第1 この記事の対象と結論
1 対象,調査の基準日及び資料の対象期間
この記事は,令和7年度の裁判所所管の一般会計について,概算要求,当初予算,補正予算及び決算という四つの数字を並べ,どこで金額が動いたのかを追ったものである。
調査の基準日は令和8年9月7日であり,金額の取得日は同月6日である。
資料の対象期間は,比較のために令和3年度から令和8年度までを含む。
本文の金額は,特記しない限り千円単位であり,決算の数値だけは円単位である。
裁判所の予算がどのような手続で決まるのか,財政法19条の二重予算の制度がどうなっているのかについては,別の記事である裁判所の予算は誰が決めているのか-二重予算制度と,令和2年度から令和8年度まで附記が0件だったことで扱っている。
この記事は,手続そのものではなく,四つの数字の突合せに絞る。
2 結論
令和7年度の概算要求額は,要望を含めて3479億3262万4000円であった。
これに対する当初予算額は3351億9243万9000円であり,要求・要望計に対する割合は96.3%である。
ところが,同年度の補正予算(第1号)で261億9977万2000円が追加され,補正後の改予算額は3613億9221万1000円となった。
要求・要望計に対する割合は103.9%になり,逆転する。
総額だけを見ると「ほぼ要求どおり」に見えるが,内訳は均一ではない。
(項)裁判費だけが要求377億2937万8000円に対して当初予算263億6090万1000円(69.9%)と大きく落ち,最高裁判所,下級裁判所及び裁判所施設費はいずれも当初予算が要求を上回っている。
落ちているのは人件費ではなく,裁判手続のデジタル化を含む事件処理の実費である。
もっとも,その裁判費も補正予算で386億9494万円まで戻り,要求比102.6%になる。
当初予算で落ち,補正予算で戻るという往復が起きている。
そして,その補正予算は,計上した年度にはほとんど使われていない。
令和6年度補正予算の「裁判手続等のデジタル化等」169億円は,令和6年度中の支出済額が1億円で,167億円が令和7年度へ繰り越され,令和7年度に164億円が支出された。
令和7年度補正予算の210億円も,令和7年度中の支出済額は6億円で,200億円が令和8年度へ繰り越されている。
したがって,ある年度に裁判所が実際に使える金は,当初予算そのものではなく,当初予算に前年度補正からの繰越額を足した額である。
第2 四つの数字は互いに別物である
1 概算要求
正確には,財政法17条1項の見積書類である。
同項は,衆議院議長,参議院議長,最高裁判所長官及び会計検査院長が,毎会計年度,その所掌に係る「歳入、歳出、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の見積に関する書類」を作製し,これを内閣における予算の統合調整に供するため内閣に送付しなければならないと定めている。
「概算要求」は法令上の用語ではなく,この見積書類の通称にすぎない。
なお,内閣総理大臣及び各省大臣の見積書類は,同条2項により財務大臣へ送付される。
1項の四者だけが内閣へ送付する点が,各省庁との違いである。
裁判所は,この書類のほかに,「重要政策推進枠」の要望を別枠で提出している。
要求本体と要望を合わせた額が「概算要求等額」として公表されるため,充足率を計算するときは,どちらを分母にしたのかを示さなければ数字が動く。
最高裁判所は,各年度の概算要求書のほかに,財務省に対する説明資料も作成している。
その内容は最高裁判所の概算要求書(説明資料)にまとめられている。
2 当初予算
国会の議決を経て成立した予算である。
ここで注意を要するのは,予算書に印刷される「要求額」が概算要求額ではないことである。
予算書の「要求額」は,財政法20条2項の予定経費要求書に基づく額である。
予定経費要求書は,同項により,財政法18条の閣議決定のあった概算の範囲内で作製される。
そして,予算決算及び会計令11条5項により,財務大臣からの概算決定の通知(同令9条1項)を受けた後,遅滞なく財務大臣へ送付しなければならないものとされている。
つまり,概算要求額と予算書の「要求額」は,作成の時期も根拠も違う別の数字である。
3 補正予算
内閣は,財政法29条により,①法律上又は契約上国の義務に属する経費の不足を補うほか,予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となった経費の支出又は債務の負担を行うため必要な予算の追加を行う場合と,②予算作成後に生じた事由に基づいて予算に追加以外の変更を加える場合に限り,予算作成の手続に準じて補正予算を作成し,国会に提出することができる。
補正予算には「追加」と「修正減少」の両方があり,公表される数字は通常その差引額である。
4 決算
支出済歳出額である。
決算の分母になるのは「歳出予算現額」であって,当初予算額でも「歳出予算額」でもない。
決算書の科目別内訳は,歳出予算額,前年度繰越額,予備費使用額,流用等増減額及び予算決定後移替増減額の五つを足して歳出予算現額を出す形になっている。
このうち「歳出予算額」は当初予算額に補正の差引額を加えた額であるから,後の三つがいずれもない年度に限り,歳出予算現額は当初予算,補正の差引額及び前年度繰越額の三つで組める。
裁判所所管では,令和6年度の決算で後の三つがいずれもなかった。
この五つの欄がどういう関係に立つのかは,決算はどの欄でできているかで扱われている。
5 どこで入手できるか
裁判所ウェブサイトの「裁判所の予算・決算・財務書類」に,年度ごとの概算要求書,各目明細書,補正予算の各目明細書及び決算の概要が掲載されている。
ただし,裁判所ウェブサイトの決算の概要は所管計1行だけであり,(項)別の内訳がない。
(項)別又は(目)別の数字が必要な場合は,財務省の「予算書・決算書データベース」からCSVを取得すると,円単位で取得できる。
この記事の(項)別・(目)別の数字は,同データベースのCSVを集計したものである。
どの資料からどの数字が取れるのかという整理は,予算・決算の数値をどこから取るかにある。
第3 令和7年度の四つの数字
1 総額
| 系列 | 金額(千円) | 要求・要望計に対する割合 |
|---|---|---|
| 概算要求(本体) | 339,061,489 | - |
| 「重要政策推進枠」要望 | 8,871,135 | - |
| 要求・要望計 | 347,932,624 | 100.0% |
| 当初予算 | 335,192,439 | 96.3% |
| 補正後の改予算額 | 361,392,211 | 103.9% |
| 歳出予算現額(推計) | 387,286,639 | 111.3% |
| 決算(支出済歳出額) | 未公表 | - |
2 要望を分母に入れるかどうか
「重要政策推進枠」の要望は,要求本体とは別枠で提出される。
令和7年度は,裁判手続等のデジタル化の推進15億3116万6000円,安全で安心な暮らしの実現29億2784万5000円,防災・減災44億1212万4000円の合計88億7113万5000円であった。
要求本体だけを分母にすると,当初予算の充足率は98.9%になる。
要望を含めた要求・要望計を分母にすると96.3%になる。
どちらの数字も正しいので,充足率を示すときは分母を明示する必要がある。
3 歳出予算現額の推計
令和7年度の決算が未公表であるため,歳出予算現額は次の式で計算した推計値である。
歳出予算現額 = 当初予算 + 補正(差引) + 前年度繰越
335,192,439 + 26,199,772 + 25,894,428 = 387,286,639(千円)
この式が成り立つことは,令和6年度で確かめられる。
令和6年度は,当初予算3309億7900万9000円,補正差引234億7036万9000円,令和5年度からの繰越132億3887万6033円であり,合計は決算の歳出予算現額3676億8825万4033円と一致する。
なお,令和7年度の一般会計予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書(その1・その2)を全文検索したところ,裁判所所管の使用はなかった。
なお,決算報告書の予備費使用額の欄には,所管によって「予備費使用額には、原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応予備費の使用額は含まれていない。」という注記が付くことがある。
令和6年度決算報告書(915頁)を確認したところ,この注記はPDFの27頁に付いている一方,裁判所所管のPDF79頁から85頁までには付いていない。
もっとも,令和7年度の決算報告書は未公表なので,同年度について同じ確認はできない。
流用等増減額及び予算決定後移替増減額は,裁判所所管では令和6年度はいずれもなかった。
令和7年度についてこの二つがどうなるかは決算を待つほかないので,387,286,639千円という数字はあくまで推計である。
4 令和7年度決算が未公表であること
令和7年度の決算は,令和8年9月7日現在,公表されていない。
裁判所ウェブサイトの決算の概要は令和6年度が最新である。
財務省の予算書・決算書データベースにも令和7年度決算のCSVはなく,同じ形式のURLはHTTP404を返す。
令和6年度決算のCSVは同じ形式のURLで取得できるので,確認の方法そのものは機能している。
第4 (項)別に見ると,落ちているのは裁判費だけである
1 概算要求と当初予算
以下の(項)別の表は,いずれも要求本体を分母としている。
「重要政策推進枠」の要望88億7113万5000円は,(項)別に配分された形では公表されていないためである。
| 項 | 概算要求(千円) | 当初予算(千円) | 予算/要求 |
|---|---|---|---|
| 最高裁判所 | 81,670,542 | 83,384,356 | 102.1% |
| 下級裁判所 | 206,201,217 | 211,141,820 | 102.4% |
| 検察審査費 | 297,346 | 296,585 | 99.7% |
| 裁判費 | 37,729,378 | 26,360,901 | 69.9% |
| 裁判所施設費 | 13,155,006 | 14,000,777 | 106.4% |
| 裁判所予備経費 | 8,000 | 8,000 | 100.0% |
| 計 | 339,061,489 | 335,192,439 | 98.9% |
2 人件費の項が要求を上回る理由
最高裁判所及び下級裁判所の当初予算が要求を上回っているのは,査定で増やされたからではないと考えられる。
概算要求は要求時点の給与単価で積算され,その後に決まる給与改定が予算編成の段階で反映されるためである。
現に,令和7年度補正予算では,人事院勧告に伴う人件費の増額分として58億300万円が計上されている。
裁判所施設費が要求を上回っているのは,「重要政策推進枠」の防災・減災44億1212万4000円が別枠であることによる。
要望を含めた175億6713万円を分母にすると,当初予算140億0777万7000円は79.7%にとどまる。
3 補正後の姿
| 項 | 当初予算(千円) | 補正追加(千円) | 補正修正減少(千円) | 補正後(千円) | 補正後/要求 |
|---|---|---|---|---|---|
| 最高裁判所 | 83,384,356 | 3,713,732 | △222,817 | 86,875,271 | 106.4% |
| 下級裁判所 | 211,141,820 | 6,051,651 | △172,653 | 217,020,818 | 105.2% |
| 検察審査費 | 296,585 | 80,533 | 0 | 377,118 | 126.8% |
| 裁判費 | 26,360,901 | 12,508,863 | △174,824 | 38,694,940 | 102.6% |
| 裁判所施設費 | 14,000,777 | 4,415,287 | 0 | 18,416,064 | 140.0% |
| 計 | 335,192,439 | 26,770,066 | △570,294 | 361,392,211 | 106.6% |
4 補正予算を読むときの二つの注意
(1) 差引額だけを見ない
補正には追加と修正減少の両方があり,同じ(目)で両方が立つことがある。
差引額だけを見ると,その(目)の中で減額要素が立っていた事実が見えなくなる。
令和7年度の裁判所所管はCSVで42行あるが,実際に金額が動いた行は37行であり,その内訳は追加のみが20行,修正減少のみが17行である。
残る5行は成立予算額のまま動いていない。
令和7年度は追加と修正減少が同時に立つ行がなかったが,これは年度による。
令和2年度補正予算(第3号)には,(項)裁判費の(目)裁判庁費で追加486,553千円,修正減少△176,093千円,差引310,460千円という行がある。
(2) 修正減少は実績に合わせた落とし込みであることが多い
令和7年度補正の修正減少は,裁判旅費△6840万7000円,委員等旅費△7890万6000円,少年補導委託費△1874万4000円,保証金△500万円,少年補償金△376万7000円などである。
これらはいずれも,令和6年度決算の執行率が低かった(目)である。
たとえば保証金は,令和2年度から令和6年度まで,予算1000万円が据え置かれたまま,5年続けて支出済額がゼロである。
身柄拘束者食糧費も,同じ5年間の執行率が9.0%から16.0%までで推移している。
これらは年による偶然ではなく,制度の性質として支出が生じにくい(目)だと考えられる。
もっとも,執行率が低い(目)がすべてそうだというわけではない。
刑事補償金の執行率は,令和2年度56.7%,令和3年度67.2%,令和4年度52.4%,令和5年度42.9%,令和6年度96.8%と大きく振れる。
少年補償金も1.5%から41.3%まで幅がある。
補正で修正減少が立ったからといって,その(目)が恒常的に使われないとは限らない。
第5 裁判手続等のデジタル化関連経費
1 要求の半分しか付いていない
令和7年度の裁判手続等のデジタル化関連経費は,概算要求257億1500万円に対し,当初予算125億5400万円であった。
充足率は48.8%である。
| 区分 | 概算要求 | 当初予算 |
|---|---|---|
| 民事訴訟手続のデジタル化 | 92億6300万円 | 48億4900万円 |
| 刑事手続のデジタル化 | 70億7000万円 | 22億3200万円 |
| 民事非訟・家事事件手続のデジタル化 | 84億2900万円 | 50億0200万円 |
| 司法行政のデジタル化 | 9億5200万円 | 4億7100万円 |
| 計 | 257億1500万円 | 125億5400万円 |
令和8年度のデジタル化関連経費の内容については,令和8年度概算要求に基づく,裁判手続のデジタル化の説明で扱っている。
2 補正予算で戻る
令和7年度補正予算(第1号)で,「裁判手続等のデジタル化等」に161億7800万円が計上された。
当初予算と補正予算を合わせると287億3200万円となり,概算要求257億1500万円の111.7%になる。
要求は,年度をまたぐ形で結局は満たされている。
この往復は令和6年度でも起きている。
令和6年度補正予算では,(項)裁判費の(目)裁判庁費に129億6865万1000円が追加され,同年度の裁判庁費は当初予算313億2284万5000円から補正後442億9149万6000円になった。
第6 補正予算は,計上した年度には使われていない
1 執行状況
裁判所ウェブサイトの「補正予算の主な事業の執行状況」から,次のことが読み取れる。
| 補正 | 事業名 | 補正予算額 | 当年度の支出済額 | 翌年度繰越額 |
|---|---|---|---|---|
| 令和6年度補正 | 裁判手続等のデジタル化等 | 169億円 | 1億円 | 167億円 |
| 令和7年度補正 | 裁判手続等のデジタル化等 | 162億円 | 6億円 | 153億円 |
| 令和7年度補正 | 防災・減災対策 | 48億円 | 皆無 | 47億円 |
2 繰越先の年度まで追える例
繰越先の年度まで追えるのは,令和6年度補正である。
令和6年度に繰り越された167億円は,令和7年度に164億円が支出され,2億円が不用となって完了した。
大型のシステム調達は契約が年度をまたぐため,計上,ほぼ全額の繰越,翌年度の契約及び支出という1年遅れのサイクルで回っていると考えられる。
現に,令和7年度補正の執行状況の備考欄には,令和8年7月末時点でデジタル化151億円,防災・減災34億円が契約済みである旨が記載されている。
3 年度の実力の測り方
以上からすると,年度の実力を測るには,次の式のほうが実態に近い。
当年度に実際に使える金 = 当年度当初予算 + 前年度補正からの繰越額
令和7年度のデジタル化関連でこれを計算すると,当初125億5400万円に令和6年度補正からの繰越167億円を足して292億5400万円となり,概算要求257億1500万円の113.8%になる。
4 令和6年度決算の執行率
決算まで見ると,執行率はかなり低い。
| 項 | 歳出予算現額(円) | 支出済歳出額(円) | 翌年度繰越額(円) | 不用額(円) | 執行率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 最高裁判所 | 91,088,304,641 | 83,603,788,552 | 4,400,774,052 | 3,083,742,037 | 91.8% |
| 下級裁判所 | 213,264,491,000 | 208,123,544,682 | 3,016,310,000 | 2,124,636,318 | 97.6% |
| 検察審査費 | 281,998,000 | 272,924,083 | 804,000 | 8,269,917 | 96.8% |
| 裁判費 | 41,099,533,000 | 24,166,905,248 | 13,670,274,000 | 3,262,353,752 | 58.8% |
| 裁判所施設費 | 21,945,927,392 | 16,124,218,978 | 4,806,266,293 | 1,015,442,121 | 73.5% |
| 裁判所予備経費 | 8,000,000 | 4,671,733 | 0 | 3,328,267 | 58.4% |
| 計 | 367,688,254,033 | 332,296,053,276 | 25,894,428,345 | 9,497,772,412 | 90.4% |
(項)裁判費の執行率が58.8%にとどまっているのは,削られたからではなく,繰り越されているからである。
この表の欄の意味と,令和6年度に裁判所の執行率が下がった理由については,決算はどの欄でできているかが(項)裁判費の繰越に即して説明している。
現額411億円のうち136億7027万4000円が令和7年度に繰り越されている。
繰越額の中身を(目)まで見ると,裁判庁費136億7027万4000円,施設整備費46億7219万7687円,退職手当31億9200万7052円,法廷等器具整備費25億5480万2000円,最高裁判所の情報処理業務庁費11億6689万8000円などである。
デジタル化に直結する四つの(目)だけで174億6150万9000円となり,繰越総額258億9442万8345円の67.4%を占める。
第7 「削られた」と書けるかどうか
(項)裁判費が要求の69.9%にとどまった理由は,公表資料からは特定できない。
考えられるのは,①内閣の査定で減額された,②その手前の意見調整の段階で最高裁判所が自ら要求を改めた,③年度内に執行できる見込みの額まで落とした,④年度間の事業計画の配分にすぎない,という四通りであるが,これらは互いに排他ではない。
このうち①については,財政法19条が,内閣は,国会,裁判所及び会計検査院の歳出見積を減額した場合においては,その送付に係る歳出見積の詳細を歳入歳出予算に附記するとともに,国会がこれらに係る歳出額を修正する場合における必要な財源についても明記しなければならないと定めている。
しかし,この附記は,令和2年度から令和8年度までの一般会計の当初予算書及び補正予算書には一件もない。
決算書及び各目明細書は数えていない。
もっとも,この「一件もない」は,数えた冊のすべてが同じ重みを持つという意味ではない。
同じ期間の一般会計補正予算は10本あるが,そのうち令和2年度補正(第1号),令和4年度補正(第1号)及び令和8年度補正(第1号)の3本は,裁判所所管の計上そのものがない。
裁判所所管が1行も載っていない冊に裁判所の附記がないのは当然であるから,附記の有無を語れるのは,当初予算書7本と,裁判所所管の計上がある補正予算書7本である。
もっとも,附記がないことは減額がなかったことを意味しない。
財務大臣が閣議決定を経て各省各庁の長へ行う通知(予算決算及び会計令9条1項)は公表されず,減額された旨も同条2項によりその通知の中で明らかにされるだけである。
独立した「減額の通知」という文書があるわけではない。
また,附記に至るには,減額の通知を受けた最高裁判所長官が「増額の必要を認めたとき」に予定経費増額要求明細書を作製して予定経費要求書とともに送付し(同令11条の2),これを受けて財務大臣が附記事項を作成する(同令11条の3)という段階を踏む必要がある。
この点は裁判所の予算は誰が決めているのか-二重予算制度と,令和2年度から令和8年度まで附記が0件だったことで詳しく扱っている。
したがって,この記事では,「当初予算で落ち,補正予算で戻る」という事実の記述にとどめ,誰が落としたのかについては断定しない。
第8 予納郵券の廃止が,予算の(目)に現れている
1 (目)の新設と改称
令和7年度の(項)裁判費に,前年度にはなかった(目)民事裁判発送料が8251万4000円で新設された。
同時に,従来の(目)特別送達料が(目)刑事裁判等特別送達料に改められている。
これにより(項)裁判費の(目)は,令和2年度から令和6年度まで13目で変わらなかったものが,令和7年度に14目になった。
| 目 | 令和6年度予算 | 令和7年度予算 | 令和8年度予算 |
|---|---|---|---|
| 特別送達料 | 682,204千円 | - | - |
| 民事裁判発送料 | - | 82,514千円 | 1,986,231千円 |
| 刑事裁判等特別送達料 | - | 687,373千円 | 687,009千円 |
刑事側がほぼ横ばいであるのに対し,民事側は1年で約24倍になっている。
2 民事訴訟費用等に関する法律の改正との対応
これは,民事訴訟費用等に関する法律の改正によって,当事者が郵便切手を予納しなくてよくなったことに対応するものと考えられる。
同法11条1項には,次のただし書が加わった。
「ただし、特定申立てに係る手続においては、第一号に掲げるもののうち、第十三条の料金に充てるための費用を納めることを要しない。」
同法13条は「郵便切手等による予納」を定める規定である。
e-Gov法令検索で条文を時点指定して確認したところ,令和8年5月20日時点の条文にはこのただし書がなく,同月21日時点の条文にはある。
3 実務上の意味
当事者が予納しなくてよくなった郵便料金は,消えたのではなく,国が負担することになった。
その国費が(目)民事裁判発送料であり,令和8年度に19億8623万1000円が計上されている。
予納郵券という制度そのものが縮小していく過程は,予算の(目)の新設と増額という形で追跡できる。
なお,予納郵便切手の管理をめぐっては過去に不適切な事務処理が問題となったことがあり,その経緯は裁判所の予納郵便切手を巡る不適切事務で扱っている。
第9 歳入-相続人不存在で国庫に帰属する金銭
1 歳入の補正は歳出の補正より大きい
裁判所主管の歳入は,令和7年度当初予算869億8817万6000円である。
これが令和7年度補正予算で349億1765万1000円追加され,1219億0582万7000円になった。
同年度の歳出の補正追加額267億7006万6000円より大きい。
追加はすべて(目)雑収に立っている。
2 (目)雑収とは何か
この(目)が何であるかは,歳入予算概算見積書の明細表に書いてある。
事項欄は「相続人不存在により国庫に帰属した金銭等」である。
| 年度 | 予算額(千円) | 決算額(千円) |
|---|---|---|
| 令和3年度 | - | 64,772,986 |
| 令和4年度 | - | 76,982,611 |
| 令和5年度 | 61,785,932 | 102,130,584 |
| 令和6年度 | 67,291,974 | 129,234,956 |
| 令和7年度 | 81,295,394(当初)/116,213,045(補正後) | 未公表 |
令和3年度から令和6年度までの3年間で,決算額はほぼ2倍になっている。
令和6年度は,予算672億9197万4000円に対して決算1292億3495万6000円であり,192.1%である。
裁判所主管の歳入全体でも,令和6年度は予算728億7383万6000円に対して収納済歳入額1349億3354万0346円であり,185.2%であった。
(目)雑収は,その95.8%を占める。
3 実務上の意味
相続人不存在により国庫に帰属した金銭の額は,裁判所の歳入の(目)雑収として決算に現れる。
令和6年度は1292億3495万6000円であり,令和3年度の647億7298万6000円から3年で約2倍になっている。
相続財産清算人の選任申立てが増えているという実感を,金額で裏づける材料になる。
もっとも,この(目)には「等」が付いており,相続人不存在以外の国庫帰属金が含まれる可能性は排除できない。
相続財産清算人の職務内容については,相続財産清算人と破産管財人の違いで扱っている。
第10 定員
令和7年度の概算要求定員表では,令和6年度末定員2万5539人に対し,新規増員43人,定員合理化△56人,振替増減0人(項の間で±50人)で,差引△13人,令和7年度末定員2万5526人とされている。
新規増員43人の内訳は,事件処理の支援のための体制強化41人と,国家公務員のこどもの共育て推進等のため2人である。
これに対し,令和7年度の各目明細書の(目)職員俸給の員数は,最高裁判所1159人,下級裁判所2万4333人であり,合計2万5492人である。
要求ベースの2万5526人に対して34人少ない。
下級裁判所の2万4333人の内訳は,裁判官3811人(高等裁判所長官8人,判事2155人,判事補842人,簡易裁判所判事806人),秘書官8人,一般職の俸給表の準用職員2万0514人である。
一般職の準用職員の内訳には,医療職俸給表(一)の準用職員50人,医療職俸給表(三)の準用職員65人が含まれている。
家庭裁判所に置かれる医師又は看護師である裁判所技官がこれに当たる。
各年度の予算定員の推移は裁判所職員の予算定員の推移にまとめられている。
なお,ここまでの数字は予算資料の員数であって,裁判所職員定員法が定める員数とは別である。
同法1条の下級裁判所の裁判官の員数は,高等裁判所長官8人,判事2155人,判事補842人,簡易裁判所判事806人で,令和6年度から令和8年度まで動いていない。
各目明細書の裁判官3811人はこれと一致する。
他方,同法2条の裁判官以外の職員の員数は,年度の途中で動くことがある。
令和7年度は,年度当初が2万1713人で,令和7年4月18日施行の令和7年法律第23号により2万1666人になった(△47人)。
したがって,「令和7年度は2万1666人」と書くと年度末の値を年度全体の値として示すことになる。
同条の員数は執行官,非常勤職員,2箇月以内の期間を定めて雇用される者及び休職者を除いたものなので,各目明細書の員数と範囲も一致しない。
第11 未確認事項
令和7年度の決算は,令和8年9月7日現在,公表されていない。
第3の1の表の最終行は空欄のままであり,歳出予算現額387,286,639千円は推計である。
令和7年度決算が公表された時点で,この推計値と突き合わせる必要がある。
このほか,確認できなかった事項は次の四つである。
①(項)裁判費の執行率が低いことが繰越によるものであることは決算の数字から分かるが,なぜ年度内に契約及び支出が進まないのかは,公表資料からは分からない。
②(目)民事裁判発送料と民事訴訟費用等に関する法律の改正との関係は,(目)の新設時期,名称の変更及び金額の伸びから読めるものであり,両者を結び付けて説明した資料そのものは確認していない。
③(目)雑収の事項欄の「等」に何が含まれるかを説明した資料は確認していない。
④定員について,要求ベースの2万5526人と各目明細書の2万5492人との差34人がどこで生じたのかは確認していない。
第12 出典・参考資料
1 法令
財政法(昭和22年法律第34号)17条,18条,19条,20条及び29条。
裁判所職員定員法(昭和26年法律第53号)1条及び2条。令和7年4月1日時点及び同月18日時点の条文を確認した。
予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)9条,11条,11条の2及び11条の3。
民事訴訟費用等に関する法律(昭和46年法律第40号)11条及び13条。
いずれもe-Gov法令検索により令和8年9月7日時点の条文本文を確認した。
民事訴訟費用等に関する法律11条1項については,令和8年5月20日時点及び同月21日時点の条文も確認した。
2 裁判所の予算・決算資料
最高裁判所「令和7年度一般会計歳出概算要求書等」(PDF)。
この記事で用いたのは,令和7年度歳出概算要求額総表1頁,同目次3頁及び令和7年度概算要求定員表107頁~109頁である。
最高裁判所「令和7年度概算要求の概要」(PDF)1頁。
最高裁判所「『重要政策推進枠』要望一覧」(PDF)1頁。
最高裁判所「令和7年度一般会計歳入予算概算見積書」(PDF)2頁~4頁。
最高裁判所「令和7年度予算の概要」(PDF)1頁。
最高裁判所「令和7年度一般会計歳出予算各目明細書」(PDF)。
最高裁判所「令和7年度補正予算(第1号)の概要」(PDF)1頁。
最高裁判所「令和7年度一般会計歳出予算補正(第1号)各目明細書」(PDF)。
最高裁判所「令和6年度 裁判所決算の概要」(PDF)1頁。
最高裁判所「令和7年度補正予算の主な事業の執行状況(一般会計)(令和7年度決算時点)」(PDF)1頁。
最高裁判所「令和6年度補正予算の主な事業の執行状況(一般会計)(令和7年度決算時点)」(PDF)1頁。
上記のうち予算関係の資料は裁判所ウェブサイトの令和7年度予算に,決算関係の資料は裁判所の決算に掲げられており,いずれも裁判所の予算・決算・財務書類からたどれる。
このほか,予備費使用額を確かめるため,第221回国会(特別会)に提出された令和7年度一般会計予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書(その1・その2)を全文検索し,裁判所所管の使用がないことを確認した。
3 統計・データ
財務省「予算書・決算書データベース」(bb.mof.go.jp)。令和7年度予算(DL202511001.zip),令和7年度補正予算第1号(DL202521001.zip),令和8年度予算(DL202611001.zip),令和6年度予算(DL202411001.zip),令和6年度補正予算第1号(DL202421001.zip)及び令和6年度決算(DL202477001.zip)を用いた。
いずれも令和8年9月6日に取得し,所管欄又は主管欄が「裁判所」である行を集計したものである。
あわせて,令和6年度決算報告書のPDF(DL202477001.pdf。915頁)の裁判所所管の部分(PDF79頁~85頁。資料上の頁番号は81頁~87頁)を確認した。