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交通事故

共同運行供用者は自賠法3条の「他人」として請求できるか―同乗所有者・運転交代・運転代行の判断基準(AI作成)

目次第1 結論1 相手ごとに他人性を判断する2 運転者に対する民法上の請求は別である第2 自賠法3条の「他人」1 条文上の位置付け2 所有者・使用権者・運転者を区別する第3 非同乗の所有者と車内の使用者1 直接性・顕在性・具体性の比較2 非同乗所有者の責任と被害者の他人性は別の段階である第4 所有者・使用権者が同乗している場合1 事故防止の中心的責任2 特段の事情第5 運転代行を利用した場合1 最高裁平成9年10月31日判決2 依頼者の運行供用者性と他人性第6 親所有車を子が友人に運転させた場合1 車外所有者・車内使用者・運転者の三者を分ける2 自賠法請求が否定されても不法行為請求を確認する第7 請求関係を一枚の表にする1 当事者別の整理2 既払金と過失相殺第8 証拠チェックリスト1 権利と支配2 事故防止責任第9 出典と調査範囲1 一次資料2 実務資料と検索範囲

一台の自動車について,所有者,借主,使用権者,運転者又は運転代行業者など複数の者が運行供用者となることがある。このうち事故で死傷した者が,他の運行供用者に対して自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条の「他人」として請求できるかは,運行供用者であるかどうかとは別の問題である。

本記事は,非同乗の所有者,同乗する所有者・使用権者,運転交代及び運転代行を分け,誰に対して「他人」といえるかを検討する順序を整理する。調査基準日は令和8年9月27日である。

第1 結論
1 相手ごとに他人性を判断する

被害者が共同運行供用者であっても,すべての相手に対して一律に自賠法3条の「他人」でなくなるわけではない。被害者と請求相手との二者関係ごとに,具体的運行に対する支配の程度,事故防止の中心的責任及び運行利益を比較する。

したがって,「被害者も運行供用者だから自賠法請求はできない」,又は「同乗していたから被害者である」とだけ結論づけるのは危険である。

2 運転者に対する民法上の請求は別である

被害者がある相手との関係で自賠法3条の「他人」に当たらなくても,運転者の故意又は過失に基づく民法709条の請求まで当然に否定されるわけではない。自賠法3条請求,民法709条請求及び保険請求を分けて整理する。

第2 自賠法3条の「他人」
1 条文上の位置付け

自動車損害賠償保障法3条は,自己のために自動車を運行の用に供する者が,その運行によって「他人」の生命又は身体を害した場合の責任を定める。

運行供用者及び自賠法上の運転者は,原則としてその具体的運行との関係では「他人」に含まれない。ただし,複数の運行供用者がいるときは,形式的な地位だけでなく,相互の運行支配の程度を比較する判例法理が形成されている。

自賠法2条4項は,運転者を,他人のために自動車の運転又は運転の補助に従事する者と定めている。
そのため,自ら運転操作をしていない同乗者や作業の協力者でも,運転の補助に従事した者(運転補助者)に当たれば,その運行との関係では「他人」に含まれない。
最高裁判所第三小法廷昭和57年4月27日判決(昭和54年(オ)第174号,集民135号793頁)は,ブルドーザーをダンプカーの荷台に積み込む作業中,ダンプカーを操作する同僚に具体的な指示をしていた先任者がブルドーザーごと転倒して死亡した事案で,先任者はダンプカーの運行に共同一体的に関与した運転補助者として「他人」に当たらないと解される余地があるとし,命令服従関係がないことだけで他人性を認めた原判決のうち請求を認容した部分を破棄して,高松高等裁判所に差し戻した。

他方,最高裁判所第二小法廷平成11年7月16日判決(平成9年(オ)第317号,集民193号493頁)は,クレーン車で鋼管くいを荷下ろしする際に好意で玉掛けを手伝ったトラック運転者が,落下した鋼管くいに当たって死亡した事案で,その運転者は荷下ろし作業を指示・監視すべき立場にも,手伝う義務を負う立場にもなく,その作業が落下の原因ともなっていないとして,クレーン車の運転補助者に当たらず「他人」に含まれるとした。
この二つの判決からすると,運転補助者に当たるかは,被害者が運転又は作業を指示・監視し,又は手伝うべき立場にあったか,被害者の行為が事故の原因となったかを,具体的な作業の分担から確認することになると考えられる。

2 所有者・使用権者・運転者を区別する
立場主な確認事項注意点所有者車両の処分・貸与・返還請求,鍵の管理非同乗でも運行供用者となり得る使用権者・借主利用目的,期間,経費,行先・運転者の決定所有者より具体的な支配を持つことがある実際の運転者運転操作,交代の経緯,誰の指示に従ったか自賠法上の「運転者」と民法上の責任を区別同乗者所有・使用権,指示可能性,事故防止責任単なる同乗か共同運行供用者かを確認運転代行業者契約,業法上の地位,運転の全面的引受け依頼者との関係で中心的責任が移る場合がある
第3 非同乗の所有者と車内の使用者
1 直接性・顕在性・具体性の比較

最高裁判所第三小法廷昭和50年11月4日判決(昭和49年(オ)第1035号,民集29巻10号1501頁)は,複数の運行供用者がいる場合に,一方の運行支配が間接的・潜在的・抽象的であるのに対し,他方の運行支配と運行利益が直接的・顕在的・具体的であるとき,後者は前者に対して「他人」であることを主張できないとした。

典型例は,所有者から一定期間車を借り,同行者と運転を交代しながら旅行していた使用者が事故で負傷した場合である。車外の所有者よりも,車内で旅行を企画・実行していた使用者の支配と利益が具体的であれば,使用者から所有者への自賠法3条請求は認められにくい。

2 非同乗所有者の責任と被害者の他人性は別の段階である

最初に,非同乗所有者が当該運行について運行供用者かを判断する。次に,被害者も運行供用者である場合,所有者との関係で被害者が「他人」といえるかを判断する。二段階を混同しないことが重要である。

第4 所有者・使用権者が同乗している場合
1 事故防止の中心的責任

最高裁判所第二小法廷昭和57年11月26日判決(昭和55年(オ)第1121号,民集36巻11号2318頁)は,所有者が第三者に運転を委ねて同乗している場合,所有者は運転交代を命じ,又は運転に具体的な指示をすることができ,事故防止について中心的な責任を負うため,特段の事情がない限り,その第三者に対する関係で「他人」に当たらないとした。

同乗して眠っていた,酔っていた,又は現実には指示をしなかったというだけで,当然に中心的責任から離れるわけではない。運転を委ねた経緯,運転者との関係,指示・交代の可能性及び危険の認識を確認する。

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芸能人・プロスポーツ選手の交通事故逸失利益―基礎収入,稼働期間,引退後収入及び立証資料(AI作成)

目次第1 特殊な職業では「基礎収入」と「期間」を分ける1 一般的な算定式2 二段階又は多段階で考える第2 裁判例から読み取れる考え方1 若手タレントについて平均賃金の3分の2を用いた事例2 モデル収入とその後の平均賃金を分けた事例3 レーサー収入を45歳までとした事例4 裁判例の年数を相場表にしない第3 基礎収入の立証1 売上と本人の所得を区別する2 単年の高収入だけで決めない第4 高収入を維持できる期間の立証1 本人の実績2 同業者比較の使い方第5 後遺障害と職業上の支障1 等級だけで労働能力喪失率を決めない2 事故後の活動継続を正しく評価する第6 他の損害項目との重複を避ける1 休業損害と後遺障害逸失利益2 本人損害と事務所・法人の損害第7 相談・受任時のチェックリスト第8 出典と確認範囲1 今回確認した一次資料2 確認できていない範囲

芸能人,モデル,歌手,プロスポーツ選手,レーサー等が交通事故に遭った場合,事故時の収入を67歳までそのまま掛ける方法も,直ちに賃金センサスだけを用いる方法も,個別事情を捨象し過ぎることがある。

実務では,①事故前の現実収入,②その収入を得る職業を続けられた蓋然性,③高収入を維持できた期間,④引退又は転職後に得られた収入,⑤後遺障害が当該職業に与える具体的な支障を分けて検討する。本記事は,裁判例と赤い本講演録の整理を踏まえ,二段階又は多段階で逸失利益を算定する方法と必要資料を説明する。

第1 特殊な職業では「基礎収入」と「期間」を分ける
1 一般的な算定式

後遺障害逸失利益は,通常,「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数」によって算定する。

もっとも,人気,流行,身体能力,成績又は興行需要に左右される職業では,事故時の収入額だけでなく,その収入を将来も得られた期間が争点となる。高収入であっても短期間しか維持できない職業がある一方,事故時の実績が乏しくても,契約,受賞歴,ランキング,予定された出演等から将来の上昇が具体的に裏付けられる場合もある。

2 二段階又は多段階で考える

事故時の職業収入を維持できた期間と,その後の転職・引退後の収入を分ける方法が有用である。

期間検討する基礎収入主な立証事項第一区分芸能・競技等による現実収入契約,報酬明細,確定申告,出演・出場実績,ランキング第二区分収入の低下を見込んだ職業収入又は兼業収入年齢別実績,同業者比較,スポンサー契約の更新条件,兼業の実態第三区分引退・転職後の賃金又は事業所得学歴,資格,職歴,転職可能性,賃金センサス,具体的な就職計画

この方法は,すべての事件で三つの期間に分けるという固定的な基準ではない。将来の蓋然性を,収入源と期間に即して説明するための整理方法である。

第2 裁判例から読み取れる考え方
1 若手タレントについて平均賃金の3分の2を用いた事例

大阪地方裁判所平成13年5月29日判決(平成11年(ワ)第13409号・平成12年(ワ)第5559号,判例秘書L05650944)は,事故当時23歳で,レンタルビデオ店のアルバイトと松竹芸能所属のタレント活動をしていた被害者の後遺障害逸失利益を判断した。

同判決は,芸能界の競争が厳しく,多くの者が途中で他の道に転進すること,タレント収入の実績が少額であったことから,タレント収入をそのまま基礎とすることも,高卒男子労働者の平均賃金全額を用いることも否定した。他方で,タレントを断念すれば定職に就いて事故時より高い収入を得る可能性を認め,平成10年賃金センサスの高卒男子全年齢平均賃金の3分の2に当たる年額352万5867円を基礎収入とし,56パーセント,44年間の労働能力喪失を認めた。

この判決から,夢又は職業名だけでは足りない一方,事故時の低収入だけで長期の稼働能力を評価し切るものでもないことが分かる。事故がなければ芸能活動を続けた可能性と,他職種へ転進した可能性を併せて評価している。

2 モデル収入とその後の平均賃金を分けた事例

大阪地方裁判所平成5年10月28日判決(交通事故民事裁判例集26巻5号1284頁)は,死亡時20歳でモデル兼アルバイトとして稼働していた女性について,35歳までの15年間は年額323万4850円を,その後67歳までは賃金センサス女子学歴計35歳ないし39歳の平均賃金を基礎としたと,赤い本講演録2013年版が紹介している。

講演録によれば,同判決は,学校卒業後に単身で大阪へ移りモデル業へ本格的に取り組んでいたこと,1年目として比較的多くの仕事をしていたこと,将来性があったことを認定している。これは,「モデルは若年職だから一律に短期」としたのではなく,本人の実績と将来性を具体的に認定した上で,モデル収入の期間とその後の収入を分けた例である。

なお,本記事作成時の判例秘書検索では,裁判日を平成5年10月28日とした検索が10件,「モデル」を加えた検索が0件であり,同判決本文を判例秘書で確認できなかった。そのため,この項は講演録による判決紹介であり,判決全文を確認した記述ではない。

3 レーサー収入を45歳までとした事例

東京地方裁判所平成15年10月29日判決(判例時報1843号8頁)は,事故時40歳のプロレーサーについて,45歳までは事故時のレーサー収入年額915万1807円を,その後67歳までは賃金センサス男子大卒45歳ないし49歳の平均賃金を基礎としたと,赤い本講演録2013年版が紹介している。

講演録によれば,同判決は,高い身体能力,心肺能力,筋力及び敏捷性が要求されることを考慮し,高齢の現役選手が存在するというだけでは事故時の収入が恒常的に続くとはいえないとした。例外的に長く活躍する選手の存在と,当該被害者が同様に活躍する蓋然性とは別である。

4 裁判例の年数を相場表にしない

上記裁判例の15年,5年等は,職業ごとの固定的な就労可能期間ではない。赤い本講演録2013年版自身も,紹介裁判例は網羅的でないと明記し,能力,経験,経歴,実績,意欲,業界における評価等を詳細に立証する必要があると整理している。

したがって,「モデルは35歳まで」「レーサーは45歳まで」といった一般則に置き換えてはならない。判決当時の業界事情,事故時の年齢,後遺障害の内容及び当事者の主張立証を確認する必要がある。

第3 基礎収入の立証
1 売上と本人の所得を区別する

所属事務所,法人又は個人事業の売上が,直ちに本人の基礎収入になるわけではない。マネジメント料,会場費,衣装費,遠征費,車両費,スタッフ人件費等の必要経費を区別する。

源泉徴収票,支払調書,確定申告書,総勘定元帳,銀行入出金,契約書及び請求書を照合する。無申告又は過少申告がある場合,実収入の主張が当然に排除されるとは限らないが,客観資料の一貫性と信用性が厳しく問われる。

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子が起こした自動車事故で親は責任を負うか―親所有車・子所有車と運行供用者責任の判断資料(AI作成)

目次第1 結論1 親名義・親所有の車2 子名義・子所有の車3 親自身の過失と監督義務者責任は別に検討する第2 運行供用者責任の基本1 自賠法3条2 登録名義だけで決めない第3 親所有車を子が運転した場合1 無断運転でも直ちに責任が消えない2 子が友人に運転を交代した場合第4 子所有車について親の責任を判断する資料1 物的支配を先に確認する2 生活関係と使用実態を重ねる第5 民法上の責任との関係1 子本人の責任2 親自身の過失3 責任能力のない子と民法714条第6 受任時の証拠チェックリスト1 車両と費用2 使用許可と事故前の経過3 生活・経済関係第7 請求先と保険を混同しない1 人身損害と物損2 家族限定・年齢条件等第8 出典と調査範囲1 一次資料2 実務資料と調査結果

子が自動車事故を起こしても,親であるという理由だけで当然に親が賠償責任を負うわけではない。他方,親が運転していなくても,車の所有・購入費,鍵と保管場所,保険料・維持費,子の使用に対する認識と許容等から,親が自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条の運行供用者に当たることがある。

本記事は,親所有車と子所有車を分け,運行供用者責任,親自身の過失責任及び未成年者の監督義務者責任を検討する順序と必要資料を整理する。調査基準日は令和8年9月27日である。

第1 結論
1 親名義・親所有の車

親が車を所有し,子の使用を平常から認めていた場合,親が運転を直接指示していなくても,運行支配及び運行利益が認められ,運行供用者責任を負う可能性が高い。

子が友人に運転を交代した事故でも,その交代が親の容認した車両使用の範囲内と客観的に評価されるときは,親の責任が直ちに切れるわけではない。最高裁判所第二小法廷平成20年9月12日判決(平成19年(受)第1040号)は,父所有車を使用することを認められていた子が飲酒後に友人へ運転を委ねた事案で,父を運行供用者とした。

2 子名義・子所有の車

車が子名義であっても,名義だけでは決まらない。親が購入代金・保険料・税金・修理費等を負担し,親宅で保管し,鍵や使用方法を管理していた場合は,親の運行供用者性を肯定する方向に働く。

これに対し,経済的に独立した子が自費で購入・維持し,親の生活圏外で保管・使用していた場合は,親の運行支配及び運行利益を否定する方向に働く。同居又は扶養という人的関係だけで結論を出すべきではない。

3 親自身の過失と監督義務者責任は別に検討する

運行供用者責任が否定されても,親が無免許運転や飲酒運転を具体的に知りながら車や鍵を渡したなど,事故との因果関係を有する独自の過失があれば,民法709条の責任が問題となる。

子に責任能力がない場合には民法712条・714条,責任能力がある未成年者の場合には親自身の民法709条上の監督上の過失を分けて検討する。年齢だけで一律に決めることはできない。

第2 運行供用者責任の基本
1 自賠法3条

自動車損害賠償保障法3条は,自己のために自動車を運行の用に供する者が,その運行によって他人の生命又は身体を害したときの損害賠償責任を定める。同条は人身損害の規定であり,車両修理費等の物損には直接適用されない。

判例実務では,「自己のために自動車を運行の用に供する者」かどうかを,運行支配と運行利益を中心に判断する。運行支配は,現実に運転を命じたかだけでなく,客観的外形的に自動車の運行を指示・制御すべき立場にあったかを含む。

2 登録名義だけで決めない

車検証上の所有者・使用者,自賠責保険・任意保険の契約者は重要な資料であるが,それだけで決まらない。購入,保管,鍵,維持費,日常の使用実態及び家族関係を総合する。

確認対象肯定方向の事情否定方向の事情車両の取得親が購入し又は代金を負担子が自費で購入登録・保険親名義,親の保険契約子名義,子の独立した保険契約保管・鍵親宅で保管し親が鍵を管理親の生活圏外で子が単独管理維持費親が税金,保険料,修理費等を負担子が全て負担使用実態親が使用を認識・許容し制限できた親が使用を知らず制御できなかった生活関係同居・扶養に加えて物的管理がある別居・経済的独立があり関与がない
第3 親所有車を子が運転した場合
1 無断運転でも直ちに責任が消えない

子が親の明示の許可を得ずに運転したとしても,親が普段から子の使用を黙認していた,鍵を容易に持ち出せた,又は過去の無断使用を知りながら有効な防止措置をとっていなかった場合には,運行支配の喪失は認められにくい。

反対に,親が使用を明確に禁止し,鍵を施錠保管し,車両の持出しを現実に防止する措置を講じていたのに,子がこれを破って運転したなどの特段の事情は,親の運行供用者性を否定する方向に働く。「無断だった」という家族の供述だけでなく,事故前の管理実態を示す必要がある。

2 子が友人に運転を交代した場合

最高裁平成20年9月12日判決は,父が子による車の使用を認めており,子が深夜に車で飲食店へ行き,飲酒後に友人が子を乗せて運転したという事実関係の下で,友人の運転も父の容認の範囲内とみられてもやむを得ないとして,父の運行供用者性を肯定した。

この判決は,所有者が交代運転者と面識がなければ常に免責される,という考えを採っていない。子への使用許可の内容,飲酒・深夜利用の予見可能性,鍵の置き方,子と交代運転者との関係及び子の同乗等を確認する必要がある。

第4 子所有車について親の責任を判断する資料
1 物的支配を先に確認する

子名義車では,まず金銭と物の流れを確認する。売買契約書,振込記録,ローン契約,車検証,保険証券,税金・車検・修理の領収書,月極駐車場契約及び鍵の保管状況を並べる。

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飲酒運転事故で運転者以外が民事責任を負う場合―酒類提供者・車両提供者・同乗者・共同飲酒者(AI作成)

目次第1 運転者以外にも民事責任が生じ得る1 道路交通法上の禁止と民事責任は別に検討する2 民法709条・719条2項第2 関係者ごとの検討1 酒類提供者2 車両・鍵の提供者3 同乗者4 共同飲酒者・同席者第3 事実整理のチェック項目1 「6要件」と固定しない2 時系列で確認する事項第4 下級審裁判例1 東京地裁平成24年3月27日判決2 大阪地裁平成28年11月21日判決3 大阪高裁平成29年7月14日判決4 三判決の比較第5 被害者側の主張・立証第6 関係者側の反論・立証第7 共同責任と内部負担・求償第8 証拠保全のチェックリスト第9 出典と確認範囲
第1 運転者以外にも民事責任が生じ得る
1 道路交通法上の禁止と民事責任は別に検討する

道路交通法65条は、飲酒運転そのものだけでなく、飲酒運転をするおそれがある者への酒類又は車両等の提供、飲酒運転車両への要求・依頼による同乗も禁止している。警察庁は、車両等の提供者、酒類の提供者及び同乗者等に対する現行の罰則を公表している。

もっとも、道路交通法違反が成立することと、事故被害者に対する民事上の損害賠償責任が成立することは同じ問題ではない。反対に、刑事事件として立件されなかったことだけで民事責任が当然に否定されるものでもない。民事では、各関係者の行為、予見可能性、事故との結び付き及び損害を個別に検討する。

2 民法709条・719条2項

民法709条は、故意又は過失により他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者の責任を定める。同法719条2項は、行為者を教唆した者及び幇助した者を共同行為者とみなし、同条1項の共同不法行為責任を負わせる。

飲酒運転事故では、酒類、車両又は鍵を提供した行為、飲酒を勧めた行為、運転を提案・承認した行為、同乗によって運転を容易にした行為等が、運転者の不法行為を容易にしたと評価できるかが問題となる。ただし、飲酒の席に同席したこと又は車両に同乗したことだけで、常に責任が生じるわけではない。

第2 関係者ごとの検討
1 酒類提供者

飲食店、勤務先、主催者又は同席者が、運転予定を知り、又は具体的に予見できたのに酒類を提供した場合は、過失による幇助が問題となる。注文に応じただけか、積極的に飲酒を勧めたか、代行運転又は運転者交代を確認したか、提供後どの程度で運転したかを区別する。

酒類提供と事故との関係では、飲酒量及び時間だけでなく、事故時の運転操作、道路状況、速度、運転経験、車両の構造等の別原因も検討する必要がある。

2 車両・鍵の提供者

所有者又は管理者が、飲酒した者へ車両又は鍵を渡した場合は、道路交通法上の車両等提供と民法上の過失・幇助の双方が問題となり得る。誰が車両を管理していたか、飲酒状況をどこまで認識していたか、鍵を渡した時点で代替運転者がいたか、返却又は運転中止を求めたかを確認する。

車両所有者については、別途、自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任が問題となる場合がある。車検証上の名義だけで決まるものではなく、運行支配及び運行利益を具体的に検討する。

3 同乗者

同乗者が飲酒運転を要求又は依頼した、運転を提案して同行を促した、又は運転開始後も具体的な制止機会があったのに運転を継続させた場合は、関与の程度が問題となる。他方、同乗したという結果だけで、飲酒の認識、働き掛け又は制止可能性まで推認できるとは限らない。

4 共同飲酒者・同席者

共同飲酒者については、運転者との関係、運転予定の共有、飲酒の勧誘、車両までの移動、鍵の所在、代行運転の手配、運転開始時の言動等を確認する。上司・先輩等のように制止への影響力が大きい関係か、単なる偶然の同席者かでも評価が異なる。

第3 事実整理のチェック項目
1 「6要件」と固定しない

飲酒運転事故について、①運転者が実際に飲酒運転をしたこと、②飲酒が運転上の過失を生じさせたこと、③運転開始時に正常な運転ができない状態であったこと、④関係者が飲酒運転を知り又は知り得たこと、⑤関係者が運転能力低下を知り又は知り得たこと、⑥関係者がその状態の形成に深く関与したこと、という六つの観点が整理に用いられることがある。

しかし、これらはすべてを満たさなければ責任が成立しないという法定の「6要件」ではない。後記の大阪高裁平成29年7月14日判決は、六つすべてが必要であるとの主張を明確に退けた。したがって、六項目は証拠と反論を漏らさないための事実整理表として用い、画一的な成立要件として扱うべきではない。

2 時系列で確認する事項

実務では、次の事項を「飲酒前」「飲酒中」「運転開始時」「事故直前」「事故後」に分けて整理する。

①誰が運転予定を把握していたか。
②誰が、誰に、どの酒類を、どの量・時間に提供又は勧めたか。
③運転者の発言、歩行、ろれつ、顔色、眠気等にどのような変化があったか。
④車両及び鍵を誰が管理し、誰が運転を提案・承認したか。
⑤代行運転、宿泊、運転者交代等の代替手段があったか。
⑥誰が、いつ、どのような言葉と行動で制止したか。
⑦飲酒から運転・事故までの時間、走行経路、速度及び操作状況。
⑧飲酒以外の事故原因があるか。

第4 下級審裁判例
1 東京地裁平成24年3月27日判決

東京地方裁判所平成24年3月27日判決(平成23年(ワ)第4829号、判例タイムズ1390号281頁、交通民集45巻2号422頁、判例秘書L06730133)は、飲酒した運転者と同じ勤務先の上司らが同乗し、死傷事故が発生した事案である。

裁判所は、長時間の飲酒、運転者のふらつき、同乗者らがドライブに同意したこと、運転開始後も相当時間制止しなかったこと等を踏まえ、同乗者らは運転者が正常に運転できない状態であることを知りながら運転を容易にし、制止すべき義務に反したとして、民法719条2項の幇助責任を認めた。

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駐車場内事故の過失割合と証拠保全―通路進行車・駐車区画退出車・歩行者の事故(AI作成)

この記事の要点
駐車場内事故では、まず「通路を進行中か」「駐車区画へ進入中か」「駐車区画から退出中か」を双方について固定します。別冊判例タイムズ39号の基本割合は出発点にすぎず、発進時期、方向指示器・後退灯、見通し、速度、路面表示などにより個別に修正されます。防犯カメラ映像は上書きされやすいため、事故直後の保存要請が重要です。

目次

結論―割合の議論より先に事故類型と証拠を固定する
駐車場内事故の基本的な考え方
事故類型を三つの走行状態に分ける
四輪車同士の基本の過失割合
歩行者と四輪車の基本の過失割合
基本割合を修正する主な事情
事故直後に保全すべき証拠
示談交渉・訴訟での検討手順
この基準の限界と留意点
関連記事
参照資料

1 結論―割合の議論より先に事故類型と証拠を固定する

駐車場内事故では、相手方の保険会社から示された数字だけを見て結論を出すのではなく、最初に次の三点を確認する必要があります。

双方の車両が、通路進行・駐車区画への進入・駐車区画からの退出のいずれであったか
どちらの動きが先に始まり、相手方がその動きをいつ認識できたか
防犯カメラ、ドライブレコーダー、現場写真、車両の損傷などの客観証拠が残っているか

別冊判例タイムズ39号(全訂6版)は、駐車場内事故を独立の事故類型として整理しています。ただし、そこに記載された基本割合は、具体的事情を検討するための出発点であり、裁判所を法的に拘束するものではありません。

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交通事故の車両修理見積書の読み方―部品,工数,骨格修理,塗装,防錆及び安全性能の立証(AI作成)

目次第1 見積書だけで結論を出さない1 最初に揃える資料2 事故との対応を図にする第2 見積書の構造1 部品、作業及び材料を分ける2 「交換」と「脱着」を区別する第3 外板と車体骨格1 外板損傷と修復歴は同じではない2 骨格修理で確認する資料3 足回りとアライメント第4 塗装と防錆1 塗装範囲を確認する2 防錆・シーリングを落とさない第5 電子制御装置と安全性能1 バンパ・ガラスの修理でも確認する2 エーミングの証拠3 外注作業の連続性4 OBD検査と修理時の診断を区別する第6 工数・単価・重複作業1 工数は実時間と同じとは限らない2 単価は一律の法定額ではない3 重複と関連作業を区別する第7 修理費を立証する一覧表1 一行ごとに証拠を結び付ける2 未修理の場合3 修理済みの場合4 現物も見積書もない場合第8 相手方見積りとの比較1 総額差ではなく前提差を探す2 整備事業者への照会事項第9 出典と確認範囲1 一次・業界資料2 実務資料と限界

交通事故の車両修理費を検討するとき、見積書の総額だけを比較しても、修理の必要性と相当性は分からない。部品を交換するのか修正するのか、脱着作業がどこまで必要か、塗装範囲と材料費はどう連動するか、骨格部位に損傷があるか、修理後の防錆・安全性能をどのように回復するかを、写真、整備書、作業記録及び請求書と照合する必要がある。

近年の車両では、バンパ、グリル又はフロントガラスの脱着が、カメラ・レーダーの機能調整(エーミング)に結び付くことがある。本記事は、修理見積書を損害立証資料として読むための順序を説明する。

第1 見積書だけで結論を出さない
1 最初に揃える資料

最低限、次の資料を同じ車両・同じ事故について揃える。

①事故直後の全景・損傷部の写真及び動画。
②車検証情報、車台番号、型式、初度登録、走行距離及び装備。
③修理見積書と見積条件。
④損傷診断、分解後の追加見積、アライメント測定等の記録。
⑤車種別の整備書・車体修理書、部品図及び作業指示。
⑥修理中・修理後の写真、作業記録、特定整備記録簿及び完成検査資料。
⑦請求書、支払資料及び交換部品の処分記録。

見積りは修理前の予測であり、実際に施工した内容とは限らない。分解後に隠れた損傷が判明して増額されることも、見積項目の一部を施工せず減額されることもあるため、最終請求書と作業記録まで照合する。

2 事故との対応を図にする

車両を前後左右と上下から見た図に、衝突方向、最初に接触した部位、外板損傷、取付部・内部部品、骨格部位、足回り及びセンサー類を書き込む。事故写真に写る損傷と見積書の各行を番号で対応させる。

事故前からの傷、錆、劣化、別事故の損傷が含まれる可能性があれば、事故前写真、車検・点検記録、中古車購入時の車両状態評価書等で分ける。

第2 見積書の構造
1 部品、作業及び材料を分ける

見積書の主な欄は、部品代、技術料又は工賃、塗装作業、塗料・副資材、外注費、診断・測定、諸費用等である。同じ名称でも、部品価格に作業料が含まれるとは限らない。

見積区分読み取る事項照合資料部品部品番号、左右、新品・中古・再生、数量部品図、納品書、交換部品写真作業脱着、交換、修正、分解、組付、調整整備書、工程写真、作業記録工数・工賃作業時間又は指数、単価、重複作業の控除標準作業点数、工場の単価資料塗装対象パネル、補修・全塗装、隣接部のぼかし色番号、塗装範囲写真、材料明細診断・測定スキャン、アライメント、寸法計測、エーミング測定結果、故障コード、記録簿外注ガラス、足回り、電子制御、特殊修正等外注先請求書、作業責任の記録
2 「交換」と「脱着」を区別する

交換は部品そのものを別の部品へ替える作業であり、脱着は同じ部品を一旦取り外して戻す作業である。隣接部品を脱着しなければ損傷部へ到達できない場合がある一方、工程が重なる作業を別々に全額計上していないかも確認する。

交換の必要性は、外観だけでなく、取付部、変形、亀裂、材質、メーカー修理要領及び安全性から判断する。修正可能か否かは、費用だけでなく、修理後の強度、寸法、腐食防止及びセンサー性能も考慮する。

第3 外板と車体骨格
1 外板損傷と修復歴は同じではない

ドア、フード、バンパカバー等の外板を補修又は交換しただけで、直ちに中古車表示上の「修復歴」があるとは限らない。

自動車公正取引協議会の規約は、修復歴を車体の骨格に当たる部位の修正又は交換歴として定義し、フレーム、クロスメンバー、フロントインサイドパネル、ピラー、ダッシュパネル、ルーフパネル、フロアパネル及びトランクフロアパネルを挙げる。

ただし、修復歴に該当しない外板修理でも、車種、修理範囲、品質及び市場評価によって評価損の問題が生じないとは限らない。修復歴の定義と民事上の評価損の有無は分けて検討する。

2 骨格修理で確認する資料

(続きを読む...)交通事故の車両修理見積書の読み方―部品,工数,骨格修理,塗装,防錆及び安全性能の立証(AI作成)

人身傷害保険金請求訴訟の訴状作成チェックリスト―管轄,当事者,請求原因,保険金計算,既払金及び保険代位(AI作成)

目次第1 最初に作る三つの表1 契約・当事者表2 支払時系列表3 損害・保険金計算表第2 管轄と当事者1 管轄は保険契約上の金銭請求として確認する2 原告となる者を確定する3 被告の表示を確認する第3 請求原因の骨格1 保険契約2 保険事故と被保険者該当性3 損害と保険金額4 保険金請求と支払期限第4 人身傷害保険金と賠償金の順序1 人傷先行2 賠償先行3 死亡事故と素因減額第5 提出証拠チェックリスト1 契約関係2 事故・損害関係3 既払・代位関係第6 訴状の最終点検1 請求の趣旨と計算が一致しているか2 二重控除と控除漏れがないか3 電子提出用データを分けておく第7 関連する記事1 人身傷害保険の請求順序2 訴状提出の操作第8 出典と確認範囲1 法令・裁判例等2 実務資料と限界

人身傷害保険金の請求では、交通事故の損害額を計算するだけでは足りない。誰のどの契約に基づく請求か、事故時に適用される約款はどれか、被保険者及び保険金請求権者は誰か、加害者側の賠償金等がいつ、誰に、どの費目について支払われたかを整理する必要がある。

訴状作成では、①保険契約、②被保険者、③保険事故、④損害額、⑤約款上の保険金計算、⑥既払金、⑦支払期限、⑧保険代位を別々の欄で確認すると、請求原因の抜けと計算の二重控除を見つけやすい。本記事は、その確認順序と提出資料を説明する。

第1 最初に作る三つの表
1 契約・当事者表

保険証券だけでなく、契約申込書、更新案内、変更届、普通保険約款及び特約を揃える。契約者、記名被保険者、被保険自動車、運転者、事故時の搭乗者、保険金請求権者及び原告候補を一つの表にする。

死亡事故では、被保険者本人の保険金請求権を誰が相続したか、約款上の死亡保険金請求権者が別に定められていないかを確認する。未成年者、成年被後見人、法人名義車両又は家族所有車両では、契約者と被保険者を混同しない。

2 支払時系列表

事故日から提訴日までについて、治療費の一括対応、自賠責保険金、任意対人賠償金、人身傷害保険金、労災給付その他の給付を、支払日、支払者、受領者、名目、対象期間及び対象費目ごとに並べる。

医療機関へ直接支払われた治療費も含める。単に「既払金合計」とせず、元本と遅延損害金のどこへ充当されるか、保険代位の対象となるかを分けて検討する。

3 損害・保険金計算表

次の三段階を混ぜないことが重要である。

段階計算対象主な確認資料①民法上の損害治療費、休業損害、慰謝料、後遺障害逸失利益等診療録、診断書、収入資料、裁判基準の計算書②加害者への賠償請求過失相殺、素因減額、既払金等を反映した額過失資料、医学資料、支払一覧③人身傷害保険金約款所定の損害額基準、限度額、控除条項等を反映した額事故時約款、特約、保険会社の計算書

人身傷害保険金は、裁判所が認定する損害額と常に一致するわけではない。事故時の約款が「裁判上の請求」又は判決・和解等について特別の計算条項を置くかも確認する。

第2 管轄と当事者
1 管轄は保険契約上の金銭請求として確認する

人身傷害保険金請求は、通常、保険会社に対する保険契約上の金銭請求である。被告保険会社の普通裁判籍、義務履行地、約款の合意管轄条項及び請求額による事物管轄を確認する。

事故現場があるという理由だけで、その土地の裁判所に保険金請求の管轄が当然に生じるとは限らない。加害者に対する不法行為損害賠償請求を併合する場合は、各請求の管轄と併合の可否を別に検討する。

2 原告となる者を確定する

原告欄には、約款上の保険金請求権者を記載する。保険契約者であることだけで当然に請求権者になるとは限らない。被保険者本人、相続人、法定代理人、破産管財人等のうち誰が権利を行使するかを、戸籍、登記事項証明書、審判書その他の資格資料で裏付ける。

相続人が複数いる場合は、請求権の帰属、相続分、遺産分割又は共同訴訟の要否を検討する。死亡保険金請求権の性質は約款文言により異なるため、一般論だけで相続財産と決めない。

3 被告の表示を確認する

保険証券の会社名が現在の商号と一致するか、合併又は商号変更がないかを法人番号公表サイト及び登記事項証明書等で確認する。代理店又は事故受付窓口を被告としない。

第3 請求原因の骨格
1 保険契約

契約日、保険期間、保険種類、証券番号、記名被保険者、被保険自動車、保険金額及び人身傷害条項・特約の組込みを特定する。訴状の別紙として、適用約款と特約の版、条項名及び必要な定義を整理すると分かりやすい。

「現在の約款」ではなく、事故日に適用されていた約款を提出する。更新前後、車両入替え、運転者範囲又は記名被保険者の変更があれば、その効力発生日も確認する。

2 保険事故と被保険者該当性

事故日時、場所、事故態様、運転・搭乗・歩行中等の別、受傷又は死亡結果を記載する。被保険者の範囲を、契約車両搭乗中、他車搭乗中、歩行中等の約款区分に当てはめる。

警察資料、交通事故証明書、実況見分調書、車両写真、ドライブレコーダー、診療録等により、事故と傷害との因果関係を示す。対象外事故又は免責事由が争われる可能性があるときは、否認を予想して関連事実と証拠を準備する。

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胸腰椎圧迫骨折は交通事故によるものか―新鮮骨折・陳旧性変形・骨粗鬆症・DISHと画像立証(AI作成)

目次

第1 争点は「骨折があるか」と「事故によるか」
第2 新鮮骨折と陳旧性変形を見分ける資料
第3 X線・CT・MRIの役割
第4 骨粗鬆症がある場合の考え方
第5 DISHでは軽微な外傷でも骨折し得る
第6 因果関係を立証する時系列と資料
第7 被害者側・加害者側の検討事項
第8 出典と確認範囲

交通事故後に胸椎又は腰椎の圧迫骨折が判明しても,画像上の変形が事故前から存在したのか,事故で新たに生じたのか,事故を契機に既存の脆弱性が顕在化したのかを区別しなければならない。診断名だけで因果関係は決まらない。

第1 争点は「骨折があるか」と「事故によるか」

まず,画像上の椎体変形が真の骨折か,変性,先天的形状又は古い骨折後変形かを確認する。次に,新鮮骨折であるとして,事故の外力,疼痛の出現時期,初診所見,画像の経時変化及び他の原因候補から,当該事故との因果関係を検討する。

「事故当日の単純X線で指摘されなかった」「数週間後にMRIで骨折と診断された」という事情だけで因果関係を否定することはできない。反対に,事故後に診断されたという時間的先後だけで事故原因と断定することもできない。

第2 新鮮骨折と陳旧性変形を見分ける資料

最も有力なのは事故前画像との比較である。健診,がん検診,腹部・胸部CT,整形外科受診,別事故の画像等に対象椎体が写っていれば,事故前後の椎体高,終板,皮質,骨髄信号及び後壁を比較できる。

事故前画像がない場合は,①事故直後からの局所的な叩打痛・体動痛,②救急記録や初診カルテの訴え,③X線上の椎体高の経時的減少,④CT上の骨折線・皮質不連続・後壁損傷,⑤MRI上の骨髄浮腫,⑥他の原因となる転倒又は外傷の有無を総合する。

診療録に「腰痛」としか書かれていない場合でも,事故直後から胸腰椎移行部に限局した痛みであったのか,もともとの慢性腰痛と同じであったのかで意味が異なる。問診記録の抽象的な一語だけで判断せず,部位図,救急隊記録,鎮痛薬,体動制限及び家族の観察を照合する。

椎体骨折の資料では,「新規骨折」と「新鮮骨折」が同じ意味で使われているとは限らない。
整形外科の外来診療の解説書は,「新規骨折」を,臨床試験で用いられガイドラインにも頻繁に出てくる用語とし,二つの時点のX線像を比較して判定する,その間に発生した骨折を指すもので,急性期の新鮮骨折を意味しないと説明している。
同書は,実際の診療では陳旧性骨折と新鮮骨折の語を用いるとしている。
したがって,報告書に「新規骨折」と書かれていても,その語だけで特定の事故日に生じた急性骨折と判断することはできない。
比較した画像の撮影日と所見,事故前後の症状,診察及び追加画像を確認し,資料の中でその用語がどの意味で使われているかを確かめる必要がある。

第3 X線・CT・MRIの役割

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交通事故の入院付添費―完全看護・医師の指示・近親者の実際の付添いと立証方法(AI作成)

目次

第1 入院付添費が認められる三つの要件
第2 完全看護と医師の指示の位置付け
第3 付添いの必要性が問題となる主な場面
第4 実際に付き添ったことの立証
第5 付添費の金額と近親者の休業損害
第6 交通費・宿泊費と二重計上
第7 請求・反論のための時系列表
第8 出典と確認範囲

家族が毎日病院へ行ったとしても,その全期間が当然に入院付添費として賠償されるわけではない。実務上は,①付添いの必要性,②現実の付添い,③相当な日額・期間を分けて立証することが重要である。

第1 入院付添費が認められる三つの要件

第一に,被害者の傷害,年齢,意識状態,行動障害,医療上の必要性等から,病院の看護に加えて近親者等の付添いが必要であったことを示す。第二に,家族が現実に何を,いつ,どの程度行ったかを示す。第三に,その内容に照らして相当な人数,期間及び金額を算定する。

面会,医師からの説明聴取,洗濯物の受渡し又は精神的な見舞いは大切であるが,それだけで直ちに損害賠償上の「付添看護」になるわけではない。反対に,無償の近親者付添いでも,必要な労務が提供されたのであれば,金銭評価できる損害となり得る。

最高裁昭和46年6月29日第三小法廷判決(昭和42年(オ)第1245号・民集25巻4号650頁)は,近親者の無償の付添看護について,被害者が付添看護料相当額の損害を受けたとして請求できることを認めた。

第2 完全看護と医師の指示の位置付け

現在の病院では,医療・看護上必要な行為は病院側が担うことが原則である。この体制は,家族付添費を当然に否定するものではない一方,家族の滞在をすべて不可欠な看護とみなす根拠にもならない。

医師の明示的な指示は付添いの必要性を裏付ける重要な証拠である。ただし,指示がなければ必ず否定されるわけではなく,傷害の部位・程度,被害者の年齢,意識障害,せん妄,高次脳機能障害,意思疎通の困難,転倒・自傷のおそれ等から必要性が認められることがある。

逆に,診断書に「家族付添を要する」とだけ記載されていても,期間,時間帯,具体的な役割及び病院の看護との分担が不明であれば,争いは残る。主治医だけでなく,看護記録,入院診療計画書,病棟の依頼・許可記録等を整合させる。

第3 付添いの必要性が問題となる主な場面

場面確認事項

意識障害・重篤な脳損傷見守り,意思伝達,体位変換,痰吸引の連絡,異常の早期発見等を家族が実際に担ったか。

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後部座席シートベルト・チャイルドシート非装着と過失相殺―損害拡大との因果関係及び立証資料(AI作成)

目次

第1 後部座席でも着用義務がある
第2 非装着だけで直ちに過失相殺されるわけではない
第3 後部座席シートベルト非装着の裁判例
第4 チャイルドシート非使用の考え方
第5 損害拡大との因果関係を立証する資料
第6 主張・反論を組み立てる際の注意点
第7 出典と確認範囲

後部座席のシートベルト又はチャイルドシートを使用していなかったとしても,その事実だけで損害額が機械的に減額されるわけではない。争点は,非装着と事故そのものではなく,非装着と傷害の発生又は拡大との因果関係である。

第1 後部座席でも着用義務がある

道路交通法71条の3は,自動車の運転者に対し,座席ベルトを装着しない者を乗車させて運転しないことを求めている。後部座席については平成20年6月1日から義務化され,6歳未満の幼児については原則として幼児用補助装置(チャイルドシート)を使用させなければならない。

条文上の義務の名宛人は運転者である。ただし,このことから,成人の同乗者が自らの安全のためにシートベルトを使用すべき注意を一切負わないという結論にはならない。行政上の取締りと,民法722条2項に基づく損害の公平な分担は別の問題である。

疾病その他の理由により装着又は使用が療養上適当でない場合など,法令上の例外もある。妊娠,体格又は傷病を理由に例外を主張する場合は,単なる自己申告ではなく,事故当時の診療録,医師の指示,装置の適合性等を確認する必要がある。

第2 非装着だけで直ちに過失相殺されるわけではない

過失相殺には,少なくとも,①装着できる状況であったこと,②装着しなかったことについて被害者側に評価可能な不注意があること,③装着していれば当該傷害の発生を避け,又は程度を軽減できたことが必要である。

したがって,「非装着だから一律10%」という処理は相当でない。車外放出,前席・側壁・天井への衝突,身体の移動方向,着座位置,車両の変形,傷害部位,装着者との傷害差などから,損害拡大との結び付きを検討する。

警察庁は,令和7年の後部座席着用率を一般道路45.8%,高速道路等79.9%と公表し,非着用時の致死率は着用時に比べ一般道路で約2.8倍,高速道路で約13.9倍としている。これは非着用一般の危険性を示す公的統計であるが,個別事件の傷害がベルトで回避できたことを直接証明するものではない。

第3 後部座席シートベルト非装着の裁判例

『赤い本講演録編2016』は,当時公刊されていた後部座席の裁判例23件を整理し,過失相殺の肯定例11件,否定例12件とした。ただし,平成20年6月1日の義務化後に発生した事故に限ると,同講演録が抽出した6件はいずれも過失相殺を認めている。

同講演録の整理では,典型的な事案の減額は5%又は10%に収まるものが多い。20%又は30%の例には,横臥していた,シート自体を取り外して床面にいた,下肢麻痺のため身体を支えにくいのに固定しなかった,運転者である配偶者の過失も被害者側の過失として評価された,といった特殊事情がある。

代表例(講演録の整理)判断の要点

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盗難車による事故で車両所有者は責任を負うか―運行供用者責任,管理上の過失及び政府保障事業(AI作成)

目次第1 盗難車の事故で検討する三つの責任1 車両所有者が常に責任を負うわけではない2 人身損害と物損を分ける3 結論を左右する事実第2 自賠法3条の運行供用者責任1 運行支配と運行利益2 肯定方向と否定方向の事情第3 最高裁昭和48年12月20日判決1 事案2 運行供用者責任を否定した理由3 判決の射程第4 最高裁令和2年1月21日判決1 事案2 民法709条の管理上の過失を否定3 林景一裁判官の補足意見と使用者責任第5 主張立証のための事実・証拠チェック1 盗難前から事故までを時系列にする2 請求原因ごとに証拠を対応させる第6 自賠責保険と政府保障事業1 盗難車であることだけでは決まらない2 政府保障事業は人身損害に限られる3 被害者側の初動第7 実務上の整理1 車両所有者側2 被害者側第8 出典と確認範囲1 法令・公的資料2 裁判例3 実務文献
第1 盗難車の事故で検討する三つの責任
1 車両所有者が常に責任を負うわけではない

盗難車による事故では,車両の所有者又は使用者が直ちに損害賠償責任を負うわけではない。人身損害については自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任,物損を含む損害については民法709条の不法行為責任が,それぞれ別の要件で問題となる。
窃取者が所有者の被用者であるなどの事情がある場合には民法715条の使用者責任も検討対象となるが,盗難車であるというだけで同条が適用されるものではない。

2 人身損害と物損を分ける

自動車損害賠償保障法3条は,「その運行によって他人の生命又は身体を害したとき」を対象とするため,車両の修理費その他の物損には適用されない。
物損について車両所有者の責任を追及する場合は,車両の管理方法に民法709条上の過失があったか,その過失と事故との間に相当因果関係があるかを主張立証する必要がある。

3 結論を左右する事実

日弁連交通事故相談センター東京支部の2021年版講演録は,盗難車事故の裁判例を分析し,駐車場所,駐車時間,施錠・鍵の管理,盗難から事故までの時間的・場所的近接性,盗難発見後の届出等,窃取後の運転経過及び事故態様を総合考慮するものと整理している。
一つの事情だけで結論を決めず,盗難前の管理,盗難後の行動及び事故までの経過を時系列で確定する必要がある。

第2 自賠法3条の運行供用者責任
1 運行支配と運行利益

運行供用者とは,自己のために自動車を運行の用に供する者をいう。判例・実務では,運行支配と運行利益を中心に判断される。
所有者と全く人的関係のない者が車両を窃取した場合,通常は窃取者が運行を支配し,所有者は窃取後の運行を指示・制御できない。しかし,第三者の運転を客観的・外形的に容認していたとみられてもやむを得ない管理状況であったかを含め,具体的事情が検討される。

これに対し,所有者の被用者が所有者の車両を無断で運転した場合は,所有者と無関係な第三者による窃取と同じには扱われない。
最高裁判所第三小法廷昭和39年2月11日判決(昭和38年(オ)第903号,民集18巻2号315頁)は,農業協同組合の運転手が私用のため組合の自動車を上司に無断で持ち出して事故を起こした事案で,所有者と運転者との間に雇傭関係等の密接な関係があり,日常の運転及び管理の状況から客観的外形的に所有者のためにする運行と認められるときは,所有者は自賠法3条の責任を負うとした原審の判断を正当とした。
同事案では,組合は終業後の無断使用を禁じていたが,鍵の管理が必ずしも厳格でなく,運転手による無断運転の例も稀でなかった。
従業員が社用車を私用・無断で運転した場合の会社の責任,保険及び従業員への求償は,従業員が社用車を私用・無断で運転した事故と会社の責任―自賠法3条の運行供用者責任,民法715条の使用者責任,従業員への求償及び損害賠償金の税務で扱っている。

自動運転車が第三者に乗っ取られた場合について,国土交通省の自動運転における損害賠償責任に関する研究会報告書(平成30年3月)15頁は,ハッキングにより保有者と全く無関係な第三者が保有者に無断で自動車を操縦する等の事態が生じたときは,原則として保有者の運行支配及び運行利益が失われ,盗難車による事故と同様の状況になると整理している。
その場合の損害は,盗難車による事故と同様に政府保障事業で対応し,自動運転システムの欠陥が原因でハッキングされたといえるときは,政府がてん補の後に自動車メーカー等へ求償することが考えられるとする。
他方,保有者等が必要なセキュリティ上の対策を講じておらず,保守点検義務違反が認められる場合には,路上等の第三者が自由に立ち入れる場所に長時間エンジンキーを差し込んだまま駐車していた車両が盗まれた場合と同様に,保有者の運行供用者責任が認められる可能性があるとしている。
これは行政の研究会の整理であり,裁判所の判断ではない。
自動運転車の交通違反・事故の責任全般は,自動運転車が交通違反・事故を起こしたら誰が責任を負うか―レベル2・3・4の区別,道路交通法38条,特定自動運行の許可,自賠法3条及び刑事責任で扱っている。

2 肯定方向と否定方向の事情
事情責任を肯定する方向責任を否定する方向駐車場所公道上又は公道に面し,第三者が自由に出入りできる場所塀・門・車庫等により第三者の自由な立入りが制限された場所施錠・鍵ドアを施錠せず,エンジンキーを差したまま又は車内に放置ドアを施錠し,鍵を第三者がアクセスできない場所で保管時間・距離盗難から事故までが時間的・場所的に近い長時間・長距離の走行,給油,運転者の交替等を経ている盗難後の行動盗難届を出さず,探索等もしない発見後直ちに警察及び関係先へ届け出る運転経過所有者の管理状態から直接かつ連続して事故に至る逃走,故意行為その他の独立した事情が介在する

この表は結論を自動的に決める点数表ではない。例えば,盗難から約1時間ないし2時間で事故が起きても責任を否定した裁判例があり,逆に相当期間後の事故でも盗難届を出さなかった事情などから責任を肯定した下級審例があると講演録は整理している。

第3 最高裁昭和48年12月20日判決
1 事案

最高裁判所第一小法廷昭和48年12月20日判決(昭和47年(オ)第268号,民集27巻11号1611頁)は,タクシー会社の営業所内にある車庫から,エンジンキーを差したままのタクシーが窃取され,窃取者が約2時間後に事故を起こした事案である。

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交通事故の債務不存在確認訴訟―症状固定前の提訴と被害者側の対応(AI作成)

目次第1 結論の要旨第2 債務不存在確認訴訟とは1 加害者側から提起する訴訟2 確認の利益第3 確認の利益に関する裁判例1 東京高裁平成4年7月29日判決2 東京地裁平成9年7月24日中間判決3 東京高裁平成23年8月4日判決4 東京高裁平成28年11月2日判決第4 症状固定前に提訴された場合第5 被害者側の対応1 原告と訴訟物を確認する2 症状経過と医療資料を整理する3 反訴その他の手続選択第6 加害者側が提訴前に確認すること第7 出典
第1 結論の要旨

交通事故の加害者又は保険会社から被害者に対して、損害賠償債務が存在しないこと又は一定額を超えて存在しないことの確認を求める訴訟が提起されることがある。これを債務不存在確認訴訟という。
責任の有無又は損害額について現実の争いがあり、訴訟外の交渉では解決していない場合には、加害者側にも法律関係の不安定を解消する利益があるため、原則として確認の利益が認められる。もっとも、損害が流動的・未確定の段階での提訴、加害者側の著しく不誠実な交渉態度又は専ら被害者を困惑させる目的による提訴等では、確認の利益が否定される余地がある。

症状固定前の提訴であるという一事だけで、直ちに訴えが却下されるわけではない。東京高裁平成4年7月29日判決は、症状が固定していない場合には確認の必要性が問題となり得る一方、加害者側が被害者の言い分を正確に把握できず、訴訟で損害を確定する必要がある場合もあるとした。東京高裁平成28年11月2日判決は、症状固定の有無について原告に主張立証の機会を与えないまま訴えを却下した原判決を、審理不尽として取り消した。
被害者側では、誰が、どの債務の不存在確認を求めているかを最初に確認し、症状経過、通院、検査予定及び事故との因果関係を医療資料に基づいて整理する必要がある。

第2 債務不存在確認訴訟とは
1 加害者側から提起する訴訟

通常の交通事故訴訟では、被害者が原告となり、加害者等に損害賠償を請求する。債務不存在確認訴訟では、立場が逆になり、加害者側が原告となって、被害者に対する損害賠償債務が存在しないこと又は一定額を超えて存在しないことの確認を求める。
被害者が訴訟を提起しないまま多額の請求を維持している場合等に、加害者側が法律関係を確定させるために利用するものである。

2 確認の利益

確認の訴えが適法であるためには、判決によって現在の権利又は法律関係の不安定を除去する必要性・実効性がなければならない。交通事故の債務不存在確認訴訟では、被害者が当該債権を主張しているか、責任又は損害額に現実の争いがあるか、判決によって紛争を抜本的に解決できるかが問題となる。
確認の利益は、提訴時だけでなく、口頭弁論終結時の状態で判断される。被害者が反訴として損害賠償を請求した場合、債務不存在確認請求がどの範囲でなお必要かも整理される。

第3 確認の利益に関する裁判例
裁判例事案判断の要点東京高裁平成4年7月29日人身事故。被害者欠席の第1回口頭弁論で原審が訴えを却下責任・損害額に争いがあれば原則として確認の利益を肯定。必要な釈明・審理をせず却下した原判決を取消し東京地裁平成9年7月24日物損事故。休車損害額の交渉が1年以上続いたが合意できず原則肯定。ただし損害未確定、不誠実な交渉、困惑目的等で権利濫用となる場合は不適法となり得る東京高裁平成23年8月4日自賠責保険会社が被害者に直接請求権に基づく債務の不存在確認を請求被害者が保険会社に対する当該債権を主張していないため確認の利益を否定東京高裁平成28年11月2日被害者が脳脊髄液減少症の検査予定を主張。原審が送付嘱託を却下して訴えを却下症状固定等を主張立証する機会を原告に与えず却下したのは審理不尽として原判決を取消し、差戻し
1 東京高裁平成4年7月29日判決

東京高裁平成4年7月29日判決(平成4年(ネ)第1316号、判例タイムズ809号215頁、判例秘書L04720249)は、交通事故による責任の有無、損害額及び過失割合等に争いがあり、訴訟外で解決の見込みがない場合には、被害者が訴訟を提起しないことによる法律関係の不安定を除去するため、加害者側から債務不存在確認を求めることが許されるとした。
他方、症状が未固定で損害が拡大する余地がある場合、被害者から何ら請求されていない場合又は誠意ある協議が続いている場合には、確認の必要性・利益が問題となり得るとも述べた。ただし、それらの事情があれば直ちに確認の利益を否定するのではなく、当事者に主張立証の機会を与えて審理する必要があるとした。

2 東京地裁平成9年7月24日中間判決

東京地裁平成9年7月24日中間判決(平成8年(ワ)第643号、判例タイムズ958号241頁、判例秘書L05230238)は、物損事故の休車損害額について1年以上交渉しても双方の主張に隔たりが残った事案で、確認の利益を肯定した。
同判決は、責任又は損害額に争いがあれば特段の事情がない限り確認の訴えを許す一方、①被害が流動的・未確定の時期の提訴、②加害者側の著しく不誠実な交渉態度により訴訟外解決ができなかった場合、③専ら被害者を困惑させる動機による提訴等で権利濫用となる場合には、確認の利益を否定し得ると整理した。

3 東京高裁平成23年8月4日判決

東京高裁平成23年8月4日判決(平成23年(ネ)第3128号・第4581号、交通民集44巻4号851頁、判例秘書L06620757)は、自賠責保険会社が被害者に対し、自賠法16条1項の直接請求権に基づく支払債務が存在しないことの確認を求めた事案である。
同判決は、債務不存在確認訴訟には、被告が当該債権の存在を主張していることが必要であり、債権の要件事実の一つに争いがあるだけでは足りないとした。被害者は保険会社に対する当該直接請求権があるとは主張していなかったため、確認の利益がないとされた。
加害者本人の損害賠償債務と、自賠責保険会社に対する直接請求権は別の権利関係であるから、「誰が原告で、どの債務の不存在確認を求めているか」を区別する必要がある。

4 東京高裁平成28年11月2日判決

東京高裁平成28年11月2日判決(平成28年(ネ)第3199号、自保ジャーナル1990号62頁、判例秘書L07120895)は、被害者が脳脊髄液減少症の可能性を指摘され、専門医の検査を予定していると主張した事案である。
原審は、加害者側が申し立てた診療記録の送付嘱託を却下し、2回の口頭弁論で審理を終結して、確認の利益を欠くとして訴えを却下した。東京高裁は、既に治癒又は症状固定を一応推認させる証拠が提出されており、加害者側には、医療記録等に基づき、事故による脳脊髄液減少症の発症可能性がないことを主張立証する余地があったとして、主張立証の機会を与えないまま却下したのは審理不尽であると判断した。

第4 症状固定前に提訴された場合

症状固定は、治療を続けても症状の改善が見込みにくく、損害を算定する基礎となる状態が定まった時点をいう。症状固定前には、治療費、休業損害、通院慰謝料及び後遺障害の有無・程度が確定していないため、一度の判決で紛争を解決できるかが問題になる。

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交通事故のドライブレコーダー映像を民事訴訟で使う方法―原本保全・再生環境・コマ送り・速度推定(AI作成)

目次

第1 事故直後に行う原本保全
第2 原本・作業用コピー・提出用データを分ける
第3 再生環境とファイル情報を記録する
第4 映像分析で確認できることと限界

1 コマ送りと時系列表
2 速度・距離の推定
3 映像だけを過信しない

第5 民事訴訟への提出方法
第6 相手方映像の確保と提出命令等
第7 実務チェックリスト
第8 出典及び関連記事

ドライブレコーダー映像は,衝突前後の車両の進行方向,信号表示,制動,衝突位置及び事故後の状況を検討する重要な資料となり得る。

しかし,事故直後の上書き,専用ソフトでなければ読めない記録形式,時刻のずれ,広角レンズによる距離感の変化,GPS速度の遅れ又は補正などがあり,映像ファイルを取得しただけでは十分でない。

本記事では,民事訴訟で利用することを想定し,原本保全,再生環境,分析,提出及び相手方映像の確保を順に整理する。

第1 事故直後に行う原本保全

事故後は録画が上書きされる前に,機器の電源を切るかメモリーカードを取り外し,事故前後を含む全データを保存する。衝撃録画フォルダだけでなく,常時録画,駐車監視,後方カメラ及び音声の各ファイルも確認する。

メモリーカードをそのまま編集又は提出するのではなく,まずカード全体を複製し,元のカードは書込みを避けて保管する。機器本体,カード,車両,取得者,取得日時及び保管場所を記録する。

事故部分だけをスマートフォンで撮影した動画は内容確認には役立つが,元データの代わりにはならない。ファイル名,フォルダ構造,付随データ及び再生ソフトとの関係が失われることがあるためである。

第2 原本・作業用コピー・提出用データを分ける

データは少なくとも次の3層に分ける。

区分用途取扱い

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自動車の名義貸しと運行供用者責任―車検証上の名義人が責任を負う場合(AI作成)

目次第1 結論の要旨第2 運行供用者責任の基本1 自賠法3条の責任2 車検証上の名義だけでは決まらない第3 最高裁平成30年12月17日判決1 事案2 最高裁の判断3 判決から読み取れること第4 名義貸し事案で確認する事情1 名義取得と利用の経緯2 運行への支配と利益3 拒否可能性と監督可能性第5 主張立証のために集める資料第6 名義人側・被害者側の注意点第7 出典
第1 結論の要旨

自動車の車検証上の所有者又は使用者が、実際にはその自動車を使っておらず、事故当時の保管場所さえ知らなかったとしても、それだけで自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任を免れるとは限らない。
最高裁判所第一小法廷平成30年12月17日判決は、名義人が、実際の所有者による自動車の取得と使用を可能にし、事故発生の危険を増大させた上、名義貸しを拒むことができ、事故車の運転について指示・制止することができる立場にあったという事情の下で、運行供用者責任を肯定した。
したがって、名義貸し事案では、車検証の記載だけでなく、①誰が自動車の取得と使用を可能にしたか、②誰が使用を指示・制止できたか、③誰が運行から利益を得たか、④名義貸しを拒否できたか、⑤実際の所有者・運転者との人的関係を具体的に検討する必要がある。

なお、最高裁判決は、あらゆる名義貸しについて当然に責任を肯定したものではない。本記事は、同判決で認定された事実関係と判断理由を基礎に、主張立証上の確認事項を整理するものである。

第2 運行供用者責任の基本
1 自賠法3条の責任

自動車損害賠償保障法3条は、「自己のために自動車を運行の用に供する者」が、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、一定の免責要件をすべて証明しない限り、損害を賠償する責任を負うと定める。
この責任は、人身損害について被害者の保護を図るためのものであり、運転者本人の民法上の不法行為責任とは別に問題となる。

2 車検証上の名義だけでは決まらない

自賠法3条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」に当たるかは、一般に、その自動車の運行を支配し、運行による利益を享受する関係があるかという観点から判断される。
車検証上の所有者名義又は使用者名義は重要な事情であるが、名義があるだけで常に責任を負うとも、実際に運転・保管していなければ常に責任を免れるともいえない。名義が設定された経緯、実際の利用関係、名義人と利用者の関係及び名義人が利用を制御できたかを併せて見る必要がある。

第3 最高裁平成30年12月17日判決
1 事案

最高裁平成30年12月17日判決(平成30年(受)第16号・第17号、判例秘書L07310062)の事案では、実際の所有者は、生活保護を受けていたため自己名義で自動車を所有することができないと考え、同人の弟である名義人に名義を貸すよう依頼した。名義人はこれを承諾し、車検証上の所有者及び使用者となった。
実際の所有者と名義人は別居し、生計も別であった。名義人は事故車を一度も運転したことがなく、保管場所も知らず、維持費等も負担していなかった。事故は、実際の所有者が自ら運転する事故車を、被害者らの乗る自動車に追突させたことによって起きた。

実際の所有者が自己名義で自動車を保有できないと考えたことは、本件の名義貸しに至る事情である。
この判決が、生活保護を受けている人の自動車保有を例外なく禁止したわけではない。
生活保護上の資産の取扱いと、本件の名義人が被害者に対して負う運行供用者責任は、区別して検討する必要がある。
生活保護における自動車保有の取扱いの概要は、成年後見人と生活保護の第5で扱っている。

2 最高裁の判断

最高裁は、名義人が名義貸しをしたことにより、実際の所有者は、生活保護を受けていて自己名義での自動車保有が困難であったにもかかわらず、事故車を取得し使用することができたとした。名義人の名義貸しは、実際の所有者による自動車の取得・使用を可能にし、自動車の運行による事故発生の危険を増大させることに寄与したと評価された。
また、名義人は、実際の所有者から名義貸しを求められても拒むことができた上、事故車の運転について指示をし、又は制止することができる立場にあったとされた。
これらの事情から、最高裁は、名義人が事故車の運行について運行支配を有し、運行利益も有していたとして、運行供用者責任を肯定した。

3 判決から読み取れること

この判決で重要なのは、名義人が事故車を実際に使用・保管していたかだけではなく、名義貸しがなければ実際の所有者が事故車を取得・使用できなかったという関係と、名義人が名義貸しを拒否し、運転を指示・制止できたという関係が重視されたことである。
他方、判決は、名義貸しがあれば一律に運行供用者責任が成立するという抽象的な基準を示したものではない。実際の所有者との人的関係、名義貸しの目的、名義人が自動車の使用に関与し得た程度等が異なれば、結論が異なる可能性がある。

第4 名義貸し事案で確認する事情
1 名義取得と利用の経緯

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未成年者の自転車事故と親の責任―責任能力,民法709条・714条及び自転車保険(AI作成)

目次

第1 未成年者の自転車事故で責任主体を分ける理由
第2 子ども本人の責任―民法709条・712条

1 責任能力がある場合
2 責任能力に一律の年齢基準はない

第3 責任能力がない子の親の責任―民法714条
第4 責任能力がある子の親の責任―民法709条
第5 最高裁平成27年4月9日判決
第6 自転車保険と事故後の確認事項
第7 被害者側・加害者側の実務チェックリスト
第8 出典及び関連記事

未成年者が自転車事故を起こした場合,「親だから当然に賠償責任を負う」,又は「子どもの事故だから本人に責任はない」と一律に処理することはできない。

子ども本人の責任能力の有無により適用条文が分かれ,責任能力がある場合の親の責任は,親自身の具体的な監督義務違反を民法709条により立証できるかが問題となる。

本記事では,子ども本人,親権者その他の監督義務者及び保険会社の関係を整理する。

第1 未成年者の自転車事故で責任主体を分ける理由

事故後は,次の順序で確認する。

事故当時の子どもに責任能力があったか。
責任能力がなければ,民法714条の監督義務者責任が成立するか。
責任能力があれば,子ども本人の民法709条責任に加え,親自身に具体的な監督上の過失があったか。
子ども本人又は親を被保険者とする個人賠償責任保険等があるか。

責任の根拠が異なれば,立証すべき事実,免責の要件及び保険の適用範囲も異なる。

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交通事故による腱板断裂―事故起因性,既存変性,MRI所見,後遺障害等級及び立証資料(AI作成)

◯山中弁護士への事件のご依頼・ご相談は「交通事故のお問い合わせ」から可能です。

交通事故後にMRIで腱板断裂が見つかっても,「画像に断裂があること」と「その断裂が事故で生じたこと」は同じ問題ではありません。腱板断裂には外傷性,変性性及び両者が重なるものがあり,無症候性断裂もあります。事故態様,事故前後の症状,初診所見,画像の撮影時期,慢性変化及び治療経過を時系列で評価する必要があります。

目次

第1 腱板断裂の基礎
第2 事故起因性を判断する資料
第3 MRIその他の画像所見
第4 既存変性と事故による発症・増悪
第5 治療経過と症状固定
第6 後遺障害等級と可動域測定
第7 収集すべき立証資料
第8 出典と証拠上の限界

第1 腱板断裂の基礎

腱板は,肩甲下筋,棘上筋,棘下筋及び小円筋の腱からなり,上腕骨頭を肩甲骨側に引き付け,肩関節を安定させます。断裂には部分断裂と完全断裂があり,症状は夜間痛,運動時痛,筋力低下及び運動障害等です。

日本整形外科学会の一般向け解説は,明らかな外傷によるものは半数で,残りは明確な原因がなく日常生活動作の中で生じると説明しています。また,MRIで腱板部の断裂所見を確認できる一方,断裂があっても保存療法で症状が軽快する例があるとしています。

したがって,「事故後のMRIに断裂」とだけ記載しても事故起因性の立証は完成しません。

第2 事故起因性を判断する資料

事故で腱板断裂が生じたか,既存の断裂が症候化又は増悪したかを検討するときは,少なくとも次の事情を時系列表にします。

① 衝突方向,速度変化,物損の程度,シートベルト,転倒及び肩の直接打撲
② 腕を伸ばして手をついたか,肩をひねられたか等の受傷機転
③ 事故直後からの肩痛,挙上困難,筋力低下及び夜間痛
④ 初診日,初診時の主訴,圧痛,筋力及び可動域

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交通事故でリース車両が損傷した場合の損害賠償―全損・中途解約違約金・評価損・車両保険(AI作成)

目次

第1 リース車両事故で最初に分けるべき問題
第2 誰が何を請求できるか

1 所有者と使用者を確認する
2 契約書と実際の負担を損害項目ごとに確認する

第3 全損・分損とリース契約の処理

1 全損の場合
2 修理可能な場合

第4 中途解約違約金等を扱った裁判例
第5 評価損・車両保険・代車料等

1 評価損
2 車両保険
3 代車料・休車損害

第6 請求前に集める資料と交渉の順序
第7 出典及び関連記事

リース車両が交通事故で損傷したときは,通常の所有車と同じように修理費又は事故時価額だけを計算すれば足りるわけではない。

車両所有者であるリース会社,使用者であるリースユーザー,車両保険を支払う保険会社の関係を分けた上で,車両損害,中途解約金,評価損,代車料及び休車損害の各請求権が誰に帰属し,誰が現実に負担したかを確認する必要がある。

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給与所得者の休業損害―暦日単価・実労働日単価,有給休暇及び休業損害証明書(AI作成)

◯山中弁護士への事件のご依頼・ご相談は「交通事故のお問い合わせ」から可能です。

給与所得者の休業損害は,「事故前3か月の給与を90日で割る」といった一つの式だけで決まるものではありません。連続して完全休業したのか,就労を続けながら通院日に休んだのかにより,暦日を基礎とする方法と実労働日を基礎とする方法を使い分ける必要があります。有給休暇,遅刻・早退,賞与・手当の減額も,休業損害証明書その他の資料により別々に確認します。

目次

第1 給与所得者の休業損害の基本
第2 暦日単価と実労働日単価
1 継続して完全休業した場合2 就労しながら通院した場合3 単価と日数を混ぜないこと
第3 年次有給休暇
第4 遅刻・早退,賞与及び手当
第5 休業損害証明書と添付資料
第6 請求前の確認表
第7 出典と資料の位置付け

第1 給与所得者の休業損害の基本

休業損害は,事故による傷害のため働けなかったことにより生じた収入減その他の財産的損害です。したがって,①事故による傷害,②休業の必要性,③現実の欠勤・遅刻・早退又は有給休暇の使用,④収入への影響,⑤事故との因果関係を資料で示します。

国土交通省の自賠責保険案内は,休業損害を「事故の傷害で発生した収入の減少(有給休暇の使用,家事従事者を含む。)」とし,原則日額6100円,これを超える収入減の立証がある場合は日額1万9000円を限度に実額を支払うと説明しています。これは自賠責保険の支払基準であり,民事訴訟の裁判基準と同じではありません。

第2 暦日単価と実労働日単価
1 継続して完全休業した場合

入院等により休日も含む一定期間を継続して完全休業した場合は,事故前の一定期間の給与をその期間の暦日数で割った平均日額に,休業期間の暦日数を乗じる方法が用いられます。長期間の完全休業では,休日を含めて平均化するため,実労働日単価より日額は低くなりますが,乗ずる日数は多くなります。

2 就労しながら通院した場合

就労を続けながら,実際の出勤日に通院等のため休んだ場合は,事故前の給与を実労働日数で割った実労働日1日当たりの平均額に,現実の休業日数を乗じる方法が事案に適合しやすくなります。勤務日が定まっているパート・アルバイトも,同じ考え方で勤務予定日と実休業日を確認します。

ただし,勤務日が不規則で,事故がなければどの日に勤務したかを確定できない場合は,雇用契約書,シフト表,タイムカード及び事故前数か月の稼働実績から平均化する必要があります。

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保険代位による交通事故の求償金請求―請求原因,必要証拠,認否及び損害項目(AI作成)

目次第1 最初に区別すべき三つの法律関係1 基礎となる損害賠償請求権2 保険契約上の給付関係3 代位により移転する範囲第2 請求権代位と残存物代位1 請求権代位(保険法25条)2 残存物代位(保険法24条)3 民法422条の代位との違い4 代位額の算定に関する裁判例第3 原告側の請求原因の組み立て1 事故と責任原因2 保険契約と被保険者3 保険給付4 代位取得額と請求額第4 必要証拠1 証拠の対応表2 全損車と残存物3 残存価値と所有権移転に関する裁判例第5 被告側の認否・抗弁1 一括否認を避ける2 主な抗弁・争点3 給付額と賠償範囲が一致しない例第6 訴訟・交渉の進め方1 損害額一覧表を共通台帳にする2 示談・回収前の確認第7 出典及び関連記事1 法令・裁判例・裁判所書式2 文献上の実務整理と判例秘書調査3 関連記事

交通事故で保険金を支払った保険会社が加害者又はその保険会社に求償する訴訟では,交通事故の損害賠償請求に加え,保険契約,被保険者,保険給付及び代位の範囲を主張立証する必要がある。

本記事は,車両保険等の損害保険における保険法24条の残存物代位と25条の請求権代位を区別し,訴状,答弁書,証拠及び損害項目の組み立てを整理する。

第1 最初に区別すべき三つの法律関係
1 基礎となる損害賠償請求権

保険会社が代位取得するのは,被保険者が事故により取得した加害者に対する損害賠償請求権である。したがって,事故態様,過失,因果関係,損害額及び過失相殺等について,被保険者自身が請求する場合と同じ検討が必要となる。

保険金を支払った事実だけでは,加害者の責任又は損害額は確定しない。保険約款上の支払対象と,不法行為法上賠償される損害の範囲が一致するかを項目ごとに確認する。

2 保険契約上の給付関係

保険契約者,被保険者,保険の目的物の所有者,保険金請求権者及び実際の受領者が同一とは限らない。車検証,売買・リース契約,保険証券,約款,事故受付記録,損害調査記録及び支払記録を突き合わせる。

3 代位により移転する範囲

保険法25条は,保険者が保険給付を行ったとき,同条所定の限度で被保険者債権に当然に代位すると定める。被保険者に未塡補損害があるときは,その権利が優先するため,支払保険金額と代位取得額を同一視してはならない。

第2 請求権代位と残存物代位
1 請求権代位(保険法25条)

請求権代位は,保険金を支払った保険者が,被保険者の加害者に対する損害賠償請求権等を法律上当然に取得する制度である。代位の対象,保険給付の対象損害,未塡補損害及び回収済額を対応させる。

最高裁平成24年5月29日第三小法廷判決は,人身傷害保険の約款上の代位条項について,被害者に確保されるべき裁判基準損害額を害さない範囲で代位取得額を定めた。個別約款と事案を前提とする判決であるが,被保険者の未塡補損害を先に確認する必要性を示す。

2 残存物代位(保険法24条)

保険法24条は,保険の目的物の全部が滅失し,保険給付が行われた場合に,保険給付額の保険価額又は約定保険価額に対する割合に応じて,目的物に関する所有権その他の物権へ保険者が代位すると定める。

事故車が経済的全損と評価されたというだけで,当然に事故車全部の所有権が保険会社へ移ると断定してはならない。法24条の要件,事故日に適用される約款,保険給付額,保険価額,所有関係及び引渡手続を確認する。

3 民法422条の代位との違い

民法422条は,損害賠償として物又は権利の価額全部を支払った者が,その物又は権利について債権者に代位することを定める。これは損害賠償者の代位であり,保険給付をした保険者の代位を定める保険法24条・25条とは要件と対象を分けて検討する。

4 代位額の算定に関する裁判例

名古屋高裁令和7年4月24日判決(令和6年(ネ)第756号,判例秘書L08020596)は,損害154万9493円,被保険者側過失90%,過失相殺後の損害15万4949円,車両保険金151万9493円という事案で,保険金と過失相殺後損害の合計が損害額を超える12万4949円について保険者の代位を認め,被保険者に3万円を残した。未塡補損害を先に確保する差額計算の具体例である。

京都地裁令和7年3月31日判決(令和2年(ワ)第3559号ほか,判例秘書L08051161)は,人身傷害保険金1971万7207円が支払われていても,事故との因果関係がある損害を限定した上で,既払金等により被害者の損害賠償請求権が全額塡補済みであるとして,保険者の代位請求を認めなかった。保険給付の適否と,第三者に対する原債権の存否・範囲は別に立証する必要がある。

第3 原告側の請求原因の組み立て
1 事故と責任原因

事故日時・場所,当事車両,運転者,事故態様,道路状況,過失及び責任根拠を特定する。実況見分調書,交通事故証明書,写真,ドライブレコーダー,修理資料及び当事者供述を対応させる。

2 保険契約と被保険者

契約締結日,契約者,被保険者,保険期間,被保険自動車,保険金額,免責金額,適用約款及び事故が保険事故に該当することを主張する。契約更新がある場合は,事故日に適用された約款の版を明示する。

3 保険給付

支払日,支払先,支払項目,支払額及び計算根拠を明らかにする。修理工場への直接払,被保険者への差額払,免責金額,残存物控除及び他の回収額を分ける。

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交通事故の休業損害と基礎収入―実収入,賃金センサス,申告外所得及び家事従事者の立証(AI作成)

目次第1 休業損害の計算と対象期間1 基本式2 休業期間と症状固定後を分ける3 休業期間・割合を段階化する第2 給与所得者1 事故前の給与と現実の減収2 有給休暇,欠勤及び賞与第3 自営業者・会社役員1 売上減少ではなく利益減少を確認する2 代替労働・会社役員報酬第4 申告外所得と賃金センサス1 申告所得が原則的な出発点となる理由2 賃金センサスを用いる場面3 申告外所得・賃金センサスの裁判例第5 家事従事者・兼業家事従事者1 家事労働の休業損害2 兼業の場合と二重計上第6 学生・若年者・無職者1 学生・若年者2 無職者第7 立証資料と請求書の作り方1 証拠チェックリスト2 裁判所共通書式との対応第8 出典及び関連記事1 一次資料2 文献上の実務整理と判例秘書調査3 関連記事

交通事故の休業損害は,事故によるけがのため働けず,又は家事に従事できず,症状固定又は治癒までに生じた収入・労働能力の喪失を対象とする。後遺障害逸失利益とは対象期間と立証事項が異なるため,同じ基礎収入を機械的に用いるべきではない。

本記事は,給与所得者,自営業者,会社役員,家事従事者,学生・若年者及び申告外所得が問題となる場合について,計算順序と証拠を整理する。

第1 休業損害の計算と対象期間
1 基本式

休業損害は,一般に「基礎収入の日額×相当な休業日数」で計算する。ただし,実際の減収額を直接把握できるときは,その額が出発点となる。

基礎収入,休業の必要性,休業日数,事故との因果関係及び既払額を別々に確認する。被害者が休んだ日数と,事故により休業が必要であったと認められる日数は常に一致するとは限らない。

2 休業期間と症状固定後を分ける

休業損害は,原則として事故日から治癒又は症状固定までの損害である。症状固定後に後遺障害による減収又は労働能力の低下が続く場合は,後遺障害逸失利益として別に検討する。

入通院期間の全日が当然に休業日となるわけではない。傷病の内容,仕事の内容,医師の指示,実際の勤務状況,在宅勤務や配置転換の可否及び回復経過から相当日数を判断する。

3 休業期間・割合を段階化する

大阪地裁令和元年6月11日判決(判例秘書L07450721)は,入院86日を100%,その後61日を70%,さらに290日を25%として,復職内容と治療頻度に応じて休業割合を段階化した。福岡地裁田川支部令和4年3月11日判決(判例秘書L07751434)も,症状,通院,早期復職及び既往腰痛を考慮し,13日を60%,その後194日を30%とした。

京都地裁令和7年3月31日判決(判例秘書L08051161)は,事故との因果関係がある治療期間を手術前日までに限定し,手術後の勤務先休業は事故との因果関係を否定した。副業についても,収入の存在,休業の必要性及び現実の休業をいずれも認めなかった。事故日から症状固定日までを一律100%とするのではなく,入院,全休,部分復職,回復期に分け,期間ごとの就労制限と実際の稼働を示す必要がある。

第2 給与所得者
1 事故前の給与と現実の減収

事故前3か月の給与を90日で割る方法は実務で用いられることがあるが,法令上の固定式ではない。賃金の締日,賞与,残業手当,歩合給,休業期間の長さ及び季節変動に応じて,より長い期間を比較する必要がある。

休業損害証明書だけでなく,源泉徴収票,事故前後の給与明細,賃金台帳,出勤簿,就業規則及び会社の担当者による説明を照合する。

2 有給休暇,欠勤及び賞与

有給休暇を使用して賃金が減らなかった場合でも,事故がなければ自由に使えた有給休暇を失ったという損害が問題となる。取得日,取得理由,残日数及び会社の取扱いを記録する。

賞与又は昇給への影響を請求するときは,事故がなければ支給された額と事故後の支給額の差だけでなく,査定期間,支給基準及び欠勤との因果関係を示す資料が必要である。

第3 自営業者・会社役員
1 売上減少ではなく利益減少を確認する

自営業者の休業損害は,売上高の減少だけでなく,休業により支出を免れた変動経費を控除した利益の減少を検討する。家賃,リース料,従業員給与等の固定費は休業中も支出が続くことがあり,事業維持のため必要であったかを費目ごとに確認する。

確定申告書,青色申告決算書又は収支内訳書,総勘定元帳,売上台帳,預金通帳,請求書,領収証,予約・受注記録及び事故後の外注費等を用いる。

2 代替労働・会社役員報酬

従業員又は外注先が代替したため売上が維持された場合でも,追加人件費又は外注費が生じたときは,その必要性及び相当性を検討する。売上が維持されたことだけで損害がないとは限らない。

会社役員の報酬減額については,労務提供の対価部分と利益配当的部分を区別し,職務内容,報酬決定資料,会社規模,他の役員・従業員の代替状況及び会社の業績を示す必要がある。

第4 申告外所得と賃金センサス
1 申告所得が原則的な出発点となる理由

申告所得は公的に作成・提出された資料であり,基礎収入の重要な出発点となる。しかし,申告額が実態と異なるとの主張を一律に排斥し,又は本人の説明だけで申告外所得を認めるのはいずれも適切でない。

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兼業家事従事者の休業損害と家事代行費―実収入・賃金センサス・家事分担・二重填補の整理(AI作成)

目次第1 最初に四つの欄へ分ける1 勤務先の減収と家事への支障は別の事実である2 本人・家族・有償サービスの負担を混ぜない第2 家事労働が財産上の損害となる根拠1 最高裁判例2 自賠責支払基準と民事上の損害算定を区別する第3 兼業家事従事者の基礎収入1 実収入と家事労働を機械的に足さない2 実収入が比較的少ない場合3 実収入が平均賃金と同程度又はこれを上回る場合第4 家事の支障と休業割合を立証する1 事故前の家事分担を具体化する2 症状とできない家事を対応させる3 記録は後からまとめて作らない第5 家事代行費その他の代替費用1 現実に支出したことだけでは足りない2 家族が無償で代替した場合第6 二重填補を避けるための照合1 家事項目と期間を横に並べる2 示談案の控除欄まで確認する第7 相談・請求前のチェックリスト第8 出典・資料上の限界1 一次資料2 実務資料と確認範囲

交通事故で負傷した人が仕事を持ちながら家事も担っていた場合、勤務先の給与が減ったかどうかだけでは休業損害を判断できない。反対に、給与の減少と家事への支障を常に二重に加算できるわけでもない。

兼業家事従事者の損害は、①勤務先の欠勤等による現実の減収、②本人が無償で担っていた家事への支障、③家族等が無償で代替した家事、④家事代行・一時保育等へ現実に支出した費用を分け、対象期間と家事項目を対応させて検討する必要がある。本記事は、その整理方法と示談・訴訟で準備する資料を説明する。

第1 最初に四つの欄へ分ける

給与が減っていない場合、家族が家事を代わった場合、家事代行費を支払った場合では、確認する事情が異なる。次の表から自分の状況に近い項目を選び、勤務先の減収と家庭内の支障を分けて整理されたい。

確認したいこと先に読む箇所給与は減っていないが、家事が以前のようにできない第3・第4配偶者や親族が家事を代わった第4・第5家事代行や一時保育などの費用を支払った第5・第6保険会社への説明に向けて何を記録すればよいか第4・第7
1 勤務先の減収と家事への支障は別の事実である

給与所得者又はパートタイマーについては、まず欠勤、遅刻・早退、休職、有給休暇の使用、賞与又は手当の減少等を確認する。勤務先の休業損害証明書、給与明細、源泉徴収票及び就業規則が中心資料となる。

これとは別に、調理、洗濯、掃除、買物、送迎、育児、介護等の家事が事故前後でどう変わったかを確認する。給与が支給され続けたことは、家事への支障がなかったことを当然には意味しない。

2 本人・家族・有償サービスの負担を混ぜない

同じ家事について、本人が時間をかけて行ったのか、同居家族が無償で代わったのか、家事代行業者等へ委託したのかを区別する。次の四欄で日付又は期間ごとに整理すると、請求漏れと二重計上を見つけやすい。

欄確認する損害主な資料①勤務先欠勤等による現実の減収、有給休暇の使用休業損害証明書、給与明細、勤怠、就業規則②本人の家事事故前の担当と、受傷後にできなくなった又は時間を要した家事家事分担表、症状経過、通院記録、日記③家族の代替配偶者、親族等が無償で肩代わりした家事代替した人、内容、日数・時間、勤務への影響④有償の代替家事代行、一時保育、配食等の現実の費用契約書、領収書、利用明細、必要性を示す資料
第2 家事労働が財産上の損害となる根拠
1 最高裁判例

最高裁判所第二小法廷昭和49年7月19日判決(昭和44年(オ)第594号、民集28巻5号872頁)は、家族のための家事労働について、現実の金銭収入を得ていなくても、他人を雇えば相当の対価を支払う必要があること等から、財産上の利益を生ずるものとして評価した。

この判決は死亡事故の逸失利益に関するものである。傷害事故の休業損害について個別の金額又は休業割合が当然に決まるわけではないが、無償の家事労働を「収入がないから損害もない」と扱わない出発点となる。

2 自賠責支払基準と民事上の損害算定を区別する

金融庁・国土交通省告示の自賠責支払基準は、休業損害を原則として1日6100円とし、これを超える収入減の立証がある場合の上限を1日1万9000円とする。また、家事従事者は収入の減少があったものとみなす旨を定めている。

これは自賠責保険の保険金等についての支払基準であり、示談又は訴訟における民法上の全損害を一律に確定する規則ではない。民事上の損害算定では、事故前の家事分担、受傷内容、実際の支障、対象期間、実収入及び代替費用等を具体的に検討する。

第3 兼業家事従事者の基礎収入
1 実収入と家事労働を機械的に足さない

兼業家事従事者には、勤務先での稼働と家庭内での無償労働の双方がある。しかし、実収入と賃金センサスの年額を常に全額加算する方法は、同じ稼働能力又は時間を重ねて評価するおそれがある。

他方、実収入が維持されたという一事だけで、現実に生じた家事への支障又は必要な代替費用まで当然にゼロになるわけでもない。事故前にどの家事を、いつ、どの程度担っていたかから検討する。

2 実収入が比較的少ない場合

パート収入等が賃金センサスの女性労働者の平均賃金を下回る場合、家事労働を含む基礎収入として賃金センサスを参考にすることがある。もっとも、性別、年齢、統計区分及び対象年の選択が自動的に決まるものではなく、本人の家事分担と就労実態に照らして相当性を説明する必要がある。

この場合も、勤務先の減収と、統計賃金を基礎にした家事休業損害を無条件で全額加算するのではない。何を基礎収入に採り、どの期間にどの休業割合を乗じたのかを計算書に明示する。

3 実収入が平均賃金と同程度又はこれを上回る場合

現実の年収が統計上の平均賃金と同程度又はこれを上回る場合、同じ稼働能力を実収入と家事労働で重複評価していないかが強く問題となる。年収だけで結論を出さず、勤務時間、通勤時間、家族構成、家事の担当割合及び代替の実態を示す。

提供された『赤い本講演録2025』の講演は、実収入が女性全年齢平均賃金相当以上で減収がない事案の家事休業損害について否定例がある一方、年齢別賃金センサスや具体的な家事分担を考慮した事例もあると整理している。これは講演者による下級審裁判例の整理であり、本記事作成時に各判決本文を判例秘書で網羅確認したものではない。

第4 家事の支障と休業割合を立証する

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交通事故による眼外傷と外傷性視神経症―後遺障害立証の検査と記録

目次第1 本記事の対象第2 交通事故後に確認する眼症状1 視力障害2 視野障害3 眼球運動障害及び複視4 瞳孔反応第3 外傷性視神経症1 典型的な臨床像2 視神経管骨折の有無3 OCTその他の検査第4 機能性又は非器質性視覚障害との区別1 主観的検査と他覚的所見2 経時的評価第5 事故との因果関係を検討する資料1 受傷機転2 症状出現時期3 事故前資料と他原因第6 後遺障害等級との関係1 医学的診断と等級認定2 労災認定基準の参照3 症状固定時の記録第7 記録収集のチェックリスト1 医療記録2 生活及び就労記録第8 参考資料及び確認範囲
第1 本記事の対象

交通事故後に視力低下,視野障害,複視その他の眼症状が生じた場合,眼球そのものの損傷だけでなく,視神経,眼球運動を担う神経及び中枢神経の損傷を検討する必要がある。
本記事は,眼科診断を代替するものではなく,外傷性視神経症を含む眼外傷について,診療録と検査結果を後遺障害の立証資料としてどのように確認するかを整理するものである。
医学的診断,事故との法的因果関係及び自賠責の障害等級は別の判断であり,一つの検査結果だけで他の判断が自動的に決まるものではない。

第2 交通事故後に確認する眼症状
1 視力障害

片眼又は両眼の見えにくさがある場合,裸眼視力だけでなく,矯正視力,屈折状態,事故前の視力及び検査時の条件を確認する。
自賠責の視力障害は原則として矯正視力を基礎とするため,診療録上の数値が裸眼か矯正後かを区別する必要がある。

2 視野障害

見える範囲の欠損又は狭窄については,静的又は動的視野検査の種類,測定条件及び再現性を確認する。
視野検査は被検者の応答を要するため,複数回の結果と他覚的所見との整合性が重要である。

3 眼球運動障害及び複視

複視は,眼球運動筋,それを支配する脳神経,眼窩壁骨折又は中枢神経の障害によって生じ得る。
どの注視方向で複視が生じるか,正面視又は日常生活で支障があるか,画像上の骨折・筋損傷と対応するかを確認する。

4 瞳孔反応

瞳孔所見は視神経障害の評価に重要である。
相対的瞳孔求心路障害(RAPD)は,左右の眼に交互に光を当てた際の瞳孔反応の差から,一側性又は左右差のある視神経機能障害を示唆する他覚的所見である。

第3 外傷性視神経症
1 典型的な臨床像

外傷性視神経症では,眉毛外側部等への頭部外傷後,片眼性の視力・視野障害が直ちに又は早期に現れ,RAPDが認められることがある。
受傷直後の眼底が正常でも視神経障害を否定できず,数週間後に視神経乳頭の蒼白化が現れることがある。

2 視神経管骨折の有無

CTで視神経管骨折が認められれば重要な所見となるが,骨折が写っていないことだけで外傷性視神経症を否定することはできない。
画像は骨折,眼窩内病変,出血及び脳損傷を確認する資料であり,視力,視野,瞳孔反応及び眼底所見と併せて評価する。

3 OCTその他の検査

光干渉断層計(OCT)は,網膜神経線維層及び黄斑部神経節細胞複合体等の厚さを測定し,視神経障害に伴う構造変化を追跡する資料となる。
受傷直後には異常が明瞭でなくても,時間の経過により菲薄化が現れることがあるため,検査日と受傷日との間隔を確認する。
視覚誘発電位その他の検査を行った場合も,検査の限界と臨床所見との整合性を確認する。

第4 機能性又は非器質性視覚障害との区別

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交通事故の損害額一覧表を事件管理台帳として使う方法―共通書式と主張・証拠・既払金の突合(AI作成)

目次

第1 公式の共通書式と内部管理台帳を区別する
第2 内部管理台帳の基本列
第3 主張と証拠を対応させる
第4 既払金と損益相殺を管理する
第5 ファイル名と版管理
第6 事件の段階ごとの使い方
第7 提出用チェックリスト
第8 出典・関連記事

裁判所の交通事件共通書式は,交通事故訴訟の基本的な主張,損害額,治療費及び相続関係を整理する公式の書式である。

もっとも,共通書式へ金額を入力しただけでは,証拠を受領・確認・提出したか,既払金をどの損害項目へ充当したか,未確認事項が何かまでは管理し切れない。

本記事では,令和8年5月14日版の共通書式を提出書式として尊重しつつ,法律事務所内部で「主張・認否・証拠・既払金・未確認事項」を突合する事件管理台帳として使う方法を説明する。

第1 公式の共通書式と内部管理台帳を区別する
1 公式書式の四つのシート

裁判所が公表する令和8年5月14日版の共通書式は,次の四つのシートからなる。

① 事案の概要
② 損害額一覧表
③ 治療費等集計表
④ 相続等一覧表

共通書式には自動転記及び自動計算の機能があり,基本的な主張,認否・反論,必要書証及び計算を整理するために用いられる。

2 内部管理項目を公式書式へ無理に追加しない

裁判所の詳細マニュアルは,行の挿入又は削除を行わないよう案内している。したがって,事務所独自の確認欄を公式Excelへ無制限に追加するのではなく,提出用の共通書式と内部管理台帳を分ける。

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若年労働者の後遺障害逸失利益―基礎収入と賃金センサスの使い分け

目次第1 若年労働者の基礎収入に関する基本原則第2 現実収入と年齢別平均賃金の比較1 現実収入が年齢別平均賃金と同程度の場合2 現実収入が年齢別平均賃金を大きく下回る場合3 現実収入が年齢別平均賃金を上回る場合第3 基礎収入の選択肢1 事故前年の現実収入2 全年齢平均賃金3 全年齢平均賃金の一定割合4 期間を分ける方法第4 立証資料1 勤務先関係2 本人の職歴及び能力3 健康及び生活状況第5 賃金センサスを利用する際の注意点1 統計区分を明示すること2 事故年との対応3 男女計又は男女別の選択第6 計算と主張の組み立て1 基本式2 複数試算第7 裁判例の読み方第8 参考資料及び確認範囲
第1 若年労働者の基礎収入に関する基本原則

交通事故で後遺障害が残った給与所得者の逸失利益は,原則として事故前の現実収入を基礎とする。
もっとも,若年の被害者は職歴が短く,事故時の収入が将来の稼働能力を十分に示していないことがある。
そこで,おおむね30歳未満の若年労働者について,事故時の収入が賃金センサスの全年齢平均賃金を下回っていても,将来平均賃金程度を得る蓋然性が認められるときは,全年齢平均賃金を基礎収入とする取扱いが問題となる。
年齢だけで自動的に平均賃金を採用するルールではなく,将来の増収可能性を具体的事情から認定する問題である。

第2 現実収入と年齢別平均賃金の比較
1 現実収入が年齢別平均賃金と同程度の場合

事故時の現実収入が同年齢層の平均賃金と同程度である場合,その職業・勤務先に通常期待できる昇給を含めても,全年齢平均賃金を上回る蓋然性が当然に認められるわけではない。
全年齢平均賃金を採用するには,安定した昇給制度,資格取得,昇進可能性その他の特別な事情が必要となる。

2 現実収入が年齢別平均賃金を大きく下回る場合

収入が低い理由を確認する必要がある。
就職直後,試用期間,非正規雇用,修業期間,転職準備,家族事情又は一時的な景気要因であれば,事故時収入だけでは将来の稼働能力を過小評価することがある。
他方,長期間同じ賃金水準で勤務し,昇給又は転職の具体的見込みが乏しい場合には,全年齢平均賃金をそのまま採用しにくい。

3 現実収入が年齢別平均賃金を上回る場合

同年齢層の平均を上回るという事実だけで,全年齢平均賃金を超える収入を長期にわたり得る蓋然性が認められるわけではない。
公務員等の明確な給与表,勤務先の安定した賃金・昇給規程,専門資格に基づく賃金体系,又は家業承継の具体的計画など,収入の継続性を裏付ける資料が必要である。

第3 基礎収入の選択肢
1 事故前年の現実収入

雇用が安定し,事故前年の収入が通常の稼働状況を示す場合の出発点である。
賞与,時間外手当及び各種手当が一時的なものか継続的なものかを確認する。

2 全年齢平均賃金

若年で職歴が短く,事故がなければ平均賃金程度の収入に到達する蓋然性が高い場合に用いられる。
年齢,学歴,資格,職歴,雇用形態,勤務先の規模・安定性,勤務態度,昇給実績,転職可能性,健康状態及び家族状況を総合考慮する。

3 全年齢平均賃金の一定割合

全年齢平均賃金そのものを得る蓋然性までは認めにくいものの,事故時収入を将来にわたり固定するのも不合理な場合,全年齢平均賃金の一定割合を基礎とする方法が考えられる。
割合は年齢だけで決めず,事故時収入と年齢別平均賃金の差,増収を阻んでいた事情が一時的かどうか及び具体的な職業経路によって説明する必要がある。

4 期間を分ける方法

事故時から一定期間は現実収入又は年齢別平均賃金を用い,その後は全年齢平均賃金又はその一定割合を用いる方法もあり得る。
将来の昇給時期又は資格取得時期について具体的な証拠がある場合に,段階的な収入上昇を表現しやすい。

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交通事故前の既存障害と損害算定―加重障害,逸失利益及び素因減額

目次第1 既存障害がある交通事故で最初に分けるべき問題1 検討の順序2 二重控除を避ける視点第2 自賠責保険における加重障害1 自賠法施行令2条2項2 同一部位の判断3 因果関係の判定が困難な場合の自賠責基準第3 民事上の後遺障害逸失利益の算定方法1 基本式2 事故前の現実収入を基礎とする方法3 加重後の損失から既存障害による損失を差し引く方法4 加重後の損失を算定して割合的に減額する方法第4 立証資料の組み立て方1 医学的資料2 就労及び収入資料3 生活状況の資料第5 傷害慰謝料及び後遺障害慰謝料第6 素因減額と二重減額の防止1 素因減額の位置付け2 一段階計算と二段階計算3 確認事項第7 主張立証のための実務チェックリスト1 被害者側2 加害者側第8 参考資料及び確認範囲
第1 既存障害がある交通事故で最初に分けるべき問題

交通事故前から身体障害又は疾病があった被害者については,事故後の障害全部を今回事故の損害として扱うのか,既存障害の影響をどの段階で控除するのかが問題となる。
この場面では,①自賠責保険の加重障害における保険金額の上限,②民事上の後遺障害逸失利益,③既存障害又は疾病を理由とする素因減額を区別する必要がある。
三つは根拠と計算目的が異なるから,自賠責の控除式をそのまま民事損害賠償の計算式に置き換えてはならない。

1 検討の順序

実務上は,次の順序で事実を固定すると整理しやすい。
①事故前の障害部位,機能,等級,治療経過及び就労状況
②今回事故後の障害部位,機能,等級及び日常生活上の支障
③既存障害と今回障害が自賠責上の「同一部位」に当たるか
④事故前の現実収入に既存障害の影響が既に反映されていたか
⑤今回事故によって新たに生じた収入減又は労働能力の低下
⑥これらを逸失利益の基礎収入,労働能力喪失率又は素因減額のどこで評価するか

2 二重控除を避ける視点

事故前の現実収入が既存障害の影響を受けて低くなっていた場合,その現実収入を基礎収入としながら,さらに既存障害の喪失率を機械的に差し引くと,既存障害の影響を二重に控除するおそれがある。
逆に,事故前の就労実績がなく,既存障害がなければ得られたはずの収入を賃金センサス等から推認する場合には,事故前から失われていた部分と今回事故によって新たに失われた部分を分ける必要がある。

第2 自賠責保険における加重障害
1 自賠法施行令2条2項

自動車損害賠償保障法施行令2条2項は,既に後遺障害のある者が同一部位について障害の程度を加重した場合,保険金額を,加重後の障害等級の保険金額から既存障害の等級に応ずる保険金額を控除した額とする旨を定めている。
これは自賠責保険の支払限度額を定める規定であり,民事上の逸失利益について「喪失率の差だけを用いる」ことを直接定めたものではない。

2 同一部位の判断

同一部位であるかは,傷病名が同じ神経系統に属するというだけでなく,身体の部位及び機能障害の内容を具体的に比較して判断する必要がある。
東京高裁平成28年1月20日判決は,既存障害と今回障害が同じ神経系統の障害に分類されても,障害部位と機能が異なる事案で同一部位性を否定したものと紹介されている。
同判決は裁判所ウェブサイトでは確認できず,『判例時報』2292号58頁に掲載されているため,利用時には掲載誌又は契約判例データベースで判決全文を確認する必要がある。

3 因果関係の判定が困難な場合の自賠責基準

国土交通省の自賠責保険金等支払基準は,受傷と死亡又は後遺障害との因果関係の有無の判断が困難な場合,積算した損害額又は保険金額から50%を減額する取扱いを定めている。
この50%減額も自賠責保険の支払基準であり,民事裁判で一律に50%の素因減額を行う一般法則ではない。

第3 民事上の後遺障害逸失利益の算定方法
1 基本式

後遺障害逸失利益は,一般に,基礎収入×労働能力喪失率×就労可能期間に対応する中間利息控除係数によって算定する。

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特殊車両の休車損害を立証する方法―遊休車,レンタル,外注,相当期間及び利益計算(AI作成)

目次

第1 休車損害の意味と基本構造
第2 「特殊性」は相対的に判断する
第3 遊休車がないことの立証
第4 外部からの代替調達と損害拡大防止
第5 相当な休車期間
第6 休車損害の計算
第7 将来の休車損害
第8 実務チェックリスト
第9 出典・参考資料

タンクローリー,霊柩車,レッカー車,クレーン車,検診車その他の特殊な設備又は用途を持つ車両が事故で使用できなくなった場合,通常の乗用車の代車料だけでは営業損失を処理できないことがある。

もっとも,「特殊車両」という名称だけで休車損害が認められるわけではない。事業上の使用必要性,社内の遊休車,外部調達の可否,相当な休車期間及び失われた利益を具体的資料で立証する必要がある。

第1 休車損害の意味と基本構造
1 休車損害とは

休車損害は,営業に用いる車両を事故のため使用できず,相当な修理又は買換期間中に得られなかった利益である。

最高裁判所昭和33年7月17日第一小法廷判決は,事故で損傷した貨物自動車の休車による利益喪失を,具体的理由を示さず全て特別損害として排斥した原判決を破棄した。

2 四つの確認事項

① 事故車を当該事業に使用する必要があったか。
② 社内に代替可能な遊休車又は余力がなかったか。
③ 外部から同等の車両又は代替サービスを合理的に調達できなかったか。
④ 修理又は買換えに必要な相当期間と,その間の純利益喪失はいくらか。

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軽微な交通事故で受傷を否認された場合の主張立証―修理費,初診,診療録,既往症及び事故後の行動(AI作成)

目次第1 結論―修理費だけでは受傷の有無は決まらない第2 最初に作るべき時系列第3 事故態様と車両損傷の立証第4 医学資料の確認第5 既往症,過去の事故及び事故後の行動第6 当事者別の主張立証チェック第7 裁判例を読む際の注意第8 出典・参考資料

車両の修理費が小さい事故では,加害者側又は保険会社から「この程度の衝撃で負傷するはずがない」と争われることがある。

しかし,修理費又は外見上の損傷だけで受傷の有無を決める固定的な基準はない。事故態様,乗員の姿勢,症状の出現時期,初診時の記録,治療経過,既往症及び事故後の行動を相互に照合する必要がある。

本記事では,軽微な交通事故で頚椎捻挫,腰椎捻挫等の受傷を否認された場合に,何を主張し,どの資料で裏付けるかを整理する。

第1 結論―修理費だけでは受傷の有無は決まらない
1 被害者側が証明する対象

民法709条に基づく損害賠償請求では,被害者側が,事故,傷害,事故と傷害との因果関係及び損害を主張立証する。

診断書は重要な証拠であるが,診断名が記載されているだけで因果関係が当然に確定するわけではない。他方,画像上の外傷性所見がないこと又は修理費が低額であることだけで,軟部組織損傷又は痛みが当然に否定されるわけでもない。

2 固定的な金額基準はない

日弁連交通事故相談センター東京支部の「赤い本」2023年版講演録編に収録された「軽微事故における受傷の有無」では,2018年以後の下級審裁判例86件を整理している。

同講演録の整理では,修理費10万円未満でも受傷を認めた例がある一方,修理費30万円を超えても受傷を否定した例がある。これは,10万円又は30万円という境界を示すものではなく,修理費だけでは結論を説明できないことを示す資料である。

第2 最初に作るべき時系列
1 事故から初診まで

次の事項を,事故当日から初診まで時刻順に整理する。

① 衝突の方向,車両の位置,乗員の座席及び姿勢
② 頭部,頚部,腰部等を車内に打ち付けたか,身体がどちらへ動いたか
③ 事故直後に生じた症状と,時間の経過後に生じた症状
④ 警察,保険会社,家族及び勤務先へ伝えた内容と時刻
⑤ 医療機関を選び,受診するまでに要した時間と遅れた理由

事故当日の記憶を後日まとめて書くよりも,警察への説明,保険会社の受付記録,勤務先への連絡,スマートフォンの発着信履歴及び位置情報等の同時期資料と照合する方が証明力は高い。

2 初診から症状固定又は治癒まで

診療日ごとに,主訴,部位・左右,診察所見,検査,診断,処置,処方,通院間隔及び仕事・家事への支障を並べる。

診療録に記載されていない症状を後から追加する場合は,なぜ初期記録に現れなかったかを説明できるか確認する。症状部位の大きな変化,長い治療中断又は治療内容と訴えとの不整合は,因果関係を争う材料となり得る。

第3 事故態様と車両損傷の立証

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自転車同士の事故の過失割合―交差点・追抜き・進路変更・追突・横断の基準(AI作成)

目次

第1 自転車同士の過失割合の現在の基準
第2 基本割合と修正要素の読み方
第3 交差点で直進車同士が衝突した場合
第4 直進車と右折車・左折車の事故
第5 道路外出入・正面衝突の事故
第6 追抜き・進路変更・追突事故
第7 交差点以外で横断した自転車の事故
第8 基本割合を修正する主な事情
第9 事故直後に保存すべき証拠
第10 青切符と民事の過失割合の違い
第11 出典及び関連記事

自転車同士の事故では,自動車事故と同じ基準をそのまま使うのではなく,自転車の速度,不安定性,歩道通行,二段階右折及び児童・高齢者等の事情を反映した基準を確認する必要がある。

赤い本講演録2016には「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」が既に収録されており,少なくとも2016年時点には第一次試案が示されていた。したがって,赤い本講演録2022を第一次試案の初出として扱うのは正確でない。その後,令和8年刊行の別冊判例タイムズ39号は「第6章 自転車同士の事故」を新設し,交差点,同方向,追突及び横断等の類型ごとに基本割合と修正要素を整理した。現在は同号を出発点とし,赤い本講演録2016及びその後の講演録は基準形成の経緯を理解する資料として位置付けるのが相当である。

第1 自転車同士の過失割合の現在の基準

道路交通法上,自転車は軽車両であり,信号,左側通行,一時停止,優先道路,徐行,安全運転,右左折方法及び灯火等の規制を受ける。

もっとも,道路交通法違反があれば直ちに一定の民事上の過失割合になるわけではない。民事上の過失割合は,事故態様,違反と事故発生との関係,予見可能性,回避可能性及び被害者保護の必要性等を踏まえて判断される。

第2 基本割合と修正要素の読み方

次章以下の数字は,別冊判例タイムズ39号が示す典型的な事故の「基本割合」であり,AとBの過失を合計100として表記する。現場の信号,規制,進行方向又は衝突位置が異なれば,別の類型になる。

児童等・高齢者,速度差,右側通行,見通し,合図,著しい前方不注視,スマートフォン使用その他の著しい過失・重過失等により修正されるため,基本割合だけで示談してはならない。

第3 交差点で直進車同士が衝突した場合
1 信号機がある交差点

事故態様AB

A青信号・B赤信号0100

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電動キックボード・モペット事故の責任と保険―車両区分、過失割合、自賠責及び個人賠償責任保険(AI作成)

目次第1 名称ではなく車両区分を確認する1 特定小型原動機付自転車2 一般原動機付自転車又は自動車となる場合3 電動アシスト自転車との違い第2 公道走行の要件と事故後の確認1 特定小型原動機付自転車の基本ルール2 ナンバープレート・自賠責・保安部品第3 民事上の責任と過失割合1 交通違反と過失割合は同一ではない2 確立した一律の基準があるとは限らない3 固定すべき事故状況第4 自賠責保険・共済1 原動機付自転車等には加入義務がある2 被害者請求と加害者請求第5 任意保険と個人賠償責任保険1 保険の名称だけで補償の有無を判断しない2 個人賠償責任保険の車両免責第6 無保険・ひき逃げの場合1 政府保障事業を検討する場面2 被害者側の保険も確認する第7 受任・相談時の確認順序1 車両と保険を先に固定する2 過失割合は証拠を固定してから検討する第8 出典・資料上の限界1 公的資料2 約款・実務資料

電動キックボード又はペダル付き原動機付自転車(モペット)の事故では、製品名や事故時の外観だけで法的な扱いを決めることはできない。最初に車両の構造・性能と事故時の走行状態を確認し、特定小型原動機付自転車、一般原動機付自転車、自動車又は自転車のいずれに当たるかを整理する必要がある。

車両区分が変われば、運転免許、通行方法、ナンバープレート、自賠責保険及び任意保険の確認事項も変わる。本記事は、事故後に固定すべき事実、民事上の過失割合の考え方及び保険請求の順序を説明する。

第1 名称ではなく車両区分を確認する
1 特定小型原動機付自転車

道路交通法施行規則1条の2の2によれば、特定小型原動機付自転車に当たるには、車体が長さ190センチメートル以下・幅60センチメートル以下であり、定格出力0.60キロワット以下の電動機を用い、20キロメートル毎時を超える速度を出すことができない構造であることが必要である。
さらに、最高速度を複数設定できる車両では走行中にその設定を変更できないこと、クラッチの操作を要しないAT機構がとられていること及び最高速度表示灯を備えていることも要件である。
これらの車両区分の要件と、公道を走行するための道路運送車両の保安基準への適合とは、分けて確認する。
事故時に20キロメートル毎時以下で走っていたことだけでは、この区分に当たるとはいえない。

性能等確認制度で基準適合性が確認された型式には表示シールが貼られるが、シールの有無だけで個別車両の状態を決めつけず、型式、改造の有無及び実車を確認する。

2 一般原動機付自転車又は自動車となる場合

外観が電動キックボードでも、特定小型原動機付自転車の基準を満たさなければ、出力や構造に応じて一般原動機付自転車又は自動車の規律に従う。購入時の商品名又は販売サイトの表示だけで判断しない。

モーターの動力だけで走行できるペダル付き車両は、一般にモペットと呼ばれる。ペダルだけで走行していた場合でも、車両自体が原動機付自転車等に当たるかを確認する。国土交通省は、ペダル等を用いた走行も原動機付自転車等の運転に当たることが法改正で明確化されたと案内している。

3 電動アシスト自転車との違い

電動アシスト自転車は、人がペダルを踏む力を一定の基準内で補助する車両であり、基準に適合すれば道路交通法上の自転車として扱われる。スロットル等でモーターのみの走行ができる車両や、基準を超える補助力を持つ車両を、表示だけで電動アシスト自転車として扱わない。

確認対象典型的な区分最初に見る資料・現物基準内の電動アシスト自転車自転車型式認定、アシスト比率、スロットルの有無基準を満たす電動キックボード等特定小型原動機付自転車定格出力、最高速度、寸法、表示灯、適合表示基準外の電動キックボード又はモペット一般原動機付自転車又は自動車定格出力、最高速度、モード、改造、ナンバー
第2 公道走行の要件と事故後の確認
1 特定小型原動機付自転車の基本ルール

警察庁の案内によれば、特定小型原動機付自転車は16歳未満の者が運転してはならず、運転免許は不要である。車道通行が原則であり、信号、左側通行、二段階右折等の規律に従う。ヘルメットの着用は努力義務である。

特定小型原動機付自転車が、道路標識等により通行できるとされた歩道を通行できるのは、道路交通法17条の2の特例特定小型原動機付自転車に当たる場合に限られ、すべての電動キックボードが歩道を走れるわけではない。
そのためには、歩道等を通行する間は最高速度表示灯を点滅させ、点滅させている間は車体の構造上6キロメートル毎時を超える速度を出すことができないこと等が必要であり、警察庁の案内も、アクセルの操作で6キロメートル毎時を超えない速度で走行させているだけでは要件を満たさないとしている。
歩道では、歩道の中央から車道寄りの部分(普通自転車通行指定部分があるときはその部分)を徐行し、歩行者の通行を妨げることとなるときは一時停止しなければならない。
事故地点の標識、最高速度表示灯の点灯・点滅の状態、走行中にモードを切り替えられる構造か及び実際の走行モードを確認する。

2 ナンバープレート・自賠責・保安部品

特定小型原動機付自転車及び一般原動機付自転車について、ナンバープレート、自賠責保険・共済の加入、有効期限及び保安基準適合性を確認する。灯火、方向指示器、制動装置及び警音器等の状態も、事故原因と証拠保全の双方に関係する。

未加入又は期限切れが疑われる場合でも、ナンバープレートがないという外観だけで加入の不存在を断定しない。証明書、標章、契約先への照会及び車台番号等を確認する。

第3 民事上の責任と過失割合
1 交通違反と過失割合は同一ではない

信号無視、通行区分違反、歩道通行、速度、無免許又は自賠責未加入等の違反は重要な事情となる。しかし、刑事・行政上の違反があることから、民事上の過失割合が機械的に決まるわけではない。

民事では、双方の予見可能性と結果回避可能性、道路状況、進行方向、速度、見通し、合図、回避行動及び衝突部位等を具体的に検討する。自転車事故の基準を参考にする場合も、車両区分、速度・加速性能、車体重量及び走行場所の違いを説明する必要がある。

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交通事故車両の評価損―車齢・走行距離・骨格損傷・車種と立証資料(AI作成)

目次第1 評価損の意味と結論1 評価損とは何か2 修理費の一定割合という固定式はないこと第2 最高裁昭和49年4月15日判決1 買替えが社会通念上相当となる場合2 事故時の車両価格の認定方法第3 修復歴車の意味1 自動車公正取引協議会の定義2 修復歴があることと評価損の額は別問題であること第4 評価損の主な判断要素1 車齢・走行距離・事故前の状態2 損傷部位・程度・修理内容3 車種・グレード・市場性第5 立証資料1 事故と修理の資料2 市場価値の資料第6 交渉・訴訟での組み立て1 評価損の存在と金額を分けて主張すること2 講演録の裁判例集計の位置付け第7 出典1 裁判例2 公的・準公的資料及び文献
第1 評価損の意味と結論
1 評価損とは何か

交通事故車両の評価損は,必要かつ相当な修理をしてもなお残る価値の低下をいう。

実務では,修理後も機能・外観に欠陥が残る技術上の評価損と,修理は完了していても事故歴・修復歴によって中古車市場で取引価格が下がる取引上の評価損を区別する。

評価損が認められるか及びその金額は,車齢,走行距離,車種,損傷部位,損傷の程度,修理内容,骨格部位への影響,事故前の状態及び中古車市場での価格差を総合して判断される。

2 修理費の一定割合という固定式はないこと

評価損を修理費の10%,20%又は30%とする裁判例はあるが,修理費に一定率を掛ける法令上の算定式はない。

修理費の割合は,類似事案を比較するための一つの目安にすぎない。高額な部品交換によって修理費が大きくても取引価値への影響が小さい場合があり,反対に,修理費が比較的小さくても骨格部位の修復歴が市場評価に大きく影響する場合がある。

第2 最高裁昭和49年4月15日判決
1 買替えが社会通念上相当となる場合

最高裁判所第二小法廷昭和49年4月15日判決(昭和48年(オ)第349号,民集28巻3号385頁)は,車両が物理的又は経済的に修理不能となった場合のほか,フレーム等の車体の本質的構造部分に重大な損傷が生じたことが客観的に認められ,買替えが社会通念上相当と認められる場合も,事故時価格と売却代金との差額を請求し得るとした。

同判決は評価損だけを直接判示したものではないが,車体の本質的構造部分の損傷を具体的に確認する必要があることを示しており,評価損の立証でも重要な出発点となる。

2 事故時の車両価格の認定方法

判決全文PDFは,中古車の事故時の取引価格を,原則として,同一の車種・年式・型,同程度の使用状態・走行距離等の車両を中古車市場で取得するために要する価格によって定めるとした。

課税又は企業会計上の定率法・定額法による減価償却だけで取引価格を定めることは,特段の事情がない限り相当でない。

評価損の主張でも,帳簿価格だけでなく,事故前後の実際の市場価値を示す資料が重要である。

第3 修復歴車の意味
1 自動車公正取引協議会の定義

自動車公正取引協議会の公正競争規約集は,修復歴を「車体の骨格に当たる部位の修正及び交換歴」と定義する。

対象となる骨格部位は,①フレーム(サイドメンバー),②クロスメンバー,③フロントインサイドパネル,④ピラー(フロント,センター及びリア),⑤ダッシュパネル,⑥ルーフパネル,⑦フロアパネル及び⑧トランクフロアパネルである。

2 修復歴があることと評価損の額は別問題であること

骨格部位の修正又は交換は,中古車取引で表示対象となる重要な事情であり,取引上の評価損を基礎付けやすい。

もっとも,修復歴があるだけで一定額の評価損が自動的に認められるわけではない。損傷の範囲,修理精度,車齢,走行距離,車種及び市場での価格差を併せて立証する必要がある。

反対に,公正競争規約上の修復歴に当たらない外板等の損傷でも,高級車,希少車又は登録後間もない車両について取引価値の低下が問題となることがある。

第4 評価損の主な判断要素
1 車齢・走行距離・事故前の状態

初度登録から事故までの期間が短く,走行距離が少ない車両ほど,事故歴による市場価値の低下が現れやすい。

もっとも,古い車両又は走行距離の多い車両でも,整備状態,希少性,中古車市場での需要等によって評価損が否定されるとは限らない。

事故前からあった傷,修理歴,改造,使用状況及び整備状況も確認する必要がある。

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非接触交通事故の因果関係と過失割合―急制動・転倒・過剰回避と証拠の集め方(AI作成)

目次

第1 非接触事故でも損害賠償責任は生じ得る
第2 因果関係と過失割合を分けて検討する

1 客観的な接触危険があった場合
2 接触危険はなかったが危険を誤認した場合

第3 接触事故の基準を参照する方法
第4 急制動・急ハンドルが過剰であった場合
第5 事故類型ごとの確認事項
第6 事故直後に確保すべき証拠
第7 請求側と防御側の主張整理
第8 判例秘書で確認した裁判例の傾向

1 35件の確認結果
2 過失割合の修正が明確な8件
3 因果関係と急制動に関する判断

第9 出典及び関連記事

非接触交通事故とは,相手車両,歩行者又は自転車との物理的な接触はないものの,相手の進路変更,右左折,飛び出し,幅寄せ等を避けるために急制動又は急ハンドルを行い,転倒,衝突又は積荷の損傷等が生じた事故をいう。

車両同士が接触していないことだけで損害賠償責任が否定されるわけではない。他方,非接触で生じたすべての転倒等が相手方の責任になるわけでもなく,①相手方の運転と回避行動・損害との因果関係,②双方の注意義務違反,③回避行動が損害を拡大したかを順に分けて検討する必要がある。

第1 非接触事故でも損害賠償責任は生じ得る

民法709条に基づく請求では,被害者側が,相手方の故意又は過失,権利侵害,損害及び因果関係を主張立証する。

加害車両が自動車である場合,自動車損害賠償保障法3条の適用が問題となる。同条でも,自動車の運行によって生命又は身体が害されたという因果関係は被害者側が主張立証する必要があり,その関係が認められた後に,運行供用者側が同条ただし書の免責要件を主張立証する。

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既存障害のある年少者の死亡逸失利益―障害等級,平均賃金及び将来の就労可能性(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論1 既存障害があっても基礎収入は機械的に減額されないこと2 大阪高裁令和7年1月20日判決の意義第2 大阪高裁令和7年1月20日判決1 事件と裁判体2 高裁が検討した事情3 障害者一般の平均賃金をそのまま使わなかったこと第3 逸失利益算定の手順1 算定式を確認すること2 事故時の状態と将来予測を分けること3 平均賃金からの減額には具体的な根拠を要すること第4 民事訴訟法248条との関係1 損害額の立証が極めて困難な場合の規定2 割合認定の理由を可視化すること第5 主張立証で集める資料1 本人の機能と生活状況に関する資料2 将来の就労環境に関する資料第6 実務上の注意点1 後遺障害等級と労働能力喪失率を同一視しないこと2 現在の不利益と将来の改善可能性の双方を扱うこと第7 出典1 裁判例2 法令・文献
第1 問題の所在と結論
1 既存障害があっても基礎収入は機械的に減額されないこと

交通事故で年少者が死亡した場合の逸失利益は,原則として,賃金センサスの平均賃金を基礎収入とし,就労可能期間,生活費控除率及び中間利息控除を用いて算定する。

被害者に事故前から障害があった場合でも,障害等級,診断名又は統計上の障害者平均賃金だけから,将来の基礎収入を機械的に減額することは相当でない。

検討の中心は,①事故時の障害の具体的な状態,②教育・訓練と本人の適応状況,③補装具その他の支援手段,④合理的配慮を含む就労環境,⑤就労開始時までに見込まれる医学・技術・社会の変化を踏まえ,被害者が将来どのような職業に就き,どの程度の収入を得られた蓋然性があるかである。

2 大阪高裁令和7年1月20日判決の意義

大阪高等裁判所令和7年1月20日判決(令和5年(ネ)第619号)は,先天性の感音性難聴があった年少者の死亡逸失利益について,賃金センサスの全労働者平均賃金を減額せずに用いた。

同判決は,事故時点の聴力だけでなく,将来の就労開始までの期間,補聴器・手話等の活用,本人のコミュニケーション能力,教育環境,障害者雇用をめぐる社会的認識及び職場環境の変化を具体的に検討している。

この判断は,既存障害があれば直ちに平均賃金から一定割合を控除するという考え方を採らず,個別事情から将来の労働能力を認定する必要があることを示す。

第2 大阪高裁令和7年1月20日判決
1 事件と裁判体

事件は,被控訴人会社の従業員が運転する小型特殊自動車と歩行中の被害者が衝突し,被害者が死亡した交通事故に関する損害賠償請求事件である。

大阪高等裁判所第5民事部の裁判体は,徳岡由美子裁判官,住山真一郎裁判官及び新宮智之裁判官であった。

第一審の大阪地方裁判所令和5年2月27日判決は,基礎収入を全労働者平均賃金の85%とした。これに対し,大阪高裁は,基礎収入を全労働者平均賃金の100%として原判決を変更した。

2 高裁が検討した事情

大阪高裁は,判決全文において,被害者の聴力の程度を出発点としつつ,それだけで将来の収入を決めていない。

具体的には,補聴器の使用状況,口話・手話等によるコミュニケーション,学校生活及び学習の状況,本人の適応の可能性,将来利用できる支援手段,障害者雇用に関する法制度・社会的認識・職場環境の変化等を総合している。

死亡時に就労していない年少者については,現時点の検査値から直ちに成人後の収入を確定できない。他方,将来の可能性を理由なく低く見積もることもできないため,判決は,利用できる具体的資料を積み上げて蓋然性を判断したものである。

3 障害者一般の平均賃金をそのまま使わなかったこと

障害者一般の賃金統計には,障害の種類・程度,年齢,教育歴,職種,雇用形態,労働時間及び合理的配慮の状況が異なる多数の者が含まれる。

したがって,特定の年少者の将来収入を算定する場面で,集団統計をそのまま本人の将来収入と同一視することはできない。統計は重要な資料であるが,本人の具体的な機能,学習状況,適応力及び支援環境との対応関係を説明して用いる必要がある。

第3 逸失利益算定の手順
1 算定式を確認すること

死亡逸失利益の基本式は,「基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」である。

既存障害が争点となる事案では,主として基礎収入の認定が問題となる。もっとも,就労開始年齢,稼働可能期間及び生活費控除率についても,基礎収入と整合する前提を置かなければならない。

2 事故時の状態と将来予測を分けること

事故時の医学的状態は,将来予測の重要な出発点である。しかし,年少者の逸失利益は将来の収入を推計するものであるから,事故時点の機能制限と成人後の職業能力を同一視してはならない。

事故時の状態については診療録,検査結果,学校・療育機関の記録等で確認し,将来予測については,教育・訓練,補装具,技術進歩,職場で可能な配慮及び職業選択の幅を別に検討する。

3 平均賃金からの減額には具体的な根拠を要すること

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配偶者の運転する車に同乗中の事故と被害者側の過失―最高裁昭和51年3月25日判決,婚姻破綻の基準時及び運転者の死亡・相続(AI作成)

目次第1 この記事の対象と確認の方法1 対象と結論の要旨2 確認の方法と資料の性質第2 関係する条文1 過失相殺と責任の根拠2 連帯債務,混同及び相続の規定第3 被害者側の過失の一般論1 最高裁昭和42年6月27日判決2 被害者側に当たるとされた例と当たらないとされた例第4 夫婦の場合―最高裁昭和51年3月25日判決1 事案と判示2 合理性として挙げられた求償関係の一挙解決3 「特段の事情」の基準時4 夫婦の間でも損害賠償請求権は成立する第5 相手方の使用者に請求する場合―事業執行性1 外形から判断する類型2 暴行の類型3 業務運転中の口論からの威嚇運転4 使用者に対しても被害者側の過失は主張される第6 運転していた配偶者が死亡し同乗者が相続した場合1 問題の構造2 改正前の判例3 改正後の見解の対立4 自賠責保険への影響第7 実務での進め方1 過失割合の主張立証2 配偶者側の保険から支払を受けた場合の計算3 自分の側の保険4 チェックリスト第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 法務省の資料4 保険約款
第1 この記事の対象と確認の方法
1 対象と結論の要旨
(1) 取り上げる場面

夫又は妻が運転する自動車に同乗していた人が,第三者の運転する自動車との衝突で負傷し,その第三者やその使用者(勤務先の会社等)に損害賠償を請求する場面を取り上げる。
この場面では,運転していた配偶者にも過失があると,相手方から,配偶者の過失の分だけ賠償額を減らすべきであるという反論が出る。
これが民法722条2項のいわゆる「被害者側の過失」の問題である。
あわせて,相手方の運転者が業務中であった場合の使用者責任,事故後に夫婦関係が破綻した場合,運転していた配偶者が死亡して同乗者が相続した場合の法律関係も扱う。

(2) 結論の要旨

最高裁昭和51年3月25日判決は,夫の運転する自動車に同乗した妻の損害賠償について,夫婦の婚姻関係が既に破綻にひんしているなどの特段の事情のない限り,夫の過失を被害者側の過失として考慮できるとした。
内縁の夫婦についても同じ結論の最高裁判例があり,恋愛関係にとどまる男女や職場の同僚については被害者側の過失に当たらないとした最高裁判例がある。
これに対し,事故の後に婚姻関係が破綻した場合に「特段の事情」を事故時と請求時のどちらで判断するかについては,最高裁判例を確認できなかった。
また,運転していた配偶者が死亡し,同乗者が単独で相続した場合に,相手方の債務がどうなるかについては,平成29年の民法改正後の最高裁判例を確認できず,見解が分かれ得る状態にある。
なお,確認した損害保険会社2社の約款では,運転していた配偶者の任意保険の対人賠償責任保険は配偶者に対する賠償責任を補償の対象外としており,配偶者側からの回収は自賠責保険が中心になる。

2 確認の方法と資料の性質
(1) 確認日と資料

令和8年9月26日に,民法及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)の条文をe-Gov法令検索で取得し,改正前の条文は同日時点のe-Gov法令APIで令和2年3月31日時点の本文を取得した。
裁判例は,裁判所HPの裁判例検索で個別ページと判決全文を確認したものだけを取り上げる。
平成29年改正の立案段階の資料は,法務省HPに掲載された法制審議会民法(債権関係)部会の資料・議事録と,法務省民事局参事官室が作成した中間試案の補足説明で確認し,自動車保険の約款は保険会社がWebで公開しているPDFで確認した。
以下で「最高裁」とあるのは最高裁判所の判決であり,引用部分は判決全文の文言のとおりである。

(2) 司法試験の資料の位置付け

令和7年司法試験論文式試験の民事系科目第1問の設問1⑴及び⑵は,この記事の論点をほぼそのまま出題している。
本記事では,法務省が公表した「令和7年司法試験論文式試験問題出題の趣旨」と「令和7年司法試験の採点実感(民事系科目第1問)」も紹介する。
これらは考査委員が答案に期待した検討の筋道を示す試験資料であり,判例でも行政解釈でもない。
本文で引用するときも,その位置付けを明示する。

第2 関係する条文
1 過失相殺と責任の根拠
(1) 過失相殺

民法722条2項は,「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と定める。
条文上は「被害者に過失があったとき」とされており,被害者以外の者の過失を考慮できるかは,後で述べる判例による解釈に委ねられている。

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死亡事故の損害賠償額は「命の値段」ではない―慰謝料,逸失利益,葬儀費用及び過失相殺の読み方(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 賠償額を構成する損害項目1 逸失利益2 死亡慰謝料3 遺族固有の慰謝料4 葬儀関係費その他の損害第3 判決の認容額がそのまま「被害の大きさ」ではない理由1 責任の成否が先にある2 過失相殺と既払金の控除3 証拠と請求範囲による限界第4 報道や判決要旨を読む順序1 確認すべき九項目2 請求額と認容額の差第5 事故当事者と実務家の確認事項1 被害者・遺族側2 加害者・事業者側第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例と裁判所の検索範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

交通事故,介護事故,医療事故その他の不法行為により人が死亡したとき,判決や報道には「賠償額」という数字が現れる。しかし,その数字は人の命に市場価格を付けたものではない。民事損害賠償の制度が,事故と相当因果関係のある損害を項目ごとに金銭に評価し,責任割合,過失相殺及び既払金等を反映した結果である。

2 結論

死亡事故の賠償額は,原則として,①被害者本人の逸失利益,②被害者本人の死亡慰謝料,③葬儀関係費,④遺族固有の慰謝料,⑤治療費等の事故から死亡までの損害,⑥弁護士費用相当額等を積み上げて算定する。その後,過失相殺,損益相殺又は既払金による控除を行うため,「判決で命がいくらと評価されたか」という読み方は法的に正確ではない。

第2 賠償額を構成する損害項目
1 逸失利益

逸失利益は,事故がなければ将来得られたであろう収入等を現在の金額に換算したものである。収入,年齢,就労可能期間,生活費控除率及び中間利息控除が計算に影響する。就労収入だけでなく,年金の種類や家事労働についても個別の検討が必要である。

この計算は将来の経済的損失の估計であり,生命そのものの価値を収入で序列化する趣旨ではない。収入の差によって逸失利益が異なるのは,失われた収入という財産的損害の大きさが異なるためである。

2 死亡慰謝料

死亡慰謝料は,被害者本人が生命を失ったことによる精神的損害を金銭に評価したものである。実務では基準額を手掛かりとするが,被害者の家庭内での立場,事故の態様,加害者の事故後の対応その他の事情により個別に判断される。

3 遺族固有の慰謝料

民法711条は,他人の生命を侵害した者が,被害者の父母,配偶者及び子に対しても損害賠償責任を負うことを定めている。これは,被害者本人の損害賠償請求権を相続することとは別の,遺族自身の損害である。

契約上の債務不履行責任だけが認められ,不法行為責任が否定された場合には,契約当事者でない遺族の固有の慰謝料が認められないことがある。デイサービス送迎時の転倒死亡事故を扱った福岡地裁平成28年9月12日判決は,その一例である。

4 葬儀関係費その他の損害

葬儀関係費は,実際の支出がすべてそのまま認められるのではなく,事故と相当因果関係のある範囲が問題となる。事故後に治療が続いてから死亡した場合には,治療費,入院雑費,付添看護費,休業損害及び入通院慰謝料等も検討対象となる。

第3 判決の認容額がそのまま「被害の大きさ」ではない理由
1 責任の成否が先にある

裁判所は,まず故意又は過失,契約上の義務違反,因果関係等から責任の成否を判断する。責任が否定されれば,被害が重大であっても賠償命令は出ない。責任が認められても,その義務違反と相当因果関係のある損害の範囲が次に問われる。

2 過失相殺と既払金の控除

被害者側にも事故又は損害の発生・拡大に関係する事情があれば,民法722条2項又は418条により賠償額が減額されることがある。保険金,社会保険給付,使用者からの補償又は先行した支払がある場合には,給付の性質と対応する損害項目に応じて控除が問題となる。

したがって,「請求額」,「裁判所が認定した過失相殺前の損害額」及び「最終的な認容額」は区別しなければならない。

3 証拠と請求範囲による限界

民事裁判は,当事者が請求し,主張し,立証した範囲を前提に判断する。支出の資料がない,収入資料が不十分である,請求自体がされていないといった理由で,判決に現れる金額が実生活での損失の全部を表さないことがある。

第4 報道や判決要旨を読む順序
1 確認すべき九項目

死亡事故の賠償額を読むときは,①誰が誰に請求したか,②債務不履行か不法行為か,③責任が認められた被告は誰か,④死亡との因果関係が認められたか,⑤損害項目ごとの認定額,⑥過失相殺の割合と理由,⑦既払金等の控除,⑧遺族固有の慰謝料の有無,⑨利息と弁護士費用を順に確認する。

2 請求額と認容額の差

請求額は原告が裁判所に判断を求めた金額であり,裁判所の評価額ではない。認容額は,裁判所が責任と損害を認定し,減額要素を反映した後の金額である。二つの数字の差だけから,裁判所が被害を軽く見たとはいえない。

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交通事故の後遺障害訴訟で鑑定人を確保する方法―医事関係訴訟委員会への推薦依頼82件の分析(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 この記事の対象2 使用した資料と集計の方法第2 交通事故の事件も対象になる根拠第3 類型別の件数と依頼先の学会第4 推薦は順調に進むか1 全体の期間2 器質的な障害は順調3 精神・心因・中枢の機能障害は難航しやすい4 線維筋痛症と脳脊髄液漏出症第5 推薦を早く確実に得るための工夫1 鑑定事項を診療科ごとに分ける2 基盤学会を選ぶ3 利害関係と除外の範囲4 原因不明という鑑定もありうる第6 鑑定が解決に果たす役割第7 代理人の実務上の対応第8 関連記事第9 出典1 規則2 医事関係訴訟委員会の資料
第1 この記事の対象と資料
1 この記事の対象

交通事故の損害賠償訴訟では,後遺障害の有無・程度や,事故と症状との因果関係が医学的に争われることが多い。
自賠責保険の等級認定や協力医の意見書だけでは決着せず,裁判所が鑑定を採用する場合もあるが,事故の相手方の保険会社側の医師と利害関係のない鑑定人を見つけるのは容易ではない。

本記事は,最高裁判所の医事関係訴訟委員会に,裁判所が鑑定人候補者の推薦を依頼した事案のうち,交通事故その他の医療過誤以外の人身損害の事案を全て拾い出し,どのような類型で,どの学会に依頼され,推薦がどの程度順調に進んだかを整理するものである。
委員会の推薦の仕組みそのものは,医療訴訟の鑑定人はどう選ばれるかで扱っている。

2 使用した資料と集計の方法

資料は,最高裁判所の医事関係訴訟委員会についてのページに掲載された,第3回(平成14年1月16日)から第37回(令和8年5月27日)までの議事要旨に添付された推薦依頼事案の概要と,推薦依頼事案の経過一覧表である(令和8年9月19日・20日に取得)。
事案の概要は,裁判所が推薦依頼書に書いた要旨を匿名化したものであり,本記事ではさらに抽象化して紹介する。

平成13年の事案から令和7年の事案までを全て見て,被告が医療機関や医師ではなく,交通事故,労働災害,学校事故,暴行,保険事故等による人身損害について,後遺障害,因果関係又は死因が争われた事案を拾った。
事故の後の診療の過失が争点になった医療過誤の事案は除いた。
その結果は82件であった(本記事の集計)。

経過一覧表は平成28年3月の版までしか公表されていないため,平成27年の事案番号の途中以降の事案は,依頼先の学会が決まったところまでしか分からない。
期間や件数は本記事の集計であり,月単位の記載から計算したので1か月程度の誤差がある。

第2 交通事故の事件も対象になる根拠

医事関係訴訟委員会規則2条1号は,民事訴訟事件又は民事調停事件のうち争点若しくは証拠の整理又は裁判をするについて医学又は医療の専門的知識経験を必要とするものを「医事紛争事件」と定め,同条3号は,医事紛争事件の係属する裁判所等の依頼に基づいて鑑定人の候補者を選定することを委員会の事務としている。
対象は医学の専門的知識経験を要するかどうかで決まり,医療過誤の請求に限られていない。

実際にも,82件のうち58件は交通事故の事案であった(人身傷害保険の死因が争われた1件を含む)。
残りの内訳は,労働災害・公務災害・労働事件6件,学校・スポーツ・保育中の事故5件,保険金の請求(死因)2件,暴行2件,その他9件である(本記事の集計)。
第31回(平成31年3月15日)の議事要旨には,医療訴訟ではないが,交通事故や労災の事件で事故とPTSD等の精神疾患との因果関係が「熾烈に争われる」場合には判断に難渋することがあるという委員の発言が記録されている。

推薦を依頼するのは受訴裁判所であり,当事者が直接依頼することはできない。
選定依頼要領は,各裁判体や当事者の努力にもかかわらず鑑定人の選任が困難な事案を基本的な対象としているので,代理人としては,それまでに鑑定人を探した経緯を記録しておき,裁判所に委員会ルートの利用を求めることになる。

第3 類型別の件数と依頼先の学会

82件を争点の類型で分けると,次のとおりである(本記事の集計)。

類型件数主な依頼先の学会骨折,関節,頸椎捻挫等の後遺障害一般29件日本整形外科学会事故と死亡の因果関係・死因8件日本救急医学会,日本脳神経外科学会等高次脳機能障害・脳外傷7件日本脳神経外科学会,日本精神神経学会頸髄・脊髄の損傷6件日本整形外科学会,日本脊椎脊髄病学会PTSD・うつ病等の精神障害5件日本精神神経学会眼の障害5件日本眼科学会CRPS・RSD4件日本整形外科学会難聴4件日本耳鼻咽喉科学会けいれん,ジストニア等の神経症状4件日本神経学会線維筋痛症3件日本整形外科学会等脳脊髄液漏出症3件日本脳神経外科学会等その他4件日本整形外科学会等

後遺障害一般の29件は,ほぼ全て日本整形外科学会に依頼されている。
眼の障害は日本眼科学会,難聴は日本耳鼻咽喉科学会というように,障害の部位に対応する基盤学会が選ばれている。
事故と死亡の因果関係では,死亡に至る経過に応じて,救急医学,脳神経外科,循環器,リハビリテーション医学等の学会が選ばれている。

第4 推薦は順調に進むか

(続きを読む...)交通事故の後遺障害訴訟で鑑定人を確保する方法―医事関係訴訟委員会への推薦依頼82件の分析(AI作成)

自賠責保険の被害者請求・加害者請求の消滅時効―3年の起算点,時効中断申請書及び時効完成後の回収方法(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 根拠条文と期間1 被害者請求と仮渡金2 加害者請求3 政府保障事業4 平成22年3月31日以前の事故は2年第3 起算点と実務の取扱い1 国土交通省の案内による起算日2 条文上の起算点とのずれ3 加害者本人への請求権(5年)とのずれ4 任意保険会社の一括払第4 時効の更新1 加害者への訴えでは止まらない2 時効更新の手続3 手続の注意点第5 政府保障事業の起算点1 最高裁平成8年3月5日判決2 判決の理由と事案3 現在の実務との関係第6 時効完成後の回収方法1 任意保険会社からの支払2 判決に基づく差押え・転付命令3 転付命令の手順と注意点第7 日付で見る計算例1 設例2 読み方第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 その他の資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,交通事故の被害者が自賠責保険会社に直接請求する権利(被害者請求・仮渡金),加害者が賠償金を支払った後に自賠責保険会社に請求する権利(加害者請求),及び政府の自動車損害賠償保障事業(政府保障事業)に対する請求権の消滅時効を整理するものである。
調査基準日は令和8年9月19日である。
加害者本人に対する損害賠償請求権の時効は交通事故の損害賠償請求権の時効はいつから進行するか―症状固定,物損の別進行及び弁護士費用で扱い,消滅時効の全体像は消滅時効に関するメモ書きにまとめている。

2 結論

自賠責保険の請求権の時効は,被害者請求・加害者請求・政府保障事業のいずれも3年である(自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)19条・23条・75条,保険法95条1項)。
平成22年3月31日以前に発生した事故については2年である。

国土交通省の案内では,時効の起算日は次のとおりとされている。
①被害者請求のうち傷害は事故発生日の翌日から3年。
②被害者請求のうち後遺障害は症状固定日の翌日から3年。
③被害者請求のうち死亡は死亡日の翌日から3年。
④加害者請求は加害者が損害賠償金を支払った日の翌日から3年。

注意すべき点は次の3つである。
第一に,加害者本人に対する人身損害の損害賠償請求権は令和2年4月1日施行の民法改正で5年になったが,自賠責保険の被害者請求は3年のままであり,多くの場合,自賠責保険の方が先に時効にかかる。
第二に,加害者に対して訴えを提起しても,自賠責保険会社に対する被害者請求の時効は止まらない。
第三に,期限内に請求できないときは,自賠責保険会社所定の書式で時効の更新(旧法の時効中断)を申請し,保険会社の承認を得ることで,承認の時から新たに3年が進行する。

被害者請求の時効が完成した後でも,加害者の任意保険会社から支払を受けることや,加害者に対する判決に基づいて加害者の自賠責保険金請求権を差し押さえて転付命令を得ること(最高裁昭和56年3月24日判決)により,回収の途が残る場合がある。

第2 根拠条文と期間
1 被害者請求と仮渡金

自賠法19条は,「第十六条第一項及び第十七条第一項の規定による請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知つた時から三年を経過したときは、時効によつて消滅する。」と定める。
16条1項は被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する権利(被害者請求)を,17条1項は損害賠償額の支払のための仮渡金を請求する権利を定めている。
条文上の起算点は,民法724条1号と同じく,被害者又は法定代理人が「損害及び保有者を知つた時」という主観的な起算点である。

2 加害者請求

自賠法15条は,「被保険者は、被害者に対する損害賠償額について自己が支払をした限度においてのみ、保険会社に対して保険金の支払を請求することができる。」と定める。
この保険金請求権の時効について自賠法は定めを置いていないが,同法23条が「責任保険の契約については、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、保険法第一章、第二章(第五節を除く。)及び第五章の規定による。」と定めている。
保険法95条1項は,「保険給付を請求する権利、保険料の返還を請求する権利及び第六十三条又は第九十二条に規定する保険料積立金の払戻しを請求する権利は、これらを行使することができる時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と定めるから,加害者請求も3年である。
加害者請求は賠償金を支払った限度でしかできないから,その「行使することができる時」は支払をした時となる。

3 政府保障事業

(続きを読む...)自賠責保険の被害者請求・加害者請求の消滅時効―3年の起算点,時効中断申請書及び時効完成後の回収方法(AI作成)

交通事故の損害賠償請求権の時効はいつから進行するか―症状固定,物損の別進行及び弁護士費用(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 根拠条文と期間1 民法724条・724条の22 人身損害と物損の期間の違い3 改正前の事故との関係第3 「損害及び加害者を知った時」の基本的な考え方1 最高裁の定式2 予見可能な損害は最初に知った時にまとめて進行する3 時効の起算点と示談・和解の対象範囲は別問題である第4 人身損害の起算点1 傷害部分(治療費・休業損害・傷害慰謝料)2 後遺障害部分3 死亡による損害第5 物損は人身損害と別に進行する1 最高裁令和3年11月2日判決2 事案と帰結3 現行法の下での意味第6 弁護士費用と遅延損害金1 弁護士費用の起算点2 実務上の注意第7 加害者が分からないとき1 加害者を知るまで5年・3年は進行しない2 20年の期間は進行する第8 日付で見る計算例1 設例2 読み方第9 時効の完成を防ぐ手段1 完成猶予・更新の事由2 保険会社との交渉中の注意3 自賠責保険の時効は別に管理する第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,交通事故の被害者が加害者(運転者又は運行供用者)に対して持つ損害賠償請求権について,消滅時効がいつから進行し,何年で完成するかを,損害の種類ごとに整理するものである。
調査基準日は令和8年9月19日である。
自賠責保険会社に対する被害者請求の時効は自賠責保険の被害者請求・加害者請求の消滅時効―3年の起算点,時効中断申請書及び時効完成後の回収方法で,不法行為一般の起算点の考え方は不法行為の損害賠償請求権の消滅時効―3年・5年・20年と「損害及び加害者を知った時」の意義で扱う。
消滅時効の全体像は消滅時効に関するメモ書きにまとめている。

2 結論

交通事故の損害賠償請求権の時効は,一つの事故について一本で進むのではなく,損害の種類ごとに別々に進行する。
現行民法の下では,ケガや死亡による損害(人身損害)は損害及び加害者を知った時から5年,車両の損傷などの物損は損害及び加害者を知った時から3年であり,いずれも事故の時から20年を経過すると時効によって消滅する(民法724条・724条の2)。

損害の種類ごとの起算点の目安は,次のとおりである。
①治療費・休業損害・傷害慰謝料などの傷害部分は,事故日(加害者を知った日)から進行すると考えて管理するのが安全である。
②後遺障害部分は,遅くとも症状固定の診断を受けた時から進行し,自賠責保険の等級認定や異議申立ての結果を待っても起算点は後にずれない(最高裁平成16年12月24日判決)。
③物損は,人身損害と同じ事故で生じたものでも,車両の損傷を知った時(通常は事故日)から別に進行する(最高裁令和3年11月2日判決)。
④死亡による損害は,遺族が死亡の事実と加害者を知った時から進行すると考えられる。
⑤弁護士費用は,弁護士に訴訟を委任し報酬の支払を約束した時から進行する(最高裁昭和45年6月19日判決)。

実務上最も危ないのは物損である。
人身損害の症状固定を待って示談交渉をしている間に,事故から3年で物損の請求権だけが時効にかかることがあり,令和3年判決はまさにその事案である。
加害者が分からない場合は,加害者の氏名・住所を知るまで5年(物損は3年)の時効は進行しないが,事故の時から20年の期間は進行する。

第2 根拠条文と期間
1 民法724条・724条の2

民法724条は,「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。」とした上で,1号で「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。」,2号で「不法行為の時から二十年間行使しないとき。」と定める。
民法724条の2は,人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効について,前条1号の「三年間」を「五年間」と読み替えている。

交通事故で運行供用者の責任を定める自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条の請求権についても,同法4条が「自己のために自動車を運行の用に供する者の損害賠償の責任については、前条の規定によるほか、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定による。」と定めているから,民法724条・724条の2が適用される。
したがって,運転者に対する民法709条の請求権と,運行供用者に対する自賠法3条の請求権のいずれについても,期間の数え方は同じである。

2 人身損害と物損の期間の違い
損害の種類知った時からの期間事故の時からの期間人身損害(傷害・後遺障害・死亡)5年(民法724条1号・724条の2)20年(民法724条2号)物損(車両・積荷・代車料・評価損等)3年(民法724条1号)20年(民法724条2号)

人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については,債務不履行構成でも「知った時から5年・権利を行使することができる時から20年」となる(民法166条1項・167条)。
もっとも,通常の交通事故では被害者と加害者の間に契約関係がないから,不法行為構成が前提となる。
構成ごとの期間の組合せは人身損害の消滅時効の特則―民法167条・724条の2と債務不履行構成・不法行為構成の選び方で扱う。

(続きを読む...)交通事故の損害賠償請求権の時効はいつから進行するか―症状固定,物損の別進行及び弁護士費用(AI作成)

別冊判例タイムズ39号(過失相殺率の認定基準・全訂6版)の改訂点-自転車同士の事故の新設,新しい事故類型,基本の過失相殺率の変更及び高齢者の年齢(AI作成)

目次第1 本記事の対象と改訂点の要約1 対象とする資料2 改訂点の要約第2 全訂6版を使うときの前提1 過失割合ではなく被害者の過失相殺率を定める2 基準ごとの前提条件を確かめる3 基準の番号が変わった第3 自転車同士の事故(第6章)の新設1 新設の経緯2 基準の作り方3 主な基本の過失相殺率4 類型化の限界第4 四輪車同士の事故(第3章)の改訂1 押しボタン式歩行者用信号のある交差点(【Ⅲ-9】)2 道路外から道路に進入する車両(【Ⅲ-50】)3 狭路等のすれ違いが困難な道路における事故(【Ⅲ-53】)4 発進車と後続直進車の事故(【Ⅲ-57】)5 転回車と直進車の事故(【Ⅲ-59】)第5 単車・自転車と四輪車の事故(第4章・第5章)の改訂1 丁字路交差点の出合い頭事故(単車と四輪車)2 丁字路交差点の出合い頭事故(自転車と四輪車等)3 自転車が時速15キロメートル程度を大幅に超える速度で走行していた場合第6 歩行者,高速道路及び駐車場の事故の改訂1 路上横臥者の事故(【Ⅰ-47】,【Ⅰ-48】)2 高速道路上の事故の視認不良3 駐車場内の事故第7 修正要素の「高齢者」の年齢の引上げ1 おおむね65歳以上からおおむね70歳以上へ2 引上げの根拠とされた道路交通法の規定3 65歳以上70歳未満の者の扱い第8 実務上の注意点1 相手方の提示が全訂5版の数値のままでないかを確かめる2 自転車の事故は複数の基準を見比べる3 被害者の過失が大きい事故では請求の順序も検討する4 令和8年4月施行の道路交通法18条3項との関係5 駐車場内事故は事故類型と証拠を先に固定する第9 関連記事第10 出典1 法令2 文献3 所管行政機関の資料
第1 本記事の対象と改訂点の要約
1 対象とする資料

本記事は,令和8年3月30日に発行された別冊判例タイムズ39号『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』(以下「全訂6版」という)が,前版である別冊判例タイムズ38号(全訂5版。以下「全訂5版」という)から何を変えたかを整理するものである。
全訂6版は,菊池憲久・堂薗幹一郎・伊東智和の3名の編であり,はしがきによれば,令和5年度及び令和6年度に東京地方裁判所民事第27部(交通部)に在籍した裁判官が中心となって検討及び執筆をしたものである(全訂6版2頁)。
同書は,昭和50年の別冊判例タイムズ1号以来,平成3年,平成9年,平成16年及び平成26年に改訂されており,全訂6版は全訂5版から約11年ぶりの全訂版となる(同書1頁)。

本記事は,全訂6版のはしがき(1頁~2頁),序章「改訂のポイント」(24頁~28頁),用語集及び改訂に関係する各基準の頁を原本で確認し,令和8年9月19日現在の道路交通法及び同法施行令の条文をe-Gov法令検索で確認した上で,AIを用いて整理したものである。
全訂6版は596頁に及ぶので,本記事は改訂された箇所に対象を絞り,改訂されていない基準の内容は扱わない。
東京地方裁判所民事第27部の担当事件や全訂6版の位置付けは,東京地裁民事第27部(交通部)―担当事件,新受件数,共通書式及び証拠提出で触れている。

2 改訂点の要約

全訂6版の改訂点は,次のとおりである。
①自転車同士の事故に関する章(第6章)を新設した(はしがき2頁,26頁~27頁)。
②第3章,第4章,第5章及び第8章に,新しい事故類型の基準を設けた(【Ⅲ-53】,【Ⅲ-57】,【Ⅳ-58】~【Ⅳ-65】,【Ⅳ-70】,【Ⅴ-58】~【Ⅴ-65】,【Ⅷ-3】,【Ⅷ-5】,【Ⅷ-6】。はしがき2頁)。
③押しボタン式歩行者用信号のある交差点で交差道路から進入した車両の基本の過失相殺率を30%から20%に下げた(【Ⅲ-9】。25頁)。
④道路外から道路に進入する車両と直進車の事故について,右折と左折の基準を統合し,直進車の基本の過失相殺率を20%から10%に下げた(【Ⅲ-50】。25頁)。
⑤転回中の事故と転回終了直後の事故の基準を統合した(【Ⅲ-59】。25頁)。
⑥高速道路上の事故で,追突車側の視認不良の修正率を-10%から-10%~-30%に広げた(27頁)。
⑦修正要素の「高齢者」の意味を,おおむね65歳以上からおおむね70歳以上に引き上げた(28頁)。
⑧路上横臥者の事故で,泥酔して横臥していた場合には児童・高齢者等の修正要素を適用しないこととした(【Ⅰ-47】,【Ⅰ-48】。24頁)。
⑨自転車が時速15キロメートル程度を大幅に超える速度で走行していた場合の扱いを定めた(25頁~26頁)。
⑩各章の冒頭にあった用語の説明を序章の用語集にまとめ,基準の番号を「章番号+章ごとの通し番号」に改めた(28頁)。

第2 全訂6版を使うときの前提
1 過失割合ではなく被害者の過失相殺率を定める

全訂6版は,各当事者の「過失割合」ではなく,被害者(損害賠償請求権の権利者)の「過失相殺率」の判断基準を定めるものである(はしがき1頁)。
過失相殺率を定めるに当たっては,事故当事者の純粋な過失割合だけでなく,被害者の要保護性,危険責任の原則及び優者危険負担の原則の観点も考慮すべきであるという考え方によっているからである(同頁,22頁~23頁)。
そのため,事故車両の種別が異なるだけで他の事故態様が同じであっても,過失相殺率が異なることがある(はしがき1頁)。

2 基準ごとの前提条件を確かめる

全訂6版の各基準は,典型的な事故態様を前提として基本の過失相殺率を定めたものであり,基準ごとに適用の前提となる条件を設けている(はしがき1頁)。
前提条件を誤ったまま基準を当てはめると,同書が想定する過失相殺率とは異なる結果になりかねないとされている(はしがき1頁)。
また,実際の事故態様は千差万別であるから,事故態様や個別事情を捨象して機械的に当てはめるのではなく,基本の過失相殺率と修正要素の背景にある考え方を理解して柔軟に用いることが望まれるとされている(はしがき1頁~2頁)。

(続きを読む...)別冊判例タイムズ39号(過失相殺率の認定基準・全訂6版)の改訂点-自転車同士の事故の新設,新しい事故類型,基本の過失相殺率の変更及び高齢者の年齢(AI作成)

人身傷害保険金を受け取った後も加害者に遅延損害金を請求できるか―最高裁平成24年2月20日判決と保険代位の範囲(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 最高裁平成24年2月20日判決の事案と判断1 事案の概要2 遅延損害金の請求権は代位取得されないとした判断3 過失がある場合の代位の範囲(裁判基準差額説)4 保険法25条との関係第3 被害者が加害者に請求できる遅延損害金の範囲と計算例1 請求できる遅延損害金の範囲2 計算例1(被害者に過失がない場合)3 計算例2(被害者に過失がある場合)第4 無保険車傷害保険金との比較1 最高裁平成24年4月27日判決①(保険金額の算定)2 同判決②(保険金の支払債務の遅延損害金の利率)3 両判決に共通する考え方と違い第5 実務上の確認事項1 約款に遅延損害金を支払う定めがあるか2 人傷先行か賠償先行か3 示談や和解で遅延損害金を落とさないこと4 人身傷害保険以外の保険との区別5 保険会社が加害者に求償する場面(最高裁平成24年5月29日判決)第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,交通事故の被害者が自分の加入する自動車保険の人身傷害条項に基づいて保険金(以下「人傷保険金」という。)を受け取った後,加害者に対して,事故日から人傷保険金の支払日までの遅延損害金を請求できるかを扱う。
調査基準日は令和8年9月19日である。
中心となる裁判例は,最高裁判所第一小法廷平成24年2月20日判決(平成21年(受)第1461号,民集66巻2号742頁)であり,比較の対象として,無保険車傷害保険金に関する最高裁判所第二小法廷平成24年4月27日判決(平成21年(受)第1923号,集民240号223頁)を取り上げる。

人傷保険金と過失相殺の関係(いわゆる裁判基準差額説)や,人傷先行・賠償先行の選択の全体像は,既存記事の人身傷害保険の補償範囲と請求順序―人傷先行・賠償先行,保険代位及び自賠責回収及び過失相殺と素因減額が併存する場合の人身傷害保険会社の代位の範囲――最高裁令和7年7月4日判決で説明している。
本記事では,それらとの重複を避け,遅延損害金の帰属に焦点を当てる。

2 結論

約款に保険会社が損害元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めがない人身傷害条項に基づいて保険金を支払った保険会社は,損害金元本の支払請求権(被害者に過失があるときは,裁判基準差額説による範囲)を代位取得するだけであり,その元本に対する遅延損害金の支払請求権は代位取得しない(最高裁平成24年2月20日判決)。
したがって,被害者は,人傷保険金を受け取った後も,加害者に対し,事故日から人傷保険金の支払日までの遅延損害金を請求できる。
この遅延損害金は,保険会社に移った元本部分に対応するものも含め,支払日時点の損害金元本の全体について計算される。
人傷保険金の支払日の翌日以降に被害者が請求できる遅延損害金は,被害者に残った元本に対するものだけとなる。

利率は,事故日が令和2年3月31日以前であれば年5%,令和2年4月1日以後であれば年3%となるのが原則である。
無保険車傷害保険金についても,最高裁平成24年4月27日判決は,同じく約款上遅延損害金を塡補しない保険であることを前提に,保険金額の算定で遅延損害金への充当を考慮しないとした。
もっとも,いずれの結論も「約款に遅延損害金を支払う定めがないこと」を前提とするから,実際の事件では,契約時の約款を確認する必要がある。

第2 最高裁平成24年2月20日判決の事案と判断
1 事案の概要

平成17年5月1日,道路を横断中の歩行者Aが自動車に衝突されて負傷し,同年11月26日に死亡した。
Aの両親である原告らが,運転者に対して民法709条に基づき,保有者に対して自賠法3条に基づき,損害賠償を請求した事案である(判決全文2頁)。

Aの損害は合計7,828万2,219円,Aの過失割合は10%であり,過失相殺後の損害金は7,045万3,997円であった。
原告らは共済組合から123万9,297円,保有者から793万0,904円の支払を受け,過失相殺後の残元本は6,128万3,796円となっていた。
その後,平成19年10月25日,原告らは,原告の一人(X1)が契約していた自動車保険の人身傷害条項に基づき,人傷保険金5,824万6,898円を受け取った(判決全文2頁~4頁)。

判決が確定事実として挙げる約款の内容のうち,本記事に関係するのは次の2点である。
①代位条項は,保険会社が「その損害に対して支払った保険金の額の限度内で,かつ,保険金請求権者の権利を害さない範囲内で」,保険金請求権者が他人に対して有する権利を取得するというものであった。
②「本件約款には,訴外保険会社が上記(6)アの損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めはない。」とされた(判決全文4頁)。

原審は,人傷保険金を,旧民法491条に準じて,まず残元本に対する支払日までの遅延損害金762万2,696円に充当し,残りを元本に充当するという処理をした(判決全文5頁~6頁)。
最高裁は,この処理を是認しなかった。

2 遅延損害金の請求権は代位取得されないとした判断
(1) 判決の理由

(続きを読む...)人身傷害保険金を受け取った後も加害者に遅延損害金を請求できるか―最高裁平成24年2月20日判決と保険代位の範囲(AI作成)

労災保険給付と自賠責保険の直接請求が競合する場合―最高裁平成30年9月27日判決と国への支払の効力(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 第三者行為災害と自賠責保険の直接請求権1 労災保険法12条の4の求償と控除2 自賠法16条1項の直接請求権と国への移転3 競合が生じる場面第3 最高裁平成30年9月27日判決(被害者は国に優先する)1 事案2 判断3 理由4 計算例(案分説との比較)5 同じ判決の自賠法16条の9に関する判断第4 最高裁令和4年7月14日判決(国への支払は有効な弁済)1 事案2 判断3 「相対的な優先劣後関係」の意味4 この判決が判断していないこと第5 実務上の対応1 自賠先行と労災先行2 厚生労働省の事務処理基準3 労災保険給付を受ける事案では被害者請求を早く行う4 自賠責保険会社への連絡5 国に支払われてしまった場合6 示談と遅延損害金第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,業務中又は通勤中の交通事故(第三者行為災害)で労災保険給付を受けた被害者が,加害車両の自賠責保険会社に対して自賠法16条1項の直接請求(被害者請求)をする場面を扱う。
この場面では,労災保険給付をした国も,労災保険法12条の4第1項により被害者の直接請求権を取得して自賠責保険会社に請求するため,被害者の請求と国の請求が同じ自賠責保険金額の枠を取り合うことがある。
本記事の調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で確認した。

2 結論

①被害者の直接請求権の額と国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときでも,被害者は,国に優先して自賠責保険金額の限度で支払を受けることができる(最高裁平成30年9月27日判決)。
②もっとも,この優先は被害者と国との間の相対的な優先劣後関係にとどまり,自賠責保険会社が国の請求を受けて国に対して自賠責保険金額の限度でした支払は,有効な弁済に当たる(最高裁令和4年7月14日判決)。
③そのため,国に先に支払われると,被害者は自賠責保険会社に残額を請求できなくなる。
④国が被害者に不当利得返還義務を負うかどうかについて,令和4年判決は「別論である」と述べるにとどまり,返還義務があると判断したわけではない。
⑤実務上は,労災保険給付を受ける事案では被害者請求を早く行い,未塡補損害が自賠責保険金額を超える見込みであることを自賠責保険会社に早めに伝えることが考えられる。
⑥厚生労働省の「第三者行為災害事務取扱手引」は,平成30年4月版では按分比例による支払を前提としていたが,令和2年4月版の改正点に被害者請求が求償に優先する旨を掲げており,令和4年判決の後に取扱いを変更した通達は見当たらなかった。

令和4年判決は,平成30年判決の被害者優先の考え方を保険会社の支払の効力にまで広げた判決ではない。
むしろ,被害者優先は保険会社の弁済の効力を左右しないとして,その及ぶ範囲を限定した判決である。

第2 第三者行為災害と自賠責保険の直接請求権
1 労災保険法12条の4の求償と控除

労災保険法12条の4は,次のとおり定める。
「政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。」(1項)
「前項の場合において、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる。」(2項)

厚生労働省「第三者行為災害のしおり」は,1項による調整を「求償」,2項による調整を「控除」と呼んでいる(同しおり8頁~9頁)。
労災保険給付が先に行われた場合は国が被害者の損害賠償請求権を取得して加害者側に請求し,損害賠償が先に行われた場合は国がその価額の限度で労災保険給付をしないという仕組みである。
控除と損益相殺の計算順序は,損益相殺とは―労災保険給付・年金・保険金の控除と計算順序で扱っている。

2 自賠法16条1項の直接請求権と国への移転

自賠法16条1項は,「第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。」と定める。
これが被害者請求と呼ばれる直接請求権である。
最高裁令和4年7月14日判決は,直接請求権が加害者に対する自賠法3条の損害賠償請求権と同額のものとして成立し,労災保険給付が行われた場合には労災保険法12条の4第1項によりその給付の価額の限度で国に移転し,国はその限度で直接請求権を取得すると述べている。

したがって,労災保険給付を受けた被害者の直接請求権は,労災保険給付の価額に相当する部分が国に移り,被害者の手元には労災保険給付を受けてもなお塡補されない損害(以下「未塡補損害」という。)に対応する部分が残る。
国は,移転を受けた直接請求権に基づき,自賠責保険会社に請求することになる。

3 競合が生じる場面

(続きを読む...)労災保険給付と自賠責保険の直接請求が競合する場合―最高裁平成30年9月27日判決と国への支払の効力(AI作成)

交通事故の既払金は元本と遅延損害金のどちらに充当されるか―自賠責保険金と任意保険の支払の違い(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 弁済の充当に関する民法の規定1 元本・利息・費用の充当順序(民法489条)2 指定充当(民法488条)との関係3 合意による充当(民法490条)4 改正前の条番号と経過措置第3 自賠責保険金は遅延損害金に先に充当される1 最高裁平成16年12月20日判決2 最高裁大法廷平成27年3月4日判決による変更の範囲3 自賠責保険会社自身の遅延損害金との区別4 元本充当の合意・指定の主張を退けた下級審裁判例第4 任意保険会社の内払・一括払と元本充当1 任意保険金の支払と黙示の合意2 元本充当と遅延損害金の免除の区別3 一括払の場合4 裁判所HPで確認できた下級審裁判例第5 社会保険給付・人身傷害保険金・無保険車傷害保険金との違い1 労災保険給付・公的年金給付2 人身傷害保険金3 無保険車傷害保険金第6 計算例1 前提2 遅延損害金に先に充当する場合(自賠責保険金)3 元本に充当するが遅延損害金は残る場合4 元本に充当し,その元本に対する遅延損害金を免除する場合5 比較第7 示談・請求書面での実務上の注意1 既払金の内訳を確認する2 人損と物損を分ける3 請求書面での書き方第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,交通事故の被害者が加害者に損害賠償を請求する場面で,既に支払を受けた金銭(既払金)を損害金の元本と遅延損害金のどちらに充当するかを扱う。
対象は,自賠責保険金,任意保険会社の内払・一括払,労災保険給付・公的年金給付,人身傷害保険金及び無保険車傷害保険金である。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で確認した。

遅延損害金がいつから発生するか(起算日)と,何%で計算するか(利率)は,それぞれ不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するかと遅延損害金の利率は年3%か年5%かで扱う。
遅延損害金全体の概要は遅延損害金に関するメモ書きを参照されたい。

2 結論

結論は次のとおりである。
① 民法は,元本のほか利息等を支払うべき場合に,全部を消滅させるのに足りない給付がされたときは,費用,利息,元本の順に充当すると定めている(民法489条1項。改正前は491条1項)。
② 自賠責保険金が,支払時の損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金にまず充当される(最高裁平成16年12月20日判決)。
③ 最高裁大法廷平成27年3月4日判決は平成16年判決を変更したが,変更の対象は遺族補償年金についての判断と抵触する限度であり,自賠責保険金を遅延損害金に先に充当するという部分は変更の対象になっていないと考えられる。
④ 任意保険会社の支払(内払・一括払)は,当事者間の合意によって元本に充当されることがあり,最高裁平成22年9月13日判決の事案では,元本に充当し,その元本に対する遅延損害金を免除する旨の黙示の合意が認定されていた(下級審の例は第4の4)。
⑤ 労災保険給付・公的年金給付は遅延損害金ではなく損害の元本と調整し,人身傷害保険金を支払った保険会社は損害金元本の請求権だけを代位取得し,無保険車傷害保険金は損害元本から自賠責保険金等の全額を差し引いて算定する。
⑥ どの充当方法によるかで,残る元本と遅延損害金の額が変わるから,示談案や請求書面では,既払金の支払者,支払日,金額及び充当先を一つずつ確認する必要がある。

第2 弁済の充当に関する民法の規定
1 元本・利息・費用の充当順序(民法489条)

民法489条1項は,次のとおり定めている。
「債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。」

条文の文言は「利息」であるが,最高裁平成16年12月20日判決は,不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金について,改正前の民法491条1項を参照して,遅延損害金にまず充当されると判断している(第3の1)。
不法行為に基づく損害賠償債務は,催告を要せず損害の発生と同時に遅滞に陥るから(最高裁昭和37年9月4日判決),交通事故の場合,事故日から支払日までの遅延損害金が既払金の支払時点で既に発生していることになる。

2 指定充当(民法488条)との関係

民法488条は,同種の給付を目的とする数個の債務がある場合に,弁済をする者が給付の時に充当すべき債務を指定でき(1項),弁済をする者が指定しないときは弁済を受領する者が指定できる(2項)と定めている。
ただし,同条1項は,指定充当ができる場面から「次条第一項に規定する場合」を除いている。
したがって,元本のほか遅延損害金を支払うべき場合に,弁済をする者が一方的に「元本に充当する」と指定しても,民法489条1項の順序を変えることはできない。

民法489条2項は,費用,利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて,488条を準用している。
これは,例えば複数の債務の遅延損害金の一部だけを消滅させる給付がされた場合に,どの債務の遅延損害金に充てるかを決める規定であり,元本と遅延損害金の順序そのものを変える規定ではない。

3 合意による充当(民法490条)

民法490条は,次のとおり定めている。

(続きを読む...)交通事故の既払金は元本と遅延損害金のどちらに充当されるか―自賠責保険金と任意保険の支払の違い(AI作成)

自賠責保険の被害者請求と遅延損害金―自賠法16条の9の「必要な期間」,利率及び訴訟提起の実益(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象とする場面2 結論第2 被害者請求による支払債務の性質1 自賠法16条1項の被害者請求2 保有者の保険金請求権の変形ではない第3 保険会社が遅滞に陥る時期1 最高裁昭和61年10月9日判決(請求時に遅滞)2 自賠法16条の9の新設3 「必要な期間」の意義4 「必要な期間」の目安5 被害者が調査に応じない場合第4 遅延損害金の利率1 年5%か年3%か2 商事法定利率は適用されない第5 訴訟提起の実益1 遅延損害金は訴訟でなければ得にくい2 支払基準によらない算定3 過失相殺の扱い4 保険金額の上限と遅延損害金5 訴訟を選ぶ前に確認すること第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象とする場面

本記事は,交通事故の被害者が,加害車両の自賠責保険会社に対し,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)16条1項に基づいて損害賠償額の支払を直接請求する場合(被害者請求)に,保険会社がいつから遅延損害金を負担するか,その利率は何%か,及び遅延損害金との関係で訴訟を提起する実益があるかを扱う。
調査基準日は令和8年9月19日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で確認したものに限っている。

加害者本人に対する不法行為に基づく損害賠償請求の遅延損害金(事故日から発生する。)は,不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するかで扱う。
遅延損害金に関する論点の全体像は,遅延損害金に関するメモ書きにまとめている。

2 結論

結論は次のとおりである。

① 被害者請求による保険会社の支払債務は,被害者が保険会社に対して有する固有の損害賠償請求権に対応するものであり,保有者の保険金請求権の変形ではなく,商行為によって生じた債務にも当たらない(最高裁昭和57年1月19日判決)。
② 保険会社は,請求を受けた後,事故及び損害賠償額の確認をするために「必要な期間」が経過するまでは遅滞の責任を負わない(自賠法16条の9第1項)。
③ この規定は,保険法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成20年法律第57号)によって新設され,平成22年4月1日に施行された。
それより前は,請求を受けた時に遅滞に陥るとされていた(最高裁昭和61年10月9日判決)。
④ 「必要な期間」は,保険会社が事故及び損害賠償額の確認に要する調査をするために必要とされる合理的な期間であり,取得資料の内容・取得時期,争いの有無・内容,交渉経過等の事情を考慮して個別に判断され,訴訟で請求した場合も同じである(最高裁平成30年9月27日判決)。
法令にも判例にも一律の日数の定めはない。
⑤ 利率は,必要な期間が経過して遅滞に陥った時点の法定利率である。
その時点が令和2年4月1日以後であれば,事故が令和2年3月以前であっても年3%となり得る。
⑥ 訴訟外の被害者請求は支払基準に従った支払であり,遅延損害金を加算する定めは支払基準に置かれていない。
訴訟では,支払基準によらずに損害賠償額が算定され(最高裁平成18年3月30日判決),遅延損害金も請求の対象になる。
もっとも,過失相殺が支払基準より厳しく働くことがあるなど,訴訟が常に有利とは限らない。

第2 被害者請求による支払債務の性質
1 自賠法16条1項の被害者請求
(1) 条文

自賠法16条1項は,「第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。」と定める。
これが被害者請求である。
加害者(被保険者)が被害者に賠償金を支払った後に,その支払の限度で保険会社に保険金を請求する被保険者請求(自賠法15条)とは,請求の主体と根拠条文が異なる。

責任共済(JA共済等)についても,自賠法23条の3第1項により,12条から23条の2までの規定が準用される。
したがって,本記事で述べる16条1項及び16条の9の扱いは,責任共済にもそのまま当てはまる。

(2) 支払基準との関係

(続きを読む...)自賠責保険の被害者請求と遅延損害金―自賠法16条の9の「必要な期間」,利率及び訴訟提起の実益(AI作成)

遺族補償年金・遺族厚生年金と遅延損害金―不法行為時に塡補されたとみる最高裁大法廷平成27年3月4日判決(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論第2 損益相殺的調整に関する最高裁判決の流れ1 最高裁平成16年12月20日判決(遅延損害金への先充当)2 最高裁平成22年9月13日判決(傷害・後遺障害事案)3 最高裁平成22年10月15日判決と補足意見4 最高裁大法廷平成27年3月4日判決(死亡事案・判例変更)第3 損益相殺的調整の対象と範囲1 調整の相手は同性質・相互補完性のある損害の元本2 慰謝料・遅延損害金とは調整しない3 口頭弁論終結時までに支給され又は支給が確定したもの4 受給権者である相続人の損害からだけ控除する5 「特段の事情」第4 遺族厚生年金はどうなるか1 平成16年判決は遺族厚生年金も遅延損害金に先充当していた2 平成27年判決が直接判断したのは遺族補償年金3 平成22年9月13日判決は公的年金給付を含む4 遺族厚生年金にも同じ考え方が及ぶと考えられる理由5 最高裁の直接の判断の有無(調査結果)6 平成27年判決後の下級審裁判例(裁判所HP掲載分)第5 自賠責保険金は変更されていない第6 計算例1 設例2 平成27年判決の方法(元本と調整)3 平成16年判決の方法(遅延損害金に先に充当)4 差額の意味第7 実務上の確認事項1 遺族厚生年金を元本と調整するときの主張2 労災保険給付と損益相殺全般第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献
第1 本記事の対象と結論
1 対象

本記事は,被害者が不法行為(交通事故,過労死等)によって死亡し,その相続人が労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償年金又は厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金を受け取った場合に,加害者に対する損害賠償請求の遅延損害金がどう計算されるかを扱う。
調査基準日は令和8年9月19日である。
判決の内容は,裁判所HPに掲載された各判決の全文で確認した文言に基づいて説明する。

2 結論

①遺族補償年金は,逸失利益等の消極損害の元本との間で損益相殺的な調整を行い,遅延損害金との間では調整しない(最高裁大法廷平成27年3月4日判決)。
②遺族補償年金によって塡補される損害は,支給の著しい遅滞等の特段の事情のない限り,不法行為の時に塡補されたものと法的に評価される。
③その結果,遺族補償年金に相当する元本部分については,事故日(死亡日)から年金の支給日までの遅延損害金は発生しない。
④遺族補償年金の支払を受けたときはまず遅延損害金に充当されるとした最高裁平成16年12月20日判決は,平成27年判決と抵触する限度で変更された。
⑤遺族厚生年金については,最高裁が死亡事案で不法行為時塡補を直接判断した判決は,裁判所HPで確認できた限りでは見当たらない。
⑥もっとも,傷害・後遺障害事案では公的年金給付(障害基礎年金・障害厚生年金)も不法行為時に塡補されたとされており(最高裁平成22年9月13日判決),遺族厚生年金にも同じ考え方が及ぶと考えられる。
⑦裁判所HPに掲載された平成27年判決後の下級審裁判例には,遺族厚生年金を逸失利益等から控除した後の額に死亡日から遅延損害金を認めたものがあり,遺族厚生年金を遅延損害金に先に充当したものは確認した範囲では見当たらなかった(第4の6)。
⑧自賠責保険金については,遅延損害金にまず充当するという平成16年判決の判断は変更されていない。

第2 損益相殺的調整に関する最高裁判決の流れ

この流れの前提にあるのが,最高裁大法廷平成5年3月24日判決(民集47巻4号3039頁)である。
同判決は,退職年金の受給者が死亡し,相続人が遺族年金の受給権を取得した事案で,債権を取得しただけでは原則として損益相殺的な調整はできず,現実に履行された場合又はこれと同視できる程度に存続及び履行が確実な場合に限られるとした。
そして,口頭弁論終結時までに現実に支給された遺族年金に加え,既に支給を受けることが確定した額だけを控除し,将来の未確定分は控除しなかった。平成16年判決以後の「支給を受け,又は支給を受けることが確定した額」という時間的な区切りを理解する前提となる判決である。

1 最高裁平成16年12月20日判決(遅延損害金への先充当)

最高裁判所第二小法廷平成16年12月20日判決(平成16年(受)第525号,集民215号987頁)は,平成11年2月24日の交通事故で会社員が死亡した事案である。
相続人は,自賠責保険から3,000万3,800円の支払を受け,父は遺族補償年金合計279万7,033円及び遺族厚生年金合計265万4,342円の支給を受けていた。
判決は,これらを「本件自賠責保険金等」と総称した上で,「本件自賠責保険金等が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかである(民法491条1項参照)。」と判示した。
ここでいう民法491条1項は改正前の条番号であり,現行法では489条1項(元本・利息・費用の充当)に当たる。

同判決の判示事項は,遺族厚生年金を控除すべき損害の範囲である。
判決は,遺族厚生年金は,被害者が支給を受けるべき障害基礎年金等に係る逸失利益だけでなく,給与収入等を含めた逸失利益全般との関係で控除すべきであるとした。
また,遺族厚生年金等の控除は,現にその支給を受ける受給権者についてのみ行うべきであるとして,受給権者でない相続人の損害からも控除した原審を破棄した。

2 最高裁平成22年9月13日判決(傷害・後遺障害事案)

最高裁判所第一小法廷平成22年9月13日判決(平成20年(受)第494号,民集64巻6号1626頁)は,通勤途上の交通事故で傷害を受け,右大腿切断等の後遺障害が残った事案である。
被害者は,労災保険法に基づく療養給付・休業給付・障害年金のほか,国民年金法に基づく障害基礎年金及び厚生年金保険法に基づく障害厚生年金の支給を受けていた。

(続きを読む...)遺族補償年金・遺族厚生年金と遅延損害金―不法行為時に塡補されたとみる最高裁大法廷平成27年3月4日判決(AI作成)

不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するか―事故日起算,弁護士費用及び損害費目ごとの起算日(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 不法行為は催告不要で損害発生と同時に遅滞となる1 最高裁昭和37年9月4日判決2 民法412条3項との関係3 遅滞の時期は利率の決め手にもなる第3 弁護士費用も不法行為の時から遅延損害金が発生する1 最高裁昭和58年9月6日判決の判示2 弁護士費用特約で支払われた場合第4 損害費目ごとに起算日を分けない1 同一の身体傷害による損害賠償請求権は一個である2 費目ごとに起算日を分けないのが実務の原則3 物損と人損が同じ事故で生じた場合第5 類型別の起算日一覧1 一覧表2 原則と異なる類型の補足第6 債務不履行に基づく損害賠償との対比1 債務不履行は履行の請求を受けた時から遅滞となる2 同じ事故でも請求の根拠によって起算日が変わる3 契約上の金銭債務第7 請求の趣旨の書き方1 交通事故の損害賠償請求2 債務不履行構成の場合3 離婚慰謝料第8 計算例1 計算の方法2 元本1,000万円の場合3 弁護士費用を加えた場合4 起算日を誤った場合の差第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,交通事故その他の不法行為に基づく損害賠償請求について,遅延損害金がいつから発生するか(遅滞の時期・起算日)を整理するものである。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で確認したものを使う。

遅延損害金の利率(年3%か年5%か),自賠責保険の被害者請求,既払金の充当,遺族補償年金との調整,人身傷害保険,離婚慰謝料,重利及び課税は,それぞれ別の記事で扱う。
本記事では,これらの論点について起算日に関係する範囲で要点だけを示し,詳細は各記事へのリンクに委ねる。
全体の見取り図は,ハブ記事である遅延損害金に関するメモ書きにある。

2 結論

結論は,次の①~⑦のとおりである。

① 不法行為に基づく損害賠償債務は,催告を要することなく,損害の発生と同時に遅滞に陥る(最高裁昭和37年9月4日判決)。
② したがって,交通事故の損害賠償では,事故日から遅延損害金が発生するのが原則であり,請求の趣旨も「事故日から支払済みまで」と書く。
③ 弁護士費用の賠償債務も,不法行為の時に発生し,かつ,遅滞に陥る(最高裁昭和58年9月6日判決)。
④ 同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害の賠償請求権は一個である(最高裁昭和48年4月5日判決)ので,治療費,休業損害,後遺障害逸失利益,慰謝料等の費目ごとに起算日を分けないのが実務の原則である。
⑤ 物損と人損の損害賠償請求権は別個の請求権である(最高裁令和3年11月2日判決)が,いずれも事故日から遅延損害金が発生する。
⑥ これに対し,債務不履行に基づく損害賠償債務は期限の定めのない債務であり,履行の請求を受けた時に遅滞に陥る(民法412条3項,最高裁昭和55年12月18日判決)。
⑦ 離婚慰謝料(離婚成立時),自賠責保険の被害者請求(請求後の「必要な期間」経過時),政府保障事業のてん補金(平成22年4月1日以後の事故は請求後の「必要な期間」経過時)等は,原則と異なる時点から遅滞となるので,第5の一覧表で確認する。

第2 不法行為は催告不要で損害発生と同時に遅滞となる
1 最高裁昭和37年9月4日判決

最高裁判所第三小法廷昭和37年9月4日判決(昭和34年(オ)第117号,民集16巻9号1834頁)は,国道上に置かれた枕木に原動機付自転車が激突して通行人が死亡した事故について,道路管理者の賠償責任が問われた事案である。
同判決は,損害賠償債務の履行遅滞による損害金の起算点について,「右賠償債務は、損害の発生と同時に、なんらの催告を要することなく、遅滞に陥るものと解するのが相当である。」と判示した。
裁判所HPの判示事項も「不法行為に基づく損害賠償債務の遅滞の時期」とされており,この判決が不法行為の遅滞時期に関する基本的な先例である。

2 民法412条3項との関係

民法412条は,債務の履行期と履行遅滞について,確定期限・不確定期限・期限の定めのない債務の3つに分けて定めている。
同条3項は,「債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。」と定める。
不法行為に基づく損害賠償債務には期限の定めがないから,同項をそのまま当てはめれば,被害者が請求した時から遅滞となりそうである。
しかし,最高裁昭和37年9月4日判決は,催告を要せず損害の発生と同時に遅滞に陥るとしており,不法行為については同項の原則によらない扱いが確立している。

3 遅滞の時期は利率の決め手にもなる

金銭債務の遅延損害金の利率について,民法419条1項本文は,「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。」と定める。
不法行為では遅滞の時点が不法行為(損害発生)の時であるから,交通事故の遅延損害金の利率は,原則として事故日の法定利率で決まる。

(続きを読む...)不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するか―事故日起算,弁護士費用及び損害費目ごとの起算日(AI作成)

被害者の過失が大きい交通事故の請求順序-自賠責の重大な過失による減額,被害者請求及び訴訟の比較と計算例(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要約1 対象とする場面2 結論の要約第2 訴訟と自賠責保険では過失の扱いが違う1 訴訟では過失割合どおりに減額される2 自賠責保険の「重大な過失による減額」3 保険金額の上限第3 計算例で比べる1 死亡事故で被害者の過失が8割の場合2 傷害だけの事故で被害者の過失が75%の場合3 被害者の過失が7割未満の場合第4 請求の順序1 まず被害者請求で自賠責保険からの支払を受ける2 訴訟では支払基準の有利さを使えない3 訴訟を起こす実益を計算で確かめる4 人身傷害保険がある場合5 労災保険給付を受ける場合第5 相談を受けたときの確認事項第6 出典1 法令・告示2 裁判例3 文献
第1 本記事の対象と結論の要約
1 対象とする場面

本記事は,交通事故の被害者側にも大きな過失がある事故,特に被害者の過失割合が7割前後又はそれ以上と見込まれる事故で,どの順序で何を請求するかを扱う。
このような事故では,自賠責保険に請求するか,加害者に対して訴訟を起こすかによって,受け取れる金額が大きく変わることがある。
自賠責保険は,訴訟のように過失割合に応じて損害額を減らすのではなく,被害者に重大な過失がある場合にだけ一定の割合で減額する取扱いをしているからである。

本記事は,令和8年9月19日現在の自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という),同法施行令,自賠責保険の支払基準の告示及び裁判所ウェブサイト掲載の最高裁判決に基づき,AIを用いて整理したものである。
下級審裁判例は,判例秘書で判決本文を確認したものに限って紹介する。

2 結論の要約

①訴訟では,裁判所が認定した過失割合のとおりに損害額が減額される(民法722条2項)。
②自賠責保険の支払基準では,被害者の過失割合が7割未満であれば減額されず,7割以上でも後遺障害・死亡は2割から5割,傷害は2割の減額にとどまる。
③自賠責保険会社に対する請求を訴訟で行うと,裁判所は支払基準によらずに損害額と過失割合を認定する(最高裁判所第一小法廷平成18年3月30日判決,最高裁判所第一小法廷平成24年10月11日判決)。
④そのため,被害者の過失が大きい事故では,まず訴訟外で自賠法16条1項の被害者請求をして支払基準による支払を受け,その後に訴訟を起こす実益があるかを計算して判断する順序が考えられる。
⑤被害者請求の権利は,損害及び保有者を知った時から3年で時効によって消滅する(自賠法19条)。

第2 訴訟と自賠責保険では過失の扱いが違う
1 訴訟では過失割合どおりに減額される

民法722条2項は,「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と定める。
訴訟では,裁判所が損害額と過失割合を認定し,損害額に(1-被害者の過失割合)を掛けた額が賠償額の基本になる。
被害者の過失が8割であれば,損害額の2割しか請求できない。

過失割合の目安には,東京地方裁判所民事第27部の裁判官が執筆した別冊判例タイムズ『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』が広く用いられており,令和8年3月30日に全訂6版(別冊判例タイムズ39号)が発行されている。
同書の位置付けは,東京地裁民事第27部(交通部)―担当事件,新受件数,共通書式及び証拠提出でも触れている。
全訂6版の主な改訂点は,別冊判例タイムズ39号(過失相殺率の認定基準・全訂6版)の改訂点-自転車同士の事故の新設,新しい事故類型,基本の過失相殺率の変更及び高齢者の年齢で整理している。

2 自賠責保険の「重大な過失による減額」

自賠法16条の3第1項は,保険会社は保険金等を支払うときは,国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準に従って支払わなければならないと定める。
その支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)の第6は,被害者に重大な過失がある場合の減額を次のように定めている。

被害者の過失割合後遺障害又は死亡に係るもの傷害に係るもの7割未満減額なし減額なし7割以上8割未満2割減額2割減額8割以上9割未満3割減額2割減額9割以上10割未満5割減額2割減額

減額は,積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した損害額から,保険金額以上となる場合には保険金額から行う(支払基準第6の1)。
また,傷害による損害額(後遺障害及び死亡に至る場合を除く。)が20万円未満の場合はその額とし,減額により20万円以下となる場合は20万円とする(同)。

このほか,支払基準第6の2は,既往症等があるため受傷と死亡又は後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合に,死亡又は後遺障害による損害について5割の減額を行うと定めている。
支払基準の全体は,自賠責保険の支払基準――令和2年4月1日以降の交通事故に適用される告示の全文,別表及び改正経緯で扱っている。

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外国人が交通事故の当事者になったときの損害賠償-在留資格別の休業損害・逸失利益・慰謝料,準拠法及び自賠責(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要約1 対象とする場面2 結論の要約第2 日本で起きた事故の裁判管轄と準拠法1 日本の裁判所に訴えることができるか2 どの国の法律が適用されるか3 外国法が適用される場合の制限4 被害者が死亡した場合の相続第3 外国人被害者の損害額の考え方1 実費の損害は日本人と同様に考える2 在留資格による区分3 一時的に滞在する外国人の逸失利益(最高裁平成9年判決)4 基礎収入をめぐる実務上の争点5 慰謝料6 短期滞在の被害者が日本で治療を続ける場合第4 訴訟と示談で気を付けること1 立証と手続の負担2 自賠責保険の支払基準は国籍で区別していない3 社会保障制度との関係第5 日本人が外国で交通事故に遭った場合1 日本人同士の事故2 事故地の法律が適用される場合3 日本人が外国で加害者になった場合と外国判決の執行第6 相談を受けたときの確認事項第7 出典1 法令・告示2 裁判例3 統計資料4 文献
第1 本記事の対象と結論の要約
1 対象とする場面

本記事は,交通事故の当事者の一方又は双方が外国人である事故と,日本人が外国で交通事故に遭った事故(いわゆる渉外交通事件)を対象とする。
日本で起きた事故については,どの国の裁判所で訴えることができるか,どの国の法律が適用されるか,被害者が外国人であることで損害額の算定がどう変わるかが問題になる。
外国で起きた事故については,日本の裁判所に訴えることができるか,事故地の法律が適用されるか,外国判決を日本で執行できるかが問題になる。

本記事でいう交通事故は,主として陸上の自動車事故を対象とする。公海上の船舶衝突では国際裁判管轄と準拠法に海事固有の問題があるため,公海上の船舶衝突における国際裁判管轄・準拠法と責任保険の直接請求で別に整理している。

本記事は,令和8年9月19日現在の法令,裁判所ウェブサイト掲載の最高裁判決,自賠責保険の支払基準の告示及び日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』上巻(基準編)2026年版(以下「赤い本」という)の「第12 渉外交通事件」(429頁~452頁)に基づき,AIを用いて整理したものである。
赤い本の同章が紹介する下級審裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトには掲載されていない。
そのため,本記事で紹介する下級審裁判例は,判例秘書で判決本文を確認したものに限っている。

2 結論の要約

①日本国内で起きた交通事故の損害賠償請求は,当事者が外国人同士であっても,日本の裁判所に訴えることができる(民事訴訟法3条の3第8号)。
②準拠法は原則として事故地の法である(法の適用に関する通則法17条)が,当事者が同じ国に常居所を有していた場合等には,より密接な関係がある地の法による(同法20条)。
③被害者が外国人であることで大きく変わるのは,休業損害・逸失利益の基礎収入と,慰謝料の額である。治療費等の実費は日本人と同様に考えられる。
④「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」及び特別永住者は,日本人と同じに算定するというのが赤い本の基準である。
⑤一時的に日本に滞在する外国人の逸失利益は,日本での就労可能期間は日本での収入等を,その後は出国先での収入等を基礎とするのが最高裁判例の枠組みである(最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決)。
⑥自賠責保険の支払基準には国籍や在留資格で区別する規定がなく,被害者の過失が大きい事案では,自賠責保険からの支払が訴訟で認められる額を上回ることがある。

第2 日本で起きた事故の裁判管轄と準拠法
1 日本の裁判所に訴えることができるか

民事訴訟法3条の3第8号は,不法行為に関する訴えについて,「不法行為があった地が日本国内にあるとき」は日本の裁判所に訴えを提起することができると定める。
したがって,日本国内で起きた交通事故であれば,被害者又は加害者が外国人であっても,また双方が外国人であっても,日本の裁判所に損害賠償請求の訴えを起こすことができる(赤い本429頁)。

もっとも,日本の裁判所に管轄権があることは,外国人の本国の裁判所に管轄権がないことを意味しない。
赤い本429頁は,本国の裁判所にも訴えが提起され,どちらの国の裁判所が優先的に裁判権を行使するかが争いになる余地もあるとしている。

2 どの国の法律が適用されるか

法の適用に関する通則法(以下「通則法」という)17条本文は,不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,「加害行為の結果が発生した地の法による」と定める。
赤い本429頁は,交通事故の場合の結果発生地は事故発生地と同じ意味であり,事故後に治療費や休業損害が生じた地ではないとしている。
そのため,日本国内の事故には,原則として日本法が適用される。

ただし,通則法20条は,不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと,当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われたことその他の事情に照らして,明らかにより密接な関係がある他の地があるときは,その地の法によると定める。
赤い本429頁は,例として,同じ外国に常居所を有する外国人同士が日本で同乗中に事故を起こした場合や,加害者と被害者の間に運送契約等の契約関係がある場合を挙げ,その外国の法が準拠法になることもあり得るとしている。
また,通則法21条は,不法行為の当事者が,不法行為の後に,適用すべき法を変更することができると定めている。

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交通事故後のPTSD・うつ状態―後遺障害等級・慰謝料と立証資料(AI作成)

目次第1 結論の要旨と本記事の対象詳しい項目を開く1 本記事の対象と基準日2 結論の要旨第2 非器質性精神障害の意味と認定基準の変遷詳しい項目を開く1 脳の器質的損傷を伴わない精神障害2 平成15年の認定基準による3段階化第3 自賠責保険の等級表と認定基準の関係詳しい項目を開く1 自賠法施行令別表第二の3つの号2 支払基準と号数の読み方第4 認定の要件-精神症状6類型と能力に関する判断項目8つ詳しい項目を開く1 二つの要件2 精神症状6類型3 能力に関する判断項目8つ4 就労意欲による区分第5 9級・12級・14級の具体的基準詳しい項目を開く1 労災の認定基準の3段階2 日常生活上の支障に着目する考え方第6 症状固定と永久残存性の例外詳しい項目を開く1 改善が見込まれることを前提にした認定基準2 永久残存性との関係第7 PTSDの診断基準と裁判実務詳しい項目を開く1 PTSDとは2 診断基準の現行版3 裁判実務における4要件第8 逸失利益・慰謝料と素因減額詳しい項目を開く1 労働能力喪失率と労働能力喪失期間2 後遺障害慰謝料3 心因的素因による減額4 診断・因果関係・別の損害を混ぜない比較第9 請求・立証の実務詳しい項目を開く1 精神科医による診療と後遺障害診断書2 他の障害が否定された場合と認定結果への対応第10 出典詳しい項目を開く1 法令2 通達・告示・所管行政機関の資料3 裁判例4 書籍

確認したい内容から読む: 診断と事故後の経過 / 後遺障害等級の基準 / 慰謝料の目安 / 立証資料と記録。診断名だけで等級や賠償額を決めず、各資料が示す事実を確認する。

第1 結論の要旨と本記事の対象
1 本記事の対象と基準日
(1) 対象とする障害

本記事は,交通事故の後に,心的外傷後ストレス障害(PTSD),うつ状態,不安の状態等の精神症状が残った場合に,自賠責保険でどの後遺障害等級に当たるか,その等級が損害賠償の場面でどのように扱われるかを整理するものである。
対象は,脳の器質的損傷を伴わない精神障害(非器質性精神障害)であり,頭部外傷による脳の損傷を原因とする高次脳機能障害は対象外である。

(2) 基準日と資料の性質

本記事は令和8年9月18日現在の情報に基づく。
自動車損害賠償保障法施行令(以下「自賠法施行令」という。)と労働者災害補償保険法施行規則(以下「労災則」という。)の条文は同日にe-Gov法令検索で確認し,厚生労働省の認定基準の通達と自賠責保険の支払基準も同日に原文を確認した。
解説の骨格は,小松初男・小林覚・西本邦男編『後遺障害入門 認定から訴訟まで』(青林書院,平成30年。以下「本」という。)120頁~140頁に依拠しているが,等級,号数及び認定基準は一次資料で確かめたものだけを記載している。
本に紹介された下級審裁判例は,裁判所ウェブサイトで判決を確認できなかったため,個別の判決名を挙げずに傾向として説明する。

2 結論の要旨
(1) 等級は9級・12級・14級の3段階であること

非器質性精神障害は,平成15年8月8日基発第0808002号の認定基準により,障害の程度に応じて原則として9級,12級又は14級の3段階で評価される。
自賠責保険では,自賠法施行令別表第二の9級10号,12級13号又は14級9号に当たるかが判断される。
認定には,抑うつ状態等の精神症状が1つ以上残り,かつ,8つの能力に関する判断項目の1つ以上に障害が認められることが必要である。

(2) 損害賠償の場面での扱い

非器質性精神障害は,症状の改善が見込まれることを認定基準自体が前提にしているため,訴訟では労働能力喪失期間が限定されやすい。
また,PTSDの診断名が付いていても,裁判所は診断基準の要件を慎重に見る傾向があり,PTSDが否定されても非器質性精神障害として後遺障害が認められることがある。
心因的な素因が損害の拡大に寄与した場合には,最高裁昭和63年4月21日判決の準則により賠償額が減額されることがある。

第2 非器質性精神障害の意味と認定基準の変遷
1 脳の器質的損傷を伴わない精神障害
(1) 認定基準の定義

平成15年の認定基準は,「脳の器質的損傷を伴わない精神障害」を「非器質性精神障害」と呼んでいる。
本も,非器質性精神障害を,脳組織に器質的異常(傷や損傷)が確認できないものの,異常な精神状態が発生している状態と説明している(本120頁)。
PTSD,うつ病,不安障害等がこれに当たり,PTSDは非器質性精神障害の一種である(本122頁)。

(2) 高次脳機能障害との区別

同じ認定基準は,脳の器質的損傷に基づく精神障害を「高次脳機能障害」(器質性精神障害)と位置付け,意思疎通能力,問題解決能力,作業負荷に対する持続力・持久力及び社会行動能力の4能力の喪失の程度で評価している。
高次脳機能障害は,脳の器質的病変に基づくものであるから,MRI,CT等によりその存在が認められることが必要とされている。

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歯の欠損・咀嚼障害・言語障害の後遺障害等級-歯科補綴の歯数と4種の語音(AI作成)

目次第1 結論の要旨と本記事の対象1 本記事の対象と基準日2 結論の要旨第2 口の障害の類型と等級表1 口の障害の三つの類型2 自賠法施行令別表第二の等級と保険金額第3 歯牙障害と歯科補綴の歯数1 「歯科補綴を加えたもの」の意味2 数えない歯3 事故前から補綴していた歯がある場合の加重第4 咀嚼機能障害と言語機能障害1 咀嚼機能障害の程度2 言語機能障害と4種の語音3 等級表に組合せのない場合の準用4 12級の準用5 嚥下障害と味覚障害第5 歯牙障害と咀嚼・言語機能障害の関係1 併合と上位の等級の選択2 自賠責保険の保険金額の計算第6 後遺障害診断書と認定の準備1 診断書の使い分け2 立証の要点第7 逸失利益,慰謝料及び将来の補綴費1 自賠責保険の支払基準2 訴訟での逸失利益と慰謝料3 将来の補綴費とインプラント費用第8 出典1 法令2 告示・通達・様式3 裁判例4 書籍5 医学資料
第1 結論の要旨と本記事の対象
1 本記事の対象と基準日
(1) 対象とする障害と基準日

本記事は,交通事故で歯を失い,又はかむこと(咀嚼)や話すこと(言語)に障害が残った場合に,自賠責保険でどの後遺障害等級に当たるか,その等級が損害賠償の場面でどのように扱われるかを整理するものである。
基準日は令和8年9月18日である。
自賠法施行令と労災保険法施行規則(以下「労災則」という。)の条文は同日にe-Gov法令検索で確認し,労災の障害等級認定基準(昭和50年9月30日基発第565号別冊。以下「認定基準」という。)の「口」の項も同日に厚生労働省の法令等データベースで原文を確認した。

(2) 資料の性質

本記事は,小松初男・小林覚・西本邦男編『後遺障害入門 認定から訴訟まで』(青林書院,平成30年)の「口の障害」の章(247頁~267頁)と総論の歯牙障害の項(23頁)を手掛かりにしている。
ただし,等級,号数,認定基準の文言及び金額は,同書ではなく,e-Gov法令検索,厚生労働省の法令等データベース及び国土交通省掲載の支払基準で確認したものを記載している。
同書が紹介する下級審裁判例は,裁判所ウェブサイトで全文を確認できたものに限って取り上げる。
味覚障害と嗅覚障害は,嗅覚・味覚の後遺障害の記事で扱う。

2 結論の要旨
(1) 等級の決まり方

歯の障害(歯牙障害)は,歯科補綴を加えた歯の数によって,3歯以上の14級2号から14歯以上の10級4号までの5段階に分かれる。
咀嚼と言語の機能障害は,食べられる物の範囲と,4種の語音のうち発音できないものの数によって程度が決まり,咀嚼と言語の両方か一方かによって,1級2号から10級3号までの6段階に分かれる。
等級表にない声のかすれ,開口障害による食事時間の延長及び飲み込みの障害は,認定基準によって12級又は咀嚼の等級を準用して扱われる。

(2) 損害賠償の場面での扱い

自賠責保険の支払基準は,等級に応じた労働能力喪失率で逸失利益を算定する。
これに対し,訴訟では,歯科補綴によって歯の機能は回復するとして逸失利益が否定されることが多く,不利益は後遺障害慰謝料で考慮される傾向にあると前記の書籍は整理している。
他方で,義歯やブリッジ,インプラントの作り替えの費用は,将来の治療費として請求できる場合がある。

事故直後に永久歯が完全に抜けた場合の注意
日本歯科医師会の「歯の外傷」は,歯の組織が生きている短時間のうちに再植すると予後が良いとし,抜けた歯を歯の保存液又は牛乳に浸して乾燥を避け,歯根膜を傷つけないようにした上で,できるだけ早く歯科医院を受診するよう案内している。頭痛,めまい,吐き気又は嘔吐等がある場合は,口のけが以外の頭部損傷も考え,歯科治療に先立つ脳外科受診も検討する。

第2 口の障害の類型と等級表
1 口の障害の三つの類型
(1) 咀嚼機能障害・言語機能障害・歯牙障害

認定基準は,口の障害について,等級表が「そしゃく及び言語機能障害並びに歯牙障害について等級を定めている」とし,嚥下障害や味覚脱失など等級表に掲げていない口の障害は,障害の程度に応じて他の障害に準じて等級を認定するとしている。
認定基準の障害系列表も,口の障害を「そしゃく及び言語機能障害」と「歯牙障害」の二つの系列に分けている。

(2) 自賠責保険が労災の認定基準に準じること

自賠責保険の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3は,「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」と定めている。

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嗅覚障害・味覚障害の後遺障害等級-12級相当・14級相当の基準と逸失利益(AI作成)

目次第1 結論の要旨と本記事の対象1 本記事の対象と基準日2 結論の要旨第2 嗅覚・味覚の仕組みと外傷による障害1 嗅覚の仕組みと嗅覚障害の種類2 外傷性嗅覚障害の発生機序と気づくのが遅れること3 味覚障害の種類と原因第3 等級表と認定基準1 等級表の文言と認定基準の位置付け2 鼻の欠損(9級5号)と外貌の醜状3 鼻を欠損しない嗅覚障害と鼻呼吸困難4 味覚脱失と味覚減退5 等級の一覧と併合第4 検査の方法1 嗅覚の検査2 静脈性嗅覚検査(アリナミンテスト)と画像検査3 味覚の検査第5 事故との因果関係と素因1 事故から時間が経ってから訴えた場合2 既存の変形と心因的要因第6 逸失利益と慰謝料1 自賠責保険の支払基準2 訴訟での逸失利益の考え方3 主張立証の要点と慰謝料第7 請求と立証の実務1 後遺障害診断書と検査結果2 認定結果に不服がある場合第8 出典1 法令2 告示・通達3 裁判例4 書籍
第1 結論の要旨と本記事の対象
1 本記事の対象と基準日
(1) 対象とする後遺障害と基準日

本記事は,交通事故による頭部外傷や顔面の骨折等の後に,においが分からなくなった場合(嗅覚障害)や味が分からなくなった場合(味覚障害)に,自賠責保険でどの後遺障害等級に当たるか,その等級が損害賠償の場面でどのように扱われるかを整理するものである。
鼻そのものを失った場合(鼻の欠損)と,鼻呼吸が困難になった場合もあわせて扱う。
記載は令和8年9月18日現在のものであり,自賠法施行令と労災保険法施行規則(以下「労災則」という。)の条文は同日にe-Gov法令検索で,労災の障害等級認定基準は同日に厚生労働省法令等データベースで,それぞれ原文を確認した。

(2) 資料の性質

医学的な仕組み,検査の方法及び訴訟上の争点の整理は,主に小松初男・小林覚・西本邦男編『後遺障害入門 認定から訴訟まで』(青林書院,平成30年)の鼻の障害と口の障害の章によっている。
同書は平成30年の刊行であるため,等級表,認定基準及び自賠責保険の支払基準は,本記事の基準日の原文で確認し直した。
同書は嗅覚障害と味覚障害について多数の下級審裁判例を紹介しているが,本記事の調査ではそれらの判決原文を確認していないため,個別の裁判例としては取り上げず,同書の整理として紹介するにとどめる。
裁判例として取り上げるのは,裁判所ウェブサイトで確認した最高裁判所の判決だけである。

2 結論の要旨
(1) 等級

鼻の欠損を伴わない嗅覚障害は,等級表に直接の定めがなく,自賠法施行令別表第二の備考6により,嗅覚脱失は12級相当,嗅覚の減退は14級相当として扱われる。
鼻呼吸困難も12級相当である。
鼻を欠損し,嗅覚脱失又は鼻呼吸困難を残した場合は9級5号に当たるが,鼻の欠損は外貌の醜状としても評価され,いずれか上位の等級によって認定される。
味覚障害も等級表に定めがなく,頭部外傷その他顎周囲組織の損傷及び舌の損傷によって生じた味覚脱失は12級相当,味覚減退は14級相当として扱われる。

(2) 検査と争点

嗅覚は,T&Tオルファクトメーターによる基準嗅力検査の平均嗅覚損失値で脱失と減退が区分され,嗅覚脱失は,アリナミン静脈注射による静脈性嗅覚検査の所見だけで確認してもよいとされている。
味覚は,濾紙ディスク法の最高濃度液による検査で,基本4味質を認知できるかによって脱失と減退が区分される。
訴訟では,事故から時間が経ってから症状を訴えた場合の事故との因果関係と,等級が認められた後の逸失利益の有無が主に争われる。
逸失利益は,調理師など嗅覚や味覚が仕事に直結する職業では認められやすく,そうでない職業では否定されて慰謝料で考慮されることが多いと整理されている。

第2 嗅覚・味覚の仕組みと外傷による障害
1 嗅覚の仕組みと嗅覚障害の種類
(1) においが伝わる経路

前記『後遺障害入門』によれば,においの物質は,鼻の穴から鼻腔に入って鼻腔の天井部分にある嗅上皮の粘膜に達し,そこで嗅細胞に受け取られる(同書231頁)。
嗅細胞から伸びる嗅神経は,頭蓋骨の底にある篩骨篩板の小さな孔を貫いて,脳の一部である嗅球に達し,そこから嗅覚の中枢に伝わって,においとして認識される。
鼻腔の天井は薄い篩板を挟んで前頭葉と接しており,頭部に強い衝撃を受けると,この経路のどこかが損傷されることがある。

(2) 嗅覚障害の種類

(続きを読む...)嗅覚障害・味覚障害の後遺障害等級-12級相当・14級相当の基準と逸失利益(AI作成)

交通事故の難聴・耳鳴りの後遺障害等級-聴力検査の基準と12級・14級相当(AI作成)

目次第1 結論の要旨と本記事の対象1 本記事の対象と基準日2 結論の要旨第2 耳の構造と障害の種類1 耳の構造2 難聴・耳鳴り・耳漏第3 自賠法施行令の等級表と聴力の数値基準1 等級表の構造2 両耳の聴力障害3 1耳の聴力障害第4 聴力検査の方法1 純音聴力検査と6分式2 語音聴力検査3 検査の時期と回数4 自覚的検査と他覚的検査を突き合わせる第5 耳鳴り・耳漏・外耳道狭窄・平衡機能障害1 耳鳴り2 耳漏と外耳道の狭窄3 平衡機能障害第6 耳介の欠損1 耳の障害としての等級と外貌の醜状としての等級2 両耳の耳介の欠損と聴力障害との関係第7 事故との因果関係と既往1 因果関係が争われる場面2 突発性難聴・加齢による難聴・事故前からの症状3 岡山地裁平成21年5月28日判決と検査結果の読み方第8 後遺障害慰謝料と逸失利益1 自賠責保険の支払基準2 訴訟での慰謝料と逸失利益第9 後遺障害診断書と認定結果への不服1 後遺障害診断書に書いてもらう事項2 認定結果に不服がある場合第10 出典1 法令2 告示・通達3 様式4 裁判例5 書籍
第1 結論の要旨と本記事の対象
1 本記事の対象と基準日
(1) 対象とする障害と基準日

本記事は,交通事故で耳にけがをし,難聴,耳鳴り,耳漏(みみだれ)又は耳介(耳たぶを含む外側の耳)の欠損が残った場合に,自賠責保険でどの後遺障害等級に当たるか,その等級が損害賠償の場面でどのように扱われるかを整理するものである。
基準日は令和8年9月18日であり,自動車損害賠償保障法施行令(以下「自賠法施行令」という。)と労働者災害補償保険法施行規則(以下「労災則」という。)の条文は同日にe-Gov法令検索で確認し,労災の障害等級認定基準(通達)と自賠責保険の支払基準も同日に原文を確認した。

(2) 資料の性質

本記事は,小松初男・小林覚・西本邦男編『後遺障害入門 認定から訴訟まで』(青林書院,平成30年)の「耳の障害」の章(215頁~227頁)の整理を手掛かりにしているが,等級,号数及び数値基準は,いずれも上記の一次資料で確認したものを記載している。
同書は平成30年6月末日現在の法令に基づくものであり,同書が引用する『労災補償障害認定必携』も第16版である。
同書が紹介する下級審の裁判例は,裁判所ウェブサイトに掲載されておらず本文を確認できていないため,本記事では取り上げていない。

2 結論の要旨
(1) 等級の決まり方

難聴の等級は,自賠法施行令別表第二の4級3号から14級3号までの14の号のいずれかに当たるかで決まり,その当否は,純音聴力検査による平均純音聴力レベル(デシベル)と語音聴力検査による最高明瞭度(%)という数値で判断される。
聴力検査は症状固定後に日を変えて3回行い,2回目と3回目の測定値の平均によって等級を認定するのが労災の認定基準であり,自賠責保険もこれに準じて認定する。
耳鳴りと耳漏は等級表に掲げられていないが,労災の認定基準により12級又は14級に準じて扱われ,自賠責保険では「12級相当」「14級相当」として認定される。
耳介の欠損は,耳の障害としての等級(12級4号)と外貌の醜状としての等級のいずれか上位の等級による。

(2) 損害賠償の場面での扱い

耳の障害は,事故の直後から症状を訴えていたかどうかによって事故との因果関係の判断が大きく左右され,突発性難聴,加齢による難聴又は事故前からの耳鳴りとの区別が争点になりやすい。
また,等級が認定されても,その等級の労働能力喪失率どおりに逸失利益が認められるとは限らず,職業や生活への具体的な影響の立証が求められる。
第7及び第8で説明する。

第2 耳の構造と障害の種類
1 耳の構造
(1) 外耳・中耳・内耳

耳は,外耳,中耳及び内耳に分けられる。
音は耳介で集められ,外耳道を通って鼓膜を振動させ,その振動が中耳の三つの耳小骨(ツチ骨,キヌタ骨,アブミ骨)を経て内耳の蝸牛に伝わる。
蝸牛の感覚細胞が振動を電気信号に変えて聴神経に伝え,大脳で音として認識される(前記『後遺障害入門』215頁)。
外耳と中耳は振動によって音を伝える器官(伝音器),内耳の感覚細胞と聴神経は振動を電気信号に変えて脳に伝える器官(感覚器)である。

(2) 平衡感覚をつかさどる器官

内耳には,音を伝える器官のほか,身体の回転運動や直線運動を感じて平衡を保つ三半規管と前庭がある(同書215頁~216頁)。
そのため,内耳のけがでは,難聴と並んでめまいや平衡機能の障害が残ることがあり,その等級の扱いは第5の3で説明する。

(続きを読む...)交通事故の難聴・耳鳴りの後遺障害等級-聴力検査の基準と12級・14級相当(AI作成)