でんさいの支払期日に入金がなかった場合,債権者は,債務者への請求,電子記録保証人への請求及び回収資料の確保を並行して検討することになる。
支払不能通知を待つ必要があるか,異議申立てがあれば請求できなくなるか,支払後にどの記録を行うかは,それぞれ別の問題である。
本稿は令和8年10月13日に確認した法令とでんさいネットの業務規程・細則に基づき,支払期日の前後に必要となる対応を整理する。
制度全体の説明は,電子記録債権とは―でんさいの仕組み,譲渡・保証・支払不能を参照されたい。
第1 入金がないときに最初に確認すること
1 支払不能通知が来るまで請求できないのか
支払期日が到来しても支払を受けられなければ,債権者は債務者及び電子記録保証人に支払を請求できる。
でんさいネットの支払不能通知が届くまで待つ必要はない(でんさいネット支払不能でんさいに関するQ&AQ1・Q2)。
支払不能通知の事務処理と,債権者が弁済を請求できる時期は一致しない。
業務規程47条は支払期日の3銀行営業日後に通知する仕組みを定めているが,通知日を新たな支払期日や時効の起算点と考えてはならない。
まず,記録された支払期日と実際の入金,窓口金融機関の決済状況を照合する必要がある(業務規程40条・47条)。
2 立場ごとに集める資料
| 立場 | 先に確認する資料・事項 | 対応の目的 |
|---|---|---|
| 現在の債権者 | 記録番号,債権金額,支払期日,現在の債権者,保証記録,入出金履歴 | 誰に,どの債権を,いくら請求するかを確定する |
| 債務者 | 決済口座,残高,原因契約,支払を争う具体的理由,銀行の受付期限 | 資金不足と契約紛争を分けて対応する |
| 譲渡人・保証人 | 自分の保証記録,保証対象,既払額,債権者の受領状況 | 保証債務の範囲と,支払後の求償手続を確認する |
この表は,電子記録債権法9条・24条・31条と,支払等記録及び支払不能処分の規程を踏まえた確認事項である。
譲渡済みのでんさいについて,元の債権者であったという理由だけで回収を進めず,現在の記録内容を確認する必要がある。
第2 電子記録保証人に直接請求できるか
1 譲渡人の保証記録を確認する
電子記録保証は,保証記録により効力を生ずる。
でんさいの通常の譲渡では,譲渡人を保証人とする譲渡保証記録も請求する取扱いであるが,業務規程上の例外もあるため,実際の保証記録の有無を確認する(電子記録債権法31条,業務規程31条2項)。
債務者に資産がないことを証明し終えるまで,電子記録保証人への請求を待つ必要はない。
電子記録保証には民法の催告の抗弁及び検索の抗弁が適用されないため,保証債務の履行を直接請求できる(電子記録債権法34条,前記Q&A・Q18)。
ただし,保証記録の内容,弁済の有無,請求に対する抗弁及び時効は,保証人ごとに確認する必要がある。
2 契約書の保証と電子記録保証を区別する
別途作成した保証契約書による保証と,保証記録による電子記録保証は,同じものではない。
民事上の保証では,契約内容や保証の種類に応じて請求・求償の根拠を確認することになる。
電子記録保証に関する特則を,別契約の保証人にもそのまま適用してはならない(電子記録債権法31条・34条,前記Q&A・Q19・Q20・Q23)。
第3 異議申立てがある場合の対応
1 債務者は二つの期限を分けて確認する
原因契約の不履行などを理由とする第2号支払不能事由について異議申立てをする場合,申立期限は支払期日の前銀行営業日までである。
手続は債務者の窓口金融機関が定めるため,紛争が判明した時点で受付方法と必要資料を確認する(業務規程細則46条)。
原則として必要となる異議申立預託金は,債権金額相当額である。
預入期限は,支払期日までの日時のうち窓口金融機関が指定する日時であり,申立期限とは別に確認しなければならない(業務規程50条2項)。
不正作出を理由とする場合も,預託金が自動的に免除されるわけではなく,免除の申立てと事故調査会による判断など,細則の要件を満たす必要がある(業務規程細則47条)。
2 異議申立てだけで支払義務が消えるわけではない
異議申立ては支払不能処分制度上の手続であり,債権者に対する支払義務がないことを確定する裁判ではない。
債権者は,電子記録の内容,原因取引に関する主張及びその抗弁を現在の債権者に対抗できるかを分けて検討する(電子記録債権法9条・20条,業務規程50条・51条)。
債権者が債務者の主張を争う場合,異議申立預託金の返還請求権を回収原資として確保することも検討対象となる。
でんさいネットのQ&A・Q24は,返還請求権の仮差押えを行い,訴訟等で債務名義を取得した上で差し押さえる方法を示している。
債権者へ自動的に預託金が支払われる制度ではないため,返還条件,返還の見込み及び他の差押えの有無を確認し,具体的な保全・執行手続を検討する必要がある。
第4 回収と時効のために必要な対応
1 電子記録債権について手形訴訟は使えない
紙の手形を請求する場合と異なり,電子記録債権に手形訴訟に相当する特別な訴訟制度はない。
訴訟による回収では通常の民事訴訟を検討し,記録事項の開示資料,保証記録,取引資料及び支払履歴を整理する(前記Q&A・Q3,電子記録債権法9条)。
回収の見込みは,請求権の有無だけでなく,相手方の資産や既に始まっている倒産手続にも左右される。
でんさい自体を仮差し押さえる場面と,異議申立預託金の返還請求権を仮差し押さえる場面では対象が異なる。
でんさい自体の保全については,電子記録債権(でんさい)の仮差押えで整理している。
2 消滅時効は原則3年であり,保証人ごとに管理する
電子記録債権の消滅時効期間は,権利を行使することができる時から3年である。
支払期日が定められた通常のでんさいでは,支払期日を基準に検討し,支払不能通知から3年と計算しない(電子記録債権法23条,前記Q&A・Q4)。
時効の完成猶予・更新は,請求先ごとに管理する必要がある。
電子記録保証には民法458条が適用されないため,債務者に対する手続を行っただけで,電子記録保証人の時効にも同じ効力が及ぶと考えてはならない(電子記録債権法34条)。
現行民法では,裁判上の請求等,催告及び権利の承認による完成猶予・更新を区別する。
催告による完成猶予は6か月であり,その期間中に催告を繰り返しても更に延長されない(民法147条・150条・152条)。
督促状を送り続ければ時効を防げると考えず,請求権,請求先及び期限に応じて必要な手続を選ぶことになる。
第5 支払を受けた後の支払等記録
1 別途の振込や現金支払は記録を確認する
口座間送金決済によらず振込や現金で支払を受けた場合,でんさいネットがその支払を当然に把握するわけではない。
当事者は,支払を確認し,支払等記録の請求とその完了を確認する必要がある(前記Q&A・Q5~Q8)。
有効な弁済による債務消滅と,記録原簿への反映は別の問題である。
支払等を受けた者は単独で請求できる一方,支払った者が請求するには,原則として受けた者の承諾が必要となる(電子記録債権法24条・25条)。
記録番号,元本・費用等の区分,支払日及び支払者を照合し,同じ債務を重ねて請求・支払することを防ぐ必要がある。
2 電子記録保証人の特別求償には支払等記録が必要である
電子記録保証人が代位弁済して特別求償権を取得するには,自己の出捐による消滅について支払等記録をすることが法的要件となる。
債権者からでんさいを譲渡し直してもらえば足りるという問題ではない(電子記録債権法35条,前記Q&A・Q7・Q21)。
特別求償の相手方と金額は,同条が定める範囲による。
主債務者に対するものと,先に電子記録保証をしていた者等に対するものを区別し,記録上の保証の順序や負担部分を確認する必要がある。
保証人であれば誰に対しても無条件に全額を請求できる,という制度ではない。
3 一部支払の取扱いは当事者の立場で異なる
でんさいネットの業務規程40条は,債務者による支払期日前の一部支払を認めていない。
また,電子記録保証人等による支払は,同条所定の例外として債権金額の全額を支払う場合が定められている。
支払期日後に債務者が一部弁済する場合と,電子記録保証人が保証履行する場合のシステム上の取扱いを同一視してはならない(前記Q&A・Q8,業務規程40条)。
一部入金があった場合は,実際に何の債務を弁済したのか,残額はいくらか,どの支払等記録が可能かを窓口金融機関と照合することになる。
第6 倒産手続が始まった場合
1 決済停止と債権の消滅を混同しない
債務者について破産手続開始等の情報が金融機関に入ると,口座間送金決済が停止される場合がある。
決済が停止されたことだけで,債権や保証債務が消滅するわけではない。
倒産手続上の債権届出等の案内と,電子記録保証人への請求を分けて確認する必要がある(前記Q&A・Q11・Q12)。
2 期限前の請求と,期限前に支払える取扱いを分ける
破産手続開始決定があった場合,民法137条により債務者は期限の利益を主張できなくなる。
これに対し,民事再生手続や会社更生手続の開始決定だけから,同じ条文に基づく期限の利益の喪失を導くことはできない。
その場合は,契約上の期限利益喪失条項等を別途確認する(民法137条,前記Q&A・Q12)。
業務規程40条2項は,一定の倒産手続開始決定等がある場合に,電子記録保証人による期限前の全額支払を取り扱える旨を定めている。
この決済上の取扱いと,債権者が期限前の履行を法律上請求できるかは別の問題である。
第7 対応の順序と関連記事・出典
1 対応の確認表
| 段階 | 行うこと | 注意点 |
|---|---|---|
| 支払期日前 | 債務者が支払を争うなら銀行へ連絡し,申立期限と預託金期限を確認する | 異議申立ては前銀行営業日まで。預入れは銀行指定日時までである |
| 未入金を確認したとき | 記録・入金を照合し,債務者及び保証記録のある者への請求を検討する | 支払不能通知の到着を待つ必要はない |
| 回収を進めるとき | 資産,預託金返還請求権,倒産手続及び時効期限を確認する | 保全対象と請求先を区別する |
| 支払を受けたとき | 支払額・支払者を確認し,支払等記録の完了を確認する | 電子記録保証人の特別求償には支払等記録が必要である |
2 関連記事
電子記録債権とは―でんさいの仕組み,譲渡・保証・支払不能。
電子記録債権(でんさい)の仮差押え。
取適法における手形払の禁止と手形通達の沿革。
3 出典
電子記録債権法9条・20条・23条~25条・31条・34条・35条。
民法137条・147条・150条・152条。
でんさいネット支払不能でんさいに関するQ&AQ1~Q8・Q11・Q12・Q18~Q24。
でんさいネット業務規程31条・40条・47条・50条・51条及び業務規程細則42条・43条・46条・47条(いずれも令和6年11月18日改正版)。
Q&Aの時効の説明には改正前民法の用語が含まれるため,本稿の時効部分は現行法の完成猶予・更新の規定に即して整理している。