第1 裁判所事務官の会計業務は何を支える仕事か
1 法廷の外から裁判所の運営を支える
裁判所事務官の会計業務には,物品やサービスの調達,庁舎・宿舎の管理,給与・旅費の支払,保管金の取扱いなどがある。
裁判所の公式職種紹介は,事務官が裁判部の裁判事務だけでなく,総務・人事・会計等の司法行政事務にも従事すると説明している。
会計業務は,裁判に必要な設備,物品及び資金の取扱いを通じて,裁判所の運営を支える仕事である。
出典:裁判所「裁判所の仕事について」。
事務官全体の仕事内容,書記官との違い及び採用後の進路は,裁判所事務官とはを参照されたい。
本記事では,会計の担当に配属されたときに,どのような事務を,誰と連携して進めるのかを説明する。
2 仕事の理解に使う資料と,現在の運用との区別
最高裁判所事務総局経理局の会計執務資料には,「裁判所の会計事務入門」「裁判所の会計事務の基礎知識」「新版会計事務提要」の三部作がある。
「基礎知識」は平成30年3月作成・平成31年2月補訂,「新版会計事務提要」は令和2年3月の資料であり,ここでは仕事の目的,担当の分担及び事務の流れを理解するために用いる。
資料にある金額基準,システム名,様式及び具体的な支払方法を,現在の全裁判所に共通する運用として扱うことはできない。
各資料の性格と使い分けは,裁判所の会計執務資料の三部作の解説で確認できる。
以下の係名は資料の整理に沿ったものであり,すべての庁で同じ課・係が設けられ,全職員がすべての業務を担当するという意味ではない。
第2 会計課の担当を仕事の目的から見る
1 用度・管理・経理・共済の担当
「裁判所の会計事務の基礎知識」は,所長併任庁の地方裁判所を想定して,会計課の仕事を用度,管理,経理及び共済組合の担当に分けて説明する。
同資料の印刷頁1~2(PDF16~17頁)は,各裁判所で係の構成が異なることにも注意を促している。
| 担当の整理 | 主な仕事 | 仕事の目的と確認すること |
|---|---|---|
| 用度 | 物品・役務の調達,物品の管理,保管物の取扱い | 必要な物品等を確保し,契約内容,納品及び管理状況を確かめる |
| 管理 | 庁舎・宿舎,国有財産,工事や維持管理に関する事務 | 裁判所の施設を適切に使い,維持するための手続を進める |
| 経理 | 歳入・歳出,給与・旅費の支払,保管金に関する事務 | 支払の根拠,金額,相手方及び資金の区分を確認する |
| 共済組合 | 組合員・被扶養者や給付等に関する事務 | 職員の福利厚生に関わる手続を扱う |
出典:裁判所の会計事務の基礎知識(課長補佐必携)印刷頁1~2。
2 係名が違っても,担当と権限を確かめる
大規模な裁判所では,会計関係の仕事が経理課,出納課,用度課などに分かれている例がある。
大規模庁の事務局に設置されている係は,掲載通達に基づく組織の例を調べる資料であり,現在の個別庁の配属先を確約するものではない。
担当別の事務分掌を詳しく読む場合は,下級裁判所事務局の係の事務分掌も参照されたい。
また,会計事務を担当する職員であることと,会計機関として意思決定する権限を持つこととは別である。
資料では,支出負担行為担当官,支出官,物品管理官等の権限を分けている。
担当者が資料を整える仕事と,権限を持つ者が決定する仕事を区別すると,決裁や確認の意味を理解しやすい。
出典:裁判所の会計事務入門シート1「会計機関」及び新版会計事務提要第1章。
第3 物品の調達は,購入の前後を通じた仕事である
1 必要性の確認から契約まで
「裁判所の会計事務入門」のシート27は,物品の購入について,必要性の検討から調達の準備,契約及び支払までの流れを示している。
例えば,執務に必要な机を購入する場合も,単に商品を選んで代金を払えば終了するわけではない。
何が,何のために,いつまでに必要かを整理し,予算,仕様,契約方法及び決裁に必要な資料を確認して進める。
| 段階 | 仕事を理解するための確認点 |
|---|---|
| 必要性・仕様の整理 | 使用する部署の要望,数量,性能,納期を整理する |
| 調達・契約の準備 | 資料に沿って予定価格,入札又は見積り,契約決裁等の手続を確認する |
| 支出負担行為・契約 | 支出の原因となる債務を負担する手続と,契約の締結を進める |
| 納品・検査 | 契約した物品が,必要な数量・内容で納められたかを確認する |
| 請求・支払 | 検査,請求書等を踏まえ,適切な相手方・金額への支払を進める |
出典:裁判所の会計事務入門シート27「物品の購入」(PDF59~60頁)。
この表は事務の流れを学ぶための整理であり,現在の契約方式の金額基準や,各庁の具体的な決裁経路を示すものではない。
2 納品後にも確認が必要となる
物品を受け取ることと,契約どおりの履行を確認することとは異なる。
数量,内容及び状態を確認し,検査と支払に必要な情報をつなぐことによって,調達した物品を実際の執務に使えるようにする。
資料が監督・検査や支払遅延の防止を扱うのは,契約を締結した後にも,適正な履行と支払を確保する事務が続くためである。
第4 給与・旅費・保管金の仕事を混同しない
1 給与の支払と,給与条件の決定は別である
給与事務を理解する際には,任用や給与条件に関する人事の事務と,給与の支払に関する会計の事務を区別する必要がある。
「裁判所の会計事務入門」のシート40は,給与の支払について,予算科目,控除,振込先及び年度の取扱いなどの確認事項を説明している。
給与に関係する仕事であっても,何を決定する担当なのか,確定した情報に基づいて何を支払う担当なのかによって役割が異なる。
出典:裁判所の会計事務入門シート40「給与の支払」(PDF82~83頁)。
事務官本人の給与額を調べる場合は,担当部署の業務説明と区別し,裁判所事務官の給料・年収を参照されたい。
2 旅費と保管金は,根拠と資金の性質を確かめる
旅費には職員の出張に関するもののほか,裁判手続に関係する証人等への支払がある。
証人旅費の例では,裁判部での事務と会計担当の事務が接続するため,必要な情報を事前に共有し,支払対象者や金額を正確に確認することが重要となる。
出典:裁判所の会計事務入門シート47「刑事証人等の旅費の支払」(PDF97~98頁)。
保管金は,歳入歳出とは区別して扱う資金であり,事件に関する予納金等の受入れ,保管,払渡しが問題となる。
庁舎で使う物品の購入代金と,事件に関して保管する金銭を,同じ予算支出として一括して理解することはできない。
事務を始めるときに,扱う金銭の性質と,支払や払渡しの指示・根拠を確かめる必要がある。
出典:新版会計事務提要第5章及び第13章。
第5 裁判部との連携と,採用後に学ぶこと
1 裁判部にも会計事務との接点がある
「新版会計事務提要」は,第13章を裁判部における会計事務に充てている。
予納金等,証人旅費,押収物・保管物,裁判に関係する役務の履行確認など,裁判手続の担当と会計担当とが情報をつなぐ場面がある。
裁判部での確認や指示が,受入れ,払渡し,検査又は支払につながるため,事件と相手方を取り違えず,必要な資料を正確に受け渡すことが求められる。
出典:新版会計事務提要印刷頁439~450(PDF457~468頁)。
これは,裁判部の事務官全員が会計担当者と同じ権限や担当を持つという意味ではない。
自分の担当の範囲を理解した上で,次の担当が何を確認するのかを意識することが,連携の基礎となる。
2 職務理解を志望動機につなげる
会計の仕事への関心を説明する場合は,「数字が得意である」という抽象的な長所だけでなく,必要性を確かめる,資料の不一致を見つける,期限を管理する,関係者と調整するなど,自分の経験との接点を考えるとよい。
これは職務理解に基づく準備の提案であり,公式の面接採点基準ではない。
配属希望が実現することや,会計担当だけを継続して担当することを前提とせず,裁判部と事務局の双方を理解しておく必要がある。
面接カードの準備は,裁判所事務官の面接対策を参照されたい。
裁判所の採用Q&Aは,職場における研修と集合研修を関連させた研修制度を案内している。
会計三部作も,経験の浅い担当者への指導や,根拠と目的の理解を助ける資料である。
本記事で使った資料だけから,簿記資格が採用又は会計担当への配属の必須条件であると結論付けることはできない。
出典:裁判所「採用Q&A」の研修制度。
第6 原資料と関連記事
① 裁判所の会計事務入門(シートで学ぶ根拠と目的)―用語と目的をシートごとに学ぶ資料である。
② 裁判所の会計事務の基礎知識(課長補佐必携)―会計課全体の仕事を俯瞰する資料である。
③ 新版会計事務提要―個別の事務と根拠を詳しく確認する資料である。法令・通達の現在の適用は,最新の資料による確認が必要である。
④ 裁判所職員の記事一覧―採用,給与,研修及び職員制度の関連記事への入口である。
公式職種紹介及び採用Q&Aは令和8年10月14日に確認した。