第1 採用試験から家庭裁判所調査官になるまで
1 調査官補として採用され,養成課程を経て任命される
家庭裁判所調査官になるための通常の入口は,裁判所職員採用総合職試験(家庭裁判所調査官補)である。
最終合格後に採用されると家庭裁判所調査官補となり,約2年間の養成課程で必要な知識と技能を学び,修了後に家庭裁判所調査官に任命される。
採用試験の合格,調査官補としての採用及び養成課程修了後の調査官への任命は,それぞれ別の段階である。
本記事は,令和8年10月14日に確認した裁判所の公開資料を基に,採用試験,難易度の見方,養成課程,採用時の給与例及び異動を説明する。
受験資格,科目,日程及び実施結果の具体的な数字は,令和8年度の資料に基づく。
令和9年度以降の受験資格や日程は,受験する年度の正式な受験案内で確認する必要がある。
| 段階 | 内容 | 区別する点 |
|---|---|---|
| 採用試験 | 総合職試験の家庭裁判所調査官補区分を受験する | 裁判所事務官の試験とは職種と内容が異なる |
| 最終合格後 | 採用候補者名簿に記載され,採用庁の決定等を経る | 最終合格者数と採用者数は同じ数字ではない |
| 採用・養成 | 調査官補として採用され,約2年間学ぶ | 職員として採用された後の養成である |
| 修了後 | 家庭裁判所調査官に任命され,調査を担当する | 試験に合格した時点で調査官になるわけではない |
2 調査官はどのような仕事をするか
家庭裁判所調査官は,家事事件や少年事件について,家族関係,子どもの状況,生活環境及び非行の背景などを調べ,裁判官へ報告する専門職である。
裁判所の職務案内は,心理学,社会学,社会福祉学,教育学等の知識や技法を調査に活用することを説明している。
調査・報告を行う役割と,裁判官が事件を判断する役割を区別して理解する必要がある。
仕事内容は,家庭裁判所調査官とはを参照されたい。
家事事件の当事者が受ける調査官面接と,採用試験の人物試験は目的が異なり,当事者向けの基本的な説明は,家事事件での調査と面接を参照されたい。
第2 大学・大学院と受験資格
1 院卒者区分と大卒程度区分
令和8年度の総合職試験(家庭裁判所調査官補)には,院卒者区分と大卒程度区分がある。
大卒程度区分という名称だけから,すべての受験者に大学卒業が必要であると判断してはならない。
令和8年度受験案内2頁は,次のように生年月日と学歴等の条件を区別している。
| 区分・生年月日 | 令和8年度の条件の概要 |
|---|---|
| 院卒者区分:平成8年4月2日以降生まれ | 大学院の修士課程又は専門職大学院の課程を修了した者及び令和9年3月までの修了見込みの者,又は最高裁判所が同等と認める者 |
| 大卒程度区分:平成8年4月2日~平成17年4月1日生まれ | この生年月日の範囲について,学歴は受験資格の条件とされていない |
| 大卒程度区分:平成17年4月2日以降生まれ | 大学卒業及び令和9年3月までの卒業見込み,又は最高裁判所が同等と認める資格が必要 |
上の表は条件の概要であり,日本国籍や欠格事由等の受験できない者の定めは,受験案内2頁も併せて確認する必要がある。
大学院の修了見込みで院卒者区分に合格しても,結果として修了できなかった場合は,原則として採用されないと裁判所の採用Q&Aが説明している。
社会人としての勤務経験がある場合も,まず生年月日と該当する受験資格を確認することが必要である。
2 心理学部や法学部の出身者に限られるか
特定の学部を卒業したことだけが受験資格とされているわけではない。
裁判所の採用Q&Aは,家庭裁判所調査官補の専門試験では,法律学を選択せず,心理学,社会学,社会福祉学,教育学に関連する分野を選択して受験できると説明している。
出身学部の名称と,試験で選ぶ問題及び採用後に学ぶ科目は分けて考える必要がある。
令和8年度の専門試験は15題から任意の2題を選ぶ方式である。
例えば,心理学の問題を選ぶ場合でも,採用後の養成では家事事件や少年事件の法律と他の行動科学の領域を学ぶことになる。
受験時の得意分野と,調査官として必要な幅広い専門性の両方を意識するとよい。
第3 試験科目・配点と令和8年度の日程
1 基礎能力,専門記述,政策論文及び人物試験
令和8年度受験案内3頁に示された試験の内容は,次のとおりである。
専門試験,政策論文試験及び人物試験の問題は,院卒者区分と大卒程度区分で共通である。
| 段階・種目 | 令和8年度の内容 | 時間・配点比率 |
|---|---|---|
| 第1次・基礎能力 | 多肢選択式30題。知能24題,知識6題 | 2時間20分,4/15 |
| 第2次・専門記述 | 15題から任意の2題を選択 | 2時間,4/15 |
| 第2次・政策論文 | 1題 | 1時間30分,1/15 |
| 第2次・人物試験Ⅰ | 個別面接 | 2/15 |
| 第2次・人物試験Ⅱ | 集団討論及び個別面接 | 4/15 |
専門記述の出題分野は,心理学3題,教育学3題,福祉3題,社会学2題及び法律学4題であり,法律学は民法2題と刑法2題に分かれる。
15題のうち任意の2題を選択するので,15題すべてに解答する試験ではない。
裁判所事務官の多肢選択式専門試験の科目表を,そのまま調査官補の勉強計画に使うことはできない。
人物試験ⅠとⅡは同日に行われ,人物試験Ⅱでは集団討論と個別面接を受ける。
採用Q&Aは,人物試験を裁判所職員としての適格性を判断するための試験と説明している。
筆記の準備に加え,仕事への理解,自分の経験及び志望理由を具体的に説明する準備が有用である。
2 令和8年度の日程は終了済みの情報である
令和8年度の申込受付は3月13日~4月6日,第1次試験は5月9日,第2次の専門記述及び政策論文は6月6日,人物試験は6月8日~22日の指定日,最終合格発表は7月9日であった。
調査官補については,専門記述と政策論文の筆記試験を同日に行う日程であり,裁判所事務官の政策論文の実施日と混同してはならない。
これらは令和8年度の実施日程であり,これから申し込める試験日程ではない。
令和8年度受験案内は,家庭裁判所調査官補と裁判所事務官の採用試験との併願はできないとしている。
将来の受験では,申込みの前に職種,受験資格,併願の取扱い及びその年度の正式な日程を確認する必要がある。
裁判所職員の試験区分全体との比較は,裁判所職員採用試験の総合案内を参照されたい。
第4 難易度と倍率の読み方
1 令和8年度の倍率は院卒5.2倍,大卒程度7.3倍である
令和8年度の公式実施結果は,院卒者区分の倍率を5.2倍,大卒程度区分の倍率を7.3倍と表示している。
この倍率の分母に当たる受験者数は,第1次試験の有効受験者数であり,申込者数ではない。
計算は第1次試験有効受験者数を最終合格者数で割る方法による。
| 区分 | 第1次有効受験者 | 最終合格者 | 公式倍率 |
|---|---|---|---|
| 院卒者区分 | 124人 | 24人 | 5.2倍 |
| 大卒程度区分 | 392人 | 54人 | 7.3倍 |
これらは男女合計の数字であり,最終合格者数は採用者数や調査官への任命人数を示していない。
年度別の人数,男女別の内訳及び合格最低点等の原資料は,裁判所職員採用試験の年度別データを参照されたい。
2 倍率だけから個人の合格可能性は判断できない
難易度を考える際は,倍率に加え,専門記述で選ぶ問題,政策論文,人物試験及び自分の学習状況を確認する必要がある。
1年度の倍率だけから,院卒者区分の方が必ず易しい,あるいは一定期間の勉強で必ず合格すると結論付けることはできない。
院卒者区分と大卒程度区分は受験資格と受験者集団が異なるため,倍率の大小はそのまま同じ条件での難易度比較にはならない。
準備の順序としては,①受験資格の確認,②専門記述で選ぶ問題の検討,③基礎能力と論文の準備,④仕事の理解と人物試験への準備,を分けて考えると整理しやすい。
勉強期間は出発点となる知識や使える時間によって異なり,一律の期間を示すことはできない。
第5 最終合格後の採用と約2年間の養成
1 最終合格と採用は別の段階である
令和8年度受験案内6頁は,最終合格者を採用候補者名簿に記載し,名簿の有効期間を1年と説明している。
採用庁は,希望,成績及び欠員状況等を考慮して決められ,調査官補については全国の大規模の家庭裁判所が採用庁の対象となる。
同案内は,欠員状況や勤務地の希望等によって,有効期間内に採用されない場合があることも説明している。
令和8年度の採用予定数は約50人とされていたが,これは令和8年1月時点の予定であり,最終合格者数や実際の採用者数とは異なる。
受験案内では,採用は原則として令和9年4月1日とされている。
採用候補者名簿や意向照会の基本は,最終合格した後の採用手続を参照されたい。
2 養成では行動科学と法律を学ぶ
裁判所の研修生紹介は,採用後約2年間,行動科学と法律の理論及び実務を学び,修了後に調査官へ任命されると説明している。
養成には,裁判所職員総合研修所での合同研修と,所属庁で指導を受けながら事件の調査に当たる実務修習がある。
令和8年度受験案内7頁は,養成期間のうち約1年間を採用庁での実務修習として説明している。
平成20年の『家庭裁判所調査官執務必携』は,調査計画,面接,情報源の検討及び調査結果と意見を分けた報告などを扱っている。
こうした内容は,調査官の専門性が,試験で得た知識だけでなく,事情を聴き,資料を検証し,分かりやすく報告する技能を含むことを理解する参考になる。
同必携を,現在の養成課程の科目表や全国共通の日程表として用いることはできない。
養成課程の組織,教科目及び実務修習の資料は,裁判所職員総合研修所を参照されたい。
首席,次席,総括主任及び主任の違いは,家庭裁判所調査官の役職で説明している。
第6 初任給・転勤と「エリート」という表現
1 採用時の給与は勤務場所と区分をそろえて確認する
裁判所の採用Q&Aが示す令和8年4月1日現在の初任給は,東京都特別区内に勤務する場合の例として,総合職の院卒者区分が月額30万6720円,大卒程度区分が月額29万400円である。
これは採用時の例であり,全勤務地の共通額,税や保険料を引いた手取り額,又は養成課程修了後のすべての調査官の給与額を示すものではない。
| 採用区分 | 初任給の例 | 公式案内の俸給上の区分 |
|---|---|---|
| 総合職・院卒者 | 月額30万6720円 | 行政職俸給表(一)2級11号俸 |
| 総合職・大卒程度 | 月額29万400円 | 行政職俸給表(一)2級1号俸 |
採用Q&Aは,期末・勤勉手当を年間で俸給月額などの約4.65か月分と説明し,通勤,住居及び超過勤務等の手当も挙げている。
初任給の表示額をそのまま賞与の算定基礎とみなして掛け算するだけでは,個人の年収を正確に算出できない。
採用年の在職期間,勤務場所,支給される手当等をそろえて確認する必要がある。
2 家庭裁判所調査官補として採用されると全国異動がある
裁判所の採用Q&Aは,調査官補の総合職試験に合格して採用された場合,全国の家庭裁判所等で勤務すると説明している。
大規模庁で採用された後,人材育成等の観点から,おおむね3年を目安に小規模庁,中規模庁,希望庁又はその周辺庁の順に異動することが一般的とされている。
その後の異動は,地域の実情や上位ポストへの昇進等に応じて行われる。
この説明は一般的な異動の目安であり,必ず3年ごとに希望庁へ移れることを保証するものではない。
裁判所事務官の高等裁判所管内を中心とした勤務の説明を,調査官補の全国異動にそのまま当てはめることはできない。
進路を検討する場合は,仕事の内容とともに,全国で勤務する可能性も確認する必要がある。
3 「エリート」は採用区分や裁判権を示す名称ではない
家庭裁判所調査官は,総合職試験による採用と専門的な養成を経る職員である。
「エリート」という表現から制度を理解するより,採用区分,職務,養成課程及び役職を具体的に確認する方が適切である。
調査官が専門的な意見を述べることと,裁判官が裁判をすることは別であり,総合職であることから裁判官と同じ権限が導かれるわけではない。
第7 出典・関連記事
①裁判所「令和8年度総合職試験(家庭裁判所調査官補)受験案内」:受験資格2頁,試験内容3頁,日程1頁,採用6頁,養成・給与7頁。
https://www.courts.go.jp/saiyo/vc-files/saiyo/Y-15jukenannai.pdf
②裁判所「令和8年度総合職試験(家庭裁判所調査官補)実施結果」1頁。
https://www.courts.go.jp/saiyo/vc-files/saiyo/Y-15kekka.pdf
③裁判所「採用Q&A」:学歴と選択分野,採用庁,異動,給与の各問。
https://www.courts.go.jp/saiyo/sikenjoho/siken/qa/index.html
④裁判所「研修生(家庭裁判所調査官・裁判所書記官養成課程)」:家庭裁判所調査官養成課程。
https://www.courts.go.jp/saiyo/siritai/shigoto/kensyusei/index.html
⑤裁判所「家庭裁判所調査官」:職務と採用・養成の説明。
https://www.courts.go.jp/saiban/zinbutu/tyosakan/index.html
⑥最高裁判所事務総局家庭局『家庭裁判所調査官執務必携』(平成20年3月):本文80頁~87頁,92頁~95頁(PDF53頁~56頁,59頁~60頁)。
https://yamanaka-bengoshi.jp/wp-content/uploads/2020/10/家庭裁判所調査官執務必携(平成20年3月の,最高裁判所事務総局家庭局作成の文書)-圧縮済み.pdf
関係記事は,裁判所職員の記事一覧からも確認できる。