離婚時の財産分与と税金に関するメモ書き


目次第1 過大な財産分与が行われた場合の贈与税

1 総論
2 税務当局の説明
3 贈与税の時効
第2 財産分与が土地建物で行われた場合の譲渡所得税
1 譲渡所得一般
2 マイホーム売却で使える特例
3 財産分与が土地建物で行われた場合の特例
4 離婚時の自宅不動産の財産分与と3000万円特別控除の可否
5 譲渡所得税の時効
第3 過大な財産分与を受けた者の第二次納税義務
1 過大な財産分与を受けた者が第二次納税義務を負うケース
2 第二次納税義務制度の趣旨
第4 関連記事その他

第1 過大な財産分与が行われた場合の贈与税
1 総論
(1) 財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合,分与者は,これによって,分与義務の消滅という経済的利益を享受することとなります(最高裁昭和50年5月27日判決)から,分与義務の範囲内にある限り贈与をしたことにはなりません。
(2) 離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意は,民法768条3項の規定の趣旨に反してその額が不相当に過大であり,財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときは,不相当に過大な部分について,その限度において詐害行為として取り消されます(最高裁平成12年3月9日判決)。
2 税務当局の説明
(1) 相続税基本通達9-8(婚姻の取消し又は離婚により財産の取得があった場合)は以下のとおりです(同趣旨の説明として,国税庁HPのタックスアンサーNo.4414「離婚して財産をもらったとき」参照)。
    婚姻の取消し又は離婚による財産の分与によって取得した財産(民法第768条((財産分与))、第771条((協議上の離婚の規定の準用))及び第749条((離婚の規定の準用))参照)については、贈与により取得した財産とはならないのであるから留意する。ただし、その分与に係る財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合における当該過当である部分又は離婚を手段として贈与税若しくは相続税のほ脱を図ると認められる場合における当該離婚により取得した財産の価額は、贈与によって取得した財産となるのであるから留意する。(昭57直資2-177、平17課資2-4改正)
(2)ア 国税不服審判所平成25年7月4日裁決には以下の記載があります。
    清算の対象財産は、婚姻中に夫婦の協力により取得した共同形成財産(取得名義が夫婦の共有となっている財産(共有財産)には限られない。以下「共同形成財産」という。)であるから、夫婦の一方が婚姻前から有する財産や、夫婦の一方が婚姻中に第三者から無償取得(相続・贈与)した財産は、夫婦各人の特有財産(民法第762条《夫婦間における財産の帰属》第1項)として、清算対象財産とはならないのが原則である。もっとも、特有財産であっても、婚姻中の夫婦の協力によってその価値が維持・増加したと認められる部分については、清算的財産分与の対象になると解するのが相当である。
イ 東京地裁平成29年6月27日判決(判例秘書に掲載)は,国税不服審判所平成25年7月4日裁決が取り扱った原処分の一部を取り消していますが,夫婦各人の特有財産については同趣旨の判示をしてます。
3 贈与税の時効
(1) 贈与税の時効の起算点は贈与税の申告書の提出期限であり,贈与税の時効期間は原則として6年であり(相続税法36条1項),偽りその他不正の行為により贈与税を免れたときは7年です(相続税法36条4項)。
(2) 例えば,平成29年中の贈与の場合,贈与税の時効の起算点は平成30年3月15日(木)ですから,贈与税の時効が完成するのは令和6年3月15日又は令和7年3月15日です。

第2 財産分与が土地建物で行われた場合の譲渡所得税1 譲渡所得一般

(1) 譲渡所得に対する課税は,資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものです(最高裁平成17年2月1日判決。なお,先例として,最高裁昭和47年12月26日判決最高裁昭和50年5月27日判決参照)。
(2) 平成21年又は平成22年に購入した不動産の場合,「平成21年及び平成22年に取得した土地等を譲渡したときの1000万円の特別控除」が適用されることがあります。
(3) 生活や実務に役立つ計算サイト「不動産の譲渡所得税額(事業用)」が載っています。

2 マイホーム売却で使える特例

(1)ア マイホーム売却で使える特例は以下の5つです(ホームフォーユーの「マイホーム売却で使える5つの特例とは?損をしないための節税テクを伝授」参照)。
① 居住用財産の譲渡所得の3000万円特別控除(租税特別措置法35条)
② 所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例(租税特別措置法31条及び31条の3)
③ 特定の居住用財産の買換え特例(租税特別措置法36条の2及び36条の3)
④ 居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(租税特別措置法41条の5)
⑤ 居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(租税特別措置法41条の5の2)
イ ①ないし③は譲渡所得があるときにそれを減らせる特例であり,④及び⑤は譲渡損失があるときに他の税金を減らせる特例です。
(2) 居住用財産とは,居住用の家屋及びその敷地をいいます(租税特別措置法31条の3第2項3号参照)ところ,その詳細については国税庁HPの「措置法第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》関係」で説明されています。
(3)ア ①及び②の特例については併用できます。
イ ①ないし③の特例は住宅ローン控除と併用することはできません。
ウ ⑤の特例は自己破産事件で利用できることがある特例です。
(4)ア 5つの特例を利用するためには,特例利用に必要な書類を添えて確定申告をする必要があります。
イ 特例利用を前提とした確定申告を期限までにしなかった場合において,①確定申告自体をしていなかった場合,期限後であっても特例利用を前提とした確定申告をすることができるものの,②特例利用を前提としない確定申告をしていた場合,期限後に特例利用を前提とした確定申告をすることはできません(租税特別措置法35条11項等は期限内の確定申告までは要求していませんが,修正申告又は更正の請求による特例利用までは認めていないため。)。
     なお,保証債務を履行するためにした資産の譲渡の特例(所得税法64条2項)の場合,修正申告又は更正の請求による特例利用が認められていますから,このような制限はありません(平成23年12月2日法律第114号による改正以後の取扱いです。)。

3 財産分与が土地建物で行われた場合の取扱い

(1) 財産分与が土地や建物などで行われた場合,分与した人に譲渡所得税の課税が行われますところ,この場合,分与した時の土地や建物などの時価が譲渡所得の収入金額となり,分与を受けた人は、分与を受けた日にその時の時価で土地や建物を取得したことになる(国税庁HPのタックスアンサーNo.3114「離婚して土地建物などを渡したとき」参照)のであって,例えば,最高裁平成元年9月14日判決の事案では,現実に譲渡所得税が課税されました。
(2) 所得税基本通達33-1の4(財産分与による資産の移転)は以下のとおりです。
     民法第768条《財産分与》(同法第749条及び第771条において準用する場合を含む。)の規定による財産の分与として資産の移転があった場合には、その分与をした者は、その分与をした時においてその時の価額により当該資産を譲渡したこととなる。(昭50直資3-11、直所3-19追加、平18課資3-6、課個2-11、課審6-5改正)
(注)
1 財産分与による資産の移転は、財産分与義務の消滅という経済的利益を対価とする譲渡であり、贈与ではないから、法第59条第1項《みなし譲渡課税》の規定は適用されない。
2 財産分与により取得した資産の取得費については、38-6参照
(3) 例えば,2012年に結婚した夫の甲及び妻の乙が2022年に離婚する場合において,2012年に1000万円で購入した甲名義の自宅が1500万円に値上がりしており,それを甲が乙に財産分与により譲渡する場合,500万円の値上がり益が甲の長期譲渡所得(所得税法33条3項2号)となります。

4 離婚時の自宅不動産の財産分与と3000万円特別控除の可否

(1)ア ①居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除の特例,及び②10年超所有軽減税率の特例の適用条件として,「売主と買主との間に配偶者及び直系血族,同一生計の親族等の特別の関係がないこと」(租税特別措置法施行令20条の3第1項・23条2項)というものがあります(国税庁HPタックスアンサーの「No.3302 マイホームを売ったときの特例」及び「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」参照)。
イ 居住用財産の譲渡所得の特別控除等に関する事例集(平成29年版)64頁には「財産分与による譲渡」として以下の記載があります。
事例64 甲(夫)は、離婚に伴い自己が居住していた家屋とその敷地を乙(妻)に分与し、更に乙に対し、長女丙の養育費として毎月l5万円を交付することで合意した。乙はパート収入(月10万円前後) と甲から受ける養育費により丙と暮らしている。
この財産分与による譲渡について、居住用財産を譲渡した場合の特例の適用を受けることができるか。
[回答]
離婚に伴う財産分与による譲渡について、居住用財産を譲渡した場合の特例の適用を受けることができる。
[理由]
離婚に伴う財産分与による資産の譲渡は、離婚後における譲渡であるから措置法令第20条の3第1項第1号に掲げる親族(配偶者)に対する譲渡に該当しない(措令23②、24の2①、26の7③、26の7の2③)。
また、乙は、甲から交付を受ける丙の養育費とパート収入によりその生計を維持しているが、乙は措置法令第20条の3第1項第4号に掲げる者(譲渡者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの)には該当しない(措通31の3-23,35-6,36の2-23,41の5-18,41の5の2-7)。
したがって、離婚に伴う財産分与による譲渡について、居住用財産を譲渡した場合の特例の適用を受けることができる。

居住用財産の譲渡所得の特別控除等に関する事例集(平成29年版)64頁

(2)ア 民法768条は以下のとおりですから,財産分与請求権は本来,離婚が成立した後に発生する権利です。
① 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
② 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
③ 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
イ 法務局HPの「土地又は建物を離婚による財産分与により取得した場合の登記申請書の記載例」の(注6)は「協議離婚の届出前に財産分与の協議が成立した場合には,協議離婚の届出の日が原因日となりますので,離婚の記載のある戸籍全部(個人)事項証明書(戸籍謄抄本)が必要となります。」と書いてあります。
(3)ア 離婚訴訟における和解条項に基づき,自宅不動産を元妻に財産分与したケースに関する国税不服審判所平成6年3月30日裁決における課税庁の主張は,3000万円特別控除の適用があることを前提としたものでした。
イ 令和4年3月現在,タクトコンサルティングの「【Q&A】離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-1/2 ~財産分与をする側~」(2019年6月24日付)参照)という記事は,国税庁の見解と異なり納税者に不利なものになっています。
(4) 「居住用財産の3000万円特別控除」は相続発生前の本人が生存中に適用できる制度であるのに対し,「居住用財産(空き家)の譲渡所得の特別控除」は相続発生後の空き家に対して適用できる制度です(司法書士・行政書士事務所リーガルエステートHP「家族信託では相続後の空き家3000万円特別控除は使えない?空き家特例と国税庁回答の概要を解説」参照)。
5 譲渡所得税の時効
(1)ア 譲渡所得税の時効の起算点は譲渡所得税の申告書の提出期限であり,譲渡所得税の時効期間は原則として5年であり(国税通則法70条1項),偽りその他不正の行為により譲渡所得税を免れたときは7年です(70条5項)。
イ 現実の住所地と異なる場所に住民票を置いていた場合,偽りその他不正の行為があるということで,時効は7年になるかもしれません。
(2) 例えば,平成29年中の譲渡の場合,譲渡所得税の時効の起算点は平成30年3月15日(木)ですから,譲渡所得税の時効が完成するのは令和5年3月15日又は令和7年3月15日です。

第3 過大な財産分与を受けた者の第二次納税義務1 過大な財産分与を受けた者が第二次納税義務を負うケース

(1) 過大な財産分与をした者が譲渡所得税等の税金を滞納した場合,国税徴収法39条の「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当する結果,過大な財産分与を受けた者が第二次納税義務を負うことがあります。
(2) 国税庁HPの「第39条関係 無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務(著しく低い額の対価の判定)」には以下の記載があります(①及び②は(1)及び(2)に置き換えました。)。
     法第39条の「著しく低い額の対価」によるものであるかどうかは、当該財産の種類、数量の多寡、時価と対価の差額の大小等を総合的に勘案して、社会通念上、通常の取引に比べ著しく低い額の対価であるかどうかによって判定し(平成2.2.15広島地判、平成13.11.9福岡高判参照)、次のことに留意する。
① 一般に時価が明確な財産(上場株式、社債等)については、対価が時価より低廉な場合には、その差額が比較的僅少であっても、「著しく低い額」と判定すべき場合があること。
② 値幅のある財産(不動産等)については、対価が時価のおおむね2分の1に満たない場合は、特段の事情のない限り、「著しく低い額」と判定すること。ただし、おおむね2分の1とは、2分の1前後のある程度幅をもった概念をいい、2分の1をある程度上回っても、諸般の事情に照らし、「著しく低い額」と判定すべき場合があること。
2 第二次納税義務制度の趣旨
・ 東京地裁平成29年6月27日判決(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
     国税徴収法39条に定める第二次納税義務の制度は,本来の納税義務者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に,租税徴収の確保を図るため,本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者に対し補充的に納税義務を負担させるものであり(昭和50年8月27日最高裁判決参照),この趣旨に鑑みると,滞納者の財産につき行われた譲渡の対価の額が同条にいう著しく低い額と認められるか否かは,当該取引の内容や性質等に照らして,社会通念上,その対価の額が通常の取引に比べて著しく低いものであるかどうかによって判断すべきものと解される。

第4 関連記事その他

1(1)  離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥いります(最高裁令和4年1月28日判決)。
(2) 財産分与及び離婚慰謝料については,仮執行宣言を付けられないとされています(クロスレファレンス民事実務講義(第3版)177頁)。
(3)  離婚訴訟において,財産分与を命じた判決に対して控訴の申立てがされた場合,財産分与に関する裁判については,いわゆる不利益変更禁止の原則の適用はありません(最高裁平成2年7月20日判決)。
2 共稼ぎの夫婦が取得した夫名義の不動産につき,その半分を離婚時に譲渡した場合,譲渡所得が発生する財産分与ではなく,課税関係が発生しない共有財産の分割となることがあります(国税不服審判所平成6年3月30日裁決)。
3  財産分与の分与者が破産した場合において,その相手方は,破産管財人に対し,取戻権の行使として,財産分与金の支払を目的とする債権の履行を請求することはできません(最高裁平成2年9月27日判決)。
4(1) 離婚によつて生ずることあるべき財産分与請求権は,一個の私権たる性格を有するものではあるものの,協議又は審判等によつて具体的内容が形成されるまでは,その範囲及び内容が不確定・不明確ですから,かかる財産分与請求権を保全するために債権者代位権を行使することはできません(最高裁昭和55年7月11日判決)。
(2) 権利者が行使する前の財産分与請求権は,行使上の一身専属権(民法423条1項ただし書参照)に当たり,権利の性質上差押えの対象となりませんから,破産財団に属せず,破産管財人に管理処分権はないと解されています(東京高裁平成27年7月7日決定(判例時報2310号21頁))。
5 離婚に伴う慰謝料として配偶者の一方が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額を支払う旨の合意は,右損害賠償債務の額を超えた部分について,詐害行為取消権行使の対象となります(最高裁平成12年3月9日判決)。
6 譲渡所得に対する課税は,資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に,これを清算して課税する趣旨のものです(最高裁令和2年3月24日判決。なお,先例として,最高裁昭和43年10月31日判決及び最高裁昭和47年12月26日判決参照)。
7(1) 大阪高裁令和元年8月21日決定(判例秘書掲載)は,婚姻期間44年に対して別居期間が35年に及ぶ事案において,年金分割の按分割合は0.5であると判断しました。
(2) 行政書士にれの木事務所HP「年金分割の按分割合に関する裁判例を集約して解説します」が載っています。
8(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 税務相談事務に係る基本的な対応について(平成20年9月24日付の大阪国税局の事務運営指針)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 家事事件に関する審判書・判決書記載例集(最高裁判所が作成したもの


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