目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 解雇予告手当の基本1 労働基準法20条2 予告なしに解雇した場合の効力3 付加金第3 破産手続での位置づけ1 関係する条文2 二つの考え方3 全国の運用第4 東京地方裁判所の運用第5 大阪地方裁判所の運用第6 破産手続開始後に解雇した場合第7 申立前に支払う場合1 未払賃金立替払制度の対象にならない2 滞納税金がある場合3 付加金の危険を避ける意味4 東京地裁平成26年判決が示す限界第8 実務で確認する事項第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例3 文献第11 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,会社が破産するに当たって従業員を解雇する場合に,解雇予告手当が破産手続でどう扱われるか,破産手続開始の申立ての前に支払ってよいかを整理する。
法令は,判例秘書の現行法令アーカイブ(令和8年8月1日現在の法令データ)で条文を確認し,最高裁判所の判決は裁判所ウェブサイトで確認した。
裁判所ごとの運用は,裁判官等が執筆した実務書の原本で確認した。
東京地方裁判所の運用は『破産管財の手引〔第2版〕』(平成27年)で確認しており,その後の版は確認していない。
2 結論
①予告期間を置かず予告手当も支払わない解雇は,即時解雇としては効力を生じないが,使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り,通知後30日を経過するか予告手当を支払った時に効力を生ずる(最高裁昭和35年3月11日判決)。
②破産手続開始前に解雇した従業員の解雇予告手当が,財団債権となる「給料」(破産法149条1項)に当たるか,優先的破産債権となる「雇用関係に基づいて生じた債権」(民法308条)にとどまるかは争いがあり,裁判所ごとに運用が分かれている。
③東京地方裁判所は,破産管財人が「給料」に当たるとして財団債権の承認許可を申し立てれば,これを適法なものと認める運用をしている。
④大阪地方裁判所は,解雇予告手当は「給料」に当たらないとしつつ,破産法101条1項(労働債権の弁済許可)を類推適用して,配当手続によらずに弁済できるとしている。
⑤破産手続開始後に破産管財人が解雇した場合の解雇予告手当は,財団債権(破産法148条1項8号)となる。
⑥解雇予告手当は未払賃金立替払制度の対象にならない。
そのため,申立前に労働債権の一部しか支払えない場合には,解雇予告手当から支払うことが望ましいとする実務書がある。
⑦滞納公租公課が残る場合でも解雇予告手当の先行支払に不当性・有害性がないとする実務上の考え方はあるが,無条件の安全港ではない。労働者性,支払根拠・適正額,財団充足見込み及び判断資料を支払前に確認する必要がある。
第2 解雇予告手当の基本
1 労働基準法20条
労働基準法20条1項は,「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」と定めている。
ただし書は,天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合を除外している。
会社の資金繰りが行き詰まって破産を申し立てる場合は,通常この例外には当たらないと考えられるため,即時に解雇するなら解雇予告手当の支払が問題になる。
2 予告なしに解雇した場合の効力
最高裁判所第二小法廷昭和35年3月11日判決(昭和30年(オ)第93号,民集14巻3号403頁)は,使用者が予告期間を置かず,予告手当の支払もしないで解雇の通知をした場合,その通知は即時解雇としては効力を生じないが,使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り,通知後30日の期間を経過するか,又は予告手当の支払をしたときに解雇の効力を生ずるとした。
破産を申し立てる状況では,従業員は解雇の効力を争わず,解雇予告手当を請求するのが通常であるとされている(『破産管財の手引〔第2版〕』210頁)。
3 付加金
労働基準法114条は,裁判所が,同法20条等に違反した使用者に対し,労働者の請求により,未払金のほかこれと同一額の付加金の支払を命ずることができ,この請求は違反のあった時から5年以内にしなければならないと定めている。
前記の最高裁判所昭和35年3月11日判決は,付加金の支払義務は労働者の請求により裁判所が支払を命ずることによって初めて発生するものであるから,使用者が予告手当に相当する金額の支払を完了した後は,労働者は付加金の請求をすることができないとした。
第3 破産手続での位置づけ
1 関係する条文
破産法149条1項は,「破産手続開始前三月間の破産者の使用人の給料の請求権は、財団債権とする。」と定めている。
(続きを読む...)会社の破産と解雇予告手当―財団債権か優先的破産債権か,東京地裁・大阪地裁の運用と申立前の支払(AI作成)