第1 まず区別したい三つの制度
日弁連の2022年11月15日付け「死刑制度の廃止に伴う代替刑の制度設計に関する提言」は,死刑廃止に伴って仮釈放のない終身拘禁刑を設け,例外的に裁判所の特別減刑によって無期拘禁刑へ変更する仕組みを提案したものである。
特別減刑と,減刑後に問題となる仮釈放は,主体も判断の内容も異なる。
提言を読んで「15年又は20年で釈放される」と理解することはできない。
本記事は,提言の制度設計を現行の無期拘禁刑と比較して説明する。
本記事の調査の基準日である令和8年11月1日の時点で,提言の終身拘禁刑と特別減刑手続を定めた法律は確認できない。
提言にある手続を,現在の受刑者がそのまま利用できる制度として案内するものではない。
| 比較する制度 | 制度の位置付け | 読み分ける点 |
|---|---|---|
| 現行の無期拘禁刑 | 刑法上の刑 | 刑法28条の仮釈放の可能性がある |
| 提言の終身拘禁刑 | 死刑廃止に伴う創設案 | 通常の仮釈放を認めず,別に特別減刑を構想する |
| 提言の特別減刑 | 裁判所が刑を変更する手続案 | 無期拘禁刑への変更と,施設からの釈放は別である |
現行法の根拠は刑法28条であり,提言の根拠は後掲の2022年提言の第1及び第2である。
現行の仮釈放の審理は地方更生保護委員会が行う(法務省・令和7年版犯罪白書)。
第2 裁判所による特別減刑の提案
1 申立てまでの期間と,審理を行う裁判所
提言は,特別減刑を申し立てるために必要な期間について,15年又は20年という二つの案を示している。
いずれの年数を採るかは確定しておらず,期間が過ぎれば自動的に減刑されるという案でもない。
収容地の地方裁判所を第一審とし,合議体による審判手続を採る案である。
2 申立人と審理の対象
申立人は本人を基本とし,本人の意思に反しないことを条件に,配偶者,三親等内の親族,刑事施設の長及び検察官にも申立てを認めることを検討する案である。
提言も,本人以外の申立権は検討すべきとするにとどめている。
減刑の実体的な判断では,矯正処遇等により改悛の状が顕著に認められるようになったことが必要であるとする。
社会状況も判断要素に含めるかは,提言が引き続き検討する論点としている。
申立てに必要な期間と,減刑を認める実体的な理由を分けて理解すべきである。
以上は,提言の第1・4,第2・3(3)(4)(6)から(9)に対応する。
第3 減刑されても,直ちに仮釈放されるわけではない
提言の特別減刑は,終身拘禁刑を無期拘禁刑へ変更する判断であり,直ちに社会内へ戻す判断ではない。
提言は,減刑の判断が確定した時を起点に,無期拘禁刑についての仮釈放の法定期間を計算する構成を示している。
この法定期間(10年)を経過した後も,地方更生保護委員会による判断が必要となる。
したがって,申立必要期間,減刑の審理,減刑後の法定期間,仮釈放の許否という段階を混同してはならない。
提言は,15年案なら最低25年,20年案なら最低30年で仮釈放の申請が可能になると説明している。
ただし,これは申請が可能となる最短の計算であり,その時期の減刑や釈放を示すものではない。
減刑を認めるかは裁判所が,仮釈放を許すかは地方更生保護委員会が判断するので,個々人の釈放予定日は計算できない。
この説明は提言の第1・3,第2・2(3)及び第2・3(10)による。
現行の無期拘禁刑についても,刑法28条の10年は自動釈放の時期ではない。
現行制度の手続と許可基準は,仮釈放の手続,許可基準及び最新統計を参照されたい。
第4 被害者の意見と,不服申立てをどう扱う案か
提言は,減刑に否定的な意見を含む,被害者側の書面等の提出も認める方向を示している。
一方,被害者の同意を減刑の要件とする案,又は全件で意見聴取を義務付ける案として説明することは適切でない。
社会の状況を判断するために意見聴取を行う場合についても,被害者遺族等の精神的負担に触れ,応じるか否かを含めて最大限の配慮が必要であろうとしている。
また,減刑を認めない判断に対する受刑者の上訴と,相当期間経過後の再申立てを認める一方,減刑を認める判断に対する検察官の不服申立てを認めないという案を示している。
提言は,再申立てまでの具体的な年数を示していない。
これらは提言の第1・4(5)(10),第2・3(4)(5)(10)及び脚注12に対応する制度設計上の提案である。
第5 よくある疑問
1 日弁連の提言は,終身刑から必ず出られるという内容か
そうではない。
終身拘禁を原則とし,裁判所が特別減刑を認め,さらに仮釈放の要件と判断を満たす場合に社会復帰の可能性を残す構想である。
2 特別減刑は,現在の仮釈放や恩赦と同じか
同じ手続ではない。
この提言は,裁判所による特別の減刑手続を新しく設ける案を示している。
提言は,恩赦は行政権の作用であり受刑者に請求権がないことなどから,新たな法制度の創設で対応すべきとしている(第2・2(2))。
3 15年案と20年案のどちらが日弁連の最終案か
2022年提言は,二つの期間案の間で今後の検討が必要であるとしている。
提言の説明を,確定した年数や施行済みの要件へ置き換えてはならない。
4 この案を知れば,死刑の存廃について結論が決まるか
代替刑の具体化は,存廃を考えるための重要な材料である。
ただし,刑罰の目的,被害者への支援,誤判の危険,長期拘禁の処遇などの評価は,制度の仕組みを理解することとは別に検討する必要がある。
存置・廃止双方の主張は,死刑制度の賛成論・反対論で比較している。
第6 関連記事と出典
日弁連の方針形成と声明の経緯は,死刑執行に反対する日弁連の会長声明等――年表・基本方針・政府見解を参照されたい。
現行の無期刑の運用を確認する資料として,マル特無期事件,世論の設問を読む資料として,死刑制度の世論調査をどう読むかがある。
中心資料は,日本弁護士連合会「死刑制度の廃止に伴う代替刑の制度設計に関する提言」(2022年11月15日)である。
日弁連の掲載ページに加え,日本の死刑制度について考える懇話会・第8回資料の「小田弁護士提出資料」に収録された同提言を参照できる。
2019年10月15日の基本方針と2022年提言の採択経緯は,岡山弁護士会の総会決議の第2・5でも確認できる。
現行法の説明には刑法28条,現行の仮釈放審理の説明には前掲の法務省犯罪白書を用いた。