目次
第1 制度の全体像とこの記事の要点
1 消費者被害を集団的に回復する二段階の手続
2 最高裁令和6年3月12日判決の要点
第2 二段階の手続
1 第1段階の共通義務確認訴訟
2 第2段階の簡易確定手続等
3 個別訴訟及び差止請求との違い
第3 共通義務確認の訴えの入口要件
1 共通性と多数性
2 法3条4項の「困難性」
第4 最高裁令和6年3月12日判決
1 事案の概要
2 原審が訴えを却下した理由
3 最高裁が示した判断
4 判決の射程
第5 訴える側の実務
目次
第1 制度の全体像とこの記事の要点
1 消費者被害を集団的に回復する二段階の手続
2 最高裁令和6年3月12日判決の要点
第2 二段階の手続
1 第1段階の共通義務確認訴訟
2 第2段階の簡易確定手続等
3 個別訴訟及び差止請求との違い
第3 共通義務確認の訴えの入口要件
1 共通性と多数性
2 法3条4項の「困難性」
第4 最高裁令和6年3月12日判決
1 事案の概要
2 原審が訴えを却下した理由
3 最高裁が示した判断
4 判決の射程
第5 訴える側の実務
第1 本記事の対象と結論
第2 第1報から第5報までの公表内容
第3 約660万「アカウント」と本人の数は同じとは限らない
第4 不正アクセスでは1000人超でなくても報告対象となり得る
第5 公表と本人への個別通知は別の手続である
第6 退会者及び入会未完了者への通知
第7 法人会員,契約担当者及び登録運転者の切り分け
第8 貸渡約款を読むときの注意点
第9 対象者が当面行うこと
第10 事業者が残すべき通知台帳
第11 損害賠償と裁判例
第12 確認済み・公表者の説明・投稿者の説明・推論・未確認事項
第13 関連記事
第14 出典及び調査範囲
第1 本記事の対象と結論
本記事は,タイムズモビリティ株式会社が令和8年9月25日及び同月28日に公表した「タイムズカーWebサイト」への不正アクセスを題材として,個人情報保護法上の漏えい等報告,本人通知,退会者・入会未完了者及び法人会員に関する通知先の切り分け並びに貸渡約款の読み方を整理するものである。基準日は令和8年9月29日であり,今後の続報,個人情報保護委員会の判断又は裁判によって事実関係及び法的評価が変わる可能性がある。
令和8年10月26日追補:パーク24の同月23日公表の第5報及び同日最終更新の公式FAQにより,第2,第6,第9,第11及び第12の事実関係を補った。
第1報から第3報までの記載は当時の公表経過であり,画像データの件数,連携サービスID及び保有方針は第5報の区分と訂正を併せて読む必要がある。
なお,令和8年7月17日に個人情報保護法等の改正法が公布されたが,主要部分は公布日から2年以内の政令で定める日から施行される。本件の報告及び本人通知は,令和8年9月29日現在の施行法を前提に検討する。将来,施行日,委員会規則又はガイドラインが定められた場合には再確認を要する。
結論は次のとおりである。
(続きを読む...)タイムズカー約660万アカウントの個人情報漏えいから考える本人通知―退会者・入会未完了者・法人会員の登録運転者(AI作成)
目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 手口と被害の状況1 手口2 統計第3 警告画面が表示されたとき1 画面が表示されただけならウイルスには感染していない2 画面の閉じ方第4 電話をかけて遠隔操作を許したとき1 個人のパソコン2 会社や法律事務所のパソコンは保存して調査する第5 支払ってしまったとき1 インターネットバンキングで送金させられた場合2 プリペイド型電子マネーで支払った場合3 クレジットカードで支払った場合4 サポート契約の扱い第6 事業者・法律事務所で起きたとき1 個人データの漏えい等の報告2 行政機関等で指導が行われた例3 法律事務所の場合第7 平時の備え第8 刑事上の位置付けと裁判例の調査結果1 刑事上の位置付け2 裁判例の調査結果第9 関連記事第10 出典1 公的機関の資料2 裁判例3 法令・会規
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,パソコンでインターネットを閲覧している最中に「ウイルスに感染した」等の偽の警告画面が表示され,画面上の電話番号に電話をかけさせられ,遠隔操作ソフトを導入させられた上でサポート料金等の名目で金銭を支払わされる手口(いわゆるサポート詐欺)について,個人,会社及び法律事務所が行うべき対応を整理する。
統計及び公的機関の注意喚起は,令和8年9月28日に各機関のウェブサイトで原文を確認したものである。
法令は,同日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例の調査結果は,第8で示す。
2 結論
①警告画面が表示されただけであれば,パソコンはウイルスに感染しておらず,画面を閉じれば足りる(情報処理推進機構)。
画面に表示された電話番号には電話をかけない。
②画面を閉じられないときは,ESCキーを長押しして表示される「閉じる」ボタンでブラウザを閉じる(情報処理推進機構)。
③電話をかけて遠隔操作ソフトを入れてしまった個人のパソコンについては,そのソフトのアンインストールと,Windowsの「システムの復元」が推奨されている(情報処理推進機構)。
④会社や法律事務所のパソコンが遠隔操作された場合は,情報漏えいの調査を行うのであれば,調査が終わるまで端末を保存し,復元や初期化は調査の後に行う(情報処理推進機構)。
遠隔操作されたかどうかが,情報漏えいの可能性があるかどうかの分かれ目となる(同)。
⑤インターネットバンキングで送金させられた場合は,至急,振込先の銀行に連絡し,自分の口座のある銀行と警察にも連絡する(情報処理推進機構)。
プリペイド型電子マネーで支払った場合は相手より早くチャージするか発行業者に連絡し,クレジットカードで支払った場合はカード会社に相談する(国民生活センター)。
⑥サポート契約を取り消せるかは,消費生活センター(局番なしの188)に相談する(情報処理推進機構)。
偽の警告画面で電話をかけさせ,その電話で有償サポート契約を勧誘した場合は,特定商取引法の電話勧誘販売に当たり得るが,公的機関がサポート詐欺への適用を明示した資料は見当たらず,事業者の実体が不明なことも多いため,実際の返金は難しい場合が多い。
⑦個人データを扱う端末が遠隔操作された事業者は,個人情報保護法26条の報告及び本人通知の対象となる事態に当たるかを検討する必要がある。
個人情報保護委員会は,サポート詐欺で遠隔操作ソフトを入れてしまった学校の事案を,個人情報の漏えいのおそれが生じた事案として扱っている。
⑧令和8年9月28日時点で,裁判所ウェブサイトの裁判例検索と判例秘書では,サポート詐欺そのものを扱った裁判例を確認できなかった。
遠隔操作ウイルス等で取得した識別符号を使ってインターネットバンキングで不正送金した行為について,電子計算機使用詐欺罪の成立を認めた裁判例はある(東京地方裁判所平成29年4月27日判決)。
第2 手口と被害の状況
1 手口
国民生活センターは,サポート詐欺を,「パソコンでインターネットを使用中に突然『ウイルスに感染している』等の警告画面や警告音が出て、それらをきっかけに警告画面上に表示されている電話番号に電話をかけさせ、偽のサポートに誘導し、サポート料金を支払わせる手口」と説明している(令和6年3月27日公表の報道発表)。
同センターは,新たな手口として,インターネットバンキングで送金を指示されるケースも確認されているとしている。
消費者庁は,偽の警告表示にMicrosoftのロゴを用いて信用させ,ウイルス駆除等を称して多額の金銭を支払わせる事業者について,消費者安全法38条1項に基づく注意喚起を令和3年2月19日と令和5年9月28日に行っている。
令和5年の注意喚起は,事業者の実体は不明であり,実在する日本マイクロソフト株式会社やその関係者は本件とは全く無関係であるとしている。
2 統計
警察庁は,パソコンのウイルス除去をサポートするなどの名目で電子マネー等をだまし取る手口を,特殊詐欺のうち架空料金請求詐欺の「サポート名目」として集計している。
(続きを読む...)サポート詐欺(偽のセキュリティ警告)に遭ったとき―画面の閉じ方,遠隔操作された端末の扱い,支払方法別の対応及び事業者の漏えい等報告(AI作成)
目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 二つの料金はどう違うか1 小売電気事業は登録制であり,料金の認可はない2 規制料金は経過措置として残されている3 対象は低圧の需要家であり,高圧等は既に自由化されていた4 自分の契約がどちらかを確かめる方法第3 規制料金の値上げの手続1 認可の基準2 公聴会と関係閣僚会議3 届出で足りる変更4 令和5年の値上げ認可5 燃料費調整には上限がある第4 規制料金はいつまで続くか1 指定旧供給区域の指定の解除2 令和8年9月時点の状況第5 自由料金の値上げ1 契約と約款の問題になる2 定型約款の変更の要件3 小売電気事業者の説明義務と書面交付義務4 新電力の一方的な撤退と最終保障供給第6 値上げを争う方法1 規制料金の値上げ認可を取消訴訟で争えるか2 自由料金は契約の問題として争う第7 倒産・未払と電気の供給第8 関連記事第9 出典1 法令2 所管官庁等の資料3 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
一般向けの経済解説では,電気は家庭向けの料金に国の認可が要るから値段が崩れない,と説明されることがある。
しかし,平成28年4月の電力小売の全面自由化の後,家庭向けの電気料金には,経済産業大臣の認可を要する「規制料金」と,認可の規制がない「自由料金」とが併存している。
本記事では,両者の違いを条文と所管官庁の資料で確かめたうえで,値上げの手続,規制料金の経過措置がいつまで続くか,値上げを争う方法及び関連する裁判例を整理する。
調査基準日は令和8年9月25日である。
条文は,e-Gov法令検索の現行条文(電気事業法は令和8年8月3日施行分まで反映したもの)で確認した。
平成28年4月の自由化を定めた電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号。以下「平成26年改正法」という。)の附則は,電気事業法の改正附則として収録されているものを確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認したものに限っている。
民事再生手続の中での電気料金の扱いは,民事再生手続開始前後の電気料金と敷金――再生債権,共益債権,民事再生法92条3項及び弁済額の計算で扱っている。
2 結論
結論は次のとおりである。
①電気の小売事業は経済産業大臣の登録制であり(電気事業法2条の2),自由料金の設定や値上げに国の認可は要らない。
②経済産業大臣の認可が要るのは,旧一般電気事業者(大手電力会社)の小売部門である「みなし小売電気事業者」が経過措置として提供している規制料金(特定小売供給約款)だけである(平成26年改正法附則18条1項)。
③規制料金の認可は,料金が「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの」であること等を基準とする(同条2項1号)ので,値段を支えるための仕組みではなく,値上げの上限を抑えるための仕組みである。
④規制料金は,令和8年9月の調査時点でも全国で存続しており,令和8年6月の電力・ガス取引監視等委員会の会合で,沖縄エリアだけが解除の基準を満たす蓋然性があるとして精査の対象になった。
⑤自由料金の値上げは,契約と約款の問題であり,定型約款であれば民法548条の4の要件と周知が必要になるほか,小売電気事業者には変更内容の説明と書面の交付が義務付けられている。
⑥規制料金の値上げ認可を需要家が取消訴訟で争った裁判例は,裁判所ウェブサイトでは見当たらず,料金の認可について利用者の原告適格を否定した最高裁判決がある一方,託送料金の認可については小売電気事業者の原告適格を認めた裁判例がある。
第2 二つの料金はどう違うか
1 小売電気事業は登録制であり,料金の認可はない
電気事業法2条の2は,「小売電気事業を営もうとする者は、経済産業大臣の登録を受けなければならない。」と定める。
登録を受けた小売電気事業者が家庭に提示する料金について,同法は認可の規定を置いていない。
資源エネルギー庁の「電気料金の改定について(2023年6月実施)」のページも,自由料金は「原則として事業者の裁量で設定されるものであり、認可等の規制はありません。」と説明している。
2 規制料金は経過措置として残されている
資源エネルギー庁の同じページは,小売が全面自由化された後も,「ご家庭等向けの規制料金については、時限的な経過措置として残し、競争状況を見極めてから撤廃することになった」と説明している。
この経過措置の根拠が平成26年改正法の附則である。
平成26年改正法附則16条1項は,みなし小売電気事業者は,当分の間,経済産業大臣が指定する区域(指定旧供給区域)における一般家庭等の需要に応ずる電気の供給(特定小売供給)を,正当な理由がなければ拒んではならないと定める。
同附則18条1項は,みなし小売電気事業者は,この義務を負う間,特定小売供給に係る料金その他の供給条件について,「特定小売供給約款を定め、経済産業大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。」と定める。
つまり,認可が要るのは,みなし小売電気事業者が特定小売供給約款によって行う供給の料金だけである。
(続きを読む...)家庭の電気料金の値上げに国の認可は必要か―規制料金(特定小売供給約款)と自由料金の違い,経過措置の現状及び争い方(AI作成)
目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 受信契約を締結しなければならない者1 放送法64条1項の二つの類型2 世帯で既に受信契約があるとき3 契約の種別と受信料の額第3 「配信の受信を開始した」とはどういう状態か1 受信規約の定義とNHKの義務2 国会答弁3 NHKの運用4 スマホを持っているだけでは足りない理由第4 ワンセグ・カーナビ等の「設置」についての裁判例1 ワンセグ機能付き携帯電話2 ワンセグ放送を受信できるカーナビ3 NHKだけ映らないように加工したテレビ4 裁判例の射程第5 手続,受信料の発生時期,割増金及び解約1 受信契約書の提出期限と契約の成立2 受信料が発生する月3 割増金4 配信の利用をやめたとき5 事業所の場合第6 大法廷平成29年判決との関係と残る論点1 大法廷平成29年判決の合憲判断2 配信への拡大についての政府の説明3 残る論点第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令・受信規約・利用規約2 裁判例3 国会会議録4 NHKの説明
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,テレビを持たずにスマートフォンやパソコンを使っている人が,日本放送協会(以下「NHK」という。)と受信契約を締結しなければならないのはどのような場合かを扱う。
令和7年10月1日に施行された放送法の改正により,NHKのインターネット配信が必須業務となり,NHKの配信の「受信を開始した者」も受信契約の締結義務を負うことになった(放送法64条1項2号)。
本記事では,この規定が何を要件としているのかを,条文,総務大臣の認可を受けた日本放送協会受信規約(以下「受信規約」という。),国会答弁及びワンセグ機能付き携帯電話等をめぐる裁判例によって整理する。
調査基準日は令和8年9月25日である。
放送法の条文はe-Gov法令検索の現行条文(令和7年10月1日施行分まで反映したもの),受信規約はNHKが公表している令和7年10月1日施行のものを確認した。
NHKが公表しているNHKインターネットサービス利用規約(以下「利用規約」という。)は,令和8年4月1日最終改定のもの及び同年10月1日改定予定のものを確認した。
受信料の消滅時効はNHK受信料の消滅時効は5年―最高裁平成26年9月5日判決と大法廷平成29年12月6日判決の起算点で,訪問集金と弁護士法72条の関係はNHK受信料の訪問集金は弁護士法72条違反か―東京地裁令和4年1月24日判決(判タ1508号240頁)ほか東京地裁の判断で扱っている。
2 結論
結論は次のとおりである。
①スマートフォンやパソコンを持っているだけでは,受信契約の締結義務は生じない。
②締結義務が生じるのは,NHKのテレビジョン放送の番組の同時配信・見逃し配信・番組関連情報の配信(ラジオ等を除く。)について,通信端末機器の操作を行って視聴又は閲覧を始めたときである(放送法64条1項2号,受信規約1条3項)。
③同じ世帯で既にテレビについて受信契約を締結しているときは,配信を利用しても新たな契約は要らない(放送法64条2項1号,受信規約2条1項4号)。
④ワンセグ機能付き携帯電話やテレビを受信できるカーナビは,配信ではなく放送の受信設備の問題であり,裁判例は,これらを持つことも「設置」に当たるとして締結義務を認めている。
⑤配信の受信を開始した人は,開始した月の翌々月の末日までに受信契約書を提出する必要があり,正当な理由なく遅れると割増金の対象になり得る(受信規約3条1項,12条2項2号)。
⑥配信の利用をやめても,解約の届出をしてNHKが事実を確認するまでは受信契約は終わらない(受信規約9条)。
第2 受信契約を締結しなければならない者
1 放送法64条1項の二つの類型
(1) 受信設備の設置と配信の受信開始
放送法64条1項は,「次の各号のいずれかに該当する者は、認可契約条項で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない。」と定める。
1号は「特定受信設備を設置した者」,2号は「特定必要的配信の受信を開始した者」である。
改正前の同項は受信設備を設置した者だけを対象にしていたから,2号が令和7年10月1日の施行で加わった部分である。
(2) 特定受信設備
「特定受信設備」とは,NHKの放送を受信することのできる受信設備のうち,放送の受信を目的としない受信設備と,ラジオ放送又は多重放送に限り受信することのできる受信設備を除いたものをいう(放送法64条8項3号)。
テレビのほか,ワンセグ機能付きの携帯電話やカーナビのように放送を受信できる機器がこれに当たるかは,後記第4の裁判例の問題である。
(3) 特定必要的配信
NHKは,放送する全ての番組を放送と同時に配信し,放送した全ての番組を一定期間配信し,番組関連情報を配信する業務を行う(放送法20条1項3号~5号)。
これが必要的配信であり,そのうちラジオ放送,多重放送,国際放送及び協会国際衛星放送の番組等の配信を除いたものが「特定必要的配信」である(同法20条の3第9項)。
(続きを読む...)スマホやパソコンを持っているだけでNHKの受信料はかかるか―令和7年10月施行の放送法64条1項2号と「配信の受信開始」の意味(AI作成)
目次第1 団体観察と公開情報収集を区別する1 団体規制法の観察処分は特別な制度である2 一般的なSNS監視権限を定めた法律ではない第2 現行団体規制法の入口と限界1 目的・解釈適用・必要最小限性2 観察処分の要件3 報告・調査・立入検査第3 個人の違法行為から団体規制へ進むための橋1 人数割合だけでは足りない2 団体の同一性と現在の必要性第4 公開SNSでも集約により新しい影響が生じる1 公開と無制限利用は同じではない2 一覧化・結合・時系列化・共有3 判例上確認できる範囲第5 行政調査を監査するチェックリスト第6 出典、射程及び未確認範囲
第1 団体観察と公開情報収集を区別する
1 団体規制法の観察処分は特別な制度である
無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(団体規制法)は、団体の活動として役職員又は構成員が無差別大量殺人行為を行った団体について、その活動状況を明らかにし、又は再発を防止するための特別な規制措置を定める法律である。
したがって、過去に構成員が犯罪を犯したというだけで、一般の会社、政治団体、市民団体又は宗教団体を同法上の観察処分に付すことができるわけではない。
2 一般的なSNS監視権限を定めた法律ではない
団体規制法は、あらゆる団体のウェブサイトやSNSを行政が常時監視できるという一般的権限を定めたものではない。通常の公開情報収集、捜査、行政調査、情報公開資料の利用及び同法上の観察処分は、それぞれ根拠、目的、対象、手続及び効果を分けて検討する。
第2 現行団体規制法の入口と限界
1 目的・解釈適用・必要最小限性
団体規制法1条は、国民の生活の平穏を含む公共の安全の確保を目的とする。同法2条は、基本的人権に重大な関係を有するため必要最小限度においてのみ適用し、拡張解釈してはならないとする。同法3条は、規制と調査を目的達成のため必要最小限度に限り、思想、信教、集会、結社、表現等の自由を不当に制限し、又は団体の正当な活動へ介入してはならないと明記する。
2 観察処分の要件
同法5条1項の観察処分は、役職員又は構成員が「団体の活動として」無差別大量殺人行為を行った団体であることを前提とする。その上で、首謀者の影響力、行為関与者又は当時の役員の在籍、殺人を勧める綱領その他の危険性に関する事実のいずれかがあり、活動状況を継続して明らかにする必要があることを要する。期間更新でも、更新時点の要件と必要性を確認しなければならない。
3 報告・調査・立入検査
観察処分を受けた団体には、役職員・構成員、活動施設、資産・負債その他の法定事項に関する報告義務が課される。同法7条は、公安調査庁長官による必要な調査と、特に必要がある場合の土地・建物への立入検査を定める。同法29条以下は調査権、国会報告及び一定の場合の地方公共団体への調査結果提供等を定める。
報告や調査ができるという結論だけでなく、処分要件を満たす団体か、求める情報が活動状況の把握に必要か、対象・期間・利用目的が必要最小限かを個別に確認する。
第3 個人の違法行為から団体規制へ進むための橋
1 人数割合だけでは足りない
複数の構成員に有罪判決があることは重要な事実になり得る。しかし、それだけで、個々の犯罪が団体の活動として行われたこと、団体の意思決定・指示・承認・資金提供等があったこと、現在も危険な要素が残ること、観察の必要性があることまで当然に導かれるわけではない。
実務では、①行為者、②団体内の地位、③意思決定、④指示・承認、⑤資金・設備、⑥広報・事後対応、⑦団体目的との関係、⑧現在の組織・人員・活動への連続性を分けて立証する。
2 団体の同一性と現在の必要性
東京地裁令和6年2月28日判決は、観察処分後に設立された集団が元の団体に含まれるかについて、対内的な帰依・教義の保持、目的実現のための組織構造・修行体系等を具体的に検討した。また、団体規制法5条1項各号と同条4項の更新時の必要性を区別して判断した。
名称、分派又は構成員数だけで同一性を決めず、目的、意思決定、指揮命令、教義・綱領、財産、施設、人員及び活動実態の連続性を確認する必要がある。
第4 公開SNSでも集約により新しい影響が生じる
1 公開と無制限利用は同じではない
ウェブサイトやSNS投稿が公衆に公開されていても、個々の閲覧と、行政がアカウントを網羅的に一覧化し、所属関係を推知し、長期保存し、他機関へ共有することは同じではない。「秘密ではない」という一点だけで、収集方法、結合、保存、利用目的及び活動への萎縮を検討対象から外すべきではない。
2 一覧化・結合・時系列化・共有
公開情報の集約では、①対象アカウントの選定、②本人・団体への帰属の正確性、③交友・組織関係の推知、④過去投稿との時系列化、⑤検索可能性、⑥保存期間、⑦アクセス権限、⑧行政機関間の共有、⑨目的外利用、⑩誤結合の訂正・削除を監査する。
公開情報の集約が常に違法になるという直接の最高裁判例命題を述べるものではない。個別情報が公開されていても、結合・継続把握・共有によって新しい権利制約が生じ得るという分析上の観点である。
影響を受ける主体は、団体と構成員に分けて確認する。構成員と媒体の対応関係が明らかになることは、個人の所属・発信内容だけでなく、団体の組織関係や自律にも関わり得る。情報が誰に関するものかという問題と、誰のどの利益が制約されるかという問題を分ける必要がある。
令和3年司法試験の出題の趣旨の公法系第1問部分及び同年の採点実感第3の1・2も、団体と構成員を区別し、公開媒体の報告による所属等の把握と萎縮効果を検討する視点を示している。これは仮想の法律案に関する試験解説であり、現行法の一般的な情報収集権限や一律の違法性を示すものではない。
目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論3 確認した裁判例の一覧第2 弁護士法72条と「その他一般の法律事件」1 条文2 条文の趣旨3 「その他一般の法律事件」の考え方第3 訪問集金を弁護士法72条違反でないとした東京地裁の判断1 東京地裁令和4年1月24日判決(判タ1508号240頁)2 東京地裁令和4年1月31日判決3 東京地裁令和4年7月14日判決と同年8月4日判決第4 関連する裁判例と行政の見解1 東京地裁令和3年6月15日判決(集金人おびき寄せ作戦)2 東京地裁令和3年10月28日判決(受信料請求訴訟)3 政府答弁書(令和2年11月17日)第5 判断の枠組みと残る問題1 判決が示した線引き2 判決が判断していないこと第6 受信料を請求された人が知っておくべきこと1 集金人の非弁行為は支払を拒む理由にならない2 払わないままでいた場合の負担3 時効や免除を検討することは正当である4 不払を援助するサービスへの注意第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令・規約2 裁判例3 国会・公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,日本放送協会(以下「NHK」という。)から業務の委託を受けた会社の訪問員が,受信料を滞納している人の自宅を訪ねて支払を求め,受信料を受け取ることが,弁護士法72条の禁止する「非弁行為」に当たるかを扱う。
委託先の訪問員が弁護士でないのに受信料を取り立てるのは非弁行為であるという主張は,国会の質問主意書(第4の3)や,NHKとの訴訟(第3,第4)でも持ち出されてきた。
この主張を正面から取り上げた東京地方裁判所の判決が,令和4年に少なくとも4件あり,いずれも訪問による集金は弁護士法72条に違反しないと判断している。
調査基準日は令和8年9月20日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文で,最高裁判例と東京地裁令和3年6月15日判決は裁判所HPの裁判例検索で確認した。
東京地裁令和4年の4件の判決と東京地裁令和3年10月28日判決は,裁判所HPに掲載されていないため,判例秘書(LLI/DB)で判決の全文を確認した。
これらの判決について控訴審の判断があるかは,裁判所HPと判例秘書の検索では確認できなかった。
受信料の消滅時効は,NHK受信料の消滅時効は5年―最高裁平成26年9月5日判決と大法廷平成29年12月6日判決の起算点で整理している。
2 結論
本記事の結論は,次のとおりである。
①NHKの委託先の訪問員が,受信料の支払を求め,任意に支払われた受信料を受け取ることは,弁護士法72条の「その他一般の法律事件」に関する業務に当たらず,同条に違反しないとするのが,東京地裁の一貫した判断である。
②判決が示した線引きは,受信契約の締結や受信料の支払を「任意の締結や支払を促す範囲」にとどまるかどうかであり,訴えの提起や,その前段階として行う内容証明郵便等による請求といった「法的手続業務」に及べば別の評価になり得る。
③長期間払っていないことや,訪問時に支払を拒んだことだけで,直ちに法的紛議が顕在化したとはいえないとされている。
④したがって,集金に来た人が非弁行為をしているという理由で受信料の支払を免れることはできず,払わないままでいると延滞利息,割増金,支払督促や訴訟の負担が生じ得る。
⑤消滅時効の援用や免除基準への当てはめを検討することは正当であるが,事情を個別に検討しないまま一律に不払を援助するサービスについて,弁護士が懲戒を受けた例がある。
3 確認した裁判例の一覧
裁判例訴えた人と相手結論東京地裁令和4年1月24日判決(判タ1508号240頁)委託先に所属していた元訪問員4名がNHKを訴えた請求棄却。長期未収者への個別訪問による収納業務は「その他一般の法律事件」に当たらない東京地裁令和4年1月31日判決委託会社の元従業員が雇用主の会社を訴えた請求棄却。支払再開を促す業務は弁護士法72条に違反しない東京地裁令和4年7月14日判決訪問を受けた人がNHKを訴えた請求棄却。任意の支払を促す範囲にとどまる業務は同条に違反しない東京地裁令和4年8月4日判決同じ訪問を受けた人が委託会社と代表者を訴えた請求棄却。上記と同じ基準で違反しないとした東京地裁令和3年6月15日判決NHKが政党とその代表者らを訴えた330万円の賠償を命じた。職員の集金が同条に違反するとの指摘は「それ自体失当」
第2 弁護士法72条と「その他一般の法律事件」
1 条文
弁護士法72条本文は,「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と定めている。
違反した者は,同法77条3号により処罰される。
2 条文の趣旨
最高裁判所大法廷昭和46年7月14日判決(昭和44年(あ)第1124号,刑集25巻5号690頁)は,弁護士でない者が報酬を得る目的で業として法律事務を取り扱うことを禁止した規定であるとし,その趣旨を,みだりに他人の法律事件に介入することを業とする行為を放置すると,当事者その他の関係人らの利益を損ね,法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げ,ひいては法律秩序を害することにあるとした。
最高裁判所第一小法廷平成29年7月24日判決(平成28年(受)第1463号,民集71巻6号969頁)も,同じ趣旨を述べている。
本記事で取り上げる東京地裁の判決も,これらの最高裁判例を引用して検討を始めている。
3 「その他一般の法律事件」の考え方
最高裁判所第一小法廷平成22年7月20日決定(平成21年(あ)第1946号,刑集64巻5号793頁)は,ビルの賃借人らと交渉して立ち退かせる業務について,「立ち退き合意の成否,立ち退きの時期,立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり,弁護士法72条にいう『その他一般の法律事件』に関するものであったというべきである。」と判断した。
(続きを読む...)NHK受信料の訪問集金は弁護士法72条違反か―東京地裁令和4年1月24日判決(判タ1508号240頁)ほか東京地裁の判断(AI作成)
目次第1 この記事の対象と要点1 対象と基準日2 要点第2 申込み・「仮予約」で契約は成立するか1 東京地方裁判所平成17年9月9日判決の事案2 契約の成立についての判断第3 消費者契約法9条による制限1 条文2 平均的な損害の意味と立証責任3 逐条解説にある結婚式場の設例4 東京地方裁判所平成17年9月9日判決の9条1号の判断第4 適格消費者団体による差止訴訟(京都の2件と神戸・大阪の1件)1 差止請求の仕組みとKCCNの取組み2 ベストブライダル事件3 Plan・Do・See事件4 2件から読み取れること5 神戸地裁令和7年・大阪高裁令和8年判決の公表要旨第5 新型コロナウイルス感染症による解約1 名古屋地方裁判所令和4年2月25日判決の事案2 判決の判断3 この判決の位置付け第6 特定商取引法・割賦販売法との関係1 特定商取引法の特定継続的役務には当たらない2 互助会の積立で挙式する場合第7 実務上の対応1 申込金を払う前に確認すること2 解約するとき3 式場側がキャンセル規定を作るときの注意第8 関連記事第9 出典
第1 この記事の対象と要点
1 対象と基準日
本記事は,結婚式場・披露宴会場を予約し,申込金を支払った後に解約を考えている方,式場側でキャンセル規定を作る事業者及び相談を受ける弁護士を対象に,キャンセル料をどこまで支払う必要があるかを整理するものである。
基準日は令和8年9月20日であり,法令の条文はe-Gov法令検索で同日に確認した現行の本文による。第4の神戸地裁・大阪高裁判決の公表要旨とBIA改訂モデル約款については,令和8年10月1日に追記した。
従来記載した裁判例は,裁判所ウェブサイトに掲載された判決の全文,判例秘書(LLI/DB)の判決全文及び適格消費者団体である特定非営利活動法人京都消費者契約ネットワーク(以下「KCCN」という。)がウェブサイトで公開している判決書等の写しに基づく。追記した神戸地裁・大阪高裁判決は消費者庁の公表要旨に基づき,判決全文は未確認である。
飲食店の無断キャンセル(ノーショー)については無断キャンセルのキャンセル料と平均的な損害で,格安プランの広告表示の問題については格安葬儀の広告と見積もりの記事で扱っているので,本記事では取り上げない。
分娩予約の取消しや転院に伴う予約金の精算は,分娩予約をキャンセルしたら予約金は戻るか―転院・流産・無痛分娩の変更と精算で扱っている。
診療上の事情,予約時の返金特約及び既に提供された役務の費用が関係するため,結婚式場についての個別判断や算定方法を,そのまま分娩予約へ当てはめることは避ける必要がある。
2 要点
①申込書を出して申込金を払えば,料理や衣装の内容と金額が決まっていなくても,挙式・披露宴の日時と会場が決まった時点で契約が成立したとされることがある(東京地方裁判所平成17年9月9日判決)。
②キャンセル料の条項は,消費者契約法9条1項1号により,同じ時期区分で解約した場合に式場に生ずべき「平均的な損害」を超える部分が無効となる。
③ただし,平均的な損害を超えることの主張立証責任は,基本的に消費者側にあるとされている(最高裁平成18年11月27日判決)。
④挙式の1年以上前の解約で申込金の返還を認めた裁判例がある一方,時期に応じて段階的に上がるキャンセル料条項の差止めを適格消費者団体が求めた京都の2件と,神戸地裁令和7年・大阪高裁令和8年判決の公表要旨では,いずれも団体の請求は認められていない。ただし,時期区分と再販実績等の検討を省けるわけではない。
⑤新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言の翌日にされた解約について,取消料条項の適用自体を否定した判決がある(名古屋地方裁判所令和4年2月25日判決)が,これは消費者契約法9条1項1号を判断したものではない。
⑥結婚式は特定商取引法の特定継続的役務に当たらないので,同法の中途解約の規定は使えない。
第2 申込み・「仮予約」で契約は成立するか
1 東京地方裁判所平成17年9月9日判決の事案
(1) 予約から6日後の解除
この判決は,東京簡易裁判所の判決(平成16年(ハ)第9186号)に対する控訴審として東京地方裁判所が言い渡したものである(平成17年(レ)第67号,判例時報1948号96頁,裁判所ウェブサイトに掲載)。
消費者は,平成16年5月8日に式場を訪れ,平成17年5月28日(約1年後)の挙式・披露宴を申し込んで申込金10万円を支払ったが,その6日後の平成16年5月14日に予約を解除し,申込金の返還を求めた。
申込書の裏面には,申込日から挙式等の90日前までに取り消した場合には,実費総額に加えて取消料として申込金10万円を支払う旨の条項があった。
(2) 第一審は請求棄却,控訴審で9条1号の主張を追加
消費者は,第一審では契約が成立していないこと及び取消料条項が消費者契約法10条に反することを主張したが,請求は棄却された。
控訴審で,取消料条項が同法9条1号に違反して無効であるとの主張を追加し,これが認められて原判決が取り消され,10万円の返還が命じられた。
2 契約の成立についての判断
(1) 重要部分が決まれば契約は成立する
消費者は,料理,引出物,サービス等の内容と対価が確定していない以上,契約は成立していないと主張した。
判決は,「契約の成立に当たっては契約内容の全てが確定している必要はなく、契約の重要部分が確定していれば契約は有効に成立すると解するのが相当である」とした。
その上で,結婚式・披露宴の契約では,「特定の日時及び会場において、結婚式という儀式及び結婚の披露宴を開催するというサービスを提供することが、その契約の重要な部分であると解すべきである」として,日時と会場が合意で確定した予約の時点で契約の成立を認めた。
(続きを読む...)結婚式場のキャンセル料はどこまで払う必要があるか―消費者契約法9条の「平均的な損害」と裁判例(AI作成)
目次第1 この記事の対象と要点第2 互助会の法的性格1 割賦販売法の前払式特定取引2 経済産業大臣の許可制と解約手数料の位置付け第3 消費者契約法による解約手数料の規律1 9条1項1号の「平均的な損害」2 適格消費者団体の差止請求と説明要請3 他の法律に別段の定めがある場合第4 訪問販売で入会した場合1 特定商取引法10条1項4号による上限2 クーリング・オフの可否第5 互助会の解約手数料に関する裁判例1 京都地方裁判所平成23年12月13日判決2 大阪高等裁判所平成25年1月25日判決3 福岡地方裁判所平成26年11月19日判決と福岡高等裁判所平成27年11月5日判決4 佐賀地方裁判所令和元年6月14日判決と福岡高等裁判所令和2年5月27日判決第6 平均的な損害の3つの算定方法1 算定方法の比較2 福岡高裁の2件が逆の結論になった理由第7 解約を考えたときの実務1 解約の申出の前に確認すること2 会員の死亡後に相続人が解約する場合3 説明の求め方と相談先第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説・公表資料
第1 この記事の対象と要点
この記事は,冠婚葬祭互助会(以下「互助会」という。)の会員が積立金を解約したときに差し引かれる解約手数料について,どこまでが有効で,どこからが無効になり得るかを,法令と裁判例から整理するものである。
会員本人のほか,親が積み立てていた互助会を相続人が解約する場面や,相談を受ける弁護士を想定している。
記事の基準日は令和8年9月20日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により確認した。
要点は次のとおりである。
①互助会の契約は割賦販売法の「前払式特定取引」であり,事業者は経済産業大臣の許可を受けているが,同法には解約手数料の上限を定める民事上の規定がない。
②そのため,解約手数料の効力は,主に消費者契約法9条1項1号(平均的な損害を超える部分は無効)で判断される。
③訪問販売で入会した場合には,特定商取引法10条1項4号(契約の締結及び履行のために通常要する費用の額が上限)が消費者契約法に優先して適用されるとした高等裁判所の判決がある。
④適格消費者団体による差止訴訟の結論は分かれており,特に福岡高等裁判所の2件は,会員募集の費用を平均的な損害に入れるかどうかで逆の結論になった。
⑤解約を申し出る前に,入会の経緯(訪問か店舗か),約款の手数料表,払込回数及び施行の請求をしたかどうかを確認することが重要である。
裁判例は,事業者ごとの約款と費用の証拠に基づいて平均的な損害を算定したものであり,判決に示された金額がそのまま他の互助会に当てはまるわけではない。
本記事の試算や当てはめは,個別の事案の結論を示すものではない。
第2 互助会の法的性格
1 割賦販売法の前払式特定取引
(1) 前払式特定取引の定義
互助会の契約は,割賦販売法2条6項の「前払式特定取引」に当たる。
同項は,「この法律において「前払式特定取引」とは、次の各号に掲げる取引で、当該各号に定める者に対する商品の引渡し又は政令で定める役務(以下この項、第三十五条の三の六十一、第三十五条の三の六十二、第四十一条及び第四十一条の二において「指定役務」という。)の提供に先立つてその者から当該商品の代金又は当該指定役務の対価の全部又は一部を二月以上の期間にわたり、かつ、三回以上に分割して受領するものをいう。」と定め,同項2号は「指定役務の提供又は指定役務の提供をすること若しくは指定役務の提供を受けることの取次ぎ」を掲げている。
つまり,冠婚葬祭のサービスを受ける前に,その対価を2か月以上・3回以上に分けて払い込む仕組みが前払式特定取引である。
(2) 指定役務としての婚礼と葬式
割賦販売法施行令1条4項は,「法第二条第六項の政令で定める役務は、別表第二に掲げる役務とする。」と定める。
同令別表第二は,第1号で「婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供、衣服の貸与その他の便益の提供及びこれに附随する物品の給付」を,第2号で「葬式のための祭壇の貸与その他の便益の提供及びこれに附随する物品の給付」を掲げている。
互助会の「冠」(婚礼)と「葬」(葬式)の役務は,いずれもこの別表第二の指定役務に当たる。
2 経済産業大臣の許可制と解約手数料の位置付け
(1) 許可制
割賦販売法35条の3の61は,「前払式特定取引は、経済産業大臣の許可を受けた者でなければ、業として営んではならない。」と定める(同条ただし書の例外を除く。)。
互助会は,この許可を受けて営業している。
(2) 解約手数料の上限を定める民事上の規定がないこと
割賦販売法6条1項は,割賦販売の方法による契約が解除された場合の損害賠償等の額を制限しており,同項3号は,役務の提供の開始前に解除された場合について,「契約の締結及び履行のために通常要する費用の額」を上限としている。
しかし,京都地方裁判所平成23年12月13日判決は,同号は前払式特定取引には適用されず,類推適用する基礎も欠くと判断した。
(続きを読む...)冠婚葬祭互助会の解約手数料はいくらまで有効か―消費者契約法9条,特定商取引法10条及び裁判例(AI作成)
目次第1 本記事の対象と基準日第2 金宝堂に対する措置命令(令和8年9月18日)1 命令の対象となった表示と実際の価格2 CM画面の注記と命令の内容第3 葬儀業者に対する景品表示法の処分の系譜1 平成29年から令和8年までの7件2 処分例に共通する表示の型第4 打消し表示についての消費者庁の考え方1 動画広告の打消し表示2 追加料金型の打消し表示第5 国民生活センターの相談統計と事例1 相談件数と相談内容2 公表された3つの事例3 国民生活センターの助言第6 相談を受けたときの法的構成1 クーリング・オフは原則として使えない2 消費者契約法による取消し3 キャンセル料の一部無効4 景品表示法違反と被害者個人の請求第7 葬儀社と遺族の紛争に関する裁判例1 契約の当事者は誰か2 契約前の搬送と困惑による取消し3 生活保護葬での意向確認と慰謝料4 葬儀費用の最終的な負担者第8 Googleマップの口コミの見方第9 互助会の解約と結婚式場のキャンセル料との違い第10 実務のチェックリスト1 葬儀社を決める前2 契約後にトラブルになったとき第11 関連記事第12 出典1 法令・告示2 裁判例3 行政処分(消費者庁の報道発表)4 所管行政機関の資料・Q&A5 統計・相談事例
第1 本記事の対象と基準日
本記事は,テレビCM,インターネット広告,チラシ等に表示された低価格の葬儀プランを見て葬儀社に依頼したところ,見積額や請求額が広告の価格を大きく上回ったという場面を扱う。
想定する読者は,葬儀の見積もりや請求に納得できない遺族と,死後事務や相続の相談の中でこの種の相談を受ける弁護士である。
まず,令和8年9月18日に消費者庁が株式会社金宝堂に対して行った措置命令と,平成29年以降に葬儀業者に対して行われた景品表示法の処分例を,消費者庁の公表資料に基づいて整理する。
次に,国民生活センターが公表した相談統計と事例を確認した上で,相談を受けたときに検討する法律(特定商取引法,消費者契約法,民法及び景品表示法)と,葬儀社と遺族の間の裁判例を取り上げる。
本記事の基準日は令和8年9月20日である。
条文はe-Gov法令検索で基準日時点の現行条文を確認した。
個別の事業者名は,消費者庁が公表した処分の対象となった事業者に限って記載する。
取り上げる下級審の裁判例は,いずれも個別の事案についての判断であり,同種の事案で同じ結論になることを保証するものではない。
第2 金宝堂に対する措置命令(令和8年9月18日)
1 命令の対象となった表示と実際の価格
(1) テレビCMの表示
消費者庁は,令和8年9月18日,株式会社金宝堂(東京都渋谷区)に対し,景品表示法7条1項に基づく措置命令(消表対第807号)を行った。
違反とされたのは,価格その他の取引条件についての有利誤認表示を禁止する同法5条2号である。
対象は,「小さな森の家」という屋号で提供する「貸切ホールを用いる家族葬に係る葬儀サービス」であり,表示媒体は地上波放送のテレビCMである。
表示期間は,令和7年3月1日から同年5月31日までのうちの一部の期間である。
CMでは,花飾りを背景に,「1日1組限定」との音声と共に「1日1組 貸切ホール」との文字,「選べるホールがこんなに」との音声と共に「えらべるホールがこんなに」との文字が映され,続いて「お得なプランがこの価格から」との音声と共に「家族葬 10.45万円~ (税込)」との文字が映された。
消費者庁は,これにより,あたかも貸切ホールを用いる家族葬が「最低料金として10万4500円で提供されるかのように表示していた」と認定した。
(2) 実際の最低額と報道の「約3倍」
これに対し,実際には,貸切ホールを用いる家族葬の提供を受けるには,「僅かな場合を除き,30万8000円以上の費用が必要であった」と認定されている。
一部の報道はこれを「約3倍」と伝えたが,30万8000円を10万4500円で割ると約2.95倍であり,「約3倍」は丸めた表現である。
消費者庁の発表資料及び命令書には「3倍」という語はない。
2 CM画面の注記と命令の内容
(1) 別紙の画像に写る注記
消費者庁の発表資料の別紙には,CMの画面が画像で添付されている(PDF7頁)。
その画像を見ると,「家族葬 10.45万円~」の画面の下部に,小さな文字で,「会員割引適用価格」,「こちらの料金は火葬式プランになります。」,「10.45万円のプランはお付き添い面会はできません。」,「火葬料金は別途お客様負担になります。」,「事前に資料請求と会員登録が必要です。」,「資料請求・会員登録・年会費無料」という注記が表示されている。
この読み取りは,本記事が別紙の画像から行ったものであり,消費者庁が命令書の中で認定した事実ではない。
命令書の本文は注記に言及しておらず,注記が付されていても,表示全体として5条2号に当たると判断されたものと考えられる。
画像の注記によれば,10.45万円は火葬式プランの会員割引価格であり,CMが音声と映像で強調していた「貸切ホール」の家族葬の価格ではなかったと読める。
(続きを読む...)格安葬儀の広告と葬儀社とのトラブル―景品表示法の処分例,クーリング・オフの可否,消費者契約法及び裁判例(AI作成)
目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論3 用語第2 受信契約と受信料債権の仕組み1 放送法64条(現行)2 条文の変遷第3 受信料債権の時効期間1 最高裁平成26年9月5日判決2 最高裁平成30年7月17日判決3 改正後民法の下での時効期間第4 受信契約を締結していない場合の起算点1 受信契約はいつ成立するか2 時効は契約成立時から進行する3 反対意見と補足意見第5 割増金と延滞利息1 割増金2 延滞利息第6 時効の援用と注意点1 援用の方法2 計算例3 時効完成後に支払った場合4 判決や支払督促で確定した場合5 受信料を払わなくてよいという主張やサービスへの注意第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,日本放送協会(以下「NHK」という。)の受信料の支払を求められた人が,古い期間の受信料について消滅時効を主張できるかを扱う。
中心となるのは,受信料債権の時効期間を5年とした最高裁判所第二小法廷平成26年9月5日判決(平成25年(受)第2024号,集民247号159頁)と,受信契約を締結していない人について時効の起算点を契約成立時とした最高裁判所大法廷平成29年12月6日判決(平成26年(オ)第1130号等,民集71巻10号1817頁)である。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文と過去時点の条文で,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で確認した。
第5の2の付則の記載と第6の5は,令和8年9月20日に追記した。
消滅時効全体の見取り図は,消滅時効に関するメモ書きで整理している。
2 結論
NHK受信料の消滅時効についての結論は,次のとおりである。
①受信契約を締結している人の受信料債権は,各期の支払期日から5年で時効が完成する(平成26年判決。改正前民法169条)。
②令和2年4月1日以後の受信料についても時効期間は5年であるが,根拠条文は受信契約の締結時期によって異なり,施行日前に締結された受信契約に基づく受信料には改正前民法169条が,施行日以後に締結された受信契約に基づく受信料には改正後民法166条1項が適用されると考えられる。
③受信契約全体について第1回の弁済期から20年とする定期金債権の時効(改正前民法168条1項前段)は適用されないから,長年払っていなくても将来の受信料の支払義務まで消えることはない(最高裁平成30年7月17日判決)。
④受信設備を設置しながら受信契約を締結していない人については,NHKが承諾の意思表示を命ずる判決を得てその判決が確定した時に受信契約が成立し,設置の月以降の受信料債権が発生するが,その時効は契約成立時から進行するから,何年前に設置した分であっても,契約成立の時から時効期間が経過するまでは時効を主張できない(大法廷平成29年判決)。
⑤時効は援用しなければ効果が生じないから(民法145条),時効が完成した期間の受信料の支払を拒むには,NHKに対して援用の意思表示をする必要がある。
つまり,契約済みで支払を滞納している人は5年より前の分について時効を援用できるが,契約をしていない人は,判決で契約が成立させられた場合には設置の月まで遡って支払を命じられ得ることになる。
3 用語
本記事で「改正前民法」とは,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による改正前の民法をいい,同法の施行日は令和2年4月1日である。
「受信契約」とは,NHKの放送又は配信の受信についての契約をいう(放送法64条8項1号)。
改正前民法169条は定期給付債権の5年の短期消滅時効を定めた規定であり,判決で確定した権利の時効期間を10年とする現行169条とは内容がまったく異なる。
第2 受信契約と受信料債権の仕組み
1 放送法64条(現行)
現行の放送法64条1項は,「次の各号のいずれかに該当する者は、認可契約条項で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない。」と定め,1号で「特定受信設備を設置した者」,2号で「特定必要的配信の受信を開始した者」を掲げる。
「特定受信設備」とは,NHKの放送を受信することのできる受信設備であって,放送の受信を目的としない受信設備と,ラジオ放送又は多重放送に限り受信することのできる受信設備を除いたものをいう(同条8項3号)。
同条5項は,受信契約の条項についてNHKが総務大臣の認可を受けなければならないとし,その記載事項として,受信料の支払の時期及び方法(3号)や,不正な手段により受信料の支払を免れた場合等の割増金(4号)を掲げる。
放送法は,受信料の支払義務そのものを直接定めてはいない。
受信料の支払義務は,放送法64条1項に基づいて締結される受信契約から生じる。
この構造が,後に見る時効の起算点の考え方に直結する。
2 条文の変遷
平成29年判決の当時の放送法64条1項は,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と定めていた(e-Gov法令検索で平成29年12月6日時点の条文を確認)。
(続きを読む...)NHK受信料の消滅時効は5年―最高裁平成26年9月5日判決と大法廷平成29年12月6日判決の起算点(AI作成)
目次
第1 結論―保存,開示,診療継続及び廃棄を分けて設計する
第2 最初の72時間に行うこと
第3 誰が記録を保存し,誰が開示に対応するか
第4 記録ごとの保存期間と起算点
第5 紙カルテと電子カルテの外部保存
第6 患者の転院と診療情報の開示
第7 実務上考えられる四つの運用モデル
第8 保存期間満了後の廃棄
第9 破産管財人の時系列チェックリスト
第10 判例秘書の検索結果と未確認事項
第11 関連記事
第12 出典
第1 結論―保存,開示,診療継続及び廃棄を分けて設計する
本記事は,令和8年9月18日現在の法令及び公的資料に基づき,医療法人,一般財団法人又は個人診療所が破産又は閉院する場合の診療録,電子カルテ,画像,健診記録等の取扱いを整理するものである。
法令・通知で確認できることとして,勤務医が作成した診療録は病院又は診療所の管理者が5年間保存し,厚生労働省は,病院又は診療所が廃止された場合には,通常は廃止時点の管理者が保存するのが適当であるとしている。また,患者等から診療録の開示を求められた場合,原則として応じる必要があるとの行政上の整理が示されている。
本記事の実務上の提案は,①記録を失わないための保全,②現在患者の診療継続,③本人又は遺族からの開示依頼,④保存期間満了後の廃棄を一つの問題として扱わず,責任者,連絡先,費用及び終了条件をそれぞれ決めることである。
未確認事項として,医療機関の破産管財人が,破産手続開始だけによって医師法24条2項上の「管理者」又はその公法上の保存義務を当然に承継すると明記した法令・最高裁判例は,今回確認した範囲では見当たらない。もっとも,破産財団に属するサーバー,紙記録及び契約を管理処分する権限は管財人に専属するため,管財人が記録の消失を防ぎ,元管理者,保健所,電子カルテ事業者等との実施体制を作る必要性は高い。裁判所職員総合研修所の研究報告書も,管財人が破産財団の費用で記録を保管し,保存期間経過後に処分する実務を記載するにとどまり,管理者の地位の承継には触れていない(第10参照)。
第2 最初の72時間に行うこと
1 削除,返却,解約及び上書きを止める
まず,電子カルテ,画像管理システム,検査機器,クラウド,バックアップ媒体及びリース物件について,自動削除,アカウント停止,機器返却,初期化及び契約終了の日を確認する。ベンダーやリース会社には,記録保全のために処分を一時停止する対象と期間を明確に伝える。紙への一括印刷を先行させると,画像原データ,波形,更新履歴,監査ログ,添付ファイル又は検索情報を失うおそれがあるため,まず原データの保全可能性を確認する。
2 現在患者と未処理検査を優先する
治療継続中の患者,結果説明前の検査,予約済みの処置及び紹介状未作成の患者を抽出し,転院先への診療情報提供を優先する。単にカルテを保存しても,現在進行中の診療上の危険が解消されるわけではない。緊急性,連絡結果,提供資料及び未了事項を患者ごとに記録する。
3 記録台帳を作る
第1 この記事の対象と結論
第2 「正当性」を判断する三つの層
第3 個人情報保護法57条の枠組み
1 主体と目的の組合せで判断する
2 著述と名簿の違い
3 名簿的画面にも適用除外が及ぶという本ブログの立場
4 一覧表示と「報道」該当性
第4 本ブログの正当性を支える事情
1 裁判官人事は公共性の高い情報である
2 散在する一次資料を追跡可能な形で整理している
3 継続性と網羅性が制度理解に寄与している
4 一覧・検索機能は記事を読むための編集基盤でもある
5 外部評価と実際の利用が確認できる
第5 正当性を維持するための限界設定
1 掲載対象を公務・司法制度との関係に限定する
2 出典・正確性・事実評価の区別を確認する
第6 苦情・訂正・削除等の申出
1 苦情等を受け付ける基本姿勢
(続きを読む...)ブログ・裁判官経歴データベースと個人情報保護法57条-報道・著述の適用除外,名簿との違い及び苦情処理
目次第1 中間取りまとめの位置付けと結論1 令和8年9月時点では現行法ではない2 検討されている変更の全体像第2 消費者の多様な脆弱性を基礎とする制度1 現行法の目的及び定義との違い2 脆弱性は一部の人だけの固定的属性ではない3 配慮規定,指針及び官民協議会第3 深刻な結果をもたらす契約からの解放1 従来の不当勧誘とは異なる救済の構想2 対象契約と要件は確定していない第4 継続的契約の解約妨害と自動更新1 相談件数と規律の対象2 一般的な中途解約権を新設する提案ではない3 禁止が検討される解約妨害4 禁止違反の効果と差止請求5 合理的な離脱方法と情報提供6 自動更新前の通知第5 定型約款の変更と契約者死亡時の対応1 重要な不利益変更の個別通知2 契約者が死亡した場合の対応手順第6 解約料と消費者契約法9条1 現行法の平均的な損害という基準2 9条1項1号は今回は見直さない方向3 説明に関する既存制度の拡充第7 消費者と事業者が現時点で確認できること1 消費者は現行法上の権利を先に確認する2 事業者は解約経路と変更通知を点検できる3 制度化までの四つの段階を区別する第8 今後の手続1 パブリックコメント2 最終取りまとめ,法律案及び施行日第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 所管行政機関の検討会資料3 所管行政機関の説明
第1 中間取りまとめの位置付けと結論
1 令和8年9月時点では現行法ではない
本記事は,消費者庁の「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会」が令和8年9月10日に公表した中間取りまとめについて,現行法との違いと今後の検討事項を整理するものである。
法令及び公表資料の確認基準日は令和8年9月15日であり,同日現在,中間取りまとめは改正法,法律案又は確定した施行内容ではない。
検討会は令和7年11月から9回,その下のワーキンググループは8回開催され,中間取りまとめ後も制度の具体化を続ける予定である。
消費者庁長官は令和8年9月10日の記者会見で,準備が整い次第パブリックコメントを実施する予定である一方,最終取りまとめの時期は未定であり,令和9年の通常国会への法案提出も断言できないと説明した。
2 検討されている変更の全体像
中間取りまとめの主要点は,①全ての消費者が有し得る多様な脆弱性を制度の基礎に置くこと,②深刻な結果をもたらす契約から消費者を解放する新たな仕組みを検討すること,③継続的契約における解約妨害,自動更新,契約変更及び契約者死亡時の対応を整備すること,④消費者契約法9条1項1号の解約料規制は今回は見直さず,説明に関する制度を拡充することである。
もっとも,規律の対象,要件,法的効果及び例外が未確定の項目は多く,中間取りまとめだけから個別の契約を解除し,又は事業者の責任を確定することはできない。
第2 消費者の多様な脆弱性を基礎とする制度
1 現行法の目的及び定義との違い
(1) 情報・交渉力の格差を基礎とする現行法
現行の消費者契約法1条は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み,不当な勧誘による意思表示の取消し,不当条項の無効及び適格消費者団体による差止請求等によって消費者の利益を擁護することを目的としている。
同法2条1項は,事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く個人を「消費者」と定義している。
(2) 目的規定を広げ,消費者の定義は維持する方向
中間取りまとめは,情報・交渉力の格差の是正に加え,消費者ならば誰しも多様な脆弱性を有するという認識と,関係主体の連携によって安心・安全に取引できる環境を形成するという要素を,目的規定に加える方向を示した。
他方で,「消費者」の定義自体は変更しない方向であり,年齢,障害又は認知機能等によって保護対象となる消費者を限定する提案ではない。
2 脆弱性は一部の人だけの固定的属性ではない
(1) 全ての消費者が有し得る状態
中間取りまとめがいう「消費者の脆弱性」は,消費者の力を弱め,又は危害にさらされやすくする状態であり,他者又は環境との関係によって多様に変化するものと整理されている。
したがって,高齢,若年,障害又は認知機能の低下のような属性だけでなく,情報過多,心理状態,時間的圧迫,取引環境及び相手方との関係等によって,誰にでも生じ得る状態を対象としている。
(2) 判断過程と契約結果の双方への着目
検討の対象は,消費者が契約を締結するか否かを適切に判断できるかという過程だけではない。
契約内容が消費者の生活又は財産に深刻な結果をもたらさないかという結果にも着目し,契約の締結,履行,継続及び終了の各段階を通じた対応が検討されている。
3 配慮規定,指針及び官民協議会
(1) 事業者の配慮を促進する規定
中間取りまとめは,事業者が,取引条件その他の事情に応じて,消費者の適切な判断の確保と契約締結によって生じる結果に配慮することを促進する仕組みを設ける方向を示した。
この規律は,特定の行為だけを禁止する民事ルールではなく,広い取引分野で行動を促すプリンシプルとして構想されている。
(2) 指針による具体化と官民の協議
目次
第1 この記事の対象と結論
第2 無断キャンセルで損害賠償を請求できる根拠
1 予約による契約の成立
2 無断キャンセルと契約の「解除」
第3 キャンセル料の上限――消費者契約法9条1項1号
1 条文と適用される場面
2 平均的な損害の意味と主張立証責任
3 解除の時期による違い
4 算定根拠の説明(9条2項)
第4 飲食店のパーティー予約についての裁判例
1 東京地裁平成14年3月25日判決の事案
2 判決の判断
3 この判決から読み取れること
第5 No showレポートが示す損害の考え方
1 レポートの位置付けと損害の規模
2 コース予約と席のみの予約
3 事前のキャンセルと無断キャンセルの違い
(続きを読む...)無断キャンセル(ノーショー)のキャンセル料はいくらまで請求できるか――消費者契約法9条の「平均的な損害」と裁判例(AI作成)
目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 最高裁平成29年10月23日判決1 事案2 判断3 判決が決めていないこと第3 裁判例の認容額1 認容額の一覧2 ベネッセ事件3 Yahoo! BB事件(1人6000円又は5500円)4 宇治市の住民基本台帳データの流出(1人1万5000円)5 大学の講演会名簿の提出(1人5000円又は1万円)6 エステティックサロンのアンケート回答の流出(1人3万5000円)7 市の職員が職務上知った情報を漏らした例(5万円)8 高額の慰謝料が認められた例(110万円・165万円)第4 金額を左右する事情1 情報の内容と秘匿性2 流出の範囲と実害3 事業者の事後の対応4 弁護士費用と実費第5 請求の根拠と期間制限1 不法行為と委託先の従業員による持ち出し2 個人情報保護法の報告と本人通知3 消滅時効第6 法律事務所から漏えいした場合第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例(裁判所HP掲載)3 裁判例(裁判所HP未掲載)
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事が扱う場面
本記事は,事業者や自治体が管理していた個人情報が外部に漏えいした場合に,漏えいした本人が慰謝料を請求できるか,認められるとしていくらかを,最高裁平成29年10月23日判決と,裁判所HP及び判例秘書で確認した裁判例の認容額に沿って説明するものである。
漏えいを起こした事業者の側から見れば,本人から損害賠償を求められたときの見通しの問題でもある。
本記事の記載は,令和8年9月13日時点で確認できた法令及び裁判例に基づく。
2 結論の要旨
①氏名,住所及び電話番号のような基本的な情報であっても,プライバシーに係る情報として法的保護の対象となり,漏えいによってプライバシーが侵害されたといえる(最高裁平成29年10月23日判決)。
②同判決は,迷惑行為や財産的損害のような「不快感や不安を超える損害」の主張・立証がないことだけを理由に,請求を棄却することはできないとした。
③本記事で確認した裁判例では,氏名や住所等の基本的な情報が漏えいし,実害が確認されていない事案の認容額は,弁護士費用を含めて1人当たり1000円から1万5000円であり,ベネッセ事件では1000円から4000円であった。
④エステティックサロンのアンケートの回答のように,氏名や住所だけの場合より秘匿の必要性が高い情報がインターネット上に広く流布した事案では,1人3万5000円が認められている。
⑤DVの被害者の住所のように生命身体の安全に関わる情報が伝わり,重大な結果が生じた事案では慰謝料100万円が,HIV感染という病歴を病院が採用判断に流用した事案では内定取消しと合わせて慰謝料150万円が認められている。
⑥事業者が謝罪し,500円相当の金券等を送り,再発防止策を講じたことは,額を抑える方向の事情として考慮され,又は損害の一部弁済として差し引かれているが,それだけで請求が否定されるわけではない。
⑦請求の根拠は民法の不法行為(709条・715条・719条)であり,自治体に対しては国家賠償法1条も根拠となる。
不法行為による損害賠償の請求権は,損害及び加害者を知った時から3年で時効にかかる(民法724条1号)。
なお,令和8年10月21日に米国ニューメキシコ州地裁がMetaに命じた250億ドルは,被害者に支払われる慰謝料ではなく,州消費者保護法上の民事制裁金である。
陪審が認定した4389万9725件も,被害者数ではなく,複数の表示ごとに想定読者数を積み上げた違反件数である。
制度と金額を日本の慰謝料と単純比較できない理由は,メタに約4兆円の制裁金―ケンブリッジ・アナリティカ事件と4389万件の「違反」の数え方で整理している。
第2 最高裁平成29年10月23日判決
1 事案
通信教育等を目的とする会社(ベネッセコーポレーション)が管理していた子の氏名,性別,生年月日,郵便番号,住所及び電話番号並びに保護者の氏名が,遅くとも平成26年6月下旬頃までに外部に漏えいした。
漏えいは,同社のシステムの開発,運用を行っていた会社の業務委託先の従業員であった者が,同社のデータベースから大量の個人情報を不正に持ち出し,複数の名簿業者に売却したことによるものであった。
保護者が同社に慰謝料を請求したが,原審の大阪高等裁判所は,迷惑行為を受けているとか財産的な損害を被ったなど,「不快感や不安を超える損害を被ったことについての主張,立証がされていない」として,請求を棄却すべきものとした。
2 判断
最高裁は,漏えいした個人情報は「上告人のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべき」であるとし,漏えいによって上告人はプライバシーを侵害されたといえるとした。
その上で,原審が「精神的損害の有無及びその程度等について十分に審理することなく」,不快感等を超える損害の発生についての主張・立証がないことのみから直ちに請求を棄却すべきものとしたことは違法であるとして,原判決を破棄し,事件を大阪高等裁判所に差し戻した。
同判決が参照した最高裁平成15年9月12日判決は,大学が講演会の参加申込者の学籍番号,氏名,住所及び電話番号を記載した名簿を無断で警察に提出した事案で,これらの情報は参加申込者のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるとし,無断での開示は不法行為を構成するとしたものである。
3 判決が決めていないこと
同判決は,慰謝料の額を示しておらず,事業者の過失の有無と精神的損害の有無及びその程度について,さらに審理を尽くさせるために差し戻している。
したがって,同判決からいえるのは,基本的な個人情報の漏えいでも慰謝料の請求が直ちに否定されるわけではないということであり,どの程度の額が認められるかは,下級審の裁判例を見る必要がある。
目次第1 本記事の対象第2 Moltbook事件で何が起きたか1 公表された事実と時系列2 原因――見えていたキーではなく,行単位の制御の欠如3 読取りだけでなく書換えもできた第3 AIで作ったことがなぜ問題になるのか1 動く機能と,守る設定は別物である2 認証と認可を分けて考える第4 個人情報保護法から見た位置付け1 安全管理措置(法23条)2 設定の不備で公開状態になったことは「漏えい」に当たる3 個人情報保護委員会への報告と本人への通知4 外部のサービスを使う場合と,開発を委託する場合第5 開発を外部に委託するときの契約1 セキュリティ仕様を開発の前に決める2 個人情報の取扱いを定める条項第6 公開前と公開後に確かめること1 公開前の点検2 公開後の点検第7 関連記事第8 出典1 法令2 所管行政機関の指針・Q&A3 公的機関の技術資料・契約モデル4 事件の調査報告・技術文書5 裁判例
第1 本記事の対象
本記事は,AIエージェントが投稿するSNS「Moltbook」で令和8年(2026年)1月末に見つかったデータベースの露出を題材に,AIを使って作った社内ツール又はサービスで同じことが起きた場合の技術上の原因と法的な位置付けを整理するものである。
事件の事実は,発見者である米国のセキュリティ企業Wizが同年2月2日に公表した調査結果によっており,調査基準日は令和8年9月13日である。
Moltbookは海外のサービスであり,その運営者に日本の個人情報保護法が適用されるかどうかは確認できていない。
そこで,後記第4の1以下では,日本の事業者が同じ仕組みの社内ツールで同じことを起こしたと仮定して,法令,個人情報保護委員会のガイドライン及びQ&Aを当てはめる。
Moltbookの運営者に日本法上の義務違反があったと述べるものではない。
結論を先に示すと,次の3点になる。
①原因は,ブラウザから見える接続用のキーそのものではなく,データベースに「誰がどの行を見てよいか」の制御(行単位のアクセス制御)が設定されていなかったことにある。
②日本の事業者であれば,設定の不備で個人データが誰でも閲覧できる状態になったこと自体が「漏えい」の典型例に当たり,本人の数が1,000人を超える場合その他の施行規則7条各号に該当すれば,個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要になる。
③開発を外部に委託するときは,機能の仕様と同じように,認可の方式を開発前にセキュリティ仕様として書面で決めておく必要がある。
第2 Moltbook事件で何が起きたか
1 公表された事実と時系列
(1) 露出した情報
Wizの公表によれば,Moltbookは,AIエージェントが投稿,コメント及び投票をする,AIエージェント専用をうたうSNSである。
Wizは,創業者がX上で,Moltbookのコードを1行も書いていないと述べていたと紹介している。
露出していたのは,約150万件のAPI認証トークン,約3万5千件のメールアドレス及びエージェント間のダイレクトメッセージ(4,060件の会話)等であり,Wizは露出したレコードを約475万件としている。
所有者(人間)の情報を収めたテーブルには1万7千人を超える利用者の個人情報があり,別のテーブルには2万9,631件のメールアドレスが追加で見つかった。
ダイレクトメッセージの中には,他社のAIサービスのAPIキーが平文で書かれたものも含まれていた。
なお,これらの件数の相互の関係(重複の有無等)はWizの公表では説明されていない。
(2) 通報から修正まで
Wizは,通常の利用者と同じようにサイトを閲覧するだけの方法で問題を見つけたと説明している。
Wizの記載する時系列(協定世界時)では,令和8年1月31日21時48分に運営者へ連絡し,22時06分にデータベースの設定不備を報告した。
その後,読取りの遮断,残りのテーブルの保護,書込みの遮断,追加で見つかったテーブルの保護と4段階で修正が行われ,最終的な修正は2月1日1時00分であった。
報告から最終修正までは約3時間であるが,1回の修正では終わらず,修正のたびに新たな露出が見つかっている。
他方で,データベースがいつから外部に開いた状態にあったか(露出の始期)は,Wizの公表では明らかにされていない。
2 原因――見えていたキーではなく,行単位の制御の欠如
(1) 公開用のキーはブラウザに置く前提のキーである
Moltbookは,データベースと認証の機能をまとめて提供する外部サービス(Supabase)を使っていた。
本番サイトのJavaScriptには,このサービスに接続するためのキーが書かれていたが,それは「公開用キー」(publishable key。以前のanon keyに相当する。)であった。
(続きを読む...)AIで作った社内ツールの情報漏えい――Moltbook事件から見る認可設計,個人情報保護法の安全管理措置及び委託契約(AI作成)
第1 記事の対象と結論第2 現行法上の三類型1 サービス提供者が個人データを取り扱わないクラウド利用2 サービス提供者が委託業務として個人情報を取り扱う場合3 サービス提供者が自己の目的でも利用する場合第3 改正法第30条の31 委託先等に対する直接の利用範囲制限2 対象情報と必要な範囲第4 改正法第58条の21 契約を基礎とする特例の条件2 特例によっても残る義務3 現時点で確定していない事項第5 クラウド及び生成AIへの当てはめ1 「学習利用なし」だけでは足りないこと2 契約,設定及び実装を一体で確認すること3 国外処理及び再委託第6 委託契約の確認事項1 目的,対象及び二次利用2 安全管理,再委託及び国外処理3 報告,削除及び変更管理4 認可仕様及び受入試験第7 導入及び見直しの手順第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 個人情報保護委員会の解説・Q&A・運用資料
第1 記事の対象と結論
令和8年改正個人情報保護法の施行に備えた委託契約の見直しでは,サービス提供者が実際に何をするかが出発点となる。
本記事では,クラウド及び生成AIの利用を機能ごとに三類型へ分け,二次利用,ログ,再委託,国外処理,報告及び削除を契約へ反映する方法を検討する。
特に,改正法第30条の3は委託先等に委託業務の必要範囲を超える利用を直接禁止し,改正法第58条の2は一定の処理者について契約及び実際の取扱いを条件とする特例を設けるものであるから,契約書の名称又は「学習利用なし」という表示だけで結論を出すべきではない。
本記事は,令和8年9月7日時点で公表されている令和8年法律第56号,個人情報保護委員会の改正法資料及び現行Q&Aに基づく一般的な整理である。
同法は令和8年7月10日に成立し,同月17日に公布されたが,第30条の3及び第58条の2を含む主要部分の具体的な施行日は,公布の日から2年以内の政令で定める日とされており,本記事の基準日現在では確定していない。
また,第58条の2の契約事項及び取扱方法の細目は個人情報保護委員会規則等に委ねられているため,今後の規則,ガイドライン及びQ&Aによって契約実務を更新する必要がある。
第2 現行法上の三類型
1 サービス提供者が個人データを取り扱わないクラウド利用
クラウドサービスの利用が個人データの第三者提供又は取扱いの委託に当たるかは,サーバに個人データを保存するという外形だけでなく,サービス提供者が当該個人データを取り扱うこととなっているかによって判断される。
個人情報保護委員会のQ&A7-53は,契約条項によってサービス提供者が個人データを取り扱わないこと及び適切なアクセス制御が確保されている場合には,個人データの提供に当たらず,現行法第25条の委託先監督義務も生じないとする。
もっとも,この場合でも利用者である事業者自身の安全管理措置義務がなくなるわけではない。
Q&A7-54が示すとおり,クラウド環境を利用する事業者は,保存した個人データについて自ら安全管理措置を講ずる必要がある。
2 サービス提供者が委託業務として個人情報を取り扱う場合
サービス提供者が,入力,集計,保管,検索,要約又は応答生成等のために個人情報を取り扱う場合は,取扱いの委託に当たるかを検討する必要がある。
現行法上,個人データの取扱いを委託する場合には,第25条による必要かつ適切な監督が必要となり,委託先の選定,契約及び取扱状況の把握を組み合わせることになる。
個人情報保護委員会のQ&A5-11は,定型的業務の委託について,外部事業者の約款等を吟味し,その遵守によって個人データの安全管理が図られると判断できる場合,自己の社内規を守らせる覚書の追加締結までは必須でないと説明する。
しかし,改正法第58条の2の特例を用いる場合には同条所定の契約事項が必要となるため,現行法上の委託先監督の方法と同条の適用条件を混同してはならない。
(続きを読む...)令和8年改正個人情報保護法と委託契約-クラウド・生成AI利用で見直す事項(第30条の3・第58条の2)(AI作成)
第1 総付景品の上限は既に変わったのか第2 現在の200円・20%という上限第3 閣議決定で決まった検討の内容1 何を調べ,公表するのか2 令和9年の結論と施行日の違い3 閣議決定だけで上限変更や廃止が生じるのか第4 業界団体が示した二つの300円案第5 見直しをめぐる意見と判断材料1 定額と割合で異なる論点2 執行件数や利用率から分かる範囲第6 今後の企画で確認する公表資料第7 出典1 法令・告示2 行政機関の解説・運用資料3 閣議決定・会議記録・行政説明資料4 業界団体の提案資料
第1 総付景品の上限は既に変わったのか
令和8年8月31日現在,消費者庁が掲載する総付景品の一般的な数値上限は,取引価額が1000円未満の場合は200円,1000円以上の場合は取引価額の20%である(総付景品告示1項)。
令和8年7月21日に閣議決定された規制改革実施計画163頁~164頁は,上限の引上げについて調査・検討を進める方針と日程を定めたものである。
新しい金額・割合や具体的な施行日を定めたものではなく,本記事で確認した公表資料の範囲でも,これらを定めた改正告示は確認できない。
項目
決まったこと
まだ確定していないこと
検討対象
200円の定額部分と20%の定率部分の双方
改定後の金額・割合
日程
令和8年度に検討開始,令和9年に結論,結論後速やかに措置
改正告示の具体的な施行日
将来の点検
措置後の再点検の実施・時期を検討する
再点検までの年数,規制を廃止するかどうか
本記事は,日本の一般的な総付景品規制と今回の見直しの現在地を扱い,個別企画の適法性やすべての業種別規制を判定するものではない。
景品表示法全体の仕組みは,本ブログの「景品表示法の仕組み―景品規制・不当表示・ステマ規制・法執行(AI作成)」を参照されたい。
第2 現在の200円・20%という上限
第1 「1個買うと1個無料」は一律に禁止されない第2 同じ商品を追加する「増量値引き」の条件1 「1個購入して1個追加」への当てはめ2 同じ値段なら同一商品といえるか3 購入数を超える追加や抽選は別に扱う第3 無料引換券・割引券とセット販売1 後日の無料引換券と金額割引券は区別する2 セット販売は「購入特典」と何が違うか第4 景品に当たる場合の上限と価額1 一般の総付景品は200円又は取引価額の20%が上限2 仕入値ではなく通常の購入価格で比較する第5 「無料」「半額」の広告表示は別に判断する第6 出典1 法令・告示2 行政機関の通達・価格表示の解説3 消費者庁のQ&A
第1 「1個買うと1個無料」は一律に禁止されない
「1個買うと1個無料」は,景品表示法が一律に禁止する販売方法ではない。
同じ対価で同じ商品を追加する場合には,正常な商慣習に照らして値引きと認められ,景品規制の対象外となることがある。
ただし,商品の同一性,追加数量,提供方法などによって結論が変わり,景品に当たらなくても「無料」などの広告表示の適否は別に問題となる。
本記事は,令和8年8月31日現在の日本の景品表示法について,一般的な小売販売を中心に説明するものである。
特定企業のキャンペーンの適法性を判定するものではない。
景品類とは,顧客を誘引するため,事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して相手方に提供する経済上の利益で,内閣総理大臣が指定するものをいう(景品表示法2条3項)。
もっとも,景品類の指定告示1項は,正常な商慣習に照らして値引きと認められる利益を景品類から除外している。
区分
判断の中心
景品規制との関係
値引き・増量値引き
対価を下げるものか,同じ対価で同一商品を追加するものか
正常な商慣習に照らして値引きと認められれば,景品類に含まれない
セット販売
複数の商品を組み合わせて販売することが明らかか
原則として取引に付随する提供ではない。ただし,景品と認識される提供方法などは別である
景品の提供
目次
第1 情報セキュリティ3要素と個人情報保護法上の安全管理措置
1 機密性・完全性・可用性という3要素
2 個人情報保護法23条が定める安全管理措置
第2 個人情報保護委員会ガイドラインが示す具体的な措置の内容
1 安全管理措置の5類型
2 技術的安全管理措置として必須とされる4項目
第3 漏えい等報告義務における3要素の扱い
1 報告対象事態の4類型と漏えい・滅失・毀損
2 ランサムウェア事案の位置づけと共通様式の新設
第4 医療分野における先行的な対応
1 医療情報システムの安全管理に関するガイドラインが示す3要素
2 可用性・完全性に踏み込んだ対策
第5 実務上の留意点
1 安全管理措置を点検する際の視点
(続きを読む...)個人情報保護法の安全管理措置は機密性に偏っているか――情報セキュリティ3要素のバランスと報告義務の構造(AI作成)
第1 この記事が扱う範囲
1 検討の対象と時点
2 隣接する論点との切り分け3 使える制度の一覧
第2 精神科病院に課されている退院促進の措置
1 退院後生活環境相談員
2 地域援助事業者の紹介
3 医療保護入院者退院支援委員会
4 入院者訪問支援事業
第3 都道府県及び市町村が負う相談援助と調整
1 相談援助の義務と精神保健福祉センター
2 障害福祉サービスの利用のあっせん,調整及び要請
第4 障害者総合支援法による地域移行の給付
1 地域移行支援及び地域定着支援
2 共同生活援助,自立生活援助及び体験の機会
3 相談支援事業者,基幹相談支援センター及び協議会
4 地域活動支援センター及び成年後見制度利用支援事業
(続きを読む...)精神科病院退院者の環境調整の諸制度――退院後生活環境相談員,地域移行支援,居住支援法人及び費用負担(AI作成)
第1 対象と最初に分けるべき問題
1 本記事の対象
2 対応の骨格
第2 個人情報保護委員会等への報告
1 報告対象となる四類型
2 委託元と委託先の義務主体
3 施行規則9条の通知と共同・代行報告の違い
第3 速報,確報及び報告先
1 速報と確報の期限
2 報告事項と報告先
第4 本人への通知
第1 この記事が扱う対象1 「二次利用」とは何を指すか2 検討の対象と時点第2 個人情報保護法における死者情報の位置づけ1 「生存する個人」という定義上の限界2 死者の情報が遺族本人の情報になる場合第3 最高裁判所令和8年2月20日判決1 事案の概要2 法廷意見の判断枠組み3 補足意見が示した射程4 刑事施設の診療情報をめぐる一連の最高裁判断第4 医療・介護分野における遺族への情報提供1 ガイダンスと診療情報の提供等に関する指針2 個別法にみる死者情報の遺族への提供第5 次世代医療基盤法による死者の医療情報の取込み1 「個人に関する情報」という定義の技巧2 死者の情報を対象に含めた理由3 オプトアウトの実効性という課題第6 研究利用に関する倫理指針の規律1 死者の尊厳を根拠とする独自の規律2 代諾者の同意と生前の拒否意思第7 刑事責任と民事上の名誉保護1 秘密漏示罪の「人」に死者は含まれない2 死者の名誉毀損罪3 遺族の敬愛追慕の情という受け皿第8 今後の見通し1 内閣府検討会における死亡者情報の議論状況2 令和8年改正個人情報保護法との関係出典・参考資料1 法令・通達・指針2 裁判例3 公的資料4 文献
第1 この記事が扱う対象
1 「二次利用」とは何を指すか
医療情報の「一次利用」とは,診療や介護のために医療機関等が患者本人の情報を用いることをいい,「二次利用」とは,これとは別の目的,典型的には研究開発や統計作成のために医療情報を用いることをいう。本記事が扱うのは,患者が死亡した後,その医療情報を遺族への提供,研究,データベースへの収録などの形でどこまで用いることができるかという問題である。生前の医療情報の一次利用(診療そのもの)や,本人が生存中の個人情報保護法制の一般論は対象としない。生存する患者の医療情報が本人の同意なく第三者提供され得る仕組み(次世代医療基盤法のオプトアウト,改正個人情報保護法の統計作成等の特例,内閣府検討会が構想する出口規制)については,医療情報は同意なく使われるようになるのか――次世代医療基盤法・改正個人情報保護法と内閣府検討会の到達点で扱っている。死亡後のオンラインアカウントやデジタルデータの承継という別の問題は,Appleアカウントの相続手続―故人アカウント管理連絡先,iCloudデータ及び端末の扱い及びGoogleアカウントの相続手続―死亡後のデータ取得・資金請求・閉鎖で扱っており,本記事では取り上げない。
2 検討の対象と時点
本記事の法令・裁判例の基本的な整理は,令和8年8月16日までに確認した資料を基礎とする。中心となるのは,死者に関する保有個人情報の開示が争われた最高裁判所令和8年2月20日判決であり,この判決を軸に,個人情報保護法,次世代医療基盤法,医療・介護関係のガイダンス,人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針,刑法及び民事の裁判例を横断して整理する。内閣府検討会における死亡者情報の取扱いについては,令和8年10月9日公表の正式なとりまとめを第8に反映した。将来の制度構想と,現在の本人通知等の要件を区別して読む必要がある。
第2 個人情報保護法における死者情報の位置づけ
1 「生存する個人」という定義上の限界
個人情報保護法2条1項は,「個人情報」を「生存する個人に関する情報であって,次の各号のいずれかに該当するものをいう」と定義する。この文言は,令和3年の法改正(行政機関個人情報保護法及び独立行政法人等個人情報保護法を個人情報保護法に統合する改正)の前後を通じて維持されており,死亡した人の情報は,どれほど機微な内容であっても,個人情報保護法上の「個人情報」には当たらない。令和3年改正前は,民間事業者に適用される個人情報保護法とは別に,行政機関には行政機関個人情報保護法,独立行政法人等には独立行政法人等個人情報保護法という別の法律が適用されていたが,これらもいずれも「生存する個人」に関する情報を対象としており,官民を通じて死者の情報は対象外とされてきた。
このため,患者が死亡すれば,その診療情報は個人情報保護法上の取得制限(20条)や第三者提供制限(27条)の対象から外れる。第三者提供に本人同意を要するという原則も,そもそも「本人」が存在しない以上,適用の前提を欠くことになる。
2 死者の情報が遺族本人の情報になる場合
もっとも,死者の情報が個人情報保護法の外側にあるという理は,遺族が当該情報について常に無権利であることを意味しない。ある情報が死者に関するものであると同時に,生存する遺族自身に関する情報でもあることがあり,その限度では,遺族本人の個人情報として個人情報保護法の適用を受ける。個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日個人情報保護委員会・厚生労働省。令和8年4月改訂版)は,この点を「なお,死者に関する情報が,同時に,遺族等の生存する個人に関する情報でもある場合には,当該生存する個人に関する情報となる」と説明する。問題は,どのような場合に死者の情報が遺族本人の情報だと評価されるのかであり,この判断枠組みを正面から示したのが,次に取り上げる最高裁判所令和8年2月20日判決である。
第3 最高裁判所令和8年2月20日判決
1 事案の概要
上告人の母は,平成30年5月に懲役受刑者として刑事施設に収容され,平成31年4月に刑の執行停止により釈放された後,令和元年12月に死亡した。母は収容中,上告人との面会において,同室者からいじめを受けている旨を述べていた。上告人は,令和2年8月,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(令和3年法律第37号による廃止前のもの。以下この項で「旧法」という)12条1項に基づき,処分行政庁(法務大臣から権限の委任を受けた近畿矯正管区長)に対し,母が同室者から受けたいじめに関する事案を調査した記録(本件調査記録)に記録されている情報(本件情報)の開示を請求したが,処分行政庁は,本件情報は生存する個人に関する情報ではなく,また上告人を本人とする保有個人情報にも当たらないとして,その全部を開示しない旨の決定をした。
第1 この記事が扱う対象と時点
1 「同意なく使われる」という問いが指す3つの層
2 対象範囲と検討の時点
第2 現行法がすでに認めている同意によらない医療情報の利用
1 個人情報保護法上の要配慮個人情報と学術研究目的の例外
2 次世代医療基盤法のオプトアウトの仕組み
3 2022年の約9万5千人分の通知漏れ事案
第3 次世代医療基盤法の制定・改正時に何が争われたか
(続きを読む...)医療情報は同意なく使われるようになるのか――次世代医療基盤法・改正個人情報保護法と内閣府検討会の到達点(AI作成)
目次
第1 この記事の対象と改正期限
1 令和10年7月17日は一律の施行日ではない
2 令和9年1月17日までに先行させる対応がある
第2 個人情報保護規程を改定する基本方針
1 規程の名称より具体的な取扱規律が必要である
2 必須・条件付き・推奨・下位規範待ちを分ける
3 高リスク処理を漏えいだけで判断しない
第3 全社共通で先に見直す事項
1 責任者・データ台帳・高リスク案件の承認
2 従業者の禁止行為とアクセス権限
3 漏えい等・行政対応・課徴金の証拠
第4 取扱いがある企業に必要となる特則
1 同意例外と統計・AI
2 16歳未満・未成年者と特定生体個人情報
3 委託・連絡可能情報・オプトアウト提供
目次第1 この記事の対象と要点第2 消費者契約法9条に関する最高裁判例1 学納金不返還特約2 LPガス供給契約の残存費用条項3 配管の付合・所有権と契約の表題4 現行法と主張立証責任第3 消費者契約法10条に関する最高裁判例第4 消費者契約法12条に関する最高裁判例第5 その他の関連最高裁判例第6 実務上の留意点第7 関連記事第8 出典
第1 この記事の対象と要点
1 対象と基準日
本記事は,消費者契約法又は同法の差止請求制度に関し,最高裁判所が法的判断を示した主な裁判例を,令和8年9月22日現在で整理するものである。
最高裁判所ウェブサイトに掲載された判例情報及び判決全文を基準とし,判決時の条文と現行法の条文番号が異なる場合はその対応も示す。
2 要点
最高裁判例は,同じ条文を扱っていても,契約の種類,条項の文言,解除の時期,対価関係及び事業者の運用等の具体的事情を前提としている。
したがって,「解約金条項は無効である」,「更新料条項は有効である」といった抽象的な結論だけを切り出すことはできず,自己の契約と判決の事実関係を対比する必要がある。
既存の最高裁判例のうち,特に注意すべきものは,最高裁令和7年12月23日判決がLPガス供給契約の残存費用条項を旧9条1号により全部無効としたこと,最高裁令和4年12月12日判決が家賃債務保証業者の無催告解除条項及び明渡し擬制条項を10条により無効としたことである。
第2 消費者契約法9条に関する最高裁判例
1 学納金不返還特約
大学等の入学辞退に伴う学納金の返還をめぐり,最高裁は,入学金と授業料等を区別し,解除の時期,推薦入試における専願の約束,入学式の無断欠席に関する記載,大学職員の説明及び定員補充の可能性等を考慮している。
裁判例
主な判断
最高裁平成18年11月27日第二小法廷判決(平成17年(受)第1158号・民集60巻9号3437頁)
在学契約,入学金及び学納金不返還特約の性質を示した基本判例である。原則として,3月31日までに在学契約が解除された場合,大学に生ずべき平均的な損害は存しないとした。
最高裁平成18年11月27日第二小法廷判決(平成17年(受)第1437号・民集60巻9号3597頁)
入学式の無断欠席を入学辞退とみなす旨等が入学手続要項に書かれている場合,無断欠席は原則として黙示の解除の意思表示に当たり,入学式の日までに解除された場合の授業料等不返還特約を全部無効とした。
最高裁平成18年11月27日第二小法廷判決(平成18年(受)第1130号・集民222号511頁)
大学職員が,入学式に出席しなければ入学辞退として扱う旨を告げたため,欠席による解除が4月になったという事情の下で,大学が不返還特約の有効を主張することは信義則上許されないとした。