第1 調査名・対象・実施時期
内閣府「基本的法制度に関する世論調査(令和6年10月調査)」では,死刑制度の存廃に関する回答だけでなく,その理由,将来の廃止可能性,仮釈放のない終身刑を仮定した回答も調べている。
数字を読むときは,何を質問し,誰を100%としているかを併せて確認する必要がある。
調査は令和6年10月24日から12月1日まで郵送法で実施され,結果は令和7年3月14日に掲載された。
全国18歳以上の日本国籍を有する者を母集団として3,000人を抽出し,有効回収数は1,815人,有効回収率は60.5%であった。
抽出方法は層化2段無作為抽出法である。
本稿はこの調査の設問と集計を説明するものであり,調査結果から死刑の存廃についての法的・政策的結論が一意に決まるとするものではない。
原資料は内閣府の調査概要・調査票・報告書の注意事項であり,確認日は令和8年10月19日である。
第2 設問によって分母が異なる
1 全員への質問と条件付きの質問
問2・問7・問8の分母は有効回収数1,815人である。
一方,廃止理由と廃止時期を聞く問3・問4は問2で廃止を選んだ300人,存置理由と将来の存廃を聞く問5・問6は「死刑もやむを得ない」を選んだ1,508人を対象とする。
| 設問 | 内容の要約 | 分母・回答方式 |
|---|---|---|
| 問2 | 現在の死刑制度の存廃 | 1,815人・1つ選択 |
| 問3 | 廃止を選ぶ理由 | 300人・複数回答 |
| 問4 | 即時廃止か段階的廃止か | 300人・1つ選択 |
| 問5 | やむを得ないとする理由 | 1,508人・複数回答 |
| 問6 | 将来も存置するか | 1,508人・1つ選択 |
| 問7 | 死刑がなくなった場合の犯罪増加についての意見 | 1,815人・1つ選択 |
| 問8 | 仮釈放のない終身刑を導入した場合の存廃 | 1,815人・1つ選択 |
表の質問内容は要約であり,正確な質問文と回答の分岐は調査票で確認できる。
例えば,問6の34.4%を,国民全体又は回答者全体の34.4%と読み替えてはならない。
2 複数回答・無回答・丸め方
問3・問5では複数の理由を選べるため,各項目の割合の合計は100%を超え得る。
理由ごとの割合を足して,互いに重ならない人数又は賛否の内訳として扱うことはできない。
原資料は割合を四捨五入して表示しているため,無回答を含めても合計が100.0%にならない場合がある。
問8は37.5%,61.8%,無回答0.8%で合計100.1%となるが,数値を調整して100%にそろえない。
第3 現在の存廃と賛成理由
1 「死刑もやむを得ない」は83.1%
問2は,廃止すべきか,死刑もやむを得ないかという2つの意見のどちらに賛成かを尋ねた設問である。
全1,815人の回答は,廃止すべきが16.5%,やむを得ないが83.1%,無回答が0.4%であった。
この83.1%は当該選択肢を選んだ割合である。
特定の事件での執行,執行方法,告知の時期,又は将来にわたる無条件の存置まで同じ割合で支持されたと解釈することはできない。
2 廃止を選んだ人の理由
問3の分母は300人であり,複数回答である。
主な理由を内容で整理すると,誤判の場合に回復できないことが71.0%,生かして償わせることが53.3%,国家による殺人を認めないことが35.0%,人道に反することが29.7%,廃止で凶悪犯罪が増えるとは考えないことが26.3%,更生の可能性が24.7%であった。
これらは各選択肢の趣旨を要約したものであり,誤判の実際の発生率や更生可能性の大きさを測った数字ではない。
300人の回答理由の分布として読む必要がある。
3 やむを得ないとした人の理由
問5の分母は1,508人であり,こちらも複数回答である。
被害者や家族の気持ちを理由とする回答が62.2%,命をもって償うべきとする回答が55.5%,廃止により凶悪犯罪が増えるとする回答が53.4%,再犯の危険を理由とする回答が48.6%であった。
これらは一般の回答者が選んだ理由であり,被害者遺族だけを対象とした調査結果ではない。
被害者遺族全体の意向として引用することは適切でない。
第4 将来の廃止と終身刑を仮定した回答
1 廃止の時期と将来の存置
問4では,廃止を選んだ300人のうち,すぐに全面的に廃止するとの回答が43.0%,段階的に減らしていずれ全面的に廃止するとの回答が53.3%,無回答が3.7%であった。
廃止を選んだ人の中でも,廃止の進め方について回答が分かれている。
問6では,やむを得ないとした1,508人のうち,将来も廃止しないとの回答が64.2%,状況が変われば将来的には廃止してもよいとの回答が34.4%,無回答が1.4%であった。
したがって,現在の存置に関する回答と,将来も存置するかという回答を同一視しないことが大切である。
2 仮釈放のない終身刑という条件
問8は,全員が説明を読んだ上で,仮釈放のない終身刑を新たに導入する場合を仮定して答える設問である。
全1,815人のうち,死刑を廃止する方がよいとの回答が37.5%,廃止しない方がよいとの回答が61.8%,無回答が0.8%であった。
問2の廃止回答16.5%と,問8の廃止回答37.5%は,条件の異なる質問の結果である。
この集計だけから,同じ人がどちらからどちらへ意見を変えたか,終身刑の導入が回答をどれだけ変化させたかという因果関係を確定することはできない。
個人ごとの回答の組合せを論じる場合には,対応するクロス集計も確認する必要がある。
調査票には,当時の制度を説明する語として「無期懲役」が用いられている。
これは令和6年の調査票の説明であり,その文言を令和8年時点の法令の説明としてそのまま転用することは避ける。
無期刑と仮釈放の制度は,末尾の関連記事で確認できる。
第5 犯罪抑止力の設問から分かること
問7は,死刑がなくなった場合に凶悪犯罪が増えると考えるかを全員に尋ねている。
増えるとの回答は71.2%,増えないとの回答は27.7%,無回答は1.0%であった。
この設問が示すのは,犯罪増加について回答者がどう考えたかである。
死刑の有無による犯罪発生率の差を測定した実証研究ではないため,この割合をもって死刑の犯罪抑止効果が科学的に証明されたと説明することはできない。
第6 過去の調査との比較には制約がある
内閣府は,令和元年11月調査までは調査員による個別面接聴取法で実施し,令和6年10月調査は郵送法で実施したため,単純比較を行わないとしている。
割合の差だけを並べて,国民の死刑に関する意識が一定方向へ変化したと断定することは適切でない。
また,過去の調査では対象年齢が異なるものがあり,令和元年11月調査と令和6年10月調査は全国18歳以上を対象としている。
長期の年表を作る際には,質問文,回答選択肢,対象年齢,調査方法,有効回収数を併記する必要がある。
標本調査には標本誤差があり,回答の誤解などに由来する非標本誤差もある。
回収率が60.5%であることを含め,回答結果を全国民の意見そのものと同一視しない読み方が求められる。
第7 出典及び関連記事
1 内閣府の原資料
調査名,期間,対象,抽出方法,回収数,主な集計結果は内閣府の調査概要による。
https://survey.gov-online.go.jp/society_law/202502/r06/r06-houseido/
質問文,回答対象,分岐,無回答の割合は調査票の問2から問8による。
https://survey.gov-online.go.jp/society_law/202502/r06/r06-houseido/questionnaire/
分母の意味,複数回答,四捨五入,標本誤差,過去との比較に関する注意は「本報告書を読むに当たって」による。
https://survey.gov-online.go.jp/society_law/202502/r06/r06-houseido/considerations/
2 日弁連の方針及び無期刑の制度
日弁連の声明年表・死刑廃止方針・代替刑の提言については,死刑執行に反対する日弁連の会長声明等を参照されたい。
日弁連の政策的主張と,本稿で扱う調査結果は,発言主体と資料の性質を区別して読む必要がある。
現行の無期刑の運用については,マル特無期事件,仮釈放の手続については,仮釈放の手続,許可基準及び最新統計を参照されたい。