 訴訟代理人は承継人の代理人になる3 中断しない理由と例外4 上訴には特別の委任が要る5 上訴の特別の委任もある場合第4 受継の手続1 相続の放棄をすることができる間は受け継げない2 受継の申立てと裁判所の調査3 相続放棄と受継決定の当否4 判決の送達後に中断した場合第5 中断中の判決と控訴期間1 中断中は期間が止まる2 判決の言渡しは中断中でもできる3 中断を見落としてされた判決4 死亡を知ったときに確かめること第6 関連記事第7 出典・参考資料1 裁判例2 法令3 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,民事訴訟の係属中に原告又は被告が死亡した場合に,訴訟手続がどうなるかを整理する。
具体的には,訴訟手続の中断と受継,訴訟代理人がいる場合の扱い,相続の放棄との関係,中断中の判決と控訴期間,中断を見落としてされた判決の是正方法を扱う。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で書誌を確認し(同サイトに掲載のない高等裁判所の判決は判例秘書で確認した。),判例秘書で判決の本文を読んだものに限って紹介している(範囲は第7の3のとおり)。

2 結論

①訴訟代理人がいない当事者が死亡すると,訴訟手続は法律上当然に中断し,相続人等が訴訟手続を受け継ぐ(民事訴訟法124条1項1号)。
②訴訟代理人がいる間は,当事者が死亡しても訴訟手続は中断せず(同条2項),訴訟代理人は,その審級では相続人等の訴訟代理人として訴訟を続ける。
訴訟代理人が上訴の特別の委任も受けていた事案で,判決の送達後も訴訟手続は中断せず,控訴期間の経過で判決が確定したと認定した上で,その判決の既判力が相続人に及ぶとした高等裁判所の判決がある。
③相続人は,相続の放棄をすることができる間は,訴訟手続を受け継ぐことができない(同条3項)。
④受継の申立ては相手方もすることができ,裁判所は,申立てに理由があるかを職権で調べる。
⑤中断中は,控訴期間を含む期間の進行が止まり,受継の通知又は続行の時から新たに全期間が進行する(同法132条2項)。
⑥判決の言渡しは中断中でもすることができる(同条1項)が,中断を見落として口頭弁論期日を開き,弁論を終結して判決を言い渡すことは法令違反であり,最高裁判所は,旧民事訴訟法の下で,上告審でそのような判決を破棄している。
⑦離婚訴訟のような人事訴訟(人事訴訟法27条)や,未支給年金の支払を求める訴訟(第2の3)のように,当事者の死亡によって訴訟そのものが終了する場合がある。

第2 当事者の死亡と訴訟手続の中断
1 中断と受継の条文

民事訴訟法124条1項は,各号の事由があるときは訴訟手続は中断し,各号に定める者が訴訟手続を受け継がなければならないと定める。
当事者の死亡について,同項1号は,受け継ぐべき者を「相続人、相続財産の管理人、相続財産の清算人その他法令により訴訟を続行すべき者」としている。
中断の間に口頭弁論期日を開いて手続を進めることは,法令違反となる(第5の3)。

2 中断は法律上当然に生じる

中断は,裁判所の決定を待たずに生じる。
最高裁判所第三小法廷平成19年3月27日判決(第7の1①)は,外国国家の代表権の消滅による中断について,「訴訟手続の中断は,中断事由の存在によって法律上当然に生ずるもの」であると述べている。
そのため,裁判所や相手方が死亡を知らないまま手続が進むと,後で手続のやり直しが必要になることがある(第5の3)。

3 相続の対象にならない権利と人事訴訟

相続人は,相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するが,被相続人の一身に専属したものは承継しない(民法896条)。
訴訟の対象が相続される権利義務であれば,相続人が訴訟手続を受け継ぐことになる。

最高裁判所第三小法廷平成7年11月7日判決(第7の1⑤)は,昭和60年改正前の国民年金法に基づく年金の受給資格を有する者が国に対して未支給年金の支払を求める訴訟の係属中に死亡し,その子が訴訟手続の受継を申し立てた事案である。
同判決は,未支給年金の請求は相続とは別の立場から一定の遺族に認められたものであり,遺族は社会保険庁長官に対する支給請求とこれに対する処分を経ないで訴訟上未支給年金を請求することはできないとして,原告の地位の当然承継を認めなかった。

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民事裁判で公開されない手続と公開停止―弁論準備手続の傍聴,裁判所外の尋問,当事者尋問等の公開停止及び記録の閲覧制限(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 公開が求められる範囲1 憲法82条と民事訴訟法2 公開が求められるのは純然たる訴訟事件の裁判第3 口頭弁論の公開停止1 憲法82条2項と裁判所法70条2 公開を禁止した口頭弁論の記録3 ウェブ会議による口頭弁論と公開第4 当事者尋問等の公開停止1 人事訴訟法22条2 特許法105条の7等3 最高裁判所の補足意見と文献4 秘密保持命令との違い第5 口頭弁論以外の手続1 弁論準備手続2 書面による準備手続3 進行協議期日4 和解5 裁判所外の証拠調べと受命裁判官等による尋問6 文書提出命令のインカメラ手続7 決定で完結すべき事件第6 家事事件と非訟事件第7 公開の法廷で行う尋問での保護の措置第8 記録の閲覧制限との違い第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 国会会議録4 参考文献5 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,民事裁判のうち,公開の法廷で行われない手続と,公開の法廷で行う審理を例外的に公開しない制度(公開停止)を整理する。
依頼者から「裁判は誰でも傍聴できるのか」「家族や会社の担当者は期日に同席できるのか」「私生活上の秘密や営業秘密を公開の法廷で話さなければならないのか」と尋ねられたときに確認すべき条文と判例をまとめている。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認し,最高裁判所規則は裁判所ウェブサイトに掲載された条文で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイト又は判例秘書で判決・決定の全文を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①憲法82条1項は,裁判の対審及び判決を公開法廷で行うと定め,民事訴訟法は,訴訟について裁判所で口頭弁論をしなければならないとし(87条1項本文),口頭弁論の公開の規定に違反したことを上告の理由としている(312条2項5号)。
②最高裁判所の大法廷は,憲法82条にいう裁判は,当事者の主張する実体的権利義務の存否を終局的に確定することを目的とする純然たる訴訟事件についての裁判のみを指すとしている。
③口頭弁論の対審は,裁判官の全員一致で公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には公開しないで行うことができるが,判決を言い渡すときは再び公衆を入廷させなければならない。
ウェブ会議による口頭弁論についても,裁判官が所在する法廷を公開して行うとの国会答弁がある。
④人事訴訟,特許権・実用新案権・育成者権の侵害に係る訴訟並びに不正競争防止法及び家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律の不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟には,私生活上の重大な秘密又は営業秘密に係る事項の尋問を公開しないで行う制度(当事者尋問等の公開停止)がある。
法務大臣は,人事訴訟法案の審議で,人事訴訟において裁判の公開を困難とする真にやむを得ない事情があるなどの例外的な場合には,「公の秩序を害する虞がある」ものとして憲法上も公開停止が許容されると答弁している。
⑤弁論準備手続は,当事者双方が立ち会うことができる期日で行われ,第三者の傍聴は裁判所が許した場合に限られるが,当事者が申し出た者は,手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認められる場合を除いて傍聴を許される。
⑥書面による準備手続は当事者の出頭なしに書面の提出等で争点等を整理する手続であり,進行協議期日(民事訴訟規則95条)も口頭弁論の期日外に行われ,裁判所外の証拠調べや受命裁判官等による尋問は裁判所外で行われ,文書提出命令のインカメラ手続で提示された文書は何人も開示を求めることができない。
最高裁判所は,情報公開訴訟において本案の判断のための証拠調べとしてインカメラ審理を行うことは,明文の規定がない限り許されないとしている。
⑦決定で完結すべき事件では,口頭弁論をするか否かを裁判所が定め,家事事件と非訟事件の手続は法律上公開しないとされている。
⑧期日を公開しないことと訴訟記録の閲覧を制限することは別の制度であり,公開の法廷で審理された事件でも,秘密保護のための閲覧等の制限により,秘密が記載された部分の閲覧等を請求できる者が当事者に限られることがある。

初めて裁判所へ行く場合は,次の区別を出発点として,本記事の各条文と例外を確認されたい。予定の調べ方や傍聴券等の実際の準備は,裁判所の傍聴方法で説明している。以下の整理に関係する民事訴訟法169条2項及び家事事件手続法33条は,令和8年10月11日に現行条文を確認した。

手続一般傍聴の基本的な扱い民事の口頭弁論・判決公開が原則。公開停止や期日の種類を確認する。弁論準備手続一般に自由傍聴できる手続ではない。裁判所の許可と当事者が申し出た者の取扱いを確認する。家事調停・審判非公開。裁判所が相当と認める者に傍聴を許す制度は別にある。事件記録の閲覧・謄写期日の傍聴とは別の制度。記録の種類,申請者及び閲覧制限を確認する。
第2 公開が求められる範囲
1 憲法82条と民事訴訟法

憲法82条1項は,「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」と定める。
民事訴訟法は,当事者は訴訟について裁判所において口頭弁論をしなければならないとし(87条1項本文),口頭弁論の公開の規定に違反したことを上告の理由の一つとしている(312条2項5号)。
このため,公開が問題となる中心は口頭弁論と判決の言渡しである。

最高裁判所大法廷平成元年3月8日判決(レペタ事件)は,憲法82条1項の趣旨を「裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある」とした。
同判決は,同項が「各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまでを認めたものでないことはもとより」,傍聴人がメモを取ることを権利として保障するものでもないとしている。
同判決は,裁判の公開を,傍聴人の個別の権利としてではなく,制度として保障されるものと位置付けている。

2 公開が求められるのは純然たる訴訟事件の裁判

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電子署名法3条の推定とは―民事訴訟法228条4項との関係,立会人型電子署名のQ&A及び立証の実務(AI作成)

目次第1 本記事の対象と基準日1 対象2 基準日と資料第2 条文の構造1 電子署名法3条の文言2 「電子署名」の定義3 民事訴訟法228条4項との対応第3 3条の推定が働くための要件1 3条Q&Aが示す2つの要件2 固有性の要件3 本人の意思に基づくこと第4 立会人型の電子契約サービスの位置付け1 どのようなサービスか2 2条の電子署名に当たるための条件3 3条の電子署名に当たるための条件4 「符号及び物件」の適正な管理第5 訴訟で成立の真正が争われたときの立証1 利用者と作成名義人の同一性2 身元確認の水準とサービスの選択3 推定以外の立証手段4 実務上の留意点5 契約成立日,文書の真正及び権限を区別する第6 認定認証業務との関係第7 出典1 法令2 公的資料3 文献4 裁判例
第1 本記事の対象と基準日
1 対象

本記事は,電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号。以下「電子署名法」という。)3条が定める電磁的記録の真正な成立の推定について,条文の構造,民事訴訟法228条4項との関係,いわゆる立会人型(事業者署名型)の電子契約サービスに関する政府のQ&A,及び訴訟で成立の真正が争われたときの立証の考え方を整理するものである。
紙の契約書では,本人の署名又は押印があれば文書が真正に成立したものと推定されるが,電子契約では,どのような電子署名があれば同じような推定が働くのかが問題になる。

2 基準日と資料

本記事の調査基準日は令和8年9月26日であり,法令の条文はe-Gov法令検索で同日に確認した。
令和8年10月3日に,契約成立日を扱った東京地裁令和8年1月20日判決を判例秘書で追加確認し,第5に契約成立・文書の真正・権限の区別を追記した。
電子契約サービスについては,総務省・法務省・経済産業省が令和2年9月4日に公表し,デジタル庁・法務省が令和6年1月9日に一部改定した「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(以下「3条Q&A」という。)の原文による。
電子署名法3条の推定の成否を判断した裁判例は,令和8年9月28日に裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認した範囲では見当たらなかった。
メールアドレス認証による電子署名がされた契約書について,判例秘書で本文を確認した東京地方裁判所令和7年7月28日判決(令和5年(ワ)第30803号)は,名義人本人がそのメールアドレスを使って署名したかという事実を認定して,主たる債務者側と連帯保証人とで結論を分けている。
この判決と,保証人に電子署名をしてもらうときの実務は,電子契約で保証人に署名してもらうときの注意点で扱っている。

第2 条文の構造
1 電子署名法3条の文言

電子署名法3条は,「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」と定めている。
推定の対象は,公務員が職務上作成したものを除く電磁的記録であり,推定が働くための前提は,本人による電子署名であって,本人だけが行うことができることとなるものが行われていることである。

2 「電子署名」の定義

電子署名法2条1項は,「電子署名」を,電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって,「当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。」及び「当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。」の2つの要件のいずれにも該当するものと定義している。
3条の電子署名は,この2条1項の電子署名に当たることを前提に,さらに「本人だけが行うことができることとなるもの」に限定されている。
電子署名法1条は,同法の目的として,電子署名に関し,電磁的記録の真正な成立の推定,特定認証業務に関する認定の制度その他必要な事項を定めることを掲げている。

3 民事訴訟法228条4項との対応

民事訴訟法228条1項は,「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。」と定め,同条4項は,「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と定めている。
電子署名法の法律案を内閣法制局第四部長として審査した山本庸幸元内閣法制局長官は,回想録の中で,同法3条を民事訴訟法228条4項のいわばデジタル版として置いたと説明している(山本庸幸『元内閣法制局長官・元最高裁判所判事回想録』(弘文堂,令和6年)265頁~266頁)。
押印された私文書について,印影が本人の印章によるものであれば本人の意思に基づく押印と事実上推定され,その上で228条4項の推定が働くという「二段の推定」については,二段の推定とはで扱っている。

令和8年5月21日に施行された民事訴訟法231条の3第1項は,電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べ(同法231条の2)について,「第二百二十条から第二百二十八条まで(同条第四項を除く。)」の規定を準用するとしている。
したがって,電子契約のデータを電磁的記録として証拠調べする場合には,228条4項の推定は準用されず,電子署名法3条の推定が働くかどうかと,民事訴訟法247条による自由な心証での判断が問題になる。

第3 3条の推定が働くための要件
1 3条Q&Aが示す2つの要件

3条Q&A問1は,電子署名法3条の規定が適用されるためには,次の2つの要件が満たされる必要があるとしている。
①電子文書に電子署名法3条に規定する電子署名が付されていること。

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最高裁判所判事の裁判以外の職務―裁判官会議,長官所長会同,憲法週間の視察,外国出張,判例委員会及び宮中行事(AI作成)

目次第1 本記事の概要1 対象とする職務2 資料と基準日第2 裁判官会議と司法行政1 法的根拠2 開催の頻度と所要時間3 議題の中心4 原案が了承されやすい構造5 席次第3 長官所長会同1 出席者と日程2 判事の関与3 懇親会と裁判官会同第4 憲法週間の視察1 割振りの方法2 視察先で行うこと3 経費と行程4 視察後の報告第5 外国出張1 頻度と用務2 支援体制3 報告と配偶者の同行第6 判例委員会その他の委員会1 判例委員会2 図書館委員会と最高裁判所図書館3 その他の委員会第7 長官代行と皇室会議1 長官代行2 皇室会議3 長官が欠けた期間第8 宮中行事1 認証式と就任の挨拶2 年間の行事と出席の範囲3 天皇へのお話と午餐第9 日常の執務と庁内の行事1 一日の流れ2 裁判官室の体制3 庁内の会食4 就任と退官の行事第10 処遇と経費の規律第11 三つの回想から分かること1 司法行政への関与の実際2 時期による違い3 資料の限界第12 出典・参考資料1 法令2 文献3 国会会議録第13 関連記事
第1 本記事の概要
1 対象とする職務

最高裁判所判事の職務の中心は,上告事件,上告受理申立て事件及び抗告事件の審理である。
他方,裁判所法12条1項により,最高裁判所が行う司法行政事務は裁判官会議の議によるものとされているため,判事は,裁判官会議の構成員として司法行政にも関与する。
このほか,判事は,長官所長会同への出席,下級裁判所の視察,外国出張,各種委員会の委員,宮中行事への出席など,裁判以外の職務も担っている。

本記事は,最高裁判所判事を務めた3人の著作又は講演録を突き合わせ,こうした裁判以外の職務の実際を整理するものである。
持ち回り審議,期日審議,判例集登載等の審理の方式は「宇賀克也『管見 最高裁判所』から分かる最高裁判所の審理」で扱ったので,本記事では必要な範囲でのみ触れる。

2 資料と基準日

本記事が用いる資料は,次の3点である。
いずれの著者も,在任中は第三小法廷に所属していた。

資料著者の出身在任期間藤田宙靖『最高裁回想録―学者判事の七年半』(有斐閣,2012年)行政法学者平成14年9月30日から平成22年4月5日まで田原睦夫「最高裁生活を振り返って」金融法務事情1978号6頁~36頁(平成25年)弁護士平成18年11月1日から平成25年4月22日まで宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)行政法学者平成31年3月20日から令和7年7月20日まで

在任期間は,藤田宙靖『最高裁回想録―学者判事の七年半』(有斐閣,2012年)3頁,田原睦夫「最高裁生活を振り返って」金融法務事情1978号(平成25年)6頁及び宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)2頁の記載による。
田原氏の講演録は,平成25年7月13日に行われた講演を基に加筆・修正したものであり,本文は6頁~32頁,別表は33頁~36頁に掲載されている(田原・前掲6頁)。
以下,各資料は「藤田・前掲」「田原・前掲」「宇賀・前掲」と略し,頁は各資料に印刷された頁で示す。

これらは,いずれも一人の判事が在任中に見聞きしたことの回想である。
在任時期が異なるため,同じ事項でも運用が変わっている部分があり,本記事ではその都度時期を示して並べる。
法令の規定は令和8年9月26日にe-Gov法令検索で確認したが,回想に記載された運用は,最高裁判所の公表資料で一つ一つ裏付けたものではない。

第2 裁判官会議と司法行政
1 法的根拠

裁判所法12条1項は,「最高裁判所が司法行政事務を行うのは、裁判官会議の議によるものとし、最高裁判所長官が、これを総括する。」と定め,同条2項は,裁判官会議が全員の裁判官で組織され,長官がその議長となることを定めている。
同法13条は,最高裁判所の庶務を掌らせるために事務総局を置き,同法53条2項は,最高裁判所事務総長が長官の監督を受けて事務総局の事務を掌理することを定める。
したがって,法律上の決定主体は15人の裁判官から成る裁判官会議であり,事務総局はそれを補佐する組織である。
裁判官会議の規程,議事録及び事前検討の仕組みは「最高裁判所裁判官会議」で,事務総長の地位は「最高裁判所事務総長とは」で説明している。

2 開催の頻度と所要時間

藤田氏の在任当時,裁判官会議は原則として毎週水曜日の午前10時30分から,裁判官棟4階の会議室で開かれ,事務総長,秘書課長及び議題を担当する局長が同席していた(藤田・前掲31頁)。
会議の時間は通常30分から1時間程度で,議題がないとして取りやめになることもあったという(藤田・前掲33頁)。

宇賀氏の在任当時も,裁判官会議は原則として毎週1回開かれ,議題がないために開かれないことが年に数回あった(宇賀・前掲100頁)。
事務総長と秘書課長は必ず出席し,人事案件がほぼ毎回議題となるため,人事局長も常に出席して説明していたとされる(宇賀・前掲100頁~101頁)。
案件が多いと1時間ほど,議題以外の出張報告等が続くと1時間半以上かかることもあった(宇賀・前掲102頁)。

(続きを読む...)最高裁判所判事の裁判以外の職務―裁判官会議,長官所長会同,憲法週間の視察,外国出張,判例委員会及び宮中行事(AI作成)

宇賀克也『管見 最高裁判所』から分かる最高裁判所の審理―事件の分配,持ち回り審議,期日審議,口頭弁論及び判例集登載(AI作成)

目次

第1 本書の概要と本記事の範囲1 書誌と著者2 本書の構成3 本記事の範囲と出典の区別第2 事件の分配と調査官1 小法廷への機械的な分配2 最高裁判所調査官第3 審議の方式1 持ち回り審議2 軽審議3 期日審議4 案文審議第4 個別意見1 個別意見の種類と表示義務2 起案・審議・記載の順序3 共同で執筆する個別意見第5 上告受理と不受理(要点)1 受理の判断要素2 不受理決定の意味第6 大法廷1 回付の要件と違憲判断の要件2 在任中の大法廷事件と「小法廷の壁」第7 口頭弁論と判決の言渡し1 口頭弁論を開くかどうか2 口頭弁論期日の運営3 判決の言渡しと口頭弁論の配信第8 判例集・裁判集と判例委員会1 登載の決定と判例委員会2 判例集登載と裁判集登載の差3 判決の公開と民事裁判情報のデータベース化第9 最高裁判事の構成と国民審査1 出身別の構成の慣行2 国民審査の課題と著者の提言第10 第2部の個別意見38件1 第2部の構成と意見の種別2 38件の一覧第11 出典第12 関連記事
第1 本書の概要と本記事の範囲
1 書誌と著者
(1) 書誌

宇賀克也『管見 最高裁判所』は,有斐閣が2026年に刊行した書籍であり,はしがきの日付は2026年3月,奥付の発行日は同年5月30日(初版第1刷)である。
著者は,最高裁判所の情報はキャリア裁判官の方が多く持っているという自覚などから,書名を「管見」としたと説明している(宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)2頁)。

(2) 著者

著者は,宇賀克也最高裁判所判事(当時。令和7年7月定年退官)である。
本書によれば,著者は,平成31年2月22日の閣議決定を経て,約41年間勤務した東京大学を同年3月19日に退職し,翌20日の認証を受けて最高裁判所判事に就任した(宇賀・前掲2頁)。
その後,令和7年7月20日に定年退官しており,在任期間は6年4か月である(宇賀・前掲2頁)。
在任中は第三小法廷に所属し,在任期間の後半の約3年間は同小法廷で最も早く着任した最先任裁判官を務めた(宇賀・前掲10頁,78頁)。

2 本書の構成
(1) 第1部「管見最高裁判所」

第1部(1頁~116頁)は,就任前後の経緯(第1章),最高裁判所における審議(第2章),最高裁判所を構成する人と組織(第3章)及び裁判以外の活動(第4章)を扱い,本記事が主に取り上げるのは第2章と第3章の前半である。
著者は,裁判は公権力の行使であって説明責任を伴うという考えを示した上で,評議の秘密に触れない範囲で,在任中に見聞きした最高裁判所の運用を記述している(宇賀・前掲3頁~6頁)。

(2) 第2部「個別意見」

第2部(117頁~370頁)は,著者が最高裁判所判事として付した個別意見38件を,憲法,行政法,民事実体法,労働法,民事訴訟法関係及び刑事法の分野に分けて収録している。
各項目は,事案の概要,決定・判決の要旨,個別意見の本文及び著者による解説の順に構成されている(宇賀・前掲118頁以下)。
著者は,判例集登載判例について担当調査官が書く解説は調査官の受け止めであって,個別意見を書いた裁判官の真意と一致する保証はないから,意見を書いた本人が趣旨を敷衍する方が有意義であると考えたことを,第2部を設けた理由として挙げている(宇賀・前掲5頁~6頁)。

3 本記事の範囲と出典の区別

本記事は,本書第1部のうち最高裁判所の審理に関する部分を手続の順に整理し,第2部の個別意見38件を一覧にしたものであり,生成AIを用いて作成した。
第1部の記述の多くは,著者が主として第三小法廷で経験した運用であって公表資料で裏付けられるものではないため,本記事では出所が本書であることを示し,著者の意見や提言は運用の説明と区別して記載する。
条文は令和8年9月25日にe-Gov法令検索で確認した現行の条文により,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で書誌を確認したものに限って記載した。
最高裁判所規則である民事訴訟規則及び最高裁判所裁判事務処理規則はe-Gov法令検索に収録されていないため,これらの条項は本書の記載によるものとして示す。
本記事で示す本書の頁は,いずれも本書に印字された頁である。

第2 事件の分配と調査官
1 小法廷への機械的な分配
(1) 受付順の分配と分配比

本書によれば,著者の在任中の新受件数は毎年1万件を超えており,令和6年は民事・行政事件7838件,刑事事件3855件の合計1万1693件であった(宇賀・前掲12頁~13頁)。

事件は,専門分野によらず,最高裁判所での受付順に第一,第二,第三小法廷へと機械的に分配される(宇賀・前掲14頁)。

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上告不受理決定は原判決を正しいと認めたことになるか―受理の判断要素,軽審議及び反対意見付きの不受理(AI作成)

目次第1 本記事の概要1 結論2 資料と基準日第2 上告受理申立て制度の仕組み1 上告と上告受理申立ての違い2 申立ての期間と理由書3 上告審の調査範囲第3 最高裁判所の審理の流れ1 約95%は持ち回り審議で処理される2 第三小法廷の軽審議3 期日審議第4 受理・不受理の判断要素1 条文上の要件2 宇賀氏が挙げる七つの判断要素3 判断の機が熟していないことを理由とする不受理4 経験則違反・採証法則違反による受理第5 不受理決定の意味と読み方1 不受理決定は原審判断を是認したものではない2 不受理決定に反対意見を付けることをめぐる議論3 反対意見付きの不受理の件数と令和3年の表記変更第6 受理決定と論旨の排除・職権調査1 受理決定での論旨の一部排除2 申立て理由に書かれていない誤りは取り上げられない3 職権調査事項は申立て理由に拘束されない4 条約違反の主張の扱い第7 口頭弁論期日の指定の意味1 口頭弁論が開かれる場合2 棄却見込みでも弁論を開く運用3 期日指定後の和解・取下げ第8 代理人・当事者の実務上の留意点1 理由書では七つの判断要素に即して重要性を示す2 拾ってほしい誤りはすべて論旨にする3 依頼者への説明第9 出典1 法令2 裁判例3 文献第10 関連記事
第1 本記事の概要
1 結論

上告不受理決定は,最高裁判所が原判決の判断を正しいと認めたことを意味するものではない。
不受理決定は,上告受理の申立ての理由に「法令の解釈に関する重要な事項」を含むとは認められないとして,最高裁判所が事件に介入しないことを示すものにとどまる。
宇賀克也最高裁判所判事(当時。令和7年7月定年退官)も,著書で,原審の判断に問題があると考えつつ介入するほどではないとして不受理とされることや,判断の機が熟していないことを理由に不受理とされることがあると説明している(宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)35頁~36頁)。

本記事は,上告受理の申立てをした当事者,申立てを受けた相手方及びその代理人を読者として想定し,①上告受理申立て制度の条文上の仕組み,②最高裁判所の内部での審理の流れ,③受理・不受理の判断要素,④不受理決定の意味と反対意見付きの不受理,⑤受理決定での論旨の排除と職権調査,⑥口頭弁論期日の指定の意味,⑦依頼者への説明を含む実務上の留意点を順に説明する。
本記事は,AIを用いて作成したものである。

2 資料と基準日

条文は,令和8年9月25日にe-Gov法令検索で確認した民事訴訟法及び裁判所法の現行条文による。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で書誌を確認し,判決文は同サイト掲載の全文PDFから引用した。

最高裁判所の内部の運用については,宇賀氏の前掲書に依拠する。
同氏は,平成31年3月に最高裁判所判事に就任し,令和7年7月に定年退官するまで第三小法廷に所属していた(宇賀・前掲2頁,10頁)。
内部の運用は公的資料では裏付けられないため,本記事では,本書に依拠する部分を「宇賀氏は……と述べている」などの形で示し,条文や判決文から確認できる事項と区別する。
本書が説明する運用は,著者の在任期間中のもの,特に第三小法廷のものであり,他の小法廷や現在の運用が同じであるとは限らない。

第2 上告受理申立て制度の仕組み
1 上告と上告受理申立ての違い
(1) 上告の理由は憲法違反と絶対的上告理由に限られる

高等裁判所の判決に対して最高裁判所に不服を申し立てる方法には,上告と上告受理の申立ての二つがある。
民事訴訟法312条1項は,「上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。」と定める。
同条2項は,判決裁判所の構成の違法,代理権の欠缺,判決の理由不備・理由の食違い等の事由(いわゆる絶対的上告理由)を掲げる。
最高裁判所への上告では,単なる法令違反は上告の理由にならない。

(2) 上告受理は最高裁判所の裁量による

上告受理申立ては,すべての法令違反を審査させる制度ではない。判例相反その他の法令解釈に関する重要な事項を含む事件について,最高裁判所に受理を求める制度である。
民事訴訟法318条1項は,「上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。」と定める。
同条2項は,上告受理の申立てにおいては「第三百十二条第一項及び第二項に規定する事由を理由とすることができない。」と定めており,憲法違反・絶対的上告理由は上告で主張し,それ以外の法令違反は,判例相反又は法令解釈上の重要性を備える場合に上告受理申立ての対象となる。
条文は「受理することができる」と定めており,受理するかどうかは最高裁判所の判断に委ねられている。
宇賀氏も,受理のハードルは高く,大半の申立ては不受理になると述べている(宇賀・前掲32頁)。

2 申立ての期間と理由書
(1) 申立ては2週間の不変期間内にする

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配当を受けた債権者に不当利得返還請求はできるか―抵当権者と一般債権者で結論が分かれる最高裁判例と配当異議(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論の要旨第2 配当の手続と配当異議の条文1 配当表の作成2 配当異議の申出3 配当異議の訴えと1週間の期間4 担保不動産競売への準用第3 抵当権者は不当利得返還請求ができる―最高裁平成3年3月22日判決1 判示2 理由第4 一般債権者は不当利得返還請求ができない―最高裁平成10年3月26日判決1 判示2 理由3 二つの判決の比較第5 配当異議の手続で注意すべき点1 配当表に記載されていない者―最高裁平成6年7月14日判決2 訴え提起の証明―最高裁平成6年12月6日判決3 受益者の返還義務の範囲第6 当事者ごとの確認事項1 抵当権者2 一般債権者3 配当表に記載されなかった債権者4 配当を受けた債権者第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
(1) 問題となる場面

不動産の競売手続では,配当期日に配当表が作成され,これに基づいて各債権者に配当が実施される。
ところが,実際には債権を持っていない者や,優先権がないのに優先して扱われた者が配当を受けてしまうことがある。
配当期日に異議を述べなかった債権者が,配当が終わった後に,配当を受けた者に対して自分が受け取るはずだった分の返還を求めて不当利得返還請求をすることができるかが問題となる。
本記事は,この問題について,抵当権者と一般債権者とで結論が分かれた二つの最高裁判所の判決を中心に,配当異議の手続とあわせて整理する。

(2) 本記事の資料と基準日

調査基準日は令和8年9月25日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文により,裁判例は裁判所ウェブサイトに全文が掲載された最高裁判所の判決により確認した。
強制執行や配当要求と消滅時効の関係は,強制執行・財産開示手続と時効の完成猶予・更新―差押えの了知不要,申立ての取下げ及び配当要求で扱っている。

2 結論の要旨

①配当表に記載された債権又は配当の額に不服のある債権者及び債務者は,配当期日において配当異議の申出をすることができる(民事執行法89条1項)。
配当異議の申出をした債権者は配当異議の訴えを提起しなければならず,配当期日から1週間以内に訴えを提起したことを執行裁判所に証明しないと,配当異議の申出は取り下げたものとみなされる(同法90条1項・6項)。
②抵当権者は,配当期日に配当異議の申出をしなかった場合でも,債権又は優先権を有しないのに配当を受けた債権者に対して,その者が配当を受けたことによって自己が配当を受けることができなかった金銭相当額の返還を請求することができる(最高裁平成3年3月22日判決)。
③これに対し,配当期日に配当異議の申出をしなかった一般債権者は,配当を受けた他の債権者に対して,自己が配当を受けることができなかった額に相当する金員の不当利得返還請求をすることができない(最高裁平成10年3月26日判決)。
④平成10年判決は平成3年判決に言及していないが,両判決の理由付けを対比すると,抵当権者が抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有するのに対し,一般債権者は特定の執行の目的物について優先弁済を受けるべき実体的権利を有しておらず,他の債権者が配当を受けたというだけでは民法703条の「損失」が生じたとはいえないことが,結論の違いにつながっていると考えられる。
⑤配当表に債権者として記載されなかった者は,配当異議の訴えを提起する原告適格を有しないとされている(最高裁平成6年7月14日判決)。
⑥配当異議の訴えを提起したことの証明は,配当異議の申出をした者が自らの責任において,法定の期間内に執行裁判所に対してする必要がある(最高裁平成6年12月6日判決)。

第2 配当の手続と配当異議の条文
1 配当表の作成

民事執行法85条1項は,執行裁判所は,配当期日において,同法87条1項各号に掲げる各債権者について,その債権の元本及び利息その他の附帯の債権の額,執行費用の額並びに配当の順位及び額を定めると規定している。
同条2項は,「執行裁判所は、前項本文の規定により配当の順位及び額を定める場合には、民法、商法その他の法律の定めるところによらなければならない。」と定め,同条5項は,これらの事項が定められたときは,裁判所書記官が配当期日において配当表を作成しなければならないとしている。
同法84条1項は,「執行裁判所は、代金の納付があつた場合には、次項に規定する場合を除き、配当表に基づいて配当を実施しなければならない。」と定めている。

2 配当異議の申出

民事執行法89条1項は,「配当表に記載された各債権者の債権又は配当の額について不服のある債権者及び債務者は、配当期日において、異議の申出(以下「配当異議の申出」という。)をすることができる。」と定めている。
同条2項は,「執行裁判所は、配当異議の申出のない部分に限り、配当を実施しなければならない。」と定めている。
配当異議の申出がなければ,その部分は配当表のとおりに配当が実施されることになる。

3 配当異議の訴えと1週間の期間

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訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備え(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 訴訟告知の要件と方式1 誰が誰に告知できるか2 告知書の記載3 告知の時期第3 告知の効力―参加的効力1 条文2 既判力とは異なる効力3 効力が及ぶ理由中の判断の範囲4 法律上の利害関係がなければ効力は生じない5 効力が及ばない場合(46条各号)6 既判力と参加的効力の比較第4 効力はどちらの向きに働くか第5 訴訟告知を検討する場面1 敗訴すると第三者へ請求することになる場合2 共同被告との関係3 告知だけでは相手に対する債務名義にならない第6 法律が訴訟告知を義務付けている場面第7 訴訟告知を受けた側の対応第8 告知書を出す前の確認事項第9 本記事で扱わなかった事項第10 関連記事第11 出典
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,民事訴訟の当事者が,訴訟の係属中に第三者へ訴訟告知をするのはどのような場合か,告知をするとどのような効力が生じるかを扱う。
典型は,敗訴した場合に第三者へ求償又は損害賠償を請求することになる当事者が,後の訴訟で同じ事実を一から争われないようにするために告知をする場面である。

当初の調査基準日は令和8年9月25日であり,第4の援用の方向について令和8年10月4日に公開資料に基づく修正をした。
条文はe-Gov法令検索の現行条文を,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で全文を確認した最高裁判例を用いた。
前の訴訟の判決を後の訴訟でどう使うか(既判力,裁判上の自白及び証拠価値)は別件判決・先行訴訟の準備書面は後訴でどう使われるかで,補助参加の具体例は遺言無効確認請求訴訟における公証人の証言の取扱い及び公証人の補助参加で扱っている。

2 結論

①訴訟告知は,当事者が,訴訟の係属中に,その訴訟に参加することができる第三者に対してするものであり,理由及び訴訟の程度を記載した書面を裁判所に提出してする(民事訴訟法53条1項・3項)。
②告知を受けた者が参加しなかった場合も,参加することができた時に参加したものとみなされ,補助参加人に対する裁判の効力を受ける(同法53条4項,46条)。
③この効力は既判力ではなく,判決の確定後に,補助参加人(告知を受けた者)が被参加人(告知をした者)に対して,その判決が不当であると主張することを禁ずる効力である。
判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の判断にも及ぶ(最高裁昭和45年10月22日判決)。
④もっとも,効力が及ぶ理由中の判断は,判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などに限られ,傍論には及ばない。
また,告知を受けた者が訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合でなければ,効力は生じない(最高裁平成14年1月22日判決)。
⑤既判力は当事者等の間に生じるもので(同法115条1項),同じ原告から訴えられた共同被告どうしの間には当然には生じない。
後で求償や損害賠償を請求する相手との関係は,前の訴訟の段階で手当てを考える必要がある。
⑥債権者代位訴訟,詐害行為取消訴訟及び株主代表訴訟では,法律が訴訟告知を義務付けている(民法423条の6,424条の7第2項,会社法849条4項)。

第2 訴訟告知の要件と方式
1 誰が誰に告知できるか

民事訴訟法53条1項は,「当事者は、訴訟の係属中、参加することができる第三者にその訴訟の告知をすることができる。」と定める。
告知をするのは訴訟の当事者であり,告知を受けるのは,その訴訟に参加することができる第三者である。
訴訟告知を受けた者は,更に訴訟告知をすることができる(同条2項)。

「参加することができる第三者」の中心は,補助参加をすることができる者である。
補助参加は,「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」が,当事者の一方を補助するためにする参加である(同法42条)。
最高裁平成14年1月22日判決は,ここにいう法律上の利害関係を有する場合とは,「当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合」をいうとしている(同判決は最高裁平成13年1月30日決定を参照している。)。
単に事実上又は経済上の影響を受けるというだけでは足りない。

2 告知書の記載

訴訟告知は,その理由及び訴訟の程度を記載した書面を裁判所に提出してしなければならない(民事訴訟法53条3項)。
「理由」には,告知を受ける者がなぜその訴訟に参加することができるのか,すなわち,その訴訟の判決が告知を受ける者のどの法的地位に影響するのかを具体的に書く。

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請求の追加・変更で裁判上の自白はどうなるか―主要事実・間接事実・不利益要件・自白の撤回(AI作成)

目次第1 結論第2 裁判上の自白の対象と効果第3 請求の追加・変更で事実の役割が変わる第4 先行自白と不利益要件第5 自白の撤回が許される場合第6 実務上の主張整理第7 出典と調査範囲

第1 結論

ある事実を認めた時点では請求原因と直接関係しない間接事実であっても、その後に請求が追加又は変更されると、新しい請求の主要事実になることがある。この場合、以前の陳述が新しい請求との関係でも裁判上の自白として拘束力を持つかが問題となる。

結論を出すには、①いつ、どの手続で、どの文言を陳述したか、②陳述時と請求追加後の各訴訟物・要件事実、③相手方がその陳述を援用したか、④裁判上の自白に「陳述時に自己に不利益であること」を必要とするか、⑤相手方が証明不要との信頼を形成したか、⑥撤回原因があるかを順に確認する。

単に「一度認めたから撤回できない」とも、「当時は間接事実だったから自由に撤回できる」とも即断できない。事実の同一性、陳述の訴訟上の意味及び相手方の手続的信頼を具体的に分析する必要がある。

第2 裁判上の自白の対象と効果

民事訴訟法179条は、裁判所において当事者が自白した事実は証明を要しないと定めている。一般に、裁判上の自白が成立すると、相手方はその事実を証明する必要がなくなり、裁判所も当事者間に争いのない主要事実として扱う。

対象は具体的な事実である。法律関係の存否、法的評価、証拠の信用性に関する意見又は単なる抽象的評価は、それ自体として自白の対象にならない。陳述を切り取らず、準備書面の前後、認否の対象となった相手方の主張、期日調書及び釈明応答を併せて読む。

また、主要事実についての自白と、間接事実又は補助事実を認める陳述は区別される。間接事実についての陳述は証拠評価を拘束しないのが原則であるが、後に訴訟構造が変われば、同一の具体的事実が新請求の要件事実になることがある。

第3 請求の追加・変更で事実の役割が変わる
1 陳述時の位置付け

まず、従前の請求について訴訟物と要件事実を特定し、問題の事実が主要事実、間接事実又は背景事情のいずれであったかを確認する。答弁書で「認める」と記載されていても、何を認めたのかが抽象的であれば、自白の対象となる具体的事実を特定できない場合がある。

2 請求追加後の位置付け

次に、追加された請求の法律要件を分解し、以前に認めた事実がどの要件を基礎付けるかを示す。例えば、当初は契約上の請求だけが審理されていたところ、後に不法行為請求が追加されると、行為主体、故意・過失又は因果関係に関する事実の重要性が変わり得る。

3 事実の同一性

以前の陳述と相手方が新請求で援用する事実が本当に同一かを確認する。「関与した」「了承した」「受領した」などの表現は、時期、対象、行為態様及び認識内容を欠くことがある。新請求の要件事実として必要な具体性を備えなければ、以前の抽象的陳述をそのまま自白とすることはできない。

4 請求追加の時点

請求追加前に陳述が撤回されたか、相手方が援用する前か後か、裁判所が争いのない事実として整理したかを時系列で確認する。請求追加と同時に認否を整理し直す機会が与えられたかも重要である。

第4 先行自白と不利益要件

相手方が主張する前に、自らある事実を陳述し、後に相手方がこれを援用する場合は先行自白が問題となる。裁判上の自白を「相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述」と捉える見解では、後の援用によって自白が成立し得る。

他方、裁判上の自白を「相手方の主張する不利益事実を争わない旨の陳述」と捉える見解では、陳述時に自己に不利益な事実として認識されず、争う対象にもなっていなかった場合に、自白の成立を否定する余地がある。

請求の追加によって初めて不利益性が生じた場合、前者は事実の同一性と相手方の援用を重視し、後者は陳述時の争点と不利益性の認識を重視することになる。どちらの立場でも、相手方が証明活動を省略したか、争点整理で争いのない事実として扱われたかは、撤回制限の根拠を考える上で重要である。

裁判所公開裁判例の中には、抽象的な「保育への関与」が過失を基礎付ける具体性を欠く間接事実にとどまり、撤回前に相手方が援用していなかったことから、自白の成立を否定した下級審判決がある。これは事案判断であり、請求追加により事実の法的役割が変わる全場面を一律に解決するものではない。

第5 自白の撤回が許される場合

司法研修所の教材は、要件事実について成立した自白の撤回が許される場合として、①相手方の同意があるとき、②自白の内容が真実に反し、かつ錯誤によってされたとき、③刑事上罰すべき他人の行為によって自白したときを挙げている。

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執行事件の地裁本庁・拠点支部への集約-不動産執行,債権執行等の状況と理由(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 不動産執行だけを扱うものではない2 結論の要点第2 「本庁集約」の法的な意味1 法定管轄の変更とは限らない2 本庁だけでなく拠点支部への集約もある第3 執行事件の種類によって取扱庁が異なる1 裁判所が扱う主要な手続2 執行官が扱う現地執行第4 現在確認できる集約の五つの型1 主要四手続を本庁へ集約する型2 不動産執行だけを集約する型3 不動産執行と債権執行を集約する型4 本庁ではなく拠点支部へ集約する型5 裁判所取扱事件を原則として全部集約する型第5 近年も集約先は変わっている1 令和7年及び令和8年の変更例2 基準日を明示して申立先を確認する必要がある第6 裁判所が明示した集約理由1 専門部による迅速かつ効率的な処理2 改善効果の説明とその限界第7 集約の実質的な背景1 事件量と人的資源の配分2 専門知識と事務処理経験の蓄積3 経費削減や支部廃止を本音と断定できない第8 司法アクセス上の不利益1 記録閲覧,書面提出及び移動の負担2 地域に残る手続とデジタル化3 大阪地裁堺・岸和田両支部についての検討第9 申立先を確認する実務上の手順1 手続名を特定して公式表を確認する2 BITだけでは債権執行等の取扱いを確認できない3 関連する裁判所組織の記事第10 出典・参考資料1 規則及び司法行政資料2 裁判所の取扱庁及び変更告知3 統計資料4 職能団体・労働組合等の資料
第1 この記事の対象と結論
1 不動産執行だけを扱うものではない

地方裁判所全体の役割と他の裁判所との違いは,地方裁判所とは―扱う事件・他の裁判所との違い・管轄の調べ方で説明している。本記事では,執行事件の種類ごとに本庁・支部の取扱いと申立先を確認する。

民事執行には,不動産に対する強制執行・担保権実行だけでなく,預貯金・給与等を対象とする債権執行,自動車執行,財産開示手続,第三者からの情報取得手続,動産執行,建物明渡し等の執行がある。本記事は,令和8年9月24日現在の裁判所の公式ウェブサイト,司法行政資料,司法統計及び弁護士会の正式な決議を基礎として,これらの執行事件が地方裁判所の本庁又は拠点となる支部へ集約されている状況と,その理由を整理するものである。
集約の範囲は全国一律ではない。管轄区域が同じように支部の区域であっても,不動産執行だけを本庁で扱う地域,不動産執行と債権執行を集約する地域,財産開示手続及び第三者からの情報取得手続まで集約する地域,これらを本庁ではなく別の拠点支部へ集約する地域がある。

2 結論の要点

裁判所が明示している集約理由は,専門部による迅速かつ効率的な処理である。札幌地方裁判所委員会では,不動産競売事件及び債権執行事件を支部から本庁へ集約した理由として,専門部で迅速かつ効率的に処理することが説明され,集約後に売却率が改善し,処理期間も短縮したと報告されている。
これを全国の支部運営に関する司法行政資料と併せて読むと,集約の実質的な背景は,少数又は変動の大きい事件を各支部へ分散させるより,裁判官,書記官及び執行部門の知識・経験を本庁又は拠点支部へ集中し,担当体制を安定させることにあると考えられる。ただし,これは公開資料から導く分析であり,裁判所が秘密の目的を公表したという意味ではない。また,経費削減や支部廃止が主目的であると裏付ける一次資料は確認できない。

第2 「本庁集約」の法的な意味
1 法定管轄の変更とは限らない

地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則3条1項は,地方裁判所がその支部で取り扱う事務を自ら処理し,又は管内の他の支部で処理させることができる旨を定めている。したがって,支部区域内の事件を本庁又は別の支部で扱う集約は,法律による裁判所の管轄区域そのものの変更ではなく,同じ地方裁判所内部における事務分配として実施されることがある。
このため,申立人が民事執行法の管轄規定だけを読んでも,実際の提出先を確定できない場合がある。対象となる所在地の地方裁判所ウェブサイトにある「管轄区域表」,「民事執行事件の取扱い」又は最新のお知らせを,手続の種類ごとに確認する必要がある。

2 本庁だけでなく拠点支部への集約もある

集約先は必ずしも地方裁判所本庁ではない。広島地方裁判所尾道支部の区域では,不動産執行,債権執行,財産開示及び第三者からの情報取得を福山支部が扱い,熊本地方裁判所人吉支部の区域では不動産執行を八代支部が扱う。神戸地方裁判所豊岡支部で扱っていた不動産競売事件等も,令和8年4月1日から姫路支部へ集約された。
したがって,「本庁集約」という語は実務上便利な略称ではあるが,正確には「本庁又は拠点支部への集約」と捉えるべきである。地域単位ではなく,地方裁判所の管内全体で専門処理体制を組み替える現象だからである。

第3 執行事件の種類によって取扱庁が異なる
1 裁判所が扱う主要な手続

裁判所の民事執行案内は,金銭執行として不動産執行,動産執行,債権執行,自動車執行等を挙げるほか,財産開示手続及び第三者からの情報取得手続を案内している。不動産競売では物件の評価,現況調査,売却手続及び配当が連続する一方,債権執行では差押命令の発令,第三債務者への送達,取立て又は配当等が中心となるため,同じ「執行事件」であっても必要な事務は異なる。
財産開示手続は,債務者を裁判所へ呼び出して財産を陳述させる手続である。第三者からの情報取得手続は,登記所,金融機関等又は市町村等から一定の財産情報を取得する手続であり,取扱庁の表では債権執行と別項目にされることが多い。

2 執行官が扱う現地執行

動産執行,建物明渡し,土地明渡し等は,執行官への申立てによって現地で実施される。裁判所の管轄区域表では,裁判所が受け付ける不動産執行や債権執行等と,執行官が取り扱う事件とが区別されている。
裁判所部門の事件を本庁へ集約しても,執行官取扱事件を地域に残す例がある。令和8年10月1日から実施される青森地方裁判所及び福島地方裁判所相馬支部の集約告知も,執行官に申し立てる動産執行事件等を集約対象から除外している。この例外は,目的物の所在地で行う現地執行には,書面審査中心の事件とは異なる地理的制約があることを示している。

第4 現在確認できる集約の五つの型
1 主要四手続を本庁へ集約する型

北海道の一部の支部区域では,不動産執行,債権執行,財産開示及び第三者からの情報取得を札幌地方裁判所本庁等で扱い,その他の民事執行事件を区域の支部で扱う。千葉地方裁判所八日市場支部の区域でも,この四手続を本庁が扱い,その他の民事執行事件は八日市場支部が扱う。
この型では,裁判所内部の審査・管理を要する代表的な手続がまとめて集約される一方,すべての執行事件が本庁へ移るわけではない。「債権執行も集約されたか」だけでなく,財産開示及び第三者情報取得の欄も別に確認する必要がある。

2 不動産執行だけを集約する型

千葉地方裁判所佐倉支部,一宮支部,木更津支部,館山支部及び佐原支部の各区域では,不動産執行を本庁が扱う一方,その他の民事執行事件は各支部が扱う。熊本地方裁判所人吉支部の区域も,不動産執行は八代支部へ集約されるが,その他の民事執行事件は人吉支部で扱う。
不動産競売は,評価人,執行官,登記,売却及び配当を含む一連の処理が必要である。専門的な担当体制をまとめる効果が大きいことが,不動産執行のみを集約する地域が存在する理由の一つと考えられる。

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争点整理後に新しい主張・証拠が出た場合―民事訴訟法157条・167条と却下申立て(AI作成)

目次

第1 結論
第2 時機に後れた攻撃防御方法の三要件
第3 「時機に後れた提出」を時系列で示す
第4 故意又は重大な過失
第5 訴訟完結の遅延を具体化する
第6 理由説明要求と提出期限徒過の説明
第7 却下申立ての書き方
第8 新主張・証拠を提出する側の対応
第9 実務チェックリスト
第10 関連記事
第11 出典と調査範囲

第1 結論

争点整理後又は口頭弁論終結に近い時期に,新しい主張・証拠が出たというだけで,当然に却下されるわけではない。民事訴訟法157条1項による却下には,①時機に後れて提出したこと,②提出者に故意又は重大な過失があること,③その提出により訴訟の完結が遅延することが必要である。

相手方としては,「もっと早く出せたはずだ」と抽象的に述べるのではなく,入手時期,従前の釈明・争点整理,提出予告,必要となる反論・反証,再尋問又は追加鑑定及び予定していた審理終結への影響を一つの時系列で示す。

準備的口頭弁論又は弁論準備手続の終結後であれば,同法167条・174条により,整理手続終了前に提出できなかった理由の説明を求めることができる。説明の拒絶又は不合理な説明は,却下を自動的に生じさせるものではないが,時機後れ又は重大な過失を認定する資料となり得る。

第2 時機に後れた攻撃防御方法の三要件

民事訴訟法157条1項は,当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法について,それにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたとき,裁判所が申立て又は職権で却下できると定める。

三要件は累積的に検討する。提出が遅く見えても,新たな証拠調べを要せず予定期日に弁論を終結できるなら,遅延要件を欠くことがある。反対に,法律構成だけの追加でも,相手方の防御のため審理続行が必要なら,攻撃防御方法として問題となり得る。

第3 「時機に後れた提出」を時系列で示す

次の時点を表にする。

主張又は証拠の基礎事実を知った時期
資料を入手できた時期
裁判所又は相手方が関連事項を指摘した時期

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訴訟中に目的物・権利を譲り受けた者への訴訟引受け―民事訴訟法50条と訴訟状態承認義務(AI作成)

目次

第1 結論
第2 民事訴訟法50条・51条の手続
第3 誰が「承継人」に当たるか
第4 紛争の主体たる地位を三段階で確認する
第5 訴訟状態承認義務(承継効)
第6 承継効の例外を検討する場合
第7 申立て前に固定する事実と証拠
第8 申立てを受けた側の反論
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論

訴訟の係属中に,目的物,権利又は義務に関係する地位が第三者へ移った場合,従前の当事者との訴訟をそのまま続けても,判決による実効的解決ができないことがある。民事訴訟法50条・51条は,一定の場合に,その第三者を訴訟へ引き受けさせる仕組みを置いている。

ただし,「紛争を一回で解決できるから」という理由だけで承継人とすることはできない。①従前の当事者を適切な当事者にしていた実体法上の地位,②その地位を第三者へ移した事実,③その地位が第三者を新たな請求の適切な当事者にする理由を順に示す必要がある。

引受け後の第三者が従前の訴訟状態にどこまで拘束されるかは,「訴訟状態承認義務」又は「承継効」の問題である。相手方が従前訴訟で得た地位の保護と,前主に与えられた主張立証機会によって承継人の手続保障を代替できるかを中心に,承継原因発生時を基準として検討する。

第2 民事訴訟法50条・51条の手続

民事訴訟法50条1項は,訴訟係属中に第三者が訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したとき,当事者の申立てにより,裁判所が決定で第三者に訴訟を引き受けさせることができると定める。裁判所は,当事者と第三者を審尋しなければならない(同条2項)。

同法51条は,義務承継人の訴訟参加について47条から49条までを,訴訟係属中に訴訟の目的である権利の全部又は一部を譲り受けた第三者への訴訟引受けについて50条を準用する。誰が申立人となり得るか,権利承継か義務承継か,引受決定後に従前当事者が残るかという手続は,具体的な申立ての種類と準用条文を確認する。

訴訟引受けは,当事者表示を単に書き換える手続ではない。引受決定を求める申立書では,係属事件,従前の請求,承継原因,承継した地位及び第三者に対する請求内容を特定する。

第3 誰が「承継人」に当たるか

「訴訟の目的である権利又は義務」を,従前の訴訟物と完全に同一の権利義務だけに限定すると,訴訟中の処分によって相手方が従前訴訟で得た地位を失う場合がある。他方,紛争に関係する第三者を広く承継人にすると,第三者の手続保障を害する。

そこで,形式的な訴訟物の同一性だけでなく,従前当事者が紛争の適切な主体であった実体法上の地位が第三者へ移り,その第三者が新たな請求の適切な相手方となったかを検討する。最高裁昭和41年3月22日第三小法廷判決は,建物収去・土地明渡訴訟の係属中に,土地賃借人が所有する建物の一部を賃借して建物部分と敷地の占有を承継した者について,旧民事訴訟法74条の承継人に当たるとした。建物所有権を取得した者の事案と混同しない。

同判決は,収去義務に退去部分が含まれること,占有承継によってその部分の紛争が第三者との間に移ること,第三者の占有の適否が従前の土地賃貸借に関する訴訟資料に依存することを理由にした。第三者への請求が土地所有権に基づく物上請求で,従前被告への請求が契約上の請求であるという相違も明示している。現在の50条を検討するときも,この判示の対象と,移転した地位・請求との対応を確認する。

第4 紛争の主体たる地位を三段階で確認する

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訴訟資料に著作物を利用する場合の著作権―複製・mints提出・引用・事件外共有を分ける(AI作成)

目次
第1 結論―一つの資料を五つの行為に分ける
第2 著作物・権利者・入手経路を確認する
第3 裁判手続のための複製
第4 mints提出と公衆送信等
第5 引用として利用する場合
第6 鑑定書・意見書と画像
第7 事件外共有・広報・研修への転用
第8 提出前チェックリスト
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論―一つの資料を五つの行為に分ける

訴状、準備書面、証拠説明書、鑑定書又は意見書に他人の論文、写真、図面、ウェブ画面等を使う場合、「裁判だから自由に使える」と一括してはいけない。少なくとも、①資料を取得する、②紙又はPDFへ複製する、③裁判所・相手方へ提出又は送信する、④法廷で表示する、⑤事件外で依頼者・関係者・研修参加者等へ共有する、という行為を分ける。

著作権法41条の2は裁判手続に必要な利用を認める重要な規定であるが、必要な限度と著作権者の利益を不当に害しないことが条件である。違法に入手した資料の取得を適法化したり、事件外の公表・二次利用を当然に許したりする規定ではない。

第2 著作物・権利者・入手経路を確認する
確認事項具体例
著作物性論文本文、写真、図表、設計図、地図、ソフト画面の創作的表現
保護されない部分単なる事実、法令、裁判所の判決そのもの、ありふれた短文
権利者著作者、勤務先、出版社、写真提供者、共同著作者
利用行為複製、公衆送信、上映・口述、譲渡、翻案
入手経路正規購入、契約DB、依頼者提供、公開ウェブ、第三者からの流出
契約条件データベース利用規約、ライセンス、秘密保持、個人情報

著作権法上利用できる場合でも、契約上の利用制限、営業秘密、個人情報、プライバシー、訴訟記録の閲覧等制限は別に検討する。

第3 裁判手続のための複製

著作権法41条の2第1項は、裁判手続のために必要と認められる場合、必要と認められる限度で著作物を複製できる旨を定める。ただし、著作物の種類・用途、複製部数・態様等に照らして著作権者の利益を不当に害する場合は除かれる。

なお、著作権法47条の6第1項2号は、41条の2の規定により著作物を利用することができる場合に、その例により行える利用の方法として「翻訳」だけを定めており、翻案を挙げていない。資料の内容を要約して書面に記載するときは、事実や論旨の要約にとどめ、原文の表現を用いる部分は引用(32条1項)として区別して示すのが無難である。

「必要」は、争点との関連性だけでなく、全文が必要か該当頁で足りるか、カラー高精細画像が必要か、提出部数が適切かという範囲にも及ぶ。証明対象、立証趣旨、必要部分を先に書き出すと、過剰な複製を避けやすい。

裁判手続のための複製は、資料を適法に取得する権利まで与えるものではない。ID・パスワードの不正使用、アクセス制御の回避、秘密情報の不正取得等は別問題である。

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行政処分の執行停止―重大な損害,緊急の必要,疎明資料及び裁判例(AI作成)

目次第1 執行停止は何を止める手続か第2 執行不停止の原則と三つの停止対象第3 申立ての要件第4 「重大な損害」の判断要素第5 申立人自身の損害と第三者の不利益第6 損害類型ごとの疎明資料第7 業務停止処分に関する高裁・最高裁の決定第8 公共の福祉と本案に理由がないとみえるとき第9 他の仮の救済との違い第10 受任直後の実務チェックリスト第11 調査範囲,出典及び関連記事

第1 執行停止は何を止める手続か

行政処分を取り消す訴訟を提起しても,それだけで処分の効力や執行は止まらない。処分が実行されると本案判決までに事業停止,資格喪失,信用毀損又は契約解約等が進む事件では,取消訴訟と同時に行政事件訴訟法25条の執行停止を申し立てる。

執行停止は本案の最終判断ではなく,取消訴訟の係属中に処分の効力,執行又は手続の続行を暫定的に止める制度である。したがって,処分書を受け取った後は,出訴期間だけでなく,処分がいつからどのように実行されるかを直ちに確認する。

第2 執行不停止の原則と三つの停止対象

行政事件訴訟法25条1項は,処分の取消しの訴えの提起が,処分の効力,処分の執行又は手続の続行を妨げないと定める。これが執行不停止の原則である。

同条2項の停止対象は,①処分の効力,②処分の執行,③手続の続行である。効力停止は,他の方法による停止では目的を達成できない場合に限られる。申立書では,何がいつ進むため,どの停止対象を選ぶのかを特定する。

第3 申立ての要件

執行停止には,適法な取消訴訟が係属していることを前提として,処分,処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があることを要する。

他方,公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき,又は本案について理由がないとみえるときは,執行停止をすることができない。実務上は,①本案訴訟の適法性,②重大な損害,③緊急の必要,④公共の福祉,⑤本案の見通しを分けて主張・疎明する。

同条5項は執行停止の決定について疎明を求める。
主張する事実と資料を対応させ,損害の重大さと,判断を得る必要がある時期を別に説明する。

第4 「重大な損害」の判断要素

平成16年改正前は「回復の困難な損害」が要件であったが,改正後は「重大な損害」に緩和された。行政事件訴訟法25条3項は,重大な損害を生ずるかを判断するに当たり,次の事情を考慮・勘案すると定める。

損害の回復の困難の程度
損害の性質及び程度
処分の内容及び性質

したがって,「本案勝訴後に完全回復できないか」だけが基準ではない。例えば,短期間でも資格や業務を全面停止する処分,生活又は営業の基盤に直接作用する処分,信用や継続的契約を失わせる処分では,損害の性質・程度と処分自体の強度も独立に示す。

金銭損害は一般に後から賠償できるとの反論を受けやすい。しかし,資金繰りの破綻,許認可・指定の喪失,重要契約の解除,顧客・利用者の離脱,人員配置の崩壊等により事業継続が不可能になる経過を具体的資料で示せれば,単なる売上減少とは異なる評価があり得る。

第5 申立人自身の損害と第三者の不利益

「重大な損害」は,まず申立人自身に生ずる損害として構成する。法人が申立人である場合,利用者,顧客,従業員又は地域住民の不利益だけを列挙しても,直ちに法人自身の損害になるわけではない。

第三者の不利益を用いる場合は,それが利用者離脱,職員退職,指定・委託の喪失,契約解約,信用毀損又は再建困難を通じて申立人自身の事業基盤を失わせる因果経過を示す。また,第三者保護の必要性は,処分の内容・性質又は公共の福祉に関する行政庁側の反論としても別に整理する。

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抵当権者は転貸賃料を差し押さえられるか―民法371条・物上代位・最高裁平成12年4月14日決定(AI作成)

抵当不動産が賃貸され,さらに転貸されている場合,抵当権者が当然に転貸賃料まで差し押さえられるわけではない。所有者の賃料債権と,賃借人が取得する転貸賃料債権を分け,例外的に所有者と同視できる事情があるかを確認する必要がある。

本記事では,民法304条・371条・372条と最高裁平成12年4月14日決定を軸に,差押えの可否と調査事項を整理する。

目次
第1 まず三つの当事者と二つの賃料を分ける
第2 所有者の賃料債権への物上代位
第3 転貸賃料は原則として対象外である
第4 所有者と同視できる例外
第5 平成15年改正後の条文関係
第6 不履行前に発生した賃料
第7 差押えまでの実務チェック
第8 出典・関連記事

第1 まず三つの当事者と二つの賃料を分ける

転貸借があるときは,少なくとも次の関係を図にする。

抵当不動産の所有者兼原賃貸人
原賃借人兼転貸人
転借人

所有者が原賃借人に対して有する原賃料債権と,原賃借人が転借人に対して有する転貸賃料債権は,債権者も発生原因も異なる。抵当権者がどちらを差し押さえようとしているかを最初に固定する。

第2 所有者の賃料債権への物上代位

民法372条は抵当権に304条を準用し,同条1項ただし書は,払渡し又は引渡し前に差し押さえることを求める。賃料債権への物上代位は,所有者が受ける賃料について抵当権を実行する方法であり,差押命令を得る必要がある。

現行民法371条は,被担保債権について不履行があったとき,抵当権の効力がその後に生じた抵当不動産の果実に及ぶと定める。371条を実体的根拠とみるか,372条が準用する304条を物上代位の実体的根拠とみるかで,不履行前の賃料等の説明が変わり得る。

賃貸借が抵当権設定より前に始まったという一事だけで,所有者の賃料債権への物上代位が排除されるとはいえない。他方,その賃借権が競売の買受人に対抗できるか,売却価格にどう影響するかは別に検討する。賃貸借契約日,引渡し,抵当権設定登記,差押命令の送達を時系列に置く。裁判所掲載の執行抗告決定は賃貸借と担保権設定の先後を問わない旨に言及するが,その事案は転貸関係で所有者と賃借人を実質的に同一視できる場合であるため,個別事案への当てはめには注意を要する。

第3 転貸賃料は原則として対象外である

最高裁平成12年4月14日第二小法廷決定(平成11年(許)第23号・民集54巻4号1552頁)は,抵当権者は,抵当不動産の賃借人を所有者と同視することが相当な場合を除き,賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使できないとした。

原則否定の理由として,賃借人は抵当不動産をもって物的責任を負う所有者ではなく,自己の転貸賃料債権を所有者の被担保債権の弁済に供する立場にないこと,正常な転貸借における転貸人の利益を不当に害し得ること,民法304条1項の「債務者」という文言が挙げられる。

したがって,原賃料が低く転貸賃料が高いという差額だけで,直ちに転貸賃料全額を差し押さえられるとはいえない。

第4 所有者と同視できる例外

前記最高裁決定は,賃借人を所有者と同視することが相当な場合には,例外的に転貸賃料債権への物上代位を認める余地を示した。決定文は,所有者の取得すべき賃料を減少させ,又は抵当権の行使を妨げるため,法人格を濫用し,又は賃貸借を仮装して転貸借関係を作出した場合等を挙げる。

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AIで証拠説明書を作成・監査する方法―原資料・援用箇所・立証趣旨・頁の四点照合(AI作成)

目次

第1 AIで証拠説明書を作るときの基本方針
第2 原資料・援用箇所・立証趣旨・頁を四点照合する
第3 作成前に証拠台帳を作る
第4 各欄を原資料に基づいて記載する

1 号証
2 標目
3 原本・写し・電磁的記録の区別
4 作成年月日及び作成者
5 立証趣旨

第5 準備書面の援用箇所から逆算する
第6 引用頁を二つの資料で照合する
第7 内部確認表と提出用書面を分ける
第8 完成ファイルを開き直して確認する
第9 提出直前と提出後に確認する
第10 AIを使っても人が判断すべき事項
第11 出典・参考資料

AIは,書証の候補を整理し,証拠説明書の下書きを作り,号証・標目・頁の不一致を探す作業に利用できる。
しかし,提出する書証の採否,立証すべき事実の選択及び完成版の確認は,事件記録と原資料を確認できる人が行う必要がある。

本記事は,AIを利用して民事訴訟の証拠説明書を作成・監査するときの一般的な手順を扱う。
調査の基準日は令和8年9月23日であり,同日に施行されている民事訴訟法及び民事訴訟規則並びに同日までに公表された裁判所資料を確認した。

(続きを読む...)AIで証拠説明書を作成・監査する方法―原資料・援用箇所・立証趣旨・頁の四点照合(AI作成)

同名会社・商号変更がある民事訴訟の当事者確定―自白の撤回・法人格濫用・別訴併合(AI作成)

第1 結論―名称より先に法人そのものを特定する
第2 同名会社・商号変更を見分ける資料
第3 表示の訂正と別法人への請求は異なる
第4 法人格濫用による責任追及
第5 裁判上の自白を撤回できる場合
第6 訴訟中に別法人を追加したい場合
第7 実務チェックリスト
第8 法令・裁判例

第1 結論―名称より先に法人そのものを特定する

同じ商号の会社が複数存在する場合や、契約後に商号・本店・代表者が変わった場合には、現在の商号だけで被告を決めてはならない。訴えを提起する前に、契約時から提訴時までの法人の同一性を、法人番号、会社法人等番号、設立年月日、本店及び商号の履歴によって確認する必要がある。

訴状では、当事者欄だけでなく、請求の趣旨、請求原因、契約日、契約書上の表示、振込先及び履行主体が同じ法人を指すように記載する。名称の誤記を直す場合と、別の法人へ請求相手を変更する場合とでは、手続が異なる。

第2 同名会社・商号変更を見分ける資料

国税庁法人番号公表サイトで確認できる13桁の法人番号は、商号又は名称、本店又は主たる事務所の所在地と法人を照合するために有用である。ただし、訴訟上の代表権や過去の登記履歴を証明するものではない。

株式会社については、現在事項証明書だけで判断せず、必要に応じて履歴事項全部証明書及び閉鎖事項証明書を取得する。12桁の会社法人等番号、設立年月日、組織変更、合併、会社分割、本店移転、商号変更及び代表者の就退任を時系列にする。

登記だけでなく、契約書、注文書、請求書、領収書、振込口座名義、電子メールのドメイン、店舗の占有、ウェブサイト及び顧客向け通知も照合する。事業を行っていた会社と、代金を受領した会社が異なる場合には、その理由を確認する。

徳島地裁平成25年7月31日判決(平成21年(ワ)第607号、判例秘書L06850816)は、同じ商号の複数会社が関係した事業移転後の保証請求につき、保証契約書に実際の保証会社の本店・代表者が明記され、債権者もその会社を認識していたとして、名板貸責任の前提となる誤認を否定した。旧会社の名板貸責任を会社法22条で新会社が承継するという主張もあったが、判決はこの一般論を積極的に認めたものではない。契約書の商号だけでなく、本店・代表者、締結時の認識まで確認する必要がある。判例秘書の判決本文で確認したが、裁判所サイトの公開本文は確認できていない。

第3 表示の訂正と別法人への請求は異なる

民事訴訟法134条2項1号は、訴状に当事者の表示を記載することを求めている。表記の一部に誤りがあっても、訴状全体から当初から意図された法人が一つに定まるときは、表示の訂正として扱う余地がある。

最高裁平成19年3月27日第三小法廷判決は、訴状の原告欄に「中華民国」と表示されていた事件で、訴状の表示のほか、訴訟代理権を授与した者や当事者の主張の経過等の事実も踏まえて、原告として確定されるべき者を国家としての中国とした。このように、当事者の確定では、訴状の表示を出発点としつつ、その記載全体と関係する事実が考慮されることがある。同判決の内容は、光華寮訴訟とは―中国政府の承認,原告の確定及び訴訟手続の中断・受継で整理している。

これと異なり、本人の知らないうちに、偽造の委任状によって訴訟がされる場合もある。大審院昭和10年10月28日判決(昭和7年(オ)第2872号、大審院民事判例集14巻20号1785頁)の判決要旨は、偽造の委任状による訴訟代理人が訴えを提起し、裁判所が本人に対して言い渡した判決が確定したときは、本人は再審の訴えを提起できるとしている。また、最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決は、甲が乙と通謀して丙を相手方とする支払命令等を申し立て、乙が丙本人のように装ってその正本等を受領し、裁判を確定させた事案で、その債務名義の効力は丙に対しては及ばず、丙に対する関係では無効であるとした。同判決は、甲と乙が故意に丙の防御の機会を奪った点を理由とし、単に丙が事実上訴訟行為等に関与できなかった場合とは異なるとしている。本人が関与しないまま判決が確定した場合の救済は、訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)の「追完の期間も過ぎた場合」で整理している。

これに対し、訴状全体が旧会社を被告としており、後から新会社も責任を負うと分かった場合には、単なる商号訂正ではない。別法人を被告とする訴えを提起し、その法人へ訴状を送達して防御の機会を保障する必要がある。

誤った法人について得た判決を、別法人の財産に当然に執行できるわけではない。訴訟開始時に法人の同一性を固定することは、送達、判決の効力及び強制執行の対象を一致させるために重要である。

第4 法人格濫用による責任追及

最高裁昭和48年10月26日第二小法廷判決は、旧会社が債務免脱の意図で企業の形態・内容を実質的に維持した新会社を設立した事案で、法人格の濫用を理由に、新会社が旧会社と別法人であることを債権者に主張できないとした。

この法理は、二つの会社を同一法人として表示訂正するものではない。別法人であることを前提に、設立目的、支配者、事業、従業員、店舗、資産、取引先及び債務処理の連続性から、別法人であることを盾に責任を免れる主張が許されるかを判断するものである。

したがって、訴状では、当事者の確定と法人格濫用の主張を分ける。法人格濫用を主張する場合には、会社間の関係を抽象的に述べるだけでなく、資産移転の時期・対価、営業主体の表示、債権者への説明及び旧会社に残された財産を具体化する。

第5 裁判上の自白を撤回できる場合

民事訴訟法179条により、当事者が裁判所で自白した事実については証明を要しない。答弁書や準備書面で「認める」と述べた事実を、訴訟上不利になったという理由だけで自由に撤回することはできない。

(続きを読む...)同名会社・商号変更がある民事訴訟の当事者確定―自白の撤回・法人格濫用・別訴併合(AI作成)