平成元年度の最高裁民事破棄判決等について、富越和厚「最高裁民事破棄判決の実情(1)~(6・完)―平成元年度―」(判例時報1353号以下)を通読し、相談、事実調査、第一審・控訴審の起案及び上告理由書等の作成で再利用できる審査順序を整理する。
第1 この記事の対象と資料の位置付け
1 年度記事は重要な二次資料である
年度記事は、1年間の破棄事例を分野横断で把握し、原審の判断がどの点で法令違反、審理不尽又は理由不備とされたかを確認するための重要な二次資料である。他方、年度記事は個別判決本文そのものではない。
個別事件について規範、限定句、事実関係又は結論を述べるときは、判決・決定本文、事件当時の法令、現行法、経過措置及び後続判例を確認する必要がある。本記事では、年度記事から得た横断的な学びと、裁判所公式資料で個別に確認した事項を区別する。
2 判例秘書の確認状態
今回の基礎調査では判例秘書を検索しておらず、状態は「照会0件・ヒット不明・本文確認0件」である。これは、判例秘書に収録されていないこと又は検索して該当がなかったことを意味しない。
第2 平成元年度の破棄判決等の概況
1 判決で終局した284件のうち39件
年度記事によれば、平成元年度に民事事件の判決で終局した事件は284件であり、そのうち原判決を破棄したものは39件である。内訳は、破棄差戻し14件、破棄自判25件であり、職権調査事項に基づく破棄は2件、当事者の上告理由に基づくものは37件と整理されている。
この数字は、年度記事が集計した判決終局事件と破棄判決の関係を示すものである。その年度に係る上告申立て全体を分母とする成功率ではなく、個別事件の勝訴見込みを示す数字でもない。
2 手続問題4件・実体問題35件
年度記事は、手続法上の問題を扱うもの4件、実体法上の問題を扱うもの35件と整理する。また、民集掲載25件、裁判集民事掲載5件、いずれにも掲載されなかったもの9件とされている。
掲載誌の有無は重要度や現在の有効性を直接示すものではない。事件番号と判決本文を特定し、後続判例及び法改正を確認する入口として用いるべきである。
第3 原判決を点検する順序
平成元年度の39件を横断すると、原判決を点検する順序は次のように整理できる。
① 当事者、訴えの利益、管轄、上訴範囲及び職権調査事項という「手続の入口」を先に固定する。
② 請求、抗弁、再抗弁、証拠、認定事実、法的評価及び主文を一対一で対応させる。
③ 証拠から間接事実へ、間接事実から主要事実へ進む推論の各段階を分け、経験則の内容と反対仮説を示す。
④ 契約締結日、登記日、権利移転日、弁済日、解除日、事故日及び判決基準時を一つの時系列にする。
⑤ 条項又は処分の一部に違法・無効の問題があるときは、残部を維持できるか、給付額をどこまで再計算できるかを分ける。
⑥ 破棄差戻しでは、最高裁が確定した法律判断と差戻審でなお審理すべき事実・抗弁を分ける。
第4 手続の入口と判決構造
1 実体論に入る前に入口を閉じる
上告審の審査では、実体法上の中心論点より先に、当事者適格、訴えの利益、上訴の範囲、申立てと主文の対応及び職権調査事項を確認する。実体論が正しくても、入口又は主文との対応を誤れば判決全体が維持できないことがある。
2 請求から主文までを一枚にする
実務では、請求ごとに「請求原因―抗弁―再抗弁―争いのある主要事実―直接証拠―間接事実―経験則―裁判所の認定―主文」を一枚の表又はカードにする。原判決が判断していない請求・抗弁、理由から結論へ飛躍している箇所及び主文に反映されていない判断を発見しやすくなる。
第5 証拠推論と経験則の監査
1 「経験則違反」という結論だけを書かない
経験則違反を主張するときは、単に事実認定が不自然であると述べるのでは足りない。原審がどの証拠からどの間接事実を認定し、どの経験則を用いて主要事実を推認したかを分解し、その経験則が一般性を欠く理由又は重要な反対事情を無視している理由を示す。
2 反対仮説と証拠の欠落を明示する
証拠評価の監査では、原審の仮説と両立する事実だけでなく、反対仮説でも説明できる事実、通常存在するはずなのに欠けている証拠、作成時期・目的・作成者の利害及び供述変遷を確認する。上告理由にまとめる前に、事実審で必要な証拠申出と釈明要求を尽くすことが重要である。
第6 基準時を固定する時系列
1 権利変動と対抗要件は同じ時点とは限らない
権利が実体法上発生・移転した時点と、第三者に対抗できる時点は別である。登記、引渡し、通知、承諾又は法定の公示方法が問題となる事件では、第三者が権利を取得した時点で対抗要件が備わっていたかを確認する。
2 後日の回復が遡及するとは限らない
後日、名義が戻り、債務が弁済され、契約が解除され、又は登記が抹消されても、第三者との関係で過去の時点に遡って対抗要件を回復するとは限らない。事実経過を文章だけで扱わず、日付、主体、法律行為、登記・通知及び証拠を一行ずつ並べる。
第7 借地上建物の譲渡担保と対抗力
最高裁平成元年2月7日第三小法廷判決(昭和60年(オ)第1496号)は、借地人が借地上建物を譲渡担保に供して所有権移転登記をした後、土地を取得した第三者が所有権移転登記を備えた事案を扱った。
最高裁は、土地取得者が登記を備えた時点で、借地人が自己名義の建物登記を有していなかった以上、旧建物保護法1条による借地権の対抗力を認めなかった。借地人が後に被担保債務を弁済し、建物登記名義を回復しても、土地取得者に対する関係で当然に過去へ遡るものではないとした上で、土地取得者がいわゆる背信的悪意者に当たるか、その請求が権利濫用となるかについて更に審理させるため差し戻した。
詳しくは、独立記事「借地上建物の名義を譲渡担保で移した場合の借地権の対抗力―最高裁平成元年2月7日判決(AI作成)」で説明する。
第8 年休等を稼働率に算入する賃上げ条項
最高裁平成元年12月22日第二小法廷判決(昭和59年(オ)第303号)は、年間稼働率が80%以下の従業員を翌年度の賃上げ対象から除外する条項について、年次有給休暇、生理休暇、産前産後休業、育児時間、業務上災害による休業及び正当な争議行為等を欠勤として算入する部分の効力を問題とした。
最高裁は、稼働率を賃上げの条件とする制度目的に一定の経済的合理性があり得ることを認めつつ、法が保障する権利の行使を抑制し、その趣旨を実質的に失わせる部分は公序に反し無効であるとした。他方、無効部分を除いた残部まで当然に無効となるとはせず、当事者の合理的意思に反しない限り残部を有効とし、賃金額の再計算等のため差し戻した。
詳しくは、独立記事「年休・産前産後休業等を稼働率に算入する賃上げ条項の効力―最高裁平成元年12月22日判決(AI作成)」で説明する。
第9 一部無効と差戻し後の計算
1 違法部分と制度全体を分ける
複合的な就業規則、労働協約、約款又は契約条項では、問題のある要素を特定し、その要素を除いても制度の目的・計算構造が維持できるかを確認する。全体を一括して有効又は無効とするのではなく、保護法益、文言、当事者の合理的意思及び残部の機能可能性を検討する。
2 差戻しは最終勝訴ではない
破棄差戻し判決では、最高裁が確定した法的規範、否定した原審の理由、前提とした事実、差戻審で残る事実・抗弁、再計算に必要な資料及び相手方に残る反論を区別する。「最高裁で勝った」と説明するだけでは足りず、差戻審で何を立証し、どの範囲の給付を求めるかを具体化する。
第10 旧法判例を現在の事件に用いる手順
平成元年判決には、旧建物保護法その他の旧法を適用したものが含まれる。現在の事件へ用いるときは、事件発生日又は法律行為日、当時の条文、現行条文、施行日、経過措置、改正理由及び後続判例を確認する。
旧法判例の事案処理を現行法へそのまま移すのではなく、現在も維持される抽象的な考え方と、法改正により変更された要件・効果を分ける。本記事の借地事件についても、旧建物保護法の判示と現行の借地借家法10条の条文を同一視しない。
第11 相談・起案用チェックリスト
① 実体論の前に、当事者、訴えの利益、管轄、上訴範囲及び職権調査事項を確認したか。
② 請求、抗弁、再抗弁、証拠、認定事実、法的評価及び主文を対応させたか。
③ 経験則の内容を言語化し、反対仮説と証拠の欠落を検討したか。
④ 権利発生日、登記日、第三者の権利取得日、弁済日及び回復登記日を一つの時系列にしたか。
⑤ 条項の違法部分と残部を分け、残部の機能可能性と当事者の合理的意思を検討したか。
⑥ 破棄差戻し後に残る事実、抗弁、証拠及び計算を特定したか。
⑦ 旧法、現行法、施行日、経過措置及び後続判例を区別したか。
第12 一次資料の確認状態
本記事作成時に、平成元年度の39件のうち、借地上建物の譲渡担保に関する最高裁平成元年2月7日判決及び年休等を稼働率に算入する賃上げ条項に関する最高裁平成元年12月22日判決の2件について、裁判所公式PDFの全文を確認した。
残る37件は、年度記事による問題把握にとどまり、今回、全ての判決本文及び後続判例との照合を完了したものではない。年度記事の横断的な学びを個別事件の法命題として引用せず、必要な事件ごとに事件番号、判決本文、掲載誌、現行法及び後続判例を確認する。
第13 参考資料
① 富越和厚「最高裁民事破棄判決の実情(1)~(6・完)―平成元年度―」判例時報1353号以下(二次資料)
② 裁判所・裁判例検索
③ 最高裁平成元年2月7日第三小法廷判決(昭和60年(オ)第1496号)
④ 最高裁平成元年12月22日第二小法廷判決(昭和59年(オ)第303号)
⑤ 最高裁の破棄判決等一覧表(平成25年4月以降の分),及び最高裁民事破棄判決等の実情
⑥ 上告審に関するメモ書き(AIリライト)
(本記事はAIが作成した一般的な解説であり、個別事件に対する法的助言ではない。具体的事件では、最新の法令、判決・決定全文、事件記録、後続判例及び経過措置を確認する必要がある。)