目次第1 本記事の対象と結論1 対象,基準日及び主な資料2 結論の要旨第2 株主代表訴訟で会社はどのような立場に立つか1 提訴請求から代表訴訟の提起まで2 会社が訴訟に関与する方法第3 顧問弁護士が被告取締役の代理人になるときの利益相反の構造1 職務基本規程28条2号から見た場合2 職務基本規程28条3号から見た場合3 同意による解除の限界第4 従来の見解と最高裁平成13年1月30日決定1 従来の見解2 最高裁平成13年1月30日決定3 会社法849条による補助参加第5 第4版の立場―補助参加が認められても利益相反は解消されない1 会社の代理人となるべきとする理由2 組織内弁護士の場合3 顧問契約が終わった後の制約第6 住民訴訟で自治体の顧問弁護士は被告の代理人になれるか1 住民訴訟の4類型と被告2 改正前の4号請求と日弁連懲戒委員会の議決3 改正後の4号請求と第4版の見解4 改正後も残る注意点第7 実務上の判断手順1 顧問契約の相手方と関与の経過を確認する2 会社の代理人として関与する3 取締役から依頼されたときの対応4 被告取締役と法務担当者が確認すること5 住民訴訟で依頼を受けたとき第8 確認範囲と残る論点1 資料の性格と確認できなかった事項2 会社側の弁護士が取締役を追及する場面との違い第9 関連記事1 弁護士職務基本規程と利益相反2 株主代表訴訟と住民訴訟第10 出典・参考資料1 法令・会規2 裁判例3 弁護士懲戒の議決例4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 対象,基準日及び主な資料
(1) 取り上げる場面
株主が取締役の責任を追及する株主代表訴訟(会社法847条)が起こされると,被告となった取締役から,会社の顧問弁護士に訴訟代理の依頼が来ることがある。
本記事は,この受任が弁護士職務基本規程の利益相反の規律に触れるかを,会社が取締役側に補助参加できるようになった後の議論まで含めて整理する。
あわせて,構造の似た住民訴訟(地方自治法242条の2)で,地方公共団体の顧問弁護士が被告の代理人になれるかも扱う。
(2) 基準日と主な資料
本記事の調査基準日は令和8年9月25日である。
会社法及び地方自治法は同日現在の条文をe-Gov法令検索で,弁護士職務基本規程は日本弁護士連合会関係法規集(令和7年9月1日現在)で確認した。
主な文献は,日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,2026年9月。以下「第4版」という。)である。
第4版は,はしがきで,同書の見解は日弁連の公式見解ではないと明記しており,同書の法令等は令和8年3月1日現在のものである(同書凡例)。
そのため,本記事では,第4版の記述を日弁連の正式な解釈としてではなく,日弁連弁護士倫理委員会が編著した解説書の見解として紹介する。
2 結論の要旨
(1) 株主代表訴訟
第4版は,会社の補助参加が可能になった現在でも,特別の事情がない限り,会社の顧問弁護士は被告取締役の代理人にはなれないという立場をとる(同書122頁~123頁)。
会社の利益を守る役割の顧問弁護士は会社の側に就くべきだという理由による(同書123頁)。
会社に所属する組織内弁護士についても,同書は,同様に取締役からの受任を回避すべきであるとする(同書123頁)。
(2) 住民訴訟
住民訴訟については,第4版の結論は逆になる。
平成14年の地方自治法改正で4号請求の被告が職員個人から執行機関又は職員に改められたことを踏まえ,同書は,特段の事情がない限り,地方公共団体の顧問弁護士が被告代理人となることは許されると解すべきであるとする(同書124頁)。
ただし,同書自身がこの点はいまだ十分に議論されていないと述べており,改正前の代位訴訟については,日弁連懲戒委員会の議決に利益相反の疑いを指摘する有力な意見が付言されたこともある(第6の2で説明する)。
第2 株主代表訴訟で会社はどのような立場に立つか
1 提訴請求から代表訴訟の提起まで
(1) 株主の提訴請求と会社の判断
会社法847条1項は,6か月(定款でこれを下回る期間を定めたときはその期間)前から引き続き株式を有する株主が,会社に対し,役員等(同法423条1項)の責任を追及する訴え等の提起を請求できると定める(公開会社でない会社では保有期間の要件がない。同条2項)。
会社が請求の日から60日以内に訴えを提起しないときは,請求をした株主は「株式会社のために」責任追及等の訴えを提起できる(同条3項)。
会社は,訴えを提起しない場合に,請求をした株主又は責任追及の対象とされた役員等から請求を受けたときは,提訴しない理由を通知しなければならない(同条4項)。
監査役設置会社では,この提訴請求を受けるのは監査役であり(会社法386条2項1号),会社が取締役を訴えるときも監査役が会社を代表する(同条1項1号)。
(2) 顧問弁護士が会社の判断に関わる段階
(続きを読む...)株主代表訴訟で会社の顧問弁護士は被告取締役の代理人になれるか―職務基本規程28条の利益相反,会社の補助参加及び住民訴訟の場合(AI作成)