目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 最高裁平成24年2月20日判決の事案と判断1 事案の概要2 遅延損害金の請求権は代位取得されないとした判断3 過失がある場合の代位の範囲(裁判基準差額説)4 保険法25条との関係第3 被害者が加害者に請求できる遅延損害金の範囲と計算例1 請求できる遅延損害金の範囲2 計算例1(被害者に過失がない場合)3 計算例2(被害者に過失がある場合)第4 無保険車傷害保険金との比較1 最高裁平成24年4月27日判決①(保険金額の算定)2 同判決②(保険金の支払債務の遅延損害金の利率)3 両判決に共通する考え方と違い第5 実務上の確認事項1 約款に遅延損害金を支払う定めがあるか2 人傷先行か賠償先行か3 示談や和解で遅延損害金を落とさないこと4 人身傷害保険以外の保険との区別5 保険会社が加害者に求償する場面(最高裁平成24年5月29日判決)第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,交通事故の被害者が自分の加入する自動車保険の人身傷害条項に基づいて保険金(以下「人傷保険金」という。)を受け取った後,加害者に対して,事故日から人傷保険金の支払日までの遅延損害金を請求できるかを扱う。
調査基準日は令和8年9月19日である。
中心となる裁判例は,最高裁判所第一小法廷平成24年2月20日判決(平成21年(受)第1461号,民集66巻2号742頁)であり,比較の対象として,無保険車傷害保険金に関する最高裁判所第二小法廷平成24年4月27日判決(平成21年(受)第1923号,集民240号223頁)を取り上げる。
人傷保険金と過失相殺の関係(いわゆる裁判基準差額説)や,人傷先行・賠償先行の選択の全体像は,既存記事の人身傷害保険の補償範囲と請求順序―人傷先行・賠償先行,保険代位及び自賠責回収及び過失相殺と素因減額が併存する場合の人身傷害保険会社の代位の範囲――最高裁令和7年7月4日判決で説明している。
本記事では,それらとの重複を避け,遅延損害金の帰属に焦点を当てる。
2 結論
約款に保険会社が損害元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めがない人身傷害条項に基づいて保険金を支払った保険会社は,損害金元本の支払請求権(被害者に過失があるときは,裁判基準差額説による範囲)を代位取得するだけであり,その元本に対する遅延損害金の支払請求権は代位取得しない(最高裁平成24年2月20日判決)。
したがって,被害者は,人傷保険金を受け取った後も,加害者に対し,事故日から人傷保険金の支払日までの遅延損害金を請求できる。
この遅延損害金は,保険会社に移った元本部分に対応するものも含め,支払日時点の損害金元本の全体について計算される。
人傷保険金の支払日の翌日以降に被害者が請求できる遅延損害金は,被害者に残った元本に対するものだけとなる。
利率は,事故日が令和2年3月31日以前であれば年5%,令和2年4月1日以後であれば年3%となるのが原則である。
無保険車傷害保険金についても,最高裁平成24年4月27日判決は,同じく約款上遅延損害金を塡補しない保険であることを前提に,保険金額の算定で遅延損害金への充当を考慮しないとした。
もっとも,いずれの結論も「約款に遅延損害金を支払う定めがないこと」を前提とするから,実際の事件では,契約時の約款を確認する必要がある。
第2 最高裁平成24年2月20日判決の事案と判断
1 事案の概要
平成17年5月1日,道路を横断中の歩行者Aが自動車に衝突されて負傷し,同年11月26日に死亡した。
Aの両親である原告らが,運転者に対して民法709条に基づき,保有者に対して自賠法3条に基づき,損害賠償を請求した事案である(判決全文2頁)。
Aの損害は合計7,828万2,219円,Aの過失割合は10%であり,過失相殺後の損害金は7,045万3,997円であった。
原告らは共済組合から123万9,297円,保有者から793万0,904円の支払を受け,過失相殺後の残元本は6,128万3,796円となっていた。
その後,平成19年10月25日,原告らは,原告の一人(X1)が契約していた自動車保険の人身傷害条項に基づき,人傷保険金5,824万6,898円を受け取った(判決全文2頁~4頁)。
判決が確定事実として挙げる約款の内容のうち,本記事に関係するのは次の2点である。
①代位条項は,保険会社が「その損害に対して支払った保険金の額の限度内で,かつ,保険金請求権者の権利を害さない範囲内で」,保険金請求権者が他人に対して有する権利を取得するというものであった。
②「本件約款には,訴外保険会社が上記(6)アの損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めはない。」とされた(判決全文4頁)。
原審は,人傷保険金を,旧民法491条に準じて,まず残元本に対する支払日までの遅延損害金762万2,696円に充当し,残りを元本に充当するという処理をした(判決全文5頁~6頁)。
最高裁は,この処理を是認しなかった。
2 遅延損害金の請求権は代位取得されないとした判断
(1) 判決の理由
(続きを読む...)人身傷害保険金を受け取った後も加害者に遅延損害金を請求できるか―最高裁平成24年2月20日判決と保険代位の範囲(AI作成)