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弁護士・弁護士会

相手方からの利益供与と相手方への利益供与―弁護士職務基本規程53条・54条(AI作成)

目次第1 利益を受ける側と与える側第2 相手方本人と代理人第3 実費名目でも検討が必要である1 利益の範囲2 和解金等との区別第4 要求・約束・申込みと事件終了後第5 弁護士法26条と罰則第6 出典・関連記事
第1 利益を受ける側と与える側

53条は,受任している事件に関し,相手方から利益の供与・供応を受けることと,要求・約束を禁止する。
54条は,同じく受任している事件に関し,相手方への利益の供与・供応と,その申込みを禁止する。

第4版177頁~179頁は,職務執行の公正と誠実性を確保する観点から両条を説明する。
弁護士が受領する場面だけでなく,自ら相手方に提供する場面も確認しなければならない。

規定禁止される方向・行為53条相手方から弁護士への利益供与・供応を受けること,要求すること,約束すること。54条弁護士から相手方への利益供与・供応をすること,申し込むこと。弁護士法26条受任中の事件に関し,相手方から利益を受け,要求し,又は約束すること。
第2 相手方本人と代理人

第4版178頁~179頁は,相手方を,依頼を受けた事件の当事者と実質的に利害が対立する者と説明し,相手方本人のほか代理人も含める。
したがって,利益の授受が相手方本人との間でなければ問題がない,ということにはならない。

誰の利益となる支払なのか,誰が負担するのか,事件との関係は何かを確認する必要がある。
依頼者のための正式な和解条件と,弁護士や相手方代理人に個別の利益を与える合意は区別すべきである。

第3 実費名目でも検討が必要である
1 利益の範囲

第4版178頁は,利益を金品や謝礼に限定せず,弁護士の出張に要した日当・旅費等の実費弁償の性質を持つものも含めて説明する。
名称が「交通費」「実費」であれば,受領してよいという説明は適切でない。

2 和解金等との区別

本記事では,依頼者の権利実現として支払われる和解金等と,弁護士自身に与えられる利益とを区別して検討する。
支払が誰に帰属するのか,受領・送金の役割は何か,契約や清算の説明はどうなっているかを明確にする必要がある。

依頼者に帰属する金銭を受け取った場合の管理・交付は,預り金の管理と懲戒の問題となる。
和解金を扱うことと,相手方から弁護士自身が利益を得ることを混同してはならない。

第4 要求・約束・申込みと事件終了後

53条は実際の受領に限らず要求・約束を,54条は実際の提供に限らず申込みを対象とする。
金銭がまだ動いていない段階でも,条文の検討が必要となる。

第4版178頁は,53条の「受任している事件」を現に処理している事件とし,将来の受任予定や処理を終えた過去の事件を含めないと説明する。
ただし,いつ要求や約束がされたか,事件が本当に終了しているかを確かめずに,後払いだから許されると判断することはできない。
53条の文言上の範囲の説明を,弁護士法その他の規律による検討も不要という結論に広げることは適切でない。

第5 弁護士法26条と罰則

弁護士法26条にも受任中の事件の相手方からの利益の受領・要求・約束を禁止する規定があり,同法76条は3年以下の拘禁刑を定める。
現行条文は令和8年10月4日に確認した。

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依頼者との金銭貸借・保証―弁護士職務基本規程25条(AI作成)

目次第1 25条が原則として禁止するもの第2 対象となる依頼者と取引1 顧問先・継続的な相談者2 貸借と同様の経済的作用第3 預り金と通常の金融取引第4 「特別の事情」の検討1 必要な費用の立替え等2 後の紛争を防ぐ確認第5 報酬・預り金との関係第6 出典・関連記事
第1 25条が原則として禁止するもの

25条は,特別の事情がない限り,依頼者との金銭貸借,自己の債務について依頼者に保証を依頼すること,依頼者の債務について保証することを禁止する。
第4版88頁は,特別な金銭上の利害関係が弁護士の独立性や職務の公正を損ない,利害対立や信頼関係の毀損を生じさせるおそれを,規定の趣旨として説明する。

借入れを禁止するだけの条文ではない。
弁護士が貸し付ける場合も,双方の保証も問題となり,依頼者が希望し同意したというだけで例外となるわけではない。

第2 対象となる依頼者と取引
1 顧問先・継続的な相談者

第4版88頁は,顧問会社や,受任前であっても相談が継続し受任の可能性がある相談者を含む解釈を示す。
単に委任契約書に署名していないことだけで,25条の検討が不要となるとはいえない。

同書は過去の依頼者を本条の依頼者に含めないと説明するが,職務が本当に終了しているかは確認を要する。
事件の処理が一段落したことと,委任・金銭清算等が終了していることは区別すべきである。

2 貸借と同様の経済的作用

第4版89頁は,物上保証,債務引受,担保の供与等についても,貸借・保証と同様の経済的作用を持つ関係として検討する。
取引の名称を変えるだけでは,独立性や公正を損なう問題を解消できない。

関係検討の視点依頼者から借りる・依頼者に貸す双方向とも25条の検討対象となる。相互の債務を保証する弁護士が保証する場合と,依頼者に保証してもらう場合の双方を確認する。実費・和解金等の預り金通常の業務上の預り金は貸借と区別する。ただし目的外使用や清算は別の問題となる。顧問先金融機関との通常の取引弁護士・依頼者の地位と無関係で,職務の公正が問題とならない関係かを確認する。
第3 預り金と通常の金融取引

第4版89頁は,実費や供託のための金銭,依頼者のための和解金を預かる通常の業務関係を,金銭貸借や保証とは区別している。
預り金を弁護士の運転資金として利用することまで認める説明ではない。

同書は,顧問先である銀行からの通常のローン等を,弁護士・依頼者という地位と無関係で職務の公正が問題とならない関係の例として挙げる。
これを,顧問会社から個人的に借りる取引一般が許されるという説明に広げることはできない。

第4 「特別の事情」の検討
1 必要な費用の立替え等

第4版89頁は,緊急時等のやむを得ない裁判費用の立替えや,弁護士の使命を果たすために必要な報酬支払時期の猶予を例示する。
本条の趣旨に照らした例外の検討であり,費用立替えと呼べば無条件に許されるというものではない。

2 後の紛争を防ぐ確認

金銭の目的,必要性,額,支払先,返還・清算条件を明確にし,事件処理上の判断に影響しないかを検討する必要がある。
担保や保釈保証金については,取戻し・返還ができない場合の紛争にも配慮が必要であると,同書は説明する。

第5 報酬・預り金との関係

貸付金,報酬,実費,預り金を一括して扱うと,支払義務と返還義務の関係が不明確になりやすい。

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法律事務所の事務職員と勤務弁護士の指導監督―弁護士職務基本規程19条・55条・61条(AI作成)

目次第1 指導監督は相手の立場で根拠が違う第2 19条の指導監督1 対象者と防止すべき行為2 連絡・書面・金銭の管理第3 55条と61条の必要な措置1 相談・研修・内部規範2 他の弁護士の非行と監督者自身の関与第4 生成AIの利用にも基本的な監督の枠組みが及ぶ第5 事務所で確認する事項1 事務職員の示談交渉と具体的な指示2 経理を任せきりにした預り金流用3 連名の訴状に含まれた不相当な表現4 公示送達と共同代理人の制止義務5 経営者が起案した通知書と勤務弁護士6 主任に任せきりにした共同受任事件第6 出典・関連記事
第1 指導監督は相手の立場で根拠が違う

事務職員と勤務弁護士を一括して「部下」と捉えると,適用される条文を取り違えやすい。
19条は事務職員,司法修習生その他自らの職務に関与させた者への指導監督を定め,55条と61条は共同事務所や弁護士法人等で弁護士が規程を遵守するための措置を扱う。

規定主体・対象規律の内容19条自らの職務に事務職員等を関与させる弁護士違法・不当行為,秘密の漏えい・利用を防ぐ指導監督義務。55条共同事務所で所属弁護士を監督する権限のある弁護士所属弁護士の規程遵守に必要な措置を採る努力義務。61条弁護士法人・共同法人の社員弁護士社員等の規程遵守に必要な措置を採る努力義務。
第2 19条の指導監督
1 対象者と防止すべき行為

第4版52頁~53頁は,事務職員等について,雇用関係の形式だけでなく,自らの職務に関与させたかという観点から対象を説明する。
事務の補助に関わる者に,業務上の違法・不当行為をさせず,業務に関して知った秘密を漏らしたり利用したりさせないための指導監督が必要である。

委ねられる事務の範囲と,弁護士の判断を要する事項を明確にすることが重要となる。
勤務弁護士に対する規律は19条にそのまま含めて考えるのでなく,共同事務所・法人の規定と,当該弁護士自身の義務を確認する。

2 連絡・書面・金銭の管理

実務上は,①弁護士への取次ぎが必要な相談・苦情,②法的判断を伴う交渉や書面の確認,③期限の管理,④預り金の入出金と照合,⑤記録や秘密情報のアクセスを整理することが考えられる。
これらは19条を具体化する本記事の提案であり,条文に列挙された固定の手順ではない。

「事務職員がしたこと」として処理するのではなく,弁護士が何を任せ,どのように指導・確認していたかが問題となる。
他方,結果として不正が起きた事実だけから,あらゆる場合に弁護士の懲戒責任が決まるという説明も適切でない。

第3 55条と61条の必要な措置
1 相談・研修・内部規範

第4版183頁及び205頁は,内部的な禁止規範,職務上の指導・訓戒,相談体制の明確化,倫理研修等への参加促進を,必要な措置として挙げる。
事務所や法人の規模・形態に応じて,問題を発見し,判断を相談できる体制を整えることが求められる。

利益相反の確認,秘密保持,事件処理の説明,期限,預り金といった問題について,担当者が一人で判断を抱え込まない仕組みが考えられる。
形式的な研修の受講やルールの配布だけで,実際の相談・確認ができるとは限らない。

2 他の弁護士の非行と監督者自身の関与

第4版183頁~184頁及び205頁は,55条・61条が,他の弁護士の非行について監督者の倫理的責任を当然に定める規定ではないことを説明する。
ただし,監督者自身が書面の作成や事件処理に関与した場合は,自らの行為に関する義務を別に検討しなければならない。

連名の書面に名を連ねる場合などに,「実際には他の弁護士が処理していた」という説明だけで問題がなくなるとは限らない。
誰が担当し,何を確認し,問題が報告されたときにどう対応したかを区別して記録することが重要である。

第4 生成AIの利用にも基本的な監督の枠組みが及ぶ

事務職員に生成AIを利用させる場合にも,扱う情報,許可する作業,弁護士が確認する成果物,誤りや漏えいが疑われる場合の報告先を明確にする必要がある。
これは19条等を踏まえた実務上の検討であり,第4版が特定の生成AI製品の利用を認めたという趣旨ではない。

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刑事弁護人の基本義務―弁護士職務基本規程46条・47条・48条と最善の弁護(AI作成)

目次第1 46条・47条・48条の関係第2 「最善」は弁護人の主観だけでは決まらない1 合理的な活動の内容と時期2 本人の意思と弁護人の判断第3 必要な接見と身体拘束からの解放1 回数だけで評価しない2 身体拘束への対応第4 防御権の説明と不当な制限への対応第5 複数被告人の弁護と原議決に基づく事例研究1 公判直前の証拠説明と本人の理解2 本人作成の控訴趣意書と期限直前の接見3 訴訟能力を争う方針と控訴趣意書の不提出4 接見時の機器持込み・撮影と外部交通第6 出典・関連記事
第1 46条・47条・48条の関係

46条は被疑者・被告人の権利及び利益を擁護するため最善の弁護活動に努めること,47条は必要な接見の機会の確保と身体拘束からの解放,48条は防御権の説明・助言と違法又は不当な制限への必要な対抗措置を定める。
第4版156頁は,47条と48条を,46条の弁護活動を具体的な場面に即して示す規定として説明する。

条文主な確認事項46条本人の権利・利益のため,必要な活動を時宜に応じ適切かつ十分に行っているか。47条必要な接見を確保し,身体拘束からの解放について具体的な検討・活動をしているか。48条防御権を理解できるように説明・助言し,その制限への対応を検討しているか。
第2 「最善」は弁護人の主観だけでは決まらない
1 合理的な活動の内容と時期

第4版155頁~156頁は,弁護人が主観的に最善と考えればよいというものではなく,刑事弁護を行う平均的水準の弁護士が一般的・合理的に最善と考える活動に努めるという説明をしている。
必要な活動をしたかだけでなく,その活動をする時期と説明の内容も問題となる。

実務上は,身柄の状況,取調べの進行,本人の理解,証拠の内容,手続の期限を踏まえて活動を組み立てることが考えられる。
無罪や釈放といった結果が得られなかったというだけで,直ちに義務違反が決まるわけではない。

2 本人の意思と弁護人の判断

本人の意思を尊重することと,求められた行為をすべて実行することは同じではない。
第4版155頁は弁護人の役割に複数の見解があることを紹介しつつ,被疑者・被告人の権利擁護と誠実義務を重視する。
本人に選択肢と法的な意味を説明し,理解と意思を確かめながら活動することが必要となる。

偽証・虚偽陳述をそそのかしたり,虚偽と知りながら証拠を提出したりする行為は75条の禁止に当たる。
権利擁護のための適法な主張・立証と,証拠を作り変えることを混同してはならない。

第3 必要な接見と身体拘束からの解放
1 回数だけで評価しない

47条は「必要な接見の機会」の確保を求めており,全事件共通の接見回数を定めているわけではない。
第4版158頁~161頁の解説を踏まえると,事件の進行と本人の状況に応じ,必要な時点で意思疎通を確保できているかを検討することになる。

取調べ前後の助言,供述や証拠に関する確認,公判への準備,重要な手続上の判断についての説明など,接見の目的に応じた内容が必要である。
言語や疾病その他の事情がある場合は,本人が理解できる方法を検討する必要もある。

2 身体拘束への対応

身柄に関する処分の理由,手続の段階,利用できる不服申立て等を確認し,身体拘束からの解放のための活動を検討することになる。
保釈を含め,利用できる手続は被疑者か被告人かによって異なるため,すべての段階で同じ申立てができるという説明は適切でない。

弁護人の選任と接見交通権の制度は,弁護人の選任,国選弁護人及び接見交通権を参照されたい。

第4 防御権の説明と不当な制限への対応

48条の説明・助言は,黙秘権等の名称を伝えるだけでは足りず,本人がその意味を理解し,自らの防御について判断できるようにすることが重要である。
第4版161頁~163頁を参照すると,手続の進行に応じた説明と,権利の制限に対する必要な対応を具体的に検討することになる。

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セカンドオピニオンと弁護士の追加依頼―弁護士職務基本規程40条・41条・72条(AI作成)

目次第1 別の弁護士に相談することはできる第2 相談・追加受任・交代の違い第3 41条は受任弁護士間の意見不一致を扱う1 依頼者への説明が必要となる場面2 42条・43条との区別第4 セカンドオピニオンと不当介入の境界第5 交代する場合の引継ぎ第6 出典・関連記事
第1 別の弁護士に相談することはできる

受任中の事件について,依頼者が別の弁護士の意見を求めることは,第4版229頁が当然に認められる依頼者の権利として説明するところである。
40条も,他の弁護士,弁護士法人又は共同法人に依頼しようとする依頼者を,正当な理由なく妨げることを禁止する。

追加依頼を考える際には,意見だけを求める相談,共同で事件処理を依頼する追加受任,従前の弁護士からの交代を分ける必要がある。
相談しただけで,現在の委任契約が当然に終わるわけではない。

第2 相談・追加受任・交代の違い
依頼の形明確にしておく事項意見だけを求める相談の対象,確認できた資料,意見の前提と限界,現在の代理人との連絡の要否。弁護士を追加する各弁護士の担当範囲,提出・連絡の窓口,方針決定の方法,費用。弁護士を交代する従前の委任の終了,新しい受任の範囲,期限,記録・預り品の引継ぎ,清算。

第4版230頁は,新たに受任する際に,従前の弁護士との関係を継続するのか終了するのか明確にし,記録の引継ぎや費用・実費の清算を円滑かつ明確に処理することを重視している。
依頼者が追加と交代を曖昧にしたまま,それぞれの弁護士に異なる指示を出すことは避けるべきである。

相談に当たっては,依頼内容,これまでの提出書面,現在の証拠,手続の進行状況,次の期限などを整理して示すことが有用である。
新しい弁護士が一部の資料しか確認できていない場合,その意見がどの前提に基づくものかを確かめる必要がある。

元の事件について別の方針や見通しを相談することと,従前の弁護士に損害賠償を求める相談は,目的と検討対象が異なる。
予約・相談時には,意見だけを求めるのか,元の事件の交代を依頼するのか,弁護過誤の責任追及を依頼したいのかを伝え,受任の範囲と費用を確認することが有用である。

責任追及の相談では,元の事件の証拠・裁判書類に加え,委任契約書,依頼・報告の記録,損害の計算と支払資料を整理する。
元の事件を誰が担当し,次の期限を誰が管理するかも明確にする必要がある。
詳しくは,弁護過誤訴訟の要件・証拠・進め方及び弁護過誤の時効を参照されたい。

第3 41条は受任弁護士間の意見不一致を扱う
1 依頼者への説明が必要となる場面

41条は,同じ事件を受任している他の弁護士等との間で事件処理について意見が一致せず,それにより依頼者に不利益を及ぼすおそれがあるとき,その事情を説明する義務を定める。
単に専門家の意見が違うことを禁止する規定でも,意見が違えば直ちに全員が辞任するという規定でもない。

例えば,和解を優先するか訴訟を継続するかについて意見が分かれ,必要な対応や期限の管理に支障が生じるおそれがあれば,不一致の内容と不利益の可能性を依頼者に説明することが問題となる。
これは条文を具体化した例であって,特定の議決事例を再現したものではない。

2 42条・43条との区別

42条が扱うのは複数の依頼者相互の現実の利害対立であり,41条の弁護士間の意見不一致とは主体が異なる。
43条が扱うのは依頼者との信頼関係が失われ,回復が困難な場合である。
各条の要件を分け,説明,役割の見直し,辞任等の必要性を判断することになる。

説明・報告の一般的なルールは,29条・36条の説明義務と報告義務を参照されたい。

第4 セカンドオピニオンと不当介入の境界

72条が禁じるのは,他の弁護士等が受任する事件への「不当な」介入である。

(続きを読む...)セカンドオピニオンと弁護士の追加依頼―弁護士職務基本規程40条・41条・72条(AI作成)

共同事務所の利益相反と弁護士の移籍―弁護士職務基本規程56条・57条・58条(AI作成)

目次第1 移籍では「誰が,いつ」を分けて考える第2 退所する弁護士と残る弁護士1 Xが退所しても,Wの問題は消えない2 Wが移籍する場合には解釈上の問題がある第3 情報遮断だけで受任できるわけではない1 57条ただし書の判断2 令和3年最高裁決定が判断した範囲3 56条の秘密保持は退所後も続く第4 受任後に判明した場合の58条第5 移籍・分裂時の確認記録第6 出典・関連記事
第1 移籍では「誰が,いつ」を分けて考える

弁護士職務基本規程57条は,他の所属弁護士が27条又は28条により職務を行い得ない事件について,共同事務所の所属弁護士にも原則として職務の禁止を及ぼす規定である。
ここでいう共同事務所は,弁護士法人又は共同法人の法律事務所を除く。
法人については63条以下の規定を別に確認する必要がある。

移籍を理由に受任の可否を判断する際は,直接の禁止事由を持つ弁護士と,その同僚として禁止の影響を受ける弁護士を区別しなければならない。
さらに,その禁止事由が在籍中に生じたのか,退所後に初めて生じたのかによっても問題は異なる。
以下では,27条又は28条の事由を持つ弁護士をX,その同僚をWとして説明する。

第2 退所する弁護士と残る弁護士
1 Xが退所しても,Wの問題は消えない

57条の「他の所属弁護士」には,所属弁護士であった者が含まれる。
第4版188頁~191頁の解説によれば,Xに在籍中から職務禁止事由がある場合,Xが退所したというだけで,元の共同事務所に残るWが自由に反対当事者の事件を扱えることにはならない。
Xの退所後に入所した弁護士についても,事務所に残る秘密や従前の関係を確認する必要がある。

これに対し,Xの退所後に初めて生じた職務禁止事由まで,元の共同事務所に当然に波及するという説明ではない。
当事者名だけでなく,相談・受任・退所の各時点を記録しておくことが重要となる。

2 Wが移籍する場合には解釈上の問題がある

W自身には27条又は28条の事由がなく,Xと同じ事務所にいたことだけが問題となる場合について,第4版190頁は,退所したWへの57条の適用を否定する解釈を相当とする。
これは同書の解釈であって,「退所すれば常に受任できる」という確定した一律のルールを示すものではない。

Wが自ら相談を受けていたり,依頼者の秘密を知っていたりすれば,W自身の職務禁止,秘密保持,誠実義務の問題が残る。
移籍先で反対当事者を受任して十分な活動ができるかも,具体的に検討しなければならない。

場面確認すべき点禁止事由を持つXが退所する在籍中からの事由か。残るWへの57条の適用とただし書を確認する。同僚Wが退所するW自身の27条・28条の事由,取得した秘密,移籍先での職務の公正を確認する。Xの退所後に事由が生じる元の事務所に在籍していた時点の事情と区別する。事務所が分裂・統合する名称や組織変更だけで判断せず,担当者・秘密・継続する依頼関係を確認する。
第3 情報遮断だけで受任できるわけではない
1 57条ただし書の判断

57条ただし書は,職務の公正を保ち得る事由がある場合を例外としている。
第4版192頁~194頁は,情報遮断の有無だけでなく,利益相反の内容,事件の性質,事務所内の関係や情報共有の実態などを考慮する説明をしている。

情報遮断の措置があれば必ず例外に該当するというものでも,情報遮断がなければ必ず例外が否定されるというものでもない。
同一訴訟の対立当事者を同じ共同事務所が扱うような場面では,特に慎重な判断が必要である。

2 令和3年最高裁決定が判断した範囲

最高裁令和3年4月14日第二小法廷決定(令和2年(許)第37号)は,57条違反にとどまる場合,懲戒の原因となり得ることは別として,違反は訴訟行為の効力に影響せず,相手方は同条違反を理由として裁判所に訴訟行為の排除を求めることができないと判断した。
これは,弁護士法25条1号に違反する訴訟行為の排除が問題となる場合とは区別される。

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国選弁護人は依頼者から金品を受け取れるか―弁護士職務基本規程49条と私選への切替(AI作成)

目次第1 49条は金品受領と私選への働きかけを別に規律する1 名目を変えても弁護活動の対価は受領できない2 49条の現行条文第2 誰から,何のために,どの期間に受け取るか1 家族からの謝礼や物品も検討対象となる2 受領前に確認する事項第3 実費,示談金の預り及び別事件の報酬1 「実費なら受領できる」と一括しない2 示談交渉の追加報酬と,示談金そのものは区別する3 独立した民事事件には実体と相当性が必要である第4 本人の希望と私選への働きかけを区別する1 働きかけの目的や無料の提案だけでは例外にならない2 本人の自発的な希望でも,手続と他の義務を確認する第5 所属会の例外は,現行本文を確認してから適用する1 ただし書は各地域の一律の許可を意味しない2 解説書の記述が削除されたことと,会則の廃止は別である第6 関連記事と出典1 関連する記事2 出典と確認の限界
第1 49条は金品受領と私選への働きかけを別に規律する
1 名目を変えても弁護活動の対価は受領できない

弁護士職務基本規程49条1項は,国選弁護人に選任された事件について,被告人その他の関係者から報酬その他の対価を受領することを,名目を問わず禁止する。
2項は,その事件の私選弁護人に選任するよう,被告人その他の関係者に働きかけることを原則として禁止する。
金銭の受領と私選への働きかけは異なる行為である。無料の私選弁護を申し出る場合も,対価を受け取らないという理由だけで2項の問題がなくなるわけではない。

本記事は,令和8年10月4日に確認した日弁連公表の現行規程と『解説「弁護士職務基本規程」第4版』163頁~167頁に基づく。
同解説書は日弁連の公式見解を記載したものではない。所属弁護士会の現行例外規定を全て取得したものではなく,個別地域の切替手続の許否を断定する記事でもない。
規程全体は現行条文・条文別索引,法テラスによる支払いは国選弁護人の報酬・費用を参照されたい。

2 49条の現行条文

49条1項は,次のとおりである。
「弁護士は、国選弁護人に選任された事件について、名目のいかんを問わず、被告人その他の関係者から報酬その他の対価を受領してはならない。」

2項は,次のとおりである。
「弁護士は、前項の事件について、被告人その他の関係者に対し、その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはならない。ただし、本会又は所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある場合は、この限りでない。」

条文は「被告人」と表記するが,『解説』第4版164頁は,被疑者国選についても適用されると説明している。
同書163頁~164頁は,国選弁護制度の公正を維持し,報酬面での利益のために私選への切替を誘導する等の弊害を防止する趣旨を説明する。

第2 誰から,何のために,どの期間に受け取るか
1 家族からの謝礼や物品も検討対象となる

「その他の関係者」を本人に限ったり,領収書の名目だけで判断したりしてはならない。
『解説』第4版165頁は,家族等からの金品や物品・サービスも,弁護活動の対価として受け取る場合には問題となることを説明する。
少額の「お礼」なら一律に許される,贈り物なら報酬ではない,という結論にはならない。

2 受領前に確認する事項
確認項目確認内容支払者と目的本人・家族等の誰が,どの活動に対して支払うのか金銭等の性質弁護報酬,実費,示談金の預り,独立した別事件の報酬のいずれか選任・解任の状況対象事件と審級,国選弁護人としての地位,私選選任や国選解任の手続重複と根拠法テラスから同じ費用を受け取っていないか,別事件の業務と報酬に実体があるか私選への経緯弁護士からの働きかけか,本人等の自発的な希望か。例外規定の現行本文は確認できたか

この表は事実を整理するための確認方法である。契約書に別の名目を書いたり,支払いの時期を後にしたりするだけで,弁護活動の対価が別の金銭になるわけではない。

第3 実費,示談金の預り及び別事件の報酬
1 「実費なら受領できる」と一括しない

『解説』第4版165頁~166頁は,実費の扱いについて見解の違いを紹介する。報酬・対価には実費も含まれるとする見解と,対価性のない妥当な実費について受領の余地を認める考え方がある。
同書は,国費から補償されない当事者鑑定等について妥当な実費額を受領しても対価には当たらないと解する余地を述べるが,これを現行の法テラス約款や全所属会の運用による包括的な許可と扱うことはできない。
とりわけ,同じ交通費等を法テラスと本人等の双方から重複して受領することを,単に「実費」という名目で正当化してはならない。

具体的な費用を受け取る前に,費目,支払先,実際の支出額,現行の支払基準と重複の有無を確認し,所属会・法テラスに扱いを確認する必要がある。

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弁護士法人の利益相反―弁護士職務基本規程63条~67条と社員・法人の受任制限(AI作成)

目次第1 法人の利益相反は,個人と法人の両方を確認する1 担当者を交代するだけでは受任できるとは限らない2 「社員等」と「社員」を区別する第2 63条は社員等個人の職務を制限する1 1号・2号は「自ら関与した」相談・事件を対象とする2 3号・4号は,現在の法人の受任関係を見る第3 64条の公正確保と65条の法人受任制限を重ねて確認する1 情報遮断をしたというだけでは結論を出せない2 法人自身の相談・受任に基づく禁止は残る第4 65条5号の「半数未満」と弁護士法の違い1 社員1人の制約でも法人の業務は原則禁止となる2 弁護士法30条の18第5号との要件を混同しない第5 66条は依頼者・顧問先・法人の経済的利益を規律する1 同意する人が号ごとに異なる2 顧問先との関係を個人の契約だけで判断しない第6 受任後に判明したときは67条,秘密保持は62条1 67条の適用対象を特定する2 事情説明のために他の依頼者の秘密を自由に開示できない第7 確認範囲,関連記事及び出典1 共同法人と元社員等についての留意点2 出典
第1 法人の利益相反は,個人と法人の両方を確認する
1 担当者を交代するだけでは受任できるとは限らない

弁護士法人の利益相反では,担当弁護士自身の受任制限と,法人としての受任制限を別々に確認する必要がある。
担当を替えたり,別支店で扱ったりしても,法人自身が業務を行い得ない事件であれば,それだけで制約は解消しない。
弁護士職務基本規程63条は社員等個人,64条は他の社員等との関係,65条・66条は弁護士法人の業務を規律し,67条は受任後の対応を定めている。

本記事は,令和8年10月4日に確認した日弁連公表の現行規程,弁護士法及び『解説「弁護士職務基本規程」第4版』207頁~219頁に基づく。
同解説書は日弁連の公式見解を記載したものではない。以下の具体例は条文の確認方法を示す仮定例であり,裁判例や懲戒議決の紹介ではない。
規程全体は現行条文・条文別索引・主要論点,個人に共通する基本規律は27条・28条の利益相反を参照されたい。

2 「社員等」と「社員」を区別する

61条の「社員等」は,弁護士法人又は弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員又は使用人である弁護士を意味する。法人法上の社員は,単に雇用される職員という意味ではない。
65条5号の半数基準の母数は,弁護士法人の「社員」の総数である。使用人である弁護士や事務職員まで一緒に数える規定ではない。
外国法事務弁護士については64条2項等の規律もあるため,職種と受任主体を特定して確認する。

確認する主体・関係主な規定確認の要点担当する弁護士個人27条・28条,63条自分の従前の関与,現在の法人の受任状況同じ法人の他の社員等64条他の弁護士等の受任制限と,職務の公正を保ち得る事由弁護士法人そのもの65条・66条法人の相談・受任関係,社員の受任制限,法人の経済的利益受任後の処理・記録67条・68条,62条事情説明,適切な措置,秘密保持及び事件情報の記録
第2 63条は社員等個人の職務を制限する
1 1号・2号は「自ら関与した」相談・事件を対象とする

63条1号は,社員等であった期間内に法人が相手方の協議を受けて賛助し,又は依頼を承諾した事件のうち,自ら関与したものを対象とする。
2号は,法人が相手方の協議を受け,その程度及び方法が信頼関係に基づくと認められる事件のうち,自ら関与したものを対象とする。
この2つについては,社員等でなくなった者も条文上含まれる。退社や転職によって,自分が実際に関与した事件の制約が消えるわけではない。

仮に,法人で相手方の相談を受けた弁護士が,退社後に同じ事件の反対側から依頼を受けた場合には,まず自らの関与と相談の内容を確認する。
本人が関与していない事件もすべて63条1号・2号だけで禁止されるとは限らないが,他の規定や取得した秘密の問題を省略してよいことにはならない。

2 3号・4号は,現在の法人の受任関係を見る

3号は,その法人が相手方から受任している事件を対象とする。法人の相手方側の受任と,社員等個人による反対側の受任とを両立させることはできない。
4号は,法人が受任している事件のうち,当該社員等が自ら関与しているものの相手方から依頼される他の事件を対象とする。
63条ただし書の同意による例外は4号について置かれており,同意するのは法人が受任している事件の依頼者である。1号~3号に同じ例外を広げてはならない。

第3 64条の公正確保と65条の法人受任制限を重ねて確認する
1 情報遮断をしたというだけでは結論を出せない

64条1項は,他の社員等が27条,28条又は63条1号・2号により職務を行い得ない事件について,社員等の職務を原則禁止し,職務の公正を保ち得る事由がある場合に例外を認める。
2項には,社員又は使用人である外国法事務弁護士との関係の規律が置かれている。
『解説』第4版210頁~211頁は,情報遮断等について共同事務所の規律との関係を説明する。ただし,別室・別支店・担当交代という名称だけで公正が確保されたと扱うべきではない。

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不当な依頼を受けた弁護士の対応―弁護士職務基本規程14条・31条と受任後の辞任(AI作成)

目次第1 14条と31条の対象の違い1 違法・不正な行為の助長又は利用を禁じる14条2 明らかに不当な事件の受任を禁じる31条第2 依頼の目的と事件処理方法を確認する1 何を実現したい依頼なのか2 どの方法を使うことを求めているのか第3 不当性が明らかな場合と,事実確認が必要な場合1 敗訴の見込みや証拠不足だけで決めない2 確認事項を具体化して判断を更新する3 無断録音を2種類に分けた東京高裁平成28年5月19日判決4 依頼者のGPS情報の収集・利用を止めなかった弁護士の戒告事例5 証拠能力と,収集への助長・利用を別々に点検する6 事務所の帳簿等の違法収集が争われた懲戒手続第4 受任後に判明した場合の説明・方法変更・辞任1 31条から,すべての辞任義務を導かない2 信頼関係,複数依頼者及び他の受任弁護士との関係第5 期限,記録及び依頼者の不利益への配慮1 辞任の検討と,引継ぎの準備を分けて行う2 終了時の説明,清算及び返還第6 懲戒判断との区別,関連記事及び出典1 規程上の問題と,他の責任・効力を区別する2 確認資料
第1 14条と31条の対象の違い
1 違法・不正な行為の助長又は利用を禁じる14条

弁護士職務基本規程14条は,次のとおり定める。
「弁護士は、詐欺的取引、暴力その他の違法若しくは不正な行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。」
事件の相談を受ける場合だけでなく,受任後の助言や処理方法でも問題になる規定である。依頼者の希望というだけで,違法・不正な方法に弁護士が手を貸せるものではない。

『解説「弁護士職務基本規程」第4版』40頁~41頁は,「助長」について,違法・不正であることを知りながら第三者に推奨し,又はその実現や存続を支援すること,「利用」について,違法・不正な行為によって事件処理を有利にし,又は利益を得ることと説明する。
この説明は解説書によるものであり,個々の行為の違法性や懲戒の成否を,一律に決めるものではない。

2 明らかに不当な事件の受任を禁じる31条

31条は,次のとおり定める。
「弁護士は、依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに不当な事件を受任してはならない。」
目的と方法のいずれかに明らかな不当性がある場合を対象とする。14条と同じ行為に関係することもあるが,両条は対象と判断する場面が同一ではない。

条文の確認先は,日本弁護士連合会の公式PDFである。弁護士職務基本規程の条文別索引・主要論点には,関連条文の全体像を掲載している。
なお,14条及び31条は,82条2項が行動指針又は努力目標として列挙する条文に含まれていない。

公表された懲戒例では,株式会社の臨時株主総会で代表者が取締役を解任されて代表権を失った可能性を十分に認識しながら,解任の有無を確認又は照会することも容易であったのに確認せず,その者を代表取締役とする訴訟委任状を取得して会社の代理人として訴訟を提起した行為が,31条違反として戒告とされた(第一東京弁護士会,令和8年4月28日効力発生,『自由と正義』2026年10月号68頁)。

第2 依頼の目的と事件処理方法を確認する
1 何を実現したい依頼なのか

同書130頁~131頁は,単に相手方を困らせ,傷つけ,又は理不尽な圧迫・不利益を加えることのみを意図する事件等を,31条の趣旨に即して説明する。
弁護士が確認すべきなのは,依頼者の感情が強いかどうかだけではなく,実現しようとする権利・利益と,求める処理の目的である。紛争の当事者が怒りを表していること自体は,明らかな不当性の証明ではない。

仮定例として,金銭の支払請求について相談を受ける場合には,債権の根拠,支払の経過,希望する解決を確認する。依頼者が「回収は望まないが,相手を疲弊させるため根拠のない訴訟を繰り返してほしい」と明言する場合には,それと同じ相談として扱えない。
この例は確認すべき事情を示すものであり,特定事件の違反認定を紹介するものではない。

2 どの方法を使うことを求めているのか

正当な請求権がありうる場合でも,事件処理の方法に問題があれば,別途検討が必要である。弁護士は,請求内容だけでなく,証拠の作成・収集,送達,財産の移転,交渉の手段等についても依頼内容を確認する。
同書41頁及び131頁は,違法な自力救済,仮装の処理,不当な執行免脱,虚偽の事情による手続利用等を説明している。

たとえば,家賃を滞納する賃借人に対する請求を検討することと,違法な自力救済となる鍵の付替えを指示することは分けて考える必要がある。相手の債務不履行があるというだけで,弁護士が違法な方法に関与できるものではない。
このような場合には,請求権の検討と,適法な手続・方法への変更を分けて説明することが重要である。

第3 不当性が明らかな場合と,事実確認が必要な場合
1 敗訴の見込みや証拠不足だけで決めない

同書130頁~133頁は,受任時に弁護士が得られる情報には限界があること,後に不当な事件だったと分かることだけで受任を直ちに非難できないこと,敗訴の見込みが高い事件も一律に不当な事件ではないことを説明する。
事実の把握が訴訟の進行で変わりうること,従来の判例と異なる法的主張を検討する役割,和解を通じて守られる利益等を考慮する必要がある。

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弁護士の真実義務と虚偽の証拠―弁護士職務基本規程5条・75条と陳述書・証人準備(AI作成)

目次第1 5条・75条・82条の関係1 真実を尊重することと,虚偽の証拠を提出しないこと2 5条は行動指針の対象であるが,75条は列挙されていない第2 記憶違い,未確認及び虚偽の認識を区別する1 疑問があるときに確認する対象2 必要かつ可能な事実関係の調査第3 陳述書の作成と証人準備1 陳述書を本人の記憶に基づく内容にする2 証人準備で許される確認と,記憶の誘導との違い第4 虚偽と知る証拠と,提出後に判明した場合1 提出時の認識を確認する2 提出後の発覚に,一律の答えを置かない3 虚偽の確認書の撤回を拒んだ事例―平成24年綱第634号4 偽造診断書を撤回しても,代わりの説明の確認が必要となった事例5 撤回と秘密の開示を分ける―元依頼者の供述調書を利用した事例6 訂正・撤回を検討する手順と,原典からは決まらない部分第5 刑事弁護の防御権と民事事件を一律に扱わない1 弁護人の心証と,有罪の立証責任は異なる2 防御活動と虚偽の証拠作出は区別する第6 AIによる誤引用との違い,関連記事及び出典1 AIの出力を確認する責任2 関連記事と確認資料
第1 5条・75条・82条の関係
1 真実を尊重することと,虚偽の証拠を提出しないこと

弁護士職務基本規程5条は,弁護士が真実を尊重し,信義に従い,誠実かつ公正に職務を行うことを定める。一方,75条は,偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかすこと,及び虚偽と知りながらその証拠を提出することを禁止する。
依頼者の説明に疑問を持つこと,裁判所がその説明を採用しないこと,弁護士が虚偽と知っていることは,それぞれ別の問題である。後に事実認定が覆ったという結果だけで,提出時の弁護士の認識まで決まるものではない。

現行の75条は,次のとおりである。
「弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。」
条文の確認先は,日本弁護士連合会の公式PDFである。規程の全体像と条文別索引は,弁護士職務基本規程とは―現行条文・条文別索引・主要論点を参照されたい。

2 5条は行動指針の対象であるが,75条は列挙されていない

82条2項は,第1章の規定等を行動指針又は努力目標として解釈適用するよう求めている。5条は第1章に含まれるが,75条は同項の列挙に含まれない。
この区別から,真実尊重の規定と証拠提出の具体的禁止を同じものとして扱うことはできない。ただし,どちらも,条番号だけで懲戒の成否,民事責任又は訴訟行為の効力まで決められるものではない。
82条1項は,職務の多様性と個別性に鑑み,弁護士の自由と独立を不当に侵さない実質的な解釈適用を求める。刑事弁護については,後記第5の留意も必要である。82条の行動指針・努力目標と懲戒判断も参照されたい。

第2 記憶違い,未確認及び虚偽の認識を区別する
1 疑問があるときに確認する対象

『解説「弁護士職務基本規程」第4版』11頁~13頁及び234頁は,弁護士が得る情報の片面性,訴訟の進行による認識の変化,依頼者の正当な利益を実現する役割を踏まえて真実尊重の意味を説明する。これは,同書の解説であり,裁判所の判断又は日弁連の公式な統一見解そのものではない。
実務では,説明のうち,本人が直接見聞きしたこと,他人から聞いたこと,資料から推測したこと,今は覚えていないことを分けて確認することが有用である。日時の記憶違いと,存在しない出来事を作ることを同列に扱わない。

たとえば,本人が「午後3時だった」と述べたもののメールの送信時刻と合わない場合には,出来事自体,時刻の根拠,時計や送信記録との関係を確認する必要がある。これは確認手順を示す仮定例であり,矛盾が一つあるだけで本人の説明全体が虚偽になるという意味ではない。
確認前の推測を,弁護士の文章で確定した事実に変えないことも重要である。

2 必要かつ可能な事実関係の調査

37条1項は必要な法令の調査を怠らないことを定め,同条2項は必要かつ可能な事実関係の調査を行うよう努めることを定める。法令調査と事実調査は,条文上の位置付けも異なる。
当該事実の重要性,利用できる資料,確認に要する時間,提出期限を踏まえ,原資料,反対資料及び依頼者への質問によって認識を更新する。その過程と未確認部分を記録することを,本記事では運用上の提案として勧める。
依頼者の説明を無条件に採用することも,疑念だけで切り捨てることも避け,何を確認すれば疑問が解消するかを具体化する必要がある。

第3 陳述書の作成と証人準備
1 陳述書を本人の記憶に基づく内容にする

同書234頁~235頁は,準備書面と陳述書の役割を区別し,準備書面の語調や文末を変えただけの文書を本人の記憶にかかわらず署名押印させること,その記載どおりに暗記して陳述させることが,75条に抵触する可能性を指摘する。
弁護士が文章化を補助すること自体を,直ちに禁止する説明ではない。確認すべきなのは,記載が本人の経験・記憶を表しているか,分からない部分を断定させていないか,資料からの推測を本人の直接体験として書いていないかという点である。

実際の確認方法としては,出来事ごとに本人へ説明を求め,補った記載の根拠を確認し,本人の訂正を反映してから最終版を示すことが考えられる。署名があるというだけで内容確認を終えたことにしない。
これらの工程を一律に条文が明記しているわけではなく,虚偽の陳述を誘導しないための具体化である。

2 証人準備で許される確認と,記憶の誘導との違い

同書235頁は,尋問に先立つ事情聴取,証言予定内容の再確認,書証との矛盾についての質問,証人の記憶に基づく修正と,虚偽と知りながら証言させる働きかけを区別する。

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弁護士の事件記録の返還・保管・廃棄―弁護士職務基本規程18条・39条・45条と紙・電子データの取扱い(AI作成)

目次第1 事件記録と預り品を区別する1 本記事で扱う事件記録2 39条・45条との関係第2 依頼者と第三者の情報を保護する1 依頼者の秘密だけが対象ではない2 依頼者への交付も個別に判断する第3 原本・預り品の返還と事件終了時の説明1 返すものと保存するものを確認する2 終了したら廃棄してよいとは限らない3 預けた書類を返してもらえない場合はどうするか第4 保存期間をどう決めるか1 18条に一律の年数はない2 本人確認・取引記録の5年と起算点3 預り金の入出金記録は職務終了後3年4 個人事業・法人・消費税で異なる税務資料5 複数の義務と所属会の規律を重ねて確認する第5 紙と電子データの保管・廃棄1 紙の記録と委託先2 電子データとクラウド第6 辞任・解任・移籍時の取扱い1 事件の継続と引継ぎ2 退所・分裂とアクセス権第7 依頼者への説明と事務所の確認表第8 関連記事及び出典1 関連記事2 出典
第1 事件記録と預り品を区別する
1 本記事で扱う事件記録

弁護士職務基本規程18条は,事件記録の保管・廃棄に際して,秘密及びプライバシーに関する情報が漏れないよう注意する義務を定める。
日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程[第4版]』(日本弁護士連合会,2026年)47頁~50頁は,相談又は委任を受けた事件について職務上入手・作成した文書,写真等の証拠書類,電磁的記録及びその写しを事件記録として説明する。
本記事は,法律事務所が扱うこれらの記録について,令和8年10月3日に確認した日弁連公表本文及び同解説に基づき整理するものであり,裁判所が保管する訴訟記録の保存期間を説明するものではない。
同解説が述べる見解は日弁連の公式見解ではなく,本記事の実務上の提案とも区別して参照されたい。

2 39条・45条との関係

39条は,事件について依頼者,相手方その他利害関係人から預かった書類その他の物品を,善良な管理者の注意をもって保管する義務を定める。
45条は,委任終了に当たり,契約に従って金銭を清算した上で,預り金・預り品を遅滞なく返還する義務を定める。
事件記録の情報管理,預り品の保管及び終了時の返還は,重なり合う場面があっても,対象と目的を区別して点検する必要がある。

規定主な対象・場面点検する内容18条事件記録の保管・廃棄依頼者及び第三者の秘密・プライバシー情報の漏えい防止。39条預かった書類その他の物品善良な管理者の注意による保管。原本の紛失・毀損等の防止。45条委任終了時の預り金・預り品清算と遅滞のない返還。対象,返還先及び受領の確認。情報セキュリティ規程5条職務上取り扱う情報の各段階作成・取得から提供・送信・廃棄までの情報セキュリティ。

事件記録の保管・廃棄を扱う18条と,職務を行い得ない事件の受任を防止するための59条・68条の記録その他の措置は,目的と対象が異なる。59条・68条は依頼者,相手方及び事件名の記録を例示しており,証拠の全文や内部の検討内容を,事務所の全員へ無条件に共有することを求める規定ではない。

『解説「弁護士職務基本規程」第4版』201頁~202頁,218頁~219頁を踏まえ,受任前の照合に使う記録,詳細な事件記録及び共有先を分けて管理することが考えられる。追加情報の記録や共有は,受任防止に必要な範囲と秘密保持との関係を確認する。全事件記録の保存期間を,59条・68条だけで一律に決めることもできない。具体的な記録と照合は,法律事務所の利益相反チェックと事件情報の記録―59条・68条を参照されたい。

第2 依頼者と第三者の情報を保護する
1 依頼者の秘密だけが対象ではない

解説第4版47頁~48頁は,18条の対象に相手方その他第三者の秘密・プライバシー情報も含まれると説明する。
例えば,戸籍の記載,財産資料,供述内容及び企業秘密等は,事件に直接関係する部分だけで構成されているとは限らない。
訴訟で証拠として提出されたという事情だけから,その後の保管・廃棄で情報保護が不要になるわけでもない(同解説50頁)。

2 依頼者への交付も個別に判断する

同解説49頁~50頁は,受任事件を適切に処理するため必要な記録の交付を認める一方,第三者の秘密・プライバシーへの注意を求めている。
交付先,利用目的,必要な部分,第三者情報の有無及び交付後の取扱いを確認し,漏らさないよう注意を伝えること,必要に応じて情報を消除することや記録を回収することを検討する。
報告義務があることは,取得した記録のすべてを無条件に交付する根拠とはならない。
職務上請求の記事及び個人情報漏洩に関する懲戒事例も参照されたい。

第3 原本・預り品の返還と事件終了時の説明
1 返すものと保存するものを確認する

委任終了時には,依頼者等から預かった原本,相手方等から受領して引き渡すべき物,作成・取得した記録の写し及び事務所の業務記録を分けて確認することが望ましい。
18条は情報管理の規定であり,それだけで事務所の内部メモを含む全資料の所有権や開示範囲を一律に決めるものではない。
返還・交付の対象は,委任契約,受領の目的,民法646条の受取物引渡し義務及び各資料に適用される規律を踏まえて判断する。

受領時から,資料名,原本・写しの別,数量,受領日,返還予定,保管場所及び取扱担当者を記録し,返還までの所在を追えるようにすることが実務上の提案である。

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弁護士の委任契約書はいつ必要か―弁護士職務基本規程30条,記載事項,例外及び中途終了時の清算(AI作成)

目次第1 委任契約書を作成する原則1 30条と報酬規程5条2 説明と契約書をそろえる第2 作成時期と2種類の例外1 困難な事由がある場合の後日作成2 合理的理由がある場合の作成不要第3 契約書に記載する事項1 報酬規程5条4項の必須事項2 受任範囲と費用を具体化する第4 中途終了時の清算と返還1 解除できることと費用の清算は別である2 報酬の種類と実際の履行を照合する3 「理由を問わず返金しない」条項と消費者契約法4 みなし成功報酬の裁判例をどう読むか5 清算条項と清算明細に残す事項第5 追加業務と契約条件の変更1 別の手続へ移るとき2 電子契約では四つの問題を分ける3 電子署名と本人の承諾をどう確かめるか4 契約データの交付・保存と本人確認記録第6 契約書がない場合の効力と懲戒1 私法上の契約と職務上の義務2 作成義務違反を説明だけで補えない場合第7 受任時・変更時・終了時の確認表第8 関連記事及び出典1 関連記事2 出典
第1 委任契約書を作成する原則
1 30条と報酬規程5条

弁護士職務基本規程30条1項は,事件を受任するに当たり,弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成することを弁護士の義務としている。
さらに,弁護士の報酬に関する規程5条は,受任時の報酬・その他の費用の説明,委任契約書の作成及び記載事項を定める。
本記事は,令和8年10月3日に確認した日弁連の公表本文と,日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程[第4版]』(日本弁護士連合会,2026年)129頁~130頁に基づき,作成時期,例外及び確認事項を整理する。
同解説が述べる見解は日弁連の公式見解ではなく,本記事の実務上の提案とも区別して参照されたい。

契約書は,依頼者の委任意思,受任範囲及び費用を明確にし,後日の認識の食い違いを防ぐためのものである。
裁判所へ提出する訴訟委任状と,弁護士と依頼者との契約条件を定める委任契約書とは,役割が異なる。
訴訟委任状を受け取ったことだけで,30条の委任契約書を作成したことにはならない。

2 説明と契約書をそろえる

29条の受任時の説明と30条の契約書作成は,別々に点検する必要がある。
説明をしたから契約書が不要になるという関係ではなく,契約書に金額を書いたから見通し・処理方法・費用の説明を尽くしたという関係でもない。
説明義務・報告義務の専門記事も参照されたい。

第2 作成時期と2種類の例外
1 困難な事由がある場合の後日作成

30条1項ただし書は,作成することに困難な事由があるときは,その事由がやんだ後に作成すると定める。
これは作成義務を残したまま時期を遅らせる規定であり,作成不要の例外とは異なる。
緊急の対応を先行させる場合でも,困難な事由の内容と解消時点を記録し,解消後の作成を管理することが実務上の確認事項となる。

「忙しかった」「後で作るつもりだった」という説明だけで,当然にただし書に当たるとはいえない。
依頼者との意思確認や費用説明についても,何を,いつ,どの方法で確認できたかを残すことが望ましい。

2 合理的理由がある場合の作成不要

30条2項は,法律相談,簡易な書面の作成,顧問契約その他継続的な契約に基づく事件その他合理的な理由がある場合に,作成を要しないとする。
解説第4版129頁は,その場で仕事が終了して支払も済む場合や,継続的関係の下で受任内容・報酬が明らかな場合を説明する一方,作成しなかった合理的理由を弁護士側で十分説明できることを求めている。
依頼者と旧知の間柄であることは,それだけで作成義務を免除する理由にならない。

場面点検する事項作成・記録の扱い受任時に作成が困難困難な事由と解消の見込み事由がやんだ後に作成する。理由と作成予定を管理する。その場で終了する法律相談相談の範囲,料金,終了した業務2項の例外を検討する。後に交渉・訴訟を受任する場面とは分ける。継続的な顧問契約の業務基本契約の対象範囲と報酬,今回の業務との関係既存契約で明確な範囲を確認する。別料金の訴訟等を当然に含めない。友人・知人からの依頼通常の事件受任か,ほかに合理的理由があるか親しい関係だけを理由として省略しない。
第3 契約書に記載する事項
1 報酬規程5条4項の必須事項

報酬規程5条4項は,①受任する法律事務の表示及び範囲,②報酬の種類・金額・算定方法・支払時期,③委任事務の終了に至るまで契約を解除できる旨,④中途終了した場合の清算方法を記載事項として定める。
30条の「報酬に関する事項を含む」という文言だけを見て,受任範囲や解除・清算の記載を省略してよいと考えるべきではない。

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弁護士職務基本規程と司法書士行為規範の徹底比較-義務・利益相反・守秘義務と法的効果(AI作成)

目次

第1 両規範の位置付けと比較の対象第2 義務・努力目標・契約書・説明の違い1 弁護士82条と司法書士の努力文言2 契約書作成は弁護士が義務,司法書士が努力義務3 意思尊重と説明・報告の対象第3 受任禁止・利益相反・同意の違い1 応諾義務と不当・不正な依頼2 同意による例外は条項ごとに異なる3 共同依頼者の対立は受任前と受任後を分ける第4 秘密・記録・財産・相手方との関係1 守秘義務の対象と開示例外2 事件記録と預り金・預り品3 補助者・紹介対価・依頼者との経済関係4 相手方代理人を介さない直接交渉第5 業務別の規律を横断して読む1 不動産登記と商業・法人登記2 本人訴訟支援と認定司法書士の代理3 成年後見・財産管理・遺言執行・民事信託4 刑事弁護と組織内弁護士第6 共同事務所・法人・共同業務の違い1 遵守体制を整える主体と規律の強さ2 利益相反の拡張と移籍後の制約第7 懲戒・民事責任・契約や訴訟行為の効力1 法定懲戒の権者・事由・処分2 説明義務と委任契約上の責任3 無効・訴訟行為の排除と倫理評価第8 出典・参考資料1 法令2 職能団体の正式な規程・規範3 裁判例
第1 両規範の位置付けと比較の対象

弁護士職務基本規程と司法書士行為規範は,自由と独立,公正・誠実,秘密保持,利益相反の回避などの職業倫理を具体化している。
ただし,契約書を作成する規律の強さ,同意で受任禁止を解除できる範囲,業務別の確認事項,違反の法的効果は一致しない。
本記事では,職種全体の厳格さを順位付けせず,問題となる行為,業務,義務を負う主体及び例外を対応させて比較する。

調査の基準日は令和8年10月3日である。
日弁連公表の弁護士職務基本規程は平成16年11月10日制定の会規第70号であり,掲載PDFは平成26年12月5日及び令和3年6月11日の改正を掲げ,後者は令和4年11月1日に施行されている。
司法書士行為規範は,令和4年6月23日・24日の日本司法書士会連合会第87回定時総会で承認され,令和5年4月1日に施行されたものである。

比較事項弁護士職務基本規程司法書士行為規範全体構成13章。1~82条に68条の2があり,本則の独立した条は83本15章・102条規律の強さ82条が一部の条項を行動指針又は努力目標とする各条文の義務・禁止・努力文言を確認する一般的な契約書作成30条の例外付き義務23条の努力義務利益相反の配置27・28条,共同事務所・法人の規定等全業務の25条等と,裁判業務の58条等業務別の独立章刑事弁護,組織内弁護士,事件相手方等登記,供託,裁判,成年後見,財産管理,民事信託支援等個人への法定懲戒権者所属弁護士会(弁護士法56条2項)法務大臣(司法書士法47条)

いずれの規範も,業務を行う法律上の権限を新設するものではない。
弁護士は弁護士法3条,司法書士は司法書士法3条等による職務・業務の範囲を前提として,各規律を読むことになる。
弁護士側の全文と条文別索引は,弁護士職務基本規程の総合記事で確認できる。

第2 義務・努力目標・契約書・説明の違い
1 弁護士82条と司法書士の努力文言
(1) 弁護士の解釈適用指針

弁護士規程82条1項は,職務の多様性と個別性を踏まえ,自由と独立を不当に侵さないよう実質的に解釈・適用することを定める。
同条2項は,第1章,20~22条,26条,33条,37条2項,46~48条,50条,55条,59条,61条,68条,70条,73条及び74条を,行動指針又は努力目標として解釈・適用する対象に挙げている。

この一覧にあるのは33条であり,複数の依頼者に対する不利益事項の説明を定める32条ではない。
また,37条は2項だけが対象であり,必要な法令の調査を怠ってはならないとする1項まで努力目標になるわけではない。
対象条文と懲戒判断の関係は,82条の行動指針・努力目標で詳しく扱っている。

(2) 司法書士の条項ごとの読み分け

司法書士規範には,弁護士82条2項と同じ形の包括的な列挙はない。
それでも,契約書作成の23条,賠償責任保険加入の40条,不動産登記での公平確保の45条,民事信託支援の81条などは,条文自体に努力を求める文言がある。
包括的な列挙がないことから,全条文を結果の実現を保証する義務として読むことはできない。

2 契約書作成は弁護士が義務,司法書士が努力義務
(1) 弁護士30条の原則と例外

弁護士規程30条1項は,受任に当たり,報酬に関する事項を含む委任契約書の作成を義務付ける。
作成に困難な事由があるときは,その事由がやんだ後に作成する扱いである。

同条2項は,法律相談,簡易な書面作成,顧問契約その他の継続的契約に基づく事件など,合理的な理由がある場合に作成を不要とする。
したがって,すべての依頼で例外なく書面が必要という規定ではないが,原則を単なる推奨へ弱めることもできない。

(続きを読む...)弁護士職務基本規程と司法書士行為規範の徹底比較-義務・利益相反・守秘義務と法的効果(AI作成)

組織内弁護士の自由と独立・違法行為への対応―弁護士職務基本規程50条・51条(AI作成)

目次第1 50条の行動指針と51条の措置義務1 組織の一員であっても,弁護士としての職務を考える2 50条と51条を同じ努力目標として扱わない第2 誰が「組織内弁護士」に当たるか1 50条が定める組織と立場2 外部顧問や通報窓口の弁護士との違い第3 51条の措置義務が問題となる条件1 担当職務・組織に属する者・業務上の法令違反2 疑いの段階では,事実確認と緊急性を分ける第4 誰に,どのような措置を採るか1 説明・勧告の相手は固定された一本道ではない2 法務担当者が残しておく判断記録第5 組織内の措置と外部通報・守秘義務1 51条は外部通報を一般に義務づけない2 内部報告でも,情報の帰属と共有範囲を点検する第6 実務で先に決めておくことと検討の限界1 独立した判断を行える相談・報告経路2 役職・情報・報告先を確定して判断する第7 出典
第1 50条の行動指針と51条の措置義務
1 組織の一員であっても,弁護士としての職務を考える

企業や官公署等に所属する弁護士は,組織の一員としての職務と,弁護士としての使命・職業上の良心をどのように両立させるかという問題に直面する。
弁護士職務基本規程50条は,その自由と独立を自覚し,良心に従って職務を行うよう努めることを定める。
51条は,担当職務に関する組織内の業務上の法令違反を知ったときに,組織内で適切な措置を採ることを定める。

本記事は,令和8年10月3日に確認した日弁連の現行規程と,日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(2026年)168頁~173頁を中心に整理する。
同書の見解は日弁連の公式見解ではない。
条文全体の位置付けは,弁護士職務基本規程の総合記事を参照されたい。

2 50条と51条を同じ努力目標として扱わない
規定主な内容82条2項の列挙50条自由と独立を自覚し,良心に従って職務を行うよう努める行動指針又は努力目標として列挙される51条要件を満たす法令違反を知ったとき,組織内の適切な措置を採る同項の列挙には含まれない

50条の内容だけを見て,51条も単なる努力目標であると説明してはならない。
他方,列挙の有無だけから懲戒の成否や処分の重さを機械的に決めることもできない。
82条の行動指針・努力目標と,具体的な担当職務・行為の内容を併せて検討する。

第2 誰が「組織内弁護士」に当たるか
1 50条が定める組織と立場

50条は,官公署又は公私の団体において職員・使用人となり,又は取締役・理事その他の役員となっている弁護士を対象とする。
同条の「組織」からは,弁護士法人,外国法事務弁護士法人及び弁護士・外国法事務弁護士共同法人が除かれている。
法律事務所に勤務する弁護士と,企業等に所属する組織内弁護士を,所属先の名称だけで混同しないことが必要である。

(1) 監査役と非常勤の社外取締役を同じ役員として扱わない

『解説』第4版169頁は,株式会社の監査役について,50条の立法趣旨に照らし「その他の役員」に含まれないとの解釈を示す。
同頁は,非常勤の社外取締役を組織内弁護士とすることの妥当性には議論があること,営利業務の届出が必要な役員の範囲と50条・51条の適用対象を必ずしも同一に考える必要がないことも説明する。
監査役への適用を同解説が肯定しているように紹介したり,単に弁護士資格があることから全ての社外役員に51条を一律適用したりするのは適切ではない。

この区別は,社外取締役又は監査役としての監督・監査義務がなくなることを意味しない。
まず会社の機関設計,正式な役職,監査範囲及び担当業務を確定し,職務基本規程の適用問題と,会社法上の義務を別々に確認する必要がある。
監査等委員である取締役は取締役であり,監査役と同じ名称・権限の役職ではない。

(2) 会社法上の報告・監査・差止め

会社法362条2項は,取締役会の職務として取締役の職務執行の監督を定める。
357条は,取締役が会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した場合に,直ちに株主又は会社の機関設計に応じた監査役・監査役会・監査等委員会へ報告することを定める。
弁護士資格のある社外取締役についても,50条・51条の適用範囲の議論だけを理由に,この報告の要否を省略すべきではない。

(続きを読む...)組織内弁護士の自由と独立・違法行為への対応―弁護士職務基本規程50条・51条(AI作成)

弁護士の説明義務・報告義務―弁護士職務基本規程29条・36条と見通し変更・和解提案への対応(AI作成)

目次第1 受任時の説明と受任後の報告・協議を区別する1 説明した契約書があっても,その後の報告は必要になる2 場面別の確認表第2 29条の受任時説明で確認すること1 事件の見通し・方法・報酬・費用2 予測を述べることと,結果を保証することは違う3 書面や職員の補助だけで説明を済ませない第3 36条の「必要に応じ」をどう考えるか1 請求された場合の報告と,自ら行う報告・協議2 見通しが変わったときと,和解案が出たとき3 「専門家に任せる」と言われた場合4 依頼者が生成AIの評価を示して質問してきた場合第4 最高裁平成25年4月16日判決の示す説明の不足1 法廷意見が判断したこと2 一般的な報告義務の論述は補足意見と区別する第5 誰に,どの方法で,何を残すか1 紹介者・家族だけに説明していないか2 説明・協議の記録は何のために残すか第6 事件放置・辞任・委任終了とのつながり1 連絡の不足と事件処理の遅滞を分けて点検する2 終了時には結果説明と清算を確認する第7 出典
第1 受任時の説明と受任後の報告・協議を区別する
1 説明した契約書があっても,その後の報告は必要になる

弁護士職務基本規程29条は,事件を受任するときの見通し,処理方法,報酬及び費用の説明を定める。
36条は,受任後,必要に応じて事件の経過や帰趨に影響する事項を報告し,依頼者と協議しながら処理を進めることを定める。
受任時に説明したことや委任契約書を作成したことだけで,その後の状況変化について説明・協議する必要がなくなるわけではない。

本記事は,令和8年10月3日に確認した日弁連の現行規程,民法,裁判所公表の最高裁判決及び『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(2026年)に基づく。
同解説書の説明,判決の法廷意見及び本記事の実務上の提案は,それぞれ根拠を示して区別する。
全体の条文と位置付けは,弁護士職務基本規程の現行条文・条文別索引・主要論点を参照されたい。

2 場面別の確認表
場面主な規定確認する内容受任する前・受任時29条得られた情報に基づく見通し,方法,報酬及び費用委任契約の作成30条報酬事項を含む契約書。例外の有無は別に確認複数依頼者の将来の対立32条辞任の可能性その他の不利益を各依頼者に説明受任後の進行・見通しの変化36条経過と重要事項の報告,判断に必要な説明と協議委任の終了44条・45条処理状況・結果の説明,清算及び預り金・預り品の返還

説明義務は,依頼者に有利な結果を約束する義務ではない。
依頼者が,リスク,選択肢及び費用を理解して判断できるようにすることが中心となる。

第2 29条の受任時説明で確認すること
1 事件の見通し・方法・報酬・費用

29条1項の説明は,依頼者から得た情報に基づくものである。
『解説』第4版125頁~126頁は,事件の見通し,処理方法,報酬及び費用が最低限の説明事項であり,見通しが勝敗だけでなく,予測される相手方の主張や解決までの時間も含むことを説明する。
受任時にあらゆる調査を終えることまでは要求されないが,未確認の前提と,その前提が変わった場合の影響を示すことが重要である。

本記事では,説明事項を次のように整理する。
① 何を依頼され,どこまでの事務を担当するのか。
② 得られた情報から,何が見通せ,何がまだ分からないのか。
③ 交渉,調停,訴訟,保全等のどの方法を検討し,その方法を選ぶ理由は何か。
④ 報酬・実費,追加費用が生じる条件,審級や手続が変わったときの取扱いは何か。
⑤ 依頼者が準備する資料や,期限までに決める必要のある事項は何か。

この確認項目は,条文と解説を日常の相談に適用するための運用提案である。
事件の性質によって,説明すべき項目の具体的な内容は異なる。

見通しの前提となる法令・事実関係をどこまで調べるか,追加調査の方法・費用・期限をどう協議するかは,弁護士の法令・事実調査―弁護士職務基本規程37条で整理している。

受任時の協議では,依頼者の希望する結果,初回に相手方へ提示する条件及び証拠に基づく法的な見通しを,別の事項として記録することが有用である。
例えば,100万円を希望して100万円を提示したことは,100万円の認容又は回収を予測・保証したこととは異なる。希望を確認した上で,予測の根拠と未確認の前提を説明し,どの条件が変われば見通しを更新するかを共有する。これは本記事の運用提案である。

2 予測を述べることと,結果を保証することは違う

(続きを読む...)弁護士の説明義務・報告義務―弁護士職務基本規程29条・36条と見通し変更・和解提案への対応(AI作成)

弁護士の利益相反―弁護士職務基本規程27条・28条の違い,同意による例外と受任後の対応(AI作成)

目次第1 利益相反の確認は「誰が,どの事件で,誰のために動くか」から始める1 本記事の対象と結論2 受任前に確認する順序第2 27条と28条は何が違うか1 27条は従前の関与や現在の相手方との関係を規律する2 28条は依頼者・顧問先・自己の利益との関係を加える第3 相談だけでも制約は生じるか1 契約書や着手金の有無だけで決まらない2 「別事件」は事件番号が違うだけでは足りない第4 同意を得ればよい場面でも,説明と秘密保持を確認する1 誰の何に対する同意かを明確にする2 利益相反の同意と秘密の開示の承諾は別に検討する第5 受任後に利害対立が生じたとき1 32条の事前説明と42条の事後措置2 遺産分割等で「全員辞任か,一方を継続できるか」第6 共同事務所・弁護士法人と訴訟行為の効力1 担当弁護士個人だけを調べて終わらない2 規程違反と訴訟行為の排除を区別する第7 個別の場面と出典1 さらに確認する場面2 出典
第1 利益相反の確認は「誰が,どの事件で,誰のために動くか」から始める
1 本記事の対象と結論

弁護士の利益相反を検討するときは,依頼者全員の同意があれば受任できると一括して考えてはならない。
弁護士職務基本規程27条・28条は,禁止される場面と同意による例外を区別しており,27条1号・2号等には同意による例外が置かれていない。
まず適用される号を特定し,次に同意の対象者,秘密保持,受任後の対応を確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月3日に確認した日弁連公表の現行規程,弁護士法及び日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(2026年)の該当箇所に基づく。
同解説書は日弁連の公式見解を記載したものではなく,解釈について意見が分かれる場面もある。
規程全体の本文と条文別索引は,弁護士職務基本規程の総合記事を参照されたい。

2 受任前に確認する順序
確認する問い主に確認する規定・事項相手方から同じ事件の相談・依頼を受けていないか27条1号・2号,弁護士法25条1号・2号現在の事件の相手方から別事件の依頼を受けていないか27条3号。現在の事件の依頼者の同意現在の依頼者・顧問先を別事件で相手方にしないか28条2号。新しい依頼者と相手方の双方の同意複数の依頼者の利益や,依頼者と自分の経済的利益が対立しないか28条3号・4号。潜在的な対立は32条も確認同僚・元同僚や弁護士法人の事件に制約がないか56条~59条,62条~68条。個人の確認だけで終えない

この順序は,条文を見落とさないための実務上の確認方法である。
表のいずれか一つだけを満たせば受任できるという意味ではなく,複数の規定に該当するときは,各規定の制約をそれぞれ確認する。

第2 27条と28条は何が違うか
1 27条は従前の関与や現在の相手方との関係を規律する

27条は,相手方との相談・受任関係,公務員や裁判外紛争解決手続の担当者としての関与等に基づく職務の禁止を定める。
28条は,27条に規定する場合のほか,親族,現在の依頼者・顧問先,依頼者同士及び弁護士自身の経済的利益との関係を規律する。
『解説』第4版95頁は,27条を弁護士法25条との関係を明確にする規定として説明しつつ,27条5号が仲裁に限らない裁判外紛争解決手続を含むことも指摘する。

27条の号禁止される事件の概要本条の同意による例外1号相手方の協議を受けて賛助し,又はその依頼を承諾した事件置かれていない2号相手方の協議を受け,その程度・方法が信頼関係に基づくと認められる事件置かれていない3号受任している事件の相手方から依頼された他の事件受任中の事件の依頼者の同意4号公務員として職務上取り扱った事件置かれていない5号仲裁・調停・和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件置かれていない

弁護士法25条は現行法で9号まであり,弁護士法人等に所属する弁護士についての規定も含む。
したがって,職務基本規程27条の五つの号だけを確認して,法律上の職務制限をすべて確認したことにはならない。

2 28条は依頼者・顧問先・自己の利益との関係を加える
28条の号禁止される事件の概要同意が必要な者1号相手方が配偶者,直系血族,兄弟姉妹又は同居の親族である事件その事件の依頼者2号受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供を約している者を相手方とする事件その事件の依頼者と相手方3号依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件その事件の依頼者と他の依頼者のいずれも4号依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件その事件の依頼者

27条3号は「現在の相手方から,別事件を頼まれる」場面であり,28条2号は「現在の依頼者・顧問先を,新しい事件で相手方にする」場面である。
依頼の向きが逆になると,同意を確認する相手も変わる。
例えば,Aから受任した事件の相手方Bが別件を依頼するときは27条3号を検討するのに対し,Cが現在の依頼者Aを訴える事件を依頼するときは28条2号を検討する。

『解説』第4版106頁~107頁は,28条2号の継続的な法律事務提供先が顧問先に限られないこと,終了した依頼関係についても守秘義務による制約が残り得ることを説明する。
顧問契約の終了だけから,同じ紛争の反対側で自由に活動できると考えてはならない。

第3 相談だけでも制約は生じるか
1 契約書や着手金の有無だけで決まらない

(続きを読む...)弁護士の利益相反―弁護士職務基本規程27条・28条の違い,同意による例外と受任後の対応(AI作成)

店舗・法律事務所に防犯カメラを設置するとき―画角,録音,顔識別,保存期間及びクラウド契約(AI作成)

目次第1 設置前に決めること1 防犯の目的と撮影の範囲2 従来型カメラの表示と利用目的第2 顔識別・従業者の監視を追加するとき1 顔識別機能を通常の録画と区別する2 従業者の監視に関するルール3 職場の監視を問題とした労働委員会命令4 自衛目的の記録と保存・共有を分ける5 不在中の録音と自らの会話の録音を分ける第3 保存期間と証拠保全1 一律の日数ではなく必要性から決める2 映像とログを別に保全する第4 クラウド契約とアクセス管理1 契約前に確認する項目2 閲覧権限と委託先の確認3 カメラ・録画機・ルーター自体を管理する第5 導入・変更時の確認と資料の範囲1 導入前に行う試験2 現行法と改正法を区別する3 関連記事
第1 設置前に決めること
1 防犯の目的と撮影の範囲

防犯カメラを導入するときは,機器の価格や画質だけでなく,何を防ぎ,どの場所を撮影し,誰が映像を確認するかを先に決める必要がある。本記事は,店舗や法律事務所での設置・運用を扱う。映像を警察や弁護士へ提供するときの判断は,防犯カメラ映像を警察・弁護士に提供するときで別に説明している。

実務上は,入口,駐車区画,レジ周辺等について,撮影によって確認したい事実を一つずつ書き出すとよい。例えば,無断駐車への対応なら,車両の出入りと駐車位置の確認が目的になる。隣家の室内や必要のない道路部分まで撮ることを当然の前提にせず,画角の変更やマスキングを検討する。これは目的に沿った運用設計の提案であり,全ての施設に同一の画角を義務付ける趣旨ではない。

法律事務所では,相談者の来訪自体や相談内容に配慮し,面談室の撮影・録音を受付の防犯と一緒に決めないことが大切である。音声が必要な理由,録音される場所,閲覧者,保存期間を別に検討し,必要性を説明できなければ録音機能を停止する運用を検討する。「防犯カメラ作動中」という表示だけで,あらゆる会話の録音や利用が許されるわけではない。

弁護士法23条は,職務上知り得た秘密の保持を弁護士の権利・義務として定めている。相談内容を録音する場合は,個人情報保護だけでなく守秘義務との関係も確認する。実務上の提案として,受付の防犯記録と相談の記録を分け,必要な場合には録音の目的,範囲,保存,閲覧者及びクラウド事業者のアクセスを具体的に説明し,録音を止めて相談できる方法も検討する。以下の職場の事例は法律相談室を直接扱うものではなく,相談室の常時録音の適法性を保証しない。

2 従来型カメラの表示と利用目的

個人情報保護委員会のカメラに関するQ&AQ1-13によれば,個人を識別できる画像を取得する場合は,利用目的を特定し,その範囲で利用する必要がある。設置状況から防犯目的が明らかな場合には利用目的の通知・公表の例外がある一方,撮影されることを容易に認識できない場合には,認識できるようにする措置が必要である。認識できる設置状況でも,掲示等を行うことが望ましいとされている。

入口の掲示,施設のウェブサイト及び運用規程の内容をそろえ,運用主体,目的及び問合せ先を案内すると,利用者からの質問に対応しやすい。表示が実際の運用と一致しているかを,導入時だけでなく,機能追加時にも確認する。

第2 顔識別・従業者の監視を追加するとき
1 顔識別機能を通常の録画と区別する

前記Q&AのQ1-14は,顔識別機能を使う場合,その使用を利用目的に明らかにし,通知又は公表を行う必要があると説明している。同Q1-15によれば,防犯目的で取得した画像や顔特徴データをマーケティング等の商業目的に転用するときは,事前の本人同意が必要になる。

導入判断では,「録画だけ」「顔を照合して通知」「来店分析」の機能を分けて確認する。防犯用の顔照合に登録する対象,登録理由の記録,誤登録の訂正,解除の判断者も決めておく。単に不審に見えたという担当者の印象だけで登録を広げる運用は避けるべきである。

2 従業者の監視に関するルール

個人情報保護委員会Q5-7は,個人データの取扱いに関する従業者の監督としてモニタリングを行う場面について,目的の特定・明示,責任者と権限,運用ルール及び適正な実施の確認を挙げている。重要事項について労働組合等への通知・必要に応じた協議や従業者への周知が望ましいとも説明している。

このQ&Aは,全ての職場監視の適法性を一括して認める資料ではない。社内不正の調査で映像を使う場合は,調査の対象期間と場所を絞り,関係のない映像へのアクセスを制限する。勤怠評価や懲戒に用いるなら,撮影目的との関係,規程,説明及び調査の相当性を別に検討する必要がある。調査の進め方は,社内で窃盗・横領が疑われたときの社内調査も参照されたい。

3 職場の監視を問題とした労働委員会命令

鹿児島県労働委員会平成26年1月9日命令〔平成24年(不)第2号〕は,組合員の職場を映すカメラ等について,画角・録音機能,説明,設置時期,労使関係及び主張された目的との整合性を検討し,組合員の行動監視を目的とする不利益取扱いを認定した。救済は,対象の7台について団体交渉に応じること等と,うち3台について一定の措置まで使用しないことを含む。全ての職場カメラの禁止や,7台全部の撤去を一律に命じたものではない。

これは裁判所の判決ではなく,労働委員会の命令である。防犯・事故防止という名目や事前の表示だけで判断せず,実際の撮影対象と監視の程度を確認する必要がある,という実務上の学びになる。カメラ配置図,必要性を示す事故等の記録,音声・ズーム機能の設定及び閲覧場所も,設置の検討資料として残すとよい。

4 自衛目的の記録と保存・共有を分ける

京都地裁令和6年5月14日判決〔令和2年(ワ)第1858号〕は,労働者が自衛目的で行った限られた範囲・期間の撮影や,自らの会話の無断録音について,その事案の就業規則上の懲戒事由には当たらないとした。一方,削除を指示された動画を削除したと偽り,第三者もアクセスできる共有サーバー内に保存した点は,懲戒事由に当たるとした。判決全体では,ほかの非違行為も踏まえて懲戒解雇を有効としている。

無断撮影・録音が一般に適法であるとか,一定期間以内なら問題がない,という判断ではない。記録の目的,撮影・録音の範囲,規程・指示に加え,その後の保存先,共有及び報告を別々に評価することが重要である。証拠を残す必要がある場合も,アクセスを制限した保全方法や削除指示への対応を個別に検討し,虚偽報告によって解決しようとしない。

5 不在中の録音と自らの会話の録音を分ける

大阪地裁令和5年12月7日判決〔令和3年(ワ)第6483号・令和4年(ワ)第350号,判例時報2612号55頁,判例秘書L07851277〕は,自分がいない間の従業員休憩室に録音機を置き,約4か月にわたり20回,1回約3時間,会話を広く秘密録音した証拠(甲6)を排除した。休憩室の利用状況,録音の方法・範囲等を踏まえてプライバシーを著しく侵害し,証拠として採用することが訴訟上の信義則に反すると判断したものである。

同じ判決は,別の従業員が自分の参加する会話を自衛目的で録音した証拠(甲8)については,侵害の程度や証拠の重要性等を検討して採用した。秘密録音という名称だけで一律に決めず,録音者が会話に参加しているか,場所,期間,対象,目的,取得の経緯及び立証上の必要性を具体的に確認する必要がある。

また,不在中の休憩室を録音した者には,録音に関するプライバシー侵害による慰謝料として,相手2名それぞれに5万円が認められた。証拠として使えるか,取得行為が不法行為になるか,就業規則上の懲戒事由に当たるかは,分けて検討する。甲8を採用したことは,自分の会話なら常に適法であるとか,録音者の損害賠償責任が一切ないと判断したという意味ではない。この事例も,法律相談室の常時録音を直接扱うものではない。

第3 保存期間と証拠保全
1 一律の日数ではなく必要性から決める

個人情報保護委員会Q5-4は,個人情報保護法22条に基づき,利用の必要性を考慮して保存期間を設定し,不要になった個人データを遅滞なく消去するよう努める必要があると説明している。「法律上,防犯映像は全て30日保存しなければならない」という整理にはならない。

(続きを読む...)店舗・法律事務所に防犯カメラを設置するとき―画角,録音,顔識別,保存期間及びクラウド契約(AI作成)

中小M&Aにおける弁護士報酬の決め方―仲介・FA手数料との違い,取引額連動報酬と委任契約書(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 仲介・FAと弁護士の仕事を分ける1 仲介・FAの手数料について公表されていること2 弁護士が担う法律事務第3 弁護士報酬を決める規律1 経済的利益は考慮要素の一つである2 基準,見積り,説明及び委任契約書第4 報酬方式を選ぶ1 時間制,固定額及び工程別固定額2 取引額連動と併用第5 取引額連動報酬の算定基礎を具体化する1 何を「取引額」と呼ぶか2 価格調整,分割実行及び不成立第6 裁判例の射程1 報酬額の合意がない訴訟委任2 事業譲渡額を基礎とした民事再生事件第7 受任前と請求時の確認手順1 依頼者と弁護士が受任前に確認すること2 進行中と請求時に確認すること第8 確認できることと残る資料上の限界第9 出典・関連記事
第1 この記事の対象と結論

本記事は,中小企業の株式譲渡・事業譲渡に関与する弁護士の報酬を,仲介者・フィナンシャル・アドバイザー(FA)の手数料と区別して検討する。調査基準日は令和8年10月1日である。上場会社の大型買収における報酬相場や外国法律事務所の時間単価を示すものではない。

結論は,取引額だけを先に見て報酬を決めるのではなく,①誰のために,②どの工程で,③どの法律事務を担当し,④どの危険を分析・交渉し,⑤取引中止時に何を清算するかを先に定めることである。時間制,固定額,工程別固定額,取引額に連動する報酬及びこれらの併用にはそれぞれ適する場面と注意点がある。いずれを選んでも,報酬額の適正妥当性と受任時の説明が必要となる。

第2 仲介・FAと弁護士の仕事を分ける
1 仲介・FAの手数料について公表されていること

中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)は,仲介者・FAの着手金,月額報酬,中間金,成功報酬及び最低手数料を説明する。同ガイドライン63頁~65頁によれば,成功報酬にレーマン方式を用いる場合でも,譲渡額,移動総資産額,純資産額など「基準となる価額」の選び方によって手数料は変わる。表面上の料率だけを比べても,実際の支払額は比較できない。

同ガイドラインが説明するのは仲介・FAの業務と手数料である。弁護士報酬の法定料率,標準額又は適法性を定めた資料として使うことはできない。登録支援機関が公表する標準的な手数料体系も,個々の案件で現実に支払われた額と同一ではない。

仲介者が取引の相手方から受ける手数料も確認しておく必要がある。
中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)に関するQ&A(④No.4)は,相手方が支払う手数料の額は依頼者の利益に影響する構造にあるとして,仲介者に,相手方の手数料に関する事項も契約締結前に説明するよう求めている。
同Q&A(⑩No.1)は,両当事者から手数料を受領する仲介者である旨の説明も求めている。
依頼者自身が負担する手数料,相手方の手数料及び弁護士への報酬を分けて確認し,同ガイドラインの仲介・FAの説明を弁護士報酬の料率規制に読み替えない。
仲介・FA契約の締結前の確認事項は「中小M&Aの仲介・FA契約を締結する前に(AI作成)」で整理している。

2 弁護士が担う法律事務

弁護士への依頼には,法務デュー・ディリジェンス(DD),発見した危険の評価,株式譲渡契約・事業譲渡契約の作成又は審査,表明保証・補償・解除・価格調整の交渉,クロージングの法的確認,契約後の紛争対応などがあり得る。依頼者が譲渡側か譲受側かによって,重点も異なる。中小M&Aガイドライン(第3版)34頁~35頁及び50頁も,法的問題や契約後のトラブルに関して弁護士への相談を想定している。

仲介・FAと弁護士が同じ取引に参加しても,担当する仕事の範囲と依頼者に対する責任は一致しない。報酬を比較するときは,紹介・候補探索・条件調整・法務DD・契約交渉・税務・登記の担当者を一枚の業務表に分け,それぞれの見積りが何を含むかを確認する。

候補先を実際に探し,依頼者の条件に合う相手との接点を作る業務には,契約審査とは異なる時間と成果がある。比較する際には,単に誰かを紹介したのか,候補の調査,絞込み,接触及び条件調整まで行うのかを具体化する。契約書を作る作業時間だけを比較して,探索業務の価値又は報酬の適否を判断しない。

弁護士への依頼に候補探索を含める場合は,対象となる事業・地域・取引条件,探索期間,候補先の調査方法,接触の範囲及び報告の頻度を委任契約書に記す。依頼者の名称や非公開情報をいつ誰に示してよいか,秘密保持契約を誰が締結するか,依頼者を拘束する提案を行う権限があるかも定める。成約相手の選択,価格及び取引実行は,依頼者の判断と必要な社内決裁に戻す。

探索への固定報酬・月額報酬・成功報酬を設ける場合は,各報酬がどの業務に対応するかを説明する。候補が見つからない場合,中途終了,他の経路での成約,探索だけを他の支援機関へ依頼する場合の費用と成果物の引継ぎも合意する。法務DDや契約交渉の見積りと区別することで,重複した請求の確認ができる。

取引相手の候補探索と,弁護士への依頼者紹介は,同じ行為ではない。実際の役務への対価と,依頼者紹介への謝礼は区別して確認する。弁護士職務基本規程13条は依頼者紹介への対価の授受を禁止し,12条は弁護士等でない者との報酬分配を制限する。名称を「FA業務」又は「探索支援料」に変えたことだけでこれらの問題が解消するものではない。誰が依頼者のために何を行い,誰から誰へ何の対価が支払われるかを確認する。以上の業務分解は契約設計上の提案であり,特定の報酬契約の適法性を一律に認めるものではない。

第3 弁護士報酬を決める規律
1 経済的利益は考慮要素の一つである

日本弁護士連合会の弁護士の報酬に関する規程2条は,経済的利益,事案の難易,時間及び労力その他の事情に照らし,報酬を適正かつ妥当なものとするよう求める。弁護士職務基本規程24条も,適正かつ妥当な弁護士報酬の提示を求める。取引額は一つの要素であるが,それだけで報酬が決まるわけではない。

この二つの規程は,すべてのM&A法律事務を時間制で受任するよう命じていない。他方,取引額の一定割合を合意すれば,個別の事情を問わずその額が適正になるとも定めていない。本記事では,報酬方式の選択と,選んだ金額・算定過程の適正妥当性を分けて考える。

2 基準,見積り,説明及び委任契約書

報酬規程3条は,事務所に備える報酬基準に種類,金額,算定方法,支払時期等を明示するよう求める。4条は,依頼を検討する者から申出があった場合,内容に応じた見積書の作成・交付に努めるものとする。5条は受任時の報酬・費用の説明及び委任契約書の作成を規律し,同条4項は業務の表示と範囲,報酬の種類・金額・算定方法・支払時期,委任の終了前に解除できる旨並びに中途終了時の清算方法を記載事項とする。職務基本規程29条及び30条も受任時の説明と委任契約書を規律する。

M&Aでは作業範囲と取引条件が途中で変わり得る。契約書に報酬の名称だけを書くのでなく,初期見積りの前提,追加業務の発注方法,費用が増える際の連絡・再協議方法を明示することが,後日の認識違いを減らす。

第4 報酬方式を選ぶ
1 時間制,固定額及び工程別固定額

時間制では,担当者ごとの単価,対象作業,見込時間,報告単位,予算上限又は超過時の連絡方法を決める。調査資料や交渉回数が読みにくい案件では作業量に対応しやすいが,依頼者は総額を予測しにくい。受任時の見込みを大幅に超えそうなときに,理由と今後の見込みを共有する運用が重要である。

(続きを読む...)中小M&Aにおける弁護士報酬の決め方―仲介・FA手数料との違い,取引額連動報酬と委任契約書(AI作成)

仲裁人の利益相反開示義務とコンフリクト・チェック―最高裁平成29年12月12日決定から考える調査・記録の実務(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論第2 最高裁平成29年12月12日決定1 事案の概要2 抽象的な一般開示では足りない3 認識又は合理的調査による判明可能性が必要である第3 現行仲裁法とJCAA商事仲裁規則1 仲裁法18条及び44条2 JCAA商事仲裁規則24条第4 当事者・代理人側の実務1 最初に関係者地図を作る2 開示を受けたら評価と期限管理を分ける3 後から判明した事実を時系列化する第5 仲裁人・法律事務所側のコンフリクト・チェック1 就任前チェック2 継続チェック3 具体的な追加開示第6 主張立証のチェックリスト第7 本決定の射程第8 出典・参考資料
第1 本記事の対象と結論

本記事は,仲裁人の利益相反に関する最高裁平成29年12月12日第三小法廷決定(平成28年(許)第43号)を出発点として,仲裁人候補者・仲裁人,当事者及び代理人が行うべき開示,調査及び記録化を整理するものである。
法令及び規則の基準日は令和8年10月1日である。

結論として,将来利益相反が生じる可能性を抽象的に述べるだけでは,具体的な利益相反事実を開示したことにはならない。
他方,開示義務違反を主張する側も,法律事務所内に情報が存在したというだけでは足りず,仲裁人が実際に認識していたか,又は合理的な範囲の調査をすれば通常判明し得たことを,調査態勢と情報経路に即して主張立証する必要がある。

第2 最高裁平成29年12月12日決定

1 事案の概要

本件は,JCAAの仲裁事件においてされた仲裁判断について,仲裁人の所属する国際法律事務所の別オフィスの弁護士が,当事者の関連会社を別訴で代理していた事実が開示されなかったことなどを理由に,仲裁判断の取消しが申し立てられた事案である。

当該仲裁人は就任時に,所属事務所の弁護士が将来,本件と関係のない事件で当事者又は関連会社と利益相反する依頼者を代理し,又は当事者若しくは関連会社を代理する可能性がある旨を一般的に表明していた。
しかし,問題となった別訴代理の事実自体は開示していなかった。

2 抽象的な一般開示では足りない

最高裁は,仲裁法18条4項の開示制度が,当事者に具体的な事実に基づく忌避判断の資料を与え,忌避制度の実効性を確保する趣旨であることを重視した。
そのため,利益相反事実が将来生じる可能性を抽象的に述べただけでは,同項の「既に開示した」事実には当たらないとした。

実務上は,「当事者又は関係会社との関係が将来生じることがある」という包括文言だけで終わらせず,判明した関係主体,案件類型,関与者,関与時期及び関係の性質を,守秘義務に配慮しながら具体化する必要がある。

3 認識又は合理的調査による判明可能性が必要である

最高裁は,仲裁人が開示対象事実を現に認識している場合だけでなく,合理的な範囲の調査により通常判明し得る事実についても開示義務を負い,その義務は仲裁手続が終了するまで継続するとした。

もっとも,開示義務違反があったというためには,仲裁手続終了までに仲裁人が当該事実を認識していたか,又は合理的な範囲の調査を行えば通常判明し得たことが必要である。
本件では,仲裁人本人の認識,所属事務所内での認識及び利益相反確認態勢が明らかでなかったため,最高裁は原決定を破棄し,更に審理させるため差し戻した。

したがって,本決定は仲裁判断の取消しを最終的に確定したものではない。
また,法律事務所に情報があれば当然に仲裁人も知っていた,という擬制を示したものでもない。

第3 現行仲裁法とJCAA商事仲裁規則

1 仲裁法18条及び44条

現行仲裁法18条4項は,仲裁人に対し,仲裁手続の進行中,既に開示したものを除き,自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実の全部を遅滞なく開示することを求めている。
同条1項2号は,公正性又は独立性を疑うに足りる相当な理由があるときを忌避事由とする。

開示対象は忌避事由そのものより広い。
「疑いを生じさせるおそれのある事実」を開示させ,忌避するかどうかを当事者の判断に委ねる仕組みだからである。

仲裁法44条1項6号は,仲裁廷の構成又は仲裁手続が日本法上の強行規定に違反する場合を仲裁判断取消事由の一つとしている。
ただし,個別事案で取消しが認められるかは,開示対象事実,認識・調査可能性,手続への影響及び同条の要件を具体的に検討する必要がある。

2 JCAA商事仲裁規則24条

JCAA商事仲裁規則(2021年)は,仲裁人候補者に合理的な調査を求め,問題となり得る事実が判明した場合には,就任辞退又は書面による開示を求めている。
仲裁人就任後も合理的な調査と遅滞のない書面開示を求め,就任時に将来の可能性を一般的に開示しただけでは義務を履行したことにならないと明記している。

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債務不履行と弁護士費用―契約の履行・仮処分・訴訟・強制執行に要した費用を請求できるか(AI作成)

目次

第1 結論
第2 最高裁令和3年1月22日判決の事案と判断

1 問題となった費用
2 最高裁が弁護士報酬を損害と認めなかった理由
3 判決が判断していないこと

第3 不法行為の弁護士費用との違い
第4 契約実務で費用負担を設計する方法

1 契約条項を置く
2 弁護士費用以外の実費を分ける
3 請求原因ごとに構成する

第5 訴訟・保全・執行前の確認事項
第6 まとめ
第7 出典

契約の相手方が任意に履行しないため、弁護士へ依頼して交渉、仮処分、訴訟又は強制執行を行った場合、その弁護士費用を債務不履行による損害として相手方へ請求できるでしょうか。最高裁令和3年1月22日判決は、土地売買契約の履行を実現するための弁護士報酬について、請求を否定しました。本記事は、この判決の射程と契約・訴訟実務上の対応を整理します。

第1 結論

最高裁令和3年1月22日第三小法廷判決(令和元年(受)第861号)は、土地売買契約の買主が、売主の引渡し・所有権移転登記義務の履行を求めるため、訴訟、保全命令及び強制執行等を弁護士に委任した事案で、その弁護士報酬を売主の債務不履行による損害として請求できないとしました。

ただし、この判決から「債務不履行では弁護士費用を一切請求できない」という一般命題を導くのは広すぎます。少なくとも、①どの契約上の義務が不履行になったのか、②求める費用が契約の履行を実現するためのものか、別の権利利益の侵害を回復するためのものか、③契約に費用負担条項があるか、④不法行為その他の請求原因が併存するかを分ける必要があります。

第2 最高裁令和3年1月22日判決の事案と判断
1 問題となった費用

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法律事務所がパソコン・Office等を購入・納品してもらうときの確認事項―管理アカウント,プロダクトキー,保守記録及びサポート期限(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 発注前に決めること1 製品とライセンスの種類2 誰のアカウントで管理するか3 サポート期限と移行方法第3 納品時に受け取る記録1 機器と購入の記録2 Office等のライセンスの記録3 回復手段と多要素認証第4 納品時の動作確認1 ライセンス認証と製品表示2 通常業務のテスト3 保存場所とバックアップ第5 保守業者に作業を依頼するとき1 作業前に残す事項2 作業前に業者へ確認する事項3 作業中及び作業後の記録第6 Officeの不具合で最初に分ける三つの状態1 Officeは起動するが「ライセンスのない製品」と表示される2 ショートカットやアイコンが見当たらない3 Officeがインストール済みアプリにもない第7 管理表に入れる項目第8 担当変更・端末廃棄時の引継ぎ第9 関連記事第10 出典
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,法律事務所がパソコン,Officeその他の業務用ソフトウェアを販売店又は保守業者から購入し,設定済みの状態で納品してもらう場合に,発注前,納品時及び納品後に確認しておく事項を整理するものである。

確認基準日は令和8年(2026年)10月1日である。Microsoftの製品構成,価格,ライセンス条件,サポート期限及び画面は変わり得るため,実際の発注時には公式ページと見積書を改めて確認する必要がある。

本記事は,特定の製品を購入するよう勧めるものでも,販売店又は保守業者に一定の記録作成義務があると述べるものでもない。障害時に復旧できず,業務が止まる事態を避けるための実務上の確認事項である。

2 結論

パソコンの納品時には,機器が動くことだけでなく,次の四点を事務所が自ら確かめ,記録を受け取る必要がある。

製品名,版,ライセンスの種類,利用できる台数及びサポート期限
ライセンスに関連付けた管理アカウント,回復手段及びプロダクトキー等の所在
正規のインストーラー又は再インストール経路,購入記録及び保守窓口
納品時の動作確認の結果と,その後に業者が行った保守作業の記録

アカウントのメールアドレスだけを一覧にしても足りない。パスワードや多要素認証の回復コードを同じ一覧へ平文で記載することは避け,閲覧者を限定した別の方法で管理する。

第2 発注前に決めること
1 製品とライセンスの種類

見積書の「Office付き」だけでは,障害時に必要な情報が分からない。少なくとも,製品名と版,個人向け買い切り版,企業向けプレインストール版,ボリュームライセンス版又はサブスクリプションの別,利用できる台数,商用利用の条件及び含まれるアプリを確認する。

例えば,Microsoftの日本向け公式ストアは,Office Home & Business 2024を2台のWindows PC又はMacで使用できる買い切り版とし,Word,Excel,PowerPoint,Outlook及びOneNoteを含むとしている。他方,Office Home 2024のアプリ一覧にOutlookは含まれていない。Outlookを業務メールに用いる場合は,価格だけで製品を選ばず,必要なアプリを見積書に明記してもらう。

2 誰のアカウントで管理するか

買い切り版のOfficeであっても,初回設定や再インストールにMicrosoftアカウントを使う製品がある。Microsoftは,購入済みのOfficeを再インストールする場合,購入時に使ったアカウント又は既に製品に関連付けられたアカウントでサインインするよう案内している。

職員個人のアカウント又は業者担当者のアカウントで登録すると,退職,異動又は担当変更の後に,事務所がライセンスを確認できなくなるおそれがある。事務所が継続して管理できるアカウントを使用し,管理責任者と代替担当者を決める。

3 サポート期限と移行方法

パソコンの使用予定期間と,Windows及びOfficeのサポート期限は別に確認する。Office 2016及びOffice 2019のサポートは令和7年(2025年)10月14日に終了している。買い切り版にもサポート期限があるため,「一度買えば安全に使い続けられる」という意味ではない。

見積時には,サポート終了日,終了後の移行先,既存文書の互換性,Outlookのメールデータ,アドイン,マクロ及び周辺機器への影響を確認する。

第3 納品時に受け取る記録
1 機器と購入の記録

次の事項を,納品書,設定報告書又は事務所の管理表へ記録する。

メーカー,機種名,型番,製造番号又はサービスタグ

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弁護士が病気・メンタル不調で執務できないときの業務継続――期限,依頼者連絡,預り金及び引継ぎ(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と資料2 結論第2 病気になっても残る職務上の義務1 事件の遅滞防止と依頼者への報告2 預り金の分別管理,記録,報告及び返還3 病気は免責事由ではないが,処分の重さには影響し得ること第3 業務継続対応を始める基準1 診断名ではなく業務への影響で判断する2 即日対応が必要な兆候3 本人だけで判断しない仕組み第4 最初の24時間,3日及び7日で行うこと1 最初の24時間2 3日以内3 7日以内第5 受任事件,依頼者連絡及び辞任・引継ぎ1 事件一覧は期限から並べる2 依頼者には診断名よりも業務上の事実を伝える3 協力弁護士は当然には代理権を持たない4 辞任・引継ぎで残す記録第6 預り金の停止,照合,報告及び返還1 新たな出金を止める2 事件別残高と銀行残高を照合する3 正当な支出があっても報告・清算・返還は別に必要である4 職員任せにしない第7 公表裁決から分かること1 所属弁護士会の処分と日弁連による変更2 軽減方向に考慮された事情3 それでも業務停止1月とされた理由4 処分量定の機械的な相場にはできない第8 平常時に作っておく業務継続セット第9 一人事務所と複数弁護士事務所の違い第10 関連する場面との区別第11 関連記事第12 出典及び資料の限界

第1 この記事の対象と結論
1 対象と資料

本記事は,弁護士が病気,けが又はメンタル不調によって,受任事件の処理,依頼者への連絡,預り金の管理その他の執務を続けることが難しくなった場合の業務継続対応を扱う。

法的な義務については,日弁連の弁護士職務基本規程及び預り金等の取扱いに関する規程を確認した。具体例については,大阪弁護士会が業務停止3月とした処分を,日弁連が令和8年7月14日の裁決により業務停止1月へ変更した公表裁決を用いる。

同裁決は一つの懲戒事案に関する判断であり,病気時の業務継続手順を一般的に定めたものではない。本記事のうち,「しなければならない」とする部分は会規等に根拠がある事項であり,24時間・3日・7日の対応順序,協力弁護士への連絡方法及び業務継続セットは,これらの義務を履行できなくなる事態を避けるための実務上の推奨策である。

2 結論

結論は次の6点である。
①病気やメンタル不調があっても,事件を遅滞なく処理し,依頼者へ報告し,預り金を記録・清算・返還する義務が当然に消えるわけではない。
②もっとも,公表裁決では,精神的不調に至った経緯,預り金を費消せず保管していたこと,審査請求後に協力弁護士が返還を完了したことが,処分を軽くする方向で考慮された。
③他方で,約4年7か月にわたる長期保管,その間に返還の能力や機会が全くなかったとは認められないこと,本人ではなく協力弁護士が返還したことも考慮され,業務停止1月は残った。
④執務不能の兆候が出たときは,診断名の確定を待たず,期限・期日・身体拘束事件・預り金・連絡不能の危険から順に事務所の対応を始める。
⑤協力弁護士がいるだけでは,受任事件の代理権や預り金を動かす権限が当然に生じるわけではない。依頼者の意思,利益相反,守秘義務,委任状,復代理及び裁判所への届出等を事件ごとに確認する。
⑥病気になってから一から引継資料を作るのでは遅い。平常時から,期限一覧,事件別預り金台帳,連絡先,権限の境界及び緊急時の手順を更新しておく必要がある。

第2 病気になっても残る職務上の義務
1 事件の遅滞防止と依頼者への報告

弁護士職務基本規程35条は,事件を受任したときは速やかに着手し,遅滞なく処理することを定める。同規程36条は,事件の経過及び事件の帰すうに影響を及ぼす事項について,適宜,依頼者に報告することを定める。

したがって,体調不良のため予定していた申立て,提訴,照会,交渉又は依頼者への回答ができなくなったときは,体調の回復だけを待つのでは足りない。期限への影響を調べ,必要に応じて依頼者へ状況を説明し,代替措置,辞任又は引継ぎを検討する必要がある。

2 預り金の分別管理,記録,報告及び返還

弁護士職務基本規程38条は,事件に関して預かった金員を自己の金員と区別し,預り金であることを明確にする方法で保管し,その状況を記録することを定める。同規程45条は,委任の終了に当たり,委任契約に従って金銭を清算し,預り金及び預り品を遅滞なく返還することを定める。

預り金等の取扱いに関する規程は,保管目的以外の使用の禁止,預り金口座,入出金の記録,依頼者への収支報告及び弁護士会の照会への回答等を定める。体調不良は,帳簿と銀行残高の不一致や,返還・報告の先送りを放置してよい理由にはならない。

3 病気は免責事由ではないが,処分の重さには影響し得ること

公表裁決は,精神的不調に陥って預り金の返還手続及び所属弁護士会の懲戒手続への対応を続けられなかったとの主張に沿う証拠が提出されたことを,処分を軽くする方向で考慮した。しかし,職務基本規程45条の趣旨に違反するとの判断自体は維持した。

したがって,病気又はメンタル不調については,①義務違反の有無,②責任の程度,③処分の重さ,④今後の再発防止を分けて検討する必要がある。「病気だから違反にならない」とも,「病気は一切考慮されない」ともいえない。

第3 業務継続対応を始める基準
1 診断名ではなく業務への影響で判断する

業務継続対応を始める基準は,診断書の有無ではなく,受任事件を安全に処理できるかである。例えば,期限を思い出せない,同じ連絡を何度も先送りする,郵便物を開封できない,記録を読むと強い不安で動けない,入出金の説明ができない状態が続くときは,病名が確定していなくても対応を始めるべきである。

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法律事務所の標的型メール訓練―開封率より報告率・初動時間を測る実施方法(AI作成)

目次第1 結論第2 訓練の法的・実務的位置付け第3 実施前に決めること第4 訓練メールの題材第5 測定する指標第6 開封・クリック後の報告と初動第7 責めない運用と事後教育第8 第三者への影響と訓練業者の管理第9 実施チェックリストと関連記事第10 出典と調査範囲
第1 結論

法律事務所の標的型メール訓練は,職員をだまして失敗者を見付けるためではなく,不審メールに気付いた人が速やかに所内へ報告し,事務所が調査・封じ込め・期限確認を開始できるかを確かめるために行う。開封率又はクリック率だけで評価せず,報告率,最初の報告までの時間,所内の初動完了までの時間及び再教育後の改善も測定する。

訓練でURL又は添付ファイルを開いた人を責めると,現実の事故でも報告が遅れやすくなる。報告を受けた担当者は,まず報告に謝意を示し,時刻,行った操作及び端末を確認する。訓練業者を利用する場合は,職員のメールアドレス,開封・クリック・報告の記録その他の個人データについて,利用目的,アクセス権,保存期間,削除,再委託及び事故時の連絡を事前に定める。

本記事は令和8年9月30日時点の法令,会規及び公表資料に基づく。訓練結果は教育と体制改善の資料であり,それだけで個々の職員の能力又は事務所の安全性を断定するものではない。

第2 訓練の法的・実務的位置付け

日本弁護士連合会の弁護士情報セキュリティ規程4条2項は,弁護士等に対し,事務職員等が安全管理措置を遵守するよう指導監督することを求め,同条3項は,弁護士等が自ら又は事務職員等の情報セキュリティに関する知識を涵養するため,研鑽及び教育に努めることを定めている。訓練は,この教育と,規程6条の取扱方法の点検・改善を具体化する一つの方法である。

個人情報保護法23条から25条は,個人データの安全管理措置,従業者の監督及び委託先の監督を定める。個人情報保護委員会の通則編ガイドラインは,従業者への教育・研修をリスクに応じて充実させることが望ましいとし,個人データの取扱いを委託するときは,適切な委託先の選定,委託契約及び取扱状況の把握を示している。

もっとも,特定の回数又は特定方式の訓練を一律に義務付ける規定ではない。事務所の規模,取扱情報,過去の事故,利用するメール・クラウド環境及び担当者の体制に応じて,机上演習,短時間の教育,模擬メール及び事故対応演習を組み合わせる。

第3 実施前に決めること

実施前に,少なくとも次を文書化する。
①目的―不審メールの判別だけでなく,報告と組織初動を確認すること
②対象―弁護士,事務職員,司法修習生,派遣・委託スタッフ等のどこまでを含めるか
③期間―送信日時,測定終了時刻,事後教育の日程
④報告経路―不審メールを転送せずに報告できる専用ボタン,電話又は別の安全な連絡手段
⑤初動担当―最初の報告を受け,訓練か現実の事故かを切り分ける担当者と代替者
⑥記録―取得するデータ,閲覧者,保存期間,削除時期及び個人評価への利用の有無
⑦中止条件―第三者から問合せが来た場合,実在事件又は現実の障害と混同した場合等

訓練であることを事前に全員へ知らせない場合でも,責任者,事故対応担当者及び必要なシステム管理者には,誤って現実の事故として外部通報したり,業務メールを一律遮断したりしないための範囲で知らせる。実施中に本物の不審メールが到着する可能性を前提に,訓練用ドメイン,送信元及び識別情報を担当者だけが確認できるようにする。

第4 訓練メールの題材

題材は,事務所で実際に起こり得るが,実在の依頼者,裁判所,弁護士会,金融機関その他の第三者に迷惑をかけないものを選ぶ。例えば,①共有ファイルの閲覧依頼,②メールボックス容量又は多要素認証に関する案内,③請求書・日程表・事件資料を装う添付ファイル,④過去のやり取りへの返信を装うメールが考えられる。

レンタルサーバー,ウェブサイト保守会社又はプラグイン作者を装い,「今夜から攻撃が始まる」,「直ちにPHPを切り替える」又は「管理画面へログインする」よう求める緊急通知も題材になり得る。
この場合の到達目標は,緊急性だけで真偽を判断せず,メール内のリンクを使わずに登録済みの管理画面又は提供者の公式サイトを開き,公表日時,対象版,修正版及び事務所の完全な版番号を確認し,所内の保守担当へ報告できることである。

訓練では,実在事業者の商標,ドメイン又は緊急連絡を無断で模倣せず,現実の脆弱性通知と混同した場合の中止条件を定める。
公式情報がまだ詳細を公表していない段階では,影響版又は攻撃開始時刻を推測で補わないことも確認する。

経営者,依頼者又は取引先を装うメールから電話若しくはビデオ会議へ誘導し,顔又は声で送金,振込先変更,認証情報入力若しくは秘密情報の送信を指示する複合型も訓練題材になり得る。
訓練の目的は映像の不自然さを見破ることではなく,重要な指示を保留し,依頼メール又は会議内で示された番号を使わず,あらかじめ登録した連絡先へ折り返し,別の承認者へ回せるかを確認することである。

パスワード付きZIPを題材にする場合,「ZIPを解凍しただけで常に感染する」と教えない。暗号化されたZIPはメール側のマルウェア検査を妨げることがあり,別メールのパスワードも送信者の真正又は内部ファイルの安全性を保証しない。受信予定があるかを確認し,既知の電話番号等の別経路で送信者に確認し,拡張子を表示して,実行ファイル,スクリプト及びOfficeマクロ等を不用意に実行しないという判断過程を訓練する。

実在又は酷似した組織名,ロゴ,ドメイン若しくは電話番号を無断で使うと,訓練対象者がその第三者へ連絡し,問合せ又は風評の負担を生じさせることがある。IPAの訓練資料は,実在又は類似の組織・ドメインを避け,訓練対象者の問合せ先を組織内の担当窓口にするよう注意を示している。

第5 測定する指標
指標確認すること注意点開封率・クリック率模擬メールの開封,URLクリック又は添付ファイルの操作メールソフトの画像取得,セキュリティ製品の自動アクセス及び重複操作を除外できるか確認する報告率不審と判断して所定の窓口へ報告できた割合開かなかった人の報告と,開いた後の報告を区別して把握する最初の報告までの時間送信又は受信から,所内窓口が最初の報告を受けるまでの時間早期検知の実効性を見る。個人を責める順位表にしない組織の初動完了時間担当者が訓練を識別し,影響確認,周知その他の予定した手順を終えるまでの時間職員だけでなく,受付・連絡・判断手順の詰まりを測る再教育後の改善同じ弱点に関する短時間教育後の再確認結果題材の難易度,対象人数及び測定条件の違いを記録する

情報処理推進機構(IPA)の資料は,訓練目的に応じて開封率又は適切な対応の達成率を測り,標的型攻撃メールの報告までの時間や,報告を受けた後の組織の対応完了までを確認する考え方を示している。令和8年公表の実践ナビも,開封率と報告率を測り,報告が遅い又は少ない場合には手順の不明確さを分析することを勧めている。

数値を比較するときは,対象人数,除外者,送信時間,訓練題材,分母,重複報告の扱い及び自動アクセスの除外方法を残す。クリック率が低いという一つの数値だけから,現実の攻撃への備えが十分であるとはいえない。

第6 開封・クリック後の報告と初動

訓練対象者には,「開いてしまったら黙る」のではなく,次の順序を教える。
①それ以上のURLクリック,添付ファイル操作,マクロ有効化又は認証情報入力を止める
②受信時刻,開封時刻,クリック・解凍・内部ファイル実行・マクロ有効化の有無及び端末を所内窓口へ報告する
③原メール,完全なメールヘッダー,添付ファイル及び画面表示を勝手に削除せず,担当者の指示を待つ
④内部ファイル,実行ファイル,スクリプト又はマクロを実行した場合は,担当者の指示に従い,必要に応じて端末をネットワークから隔離する
⑤不審メールをそのまま多数へ転送して被害又は混乱を広げない

現実の事故では,原メール,完全なヘッダー,添付ファイル,添付ファイルのハッシュ値,メールゲートウェイ及び端末のログを保存する。単なるメールの表示,URLアクセス,ZIPの解凍,内部ファイルの実行及びマクロ有効化は技術的に同じ出来事ではないため,確認済み事実と推測を分けて記録する。開封又はクリックだけで感染確定と断定せず,反対に内部ファイルを実行した事実を「メールを見ただけ」と過小評価しない。

第7 責めない運用と事後教育

報告を受けた担当者の最初の言葉は,「なぜ開いたのか」という非難ではなく,「報告してくれてありがとう。今から確認します」とする。IPAの実践ナビは,開いてしまった場合でも必ず報告することを教え,報告を責めず,早期報告を評価する文化を作ることを勧めている。

(続きを読む...)法律事務所の標的型メール訓練―開封率より報告率・初動時間を測る実施方法(AI作成)

弁護士の事件放置と懲戒――放置期間では処分が決まらない理由と公表事例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と資料2 結論第2 事件放置に関する規律1 弁護士職務基本規程2 弁護士法3 事件処理の遅滞と裁判手続の遅延第3 戒告にとどまった例1 放置の期間の幅2 虚偽の説明があっても戒告の例第4 処分が重くなった例1 虚偽の報告と書面の偽造2 複数の事件・依頼者での反復3 事務職員への任せきり4 着手金・預り金の未清算と弁護士会への不対応5 同種の処分歴6 所在不明第5 処分の重さを分ける事情第6 弁護士が確認しておくこと1 放置を防ぐ仕組み2 処理が遅れてしまったとき3 体調不良で処理を続けられないとき第7 関連記事第8 出典1 日弁連の会規・法令2 懲戒処分の公告
第1 この記事の対象と結論
1 対象と資料

本記事は,弁護士が受任した事件の処理を放置したことが懲戒処分の対象とされた例を整理し,処分の重さを分ける事情を検討するものである。
本記事の法令及び会規は令和8年9月28日現在のものである。
懲戒例は,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)の機関誌『自由と正義』に掲載された公告と,大阪弁護士会『月刊大阪弁護士会』2026年9月号に掲載された告示の原本で,掲載号・頁・処分の内容を確認した。
公告は処分の理由の要旨を記載したものにとどまるため,本記事の記述も公告の記載の範囲に限られる。
個々の弁護士の氏名は記載しない。

2 結論

結論は次の4点である。
①事件の放置は,主に弁護士職務基本規程35条(事件の処理)と36条(事件処理の報告及び協議)の違反として懲戒の対象となる。
②放置の期間だけで処分は決まらない。
公告には,約5か月の放置から9年以上の放置まで,戒告にとどまった例がある。
③処分が重くなるのは,放置に次の事情が重なった場合である。
虚偽の報告や書面の偽造,消滅時効の完成など依頼者の権利の喪失,複数の事件・依頼者での反復,事務職員への任せきり,着手金や預り金の未清算,所在不明や弁護士会への不対応,同種の処分歴である。
④もっとも,「虚偽の報告があれば必ず重い」といった一律の基準はなく,提訴済みと虚偽の説明をした事案でも戒告の例がある。

依頼者が事件放置を疑って別の弁護士へ相談する場合は,最後の報告日,依頼した手続,提出先・事件番号,受付控え,最新の裁判書類及び次の期限を整理することが有用である。
報告がないことと,必要な手続をしていないことを分け,手元の資料で確認できる事項と,確認を求める事項を区別する。
元の事件の期限への対応と,従前の弁護士への責任追及の検討を並行して進める必要がある場合もある。

本記事の懲戒例から,民事上の損害賠償額や請求期限が当然に決まるわけではない。
責任追及の要件と証拠は,弁護過誤訴訟の要件・証拠・進め方,請求期限は,弁護過誤の時効を参照されたい。

第2 事件放置に関する規律

事件処理中の報告・協議の内容を先に確認する場合は,弁護士の説明義務・報告義務(29条・36条)を参照されたい。
通常の報告・協議の規律と,本記事で扱う事件放置に対する懲戒の判断を区別して理解できる。

1 弁護士職務基本規程

弁護士職務基本規程35条は,「弁護士は、事件を受任したときは、速やかに着手し、遅滞なく処理しなければならない。」と定めている。
同規程36条は,「弁護士は、必要に応じ、依頼者に対して、事件の経過及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しながら事件の処理を進めなければならない。」と定めている。
いずれも,同規程82条2項が行動指針又は努力目標として解釈適用すべきものとして列挙する規定には含まれず,義務規定である。

公告では,長期の放置について,35条ではなく信義誠実の義務を定める同規程5条(「弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。」)の違反とした例もある。
委任が終了したときの清算と返還(同規程45条),委任契約書の作成(同規程30条)が,放置とあわせて問題とされることも多い。

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弁護士の業務広告と懲戒――詐欺被害回復の広告,成果報酬型の広告,期間限定表示の懲戒例と令和7年改正(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と資料2 結論第2 業務広告に関する規律1 弁護士職務基本規程2 弁護士等の業務広告に関する規程3 令和7年12月5日の改正第3 広告の表示が問題とされた例1 詐欺被害の回復をうたう広告2 紙のチラシ3 期間限定の表示第4 勧誘の方法が問題とされた例1 面識のない者への通知2 口外禁止条項の潜脱3 非弁業者の電話勧誘体制第5 広告業者等への支払1 成果報酬型の広告2 紹介料・業務委託料の名目第6 弁護士が確認しておくこと1 表示2 広告業者との関係3 勧誘第7 関連記事第8 出典1 日弁連の会規2 消費者庁の措置命令3 懲戒処分及び裁決の公告
第1 この記事の対象と結論
1 対象と資料

本記事は,弁護士の業務広告に関する規律と,広告や勧誘の方法,広告業者への支払が懲戒処分の対象とされた例を整理するものである。
本記事の法令及び会規の整理は令和8年9月28日を基準とし,広告規程及び広告指針の補充部分は令和8年10月19日に確認した原資料に基づく。
会規は日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)が公表している会規集の本文による。
懲戒例の出典は,日弁連の機関誌『自由と正義』に掲載された懲戒処分の公告及び裁決の公告である。
公告は処分の理由の要旨を記載したものにとどまるため,本記事の記述も公告の記載の範囲に限られる。
個々の弁護士の氏名は記載しない(弁護士法人の名称は,処分の対象そのものであるため記載する。)。

2 結論

結論は次の5点である。
①弁護士の業務広告は原則として自由であるが,弁護士職務基本規程9条と「弁護士等の業務広告に関する規程」(以下「広告規程」という。)が,虚偽・誤導・誇大な広告や,面識のない者への一定の方法による勧誘を禁じている。
②近年の懲戒例は,詐欺被害の回復をうたう広告に集中しており,どのような回答をしても返金請求が必要であるかのような結果が出る診断機能,全件が満額回収であるかのような解決事例の表示,閲覧者の人数を実際と異なる数で示す表示が,いずれも違反とされている。
③広告表示そのものの違反は戒告から業務停止数か月の例が多いが,広告業者や非弁護士に受任の過程を委ね,名義を利用させる体制と結び付くと,業務停止1年以上の重い処分になっている。
④広告業者への支払を受任件数や報酬額に連動させると,名目が広告費や業務委託料であっても,紹介の対価(職務基本規程13条)や報酬の分配(同12条)と評価されている。
⑤令和7年12月5日の広告規程の改正で,広告業者との契約書と入出金の記録の保存が求められるようになった(令和8年7月1日施行)。

第2 業務広告に関する規律
1 弁護士職務基本規程

弁護士職務基本規程9条1項は「弁護士は、広告又は宣伝をするときは、虚偽又は誤導にわたる情報を提供してはならない。」,同条2項は「弁護士は、品位を損なう広告又は宣伝をしてはならない。」と定めている。
同規程11条は,弁護士法72条から74条までの規定に違反する者等から依頼者の紹介を受け,これらの者を利用し,又はこれらの者に自己の名義を利用させることを禁じている。
同規程12条は,職務に関する報酬を弁護士等でない者と分配することを原則として禁じ,13条1項は「弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価を支払ってはならない。」と定めている。
これらはいずれも,同規程82条2項の行動指針又は努力目標の規定には含まれない義務規定である。

2 弁護士等の業務広告に関する規程

広告規程(平成12年会規第44号)2条は,広告を,弁護士等が「自己又は自己の業務を他人に知らせるために行う情報の伝達及び表示行為であって、顧客又は依頼者となるように誘引することを主たる目的とするもの」と定義している。
媒体は問わないので,事務所のウェブサイトやポータルサイトへの掲載,SNSでの発信も,誘引を主たる目的とするものであれば広告に当たる。

3条は,次の広告を禁止している。
①事実に合致していない広告
②誤導又は誤認のおそれのある広告
③誇大又は過度な期待を抱かせる広告
④困惑させ,又は過度な不安をあおる広告

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弁護士の預り金の管理と懲戒――令和8年6月施行の改正預り金規程と公表事例に見る処分の段階(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と資料2 結論第2 預り金に関する規律1 弁護士職務基本規程2 預り金等の取扱いに関する規程3 令和8年6月1日施行の改正点第3 公表された懲戒例に見る処分の段階1 清算・返還の遅れと管理の不備(戒告)2 記録と報告のない保管(業務停止1月~3月)3 虚偽の報告・調査への不協力・多額の流用(退会命令・除名)4 口座の届出と年次報告書第4 報酬の控除と処分の取消し1 合意のない控除2 日弁連による取消し3 委任終了前の交付と,預り金の目的に応じた清算第5 弁護士が確認しておくこと1 口座と記録2 清算と報告3 弁護士会からの照会4 病気等で本人が処理できない場合5 返還の遅れ,横領の成立及び後日の補填第6 関連記事第7 出典1 日弁連の会規2 懲戒処分・裁決の公告と大阪弁護士会の告示
第1 この記事の対象と結論
1 対象と資料

本記事は,弁護士が事件に関して預かった金員(預り金)の管理をめぐる規律と,その違反が懲戒処分の対象とされた例を整理するものである。
本記事の法令及び会規は令和8年9月28日現在のものである。
会規は日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)が公表している現行の会規集の本文で確認し,懲戒例は日弁連の機関誌『自由と正義』の懲戒処分・裁決の公告と,『月刊大阪弁護士会』2026年7月号127~128頁の懲戒告示で,それぞれ号・頁・処分の内容を確認した。
公告・告示は処分の理由の要旨を記載したものにとどまるため,本記事の記述も各資料の記載の範囲に限られる。
個々の弁護士の氏名は,本記事の目的との関係で必要がないため記載しない(弁護士法人の名称は,処分の対象そのものであるため記載する。)。

2 結論

結論は次の6点である。
①預り金の保管は,弁護士職務基本規程38条と「預り金等の取扱いに関する規程」(以下「預り金規程」という。)が定めており,預り金規程は令和8年6月1日施行の改正で,預り金口座の自己名義の原則,通帳等の原本の提示義務及び照会に応じない会員の公表の制度を加えた。
②公表された懲戒例には,清算や返還の遅れ,口座・記録の不備といった管理の問題から始まり,目的外の使用(流用),さらに虚偽の報告や弁護士会の調査への不協力へと進むにつれて処分が重くなる段階がある。
③もっとも,処分の重さは一律ではなく,目的外の使用が認定されても戒告にとどまった例がある一方,預り金口座の届出と照会への回答を怠っただけで業務停止とされた例もある。
④依頼者の同意のない報酬の控除は懲戒の対象になり得るが,報酬の合意が後から認められて日弁連が処分を取り消した例もあり,委任契約書と清算書面が弁明の最大の資料になる。
⑤弁護士会から預り金について照会を受けたときに回答しないことは,それ自体が重い処分の理由になっている。
⑥病気又はメンタル不調は,預り金を報告・清算・返還しないことを当然に正当化しない。もっとも,公表裁決では,病状に沿う証拠,費消がなかったこと及び後の返還が処分を軽くする方向で考慮された。

第2 預り金に関する規律
1 弁護士職務基本規程

弁護士職務基本規程38条は,「弁護士は、事件に関して依頼者、相手方その他利害関係人から金員を預かったときは、自己の金員と区別し、預り金であることを明確にする方法で保管し、その状況を記録しなければならない。」と定めている。
書類その他の物品の保管は39条(預り品の保管)であり,預り金の保管の条文は38条である。

同規程45条は,「弁護士は、委任の終了に当たり、委任契約に従い、金銭を清算した上、預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければならない。」と定めている。

同規程25条は,「弁護士は、特別の事情がない限り、依頼者と金銭の貸借をし、又は自己の債務について依頼者に保証を依頼し、若しくは依頼者の債務について保証をしてはならない。」と定めている。
依頼者から借りることだけでなく,依頼者に貸すことも対象である。
これらはいずれも,同規程82条2項が行動指針又は努力目標として解釈適用すべきものとして列挙する規定には含まれておらず,義務規定である。

2 預り金等の取扱いに関する規程

預り金規程(平成25年会規第97号)は,平成25年8月1日に施行され,平成29年と令和7年6月13日に改正された。
主な内容は次のとおりである。
①保管目的以外の使用の禁止(2条)
②預り金のみを管理する専用の口座(預り金口座)の開設(3条1項),口座名義に「預り金、預り口、預り金口その他の預り金口座であることを明示する文字」を用いること(3条3項),所属弁護士会への届出(3条4項)
③自己の金員との区別(4条1項)と,一定額以上の預り金の預り金口座での保管(4条2項)

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家族が付き添って弁護士に相談するとき―同席の可否,本人の意思確認,守秘義務と交通事故・相続での注意点(AI作成)

予約前には,①誰の法律問題か,②本人が相談を希望しているか,③家族の同席又は家族だけの相談を希望するか,④家族にも関係する争いがあるかを整理し,予約先へ伝えてください。家族への説明・連絡の範囲は本人の意思と秘密の取扱いを踏まえて確認します。相談全体の準備は弁護士とは―仕事内容,相談できること,費用と選び方,相談先の確認事項は弁護士の選び方―取扱分野,説明,費用と相談時の確認事項をご参照ください。

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする読者と基準日2 結論第2 弁護士が本人の意思を確かめる理由1 依頼者の意思の尊重と説明2 秘密の保持3 依頼するための契約を結ぶのも本人である第3 家族が同席するときと席を外すとき1 同席について直接の定めはない2 本人だけと話す時間が必要になりやすい場面第4 交通事故の相談に家族が付き添う場合1 経過の説明役としての家族2 本人が意思を表明できない場合3 付き添う家族が同じ事故の当事者である場合第5 相続・遺言の相談に家族が付き添う場合1 遺産分割の相談2 遺言の相談第6 付き添う家族が事前に準備すること第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 職能団体の規程3 所管行政機関の資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする読者と基準日

この記事は,交通事故でけがをした家族や,相続・遺言について相談したい高齢の親に付き添って,弁護士の法律相談に同席しようとしている人を対象とする。
弁護士職務基本規程は日本弁護士連合会が公表している現行の本文(会規第70号)により,法令は令和8年9月28日時点でe-Gov法令検索により確認した内容に基づく。
相談を受ける側の事務所ごとの運用は扱わない。

2 結論
(1) 依頼者は相談の当事者である本人である

弁護士に事件を依頼するのは,事故の被害者や遺産を相続する人など,相談の当事者である本人である。
家族が付き添う場合でも,弁護士は本人の意思を確かめ,本人に説明し,本人の秘密を守る立場にある。
そのため,家族が同席していても,弁護士が本人に直接質問したり,本人だけと話す時間を求めたりすることがある。

(2) 同席するかどうかは本人の意思と事案の性質で決まる

弁護士職務基本規程には,法律相談への家族の同席を直接定めた条文はない。
同席の可否は,本人がそれを望んでいるか,本人の意思を家族のいない場で確かめる必要があるか,家族が相手方又は利害関係人になり得るかによって判断されると考えられる。
相続で家族が他の相続人に当たる場合や,遺言の内容を相談する場合は,本人だけと話す時間が設けられることを前提に付き添うのがよい。

第2 弁護士が本人の意思を確かめる理由
1 依頼者の意思の尊重と説明
(1) 依頼者の意思の尊重(22条)

弁護士職務基本規程22条1項は,弁護士は,委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとすると定めている。
同条2項は,依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に表明できないときは,適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に努めると定めている。
家族が本人の気持ちを代弁してくれることもあるが,弁護士が尊重すべきなのは本人の意思であり,本人が十分に話せない場合でも,弁護士には本人の意思を確かめる努力が求められる。

『解説「弁護士職務基本規程」第4版』63頁~65頁は,意思を十分に表明できない場合と,意思能力が欠ける場合を区別している。22条2項は,疾病その他の事情によって十分な意思表明が難しい場合の確認を扱う。意思能力を欠く場合には,同項による意思確認の努力だけで委任契約や代理権の問題が解決するのではなく,民法等の実体法に従った検討が必要となる。

家族や通訳等が本人の伝達を補助することと,家族が本人に代わって決定する権限を持つことは別である。同書65頁は,事情に応じた意思確認の方法を示しているが,特定の方法を全ての相談に一律に要求しているわけではない。本記事では,本人の意思を確認するための補助,家族への秘密開示の承諾及び家族が本人に代わって法律行為をする権限を,それぞれ区別して確認する。意思能力や法定代理が問題となる場合は,第2の3及び第4の2を参照されたい。

(2) 受任の際の説明(29条)

同規程29条1項は,事件を受任するに当たり,依頼者から得た情報に基づき,事件の見通し,処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について適切な説明をしなければならないと定めている。
同項は説明の相手方を明記していないが,依頼者である本人に対する説明と考えられ,家族が内容を理解しただけで足りるとは限らない。

2 秘密の保持

弁護士法23条は,弁護士は,その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し,義務を負うと定めている。
弁護士職務基本規程23条も,弁護士は,正当な理由なく,依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし,又は利用してはならないと定めている。

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法律事務所のPPAP廃止と安全なファイル共有―メール添付・クラウドリンク・刑事記録の注意点(AI作成)

目次第1 結論第2 PPAPを既定手段にしない理由1 受信したパスワード付きZIPへの対応第3 送付方法の比較第4 クラウド共有リンクの確認事項第5 送信前に文書内部も点検する第6 刑事事件記録を共有するとき第7 事務所の基本的な取扱方法に書く事項第8 出典と調査範囲
第1 結論

法律事務所では,パスワード付きZIPファイルを電子メールで送り,別の電子メールでパスワードを送る方法(PPAP)を既定手段にしない。ファイル共有は,情報の性質,送信先,閲覧・編集の必要性及び保存期間に応じて,宛先の認証,最小限の権限,有効期限,失効,ログ及び削除を管理できる方法を選ぶ。
クラウド共有へ移れば自動的に安全になるわけではない。共有相手,リンク設定,提供者側の管理者アクセス,再委託先,事故通知,バックアップ及び契約終了時の削除・持出しまで確認する。

刑事事件記録では,保存と第三者への共有を分け,利用目的,共有相手,裁判所が付した条件及び刑事訴訟法281条の4・281条の5を個別に確認する。本記事は令和8年9月28日時点の法令,会規及び公表資料に基づく。

第2 PPAPを既定手段にしない理由

PPAPでは,ファイルとパスワードが同じ電子メール系統を通るため,メールアカウント又は経路をまとめて侵害された場合の防御になりにくい。誤った相手へ2通とも送れば誤送信を防げず,送信後にファイルだけを失効させることも難しい。暗号化された添付ファイルは,受信側のメールシステムによるマルウェア検査を妨げることがある。

国家サイバー統括室の「インターネットの安全・安心ハンドブック」は,PPAPを盗聴・誤送信対策として効果が乏しく,マルウェア検査を困難にする方法として,基本的に利用しないとの方向を示している。
電話又はSMSでパスワードを伝える方法は,パスワードを同じ電子メール経路に載せないという限度では意味があるが,誤送信,失効,ログ,マルウェア検査及び受信後の二次共有を一括して解決するものではない。

1 受信したパスワード付きZIPへの対応

受信側でも,別メールでパスワードが届いたことだけで送信者の真正又は内部ファイルの安全性が確認できたとはいえない。まず,その資料を受信する予定があったかを確認し,必要に応じて既知の電話番号等の独立した経路で送信者に確認する。拡張子を表示し,実行ファイル,スクリプト及びOfficeマクロ等を不用意に実行しない。

ZIPの解凍,内部ファイルを開くこと,実行ファイル又はスクリプトを実行すること,Officeマクロを有効にすることは同じ操作ではない。「解凍しただけで常に感染する」と一般化せず,実際に行った操作と時刻を記録する。内部ファイル,実行ファイル,スクリプト又はマクロを実行した場合は,それ以上の操作を止め,所内窓口へ報告し,必要に応じて端末をネットワークから隔離する。

現実の事故では,原メール,完全なメールヘッダー,添付ファイル,添付ファイルのハッシュ値,メールゲートウェイ及び端末のログを保存する。詳しくは,電子メールの仕組みと安全対策,法律事務所のサイバー事故初動チェックリスト及び法律事務所の標的型メール訓練を参照されたい。

第3 送付方法の比較
方法確認すべき点適さない場面通常のメール添付宛先,添付物,容量,メール経路,受信後の保存秘密性が高く,失効・ログ・期限管理が必要な資料PPAP別経路の実効性,マルウェア検査,誤送信,失効不能事務所の既定手段クラウド共有リンク指定相手,認証,権限,期限,失効,ログ,ダウンロードリンクを知る全員が閲覧できる設定のまま使う場合専用ポータル・データルーム利用者管理,監査ログ,通知,契約,終了時のデータ管理者,退出者及び保存期間を管理できない場合物理媒体暗号化,受渡し,紛失,複製,返却・廃棄追跡可能な受渡し方法を定めない場合

同じ事件でも,連絡文だけなら通常メール,証拠一式は期限付きの共有リンク,原本は対面受渡しというように分けることがある。方法の名称ではなく,情報の性質と実際の設定を確認する。

第4 クラウド共有リンクの確認事項

共有前に,次を確認する。
①共有先をメールアドレス等で指定し,「リンクを知っている全員」を避けられるか
②本人確認又は多要素認証を求められるか
③閲覧のみ,ダウンロード可,編集可を分けられるか
④有効期限を設定し,事件終了又は誤送信時に失効できるか
⑤閲覧,ダウンロード,編集及び共有変更のログを確認できるか
⑥受信者による再共有又はローカル保存をどこまで制御・把握できるか
⑦契約主体,保存・処理国,再委託先及び提供者側の管理者アクセスはどうなっているか
⑧侵害時の通知,バックアップ,契約終了時の削除及び一括エクスポートは可能か

共有設定の画面で「安全」と表示されることだけでは足りない。実際の相手方アカウントで閲覧できること,第三者アカウントでは閲覧できないこと,期限又は失効後に開けないことを必要に応じて試す。

第5 送信前に文書内部も点検する

送信先と共有設定が正しくても,文書内部に不要な情報が残っていれば漏えいにつながる。
①PDFは,黒い図形を重ねただけの墨消しになっていないか,文字列の検索・コピー及びレイヤー表示で確認する。
②Wordは,変更履歴,コメント,文書のプロパティ,非表示文字及び埋込みファイルを確認する。
③Excelは,非表示シート・行・列,コメント,数式,外部リンク及び印刷範囲外のデータを確認する。
④画像は,位置情報,撮影日時,端末名その他のメタデータを確認する。
⑤ファイル名,フォルダー名及び共有リンク名に,他の依頼者名又は事件名が含まれていないかを確認する。

最終版を別名で書き出し,送信する実物を開いて点検する。元文書の画面だけを見て,送信物も同じだと推測しない。

第6 刑事事件記録を共有するとき

刑事訴訟法281条の4は,被告人又は弁護人が検察官から開示を受けた証拠書類・証拠物の写し等について,当該被告事件又は関連する一定の手続に使用する目的以外で使用することを禁止し,同法281条の5は違反に対する罰則を定めている。
また,犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律3条に基づき,裁判所が謄写物の使用目的又は条件を定めることがある。

したがって,クラウドへの保存それ自体と,共同受任者,依頼者,鑑定人,通訳人その他の第三者が閲覧可能な状態にすることを分けて検討する。共有前に,①資料の入手経路,②利用目的,③共有相手の立場,④事件との関係,⑤裁判所の条件,⑥ダウンロード・再共有の可否及び⑦共有終了後の削除を確認する。特定のクラウド製品を使うだけで適法性が決まるものではない。

第7 事務所の基本的な取扱方法に書く事項

日本弁護士連合会の弁護士情報セキュリティ規程3条に基づく基本的な取扱方法には,少なくとも,①通常使う送付方法,②PPAPを原則として使わないこと,③例外承認者,④クラウド共有の権限・期限・失効・ログ,⑤刑事記録等の特別な承認,⑥送信前の文書点検,⑦誤送信・誤共有時の連絡先及び初動,⑧委託先と職員への周知を具体化することが考えられる。

規程全体は弁護士情報セキュリティ規程とはを,クラウド・NAS・バックアップはサーバー・NAS・クラウドストレージ・DNSの違いを参照されたい。

第8 出典と調査範囲

①国家サイバー統括室「インターネットの安全・安心ハンドブック」Ver5.10
②日本弁護士連合会「弁護士情報セキュリティ規程」3条~7条
③刑事訴訟法281条の4・281条の5
④犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律3条
⑤東京弁護士会「LIBRA 2026年9月号」2頁~13頁
⑥情報処理推進機構「サイバー情報共有イニシアティブ(J-CSIP)運用状況[2020年10月~12月]」

刑事記録のクラウド共有が個別事案で許されるかは,記録の種類,利用目的,共有相手,裁判所の条件及び実際のアクセス設定を確認するまで確定できない。本記事は特定サービスの安全性又は個別共有の適法性を一律に判定するものではない。

法律事務所のサイバー事故初動チェックリスト―発覚後10分・当日中・後日に行うこと(AI作成)

目次第1 結論第2 発覚後10分に行うこと1 連絡経路と責任者を決める2 被害拡大を止める3 時刻入り記録と証拠保全を始める第3 当日中に行うこと1 影響範囲を把握する2 期限事故を防ぐ3 報告・通知の要否を判断する4 外部支援と保険の条件を確認する第4 復旧後・後日に行うこと第5 事故類型別の最初の操作第6 確認用チェックリスト第7 法的根拠と裁判例第8 出典と調査範囲
第1 結論

法律事務所のサイバー事故では,最初に「誰が悪かったか」を調べるのではなく,①被害拡大の防止,②時刻入り記録と証拠保全,③情報・対象者・期間・業務期限の影響範囲の把握,④法令・会規・契約・保険による報告及び通知の判断,⑤復旧と再発防止の順で進める。
漏えいの有無だけでなく,事件記録の滅失・毀損,業務の停止,メールの未受信及び裁判上の期限への影響を同時に確認する必要がある。システムが動くようになったことと,事故対応が終わったことは同じではない。

本記事は,令和8年10月8日時点の法令,会規,裁判例及び公表資料に基づく一般的な確認手順である。個別事故の報告義務,通知先及び期限は,情報の種類,漏えい等の態様,対象者数,委託関係及び契約条件によって変わる。

PCが固まったという事実だけで、直ちにサイバー事故と断定することはできない。メモリ不足、ディスク待ち、表示系の停止、更新処理又はクラウド同期でも同じような症状が生じる。身に覚えのないログイン、ファイル改変、セキュリティ警告、不審な通信又は権限変更がない場合は、まず最後のコマンド、プロセス別の性能ログ及びイベントログを照合し、通常の性能障害かどうかを切り分ける。

反対に、その照合過程で不審なログイン、改変、マルウェア検知又は未知の外部通信が見つかった場合は、本記事のサイバー事故初動へ移り、端末隔離と証拠保全の優先順位を判断する。

通常の性能障害を調べる手順は,Windows 11がフリーズした原因を後から調べる方法―最後のコマンド,パフォーマンスモニター及びイベントビューアー(AI作成)を参照されたい。

第2 発覚後10分に行うこと
1 連絡経路と責任者を決める

事務所内の責任者に連絡し,事故対応の記録を一つに集約する。感染した可能性のあるメールやチャットを連絡経路として使わず,安全な電話,別端末又はあらかじめ定めた連絡網を用いる。
記録には,発見日時,発見者,最初に確認した画面・端末・アカウント,実施した操作,判断者及び結果を時刻順に残す。

2 被害拡大を止める

ランサムウェア又はマルウェアが疑われる端末は,ネットワークケーブル又は無線接続を切り,他の端末,NAS及びクラウド同期先への拡大を止める。誤送信又は誤共有では,送信取消し,共有リンクの失効,権限削除及び相手方への削除依頼が可能かを確認する。アカウント乗っ取りでは,別の安全な端末からセッション失効,認証情報の変更及び多要素認証の再設定を検討する。
ただし,証拠保全及び専門家の方針を確認する前に端末を初期化し,又はログを削除しない。

個人情報保護委員会のフォレンジック調査資料は,専門家の方針を確認する前に,電源を切る,再起動する,ウイルススキャンを実行する,初期化する,又はソフトウェアを更新することにより,メモリやログ等の証拠が変更・消失する危険を指摘している。
ネットワークからの隔離と端末の電源断は同じ操作ではない。拡大防止のための隔離を急ぎつつ,端末の電源と内容を変更する操作は証拠への影響を確認してから行う。

ルーター,ネットワークカメラ,録画機,複合機,会議用端末又はスマート家電等のIoT機器が疑われる場合も,機器を他のネットワークから隔離する。
冷凍,防犯,医療又は防災等の設備では,通信又は電源の遮断自体が危険を生じさせることがあるため,設備管理者及び保守事業者と安全な隔離方法を確認する。

3 時刻入り記録と証拠保全を始める

画面表示,警告文,送信先,ファイル名,URL,メールヘッダー,ログの保存場所及び時刻を記録する。事実,推測,判断及び実施結果を分けて書く。
端末の時刻が正しいか,サービスのログがUTCか日本時間か,ログの保存期限がいつまでかも確認する。外部業者へ依頼する場合は,作業開始前に保全対象と受渡し方法を合意する。

IoT機器については,型番,シリアル番号,ファームウェア版,サポート期限,遠隔管理,クラウド連携,管理者設定,ルーターのDHCP・通信記録及び直前の変更を記録する。
初期化又は更新でログが失われる場合があるため,封じ込めの緊急性と証拠保全を分けて判断する。
詳しい仕組みと平時の対策は,レジデンシャルプロキシとは―家庭用IoT機器が犯罪の踏み台になる仕組みと対策を参照されたい。

調査結果は,①ログや保全イメージで確認できた事実,②設定や機能上は可能だったこと,③ログ欠落等により不明なことに分ける。
保全イメージと取得ログは,取得日時,取得者,取得元,保管場所及びハッシュ値を記録し,原本相当のデータと作業用複製を分ける。

アスクルの第13報(令和7年12月12日,4頁)は,多要素認証を例外的に適用していなかった業務委託先用の管理者アカウントで不正アクセスがあったと説明している。
また,委託先管理のノートPCのOS更新過程で侵入時点のログが失われ,認証情報の漏えい方法と原因を完全には究明できないとしている。
VPN機器の脆弱性を悪用した侵入の痕跡は確認されなかったという説明もあり,認証情報の取得方法を,フィッシング又はマルウェアと決め付けない。

この事例を踏まえ,復旧のためのOS更新,再インストール又は端末返却を行う前に,侵入時点のログが上書き・消去されないかを確認し,可能な範囲で保全する。
封じ込めの緊急性と証拠保全の必要性を踏まえ,先行させた措置,失われた記録及びその理由を残す。

事故受付票では,発生した期間,事務所が検知した日時,法定の報告対象事態を知った日時,委託先からの通知日時及び公表日時を別々に記録する。
報告対象事態を知った日時には,誰がどの資料・連絡により何を把握したかを対応付け,後日判明した事項は元の記録を消さず追記する。

(続きを読む...)法律事務所のサイバー事故初動チェックリスト―発覚後10分・当日中・後日に行うこと(AI作成)

解説「弁護士職務基本規程」第3版と第4版の比較-規程改正,解釈の変更,新設項目及び削除された記述(AI作成)

目次第1 本記事の対象と比較の方法1 比較した2つの版2 比較の方法と基準日第2 改訂の外形1 改訂の経緯と第4版が掲げる重点2 構成と分量の変化3 裁判例・懲戒議決例の入れ替わり4 付録と索引の変化5 解釈が変わった主な箇所の一覧第3 職務基本規程そのものの改正1 第3版の刊行後の改正は令和3年会規第116号だけである2 実体的に新しい規律は78条だけである第4 解釈が厳しくなった主な箇所1 守秘義務(23条)2 依頼者への説明と報告(22条・29条・36条)3 記録と情報の管理(18条)4 利益相反における事件の同一性(27条・28条)5 遺言執行者第5 規律を緩め,又は表現を和らげた箇所1 受任の諾否の通知(34条)2 組織内弁護士と法令違反への対応(51条)3 調整型の職務4 28条1号に当たらない特別な関係者第6 新設又は組み直された主な論点1 第三者委員会・内部調査委員会・地方公共団体の調査委員会2 訴訟行為の排除をめぐる裁判例3 共同事務所を移籍した弁護士(57条)4 真実義務と偽証のそそのかし(5条・75条)5 預り金と報酬の相殺(45条)6 品位に関する諸問題7 事件情報の記録と受任防止措置(59条・68条)第7 削除された記述と第4版が扱っていない事項1 削除された主な記述2 第4版が扱っていない事項第8 第3版の記述を引用するときの注意1 版と頁を明示する2 第4版の印字の誤り第9 関連記事第10 出典1 書籍2 会規及び法令3 裁判例4 懲戒議決例
第1 本記事の対象と比較の方法

第4版の解説に沿った論点別の記事として,利益相反(27条・28条),説明・報告義務(29条・36条)及び組織内弁護士(50条・51条)を参照できる。

先に全体像を確認する場合は,主な変更点の比較表を参照されたい。規程本文の改正と,解説書の解釈・事例・項目の変更とは区別する。現行条文と論点別の記事は,弁護士職務基本規程の現行条文・条文別索引・主要論点で確認できる。

1 比較した2つの版
(1) 書誌と刊行時期

日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」』は,弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規第70号)の逐条解説書であり,日本弁護士連合会が発行している。
第3版は2017年(平成29年)12月に発行され,本文は225頁である。
第4版は2026年(令和8年)9月に発行され,本文は255頁である。
日弁連の書籍案内によれば,第4版はB5判300頁で,巻末に掲載し又は本文中に引用している会規・通知等は2026年(令和8年)3月1日時点のものである。

(2) 本書の位置付け

両版のはしがきは,いずれも,本書で述べられている見解は日弁連の公式見解ではないとしている。
弁護士職務基本規程そのものは日弁連の会規であるが,本書はその解説書であり,会規と同じ効力を持つものではない。
もっとも,本書は日弁連の弁護士倫理委員会が編著したものであり,第3版のはしがきも,本書が実務に携わる弁護士や法科大学院の法曹倫理の授業で参照されていることに触れている。
そのため,版が変わって記述が変わった箇所を確かめておく意味は小さくない。

2 比較の方法と基準日

本記事は,2026年(令和8年)9月26日を基準日として,両版の前文から附則まで及び付録・索引の全頁を,生成AIを用いて条・節ごとに突き合わせ,主要な差異について両版の原文を確認して作成したものである。
ある記述が「新設」又は「削除」されたと書く場合は,他方の版の全文を検索して,別の箇所に移っただけではないことを確かめている。
頁は,いずれも本の印字頁で示す。
規律が「厳しくなった」「緩められた」という整理は,両版の記述を比べた本記事の評価であり,本書自身がそのように説明しているわけではない。

第2 改訂の外形
1 改訂の経緯と第4版が掲げる重点

第4版のはしがきによれば,日弁連弁護士倫理委員会は,2023年(令和5年)2月に改訂チームを設置し,各弁護士会・関連委員会への意見照会を2回行った上で原稿を完成させた。
改訂の基本方針は,新しい裁判例・懲戒議決例を取り入れること及び意見照会によって改訂の必要な部分を抽出することであった。
はしがきは,改訂の重点として,企業・自治体の第三者委員会や調査委員会,公益通報窓口にかかわる懲戒事例を扱う項目を新たに設けたことを挙げている(本記事の第6の1)。

2 構成と分量の変化
(1) 新しく置かれた節

第4版は,第1章に「5条,6条その他品位に関する諸問題」の節を新設し(第4版20頁~27頁),相手方への交渉態様,プライバシー,裁判所に提出する書面の表現,裁判手続以外での表現,戸籍謄本等の取得,自力救済,会社関係の7類型に分けて懲戒事例を整理した。

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職務代行者・管理人等を務めた弁護士は後にその紛争の代理人になれるか――福岡地裁令和5年8月30日決定と職務基本規程27条・81条(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 扱う問題と基準日2 結論第2 条文の枠組み1 弁護士法25条と職務基本規程27条2 職務基本規程81条3 明文のすき間を埋める5条・6条第3 職務代行者とはどのような立場か1 職務執行停止・職務代行者選任の仮処分2 職務代行者と似た裁判所選任の地位第4 福岡地裁令和5年8月30日決定1 事案の骨子2 弁護士法25条1号又はその類推適用による排除第5 日弁連綱紀委員会平成20年10月14日議決1 事案の経過2 兵庫県弁護士会と日弁連の判断3 この議決から読み取れる判断要素第6 最高裁令和4年6月27日決定との対比1 取締役責任調査委員会の委員の事案2 職務代行者の事案との違い第7 訴訟行為の排除の申立ての仕組み1 最高裁大法廷昭和38年10月30日判決2 最高裁平成29年10月5日決定第8 81条と第三者的職務をめぐるその他の議決例1 市の顧問弁護士が調査委員会の委員に就任した例2 家庭裁判所が選任した遺言執行者と同じ事務所の弁護士の例3 破産管財人終了後に元破産者を代理した例第9 実務上の注意1 職務代行者等に選任された弁護士の側2 元職務代行者等が相手方の代理人として現れた当事者の側第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 弁護士懲戒の議決例4 日本弁護士連合会の規程5 文献
第1 この記事の対象と結論
1 扱う問題と基準日

本記事は,裁判所から職務代行者,管理人,遺言執行者等に選任され,当事者のいずれにも偏らない立場で職務を行った弁護士が,任務の終了後に,同じ紛争で一方当事者の代理人になれるかを扱う。
想定する読者は,こうした職務に選任された弁護士と,かつての職務代行者等が相手方の代理人として現れた当事者である。

基準日は令和8年9月25日である。
法令はe-Gov法令検索の現行条文により,弁護士職務基本規程(以下「職務基本規程」という。)は日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)の「日本弁護士連合会関係法規集」(令和7年9月1日現在)により確認した。

主要な文献は,日弁連弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日弁連,2026年9月。以下「本書」という。)である。
本書は,はしがきで,本書の見解は日弁連の公式見解ではないと断っている。

2 結論

結論は次のとおりである。
①裁判所に選任された職務代行者等を務めた弁護士について,任務終了後の受任を正面から禁止する明文は,弁護士法25条にも職務基本規程27条にもない。
②ただし,福岡地裁令和5年8月30日決定は,マンション管理組合法人の理事職務代行者を務めた弁護士が,後にその法人を相手とする訴訟で相手方の代理人となった事案で,弁護士法25条1号又はその類推適用により訴訟行為を排除した。
③懲戒の場面では,日弁連綱紀委員会平成20年10月14日議決が,株式会社の職務代行者の任務が実質的に終了して1か月足らずで株主権確認訴訟の一方の側の代理人として承継参加を申し立てた行為を,品位を失うべき非行に当たるとした。
④他方,最高裁令和4年6月27日決定は,取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が会社の代理人として元取締役を訴えた事案で,弁護士法25条2号・4号の類推適用を否定した。
⑤本記事では,元職務代行者等の受任の可否は,かつて誰のために職務を行ったか,後の事件で誰の側に立つか,任務中に自ら判断した事項が後の紛争の争点になっているか,任務終了からの期間等を具体的に見て判断されるものと整理する。
⑥実務上は,選任された弁護士は同じ紛争で一方当事者から受任しないことを基本とし,相手方となった当事者は早期に異議を述べて訴訟行為の排除を申し立てることが考えられる。

第2 条文の枠組み
1 弁護士法25条と職務基本規程27条
(1) 同意があっても解除されない号

弁護士法25条は,職務を行い得ない事件を1号から9号までに定め,依頼者の同意で禁止が解けるのは3号と9号だけである(同条ただし書)。
1号は「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」,4号は「公務員として職務上取り扱つた事件」,5号は「仲裁手続により仲裁人として取り扱つた事件」である。

職務基本規程27条も1号から5号までで同じ構造をとり,同意で解除できるのは3号だけである(同条ただし書)。
同条5号は,弁護士法25条5号の仲裁人を広げ,「仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件」を対象にしている。

(2) 4号の「公務員」と5号の「手続実施者」

本書は,職務基本規程27条4号の「公務員」には,弁護士法25条4号の解釈とは別に,法令により公務に従事する者一般が含まれると解すべきであるとする(本書101頁)。
また,本書は,従来4号に当たるとされていた調停委員等は5号の適用を受けるとし,5号の「手続実施者」を,仲裁人,調停委員,斡旋員等,紛争を解決するために中立公正な立場で手続に参与する者と説明する(本書101頁~102頁)。

(3) 明文のない中立的職務

本書は,4号・5号のいずれにも当たらない中立公正な第三者的職務を行った後に何が禁止されるかについては,明文を欠くといわざるを得ないと認めている(本書103頁)。
そのうえで,1号・2号は,調整型の職務で各当事者から受任し又は賛助したような場合には当たり得るが,それ以外の第三者的職務には必ずしも当たらず,3号と職務基本規程28条は第三者的職務をそもそも想定していないとする(本書103頁)。

(続きを読む...)職務代行者・管理人等を務めた弁護士は後にその紛争の代理人になれるか――福岡地裁令和5年8月30日決定と職務基本規程27条・81条(AI作成)

株主代表訴訟で会社の顧問弁護士は被告取締役の代理人になれるか―職務基本規程28条の利益相反,会社の補助参加及び住民訴訟の場合(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象,基準日及び主な資料2 結論の要旨第2 株主代表訴訟で会社はどのような立場に立つか1 提訴請求から代表訴訟の提起まで2 会社が訴訟に関与する方法第3 顧問弁護士が被告取締役の代理人になるときの利益相反の構造1 職務基本規程28条2号から見た場合2 職務基本規程28条3号から見た場合3 同意による解除の限界第4 従来の見解と最高裁平成13年1月30日決定1 従来の見解2 最高裁平成13年1月30日決定3 会社法849条による補助参加第5 第4版の立場―補助参加が認められても利益相反は解消されない1 会社の代理人となるべきとする理由2 組織内弁護士の場合3 顧問契約が終わった後の制約第6 住民訴訟で自治体の顧問弁護士は被告の代理人になれるか1 住民訴訟の4類型と被告2 改正前の4号請求と日弁連懲戒委員会の議決3 改正後の4号請求と第4版の見解4 改正後も残る注意点第7 実務上の判断手順1 顧問契約の相手方と関与の経過を確認する2 会社の代理人として関与する3 取締役から依頼されたときの対応4 被告取締役と法務担当者が確認すること5 住民訴訟で依頼を受けたとき第8 確認範囲と残る論点1 資料の性格と確認できなかった事項2 会社側の弁護士が取締役を追及する場面との違い第9 関連記事1 弁護士職務基本規程と利益相反2 株主代表訴訟と住民訴訟第10 出典・参考資料1 法令・会規2 裁判例3 弁護士懲戒の議決例4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 対象,基準日及び主な資料
(1) 取り上げる場面

株主が取締役の責任を追及する株主代表訴訟(会社法847条)が起こされると,被告となった取締役から,会社の顧問弁護士に訴訟代理の依頼が来ることがある。
本記事は,この受任が弁護士職務基本規程の利益相反の規律に触れるかを,会社が取締役側に補助参加できるようになった後の議論まで含めて整理する。
あわせて,構造の似た住民訴訟(地方自治法242条の2)で,地方公共団体の顧問弁護士が被告の代理人になれるかも扱う。

(2) 基準日と主な資料

本記事の調査基準日は令和8年9月25日である。
会社法及び地方自治法は同日現在の条文をe-Gov法令検索で,弁護士職務基本規程は日本弁護士連合会関係法規集(令和7年9月1日現在)で確認した。
主な文献は,日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,2026年9月。以下「第4版」という。)である。
第4版は,はしがきで,同書の見解は日弁連の公式見解ではないと明記しており,同書の法令等は令和8年3月1日現在のものである(同書凡例)。
そのため,本記事では,第4版の記述を日弁連の正式な解釈としてではなく,日弁連弁護士倫理委員会が編著した解説書の見解として紹介する。

2 結論の要旨
(1) 株主代表訴訟

第4版は,会社の補助参加が可能になった現在でも,特別の事情がない限り,会社の顧問弁護士は被告取締役の代理人にはなれないという立場をとる(同書122頁~123頁)。
会社の利益を守る役割の顧問弁護士は会社の側に就くべきだという理由による(同書123頁)。
会社に所属する組織内弁護士についても,同書は,同様に取締役からの受任を回避すべきであるとする(同書123頁)。

(2) 住民訴訟

住民訴訟については,第4版の結論は逆になる。
平成14年の地方自治法改正で4号請求の被告が職員個人から執行機関又は職員に改められたことを踏まえ,同書は,特段の事情がない限り,地方公共団体の顧問弁護士が被告代理人となることは許されると解すべきであるとする(同書124頁)。
ただし,同書自身がこの点はいまだ十分に議論されていないと述べており,改正前の代位訴訟については,日弁連懲戒委員会の議決に利益相反の疑いを指摘する有力な意見が付言されたこともある(第6の2で説明する)。

第2 株主代表訴訟で会社はどのような立場に立つか
1 提訴請求から代表訴訟の提起まで
(1) 株主の提訴請求と会社の判断

会社法847条1項は,6か月(定款でこれを下回る期間を定めたときはその期間)前から引き続き株式を有する株主が,会社に対し,役員等(同法423条1項)の責任を追及する訴え等の提起を請求できると定める(公開会社でない会社では保有期間の要件がない。同条2項)。
会社が請求の日から60日以内に訴えを提起しないときは,請求をした株主は「株式会社のために」責任追及等の訴えを提起できる(同条3項)。
会社は,訴えを提起しない場合に,請求をした株主又は責任追及の対象とされた役員等から請求を受けたときは,提訴しない理由を通知しなければならない(同条4項)。
監査役設置会社では,この提訴請求を受けるのは監査役であり(会社法386条2項1号),会社が取締役を訴えるときも監査役が会社を代表する(同条1項1号)。

(2) 顧問弁護士が会社の判断に関わる段階

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弁護士が受任事件を途中で辞任するときのルール――民法651条,職務基本規程41条~45条及び国選弁護人の辞任(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論の要旨第2 辞任の法的根拠――民法の委任の規定1 弁護士も依頼者もいつでも委任を解除できる2 不利な時期の辞任と損害賠償3 辞任後も残る民法上の義務第3 職務基本規程が定める辞任前後の手順1 信頼関係の喪失(43条)2 受任後の利害対立(42条)3 受任弁護士間の意見不一致(41条)4 辞任後の説明と預り金の返還(44条・45条)第4 東京地裁立川支部平成23年4月25日判決1 事案と判断2 判決の読み方第5 国選弁護人と被害者参加弁護士の辞任1 国選弁護人2 被害者参加弁護士第6 辞任の実務チェック項目1 辞任を考えている弁護士のチェック項目2 辞任を告げられた依頼者の確認事項第7 関連記事第8 出典1 法令・会規2 裁判例・弁護士懲戒3 職能団体の委員会による解説
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日
(1) 扱う問い

本記事は,弁護士が受任した事件を途中で辞任するときに守るべきルールを,民法の委任の規定,弁護士職務基本規程41条から45条まで,裁判例,日本弁護士連合会(日弁連)の懲戒事件の議決例の順に整理するものである。
想定しているのは,依頼者との関係が行き詰まって辞任を考えている弁護士と,弁護士から辞任を告げられた依頼者である。
国選弁護人と被害者参加弁護士については,辞任の仕組みが私選の代理人と異なるので,第5で別に扱う。
弁護士がそもそも事件を受任しない場合のルールは,「弁護士が事件の依頼を断るときの通知義務」で扱っている。

(2) 基準日と主な資料

法令は,令和8年9月25日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
弁護士職務基本規程は,日弁連の「日本弁護士連合会関係法規集」(令和7年9月1日現在)で条文を確認した。
解釈については,解説「弁護士職務基本規程」第4版(日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著,2026年9月。以下「本書」という。)を主に参照したが,本書は,初版以来の版と同様に,本書で述べる見解は日弁連の公式見解ではないと明記している(はしがき)。
本書の法令等の基準日は令和8年3月1日である(凡例)。

2 結論の要旨

①委任は各当事者がいつでも解除できるから(民法651条1項),弁護士は辞任すること自体を禁じられてはいないが,依頼者に不利な時期に辞任すれば,やむを得ない事由がない限り損害賠償の問題が生じる(同条2項)。
②依頼者との信頼関係が失われ,かつ,その回復が困難なときは,弁護士は,その旨を説明した上で,辞任その他の事案に応じた適切な措置を採らなければならない(弁護士職務基本規程43条)。
③辞任の前に,信頼関係の回復に努め,依頼者に事態を理解させ,今後の対処法を検討させる機会を保障すべきであるとした裁判例があり(東京地裁立川支部平成23年4月25日判決),本書も43条の解説でこれを紹介している。
④複数の依頼者の間に受任後に利害対立が生じたとき(42条)と,共同受任した弁護士の間で意見が一致しないとき(41条)にも,辞任の前に説明の義務がある。
⑤辞任した後も,処理の状況又は結果の説明(44条)と,金銭の清算及び預り金・預り品の遅滞ない返還(45条)の義務が残る。
⑥国選弁護人は,辞任を申し出ただけでは地位を失わず,裁判所の解任によって地位を失う(最高裁昭和54年7月24日判決の裁判要旨)。
被害者参加弁護士についても,裁判所による選定の取消しという仕組みになっている。

第2 辞任の法的根拠――民法の委任の規定
1 弁護士も依頼者もいつでも委任を解除できる
(1) 民法651条1項の任意解除

弁護士と依頼者との事件の委任契約には,民法の委任の規定が適用される。
民法651条1項は,「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」と定めており,受任者である弁護士が辞任することは,同項に基づく委任の解除に当たる。
したがって,弁護士の辞任は,理由のいかんを問わず民法上は効力を生じ得る。
ただし,後述する損害賠償の問題と,弁護士職務基本規程上の手順の問題は,これとは別に生じる。

(2) 依頼者から解任する場合

同じ民法651条1項により,依頼者も,いつでも弁護士を解任することができる。

(続きを読む...)弁護士が受任事件を途中で辞任するときのルール――民法651条,職務基本規程41条~45条及び国選弁護人の辞任(AI作成)

弁護士が当事者双方のために手続をしてよいか―登記申請・公正証書・即決和解と弁護士法25条1号(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする場面と基準日2 結論の要点第2 弁護士法25条1号と職務基本規程27条1号の仕組み1 条文と同意で解除できないこと2 禁止の趣旨3 「相手方」「賛助」「依頼を承諾」の意味第3 登記申請の双方代理は原則として許される1 最高裁昭和43年3月8日判決2 同判決の射程と注意点第4 公正証書の作成は1号違反になり得る1 最高裁昭和32年12月24日判決2 判決の事案と第4版の整理の違い3 公正証書が無効になることの重み4 事務所の職員や同じ事務所の弁護士を相手方の代理人にする場合第5 即決和解で相手方の代理人弁護士を選任すること1 起訴前の和解の仕組み2 大阪高裁昭和36年1月28日判決は無効とした3 東京地裁昭和36年8月29日判決は抵触しないとした4 第4版の立場は紹介にとどめること第6 どちらの代理人にもならない調整型の職務1 調整役は双方代理ではない2 引き受ける前に考慮する6つの要素3 受任時の説明と利害対立後の措置4 日弁連綱紀審査会平成26年10月14日議決第7 25条1号に違反した場合の効果1 訴訟行為は相手方の異議で排除される2 訴訟外の手続の効力3 懲戒第8 実務上の確認事項1 依頼を受けた弁護士が確認すること2 相手方の弁護士から手続を任せるよう言われた方が確認すること第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 弁護士懲戒手続の議決例4 日弁連の会規5 文献
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする場面と基準日

本記事は,登記申請,公正証書の作成及び即決和解(起訴前の和解)のように当事者双方が関わる手続を弁護士が扱う場面について,弁護士法25条1号及び弁護士職務基本規程27条1号との関係を整理するものである。
想定しているのは,一方当事者から依頼を受けた弁護士が相手方の側の手続まで引き受けてよいかを判断する場面と,相手方の弁護士から「手続はこちらでまとめてやる」と言われた一般の方が任せてよいかを判断する場面である。
法令及び日弁連の会規は,令和8年9月25日時点の内容を確認した。

主要文献は,日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,2026年9月。以下「第4版」という)である。
第4版は,はしがきで,同書の見解は日弁連の公式見解ではないと明記している。
本記事では,判例,懲戒手続の議決及び第4版の見解を区別して記載する。

2 結論の要点

場面ごとの結論は次のとおりである。
①登記申請で弁護士が登記権利者と登記義務者の双方の代理人になることは,特段の事由がない限り弁護士法25条1号に違反しない(最高裁昭和43年3月8日判決)。
②一方の依頼を受けて相手方と協議し契約を成立させた弁護士が,その後に相手方の代理人として同じ内容の公正証書を作成することは同号に違反し,依頼者の同意があっても許されず,その公正証書は無効である(最高裁昭和32年12月24日判決)。
③公正証書の作成で,弁護士が一方の代理人となり,自分の事務所の職員を他方の代理人にすることも,第4版は利益相反になると解すべきとする。
④即決和解で弁護士が相手方の代理人となる弁護士を選任することについては,無効とした高裁判決と抵触しないとした地裁判決があり,第4版は1号に当たると解して紹介にとどめるべきとする。
⑤どちらの代理人にもならない調整役は双方代理ではないが,第4版は,調整が失敗したら辞任し,以後その事件でどちらの代理人にもならないとする。
⑥訴訟で1号に違反する代理人がした訴訟行為は,相手方が異議を述べて排除を求めることができるが,違反を知り又は知ることができたのに異議を述べないまま第二審の口頭弁論が終結すると完全に有効になる(最高裁大法廷昭和38年10月30日判決)。

第2 弁護士法25条1号と職務基本規程27条1号の仕組み
1 条文と同意で解除できないこと
(1) 弁護士法25条1号

弁護士法25条は,弁護士が職務を行ってはならない事件を列挙している。
その1号は,「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」である。
同条ただし書により依頼者の同意で禁止が解除されるのは3号と9号だけであり,1号は同意があっても解除されない。

(2) 職務基本規程27条1号

弁護士職務基本規程27条1号は,弁護士法25条1号と同じ文言で同じ事件を禁止している。
同規程27条ただし書で同意による解除が認められるのは3号だけである。
第4版は,複数の依頼者の間の利益相反のうち,依頼者の同意があっても職務を行えないのは,利益相反の典型例である同一事件型(27条1号・2号)の場合であると説明している(第4版92頁)。
職務基本規程の全体像は,弁護士職務基本規程の現行条文と判例上の位置付けで整理している。

2 禁止の趣旨

最高裁大法廷昭和38年10月30日判決は,同号の趣旨を,先に弁護士を信頼して協議又は依頼をした相手方の信頼を裏切ることを防ぎ,弁護士の品位の失墜を防ぐことにあるとした。

(続きを読む...)弁護士が当事者双方のために手続をしてよいか―登記申請・公正証書・即決和解と弁護士法25条1号(AI作成)

成年後見人・後見監督人だった弁護士は被後見人の相続で一部の相続人の代理人になれるか――日弁連の議決例と遺言執行者との違い(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 結論の要旨2 対象,基準日及び資料第2 遺言執行者と後見人・後見監督人の違い1 遺言執行者に求められる中立性2 後見人と後見監督人の法的地位第3 日弁連の議決例の流れ1 京都の事案の日弁連綱紀委員会議決(懲戒審査相当)2 同じ事案の日弁連懲戒委員会議決(戒告の取消し)3 大阪の事案の日弁連懲戒委員会議決(異議棄却)4 議決例の到達点と根拠規定第4 非行となり得る2つの場合1 後見中の不正を隠す目的での受任2 後見人でなければ知り得なかった事実の利用第5 後見監督人に求められるより強い公正性1 日弁連綱紀委員会平成26年5月21日議決2 日弁連綱紀審査会平成27年1月20日議決と反対意見第6 元後見人が相続人全員の依頼で遺産分割を調整する場合1 調整役を引き受けるときの考慮要素2 調整の失敗後に一部の相続人の代理人になった議決例第7 実務上の注意1 後見中から推定相続人との連絡の偏りを避ける2 後見の計算と引継ぎを先に終える3 受任するかどうかの判断項目4 受任時の依頼者への説明5 相続人の側から見た対応6 令和8年改正法との関係第8 関連記事第9 出典1 法令・会規2 裁判例3 弁護士懲戒の議決例4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 結論の要旨
(1) 成年後見人だった弁護士

成年後見人だった弁護士が,本人(被後見人)の死亡後に一部の相続人の代理人になることは,それだけで直ちに弁護士としての非行に当たるわけではない。
日弁連懲戒委員会平成25年2月12日議決(弁護士懲戒事件議決例集第16集3頁)は,遺言執行者と成年後見人とは法的に異なる立場にあるとして,元後見人が一部の相続人の代理人になった事案で京都弁護士会がした戒告処分を取り消した。
ただし,同議決には非行に当たるとする反対意見があり,同議決自身も,後見中の不正を隠す目的で受任する場合と,後見人でなければ知り得なかった事実を依頼者のために利用する場合を,非行が問題となる場合として挙げている。
同じ事案で,それ以前に日弁連綱紀委員会は懲戒審査相当と議決しており,議決例の判断は一様ではない。

(2) 後見監督人だった弁護士と遺言執行者との比較

後見監督人だった弁護士については,日弁連綱紀委員会平成26年5月21日議決(同第17集111頁)が,後見人と後見監督人は職務の公正さがより強く求められる関係にあるとして,後見人だった相続人の代理人になることは原則として相当でないとした。
もっとも,同議決は事案の具体的な事情から非行があったとまではいえないとし,日弁連綱紀審査会平成27年1月20日議決(同第18集147頁)もこの結論を維持したが,同審査会の議決には非行に当たるとする反対意見が付されている。
これに対し,遺言執行者が一部の相続人の代理人になることは,遺言執行の終了の前後を問わず,特段の事情のない限り差し控えるべきであるとするのが,解説「弁護士職務基本規程」第4版の立場である。

2 対象,基準日及び資料

本記事は,弁護士が家庭裁判所から成年後見人又は成年後見監督人に選任されて職務を行い,本人が死亡した後に,一部の相続人から遺産分割等の依頼を受ける場面を扱う。
記載は令和8年9月25日を基準日とし,民法及び弁護士法は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行の条文を確認した。

主要文献は,解説「弁護士職務基本規程」第4版(日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著,2026年9月)であり,同書の凡例によれば法令等の基準日は2026年3月1日である。
同書は,はしがきで,同書に述べられた見解は日弁連の公式見解ではないと断っている。
懲戒の議決例は,日本弁護士連合会が発行する弁護士懲戒事件議決例集の原本で,機関,議決日,事案及び判断を確認した。
議決例は裁判例ではなく,弁護士会の懲戒手続における綱紀委員会,懲戒委員会又は綱紀審査会の判断である。

なお,令和8年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)により,成年後見は補助に一本化される予定である。
本記事の議決例はいずれも改正前の成年後見の事案であり,改正との関係は第7の6で扱う。

第2 遺言執行者と後見人・後見監督人の違い
1 遺言執行者に求められる中立性
(1) 民法1012条・1015条と平成30年改正

民法1012条1項は,遺言執行者が遺言の内容を実現するため遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有すると定め,同条3項は受任者の善管注意義務を定める民法644条等を準用している。
民法1015条は,遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は,「相続人に対して直接にその効力を生ずる」と定める。
同条は,平成30年法律第72号による改正前は遺言執行者を相続人の代理人とみなす旨を定めており,後記の議決例も改正前の同条を前提にしている。
解説「弁護士職務基本規程」第4版115頁は,この改正によって,遺言執行者は相続人の代理人ではなく,遺言者の意思をその死後に実現することを職務とすることが明確にされたと説明する。

(2) 東京高裁平成15年4月24日判決と日弁連の議決例

東京高裁平成15年4月24日判決(平成13年(行ケ)第532号,判例時報1932号80頁)は,遺言執行者は,相続人の代理人とする見解に立つか否かを問わず善管注意義務を負い,中立的な立場で任務を遂行すべきであるとした。

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相手方に代理人がいるとき弁護士は本人と直接交渉してよいか-弁護士職務基本規程52条の要件と懲戒例(AI作成)

目次第1 結論と本記事の範囲1 結論2 基準日と資料の位置付け第2 52条の条文,沿革及び趣旨1 条文と沿革2 趣旨第3 「法令上の資格を有する代理人」の範囲1 弁護士以外で当たる資格者2 当たらない代理人と権限が問題になる場合第4 「交渉」に当たる行為と当たらない行為1 交渉の意味と方法2 一方的な通知と交渉に至らない連絡第5 相手方代理人の承諾と「正当な理由」1 相手方代理人の承諾2 「正当な理由」第6 相手方本人からの求めと依頼者本人どうしの交渉1 相手方本人から直接の交渉を求められた場合2 依頼者本人どうしの交渉への関与第7 懲戒例1 内容証明郵便の直接送付(日弁連綱紀委員会平成22年11月17日議決)2 本人どうしの合意書作成への関与(日弁連懲戒委員会平成23年7月11日議決)3 面会交流の日程調整メール(日弁連懲戒委員会平成27年2月9日議決)4 懲戒処分の公告に見る例第8 実務上のチェック項目1 弁護士が確認すること2 相手方の弁護士から直接連絡が来た方へ第9 関連記事第10 出典
第1 結論と本記事の範囲
1 結論

相手方に弁護士その他の法令上の資格を有する代理人が付いた後の対応について,結論を先に示すと次のとおりである。
①弁護士は,正当な理由がない限り,相手方代理人の承諾を得ずに相手方本人と直接交渉してはならない(弁護士職務基本規程52条)。
②「法令上の資格を有する代理人」には,弁護士のほか,その権限の範囲内で交渉を代理できる司法書士,弁理士,外国法事務弁護士等が含まれるが,資格のない家族や知人は含まれない。
③面談だけでなく,電話,メール及び文書の送付も「交渉」になり得るが,契約解除通知のような一方的な通知は直接交渉に当たらない。
④相手方代理人の承諾は口頭でもよいが,その範囲は承諾の内容で決まり,相手方代理人から相手方本人を直接説得してほしいと言われたという弁護士の主張について,仮にそのような発言があったとしても承諾には当たらないとした議決例がある。
⑤相手方本人から直接の交渉を求められても,応じるべきではないと解されている。
⑥依頼者本人どうしの交渉を放置しただけでは52条違反にならないが,本人どうしの合意書を作って交付した弁護士が戒告を受けた議決例がある。

2 基準日と資料の位置付け
(1) 基準日と想定する読者

本記事は,令和8年9月25日を基準日として,弁護士職務基本規程52条(相手方本人との直接交渉)の要件,解釈及び懲戒例を整理するものである。
受任中に相手方本人へ連絡してよいかを確かめたい弁護士と,相手方の弁護士から直接連絡を受けて戸惑っている方の双方を読者として想定している。
規程の全条文は弁護士職務基本規程-現行条文,82条及び判例上の位置付けに掲載している。

(2) 解説書と議決例の位置付け

解釈の主な手掛かりは,日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,2026年9月)である。
同書は,法令等を令和8年3月1日現在のものとしており(凡例),その見解は日弁連の公式見解ではないと自ら明記している(はしがき)。
懲戒例は,日本弁護士連合会『弁護士懲戒事件議決例集』の原本で事案と判断を確認した3件の議決を用いる。
議決例は裁判例ではなく,綱紀委員会又は懲戒委員会が個別の事案について判断したものであるから,その射程は事案の具体的事情に即して読む必要がある。

第2 52条の条文,沿革及び趣旨
1 条文と沿革

現行の52条と関連する82条等の本文は,弁護士職務基本規程の現行条文・条文別索引から確認できる。

(1) 現行の条文

52条は,「弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない。」と定めている。
規程82条2項は,行動指針又は努力目標として解釈すべき規定を列挙しているが,52条はそこに含まれていないから,52条は行動指針又は努力目標にとどまる規定ではない。
これに対し,後に触れる5条(信義誠実)及び70条(名誉の尊重)は,同項により行動指針又は努力目標として解釈される規定である。

(2) 旧々倫理16条・旧倫理49条からの変化

同じ趣旨の規定は,旧々倫理16条及び旧倫理49条(平成2年3月2日臨時総会決議の「弁護士倫理」)にも置かれていた(前掲解説第4版凡例・175頁)。

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人口減少社会で増える可能性のある法律実務―相続・空き家・成年後見・事業承継・外国人雇用(AI作成)

目次

第1 人口統計は入口であって結論ではない第2 共通する四段階の確認第3 相続人不存在・所有者不明不動産第4 空き家と管理責任第5 成年後見・医療・介護第6 事業承継・廃業第7 外国人雇用第8 裁判所支部と司法アクセス第9 分野ごとの需要と弁護士全体の業務量第10 法律相談の確認表第11 出典・参考資料
第1 人口統計は入口であって結論ではない

人口減少と高齢化は,相続,空き家,成年後見,事業承継,外国人雇用及び司法アクセスに共通する背景である。
しかし,人口統計だけで個別事件の権利義務や法的需要が決まるわけではない。
本記事は,公的統計から相談・立証へ進む際の「証拠の橋渡し」を整理するものであり,各分野の裁判例の検討は含まない。

国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計人口は,2020年国勢調査を基準に,2050年までの市区町村別人口を男女・5歳階級別に推計している。
地域の年齢構成を検討する資料であり,世帯数や独居の状況は世帯推計など別の資料で補う。

ただし,これは将来推計であり,個々の市区町村の政策,特定の家庭の状況又は個別事件の結果を予言するものではない。
法律実務では,人口指標と,当事者に生じた生活上・事業上の出来事,その法的地位,利用可能な手続を順に結ぶ必要がある。

第2 共通する四段階の確認

人口統計から個別の相談へ進むときは,次の四段階を順に確認する。
①人口・社会指標:人口,年齢構成,世帯数,住宅,事業所,外国人雇用等の変化を確認する。
②具体的な出来事:死亡,認知機能の低下,空き家化,後継者不在,雇用開始等が実際に起きたかを確認する。
③法的地位:相続人,所有者,管理者,成年被後見人,会社・個人事業主,使用者・労働者,在留資格等を確認する。
④手続と証拠:登記,相続財産清算,後見申立て,事業譲渡,雇用管理,訴訟・調停等の選択肢と必要資料を確認する。

人口統計は第1段階の背景資料として有用であるが,第2段階以下を省略する根拠にはならない。

第3 相続人不存在・所有者不明不動産

単身高齢者の増加や親族関係の希薄化は,相続人の調査,遺言,死後事務及び相続財産清算の相談を考える背景となる。
しかし,「独居」であることと「相続人がいない」ことは同じではない。

社人研の2024年の全国世帯推計では,2050年の単独世帯割合は44.3%とされている。
これは全年齢の単独世帯の推計であって,高齢単独世帯の割合でも,相続人がいない人の割合でもない。
相談では,戸籍上の親族関係,同居人,実際の支援者,緊急連絡先,委任の内容,支払口座及び死亡後の引継先を別々に確認する。
緊急連絡先として指定されていることだけから,財産処分や契約解除の代理権があると扱わないことも大切である。

実務では,戸籍による相続関係の調査,遺言の有無,相続放棄,債権債務,不動産・預貯金の管理状況を個別に確認する。
相続人不存在の場合の手続は,相続人がいない場合の相続財産清算人選任申立ての流れで整理している。

第4 空き家と管理責任

総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査では,空き家は900万2千戸であった。
このうち「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は385万6千戸である。

もっとも,900万2千戸の全てを放置空き家,危険家屋又は所有者不明土地と呼ぶことはできない。
賃貸用,売却用,別荘等も空き家総数に含まれるためである。

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弁護士が報道機関の取材を受けるときの確認事項―守秘義務,オフレコ及び原稿確認(AI作成)

目次
第1 結論
第2 取材を受ける前に確認する事項
第3 守秘義務と依頼者の意思
第4 オフレコ,匿名及び録音
第5 原稿確認と最高裁平成20年6月12日判決
第6 取材中及び公開後の対応
第7 実務チェックリスト
第8 出典及び関連記事

第1 結論
1 弁護士が報道機関の取材を受ける場合,最初に確認すべきなのは,媒体名,記者名,取材目的,質問事項,回答期限,公表予定日,掲載・放送形態,実名・顔写真・所属の表示及び録音・録画の有無です。
2 取材に応じる義務が当然に生じるわけではありません。依頼者の利益,守秘義務,第三者のプライバシー,係属中の手続への影響及び回答準備の程度を踏まえ,回答する範囲と方法を決めます。
3 「オフレコ」,「匿名」,「背景説明」又は「原稿確認」は,それだけで内容が一義的に決まる言葉ではありません。発言前に,利用範囲,引用の可否,氏名・属性の表示,録音の扱い及び公表前確認の範囲を文章で合意しておくことが重要です。

第2 取材を受ける前に確認する事項
1 少なくとも,次の事項を電子メール等で確認します。
・ 媒体名,番組名又は記事の掲載先
・ 担当記者の氏名,連絡先及び取材主体
・ 取材の目的,想定される論点及び具体的な質問事項
・ 回答期限,公表予定日及び生放送・収録・電話・対面等の形式
・ 弁護士の氏名,事務所名,顔写真,肩書及び発言の表示方法
・ 録音・録画の有無並びに素材の利用範囲
・ 引用部分又は事実関係を公表前に確認できるか
・ 公開後に訂正を申し入れる場合の窓口
2 即答を求められても,事実確認ができていない事項については回答期限を調整し,必要に応じて短い書面回答に切り替えます。依頼者の立場と弁護士個人の一般論を混同させないことも必要です。

第3 守秘義務と依頼者の意思
1 弁護士法23条は,弁護士又は弁護士であった者に対し,職務上知り得た秘密を保持する権利と義務を定めています。取材対象が社会的関心の高い事件であっても,報道機関への説明が当然に許されるわけではありません。
2 公知の事実を述べる場合であっても,依頼者が弁護士に相談した事実,依頼者の意向,未提出の証拠,交渉経過,防御方針,家族・被害者・共犯者その他第三者の情報が結び付くことがあります。情報ごとに,秘密性,依頼者の承諾,第三者の権利及び手続上の不利益を確認します。

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弁護士が懲戒請求を受けたときの初動と綱紀委員会への答弁書の書き方(AI作成)

目次

第1 通知を受けた直後の初動
第2 答弁書の目的と読み手
第3 争点・証拠対応表の作り方
第4 答弁書の基本構成
第5 主位的主張と予備的な情状主張
第6 弁護士職務基本規程82条との関係
第7 提出した答弁書や資料は請求者に開示されるか
第8 答弁期限に間に合わない場合・事情聴取への対応
第9 示談,取下げ及び事後的な改善
第10 不当な懲戒請求への損害賠償との切分け
第11 提出前チェックリスト
第12 資料の裏付け状況と出典

第1 通知を受けた直後の初動

弁護士が懲戒請求を受けた場合,最初に確認するのは,所属弁護士会から届いた通知,回答期限及び請求書の対象事実である。
懲戒請求を受けたこと自体は,懲戒委員会への付議又は懲戒処分の決定を意味しない。

綱紀委員会への答弁書又は弁明書は,同委員会が懲戒委員会に審査を求めることを相当とするかを判断するための資料である。
懲戒事由がないことと,仮に形式的な問題があっても懲戒を要しない事情とを,証拠に結び付けて示す必要がある。

本記事は一般的な実務整理である。
提出期限,書面の名称・部数,請求者への送付又は閲覧,事情聴取,調査依頼及び期限延長の取扱いは単位弁護士会によって異なり得るため,届いた通知と所属会の現行規則を優先する。
綱紀委員会の調査から懲戒委員会の審査へ進む条件と通知後の流れは,弁護士会の懲戒委員会と懲戒手続の記事で説明している。

最初に,通知書,懲戒請求書,添付資料,封筒又は送信記録を一式保存し,受領日,回答期限,事件番号,提出先,必要部数及び提出方法を一覧にする。期限の起算点が到達日か発送日か,休日の場合の扱いがどうなるかを推測で決めてはならない。

次に,対象事件の委任契約書,利益相反確認,面談記録,電子メール,チャット,電話記録,訴訟記録,入出金記録及び業務日誌を保全する。都合の悪い資料を除外せず,当時作成された資料と後日作成した説明資料を区別する。

共同受任者,事務職員又は関係者への聞取りをする場合は,誰が,いつ,何を直接見聞きしたかを分けて記録する。請求者へ直接連絡するかは,紛争の激化,証拠保全及び代理人選任の有無を踏まえて慎重に判断する。

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弁護士が依頼者の本人確認を行う場合―対象業務・令和9年4月1日の確認方法・記録保存(AI作成)

目次第1 弁護士の本人確認はすべての相談で一律ではない1 犯罪収益移転防止法12条と日弁連会規が根拠になる2 すべての法律相談が対象になるわけではない3 本人確認とマネー・ローンダリング対策を分けない第2 本人特定事項等の確認が必要になる主な業務1 200万円以上の資産管理行為等2 特定の取引等の準備又は実行3 疑わしい態様は対象を広げる第3 確認する事項1 自然人の依頼者2 法人又は団体の依頼者3 実質的支配者第4 令和9年3月31日までの確認方法1 対面での自然人確認2 非対面・オンラインでの自然人確認3 法人確認と依頼権限第5 確認記録と取引記録1 確認記録を作る2 取引記録も別に作る3 保存期間は終了後5年間である第6 疑わしい取引への対応1 弁護士に金融機関と同じ届出義務をそのまま課す制度ではない2 依頼前と受任後で対応を分ける第7 令和9年4月1日からの本人確認方法1 日弁連規程・規則が改正された2 対面はICチップ情報の読取りが中心となる3 非対面は電子的確認へ移行する第8 法律事務所の確認表1 受任・業務開始時2 記録・保存時3 年次点検第9 出典・確認範囲1 法令及び日弁連公開規程2 令和9年見直しの公開資料3 一次資料で確認できる範囲と限界
第1 弁護士の本人確認はすべての相談で一律ではない
1 犯罪収益移転防止法12条と日弁連会規が根拠になる

犯罪による収益の移転防止に関する法律12条は,弁護士等の本人特定事項の確認,確認記録・取引記録の作成保存等に相当する措置について,特定事業者の例に準じて日本弁護士連合会の会則で定めるとする。
現在の具体的な義務は,日弁連の「依頼者の本人特定事項等の確認及び記録保存等に関する規程」及び同規則によって確認する必要がある。
金融機関等に適用される犯罪収益移転防止法の本人確認方法を,そのまま弁護士の全業務へ当てはめるものではない。

2 すべての法律相談が対象になるわけではない

本人特定事項等の確認が必要になるのは,規程が定める資産管理行為等又は特定の取引等の準備・実行を行う場面である。
単に初回相談を受けたという理由だけで,同規程上の詳細な確認義務が常に発生するわけではない。
ただし,利益相反確認,連絡先確認,委任契約,弁護士職務基本規程その他の理由から,対象業務以外でも依頼者情報を確認することはある。

3 本人確認とマネー・ローンダリング対策を分けない

本人確認書類を取得するだけでは十分でない。
依頼の目的,職業又は事業内容,実質的支配者,資金・資産の流れ及び不自然な点を確認し,必要に応じて依頼を受けないこと又は辞任することまで含む仕組みである。

第2 本人特定事項等の確認が必要になる主な業務
1 200万円以上の資産管理行為等

法律事務に関連して,依頼者の金融機関口座を管理する場合又は依頼者から若しくは依頼者のために合計200万円以上の金員,有価証券その他の資産を預かり,若しくは管理する場合が対象になる。
送金を伴う預り金も含まれる。
もっとも,裁判所等への予納・供託,裁判手続等による弁済金・和解金の受領,刑事事件の被害弁償金の預託,報酬・費用の前受けその他規程が列挙する場合には適用除外があるので,条文に即して確認する。

2 特定の取引等の準備又は実行

主な対象は,次のとおりである。
①不動産の売買。
②会社設立又は経営を目的とする出資その他の資金拠出。
③会社の組織変更,合併,会社分割,株式交換,株式移転又は目的変更。
④会社の業務執行者又は代表者の選任。
⑤会社以外の法人,組合,匿名組合,投資事業有限責任組合その他の団体の設立又は合併。
⑥団体の目的変更又は業務執行者・代表者の選任。
⑦信託の設定,併合,分割,目的変更又は受託者変更。
⑧会社の買収又は売却。

3 疑わしい態様は対象を広げる

取引資産が犯罪収益である疑いがある場合,依頼者が犯罪収益の隠匿等を行っている疑いがある場合又は同種の取引と著しく異なる態様で行われる場合も,規程上の確認対象になる。

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こども性暴力防止法の施行と弁護士の役割―事業者側助言・こども側代理・聴き取りの注意点(AI作成)

目次第1 こども性暴力防止法とこの記事の結論1 令和8年12月25日から施行される2 弁護士の役割は一つではない3 公開資料だけを根拠とする第2 事業者側弁護士が最初に整理する事項1 法の対象と事業者の区分を確認する2 初動を「聴き取り」だけにしない3 担当者,指揮系統及び記録を決める4 施行前に報告・対応ルールを決める第3 こどもへの聴き取りに先立つ安全確保1 現在の危険から離す2 医療と証拠保全を遅らせない3 外部機関との役割分担を決める第4 こどもへの聴き取りの注意点1 聴き取りの目的を限定する2 誘導を避け,自由な説明を尊重する3 聴取回数と参加者を絞る4 録音・録画は目的と負担を確認する第5 事業者側弁護士とこども側弁護士の役割分担1 事業者側弁護士の役割2 こども側弁護士の役割3 必要に応じて代理人を分ける4 従事者から相談を受けた場合第6 情報管理,労務対応及び説明1 情報共有は必要性と権限で判断する2 安全確保と懲戒判断を分ける3 こども・保護者への説明事項を記録する第7 弁護士が使う初動確認表1 事業者側の確認事項2 こども側の確認事項第8 出典・確認範囲1 法令及びこども家庭庁資料2 確認していない事項
第1 こども性暴力防止法とこの記事の結論
1 令和8年12月25日から施行される

こども性暴力防止法の正式名称は,「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」であり,令和6年法律第69号として公布された。
同法は,令和8年12月25日から施行される。
学校設置者等には法定の措置が義務付けられ,学習塾等の民間教育保育等事業者については,認定を受けた事業者に同等の措置が求められる仕組みである。

2 弁護士の役割は一つではない

性暴力の疑いが生じた場面で,弁護士は,事業者側で初動,調査,安全確保,関係機関との連携及び労務対応を助言する場合と,こども又は保護者の側で権利擁護,意思確認,被害申告及び支援機関との連携を担う場合がある。
事業者側の事実確認と,こどもの安全・回復のための支援は,目的も担当者も一致するとは限らない。
同じ弁護士が双方の立場を曖昧に担当すると,利益相反や,こどもが事業者の調査へ協力することを当然視する危険が生じるので,受任主体,依頼目的,情報共有の範囲及び意思決定者を最初に明確にする必要がある。

3 公開資料だけを根拠とする

本記事は,令和8年10月8日現在の法令,こども家庭庁の指針,Q&A及び公開研修資料に基づく。
個別の被害事案や関係者名は扱わず,公開資料から一般化できる実務上の確認事項だけを記載する。
制度の対象事業者,対象従事者,主な義務及び施行準備の全体像は,こども性暴力防止法とは―日本版DBSの対象・義務・令和8年12月25日の施行準備で整理している。

個別案件では,対象事業,施行時期,所管行政庁,警察・児童相談所への連絡,労働法上の措置及び証拠保全を,最新の公式資料と当該事案の事情に即して確認する必要がある。

第2 事業者側弁護士が最初に整理する事項
1 法の対象と事業者の区分を確認する

最初に,事業者が学校設置者等に当たるのか,民間教育保育等事業者に当たるのか,後者であれば認定を受けているのか又は受ける予定があるのかを確認する。
同じ法人が複数の事業を行う場合,施設又はサービスごとに法の対象範囲が異なることがあるので,法人名だけで判断しない。
従事者の職名ではなく,実際に児童等へ提供する役務,接触の態様及び法令上の区分を確認する。

2 初動を「聴き取り」だけにしない

こども家庭庁の公開資料は,こどもへの聴き取りに先立ち,警察への通報・相談,所管行政庁への相談及び専門家への相談を検討するよう求めている。
したがって,事業者が最初に行うべき作業は,詳しい供述を直ちに取り切ることではない。
①現在も接触の危険があるか,②緊急の医療が必要か,③証拠が失われるおそれがあるか,④警察,児童相談所又は所管行政庁へいつ連絡するか,⑤誰がこどもと保護者へ説明するかを先に整理する。

3 担当者,指揮系統及び記録を決める

事業者内部では,安全確保,関係機関への連絡,こども・保護者対応,従事者対応,労務判断及び広報対応の担当を分ける。
弁護士は,誰が最終判断を行うのか,どの情報を誰へ共有するのか,時刻を含む初動記録を誰が作成するのかを確認する。
関係者が独自に繰り返し質問すると,こどもの負担を増やし,記憶や供述の評価を難しくすることがあるので,連絡経路を一本化する必要がある。

4 施行前に報告・対応ルールを決める

施行前には,疑いを把握した従事者が報告するためのルールと,報告を受けた組織が対応するためのルールを分けて整える。

(続きを読む...)こども性暴力防止法の施行と弁護士の役割―事業者側助言・こども側代理・聴き取りの注意点(AI作成)

Google Maps・Google Earth・Street Viewを資料・ブログ・動画で使う条件-印刷,埋込み,スクリーンショット及び広告(AI作成)

目次第1 結論1 三つの製品を同じルールで扱わない2 迷ったときの安全な順序第2 最初に確認する法的な層1 日本の著作権法とGoogleの利用条件を分ける2 Googleの「fair use」という説明を日本法の引用と混同しない3 利用時点の版と証拠を保存する第3 媒体別の早見整理1 印刷資料2 ウェブサイト及びアプリ3 デジタル広告及びSNS4 テレビ,映画及びオンライン動画第4 Google Mapsの具体的な使い方1 法律事務所内の検討資料及び依頼者向け資料2 事務所案内,セミナーチラシ及び名刺3 スクリーンショットへの書込み第5 Google Earth及び衛星画像の注意点1 研究・教育と営業・販売促進を分ける2 衛星表示をGoogle Mapsの通常地図と同一視しない3 3Dモデルその他の派生利用をしない第6 Street Viewの注意点1 印刷及びスクリーンショットは禁止されている2 ウェブでは埋込み又はAPIを使う3 人物・住居・車両等のプライバシーを別に確認する第7 裁判資料及び法律事務所での利用例1 準備書面・証拠説明資料へ場所を示す場合2 講演資料及び配布レジュメ3 法律事務所ブログ及びSNS第8 帰属表示と画像加工1 表示中のGoogle及び第三者提供者を残す2 切除・隠蔽・末尾への移動をしない3 APIでは新しいGoogle Maps表示要件を確認する第9 掲載・配布前のチェックリスト1 対象と媒体2 取得・加工・帰属表示3 内容の正確性と第三者権利第10 確認結果の位置付け1 確認できたこと2 確認していないこと第11 関連する山中弁護士ブログの記事1 リンク・埋込みと著作権2 資料作成一般の権利処理第12 出典1 Googleの公式条件2 日本法の一次資料・公的資料
第1 結論
1 三つの製品を同じルールで扱わない

Google Maps,Google Earth及びStreet Viewは,いずれも地理情報を表示するサービスであるが,Googleが公表する利用条件は同じではない.
弁護士が準備書面,証拠説明資料,依頼者向け資料,講演資料,ブログ,SNS又は動画で地図画像を使うときは,①製品,②通常地図・航空写真・衛星画像・Street Viewの別,③印刷・ウェブ・動画等の媒体,④商業又は販売促進目的,⑤埋込み・リンク・スクリーンショット・APIの別,⑥表示される帰属表示を固定して判断する必要がある.

Googleの現行Geo Guidelinesを大づかみに整理すると,Google Mapsは一定の印刷,ウェブ埋込み及び非販売促進のオンライン動画で利用しやすい一方,Google Earthは商業又は販売促進目的での利用が強く制限され,Street Viewは印刷利用及びスクリーンショットの切出しが認められていない.
「Googleの地図だから使える」,「出典を書けば足りる」,「裁判資料だから自由に使える」という一括判断はできない.

2 迷ったときの安全な順序

場所又は経路を知らせるだけなら,第一にGoogle Mapsへの通常のリンク又はGoogleが提供する埋込み機能を検討する.
紙面では短縮リンク又はQRコードでGoogle Mapsの場所へ誘導する方法も,Googleが許容例として挙げている.

画像が本当に必要な場合は,Google Mapsの通常地図を基本とし,利用目的に必要な範囲でスクリーンショット又はGoogle提供機能を使い,画面に表示されたGoogle及び第三者データ提供者の帰属表示を残す.
Google Earth又は衛星画像は商業・販売促進用途かを先に確認し,Street Viewは画像を切り出さず,ウェブでは埋込み又はAPI,映像では端末上の製品をそのまま操作する場面に限定する.

本記事は令和8年9月16日現在のGoogle公式ページ及び日本の著作権法を基準にしている.
Googleの規約及びガイドラインは変更され得るため,実際の利用直前に対象製品,媒体及び表示中の帰属表示を再確認する必要がある.

第2 最初に確認する法的な層
1 日本の著作権法とGoogleの利用条件を分ける

著作権法10条1項6号は,地図及び学術的な性質を有する図面,図表,模型その他の図形の著作物を例示している.
地理上の位置,道路の存在,距離その他の事実それ自体と,情報の取捨選択,縮尺,記号,配色,注記,写真又は画像の表現は分けて考える必要がある.

スクリーンショットの保存又は印刷は複製権,ブログ掲載は公衆送信権,加工又は大幅な描き替えは翻案権又は同一性保持権との関係が問題となり得る.
引用その他の権利制限が成立する場合はあるが,画像を装飾又はアイキャッチとして置くことは,説明・批評・検証のための引用であるとの説明が難しい.

これに対し,GoogleのGeo Guidelines,Google Maps追加利用規約,Google Earth追加利用規約及びGoogle Maps Platformの規約・技術文書は,Googleが提供する製品を利用する際の許諾・契約・運用条件である.
日本法上の権利制限規定とGoogleの条件は別の層であり,一方の確認だけで他方の問題がなくなるわけではない.

2 Googleの「fair use」という説明を日本法の引用と混同しない

GoogleのGeo Guidelinesは,米国法上のfair useその他の各国の類似概念により利用できる場合があると説明し,Google自身はfair useに該当するか判断できないとしている.
日本で利用する場合は,この記載自体が著作権法32条の引用を認めるものではない.

引用を根拠とするときは,公表された著作物であること,公正な慣行に合致すること,引用目的上正当な範囲であること,本文と引用部分を明確に区別すること,自分の説明が実質的な本体であること及び著作権法48条による出所明示を確認する.
契約への同意,APIの利用条件,技術的制限及び帰属表示は,法定引用とは別に検討する.

3 利用時点の版と証拠を保存する

令和8年9月16日確認時点で,Google Maps End User Additional Terms of Serviceは令和8年1月27日最終更新,Google Earth End User Additional Terms of Serviceは令和7年6月4日最終更新と表示されている.
Geo Guidelinesには媒体別の具体例があり,Google Maps Platformのサービス別条件及びAPIの表示要件は別ページで更新されている.

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BUSINESSぷららのメール提供終了後の対応―個人向けぷららとの違い,旧メール保存及び独自ドメイン移行(AI作成)

目次第1 令和8年9月時点では「終了後」の確認が必要である第2 BUSINESSぷららと個人向けぷららを分ける第3 旧メールを失わないために先に保全する1 「件名が見える」と「本文が保存されている」は違う2 探索する保存場所を整理する3 Thunderbirdではバックアップと復元を別に確認する第4 同じメールアドレスを使えるか1 提供元のドメインを使うアドレス2 自分で管理権限を持つ独自ドメイン第5 新しい送受信経路の選び方と検収1 受信できても,正しいアドレスで返信できるとは限らない2 切替後の確認表第6 法律事務所で忘れやすい連絡先変更第7 出典
第1 令和8年9月時点では「終了後」の確認が必要である

BUSINESSぷららの公式案内では,メールサービスの提供終了日は令和8年8月31日であり,9月1日以降,顧客ごとに順次送受信が停止するとされている。
本記事の確認基準日は令和8年9月15日であり,これから終了前の準備をすれば間に合うという前提は採らない。
一方,すべての契約が9月1日の同時刻に停止したという意味でもないため,自分の契約と現時点の状態を確認する必要がある。

最初に行うべきことは,①対象契約の特定,②端末等に残る旧メールの保全,③現在の送受信状況の確認,④今後使用するアドレスと受入先の確保,⑤連絡先変更の周知である。
新しいメールソフトを入れるだけで,終了したメールサーバーや過去メールが復活するわけではない。
本記事は一般的な整理であり,特定の事務所の契約・端末設定・保存状況を確認した結果ではない。
出典:BUSINESSぷらら・メールサービス提供終了のお知らせ。

第2 BUSINESSぷららと個人向けぷららを分ける

確認対象
公表されている内容
利用者が確認すること

BUSINESSぷらら
対象メールサービスの提供終了
契約名,対象サービス,送受信停止状況,既存データ

個人向けぷらら
メールサーバー更改と,IMAP・Webメール等の変更
契約に適用される設定案内と,旧メールの移行状況

法律事務所で使っているからという用途だけで,BUSINESSぷららの契約であるとは判断できない。
請求書,契約名,サービスID及び管理画面の案内を照合し,対象の通知を選ぶ。
メールアドレスの文字列だけで全契約条件を推定することも避ける。

個人向けぷららの更改案内では,POP利用には更改による影響がない一方,IMAP・Webメールには変更があり,過去メールは自動では移行されないと説明されている。
過去メールの移行申込みは令和8年5月31日,旧サーバーの利用は6月30日という期限が案内されているため,9月時点で同じ申込手順を新たに実行できるとは扱わない。
未移行分の取扱いは,残存コピーの有無と提供元の回答を確認する問題である。
出典:ぷらら・メールサーバー更改の案内。

第3 旧メールを失わないために先に保全する
1 「件名が見える」と「本文が保存されている」は違う

メールソフトに古いメールの一覧が残っていても,本文・添付ファイルまで端末に保存されているとは限らない。
IMAPではヘッダーのみ取得されている場合があり,サーバーが停止した後に未取得の本文を読み出そうとしても,端末内の情報だけでは復元できないことがある。
下位フォルダーや保存期間・サイズによる同期対象の制限も確認する。
出典:Mozilla・IMAP同期。

そのため,確認前に古いアカウントを削除したり,現用プロファイルを新設定で上書きしたりしない。
メールソフトを終了し,既存の保存領域を保全した上で,別コピーを使って本文・添付の閲覧を試す。
保全コピーには依頼者情報や認証関係情報が含まれ得るため,誰でも見られる共有先へ置かず,アクセス権と暗号化を検討する。

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法律事務所が「業務分野+地名」で上位表示を狙う場合にサブドメインは有益か(AI作成)

目次第1 結論と対象範囲第2 URL構造だけでは順位上の優位を説明できない1 サブドメインとサブディレクトリ2 ドメイン名とURL内の検索語3 検索結果の掲載枠第3 地域名・業務分野ページを量産する場合の境界1 誘導ページの不正使用2 大量生成されたコンテンツ3 固有情報のある地域ページ第4 地図検索は自然検索と分けて考える1 関連性・距離・知名度2 ビジネスプロフィールの拠点と専門分野第5 サブドメインが合理的になり得る条件1 独立した名称・読者・サービス2 独立した運営・システム3 既存の専門サイト第6 新設前に行う実装と計測1 既存サイト内の分野ページ2 地域情報と内部リンク3 計測と投資判断第7 出典・参考資料1 Googleが公表する検索技術資料2 Googleが運営サービスについて公表するポリシー及びヘルプ
第1 結論と対象範囲

本記事は,同じ法律事務所が「相続 弁護士 大阪」などの業務分野と地名を含む検索で上位表示を狙う場合に,業務分野及び地名ごとのサブドメインを作ることが有益かを検討するものである。
調査の基準日は令和8年9月15日であり,日本向けのGoogle自然検索とGoogleマップ等のローカル検索を対象とする。
結論として,同じ事務所,同じ担当体制及び同じ相談導線で運営するのであれば,業務分野と地名の組合せごとにサブドメインを新設するより,既存サイト内の分野ページと必要な地域情報を充実させる方法を第一候補とするのが合理的である。
ただし,この結論は,サブディレクトリなら必ず上位表示されることや,既存の専門サブドメインを直ちに統合すべきことを意味しない。

第2 URL構造だけでは順位上の優位を説明できない
1 サブドメインとサブディレクトリ

サブドメインは「souzoku.example.com」のようにルートドメインの前へ名称を置く構成であり,サブディレクトリは「example.com/souzoku/」のように同じサイトの下へパスを設ける構成である。
Googleのクロールとインデックス登録に関するFAQは,サブフォルダとサブドメインについて,整理及び管理しやすい方を選ぶよう説明しており,英語版はインデックス登録とランキングの観点で一方を優先しない旨を示している。
したがって,URL構造をサブドメインへ変えること自体を,上位表示の理由として扱うことはできない。

2 ドメイン名とURL内の検索語

Googleのランキングシステムの説明には,ドメイン名が検索語と完全に一致する場合の評価が過大にならないようにする仕組みが含まれている。
SEOスターターガイドも,ドメイン名又はURLパスへキーワードを入れることだけのランキング効果はほとんどないと説明している。
「osaka-souzoku」などの語をサブドメイン名へ入れることは,読者に内容を伝える命名にはなり得るが,その文字列だけで順位が上がるとはいえない。

3 検索結果の掲載枠

Googleは,検索結果のサイト多様性を確保する仕組みについて,通常はサブドメインをルートドメインと同じサイトの一部として扱う一方,関連性がある場合には別サイトとして扱うこともあると説明している。
このため,サブドメインを複数作れば,その数だけ独立した検索結果の掲載枠を得られるという前提は置けない。
もっとも,この説明は検索結果の多様性に関するものであり,Googleのすべての機能で常に同一サイトとして扱われるという意味でもない。

第3 地域名・業務分野ページを量産する場合の境界
1 誘導ページの不正使用

Googleのスパムポリシーは,類似する検索語句で上位表示するために複数のサイト又はページを作り,有用性の低い中間ページから最終的なページへ誘導する行為を,誘導ページの不正使用として挙げている。
地域や都市を対象とするドメイン又はページを複数作り,一つのページへ誘導する例も明記されている。
したがって,地名だけを差し替えた入口を多数作り,どの入口からも同じ説明又は相談フォームへ送る設計は,ページ単位で読者に与える価値を点検する必要がある。

2 大量生成されたコンテンツ

同じポリシーは,検索順位の操作を主な目的として,独自性又は利用者への価値が乏しいページを大量に生成する行為も対象としている。
制作方法は問われず,生成AIを使用したことだけで違反になるわけでもないため,問題は各ページの目的と内容である。
業務分野と地名の全組合せを先に作る方法では,実際の相談条件や地域固有情報を説明できないページまで生じないかを確認する必要がある。

3 固有情報のある地域ページ

地域ページを作る場合は,実在する事務所の所在地,対象地域からの来所方法,面談又はオンライン相談の条件,担当者,費用及び受任できる事件の範囲など,そのページで相談先を判断するための情報を掲載することが考えられる。

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法律事務所で「自走できる人」をどう採用するか-職務要件・構造化面接・試用期間評価への落とし込み(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 「自走」を独断や無確認と混同しない1 自分で進める作業と確認を要する事項を分ける2 法律実務における「結果」を定義する第3 抽象的な人物ラベルを観察可能な行動へ変換する1 「評論家」を問題発見後の行動に分解する2 「前の職場ではこうだった」を適応行動に分解する3 「仕組みがない」を仕組み化の初動に分解する4 「確認が多い」を確認の質に分解する第4 構造化面接で確認する1 全候補者に共通する中核質問を用意する2 自走と確認の境界を尋ねる質問3 問題指摘と改善行動を尋ねる質問4 前職の方法を適応させた経験を尋ねる質問5 評価記録は事実と印象を分ける第5 公正採用と取得情報の限界1 職務遂行に必要な適性・能力を基準にする2 職務と関係のない事項を尋ねない3 障害を推測せず合理的配慮と職務遂行能力を区別する4 AI又は適性検査のスコアを結論にしない第6 採用面接と試用期間をつなぐ1 採用時の期待を入社後の評価項目にする2 行動と影響を記録する3 本採用拒否は新規の不採用ではない第7 法律事務所の採用チェックリスト1 募集前2 面接時3 採否決定時4 入所後第8 既存記事との関係第9 『ベンチャーの作法』及びX投稿の位置付け第10 出典・参考資料1 法令・行政資料2 書籍・公開資料
第1 この記事の対象と結論

本記事は,法律事務所が弁護士又は事務職員を採用する際に,「自走できる人」,「確認が多い人」,「評論家」,「前職の方法に固執する人」といった抽象的な人物評価を,職務要件,面接質問及び試用期間中の評価へ落とし込む方法を整理するものである。
基準日は令和8年9月15日である。

結論として,「自走できる人」とは,何でも独断で進める人ではない。
法律事務所における自走とは,依頼者の利益,守秘義務,期限及び弁護士の監督を守りながら,自分で進めてよい可逆的な作業を進め,重要な判断だけを必要な材料とともに適時に上げ,最後まで確認して完了させる行動を意味する。

抽象的な人物像だけで採否を決めると,面接者の好悪を職務能力と取り違えやすく,応募者間の比較も難しくなる。
採用前に職務と権限の境界を定め,全候補者に共通する中核質問と評価尺度を準備し,回答中の具体的な事実を記録する必要がある。

第2 「自走」を独断や無確認と混同しない
1 自分で進める作業と確認を要する事項を分ける

法律事務所の業務には,資料の所在確認,文書の並べ替え,時系列表の下書き,法令・裁判例の検索及び誤記候補の抽出のように,通常は結果を読み戻して修正できる作業がある。
他方,裁判所又は相手方への提出・送信,依頼者への確定的な法的助言,期限の設定又は変更,守秘情報の外部サービスへの入力,原本の廃棄,データの上書き及び事件方針の変更は,弁護士その他の権限者による判断を要する。

採用面接で確認すべきなのは,「上司に質問しないか」ではなく,候補者が両者をどのような基準で区別し,不明点をどの時点で,どの資料と選択肢を添えて確認したかである。
確認回数の多寡だけでは,慎重さ,経験不足,指示の不明確さ又は合理的配慮の必要性を区別できない。

2 法律実務における「結果」を定義する

法律実務では,短時間に大量の文書を作成しただけでは結果を出したことにならない。
依頼者の正当な利益を守り,法令及び職業倫理に反せず,期限と守秘を守り,一次資料及び証拠に遡って検証でき,反対材料を落とさず,提出物又は保存物を読み戻せる状態にして初めて成果となる。

したがって,営業件数,処理速度又は売上だけを「結果」として示す質問は十分でない。
候補者が品質,期限,リスク及び関係者への影響をどのように両立させたかを確認する必要がある。

第3 抽象的な人物ラベルを観察可能な行動へ変換する
1 「評論家」を問題発見後の行動に分解する

問題点を発見して指摘する能力は,法律実務に必要である。
問題なのは批判それ自体ではなく,根拠を確認せず,影響を整理せず,自分の権限内でできる改善又は次の一手を示さないまま,仕事を止める行動である。

評価項目は,①問題を具体的事実に結び付けたか,②放置した場合の影響を説明したか,③最小限の改善案又は調査方法を示したか,④自分でできる範囲を実行したか,⑤結果を確認したか,に分けることができる。

2 「前の職場ではこうだった」を適応行動に分解する

前職で得た知識や成功例を説明すること自体は,消極評価の理由にならない。
確認すべきなのは,候補者が過去の方法をそのまま押し付けたか,現在の組織の規模,使用システム,依頼者層,権限及びリスクに合わせて検証し,残す部分と変える部分を区別したかである。

法律事務所でも,過去の事件,書式又は作業手順は出発点として有用であるが,現行法,手続段階,本件資料及び依頼者の目的に適合するかを確認しなければならない。

3 「仕組みがない」を仕組み化の初動に分解する

小規模な法律事務所では,大企業と同じマニュアル,専門部署又は教育制度が存在しないことがある。

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弁護士の預り金口座に対する差押えと信託財産性-最高裁令和8年1月20日判決(AI作成)

目次第1 最高裁令和8年1月20日判決の位置付け1 判決の書誌2 職務上の分別管理と信託法上の効果は別問題である3 最高裁平成15年判決との関係第2 事案の概要1 預り金口座と差押え2 信託契約の終了等に関する争い第3 原審と最高裁多数意見1 原審の判断2 信託目的について具体的な主張が必要であること3 分別管理だけでは足りないこと第4 判断基準時1 事実審口頭弁論終結時が基準となる2 差押え後の事情も審理対象となる第5 補足意見及び個別意見1 秘密保持義務と主張立証2 個別意見が示した信託成立の考え方第6 預り金規程と法律事務所の実務1 令和8年6月1日施行の改正規程2 日常管理で保存すべき事項3 口座名義だけに依存しない第7 差押えを受けた場合の対応1 確認する事項2 守秘義務に配慮した証拠提出第8 本判決の射程と未確認事項1 本判決が確定した事項2 差戻審及び判例評釈第9 関連記事1 本ブログの関連記事第10 出典1 判決及び法令2 弁護士職務規程
第1 最高裁令和8年1月20日判決の位置付け
1 判決の書誌

最高裁令和8年1月20日第三小法廷判決(令和5年(受)第2245号・第三者異議事件)は,弁護士名義の預り金口座に対する差押えについて,預金債権が信託財産に属するかが争われた事件である。
最高裁は原判決を破棄し,事件を東京高等裁判所に差し戻した。

本判決の要点は,①弁護士が依頼者から預かった金員であること及び分別管理していることだけで,信託目的の合意が具体的に主張されたことにはならないこと,②信託財産該当性は事実審の口頭弁論終結時を基準として判断されることにある。

2 職務上の分別管理と信託法上の効果は別問題である

弁護士職務基本規程38条及び日本弁護士連合会の預り金等の取扱いに関する規程は,依頼者等から預かった金員の目的外使用を防ぎ,弁護士の固有財産と区別して管理するための職務上の規律を定めている。

これに対し,預金債権が信託法上の信託財産に属し,弁護士個人の債権者による強制執行に対抗できるかは,信託契約の成立要件及び信託財産の帰属を検討する私法上の問題である。
職務規程を遵守していることは重要な事情であるが,それだけで第三者との関係でも当然に信託財産となるわけではない。

3 最高裁平成15年判決との関係

最高裁平成15年6月12日判決(平成13年(行ヒ)第274号,民集57巻6号563頁)は,債務整理事務の費用に充てるため弁護士があらかじめ受けた500万円を民法649条の前払費用とし,弁護士名義で開設され,弁護士が通帳及び届出印を管理していた口座の預金債権を弁護士に帰属させた。

平成15年判決は,前払費用と当該口座の具体的な事実関係に即して預金債権の帰属を判断したものであり,全ての「預り金」又は概算実費が当然に弁護士へ帰属するという判示ではない。補足意見は信託構成の余地を指摘したが,同事件では信託の主張立証がなかった。

令和8年判決は,預り金口座について信託財産性と第三者異議が争われ,信託目的の具体的主張及び事実審口頭弁論終結時を基準とする判断を求めた事件である。両判決は,金員の契約上の性質,口座開設・管理の事実,信託の主張立証及び判断基準時が異なり,矛盾するものではない。実務では,まず金員を前払費用,報酬,預り金その他に分類し,預金債権の私法上の帰属と職務規程上の分別管理・精算義務とを分けて検討する必要がある。

第2 事案の概要
1 預り金口座と差押え

原審が確定した事実によれば,被上告人である弁護士は,職務に関して預かり保管する金員を管理するため,「預かり金口 弁護士X」名義の普通預金口座を開設していた。
上告人は,この弁護士に対する婚姻費用分担金の支払を命ずる審判を債務名義として,弁護士が銀行に対して有する預金債権を2回差し押さえた。

差押え時における預金債権の全部は依頼者からの預り金を原資とし,弁護士報酬の振込口座等とは分けて管理されていた。
弁護士は,預り金を信託財産とする信託契約が成立しており,信託法23条5項に基づき強制執行は許されないと主張して第三者異議の訴えを提起した。

2 信託契約の終了等に関する争い

上告人は,信託契約の具体的内容が主張されていないと争った。
また,差押え後に弁護士が業務停止2月の懲戒処分を受けたことなどにより,仮に信託契約が成立していても終了し,預金債権が弁護士の固有財産になっているとも主張した。

したがって,本件では,差押え時に預り金のみが入金され分別管理されていたという事実だけでなく,信託契約の成否と,差押え後の事情をどの時点まで考慮するかが問題となった。

第3 原審と最高裁多数意見
1 原審の判断

原審は,依頼者からの預り金が弁護士の固有財産から分別して管理されている限り,預り金を信託財産とする信託契約が成立していたと評価した。
また,信託財産該当性を差押え時点で判断すべきものとし,その後に信託契約が終了したとしても結論を左右しないとして,弁護士の請求を認容した。

2 信託目的について具体的な主張が必要であること

最高裁多数意見は,信託契約の成立には,特定の財産を一定の目的に従って管理又は処分するという信託目的についての合意が必要であることを前提とした。

(続きを読む...)弁護士の預り金口座に対する差押えと信託財産性-最高裁令和8年1月20日判決(AI作成)

弁護士報酬の請求と懲戒――時間制報酬・過大請求・預り金からの控除をめぐる懲戒例と日弁連の取消裁決(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 報酬に関する規律1 弁護士法による懲戒2 弁護士職務基本規程3 弁護士の報酬に関する規程第3 報酬の請求が懲戒の対象とされた例1 時間制報酬2 適正かつ妥当な額を超える報酬3 預り金や受領金からの控除4 受任時の説明と委任契約書5 詐欺被害の回復事件の着手金第4 日弁連が処分を取り消し,又は変更した例1 審級ごとに算出した報酬の合算請求2 目的未達の満額請求と審査請求後の和解3 未払報酬と預り金の相殺4 過大報酬とされた着手金と破産申立ての報酬5 法テラスを利用しなかったこと6 異議の申出を受けて処分を重くした例7 裁決等から読み取れること8 別件の預り金からの日当控除と審査後の戒告第5 懲戒手続と報酬の清算1 懲戒は報酬の返還を命じる手続ではない2 紛議調停3 弁護士費用の返還を求めるときは何を整理するか第6 受任時と請求時に確認しておくこと1 依頼者の立場から2 弁護士の立場から第7 関連記事第8 出典1 日弁連の会規2 法令3 懲戒処分及び裁決の公告
第1 この記事の対象と結論

本記事は,弁護士が依頼者に報酬を請求し,又は受領した行為が懲戒の対象となった例と,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)が弁護士会の懲戒処分を取り消し,又は変更した例を,日弁連の機関誌『自由と正義』に掲載された懲戒処分の公告及び裁決の公告に基づいて整理するものである。
本記事の法令及び会規は令和8年9月13日現在のものである。
公告は処分又は裁決の理由の要旨を記載したものにとどまるため,本記事の記述も公告の記載の範囲に限られる。
個々の弁護士の氏名は,本記事の目的との関係で必要がないため記載しない。

結論は次の4点である。
①報酬をめぐる懲戒例では,額が高いことに加えて,受任時に報酬を説明していない,委任契約書を作成していない,依頼者の了解なく預り金や受領金から報酬を差し引いた,時間制報酬で見込み時間の説明が足りないといった事情が重なっていることが多い。
②他方で,報酬の額が適正かつ妥当な範囲を超えることを主な理由として,弁護士職務基本規程24条違反とされた例もある。
③日弁連は,報酬をめぐる紛争が実質的には依頼者と弁護士の間の民事上の紛争であることや,審査請求後の和解等を考慮して,弁護士会の処分を取り消し,又は軽くした例がある一方で,懲戒請求者の異議の申出を受けて,弁護士会の処分を重くした例もある。
④懲戒は弁護士に報酬の返還を命じる手続ではないため,金銭の清算を求めるには,弁護士会の紛議調停や民事訴訟による必要がある。

第2 報酬に関する規律
1 弁護士法による懲戒

弁護士法56条1項は,弁護士及び弁護士法人は,同法又は所属弁護士会若しくは日弁連の会則に違反し,所属弁護士会の秩序又は信用を害し,「その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。」と定めている。
懲戒は所属弁護士会が行い(同条2項),弁護士に対する懲戒の種類は,戒告,2年以内の業務の停止,退会命令及び除名の4種である(同法57条1項)。
弁護士会の懲戒処分について審査請求があったときは,日弁連は,日弁連の懲戒委員会に事案の審査を求め,その議決に基づいて裁決をしなければならない(同法59条1項)。

後記の公告例の多くは,弁護士職務基本規程や弁護士の報酬に関する規程の条項に違反するとした上で,その行為が弁護士法56条1項の品位を失うべき非行に当たるとしている。
規程の条項を挙げずに,同項の非行に当たるとだけ記載した公告もある。

2 弁護士職務基本規程

受任時に説明する費用,処理方法及び見通しと,受任後の変更時に行う報告・協議については,弁護士の説明義務・報告義務で整理している。
本記事では,その説明や請求が懲戒の対象となった公表事例を扱う。

(1) 報酬の額に関する規律

弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規第70号)24条は,「弁護士は、経済的利益、事案の難易、時間及び労力その他の事情に照らして、適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなければならない。」と定める。
同規程5条は,「弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。」と定めており,後記の時間制報酬の例には同条違反とされたものがある。

報酬額について合意があることと,24条に照らして適正かつ妥当な報酬であることは別の問題である。
『解説』第4版85頁は,合意があっても,説明の不十分さや依頼者が得た利益との関係等から,報酬の妥当性が問題となる余地を指摘する。
請求額だけでなく,依頼者の実質的な利益,実際に要した業務,算定方法及び中途終了時の清算条件を確認する必要がある。

他方,同書87頁は,着手金を受け取らず成功時にのみ報酬を請求する完全成功報酬制について,その方式自体を直ちに不適正又は不妥当とは評価しない。
契約内容の十分な説明と,依頼者が得た利益に対する報酬額の妥当性は,引き続き問題となる。
完全成功報酬制と,中途終了等を成功とみなす特約は区別し,後者の効力・適用については委任契約の記事を参照されたい。

(続きを読む...)弁護士報酬の請求と懲戒――時間制報酬・過大請求・預り金からの控除をめぐる懲戒例と日弁連の取消裁決(AI作成)

法律事務所がランサムウェアに感染したときの期限管理―メール不達による期間徒過と知財高裁平成31年3月18日判決(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 知財高裁平成31年3月18日判決1 事案2 原審の判断3 控訴審の判断第3 現在の特許手続では基準が変わっている1 特許法48条の3第5項の改正2 適用の時期第4 民事訴訟の期限との関係1 訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)2 オンライン申立ての義務の例外(民事訴訟法132条の11第3項)3 システム送達の効力発生第5 ランサムウェア被害を受けた事務所の期限管理1 最初に確かめること2 平時に決めておくこと3 情報が漏えいした場合第6 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 規程
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事が扱う場面

本記事は,法律事務所や特許事務所がランサムウェアに感染し,又はメールサーバーが止まって,依頼者や相手方からの連絡を受け取れなかった場合に,手続の期間を守れなかったことが救済されるかを,裁判例と条文に沿って説明するものである。
中心となる裁判例は,代理人の事務所がランサムウェアに感染してメールを受信できず,特許の出願審査請求の期間を徒過した事案について,救済を否定した知的財産高等裁判所平成31年3月18日判決である。
本記事の記載は,令和8年9月28日時点の法令,裁判例及び公表資料に基づく。

2 結論の要旨

①知財高裁平成31年3月18日判決は,仮にランサムウェア感染によってメールを受信できなかったとしても,事務所は受信できなかった可能性のある期間について依頼者側に確認すべきであったとして,特許法(当時)の「正当な理由」を否定した。
②特許の出願審査請求については,令和3年の特許法改正により,令和5年4月1日以後に取り下げたものとみなされた出願から,救済の基準が「故意」でないかどうかに改められているため,同判決の結論をそのまま現在の特許手続に当てはめることはできない。
③民事訴訟では,不変期間を守れなかった場合の訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)や,オンライン申立ての義務の例外(同法132条の11第3項)は,「その責めに帰することができない事由」があることを要件としており,事務所側のシステム被害が当然にこれに当たるとはいえないと考えられる。
最高裁は,訴訟代理人やその事務所の者の事情で不変期間を守れなかった場合について,追完を認めていない。
④事務所がランサムウェア被害やメール障害を受けたときは,受信できなかった可能性のある期間を特定し,その間に連絡があり得た相手に確認することが,期限を守るための最初の作業になる。

第2 知財高裁平成31年3月18日判決
1 事案
(1) 出願審査請求の期間の徒過

イタリアに住所を有する大学(在外者)の特許出願について,日本の特許管理人として選任された弁理士の所属する国内の特許事務所(判決は「本件国内事務所」と呼ぶ。)が手続を担当し,現地の代理人事務所(「本件現地事務所」)が出願人との連絡を担当していた。
本件現地事務所は,平成28年4月1日,本件国内事務所に対し,出願審査の請求をするよう指示する電子メールを送信した。
しかし,本件国内事務所は,出願審査請求期間(平成28年5月2日まで)内に請求をせず,特許出願は取り下げたものとみなされた(特許法48条の3第4項)。

(2) ランサムウェア感染の主張

出願人は,本件国内事務所の所内のサーバー及びメールサーバーが平成28年3月28日から同年4月4日までの間,ランサムウェアへの感染により使用できない状況になっており,指示のメールを受信できなかったと主張し,期間内に請求をすることができなかったことについて特許法48条の3第5項の「正当な理由」があるとして,出願審査の請求をした。
特許庁長官がこの請求を却下したため,出願人が却下処分の取消しを求めた。

2 原審の判断

原審の東京地方裁判所平成30年8月30日判決は,「正当な理由」があるときとは,特段の事情のない限り,出願人として相当な注意を尽くしていたにもかかわらず出願審査請求期間の徒過に至ったときをいうとした。
その上で,本件国内事務所の関連会社のサーバーでランサムウェアの感染が問題になったことは認められるとしても,主張された期間に本件国内事務所の所内のサーバー等が使用できない状況になっていたと認めるに足りる的確な証拠はないとした。
さらに,仮に主張どおりの状況があったとしても,サーバーが使用できるようになった時点から期間の終期まで1か月弱あった以上,本件国内事務所は指示のメールが送られていないかを本件現地事務所に確認すべきであり,その時間的な猶予は十分にあったとして,請求を棄却した。

3 控訴審の判断
(1) 電子メールの特性

知財高裁は,原審の判断を維持して控訴を棄却した。
判決は,「電子メールは,相手方への到達が保証されておらず,かつ,送信者が他の手段によることなく相手方への到達を確認することが困難な連絡手段であることは周知の事実である。」と述べている。
その上で,出願審査請求の指示のメールを送った後に到達を確認する手順を踏まない運用は,電子メールの特性を考慮した期間徒過防止の措置を何ら講じていないものであり,本件国内事務所も本件現地事務所も相当な注意を尽くしていたとは認められないとした。

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弁護士情報セキュリティ規程とは―全7条の内容,基本的な取扱方法及び漏えい等事故の対応(AI作成)

目次第1 本記事の対象第2 制定と施行1 制定と施行の日2 規程の名宛人3 規程に違反した場合第3 「情報セキュリティ」と「取扱情報」の定義(2条)1 機密性・完全性・可用性2 取扱情報(1) 紙の記録も含まれる(2) 除かれる情報第4 基本的な取扱方法の策定(3条)1 危険の把握と策定の義務(1) 危険を把握する努力義務(3条1項)(2) 基本的な取扱方法を定める義務(3条2項)2 配慮すべき4つの事項(3条3項)3 策定の実務(1) 日本弁護士連合会のサンプル(2) 書き込んでおくとよい事項4 AIエージェントを使う場合の記載事項5 OS組込みAIとBYODの記載事項6 生成AIの許可サービス台帳と入力情報区分7 トレース及び評価データセットの別管理第5 安全管理措置と事務職員等(4条)1 4つの安全管理措置(1) 規程4条1項の定め(2) 個人情報保護法の安全管理措置との重なり2 事務職員や司法修習生3 研鑽と教育(1) 訓練の評価指標(2) 報告しやすい運用と第三者・委託先への配慮(3) 顔・声による本人詐称への訓練第6 情報のライフサイクル管理と点検・改善(5条・6条)1 作成から廃棄まで(5条)2 点検と改善(6条)第7 漏えい等事故が起きたとき(7条)1 規程7条の定め2 個人情報保護法による報告と本人通知(1) 個人情報保護委員会への報告と本人への通知(2) 依頼者から取扱いの委託を受けた個人データ3 依頼者への報告4 mintsへの誤提出5 生成AI事故の記録票6 事故初動の順序第8 秘密保持義務との関係1 弁護士法23条と弁護士職務基本規程23条2 機密性以外の要素第9 出典・参考資料1 規程・会規2 法令3 日本弁護士連合会・弁護士会の機関紙誌4 生成AIの行政ガイドライン5 サイバーセキュリティ資料
第1 本記事の対象

本記事は,日本弁護士連合会の弁護士情報セキュリティ規程(令和4年6月10日会規第117号)について,全7条の内容,各弁護士に策定が求められる「基本的な取扱方法」及び情報の漏えい等の事故が起きた場合の対応を,条文に沿って説明するものである。
あわせて,弁護士法23条の秘密保持義務,弁護士職務基本規程及び個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)との関係を整理する。
本記事の記載は,令和8年9月28日時点で確認できた規程の原文,法令及び公表資料に基づく。
ただし,第7の2(1)の令和8年10月28日の公表は,その後に追記した。

規程の条文は,日本弁護士連合会のウェブサイトで公開されている。
他方,日弁連新聞第601号によれば,日本弁護士連合会は「解説 弁護士情報セキュリティ規程」及び「情報セキュリティを確保するための基本的な取扱方法について」(いずれも2023年3月)等を作成し,会員専用サイトで基本的な取扱方法の例を提供している。
本記事は,これらの会員向け資料の内容には依拠していない。

第2 制定と施行
1 制定と施行の日

規程は,令和4年6月10日の日本弁護士連合会の定期総会で可決された。
日弁連新聞第580号は,討論では規程による義務化への疑問や時期尚早との反対意見が出された一方で,情報セキュリティの確保に組織を挙げて取り組むべきであるとの賛成意見が出され,採決の結果,賛成多数で可決されたと報じている。

規程の附則は,「この規程は、成立の日から起算して二年を超えない範囲内において理事会で定める日から施行する。」と定めている。
令和6年1月19日の理事会決議により,規程は令和6年6月1日から施行された。

2 規程の名宛人

規程1条は,目的について「この規程は、弁護士、弁護士法人、外国法事務弁護士、外国法事務弁護士法人及び弁護士・外国法事務弁護士共同法人(以下「弁護士等」という。)がその職務上取り扱う情報の情報セキュリティを確保するために必要な事項を定めることを目的とする。」と定めている。
義務を負うのは法律事務所ではなく,個々の弁護士等である。
法律事務所の規模は,後述の3条2項において,定める内容を左右する考慮要素として現れる。

3 規程に違反した場合

規程自体には,違反した場合の効果を定める条文はない。
日弁連新聞第601号は,基本的な取扱方法を施行日までに策定することが義務とされており,策定していなければ会規違反になると説明している。

弁護士法56条1項は,弁護士が日本弁護士連合会の会則に違反したことを懲戒事由の一つとしている。
そして,日本弁護士連合会会則29条1項は,「弁護士は、所属弁護士会及び本会の会則、会規及び規則を守らなければならない。」と定めている。
したがって,会規である規程に違反することは,会則29条1項の違反として,弁護士法56条1項の懲戒事由に当たり得ると考えられる。
もっとも,懲戒をするのは所属弁護士会であり(同条2項),実際に懲戒の対象となるかは違反の内容や程度によって判断されることになる。
規程違反を理由とする懲戒の公表例は,本記事では確認していない。

第3 「情報セキュリティ」と「取扱情報」の定義(2条)
1 機密性・完全性・可用性

規程2条1項は,「この規程において「情報セキュリティ」とは、次に掲げる特性が維持された状態をいう。」とし,次の3つを挙げている。

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弁護士が事件の依頼を断るときの通知義務―弁護士法29条・職務基本規程34条とAIによる問い合わせの一次判定(AI作成)

目次第1 本記事の対象1 扱う問い2 結論の要旨第2 受任の諾否の通知を定める規定1 弁護士法29条(依頼不承諾の通知義務)2 弁護士職務基本規程34条(受任の諾否の通知)3 刑事事件の弁護人選任の申出と不受任の通知第3 通知義務の中身1 義務の趣旨2 通知すべき内容と方法3 面識のない者からの依頼第4 受任するかどうかの自由とその例外1 弁護士は依頼を受ける義務を負わない2 弁護士会や官公署から委嘱された事項第5 断る連絡を急ぐべき理由1 期間制限が迫っている相談2 断るときに添えると役立つ事項第6 問い合わせをAIで一次判定する場合1 AIの判定は対応の順番を決める道具にとどめる2 問い合わせ内容を外部のAIに送るときの守秘義務と個人情報3 事務職員に連絡を任せる場合4 電話や電子メールで受任する場合の広告の表示事項5 受付から諾否通知までを状態で管理する第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 職能団体の規程3 所管行政機関の資料4 文献
第1 本記事の対象
1 扱う問い

本記事は,弁護士が事件の依頼を受けたときに,受けるか断るかを依頼者へ知らせる義務(受任の諾否の通知)を扱う。
根拠は,弁護士法29条と弁護士職務基本規程34条の二つである。
あわせて,法律事務所がウェブサイトやメールの問い合わせをAI(人工知能)で一次判定する場合に,この義務との関係で何に気を付けるべきかを整理する。
法令及び規程の内容は,令和8年9月13日時点で確認したものである。

2 結論の要旨

弁護士は事件の依頼を受ける義務を負わないが,受けないときは,速やかにその旨を依頼者に知らせなければならない。
日本弁護士連合会の解説書は,知らせる内容は受けるか断るかだけで足り,理由を述べる必要はなく,方法も書面に限られないと説明している。
AIによる判定は対応の順番を決める道具にとどめ,断る判断とその連絡は弁護士の責任で行う形にしておくのが安全だと考えられる。

第2 受任の諾否の通知を定める規定
1 弁護士法29条(依頼不承諾の通知義務)

弁護士法29条は,「弁護士は、事件の依頼を承諾しないときは、依頼者に、すみやかに、その旨を通知しなければならない。」と定める。
法律が直接定める義務であり,同法56条1項は,弁護士がこの法律に違反したときを懲戒の事由の一つとしている。

2 弁護士職務基本規程34条(受任の諾否の通知)
(1) 条文の内容

弁護士職務基本規程34条は,「弁護士は、事件の依頼があったときは、速やかに、その諾否を依頼者に通知しなければならない。」と定める。
弁護士法29条が承諾しない場合の通知を定めるのに対し,34条は「諾否」,つまり受ける場合も含めて通知を求めている。
『解説弁護士職務基本規程 第3版』は,34条は旧弁護士倫理21条とほぼ同じ規定であり,弁護士法29条に沿ったものだと説明している(115頁)。
同書は令和8年9月に第4版が刊行されており,本記事で引用する説明は,第4版では55頁(20条関係)及び135頁(34条関係)にある。
34条を含む第3版から第4版への記述の変化は,解説「弁護士職務基本規程」第3版と第4版の比較-規程改正,解釈の変更,新設項目及び削除された記述で整理している。

(2) 努力目標ではなく義務として定められていること

弁護士職務基本規程82条2項は,同規程のうち行動指針又は努力目標として解釈適用すべき条項を列挙している。
34条はこの列挙に含まれていないから,努力目標ではなく,義務を定めた規定として扱われる。
同じ受任時の規律でも,33条(法律扶助制度等の説明)は列挙に含まれており,扱いが異なる。

(3) 弁護士法人にも準用されること

弁護士職務基本規程69条は,第1章から第3章まで(一部の条項を除く。)の規定を弁護士法人に準用している。
34条は第3章第3節の規定であり,除外されていないから,弁護士法人が依頼を受けた場合にも同じ規律が及ぶ。

3 刑事事件の弁護人選任の申出と不受任の通知

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