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日弁連会長選挙の選挙運動規制(AIリライト)

第1 会長選挙の選挙運動期間

1 選挙運動期間

日弁連会長選挙の選挙運動期間は,立候補届出が受理された時から投票日の前日までである(会長選挙規程53条)。候補者及びその他の会員が,この期間外に選挙運動をすることは禁止されている(同規程58条1項1号)。投票日が延期された場合の終期は,会長選挙規程27条の2第1項に規定する公示の日である(同規程53条)。

再投票又は再選挙が行われる場合には,最初の選挙の運動期間と,新たに公示される再投票又は再選挙の運動期間とを区別する必要がある。

2 選挙運動に当たるかどうか

会長選挙規程は,「選挙運動」の定義を置いていない。そのため,特定の行為が選挙運動に当たるかどうかは,その時期,目的,内容,対象者,数量,方法及び具体的な効果を踏まえて実質的に判断される。候補予定者の政策を紹介する行為,候補予定者への支持を求める行為又は投票を依頼する行為は,名称が「政策活動」「広報活動」「支持者間連絡」等であっても,実質によっては事前運動となり得る。

第2 選挙事務所に対する規制

1 選挙事務所の数

候補者は,選挙運動期間中,日弁連選挙管理委員会の承認を得て,2箇所以内の選挙事務所を設けることができる(会長選挙規程55条1項)。

2 設置場所

候補者は,選挙の公正を疑わせる場所その他弁護士の名誉又は品位を害するおそれのある場所に,選挙事務所を設置してはならない(会長選挙規程55条2項)。委員会は,同条1項又は2項に違反する選挙事務所があると認めるときは,直ちに閉鎖を命じる(同条3項)。

3 立候補届出前の事務所

立候補届出前に,特定の会員のための「選挙準備事務所」を設置し,そのことを広く発信した場合,事実上の立候補表明又は期間外の選挙運動と評価される可能性がある。単に政策提言団体の事務所という名称を用いたとしても,実態が特定候補予定者の選挙事務所である場合には,名称だけで会長選挙規程の適用を免れるものではない。

第3 文書による選挙運動

1 認められる文書

文書による選挙運動は,次の方法に限られる(会長選挙規程56条1項)。

① 郵便はがきの発送

② ファクシミリによる文書の送信

③ ポスターの掲示

ウェブサイトの画面を印刷して不特定多数の会員に配布した場合,ウェブサイトによる選挙運動ではなく,文書による選挙運動として規制される。

2 通数の上限

郵便はがきの枚数とファクシミリ送信文書の通数の合計は,候補者1人につき,選挙権を有する会員数の3倍以内である(会長選挙規程56条2項)。ポスターの規格,枚数及び掲示場所は,選挙管理委員会が定める。

3 責任者表示等

郵便はがき及びファクシミリ送信文書には文書責任者の法律事務所の所在場所又は住所及び氏名を記載する必要がある(会長選挙規程56条3項)。ポスターには掲示責任者の法律事務所の所在場所又は住所及び氏名を記載し,あらかじめ選挙管理委員会の証印を受ける必要がある。委員会は,同条2項又は3項に違反して掲示されたポスターの撤去を命じることができる(同条4項)。

4 ファクシミリの送信停止

ファクシミリ送信文書には,候補者又は文書責任者に対して送信停止を求めることができる旨を表示する必要がある(会長選挙規程56条5項)。会員から送信停止を求められた場合,その会員にファクシミリを送信してはならない。

5 支持者間文書

候補者,支援者及び運動員の間だけで用いる真の内部連絡文書は,不特定多数の会員に対する選挙運動文書とは異なる。もっとも,「支持者間文書」と表示していても,支持者以外への拡散を予定し,又は実際に不特定多数へ配布した場合には,文書による選挙運動として扱われる可能性がある。文書の名称ではなく,送付先,内容,数量及び拡散の指示を含む実態が重要である。

第4 ウェブサイト及びSNSによる選挙運動

1 候補者の選挙運動用ウェブサイト

候補者は,候補者以外の者が文書,図画等を掲載できない方式のウェブサイトを利用して選挙運動をすることができる(会長選挙規程56条の2第1項)。候補者が利用するサイトは,選挙運動期間中に限り開設される選挙運動専用サイトでなければならない(同条2項)。投票日の前日までに掲載された内容は,投票日においても掲載した状態のままにすることができる。

候補者は,サイトに掲載した内容の記録を,同規程59条の異議申出期間が経過した日から3年間保存しなければならない(同規程56条の2第3項)。選挙管理委員会は,必要があると認めるときは,その記録の提出を求めることができる(同条4項)。候補者サイトには,候補者の法律事務所,住所又は選挙事務所の所在地と,候補者又は選挙事務所の電子メールアドレスを表示する必要がある(同条5項)。

候補者が開設できる選挙運動用ウェブサイトは1つだけであり,そのURLには会長選挙が実施される年の西暦及び候補者の氏名を含めなければならない(会長選挙施行細則43条の3第1項及び2項)。候補者以外の者が閲覧者にも見える形で書き込む掲示板等を設けることはできず,外部リンクは,日弁連,裁判所,法務省等の公的機関の公式発表等を掲載するウェブサイトに限られる(同条3項及び4項)。候補者は,投票日の前日まで何回でも更新できるが,一時的に掲載した情報を含む全ての更新記録を保存し,投票日の午後12時までにサイトを閉鎖しなければならない(同条5項及び6項)。

令和7年11月改訂の「日弁連会長選挙に関する質問と回答一覧表」は,候補者がFacebook,X,YouTube等を候補者サイトとは別に併設し,又はSNSのメッセージ機能を利用して選挙運動をすることはできないと説明している。もっとも,候補者サイトに動画を掲載することはでき,限定公開の動画共有サービスへのリンクも,その動画が候補者サイトと一体のものと認識できる場合には認められる。また,Zoom等を利用した支援者内部の意見交換は「会合」に当たらないとされる一方,支援者以外を対象とするオンライン演説会又はその中継は,候補者サイト以外の選挙運動となるため認められない。

2 候補者以外の会員

候補者以外の会員は,次の方法により選挙運動をすることができる(会長選挙規程56条の2第6項)。

① 候補者の選挙運動用ウェブサイト以外のウェブサイトに文書,図画等を掲載すること

② 自己のウェブサイト等に候補者の選挙運動用ウェブサイトへのリンクを置くこと

③ SNSを利用すること

候補者以外の会員が自らの言葉で候補者への投票を呼び掛けることはできるが,候補者が候補者サイト1つに限られる規制を潜脱する形で,候補者の動画又はメッセージをSNSで配信することは認められていない。もっとも,期間外の選挙運動,虚偽情報の発信及び名誉又は品位を害する情報の発信は禁止される。

第5 電子メールによる選挙運動

1 令和7年改正

令和7年6月13日の会長選挙規程改正により,候補者だけでなく,候補者以外の会員も電子メールにより選挙運動をすることができるようになった(会長選挙規程56条の3第1項)。令和7年改正前は送信主体が候補者に限られていたため,令和3年の選管ニュースは,候補者以外の会員が候補者の選挙メールを転送する行為等が違反となり得ると説明していた。この令和3年の説明は当時の規程に関するものであり,令和7年改正後の現行規程の説明として用いることはできない。

2 送信停止

選挙運動用電子メールの送信について,受信者の事前の求め又は同意は要件とされていない。選挙運動用電子メールを受信した会員が送信停止を求めた場合,送信者は,その会員に対して選挙運動用電子メールを送信してはならない(会長選挙規程56条の3第2項)。送信停止の効力は送信者ごとに生じるため,ある支持者に停止を求めても,同じ候補者を支持する別の会員からのメールまで一括して停止されるものではない。

3 表示事項

選挙運動用電子メールには,次の事項を表示する必要がある(会長選挙規程56条の3第3項及び4項)。

① 件名欄に「選挙運動用電子メール」と記載すること

② 送信者の氏名

③ 送信者の法律事務所の所在場所又は住所。ただし,候補者が送信する場合は選挙事務所の所在場所を表示すること

④ 送信停止を求めることができる旨

⑤ 送信停止の申出先となる電子メールアドレス

SMSも電子メールによる選挙運動に含まれ,この場合は本文冒頭に「選挙運動用電子メール」と表示する必要がある。送信者が組織内弁護士である場合は,その所属先の団体名も表示する必要がある。

4 送信先,回数及び容量

選挙運動用電子メールの送信回数に上限はない。本文及び添付ファイルを合計した容量についても法的な上限はないが,令和7年11月改訂の「会長選挙の実施要領」及び「日弁連会長選挙に関する質問と回答一覧表」は,1通当たり2MB以内とすることが望ましいとしている。したがって,「2MB以内」は違反の有無を分ける上限ではなく,受信環境等に配慮した運用上の推奨である。

送信者は,自らの責任で送信先のメールアドレスを収集する必要があり,日弁連又は弁護士会から選挙運動のためのメールアドレスの提供を受けることはできない。また,弁護士会,会派,委員会等の既存のメーリングリストを選挙運動用電子メールの送信に利用することも認められていない。

5 公開質問状の回答の共有

候補者が公開質問状に回答し,質問者である会員がその回答を他の会員に共有する場合,用いる媒体に応じた会長選挙規程に従う必要がある。ウェブサイト又はSNSで共有する場合には会長選挙規程56条の2が,電子メールで共有する場合には同規程56条の3が適用される。令和7年改正前は,候補者以外の会員による選挙メールが認められていなかったため,質問者による回答のメール配布は違反となり得た。

令和7年改正後は,質問者が日弁連の会員であり,選挙運動期間,表示事項及び送信停止等の条件を守る限り,候補者以外の会員であることだけを理由に電子メールによる共有が禁止されるものではない。もっとも,回答を編集して事実と異なる内容にした場合,他人の名誉又は弁護士の名誉若しくは品位を害する情報を加えた場合,又は送信停止を求めた会員へ送信した場合には,別途違反となり得る。

第6 禁止される選挙運動

1 禁止事項

候補者及びその他の会員は,選挙運動として,次の行為をし,又は会員以外の者にさせてはならない(会長選挙規程58条1項)。

① 選挙運動期間外に選挙運動をすること

② 規程に違反して選挙事務所を設けること

③ 規程に違反して文書による選挙運動をすること

④ 規程に違反してウェブサイト又は電子メールによる選挙運動をすること

⑤ 選挙権を有する会員の自宅又は法律事務所を戸別訪問すること

⑥ 新聞,雑誌その他の出版物に候補者に関する記事又は広告を掲載すること

⑦ 利益を授受し,又はその約束をすること

⑧ 供応をし,又は供応を受けること

⑨ 電報により投票を依頼すること

⑩ 投票のため乗り物を提供すること

⑪ 候補者を誹謗し,その他不正な手段で他人の当選を妨げること

⑫ 選挙事務所,弁護士会館,弁護士控室又は法律事務所以外の場所で会合すること。ただし,選挙管理委員会の許可を得た場合を除く。

⑬ ウェブサイト,SNS又は電子メールを利用し,事実と異なる情報を発信すること

⑭ ウェブサイト,SNS又は電子メールを利用し,他人の名誉を傷つけ,又は弁護士の名誉若しくは品位を害する情報を発信すること

2 弁護士会及び弁護士会連合会

弁護士会及び弁護士会連合会は,会合を主催し,その他選挙運動をしてはならない(会長選挙規程57条)。この規制は,候補者及びその他の会員を対象とする同規程58条の禁止事項とは別に,団体としての弁護士会及び弁護士会連合会の中立を定めるものである。

3 会員以外からの寄附

候補者及びその他の会員は,選挙運動期間中,会員以外の者から選挙運動費用の寄附を受けてはならない(会長選挙規程58条2項)。

4 令和7年に追加された禁止

前記1の⑭は,令和7年6月13日改正により追加された。第76回定期総会では,禁止範囲が広過ぎるのではないかという意見が出た。これに対し,日弁連側は,会長選挙規程2条に従来から定められていた,弁護士の名誉又は品位を保持して公正な選挙の実現に努めるという倫理上の義務を,具体的な禁止事項として明示する趣旨であると説明した。

虚偽であることを立証できない情報であっても,その発信方法及び内容によっては14号の問題となり得る点で,13号とは別の規制である。

第7 選挙運動費用の管理と公表

1 選挙運動費用責任者及び収支の範囲

候補者は,選挙権を有する会員の中から選挙運動費用責任者1人を指名し,その者と連署して選挙管理委員会へ届け出なければならない(会長選挙規程54条3項)。選挙運動費用責任者は,候補者のための全ての選挙運動に関する収入の受入れ及び費用の支出を統括し,これらを行う者を監督する(同条4項)。選挙運動費用責任者は,収入簿及び支出簿を備え,金銭だけでなく,物品その他の財産上の利益及びその供与又は受領の約束も記録する必要がある。

令和7年11月改訂の「日弁連会長選挙に関する質問と回答一覧表」は,「選挙運動に関する」収支には,立候補又は選挙運動の準備行為及び運動員間の内部的な連絡統一のための行為に関するものも含まれる一方,立候補届出前の政策団体活動に要した経費は含まれないと説明している。

2 報告,公表及び保存

投票日から15日後までに生じた全ての収入又は支出は,投票日から30日以内に報告しなければならない。投票日から16日後以降に生じた収入又は支出は,その発生日から30日以内に報告しなければならない。報告書には会計帳簿及び証憑の写しを添付し,候補者及び選挙運動費用責任者が,真実の記載であることを誓う文書に連署する必要がある。

選挙管理委員会は,報告書の提出を受けたときは,遅滞なく1か月間,日弁連において縦覧に供して公表する。候補者及び選挙運動費用責任者は,会計帳簿及び証憑を報告書提出日から3年間保存し,選挙管理委員会は報告書を受理日から5年間保存する。

第8 事前運動と政策提言団体の活動

1 団体名では決まらないこと

日弁連会長選挙の前年に設立された政策提言団体の活動が,当然に適法又は違法となるわけではない。団体の政策研究,会員の意見聴取及び一般的な広報活動と,特定の候補予定者を当選させるための選挙運動とは区別する必要がある。

2 選管が問題とした事例

選挙管理委員会は,団体への賛同を求める文書であっても,その文中に,次期会長候補者として特定の会員を推薦した旨を記載し,不特定多数の会員に配布した事例について,単なる団体広報とは受け取り難く,実質的な選挙運動に当たる疑いがあるとして警告したことがある。また,立候補届出前に「選挙準備事務所」の設立又は事実上の立候補表明が報道された事例について,日弁連事務局による調査又は自粛要請が行われたことがある。

3 判断要素

事前運動に当たるかどうかを判断する際には,次の事情が重要である。

① 特定の選挙を念頭に置いた行為であるか

② 特定人の立候補又は当選を予定した行為であるか

③ 投票又は支持を直接若しくは間接に求めているか

④ 文書,会合,ウェブサイト,SNS又は電子メールの内容

⑤ 配布又は発信の時期

⑥ 対象者及び数量

⑦ 団体の名称ではなく,実際の組織,資金及び活動内容

個別の団体又は行為について,これらの事実を確認せずに適法又は違法と断定することはできない。

第9 選挙違反の調査,警告,異議申出及び選挙無効

1 選挙管理委員会の調査

選挙管理委員会は,選挙運動が会長選挙規程又は会長選挙施行細則に違反する疑いがあるときは,候補者,選挙責任者その他の関係人から事情を聴取し,選挙運動に関する調査を行うことができる。

2 警告書の掲載

選挙管理委員会は,違反が悪質であり,警告書の全文を選挙権を有する会員に周知することが,違反の抑止及び警告の実効性確保のために相当であると判断した場合,警告書全文を日弁連ウェブサイトの会員専用ページに掲載する運用をしている。掲載期間は,当該選挙における当選者の確定までとされている。

3 警告事例集の読み方

令和7年11月改訂の「日弁連会長選挙に関する質問と回答一覧表」には,選挙運動期間前の働き掛け,規定外のウェブサイト又はSNS,既存メーリングリスト,許可のない会合,規定外文書等に関する54件の警告又は注意事例が収録されている。もっとも,同事例集自身が,各事例は当時の会長選挙規程及び施行細則等に基づくものであり,現行規程等とは異なる場合があると明記している。特に,候補者以外の会員による電子メールが令和7年改正で認められたため,改正前の「電子メールによる投票依頼」の警告事例を,現行規程の下で当然に違反となる先例として扱うことはできない。

4 異議申出

候補者又は選挙権を有する会員は,当選又は選挙の効力について不服があるときは,当選決定の日から10日以内に,書面により選挙管理委員会へ異議を申し出ることができる(会長選挙規程59条)。

5 当選決定の変更及び選挙無効

選挙管理委員会は,異議申出に理由があると認めるときは,当選決定を変更しなければならない(会長選挙規程60条)。規程違反が選挙結果に異動を及ぼすおそれがあるときは,選挙の全部又は一部を無効としなければならない。選挙運動規制は,単なるマナーではなく,当選決定の変更又は選挙無効につながり得る規範である。

6 規程違反,懲戒及び被選挙権制限の区別

会長選挙規程自体は,公職選挙法のような刑事罰を定めていない。もっとも,具体的な行為が別の法令に違反し,又は弁護士法上の懲戒事由に当たるかどうかは,会長選挙規程違反の問題とは別に判断される。また,懲戒処分を受けた会員が一定期間会長選挙の被選挙権を失うことは,会長選挙規程14条が明文で定める別個の効果であり,選挙運動規制への違反から当然に生じるものではない。

日弁連調査室『弁護士懲戒手続の研究と実務〔第三版〕』(2011年)220頁及び242頁~243頁は,懲戒処分そのものの効果と会長選挙規程による被選挙権制限とを区別して説明している。最高裁第三小法廷昭和58年4月5日判決・昭和56年(行ツ)第171号・集民138号493頁は,業務停止期間が満了しても,会長選挙の被選挙権を失っている間は懲戒裁決取消訴訟の訴えの利益が失われないとしたものであり,選挙運動違反に対する制裁を判示したものではない。

第10 会長直接選挙と選挙運動規制の改正経緯

1 制度創設前の選挙制度大綱

日弁連『日弁連二十年』(1970年)76頁~81頁によれば,会長の直接選挙制を検討した際の「選挙制度大綱」は,選挙運動期間を3か月とし,選挙管理委員会が選挙公報,演説会等を運営するとともに,文書の数量を制限し,戸別訪問を禁止する構想を示していた。同大綱は,立候補に100人の推薦を求めること,弁護士登録後10年以上であること,全国同一日に弁護士会で投票すること等も構想していた。もっとも,これは会長選挙規程制定前の制度案であり,その内容を現行規程又は制定時の確定条文として扱うことはできない。

2 昭和49年の規程制定と直接選挙の開始

日弁連『日弁連三十年』(1981年)47頁~55頁及び日弁連『日弁連五十年史』(1999年)366頁~367頁によれば,昭和49年2月23日に会則が改正され,会規第19号として会長選挙規程が制定された。直接選挙は昭和50年度から実施された。最初の昭和50年度選挙は候補者が1人で投票が行われず,複数候補者による最初の選挙は昭和52年度であり,再投票を経て当選者が決まった。

制度設計では,全会員による直接投票の要請と,少数会員の弁護士会を含む各地域の意思を反映する要請との調整が中心課題となった。

3 推薦状制度の廃止と事前運動

制定当初の推薦状制度は,軽率な立候補を抑制する趣旨で,一定数の会員による推薦を立候補の要件としていた。しかし,推薦状を早い時期から広範囲に集める活動が事実上の事前運動となり,推薦状制度の存在が選挙運動を正当化して過熱させるという問題が生じた。日弁連は昭和53年度に制度を検討し,昭和54年6月の定期総会で推薦状制度を廃止した(日弁連『日弁連三十年』53頁~55頁)。

同書は,直接選挙に多額の選挙運動費用を要するようになったことも課題として挙げており,事前運動,文書数量及び運動方法の規制は,制度創設直後から公平性と費用抑制の問題を伴っていたことが分かる。

4 平成16年度から平成20年度までの検討

平成16年度には,過去の会長選挙手続を検証し,ホームページによる選挙運動を認めるべきかについて全弁護士会への照会が行われた(『平成16年度会務報告書』138頁)。平成18年度には選挙公報の日弁連ウェブサイト掲載等が検討され,平成19年度には選挙公報の掲載が実現するとともに,日弁連公式ウェブサイト上の選挙運動を認める一方,それ以外のホームページ,電子メールその他のインターネット利用を明文で禁止する案がまとめられた(『平成18年度会務報告書』135頁及び『平成19年度会務報告書』123頁~124頁)。平成19年5月25日の第58回定期総会では,選挙公報の発送期限を投票日の15日前から12日前へ変更し,選挙公報を日弁連の会員専用ホームページに掲載できることとし,選挙郵便はがきの証印制度を廃止する改正が可決された(第58回定期総会議事概要PDF実頁15頁~16頁)。

この段階のホームページ掲載は選挙公報を補完するものであり,期限内の郵送が選挙の有効要件である一方,ホームページ掲載自体は有効要件ではないと説明された。平成20年の第59回定期総会でこの改正が成立し,候補者情報を日弁連公式ウェブサイトに掲載する制度が設けられた一方,候補者の私設ウェブサイト,電子メールその他のインターネットによる選挙運動は禁止された。平成20年度には「日弁連ホームページにおける選挙運動の実施要領」が整備され,平成22年度同23年度会長選挙から運用が始まった(『平成20年度会務報告書』101頁~102頁)。

5 平成22年度の選挙運動費用の検討

平成22年度には,選挙運動に要する費用の一部を日弁連が助成すること及び選挙運動の在り方について,各弁護士会に意見照会が行われた(『平成22年度会務報告書』102頁~103頁及び141頁~142頁)。これは当時の検討経過を示すものであり,現行制度に費用助成が存在することの根拠にはならない。

6 平成23年改正

平成23年5月27日の第62回定期総会では,会員数の増加に対応して選挙管理委員会の常任委員会の構成及び定足数を改め,不在者投票を行わない休日を明確にし,再選挙に通常選挙の規定を原則として準用する改正が可決された。再選挙の候補者が1人であり,かつ,最初の選挙でも立候補していた者だけである場合には,本人の希望により公聴会を行わないことができることともされた(第62回定期総会議事概要PDF実頁12頁~13頁)。この改正は選挙運動媒体の解禁ではなく,選挙管理及び再選挙手続の整備である。

7 平成27年改正

平成27年改正では,投票率の低下を背景に,候補者の私設選挙運動用ウェブサイト及び候補者による選挙運動用電子メールが認められた。平成26年度の検討では,私設ウェブサイト及び電子メールの利用のほか,不在投票期間,郵便投票及び選挙公報の見直しが一体として検討され,平成27年改正につながった(『平成26年度会務報告書』100頁~101頁及び『平成27年度会務報告書』104頁)。

8 平成29年改正

平成29年改正では,候補者以外の会員について,ウェブサイトへの掲載,候補者サイトへのリンク及びSNSによる選挙運動が認められた。

9 令和3年改正

令和3年改正では,ファクシミリによる文書の送信が認められ,立候補納付金及び会員外からの選挙運動費用の寄附禁止等が導入された。候補者以外の会員による選挙メールは,この時点ではなお認められなかった。

10 令和5年改正

令和5年6月16日の第74回定期総会では,災害又は感染症のまん延等に備えた選挙管理委員会の通信システムによる会議,選挙権及び被選挙権の基準日の前倒し,開票立会人の参会時期並びに立候補納付金の銀行振込及び返還に関する改正が可決された。立候補納付金は300万円であり,一定の得票要件を満たした候補者等には200万円を返還する制度を前提として,無投票当選,候補者の死亡,再投票,再選挙,立候補届出の不存在又は選挙全部無効の場合にも適切な時期に返還できるよう規定が整備された(第74回定期総会議事概要PDF実頁27頁~30頁)。同総会では,納付金制度自体は令和3年改正附則に基づく5年後見直しの対象であり,令和6年度同7年度会長選挙の結果を踏まえて検討する予定であるため,令和5年改正は現行規程の不具合修正にとどめると説明された。

この改正も,選挙運動媒体の範囲を変更するものではない。

11 令和6年度の検討と令和7年改正

令和7年改正では,候補者以外の会員にも電子メールによる選挙運動が認められた。同時に,ウェブサイト,SNS又は電子メールによる名誉又は品位を害する情報発信が,新たに禁止事項となった。この改正は,令和6年度に選挙管理委員会が会長選挙規程及び会長選挙施行細則の見直しを継続した結果である(『令和6年度会務報告書』52頁及び『令和7年度会務報告書』14頁)。

第11 公職選挙法との関係

1 公職選挙法は直接適用されないこと

日弁連会長選挙は,公職選挙法上の公職選挙ではない。したがって,公職選挙法の選挙運動規制及び同法に関する刑事判例が,日弁連会長選挙に直接適用されるわけではない。もっとも,会長選挙規程56条の2は公職選挙法142条の3を参照しているため,公職選挙法の制度は比較資料となる。

2 公職選挙法上の選挙運動

公職選挙法129条にいう選挙運動とは,特定の選挙について,特定人の当選を得させる目的で,投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な周旋,勧誘,誘導その他の行為をすることである(最高裁昭和38年10月22日決定・昭和38年(あ)第984号・刑集17巻9号1755頁)。この判断は,日弁連会長選挙における事前運動の実質判断を考える参考にはなる。

3 選挙運動期間等の制限と表現の自由

最高裁大法廷昭和44年4月23日判決・昭和43年(あ)第2265号・刑集23巻4号235頁は,公職選挙法129条による選挙運動期間の制限を憲法21条に違反しないとした。最高裁第二小法廷令和5年11月20日判決・令和5年(あ)第976号は,公職選挙法129条及び142条1項が憲法21条及び31条に違反しないことは,前記大法廷判決の趣旨に照らして明らかであるとした。もっとも,これらは公職選挙法に関する判決であり,日弁連会長選挙規程の個々の制限を直接判断したものではない。

第12 令和8年度同9年度日弁連会長選挙の結果

令和8年度同9年度日弁連会長選挙は,令和8年2月6日に投票が行われた。日弁連選挙管理委員会は,同月18日,松田純一氏を当選者と決定した。選挙権者は4万6805人,投票総数は1万4638票,投票率は31.27%であった。

松田純一氏は1万1043票,矢吹公敏氏は3332票を得た。白票は190票,無効票は73票であった。令和6年選挙の投票率は33.23%であり,候補者以外の会員による選挙メールが解禁された令和7年改正後最初の選挙の投票率は,これを下回った。

もっとも,候補者数及び選挙情勢等が異なるため,電子メール解禁と投票率との因果関係を示すものではない。

第13 関連記事

第14 出典

① 日本弁護士連合会「会長選挙規程」 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/jfba_info/rules/kaiki/kaiki_no_019.pdf

② 日本弁護士連合会「会長選挙規程の一部を改正する規程」(令和7年6月13日) https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/jfba_info/rules/revision/250613_kisoku_no_19.pdf

③ 日本弁護士連合会「第59回定期総会報告」 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/assembly_resolution/soukai/59_soukai_report.pdf

④ 日本弁護士連合会「第66回定期総会報告」 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/assembly_resolution/soukai/66_soukai_report.pdf

⑤ 日本弁護士連合会「平成29年3月臨時総会報告」 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/assembly_resolution/soukai/170303_rinji_report.pdf

⑥ 日本弁護士連合会「第72回定期総会報告」 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/assembly_resolution/soukai/72_soukai_report.pdf

⑦ 日本弁護士連合会「第76回定期総会議事概要」29頁~32頁 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/assembly_resolution/soukai/76_soukai_report.pdf

⑧ 日弁連新聞第616号 https://www.nichibenren.or.jp/document/newspaper/year/2025/616.html

⑨ 日本弁護士連合会「令和8年度同9年度日本弁護士連合会会長選挙 開票結果」 https://www.nichibenren.or.jp/news/year/2026/260218.html

⑩ e-Gov法令検索「公職選挙法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000100

⑪ 最高裁第二小法廷令和5年11月20日判決・令和5年(あ)第976号 https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-92510.pdf

⑫ 日本弁護士連合会『日弁連二十年』(1970年)76頁~81頁

⑬ 日本弁護士連合会『日弁連三十年』(1981年)47頁~55頁

⑭ 日本弁護士連合会『日弁連五十年史』(1999年)366頁~367頁

⑮ 日本弁護士連合会『平成16年度会務報告書』138頁,『平成18年度会務報告書』135頁,『平成19年度会務報告書』123頁~124頁及び『平成20年度会務報告書』101頁~102頁

⑯ 日本弁護士連合会『平成22年度会務報告書』102頁~103頁及び141頁~142頁,『平成26年度会務報告書』100頁~101頁,『平成27年度会務報告書』104頁,『平成29年度会務報告書』56頁~57頁,『令和6年度会務報告書』52頁並びに『令和7年度会務報告書』14頁

⑰ 日本弁護士連合会調査室『弁護士懲戒手続の研究と実務〔第三版〕』(2011年)220頁,242頁~243頁及び430頁~431頁

⑱ 最高裁第三小法廷昭和58年4月5日判決・昭和56年(行ツ)第171号・集民138号493頁 https://www.courts.go.jp/hanrei/66916/detail2/index.html

⑲ 日本弁護士連合会「定期総会・臨時総会 議案書・議事概要」 https://www.nichibenren.or.jp/document/assembly_resolution/soukai.html

⑳ 日本弁護士連合会「第58回定期総会議事概要」15頁~16頁 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/assembly_resolution/soukai/58_soukai_report.pdf

㉑ 日本弁護士連合会「第62回定期総会議事概要」12頁~13頁 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/assembly_resolution/soukai/62_soukai_report.pdf

㉒ 日本弁護士連合会「第74回定期総会議事概要」27頁~30頁 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/assembly_resolution/soukai/74_soukai_report.pdf

㉓ 日本弁護士連合会会員専用サイト「選挙関係資料・書式集」(令和8年度同9年度会長選挙) https://member.nichibenren.or.jp/nichibenrenjoho/senkyo/shoshiki.html

㉔ 日本弁護士連合会選挙管理委員会「会長選挙の実施要領」(令和7年11月改訂)24頁~30頁,37頁~58頁及び106頁~114頁(会員専用)

㉕ 日本弁護士連合会選挙管理委員会「日弁連会長選挙に関する質問と回答一覧表」(令和7年11月改訂)22頁~31頁及び35頁~91頁(会員専用)

㉖ 日本弁護士連合会「会長選挙施行細則」(令和7年7月10日改正,会員専用)

㉗ 日本弁護士連合会「選挙運動に関する収入及び支出に関する細則」(令和3年7月9日改正,会員専用)