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企業法務・契約

生成AIやクラウドの高額な利用料の請求を争えるか―ダイヤルQ2事件の最高裁判決の射程と下級審の裁判例(AI作成)

目次第1 本記事の対象1 問題となる場面2 結論の要旨第2 ダイヤルQ2事件の最高裁判決1 事案2 判断3 同じ日の最高裁判決(情報料と従業員による利用)4 判決の理由から見た射程第3 その後の下級審の裁判例1 注意喚起の義務違反を認めた例2 支払義務を認めた例3 第三者による不正利用4 最高裁判決の考え方を約款の免責条項に及ぼした例第4 生成AI・クラウドの利用料への当てはめ1 裁判例の状況2 会社が契約者である場合3 個人が契約者である場合4 請求を受けたときに確認すること第5 関連する山中弁護士ブログの記事第6 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 判例秘書で確認した裁判例(裁判所ウェブサイト未掲載)4 事業者の規約・公表資料
第1 本記事の対象
1 問題となる場面

生成AIやクラウドサービスの多くは,使った量に応じて利用料が決まる従量課金である。
社員の使いすぎ,AIエージェントの長時間の自律稼働,APIキー(プログラムからサービスを呼び出すための鍵)の漏洩による第三者の利用などによって,利用料が想定をはるかに超えることがある。
本記事は,このような高額な利用料を請求された契約者が,サービス提供者に対してその支払を争うことができるかを,ダイヤルQ2事件の最高裁判決とその後の下級審の裁判例に沿って整理するものである。

利用料が予算を超えないように契約の段階で確認すべき事項は生成AIの利用料が予算を超えないために―従量課金の約款で確認する5項目と社内規程の定め方で,使いすぎた社員に会社が負担を求めることができるかは社員のミスやAIの使いすぎで会社が損害を受けたとき,本人に請求できるか―茨石事件・福山通運事件と労働基準法16条・24条で扱っている。
本記事の記載は,令和8年9月13日時点の法令,裁判例及び公表資料に基づく。

2 結論の要旨

①最高裁平成13年3月27日第三小法廷判決(いわゆるダイヤルQ2事件)は,契約者の未成年の子が無断で有料情報サービスを利用して通話料が高額になった事案で,通話料の請求を信義則上5割に制限した。
②同判決は,事業者が新たなサービスの危険性の周知と防止の対策を十分に果たさず,契約者がその内容や危険性を具体的に認識していなかったことを理由としており,支出上限や通知の機能が提供されている現在の企業向けサービスにそのまま当てはまるものではないと考えられる。
③同じ日の別の最高裁判決は,会社の社宅に住み込む従業員が無断で利用した通話料について,会社は従業員に求償し得たとして,会社に全額の支払義務を認めた。
④その後の下級審で通信料金の支払義務を一部でも否定したのは,裁判所ウェブサイトで確認できた範囲では,高額化を容易に認識できたのに注意喚起をしなかった事業者の義務違反を認めた京都地裁平成24年1月12日判決にとどまり,法人の契約者には全額の支払義務を認めた例がある。
⑤生成AIやクラウドの利用料そのものについての裁判例は,裁判所ウェブサイト及び判例秘書では見当たらなかった。
⑥会社が契約者であれば消費者契約法は適用されず,支出上限や通知の設定を怠っていた場合には,請求を争うことは難しいと考えられる。

第2 ダイヤルQ2事件の最高裁判決
1 事案

最高裁平成13年3月27日第三小法廷判決(平成7年(オ)第1659号,民集55巻2号434頁)の上告人は,日本電信電話公社の権利義務を承継した電気通信事業者であり,平成元年7月から,有料情報サービスの情報料を情報提供者に代わって回収する事業(ダイヤルQ2事業)を行っていた。
被上告人の子(当時中学3年生)は,平成3年1月から2月初めにかけて,被上告人の自宅の加入電話から,被上告人の承諾なしにQ2情報サービスを利用した。
当時の電話サービス契約約款118条1項は,加入電話契約者は,その契約者回線から行った通話については,加入電話契約者以外の者が行ったものであっても,所定の通話料金の支払を要する旨定めていた。
上告人は,この約款に基づいて,Q2情報サービスの利用に係る通話料(平成3年2月分として8万円余りなど)の支払を求めたが,原審は,この請求は信義則に反し許されないとして,全部を棄却した。

2 判断
(1) 事業者の責務

同判決は,Q2情報サービスが通話料の高額化に容易に結び付く危険を内包していたことから,公益的事業者である上告人としては,一般家庭に広く普及していた加入電話から一般的に利用可能な形で事業を開始するに当たって,「同サービスの内容やその危険性等につき具体的かつ十分な周知を図るとともに,その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき責務があったというべきである。」とした。
その上で,本件の事態は,危険性等の周知と対策の実施がまだ十分とはいえなかった平成3年当時,契約者が同サービスの内容や危険性を具体的に認識していない状態の下で,未成年の子による多数回・長時間の無断利用によって生じたものであり,上告人が責務を十分に果たさなかったことによって生じたものであるとした。

(2) 5割の限度

同判決は,「被上告人が料金高額化の事実及びその原因を認識してこれに対する措置を講ずることが可能となるまでの間に発生した通話料についてまで,本件約款118条1項の規定が存在することの一事をもって被上告人にその全部を負担させるべきものとすることは,信義則ないし衡平の観念に照らして直ちに是認し難いというべきである。」とした。
そして,「加入電話の使用とその管理については加入電話契約者においてこれを決し得る立場にある」ことなどの事情を考慮して,その限度は「本件通話料の金額の5割をもって相当とし」,これを超える部分の請求は許されないとして,通話料の5割に当たる約5万円と遅延損害金の限度で請求を認めた。
補足意見の一つは,新たに発生した利用料金の負担について,「両当事者が平等に負担することが最も衡平妥当な解決であると考える。」と述べている。

3 同じ日の最高裁判決(情報料と従業員による利用)

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生成AIの利用料が予算を超えないために―従量課金の約款で確認する5項目と社内規程の定め方(AI作成)

目次第1 本記事の対象1 予算超過が起きている場面2 本記事の範囲と基準日第2 料金の型と利用料が膨らむ仕組み1 従量課金と利用上限付きの定額2 利用料が膨らむ仕組み第3 約款で確認する5項目1 課金方式と上限の単位2 上限に達したときの扱い3 予算と通知の機能4 料金と約款の変更5 アカウントでの利用の責任第4 社内規程で定める事項1 規程の位置付け2 定めておく事項3 定めてはならないこと4 全面的な禁止は避ける第5 関連する山中弁護士ブログの記事第6 出典・参考資料1 法令2 事業者の規約・公表資料3 調査・報道
第1 本記事の対象
1 予算超過が起きている場面

日本経済新聞の令和8年9月10日の記事は,複数の大規模言語モデルを選べる企業向けAIサービスを使う日用品メーカーで,月々の予算を約200万円超過する状態が令和8年4月から6月まで続いたと報じている。
同じ記事は,同社の契約では利用量が一定の範囲に収まれば定額で済むが,超えると超過分が加算される仕組みであり,利用量の上限が個人単位ではなく企業単位で決まっていたこと,発行アカウント数の1%にも満たない利用者が利用量の8割近くを占めていたことも報じている。
同じ記事は,採用書類の点検にAIを使っていた会社で,半月ほどで1か月分の予算を使い切ってAIが使えなくなった例も紹介している。
これらは報道による事例であり,本記事では当事者の公表資料までは確認していない。

株式会社LayerXが令和8年6月30日に公表した調査(同年6月12日~13日,AI利用コストを管理・把握している担当者400名へのインターネット調査)では,会社全体の月間のAI利用コストの平均は約274万円であり,73.3%が,AI利用コストが既に経営課題になっている又は1年以内に経営課題になると回答している。

2 本記事の範囲と基準日

本記事は,会社が事業のために契約する生成AIサービスについて,利用料が予算を超えないように契約の段階で確認すべき事項と,社内規程で定めておくべき事項を整理するものである。
社員が使いすぎた場合に本人へ負担を求めることができるかは,社員のミスやAIの使いすぎで会社が損害を受けたとき,本人に請求できるか―茨石事件・福山通運事件と労働基準法16条・24条で扱っている。
料金の体系と規約は短い期間で変わるため,本記事の記載は令和8年9月13日時点で各社の公表資料を確認した結果である。
ただし,第2の1(1)の料金の例及び第3の4(1)の値下げの記載は,令和8年9月25日に更新したものである。
第3の4(1)のClaude Sonnet 5.5の記載は,令和8年10月1日に追記したものである。

第2 料金の型と利用料が膨らむ仕組み
1 従量課金と利用上限付きの定額
(1) 従量課金

API(プログラムから生成AIを呼び出す方式)の利用料は,入力と出力のトークン(AIが文章を処理する単位)の量に単価を掛けて計算するのが一般的である。
Anthropicの料金表は,モデルごとに100万トークン当たりの入力単価と出力単価を示しており,例えば同社のClaude Opus 5.5は入力4ドル,出力20ドルである(令和8年9月22日公表。前のClaude Opus 5は入力5ドル,出力25ドル)。
このように使った分だけ課金される方式では,利用が止まらない限り利用料も増え続ける。

(2) 利用上限付きの定額と追加利用

利用者ごとの定額プランでは,一定の利用量の上限が設けられていることが多い。
Anthropicの料金ページは,同社の有料プランの利用量を5時間ごとの枠で管理し,有料プランには週ごとの上限もあるとしている。
同社のヘルプセンターによれば,上限に達した後も使い続けるには利用者が設定画面で追加利用(usage credits)を有効にする必要があり,その利用分は標準のAPI単価で課金される。
つまり,定額プランでも,追加利用を有効にした時点で従量課金に移ることになる。

GitHubは,令和8年6月1日から,GitHub Copilotの全プランを利用量に応じた課金に移し,各プランに月ごとの込みの利用枠を設けた上で,込みの枠を使い切ったときに安価なモデルへ切り替わる仕組みを廃止したと公表している。
定額の範囲で使えると考えていたサービスでも,提供者の方針で課金の方式が変わることがある。

2 利用料が膨らむ仕組み
(1) 出力と思考の課金

Anthropicの料金表では,現行のモデルはいずれも出力の単価が入力の単価の5倍である。

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金型・治具の無償保管を解消する実務―保管料・返却・廃棄承認と図面の取扱い(AI作成)

第1 型の保管と製造委託を一緒に確認する第2 所有権と事実上の管理を区別する第3 1年間の無償保管期間があるわけではない第4 最初に作る型の台帳第5 保管費用の協議を具体化する1 外部倉庫の賃料だけに限定しない2 費用計算の説明例3 過去の保管費と将来の条件を分ける4 過去の保管費を是正対象とした勧告5 民事請求の根拠を分けて組み立てる6 無償合意がある場合の処理7 金額立証のための台帳と証拠8 保管費・作業費・運送費の計算例9 時効と権利保全第6 返却・廃棄は回答期限と実行まで決める1 所有権と処分権限を確認する2 無回答後の廃棄を違法としなかった裁判例3 返還の提供と増加費用を記録する4 第三者倉庫・供託・競売代価の供託5 引取り・撤去請求と留置権6 保管継続・返還・処分の通知書案第7 型の納入と図面・CADデータの引渡しを分ける1 図面が発注内容に含まれていたか2 物の所有権と情報の利用権は別に決める第8 基本契約と社内運用に反映する第9 出典

第1 型の保管と製造委託を一緒に確認する

量産に使った金型や治具について,次の発注時期が決まらないまま受注者の倉庫で保管が続き,返却も廃棄も進まないことがある。
この問題は,型の所有者を確認するだけでは解決しない。
誰のために保管しているか,誰が廃棄を決められるか,保管期間中の費用を誰が負担するかを確認する必要がある。

本記事は令和8年9月10日現在の法令及び公正取引委員会の公表資料に基づき,取適法対象の製造委託に伴う型等の保管を中心に説明する。
台帳,費用計算及び協議手順は,本記事が示す実務上の提案である。
制度全体は,取適法の企業実務を参照されたい。

第2 所有権と事実上の管理を区別する

公取委Q&A・Q119は,部品等の発注を長期間行わない等の事情があるにもかかわらず,保管費用を支払わずに型等を保管させる場合には,不当な経済上の利益の提供要請に当たるおそれがあるとしている。
同Q&Aの型等には,金型,木型,治具,検具及び製造設備等が含まれる。

発注者所有の型だけでなく,他の者が所有し,発注者が事実上管理している型も対象となる。
例えば,受注者所有であっても,廃棄に発注者の承認が必要な場合が挙げられている。
「受注者の資産だから,保管料は一切支払わない」という処理は適切でない。

他方,型等の保管に関するこの説明と,取適法2条1項によってその型・工具自体の製造委託が対象となる範囲は,区別する必要がある。
同項が対象とするのは,所定の物品等の製造に専ら用いる成形用の型や特殊な工具等であり,あらゆる汎用機械の購入を一律に製造委託とするものではない(取適法2条1項,運用基準第2の1-1)。

第3 1年間の無償保管期間があるわけではない

Q119には,長期間発注がない場合のほか,受注者が廃棄・引取りを希望している場合,次回の具体的な発注時期を示せない場合,再使用が想定されていない場合が挙げられている。
これらは個別の事情を示すものであり,最終稼働から1年間は常に無償保管を求めてよいという基準ではない。

また,受注者が請求していないことを理由として,当然に保管費用の支払が不要になるわけではない。

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特許保証と知財紛争の責任転嫁―発注者指定の設計では誰が責任を負うか(AI作成)

第1 特許保証の条項で何を約束しているか第2 設計・仕様の決定に誰が関与したかを確認する1 発注者の指示だから受注者が全て負担するとはいえない2 責任分担の協議に使う整理表第3 非侵害保証と調査義務を分ける1 調査したことと非侵害の保証は同じではない2 調査条件を具体化する交渉文案第4 紛争対応は通知・協力・費用・和解に分ける1 非侵害保証と紛争対応を扱った一審・控訴審2 侵害が立証されなくても対応義務違反が残る3 和解・ライセンス契約の締結権限を明示する4 紛争対応で準備する資料第5 賠償範囲と上限を契約全体で確認する1 一般賠償条項との関係を明示する2 上限がないことと違法性を直結させない第6 帰属・図面の引渡しと紛争責任を混同しない1 著作権全部譲渡でも著作者人格権は移転しない第7 公的モデル契約を条文ごとに比較する1 比較対象と法的な位置付け2 保証・責任負担・上限の違い3 知財帰属・情報開示・優先関係・存続条項4 知財取引指針と裁判例の関係5 製造委託向けの補充条項案第8 修正協議に持参する資料第9 出典

第1 特許保証の条項で何を約束しているか

製造委託契約には,納入品が第三者の知的財産権を侵害しないことを受注者に保証させ,紛争が起きた場合の解決と費用負担も受注者に求める条項が置かれることがある。
審査では,非侵害の保証,事前調査,紛争への対応及び最終的な金銭負担を分け,仕様を決めた者とリスクを負担する者の関係を確認する必要がある。

本記事は令和8年9月10日現在の公表資料に基づく。
中心となる資料は,公正取引委員会・中小企業庁・特許庁が令和8年6月24日に公表した知財取引指針であり,特に同指針57頁~61頁の知財訴訟等のリスク転嫁を扱う。
指針は裁判の判決ではなく,独占禁止法等に関する行政上の考え方と,望ましい取引・契約上の対応を示した資料である。

第2 設計・仕様の決定に誰が関与したかを確認する

1 発注者の指示だから受注者が全て負担するとはいえない

指針は,発注者の指示に基づく業務について,責任の所在を考慮しないまま,第三者との知財紛争の責任・負担を受注者へ一方的に転嫁することを問題としている。
発注者だけに帰責事由がある場合と,受注者にも帰責事由がある場合を区別し,後者では双方の帰責事由の内容や得た利益等に応じた分担を示している(知財取引指針57頁~59頁)。

したがって,受注者が加工・製造を行ったという事実だけで,全ての知財責任を負担させてよいとはいえない。
反対に,発注者が仕様書を交付したというだけで,受注者独自の設計変更や技術の採用に関する責任まで当然に発注者へ移るわけでもない。

2 責任分担の協議に使う整理表

仕様等の決まり方確認する資料協議すべき事項発注者が具体的な構造・技術を指定図面,仕様書,指定理由,変更履歴指定部分の調査・許諾取得・紛争費用受注者が独自の構造・技術を提案提案書,採否の経緯,技術資料提案部分についての調査範囲と保証条件双方が設計・改良に関与会議記録,設計分担,承認記録各寄与と責任原因に応じた分担納入後に発注者等が改変・組合せ変更後の仕様,組合せ,使用方法当初の合意範囲との相違と追加の調査他社の技術・部品を使うことが指定指定書,ライセンス条件,提供元の説明許諾の取得者,対価,利用範囲の確認

この表は責任を機械的に割り振るものではなく,本記事が提案する事実確認の枠組みである。
最終的な負担は,指示内容だけでなく,危険の認識,調査の合意,対価その他の事情を踏まえて定める。

第3 非侵害保証と調査義務を分ける

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取適法の返品・やり直しと保証期間―6か月・1年・顧客保証の違い(AI作成)

第1 6か月と1年は何の期間か第2 請求する対応を先に特定する第3 返品は検査方法と不適合の発見可能性で分ける1 受注者に責任がない返品はできない2 通常の検査で分かる不適合と抜取検査3 直ちに発見できない不適合と6か月の制限4 通知した時期と実際に返品する時期を区別する第4 無償のやり直しと1年を超える保証1 不適合の原因と追加費用を確認する2 直ちに発見できない不適合の原則と例外第5 民法・商法・契約の期間と並べて読む第6 契約審査とクレーム対応で使う確認表第7 返品できないことと全ての責任が消えることは異なる第8 出典

第1 6か月と1年は何の期間か

製造委託の契約書に6か月又は1年の保証期間が書かれていても,その期間だけで返品,無償修補,代金減額及び損害賠償の可否を一括して判断することはできない。
取適法上の返品・やり直しの制限,民法・商法の通知等の期間,契約で合意した責任期間及び消滅時効は,対象と起算点が異なる。

本記事は令和8年9月10日現在の法令及び公正取引委員会の公表資料に基づき,取適法の適用を受ける製造委託を中心に説明する。
以下でいう受領は,単に発注者が検収合格を通知した日を指すものではない。
取適法の適用範囲は,取適法に関するメモ書きを参照されたい。

第2 請求する対応を先に特定する

求める対応主に確認する取適法の規定期間以外の重要事項納入された物を受け取らない5条1項1号の受領拒否受注者に責任のある理由があるか受領済みの物を引き取らせる5条1項4号の返品検査の実施・委任,不適合,返す時期修補・再製作等をさせる5条2項3号のやり直し仕様との相違,責任原因,追加費用の負担代金から差し引く5条1項3号の減額等受注者の責任,控除額,算定根拠損害賠償・補償を請求する契約・民法等と取適法の関係義務違反,帰責事由,損害,因果関係,責任制限

上表の根拠は,取適法5条及び運用基準第4である。
同じ品質クレームでも,どの対応を求めているかによって検討が変わる。
名称を損害賠償に変えるだけで,実質的な代金減額や不当な費用転嫁が適法になるわけではない。

第3 返品は検査方法と不適合の発見可能性で分ける

1 受注者に責任がない返品はできない

取適法5条1項4号は,受注者に責任のない受領後の返品を禁止する。
販売不振,発注者の顧客の都合又は在庫過多だけを理由として,合意した仕様どおりの製品を返すことはできない。
仕様が明示されていない,検査基準が不明確である,検査基準を後から恣意的に厳しくしたという場合も,受注者の不適合を当然の前提にできない。

2 通常の検査で分かる不適合と抜取検査

明示された委託内容と異なる等の理由による返品は,原則として受領後速やかに行う必要がある。

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製造委託の取引基本契約書を受注者側から審査するポイント―取適法・損害賠償・相殺・契約終了(AI作成)

第1 受注者側の契約審査で確認する三つの問題第2 基本契約だけでなく注文書・仕様書を一緒に読む1 文書相互の関係を確認する2 発注明示と受注の意思表示を混同しない第3 条項ごとに確認する事項第4 受領・検査・支払を分けて定める第5 保証・損害賠償・PLを関連付けて審査する1 契約不適合の条項だけで責任が終わるとは限らない2 責任上限は適用対象と例外まで定める3 被害者に対する責任と当事者間の費用負担を分ける4 責任制限条項の有効性と裁判例5 上限を設けても残る適用範囲の問題6 回収費用の請求根拠と立証7 PL保険の補償対象外となる費用8 リコール保険の対象と特約を照合する9 保険法と事故対応の注意点10 保険金額と契約上限の計算例11 回収費用と責任上限の交渉文案第6 クレーム代の相殺・控除を点検する第7 仕様変更・価格協議・契約終了の精算を定める第8 型・図面・知財の条項を接続する第9 契約修正を実際の運用につなげる第10 出典

第1 受注者側の契約審査で確認する三つの問題

製造委託の取引基本契約書を受注者側から審査するときは,①取適法が適用される取引か,②実際の発注・受領・支払等が同法の禁止行為に当たらないか,③受注者が契約上どの範囲の保証・損害賠償責任を負うかを順に確認する。
取適法を遵守する旨の条項を加えるだけでは,仕様変更の費用,第三者との紛争,契約終了時の精算等が具体的に決まるわけではない。

本記事は令和8年9月10日現在の日本法と公正取引委員会の公表資料に基づき,国内の製造委託を中心に,受注企業の契約担当者が確認すべき事項を説明する。
以下の条項例・管理方法は,法定のひな形ではなく,本記事が示す交渉・運用上の提案である。

取適法の適用は契約名ではなく取引実態と規模要件で決まる。
規格品の通常の購入と仕様等を指定した製造委託を区別し,資本金基準で適用が決まらない場合には従業員基準も確認する。
継続的な基本契約があっても,令和8年1月1日前後の個別発注は区別する必要がある(取適法2条及び改正法附則)。
適用範囲の詳しい説明は,取適法に関するメモ書きを参照されたい。

第2 基本契約だけでなく注文書・仕様書を一緒に読む

1 文書相互の関係を確認する

基本契約,個別注文書,仕様書,図面,品質保証協定,購買条件及び変更覚書を一組として読む。
基本契約の責任を軽減しても,注文書に別の包括的な補償義務が置かれ,その注文書が優先すると定められていれば,修正の効果が失われるおそれがある。

実務上は,優先順位を定めるだけでなく,変更する条項と対象取引を特定する。
例えば「本覚書の第○項は,本基本契約及び対象となる個別契約の損害賠償条項に優先して適用する」と定め,別の品質協定にも同じ趣旨を反映する方法が考えられる。
発注者のウェブサイトに掲載された購買条件を参照する場合には,適用する版と改定時の合意手続も確認する。

2 発注明示と受注の意思表示を混同しない

取適法4条は,委託後直ちに取引条件を明示する義務を定めている。
これは,注文の承諾があったかという契約成立の問題とは別に確認する事項である。

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令和8年改正個人情報保護法と委託契約-クラウド・生成AI利用で見直す事項(第30条の3・第58条の2)(AI作成)

第1 記事の対象と結論第2 現行法上の三類型1 サービス提供者が個人データを取り扱わないクラウド利用2 サービス提供者が委託業務として個人情報を取り扱う場合3 サービス提供者が自己の目的でも利用する場合第3 改正法第30条の31 委託先等に対する直接の利用範囲制限2 対象情報と必要な範囲第4 改正法第58条の21 契約を基礎とする特例の条件2 特例によっても残る義務3 現時点で確定していない事項第5 クラウド及び生成AIへの当てはめ1 「学習利用なし」だけでは足りないこと2 契約,設定及び実装を一体で確認すること3 国外処理及び再委託第6 委託契約の確認事項1 目的,対象及び二次利用2 安全管理,再委託及び国外処理3 報告,削除及び変更管理4 認可仕様及び受入試験第7 導入及び見直しの手順第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 個人情報保護委員会の解説・Q&A・運用資料

第1 記事の対象と結論

令和8年改正個人情報保護法の施行に備えた委託契約の見直しでは,サービス提供者が実際に何をするかが出発点となる。
本記事では,クラウド及び生成AIの利用を機能ごとに三類型へ分け,二次利用,ログ,再委託,国外処理,報告及び削除を契約へ反映する方法を検討する。
特に,改正法第30条の3は委託先等に委託業務の必要範囲を超える利用を直接禁止し,改正法第58条の2は一定の処理者について契約及び実際の取扱いを条件とする特例を設けるものであるから,契約書の名称又は「学習利用なし」という表示だけで結論を出すべきではない。

本記事は,令和8年9月7日時点で公表されている令和8年法律第56号,個人情報保護委員会の改正法資料及び現行Q&Aに基づく一般的な整理である。
同法は令和8年7月10日に成立し,同月17日に公布されたが,第30条の3及び第58条の2を含む主要部分の具体的な施行日は,公布の日から2年以内の政令で定める日とされており,本記事の基準日現在では確定していない。
また,第58条の2の契約事項及び取扱方法の細目は個人情報保護委員会規則等に委ねられているため,今後の規則,ガイドライン及びQ&Aによって契約実務を更新する必要がある。

第2 現行法上の三類型

1 サービス提供者が個人データを取り扱わないクラウド利用

クラウドサービスの利用が個人データの第三者提供又は取扱いの委託に当たるかは,サーバに個人データを保存するという外形だけでなく,サービス提供者が当該個人データを取り扱うこととなっているかによって判断される。
個人情報保護委員会のQ&A7-53は,契約条項によってサービス提供者が個人データを取り扱わないこと及び適切なアクセス制御が確保されている場合には,個人データの提供に当たらず,現行法第25条の委託先監督義務も生じないとする。

もっとも,この場合でも利用者である事業者自身の安全管理措置義務がなくなるわけではない。
Q&A7-54が示すとおり,クラウド環境を利用する事業者は,保存した個人データについて自ら安全管理措置を講ずる必要がある。

2 サービス提供者が委託業務として個人情報を取り扱う場合

サービス提供者が,入力,集計,保管,検索,要約又は応答生成等のために個人情報を取り扱う場合は,取扱いの委託に当たるかを検討する必要がある。
現行法上,個人データの取扱いを委託する場合には,第25条による必要かつ適切な監督が必要となり,委託先の選定,契約及び取扱状況の把握を組み合わせることになる。

個人情報保護委員会のQ&A5-11は,定型的業務の委託について,外部事業者の約款等を吟味し,その遵守によって個人データの安全管理が図られると判断できる場合,自己の社内規を守らせる覚書の追加締結までは必須でないと説明する。
しかし,改正法第58条の2の特例を用いる場合には同条所定の契約事項が必要となるため,現行法上の委託先監督の方法と同条の適用条件を混同してはならない。

(続きを読む...)令和8年改正個人情報保護法と委託契約-クラウド・生成AI利用で見直す事項(第30条の3・第58条の2)(AI作成)

約束手形利用廃止と支払条件の見直し―取適法・支払告示・銀行期限(AI作成)

第1 三つの期限を混同しない第2 取適法対象発注では手形払自体が禁止される1 発注日で新旧法を分ける2 支払期日は受領日等から数える3 電子化するだけでは足りない第3 令和9年施行の支払告示は取適法の単純な規模拡張ではない1 対象取引と施行日2 取引上の地位が劣るかを個別に判断する3 正当な理由は形式的な合意だけでは足りない第4 令和8年9月2日要請には三つの層がある1 法的義務・施行準備・行政要請を分ける2 制度対象外でも60日以内化と現金払化が求められている第5 銀行期限を確認して決済実務を切り替える1 電子交換所の交換終了日2 最終振出期限は金融機関ごとに確認する3 紙から電子への置換えで終わらせない第6 企業実務の確認表1 支払手段の切替えと資金繰り2 クレーム代の控除と有償支給材の決済第7 関連記事第8 出典1 法令2 公正取引委員会及び中小企業庁の資料3 決済制度の資料

第1 三つの期限を混同しない

約束手形の利用廃止を進める際は,令和8年1月1日,令和8年9月30日及び令和9年3月31日という三つの日付を区別する必要がある。
それぞれは,取適法の施行,多くの金融機関が設定した最終振出期限及び電子交換所における手形・小切手の交換終了という異なる事柄に関する日付である。

令和8年1月1日は,中小受託取引適正化法(以下「取適法」という。)の施行日である。
同日以後に行われた取適法対象の発注では,手形サイトの長短を問わず,約束手形による支払自体が禁止される。

令和8年9月30日は,公正取引委員会及び中小企業庁が令和8年9月2日に公表した要請文で,多くの金融機関が手形・小切手の最終振出期限として設定していると説明された日である。
全金融機関に共通する法定期限ではないため,自社が利用する金融機関の受付期限を個別に確認しなければならない。

令和9年3月31日は,電子交換所における手形・小切手の交換終了日である。
手形法が廃止される日でも,手形債権が一律に消滅する日でもない。

第2 取適法対象発注では手形払自体が禁止される
1 発注日で新旧法を分ける

取適法の手形払禁止は,令和8年1月1日以後に行われた対象発注に適用される。
同日前の発注には原則として改正前の下請法が適用されるため,支払日だけで新旧法を振り分けてはならない。

取適法の対象となるかは,製造委託,修理委託,情報成果物作成委託,役務提供委託又は特定運送委託のいずれに当たるかを確認した上で,資本金基準を確認し,それで決まらない場合に従業員基準を確認して判断する。
通常の商品購入や自社利用の役務など,対象となる委託に当たらない取引まで一律に処理する必要はない。

2 支払期日は受領日等から数える

取適法3条は,給付を受領した日から起算して60日の期間内で,かつ,できる限り短い期間内に支払期日を定めることを求める。
役務提供委託では,役務が提供された日が起算点となる。

請求書の到着,検査の終了,締日,元請からの入金又は従前の手形満期を起算点へ置き換えることはできない。
受注者から支払時期の希望が示された場合や,当事者間に合意がある場合でも,それだけで取適法違反が解消するわけではない(公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」Q77~Q79)。

3 電子化するだけでは足りない

取適法5条1項2号は,手形だけでなく,支払期日までに代金相当額の金銭と引き換えることが困難な支払手段も支払遅延に含める。
電子記録債権,一括決済方式又はファクタリングに切り替えても,受注者が支払期日までに代金全額の現金を取得できない設計は原則として認められない。

公正取引委員会のQ&Aは,満期日が支払期日より後で,受注者が割引操作をしなければ支払期日に現金を得られない仕組みについて,発注者が割引料を負担しても支払遅延に当たるとしている。
受取手数料その他の費用を受注者へ負担させることも,当事者間の合意の有無にかかわらず問題となる(同Q&A・Q80~Q82)。

第3 令和9年施行の支払告示は取適法の単純な規模拡張ではない
1 対象取引と施行日

製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法(令和8年公正取引委員会告示第3号。以下「支払告示」という。)は,令和9年4月1日に施行される。
対象となる「製造委託等」は取適法2条6項の取引類型と同じであるが,取適法の資本金基準又は従業員基準を満たすことは要件とされていない。

もっとも,支払告示は取適法の全ての義務及び禁止行為を規模要件外の取引へ広げる制度ではない。
支払告示が規制するのは,対象となる製造委託等について,正当な理由なく,受領日又は役務提供日から60日を経過した後も代金を支払わない行為である。

2 取引上の地位が劣るかを個別に判断する

支払告示は,受託事業者の取引上の地位が委託事業者に対して劣っていないと認められる場合を除外している。
したがって,資本金又は従業員数だけで適用を決めることはできない。

支払告示の運用基準は,①委託事業者に対する取引依存度,②委託事業者の市場における地位,③取引先変更の可能性,④その委託取引を行う必要性を総合考慮するとしている。
取引基本契約だけでなく,売上構成,代替取引先,設備・人員の専用性及び取引継続の必要性を確認することになる。

3 正当な理由は形式的な合意だけでは足りない

運用基準は,支払期日について事前の実質的な協議により合意し,60日を超えることに合理的な理由がある場合などを,正当な理由が認められ得る例としている。
発注者が一方的に定めた支払条件,形式的な同意書又は業界慣行だけで,当然に正当な理由が認められるわけではない。

受託事業者の事前の同意を得た上で,60日超の支払に伴う金利負担その他の損失を補填することなども例示されている。
実務では,協議の経過,合理的理由,受託者の同意及び損失補填の内容を記録しておく必要がある。

第4 令和8年9月2日要請には三つの層がある
1 法的義務・施行準備・行政要請を分ける

公正取引委員会及び中小企業庁は,令和8年9月2日,約束手形等の利用の廃止及び支払の適正化に向けた取組等に関する要請を公表した。
この要請は,①施行済みの取適法上の法的義務,②令和9年4月1日に施行される支払告示への準備,③これらの対象外の取引も含めた支払条件改善の行政上の要請を重ねて示したものである。

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電子記録債権とは―でんさいの仕組み,譲渡・保証・支払不能(AI作成)

第1 電子記録債権とでんさいの違い

第2 発生・譲渡・支払の仕組み

1 発生記録と譲渡記録

2 決済と支払等記録

第3 譲渡後の責任,抗弁及び時効

1 譲渡人の保証責任

2 譲受人に支払を拒める範囲

3 消滅時効は原則3年

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電子記録債権(でんさい)の決済金は銀行の相殺・商事留置権で回収できるか(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論

1 対象とする場面
2 結論
3 直接の射程外となる場面

第2 でんさい決済で二つの回収根拠が問題となる理由

1 でんさいの発生と口座間送金決済
2 商事留置権と相殺は別の法律構成であること

第3 大分地裁決定から福岡高裁判決までの経過
第4 通常のでんさいに商事留置権が成立しないとされた理由

1 商法521条と破産法66条
2 紙の取立委任手形に関する最高裁判例
3 でんさいには取立委任裏書に相当する制度がないこと
4 学説が示していた制度上の分岐

第5 決済金返還債務と貸金債権を相殺できないとされた理由

1 破産手続開始時に双方の債務が存在する必要があること
2 現実の送金前に預金債務は成立しないこと
3 債権者記録だけでは「前に生じた原因」にならないこと

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動産売買先取特権に基づく転売代金債権の差押え―要件・証拠・申立て・回収手順(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と最初に確認する五つの条件

1 債務名義がなくても申立てができる
2 申立てを急ぐべき理由
3 この手続を進めるかを判断する五つの条件

第2 動産売買先取特権と物上代位の仕組み

1 売買代金を担保する法定の先取特権
2 転売代金債権を差し押さえる物上代位
3 請負代金債権は原則として別に扱われる

第3 申立てで証明すべき四つの事実

1 売主と買主との売買及び未払代金
2 買主と転売先との売買及び転売代金債権
3 二つの取引における商品の同一性

(1) 型番や製造番号がない商品の立証
(2) 転売先への直接納品
(3) 名称,数量及び金額が一致しない場合

4 担保権の存在を証する文書又は電磁的記録

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公益通報の外部窓口を顧問弁護士が担当する場合の問題点と制度設計(AI作成)

第1 顧問弁護士を外部窓口とすることの結論

1 顧問弁護士への委託は一律に禁止されていない

2 顧問弁護士だけを唯一の窓口とすることは望ましくない

3 法定要件を満たす社外法律事務所への通報は1号通報となる

第2 社外窓口を担当する弁護士の役割

1 依頼者は通常,通報者ではなく会社である

2 受付と調査・法的評価・会社代理を区別する必要がある

3 匿名性と調査可能性には緊張関係がある

第3 公益通報者保護法が求める窓口の体制

1 従事者指定と通報者特定情報の秘密保持

2 経営幹部からの独立性と事案関係者の排除

3 令和8年12月1日施行の指針が利益相反対応を明確にする

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トランプ関税による調達コスト増と契約実務――事情変更の原則・改正取適法・価格転嫁の可否(AI作成)

第1 この記事の対象と結論第2 トランプ関税が日本企業の契約関係に及ぶ二つの経路第3 不可抗力条項による免責の可否第4 事情変更の原則による契約改定・解除の限界1 判例上の要件2 適用を否定してきた最高裁判例3 下級審で適用が認められた例外的な事例4 トランプ関税への当てはめと予見可能性の壁第5 下請取引における価格転嫁――改正取適法による保護1 適用対象2 買いたたきの禁止3 価格協議拒否・一方的代金決定の禁止(2026年改正)4 違反時の効果第6 取適法の対象外となる取引・国際取引における価格交渉第7 契約書における不可抗力条項・価格改定条項の設計1 改定事由と協議手続を分けて定める2 協議が調わない場合の終了と既発注分の精算第8 実務上の初期対応順序第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 関連記事

第1 この記事の対象と結論

本記事は,米国の関税措置(いわゆるトランプ関税)によって取引コストが変動した場合に,日本企業が既存の契約関係の中でどのような法的対応を取り得るかを,日本法(民法及び製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律,以下「取適法」という。旧称・下請代金支払遅延等防止法)の観点から整理するものである。米国の関税制度自体の仕組みや現行税率については,別稿「トランプ関税の現在――最高裁判決後の301条・232条・338条と日本への影響」で扱っており,本記事ではこれを前提として,コスト変動が生じた後の契約上・取引法上の対応に絞って検討する。

トランプ関税が日本企業の契約関係に及ぶ経路は,主として二つある。一つは,米国向けに輸出する日本企業が,米国側の買主から,関税負担分を吸収するための値下げを求められる経路である。もう一つは,米国向け輸出比率の高い企業が採算悪化を理由に,国内の下請事業者に対して代金を据え置き又は減額しようとする経路である。前者は主として国際的な取引交渉と契約条項の解釈の問題であり,後者は取適法の規律に直接関わる。

結論を先取りすると,次のとおりである。①契約書に不可抗力条項があっても,関税による採算悪化は履行不能ではなく履行が不利益になるだけであることが多く,免責事由として機能しないことが多い。②民法上の「事情変更の原則」は,最高裁が要件の存在自体は認めながら,実際に適用を認めた例がほとんどなく,特にトランプ関税のように2018年以降繰り返し発動され,予見可能性を否定しにくい事情については,主張のハードルが一段と高い。③他方で,中小の下請事業者がコスト上昇を理由に価格協議を求めたのに,発注者が協議に応じず又は必要な説明をしないまま一方的に代金を決定することは,2026年1月1日施行の改正取適法により明文で禁止されており,この経路の方が現実的な対応手段となり得る。④取適法の対象とならない大企業間取引や国際取引では,契約書の価格改定条項・不可抗力条項の解釈と,通常の商取引上の交渉力に委ねられる部分が大きい。

第2 トランプ関税が日本企業の契約関係に及ぶ二つの経路

米国の関税は,米国内へ物品を持ち込む輸入者が米国税関へ納付する税であり,日本企業が米国へ関税を直接納付するわけではない。しかし,経済的な負担は取引の力関係に応じて分配される。米国側の買主が,増加した関税負担を輸入価格の引下げによって相殺しようとすれば,日本の輸出企業は,既存の契約における代金の減額要求という形でこれに直面する。逆に,米国向け輸出で採算が悪化した日本企業(完成品メーカー等)が,自社の調達コストを圧縮しようとすれば,国内の部品・原材料の下請事業者に対する代金の据置き又は減額という形で影響が波及する。

このほか,鉄鋼・アルミニウム等,通商拡大法232条の対象となった品目については,米国向け輸出の減少や,米国内での代替生産の拡大を通じて,国際商品市況そのものが変動し,米国と直接取引のない日本企業の調達コストにも間接的に影響し得る。以下では,これらの経路によって生じた代金・原価の変動について,契約当事者がとり得る法的手段を検討する。

CPTPPによる関税撤廃・削減は輸入原価を下げる方向に働くが,原産地要件を満たす取引に限られ,米国の追加関税とは別の制度である。
CPTPPの国内法改正,特恵利用額及び農林水産業への影響は,「TPP・CPTPPが日本に与えた具体的影響――法改正・貿易・農業・裁判例の検証(AI作成)」で整理している。

第3 不可抗力条項による免責の可否

契約書に不可抗力(フォース・マジュール)条項が置かれている場合,天災地変,戦争,法令の制定改廃等と並んで,「関税その他の輸入規制の変更」を不可抗力事由として明示的に列挙している例もある。この場合は,条項の文言に該当する限り,債務不履行責任を免れる根拠となり得る。

もっとも,多くの不可抗力条項は,債務の履行そのものが不可能又は著しく困難になった場合を対象としており,関税によって採算が悪化したにとどまり履行自体は可能な場合には適用されないのが通常である。民法上も,当事者双方の責めに帰することができない事由によって履行できなくなったときに反対給付の履行を拒むことができるとする危険負担の規定(民法536条1項)は,履行不能を前提とするものであり,履行が可能だが不利益になったという場合には及ばない。したがって,不可抗力条項に関税変動が明示されていない限り,これによる免責は難しいことが多く,次に述べる事情変更の原則又は価格改定条項による対応を検討することになる。

第4 事情変更の原則による契約改定・解除の限界
1 判例上の要件

事情変更の原則とは,契約締結時に前提とされた事情がその後著しく変化し,当初の契約内容に当事者を拘束することが信義則上著しく不当と認められる場合に,契約の解除又は改訂を認める法理である。民法に明文の規定はないが,判例上その存在自体は認められている。要件の定式化として広く参照されるのは,大阪高判昭和27年7月14日下民集3巻7号962頁が示した,①契約成立時の基礎とされた事情に著しい変更が生じたこと,②その変更を当事者双方が予見せず,かつ予見し得なかったこと,③変更が当事者の責めに帰すべからざる事由によって生じたこと,④当初の契約内容に拘束することが著しく信義衡平に反することという4要件である。

2 適用を否定してきた最高裁判例

最高裁は,事情変更の原則の法理自体を否定してはいないが,実際にこれを適用して契約の解除又は改訂を認めた例は見当たらない。最判昭和29年1月28日民集8巻1号234頁は,家屋の売買契約後に売主の自宅が戦災で焼失し,売却済みの家屋が必要になったという事情について,これは売主の個人的な事情の変化にすぎず,契約の客観的な基礎となった事情の変更とはいえないとして,事情変更による解除を認めなかった。最判昭和29年2月12日民集8巻2号448頁も,同様に事情変更の主張を排斥している。比較的新しい最判平成9年7月1日民集51巻6号2452頁(平成8年(オ)第255号)は,ゴルフクラブの入会契約が締結された後にのり面が崩壊した事案について,予見可能性及び帰責事由の不存在という要件へのあてはめを検討したが,結論としては事情変更の主張を認めなかった。

3 下級審で適用が認められた例外的な事例

他方,下級審では,不動産価格の急激な変動等を理由に事情変更の原則の適用を認めた例も存在する。東京高判昭和30年8月26日下民集6巻8号1698頁(家屋の売買予約後の価格急騰),仙台高判昭和33年4月14日下民集9巻4号666頁(土地の再売買予約における代金改定),札幌地判昭和51年7月30日下民集27巻5~8号457頁(土地売買残代金の増額),大阪高判昭和53年11月29日下民集29巻9~12号335頁(賃貸借契約の解約)などである。これらはいずれも,不動産という個別性の強い財産について,契約締結から履行までの間に生じた大幅な価格変動が問題となった事案であり,量産品の売買や継続的な取引一般に当然に及ぶものではない。

4 トランプ関税への当てはめと予見可能性の壁

トランプ関税を理由に事情変更の原則を主張する場合,最大の障壁となるのは②の予見可能性の要件である。2018年の第一次政権期に既に鉄鋼・アルミニウムへの通商拡大法232条関税や対中301条関税が発動されており,2024年の大統領選挙後は関税政策の拡大が広く報じられ,2025年には現に相互関税等が発動された。このような経過に照らすと,少なくとも2024年後半以降に締結された契約については,関税措置の発動自体を「当事者双方が予見し得なかった事情」と評価することは相当に困難である。これに対し,2018年より前に締結され,その後長期間にわたって同一条件で継続してきた契約について,2025年以降の急激な関税拡大が予見可能であったかは,契約締結時期,業界慣行及び当事者の認識によって個別に評価される余地がある。

いずれにせよ,④の要件(信義則上著しく不当)を満たすには,関税による原価上昇が契約の対価に占める割合,契約全体における損益の変動幅等を具体的な数値で示す必要があり,一般的な「コストが上がった」という主張だけでは足りない。以上の判例動向に照らすと,事情変更の原則は,主張自体は可能であるものの,実際に契約の解除又は改訂を勝ち取る手段としては期待しにくく,次に述べる取適法上の権利行使や,契約書上の価格改定条項の方が現実的な対応となることが多い。

第5 下請取引における価格転嫁――改正取適法による保護
1 適用対象

取適法の適用は,対象となる委託取引と,委託者・受託者の規模要件の組合せで判断する(同法2条)。
単に発注者の資本金が受注者より大きければ適用されるという制度ではなく,取引類型に応じて双方が法定の区分に入るかを確認する必要がある。
資本金基準で適用が決まらない場合には,常時使用する従業員数による基準を確認する。

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暗号資産に関する令和8年金融商品取引法改正の内容と施行時期(AI作成)

第1 令和8年改正の現在地

1 令和8年法律第64号の成立と未施行部分

2 改正の中心と記事の射程

第2 資金決済法から金融商品取引法への移行

1 改正の経過

2 暗号資産は有価証券そのものになるわけではない

第3 暗号資産に関する情報公表制度

1 発行者と取引業者の役割分担

2 継続公表と発行者が特定しにくい暗号資産

3 未監査の発行者による販売上限は未確定である

第4 暗号資産取引等の業規制

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定額小為替の法的根拠――郵便為替法の廃止と戸籍謄本等の職務上請求における使用(AI作成)

第1 この記事が扱う対象
第2 郵便為替法の制定から郵政民営化による廃止まで

1 郵便為替法(昭和23年法律第59号)による国営為替制度
2 郵政民営化による郵便為替法の廃止(平成19年10月1日)
3 現在の定額小為替はゆうちょ銀行の私法上の契約

第3 弁護士が定額小為替を用いる場面――戸籍謄本等・住民票の写しの職務上請求

1 戸籍謄本等の郵送請求(戸籍法10条の2)
2 住民票の写し等の郵送請求(住民基本台帳法12条の3)
3 弁護士会照会との違い

第4 「おつりが出せない」制度設計と手数料標準額の法的根拠

1 地方自治法上の証券納付規定
2 戸籍関係手数料の全国標準額

第5 定額小為替の法的性質を示した裁判例
第6 登記事項証明書・訴訟費用との対比及び消費税の取扱い

1 手数料納付手段の違い
2 消費税の取扱い

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消滅時効に関するメモ書き――起算点,完成猶予・更新,経過措置(AIリライト)

第1 本記事の範囲と,新旧民法の適用関係

1 本記事が扱う範囲

2 時効に関する経過措置

3 論点別の詳しい記事

第2 消滅時効の期間

1 債権の消滅時効の原則と短期消滅時効の廃止

2 生命又は身体の侵害に関する特則

3 判決で確定した権利

4 分野別の時効期間

第3 契約その他の債権の起算点

1 契約不適合責任・瑕疵担保責任

2 保険金

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中央青山監査法人への業務停止処分とみすず監査法人の自主解散(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論

第2 中央青山監査法人とカネボウ事件

1 中央青山監査法人の成立

2 カネボウの決算訂正と上場廃止

3 金融庁による業務の一部停止処分

第3 業務停止後の顧客・人員の移動

1 被監査会社への影響

2 あらた監査法人の発足とみすず監査法人への改称

3 日興コーディアルグループの会計問題

第4 監査業務の移管と自主解散

1 他の監査法人への移管方針

2 社員総会の解散決議

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