目次第1 この記事が扱う資料第2 配置定員表の読み方1 法定員,配置定員及び現在員の違い2 基礎定員と付加定員3 配置定員と事件処理体制第3 平成28年と令和7年の数値比較1 東京地裁,東京家裁及び立川支部2 札幌地裁本庁及び札幌家裁本庁3 小田原支部及び龍ケ崎支部第4 「その他の判事補」と大規模庁への配置1 「その他の判事補」の意味2 東京地裁55人と四国4県本庁9人3 配置定員より先に問題となる判事補の欠員第5 小規模庁と総合配置1 総合配置は管轄権の共有ではない2 地域司法アクセスは別のデータで確認する第6 家庭裁判所及び裁判官以外の職員1 東京家裁の増員と家裁調査官の体制2 裁判所書記官等の体制第7 配置定員表を実務で使うための資料の順序第8 出典・参考資料1 法令・通達2 公的資料3 文献
第1 この記事が扱う資料
令和7年3月28日付最高裁判所事務総長通達は,令和7年4月1日以降の下級裁判所裁判官の配置定員を,高等裁判所,地方裁判所,家庭裁判所,支部及び簡易裁判所ごとに示している。本記事では,「下級裁判所の裁判官の定員配置」に掲載している平成28年通達と令和7年通達の原表を照合し,東京地裁・東京家裁・立川支部及び札幌地家裁管内を中心に,9年間の変化を整理するものである。
配置定員表から直接確認できるのは,各庁に設定された定員枠である。そこから,実際に勤務する人数,個々の裁判官の担当,事件数,審理期間又は裁判官・書記官等の負担感を直ちに読み取ることはできない。本記事は,通達から確認できる数値と,別の資料を確認しなければ分からない事項を区別するため,生成AIを用いて原表の数値を再計算し,法令,裁判所公表資料及び国会会議録と照合した。
なお,令和8年4月実施の配置定員改正通達及び別表は,令和8年8月9日までに確認した裁判所ウェブサイト及び公開検索の範囲では確認できなかった。したがって,本記事は令和7年通達を対象とし,令和8年度の法定員や現在員と混同しないよう,それぞれの確認時点を明示する。
第2 配置定員表の読み方
1 法定員,配置定員及び現在員の違い
裁判所職員定員法1条は,令和8年8月9日現在,下級裁判所の裁判官について,高等裁判所長官8人,判事2155人,判事補842人及び簡易裁判所判事806人という全国の法定員を定めている。これに対し,配置定員通達は,全国の定員枠を個々の高裁・地裁・家裁・支部・簡裁へ配分する司法行政上の資料であり,現在員は,ある時点で実際に在職している人数である。
令和7年3月14日の衆議院法務委員会における最高裁判所の説明によれば,定員案は最高裁判所事務総局が立案し,最高裁判所裁判官会議の議決により決定される。財務省とは定員合理化について意見交換をするものの,裁判所は政府の定員合理化計画に直ちに拘束されず,自主的・自律的に判断すると説明されている。したがって,配置定員を単なる「予算上の枠」とだけ説明するのは十分でない。
裁判官増員の経緯について,泉徳治ほか『一歩前へ出る司法』122頁~130頁は,判事補を平成9年及び平成10年に各20人,平成12年に70人増員した当時の経緯を,財政当局との折衝,採用,養成及び施設整備の制約と併せて説明している。この回顧は,裁判官の定員を増やす場合にも採用・養成・施設等を一体として考える必要があることを示すが,令和7年の個別庁の配置理由を直接証明する資料ではない。
また,最高裁判所が平成14年7月現在の人事概況として公表した説明は,裁判官の一部が最高裁判所調査官,事務総局の局課長・局付及び研修所教官等に充てられ,その余が配置定員に従って下級裁判所に配置されるとしている。この説明によれば,中央勤務に充てる人員と下級裁判所の配置定員は区別されており,東京地裁の配置定員に最高裁判所事務総局勤務者や司法研修所教官の人数が当然に含まれると理解すべきではない。
2 基礎定員と付加定員
平成27年3月26日付最高裁判所事務総長依命通達は,付加定員を「未済事件の累積,特殊事件の係属その他の一時的な事由に基づき,暫定的に配置する定員」と定義する。これに対する基礎定員は,一時的な事由によらない基本部分と読むことができる。
もっとも,個々の付加定員について,どの未済事件,特殊事件又は政策課題を理由に何人を付したのかは,定員表自体には記載されていない。例えば,東京地裁の判事・職権特例判事補の付加定員が平成28年の13人から令和7年の26人へ増えたことは確認できるが,この増加だけから,特定の事件の滞留,勤務負担又は異動の困難さを認定することはできない。
3 配置定員と事件処理体制
同じ配置定員であっても,採用・退官・出向等により現在員は変動する。また,裁判官の担当部・係,事務分配,職務代行及び合議体の構成は,配置定員表とは別の資料で確認する必要がある。実際の担当は各裁判所の担当裁判官一覧で,事件数及び審理期間は司法統計又は裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)で確認するのが適切である。
第3 平成28年と令和7年の数値比較
次の「総数」は,判事・職権特例判事補の基礎定員と付加定員,その他の判事補の基礎定員と付加定員を合算した数値である。平成28年通達はPDF実頁4頁及び48頁,令和7年通達はPDF実頁3頁及び99頁の原表により照合した。
庁・区分平成28年令和7年増減東京地裁本庁・判事及び職権特例判事補の基礎定員232人243人+11人東京地裁本庁・同付加定員13人26人+13人東京地裁本庁・その他の判事補58人55人-3人東京地裁本庁・裁判官総数303人324人+21人東京家裁本庁・判事及び職権特例判事補の基礎定員31人36人+5人東京家裁本庁・裁判官総数33人42人+9人立川支部・裁判官総数42人43人+1人札幌地裁本庁・裁判官総数37人34人-3人札幌家裁本庁・裁判官総数8人11人+3人札幌地家裁管内・裁判官総数53人53人0人
1 東京地裁,東京家裁及び立川支部
東京地裁本庁では,判事・職権特例判事補の基礎定員が232人から243人へ11人増え,同付加定員が13人から26人へ13人増えた。他方,その他の判事補は58人から55人へ3人減っており,裁判官総数は303人から324人への21人増である。基礎定員の増加だけを取り出すよりも,付加定員及びその他の判事補を含めた全体を示す方が,通達の変化を正確に表す。
東京家裁本庁では,判事・職権特例判事補の基礎定員だけを比べると31人から36人への5人増である。しかし,令和7年には同付加定員5人及びその他の判事補1人があるため,裁判官総数は33人から42人へ9人増えている。立川支部の総数は42人から43人へ1人増である。
2 札幌地裁本庁及び札幌家裁本庁
札幌地裁本庁では,判事・職権特例判事補の基礎定員が25人から24人へ1人減り,その他の判事補も9人から7人へ2人減ったため,総数は37人から34人へ3人減った。他方,札幌家裁本庁は8人から11人へ3人増えており,札幌地家裁管内の裁判官総数は平成28年も令和7年も53人である。
この比較から確認できるのは,管内総数を維持しながら地裁本庁から家裁本庁へ3人分の定員が移った形になっていることである。札幌地裁本庁の合議体が実際に不足しているか,審理期間が延びたかを判断するには,現在員,事務分配,合議事件数,職務代行及び審理期間を確認する必要があり,配置定員の3人減だけでは結論を出せない。
3 小田原支部及び龍ケ崎支部
令和7年通達では,小田原支部の判事・職権特例判事補が10人,龍ケ崎支部が2人とされている。しかし,10人であれば複雑事件を迅速に処理でき,2人であれば本庁の応援待ちで長期化する,という関係は定員表からは導けない。例えば,横浜地裁の担当裁判官一覧は小田原支部の民事・刑事の合議係と単独係を,水戸地裁の担当裁判官一覧は龍ケ崎支部の実際の担当を示しており,配置定員とは別に確認する必要がある。
第4 「その他の判事補」と大規模庁への配置
1 「その他の判事補」の意味
配置定員表は,判事補を「職権特例判事補」と「その他の判事補」に分けている。裁判所法27条1項によれば,判事補は他の法律に特別の定めがある場合を除き,一人で裁判をすることができない。判事補の職権の特例等に関する法律1条1項は,法曹資格に関係する一定の職の年数が通算5年以上となる判事補のうち,最高裁判所が指名した者は職権の制限を受けないと定めている。
(続きを読む...)下級裁判所の裁判官の配置定員(令和7年4月)―平成28年との比較と現在員との違い(AIリライト)