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上告審に関するメモ書き(AIリライト)

◯本ブログ記事はAIでリライトしたものです。

第1 上告審の全体像

本記事は,上告と上告受理申立ての区別,上告理由及び上告審の手続を整理する記事である。最高裁破棄判決を,請求・主張,直接証拠,間接証明,証拠収集・損害論に関する22の失敗事例から実務的に読む方法は,最高裁破棄判決とは―22の失敗事例から学ぶ主張・立証・事実認定の実務で整理している。

1 上告審は法律審であること

上告とは,控訴審の終局判決に対する不服申立て(上訴)であり,上告審は,第一審及び控訴審が事実審であるのと異なり,法律審です。

すなわち,上告審は,事実認定をやり直す審級ではなく,原判決に法令の違反があるかどうかという観点から審査する審級です。

上告審は,事実審が適法に確定した事実に拘束され(民事訴訟法321条1項),その事実を前提として,法の解釈適用について最終的な判断を示します。

2 上告審となる裁判所——二つの三審構造

世間で「上告」「上告審」といえば,多くの場合は最高裁判所が思い浮かべられますが,民事訴訟には,最高裁判所が上告審となる流れと並んで,高等裁判所が上告審となるもう一つの上告制度があります。

どの裁判所が上告審となるかは,第一審がどの裁判所であったかによって決まります。

(1) 地方裁判所を第一審とする事件(最高裁判所が上告審)

地方裁判所を第一審とする事件では,控訴審が高等裁判所,上告審が最高裁判所となります。

本記事が主として扱うのは,この最高裁判所が上告審となる場合です。

(2) 簡易裁判所を第一審とする事件(高等裁判所が上告審)

これに対し,簡易裁判所を第一審とする事件では,控訴審が地方裁判所,上告審が高等裁判所となります(民事訴訟法311条1項)。

すなわち,地方裁判所が第二審(控訴審)としてした終局判決に対しては,高等裁判所に上告することができます。

各審級の記録符号は,簡易裁判所が「ハ」,控訴審である地方裁判所が「レ」,上告審である高等裁判所が「ツ」です。

3 上告制度の目的

上告制度の目的は,第一次的には,原判決の誤りを是正して当事者に救済を与えることにあり,第二次的には,法令解釈の統一を図ることにあります。

もっとも,法令解釈の統一という機能が前面に出るのは,唯一の最上級裁判所である最高裁判所が上告審となる場合です。

年度統計は,個別事件の「成功率」とは異なります。平成13年度について,判決又は決定による終局処理の調整後件数2945件に対し,破棄判決は60件で,比率は約2・04%でした。破棄決定は10件で,許可抗告既済53件に対する割合は約18・9%でした。分母と手続が異なるため,両者を足して一つの「上告成功率」にしてはいけません。

上告事件,上告受理申立事件,許可抗告事件等では,申立ての入口,最高裁の審査方法及び分母が異なります。また,破棄判決でも,原審確定事実だけで結論を出せるときは自判され,追加審理が必要なときは差し戻されます。件数を引用するときは,①手続類型,②分母,③破棄判決か破棄決定か,④自判か差戻しかを併記する必要があります。平成13年度の内訳と読み方は,平成13年度最高裁民事破棄判決等の実情―70件から学ぶ原判決の誤りと上告・抗告実務(AI作成)で整理しています。

平成8年度の年次解説では,判決終局279件中47件が破棄判決で,比率は16・8%でした。しかし,これは平成8年改正前の旧民事訴訟法下の統計であり,現在の上告又は上告受理申立ての成功率として用いることはできません。また,年次解説は最高裁判所調査官による有力な二次資料であって,個別判決本文そのものではありません。代表7判決の本文確認状況,残る40判決の未照合範囲及び現行法への読替えは,平成8年度最高裁民事破棄判決等の実情―47件から学ぶ原判決の誤りと上告・差戻審実務(AI作成)で整理しています。

第2 「上告」と「上告受理申立て」の区別

1 最高裁判所に対する不服申立ては二本立てであること

平成8年の民事訴訟法改正により,最高裁判所に対する不服申立ては,上告と上告受理申立ての二本立てとなりました。

両者は併せてすることができ,実務上も併用されることが多いものの,同一の書面で兼ねる場合には,その旨を書面上明らかにする必要があります。

上告と上告受理申立てとでは,主張することができる理由が異なりますので,どの理由をどちらで主張するのかを意識することが重要です。

2 上告の理由(民事訴訟法312条1項・2項)

最高裁判所に対する上告の理由は,次の二つの類型に限られます。

(1) 憲法違反(312条1項)

判決に憲法の解釈の誤りがあること,その他憲法の違反があることです(民事訴訟法312条1項)。

これには,原審の判断に憲法違反がある場合のほか,原審の手続に憲法違反がある場合も含まれます。

(2) 絶対的上告理由(312条2項)

判決の結論に影響するかどうかを問わず上告の理由となる,重大な手続違反です(民事訴訟法312条2項)。

具体的には,判決裁判所の構成の違法,判決に関与することができない裁判官の判決への関与,専属管轄の規定違反,法定代理権・訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権の欠缺,口頭弁論の公開規定の違反,判決の理由の不備又は理由の食違いです。

(3) 単なる法令違反は上告の理由とならないこと

旧法と異なり,現行法では,単なる法令違反を理由として最高裁判所に上告することは許されません。

憲法違反・絶対的上告理由に当たらない法令違反は,判例相反その他の法令解釈に関する重要な事項を含むことを示した上で,次に述べる上告受理申立てにより主張します。

3 上告受理申立ての理由(民事訴訟法318条1項)

(1) 「法令の解釈に関する重要な事項」を含むこと

上告受理申立てをするには,当該事件が法令の解釈に関する重要な事項を含むものであることを主張する必要があります(民事訴訟法318条1項)。

その具体的な意義及び判断要素については,第7で詳しく取り上げます。

(2) 憲法違反・絶対的上告理由は受理申立ての理由とならないこと

民事訴訟法312条1項及び2項に規定する事由(憲法違反及び絶対的上告理由)を,上告受理申立ての理由とすることはできません(民事訴訟法318条2項)。

4 高等裁判所に対する上告との違い

(1) 判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反(312条3項)

高等裁判所に対する上告は,憲法違反及び絶対的上告理由に加えて,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由としてすることができます(民事訴訟法312条3項)。

これが最高裁判所に対する上告との大きな違いであり,経験則違反や採証法則違反,審理不尽も,ここでいう法令の違反に含まれます。

(2) 上告受理の制度がないこと

高等裁判所に対する上告については,最高裁判所に対する上告受理の制度はありません。

そのため,高等裁判所が上告審となる場合には,上記の一般的な法令違反が,いわば包括的な上告の理由として機能します。

第3 上告審の手続の流れ

1 上告状の提出先と上告期間

上告状は,上告裁判所ではなく,原裁判所(控訴審をした裁判所)に提出します(民事訴訟法314条1項)。

上告期間は,判決書の送達を受けた日から2週間の不変期間です(民事訴訟法313条・285条)。

この期間は伸長することができず,各当事者ごとに別個に進行します。

2 上告理由書・上告受理申立て理由書の提出

実務上,上告状に上告の理由が記載されていないことがほとんどであり,その場合には,上告提起通知書の送達を受けた日から50日以内に,上告理由書を原裁判所に提出する必要があります(民事訴訟法315条1項,民事訴訟規則194条)。

この期間内に理由を記載した書面が提出されないときは,原裁判所は,補正を命ずることなく,決定で上告を却下しなければなりません(民事訴訟法316条1項2号)。

3 原裁判所の審査と補正の区別

期間内の書面に民事訴訟法312条1項・2項所定の上告理由が全く記載されていない場合と,法定理由は記載されているものの民事訴訟規則190条・191条の記載方式に違反する場合は,区別する必要があります。

最高裁判所第二小法廷平成12年7月14日決定(平成12年(オ)第547号)は,前者について,原裁判所は同規則196条1項の補正命令を発せず,直ちに上告を却下すべきであり,期間経過後の補正書によって適法になるものではないとしています(裁判集民事198号457頁,判例秘書L05510075)。
これに対し,後者については,同規則196条1項により相当の期間を定めて補正を命じ,その期間内に不備が補正されないときに却下します。

また,最高裁判所第一小法廷平成11年3月9日決定(平成11年(許)第8号)は,民事訴訟法318条1項の受理要件に該当するかを判断できるのは最高裁判所だけであり,原裁判所が重要性を欠くと考えて上告受理申立てを却下することはできないとしています(裁判集民事192号109頁,判例秘書L05410028)。

上告審から見た書記官事務の留意事項(令和6年分)を代理人側の提出前確認へ置き換えたものとして,上告審から逆算する民事上訴の提出前チェックリストがあります。

4 令和8年5月21日施行後の電子手続

令和8年5月21日に施行された改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則の下では,弁護士等の訴訟代理人は原則としてオンラインで上告等を申し立てます。現行の民事訴訟規則189条は,上告提起通知書について原則としてシステム送達を定め,同規則194条の50日はその送達を受けた日から進行します。通知メールの受信時刻だけで起算せず,事件管理画面の送達記録と対象書類を確認する必要があります。

上告理由書の写しは,同規則195条により,電子送達を受ける旨の届出をしていない被上告人の数に応じて添付します。また,同規則197条及び202条は,原裁判所から上告裁判所への事件管理の移転を定めています。詳しくは,裁判所の民事訴訟手続デジタル化の概要及びmintsで控訴・上告・上告受理申立てをする方法を参照してください。

第4 持ち回り審議事件及び審議事件

1 持ち回り審議の意義と割合

ア 持ち回り審議とは,小法廷の裁判官全員が集まって合議するまでもなく,書類の持ち回りと押印による決済のみで決定処理出来ると考えられる,比較的簡単な事件について行われる審議方法をいい,法定の上告理由や上告受理申立て理由を充たしていないと判断される,いわゆる門前払いのケースの他,実体判断であっても,判例・学説等に照らして明らかに採用することができないと考えられるケースにおいて用いられます(最高裁回想録42頁)。
イ 持ち回り審議事件は,最高裁に係属する事件のおよそ95%を占めていて,残りの約5%が,重要案件として,評議室における審議の対象となる事件(審議事件)となります(最高裁回想録42頁)。

【出典時点の注記】 上記の約95%という数字は,「最高裁回想録」42頁に記載された当時の説明です。令和8年現在の最高裁判所が公表した最新統計として確認した数字ではありません。なお,令和7年7月まで第三小法廷に在籍した宇賀克也最高裁判所判事(当時)も,著書で,在任中の実情として約95%の事件が持ち回り審議となると説明しています(宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)21頁)。

2 持ち回り審議事件と審議事件の振り分け

ア 持ち回り審議事件と審議事件との振り分けは,まずは担当の最高裁判所調査官が行うものの,調査官報告書において当初「持ち回り相当」とされていても,主任裁判官(裁判長)の検討の結果,あるいは,持ち回りの過程でいずれかの裁判官から「審議相当」との意見が出された場合,改めて「審議事件」として,調査官が報告書を作り直すことになります(最高裁回想録45頁及び46頁)。
イ 「ジェンダー平等と司法~法曹界における202030を考える~対談 元最高裁判事に聞く~最高裁の男女共同参画」には以下の記載があります(自由と正義2021年7月号26頁)。
櫻井 私は8年4か月(山中注:最高裁判所判事を)経験しましたけれど、持ち回りを審議事件に変えたのは、年に1件あるかないかという感じで、性差別に関係する問題は、セクハラの事件だけでした。

3 元最高裁判所判事による説明

愛知県弁護士会HPの「『女性法曹に聞く法曹の魅力』~綿引万里子名古屋高等裁判所長官・赤根智子国際刑事裁判所裁判官・鬼丸かおる元最高裁判所裁判官~」には,鬼丸かおる 元最高裁判所判事の発言として以下の記載があります。
  私の具体的な1日は、だいたい9時30分にはスタートします。朝登庁すると、いわゆる持ち回り事件の記録が机にどんと積んであって、効率よくこなせるような順に並んでおり、1日だいたい平均13~20件くらいの事件を処理します。多くはそのまま持ち回りで処理(棄却・不受理・却下)することになります。
 記録の回る順番は主任、つまり裁判長になる人が最初に見て、あとは部屋の順に見るようになっています。持ち回りになる事件のほかに期日審議になる事件がありますが、調査官が先に主任裁判官と相談して期日審議事件として小法廷の裁判官全員に一斉に通知して資料を配付します。
 持ち回り事件でも、1人の裁判官でも反対の結論の可能性を考えれば、期日審議に回すことができます。ただ、審議は頻繁にあるわけではなく、週に1回もないくらいの割合ですが、1回の審議で2、3件の期日審議をすることも少なくありません。

平成18年から平成25年まで第三小法廷に在籍した田原睦夫氏も,講演録「最高裁生活を振り返って」(金融法務事情1978号(平成25年)10頁~11頁)で,第三小法廷では持回り案件について裁判官が1人でも正式審議にかけるべきだと言えば正式審議に回ったこと,正式審議にかけた結果として不受理となる事件もそれなりにあったこと,退官を控えた時期には後任の着任に伴う遅れを避けるために持回りをやめて正式審議にかけ,速やかに処理することもあったことを説明しています。同氏は,審議に回ったからといって必ずしも破棄を前提としているわけではないと述べています(同10頁)。

平成25年から令和元年まで第二小法廷に在籍した山本庸幸元最高裁判所判事も,回想録(山本庸幸『元内閣法制局長官・元最高裁判所判事回想録』(弘文堂,令和6年))の中で,最高裁判所に提出される書類に無駄が多いことを挙げ,せめて上告理由書や上告受理申立理由書くらいは主張を絞って要領よく書いてほしいと常に感じていたと述べています(同書358頁~359頁)。また,調査官は,記録のほか,判例集,学術書,法律論文,専門誌などの文献を調べて報告書を作成するものの,事柄の性質上,外部に問い合わせることは一切できないこと,法律専門誌には一方の結論に偏った記事ばかりが掲載されることがあるので注意が必要であることにも触れています(同書360頁~361頁)。上告理由書や上告受理申立理由書では,調査官が外部に確かめることのできない事実を,記録上の証拠と頁で特定して示しておくことが大切になると考えられます。

4 宇賀克也『管見 最高裁判所』による説明(軽審議)

宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)24頁~25頁によれば,第三小法廷では,調査官報告書が持ち回り審議による不受理を相当としていても,裁判官が1人でも口頭での審議を希望すれば,裁判官全員が集まる機会に期日審議の対象とするかどうかを審議する運用があり,これを「軽審議」と呼んでいました。軽審議の結果,多数が期日審議に同意せずに不受理となることもあれば,期日審議を経て原判決が破棄され,最高裁判所判例集に登載されることもあったとされています。受理・不受理の判断の実情については,「上告不受理決定は原判決を正しいと認めたことになるか」も参照してください。

第5 持ち回り審議の問題点

1 評議の非公開と持ち回り審議方式

ア 平成18年5月1日の会社法施行以前については,書面決議に関する会社法370条に相当する条文がありませんでしたから,持ち回りの方式でなされた株式会社の取締役会決議は違法無効でした(最高裁昭和44年11月27日判決参照)。
 そして,「合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。」と定める裁判所法75条1項本文は,最高裁判所の裁判についても適用されるはずですが,最高裁判所の持ち回り審議方式は適法であることになっています。
イ 最高裁判所の小法廷の評議室は,裁判官棟各階の裁判官室の並びにあり、各小法廷毎に同じ構造のものが用意されていて,ここでは,毎週の審議日に,小法廷の全裁判官が集まって重要案件の「審議」やその他の会議を行います(最高裁回想録39頁)から,最高裁判所の「評議」は口頭でなされることを前提としていると思います。

2 武藤春光弁護士による指摘

「最高裁の持ち廻り合議と例文判決について」(5期の武藤春光弁護士(元広島高裁長官))には以下の記載があります(自由と正義1997年1月号83頁)。
 合議の要件は、各構成員が一同に会すること、口頭で意見を述べること、意見の交換による相互説得の機会があること、ということになる。持ち廻り合議は、意見を記載した書面を構成員の間に持って廻るだけであるから、合議の要件のすべてを欠いており、合議の名に値しない。

第6 最高裁判所調査官の審議への出席

1 調査官の審議への出席(刑事上告事件における説明)

・ 「最高裁判所調査官制度の内容-オーラル・ヒストリーを手がかりに」には,刑事の上告事件に関して,「審議への出席」として以下の記載があります(法学セミナー2017年5月号62頁)。
 調査官は、自分が報告書を提出した事件の「審議」には全部出る。審議は、小法廷の裁判官が全員集まって正式に合議をすることである。判例になりそうな事案、弁論を開く必要のある事案、破棄される可能性のある事案については審議が行われる。調査官報告に「是非ともご審議あいなりたい」と書いてあれば審議になる。しかし、調査官が「審議不要、持ち回りでやってほしい」というつもりで「×」印にしたものが引っかかることも、たまにはあった。
 審議は、ラウンドテーブルを囲む審議室で行う。担当調査官は、裁判官の囲むテーブルとは別に調査官用の机と椅子があってそこにつく。あくまでも調査官はオブザーバーであり、審議では説明は最初から主任裁判官がする。調査官の意見や細かい事実関係を裁判長から聞かれることはあるが、調査官は聞かれたことに答えるだけである。裁判長が説明をするための資料などについては、調査官報告書と1審・2審の判決、上告趣意書は必ず配布される。また、審議の時間あるいは回数は事件による。まとめて何件かをやる場合もあるし、簡単に済む事件もあるし、何回も続行する事件もある。
 大法廷回付の判断に調杳官室の関与はない。大法廷回付の判断は、裁判官の判断である。大法廷回付相当かどうかは、小法廷ごとの審議の席で決める。調査官が「これは大法廷に回した方がいいのではないか」という意見を言うこともある。

第7 「法令の解釈に関する重要な事項」(上告受理の基準)

1 判例タイムズ1399号による説明

「最高裁判所における民事上告審の手続について」には以下の記載があります(判例タイムズ1399号69頁及び70頁)。
    「法令の解釈に関する重要な事項」とは,最高裁判所として法令解釈を示す必要があるような事項をいう。①最高裁判所の判断により法令解釈の統一を図る必要がある法律問題を含むと認められる場合(一般的重要性)を含むことは明らかであるが,これに加えて,②原判決の法令の解釈に誤りがあり,そのために原判決の結論に看過し難い誤りがあると認められる場合(個別的重要性)も含まれるか否かについては争いがあるが,現時点では,②も含まれると解して実務は運用されているように思われる。
    重要事項を含むか否か,すなわち最高裁判所が当該事件を受理するか否かは,①当該法律問題についての最高裁判所の判例の有無及び下級審裁判例の累積状況,②当該法律問題についての議論の成熟性ないし学説の分布状況,③当該法律問題が個別事件を超えた一般的な意義を有するものか否か,④法令解釈の誤りが原判決の結論に影響を与えるか否か(傍論部分や複数の独立した理由中の一つの理由など,当該法律問題が原判決の結論を導く上で不可欠とはいえない部分のみに関わるものであるか否か),⑤法令解釈の誤りが原判決の結論に影響を与える場合,それがどの程度のものか(看過し難い程度のものか,請求のごく一部ないし僅少な金額に影響するにすぎない程度のものか),⑥当該事件が上告審として判断を示すのにふさわしい内容の事案であるか否か等を考慮して判断されているものと考えられる。したがって,法令違反に名を借りて単に原判決の事実認定を非難する場合や,法律の解釈に関する事項を主張していても独自の見解を述べるにとどまる場合には,重要事項を含むものとは認められず,受理はされないことになろう。

2 許可抗告事件の実情からの補足

許可抗告事件の実情-令和5年度-には以下の記載があります(判例時報2614号6頁)。
    法令の解釈自体は既に明確になっている場合に、個別事件における事実認定や要件ないし法理への単純な当てはめの判断は、通常は、法令解釈に関する重要な事項とはいえない。
    また、最高裁判所の判例により示された法令解釈の基準の具体的適用に関わる事項は、当該実務を担当する下級裁における事例集積にこそ意味がある場合が多い。このような場合、下級裁での事例集積、要件の類型化に関する実務的検討が十分にされていない段階で、個別事案に関する要件該当性の争いを法律審である最高裁判所に求めることは、相当ではないことが多い。

上記は許可抗告(民事訴訟法337条)に関する説明です。上告受理申立て(同法318条)にも「法令の解釈に関する重要な事項」という共通する文言がありますが,対象裁判,申立期間及び許可又は受理を判断する裁判所は異なります。許可抗告の手続及び理由書の組立ては,許可抗告理由書の書き方(AI作成)で整理しています。

3 宇賀克也『管見 最高裁判所』が挙げる判断要素

宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)35頁~36頁は,「法令の解釈に関する重要な事項」に当たるかどうかは,①法令解釈の誤りが原判決の結論に与える影響の程度,②個別事件を超えた一般的な意義の有無,③最高裁判所の判例の有無,④下級審裁判例や学説が大きく分かれていて統一の必要が大きいか,⑤下級審に同種事件が多く係属しているか,⑥傍論だけにかかわる問題ではないか,⑦議論が成熟しているか,などを総合して判断されると説明しています。

同書は,重要な問題であっても,学説や下級審裁判例の蓄積が乏しいなど判断の機が熟していないとして不受理とされることがあり,その場合でも理由が示されないため,原審の判断を是認したと受け取られやすいと指摘しています(同書36頁)。

第8 上告等をした場合に出てくる定型文の決定

1 定型文の決定の例

上告及び上告受理申立てをした場合,以下のような定型文の決定が出ることがほとんどです(弁護士 阿部泰隆HPの「☆『最高裁不受理事件の諸相Ⅱ』(信山社、2011年)」参照。1と2を①と②に変えています。)。
① 上告について
 民事事件について最高裁判所に上告することが許されるのは,民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,違憲及び理由の不備・食違いをいうが,その実質は事実誤認若しくは単なる法令違反をいうもの又はその前提を欠くものであって,明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。
② 上告受理申立てについて
 本件申立ての理由によれば,本件は,民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。

2 調書決定の根拠(民事訴訟規則50条の2)

上告棄却決定又は不受理決定に関する調書決定は,「最高裁判所が決定をする場合において、相当と認めるときは、決定書の作成に代えて、決定の内容を調書に記載させることができる。」と定める民事訴訟規則50条の2に基づくものです。

第9 「最高裁はなぜ上告を滅多に受理しないのか」と題するマンガ

1 マンガの紹介

ツンデレブログに「最高裁はなぜ上告を滅多に受理しないのか」と題するマンガが載っています。
① 最高裁はなぜ上告を滅多に受理しないのか   (平成26年5月28日付)
② 続最高裁はなぜ上告を滅多に受理しないのか(平成26年6月6日付)

2 翻案に関する判例

言語の著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいいます(最高裁平成13年6月28日判決)ところ,リンク先のマンガにつき,著作権との関係で大丈夫かどうかはよく分かりません。

第10 不受理決定の効力

1 不受理決定は判例としての意義・効力を有しないこと

「最高裁判所に対する民事上訴制度の運用」には以下の記載があります(判例タイムズ1520号9頁)。
  不受理決定は,上告受理の申立ての理由中に法令の解釈に関する重要な事項が含まれているとは認められないという判断であり,その判断は,前記のように総合的なものであるから,最高裁として当該事件の法律問題に判断を示したものではなく,何ら判例としての意義,効力を有するものではない。例えば,貸金業者の債務者に対する取引履歴の開示義務を認めた最三小判平成17年7月19日(民集59巻6号1783頁)の前に,貸金業者の取引履歴の不開示について不法行為の成立を否定した原判決に対する上告受理申立てが不受理とされたことがあり,この不受理決定について,最高裁は貸金業者について一般的な取引履歴の開示義務を認めなかったとの理解があったが,不受理決定は最高裁として当該事件の法律問題に判断を示したものではないのであるから,そのような理解ができないことは明らかである(詳しくは,上記最三小判平成17 年7 月19 日の判例解説〔福田剛久・法曹時報58 巻11号274 頁〕参照)。

2 元最高裁判所判事 木澤克之氏の説明

東弁リブラ2022年1月・2月合併号の「元最高裁判所判事 木澤克之」には以下の記載があります。
  あくまで一般論として申し上げると,上告不受理ということは,最高裁は,中身に入らないということです。つまり,最高裁が,中身に入る必要がない,中身に入らない方がよい,という意思表示であり,高裁判決に対して最高裁はいかなる判断もしていません。
  これは何を意味するかというと,高裁判決の「結論」を是として,その「結論」を確定させるだけです。つまり,必ずしも,最高裁が高裁判決の「理由」を「是」としているとは限りません。実際,中には,高裁判決の理由よりも地裁判決の理由の方が妥当だと思う案件もありますが,いずれにせよ,高裁判決の「結論」が是であるならば,最高裁は内容に踏み込みません。結論が「是」であるならば,早く判決を確定させて,なるべく早く権利救済をする必要があるという思いもあります。

3 反対意見が付された不受理決定の表記

宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)38頁~39頁によれば,上告不受理決定に反対意見が付されることはまれで,同書が令和3年に確認できた範囲では,それまでに12名の裁判官が19件の不受理決定に反対意見を付していました。また,同年に全小法廷でこの問題が議論され,反対の具体的な理由までは記載しないものの,反対した裁判官がいる場合には「全員一致」ではなく「○○の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で」と表記する運用に改められたとされています。

したがって,不受理決定の調書に反対意見の記載があるかどうかは,その事件で受理すべきとした裁判官がいたかどうかを知る手掛かりになります。

第11 経験則違反で原判決を破棄した最高裁判決

経験則違反又は採証法則違反を主張するときは,「原審判断命題→適用法令・判例・経験則→記録上の証拠→欠落し又は飛躍した推論→結論への影響」の順で一枚表にする。単なる証拠評価のやり直しではなく,どの推論規則に反し,なぜ判決結果に影響するかを示す必要がある。

1 最高裁平成16年2月26日判決(遺言公正証書の事例)

ア 最高裁平成16年2月26日判決の裁判要旨は以下のとおりです。
  現時点においては公証人の署名押印がある遺言公正証書原本について,当該原本を利用して作成された謄本の作成方法についての公証人及び書記の証言等の内容に食違いがあることなどを理由として,上記謄本作成の時点において公証人の署名押印がなかったとした原審の認定判断には,上記謄本の作成方法についての公証人及び書記の証言等は,その細部に食違いがあるものの主要な部分で一致していること,原本の各葉上部欄外には公証人の印による契印がされているのに公証人の署名欄に署名押印がされていないとするのは不自然であること,公証人が原本作成と同じ日に作成して遺言者に交付した正本及び謄本には公証人の署名押印がされていることなど判示の事情の下では,特段の事情の存しない限り,経験則違反又は採証法則違反の違法がある。
イ 上告受理申立代理人は7人いましたが,そのうちの1人は,平成14年6月11日に最高裁判所判事に就任した滝井繁男弁護士でした。

2 経験則違反・採証法則違反による破棄差戻し判例

ア 原審の認定に経験則又は採証法則に反する違法があるとして破棄差戻しの判断をした最高裁判例としては以下のものがあります。
(医療訴訟関係)
・ 最高裁昭和60年12月13日判決
・ 最高裁平成9年2月25日判決
・ 最高裁平成11年3月23日判決
・ 最高裁平成18年1月27日判決
・ 最高裁平成18年11月14日判決
・ 最高裁平成19年4月3日判決
(その他の訴訟関係)
・ 最高裁平成16年2月26日判決(前述したものです。)
・ 最高裁平成22年7月16日判決
・ 最高裁令和3年5月17日判決

イ 最高裁平成9年2月25日判決(平成7年(オ)第1205号)は,複数薬剤のうち一つを唯一の起因剤とし,発症日を限定した原審認定について,鑑定の前提,医学文献,投薬・症状の時系列及び検査所見がない理由を十分に検討していないとして経験則違反を認めました。専門家意見の結論だけでなく,前提事実と記録欠落の発生原因を点検すべきことを示しています。

ウ 最高裁平成18年1月27日判決は、MRSA感染に対するバンコマイシン投与の時機について、原審が早期投与の効果に関する専門意見と客観的な診療経過を十分に検討しなかった点を問題としました。

エ 最高裁平成18年11月14日判決は、出血量、血圧・脈拍等のショック徴候及び相反する二つの専門意見を十分に比較せず、控訴審が第1回口頭弁論期日に弁論を終結した審理経過も踏まえて、原審の事実認定を維持できないとしました。

オ 経験則違反を主張する場合、専門家の人数、肩書又は結論の強さを競うだけでは足りません。少なくとも、①各意見が証明しようとする命題、②前提事実、③検査値・画像・診療録等の客観資料、④推論過程、⑤相反する資料への応答、⑥反論・立証の機会、⑦違法が主文に及ぼす影響を対応させる必要があります。

平成9年判決の詳しい検討は,薬剤性疾患の原因薬剤を一つに特定できない場合の医療過誤訴訟で,平成18年の二判決を含む具体的な検討方法は、医療訴訟における経験則・採証法則違反―平成18年最高裁判決から見る専門意見の評価方法(AI作成)及び平成18年度最高裁民事破棄判決等の実情―110件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)を参照してください。

3 学説・元裁判官による説明

ア  名古屋大学学術機関リポジトリに載ってある「民事訴訟における事実認定の違法」(筆者は27期の加藤新太郎裁判官)には以下の記載があります(リンク先の14頁)。
    裁判官は、論理法則・経験則に従わなければならない。したがって、論理法則・経験則に反する事実認定、合理的理由に基づかない事実認定は、違法と評価される。
    経験則違背ないし採証法則違背があるとする最高裁判決は、少なくない。
    最高裁は、平成民事訴訟法下において、経験則の認定や適用の誤りは法令違反であり、「法令の解釈に関する重要な事項」に該当する場合があるとの判断を示している。
イ きっかわ法律事務所HPに載ってある「事実認定と裁判官の心証形成」(筆者は21期の中田昭孝裁判官)17頁には「第9 元最高裁判事の感想」として「*経験則違反を理由とする上告受理事件は多いが、最高裁では、著しい経験則違反の事案でないと取り上げられない。」と書いてあります。
ウ 最高裁令和2年11月27日判決は,公認会計士協会から上場会社監査事務所名簿への登録を認めない旨の決定を受けた公認会計士らにつき,その実施した監査手続が当該監査において識別すべきリスクに個別に対応したものであったか否か等の点を十分に検討することなく当該決定の前提となる監査の基準不適合の事実はないとして当該決定の開示の差止めを認めた原審の判断に違法があるとされた事例です。

4 大阪高等裁判所第7民事部における処理の実情

「大阪高等裁判所第7民事部における上告事件の処理の実情」には以下の記載があります(判例タイムズ1409号45頁)。
    最高裁判所の民事・行政事件の破棄判決については,毎年,当時在籍していた最高裁判所調査官が判例時報に破棄判決等の実情紹介をしており(平成25年度については,伊藤正晴=上村考由「最高裁民事破棄判決等の実情(上)-平成25年度-」判時2224号3頁,同「最高裁民事破棄判決等の実情(下)-平成25年度-」判時2225号3頁),民集及び裁判集に登載されない破棄判決(経験則違反ないし採証法則違反,釈明権の不行使,審理不尽等を理由に破棄した判決は,民集ないし裁判集に登載されないことがほとんどである。)については,判決理由の全文が掲載されており,執務の参考になる(事実認定ないし訴訟指揮の在り方を学ぶ上でも参考にな る。)。

5 元最高裁判所判事 鬼丸かおる氏の説明

月刊大阪弁護士会2020年1月号の「元最高裁判所判事・元弁護士 鬼丸かおるさん」に以下の記載があります。
  (山中注:上告受理申立理由として)経験則違反という主張も非常に多いのですが、残念ながら今まで経験則違反を正面から最高裁判所が認めたことは1回もありません。

この発言は「経験則違反」という抽象的なラベルだけで上告受理されるとの理解を戒めるものとして読むべきである。他方,最高裁判決及び調査官の年次論文には,原審の事実認定について経験則・採証法則違反又は審理不尽を具体的に指摘して破棄した事例があるため,「最高裁が証拠推論の誤りへ介入した例がない」という意味に広げてはならない。

実務では,証拠→基礎事実→経験則→中間推認→主要事実→法律効果のどの接続が破綻しているか,重要な反対証拠又は別の合理的仮説がなぜ結論を左右するかを示し,民事訴訟法312条・318条その他の審査対象へ接続する。平成3年度の横断的整理と確認済み一次資料は平成3年度最高裁民事破棄判決等の実情,汎用の点検順序は最高裁民事破棄判決から作る原判決監査チェックリストを参照されたい。

6 平成19年4月3日判決から見る主張の組立て

最高裁平成19年4月3日第三小法廷判決(平成18年(受)第1547号)は,精神科入院患者の誤嚥死について,意識レベル等を審理判断しないままショック状態を認定した原審の判断を経験則違反として破棄差戻しとしました。

この判決で重要なのは,証拠の信用性について別の見方を示しただけではなく,原審が置いた「ショック状態」という中間評価が,心拍数,血圧,チアノーゼ・四肢冷感,出血徴候,病理解剖所見及び意識レベルという客観的事実と整合しないことを具体的に示した点です。

経験則違反を主張する場合は,少なくとも,①原審が結論の前提とした中間事実,②その中間事実と両立しにくい客観的事実,③原審が検討しなかった代替原因,④未確定の事実,⑤その違法が主文に及ぼす影響,⑥差戻審で必要となる追加審理を対応させる必要があります。単に「証拠評価が不当である」と述べるだけでは,事実認定への不服を法令違反に言い換えたにとどまると受け取られやすいです。

詳しくは,医療訴訟における経験則違反―最高裁平成19年4月3日判決から見る事実認定の攻撃方法(AI作成)及び平成19年度最高裁民事破棄判決等の実情―57件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)を参照してください。森英明・絹川泰毅「最高裁民事破棄判決等の実情(上)―平成十九年度」判例時報2009号3頁以下は二次資料であり,判旨の確認は上記最高裁判決全文によっています。

7 平成元年度破棄判決からみた経験則違反の書き方

「原判決は経験則に反する」と結論だけを記載するのでは足りない。原審が、どの証拠からどの間接事実を認定し、どの経験則を用いて主要事実を推認したかを分解し、その経験則が一般性を欠く理由又は重要な反対事情を無視している理由を示す必要がある。

実務上は、請求原因・抗弁・再抗弁、証拠、間接事実、主要事実、法的評価及び主文を一枚のカードに対応させる。証拠から結論までの推論連鎖のどこが切れているかを特定すると、単なる事実誤認の主張と法令違反としての構成を区別しやすい。平成元年度39件の横断整理は年次論文という二次資料に基づき、代表2判決のみ裁判所公式全文を確認している。詳しくは、平成元年度最高裁民事破棄判決等の実情(AI作成)を参照されたい。

第12 上告理由に関する判例

1 差戻しを命ずる控訴審判決に対する上告の利益

第一審判決を取り消し,事件を第一審に差し戻す旨の控訴審判決があつた場合においては,控訴人は,取消の理由となつた右判決の判断の違法をいうときに限り,右判決に対して上告の利益を有します(最高裁昭和45年1月22日判決)。

2 理由不備・理由の食違い・判断遺脱

ア 民事訴訟法312条2項6号の「理由不備」は,主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けている場合をいいます。判決理由が短い,証拠評価に納得できない,又は当事者の主張を逐一取り上げていないというだけでは足りません。

イ 最高裁判決又は年次レビューの「理由不備・理由齟齬」は,実体法の解釈適用を誤った結果の不十分な理由付けを慣用的に指す場合があり,常に同号の絶対的上告理由を意味しません。平成9年中の破棄判決72件のうち,年次レビューが旧民事訴訟法395条6号の絶対的上告理由として整理したものは第6事件から第8事件までの3件です。判決文の一語ではなく,主文を導く理由の欠落又は理由相互・理由と主文の論理的矛盾を特定する必要があります。

ウ 最高裁平成11年6月29日第三小法廷判決は,解除条件成就の抗弁を採用しながら,その条件を故意に成就させたとの再抗弁を判断しなかったことを重要事項の判断遺脱としました。しかし,原判決自体は論理的に完結し,主文を導くための理由が欠けていないとして,同号の理由不備には当たらないとしました。その上で,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反として,民事訴訟法325条2項を参照して職権で破棄し,差し戻しました。

エ 「理由の食違い」は,判決理由の内部又は理由と主文との間に,結論を論理的に導けなくする矛盾がある場合です。最高裁平成15年7月11日第二小法廷判決は,交通事故の損害賠償・求償事件で,原判決の理由中の計算から導かれる残額と命じた支払額とが一致しない点を問題としました。

オ 「判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと」は民事訴訟法338条1項9号の再審事由です。判断遺脱とは,請求原因,抗弁,再抗弁等の主要事実について判断が漏れている場合をいい,当事者が述べた法律論や証拠評価を逐一取り上げなかったこととは異なります。

カ 判断遺脱を理由とする破棄例として,最高裁平成19年2月20日判決(判例時報2019号14頁)及び最高裁平成26年11月4日判決(判例時報2258号12頁)があります。両事件は年次レビュー本文までの確認であり,個別判決原文及び判例秘書本文は未確認です。平成9年の第6事件から第8事件までも年次レビューまでの確認で,個別判決本文は未確認です。

三概念の違い,判決書の点検順序及び出典の確認状態は,民事判決の理由不備・理由の食違い・判断遺脱-上告理由と再審事由の見分け方(AI作成)で,平成9年度全体の位置付けは平成9年度最高裁民事破棄判決の実情で詳しく整理しています。

3 口頭弁論を経ない原判決の破棄

上告裁判所は,判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決をした裁判官として署名押印していることを理由として原判決を破棄する場合には,必ずしも口頭弁論を経ることを要しません(最高裁平成19年1月16日判決)。

最高裁令和7年7月10日第一小法廷判決(令和7年(行ツ)第125号)は,原審の第3回口頭弁論期日に合議体の裁判官1名が交代したにもかかわらず,従前の口頭弁論の結果を陳述しないまま弁論を終結して判決した事案について,民事訴訟法249条1項違反及び同法312条2項1号の絶対的上告理由を認め,原判決を破棄して差し戻しました。最高裁は,上告理由を判断するまでもなく職権で調査し,この理由で破棄する場合は最高裁で口頭弁論を経る必要がないことも確認しました。

上告理由書の作成時には,判決書の裁判官名だけでなく,各口頭弁論期日の調書,裁判体変更の時点,従前の口頭弁論結果の陳述及び弁論終結日を時系列で照合する必要があります。実体法上の主張より先に確認できる手続監査項目です。

4 釈明義務違反・審理不尽

当事者の主張が法律構成において欠けるところがある場合においても,その主張事実を合理的に解釈するならば,正当な主張として構成することができ,当事者の提出した資料のうちにもこれを裏付けうるものがあるときは,当事者にその主張の趣旨を明らかにさせたうえ,これに対する当事者双方の主張立証を尽くさせるべきであり,これをすることなく,請求を排斥することは,釈明権の行使について違法があり,ひいては審理不尽の違法があります(最高裁昭和44年6月24日判決)。

5 訴訟終了宣言をした事例

上告棄却決定において,当事者の死亡に伴う訴訟終了宣言をした事例として,最高裁令和2年12月11日決定(判例秘書に掲載)があります。

6 最高裁判所における口頭弁論の実情(村田一広裁判官)

54期の村田一広裁判官が執筆した「最高裁判所における口頭弁論の実情等について」(民事訴訟雑誌68巻(2022年3月20日付)68頁には,44番の注釈として以下の記載があります
 最高裁判所においては、従前、上告人等の上告理由に曖昧・不明確な部分があったとしても、あえて期日外釈明を実施すること等をしないで判断を示すことが少なくなかったと解される(論旨については、その趣旨を善解した上、「この趣旨をいうものとして理由がある」と言及している例も多い。)。

7 破棄差戻し後の残存争点を別紙化する

破棄差戻しは最終勝訴を意味しない。最高裁が確定した法的規範、否定した原審の理由、前提とした事実、差戻審でなお認定を要する事実、相手方に残る抗弁、追加証拠及び再計算事項を分けて整理する必要がある。

平成元年の借地事件では、対抗力の判断を最高裁が示した後も、土地取得者が背信的悪意者に当たるか、請求が権利濫用となるかが差戻審に残った。稼働率80%条項事件でも、一部無効の法的判断後に各労働者の未払賃金等を再計算する必要が残った。上告理由書の作成段階から、破棄後に何を主張立証するかを別紙化する。両判決は裁判所公式全文で確認済みであり、詳細は借地権の対抗力の記事及び稼働率条項の記事を参照されたい。

第13 上告理由書等に対する最高裁判事経験者のコメント

1 大橋正春元最高裁判事の講演から

古賀克重法律事務所ブログの「最高裁裁判官から見た弁護活動のポイントとは、大橋正春元最高裁判事講演会」には以下の記載があります。
 少なくとも現在提出されている書面は長すぎるという認識では最高裁裁判官は一致している。弁護士側としては、最高裁の裁判官は記録を読んでいないのでは・・という不安があるんだと思う。しかし調査官は全記録を読む。裁判官も原判決は読んで一定の印象を持ちながら、上告理由書ないし上告申立書を読む。

2 鬼丸かおる元最高裁判事の説明

月刊大阪弁護士会2020年1月号の「元最高裁判所判事・元弁護士 鬼丸かおるさん」に以下の記載があります。
 刑事事件と同様に考えて(山中注:最高裁判所は)民事事件でも事実を見てくれるだろうと思って、理由不備、理由齟齬ということをおっしゃる方がものすごく多いのですが、民事事件では改めて事実は見ることはしません。理由不備、理由齟齬というのは、判決の中で整理された当事者の主張のところ、それから判決の理由のところを比べてみて、その判決書の主文が判決中の理由からは導かれない不備や齟齬があるというだけであって、当事者の言っていることと比べることはありません。

第14 関連記事その他

1 上告審判決の言渡しに関する説明(今井功元最高裁判事)

今井功弁護士(平成16年12月から平成21年12月までの間,最高裁判所判事)は,自由と正義2013年6月号13頁において以下のとおり書いています。
  民事事件は,各小法廷で年間1,000件を超えているから,各事件につき,判決書を作成して署名押印し,いちいち法廷を開いて言渡しをすることは,大変な無駄である。旧法時代は,弁論が開かれない上告棄却判決の多くは,傍聴人のいない法廷で,言渡しがされており,当時多くの裁判官から何とかならないかといわれていたものである。

上記は2013年刊行時の説明です。現在の件数や審理期間を知る場合は,統計の対象年と対象事件を確認し,第14・7の関連記事及びその出典を参照してください。

2 裁判書の表示ハンドブック

最高裁判所の裁判書で用いられる具体的な表示の方法が記載されている文書として「裁判書の表示ハンドブック」が存在しますものの,当該文書は司法行政文書開示手続の対象ではありません(平成30年度(最情)答申第50号(平成30年11月16日答申))。

3 上告審における独立当事者参加・二重上告

ア 上告審は法律審ですから,上告審において独立当事者参加の申出をすることはできません(最高裁昭和44年7月15日判決)。
イ 補助参加人が上告を提起した後に被参加人のした上告は,二重上告として不適法です(最高裁平成元年3月7日判決)。

4 一般法理の射程に関する説明(千葉勝美氏)

「違憲審査-その焦点の定め方」(2017年5月2日付)(筆者は24期の千葉勝美)62頁には以下の記載があります。
    一般法理は、それ自体で一人歩きをし、下級裁判所や行政庁、個人や社会経済団体等がこれを踏まえた対応を積み上げることになるが、その後になって新しい紛争の出現により一般法理を修正・改変することがあると、射程の長い一般法理を掲げる処理は、結果的に法的安定性を欠くことになり、当該法理の寿命を逆に短くするということにもなって、このような事態は「判例」というものに対する信頼性を損なうことにもなりかねない。

5 武藤貴明裁判官による寄稿

50期の武藤貴明裁判官は,判例タイムズ1399号(2014年6月発行)に「最高裁判所における民事上告審の手続について」を寄稿しています。

6 簡易裁判所の事件で高等裁判所に上告する場合の留意点

簡裁民事通常訴訟事件の控訴審判決に対して上告する場合,上告裁判所である「高等裁判所」宛の「上告状」を地方裁判所に提出する必要があります(民事訴訟法314条1項)ところ,高等裁判所に対する上告は判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときもすることができます(民事訴訟法312条3項)。
    そのため,「上告状兼上告受理申立書」という表題の書面を地方裁判所に提出した場合,形式的にいえば,適法な上告の提起とそもそも不適法な上告受理の申立てがなされたことになります(判例タイムズ1409号40頁参照)。

7 掲載資料及び参照記事

ア 以下の資料を掲載しています。なお,紙の事件記録,記録送付及び郵便切手を前提とする資料は,作成時点の実務を示す歴史的資料として読み,令和8年5月21日施行後の取扱いは現行法令及び裁判所の公式案内で確認する必要があります。
・ 調書決定事務処理要領(平成27年4月1日付)
・ 最高裁判所民事事件記録等閲覧等事務処理要領(平成27年4月1日付)
・ 人事訴訟事件における書記官事務処理要領(平成27年4月1日付)
・ 平成24年12月21日付の上告受理申立理由書
→ 仙台弁護士会出身の平成17年度日弁連副会長の必要経費に関する,東京高裁平成24年9月19日判決に対するものであり,最高裁平成26年1月17日決定により上告不受理となったものの,上告受理申立理由書の構成を検討する際の参考にはなります。ただし,個別事件へ転用する際には,事件の事実,手続段階,現行条文,引用判例及び反対判例を改めて確認する必要があり,法令の条文だけを置き換えて使い回すべきではありません。
→ 国税庁HPの「最高裁不受理事件の意義とその影響」において,「弁護士会費懇親会事件」として紹介されています。
・ 事件記録の保管及び送付に関する事務の取扱いについて(平成7年3月24日付の最高裁判所総務局長通達)
・ 事件記録の保管及び送付に関する事務の取扱いについて(平成25年7月26日付の最高裁判所大法廷首席書記官の指示)
・ 民事上訴事件記録の送付について(平成30年6月29日付けの最高裁判所訟廷首席書記官補佐の事務連絡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁の既済事件一覧表(民事)
・ 最高裁の破棄判決等一覧表(平成25年4月以降の分)
・ 最高裁民事破棄判決等の実情(平成元年度~令和2年度)―年度別記事と判例時報の掲載号の一覧(AI作成)
・ 平成10年度最高裁民事破棄判決等の実情―75件から学ぶ手続入口・判断遺脱・証拠推論及び現行法への読替え(AI作成)
→ 平成10年の破棄判決75件はいずれも旧民事訴訟法下の事件であるため,破棄理由を現在の上告理由又は上告受理申立理由へ機械的に置き換えず,現行法,経過措置及び判決への影響を確認する必要があります。
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情
・ 最高裁判所事件月表の一覧と読み方―令和元年5月以降の新受・既済・未済(AI作成)
・ 民事上告・上告受理申立ては何か月かかる?最高裁の審理期間と統計の読み方(AI作成)。記録到着から終局までの期間,平均と分布,並行申立ての調整前後を区別して統計を読むための解説です。
・ 最高裁の既済事件一覧表(民事)―上告・上告受理申立ての月別資料(AI作成)。月別の事件一覧を掲載した資料集です。
・ 2000円の印紙を貼付するだけで上告受理申立てをする方法
・ 上告不受理決定等と一緒に送られてくる予納郵券に関する受領書
・ 大阪高裁民事部主任決議集を令和8年の民事訴訟で使う方法―mints後も残る実務と旧紙運用(AI作成)
・ mintsで控訴・上告・上告受理申立てをする方法
・ 控訴審に関するメモ書き
・ 最高裁判所調査官
・ 最高裁判所判例解説
・ 最高裁判所判事の裁判以外の職務