目次第1 結論1 相手ごとに他人性を判断する2 運転者に対する民法上の請求は別である第2 自賠法3条の「他人」1 条文上の位置付け2 所有者・使用権者・運転者を区別する第3 非同乗の所有者と車内の使用者1 直接性・顕在性・具体性の比較2 非同乗所有者の責任と被害者の他人性は別の段階である第4 所有者・使用権者が同乗している場合1 事故防止の中心的責任2 特段の事情第5 運転代行を利用した場合1 最高裁平成9年10月31日判決2 依頼者の運行供用者性と他人性第6 親所有車を子が友人に運転させた場合1 車外所有者・車内使用者・運転者の三者を分ける2 自賠法請求が否定されても不法行為請求を確認する第7 請求関係を一枚の表にする1 当事者別の整理2 既払金と過失相殺第8 証拠チェックリスト1 権利と支配2 事故防止責任第9 出典と調査範囲1 一次資料2 実務資料と検索範囲
一台の自動車について,所有者,借主,使用権者,運転者又は運転代行業者など複数の者が運行供用者となることがある。このうち事故で死傷した者が,他の運行供用者に対して自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条の「他人」として請求できるかは,運行供用者であるかどうかとは別の問題である。
本記事は,非同乗の所有者,同乗する所有者・使用権者,運転交代及び運転代行を分け,誰に対して「他人」といえるかを検討する順序を整理する。調査基準日は令和8年9月27日である。
第1 結論
1 相手ごとに他人性を判断する
被害者が共同運行供用者であっても,すべての相手に対して一律に自賠法3条の「他人」でなくなるわけではない。被害者と請求相手との二者関係ごとに,具体的運行に対する支配の程度,事故防止の中心的責任及び運行利益を比較する。
したがって,「被害者も運行供用者だから自賠法請求はできない」,又は「同乗していたから被害者である」とだけ結論づけるのは危険である。
2 運転者に対する民法上の請求は別である
被害者がある相手との関係で自賠法3条の「他人」に当たらなくても,運転者の故意又は過失に基づく民法709条の請求まで当然に否定されるわけではない。自賠法3条請求,民法709条請求及び保険請求を分けて整理する。
第2 自賠法3条の「他人」
1 条文上の位置付け
自動車損害賠償保障法3条は,自己のために自動車を運行の用に供する者が,その運行によって「他人」の生命又は身体を害した場合の責任を定める。
運行供用者及び自賠法上の運転者は,原則としてその具体的運行との関係では「他人」に含まれない。ただし,複数の運行供用者がいるときは,形式的な地位だけでなく,相互の運行支配の程度を比較する判例法理が形成されている。
自賠法2条4項は,運転者を,他人のために自動車の運転又は運転の補助に従事する者と定めている。
そのため,自ら運転操作をしていない同乗者や作業の協力者でも,運転の補助に従事した者(運転補助者)に当たれば,その運行との関係では「他人」に含まれない。
最高裁判所第三小法廷昭和57年4月27日判決(昭和54年(オ)第174号,集民135号793頁)は,ブルドーザーをダンプカーの荷台に積み込む作業中,ダンプカーを操作する同僚に具体的な指示をしていた先任者がブルドーザーごと転倒して死亡した事案で,先任者はダンプカーの運行に共同一体的に関与した運転補助者として「他人」に当たらないと解される余地があるとし,命令服従関係がないことだけで他人性を認めた原判決のうち請求を認容した部分を破棄して,高松高等裁判所に差し戻した。
他方,最高裁判所第二小法廷平成11年7月16日判決(平成9年(オ)第317号,集民193号493頁)は,クレーン車で鋼管くいを荷下ろしする際に好意で玉掛けを手伝ったトラック運転者が,落下した鋼管くいに当たって死亡した事案で,その運転者は荷下ろし作業を指示・監視すべき立場にも,手伝う義務を負う立場にもなく,その作業が落下の原因ともなっていないとして,クレーン車の運転補助者に当たらず「他人」に含まれるとした。
この二つの判決からすると,運転補助者に当たるかは,被害者が運転又は作業を指示・監視し,又は手伝うべき立場にあったか,被害者の行為が事故の原因となったかを,具体的な作業の分担から確認することになると考えられる。
2 所有者・使用権者・運転者を区別する
立場主な確認事項注意点所有者車両の処分・貸与・返還請求,鍵の管理非同乗でも運行供用者となり得る使用権者・借主利用目的,期間,経費,行先・運転者の決定所有者より具体的な支配を持つことがある実際の運転者運転操作,交代の経緯,誰の指示に従ったか自賠法上の「運転者」と民法上の責任を区別同乗者所有・使用権,指示可能性,事故防止責任単なる同乗か共同運行供用者かを確認運転代行業者契約,業法上の地位,運転の全面的引受け依頼者との関係で中心的責任が移る場合がある
第3 非同乗の所有者と車内の使用者
1 直接性・顕在性・具体性の比較
最高裁判所第三小法廷昭和50年11月4日判決(昭和49年(オ)第1035号,民集29巻10号1501頁)は,複数の運行供用者がいる場合に,一方の運行支配が間接的・潜在的・抽象的であるのに対し,他方の運行支配と運行利益が直接的・顕在的・具体的であるとき,後者は前者に対して「他人」であることを主張できないとした。
典型例は,所有者から一定期間車を借り,同行者と運転を交代しながら旅行していた使用者が事故で負傷した場合である。車外の所有者よりも,車内で旅行を企画・実行していた使用者の支配と利益が具体的であれば,使用者から所有者への自賠法3条請求は認められにくい。
2 非同乗所有者の責任と被害者の他人性は別の段階である
最初に,非同乗所有者が当該運行について運行供用者かを判断する。次に,被害者も運行供用者である場合,所有者との関係で被害者が「他人」といえるかを判断する。二段階を混同しないことが重要である。
第4 所有者・使用権者が同乗している場合
1 事故防止の中心的責任
最高裁判所第二小法廷昭和57年11月26日判決(昭和55年(オ)第1121号,民集36巻11号2318頁)は,所有者が第三者に運転を委ねて同乗している場合,所有者は運転交代を命じ,又は運転に具体的な指示をすることができ,事故防止について中心的な責任を負うため,特段の事情がない限り,その第三者に対する関係で「他人」に当たらないとした。
同乗して眠っていた,酔っていた,又は現実には指示をしなかったというだけで,当然に中心的責任から離れるわけではない。運転を委ねた経緯,運転者との関係,指示・交代の可能性及び危険の認識を確認する。
(続きを読む...)共同運行供用者は自賠法3条の「他人」として請求できるか―同乗所有者・運転交代・運転代行の判断基準(AI作成)