第1 財産分与とは何か
1 婚姻中に協力して形成した財産を清算する
財産分与とは,離婚に際して,夫婦が婚姻中に協力して取得・維持した財産などを考慮し,離婚後の財産上の衡平を図る制度である。
夫名義の預金や妻名義の自宅という名義だけで,分与の対象になるか,いくら分けるかが決まるわけではない。
専業主婦・専業主夫であっても,家事や育児による協力を含めて判断する。
本記事は,令和8年10月16日現在の民法,裁判所及び法務省の案内を基に,対象財産,計算,期限及び手続の入口を説明する。
具体的な財産の評価や分与額は,双方の資料と事情に基づいて判断する必要がある。
2 慰謝料・養育費・年金分割との違い
財産分与は財産の清算が中心であり,離婚後の生活保障や慰謝料の要素が含まれることもある。
慰謝料を別に請求するときは,財産分与で何を清算するのかを明確にし,同じ損害を重ねて請求しないよう整理する。
養育費は子の養育に必要な費用の分担であり,夫婦の財産を分ける問題とは異なる。
厚生年金の年金分割も,財産分与とは別の制度である。
離婚に関して決める事項全体は,離婚の手続と決めることで説明している。
第2 財産分与の対象になるもの・ならないもの
1 対象財産を種類ごとに確認する
対象となるのは,婚姻中に夫婦の協力によって取得・維持した財産である。
婚姻中に存在する財産を無条件にすべて半分にする制度ではなく,取得時期,原資,夫婦の協力及び現在までの変化を確認する。
| 財産 | 確認する事項 |
|---|---|
| 現金・預貯金 | 名義,管理者,基準日の残高,婚前・相続資金の混在 |
| 自宅・土地 | 取得時期,頭金の原資,現在の評価,ローン残高 |
| 株式・投資信託 | 取得資金,基準日の数量,評価時点,移管・売却 |
| 生命保険等 | 契約者,保険料の原資,基準日の解約返戻金 |
| 自動車 | 取得時期,使用者,査定額,対応するローン |
| 退職金 | 勤続期間,婚姻後の同居期間,支給状況・規程 |
借金は,夫婦の財産形成や共同生活のための債務かを確認する。
一方の個人的な借金を,名義や借入日だけから当然に他方へ負担させるものではない。
また,夫婦間で負担を決めても,金融機関とのローン契約が当然に変わるわけではない。
2 結婚前の貯金・相続した財産はどうなるか
婚姻前から有する財産,一方が相続又は贈与によって取得した財産は,原則として清算の対象から区別する。
ただし,現在の預金のどの部分がその財産なのか,別の財産の購入に使ったのか,婚姻中の維持への寄与があるのかなどを検討する必要がある。
「自分の口座にあるから全部自分のもの」「同じ口座に給与が入ったから婚前の貯金も全部共有」という判断はいずれも適切ではない。
預貯金の資料のそろえ方は,結婚前の貯金・相続財産・へそくりと財産分与で説明している。
3 子供名義の預金・学資保険も名義だけでは決めない
子供名義の口座があるときは,原資が親の収入なのか,子供が受けた祝い金等なのか,子供への贈与がされたのかを分けて確認する。
学資保険は,契約者,保険料の負担,解約返戻金の有無,離婚後の継続方針を確認する。
子供のために残したいという希望と,誰の財産としてどのように合意するかは,別に整理する必要がある。
第3 割合と金額はどう計算するか
1 原則2分の1と,双方が既に持つ財産
民法768条3項は,婚姻中の財産の取得・維持への寄与が異なることが明らかでないときは,寄与の程度を相等しいものとする。
収入が高い側が自動的に多く取得する,名義人が全額を取得するという仕組みではない。
ただし,具体的な分与額・方法は,対象財産,寄与その他の事情によって定まる。
夫婦全体の対象財産を計算した後,それぞれが取得する財産を踏まえて清算金を計算する。
双方が現在持っている財産を無視して,相手の預金の半分だけを請求すると,計算が合わないことがある。
2 預金だけの場合の計算例
次は,対象財産が夫の預金800万円と妻の預金200万円だけであり,負債・特有財産がなく,寄与の程度を2分の1とする仮定例である。
実際の事件の相場又は保証額ではない。
| 計算する内容 | 金額 |
|---|---|
| 夫婦全体の対象財産 | 1000万円 |
| 各人の取得額の目安 | 500万円 |
| 妻が既に持つ対象預金 | 200万円 |
| 夫から妻へ支払う清算金 | 300万円 |
妻が追加で500万円を受け取るという意味ではない。
自宅等をどちらかが取得する場合は,その取得分と負債の扱いを含めて計算するため,現金の清算額が変わる。
3 いつの財産を,いつの価額で見るか
対象財産を確定する基準時と,財産の価額を評価する時点は,同じとは限らない。
大阪家裁の財産目録作成資料は,経済的協力関係が失われた時を基準日とし,基本的には別居日と説明した上で,不動産や株式等について現在の価額による評価を案内している。
全国のすべての事件で同じ日を機械的に使うという意味ではない。
まず,婚姻日,別居日,家計が分かれた時期,各資料の基準日を一覧にする。
別居後の引出しや資産移転があるときは,残高だけでなく資金の移動先も確認する。
第4 自宅・ローン・退職金・使い込みの注意点
1 自宅とローンを一緒に確認する
自宅については,売却して清算するのか,一方が取得して他方に金銭を払うのかを検討する。
査定額,ローン残高,特有財産の原資,居住継続及び支払能力を整理してから合意する。
住宅だけを見て分与額を決めず,預貯金等も含めた全体を確認する必要がある。
詳しくは,ペアローンと離婚,オーバーローンと財産分与,相手名義の住宅ローンを払った分の精算を参照されたい。
2 結婚30年なら一定額をもらえるわけではない
婚姻期間だけで一律の金額が決まるものではない。
熟年離婚では,自宅,退職金,預貯金と,離婚後の住居費・生活費を分けて整理する必要がある。
退職金の評価と年金分割の違いは,熟年離婚の財産分与で説明している。
3 使ってしまえば分けなくてよいのか
預金が減っている場合も,引き出した日,移動先,保有・使用の状況を確認する必要がある。
他方の口座へ移っただけの資金と,生活費として支出した資金を同じに扱うことはできない。
残高が少ないことだけで分与額が決まるわけではなく,争う金額を財産目録で明確にすることが重要である。
具体的な整理は,財産分与と預金の引出し・使い込みを参照されたい。
第5 財産分与はいつまで請求できるか
1 離婚日によって5年と2年に分かれる
裁判所の現行案内によれば,令和8年4月1日以後に離婚した場合は,離婚した日の翌日から起算して5年を経過すると,財産分与の調停・審判を申し立てることができない。
同日前に離婚した場合は,従前どおり2年である。
古い離婚について,一律に5年へ延びたわけではない。
離婚前に条件を決めることも,離婚後に請求することもできるが,離婚届の提出と財産分与の解決は同じではない。
期限が迫る場合は,話合いの継続だけで足りると考えず,申立ての要否を早めに確認する。
既に成立した具体的な支払合意の履行や時効は,この申立期間とは別に確認する。
2 年金分割は別の手続が必要である
年金分割についても,令和8年4月1日以後の離婚等は原則5年,同日前は原則2年という期限がある。
裁判手続が続いている場合等の特例もあるため,日本年金機構の案内で確認する。
財産分与を合意しただけで,年金分割の手続まで完了するわけではない。
第6 話合いがまとまらないときの手続と資料
1 離婚前と離婚後の手続を分ける
離婚前は,離婚調停の中で財産分与も話し合うことができる。
離婚後に話合いがまとまらない場合や話合いができない場合は,家庭裁判所へ財産分与の調停又は審判を申し立てることができる。
離婚後の財産分与調停が不成立になった場合は,審判手続へ移行する。
手続を進める際は,財産一覧表を作り,争いのない事項,資料不足の事項,対象性・評価を争う事項を分ける。
訴訟を含む準備の進め方は,離婚訴訟の標準審理モデルで説明している。
2 相談前にそろえる資料
通帳・取引履歴,残高証明,不動産登記事項証明書,査定書,ローン明細,保険証券・解約返戻金証明,証券口座資料,退職金規程等を,取得できる範囲でそろえる。
原資を争う場合は,婚姻時の残高,遺産分割協議書,贈与・送金の資料も対応させる。
資料取得は権限のある範囲で行い,相手のアカウントへ無断でアクセスしない。
財産分与に関する処分の審判では,家庭裁判所が必要と認めるときに,当事者へ財産状況の情報開示を命じる制度がある。
財産分与調停や離婚調停にも準用されるが,裁判所が全国の財産を自動的に探し出す制度ではない。
どの情報が必要かを,争点と資料不足に対応させて示す必要がある。
3 税金と実行方法まで確認する
財産分与では,金額だけでなく,支払期日,分割払の条件,担保,不動産の登記・明渡し及び税負担を定める。
相手が資産を持っていることと,期日までに現金を用意できることは同じではない。
税務上の問題は,離婚時の財産分与と税金で確認されたい。
第7 主な根拠資料
① 民法762条・768条:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
② 家事事件手続法152条の2・258条3項:https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052
③ 裁判所「財産分与請求調停」:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_04/index.html
④ 法務省「りこんポータル・財産分与」:https://www.moj.go.jp/MINJI/parents_012.html
⑤ 大阪家裁掲載「財産目録の作成方法」(令和5年2月20日更新の掲載階層。PDF1頁~7頁):https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/2022nendo/R4_11_8kazimousitatesyo/R5_2_20koushin/R5_2_20/R5_zaisanmokuroku_sakuseihouhou.pdf
⑥ 日本年金機構「離婚時の年金分割」:https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/rikon/20140421-04.html
大阪家裁の資料は財産目録作成の実務案内であり,全国一律の法的結論を示す判例ではない。
本記事は生成AIを用い,法令と上記公的資料の該当箇所を照合して作成した。